Editing White Album 2/Script/4007 (section)

== Text ==
{{WA2ScriptTable}}

{{WA2ScriptLine
|1||
|夏は、続く。<br>さらに暑さをいや増して。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|2||
|空の青さも、高さも、<br>何もかも、どうでもいいくらいまでに。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|3|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「雪菜？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|4||
|外にいるだけで汗が噴き出す日中が、<br>何度寝返りを打っても寝苦しい夜中が、<br>容赦なく体力を奪っていく。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|5||
|ううん…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|6||
|奪われたのは、本当にそれだけだったのか…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|7|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「雪菜！<br>開けるわよ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|8|雪菜|Setsuna
|「ん～…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|9|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「…何よ？<br>この暑いのに布団頭から被ってるなんて。<br>熱中症になるわよ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|10|雪菜|Setsuna
|「ふあぁ…そうだね。<br>おはよう」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|11|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「おはようじゃないわよ…今何時だと思ってるの？<br>今日、会社は？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|12|雪菜|Setsuna
|「あぁ…ごめん言ってなかったね。<br>昨日のうちに申請してて、お休みもらったんだ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|13|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「そうなの？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|14|雪菜|Setsuna
|「うん、昨夜から始まったんだ。<br>今月はちょっと重くて…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|15|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「なによ、そういうことなら<br>昨日のうちに言っておきなさいよ。<br>朝ご飯冷めちゃったわよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|16|雪菜|Setsuna
|「ごめんね…今日はいらない。<br>あと、お昼も用意しなくていいから」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|17|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「雪菜…？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|18|雪菜|Setsuna
|「本当にきつくって…<br>今は全然食欲もないの」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|19|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「あなた、大丈夫？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|20|雪菜|Setsuna
|「大丈夫だよ。<br>今日を乗り切れば…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|21|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「…本当に生理痛なの？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|22|雪菜|Setsuna
|「………そうだよ。<br>そういうこと、ハッキリ言わないでよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|23|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「………」
|"........."
|}}

{{WA2ScriptLine
|24|雪菜|Setsuna
|「一日経てば、すぐに元気になるし、<br>明日はちゃんと出勤するから。<br>だから今日だけは、放っておいて」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|25|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「あなたがそう言うなら、今日のところは信じるけど…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|26|雪菜|Setsuna
|「そんなわけだから。<br>じゃあ、おやすみ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|27|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「でも、何か身体に異常があったら…<br>ううん、兆候だけでも感じたら、すぐに言うのよ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|28|雪菜|Setsuna
|「わかってるって」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|29||
|言えるわけ、ないよ…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|30|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「それじゃ、おやすみ。<br>お母さん、今日は出かけるけど…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|31|雪菜|Setsuna
|「行ってらっしゃい。<br>大丈夫だよ、この程度」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|32||
|そんなことしたらお母さん、<br>お父さんに、言うよね？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|33||
|そしたらお父さん、<br>わたしを変に気遣ってしまうよね？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|34|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「…わかった。大人しくしてなさいよ？<br>…今日だけは、『やっぱり回復した』とか言って、<br>“いつものところ”に出かけたりしないようにね？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|35|雪菜|Setsuna
|「わかってるって…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|36||
|“いつものところ”に、<br>行かせてくれなくなるよね…？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|37|雪菜|Setsuna
|「………」
|"........."
|}}

