Editing White Album 2/Script/6101 (section)

== Text ==
{{WA2ScriptTable}}

{{WA2ScriptLine
|1|春希|Haruki
|「……ふぅ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|2||
|熱いシャワーを浴びて身を引き締めると、<br>ようやく体が冬の空気になじんでくる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|3||
|今日も、寒いけどいい天気だ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|4||
|洗濯機の音や、窓からの光が、<br>今日一日の始まりを告げる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|5||
|いや、始まりというには、<br>ほんのちょっとのんびりした時間だけど、<br>まぁ、日曜日の今日ならば許容範囲だ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|6||
|そしてこれから、日曜日恒例の戦いが始まる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|7|春希|Haruki
|「雪菜」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|8|雪菜|Setsuna
|「…………」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|9|春希|Haruki
|「そろそろ起きろよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|10|雪菜|Setsuna
|「んんぅぅぅ～……もう少しぃ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|11|春希|Haruki
|「もう“昼の”１０時半だぞ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|12|雪菜|Setsuna
|「そうだよぉ、まだ“朝の”１０時半じゃない～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|13||
|……そう、『どこまでが朝か』という、<br>許容範囲の線引きについての激しい戦いが。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|14|春希|Haruki
|「あと３０分したらモーニングサービスも終わるんだぞ？<br>れっきとした昼だろ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|15|雪菜|Setsuna
|「裏を返せば、<br>朝はまだ３０分もあるってことだよ～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|16|春希|Haruki
|「３０分以内にちゃんと覚醒できる人なら<br>通用する言い訳なんだけどな……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|17|雪菜|Setsuna
|「イベントもショップ回りもない<br>真の日曜日は久しぶりなんだよ。<br>お願いだからもう少し寝かせてよぅ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|18||
|我が低血圧の姫は、<br>朝に弱いせいで、朝には強い（我が）。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|19||
|こうなったときの彼女は、まさに北風に抗う旅人。<br>生半可な強制じゃ、てこでも動かない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|20||
|ならば仕方ない……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|21|春希|Haruki
|「わかったよ……おやすみ、雪菜」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|22|雪菜|Setsuna
|「ありがと春希くん。<br>だから愛して……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|23|春希|Haruki
|「じゃ、俺、今から腕を振るって昼飯作るから。<br>できるまでゆっくり寝てていいよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|24|雪菜|Setsuna
|「…………駄目」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|25|春希|Haruki
|「ん？　なんか言った？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|26||
|そう、太陽の光を浴びせるまでだ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|27|雪菜|Setsuna
|「駄目、春希くんは食事を作っちゃ駄目……<br>そんなの、妻の沽券に係わるもん」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|28|春希|Haruki
|「共働きなんだから、俺がやっても全然問題ないだろ。<br>何しろ雪菜は激務で疲れてるんだし」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|29|雪菜|Setsuna
|「毎日わたしより早く家を出て、<br>わたしより遅く帰る人に言われたくない……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|30|春希|Haruki
|「普段は雪菜に任せきりだし、<br>日曜くらいは恩返ししないと」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|31|雪菜|Setsuna
|「でも春希くん、洗濯も掃除も<br>隙あらばわたしから奪うじゃない。<br>料理くらい守っておかないとカッコつかないよ～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|32|春希|Haruki
|「なら起きろ。<br>俺は腹ペコなんだよ。<br>放っておくと自分で手間かけてご飯作っちゃうぞ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|33|雪菜|Setsuna
|「うう、鬼、悪魔、裏の実行委員長～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|34|春希|Haruki
|「ミス峰城大付属のお姫様におかれましては、<br>その名を汚すような言動は慎むように」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|35||
|こんなふうに、<br>週末にもなると幸せな惰眠を貪りつつ、<br>それでも兼業主婦の権利を声高に主張する、俺の妻。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|36||
|小木曽雪菜、改め、北原雪菜。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|37||
|元・ミス峰城大付属三連覇の学園アイドルにして、<br>現・ナイツレコードの広報アイドル。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|38|春希|Haruki
|「ほら、約束したからにはちゃんと起きよう？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|39|雪菜|Setsuna
|「……春希くんが、起こして」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|40||
|そんな雪菜が、絶対に他人には見せることのない、<br>まるで甘えん坊の子供……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|41||
|いや、お姫様みたいにベッドから手を差し伸べてくる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|42|春希|Haruki
|「わかったわか……うわぁっ！？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|43|雪菜|Setsuna
