// Resources for SEEN0817.TXT
// #character '河南子'
#character 'Kanako'
// #character '朋也'
#character 'Tomoya'
// #character '智代'
#character 'Tomoyo'
// #character '管理人'
#character 'Manager'
// #character '男'
#character 'Man'
// #character '女性'
#character 'Woman'
// #character '有子'
#character 'Yuuko'
// #character '親方'
#character 'Master'
// #character '鷹文'
#character 'Takafumi'
// <0000> 8月17日(火)
<0000> August 17th (Tue)
// <0001> \{河南子}「あー、雨だぁ」
<0001> \{Kanako}「あー、雨だぁ」
// <0002> 先に起きていた河南子が、窓の外を見ながらぶつぶつと呟いていた。
<0002> 先に起きていた河南子が、窓の外を見ながらぶつぶつと呟いていた。
// <0003> 智代の姿はなかった。
<0003> 智代の姿はなかった。
// <0004> \{朋也}「おはよう」
<0004> \{Tomoya}「おはよう」
// <0005> \{河南子}「おはよ」
<0005> \{Kanako}「おはよ」
// <0006> \{朋也}「雨か?」
<0006> \{Tomoya}「雨か?」
// <0007> \{河南子}「うん、そんなに強くないけどね」
<0007> \{Kanako}「うん、そんなに強くないけどね」
// <0008> 外は雨雲こそ広がっていたが、小雨まじりだった。
<0008> 外は雨雲こそ広がっていたが、小雨まじりだった。
// <0009> \{河南子}「今日も作業すんの?」
<0009> \{Kanako}「今日も作業すんの?」
// <0010> \{朋也}「もちろん」
<0010> \{Tomoya}「もちろん」
// <0011> 雨の中、俺はゴミの山に来ていた。
<0011> 雨の中、俺はゴミの山に来ていた。
// <0012> 蛍光灯に繋げる配線を探すためだ。
<0012> 蛍光灯に繋げる配線を探すためだ。
// <0013> 俺の仕事は家電などの修理だから、屋内の配線などは素人に近い。
<0013> 俺の仕事は家電などの修理だから、屋内の配線などは素人に近い。
// <0014> それでも、ある程度の知識はある。
<0014> それでも、ある程度の知識はある。
// <0015> ここ数日ゴミの山を探っていて、何となくわかったことがある。
<0015> ここ数日ゴミの山を探っていて、何となくわかったことがある。
// <0016> このガラ(ガレキ)はどこかの施設の廃材なのだろう、と。
<0016> このガラ(ガレキ)はどこかの施設の廃材なのだろう、と。
// <0017> 学校か、公民館などの施設か、そこまではわからないが、共通する廃材が多すぎるためだ。
<0017> 学校か、公民館などの施設か、そこまではわからないが、共通する廃材が多すぎるためだ。
// <0018> ここで俺はひとつの推論を立てた。
<0018> ここで俺はひとつの推論を立てた。
// <0019> なにがしかの施設なら、それを作り上げている部品のほとんどがここにあるはずだ。
<0019> なにがしかの施設なら、それを作り上げている部品のほとんどがここにあるはずだ。
// <0020> だから、屋内配線用のケーブルもこの中にきっと含まれているはず。
<0020> だから、屋内配線用のケーブルもこの中にきっと含まれているはず。
// <0021> 解体時に切り落とすだろうが、屋内を這わしているケーブルの長さは莫大だ。
<0021> 解体時に切り落とすだろうが、屋内を這わしているケーブルの長さは莫大だ。
// <0022> ほんの数メートルあれば事足りる。
<0022> ほんの数メートルあれば事足りる。
// <0023> ゴミの山を掘り起こし、コードのようなものがあれば引っ張ってみる。
<0023> ゴミの山を掘り起こし、コードのようなものがあれば引っ張ってみる。
// <0024> それを延々と繰り返す。
<0024> それを延々と繰り返す。
// <0025> しとしとと、体に雨がかかる。
<0025> しとしとと、体に雨がかかる。
// <0026> 目に入る雨をタオルで拭きとり、作業へと戻る。
<0026> 目に入る雨をタオルで拭きとり、作業へと戻る。
// <0027> 夏とはいえ、濡れた体は次第に冷えてくる。
<0027> 夏とはいえ、濡れた体は次第に冷えてくる。
// <0028> わずかではあったが、手足の感覚も怪しくなっていた。
<0028> わずかではあったが、手足の感覚も怪しくなっていた。
// <0029> 強行軍の作業で溜まりきった疲れが一気に噴き出しているようにも思えた。
<0029> 強行軍の作業で溜まりきった疲れが一気に噴き出しているようにも思えた。
// <0030> 目的のものはまだ見つからない。
<0030> 目的のものはまだ見つからない。
// <0031> 近いものはあったが、長さが足りなかったり、規格が違ったりと使えないものばかりだった。
<0031> 近いものはあったが、長さが足りなかったり、規格が違ったりと使えないものばかりだった。
// <0032> 見上げると、山の頂上あたりに、一本のコードが出ているのが見えた。
<0032> 見上げると、山の頂上あたりに、一本のコードが出ているのが見えた。
// <0033> 俺は小高く盛られた山を登り、コードを見た。
<0033> 俺は小高く盛られた山を登り、コードを見た。
// <0034> 平形のVVF。通称Fケーブル。
<0034> 平形のVVF。通称Fケーブル。
// <0035> \{朋也}「…あった」
<0035> \{Tomoya}「…あった」
// <0036> これで蛍光灯の設置ができるようになった。
<0036> これで蛍光灯の設置ができるようになった。
// <0037> 俺は山の頂上を掻き分け、コードの奥を探した。
<0037> 俺は山の頂上を掻き分け、コードの奥を探した。
// <0038> ある程度深くまで掘っても、端は見えない。
<0038> ある程度深くまで掘っても、端は見えない。
// <0039> 断線しているかもしれないが、これで配線に困ることはなくなった。
<0039> 断線しているかもしれないが、これで配線に困ることはなくなった。
// <0040> 広がる安堵感を胸に、俺は手にケーブルを巻き取り、引っ張った。
<0040> 広がる安堵感を胸に、俺は手にケーブルを巻き取り、引っ張った。
// <0041> \{朋也}「…え?」
<0041> \{Tomoya}「…え?」
// <0042> かかるはずの力がなく、すっぽ抜けたようにコードが延びる。
<0042> かかるはずの力がなく、すっぽ抜けたようにコードが延びる。
// <0043> バランスを失った体が足場を探し、一歩後ろへと下がる。
<0043> バランスを失った体が足場を探し、一歩後ろへと下がる。
// <0044> ぐらり、とした感触。
<0044> ぐらり、とした感触。
// <0045> 駆け上がる喪失感だけが、生々しく感じられ…
<0045> 駆け上がる喪失感だけが、生々しく感じられ…
// <0046> どぐっ!
