White Album 2/Script/3901

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1	かずさ	Kazusa	「春希…」
2	春希	Haruki	「………」	"........."
3			かずさの自由になった両手が、 ゆっくりと俺の頬を包み込む。
4			額だけでなく、息だけでなく、 その手のひらも、灼けるくらいに熱い。
5	かずさ	Kazusa	「いいん、だな…？」
6	春希	Haruki	「かずさ…」
7			顔を近づけて、唇を近づけて、 まぶたを、ゆっくりと閉じていき…
8	かずさ	Kazusa	「本当に、本当に… あたし、春希を奪っても…」
9			俺たちが触れる５センチ手前で減速し、 閉じかけの瞳が不安に揺れる。
10	かずさ	Kazusa	「っ…」
11			そしてそのまま数秒… かずさは、俺の目の前で瞳と唇を震わせて、 何度も何度も逡巡を繰り返し…
12	かずさ	Kazusa	「………ん」
13			とうとう、俺に触れた。
14			けれど…
15	かずさ	Kazusa	「ん…れろ…ちゅ…ん…」
16			それは、キスと言うには、 あまりにも拙く、中途半端な行為だった。
17	かずさ	Kazusa	「ごめ、んな、春希…ごめんな…」
18	春希	Haruki	「かずさ…」
19			正面から唇を押しつけたりせずに、 俺の口の端に、舌の先っぽだけをあてがった。
20			…かずさに殴られて、 血が滲んでいた、唇の左端に。
21	かずさ	Kazusa	「ん、ちゅ…は、あ、ぁ…」
22	春希	Haruki	「っ…」
23	かずさ	Kazusa	「あっ………し、浸みた、か？」
24	春希	Haruki	「いや…別に」
25	かずさ	Kazusa	「あたし、あたしさ… こんなこと…本当は、するつもりじゃ…」
26			今さら、そんな言い訳じみた泣きそうな言葉を発しつつ、 もの凄くおっかなびっくり、舌を這わせる。
27			けれどそれは、俺を奪うとか、抱かせるとか、 さっきまでの威勢のいい宣言とは対極の行為。
28	かずさ	Kazusa	「痛かった、だろ？」
29	春希	Haruki	「だから、別に…」
30	かずさ	Kazusa	「だって、こんなに腫れてる。血が滲んでる。 それに…熱い、よ…ん、んぷ…は、ぁぁ、ぁぁぁ…」
31			かずさが口づけているのは、俺の唇じゃなくて、傷口。 かずさが吸っているのは、俺の唾液じゃなくて、血。
32			俺を押し倒し、 キスをねだり、身体だけの関係を求め…
33			そんな過激なことを言ったり、仕掛けたりする、 見た目や立場や態度がエキセントリックな奴だけど…
34	かずさ	Kazusa	「ごめんな、ごめんなぁ…？ 痛い思いさせて。 でも、お前だって…お前だってさぁ」
35	春希	Haruki	「ああ…ごめんな」
36			でも、俺は知ってる。
37			こいつは結局、最後の最後で躊躇してしまうビビリだって。 微笑ましいくらいの小心者だって。
38			泣きたくなるくらい、知ってるんだ。
39	かずさ	Kazusa	「ん…んぅ…は、はぁ、はぁ、はぁぁ… あ、あ…え、えと…えっと…ん、ちゅ…」
40			唇の左端が終わったらまた数秒逡巡して、 今度は、血の滲んでない右端に舌を触れさせる。
41			どうしても自分から唇を重ねることができないのは、 きっと、俺に拒絶されるのが怖いから。
42			奪うとか無理やりとか言っておきながら、 俺が目を逸らすだけで何もできなくなってしまう、 いつも虚勢ばかり張ってる、張り子の虎。
43	かずさ	Kazusa	「ん、ちゅぷ…はっ、はっ…はぁぁ………ぁ？」
44			その態度が、無意識に俺を煽ってしまう。
45			自分から奪うことができない態度が、 俺に奪わせようと誘いを掛けてしまう。
46	春希	Haruki	「かずさ…」
47	かずさ	Kazusa	「ぁ、ぁ…」
48			かずさの手を自由にしたことで、 こちらも自由になっていた俺の右手が、 いつの間にか、かずさの頬に触れていた。
