White Album 2/Script/2013
Revision as of 05:01, 8 April 2014 by Jonathanasdf (talk | contribs) (Created page with "Return to the main page here. == Translation == == Editing == == Translation Notes == == Text == {{WA2ScriptTable}} {{WA2ScriptLine |1|小春|Ko...")
Return to the main page here.
Translation
Editing
Translation Notes
Text
Speaker | Text | Comment | |||
---|---|---|---|---|---|
Line # | JP | EN | JP | EN | |
1 | 小春 | Koharu | 「え…」 | ||
2 | 美穂子 | Mihoko | 「だから、見てた人がいるの。 峰城大の正門で、小春ちゃんが大学生の男の人と 二人きりで…」 | ||
3 | 小春 | Koharu | [F16「大学の正門って時点で、 ][F16二人きりって考えて欲しくなかったんだけどなぁ…」] | ||
4 | 美穂子 | Mihoko | 「相手の背格好や特徴聞いてみて、 間違いないって思った。 …相手、北原先生、よね?」 | ||
5 | 小春 | Koharu | 「う、うん」 | ||
6 | 美穂子 | Mihoko | 「っ…」 | ||
7 | 小春 | Koharu | 「いや、あの、だからね? 何か誤解があるんじゃないかな?」 | ||
8 | 美穂子 | Mihoko | 「誤解って、なに? 先生と小春ちゃんがわたしに黙って会ってること、 どんなふうに誤解してるって言うの?」 | ||
9 | 小春 | Koharu | 「………」 | "........."
| |
10 | 美穂子 | Mihoko | 「わたしが先生に告白したって知ってて そういうことしてるの、 おかしくない理由があるとでも言うの?」 | ||
11 | 小春 | Koharu | 「………」 | "........."
| |
12 | 美穂子 | Mihoko | 「何か、言ってよ。 黙ってたらわからない…」 | ||
13 | 小春 | Koharu | 「…じゃあ、美穂子。 この際だから、ハッキリ言うね」 | ||
14 | 美穂子 | Mihoko | 「え…」 | ||
15 | 小春 | Koharu | 「北原先輩は、諦めた方がいいと思う」 | ||
16 | 美穂子 | Mihoko | 「っ! こ、小春ちゃん…そんな…っ」 | ||
17 | 小春 | Koharu | 「ほらやっぱり誤解してる。 いい? 今の意見にわたしの都合は いっさい関係してないからね?」 | ||
18 | 美穂子 | Mihoko | 「い、意味わからない。 だったらどうしてそんなこと…」 | ||
19 | 小春 | Koharu | 「北原先輩、彼女いるんだよ。 ただ、色々あって今は距離を置いてるだけなの」 | ||
20 | 美穂子 | Mihoko | 「な、なに、それ?」 | ||
21 | 小春 | Koharu | 「言った通り。 別に美穂子が嫌いだから断ったわけじゃないって。 相手が誰でも、今はそういうこと考えられないって」 | ||
22 | 美穂子 | Mihoko | 「先生、そんなこと言わなかった。 つきあってる人なんかいないって…」 | ||
23 | 小春 | Koharu | 「それは…言いたくなかったんだよ。 話したくない事情があったんだよ。 わかってあげようよ」 | ||
24 | 美穂子 | Mihoko | 「言いたくなかったのに… どうして小春ちゃんには話したの?」 | ||
25 | 小春 | Koharu | 「え? ええと…ほら、 わたしがしつこく聞いたから仕方なく…」 | ||
26 | 美穂子 | Mihoko | 「どうしてそんなにしつこく聞いたの? 先生に、つきまとったりしたの?」 | ||
27 | 小春 | Koharu | 「それは…だって美穂子が」 | ||
28 | 美穂子 | Mihoko | 「先生のこと、興味あったんだ。 だからそんなふうに、わたしにまで嘘…っ」 | ||
29 | 小春 | Koharu | 「ち、違うってば! 美穂子に黙ってたのは、その…」 | ||
30 | 早百合 | Sayuri | 「いい加減にしときなよ矢田。 それって逆恨みだよ」 | ||
31 | 美穂子 | Mihoko | 「え…」 | ||
32 | 亜子 | Ako | 「小春があなたを裏切るわけないじゃない。 友達のくせにそんなこともわからないかなぁ」 | ||
33 | 小春 | Koharu | 「あ、あんたたち…」 | ||
34 | 早百合 | Sayuri | 「どうせ矢田のこと何とかしてあげようって、 頼まれてもいないのに一人で大学まで 乗り込んで行ったんでしょこのコは」 | ||
35 | 亜子 | Ako | 「小春の度を超したお節介、 あなたもよくわかってるでしょ? もうちょっと落ち着いて考えようよ?」 | ||
36 | 小春 | Koharu | 「…友達のくせに言い過ぎなんじゃないの?」 | ||
37 | 早百合 | Sayuri | 「小春もいつまでくだらないフォローしてんのよ。 もう意味ないからやめときなよ」 | ||
38 | 美穂子 | Mihoko | 「く、くだらないって…そんな」 | ||
39 | 亜子 | Ako | 「だってねぇ…男の人に振られたくらいで、 この世の終わりみたいな顔しちゃってさぁ。 正直、ちょっと退くよ」 | ||
40 | 美穂子 | Mihoko | 「っ!?」 | ||
41 | 小春 | Koharu | 「な…ちょっとやめなよ二人とも」 | ||
42 | 早百合 | Sayuri | 「本当は小春が言ってやるべきなのよ。 グダグダ言って周りまで暗くするのやめなって」 | ||
43 | 小春 | Koharu | 「傷ついてるのは美穂子なんだよ? わたしたちが『大したことない』なんて、 勝手に決めつけられるわけないでしょ?」 | ||
44 | 美穂子 | Mihoko | 「っ…」 | ||
45 | 小春 | Koharu | 「あ、美穂子…ちょっと待って!」 | ||
46 | 亜子 | Ako | 「もうほっとこうよ… どうせ振られた事実は変わらないんだから」 | ||
47 | 早百合 | Sayuri | 「結局、立ち直るのって時間しかないよねぇ。 これ以上小春が頑張る必要なんてさぁ…」 | ||
48 | 小春 | Koharu | 「えっと…わたしのことかばってくれてありがと。 でもやっぱり、今はわたしのことよりも、 美穂子を気づかって欲しいんだ」 | ||
49 | 亜子 | Ako | 「小春…」 | ||
50 | 小春 | Koharu | 「またみんなで仲良くできるようにするから。 もう少しあのコに優しくしてあげてね。 …それじゃ」 | ||
51 | 早百合 | Sayuri | 「もう…気使いすぎなんだからあいつは」 | ||
52 | 亜子 | Ako | 「将来ハゲるよねぇ」 | ||
53 | ……… | .........