<0046> どぐっ!
// <0047> 頭と背中に殴られたような痛みと、真っ白になる視界。
<0047> 頭と背中に殴られたような痛みと、真っ白になる視界。
// <0048> 息が出来ない。
<0048> 息が出来ない。
// <0049> 目の前が真っ暗になり、やがて空が見えてくる。
<0049> 目の前が真っ暗になり、やがて空が見えてくる。
// <0050> 雲の間に見える、ささやかな青空。
<0050> 雲の間に見える、ささやかな青空。
// <0051> なんだ、もうすぐ晴れるんじゃないか…。
<0051> なんだ、もうすぐ晴れるんじゃないか…。
// <0052> そしたら、作業ももっと進む…はず…。
<0052> そしたら、作業ももっと進む…はず…。
// <0053> はやく…\pつくらないと…。
<0053> はやく…\pつくらないと…。
// <0054> ともよだって…\pきっと……\pわかって……\pくれる…から…
<0054> ともよだって…\pきっと……\pわかって……\pくれる…から…
// <0055> ………
<0055> ………
// <0056> ……
<0056> ……
// <0057> …
<0057> …
// <0058> ともや…
<0058> ともや…
// <0059> …ともや…
<0059> …ともや…
// <0060> \{智代}「朋也っ!」
<0060> \{Tomoyo}「朋也っ!」
// <0061> すぐ目の前に智代の顔があった。
<0061> すぐ目の前に智代の顔があった。
// <0062> \{智代}「朋也っ…もう目覚めないのかと思ったぞ…」
<0062> \{Tomoyo}「朋也っ…もう目覚めないのかと思ったぞ…」
// <0063> \{智代}「ほんとに…よかった…」
<0063> \{Tomoyo}「ほんとに…よかった…」
// <0064> そう言って、智代は目元を涙でにじませた。
<0064> そう言って、智代は目元を涙でにじませた。
// <0065> \{管理人}「具合はどう?」
<0065> \{Manager}「具合はどう?」
// <0066> その脇から、管理人の顔が現れる。
<0066> その脇から、管理人の顔が現れる。
// <0067> 俺は自分の置かれた状況の把握に努める。
<0067> 俺は自分の置かれた状況の把握に努める。
// <0068> なぜか寝かされていた。
<0068> なぜか寝かされていた。
// <0069> 頭にはひどい違和感がある。
<0069> 頭にはひどい違和感がある。
// <0070> 触ると何かを巻かれているようだった。
<0070> 触ると何かを巻かれているようだった。
// <0071> \{管理人}「触らない方がいいわよ」
<0071> \{Manager}「触らない方がいいわよ」
// <0072> \{管理人}「傷口は開かないと思うけど」
<0072> \{Manager}「傷口は開かないと思うけど」
// <0073> \{朋也}「…俺、どうしたんだっけ?」
<0073> \{Tomoya}「…俺、どうしたんだっけ?」
// <0074> \{管理人}「ゴミの山から落ちて、頭を打ったのよ」
<0074> \{Manager}「ゴミの山から落ちて、頭を打ったのよ」
// <0075> …その瞬間が脳裏によぎる。
<0075> …その瞬間が脳裏によぎる。
// <0076> 今になって、冷たい恐怖感がせりあがってきた。
<0076> 今になって、冷たい恐怖感がせりあがってきた。
// <0077> \{智代}「雨の日にあの山に登るなんて危険すぎる…」
<0077> \{Tomoyo}「雨の日にあの山に登るなんて危険すぎる…」
// <0078> 晴れの日でさえ、智代が転けていたことを思い出す。
<0078> 晴れの日でさえ、智代が転けていたことを思い出す。
// <0079> \{管理人}「傷口はお医者さんに治療してもらったわ」
<0079> \{Manager}「傷口はお医者さんに治療してもらったわ」
// <0080> \{管理人}「5針縫ったくらいだけど、結構出血してたからね」
<0080> \{Manager}「5針縫ったくらいだけど、結構出血してたからね」
// <0081> \{朋也}「悪い、迷惑かけたな…」
<0081> \{Tomoya}「悪い、迷惑かけたな…」
// <0082> \{管理人}「それだけ?」
<0082> \{Manager}「それだけ?」
// <0083> \{朋也}「…ありがとう」
<0083> \{Tomoya}「…ありがとう」
// <0084> \{管理人}「ふふ、それはかなちゃんに言ってあげなさい」
<0084> \{Manager}「ふふ、それはかなちゃんに言ってあげなさい」
// <0085> \{朋也}「え? あいつが何かしたのか?」
<0085> \{Tomoya}「え? あいつが何かしたのか?」
// <0086> \{管理人}「後ろよ」
<0086> \{Manager}「後ろよ」
// <0087> \{智代}「ゆっくりだぞ」
<0087> \{Tomoyo}「ゆっくりだぞ」
// <0088> 智代の膝の上で、頭を回転させる。
<0088> 智代の膝の上で、頭を回転させる。
// <0089> その先には、丸くなって寝ている河南子がいた。
<0089> その先には、丸くなって寝ている河南子がいた。
// <0090> 服は泥だらけになり、髪の毛も雨で濡れていた。
<0090> 服は泥だらけになり、髪の毛も雨で濡れていた。
// <0091> \{管理人}「疲れて寝ちゃったのね」
<0091> \{Manager}「疲れて寝ちゃったのね」
// <0092> \{管理人}「あれだけ叫んでたんだもの、疲れるわよね」
<0092> \{Manager}「あれだけ叫んでたんだもの、疲れるわよね」
// <0093> \{管理人}「頭を打ってるから動かしたらダメだって必死であなたを支えてて…」
<0093> \{Manager}「頭を打ってるから動かしたらダメだって必死であなたを支えてて…」