49			けれどそれはブラフで… かずさがその右手に気を取られている間に、 彼女の頭を、いつの間にか俺の左手が押さえ…
50	かずさ	Kazusa	「ぁ、ぁ、ぁ………っ！」
51	春希	Haruki	「ん…っ」
52			それは、俺にとってはあまりに自然な…
53			けれど、俺の周りの世界にとっては、 ありえないくらいに歪な、キスだった…
54	かずさ	Kazusa	「んんんんん～っ、ん…あ、あむっ… ん、んく…ん、ん～っ！」
55			唇が重なった瞬間、 かずさは、五年分の感嘆の叫びを、 けれど外に出すことなく俺の口の中に放ち。
56			瞳に溜まっていた涙が、 また、堰を切ったように俺の瞳に染みてくる。
57	かずさ	Kazusa	「はぁっ、あ、あむ…む、むぅぅ…んっ、 ちゅぷ…あ、あぁぁ…ぷはっ、あ、はぁ、はぁ…っ」
58	春希	Haruki	「かずさ…あ…ぁぁ…」
59	かずさ	Kazusa	「はは…ははは…あ、あは………っ、 ぅ、ぅぇぇ…ぅ、ぃぅっ…あ、く…っ」
60			ずっと求めてたのはかずさの方なのに、 ずっとキスしようとしてたのはかずさの方なのに。
61			今のこいつは、まるで無理やり奪われたかのように、 呆然と俺を見つめ、次から次へと涙をこぼす。
62	春希	Haruki	「お、俺…その、俺…」
63			俺に、罪悪感を抱かせる。
64	かずさ	Kazusa	「いぅっ…う、うう………は、春希。 はぁっ、はぁっ、あ、あ…ひぐっ…ぅ…っ」
65			歯を食いしばり、泣き声を隠さず…
66	かずさ	Kazusa	「春希、春希… あ、あ、あ…ぁぁぁぁぁっ、 はるっ…う、あぁ…ぁ～っ」
67			そして、極まった感情さえも隠さず…
68	春希	Haruki	「………おいで」
69	かずさ	Kazusa	「春希ぃぃぃ～っ！ んっ、んむ…んんんっ、ん～っ！」
70			ぽん、と頭を軽く叩いてやると、 まるで子犬のように、俺の唇に舌でじゃれつく。
71	かずさ	Kazusa	「んっ、んっ、ん～っ！ はぁ、あ、あむ…ん、ちゅぷ…あ、あぁ、ぁ…」
72			たがが外れたように、俺の唇を舌で舐め回し、 その後、唇で自分の舌を被せるように包み込み、 そのまま、俺の唇に押しつける。
73			必死に、ひたむきに… けれど拙く、ただ必死なだけの、 色気も何もない、下手くそなキス。
74			俺が、いつもしているキスとは… 何もかも、違う…
75	春希	Haruki	「～～～っ！ ん、んむ…は、あむ…ちゅ、ぷ…」
76	かずさ	Kazusa	「んんんんっ！？ んっ、んっ、ん～っ！ んむぅぅぅっ…あ、あむ…んぷっ！？」
77			浮かび上がってこようとする、とある記憶を消すために、 重なった唇を通して、かずさの口中に舌を流し込む。
78			予想通り…というか願望通り、 かずさは虚をつかれ、目を見開くと身体を硬直させる。
79	かずさ	Kazusa	「ふむぅっ？　ん、んぅ… ん、んぅぅぅぅっ、ん～っ！」
80			灼けつくような体温を持つかずさの口中…
81			その熱さと、その滑らかさと、その柔らかさが、 ゆっくりと、俺の心を落ち着けていく。
82			そして…
83	かずさ	Kazusa	「ん………んぅ、ぇろ… は、あむ…ちゅぷ…ん、んく…はぁぁ、あむ…」
84			口の中と同じ快感を与えてくれるかずさの舌が、 やっと、俺の口の中に入り込んで、動き出す。
85	かずさ	Kazusa	「んむ…むぅぅ…春希…は、あぁ…んく… ぇろ、ん、んぷぁぁ…は、あ、あぁぁ…んっ」
86			そのまま俺の喉の奥深く、 脳まで伸びて、記憶を掻き取ってくれたら…
87	春希	Haruki	「あ、はぁ…あむ… か、かずさ…は、あ、んむ…ちゅぷ…」
88			なんて、益体もない思いで罪悪感を覆い隠し、 俺の方からも、舌を押し込んで、 唾液を流し込み、そして音を立てて飲み込む。
89	かずさ	Kazusa	「んむっ、んぅぅ…はぁ、あ、あ…あああっ、 ん～っ、んぷ…は、あ、あ…あぁぁぁんっ」
90			俺たちのキスは、睦みあいは… 結局、俺からかずさを求めていくように、 徐々に激しさを増していく。
91			………	.........