|「えへへ、捕まえた～っと」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|44||
|かと思ったら、こちらの手をいきなり引っ張ると、<br>体ごとベッドの上に引きずり込んでくる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|45|雪菜|Setsuna
|「どうせなら、春希くんも一緒に二度寝しない？<br>今日は別に、誰も咎める人はいないよ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|46|春希|Haruki
|「とかなんとか言っといて、<br>ちっとも寝る気ないだろ、そうなんだろ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|47||
|それも明らかに、<br>安らかな寝息を立てようというのではない、<br>もっとアグレッシブな動作で。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|48|雪菜|Setsuna
|「ね、ね、春希くん……んぅ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|49||
|例えば、そう、<br>その唇が、俺の首筋に触れてきたりとか。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|50|春希|Haruki
|「そんなことしたら、余計に腹が減るだろ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|51|雪菜|Setsuna
|「お昼ごはん、美味しく食べられそうだね。<br>ん、ちゅ……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|52|春希|Haruki
|「っ……いや、朝だぞ？　駄目だろ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|53|雪菜|Setsuna
|「こっちは……駄目だって言ってないみたいだよ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|54||
|例えば、そう、<br>その指が、俺の……に触れてきたりとか。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|55|春希|Haruki
|「そもそもそこは喋らないからっ、ぁっ……<br>せ、雪菜……いや、その……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|56|雪菜|Setsuna
|「ん、ふふ、春希くん……ん、んぅ、ん、くっ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|57|春希|Haruki
|「は、あ……ったく、こら、ん……っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|58|雪菜|Setsuna
|「っ……んふっ、んふふ……んぷ……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|59|春希|Haruki
|「…………」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|60|雪菜|Setsuna
|「…………」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|61||
|最初から言ってあるけれど、<br>今の時間は、午前１０時３０分。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|62||
|この時間帯に来るお客は、<br>別に失礼でもなんでもなく……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|63|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「ちょっと雪菜。<br>そろそろ起きなさ～い！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|64|春希|Haruki
|「……あ～、そういえば、<br>お義母さん、朝から手伝いに来るって言ってたっけ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|65|雪菜|Setsuna
|「違うよ！　お昼ごろって言ってたよ！<br>もう、せっかちなんだから～！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|66||
|……そんな訳で、<br>『どこまでが朝か』議論を再燃させつつ、<br>俺たちは、慌ててベッドから飛び起きる。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|67||
|時[W15]は[W15]１[W15]２[W15]月[W15]の[W15]下[W15]旬[W15]に[W15]差[W15]し[W15]掛[W15]か[W15]っ[W15]た[W15]と[W15]こ[W15]ろ[W15]。[W15]
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|68||
|小[W10]木[W10]曽[W10]雪[W10]菜[W10]が[W10]、[W10]名[W10]字[W10]だ[W10]け[W10]を[W10]ち[W10]ょ[W10]こ[W10]っ[W10]と[W10]改[W10]名[W10]し[W10]て[W10]、[W10]<br>一[W10]年[W10]ち[W10]ょ[W10]っ[W10]と[W10]が[W10]経[W10]過[W10]し[W10]た[W10]…[W10]…[W10]
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|69||
|そ[W10]ん[W10]な[W10]冬[W10]の[W10]、[W10]こ[W10]ん[W10]な[W10]部[W10]屋[W10]で[W10]の[W10]、[W10]<br>残[W10]り[W10]数[W10]日[W10]間[W10]の[W10]物[W10]語[W10]。[W10]
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|70|春希|Haruki
|「えっと、お茶どうぞ……お義母さん」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|71|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「いいえぇ、お構いなく。<br>……それより、ごめんなさいね春希さん。<br>ほんっと寝ぼすけな娘で」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|72|春希|Haruki
|「ああ、いえ、普段はしっかりしてますよ。<br>今日はたまの休みだし……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|73|雪菜|Setsuna
|「そうだよ～！<br>余計なこと言わないでよお母さんは！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|74|春希|Haruki
|「雪菜こそ余計なタイミングで<br>顔出さなくていいから……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|75|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「そうよ、ちゃんと服着て髪乾かしてから来なさい。<br>お行儀悪いわねぇ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|76|雪菜|Setsuna
|「どうもすいませんね～、<br>親のしつけがなってないものですから～！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|77|春希|Haruki
|「はは、は……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|78|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「本当にごめんなさいね。<br>主人が甘やかすからワガママ放題に育って」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|79|春希|Haruki