// <0094> \{管理人}「声が潰れるくらい、大きい声で叫んでたのよ」
<0094> \{Manager}「声が潰れるくらい、大きい声で叫んでたのよ」
// <0095> \{智代}「私が駆けつけたら、すぐ誰か呼んでくるって雨の中を走っていったんだ」
<0095> \{Tomoyo}「私が駆けつけたら、すぐ誰か呼んでくるって雨の中を走っていったんだ」
// <0096> \{管理人}「すごかったわよね」
<0096> \{Manager}「すごかったわよね」
// <0097> \{管理人}「しばらく経ったら、ほとんどが集まってた」
<0097> \{Manager}「しばらく経ったら、ほとんどが集まってた」
// <0098> \{管理人}「自発的によ」
<0098> \{Manager}「自発的によ」
// <0099> \{管理人}「誰もが、かなちゃんには敵わないな、って顔をしてね」
<0099> \{Manager}「誰もが、かなちゃんには敵わないな、って顔をしてね」
// <0100> 俺は何も言えなかった。
<0100> 俺は何も言えなかった。
// <0101> いつものように迷惑をかけているだけ、としか思えなかった河南子がいつの間にか、村の住人の心を掴んでいた。
<0101> いつものように迷惑をかけているだけ、としか思えなかった河南子がいつの間にか、村の住人の心を掴んでいた。
// <0102> その事実に、頭が下がる思いだった。
<0102> その事実に、頭が下がる思いだった。
// <0103> \{朋也}「…そっか」
<0103> \{Tomoya}「…そっか」
// <0104> \{朋也}「ちゃんと、お礼、言わないとな」
<0104> \{Tomoya}「ちゃんと、お礼、言わないとな」
// <0105> \{河南子}「…ん」
<0105> \{Kanako}「…ん」
// <0106> その瞼がぴくりと動いた。
<0106> その瞼がぴくりと動いた。
// <0107> \{朋也}「お、起きたか」
<0107> \{Tomoya}「お、起きたか」
// <0108> 目を覚ました河南子は、俺を見るなりすぐに跳ね起きた。
<0108> 目を覚ました河南子は、俺を見るなりすぐに跳ね起きた。
// <0109> \{朋也}「おはよう」
<0109> \{Tomoya}「おはよう」
// <0110> \{朋也}「ありがと…
<0110> \{Tomoya}「ありがと…
// <0111> ぐはぁあっっ!」
<0111> ぐはぁあっっ!」
// <0112> いきなり、脇腹を蹴られた。死ぬほど痛い。
<0112> いきなり、脇腹を蹴られた。死ぬほど痛い。
// <0113> \{智代}「こら、河南子っ」
<0113> \{Tomoyo}「こら、河南子っ」
// <0114> \{河南子}「心配かけるな、馬鹿っ!」
<0114> \{Kanako}「心配かけるな、馬鹿っ!」
// <0115> \{河南子}「ひとがどれだけ心配したか、わかってんのか!」
<0115> \{Kanako}「ひとがどれだけ心配したか、わかってんのか!」
// <0116> \{河南子}「先輩も、鷹文も、ともも、あたしもっ…」
<0116> \{Kanako}「先輩も、鷹文も、ともも、あたしもっ…」
// <0117> \{河南子}「みんな、あんたのこと大切に思ってるんだから、驚かせるなっ!」
<0117> \{Kanako}「みんな、あんたのこと大切に思ってるんだから、驚かせるなっ!」
// <0118> \{河南子}「心配したんだぞ、ほんとに…もう…」
<0118> \{Kanako}「心配したんだぞ、ほんとに…もう…」
// <0119> \{朋也}「悪かったよ。もう大丈夫だから」
<0119> \{Tomoya}「悪かったよ。もう大丈夫だから」
// <0120> \{河南子}「死ね」
<0120> \{Kanako}「死ね」
// <0121> また蹴られる。
<0121> また蹴られる。
// <0122> 雨が止んだ後、みんなと一緒に表に出た。
<0122> 雨が止んだ後、みんなと一緒に表に出た。
// <0123> 廃屋の近くに行くと、向こうが騒がしかった。
<0123> 廃屋の近くに行くと、向こうが騒がしかった。
// <0124> それを聞いて、河南子が嬉しそうに駆けていった。
<0124> それを聞いて、河南子が嬉しそうに駆けていった。
// <0125> \{管理人}「驚かないでね」
<0125> \{Manager}「驚かないでね」
// <0126> \{管理人}「ここで何年も管理人をやってきた私ですら、あの光景には驚いてるもの」
<0126> \{Manager}「ここで何年も管理人をやってきた私ですら、あの光景には驚いてるもの」
// <0127> \{管理人}「かなちゃん、という存在が作用したのよ」
<0127> \{Manager}「かなちゃん、という存在が作用したのよ」
// <0128> \{朋也}「…?」
<0128> \{Tomoya}「…?」
// <0129> \{管理人}「きっかけはちょっとしたことだった」
<0129> \{Manager}「きっかけはちょっとしたことだった」
// <0130> \{管理人}「お腹をすかしたかなちゃんが、食べるものを作ろうと思い立ったの」
<0130> \{Manager}「お腹をすかしたかなちゃんが、食べるものを作ろうと思い立ったの」
// <0131> \{管理人}「手元には何もなかったから、まずは材料を集め始めた」
<0131> \{Manager}「手元には何もなかったから、まずは材料を集め始めた」
// <0132> \{管理人}「住人の部屋をひとつずつ回って、いろんなものをお裾分けしてもらったわけ」
<0132> \{Manager}「住人の部屋をひとつずつ回って、いろんなものをお裾分けしてもらったわけ」
// <0133> \{管理人}「それを厨房の流しに並べて、その前で、かなちゃんはうんうんとうなり続けていた」