92	かずさ	Kazusa	「ぷぁっ… は～、は～、はぁぁぁぁ…っ、 あっ、あっ…あぁぁ…っ」
93			かずさを強く抱きしめる俺と、 必死で俺にしがみつくかずさとが絡みあい、 唇を繋げたまま床を転がり…
94			いつの間にか、上下も逆になっていた。 服も、はだけられていた。
95			…なんて、全部俺がしたことだけど。
96	かずさ	Kazusa	「はぁ、はぁぁ… あ、あ…春希…は、ははっ…」
97			かずさの口元は、俺に汚され、 唾液でべとべとに濡らされ…
98			涙と、発熱による汗も混じって、 女の素顔を浮かび上がらせていく。
99	春希	Haruki	「かずさ…」
100			その、びしょ濡れの顔に頬をこすりつけ、 滑らかな肌触りを伝え合う俺たち。
101			裸の胸が合わさり、 かずさの柔らかい乳房と、その固い突端が、 俺の胸を強めにくすぐる。
102			他のひとに抱いてはいけないはずの劣情が、 とめどなく溢れていく。
103	かずさ	Kazusa	「同情、だからな？」
104	春希	Haruki	「え…」
105	かずさ	Kazusa	「憐れみ、なんだからな？ 今のお前、そうなんだからな？」
106			かずさが、俺の感情を決めつける。
107			俺の方から唇を重ねたのも、 舌を絡めたのも、 そして、ブラのホックを外したのだって…
108	春希	Haruki	「俺、俺、そんな…」
109			それは、純粋な愛や恋の結晶じゃなくて、 そこに意図せず含まれていた、不純物なんだって…
110	かずさ	Kazusa	「そう、思ってろよ。 それでいいんだから」
111			ここには、強い想いなんかないんだって。
112	かずさ	Kazusa	「でないとお前、潰れちゃうからさ …こんな、どうでもいいことのせいで」
113			そうやって[R共犯者^かずさ]は、 必死で俺の罪を弁護する。
114	春希	Haruki	「なんでだよ… そんなの、最低だろ」
115			どうでもいいことなら、何で泣き叫んでまで求めたんだ。 凍えそうになりながら、逃げたり落ち込んだりしたんだ。
116	かずさ	Kazusa	「そうだな… あたし、春希が最低でいてくれて、嬉しい…」
117			俺だけでなく、 お前まで嘘ばっかりじゃないか、かずさ…
118	かずさ	Kazusa	「お前が道に迷って、本当に幸せだ…」
119	春希	Haruki	「迷ってなんかない。 俺、俺、さ…」
120			こっちに続く道は、しっかりと行き先が見えていた。 かずさが泣きながら、手を差し伸べてた。
121			俺は、それが見えていたからこそ、 敢えて手を伸ばし、足を踏み入れたってのに。
122	かずさ	Kazusa	「自分の罪、認めてる暇があるならさ… その時間で、あたしを可愛がってくれよ、春希…」
123	春希	Haruki	「～～～っ！」
124	かずさ	Kazusa	「あっ…はぁぁぁんっ、ん、んぅ… や、やはぁっ、あ、あんっ、ん、く…」
125			あの頃から、大きくて柔らかくて… 敏感だった、かずさの胸をもみくちゃにする。
126			俺の手がめり込むくらいに強く揉み、 まるで挟まれるのを望むように、谷間に顔を埋める。
127	かずさ	Kazusa	「はぁっ、あ、ああんっ、ん、く… ひ、あぁ…あぁぁんっ、ん、く…」
128	春希	Haruki	「ん…ちゅ…ぅぅ… あ、あぁ…かずさ…ぁ」
129			熱い体温と、流れる汗と、ほのかな体臭が、 俺までも、たまらなく熱くさせていく。
130	かずさ	Kazusa	「はぁっ、はぁっ、は、あ、あぁ… う、ぅんっ、い、いあ…あぁぁ…も…っと」