{{WA2ScriptLine
|38|雪菜|Setsuna
|「………っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|39|雪菜|Setsuna
|「～～～っ！<br>はぁっ、はぁっ、はぁぁ…っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|40||
|お母さんが階下に下りたのを確かめると、<br>やっと、籠もっていた布団の中から這い出る。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|41||
|パジャマが、汗で濡れすぎて気持ち悪い。<br>おかしいなぁ、エアコン、効いてないのかなぁ…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|42||
|これじゃ、洗濯の時にばれてしまう。<br>お母さんが出かけてるうちに自分で洗っておかないと。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|43|雪菜|Setsuna
|「はぁ…ぁ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|44||
|昨夜…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|45||
|身体中から水分が流れ出てしまうような嫌な感覚に、<br>一晩中、ずっと襲われていた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|46||
|それどころか、朝になった今でも止まらない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|47||
|…ううん、昨夜だけじゃない。<br>ここ数日間、夜はずっとこんな調子。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|48|雪菜|Setsuna
|「暑い…な」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|49||
|少しだけ体を起こそうとして、すぐにベッドに戻す。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|50||
|頭がふらつく。<br>視界がぼやける。<br>何より、気力が湧いてこない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|51||
|それでも、昨日まではなんとか起きられた。<br>朝、いつも通りを装い、出勤することもできた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|52||
|…仕事の能率は散々だったけれど。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|53|雪菜|Setsuna
|「会社に…電話しなくちゃ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|54||
|昨日から申請していたなんてのは、<br>もちろん、その場しのぎの嘘だった。<br>ただ、起きれなかっただけだった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|55||
|なんだろう…<br>どうしちゃったんだろう、わたし…？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|56|雪菜|Setsuna
|「大丈夫…だ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|57||
|ううん…単なる夏バテだ。<br>一日休めば、きっと元通りになる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|58||
|だって、明日は金曜だ。<br>たった一日会社に行けば、すぐ、週末だ…<br>だから、なんとかなる…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|59||
|週末になれば、彼に会える。<br>あと一日頑張れば、また春希くんに会える。<br>きっと、待ってる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|60||
|だから、頑張れるんだ、わたし…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|61||
|………
|.........
|}}

{{WA2ScriptLine
|62||
|……
|......
|}}

{{WA2ScriptLine
|63|駅アナウンス|Station Announcement
|「まもなく、一番線御宿行きが参ります。<br>白線の内側までお下がりください」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|64||
|そして…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|65||
|待ち望んだはずの週末は、<br>少しだけ…半日だけ遅れてやってきた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|66||
|いつもなら、金曜の仕事帰りに直接行っていた彼の部屋。<br>けれど、そこに向かっている今は土曜の午前１１時。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|67||
|さすがに木曜に体調不良で休んでおいて、<br>金曜にお泊まりっていうのは家族が許してくれなかった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|68||
|だから仕方なく、昨夜は家でゆっくり静養した。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|69||
|その甲斐もあって、今朝は体調も良かった。<br>汗もかかなかったし、頭痛もしなかったし、<br>何より、ゆっくり眠れた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|70||
|だからもう、何も心配することなんかない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|71||
|そうだ…<br>部屋に行く前に、買い物を済ませてしまおう。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|72||
|一週間分の食材と、日用品。<br>あ、そういえば洗濯用の洗剤も切れてたっけ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|73||
|で、部屋についたら、お昼ご飯を作って、一緒に食べて、<br>それから洗濯して、掃除して、そしたら今度は晩ご飯。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|74||
|あとは、できれば、お話もしたいな。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|75||
|わたしのこの一週間の出来事。<br>春希くんの、この一週間の気持ち。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|76||
|語って、聞いて、ゆっくり通じ合って…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|77|駅アナウンス|Station Announcement
|「一番線、発車いたします。<br>ドアが閉まります。ご注意下さい」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|78||
|うん、そんな感じ。<br>今週は少しの時間しか一緒にいられないけど、<br>来週を乗り切れば、今度はお盆休みが待っている。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|79||
|そうすれば、もっと長い間、一緒にいられる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|80||
|この夏の暑さも、仕事の忙しさも全部吹き飛ばす、<br>嬉しくて穏やかな時間の始まり。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|81||
|心が、弾む。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|82||
|………
|.........
|}}