|「いえ……ありがとうございます。<br>雪菜をワガママに育ててくれて」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|80|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「え、春希さんって、もしかして虐げられることで<br>悦ぶとか、そういうアレな……？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|81|春希|Haruki
|「いえ、そうじゃなくて……<br>いえ、それでもいいですよもう」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|82||
|怪訝というか、ちょっと引いたような表情で、<br>お義母さんが俺のことをまじまじと見つめている。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|83||
|けれど俺は、そんな反応にも曖昧に笑顔を返しつつ、<br>彼女がさらに怪訝な表情を浮かべてしまうかもしれない、<br>感謝の気持ちを心に浮かべる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|84||
|本当に、ありがとうございますって。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|85||
|雪菜をワガママに、優しく、普通で、<br>そして強く育ててくれてって。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|86||
|だって……<br>俺の過ちで何度も傷つけてしまった彼女を<br>決して折れないままで保ってくれたのは。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|87||
|少しくらい折れてしまっても、<br>元に戻してくれたのは。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|88||
|お義父さんや、このお義母さん、<br>そして弟君に、違いなかったから。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|89||
|…………
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|90|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「それにしても、<br>ただでさえ忙しい年の瀬にお引越しなんてねぇ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|91|雪菜|Setsuna
|「何言ってるのよお母さん。<br>お引越しと大掃除がいっぺんに片付いて効率的じゃない」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|92|春希|Haruki
|「それに、引っ越し蕎麦が<br>そのまま年越し蕎麦に使えますから、<br>隣近所としても効率的かなって」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|93|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「もう少しくらいここに住んでてもよかったじゃない。<br>二人ならこの部屋で十分だったでしょ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|94|春希|Haruki
|「お義父さんには<br>『いつまで娘をこんな狭い部屋に閉じ込めておく気だ』<br>なんて怒られてましたけどね……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|95||
|次の土曜……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|96||
|お義母さんの言う通り、年の瀬も押し迫った週末に、<br>俺たちは、この、大学時代から住み慣れた部屋を離れ、<br>五駅ほど離れた、２ＬＤＫのマンションへと移り住む。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|97||
|そんなわけで、あと一週間に迫った引っ越しを控え、<br>今日はお義母さんが準備の手伝いに来てくれていた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|98|雪菜|Setsuna
|「あ～、お母さん！　食器全部片づけちゃ駄目だよ。<br>明日からの食事どうするのよ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|99|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「紙コップと紙皿で我慢しなさい。<br>前の日にバタバタして結局片づけ終わらないより<br>よっぽどマシでしょ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|100|雪菜|Setsuna
|「引っ越しまでまだ一週間あるんだよ？<br>普段使わないものからしまってってよ。<br>あ～、テレビも駄目だよまだ見るんだから」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|101|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「もう、うるさいわねぇ。<br>だったら雪菜が自分で全部やればいいのよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|102|春希|Haruki
|「はは……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|103||
|『俺が全部やりますからわざわざ来ていただかなくても』
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|104||
|そんな、当然のように俺の口から出た辞退の言葉は、<br>小木曽家の人々にいたく反感を買ったらしく、<br>発言の後、雪菜含めた皆にめっちゃ怒られた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|105||
|『いつまで堅苦しい態度を取っているんだ』とか、<br>『よそよそしさにも程がある』とか、『そういえば<br>式の前日にもこんなことがあったんだよ？』とか……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|106||
|いや、なんか理不尽なものも混じってたような気もするが、<br>それはいいとして……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|107||
|もちろん悪い人たちじゃないし、俺も好きなんだけど、<br>未だにあの家の人たちと俺の考え方には、<br>笑ってしまうくらいのギャップを感じることがある。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|108|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「……あら？　ちょっとこれ、雪菜」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|109|雪菜|Setsuna
|「何よお母さん。<br>わたし今、一人で全部片づけやってて忙しいんだけど」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|110|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「そんなことよりもほら！<br>これ、あなたの中学の時のアルバム」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|111|雪菜|Setsuna
|「あ～、こんなところにあったんだぁ。<br>絶対に持ってきたと思ってたのに<br>ずっと見つからなかったんだよね～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|112|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「この小さい部屋にこんなものまで持ってきてたのね。<br>道理で狭く感じるはずだわ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|113|春希|Haruki
|「……本当すいません小さな部屋で」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|114||