131			両手で、その豊満な胸を持ち上げるように揉みしだき、 突き出た先端を口に含み、激しい水音を立てて吸い上げる。
132			あの頃から、大きくて柔らかかったけど… 今は、あの頃より、もっと…
133	春希	Haruki	「は、あ、んむ…んんっ… はぁ、はぁ、ぁぁ…あ、ぅぁ」
134	かずさ	Kazusa	「あぁぁんっ、んぅっ、ん、く…うぅぅぅっ、 はぁ、あぁぁ…は、春希…もっと、触って…ぇ」
135			かずさの腕が、俺の頭を掴むと、 力いっぱい、自分の身体へと押しつける。
136			今だって、手のひらと指と唇と舌で強く愛撫してるのに、 未だ物足りないかのように、俺を包み込もうとする。
137			二度と離れないくらいに、重なり合おうとする。
138	かずさ	Kazusa	「は、あ、あぁ…春希…あぁぁ… もっと、もっと………痛く、していいから」
139	春希	Haruki	「あ、あ…んぅっ」
140	かずさ	Kazusa	「いぅぅぅぅっ、う、くぅ…っ、ん、んぅ… そ、そう…傷、つけて…あたしの、からだ…っ」
141			肌が赤く染まりそうなくらい、 かずさの胸を強く掴み、爪を立てる。
142			膨らんできた乳首を吸うだけじゃなく、 強めに歯を立てて、こするように噛む。
143			その度に、かずさはびくびくと身体を震わせ、 硬直し、背を反らせ、指を噛み、天井を見上げる。
144			熱い吐息がとめどなく漏れ、 全身を冷たい汗が伝い…
145	かずさ	Kazusa	「はぁぁぁんっ、ん、ん～っ！ あ、あ…そこ、ふぁ、あぁ…んっ、 ぃぅぅぅぅ～っ、う、くぅんっ、ん、くぅ…」
146			俺は、その一つ一つを逃したくなくて、 胸の谷間から首筋に垂れ落ちる汗と唾液を、 追いかけるように舐め上げていく。
147	春希	Haruki	「はぁ、あ、あ…んんっ…ちゅ、ぷ…」
148	かずさ	Kazusa	「ああっ、ああっ、ああっ… はぁぁっ、あんっ、ん、く…ぅぅんっ…」
149			左手は、変わらずかずさの胸を這い回り、 強く、激しい愛撫を繰り返し。
150			右手の方は、脇腹から腰、太股を伝い… そして、その内側へと潜り込んでいく。
151	かずさ	Kazusa	「っ！？ い、いあ、あああああっ、あ、くぅぅっ…」
152			そして、そこを布越しに愛撫しただけで、 かずさの喉から、今までと違う高さの声が漏れる。
153	春希	Haruki	「…辛い、か？」
154			それは、快感から少し遠ざかり、 違和感に近づいたような、戸惑いの喘ぎ。
155	かずさ	Kazusa	「っ………して、くれ。 お前が、あたしを使えるように…してくれ」
156	春希	Haruki	「………かずさ」
157			…一度は、俺に奪われたはずなのに、 そこに触れられるのに慣れてないような、初々しい反応。
158	かずさ	Kazusa	「あのとき、みたいに… 今だけは、五年前に戻って、さ？」
159	春希	Haruki	「ん…」
160			五年前に戻っても、 俺たちの罪悪感が消える訳じゃない。
161			だって、五年前の俺たちも… 互いに『最悪のこと』ってわかってて、 それでも止まらなかっただけ、なんだから。
162	かずさ	Kazusa	「んっ…んぅっ、ん、ん～っ！ ああっ、ああぁぁっ、あ、んんんんん～っ！」
163			かずさの中心は、 熱のせいか、行為のせいかわからないけれど、 ちゃんと、熱くなっていた。
164			けれどまだ、身体の準備の方は、 完全というわけではなさそうだった。
