Editing White Album 2/Script/6005 (section)

== Text ==
{{WA2ScriptTable}}

{{WA2ScriptLine
|1|春希|Haruki
|「やっぱこの時期は日が沈むのが早いな～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|2|かずさ|Kazusa
|「……今さらなに言ってんだ。<br>東京で日没が一番早い時期は一月ほども前だ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|3|春希|Haruki
|「おお、博識だな。ということは、<br>今はだんだん日没が遅くなってきてるのか。<br>……にしては暗いな、もう」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|4|かずさ|Kazusa
|「っ……いい加減、嫌味はやめろ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|5|春希|Haruki
|「え～、別に俺、お前を責めてなんかいないぞ？<br>そりゃまぁ、起きてきたのが午後三時過ぎってのは、<br>正直、いい大人としてはどうかと思うけどさ～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|6|かずさ|Kazusa
|「うるさいっ！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|7||
|１２月３１日、大晦日。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|8||
|今年最後のメモリアルデーにもかかわらず、<br>俺たちに残された時間は、すでに八時間を切っていた。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|9||
|『朝方にそっち行く』と豪語していたはずのかずさが<br>目を覚ました頃には、とっくに日は西に傾いていた。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|10|春希|Haruki
|「随分と甘えることができたみたいだな」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|11|かずさ|Kazusa
|「だからうるさいって言ってる」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|12||
|俺がいつも通りの時間に起きたとき、<br>リビングでは、かずさと曜子さんが、<br>お互い抱き合うようにすやすや眠っていた。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|13||
|その微笑ましい光景を壊してしまうのは忍びなく、<br>そんな訳で俺は近くの喫茶店でモーニングを頼みつつ<br>時間を潰して、二人が起きるのを待った。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|14||
|……まさかランチまで頼む羽目になるとは<br>思わなかったけど。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|15|かずさ|Kazusa
|「色々あったんだよ。<br>察せよそのくらい」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|16|春希|Haruki
|「だから、別に責めてなんかいないって」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|17|かずさ|Kazusa
|「とてもそうは思えないんだよ、お前の態度は」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|18|春希|Haruki
|「それは……生まれつきだな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|19||
|そう、責めてなんかいない。<br>ただ、やっかんでるだけだ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|20||
|そして……
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|}}

{{WA2ScriptLine
|21|春希|Haruki
|「なぁ、かずさ……<br>お前らは、いつまでも仲良く親子やってくれよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|22||
|曜子さんには、これからもしぶとく生き残ってほしい。<br>かずさには、そんな彼女をずっと愛し続けて欲しい。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|23|かずさ|Kazusa
|「なんだよそりゃ……訳わかんない」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|24|春希|Haruki
|「あはは……確かにな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|25||
|そして、まぁ、二人とも……<br>お互いに注ぐ家族の情の、ほんの数パーセントでいいから、<br>俺にも注いでくれたら嬉しいなって、思ってる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|26||
|それが、新しく家族に加わった俺の願いだ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|27|かずさ|Kazusa
|「でさ、今からどこに行くんだ？<br>今日は蕎麦食べて紅白見て除夜の鐘聴いて<br>二年参り行くんじゃないのか？」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|28|春希|Haruki
|「それもかなり魅力的な案だけど、<br>その前に、ちょっとだけ付き合ってくれよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|29|かずさ|Kazusa
|「けどお前、そっちは……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|30|春希|Haruki
|「頼むよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|31||
|だって……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|32||
|どうしても今日のうちに、<br>行っておかなくちゃならないところがあるから。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|33||
|…………
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|34|かずさ|Kazusa
|「やっぱり、ここか……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|35|春希|Haruki
|「ああ……<br>俺たちが、三年間、通った場所だ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|36||
|峰城大学付属学園。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|37|かずさ|Kazusa
|「あたしが通ったのは、実質二年半くらいだったけどな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|38|春希|Haruki
|「グレてたもんなぁ、お前」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|39|かずさ|Kazusa