<0133> \{Manager}「それを厨房の流しに並べて、その前で、かなちゃんはうんうんとうなり続けていた」
// <0134> \{管理人}「そこへ夕飯の準備に女の子が現れた」
<0134> \{Manager}「そこへ夕飯の準備に女の子が現れた」
// <0135> \{管理人}「彼女はうんうんうなっているかなちゃんに、恐る恐る訊いたわけ」
<0135> \{Manager}「彼女はうんうんうなっているかなちゃんに、恐る恐る訊いたわけ」
// <0136> \{管理人}「何を作ろうとしているの?って」
<0136> \{Manager}「何を作ろうとしているの?って」
// <0137> \{管理人}「すると、かなちゃんは答えた」
<0137> \{Manager}「すると、かなちゃんは答えた」
// <0138> \{管理人}「アイスって」
<0138> \{Manager}「アイスって」
// <0139> \{管理人}「女の子はその返答に思わず笑ってしまった」
<0139> \{Manager}「女の子はその返答に思わず笑ってしまった」
// <0140> \{管理人}「だって、かなちゃんの前には、お芋が山積みだったのよ」
<0140> \{Manager}「だって、かなちゃんの前には、お芋が山積みだったのよ」
// <0141> \{管理人}「そんなものを前に悩んでたって、できるわけないじゃない?」
<0141> \{Manager}「そんなものを前に悩んでたって、できるわけないじゃない?」
// <0142> \{管理人}「その後、ふたりでアイスを作り始めた。もちろん芋からじゃなく、普通のアイスね」
<0142> \{Manager}「その後、ふたりでアイスを作り始めた。もちろん芋からじゃなく、普通のアイスね」
// <0143> \{管理人}「他人が恐かったはずの女の子は、その短時間でかなちゃんに気を許してしまったわけ」
<0143> \{Manager}「他人が恐かったはずの女の子は、その短時間でかなちゃんに気を許してしまったわけ」
// <0144> \{管理人}「あ、ちなみに彼女ってのは洗濯係の子ね」
<0144> \{Manager}「あ、ちなみに彼女ってのは洗濯係の子ね」
// <0145> \{管理人}「次の日も、かなちゃんは同じことをした」
<0145> \{Manager}「次の日も、かなちゃんは同じことをした」
// <0146> \{管理人}「また別の人が、彼女に気を許した」
<0146> \{Manager}「また別の人が、彼女に気を許した」
// <0147> \{管理人}「そうして、かなちゃんは、ここの住人と仲良くなっていったの」
<0147> \{Manager}「そうして、かなちゃんは、ここの住人と仲良くなっていったの」
// <0148> \{管理人}「いつしか、いろんな人たちが厨房に集まって、お菓子を作ってた」
<0148> \{Manager}「いつしか、いろんな人たちが厨房に集まって、お菓子を作ってた」
// <0149> \{管理人}「みんな笑いながら」
<0149> \{Manager}「みんな笑いながら」
// <0150> \{管理人}「まさか、と思う人までね」
<0150> \{Manager}「まさか、と思う人までね」
// <0151> \{管理人}「みんな、生き甲斐を持ったように、はつらつとして」
<0151> \{Manager}「みんな、生き甲斐を持ったように、はつらつとして」
// <0152> \{管理人}「どうしてだと思う?」
<0152> \{Manager}「どうしてだと思う?」
// <0153> 俺は首を振った。
<0153> 俺は首を振った。
// <0154> \{管理人}「生き甲斐ってのはね、変化への欲求でもあるのよ」
<0154> \{Manager}「生き甲斐ってのはね、変化への欲求でもあるのよ」
// <0155> \{管理人}「人は生活に変化がなくなると、退屈を感じるものなのね。それはその人が健康な証拠」
<0155> \{Manager}「人は生活に変化がなくなると、退屈を感じるものなのね。それはその人が健康な証拠」
// <0156> \{管理人}「退屈を感じなければ、その人の心は病んじゃってるのよ」
<0156> \{Manager}「退屈を感じなければ、その人の心は病んじゃってるのよ」
// <0157> \{管理人}「ここにいる人たちはここに来る前からそうだし、ここにきて変化のない生活を続けるうちに、みんな、退屈を苦ともしなくなっちゃってたの」
<0157> \{Manager}「ここにいる人たちはここに来る前からそうだし、ここにきて変化のない生活を続けるうちに、みんな、退屈を苦ともしなくなっちゃってたの」
// <0158> \{管理人}「でも、そんな村に初めて、変化していく存在が現れたわけ」
<0158> \{Manager}「でも、そんな村に初めて、変化していく存在が現れたわけ」
// <0159> \{管理人}「それが、かなちゃん」
<0159> \{Manager}「それが、かなちゃん」
// <0160> \{管理人}「育児に追われる母親は、子供の日々成長する変化に生き甲斐を感じていく」
<0160> \{Manager}「育児に追われる母親は、子供の日々成長する変化に生き甲斐を感じていく」
// <0161> \{管理人}「老い先短いお年寄りも、孫の成長を喜ぶものでしょ?」
<0161> \{Manager}「老い先短いお年寄りも、孫の成長を喜ぶものでしょ?」
// <0162> \{管理人}「こう言っちゃかなちゃんに悪いけど、それと同じね」
<0162> \{Manager}「こう言っちゃかなちゃんに悪いけど、それと同じね」
// <0163> \{管理人}「かなちゃんは、子供のように笑って、喜んで、お菓子作りを覚えていった」
<0163> \{Manager}「かなちゃんは、子供のように笑って、喜んで、お菓子作りを覚えていった」
// <0164> \{管理人}「それが彼らにとっての、生き甲斐になったんだと思うの」
