Editing White Album 2/Script/4004 (section)

== Text ==
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{{WA2ScriptLine
|1|曜子|Youko
|「…よく降るわね」
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{{WA2ScriptLine
|2|かずさ|Kazusa
|「週末はずっとこんな感じだってさ。<br>今朝、天気予報でやってた」
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{{WA2ScriptLine
|3|曜子|Youko
|「そういえば、日本も今ごろ梅雨時ね」
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{{WA2ScriptLine
|4|かずさ|Kazusa
|「………そう、だったっけ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|5|曜子|Youko
|「…やっぱりまだ、日本の話はしたくない？」
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{{WA2ScriptLine
|6|かずさ|Kazusa
|「いや…別に」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|7||
|日本に未練を残してきた母さんと、<br>日本を思い出ごと捨ててきたあたし。
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{{WA2ScriptLine
|8||
|どうしても、かの地の話題になると、<br>互いの会話がすれ違う。
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{{WA2ScriptLine
|9|曜子|Youko
|「ねぇ、かずさ」
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{{WA2ScriptLine
|10|かずさ|Kazusa
|「なに？」
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{{WA2ScriptLine
|11|曜子|Youko
|「窓の外に、一本の大きな木があるわよね」
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{{WA2ScriptLine
|12|かずさ|Kazusa
|「ああ、それが？」
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{{WA2ScriptLine
|13|曜子|Youko
|「あの木の葉が全て散ってしまったら、<br>わたしは…」
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{{WA2ScriptLine
|14|かずさ|Kazusa
|「初夏だし雨降ってるし、<br>しばらくは生える一方だぞ」
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|15|曜子|Youko
|「こりゃ、冬までは安泰ね」
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{{WA2ScriptLine
|16||
|それでも母さんは、<br>あたしと過ごす時間だけはなんとか頑張って、<br>いつものように飄々と“冬馬曜子”しようとしてた。
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{{WA2ScriptLine
|17||
|ただ、そのときの母さんは、あたしにもわかるくらい<br>“頑張ってる”ってのが丸わかりだった。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|18||
|しかも…
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{{WA2ScriptLine
|19||
|最近、その『最初の楽しい時間』が、<br>だんだん、少なくなってきている。
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{{WA2ScriptLine
|20||
|体重が減った。<br>食事もあからさまに減った。<br>日に日に手足からやせ細っていった。
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{{WA2ScriptLine
|21||
|日に日に顔色が悪くなっていった。<br>髪や肌のつやもなくなっていった。
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{{WA2ScriptLine
|22||
|…なにより、それらの手入れを怠るようになっていった。
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{{WA2ScriptLine
|23|曜子|Youko
|「リビングのクローゼットの一番奥にある<br>小さな金庫知ってるでしょ？」
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{{WA2ScriptLine
|24|かずさ|Kazusa
|「あったっけ？　そんなの」
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{{WA2ScriptLine
|25|曜子|Youko
|「あるのよ。<br>それでね、その金庫の鍵は、<br>仏壇の引き出しの中にしまってあるから」
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{{WA2ScriptLine
|26|かずさ|Kazusa
|「ウィーンまで来て仏壇かよ…って、<br>
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{{WA2ScriptLine
|27|かずさ|Kazusa
|ウチに仏間なんてあったっけ？」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|28|曜子|Youko
|「今のは笑うところよ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|29|かずさ|Kazusa
|「あ、ああ…」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|30|曜子|Youko
|「正しくは、わたしのベッド脇の、<br>一番上の引き出しにあるから」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|31|かずさ|Kazusa
|「あ、そ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|32|曜子|Youko
|「で、その鍵で金庫を開けると、<br>中に貸金庫の鍵が入ってるから…」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|33|かずさ|Kazusa
|「なんか鍵ばっかだな」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|34|曜子|Youko
|「でも貸金庫は鍵だけじゃなくて暗証番号も必要なの。<br>今から言うから覚えておきなさい。<br>決してメモとか取らないで、記憶しておくのよ」