|「あ～、なんか、同じクラスにいた<br>しつこい委員長のこと思い出してムカついてきた。<br>一発蹴らせろ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|40||
|二人とも、日本に来てからずっと意識してて、<br>けれど今まで、どうしても踏み込めなかった“聖地”。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|41||
|俺たちの、出逢いの場所……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|42|かずさ|Kazusa
|「にしても、さすがに誰もいないな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|43|春希|Haruki
|「ま、大晦日だしな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|44||
|大学のキャンパスとも敷地を共有してるその場所は、<br>大晦日の今日も、正門が閉ざされてはいなかった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|45||
|けれど、校庭に人影はなく、<br>夕陽に沈んでいきそうな校舎が<br>寂しそうに佇んでいるだけだった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|46|春希|Haruki
|「じゃ、行こうか、かずさ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|47|かずさ|Kazusa
|「なんだよ、もう戻るのか？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|48|春希|Haruki
|「何言ってんだよ、せっかく懐かしい母校なんだぜ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|49|かずさ|Kazusa
|「あ、おい……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|50||
|俺が踏み出した方向に違和感があったのか、<br>かずさが少し戸惑ったような声を上げる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|51|春希|Haruki
|「ちょっとだけ、寄ってこうぜ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|52|かずさ|Kazusa
|「いや、待てよ、無断侵入だぞ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|53|春希|Haruki
|「平気平気、誰もいないって。<br>不良のくせに、この程度のことでビビってんのかよ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|54|かずさ|Kazusa
|「なっ……<br>お前が委員長のくせに<br>はっちゃけ過ぎてるだけじゃないか！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|55||
|けれど最後には、不良の矜持なのか、<br>委員長に意地を張ったのか、<br>意を決して、強い足取りで俺を追い抜いていく。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|56||
|付属の、校内へと。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|57||
|………
|.........
|}}

{{WA2ScriptLine
|58|かずさ|Kazusa
|「うわ、よりにもよって３－Ｅか……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|59|春希|Haruki
|「１－Ｈよりはマシだろ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|60|かずさ|Kazusa
|「うるさい」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|61||
|下駄箱にも鍵はかかっていなくて、<br>俺たちは何の抵抗も制止もなく、<br>校舎内へと入っていくことができた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|62||
|……ちょっとばかり不用心だと思う向きも<br>あるかもしれないが、<br>今日はまぁ、きっと特別だ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|63|かずさ|Kazusa
|「にしても、変わってないな、ここも」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|64||
|さっきかずさが呟いた通り、<br>教室のプレートには３－Ｅと掲げられていた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|65|春希|Haruki
|「こっちが俺の席で、<br>こっちが、お前の席だったよな……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|66|かずさ|Kazusa
|「ああ、そうだな……<br>ここからの外の景色、なんか見覚えがある」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|67||
|そして、俺の記憶が確かなら、ここは間違いなく、<br>俺たちが在籍した頃の３－Ｅと同じ場所で。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|68|春希|Haruki
|「そうだ、なんか落書きとか残ってないかな？<br>譜面とか、先生の悪口とか……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|69|かずさ|Kazusa
|「『北原の馬鹿野郎』ってのなら残ってるかもな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|70|春希|Haruki
|「……そんなこと書いたのかよ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|71||
|そんな、俺たち以外に誰もいない夕暮れの教室は、<br>ずっと忘れていた、封印していた淡い記憶を、<br>その陽光よりも明るい白日の下にさらけ出す。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|72|かずさ|Kazusa
|「ああ、数えきれないほどな。<br>あの頃のあたしは、お前のことがウザくてウザくて、<br>世界で五本の指に入るくらい大嫌いだったんだ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|73|春希|Haruki
|「俺は……その頃からお前のこと、大好きだったけどな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|74|かずさ|Kazusa
|「知ってるよ。<br>顔だけで女のことを好きになる軽薄野郎だもんな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|75|春希|Haruki
|「だからさ、俺はあの頃……<br>窓際で、お前が寝てるのを見るのが好きだった」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|76|かずさ|Kazusa
|「その割にはいっつも叩き起こしやがって」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|77|春希|Haruki
|「そりゃそうさ。<br>だって起こしたらお前の顔が見れたんだぞ？<br>……こんなご褒美、あるか」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|78|かずさ|Kazusa
