White Album 2/Script/6005
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Translation Notes[edit]
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Speaker | Text | Comment | |||
---|---|---|---|---|---|
Line # | JP | EN | JP | EN | |
1 | 春希 | Haruki | 「やっぱこの時期は日が沈むのが早いな~」 | ||
2 | かずさ | Kazusa | 「……今さらなに言ってんだ。 東京で日没が一番早い時期は一月ほども前だ」 | ||
3 | 春希 | Haruki | 「おお、博識だな。ということは、 今はだんだん日没が遅くなってきてるのか。 ……にしては暗いな、もう」 | ||
4 | かずさ | Kazusa | 「っ……いい加減、嫌味はやめろ」 | ||
5 | 春希 | Haruki | 「え~、別に俺、お前を責めてなんかいないぞ? そりゃまぁ、起きてきたのが午後三時過ぎってのは、 正直、いい大人としてはどうかと思うけどさ~」 | ||
6 | かずさ | Kazusa | 「うるさいっ!」 | ||
7 | 12月31日、大晦日。 | ||||
8 | 今年最後のメモリアルデーにもかかわらず、 俺たちに残された時間は、すでに八時間を切っていた。 | ||||
9 | 『朝方にそっち行く』と豪語していたはずのかずさが 目を覚ました頃には、とっくに日は西に傾いていた。 | ||||
10 | 春希 | Haruki | 「随分と甘えることができたみたいだな」 | ||
11 | かずさ | Kazusa | 「だからうるさいって言ってる」 | ||
12 | 俺がいつも通りの時間に起きたとき、 リビングでは、かずさと曜子さんが、 お互い抱き合うようにすやすや眠っていた。 | ||||
13 | その微笑ましい光景を壊してしまうのは忍びなく、 そんな訳で俺は近くの喫茶店でモーニングを頼みつつ 時間を潰して、二人が起きるのを待った。 | ||||
14 | ……まさかランチまで頼む羽目になるとは 思わなかったけど。 | ||||
15 | かずさ | Kazusa | 「色々あったんだよ。 察せよそのくらい」 | ||
16 | 春希 | Haruki | 「だから、別に責めてなんかいないって」 | ||
17 | かずさ | Kazusa | 「とてもそうは思えないんだよ、お前の態度は」 | ||
18 | 春希 | Haruki | 「それは……生まれつきだな」 | ||
19 | そう、責めてなんかいない。 ただ、やっかんでるだけだ。 | ||||
20 | そして…… | ||||
21 | 春希 | Haruki | 「なぁ、かずさ…… お前らは、いつまでも仲良く親子やってくれよ」 | ||
22 | 曜子さんには、これからもしぶとく生き残ってほしい。 かずさには、そんな彼女をずっと愛し続けて欲しい。 | ||||
23 | かずさ | Kazusa | 「なんだよそりゃ……訳わかんない」 | ||
24 | 春希 | Haruki | 「あはは……確かにな」 | ||
25 | そして、まぁ、二人とも…… お互いに注ぐ家族の情の、ほんの数パーセントでいいから、 俺にも注いでくれたら嬉しいなって、思ってる。 | ||||
26 | それが、新しく家族に加わった俺の願いだ。 | ||||
27 | かずさ | Kazusa | 「でさ、今からどこに行くんだ? 今日は蕎麦食べて紅白見て除夜の鐘聴いて 二年参り行くんじゃないのか?」 | ||
28 | 春希 | Haruki | 「それもかなり魅力的な案だけど、 その前に、ちょっとだけ付き合ってくれよ」 | ||
29 | かずさ | Kazusa | 「けどお前、そっちは……」 | ||
30 | 春希 | Haruki | 「頼むよ」 | ||
31 | だって…… | ||||
32 | どうしても今日のうちに、 行っておかなくちゃならないところがあるから。 | ||||
33 | ………… | ||||
34 | かずさ | Kazusa | 「やっぱり、ここか……」 | ||
35 | 春希 | Haruki | 「ああ…… 俺たちが、三年間、通った場所だ」 | ||
36 | 峰城大学付属学園。 | ||||
37 | かずさ | Kazusa | 「あたしが通ったのは、実質二年半くらいだったけどな」 | ||