{{WA2ScriptLine
|83|雪菜|Setsuna
|「っ…は、はぁ…はぁ…っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|84||
|心が、弾む。<br>はずなのに…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|85|雪菜|Setsuna
|「あ、れ…？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|86||
|何かが…違う。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|87||
|息が、苦しい。<br>汗が、止まらない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|88||
|おかしいな…<br>今朝は、平気だったはずなのに。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|89||
|家を出るときは、<br>止めようとするお母さんを振り切れるくらい、<br>体力が、残っていたはずなのに。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|90||
|駅が近づくにつれて汗が噴き出したのは、<br>単なる、この炎天下の陽気のせいのはずなのに。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|91||
|日陰のホームに入れば…<br>冷房の効いた電車に乗れば…<br>すぐにこの汗はひくはずなのに。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|92||
|なのに今、全身の汗に熱を奪われ寒気に震えるわたしは、<br>たった一駅先で降りるはずの電車にすら乗れなかった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|93|雪菜|Setsuna
|「っ…はぁっ、はぁっ…はぁぁ…っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|94||
|電車が来て、立とうとして、<br>そして、全身が痺れたような嫌な感覚に襲われた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|95||
|わたしをベンチに縛りつける全身に対して<br>頭だけが『動いてよ』と必死にもがいてた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|96||
|あれ、あれ…？<br>わたし、何か勘違いしてたのかな？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|97||
|汗が止まらないのも、息切れが激しくなるのも、<br>人混みが怖くなるのも、電車に乗れなくなるのも。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|98||
|もしかして、これって…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|99||
|今から行こうとする場所を、<br>わたしの身体が、拒否しているの…？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|100|雪菜|Setsuna
|「っ…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|101||
|自分でしてしまったありえない想像が、<br>今度は吐き気を呼び込む。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|102||
|だって、そんなはずはない。<br>これは一週間ずっと待ち望んでいたこと。<br>春希くんの側にいることがわたしの幸せだから。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|103||
|彼の寝顔を見て、彼の数少ない言葉を刻んで、<br>彼のほんの少しだけ変わる表情を見つめて、<br>そんなふうに彼の隣で、彼の回復を見守る。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|104||
|………でもそれって、わたしのエゴなのかな？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|105||
|わたしが側にいるとき、<br>春希くんは、いつも辛そうだった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|106||
|彼の寝顔は苦悶に満ち、彼の言葉は自らを刺し、<br>彼の表情はいつも悲しみに満ち…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|107||
|わたしはいつも、<br>そんな彼の隣で、彼の絶望を眺める。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|108||
|そっか…<br>こんな疫病神が毎週現れたんじゃ、<br>よくなるわけなんかないよね…？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|109||
|だから神様は、わたしを遠ざけようとしているの？<br>その方が、彼を安心させることができるから？<br>わたしが、彼の、重荷になってる、から…？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|110||
|そうやって、彼を守ろうとしているの…？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|111|雪菜|Setsuna
|「嫌…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|112||
|違う…<br>そんなことを考えてしまうことこそが、醜い言い訳だ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|113||
|自分の気持ちに身体がついてこれなくなったことの、<br>馬鹿げた正当化だ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|114|雪菜|Setsuna
|「いやぁ…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|115||
|でも、暑い…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|116||
|それに、行ったところで、どうなるの…？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|117||
|たとえ隣にいても、愛を囁いてもくれない、<br>抱きしめてもくれない、<br>そんな、わたしの居場所のない部屋に…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|118|雪菜|Setsuna
|「助けて…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|119||
|無償の愛って、なんなんだろう…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|120||
|やっぱり、あなたにしか、わからないのかな…？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|121|雪菜|Setsuna
|「助けて、かずさ…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|122||
|………
|.........
|}}