165			これも、罪悪感とかしがらみとか、 自分を取り巻く枷のようなものかもしれない。
166			だって俺の方も、まだ…
167	かずさ	Kazusa	「んぅっ、んっ、く…ちゅぷ…あ、あむ…っ、 はぁっ、あ、あぁぁ…れろ…ん、ちゅぅぅ…」
168			だから俺たちは、ゆっくりと焦って、 急ぎつつ時間をかけて、準備する。
169			もう一度、かずさの口中に俺の舌を差し入れる。
170			汗で滑る身体をくまなくまさぐり、 撫でたり、つねったり、爪を立てたりして刻む。
171			下着の中で、手を蠢かせ、 内奥まで指を差し込んで、かき回す。
172	かずさ	Kazusa	「ん、ん～…ん、んぅ…ぷぁっ… はぁ、は、あぁぁ…あ、んっ、く…あぁ、ぁぁぁ…っ、 春希が…あ、あたしの…あっ、あっ…全部、触って…っ」
173	春希	Haruki	「っ…ん、うん…かずさ」
174			かずさの方も、俺に応えようと必死で全身を動かす。
175			俺の舌を舌と喉で受け入れ、唾液を必死で飲み込み、 俺の体を愛撫しようとして、いつの間にか鋭く爪を立て…
176			痛みで、罪の心を麻痺させてくれる。 快感で、彼女の存在を押し出してくれる。
177	かずさ	Kazusa	「うん、う、んっ…く…あ、あぁ… んちゅ…ぷぁ、あ、んむ…ちゅぅぅ…ん、んく、んく…」
178			かずさ…どうして…
179			どうして俺は、お前が側にいると、 いつもいつも、最低の人間になってしまうんだろう。
180	春希	Haruki	「は、あむ…ん、ぷ…は、ぁぁ…」
181			自分の心以外の全てを裏切って、 たった一つの嬉しさだけを手に入れようとするんだろう。
182	かずさ	Kazusa	「んぷっ、んっ、あむっ…ん、ぷぁぁ…ぁ… はぁ、はぁぁ…も、もう、もう…春希」
183			どうして… 大切なもの全てを、 こんなにもあっさりと捨ててしまうんだろう。
184			どうして、どうして…
185	かずさ	Kazusa	「………お願い、だ」
186	春希	Haruki	「………ん」
187			かずさが、全身の力を抜く。 俺が、かずさへの愛撫の手を一瞬だけ止める。
188			相手の準備ができたって… 二人とも、気づいたから。
189	かずさ	Kazusa	「な、春希…」
190	春希	Haruki	「ん…？」
191	かずさ	Kazusa	「誰にも…言うなよ？」
192	春希	Haruki	「………っ」
193			俺のが、かずさの入り口に触れたとき…
194			全身の力を抜いたまま、 けれどかずさは、色んな想いを力いっぱい振り絞った。
195	かずさ	Kazusa	「もう絶対に、五年前の過ち、繰り返すなよ？ …なんて、もう繰り返しかけてるんだけどな」
196	春希	Haruki	「かずさ…」
197	かずさ	Kazusa	「それでも、黙ってるんだぞ？」
198			それは、何もかも台無しになってしまうかもしれない 劇薬だって、かずさにもわかってたはずだった。
199	かずさ	Kazusa	「あたしが強引に迫ったせいでこうなったんだからな？ お前の気持ちは、何も変わってないんだからな？」
200			それでも、言わずにはおれなかった。 念押しせずにはいられなかった。
201	かずさ	Kazusa	「だってお前は…これ以上傷ついちゃいけないんだ」
202			俺を、壊さないために。
203	かずさ	Kazusa	「誰も…傷つけちゃいけないんだ」
204			そして…雪菜を。
205	春希	Haruki	「っ…」
206			雪菜、を…
207	かずさ	Kazusa	「それだけだ… だから、だから…黙って、強く抱いてくれよ、春希」