| |||
54 | 『メールの送信時間のこと、了解しました』 | ||||
55 | 『そうだよね。 別に夜中の3時でなくちゃいけないなんて、 そんなルールないもんね』 | ||||
56 | 『ごめん…春希くんの言う通り、 実は2時50分に目覚ましセットしてました』 | ||||
57 | 『だって、返事が遅れるの嫌だったし、 何より春希くんのメール、届いたらすぐに見たかったし』 | ||||
58 | 『しかも結局ずっと起きてたから、 目覚ましかけた意味も全然ありませんでした』 | ||||
59 | 『あはは、笑っちゃうよね。 携帯を初めて手に入れた時のことを思い出すよ』 | ||||
60 | 『わたしは中二の頃だったな。 友達からの初メールが待ち遠しくて、 夜中ずっと起きてたんだけど届かなくって』 | ||||
61 | 『次の日聞いたら、メール送るのすっかり忘れて、 彼氏と夜通し長電話してたんだって。 もう、大喧嘩になっちゃって』 | ||||
62 | 『でも、そのコとはすぐに仲直りできた。 それからはクラスが別々になるまで、 ほとんど毎日メールしてたな』 | ||||
63 | 『あ、もちろん授業中には使わなかったよ? これ言っとかないと、春希くんに怒られちゃう』 | ||||
64 | 『今は…えへ、ごめん。講義中に見たりしてます。 わたしもすっかり悪い大人になっちゃいました』 | ||||
65 | 『それじゃ、あまり長くなっちゃっても悪いし。 って、長い割にはあんまり内容がないけどね』 | ||||
66 | 『おやすみなさい、また明日』 | ||||
67 | 『追伸』 | ||||
68 | 『最後に、一つだけ質問です』 | ||||
69 | 『1日1通って…これはルールなのかな?』 | ||||
70 | 『2通とか、送ったら駄目なのかな…?』 | ||||
71 | 千晶 | Chiaki | 「2通とか、送ったら駄目なのかな~?」 | ||
72 | 春希 | Haruki | 「うわぁっ!?」 | ||
73 | 千晶 | Chiaki | 「なにこの初々しいメール。 春希、もしかしてあんたの彼女って中学生?」 | ||
74 | 春希 | Haruki | 「み、見るなっ! 人のメールを覗くなんてプライバシーの侵害だぞ!」 | ||
75 | 千晶 | Chiaki | 「…その反応も中学生だよ」 | ||
76 | 相変わらず、自分が何をしでかしても悪びれない奴。 | ||||
77 | 世界を動かしはしなくとも、 何があっても世界をすいすい渡っていくのは、 きっとこういう人間なんだろうな… | ||||
78 | 春希 | Haruki | 「で、何の用だ? お前、この講義なんか一度も出たことなかったろ」 | ||
79 | 以前理由を聞いたら『週末の午後だから』と言われて こめかみを押さえた記憶がある。 | ||||
80 | 千晶 | Chiaki | 「これ終わったら春希も今日は上がりだよね? 買い物一緒に行こうと思って」 | ||
81 | 春希 | Haruki | 「買い物?」 | ||
82 | 千晶 | Chiaki | 「うん、クリスマスプレゼント選び手伝ってあげる。 あたしと中学生の彼女とで二人分」 | ||
83 | 春希 | Haruki | 「…最低でも二箇所は突っ込ませて欲しいんだが」 | ||
84 | 千晶 | Chiaki | 「冗談だよ。晩ご飯の材料」 | ||
85 | 春希 | Haruki | 「なんでお前が俺の晩飯の心配を…あ」 | ||
86 | 千晶 | Chiaki | 『また今週のどっかで来るわ。 来週から冬休み入っちゃうから、その前ね』 | ||
87 | 千晶 | Chiaki | 「やっと思い出したみたいだね。 そろそろ今週終わっちゃうよ?」 | ||
88 | 春希 | Haruki | 「そっ、か…」 | ||
89 | 流れてしまった水曜の勉強会。 | ||||
90 | 本当なら、あの日に最後の総点検までやって、 昨日にはめでたく、レポート提出により 無罪放免となる手はずだった。 | ||||
91 | それを、俺の都合で一方的に延期してしまった以上、 和泉の申し出を断る選択肢は俺には存在しない。 | ||||
92 | …もともとの勉強会の成り立ちの理不尽さを 蒸し返したりしないという前提に立てば、だけど。 | ||||
93 | 千晶 | Chiaki | 「なに? その考え込むような仕草? いつもの『口では嫌だと言いつつ表情はゆるゆる』 な春希はどうしちゃったのよ?」 | ||
94 | 春希 | Haruki | 「っ…そうやって日常会話レベルで捏造を繰り返すな」 | ||
95 | 千晶 | Chiaki | 「頭出し引っかかったねぇ」 | ||
96 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
97 | 千晶 | Chiaki | 『春希のこと、やっぱ好きだなって』 | ||
98 | 誰のせいだと思ってんだか。 | ||||
99 | 千晶 | Chiaki | 「今日、いいでしょ? できれば週末にまたこっち出てきたくないんだよねぇ。 ウチ、ここまで電車で一時間以上かかるから」 | ||
100 | 断るわけがないとばかりに、 あっけらかんと和泉が決めつける。 | ||||
101 | その態度を見ると、あの時の『冗談だけどね』だけは、 冗談じゃなかったんだろうかって…ああややこしい! | ||||
102 | 春希 | Haruki | 「あ、でも今日は…」 | ||
103 | 金曜日… | ||||
104 | 千晶 | Chiaki | 「? 何か用事ある? どうしてもってんなら明日でもいいけど。 残念だけど、仕方なく、涙をのんで、超嫌々ながら」 | ||
105 | 春希 | Haruki | 「てめぇ…」 | ||
106 | 和泉の挑発には取り合わず、 俺の今週のスケジュールを組み立ててみる。 | ||||
107 | 毎週金曜日は、開桜社のバイト。 今週土曜日は、杉浦がグッディーズの早番。 日曜も同様。 | ||||
108 | そして月曜は、冬休み前の最後のゼミ。 要するに、レポート提出期限。 | ||||
109 | …今週のどっかって、どこなんだよ。 | ||||
110 | 千晶 | Chiaki | 「ちょっとぉ春希? あんたまさか、今になってあたし捨てるとか…」 | ||
111 | 春希 | Haruki | 「少し待ってろって。今考え中。 あと、そこは『捨てる』じゃなくて『見捨てる』」 | ||
112 | 千晶 | Chiaki | 「相変わらず細かっ」 | ||
113 | 開桜社は… この前、入稿が済んだばかりだから、 休めるといえば休める…はず。 | ||||
114 | グッディーズは… 杉浦は、土日の両方に入るわけだから、 どっちかに顔を出せば一応の義理は立つ。 | ||||
115 | …何故あいつに義理立てする必要があるのか、 和泉の件同様、釈然としないものはあるけど。 | ||||
116 | こうして考えてみると… なんとか、なるか? | ||||
117 | 1.わかった、今日にしよう | Choice | |||
118 | 2.悪いけど、明日にしてくれ | Choice | |||
119 | 春希 | Haruki | 「んじゃ、これ終わったら一緒に帰るか…」 | ||
120 | 千晶 | Chiaki | 「そうこなくっちゃ♪ さ、帰ろ帰ろ。あたしたちの城へ~」 | ||
121 | 春希 | Haruki | 「ちゃんと講義は最後まで受けてけ。 あと誰“たち”の城だって?」 | ||
122 | 後で麻理さんに電話入れとこう。 | ||||
123 | 前回、採用って太鼓判押してたから、 今日はそんなにたくさんの仕事は回ってこないだろ。 多分、メールで十分対応できるはず。 | ||||
124 | 千晶 | Chiaki | 「帰り、買い物してこ~ね。 明日は休みだし、晩ご飯もパァ~っと豪華に…」 | ||
125 | 春希 | Haruki | 「わかった。スーパーでコロッケ買って帰ろう」 | ||
126 | 千晶 | Chiaki | 「…できあい? なんか、だんだん手抜きになってない?」 | ||
127 | 春希 | Haruki | 「安心しろ。この前作ったカレーが具なしで残ってる。 今日は奮発してコロッケカレーだ」 | ||
128 | 千晶 | Chiaki | 「…ものすごく釈然としないのに、 コロッケもカレーも好物なあたしはどうすれば?」 | ||
129 | 春希 | Haruki | 「やっぱ、明日にしてくれないか?」 | ||
130 | 千晶 | Chiaki | 「えぇぇぇぇ~、マジぃ? 講義もゼミもないのに、 いちいち南末次まで出てこいって~?」 | ||
131 | 春希 | Haruki | 「『明日でもいい』って言ったよな?」 | ||
132 | 千晶 | Chiaki | 「『どうしてもってんなら』とも言ったよ? 絶対に外せない用事でもあるわけ? あたしと二人きりで一夜を明かすよりも大事な?」 | ||
133 | 春希 | Haruki | 「バイトがあるんだよ。 …だからさり気なく突っ込みどころ満載な戯言を吐くな」 | ||
134 | 千晶 | Chiaki | 「その突っ込みの鋭さが、 春希の心の健康のバロメーターだからね。 うん、今日もいい黒さだ」 | ||
135 | 春希 | Haruki | 「…人の言動を排泄物みたいに扱うのはやめてくれ」 | ||
136 | しかも普通は黒いと健康的に問題あるだろ。 | ||||
137 | 千晶 | Chiaki | 「で、結局バイト外せないわけ? せっかく今の時間まで春希のこと待ってたのに~」 | ||
138 | 春希 | Haruki | 「ちょっとな…いつも忙しいバイト先で」 | ||
139 | 本当のところは、先週末のピークを過ぎて、 俺がバイトを始めて半年間で、 多分、一番休みやすい日。 | ||||
140 | …まぁ、編集部の他の人たちは、 年末進行とか言う呪文を唱えながら、 ゾンビと化してたけど。 | ||||
141 | いや、まぁ、それはともかく… | ||||
142 | 麻理 | Mari | 『私はな… お前が思っているよりもずっと、 お前のことを心配してるつもりだ』 | ||
143 | 春希 | Haruki | 「…うん、滅茶苦茶忙しいところなんだ。 週末なんかは平気で朝まで働かされるし」 | ||
144 | 千晶 | Chiaki | 「…そんな台詞をやたら嬉しそうに言うね。 春希って、やっぱM?」 | ||
145 | 春希 | Haruki | 「…かもな」 | ||
146 | 三日に一度はこき使われてないと、 逆に健康を損なうかもしれないしな。 | ||||
147 | ……… | .........