|「…………あぁ～、ウザい、キモい、聞いてらんない。<br>お前、本当に恥ずかしい奴になったなぁ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|79||
|そんな酷いことを言う割には、<br>かずさは、どんどん俺との距離を詰め、<br>その額を、俺の胸にこつこつとぶつけてくる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|80|春希|Haruki
|「恥ずかしいことばかり言わせたがる奴と<br>一緒に暮らしてるせいでな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|81|かずさ|Kazusa
|「そいつもキモいな。大概だ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|82||
|俺たちの会話は、いつもなら、どっちかが大笑いして、<br>途中でうやむやになってしまうような内容だったけど。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|83||
|静かで、赤くて、寒くて、薄暗くて、物悲しい夕暮れは、<br>そんな俺たちの酸っぱくて恥ずかしい思い出を、<br>凍らせて保存してしまう。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|84||
|…………
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|85|かずさ|Kazusa
|「ここもやっぱ変わってないな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|86|春希|Haruki
|「そう、だな……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|87||
|ここ峰城大学付属学園には、<br>どういう訳か音楽室が三つもある。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|88||
|一つは、普通科の生徒たちが使っている第一音楽室。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|89||
|それと向かいの新校舎に、<br>音楽科専用のどでかい第三音楽室。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|90||
|で、あと一つがこの第二音楽室。<br>音楽科の、さらに一番優秀な生徒だけが使える、<br>個人練習用の教室。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|91||
|……なんて言いながら、<br>数年前まで、とある不良娘の専用教室だった場所。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|92||
|ここが、今日最後の……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|93||
|いや、日本での、最後に辿り着くべき場所。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|94|春希|Haruki
|「寒っ……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|95||
|窓を開けると、少し強めの風が、<br>一気に教室の中を冷やしていく。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|96|かずさ|Kazusa
|「当たり前だ。<br>大晦日だぞ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|97|春希|Haruki
|「うん、寒いな。<br>付属祭の時よりも、寒い」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|98|かずさ|Kazusa
|「春希……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|99||
|窓から身を乗り出して、<br>右隣の教室を覗き込んでみる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|100||
|当然ながら、その窓はぴたりと閉じられ、<br>中からギターの音が漏れてくることもなかった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|101|春希|Haruki
|「ん、んんっ、ごほっ、ごほっ……<br>あ、あのさ、かずさ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|102|かずさ|Kazusa
|「ほら、風邪引くだろ。<br>もう閉めたらどうだ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|103|春希|Haruki
|「い、いや、これは風邪じゃなくて……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|104|かずさ|Kazusa
|「じゃあ、なんだよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|105||
|ただの緊張、なんだけど。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|106|春希|Haruki
|「そんなことよりもさ……<br>えっと、あの」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|107|かずさ|Kazusa
|「お前、なんか変だぞ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|108||
|自分でも、不審な挙動してると思う。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|109||
|せっかく、ここまでたどり着いたのに、<br>そこから先の段取りがグダグダになってると思う。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|110|春希|Haruki
|「あ、あのさ……その、なんだ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|111|かずさ|Kazusa
|「本当に、なんなんだよ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|112|春希|Haruki
|「……かずさのピアノ、聴きたいな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|113|かずさ|Kazusa
|「……ここで、か？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|114|春希|Haruki
|「あ、ああ、ここで」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|115||
|けど、まぁ、仕方ないだろ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|116||
|ものには、順序ってもんがあるんだから。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|117||
|…………
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|118||
|いつも通り、『いっつも聴いてるだろ』とか、<br>『これだけ寒いと指が回らないんだけどな』とか、<br>ぶつぶつ文句を言いながら……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|119||