38 | 春希 | Haruki | 「グレてたもんなぁ、お前」 | ||
39 | かずさ | Kazusa | 「あ~、なんか、同じクラスにいた しつこい委員長のこと思い出してムカついてきた。 一発蹴らせろ」 | ||
40 | 二人とも、日本に来てからずっと意識してて、 けれど今まで、どうしても踏み込めなかった“聖地”。 | ||||
41 | 俺たちの、出逢いの場所…… | ||||
42 | かずさ | Kazusa | 「にしても、さすがに誰もいないな」 | ||
43 | 春希 | Haruki | 「ま、大晦日だしな」 | ||
44 | 大学のキャンパスとも敷地を共有してるその場所は、 大晦日の今日も、正門が閉ざされてはいなかった。 | ||||
45 | けれど、校庭に人影はなく、 夕陽に沈んでいきそうな校舎が 寂しそうに佇んでいるだけだった。 | ||||
46 | 春希 | Haruki | 「じゃ、行こうか、かずさ」 | ||
47 | かずさ | Kazusa | 「なんだよ、もう戻るのか?」 | ||
48 | 春希 | Haruki | 「何言ってんだよ、せっかく懐かしい母校なんだぜ?」 | ||
49 | かずさ | Kazusa | 「あ、おい……」 | ||
50 | 俺が踏み出した方向に違和感があったのか、 かずさが少し戸惑ったような声を上げる。 | ||||
51 | 春希 | Haruki | 「ちょっとだけ、寄ってこうぜ?」 | ||
52 | かずさ | Kazusa | 「いや、待てよ、無断侵入だぞ?」 | ||
53 | 春希 | Haruki | 「平気平気、誰もいないって。 不良のくせに、この程度のことでビビってんのかよ?」 | ||
54 | かずさ | Kazusa | 「なっ…… お前が委員長のくせに はっちゃけ過ぎてるだけじゃないか!」 | ||
55 | けれど最後には、不良の矜持なのか、 委員長に意地を張ったのか、 意を決して、強い足取りで俺を追い抜いていく。 | ||||
56 | 付属の、校内へと。 | ||||
57 | ……… | .........
| |||
58 | かずさ | Kazusa | 「うわ、よりにもよって3-Eか……」 | ||
59 | 春希 | Haruki | 「1-Hよりはマシだろ」 | ||
60 | かずさ | Kazusa | 「うるさい」 | ||
61 | 下駄箱にも鍵はかかっていなくて、 俺たちは何の抵抗も制止もなく、 校舎内へと入っていくことができた。 | ||||
62 | ……ちょっとばかり不用心だと思う向きも あるかもしれないが、 今日はまぁ、きっと特別だ。 | ||||
63 | かずさ | Kazusa | 「にしても、変わってないな、ここも」 | ||
64 | さっきかずさが呟いた通り、 教室のプレートには3-Eと掲げられていた。 | ||||
65 | 春希 | Haruki | 「こっちが俺の席で、 こっちが、お前の席だったよな……」 | ||
66 | かずさ | Kazusa | 「ああ、そうだな…… ここからの外の景色、なんか見覚えがある」 | ||
67 | そして、俺の記憶が確かなら、ここは間違いなく、 俺たちが在籍した頃の3-Eと同じ場所で。 | ||||
68 | 春希 | Haruki | 「そうだ、なんか落書きとか残ってないかな? 譜面とか、先生の悪口とか……」 | ||
69 | かずさ | Kazusa | 「『北原の馬鹿野郎』ってのなら残ってるかもな」 | ||
70 | 春希 | Haruki | 「……そんなこと書いたのかよ?」 | ||
71 | そんな、俺たち以外に誰もいない夕暮れの教室は、 ずっと忘れていた、封印していた淡い記憶を、 その陽光よりも明るい白日の下にさらけ出す。 | ||||
72 | かずさ | Kazusa | 「ああ、数えきれないほどな。 あの頃のあたしは、お前のことがウザくてウザくて、 世界で五本の指に入るくらい大嫌いだったんだ」 | ||
73 | 春希 | Haruki | 「俺は……その頃からお前のこと、大好きだったけどな」 | ||
74 | かずさ | Kazusa | 「知ってるよ。 顔だけで女のことを好きになる軽薄野郎だもんな」 | ||
75 | 春希 | Haruki | 「だからさ、俺はあの頃…… 窓際で、お前が寝てるのを見るのが好きだった」 | ||
76 | かずさ | Kazusa | 「その割にはいっつも叩き起こしやがって」 | ||
77 | 春希 | Haruki | 「そりゃそうさ。 だって起こしたらお前の顔が見れたんだぞ? ……こんなご褒美、あるか」 | ||