{{WA2ScriptLine
|123||
|……
|......
|}}

{{WA2ScriptLine
|124||
|…
|...
|}}

{{WA2ScriptLine
|125|雪菜|Setsuna
|「ただ～いま～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|126||
|玄関ドアを開けると、<br>そこはいつもの無音の空間。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|127||
|ただ、わたしの声だけがやけに大きく響く空間。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|128|雪菜|Setsuna
|「あ～、エアコン気持ちい～！<br>もう二度と外に出たくない～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|129||
|けれど、部屋を覆う涼しめの空気が、<br>かすかに家主の存在を主張する。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|130|雪菜|Setsuna
|「ほんっと、外あっついね～。<br>もうやんなっちゃうよ～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|131|春希|Haruki
|「そうだな…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|132||
|その家主は、今日はテーブルでパソコンをいじってた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|133||
|ちらっと顔色をうかがうと、白いけど青白くない。<br>そんなに悪くない感じだった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|134||
|うん、今日は結構調子いいかも。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|135|雪菜|Setsuna
|「お昼どうする？<br>ちょっと遅いし、あっさりとお素麺でいいかな？<br>それとも、がっつり行く？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|136|春希|Haruki
|「俺は、なんでもいいけど」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|137|雪菜|Setsuna
|「なんでもいいってのが一番張り合いないんだよね～。<br>ま、いっか。じゃあお昼はあっさりで夜はがっつりね。<br>豚肉安かったから多めに買ってきたんだ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|138|春希|Haruki
|「…？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|139|雪菜|Setsuna
|「そうだ、せっかく豚肉あるんだから、<br>お昼、冷しゃぶもつけようかな…<br>うん、それいいかも！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|140|春希|Haruki
|「雪菜」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|141|雪菜|Setsuna
|「あ～、でもそうすると昼も夜もお肉になっちゃうな。<br>そしたら夜は別のものの方がいいかなぁ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|142|春希|Haruki
|「なぁ、雪菜…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|143|雪菜|Setsuna
|「どうする春希くん？<br>お昼は…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|144|春希|Haruki
|「どうしたんだ、今日？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|145|雪菜|Setsuna
|「？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|146|雪菜|Setsuna
|　ああ、ごめんね昨日のうちに来れなくて。<br>今週、ずっと残業続きで…ああ、ううん、<br>ちょっと仕事の都合が重なっちゃって」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|147|春希|Haruki
|「いや、そういうことを聞いてるんじゃ…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|148|雪菜|Setsuna
|「すぐできるからね。<br>悪いけど、あと少しだけ待ってて」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|149|春希|Haruki
|「………」
|"........."
|}}

{{WA2ScriptLine
|150||
|いけない、つい…<br>そういえば、自分の忙しさをアピールするのは<br>相手に疎外感を与えるから良くないんだった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|151||
|いくら心が浮き立ってたとしても、<br>調子に乗りすぎるのはよくないよね。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|152||
|………
|.........
|}}

{{WA2ScriptLine
|153|雪菜|Setsuna
|「ふぅ～、ごちそうさま～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|154|春希|Haruki
|「…もういいの？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|155|雪菜|Setsuna
|「うん、おなかいっぱい」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|156|春希|Haruki
|「ほとんど食べてないじゃないか」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|157|雪菜|Setsuna
|「朝、ちょっと食べ過ぎちゃって。<br>ごめん、あとは春希くんお願いします」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|158|春希|Haruki
|「こんなに食べられるかな…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|159|雪菜|Setsuna
|「残してもいいよ。<br>そのときは晩ご飯のお味噌汁の具になるんだけどね。<br>あはは…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|160|春希|Haruki
|「………」
|"........."
|}}

{{WA2ScriptLine
|161|雪菜|Setsuna
|「やっぱり残す？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|162|春希|Haruki
|「いや…食べるよ。<br>けど、動かないのにこんなに食べてたら太りそうだな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|163|雪菜|Setsuna
|「そうだ！<br>食後に運動ついでにちょっと散歩に出かけない？<br>すぐ近くの公園にでもさぁ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|164|春希|Haruki
|「散歩か…うん、俺はいいけど」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|165|雪菜|Setsuna
|「って、あ～、でも、さすがにこの暑さで<br>いきなり外出すると、熱中症になっちゃうよね。<br>ごめん、今の取り消し！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|166|春希|Haruki
|「………」
|"........."
|}}

{{WA2ScriptLine
|167||
|危ない、凡ミス。<br>今、外に出るだなんて、何言ってるのよ…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|168||
|………
|.........
|}}