|『貯金がある程度貯まるまではここでいいよ』<br>って強硬に主張してたのは、<br>どちらかと言えばお宅の娘さんだったんですけどね……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|115|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「って、あらあら、懐かしいわねぇ。<br>ほら、中学生時代の雪菜。<br>ちょっとちょっと春希さん」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|116|春希|Haruki
|「何度も見ましたから」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|117||
|もう、同じクラスの誰と誰が仲良しで、<br>誰と仲違いして、誰と仲直りしたかまで全部知ってる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|118||
|……ついでに、ほら、なんだ。<br>告白してきたサッカー部のエース君の<br>クラスと名前と顔まで知ってる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|119||
|別に、そこまで教えてくれる必要なかったのに。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|120|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「ほんっと、この頃は素直で可愛かったのよねぇ。<br>いつから親の言うことまったく聞かない<br>頑固な娘になったんだか」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|121|雪菜|Setsuna
|「あ、長崎！<br>これ修学旅行だよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|122|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「あぁ、覚えてる覚えてる。<br>確か雪菜、前の日まで３８度の熱出してて」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|123|雪菜|Setsuna
|「そうそう！<br>それでお父さんが旅行行くなって言い出して」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|124|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「あなた大泣きして、どうしても行くって……<br>って、よく考えてみたらこの頃から<br>全然親の言うこと聞いてなかったわよね」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|125|雪菜|Setsuna
|「そんなことないよ～。<br>この時はちゃんと翌朝に３６度まで下がったんだもん」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|126|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「体温計、ズルしてたの知ってるのよ？<br>ちゃんと脇の下に挟んでなかったでしょ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|127|雪菜|Setsuna
|「え～、そうだったっけ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|128|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「ほらこの写真見なさい。<br>顔、赤く腫れてるじゃない。<br>全然熱が下がってなかった証拠よ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|129|雪菜|Setsuna
|「うわぁ、変な顔～。<br>いやだなにこれ恥ずかしい～。<br>ちょっと、春希くんは絶対見ちゃ駄目だよ！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|130|春希|Haruki
|「……見ないから早く片づけやりませんか二人とも？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|131||
|…………
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|132||
|……と、いうわけで。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|133|春希|Haruki
|「今日は本当、ありがとうございました。<br>おかげで助かりました」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|134|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「でもやっぱり一日じゃ無理だったわね。<br>また今度来るわ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|135|雪菜|Setsuna
|「もう、引っ越し当日まで二人ともずっと仕事だから、<br>来てもらっても誰もいないよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|136|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「え～、そうなの？<br>でも、まだ半分も片付いてないけど……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|137|雪菜|Setsuna
|「何しろ全然進まなかったからね。<br>本当、何しに来たんだか」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|138|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「雪菜だってずっと一緒にサボってたくせに」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|139||
|二人の総評にもあるように、<br>本日の引っ越し準備は、見事なまでに停滞した。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|140||
|アルバムに始まり、古い小説や漫画、<br>今は着なくなった洋服に着けなくなったアクセサリ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|141||
|そんな、『この小さな部屋によく持ち込んだな』<br>なんてアイテムが幾度も出土され、そのたびに<br>二人の手が止まり、会話は盛り上がった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|142||
|しかも厄介なことに、<br>二人は俺を蚊帳の外に置くこともよしとせず……<br>結局、俺もその『休憩』に何度も巻き込まれた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|143||
|だからといって『俺一人でやった方が進んだかも』<br>などという真理は口にしちゃいけない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|144|雪菜|Setsuna
|「それにしても、もう帰るの？<br>うちでご飯食べていけばいいのに。<br>いいよね春希くん？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|145|春希|Haruki
|「もちろん。<br>是非食べていってください」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|146|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「そうしたいのは山々だけど、<br>そうもいかなくてね」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|147|雪菜|Setsuna
|「お父さんや孝宏だったら、<br>適当に外食させておけばいいじゃない。<br>ね？　もうちょっとこっちにいようよ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|148||
