Editing White Album 2/Script/4003 (section)

== Text ==
{{WA2ScriptTable}}

{{WA2ScriptLine
|1|雪菜|Setsuna
|「あ…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|2||
|『今、図書館を出たところ』
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|3||
|『今日は晴れてて気持ちいいし、<br>このまま散歩がてら歩いて帰る』
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|4||
|『そういえば、そろそろ職場復帰もできそうだ』
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|5||
|『今週末に月一の上司面談だから、<br>そこで申し出てみようと思う』
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|6||
|『本当に、今までありがとう雪菜。<br>仕事、忙しいのに色々迷惑掛けた。ごめんな』
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|7||
|『もう、毎週も来てくれなくていいよ。<br>今週末は雪菜も家でゆっくり休んで』
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|}}

{{WA2ScriptLine
|8|雪菜|Setsuna
|「春希くん…」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|9||
|春が過ぎ、暦の上では夏が来ていた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|10||
|まだ朝夕は涼しいけれど、<br>日中は思い出したように汗ばむ陽気になったりして、<br>これからやってくる蒸し暑さに思いを馳せる頃。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|11||
|『お疲れさま。<br>でも、あまり無理しないでね。<br>辛くなったらちゃんとタクシー使ってね』
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|}}

{{WA2ScriptLine
|12||
|春希くんは、リハビリを始めた。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|13||
|お医者さんとも相談しながら、少しずつ。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|14||
|まずは週に一度くらい、図書館で日中を過ごし、<br>静かながらも人に触れ、そして社会に触れる。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|15||
|もちろんそのことも嬉しかったけど、<br>わたしにとって一番の朗報が、これ。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|16||
|『でも、確かに今日は歩きたくなるのもわかるよ。<br>ほんっと、空気が気持ちいいよね』
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|}}

{{WA2ScriptLine
|17||
|春希くんが、メールを再開した。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|18||
|しばらく、携帯の電源すら入れられなかったけれど。<br>今もまだ、電話はかけられないし、出られないけれど。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|19||
|それでもわたしには、わたしだけには、<br>ふたたび語りかけてくれるようになった。<br>それが、本当に嬉しい。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|20||
|『あ、わたしも今、出先からの移動中。<br>別に仕事サボってメールしてるわけじゃないから』
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|}}

{{WA2ScriptLine
|21||
|昔から、彼のメールは、わたしの支えだった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|22||
|一日に一度だけ届くメッセージを待ち望んだ日々。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|23||
|一日に一度だけの約束だったのに、<br>二通目を、三通目を期待して、<br>今みたいに返信し続けた日々。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|24||
|『…移動中に私用メールってのが、<br>サボってないかというと微妙なところかな？　あはは』
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|}}

{{WA2ScriptLine
|25||
|すれ違ってしまったときも、<br>拒絶してしまったときも、<br>そして、絆が傷ついてしまったときも。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|26||
|そのたび、たった一通のメールが、<br>わたしたちを再び繋げてくれたから。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|27||
|『それはそうと、もう職場復帰のこと考えてるんだ。<br>すごいね、だいぶよくなったみたいだね』
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|28||
|『でも、そんなに慌てなくていいよ。<br>前にも言ったけれど、<br>ゆっくり、しっかり段階踏んでいこう』
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|29||
|『面談の結果とか、お薬のこととか、<br>職場の現状とか見てさ、<br>二人で一緒に考えて決めていこうよ』
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|30||
|『そんなわけで、今週末、やっぱりそっちに行きます。<br>いろいろ話したいことできたもんね』
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|31||
|『ていうか、<br>週に一度のわたしの楽しみを奪わないで欲しいな～<br>絶対行くからね！』
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|32||
|『それじゃ』
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|33|雪菜|Setsuna
|「週末…か」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|34||
|でも…
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|}}

{{WA2ScriptLine
|35||
|嬉しくもあるけれど、<br>そんな自分の満足だけに浸ってるわけにはいかない。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|36||
|今日の彼のメールは、確かに前向きだった。<br>意欲が、滲み出ていた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|37||
|けれど、だからこそ不安も感じる。<br>取り越し苦労だったらいいんだけれど…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|38||
|いきなり職場復帰だなんて、<br>ちょっと判断が早すぎる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|39||
|もっと色んな人に相談して、冷静に判断しないと。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|40||
|それに、今週末は確か…
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|}}