<0164> \{Manager}「それが彼らにとっての、生き甲斐になったんだと思うの」
// <0165> \{管理人}「でも、それを目の前でこんな短期間のうちによ…?」
<0165> \{Manager}「でも、それを目の前でこんな短期間のうちによ…?」
// <0166> \{管理人}「奇跡を目の当たりにした気分だわ」
<0166> \{Manager}「奇跡を目の当たりにした気分だわ」
// <0167> あいつが、そんなことをやってのけたなんて。
<0167> あいつが、そんなことをやってのけたなんて。
// <0168> 俺も信じられない。
<0168> 俺も信じられない。
// <0169> \{管理人}「今では、みんなが前向きになっちゃってる」
<0169> \{Manager}「今では、みんなが前向きになっちゃってる」
// <0170> \{管理人}「みんなが、あなたみたいになっちゃったのよ」
<0170> \{Manager}「みんなが、あなたみたいになっちゃったのよ」
// <0171> \{管理人}「あなたも、かなちゃんの影響なの?」
<0171> \{Manager}「あなたも、かなちゃんの影響なの?」
// <0172> ぶるんぶるんと首を横に振る。
<0172> ぶるんぶるんと首を横に振る。
// <0173> そこまで否定しなくとも、と管理人は笑う。
<0173> そこまで否定しなくとも、と管理人は笑う。
// <0174> \{管理人}「なら奇遇ね」
<0174> \{Manager}「なら奇遇ね」
// <0175> \{管理人}「それは、一時の感情かもしれない」
<0175> \{Manager}「それは、一時の感情かもしれない」
// <0176> \{管理人}「後悔するかもしれない」
<0176> \{Manager}「後悔するかもしれない」
// <0177> \{管理人}「でも、あれだけの人数が動いてしまっては、今さら私が何を言ったってもう無駄よ」
<0177> \{Manager}「でも、あれだけの人数が動いてしまっては、今さら私が何を言ったってもう無駄よ」
// <0178> 彼女は困ったふうもなく微笑んでいた。
<0178> 彼女は困ったふうもなく微笑んでいた。
// <0179> \{河南子}「なにしてんのさ、早くおいでよ」
<0179> \{Kanako}「なにしてんのさ、早くおいでよ」
// <0180> 河南子が先で待っていた。
<0180> 河南子が先で待っていた。
// <0181> その角を曲がる。
<0181> その角を曲がる。
// <0182> そこには、昨日は考えもしなかった光景が広がっていた。
<0182> そこには、昨日は考えもしなかった光景が広がっていた。
// <0183> 木材を加工する男性。
<0183> 木材を加工する男性。
// <0184> 畳を干している女性の姿。
<0184> 畳を干している女性の姿。
// <0185> 屋根の上に登って修繕をしている人もいる。
<0185> 屋根の上に登って修繕をしている人もいる。
// <0186> 掘り起こした黒板は、綺麗に鉋がかけられ、新しい木目が輝いていた。
<0186> 掘り起こした黒板は、綺麗に鉋がかけられ、新しい木目が輝いていた。
// <0187> 俺が見たことのない机や椅子が庭で磨かれていた。
<0187> 俺が見たことのない机や椅子が庭で磨かれていた。
// <0188> 皆が思い思いの作業を、真剣にやってくれている。
<0188> 皆が思い思いの作業を、真剣にやってくれている。
// <0189> \{河南子}「みんな、ありがとー」
<0189> \{Kanako}「みんな、ありがとー」
// <0190> 河南子の呼びかけに、全員が手を止め、俺たちを囲んだ。
<0190> 河南子の呼びかけに、全員が手を止め、俺たちを囲んだ。
// <0191> 口々に、よかったな、大丈夫かと声をかけてくれる。
<0191> 口々に、よかったな、大丈夫かと声をかけてくれる。
// <0192> 不審な態度や、敵意はもうない。
<0192> 不審な態度や、敵意はもうない。
// <0193> それどころか、村のいろんな電化製品を修理して回ったことに対して今さらながらに礼を言われた。
<0193> それどころか、村のいろんな電化製品を修理して回ったことに対して今さらながらに礼を言われた。
// <0194> その恩返しをさせてくれと言う。
<0194> その恩返しをさせてくれと言う。
// <0195> \{朋也}「でも…いいのか?」
<0195> \{Tomoya}「でも…いいのか?」
// <0196> 俺は後ろめたい気分でいた。
<0196> 俺は後ろめたい気分でいた。
// <0197> \{男}「何がだい?」
<0197> \{Man}「何がだい?」
// <0198> 手前にいた男性が尋ねてきた。
<0198> 手前にいた男性が尋ねてきた。
// <0199> \{朋也}「俺、この施設に迷惑かけようってしてるのに…」
<0199> \{Tomoya}「俺、この施設に迷惑かけようってしてるのに…」
// <0200> \{男}「ああ、子どもがくるんだろ? 有子さんの」
<0200> \{Man}「ああ、子どもがくるんだろ? 有子さんの」
// <0201> \{女性}「…みんな知ってるから、大丈夫」
<0201> \{Woman}「…みんな知ってるから、大丈夫」
// <0202> 洗濯係の女性が答えてくれた。
<0202> 洗濯係の女性が答えてくれた。
// <0203> \{女性}「かなちゃん見てたら…子供もいいかなって」
<0203> \{Woman}「かなちゃん見てたら…子供もいいかなって」
// <0204> \{河南子}「えー、あたし、子供じゃないよ」
<0204> \{Kanako}「えー、あたし、子供じゃないよ」
// <0205> 不満そうに言う河南子に、俺も含めて皆が笑い出した。
<0205> 不満そうに言う河南子に、俺も含めて皆が笑い出した。
// <0206> そうか。