|けれど、これもいつも通り、<br>最終的には『今回だけだぞ』と応えてくれて、<br>かずさは、静かに弾き始めた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|120||
|付属に通った三年間、ずっと弾いていたピアノ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|121||
|三年間、ずっとかずさと共にあり、<br>けれどその存在のせいで、かずさから友達を遠ざけた、<br>祝福の、そして呪いのピアノ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|122|春希|Haruki
|「なぁ、かずさ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|123|かずさ|Kazusa
|「ん～？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|124|春希|Haruki
|「お前、隣のギターが俺だって、<br>いつから知ってたんだ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|125|かずさ|Kazusa
|「そんな昔のこと、覚えてないな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|126||
|八年前、俺の拙いギターを導き、<br>俺たちの素人バンドを導き、<br>学園祭ライブを成功に導いてくれたピアノ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|127||
|そして、ライブがはねた夜……<br>俺とかずさが、ほんの少しだけ触れ合って、<br>そして、すれ違っていった時にも鳴っていた、あのピアノ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|128|春希|Haruki
|「俺のギターだから合わせてくれてたのか？<br>他の奴でも、あんなお節介したか？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|129|かずさ|Kazusa
|「覚えてないって言っただろ。<br>それに、もう、どうでもいい。<br>いつだったかなんて、関係ないよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|130|春希|Haruki
|「関係ない、か」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|131||
|かずさは、三年前の裏切りを未だに悔いている。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|132||
|……けど、八年前のすれ違いに、<br>もう後悔の色はない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|133||
|自分に訪れた今の結果を、<br>辛いことも嬉しいことも、全て受け止めて、<br>軽く微笑む。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|134|春希|Haruki
|「なぁ、かずさ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|135||
|だからこそ、俺は……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|136|かずさ|Kazusa
|「今度は何だよ？<br>せっかく弾いてやってんのに、<br>いちいち邪魔するな……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|137|春希|Haruki
|「俺たちさ……<br>もう一度、ここから始めよう？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|138||
|その笑顔を、二度と離さない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|139|かずさ|Kazusa
|「……え」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|140||
|ピアノの上……<br>かずさの目の前に置かれた小さな箱。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|141|春希|Haruki
|「そしてこれからも、ずっと続いていこう？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|142||
|その中で優しく輝く、白銀色の光。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|143|かずさ|Kazusa
|「なんの……<br>なんの、真似だよ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|144||
|今は、まだ……<br>かずさの左の薬指に存在しないもの。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|145|春希|Haruki
|「ごめんな……<br>実は、ちょっとだけお前を裏切ってた。<br>……曜子さんと、結託してたんだよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|146|かずさ|Kazusa
|「それって、まさか……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|147|春希|Haruki
|「ここが、式場なんだ。<br>今日が、その日なんだ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|148||
|…………
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|149|春希|Haruki
|「明日……？<br>第二音楽室……っ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|150|曜子|Youko
|「そ。<br>それが北原家、冬馬家披露宴の日程」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|151|春希|Haruki
|「大晦日に、学校でって……<br>よく許可下りましたね？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|152|曜子|Youko
|「ま、峰城大とは持ちつ持たれつだし、<br>そこは色々とね？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|153|春希|Haruki
|「けど、なんで……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|154|曜子|Youko
|「そりゃ、あそこは、<br>あの子にとって、特別な場所だからよ。<br>……それこそ、良くも悪くもね」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|155|春希|Haruki
|「いや、そっちじゃなくて……<br>どうして、大晦日なんです？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|156|曜子|Youko
|「それは、まぁ……<br>私なりの、リベンジってところかしら？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|157|春希|Haruki
|「それって、どういう……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|158|曜子|Youko