{{WA2ScriptLine
|41|アナウンサー|Announcer
|「続きまして、週末のお天気です」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|42|アナウンサー|Announcer
|「明日の午後より、<br>西の方から湿った空気が入り込んできます」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|43|アナウンサー|Announcer
|「九州、四国地方に引き続き、この週末、<br>近畿から関東にかけて一気に梅雨入りが予想され…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|44||
|………
|.........
|}}

{{WA2ScriptLine
|45|雪菜|Setsuna
|「ただいま…」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|46||
|そして、週末の金曜日…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|47|雪菜|Setsuna
|「春希、くん？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|48||
|相変わらず閉め切って暗い部屋の中には、<br>けれど確かに人の気配があった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|49||
|けれどその気配は、いつも通りのベッドの中ではなく…
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|}}

{{WA2ScriptLine
|50|春希|Haruki
|「来なくていいって言っただろ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|51||
|ベッドの反対側の、部屋の片隅。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|52||
|壁にもたれかかり、中空を見上げていた彼の、<br>いつも以上に力のない声がようやく届く。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|53|雪菜|Setsuna
|「面談は？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|54|春希|Haruki
|「………行かなかった」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|55|雪菜|Setsuna
|「そっか」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|56|春希|Haruki
|「雨が…<br>雨がさ。<br>ずっと、やまなくて、さ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|57|雪菜|Setsuna
|「うん、正解。<br>出なくてよかったよ。<br>ほら見て、わたしもビショビショで…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|58|春希|Haruki
|「くそっ、なんで降るんだよ。<br>こんな大事な日に限ってさ…っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|59||
|昨日のメールの文面とは対照的な<br>口調、声、そして言葉。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|60||
|今の春希くんは、ほんの少しのきっかけで、<br>こんなふうに、大きく感情が振れてしまう。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|61|雪菜|Setsuna
|「お天気は仕方ないよ。<br>また今度、日を改めて、ね？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|62||
|彼の隣に腰掛ける。<br>彼が濡れないように、少しだけ距離を置いて。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|63||
|…彼を怯えさせないように、<br>息苦しさを感じさせないように、<br>ほんの少しだけ距離を置いて。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|64|春希|Haruki
|「けど俺、この前の面談も行かなかった。<br>これで二か月、会社に顔出してない」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|65|雪菜|Setsuna
|「だからぁ、そんなに急ぐ必要ないって。<br>ほんっと、春希くんは昔っから慌て者だよね」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|66||
|そっと肩に手を置く。<br>それくらいのスキンシップなら、拒絶されないだろうって。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|67||
|…そんなふうに、<br>毎日のように変わってしまう彼との距離感を、<br>今日も、手探りで測る。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|68|春希|Haruki
|「このままじゃ、みんなに忘れられる。<br>俺なんか、最初からいなかったことになる」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|69|雪菜|Setsuna
|「そんなわけないって。<br>みんな、ちゃんと待っててくれるって」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|70|春希|Haruki
|「どうしてそんなことがわかるんだよ…<br>雪菜に、俺の職場の何が…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|71|雪菜|Setsuna
|「それは…ほら、わたしも似たような仕事してるし」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|72|春希|Haruki
|「雪菜は…いいよな。<br>忙しそうでさ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|73|雪菜|Setsuna
|「ただ仕事が遅いだけだよ。<br>相変わらず周囲に迷惑かけてばっかり」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|74|春希|Haruki
|「みんなに必要にされてて、いいよな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|75|雪菜|Setsuna
|「だからぁ、春希くんだって必要とされてるよ。<br>寄せ書きだってくれたじゃない、みんな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|76||