{{WA2ScriptLine
|169|雪菜|Setsuna
|「ほんと？　すごいね！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|170|春希|Haruki
|「うん、だいぶ朝起きれるようになってきたし、<br>睡眠が安定してきたんじゃないかって」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|171|雪菜|Setsuna
|「そっか、そっかぁ…<br>じゃあ、今度こそ職場復帰も近いね！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|172||
|春希くんの口から語られたのは、大きな朗報だった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|173||
|先週の診断結果が思いのほかよくて、<br>お医者さんからもらう薬が減ったらしかった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|174|春希|Haruki
|「まぁ、今までのこともあるから、<br>そうそう簡単に復帰できるかわかんないけどな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|175|雪菜|Setsuna
|「ううん、今度こそ絶対だよ！<br>絶対、何もかも元通りだよ…っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|176|春希|Haruki
|「雪菜…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|177|雪菜|Setsuna
|「うん、うんっ、<br>あは、あはははは」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|178||
|良かった…こんなに早く治って本当に良かった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|179||
|もうすぐ、春希くんが回復する。<br>誰もが、しがらみから、苦しみから解放される。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|180||
|そう、何もかも、うまく行く…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|181|春希|Haruki
|「なぁ、雪菜？<br>こっち来て話さないか？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|182|雪菜|Setsuna
|「ん～、いいよ。<br>まだ掃除機かけ終わってないし」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|183|春希|Haruki
|「今日、部屋に来てから働きづめじゃないか。<br>少しは休めばいいのに」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|184|雪菜|Setsuna
|「そんなに嬉しい話を聞かせてもらっちゃったら、<br>なんだか動いてないと落ち着かないんだよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|185|春希|Haruki
|「………」
|"........."
|}}

{{WA2ScriptLine
|186||
|だって、わかったんだから。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|187||
|こうして、何も考える暇もないほど動いている方が、<br>今のわたしには、いいんだってことが。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|188||
|………
|.........
|}}