208	春希	Haruki	「………っ！」
209	かずさ	Kazusa	「～～～っ！ う、あ、あ…いあぁぁぁぁっ！」
210			強く目を閉じていたせいで、 俺が入り込んでいったときの、 かずさの表情を見ることはなかった。
211			けれど、耳を塞ぐことはできなかったから、 五年前と同じような、大きな悲鳴は鼓膜を貫いた。
212	かずさ	Kazusa	「あ、あああああっ、 い、つ…つぁぁぁっ、あ、ああ、あ～っ！」
213			さらに、結合部から伝わってくる、 もの凄い締めつけと、 全身を走り抜けるぞわぞわした感覚。
214			…何も、変わってない。 かずさは、変わってない。
215	かずさ	Kazusa	「ひっ、い、いあぁ、あ、あっ… あああ、あんっ、ん…んぅぅぅっ」
216			誰も受け入れていなかったあの頃と。 俺しか受け入れなかったあの頃と。
217	春希	Haruki	「かずさ、かずさ…かずさぁ…っ」
218	かずさ	Kazusa	「う、うん…うんっ… 春希が、春希が………また…っ」
219			額をこつんとぶつけて、軽く口づけて…
220			お互い、涙でくしゃくしゃにした笑顔を、 涙で滲んだ目で見つめあう。
221	かずさ	Kazusa	「はぁ、あ、あぁぁ… い、んっ、ん、くぅ、ぁぁ…っ」
222	春希	Haruki	「力、抜いて… 無理なら、俺にしがみついて」
223	かずさ	Kazusa	「う、うん…うんっ！ い、い、いあぁぁぁっ、あんっ、ん、くぅ…」
224	春希	Haruki	「っ………うん。 それで、いい」
225			かずさは、全身に思いっきり力を込めたまま、 必死で俺の体に手足を回し、腕と手と爪と、 太股とふくらはぎと足首で俺に絡みつく。
226			俺はかずさにこれ以上痛みを与えないよう、 深くまで入り込みながらも、 動きを抑え、ゆっくりと全身をこすり合わせる。
227			あのときとは違う。 できる限り、かずさに痛みと苦しみを与えないよう、 俺が、かずさを受け止める。
228	春希	Haruki	「ん…んぅ… は、ぁぁ…かずさ、口、開けて…」
229	かずさ	Kazusa	「んっ、ん、く…はぁ、ぁぁぁ…んんっ… ん、ちゅ…はぁ、はぁぁ…あむ…」
230			…あのときとは、違う。
231			だって俺は、俺は…
232	春希	Haruki	「～っ」
233			もう、相手を苦しませずに導けるくらい、 歴史を、重ねてきたんだから。
234	かずさ	Kazusa	「ん、あむ…は、ぁぁ…ちゅ…ん、んん… は、春希…あぁぁ…気持ち…おく、に…」
235	春希	Haruki	「少しだけ…動くな？」
236	かずさ	Kazusa	「う、うん、んっ…あああああっ、あ、あぅ…っ、 ん、く…くぅぅぅっ…あ、ん～っ」
237	春希	Haruki	「痛く…ないか？」
238	かずさ	Kazusa	「う、ん…うん、うん…っ、 気持ちよく、なって…はぁぁっ、あ、あ～っ！」
239	春希	Haruki	「………うん」
240			経験上、わかってるんだ。
241			相手に対しての、強さや優しさ… どんなことをすれば、どんな反応が返るか。 どうやって愛したら、相手が安心するのか。
242			ずっと、育んできたから。 ………と、育んできたから。
243	かずさ	Kazusa	「はぁんっ、はぁっ、あ、あんっ… は、春希の…なか、で…ふあぁぁぁんっ、ん、んぅ…」
244	春希	Haruki	「かずさ… 俺、その…気持ち、いい…」
245	かずさ	Kazusa	「う、んんっ、ああ、ああっ… そ、っか…そっかぁ…はは…あは、あぁぁんっ、 んっ、んんっ…んぅ、あぁぁぁっ」