| |||
148 | 浜田 | Hamada | 「北原ぁぁぁ~、こいつの集計頼むぅぅぅ~」 | ||
149 | 春希 | Haruki | 「だから俺の作ったマクロ使ってくださいってあれほど」 | ||
150 | 浜田 | Hamada | 「俺には使いこなせないんだよぉアレ…頼むよぉ」 | ||
151 | 春希 | Haruki | 「…わかりました。 元データ、ファイルサーバに置いてください。 いつまでに要ります?」 | ||
152 | 浜田 | Hamada | 「金曜の24時なんだけど…」 | ||
153 | 春希 | Haruki | 「…現在の時刻が24時30分の場合はどうすれば?」 | ||
154 | 鈴木 | Suzuki | 「あ~駄目ぇ! 浜田さん北原君取っちゃだめぇぇぇ! わたしの頼んだ仕事が先ぃぃぃ!」 | ||
155 | 浜田 | Hamada | 「何ぃ? お前上司に向かって生意気だぞ! こっちは本当は昨日がデッドだったんだからな!」 | ||
156 | 鈴木 | Suzuki | 「わたしだって締め切り2日もブッチしてますよぉ!」 | ||
157 | 春希 | Haruki | 「鈴木さんの方、今終わりました。 だから喧嘩はやめてください」 | ||
158 | 木崎 | Kizaki | 「俺のは!? 俺の記事の注釈付けはどうなってる?」 | ||
159 | 松岡 | Matsuoka | 「あ、そっちは俺がやってま~す! あと2時間ほど見てください~」 | ||
160 | 木崎 | Kizaki | 「2時間だとぉ!? おい北原、お前、松岡のヘルプ回ってくれ。 こっちはリアルに印刷所待たせてんだよ」 | ||
161 | 浜田 | Hamada | 「ふざけんな! お前が今やってるのなんか、 5万も出ない増刊だろが! プライオリティが違うんだよプライオリティが!」 | ||
162 | 木崎 | Kizaki | 「『たとえ100部しか刷らない本だからって、 手を抜くのは許さない』って、入社当時の俺に 叱ってくれたのは浜田さんじゃないっすか!」 | ||
163 | 浜田 | Hamada | 「何年前の話だよ!」 | ||
164 | 春希 | Haruki | 「仲良くしましょ~よ~皆さん~」 | ||
165 | そもそもそのエピソードは、 年数を経ても色褪せないくらいいい内容なのに、 今の浜田さんの一言で台無しに… | ||||
166 | ……… | .........
| |||
167 | さっきも言ったけど、現在午前0時30分。 | ||||
168 | 開桜社ビル3F。 開桜グラフ編集部の夜は長い。 | ||||
169 | 年末進行というものは、 かくも人の心を蝕むものなのか… | ||||
170 | 麻理 | Mari | 「ふぅ、たっだいま~! お、みんな頑張ってるね~」 | ||
171 | 春希 | Haruki | 「あ、お疲れさまです、麻理さん」 | ||
172 | 松岡 | Matsuoka | 「お疲れ~っす」 | ||
173 | 浜田 | Hamada | 「………」 | "........."
| |
174 | 木崎 | Kizaki | 「………」 | "........."
| |
175 | 鈴木 | Suzuki | 「………」 | "........."
| |
176 | 春希 | Haruki | 「は、はは…」 | ||
177 | 皆がピリピリしてる時に一人だけテンション高いと、 場の雰囲気がますます悪くなるな… | ||||
178 | 麻理 | Mari | 「こっちは入稿終わった! やった~、奇跡だ! 週末休める~」 | ||
179 | 浜田 | Hamada | 「………」 | "........."
| |
180 | 木崎 | Kizaki | 「………」 | "........."
| |
181 | 鈴木 | Suzuki | 「………」 | "........."
| |
182 | 春希 | Haruki | 「あはは…あはははは…」 | ||
183 | しかも、一人だけミッションコンプリートとなれば… | ||||
184 | 麻理 | Mari | 「あ~も~今回はヤバかったなぁ。 たまんないわよね年末とかお盆とかって。 大型連休なんてこの世からなくなってしまえばいいのに」 | ||
185 | さらに、今リアルタイムでヤバい人たちの前で、 そんな懐かしそうに振り返ってしまった日には。 | ||||
186 | それ以前に言ってることが色々と不穏だし。 | ||||
187 | 麻理 | Mari | 「さて、早く終わったし明日は来なくていいし、 今からどうしようかな?」 | ||
188 | 『なら手伝えよ』というオーラが、 皆の言外に漂ってるけど、 面と向かって麻理さんにそれを言える人はいない。 | ||||
189 | 何しろ、ここにいる誰よりも多くの記事を担当してて、 ついさっきまで誰よりもフル回転してたことは、 誰もが認めるところなんだから。 | ||||
190 | 麻理 | Mari | 「今から飲みに行く人~」 | ||
191 | 浜田 | Hamada | 「………」 | "........."
| |
192 | 木崎 | Kizaki | 「………」 | "........."
| |
193 | 鈴木 | Suzuki | 「………」 | "........."
| |
194 | 春希 | Haruki | 「え、ええと…」 | ||
195 | それほどの大仕事をこなした後だからこそ、 ものすごくほっとしたに違いない。 | ||||
196 | …周りの空気が読めなくなるほどに。 | ||||
197 | 麻理 | Mari | 「…飲みに行く人~」 | ||
198 | 松岡 | Matsuoka | 「あ、俺なら…」 | ||
199 | 木崎 | Kizaki | 「っ!」 | ||
200 | 松岡 | Matsuoka | 「…何でもないです」 | ||
201 | 麻理 | Mari | 「ちょっとなに? みんなノリ悪いなぁ。 いいじゃないたまには」 | ||
202 | 春希 | Haruki | 「あの、麻理さん…」 | ||
203 | 仕方ない、ここは俺が憎まれ役になるしかないか。 | ||||
204 | 何しろ、麻理さんの機嫌を損ねても、 バイトの俺ならそれほど仕事に支障も… | ||||
205 | 春希 | Haruki | 「実はですね、仕事が終わってるの…」 | ||
206 | 鈴木 | Suzuki | 「麻理さんと北原君だけなんですよ」 | ||
207 | 春希 | Haruki | 「ぇえ!?」 | ||
208 | で、勇気を振り絞って立ち上がった俺に、 鈴木さんが援護射撃をしてくれた。 | ||||
209 | …と思ったら、俺の背中に見事命中してた。 | ||||
210 | 麻理 | Mari | 「え、北原だけ…?」 | ||
211 | 鈴木 | Suzuki | 「というわけなんで、 麻理さんお疲れさまでした。 あと北原君も!」 | ||
212 | 春希 | Haruki | 「え? え? でも俺…」 | ||
213 | 鈴木 | Suzuki | 「浜田さんのはわたしがやっとく。手順知ってるし。 その代わり自分の方を手伝ってもらうから」 | ||
214 | 浜田 | Hamada | 「だな。こっちは適材適所でなんとかする。 というわけで北原も適所に収まれ」 | ||
215 | 春希 | Haruki | 「俺のどこが適材だと…」 | ||
216 | 麻理さんと二人きりで酒を飲む人材として? | ||||
217 | 鈴木 | Suzuki | 「いいですよね麻理さん? それで」 | ||
218 | 麻理 | Mari | 「え? あ、ああ………うん」 | ||
219 | 浜田 | Hamada | 「北原もそれでいいよな? 今日はお疲れさん」 | ||
220 | 春希 | Haruki | 「あ、あの…麻理さん?」 | ||
221 | 麻理 | Mari | 「………い、行こうか、北原。 それじゃ、お先に」 | ||
222 | 春希 | Haruki | 「あ…」 | ||
223 | そんなわけで、 皆を救うために憎まれ役になるはずだった俺は… | ||||
224 | いつの間にか方向性を間違えて、 生贄というか、役得というか、 なんだか微妙な立場に追いやられていた。 | ||||
225 | ……… | .........
| |||
226 | 浜田 | Hamada | 「………」 | "........."
| |
227 | 木崎 | Kizaki | 「………」 | "........."