{{WA2ScriptLine
|189|雪菜|Setsuna
|「ね、今度の夏休み、どうしよっか？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|190||
|それからも、わたしはずっと動き続けた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|191|雪菜|Setsuna
|「さすがに旅行とかはまだ早いかもしれないけど、<br>少しくらいは外出もできるんじゃないかな？<br>今の調子だと」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|192||
|洗濯と部屋の掃除が終わったら、お風呂の掃除。<br>春希くんに入浴してもらってる間に夕食の仕度。<br>そして、夕食が済んだら当然後片付け。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|193|雪菜|Setsuna
|「いつも通り図書館とか。<br>あと、少しくらいならお買い物とか、映画とか…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|194||
|そうやって、やっと夜になった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|195|雪菜|Setsuna
|「とは言っても、なるべく人混みは避けないとね。<br>って、夏休みで人混みのない繁華街ってなんだろそれ…<br>あっはははは」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|196||
|…なんとか無事、一日が終わろうとしていた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|197|雪菜|Setsuna
|「でも、楽しみだな。<br>一週間も一緒にいられるのって、<br>大学四年の夏休み以来じゃない？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|198||
|今日は、楽しかった。<br>そして、嬉しかった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|199|春希|Haruki
|「雪菜」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|200|雪菜|Setsuna
|「とはいえ、大学の時も春希くんってば、<br>卒論だとかバイトだとか言って、<br>なかなか一緒にいてくれなかったけどね！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|201||
|彼に、回復の兆しが見られた。<br>いつもより、よく喋ってくれた。<br>わたしの作った食事を、たくさん食べてくれた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|202|雪菜|Setsuna
|「ほんっと、お堅いっていうか、<br>ひょっとしてわたし、まだ避けられてるのかなって<br>思ったこともあったよ…あはは」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|203||
|だから自然、<br>わたしの方も、口数が多くなる。<br>テンションが高くなる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|204|春希|Haruki
|「なぁ、雪菜」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|205|雪菜|Setsuna
|「それに、それより前の夏は…<br>って、あ～、もうその話はナシだったね！　ごめん」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|206||
|こうなってしまうのも仕方ない。<br>だって、今日は本当に、幸せでいっぱい…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|207|春希|Haruki
|「雪菜！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|208|雪菜|Setsuna
|「え…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|209||
|その声には、力がこもっていた。<br>半年ぶりに聞く、彼の、強い声かもしれなかった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|210|春希|Haruki
|「雪菜…今さらでなんだけど、<br>改めて、礼を言うよ。<br>今まで支えてくれて、本当にありがとう」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|211||
|そして、続く言葉も、<br>強さと、優しさと、穏やかさに満ちていた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|212|雪菜|Setsuna
|「や、やだ、なに？　改まって。<br>当然のことしたまでだよ…彼女として」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|213||
|やっぱり、治りかけてる…？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|214||
|そんな期待が、さらに胸を躍らせる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|215|春希|Haruki
|「当然のことじゃない…全然、当然なんかじゃなかった。<br>だって俺、雪菜を裏切った。<br>裏切って、逃げて、あげくの果てには壊れた…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|216|雪菜|Setsuna
|「そうだったっけ…もう忘れちゃったなぁ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|217|春希|Haruki
|「なのに雪菜は、そんな俺に献身的に尽くしてくれた」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|218|雪菜|Setsuna
|「そんなの、しょうがないよ。<br>だってわたし…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|219||
|『愛してるんだから』
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|220||
|今なら、言ってもいいんだろうか？<br>彼は、受け入れてくれるんだろうか？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|221|春希|Haruki
|「もし、雪菜がいなかったらさ…<br>俺は、何もかもから逃げて、結局、逃げ場を失って、<br>命ごと壊れてたかもしれない」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|222|雪菜|Setsuna
|「そんな、こと…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|223|春希|Haruki
|「俺にはもう、<br>一生かかっても、雪菜に返せない恩がある。<br>本当に、ごめん」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|224||
|報われた…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|225||
|報われた、報われた、報われた！
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|226|雪菜|Setsuna
|「いいんだよ…<br>そういうの、これからなんとでもなるんだから。<br>わたしたちの未来は、この先ずっと続くんだから」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|227||
|鼓動が、高鳴る。<br>身体が、熱い。<br>息が、苦しい…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|228||
|これでもう、何も…<br>わたしは、何も…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|229|春希|Haruki
|「だから雪菜…<br>落ち着いて、俺の願いを聞いてくれ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|230|雪菜|Setsuna
|「う、うん…っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|231|春希|Haruki
|「今日は、帰ってくれ。<br>明日も、そして夏休みも、来なくていい」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|232||
|………
|.........
|}}