|彼のベッドの脇には、<br>開桜グラフ編集部の人たちが贈ってくれた<br>色紙が飾られている。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|77||
|なんでも、今はアメリカにいる元上司の人が、<br>わざわざ声を掛けて集めてくれたんだそうだ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|78|春希|Haruki
|「あれはみんなの…二か月も前の気持ちだよ。<br>俺が、すぐ元気になるって<br>信じてくれてた頃の気持ちだよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|79|雪菜|Setsuna
|「すぐだなんて思ってないよ。<br>いつか元気になればいいって、そう思ってくれてるよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|80||
|そう、彼はそれほどまでに、<br>今の会社に必要とされている。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|81|春希|Haruki
|「今はどう思ってるかわからないよ…<br>いや、もう、何の感情も持ってないかもしれない」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|82||
|ただ、今の彼自身がそれを信じられないだけ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|83|雪菜|Setsuna
|「待っててくれるよ…<br>それほどまでに、あなたは今まで結果を出してきた。<br>絶対、待っててくれるから」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|84|春希|Haruki
|「わかるもんか。<br>人の気持ちなんて変わるものだろ…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|85|雪菜|Setsuna
|「ううん、変わらないって」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|86|春希|Haruki
|「いいや、変わる。<br>だって俺は、二年も一緒だった君を…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|87|雪菜|Setsuna
|「っ…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|88||
|春希くんの、自分でも制御できない言葉が、<br>わたしにも、ちょっとだけ突き刺さる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|89||
|けれどその痛みは、<br>多分、彼が意図したものとはちょっとだけ違ってて。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|90|春希|Haruki
|「ずっと愛していたはずの雪菜を、裏切った…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|91||
|そう、だからだよ…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|92||
|だからわたしは信じられるんだよ。<br>変わらない気持ちが、色褪せない想いがあるってことを。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|93||
|五年もかずさを忘れなかったあなたが側にいるから、<br>信じられてしまうんだよ…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|94|春希|Haruki
|「やっぱり、おかしいよ…<br>どうして雪菜は、俺のそばにい続けられるんだよ…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|95|雪菜|Setsuna
|「だから、それはわたしのワガママで…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|96|春希|Haruki
|「確かに俺は言ったよ…<br>『雪菜がいないと生きていけない』って」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|97|雪菜|Setsuna
|「そう、だったかな…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|98|春希|Haruki
|「けれど、だからって、<br>こんな俺なんかの側にいちゃ駄目だろ。<br>生きていけないなら、死ぬべきだろ、俺」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|99|雪菜|Setsuna
|「春希くん…駄目だよ。<br>そんなこと、冗談でも思っちゃいけないんだってば…っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|100|春希|Haruki
|「死んじまえ、俺…っ、<br>雪菜を、自由にしてやれよ…っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|101|雪菜|Setsuna
|「ごめん、ごめんね…<br>あなたを苦しめてしまって、ごめんなさい」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|102|春希|Haruki
|「謝るなよ…<br>ますます俺が惨めになるじゃないか…っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|103|雪菜|Setsuna
|「春希くん…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|104||
|震える彼の体が、今までで一番小さく見える。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|105||
|そんな小さな体を、力一杯抱きしめたい。<br>重く辛い苦しみを、少しでも和らげたい。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|106||
|けれど、今はできない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|107||
|だって、わたしの抱擁は、<br>きっと、彼をいばらの蔓のように、傷つけ絡め取るから。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|108||
|春が過ぎ、暦の上では夏が来た。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|109||
|そして…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|110||
|暑さとともに、<br>この、湿っぽく、薄暗い季節がやってきた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|111||
|………
|.........
|}}