78 | かずさ | Kazusa | 「…………あぁ~、ウザい、キモい、聞いてらんない。 お前、本当に恥ずかしい奴になったなぁ」 | ||
79 | そんな酷いことを言う割には、 かずさは、どんどん俺との距離を詰め、 その額を、俺の胸にこつこつとぶつけてくる。 | ||||
80 | 春希 | Haruki | 「恥ずかしいことばかり言わせたがる奴と 一緒に暮らしてるせいでな」 | ||
81 | かずさ | Kazusa | 「そいつもキモいな。大概だ」 | ||
82 | 俺たちの会話は、いつもなら、どっちかが大笑いして、 途中でうやむやになってしまうような内容だったけど。 | ||||
83 | 静かで、赤くて、寒くて、薄暗くて、物悲しい夕暮れは、 そんな俺たちの酸っぱくて恥ずかしい思い出を、 凍らせて保存してしまう。 | ||||
84 | ………… | ||||
85 | かずさ | Kazusa | 「ここもやっぱ変わってないな」 | ||
86 | 春希 | Haruki | 「そう、だな……」 | ||
87 | ここ峰城大学付属学園には、 どういう訳か音楽室が三つもある。 | ||||
88 | 一つは、普通科の生徒たちが使っている第一音楽室。 | ||||
89 | それと向かいの新校舎に、 音楽科専用のどでかい第三音楽室。 | ||||
90 | で、あと一つがこの第二音楽室。 音楽科の、さらに一番優秀な生徒だけが使える、 個人練習用の教室。 | ||||
91 | ……なんて言いながら、 数年前まで、とある不良娘の専用教室だった場所。 | ||||
92 | ここが、今日最後の…… | ||||
93 | いや、日本での、最後に辿り着くべき場所。 | ||||
94 | 春希 | Haruki | 「寒っ……」 | ||
95 | 窓を開けると、少し強めの風が、 一気に教室の中を冷やしていく。 | ||||
96 | かずさ | Kazusa | 「当たり前だ。 大晦日だぞ」 | ||
97 | 春希 | Haruki | 「うん、寒いな。 付属祭の時よりも、寒い」 | ||
98 | かずさ | Kazusa | 「春希……」 | ||
99 | 窓から身を乗り出して、 右隣の教室を覗き込んでみる。 | ||||
100 | 当然ながら、その窓はぴたりと閉じられ、 中からギターの音が漏れてくることもなかった。 | ||||
101 | 春希 | Haruki | 「ん、んんっ、ごほっ、ごほっ…… あ、あのさ、かずさ」 | ||
102 | かずさ | Kazusa | 「ほら、風邪引くだろ。 もう閉めたらどうだ」 | ||
103 | 春希 | Haruki | 「い、いや、これは風邪じゃなくて……」 | ||
104 | かずさ | Kazusa | 「じゃあ、なんだよ」 | ||
105 | ただの緊張、なんだけど。 | ||||
106 | 春希 | Haruki | 「そんなことよりもさ…… えっと、あの」 | ||
107 | かずさ | Kazusa | 「お前、なんか変だぞ?」 | ||
108 | 自分でも、不審な挙動してると思う。 | ||||
109 | せっかく、ここまでたどり着いたのに、 そこから先の段取りがグダグダになってると思う。 | ||||
110 | 春希 | Haruki | 「あ、あのさ……その、なんだ?」 | ||
111 | かずさ | Kazusa | 「本当に、なんなんだよ?」 | ||
112 | 春希 | Haruki | 「……かずさのピアノ、聴きたいな」 | ||
113 | かずさ | Kazusa | 「……ここで、か?」 | ||
114 | 春希 | Haruki | 「あ、ああ、ここで」 | ||
115 | けど、まぁ、仕方ないだろ。 | ||||
116 | ものには、順序ってもんがあるんだから。 | ||||
117 | ………… | ||||
118 | いつも通り、『いっつも聴いてるだろ』とか、 『これだけ寒いと指が回らないんだけどな』とか、 ぶつぶつ文句を言いながら…… | ||||
119 | けれど、これもいつも通り、 最終的には『今回だけだぞ』と応えてくれて、 かずさは、静かに弾き始めた。 | ||||
120 | 付属に通った三年間、ずっと弾いていたピアノ。 | ||||
121 | 三年間、ずっとかずさと共にあり、 けれどその存在のせいで、かずさから友達を遠ざけた、 祝福の、そして呪いのピアノ。 | ||||
122 | 春希 | Haruki | 「なぁ、かずさ」 | ||