| |
228 | 鈴木 | Suzuki | 「…行った?」 | ||
229 | 浜田 | Hamada | 「ああ、行ったな」 | ||
230 | 鈴木 | Suzuki | 「ね? ね! 麻理さん照れてたでしょ今? 北原君と二人っきりってなっちゃったらさぁ!」 | ||
231 | 木崎 | Kizaki | 「あの人のああいう顔初めて見た…」 | ||
232 | 鈴木 | Suzuki | 「ほら! だからこの間見たって言ったよね? 麻理さんが北原君のこと口説いてたって!」 | ||
233 | 浜田 | Hamada | 「マジかよ、あの風岡と学生バイトって… いきなりハードル高すぎね?」 | ||
234 | 木崎 | Kizaki | 「…どっちの?」 | ||
235 | 浜田 | Hamada | 「……どっちも」 | ||
236 | 松岡 | Matsuoka | 「皆さんこういうことになると急に仲直りしますね」 | ||
237 | ……… | .........
| |||
238 | 『そうなんだ! 春希くんの書いた記事が採用されたんだ。 すごいね、おめでとう!』 | ||||
239 | 『でも、 >>関係者にコネがあったから声かかっただけ なんて付け加えるところが春希くんらしいよね』 | ||||
240 | 『そんなふうに言い訳したってしょうがないよ。 春希くんが掴んだチャンスを、自分の努力で ものにしたことに変わりないんだから』 | ||||
241 | 『それに、春希くんがどんなに否定したって、 わたしは、春希くん凄いねってしか思わないんだから』 | ||||
242 | 『だからわたしには、もっともっと自慢して欲しいな。 ワガママでいて欲しいな』 | ||||
243 | 『あ、話がそれちゃったね。 それで、いつ出るのその雑誌? 誌名と発売日を教えてね。絶対買うから』 | ||||
244 | 『これで出版社の人に認められるといいね。 また次の大きな仕事もらえるといいね』 | ||||
245 | 『春希くんの目標に、また一歩近づいたね。 わたしも、自分の目標をかなえるために頑張らないと』 | ||||
246 | 『…って、まずはその自分の目標ってやつを、 ハッキリ決めないといけないんだけどね』 | ||||
247 | 『それじゃ、またね。 今日は、これを送ったら寝ます』 | ||||
248 | 『それと…』 | ||||
249 | 『昨日は、2通目ありがとう。 おやすみなさい』 | ||||
250 | 麻理 | Mari | 「ごめん、ちょっと電話が長引いちゃって」 | ||
251 | 春希 | Haruki | 「飲み物、何にします?」 | ||
252 | 麻理 | Mari | 「あ~、それじゃ最初の一杯だけはビールで」 | ||
253 | 店に着くなり、麻理さんの携帯が鳴った時には、 二人して『飲む前にお開き』を覚悟したものだった。 | ||||
254 | けれど、ちゃんとアルコールを注文したってことは、 今の電話は浜田さんの絶叫でも、木崎さんの怨嗟でも、 鈴木さんの苦鳴でもなかったようだ。 | ||||
255 | 麻理 | Mari | 「あ、それでね、後で一人合流するから」 | ||
256 | 春希 | Haruki | 「ああ、今の電話ですか?」 | ||
257 | 麻理 | Mari | 「そう、向こうも早く上がったから、 今から朝まで飲むつもりで誘ってきたんだって。 …女として終わってるわよね」 | ||
258 | 春希 | Haruki | 「そ…そうですか」 | ||
259 | 『どっちが?』とは敢えて聞かない。 というか聞けるわけない。 | ||||
260 | 大体『向こうも早く上がった』って、 今は午前1時過ぎ… | ||||
261 | 麻理さんの周りには、 こんなワーカホリックな人間しかいないんだろうか。 | ||||
262 | 麻理 | Mari | 「北原とは初対面だから、 ちょっと悪いかなとも思ったんだけど…」 | ||
263 | 春希 | Haruki | 「構いませんよ。 賑やかな方がいいです」 | ||
264 | 麻理 | Mari | 「そう? よかった… 『大学生の男のコと一緒にいる』って言ったら、 絶対に行くってうるさくて、あいつ」 | ||
265 | 春希 | Haruki | 「………そりゃ、どうも」 | ||
266 | 一体それはどんな期待を胸に秘めての 参加表明だったんだろう? | ||||
267 | とりあえず今のうちから、 ご期待に添えなかったときの謝罪でも考えておくか。 | ||||
268 | 麻理 | Mari | 「でも、うん、よかった… 正直、助かったなって思うところもあるのよね」 | ||
269 | 春希 | Haruki | 「ああ、確かに俺とじゃ間が持たないですからね。 すいません、こういう場盛り上げるの下手で」 | ||
270 | 麻理 | Mari | 「あ~、そういう意味じゃなくてね。 その、もう少し経てば平気になるんだろうけど」 | ||
271 | 春希 | Haruki | 「あ…」 | ||
272 | 麻理 | Mari | 「この間、悪かったわね。 色々とキツいこと言っちゃって」 | ||
273 | そっか… | ||||
274 | ああいうの気に病むんだ、この人。 | ||||
275 | 麻理 | Mari | 「考えてみれば…ううん、最初からわかってたけど、 初仕事もいいところなのよね。 バイトに言う事じゃなかったかもなぁって」 | ||
276 | 春希 | Haruki | 「今さら何言ってるんですか麻理さん。 入って三日目から企画書書かせたくせに」 | ||
277 | 麻理 | Mari | 「あれは北原が出版社に入りたいって言うからだ。 あんなサービスが受けられるなんて他ではないぞ? 研修費をもらいたいくらいだ」 | ||
278 | 春希 | Haruki | 「はい、その通りです。 だから今さらだって」 | ||
279 | 麻理 | Mari | 「…本当にお前は理論武装だけは完璧だな」 | ||
280 | 春希 | Haruki | 「この半年でさらに鍛えられましたからね」 | ||
281 | 開桜社でバイトを始めてから、 自分でも一気に学生っぽくなくなった気がしてる。 | ||||
282 | 今までのファミレスや塾講師と違い、 自分が受け取るメリットの方がはるかに大きくて、 バイト代をもらうのが申し訳ないくらいに… | ||||
283 | いや、それはないけど。 ここまでこき使われるバイト先も生まれて初めてだったし。 | ||||
284 | 麻理 | Mari | 「ま、でも、実は叱ったことよりも、 励ましたことの方が痛恨で…」 | ||
285 | 春希 | Haruki | 「あ~…」 | ||
286 | 麻理 | Mari | 『恋の傷は、恋で癒せよ』 | ||
287 | 麻理 | Mari | 「ええと、できればあっちの方は 忘れてくれたらありがたいかなって…」 | ||
288 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
289 | 確かにあっちの方は… 俺も思い出しただけで、今ちょっと気まずくなった… | ||||
290 | 麻理 | Mari | 「その、偉そうだった上に、 勘違いも甚だしい発言だったかもと、 その後反省しきりで…」 | ||
291 | 春希 | Haruki | 「い、いえ、そんな…」 | ||
292 | まずい、酒の味がしなくなった。 | ||||
293 | きっと、隣もそんな感じなんだろう。 せっかく届いたビールに口もつけてない。 | ||||
294 | いつもなら最初の一杯なんか、 10秒もたたないうちに二杯目待ちに移行するのに。 | ||||
295 | 麻理 | Mari | 「ちょっと色々オーバーラップするところがあって、 なんとなく言わずにはおれなかったというか…」 | ||
296 | 春希 | Haruki | 「そう、ですか」 | ||
297 | オーバーラップって…何と? | ||||
298 | なんて踏み込んだ話、 できるわけないけど、まだ。 | ||||
299 | …まだって何だ。 | ||||
300 | 麻理 | Mari | 「そんなわけで…忘れてくれるとありがたいんだが」 | ||
301 | 春希 | Haruki | 「お断りします」 | ||
302 | 麻理 | Mari | 「北原!?」 | ||
303 | でも。 | ||||
304 | 春希 | Haruki | 「確かに俺も恥ずかしかったですけど…」 | ||
305 | 麻理 | Mari | 「待て! 私は恥ずかしかったなんて言ってないぞ?」 | ||
306 | 春希 | Haruki | 「恥ずかしくないなら忘れなくてもいいでしょう?」 | ||
307 | 麻理 | Mari | 「…恥ずかしくないわけがないだろう。 今だって顔から火が出そうだ」 | ||
308 | 春希 | Haruki | 「でも嬉しかったです。 励みになりました」 | ||
309 | 麻理 | Mari | 「え…」 | ||
310 | あの言葉が、あの時の俺を救ってくれたのは、 紛れもない、嘘偽りのない、混じりっけのない真実で。 | ||||
311 | 春希 | Haruki | 「またこれからも、時々励ましてください。 …普段のお叱りの10分の1くらいでいいですけど」 | ||
312 | 今の俺が、また彼女との対話を始めているのも、 あの時の、このひとの暴走がきっかけの一つに 違いないから。 | ||||
313 | 麻理 | Mari | 「『痛いなこの女』とか思ってない?」 | ||
314 | 春希 | Haruki | 「大人の経験からくる叱咤激励は大歓迎です」 | ||
315 | 麻理 | Mari | 「…そんなに離れてない」 | ||
316 | 何しろ俺の周囲は、理屈ばかりで頭でっかちな、 理不尽や思い込みだらけの叱咤激励ばかりだし。 | ||||
317 | 俺も含めて、だけど。 | ||||
318 | 春希 | Haruki | 「人生経験の差ですよ。 麻理さんの場合、1日24時間きっちり 経験積んでますからね」 | ||
319 | 麻理 | Mari | 「北原も早く開桜社に入れ。 同じ速度で人生経験積ませてやるから」 | ||
320 | 春希 | Haruki | 「…就職先は一生のことですから、 慎重に検討を重ねて熟考の上決めさせていただこうかと」 | ||
321 | 麻理 | Mari | 「本っ当に理論武装だけは… まぁいいや、乾杯しよう?」 | ||
322 | 春希 | Haruki | 「ええ…」 | ||
323 | 春希 | Haruki | 「そういえば、来る前に話してた件ですけど… 本当に一発OKだったんですか? 俺の記事」 | ||
324 | 麻理 | Mari | 「一発OKどころか大絶賛よ。 ま、私もこれは通るなって自信はあったけどね」 | ||
325 | 春希 | Haruki | 「…随分と懐が深いんですね、向こうの編集長」 | ||
326 | 麻理 | Mari | 「編集長もさることながら、 なんと『株式会社冬馬曜子オフィス』のお墨付き。 凄い勢いで絶賛メールが飛んできたらしいわよ」 | ||
327 | 春希 | Haruki | 「ぜ、絶賛?」 | ||
328 | 麻理 | Mari | 「なんでも向こうから届いたメールのタイトルが 『笑い転げ過ぎてお腹痛い』だったんですって」 | ||
329 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
330 | 間違いない…社長本人からだ。 | ||||
331 | ……… | .........