<0206> そうか。
// <0207> 今ようやく気づいた。
<0207> 今ようやく気づいた。
// <0208> 俺はすでにこの村に、未来を指し示す希望を持ち込んでしまっていたんだ。
<0208> 俺はすでにこの村に、未来を指し示す希望を持ち込んでしまっていたんだ。
// <0209> \{河南子}「なんで笑う!」
<0209> \{Kanako}「なんで笑う!」
// <0210> 笑い声はさらに大きくなり、山裾まで広がっていくようだった。
<0210> 笑い声はさらに大きくなり、山裾まで広がっていくようだった。
// <0211> \{有子}「村が変わってゆく…」
<0211> \{Yuuko}「村が変わってゆく…」
// <0212> 三島有子は窓に手を当て、その向こうをぼんやりと見ていた。
<0212> 三島有子は窓に手を当て、その向こうをぼんやりと見ていた。
// <0213> \{有子}「あなたのその力は何? 信念?」
<0213> \{Yuuko}「あなたのその力は何? 信念?」
// <0214> 窓に訊く。そこに映る俺に。
<0214> 窓に訊く。そこに映る俺に。
// <0215> \{朋也}「恥ずかしいから言わない」
<0215> \{Tomoya}「恥ずかしいから言わない」
// <0216> \{有子}「みんながあなたのように強ければいいのだけど」
<0216> \{Yuuko}「みんながあなたのように強ければいいのだけど」
// <0217> \{朋也}「弱ければ、そいつの周りにいる人が助けてくれる」
<0217> \{Tomoya}「弱ければ、そいつの周りにいる人が助けてくれる」
// <0218> \{朋也}「俺はあんたの周りにいないけど」
<0218> \{Tomoya}「俺はあんたの周りにいないけど」
// <0219> 窓の外で、三島有子に気づいた村人が手を振って呼んでいた。
<0219> 窓の外で、三島有子に気づいた村人が手を振って呼んでいた。
// <0220> \{朋也}「ほら、ここにはいるじゃん」
<0220> \{Tomoya}「ほら、ここにはいるじゃん」
// <0221> \{朋也}「俺たちはともの味方だからさ」
<0221> \{Tomoya}「俺たちはともの味方だからさ」
// <0222> \{朋也}「俺たちはあんたにとっては、疫病神みたいなもんかもしれない」
<0222> \{Tomoya}「俺たちはあんたにとっては、疫病神みたいなもんかもしれない」
// <0223> \{朋也}「多分どこへ逃げようと、追っかけて、こんなふうにしてしまう」
<0223> \{Tomoya}「多分どこへ逃げようと、追っかけて、こんなふうにしてしまう」
// <0224> \{朋也}「ともがそれを望み続けるかぎり」
<0224> \{Tomoya}「ともがそれを望み続けるかぎり」
// <0225> \{朋也}「それは…迷惑か?」
<0225> \{Tomoya}「それは…迷惑か?」
// <0226> \{有子}「………」
<0226> \{Yuuko}「………」
// <0227> 長い沈黙の後、口が震えた。
<0227> 長い沈黙の後、口が震えた。
// <0228> \{朋也}「ん…?」
<0228> \{Tomoya}「ん…?」
// <0229> \{有子}「…ありがとう」
<0229> \{Yuuko}「…ありがとう」
// <0230> \{朋也}「よかった」
<0230> \{Tomoya}「よかった」
// <0231> \{朋也}「ともにはたくさん、ちゅーしてやってくれ」
<0231> \{Tomoya}「ともにはたくさん、ちゅーしてやってくれ」
// <0232> \{朋也}「もう他の人にしてもらわなくて済むぐらいにな」
<0232> \{Tomoya}「もう他の人にしてもらわなくて済むぐらいにな」
// <0233> \{有子}「…はい」
<0233> \{Yuuko}「…はい」
// <0234> \{智代}「朋也…そんな歩き回るな」
<0234> \{Tomoyo}「朋也…そんな歩き回るな」
// <0235> \{智代}「怪我にさわる」
<0235> \{Tomoyo}「怪我にさわる」
// <0236> 智代はずっと俺のそばにいた。ただ怪我をして以降は俺を気づかう以外の言葉を発していない。
<0236> 智代はずっと俺のそばにいた。ただ怪我をして以降は俺を気づかう以外の言葉を発していない。
// <0237> 三島有子と話している間も、俺の背後に隠れるようにして、ずっと黙っていた。
<0237> 三島有子と話している間も、俺の背後に隠れるようにして、ずっと黙っていた。
// <0238> \{朋也}「智代」
<0238> \{Tomoya}「智代」
// <0239> 俺は足を止めて、向き合う。
<0239> 俺は足を止めて、向き合う。
// <0240> \{智代}「………」
<0240> \{Tomoyo}「………」
// <0241> \{朋也}「これで残ったのは、おまえのわがままだけだ」
<0241> \{Tomoya}「これで残ったのは、おまえのわがままだけだ」
// <0242> \{朋也}「今はとものことをみんなが迎え入れようとしている」
<0242> \{Tomoya}「今はとものことをみんなが迎え入れようとしている」
// <0243> \{智代}「私はおまえのことを心配して言っているんだ」
<0243> \{Tomoyo}「私はおまえのことを心配して言っているんだ」
// <0244> \{朋也}「怪我は大丈夫だ。大したことない」
<0244> \{Tomoya}「怪我は大丈夫だ。大したことない」
// <0245> \{朋也}「智代、おまえはどう考えてるんだ」
<0245> \{Tomoya}「智代、おまえはどう考えてるんだ」
// <0246> \{智代}「悪いが…おまえのこと以外は考えていない…」
<0246> \{Tomoyo}「悪いが…おまえのこと以外は考えていない…」
// <0247> \{智代}「おまえのことしか…頭にない…」