{{WA2ScriptLine
|233||
|……
|......
|}}

{{WA2ScriptLine
|234||
|…
|...
|}}

{{WA2ScriptLine
|235|春希|Haruki
|「………」
|"........."
|}}

{{WA2ScriptLine
|236|雪菜|Setsuna
|「…ぇ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|237||
|それは…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|238|春希|Haruki
|「ごめん…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|239|雪菜|Setsuna
|「………え？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|240||
|なんて言うか、<br>この季節に相応しい、青天の霹靂で。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|241|春希|Haruki
|「こんな酷いことしか言えなくて、ごめん」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|242|雪菜|Setsuna
|「春希、くん…？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|243|春希|Haruki
|「ごめん、ごめんな、雪菜…<br>弱い俺を、許してくれ…っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|244||
|なに？　なんなの？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|245||
|なんで？　どうして？<br>なんでなんでなんで？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|246||
|………どうしてぇ！？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|247|春希|Haruki
|「許して、許して…っ、<br>ぃっ、ぅぅ…っ、ぅ、ぁ…っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|248||
|なに、これ？<br>春希くん、ちっともよくなんかなってない…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|249|春希|Haruki
|「本当は、雪菜が来たとき、<br>すぐに帰ってもらうはずだった」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|250||
|もう、治るんじゃなかったの？<br>わたし、報われるんじゃなかったの？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|251|春希|Haruki
|「それでも、雪菜を帰すのが今まで嫌で黙ってた。<br>勇気のない、意気地のない俺でごめんな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|252||
|だからなんで？　なんでなんでなんで！？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|253||
|自分が良くなってきたら、わたしは用済みなの？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|254|雪菜|Setsuna
|「は、春希、くん…？<br>春希、くん…っ！<br>あ、あ、あ…っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|255||
|ううん、違う、違う…<br>彼がそんな人間じゃないってのはわたしが一番知ってる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|256||
|あ、もしかして…<br>そんな酷いこと思うような人間だから、捨てられるの？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|257|雪菜|Setsuna
|「どうして？　どうしてなの…？<br>わたしの、何がいけないの！？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|258||
|だから、駄目なの？<br>どうしても、届かないの？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|259|雪菜|Setsuna
|「何が駄目だった？　直すから、改めるから…<br>だから、そんな悲しいこと、言わないでよぅ…っ！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|260||
|鼓動が、高鳴る。<br>身体が、熱い。<br>息が、苦しい…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|261||
|全身が、しびれたように動かない。<br>喉がからからに渇き、<br>けれど奥から吐き気が迫ってくる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|262|春希|Haruki
|「一目見て、わかったよ…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|263||
|と、その次の瞬間…<br>春希くんがわたしの額にそっと触れた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|264||
|いや…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|265|春希|Haruki
|「雪菜も、壊れ始めてしまったんだって…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|266||
|本当に触れたのは、額じゃなくて、<br>そこから噴き出す、大量の汗…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|267||
|………
|.........
|}}