| |||
332 | 麻理 | Mari | 「あはは、それ本当なの? メンバー全員が一人の女の子と関係持ってたって?」 | ||
333 | 春希 | Haruki | 「『俺を除く』全員です。 そこ重要ですから」 | ||
334 | 麻理 | Mari | 「で、結局北原一人に?」 | ||
335 | 春希 | Haruki | 「いや、部長と二人だったんですけど… でも二人ともギターだったんで、どうしようもなくて」 | ||
336 | 麻理 | Mari | 「だから一月前にメンバー探し? なんかどっかの青春バンド映画みたいね」 | ||
337 | 春希 | Haruki | 「そんなカッコいいものじゃないです。 俺ですら、もともと補欠のはずだったし。 その時点でギター始めて半年ですよ?」 | ||
338 | 麻理 | Mari | 「へぇ、それにしちゃサマになってたじゃない?」 | ||
339 | 春希 | Haruki | 「そこから特訓したんですよ。 最後の一週間なんか、ほとんど寝てなかったなぁ」 | ||
340 | 麻理 | Mari | 「…あんたって一夜漬けの天才?」 | ||
341 | 春希 | Haruki | 「違います。俺が天才なんじゃなくて、 コーチが天才だったんですよ」 | ||
342 | 麻理 | Mari | 「…コーチ?」 | ||
343 | 春希 | Haruki | 「ギターもベースもサックスも、何でも上手い、 ものすごく厳しい奴がいまして…」 | ||
344 | 麻理 | Mari | 「………」 | "........."
| |
345 | 春希 | Haruki | 「あ、すいません。 えっと、同じものください」 | ||
346 | 喉を滑り出ていく言葉と、 それとは逆に、喉を灼きながら流れ込む酒が、 お互いを癒してくれて、なんだか気持ちいい。 | ||||
347 | 隣の人とは違って、ペースを守り、 きっちり限度内で飲んでいるけれど、 今日はちょっと回る方だけが早いかも。 | ||||
348 | 麻理 | Mari | 「ね、北原」 | ||
349 | 春希 | Haruki | 「なんです?」 | ||
350 | 俺の初めての原稿が載るから? | ||||
351 | 解けかけた雪が夜に凍結し、 前よりも固く凍りついてしまったけれど、 そこにまた、冬の優しい日射しが降り注いでくれたから? | ||||
352 | それとも… | ||||
353 | 麻理 | Mari | 「それが冬馬かずさ?」 | ||
354 | 春希 | Haruki | 「………はい」 | ||
355 | あいつのことを思い出すことが、 今までよりも、なんだか痛くないから? | ||||
356 | 麻理 | Mari | 「どんなコだったの? 彼女って」 | ||
357 | 春希 | Haruki | 「あ、えっと…」 | ||
358 | 麻理 | Mari | 「…いや、いいや。 ごめん、そんな深い話できないよね、 バイト先の上司なんかに」 | ||
359 | 春希 | Haruki | 「いいですよ、そんなに気を使わなくて。 もう終わったことだって言いましたよね」 | ||
360 | 麻理 | Mari | 「北原…」 | ||
361 | それに… この線引きが、俺の口を、逆に軽くしてくれる。 | ||||
362 | ボーダーという言葉の意味すら知らないどこかの後輩に、 爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。 | ||||
363 | 春希 | Haruki | 「ほんと厳しい奴でした。 厳しさだけなら今の麻理さんに匹敵するくらい」 | ||
364 | 麻理 | Mari | 「そこで私を引き合いに出さなくていいから」 | ||
365 | 春希 | Haruki | 「そういえば、ちょっと似てるかな?」 | ||
366 | 麻理 | Mari | 「…私に常套手段使ってどうする」 | ||
367 | 春希 | Haruki | 「…そうでもないか。 あいつの場合、音楽以外は欠陥品もいいとこだったし」 | ||
368 | 麻理 | Mari | 「私だって仕事以外は欠陥だらけよ」 | ||
369 | なんだろ… | ||||
370 | 春希 | Haruki | 「でかい家に一人暮らしで散らかし放題」 | ||
371 | 麻理 | Mari | 「住んでるところは小さなマンションだけど、 散らかし放題は同じかな。 帰っても寝るだけだから洗濯物が溜まっちゃって…」 | ||
372 | 俺、かずさのこと、他の女の人に話してる。 | ||||
373 | 春希 | Haruki | 「食事はコンビニかファーストフードばかり」 | ||
374 | 麻理 | Mari | 「最近はちょっと贅沢に 超絶バーガー頼むこともあるけど、 あれ、出てくるのに時間かかるのが難点ね」 | ||
375 | 以前は、思い出すことすら苦痛だったのに。 話すことなんか、罰としか感じなかったのに。 | ||||
376 | 春希 | Haruki | 「…やっぱ似てるじゃないですか」 | ||
377 | 麻理 | Mari | 「かもしれないわね?」 | ||
378 | 春希 | Haruki | 「説教しましょうか?」 | ||
379 | 麻理 | Mari | 「説教よりも、 掃除して洗濯して食事作ってくれる方がいいなぁ」 | ||
380 | 春希 | Haruki | 「…最近俺の周り、 そういうこと平気で言う女性が多いんですけど、 これは全国的な傾向なんですかね?」 | ||
381 | 麻理 | Mari | 「へ、へぇ…北原、今女の子の面倒見てるんだ?」 | ||
382 | 春希 | Haruki | 「え…?」 | ||
383 | 麻理 | Mari | 「何よ、あんたも結構やることやってんじゃない。 一緒に住んでるの?」 | ||
384 | 春希 | Haruki | 「い、いや…それは単なるレポートの手伝いで… 住んでるわけでも、そういう関係なわけでも…」 | ||
385 | 麻理 | Mari | 「ねぇねぇ、今度はそっち詳しく教えなさいよ。 レポートってことは同じ大学でしょ? どんなコ?」 | ||
386 | 春希 | Haruki | 「ま、麻理さん…実は酔って…」 | ||
387 | ??? | ??? | 「あ~! いけないんだ~! 年増女が若いコ口説いてる! なんという青田買い!」 | ||
388 | 麻理 | Mari | 「っ!?」 | ||
389 | 春希 | Haruki | 「と、年増…?」 | ||
390 | 麻理 | Mari | 「ちょっとぉ、なんでそこに反応するのよ!?」 | ||
391 | 春希 | Haruki | 「あ…」 | ||
392 | いきなり背後からかけられた声への俺の反応は、 麻理さんにとって満足のいく内容じゃなかったらしい… | ||||
393 | ??? | ??? | 「へ~、君が麻理の奴隷のバイトくん?」 | ||
394 | 春希 | Haruki | 「あ…麻理さんの…」 | ||
395 | 佐和子 | Sawako | 「初めまして、雨宮って言います。 麻理がいつもお世話になってます」 | ||
396 | と、渡された名刺には、 大手旅行代理店の社名と、ちょっと偉そうな役職と、 『雨宮佐和子』という名が印字されていた。 | ||||
397 | 春希 | Haruki | 「あ、いいえ、こちらこそ初めまして。 北原春希って…」 | ||
398 | 麻理 | Mari | 「世話してるのはこっちだ」 | ||
399 | 春希 | Haruki | 「…すいません」 | ||
400 | だからなのか何なのか、 せっかくの親友の到着にも、 麻理さんはふてくされたように振り返りもしなかった。 | ||||
401 | …自分で呼んだんじゃなかったっけ? | ||||
402 | ……… | .........