|「あの日の私の作戦を、もう一度再現するため。<br>……なんてね、ちょっとした意地なのよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|159||
|結局、その『意地』ってのがなんなのか、<br>最後まで曜子さんは教えてくれなかったけれど……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|160|かずさ|Kazusa
|「悪趣味だぞ、お前ら……っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|161||
|それでも、もうこの時間の、この場所での儀式には、<br>曜子さんの愛と、執念と、<br>悪戯心が絶妙に混ざり合っていた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|162|かずさ|Kazusa
|「ここなら、あたしが感激するとでも思ったのか？<br>泣くとでも思ったのか？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|163|春希|Haruki
|「泣かないのか？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|164|かずさ|Kazusa
|「泣くか馬鹿！<br>あたしはもともと<br>式なんてどうでもいいって言ってただろ！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|165|春希|Haruki
|「そうだったっけ……？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|166||
|俺がベッドの中で聞いたのは、<br>もうちょっと違うニュアンスだったと記憶してるけど。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|167|かずさ|Kazusa
|「それを、妙なサプライズでお涙頂戴とか……<br>なんだよ、あたしが泣いてるところを撮影して、<br>後で笑いものにでもするつもりだったか？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|168|春希|Haruki
|「いや、俺は別にそんな……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|169|かずさ|Kazusa
|「こうなったら意地でも泣いてなんかやるもんか！<br>誓いの言葉だってすっごいめんどくさそうに<br>『はいはい』って答えてやる！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|170|春希|Haruki
|「いいよ、別に泣かなくても」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|171||
|ていうか、これだけ怒っておきながら、<br>ちゃんと誓いの言葉には答えるつもりなんだな、こいつ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|172|春希|Haruki
|「これは、俺と曜子さんの自己満足なんだ。<br>お前は、いやいや付き合ってくれるだけでいい」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|173||
|とにかく、かずさの承諾は取り付けた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|174||
|だから俺は、ポケットから携帯を取り出し、<br>発信ボタンを押した。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|175|かずさ|Kazusa
|「どこに連絡してんだよ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|176|春希|Haruki
|「そりゃ、新婦の親戚、ご友人一同にさ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|177||
|だって、さっきからずっと外で待ってるはずなんだ。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|178||
|……新婦のお召し物を抱えたまま、な。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|179||
|…………
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|180|春希|Haruki
|「……あの、すいません。<br>それで、まだですか？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|181|美代子|Miyoko
|「あ～、すいません北原さん。<br>実は着替えはとっくに終わってるんですけれど」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|182|春希|Haruki
|「はぁ……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|183||
|隣の第一音楽室にいる工藤さんの声は、<br>いささか困っている様子だった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|184||
|そろそろ、かずさを着替えに引きずり出してから、<br>一時間は余裕で越えた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|185|美代子|Miyoko
|「その、かずささんが、<br>さっきから廊下でゴネてまして……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|186|春希|Haruki
|「あ～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|187|曜子|Youko
|「いい加減に覚悟を決めなさい。<br>あんた、本当はものすごく見てもらいたいんでしょうが」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|188|かずさ|Kazusa
|「そ、そんなことないっ！<br>嫌で嫌でたまらないっ！」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|189|曜子|Youko
|「だからどうしてそこまで思いっきり照れるのよ？<br>あんた自分がいくつだと思ってるの？<br>いくらなんでも親として恥ずかしいわよ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|190|かずさ|Kazusa
|「だって、だって……母さ～ん」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|191|曜子|Youko
|「あ～もう鬱陶しい！<br>早く行きなさいっ！」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|192|かずさ|Kazusa
|「や、やめろ……やめろぉっ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|193|春希|Haruki
|「あ……」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|194||
|そりゃ、想像はしてたさ……
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|}}

{{WA2ScriptLine
|195|かずさ|Kazusa
|「悪趣味だよ、お前らみんな……」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|196|春希|Haruki
|「…………」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|197||