{{WA2ScriptLine
|112||
|……
|......
|}}

{{WA2ScriptLine
|113||
|…
|...
|}}

{{WA2ScriptLine
|114|雪菜|Setsuna
|「………ぁ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|115||
|目が覚めると、そこは見慣れすぎた天井。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|116||
|二年間、毎週末見てきた彼の部屋の、じゃない。<br>生まれてからずっと見てきた、わたしの部屋の天井。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|117||
|目覚ましを止めて窓を開けると、<br>やっぱり今日も、昨日と同じ嫌な色の空がわたしを迎える。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|118||
|また今日も、雨…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|119|雪菜|Setsuna
|「ん～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|120||
|春希くんの部屋で迎えない、週末の朝。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|121||
|そう、結局昨夜は泊まらなかった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|122||
|昨日の彼は、わたしが側にいるだけで参ってしまうほどの、<br>十日に一度くらい陥る、どん底の状態だったから。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|123||
|雨の音と、空の暗さと、生温い空気にあてられて、<br>元気も、勇気も奪われてしまっていたから。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|124||
|そんな日は、慰めても、励ましても、優しくしても、<br>春希くんが力を取り戻すことは、経験上ない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|125||
|だからわたしは、少しでも彼が安らげる方法…<br>彼の前から、いなくなることしかできなかった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|126|雪菜|Setsuna
|「起きなくちゃ…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|127||
|休みの日の朝になると、<br>いつもわたしをベッドに縛り付けようとする<br>低血圧と戦いながら、ゆっくりと体を起こす。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|128|雪菜|Setsuna
|「行かなくちゃ…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|129||
|今日も、春希くんの部屋で彼と過ごすために。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|130||
|あれから、ちゃんと眠れただろうか。<br>少しは気力を取り戻せただろうか。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|131||
|食事は摂っただろうか。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|132||
|なにしろ目を離すと、<br>水すら一滴も飲まずに何日も過ごしていることもあるから<br>そこはきちんと確認しないと。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|133||
|そんな様々な心配事に思いを馳せ、<br>わたしは着替えるために寝間着に手を掛けて…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|134|雪菜|Setsuna
|「………あれ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|135||
|さっきの、自分の口から出たはずの言葉に、<br>嫌な感じの違和感を覚えた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|136||
|『行かなくちゃ』って、どういうこと…？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|137||
|………
|.........
|}}

{{WA2ScriptLine
|138|雪菜|Setsuna
|「じゃあ、出かけてくるね」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|139|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「あ、雪菜、今日はお夕飯は？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|140||
|週末出かけるときは、行き先なんか言わない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|141||
|そして家族も、今さら行き先なんか聞かない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|142|雪菜|Setsuna
|「いらない。<br>向こうで食べてくるから」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|143|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「…今日は帰ってくる？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|144||
|それほどまでに、<br>わたしの居場所に選択肢なんかない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|145|雪菜|Setsuna
|「…わかんない。<br>どっちにしても一度電話するから」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|146|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「そう…<br>雨降ってるから、滑らないように気をつけなさい」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|147|雪菜|Setsuna
|「うん、わかってる。<br>それじゃ、行ってきます」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|148||
|それが、ここ二年間の、我が家の当たり前の日常。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|149||
|半年くらい前までは、苦笑交じりにスルーされ、<br>そして今は、ため息交じりにスルーされる、日常。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|150|雪菜の父|Setsuna's Father
|「待ちなさい、雪菜」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|151|雪菜|Setsuna
|「お父さん…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|152||
|けれど、今日は…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|153|雪菜の父|Setsuna's Father
|「ちょっと話があるんだ。<br>母さんも一緒に」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|154|雪菜|Setsuna
|「ごめん、今は急ぐから。<br>今夜か、できれば明日の夜になんないかな？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|155|雪菜の父|Setsuna's Father
|「いいや、今でなければ駄目だ。<br>ちゃんと話してからでないと、外出は認めないぞ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|156|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「あなた…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|157|雪菜|Setsuna
|「それって…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|158||
|そんな当たり前の停滞した日常に、<br>湿った風が吹き込んでくる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|159||
|今日の、この天気のように。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|160||
|………
|.........
|}}