|いや、その男家族に対する仕打ちに関しては<br>『是非』とは言えないけれど……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|149|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「違うの、他に用事があるのよ。<br>今から夜の部のお芝居観に行くの。<br>北原さんとね」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|150|春希|Haruki
|「え……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|151|雪菜|Setsuna
|「なぁんだ、それなら早く言ってよ。<br>お弁当とか作ったのに」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|152|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「それも結構よ。観終わったら御宿で<br>フランス料理のお店予約してあるんだもの。<br>……もちろんお父さんたちには内緒で」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|153||
|お義母さんの言う『北原さん』ってのは、<br>もちろん俺と雪菜のことじゃなくて。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|154||
|だとしたら、その名字を持つ人は、<br>俺たちの心当たりには、あと一人しかいなくて。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|155|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「そんなわけで、お邪魔しました」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|156|春希|Haruki
|「あ、あの……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|157|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「はい？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|158|春希|Haruki
|「……いえ、<br>ありがとうございました」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|159|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「今度は新居で会いましょう？<br>それじゃ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|160|春希|Haruki
|「……はい」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|161||
|俺の表情や態度から何も読み取らなかったのか、<br>それとも、わかってて軽くスルーしてくれたのか……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|162||
|お義母さんは、まるでいつも通りの態度で、<br>普通に俺たちの前から去って行った。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|163||
|いつの間にか、俺だけじゃなく、<br>俺の母親まで小木曽家のコミュニティに巻き込んで。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|164||
|俺ができなかったことを、<br>俺がやる気にならなかったことを、<br>さらっと実現してしまい。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|165|雪菜|Setsuna
|「さてと、<br>じゃ、わたしたちも晩ご飯にしよっか？」
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{{WA2ScriptLine
|166|春希|Haruki
|「……雪菜、お前知ってたのか？」
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{{WA2ScriptLine
|167|雪菜|Setsuna
|「ううん、全然～？」
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{{WA2ScriptLine
|168||
|なんてうそぶきながら、<br>その目がものすごく悪戯っぽく笑ってる。
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{{WA2ScriptLine
|169||
|本当に、この家族は……
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{{WA2ScriptLine
|170||
|悪い人たちじゃないし、俺も好きなんだけど、<br>俺の考え方とは、<br>笑ってしまうくらいのギャップを感じることがある。
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{{WA2ScriptLine
|171||
|俺が今まで逃げてきたしがらみや確執に、<br>土足でずかずかと入り込み。
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{{WA2ScriptLine
|172||
|そして、何もかも『めでたしめでたし』に<br>転化してしまう。
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{{WA2ScriptLine
|173||
|俺が、想像もできなかった結末を、用意してしまう。
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{{WA2ScriptLine
|174|雪菜|Setsuna
|「そろそろ部屋入ろうか？<br>寒くなってきたし」
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{{WA2ScriptLine
|175|春希|Haruki
|「うん……」
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{{WA2ScriptLine
|176||
|本当に、想像もしていなかった。
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{{WA2ScriptLine
|177||
|俺が、日曜の夕方を必ず家族と過ごすなんて。
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{{WA2ScriptLine
|178||
|見る気もないテレビをだらだらと無意味に見て、<br>勝手に出てくる食事を、<br>勝手に注いでくれるビールで味わい。
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{{WA2ScriptLine
|179||
|相手が次から次へと無駄話を振ってきて、<br>あまりにも適当に相槌打ってたら拗ねられたりして、<br>そしたらなだめるのが結構めんどくさくて。
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{{WA2ScriptLine
|180||
|こんなに賑やかで、<br>こんなに無駄で非効率で、<br>こんなに慣れてなくて……
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{{WA2ScriptLine
|181||
|そして、こんなに夢見ていた日々を過ごすなんて。
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{{WA2ScriptLine
|182||
|これは、全ての負が正へと転じた、<br>あの、夢のような結末の……
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{{WA2ScriptLine
|183||
|いや、夢でもない、結末でもない。
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{{WA2ScriptLine
|184||
|幸せな現実の、続き。
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