|かずさがこういう格好をしたら、<br>俺は多分、一発で撃ち抜かれてしまうだろうって。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|198|かずさ|Kazusa
|「あ、あ……あたしが……<br>あたしがっ、こんな……っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|199||
|言葉を、失ってしまうだろうって。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|200|春希|Haruki
|「……式挙げるって話した時から、<br>こうされることはある程度予測してただろ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|201|かずさ|Kazusa
|「け、けど、けどっ！<br>こ、こんな、こんなっ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|202||
|けど、ま、なんだ……<br>呆然自失としてても、口は動くもんなんだな。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|203||
|というか、相手が俺よりも動揺してるせいで、<br>俺が話を進めなくちゃならない義務感に囚われたというか。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|204|春希|Haruki
|「綺麗だ、かずさ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|205|かずさ|Kazusa
|「言うなっ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|206||
|……本当は、大声で『マジスッゲー』って叫びたいのに。<br>この白いかずさを、思いっきり抱きしめたいのに。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|207||
|なのに、かずさはあまりにも覚悟ができていなかった。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|208|かずさ|Kazusa
|「だ、だって、あたしは、あたしは……っ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|209||
|もう、一緒に暮らして三年になるのに。<br>籍を入れてからだって、ずいぶん長いのに。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|210||
|なのに、自分が花嫁になるというその儀式だけは、<br>なぜか想定もしていなかったみたいだった。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|211|かずさ|Kazusa
|「あたしは、お前の妻になりたかっただけで、<br>別に、花嫁なんかになりたかったわけじゃ……」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|212|春希|Haruki
|「いいじゃん、別に。<br>花嫁になっても、さ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|213|かずさ|Kazusa
|「け、けど、けどぉっ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|214||
|まだ、どこかに罪悪感が残っているのか……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|215||
|今までかずさは、ステージでの衣装以外に、<br>自分を着飾ることをしようとしなかった。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|216||
|まぁ、元からものぐさということも、<br>多少はあったんだろうけど。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|217|春希|Haruki
|「本当に、綺麗だ……<br>馬鹿みたいに、似合ってる」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|218|かずさ|Kazusa
|「春希っ……<br>う、うう、ふぇぇ……っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|219|春希|Haruki
|「いいのか？　泣いちゃって？<br>曜子さんが大喜びでビデオ回すぞ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|220|かずさ|Kazusa
|「うるさいっ！<br>うるさいっ、うるさいぃ……っ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|221|春希|Haruki
|「妙なサプライズ、大成功しちまったな……」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|222||
|俺たちはもう、<br>もし、とか、あの時こうしてたら、とか、<br>そんなふうに、後悔することはしない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|223||
|今ここにいる俺たちを、絶対に否定しない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|224||
|けれど、だからこそ、<br>俺たちは、今の自分たちを肯定する。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|225||
|この、俺たちが一番楽しくて、<br>そして、一番切なかった場所から、<br>また、始める。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|226||
|というわけで、遅ればせながら……<br>今日、これから、俺たちの結婚式を始めます。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|227|春希|Haruki
|「なぁ、かずさ……<br>俺、お前とずっと一緒にいるって、誓うから」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|228|かずさ|Kazusa
|「そんなのもう、あたしは百万回誓ってる」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|229|春希|Haruki
|「そっか……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|230|かずさ|Kazusa
|「……まぁ、百万と一回なんて、<br>決して多くないけどな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|231|春希|Haruki
|「うん……」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|232|曜子|Youko
|「あ～！　ちょっとぉ～！<br>それは私の立ち合いのもとでやるって言ったでしょ～！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|233||
|…………
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|234|友人１|
|「……準備、できたってよ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|235|友人２|
|「じゃ、そろそろ行こうか？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|236|友人３|
|「うんっ」
|
|}}

{{WA2ScriptTableEnd}}