<0247> \{Tomoyo}「おまえのことしか…頭にない…」
// <0248> \{朋也}「もう一度言うぞ。怪我は大丈夫だ」
<0248> \{Tomoya}「もう一度言うぞ。怪我は大丈夫だ」
// <0249> \{朋也}「だから他のことも考えろ。大事なことがあるだろ」
<0249> \{Tomoya}「だから他のことも考えろ。大事なことがあるだろ」
// <0250> \{智代}「………」
<0250> \{Tomoyo}「………」
// <0251> 結局智代は黙りこくったままだった。
<0251> 結局智代は黙りこくったままだった。
// <0252> 工程を見ていて、ふと気になった。
<0252> 工程を見ていて、ふと気になった。
// <0253> そういえば、この村にきてカレンダーを見た覚えがない。
<0253> そういえば、この村にきてカレンダーを見た覚えがない。
// <0254> 町と比べ、時間の感覚がやたらと希薄なのだ。
<0254> 町と比べ、時間の感覚がやたらと希薄なのだ。
// <0255> \{朋也}「…今日、何日だっけ?」
<0255> \{Tomoya}「…今日、何日だっけ?」
// <0256> \{管理人}「17日よ」
<0256> \{Manager}「17日よ」
// <0257> \{朋也}「うわ、明日から仕事だった…」
<0257> \{Tomoya}「うわ、明日から仕事だった…」
// <0258> 今日で盆休みは終わり。
<0258> 今日で盆休みは終わり。
// <0259> 休んだ覚えはひとつもないが、休みはもう終わるのだ。
<0259> 休んだ覚えはひとつもないが、休みはもう終わるのだ。
// <0260> 工程を見ると、どうにも終わりそうではない。
<0260> 工程を見ると、どうにも終わりそうではない。
// <0261> が、ここで帰るのは非常にまずい。
<0261> が、ここで帰るのは非常にまずい。
// <0262> 智代の説得もあるし、発起人が抜けてしまっては、村人の士気へも影響しかねない。
<0262> 智代の説得もあるし、発起人が抜けてしまっては、村人の士気へも影響しかねない。
// <0263> \{朋也}「悪いが、電話貸してくれないか?」
<0263> \{Tomoya}「悪いが、電話貸してくれないか?」
// <0264> \{管理人}「どうぞ」
<0264> \{Manager}「どうぞ」
// <0265> いるかどうかわからないが、とりあえず職場に電話してみた。
<0265> いるかどうかわからないが、とりあえず職場に電話してみた。
// <0266> 長いコールの後。
<0266> 長いコールの後。
// <0267> \{親方}『はい、○○産業』
<0267> \{Master}『はい、○○産業』
// <0268> \{朋也}「あ、岡崎です。お休みのところすみません」
<0268> \{Tomoya}「あ、岡崎です。お休みのところすみません」
// <0269> \{親方}『おう、どうした』
<0269> \{Master}『おう、どうした』
// <0270> \{朋也}「…あの、申し訳ないんですが、何日か休ませてもらえませんか?」
<0270> \{Tomoya}「…あの、申し訳ないんですが、何日か休ませてもらえませんか?」
// <0271> \{親方}『はあ?』
<0271> \{Master}『はあ?』
// <0272> \{朋也}「どうしてもやらなきゃいけないことがあるんです」
<0272> \{Tomoya}「どうしてもやらなきゃいけないことがあるんです」
// <0273> \{親方}『…ふむ』
<0273> \{Master}『…ふむ』
// <0274> 黙り込んだ。さすがに社会人としてどうかと、俺も思う。
<0274> 黙り込んだ。さすがに社会人としてどうかと、俺も思う。
// <0275> \{朋也}「すみません、戻ったら今まで以上に働きますから」
<0275> \{Tomoya}「すみません、戻ったら今まで以上に働きますから」
// <0276> \{朋也}「お願いしますっ」
<0276> \{Tomoya}「お願いしますっ」
// <0277> 受話器の向こうへ、必死になって頭を下げた。
<0277> 受話器の向こうへ、必死になって頭を下げた。
// <0278> \{親方}『…戻るって、今どこにいるんだ?』
<0278> \{Master}『…戻るって、今どこにいるんだ?』
// <0279> \{朋也}「あ、ええと…」
<0279> \{Tomoya}「あ、ええと…」
// <0280> 俺は村の所在地を大まかに教えた。元々地図に無いような場所だ。
<0280> 俺は村の所在地を大まかに教えた。元々地図に無いような場所だ。
// <0281> \{親方}『…遠いな』
<0281> \{Master}『…遠いな』
// <0282> \{親方}『それじゃ、明日は間に合わんだろ』
<0282> \{Master}『それじゃ、明日は間に合わんだろ』
// <0283> \{朋也}「はぁ…」
<0283> \{Tomoya}「はぁ…」
// <0284> \{親方}『…大事な用なのか?』
<0284> \{Master}『…大事な用なのか?』
// <0285> \{朋也}「はいっ」
<0285> \{Tomoya}「はいっ」
// <0286> \{親方}『…まあ、いいだろ。ろくなことする奴じゃねぇからな』
<0286> \{Master}『…まあ、いいだろ。ろくなことする奴じゃねぇからな』
// <0287> \{親方}『終わったら連絡しろ』
<0287> \{Master}『終わったら連絡しろ』
// <0288> 想像以上にあっさりと許可してくれた。
<0288> 想像以上にあっさりと許可してくれた。
// <0289> \{朋也}「いいんですか…?」
<0289> \{Tomoya}「いいんですか…?」
// <0290> \{親方}『おまえが訊くなよ。迷惑だってわかっても言うほど大事な用件なんだろうが』