{{WA2ScriptLine
|161|雪菜|Setsuna
|「それって、もう行くなってこと？<br>彼のこと、見捨てろってこと！？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|162|雪菜の父|Setsuna's Father
|「そんなことは言っていないだろう。<br>わざと話を極端に持って行くのはやめなさい」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|163|雪菜|Setsuna
|「極端なこと言ってるのはお父さんの方だよ！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|164||
|もう、行くなって言われた。<br>彼と、距離を置けって言われた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|165||
|本当は、少し前からそれらしき気配はあった。<br>とうとう今日、それを口にした。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|166||
|湿った空気が、ますますわたしに重くまとわりつく。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|167|雪菜|Setsuna
|「春希くんは、もう家族なんだよ？<br>それなのに、ちょっと病気になったくらいで<br>そんな薄情なこと言い出すなんて酷いよ！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|168|雪菜の父|Setsuna's Father
|「彼には、本当の家族がいる。<br>まずはそちらにお願いするというのは筋じゃないか」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|169||
|『彼の問題は彼の家族が解決すべきだ』<br>それが、お父さんの主張だった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|170|雪菜の父|Setsuna's Father
|「逆に、彼の家族の意見を聞かないことの方が<br>薄情だとも言えるんじゃないのか？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|171|雪菜|Setsuna
|「何度も説明したじゃない…<br>春希くんは、お母さんとうまくいってないんだよ…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|172||
|もう、数年間もまともに話したこともない<br>相手に任せろって…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|173|雪菜の父|Setsuna's Father
|「確かにその話は何度も雪菜から聞いたが、<br>北原君本人から詳しく聞いたことはない」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|174|雪菜|Setsuna
|「話すことだって辛いんだよ…<br>今の状態の春希くんに、<br>そんな精神的負担はかけられないよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|175||
|わたしにしか話さない…<br>わたしと、もう一人にしか話さない…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|176||
|ううん、彼女と、ついでにわたしにしか話さない、<br>彼の、切り捨てた過去のこと。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|177|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「北原さんの症状は、もしかしたら、<br>家族関係にも原因があるのかもしれないわね」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|178|雪菜の父|Setsuna's Father
|「だったらなおさら原因を取り除く努力をするべきだろう。<br>家族との対話が、いいきっかけになるかもしれない」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|179|雪菜|Setsuna
|「悪い方のきっかけになる可能性だってあるよね？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|180||
|お母さんの控えめな助け船は、<br>お父さんの強めの正論で簡単に霧散する。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|181||
|だから結局、この場はわたしが頑張るしかない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|182|雪菜|Setsuna
|「お父さんのいうこと、確かに正しいのかもしれないけど、<br>口だけで温かみがなさすぎるよ！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|183|雪菜の父|Setsuna's Father
|「口だけのつもりはない。<br>私だって、北原君のことは心配している」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|184|雪菜|Setsuna
|「だったら…っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|185|雪菜の父|Setsuna's Father
|「だから、できるだけのことはするつもりだ。<br>…彼の家族と会って話をしてもいい」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|186|雪菜|Setsuna
|「え…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|187|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「あなた、それは…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|188||
|でも、今日のお父さんは手強かった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|189||
|いつもの、ただ正しく強いだけの説得ではなく、<br>こちらへの歩み寄りを、思いやりを見せてくれた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|190||
|…自分そっくりの強情な娘の扱いに悩んだのかもしれない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|191|雪菜の父|Setsuna's Father
|「単に、子供の頃の行き違いがもとで<br>捻れてしまっているだけかもしれない。<br>一度、母親の真意を確かめる必要があるんじゃないか？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|192|雪菜|Setsuna
|「お父さん…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|193||
|お父さんの提案は、<br>わたしがずっと前から考えていたことと同じだった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|194|雪菜の父|Setsuna's Father
|「単なる誤解だったら解けばいい。<br>けれど、もし彼の言う通り、根が深いのであれば、<br>もっと色々考えていかなければならない」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|195|雪菜|Setsuna
|「色々って、なに？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|196||
|だから、わたしと同じくらい、<br>彼のことを気に掛けてくれているということ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|197|雪菜の父|Setsuna's Father
|「色々は色々だ。<br>雪菜任せにするのではなく、<br>家族で支えるという考え方もある」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|198|雪菜|Setsuna
|「他には？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|199|雪菜の父|Setsuna's Father
|「それは先方ときちんと話をしてからだ。<br>どうすれば良いのか、もっと真面目に考えるべきだろう」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|200|雪菜|Setsuna
|「………」
|"........."
|}}