| |||
403 | 春希 | Haruki | 「へぇ、高校時代から?」 | ||
404 | 佐和子 | Sawako | 「うん、十年来の親友。 昔から暴風雨コンビなんて呼ばれちゃってね」 | ||
405 | 春希 | Haruki | 「は、はは…」 | ||
406 | 風岡と雨宮という姓だけじゃ、 『暴』はつかないよなぁ… | ||||
407 | 麻理 | Mari | 「デタラメ言うな。 知り合って十年も経ってない」 | ||
408 | しかも麻理さんは、 さっきから微妙に突っ込みどころがずれている。 | ||||
409 | 佐和子 | Sawako | 「そうやって歳食ってることを隠そうとするから、 どんどん深みにハマるのよ?」 | ||
410 | 麻理 | Mari | 「事実を言って何が悪い?」 | ||
411 | 佐和子 | Sawako | 「そういえば峰城なんだって? しかも純粋培養の」 | ||
412 | 春希 | Haruki | 「いえ、本物の純粋培養は幼稚園からで。 俺は付属からですから大したことは…」 | ||
413 | 麻理 | Mari | 「だいたい深みにハマるってどういうことだ? 私は今まで一度たりとも歳を偽ったことなんかないぞ」 | ||
414 | さらに麻理さんは、 さっきから微妙に会話に参加してない。 | ||||
415 | 佐和子 | Sawako | 「ね、もしかしてお坊ちゃん? 実家が大金持ちとか?」 | ||
416 | 春希 | Haruki | 「お坊ちゃんだったらバイトなんかしてませんよ。 それに親はごく普通です」 | ||
417 | 実家はどうだか知らないけど、どうせ無関係だし。 | ||||
418 | 佐和子 | Sawako | 「うん、やっぱ若い子はいいなぁ。ウチの職場なんか、 男はみんな30オーバーばっかりでさ」 | ||
419 | 春希 | Haruki | 「は、はぁ…」 | ||
420 | テンポの速い人だな… 10秒ごとに話題転換してるぞ。 | ||||
421 | 麻理 | Mari | 「その代わり考え方が歳食ってるわよ」 | ||
422 | 佐和子 | Sawako | 「見た目良ければ全て良しじゃない」 | ||
423 | 麻理 | Mari | 「見た目だって大したことない」 | ||
424 | 春希 | Haruki | 「すいません…」 | ||
425 | 佐和子 | Sawako | 「またまた~、麻理ってば理想高いフリしちゃって~。 お互い完全に合格圏内じゃない」 | ||
426 | 春希 | Haruki | 「え…」 | ||
427 | 合格圏って…何の? いや、なんとなく想像できるけど、それで正しいのか…? | ||||
428 | 麻理 | Mari | 「自分の趣味を人に押しつけるな」 | ||
429 | 佐和子 | Sawako | 「あんたの趣味なんて、手に取るようにわかるわよ。 伊達に十年も付き合ってきてないって」 | ||
430 | 麻理 | Mari | 「あまり恥ずかしいことを大声で言うな! …まだ九年だ」 | ||
431 | 春希 | Haruki | 「ええと、知り合ったの高二でしたっけ? それから九年ってことは…」 | ||
432 | 麻理 | Mari | 「なに計算してるんだ北原!」 | ||
433 | 春希 | Haruki | 「す、すいません」 | ||
434 | だって、一度たりとも歳を偽ったことがなくても、 一度たりとも歳を教えてくれたことも… | ||||
435 | 麻理 | Mari | 「はぁ、呼ぶんじゃなかった… 佐和子、もう帰れ」 | ||
436 | 佐和子 | Sawako | 「何よ、麻理がどうしても来てくれって泣きそうな声で 頼むから、帰って泥のように眠るのを我慢して、 やっとのことで駆けつけたって言うのに」 | ||
437 | 麻理 | Mari | 「佐和子が来る前に状況が変わったんだ。 今はただ邪魔なだけ」 | ||
438 | 春希 | Haruki | 「麻理さん…それはあまりにも」 | ||
439 | 麻理 | Mari | 「何言ってるんだ北原? こいつは今嘘をついたんだぞ? 私が泣きそうな声なんか出すわけないだろ!」 | ||
440 | 春希 | Haruki | 「どっちでもいいですからそんなこと。 とりあえず落ち着いてください」 | ||
441 | 佐和子 | Sawako | 「ほら北原君だってわたしの味方だし。 帰るのはあんたの方なんじゃないの麻理?」 | ||
442 | 麻理 | Mari | 「どういうことだ北原… お前、私が今までどれだけ手をかけてやったと…」 | ||
443 | 春希 | Haruki | 「そういう問題じゃないことに 早く気づいてください…」 | ||
444 | ……… | .........
| |||
445 | 佐和子 | Sawako | 「よおっし! また振り出し~」 | ||
446 | 麻理 | Mari | 「…いい加減しつこいわね。 さっさと負けを認めればいいのに」 | ||
447 | 春希 | Haruki | 「は、はは…」 | ||
448 | どうしてこんなことになってしまったんだろう… | ||||
449 | 佐和子 | Sawako | 「はい、これで3対3。 決着は持ち越しね」 | ||
450 | 麻理 | Mari | 「…今度こそ決めてあげる」 | ||
451 | バーで言い争いになった二人は、 『いつもので決着』と言い出すと、 いきなり近くのアミューズメントビルに場所を変えた。 | ||||
452 | その時、勝負とはダーツかビリヤードあたりだろうと 考えた俺は、その判断が相当に浅はかだったと、 すぐに思い知らされることになった。 | ||||
453 | 佐和子 | Sawako | 「ふぅっ。 あ~、冬なのに汗出てきちゃった」 | ||
454 | 春希 | Haruki | 「お疲れさまです。 コーラ飲みます?」 | ||
455 | 佐和子 | Sawako | 「あ~、ありがと。 気が利くなぁ春希君は~」 | ||
456 | 麻理 | Mari | 「そんな奴の肩を持つなと何度言ったらわかるんだ… 北原、お前来週から覚えておけよ」 | ||
457 | 春希 | Haruki | 「さっき麻理さんに同じことしたじゃないですか俺」 | ||
458 | 佐和子 | Sawako | 「なんて両天秤… これは間違いなく修羅場の予感」 | ||
459 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
460 | 佐和子 | Sawako | 「あ…本気でヘコんだ? なんかごめんね?」 | ||
461 | ……… | .........