246			相手の、包み返してくる力からも、 相手がどう感じているかがわかるんだ。
247			それで、強さと速さと角度を微調整して、 相手の吐息と、相手の反応と、相手の力を 思う通りに導く。
248	かずさ	Kazusa	「はぁぁっ、あ、ん、んぅ… は、春希…お前、お前、さ…」
249	春希	Haruki	「うん…」
250	かずさ	Kazusa	「痛くない、よ、あたし。 お前…ヘタクソじゃ、なくなっちゃったなぁ…っ」
251	春希	Haruki	「………かずさ」
252	かずさ	Kazusa	「ふっ…ぅぇ…ぇぇ…っ、ぇぐっ… う、ふぁ、あぁぁ…あ、んっ、ん、く…ぅぅっ」
253			気持ちよく、導いていたはずなのに…
254			かずさが今見せる涙は、 快感にむせんでのものじゃ、なかった。
255	かずさ	Kazusa	「あぁっ、あっ、あ、あ…春希…ぃ… ふぁぁっ、あっ、あっ…いぅぅぅ…ぅぅ…ひくっ…」
256	春希	Haruki	「かずさ、かずさ………ん…んぅ…」
257	かずさ	Kazusa	「～～～っ！」
258			がりっ
259	春希	Haruki	「っ…」
260			かずさを落ち着かせるために差し入れた舌が、 前歯に、挟み込まれる。
261			五年前の時にも噛まれた。 あの時は、名前を呼ばなかったからだった。
262			今は… 誤魔化そうとした、から？
263	かずさ	Kazusa	「はぁっ、はぁぁっ、あ、んん～っ！？ んっ、んっつ、んぅ…んんんっ、ん～っ」
264	春希	Haruki	「はぁ、は、あぁぁ…あむ… ん、んむ…あむ…む、むぅん…」
265			舌先にひりひりする痛みが広がっていったけれど、 俺はそれでも、かずさの口を犯し続けた。
266			舌を奥まで差し込み、唇だけでなく歯も重ね合わせ、 かずさを押さえ込むように、強く、激しく、 流し込み、こすり合わせ、すする。
267	かずさ	Kazusa	「んっ…んぅぅっ、ん…ぷぁっ…はぁ、ぁ… は、春希…あたし…さぁ…あたし、あたし… くそっ、くそぉ…っ、ごめん、ごめんっ」
268	春希	Haruki	「いいよ、いいから… もう、何も考えるな…」
269	かずさ	Kazusa	「う、うん…春希だけ… 春希だけ、感じて…やぁぁんっ、 あ、は、はぁ、はぁぁんっ、ん、く…あああっ、痛っ」
270			優しいセックスが… 優しいセックスだからこそ、 相手を傷つけてしまうことがある。
271			なら、慣れていないみたいに強く… 慣れていない相手を気遣わずに、 ただ激しく、苛烈に。
272			息を、合わせずに…
273	かずさ	Kazusa	「いああぁっ、あっ、あっ、あ～っ！ ひぐっ、い、た、たた…あぁぁぁぁ～っ！」
274	春希	Haruki	「っ、う、く…あ、あぁ…」
275			徐々に、をやめて、 強く、深く、速く…
276			リズムも角度もめちゃくちゃに、 ただ、ひたむきにかずさの中を突き上げる。
277			…あの、お互い初めてだった夜のように。
278	かずさ	Kazusa	「は、春希…あ、あたしの…春希………あ。 い、今だけ、今だけ…あたしの…はぁぁっ、あっ」
279	春希	Haruki	「お前の…だ。俺。 かずさ…俺の…あ、あぁ…んむ…」
280	かずさ	Kazusa	「んんんんっ、ん～っ！ ぷぁっ、あっ、はぁっ、はぁっ、はぁぁんっ… い、やあぁぁぁっ、あっ、あ～っ！」
281			俺の背中に回された手が、もの凄い力で俺を引っ掻く。
282			俺の腰を挟み込む太股も、 俺の背を打つふくらはぎも、足首も…