{{WA2ScriptLine
|201||
|けれど…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|202||
|お父さんには、わたしみたいな迷いがない。<br>その思いつきを、躊躇しない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|203|雪菜の父|Setsuna's Father
|「雪菜。私たちも協力する。<br>腰を据えてやっていこう。<br>だから、あまり彼にのめり込むんじゃない」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|204|雪菜の父|Setsuna's Father
|「お前も会社勤めをしてまだ二年だ。<br>今は自分のことだけでも精一杯だろう？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|205||
|もし、彼の家族を巻き込んで、<br>春希くんが今よりも悪化してしまったらとか。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|206||
|家族同士の話し合いがうまく行かず、<br>本人たちの思惑と関係ないところで、<br>両家の溝が深まってしまったらとか。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|207||
|そういう、この判断が不正解だったら<br>どうすればいいんだろうという、不安が何一つない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|208|雪菜|Setsuna
|「話は…それだけかな？<br>じゃあわたし、そろそろ出かけないと」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|209|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「雪菜…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|210||
|…つまり、もしやり方を間違えて<br>春希くんが、わたしたちの関係が壊れてしまっても…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|211|雪菜|Setsuna
|「お父さんの言ってることは正しいと思う…<br>けれど、正しいだけだよ、そんなの」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|212||
|それはきっと、<br>『仕方ない』とか『縁がなかった』で終わってしまう。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|213|雪菜|Setsuna
|「そんな理屈通りで人の気持ちがどうにかなるのならさぁ、<br>そもそも、あんな病気なんてこの世に存在しないよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|214|雪菜の父|Setsuna's Father
|「だからって、今のままでは何も進まないじゃないか」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|215|雪菜|Setsuna
|「進むよ！　治るよ！<br>わたしが必ず春希くんを元通りにしてみせるよ！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|216||
|今のわたしに、そんな悠長で、<br>リスクの高い選択肢が受け入れられるわけがない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|217|雪菜|Setsuna
|「お母さんは…わかってくれるよね？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|218|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「………」
|"........."
|}}

{{WA2ScriptLine
|219||
|だからわたしは、少し卑怯なのはわかっているけど、<br>数の力で押し切ろうとする。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|220|雪菜|Setsuna
|「ね、お母さん…<br>もう少しだけ、わたしを信じてよ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|221||
|さっきから、控えめながらも、<br>わたしの味方をしてくれていた<br>お母さんを引きずり込むことで。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|222|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「もう少し…もう少しだけなら、<br>雪菜のやりたいようにやらせてあげても<br>いいかと思います」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|223|雪菜|Setsuna
|「お母さん…っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|224||
|そして、その目論見はみごとに的中した。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|225|雪菜の父|Setsuna's Father
|「母さん、しかし…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|226|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「先方の親御さんとの話にしても、<br>北原さんが望むかどうかはわかりませんし」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|227|雪菜|Setsuna
|「今はまだ無理だよ。<br>春希くんには判断できないし、させたくない」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|228|雪菜の父|Setsuna's Father
|「だが、いずれ親戚になるのなら、<br>早かろうが遅かろうが、<br>こういうことはハッキリさせておいた方が」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|229|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「私はその、ちょっと…<br>今回の件については、お父さんと少し違うんです」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|230|雪菜の父|Setsuna's Father
|「何が違うと言うんだ？<br>母さんは、雪菜のことが心配じゃないのか？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|231|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「いえ、私も雪菜のことを一番に考えています」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|232|雪菜|Setsuna
|「だから、わたしは平気だよ。<br>お父さんは心配性過ぎるんだよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|233|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「だけど、わたしの言いたいことは、違うんです。<br>…こういうことは、本当は言いたくないのですけれど」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|234||
|的中した、はずだった…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|235|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「もし、二人の間に何か問題が起こって、その…<br>駄目になってしまったら…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|236|雪菜|Setsuna
|「お…お母さん？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|237||
|だから、その時お母さんの口から出てきた言葉が、<br>数秒間ほど理解できなかった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|238|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「そういう場合は、家族同士が知り合いでない方が<br>後々いいんじゃないかと…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|239|雪菜の父|Setsuna's Father
|「母さん…？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|240|雪菜|Setsuna
|「何言ってるのお母さん！？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|241||
|それは、衝撃だった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|242||
|味方だと思っていた。<br>お父さんからわたしを庇ってくれるって信じていた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|243||
|なのに、今のお母さんの言葉は…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|244|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「雪菜、聞いて。<br>これは、北原さんの病気のことを抜きにしても、<br>考えておかなくちゃならないことだと思うの」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|245|雪菜|Setsuna
|「ちょっと、待って…？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|246||
|わたしの判断を後押ししてくれた。<br>お父さんの提案を遮ってくれた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|247||
|けれどそれは、<br>わたしが正しいと思ったからでも、<br>お父さんが間違っていると思ったからでもなく…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|248||
|ただ、たまたま思惑が一致しただけ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|249||
|わたしは家族の横やりで、<br>二人が危機に陥ることを危惧した。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|250||
|けれどお母さんは、二人が壊れてしまったあとの<br>家族のしがらみのことを気にしている。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|251|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「あなたもまだ、２４なんだし、<br>一度くらい失敗しても、十分にやり直しの利く…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|252|雪菜|Setsuna
|「失敗なんかしない！<br>やり直しなんかありえない！<br>わたしは彼と幸せになるの！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|253|雪菜の母|Setsuna's Mother
|「雪菜…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|254||
|頭の中が真っ白になる。<br>けれど視界は真っ暗になる。<br>そして、首の後ろが灼けるように熱い。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|255|雪菜|Setsuna
|「なんで？　どうして今になって、<br>そんなこと言い出すのお母さん！？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|256||
|お父さんの命令や忠告よりも、<br>お母さんの助言や援護の方が、冷たく、鋭かったから。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|257||
|………
|.........
|}}