| |||
462 | 二人が当然のように押したエレベーターのボタンは、 バッティングセンターのある最上階。 | ||||
463 | そこで当然のように千円札を5枚のコインに替え、 何本もバットの重さを量っては慎重に選び… | ||||
464 | 現在のところ、ホームラン数は3対3のタイスコア。 …普通、狙ってもなかなか当たらないんだけど。 | ||||
465 | 麻理 | Mari | 「あ~、惜しい! あと1メートル!」 | ||
466 | 佐和子 | Sawako | 「左右にブレてきたわね。 そろそろ限界じゃない?」 | ||
467 | この二人、明らかに手慣れていた。 | ||||
468 | 佐和子 | Sawako | 「あ~、美味しい。 真冬に一汗かいて飲むコーラは別格! これで外出たら思いっきり凍えるのよね~」 | ||
469 | 春希 | Haruki | 「う…」 | ||
470 | そのときの骨身に染み具合がリアルに想像できて、 俺は思わず体をぶるっと震わせた。 | ||||
471 | そんな俺の目の前では、スーツ姿の凛々しい麻理さんが、 ヒールの軸足を綺麗に回転させて、 何度も鋭い打球をセンター返ししている。 | ||||
472 | 何故ならそこにホームランの的があるから。 | ||||
473 | 春希 | Haruki | 「にしても、あれだけ飲んでおいて、 よくもここまで激しい運動できますね」 | ||
474 | 佐和子 | Sawako | 「二人とも運動神経抜群だったのよ。 ソフト部の助っ人とかにもよく駆り出されたんだから」 | ||
475 | 春希 | Haruki | 「へぇ…」 | ||
476 | 佐和子 | Sawako | 「ただ、わたしたちが同じチームに入ると、 なぜかチームワークが乱れたから、 あまり結果はよくなかったんだけどね」 | ||
477 | 春希 | Haruki | 「今みたいに張り合うからじゃないですか? 大した意味もなく」 | ||
478 | 佐和子 | Sawako | 「いっつもほんの少し先を行かれたのよねぇ。 テストの順位も、合格した大学の数も、 あと、告白された回数も」 | ||
479 | 春希 | Haruki | 「…それ俺に喋ったこと知られたら、 また後で怒られません?」 | ||
480 | 高校時代の麻理さん…か。 | ||||
481 | さぞかし活発で凛々しくて容赦なくて、 男子たちに恐れと憧れを抱かれてたんだろうな。 | ||||
482 | …なんだ、それって今と同じか。 | ||||
483 | 佐和子 | Sawako | 「少しくらい恨み晴らさせてもらってもいいじゃない。 今度は彼氏の年齢でも先を行かれたんだから…」 | ||
484 | 春希 | Haruki | 「え、そうな………ん?」 | ||
485 | 佐和子 | Sawako | 「麻理のこと、よろしくね」 | ||
486 | やっぱそれか…さっきの違和感は。 | ||||
487 | 佐和子 | Sawako | 「あいつ、いい奴なのよ。むかつくけど。 可愛い女なのよ。やってられないけど。 だから、捨てないでやってね?」 | ||
488 | 春希 | Haruki | 「いや、あのですね。 なんだか激しい誤解があるみたいなので、 麻理さんの名誉のためにも言っておきますが…」 | ||
489 | 佐和子 | Sawako | 「え…?」 | ||
490 | 春希 | Haruki | 「俺、別に麻理さんとつきあってる訳じゃ…」 | ||
491 | 佐和子 | Sawako | 「ないの?」 | ||
492 | 春希 | Haruki | 「ないのも何も、 どこからそういう話が出てきたんです?」 | ||
493 | 佐和子 | Sawako | 「まるで脈なし? 春希君、麻理のこと、彼女とか全然思ってない?」 | ||
494 | 春希 | Haruki | 「いや、だから俺がどうとかいう以前に…」 | ||
495 | 佐和子 | Sawako | 「あははははっ、なに? | ||
496 | 佐和子 | Sawako | あいつの空回り? 独り相撲? イタい勘違い? | ||
497 | 佐和子 | Sawako | みじめだ麻理…いい気味ぃ…ふはははは…っ」 | ||
498 | 春希 | Haruki | 「違いますって! 最後まで話を聞いてください」 | ||
499 | 本当に親友なのかこの人たちは…? | ||||
500 | ……… | .........
| |||
501 | 佐和子 | Sawako | 「…ふぅん」 | ||
502 | 春希 | Haruki | 「だから、雨宮さんが誤解してるのとは全然逆なんです。 釣り合わないのは俺の方です」 | ||
503 | 佐和子 | Sawako | 「………」 | "........."
| |
504 | 春希 | Haruki | 「麻理さんが俺に興味なんか持つわけないです。 親友だからそれくらいわかるでしょう?」 | ||
505 | 佐和子 | Sawako | 「…わかんないけどなぁ」 | ||
506 | 雨宮さんは、あからさまに面白くなさそうな表情で、 俺の話す事実を受け入れがたそうに聞いている。 | ||||
507 | 春希 | Haruki | 「だいたい、俺みたいなのと一緒にいたら、 麻理さんの価値が下がります。 彼女が職場でどれだけ尊敬されてるか知ってますか?」 | ||
508 | 佐和子 | Sawako | 「価値なんて麻理が決めることだし、 仕事上の立場と恋愛上の立場なんて何の関係もないし、 そもそも客観的に見て不釣り合いだと思わないけど?」 | ||
509 | それどころか、まるっきり受け入れる気はないらしい。 | ||||
510 | 春希 | Haruki | 「ただの大学生ですよ?」 | ||
511 | 佐和子 | Sawako | 「同年代からしてみたら、 『上手いことやりやがったなこの野郎』よ。 ま、野郎じゃないけど」 | ||
512 | 春希 | Haruki | 「麻理さんは、若さだけで相手を選ぶような、 思慮の浅いひとだとは思いません」 | ||
513 | 佐和子 | Sawako | 「もちろんその通りよ。 その上で麻理はあなたを選ぶと思うんだけどなぁ」 | ||
514 | 春希 | Haruki | 「だったら…え?」 | ||
515 | 佐和子 | Sawako | 「麻理が大学生のバイトを認めるなんて… 盲目的に惚れたか、あいつに釣り合う男かどっちかよ」 | ||
516 | 春希 | Haruki | 「………え?」 | ||
517 | 佐和子 | Sawako | 「あいつの仕事っぷり、知ってるんでしょ? あいつの人を見る目の厳しさ、知ってるんでしょ?」 | ||
518 | 春希 | Haruki | 「それは、あの………はい」 | ||
519 | 佐和子 | Sawako | 「だから、麻理があなたを認める以上、 あなたの言葉は信用できないな…」 | ||
520 | そして繰り出された雨宮さんの反証は、 それはもう、力業もいいところだったけど。 | ||||
521 | なんというか、無理やり口をつぐまされるような、 問答無用のパワーを秘めていた… | ||||
522 | 言っていることは全然納得できなかったけど。 | ||||
523 | 佐和子 | Sawako | 「それに、顔とか性格とか立場とか年齢とか、 そんなわかりきった理屈じゃないんだって男と女なんて。 …そういう経験、ない?」 | ||
524 | 春希 | Haruki | 「っ…」 | ||
525 | それでも、最後のその一言だけは、 俺の反論しようとする気力を、 根こそぎ折ってしまうのに十分な説得力があった。 | ||||
526 | だって… | ||||
527 | 俺の周りには、昔から趣味の悪いひとたちがいた。 | ||||
528 | ……… | .........
| |||
529 | 麻理 | Mari | 「あ~、久々に運動した~。 | ||
530 | 麻理 | Mari | …ちょっと気分悪い」 | ||
531 | 春希 | Haruki | 「当たり前です。 あれで悪酔いしてないのが奇跡ですよ」 | ||
532 | 結局、ホームラン競争は、 6対5で、麻理さんが『ほんの少し先を行』った。 | ||||
533 | で、結局勝負がついたことに満足した二人は、 お互いが何をいがみ合っていたかを忘れたように、 あっさりと『じゃあね』で別れてしまった。 | ||||
534 | …やっぱり親友同士ということか。 | ||||
535 | 麻理 | Mari | 「なんか悪かったわね。 女同士の醜い争いを見せちゃって」 | ||
536 | 春希 | Haruki | 「気にしてませんから。 …驚きはしましたけど。相当」 | ||
537 | 麻理 | Mari | 「ごめんね、あいつ子供みたいで。 いきなりびっくりしたでしょ?」 | ||
538 | 春希 | Haruki | 「俺が驚いたのは、 初対面の女性の子供っぽさじゃなくて、 初対面じゃない女性の大人げなさです」 | ||
539 | 麻理 | Mari | 「………あ~」 | ||
540 | やっぱり心当たりがあるらしく、 麻理さんは、指でぽりぽりと頭を掻いた。 | ||||
541 | 俺が麻理さんに対して、 説教がましい態度になってしまうなんて、 これが酒の恐ろしさって奴なのか…? | ||||
542 | 足取りとか見てると、 ちっとも酔ってるようには見えないけどな。 | ||||
543 | 麻理 | Mari | 「最初は、北原と二人きりなんて、 気まずいかなと思って佐和子呼んだんだけど」 | ||
544 | 春希 | Haruki | 「そんなこと言ってましたね」 | ||
545 | 麻理 | Mari | 「そしたら予想以上に北原と話が弾んじゃって… これが結構楽しかったのよ、本当」 | ||
546 | 春希 | Haruki | 「ど、どうも…」 | ||
547 | …やっぱり軽く酔ってるんだろうな。 | ||||
548 | 麻理 | Mari | 「そんな時、空気読まずにいきなり割り込んできたから、 なんだか佐和子のこと、邪魔に思えてきちゃって…」 | ||
549 | これでまた素面の時に顔を合わせたら、 今度は今日のことを思い出して、 気まずい思いを抱えてそうだ。 | ||||
550 | 春希 | Haruki | 「…そういう態度取るから、 佐和子さんに誤解されるんですよ?」 | ||
551 | 麻理 | Mari | 「…佐和子さん?」 | ||
552 | 春希 | Haruki | 「雨宮さん!」 | ||
553 | 麻理 | Mari | 「………」 | "........."