123 | かずさ | Kazusa | 「ん~?」 | ||
124 | 春希 | Haruki | 「お前、隣のギターが俺だって、 いつから知ってたんだ?」 | ||
125 | かずさ | Kazusa | 「そんな昔のこと、覚えてないな」 | ||
126 | 八年前、俺の拙いギターを導き、 俺たちの素人バンドを導き、 学園祭ライブを成功に導いてくれたピアノ。 | ||||
127 | そして、ライブがはねた夜…… 俺とかずさが、ほんの少しだけ触れ合って、 そして、すれ違っていった時にも鳴っていた、あのピアノ。 | ||||
128 | 春希 | Haruki | 「俺のギターだから合わせてくれてたのか? 他の奴でも、あんなお節介したか?」 | ||
129 | かずさ | Kazusa | 「覚えてないって言っただろ。 それに、もう、どうでもいい。 いつだったかなんて、関係ないよ」 | ||
130 | 春希 | Haruki | 「関係ない、か」 | ||
131 | かずさは、三年前の裏切りを未だに悔いている。 | ||||
132 | ……けど、八年前のすれ違いに、 もう後悔の色はない。 | ||||
133 | 自分に訪れた今の結果を、 辛いことも嬉しいことも、全て受け止めて、 軽く微笑む。 | ||||
134 | 春希 | Haruki | 「なぁ、かずさ」 | ||
135 | だからこそ、俺は…… | ||||
136 | かずさ | Kazusa | 「今度は何だよ? せっかく弾いてやってんのに、 いちいち邪魔するな……」 | ||
137 | 春希 | Haruki | 「俺たちさ…… もう一度、ここから始めよう?」 | ||
138 | その笑顔を、二度と離さない。 | ||||
139 | かずさ | Kazusa | 「……え」 | ||
140 | ピアノの上…… かずさの目の前に置かれた小さな箱。 | ||||
141 | 春希 | Haruki | 「そしてこれからも、ずっと続いていこう?」 | ||
142 | その中で優しく輝く、白銀色の光。 | ||||
143 | かずさ | Kazusa | 「なんの…… なんの、真似だよ?」 | ||
144 | 今は、まだ…… かずさの左の薬指に存在しないもの。 | ||||
145 | 春希 | Haruki | 「ごめんな…… 実は、ちょっとだけお前を裏切ってた。 ……曜子さんと、結託してたんだよ」 | ||
146 | かずさ | Kazusa | 「それって、まさか……」 | ||
147 | 春希 | Haruki | 「ここが、式場なんだ。 今日が、その日なんだ」 | ||
148 | ………… | ||||
149 | 春希 | Haruki | 「明日……? 第二音楽室……っ?」 | ||
150 | 曜子 | Youko | 「そ。 それが北原家、冬馬家披露宴の日程」 | ||
151 | 春希 | Haruki | 「大晦日に、学校でって…… よく許可下りましたね?」 | ||
152 | 曜子 | Youko | 「ま、峰城大とは持ちつ持たれつだし、 そこは色々とね?」 | ||
153 | 春希 | Haruki | 「けど、なんで……」 | ||
154 | 曜子 | Youko | 「そりゃ、あそこは、 あの子にとって、特別な場所だからよ。 ……それこそ、良くも悪くもね」 | ||
155 | 春希 | Haruki | 「いや、そっちじゃなくて…… どうして、大晦日なんです?」 | ||
156 | 曜子 | Youko | 「それは、まぁ…… 私なりの、リベンジってところかしら?」 | ||
157 | 春希 | Haruki | 「それって、どういう……」 | ||
158 | 曜子 | Youko | 「あの日の私の作戦を、もう一度再現するため。 ……なんてね、ちょっとした意地なのよ」 | ||
159 | 結局、その『意地』ってのがなんなのか、 最後まで曜子さんは教えてくれなかったけれど…… | ||||
160 | かずさ | Kazusa | 「悪趣味だぞ、お前ら……っ」 | ||
161 | それでも、もうこの時間の、この場所での儀式には、 曜子さんの愛と、執念と、 悪戯心が絶妙に混ざり合っていた。 | ||||
162 | かずさ | Kazusa | 「ここなら、あたしが感激するとでも思ったのか? 泣くとでも思ったのか?」 | ||
163 | 春希 | Haruki | 「泣かないのか?」 | ||
164 | かずさ | Kazusa | 「泣くか馬鹿! あたしはもともと 式なんてどうでもいいって言ってただろ!」 | ||