{{WA2ScriptLine
|258|孝宏|Takahiro
|「姉ちゃん、待てよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|259|雪菜|Setsuna
|「ほっといてよ！<br>どうせお母さんに何か言われたんでしょ！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|260|孝宏|Takahiro
|「この雨の中、傘なしで出かける気かよ…<br>ほら、持ってけよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|261|雪菜|Setsuna
|「………っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|262||
|激昂したまま荷物を掴んで家を飛び出した瞬間、<br>天からの大粒の雨が、わたしの全身を容赦なく叩く。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|263||
|仕方なく踵を返して玄関に戻る。<br>…と、その踵に履いていたものもただの突っかけだった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|264|孝宏|Takahiro
|「母さんはさ…薄々気づいてるんだよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|265|雪菜|Setsuna
|「何に」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|266||
|孝宏と目を合わせないまま、傘だけ受け取る。<br>ついでに下駄箱から新しいレインシューズを取り出す。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|267|孝宏|Takahiro
|「姉ちゃんと北原さん、<br>なんかトラブルがあったんじゃないかって。<br>それも、婚約とか言い出した頃からさ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|268|雪菜|Setsuna
|「………」
|"........."
|}}

{{WA2ScriptLine
|269||
|目を合わせないままで、良かった。<br>今の表情を見られなくて、本当に良かった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|270|孝宏|Takahiro
|「北原さんがああなったのだって、<br>本当はそっちに原因があったんじゃないかって…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|271|雪菜|Setsuna
|「………ないよ。<br>トラブルもないし、だから原因もない」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|272|孝宏|Takahiro
|「本当に？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|273|雪菜|Setsuna
|「本当に決まってる…ずっと愛し合ってるよ。<br>今までも、今だって、これからも！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|274|孝宏|Takahiro
|「…だからって弟にそういう直接的なこと言われても、<br>色々モヤモヤするんだけど」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|275|雪菜|Setsuna
|「余計なこと言い出す孝宏が悪いんじゃない」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|276||
|問題なんか何一つないって言ってるのに、<br>どうしてうちの家族は、こんなに心配性なんだろう。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|277|孝宏|Takahiro
|「なぁ、姉ちゃん。<br>本当に、北原さんと結婚するつもりなのか？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|278|雪菜|Setsuna
|「どうして今になってそういうこと言い出すのよ。<br>お母さんも、孝宏も…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|279||
|そして、どうしてうちの家族は、<br>家族じゃない人間に対して、こうも猜疑心が強いんだろう。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|280|雪菜|Setsuna
|「二人とも、今まで彼のこと、<br>ずっと家族みたいにしてくれてたじゃない！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|281||
|半年前まで、彼は間違いなく家族だったのに。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|282||
|そして、そのことは彼にとっても嬉しい出来事だったのに。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|283||
|照れくさそうに微笑みながら、<br>寝物語に聞かせてくれたのに。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|284|孝宏|Takahiro
|「今だって別に嫌ってなんかいないよ。<br>けど、このままじゃ姉ちゃんが…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|285|雪菜|Setsuna
|「わたしが、なに？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|286|孝宏|Takahiro
|「………」
|"........."
|}}