| |
554 | いかん… | ||||
555 | 別れ際、無理やりさせられた 『わたしも麻理みたいに名前で呼びなさい』 という約束、律儀に守ってしまった… | ||||
556 | 麻理 | Mari | 「北原ってああいう女が趣味だったのか? やめといた方がいいぞ? いくつ上だと思ってる?」 | ||
557 | 春希 | Haruki | 「麻理さんと同い年ですよね?」 | ||
558 | 麻理 | Mari | 「で、何を誤解されるって?」 | ||
559 | 春希 | Haruki | 「雨宮さん、とんでもない勘違いしてましたよ? 後でちゃんと訂正しておいた方がいいと思います」 | ||
560 | 話を逸らしてくるとは思ってたけど、 一字一句想像した通りの逸らし方をしてくるとは さすがに思わなかった。 | ||||
561 | 麻理 | Mari | 「だから、何が誤解で勘違いだと…」 | ||
562 | 春希 | Haruki | 「彼女、俺が麻理さんの彼氏だと思ってました」 | ||
563 | 麻理 | Mari | 「思わせておけば?」 | ||
564 | …やっぱり酷く酔ってるんだろうな。 | ||||
565 | 春希 | Haruki | 「親友を騙したままでいいんですか?」 | ||
566 | 麻理 | Mari | 「じゃあ、騙さないように、 事実の方を合わせちゃえばいいんじゃない?」 | ||
567 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
568 | これでまた素面の時に顔を合わせたら、 いきなり真っ赤な顔して解雇を宣告したり… しないよな? | ||||
569 | 麻理 | Mari | 「嘘よ。佐和子だってちゃんとわかってるって。 そんなことあるわけないって…」 | ||
570 | 春希 | Haruki | 「だと良いんですけど」 | ||
571 | 麻理 | Mari | 「あいつ、北原のことからかってたのよ。 たまに若い男と飲めたから、 思わず舞い上がっちゃったんでしょ?」 | ||
572 | 春希 | Haruki | 「だと良…くはないですけど」 | ||
573 | 結局、親友同士の認識の溝は埋まらずか。 | ||||
574 | 今の麻理さんの言葉をそのまま佐和子さんに伝えたら、 彼女はきっと『舞い上がってたのは麻理の方』と言い、 そしてまた低レベルの争いに発展するだろう。 | ||||
575 | 麻理 | Mari | 「さてと、それじゃここで解散しましょうか」 | ||
576 | 春希 | Haruki | 「始発まであと30分くらいありますけど?」 | ||
577 | 麻理 | Mari | 「私はタクシー拾って編集部に戻るわ」 | ||
578 | 春希 | Haruki | 「今から、ですか?」 | ||
579 | 麻理 | Mari | 「さっき鈴木にメール入れたら、 元気な泣き言が返ってきたからね」 | ||
580 | 春希 | Haruki | 「は、はは…」 | ||
581 | ならもう、この話はここまでにした方がいい。 | ||||
582 | 俺は何も聞かなかったことにして、 また来週も、いつも通り顔を合わせればいい。 | ||||
583 | 麻理 | Mari | 「ね、北原…」 | ||
584 | 春希 | Haruki | 「はい?」 | ||
585 | 麻理 | Mari | 「私の打ち上げにつきあってくれてありがとう。 今度は私があいつらを打ち上げてやらないとね」 | ||
586 | 春希 | Haruki | 「麻理さん…」 | ||
587 | 麻理 | Mari | 「気をつけて帰るのよ? じゃあね」 | ||
588 | だって、当たり前だろ。 | ||||
589 | なに佐和子さんの罠に引っかかってんだ。 麻理さんの言う通り、俺はからかわれてたんだ。 | ||||
590 | きっと佐和子さん、たまに若い男と飲めたから、 思わず舞い上がって… | ||||
591 | ……… | .........
| |||
592 | それはそれで、いくらなんでも失礼だよなぁ。 |
Script Chart
Edit this section For more instructions on how the script chart works, please click here.
If you are below the age of consent in your respective country, you are advised to not read any adult content (marked by cells with red backgrounds) where applicable. Otherwise, you are agreeing to the terms of our Disclaimer.
Introductory Chapter | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1001 | 1008 | 1009 | 1010 | 1011 | 1012 | 1013 |
1002 | 1008_020 | 1009_020 | 1010_020 | 1011_020 | 1012_020 | |
1003 | 1008_030 | 1009_030 | 1010_030 | 1011_030 | 1012_030 | |
1004 | 1008_040 | 1010_040 | 1012_030_2 | |||
1005 | 1008_050 | 1010_050 | ||||
1006 | 1010_060 | |||||
1006_2 | 1010_070 | |||||
1007 |
Closing Chapter | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | ||||||
2001 | 2011 | 2020 | 2027 | 2301 | 2309 | 2316 | 2401 | 2408 | 2501 | 2510 |
2002 | 2012 | 2021 | 2028 | 2302 | 2310 | 2317 | 2402 | 2409 | 2502 | 2511 |
2003 | 2013 | 2022 | 2029 | 2303 | 2311 | 2318 | 2403 | 2410 | 2503 | 2512 |
2004 | 2014 | 2023 | 2030 | 2304 | 2312 | 2319 | 2404 | 2411 | 2504 | 2513 |
2005 | 2015 | 2024 | 2031 | 2305 | 2313 | 2320 | 2405 | 2412 | 2505 | 2514 |
2006 | 2016 | 2025 | 2032 | 2306 | 2314 | 2321 | 2406 | 2413 | 2506 | 2515 |
2007 | 2017 | 2026 | 2033 | 2307 | 2315 | 2322 | 2407 | 2507 | 2516 | |
2008 | 2018 | 2308 | 2508 | 2517 | ||||||
2009 | 2019 | 2509 | ||||||||
2010 | ||||||||||
Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | |||||||
2031_2 | 2312_2 | 2401_2 | 2504_2 | 2511_2 | ||||||
2031_3 | 2313_2 | 2402_2 | 2507_2 | 2513_2 | ||||||
2031_4 | 2313_3 | 2402_3 |
Coda | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Kazusa (True) | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | ||||||
3001 | 3008 | 3014_2 | 3020 | 3101 | 3107 | 3201 | 3207 | 3901 | 3907 |
3002 | 3009 | 3014_3 | 3021 | 3102 | 3108 | 3202 | 3208 | 3902 | 3908 |
3003 | 3010 | 3015 | 3022 | 3103 | 3109 | 3203 | 3209 | 3903 | 3909 |
3004 | 3011 | 3016 | 3023 | 3104 | 3110 | 3204 | 3210 | 3904 | |
3005 | 3012 | 3017 | 3024 | 3105 | 3111 | 3205 | 3211 | 3905 | |
3006 | 3013 | 3018 | 3106 | 3206 | 3906 | ||||
3007 | 3014 | 3019 | |||||||
Common | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | |||||||
3001_2 | 3210_2 | 3901_2 | 3906_2 | ||||||
3015_2 | 3902_2 | 3907_2 | |||||||
3902_3 | 3907_3 | ||||||||
3904_2 |
Mini After Story and Extra Episode | |||
---|---|---|---|
The Path Back to Happiness | The Path Forward to Happiness | Dear Mortal Enemy | |
6001 | 6101 | 4000 | 4005 |
6002 | 6102 | 4001 | 4006 |
6003 | 6103 | 4002 | 4007 |
6004 | 6104 | 4003 | 4008 |
6005 | 4004 | 4009 |
Novels | |||||
---|---|---|---|---|---|
The Snow Melts, And Until The Snow Falls | The Idol Who Forgot How to Sing | Twinkle Snow ~Reverie~ | After the Festival ~Setsuna's Thirty Minutes~ | His God, Her Savior | |
5000 | 5100 | 5200 | 5205 | 5300 | 5400 |
5001 | 5101 | 5201 | 5206 | 5301 | 5401 |
5002 | 5102 | 5202 | 5207 | 5302 | |
5003 | 5103 | 5203 | 5208 | 5303 | |
5004 | 5104 | 5204 | 5209 |
Short Stories | |||
---|---|---|---|
Princess Setsuna's Distress and Her Minister's Sinister Plan | Koharu Climate After the Passing of the Typhoon | This isn't the Season for White Album | Todokanai Koi, Todoita |
7000 | 7100 | 7200 | 7300 |