283			そして、繋がってる部分も…
284			俺に触れているところの全てが強く力み、 俺を、飲み込もうとする。
285	かずさ	Kazusa	「ああっ、ああっ、うあぁぁんっ… ん、ああ…春希が…あたしの…おく…っ」
286	春希	Haruki	「かずさ…あ、あ… 俺、俺…はぁ、あぁぁ…ぁぁぁ…っ」
287			本当に抱きあったという証を、 飲み込もうとする。
288	かずさ	Kazusa	「う、ん…来て、くれよ… また、また…刻んで…やぁぁぁんっ」
289			かつて、俺のしるしを刻んだところに。 一生消えない傷を残した入り口に…
290			二度と、届かせるはずのなかった、最奥に。
291	春希	Haruki	「はぁっ、あっ、あっ… あ、くぁ、あぁ…あぁぁぁ…っ」
292	かずさ	Kazusa	「はぁんっ、んっ、んぅぅ…あ、来る… 春希が、春希のが…あぁぁぁっ…ああっ」
293	春希	Haruki	「か、かずさ、かず… も、もう…俺っ… ち、力、抜いて…」
294			かずさは、力いっぱい俺と繋がっていた…
295			太股も、ふくらはぎも、足首も、 繋がってる部分も…
296			俺の限界なんて知ったことかってふうに、 強くしがみつき、離そうとしない。
297	かずさ	Kazusa	「いい、いいから…そのまま…あっ、あぁ…んっ、 はぁっ、あっ、あっ、あっ…あぁぁぁ…あ～っ」
298	春希	Haruki	「かず…さっ」
299			きっと… 最初から離すつもりなんて、なかった…
300			あの時の、衝動的なふたりのまま。 何もかも覚悟の上、 俺を受け入れようって、決心してた…
301	かずさ	Kazusa	「春希っ、あ、ああ、あ… あああ、ああっ、あ、あ～っ！ ぃんっ、んっ、んっ、んっ…んあぁぁぁっ」
302	春希	Haruki	「ごめ………んっ」
303			最後の言葉だけは、 誰に、叫んだのか自信がなかった。
304	かずさ	Kazusa	「はぁぁ…あああああっ！？ あ～っ、あああああああ～っ！ うあぁぁぁぁぁっ、ああっ、あ、あぁぁぁぁ～」
305			拙いまま、単調なまま、激しいまま。
306			そんな、覚えたてのセックスみたいに、 全身を硬直させて、射精した。
307			………かずさの、なかに。
308	かずさ	Kazusa	「やあぁっ、あぁっ、あぁぁ…ぁ…っ、 は、んぅ…ふ、あぁ…ぁぁぁぁぁ…ぁっ」
309			かずさの、奥に。 何度も、何度も。
310	かずさ	Kazusa	「は、あぁ…ぁぁぁ…あんっ、ん… は、春、春希…は、あ、あん…ん、んぅ…」
311			かずさは、俺が限界を迎えた今も、 その全身を絡ませ、繋がったまま離さない。
312	春希	Haruki	「はぁぁぁぁ…っ、ぁぁぁっ…ぁ…あ、あ…」
313			絡みついたまま、身体を重ねたまま。
314			そして多分… 心を、重ねたまま。
315	かずさ	Kazusa	「っ…ぃ、ぅぅ…ぁ、ぁぁ…ぁはは… ぃ、ひっ…ぅぅ…ぃ、くっ…はは…あ、あぁぁ…」
316			笑い声と泣き声と… 涙と、笑顔の混じった声と、表情と、吐息と…
317	かずさ	Kazusa	「ありがとな、春希… あたしのために、最低なこと、してくれて…」
318	春希	Haruki	「っ…」
319	かずさ	Kazusa	「でもさ、でも大丈夫… あたしも…ううん、あたしこそが、最低だから」
320			そして、心からの言葉が… 俺に、突き刺さった。

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