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{{WA2ScriptLine
|35|かずさ|Kazusa
|「いいよ、めんどくさい」
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{{WA2ScriptLine
|36|曜子|Youko
|「ちゃんと覚えなさい。<br>いざという時に大切なんだから」
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{{WA2ScriptLine
|37|かずさ|Kazusa
|「あたしは財産とか権利とかには興味ないんだってば。<br>そんなこと母さんだって知ってるだろ」
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{{WA2ScriptLine
|38|曜子|Youko
|「これからは興味を持ちなさい。<br>いずれあなたが冬馬曜子オフィスを引き継ぐのよ。<br>…いえ、その頃には『冬馬かずさオフィス』かしらね」
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{{WA2ScriptLine
|39|かずさ|Kazusa
|「いらないよ別に。<br>ピアノが弾けなくなったら、のたれ死ぬだけだ。<br>あたしはそういう人生でも後悔しないよ」
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{{WA2ScriptLine
|40|曜子|Youko
|「駄目、絶対に駄目！<br>あなたは、たとえ一人になっても、<br>幸せに生きていかなくちゃならないんだから」
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{{WA2ScriptLine
|41|かずさ|Kazusa
|「金だけが幸せじゃないだろ。<br>そんなの母さんだってよく知ってるはずだろ…」
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{{WA2ScriptLine
|42|曜子|Youko
|「それでも、幸せにのたれ死ぬことなんてあり得ないのよ。<br>だから、ちゃんとわたしの話を聞きなさい」
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{{WA2ScriptLine
|43|かずさ|Kazusa
|「母さん…」
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{{WA2ScriptLine
|44||
|そして、最初の楽しい時間が過ぎても、<br>母さんのお喋りは止まらない。
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{{WA2ScriptLine
|45||
|あからさまに体力を削り、生命力を削り、<br>軽さを保とうとしながらも、<br>けれど内容が怪しくなってくる。
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{{WA2ScriptLine
|46||
|それは、今までとは違う、辛いひととき。<br>母さんとのお喋りなのに、楽しくない時間。
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{{WA2ScriptLine
|47||
|からかってくれない。<br>受け流してくれない。<br>面白くない、愉快じゃない話を繰り返す。
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{{WA2ScriptLine
|48||
|やり残し、心配事、思い出話だけが増えていく。
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{{WA2ScriptLine
|49||
|それはまるで、目の前で話しているこのひとが、<br>冬馬曜子という人間でなくなってきたみたいで…
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{{WA2ScriptLine
|50|曜子|Youko
|「ねぇ、かずさ…」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|51|かずさ|Kazusa
|「ん？」
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{{WA2ScriptLine
|52|曜子|Youko
|「あなたの父親の話、知りたい？」
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{{WA2ScriptLine
|53|かずさ|Kazusa
|「いいや、聞きたくないね」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|54|曜子|Youko
|「どうして？」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|55|かずさ|Kazusa
|「今さら興味ない。<br>ただそれだけだ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|56|曜子|Youko
|「でも、もしわたしが…<br>あなたが世界でたった一人になってしまったら…」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|57|かずさ|Kazusa
|「あたしがこれから先どうなろうが、<br>あたしの親は冬馬曜子ただ一人だ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|58|曜子|Youko
|「かずさ…」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|59||
|…ついでに言うと、冬馬曜子の子孫の方は、<br>どうやらあたし一人になってしまいそうなのは<br>申し訳ないとは思ってるけどさ。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|60|かずさ|Kazusa
|「だから、そういうもしもの話ばかりはやめてくれ。<br>何度も言うけど、あたしは後悔なんかしてないし、<br>母さんを恨んでも、憎んでもない」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|61|曜子|Youko
|「かずさ…っ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|62|かずさ|Kazusa
|「………やめてくれよ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|63|曜子|Youko
|「ごめんね、かずさ…<br>何も、残してやれなくて…っ、<br>ぅ、ぅぅ…っ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|64||
|母さんの嗚咽が、雨音の隙間を塗って病室に静かに響く。
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{{WA2ScriptLine
|65|かずさ|Kazusa
|「だから、やめろっての」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|66||
|あたしのその言葉は、照れで言ってるんじゃなかった。<br>本当に、やめて欲しかった。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|67||