{{WA2ScriptLine
|287||
|なのに、どうして、こうなっちゃったんだろう…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|288|雪菜|Setsuna
|「大丈夫…春希くんは、すぐによくなるよ。<br>また、全部元通りになるよ。<br>春希くんも、うちも」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|289|孝宏|Takahiro
|「もう四か月も経つけど何も変わってないじゃん」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|290|雪菜|Setsuna
|「時間かかるのよ、こういうのは」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|291|孝宏|Takahiro
|「じゃあ、すぐによくなるって嘘じゃん」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|292|雪菜|Setsuna
|「っ！　どうしてそういう揚げ足ばっかり取るのよ！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|293|孝宏|Takahiro
|「あ、いや、ごめん。<br>ただ、姉ちゃんが一方的に貧乏くじ引いてるみたいな<br>今の状態に納得がいかないっていうか…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|294|雪菜|Setsuna
|「そう思うんなら何も言わずに支えてくれるのが<br>本当の家族ってものじゃないの？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|295|孝宏|Takahiro
|「それはそうかもしんないけどさ…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|296|雪菜|Setsuna
|「今が大事な時期なんだよ。<br>お父さんもお母さんも、<br>そのことが全然わかってないんだよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|297||
|お父さんは、彼を家族から家族候補に格下げし。<br>お母さんは、わたしたちが別れる可能性を否定しなくなり。<br>孝宏は、彼の誠実を疑うようになり。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|298|雪菜|Setsuna
|「今こそ慎重に、ゆっくり、<br>春希くんを支えていかなくちゃならないんだよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|299||
|もう、春希くんの味方はわたしだけ…なんだろうか。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|300|孝宏|Takahiro
|「………」
|"........."
|}}

{{WA2ScriptLine
|301|雪菜|Setsuna
|「何よ？<br>お姉ちゃんの言ったこと、何か間違ってる？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|302|孝宏|Takahiro
|「別にそうは思わないけどさ…<br>けど、いいのかよ姉ちゃん？　その言い方で」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|303|雪菜|Setsuna
|「言い方って、何が…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|304|孝宏|Takahiro
|「『支えていかなくちゃならない』ってさ、<br>なんか嫌々でやってるみたいじゃん」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|305|雪菜|Setsuna
|「ぇ…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|306|孝宏|Takahiro
|「今までの姉ちゃんなら<br>『支えたい』って言ってたと思うけどな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|307|雪菜|Setsuna
|「え、え…っ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|308||
|『行かなくちゃ…』
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|309||
|『支えていかなくちゃ』
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|310|孝宏|Takahiro
|「俺は、部外者だから<br>そうそうえらそうなことは言えないけどさ…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|311||
|わたしの言葉から、失われかけているものは、なに？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|312||
|強さ？<br>嬉しさ？<br>前向きさ？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|313|孝宏|Takahiro
|「北原さんにのめり込むのはいつものことだけどさ…<br>今度ばっかりは気をつけろよ？<br>…引きずり込まれないようにさ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|314|雪菜|Setsuna
|「そう思うんならみんなももっと気を使ってよ！<br>お父さんも、お母さんも、孝宏もっ！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|315|孝宏|Takahiro
|「………」
|"........."
|}}

{{WA2ScriptLine
|316|雪菜|Setsuna
|「っ…ごめん」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|317|孝宏|Takahiro
|「いや…<br>俺も言い過ぎてるってわかってるから」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|318|雪菜|Setsuna
|「出かけてくる。<br>今日、帰らないから」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|319||
|じゃあ、わたしの言葉に、染み込んできたものは、なに？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|320|雪菜|Setsuna
|「頑張れ…」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|321||
|疲労？<br>義務感？<br>弱々しさ？
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|322|雪菜|Setsuna
|「頑張れ、わたし！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|323||
|そういえば…
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|324||
|頑張れって…<br>言っちゃ、いけないん、だっけ…
|
|}}

{{WA2ScriptTableEnd}}