<0290> \{Master}『おまえが訊くなよ。迷惑だってわかっても言うほど大事な用件なんだろうが』
// <0291> \{親方}『おまえはわかりやすい奴だからな』
<0291> \{Master}『おまえはわかりやすい奴だからな』
// <0292> \{朋也}「ありがとうございますっ」
<0292> \{Tomoya}「ありがとうございますっ」
// <0293> そのまま電話は切れた。
<0293> そのまま電話は切れた。
// <0294> ひとつ懸念が減った。
<0294> ひとつ懸念が減った。
// <0295> 考えを整理した後、そのまま鷹文に電話をする。
<0295> 考えを整理した後、そのまま鷹文に電話をする。
// <0296> 三回目のコールで、繋がる。
<0296> 三回目のコールで、繋がる。
// <0297> \{鷹文}『はい、えーと、岡崎です』
<0297> \{Takafumi}『はい、えーと、岡崎です』
// <0298> \{朋也}「俺だ」
<0298> \{Tomoya}「俺だ」
// <0299> \{鷹文}『にぃちゃん! やっと連絡くれたね。心配してたんだよ』
<0299> \{Takafumi}『にぃちゃん! やっと連絡くれたね。心配してたんだよ』
// <0300> \{朋也}「悪いな。なんかいろいろあってさ、何もかも中途半端で、うまく話せそうもなかったから」
<0300> \{Tomoya}「悪いな。なんかいろいろあってさ、何もかも中途半端で、うまく話せそうもなかったから」
// <0301> \{鷹文}『じゃ、終わったの?』
<0301> \{Takafumi}『じゃ、終わったの?』
// <0302> \{朋也}「ああ。こっちで、母親がともと暮らすことになった」
<0302> \{Tomoya}「ああ。こっちで、母親がともと暮らすことになった」
// <0303> \{鷹文}『おー、どう頑張ったかわからないけど、やったじゃん』
<0303> \{Takafumi}『おー、どう頑張ったかわからないけど、やったじゃん』
// <0304> \{朋也}「その分、痛い目に遭ったりもしたけどな」
<0304> \{Tomoya}「その分、痛い目に遭ったりもしたけどな」
// <0305> \{鷹文}『そりゃ大変だったねぇ』
<0305> \{Takafumi}『そりゃ大変だったねぇ』
// <0306> \{朋也}「そっちは?」
<0306> \{Tomoya}「そっちは?」
// <0307> \{鷹文}『何も問題ないよ。ともと休みを満喫してる』
<0307> \{Takafumi}『何も問題ないよ。ともと休みを満喫してる』
// <0308> \{鷹文}『代わろうか?』
<0308> \{Takafumi}『代わろうか?』
// <0309> \{朋也}「ああ。\pあ…やっぱいい」
<0309> \{Tomoya}「ああ。\pあ…やっぱいい」
// <0310> 一度返事してから、すぐ訂正する。
<0310> 一度返事してから、すぐ訂正する。
// <0311> \{鷹文}『いいの? そこにいるけど』
<0311> \{Takafumi}『いいの? そこにいるけど』
// <0312> \{朋也}「やめとく」
<0312> \{Tomoya}「やめとく」
// <0313> 今、声を聞いてしまっては、俺の決心まで鈍ってしまいそうな気がした。
<0313> 今、声を聞いてしまっては、俺の決心まで鈍ってしまいそうな気がした。
// <0314> \{鷹文}『で、こっちはこれからどうすればいいの?』
<0314> \{Takafumi}『で、こっちはこれからどうすればいいの?』
// <0315> \{朋也}「その時までは、ともに母親のこと、言わないでほしいんだ」
<0315> \{Tomoya}「その時までは、ともに母親のこと、言わないでほしいんだ」
// <0316> \{朋也}「俺が説明するから」
<0316> \{Tomoya}「俺が説明するから」
// <0317> \{朋也}「とても、言いづらいことがあるから…」
<0317> \{Tomoya}「とても、言いづらいことがあるから…」
// <0318> \{朋也}「おまえには先に言っておくな」
<0318> \{Tomoya}「おまえには先に言っておくな」
// <0319> ともの母親がもう長くないことを伝えた。
<0319> ともの母親がもう長くないことを伝えた。
// <0320> 鷹文は深くて長いため息をついた。
<0320> 鷹文は深くて長いため息をついた。
// <0321> そうして、ともの隣で取り乱さないように努めた。
<0321> そうして、ともの隣で取り乱さないように努めた。
// <0322> \{鷹文}『了解』
<0322> \{Takafumi}『了解』
// <0323> \{朋也}「あと数日で完成するはずだから、近くなったら電話する」
<0323> \{Tomoya}「あと数日で完成するはずだから、近くなったら電話する」
// <0324> \{朋也}「場所はわかってるよな?」
<0324> \{Tomoya}「場所はわかってるよな?」
// <0325> \{鷹文}『うん、だいじょうぶ』
<0325> \{Takafumi}『うん、だいじょうぶ』
// <0326> \{朋也}「旅費、あるか?」
<0326> \{Tomoya}「旅費、あるか?」
// <0327> \{鷹文}『バイトしてるからそれもだいじょうぶだよ』
<0327> \{Takafumi}『バイトしてるからそれもだいじょうぶだよ』
// <0328> \{朋也}「悪いな、せっかくの夏休みなのに」
<0328> \{Tomoya}「悪いな、せっかくの夏休みなのに」
// <0329> \{鷹文}『気にしないで』
<0329> \{Takafumi}『気にしないで』
// <0330> \{朋也}「じゃあ、また後日」
<0330> \{Tomoya}「じゃあ、また後日」
// <0331> そう告げて、電話を置いた。
<0331> そう告げて、電話を置いた。