{{WA2ScriptLine
|268|雪菜|Setsuna
|「な、ん…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|269||
|春希くんは、開きっぱなしの蛇口の水を止めると、<br>床にしゃがみ込んで、割れた皿の欠片を拾い始める。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|270|春希|Haruki
|「朝、起きるのが辛くなってるだろ？<br>それで、昨日も来れなかったし、<br>今日も遅くなったんじゃないか？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|271|雪菜|Setsuna
|「それは…だってわたし、低血圧だし」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|272||
|けれどわたしは、それを手伝うこともできず、<br>ただ、さっきまで彼の瞳があった場所を凝視する。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|273|春希|Haruki
|「突然、汗が止まらなくなったり、<br>息が苦しくなったりすることがあるだろ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|274|雪菜|Setsuna
|「夏だからだよ、暑いから…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|275|春希|Haruki
|「足が、動かなくなる。<br>先に、進めなくなる」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|276|雪菜|Setsuna
|「…っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|277||
|一度撃退したはずの吐き気が、<br>また、せり上がってくる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|278|春希|Haruki
|「で、それを隠すためには、<br>テンションを高く保つしかないんだ。<br>陽気に振る舞うしかないんだ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|279|雪菜|Setsuna
|「何を…言って」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|280|春希|Haruki
|「そうやって、いつも通りの自分を演じようとすると、<br>実は、いつもと違うことやってるって気づかない」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|281|雪菜|Setsuna
|「違うこと…って？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|282|春希|Haruki
|「雪菜、いつもは俺と反対の態度を取ってくれてたんだ。<br>俺が落ち込んでたら明るく、力強く。<br>俺が明るかったら慎重に、抑え気味に」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|283|雪菜|Setsuna
|「あ…っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|284||
|何もかも、看過されていた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|285|春希|Haruki
|「それは、俺の心を安定させるために、<br>雪菜が必死で頑張って作ってくれてた態度だって、<br>今になってみたら、わかる」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|286||
|わたしの苦しまぎれの浅知恵なんて、<br>この賢いひとに通用するはずなんかなかった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|287|春希|Haruki
|「けれど、今日は…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|288||
|今日のわたしは、彼の、調子がいいって言葉に乗って、<br>自分の方がより大げさにはしゃいでいた…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|289||
|ばれない、はずがない…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|290|春希|Haruki
|「多分、今の雪菜は<br>自分を誤魔化すことで精一杯なんだって。<br>それほどまでに、追い詰められているんだって…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|291|雪菜|Setsuna
|「違う、違うよ…<br>そんなの、勘違いだよ…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|292|春希|Haruki
|「俺はさ…今の雪菜のことだったら、<br>今の雪菜よりもわかってる自信があるんだよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|293|雪菜|Setsuna
|「なんで！<br>春希くんに、わたしの何が…っ！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|294|春希|Haruki
|「わからないわけないだろう…<br>俺が、今の雪菜の状態に気づかないわけないだろう…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|295|雪菜|Setsuna
|「あ…っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|296||
|その瞬間のわたしは、今の春希くんの言いたいことを、<br>今の春希くんよりもわかってしまった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|297|春希|Haruki
|「だって今の雪菜は…半年前の、俺だよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|298||
|そして、その思い込みでしかなかった確信は、<br>一字一句違わず、わたしの耳に正しく刻み込まれた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|299|春希|Haruki
|「しかも、俺は自業自得だったのに、<br>雪菜は、ただ、俺に巻き込まれただけじゃないか…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|300||
|聞きたくもなかった、<br>彼の、自傷の言葉とともに。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|301|春希|Haruki
|「う、あ、あ…<br>あ、あ…あああああっ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|302||
|春希くんが、また、泣いている…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|303||
|せっかく調子が良かったのに、<br>回復しかけていたのに…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|304||
|わたしが、冷水を浴びせてしまったからだ。<br>全部、わたしのせいなんだ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|305|春希|Haruki
|「だから帰れよ、雪菜…<br>そして、自分をいたわるんだ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|306||
|それって…それって、つまり…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|307|雪菜|Setsuna
|「い、嫌…嫌ぁ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|308||
|側にいようとしても、離れようとしても…<br>わたしは、彼の重荷にしかならないって、こと？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|309|春希|Haruki
|「…今ならまだ、間に合うよ。<br>今すぐなら、俺みたいにならずに済むんだ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|310|雪菜|Setsuna
|「で、でも、でも…<br>そうしたら、春希くんは…？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|311|春希|Haruki
|「俺は…大丈夫だよ。<br>調子、よくなりかけてるって言っただろ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|312|雪菜|Setsuna
|「今泣いてるじゃない！<br>わたしのせいで、またおかしくなっちゃったじゃない！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|313|春希|Haruki
|「少しだけだ…<br>また休めば、回復するよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|314|雪菜|Setsuna
|「そんなの駄目…お医者さんだって言ってたじゃない！<br>治りかけが一番危ないんだって」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|315|春希|Haruki
|「医者は、こうも言ってたよ。<br>…かかり始めが一番大事なんだって」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|316|雪菜|Setsuna
|「っ…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|317|春希|Haruki
|「なぁ、雪菜…頼むから俺の言うことを聞いてくれ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|318||
|彼の泣く声が、わたしの涙腺を刺激する。<br>今にも泣き叫んですがってしまいたい欲望に駆られる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|319|春希|Haruki
|「ここでやり方を間違えたら、<br>取り返しの付かないことになるんだよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|320|雪菜|Setsuna
|「は、は…春希くん…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|321||
|けど、泣き叫べない、すがれない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|322||
|そんなことをしたら、わたしが彼を壊してしまう。<br>やっぱり、お荷物に、疫病神に、なってしまう。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|323|春希|Haruki
|「何度でも言うぞ、雪菜」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|324||
|そして…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|325||
|壊れかけの勇気を振り絞って、<br>春希くんは…わたしを切り離す。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|326|春希|Haruki
|「今日は、帰るんだ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|327||
|二人で、奈落に堕ちていかないよう、<br>一人で、堕ちることを選ぶ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|328|春希|Haruki
|「そして、しばらくは絶対に来ちゃいけない」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|329||
|自分が壊れることも厭わずに、<br>躊躇なくわたしを護る選択肢を選ぶ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|330|春希|Haruki
|「いや………来るな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|331||
|かずさとは、堕ちていこうとしたくせに。
|
|}}

{{WA2ScriptTableEnd}}