|だって、こんなの悲し過ぎる。
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{{WA2ScriptLine
|68||
|今まで、飄々と生きてきた母さんの人間性が、<br>少しずつ、ぶれてきている。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|69||
|それは、もしかしたら…
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{{WA2ScriptLine
|70||
|命がどうとかいう前に、<br>すでに、冬馬曜子という存在そのものが、<br>緩慢な死を迎えつつあるんじゃないのかって…
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{{WA2ScriptLine
|71||
|冬馬曜子は、あたしにとって傲慢な神だった。<br>身勝手な母親だった。手の届かない宿敵だった。<br>そして、心安らかに語らえる親友だった。
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{{WA2ScriptLine
|72||
|けれど今ここにいるのは、普通の人間だ。<br>若者の行く末を案じる、心穏やかな老人だ。
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{{WA2ScriptLine
|73||
|これは、あたしの求めていた、<br>そして世界の求めてきた冬馬曜子じゃ…
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{{WA2ScriptLine
|74|かずさ|Kazusa
|「なぁ、母さん。<br>早く退院しろよ…」
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{{WA2ScriptLine
|75||
|だから、そんな空気に耐え切れなくなったあたしは、<br>自分より弱いはずの相手に、無理難題を押しつける。
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{{WA2ScriptLine
|76|かずさ|Kazusa
|「そしたら、あたしのピアノ聴かせてやる。<br>この前のコンサートの時より格段に上手くなったぞ？<br>一日５０時間も１００時間も弾いてるからな」
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{{WA2ScriptLine
|77||
|だってまだ、あたしも弱いから。
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{{WA2ScriptLine
|78||
|まだ、母さんの影を追い求める駄々っ子を、<br>すぐには卒業できないから。
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{{WA2ScriptLine
|79|かずさ|Kazusa
|「何がいい？<br>ベートーベン？　シューベルト？　モーツァルト？<br>リクエストがあれば何でもすぐ弾いてみせるぞ？」
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{{WA2ScriptLine
|80|曜子|Youko
|「………」
|"........."
|}}

{{WA2ScriptLine
|81|かずさ|Kazusa
|「だから、だからさ…<br>そんな、悲しくなるようなこと…」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|82|曜子|Youko
|「…ｃｌｏｔｕｒｅ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|83|かずさ|Kazusa
|「え…？」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|84||
|と、そのとき…
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{{WA2ScriptLine
|85||
|少し泣きはらした目を上げて、<br>母さんが、ぽつりと呟いた。
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{{WA2ScriptLine
|86|曜子|Youko
|「ｃｌｏｔｕｒｅがいい」
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{{WA2ScriptLine
|87|かずさ|Kazusa
|「………」
|"........."
|}}

{{WA2ScriptLine
|88||
|それは多分、クラシックを嗜んできた人間でも、<br>とっさには思い出せないくらいのマイナーな曲。
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{{WA2ScriptLine
|89||
|作曲者も、作られた時代も、もともとの曲名も不詳。
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{{WA2ScriptLine
|90||
|ｃｌｏｔｕｒｅという今のタイトルだって、<br>この曲がフランス起源だと称する人たちが<br>勝手に付けた通称。
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{{WA2ScriptLine
|91||
|ドイツ人はDie andere Seite des Glucksという、<br>全然違うタイトルで、自国の起源を主張してる。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|92||
|そして、あたしはどっちの曲名もよく知っている。
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{{WA2ScriptLine
|93|曜子|Youko
|「わたしが、[Rヨーロッパ^こっち]での初舞台で弾いた曲…<br>わたしが、生涯で一番弾いた曲」
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{{WA2ScriptLine
|94||
|そう、だってそれは母さんの一番得意な…<br>そして、なによりも…
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|}}

{{WA2ScriptLine
|95|かずさ|Kazusa
|「コンチェルト、だって…？」
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{{WA2ScriptLine
|96||
|ピアノコンチェルト。<br>オーケストラとの、協演。
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{{WA2ScriptLine
|97||
|つまりそれは、コンサートを開くか、<br>それともオーケストラを借り切るか…
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{{WA2ScriptLine
|98||
|あたしだけじゃ、できない。<br>たくさんの人の力を借りなければ、できない曲だった。
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{{WA2ScriptTableEnd}}