165 | 春希 | Haruki | 「そうだったっけ……?」 | ||
166 | 俺がベッドの中で聞いたのは、 もうちょっと違うニュアンスだったと記憶してるけど。 | ||||
167 | かずさ | Kazusa | 「それを、妙なサプライズでお涙頂戴とか…… なんだよ、あたしが泣いてるところを撮影して、 後で笑いものにでもするつもりだったか?」 | ||
168 | 春希 | Haruki | 「いや、俺は別にそんな……」 | ||
169 | かずさ | Kazusa | 「こうなったら意地でも泣いてなんかやるもんか! 誓いの言葉だってすっごいめんどくさそうに 『はいはい』って答えてやる!」 | ||
170 | 春希 | Haruki | 「いいよ、別に泣かなくても」 | ||
171 | ていうか、これだけ怒っておきながら、 ちゃんと誓いの言葉には答えるつもりなんだな、こいつ。 | ||||
172 | 春希 | Haruki | 「これは、俺と曜子さんの自己満足なんだ。 お前は、いやいや付き合ってくれるだけでいい」 | ||
173 | とにかく、かずさの承諾は取り付けた。 | ||||
174 | だから俺は、ポケットから携帯を取り出し、 発信ボタンを押した。 | ||||
175 | かずさ | Kazusa | 「どこに連絡してんだよ?」 | ||
176 | 春希 | Haruki | 「そりゃ、新婦の親戚、ご友人一同にさ」 | ||
177 | だって、さっきからずっと外で待ってるはずなんだ。 | ||||
178 | ……新婦のお召し物を抱えたまま、な。 | ||||
179 | ………… | ||||
180 | 春希 | Haruki | 「……あの、すいません。 それで、まだですか?」 | ||
181 | 美代子 | Miyoko | 「あ~、すいません北原さん。 実は着替えはとっくに終わってるんですけれど」 | ||
182 | 春希 | Haruki | 「はぁ……」 | ||
183 | 隣の第一音楽室にいる工藤さんの声は、 いささか困っている様子だった。 | ||||
184 | そろそろ、かずさを着替えに引きずり出してから、 一時間は余裕で越えた。 | ||||
185 | 美代子 | Miyoko | 「その、かずささんが、 さっきから廊下でゴネてまして……」 | ||
186 | 春希 | Haruki | 「あ~」 | ||
187 | 曜子 | Youko | 「いい加減に覚悟を決めなさい。 あんた、本当はものすごく見てもらいたいんでしょうが」 | ||
188 | かずさ | Kazusa | 「そ、そんなことないっ! 嫌で嫌でたまらないっ!」 | ||
189 | 曜子 | Youko | 「だからどうしてそこまで思いっきり照れるのよ? あんた自分がいくつだと思ってるの? いくらなんでも親として恥ずかしいわよ」 | ||
190 | かずさ | Kazusa | 「だって、だって……母さ~ん」 | ||
191 | 曜子 | Youko | 「あ~もう鬱陶しい! 早く行きなさいっ!」 | ||
192 | かずさ | Kazusa | 「や、やめろ……やめろぉっ」 | ||
193 | 春希 | Haruki | 「あ……」 | ||
194 | そりゃ、想像はしてたさ…… | ||||
195 | かずさ | Kazusa | 「悪趣味だよ、お前らみんな……」 | ||
196 | 春希 | Haruki | 「…………」 | ||
197 | かずさがこういう格好をしたら、 俺は多分、一発で撃ち抜かれてしまうだろうって。 | ||||
198 | かずさ | Kazusa | 「あ、あ……あたしが…… あたしがっ、こんな……っ」 | ||
199 | 言葉を、失ってしまうだろうって。 | ||||
200 | 春希 | Haruki | 「……式挙げるって話した時から、 こうされることはある程度予測してただろ」 | ||
201 | かずさ | Kazusa | 「け、けど、けどっ! こ、こんな、こんなっ」 | ||
202 | けど、ま、なんだ…… 呆然自失としてても、口は動くもんなんだな。 | ||||
203 | というか、相手が俺よりも動揺してるせいで、 俺が話を進めなくちゃならない義務感に囚われたというか。 | ||||
204 | 春希 | Haruki | 「綺麗だ、かずさ」 | ||
205 | かずさ | Kazusa | 「言うなっ」 | ||
206 | ……本当は、大声で『マジスッゲー』って叫びたいのに。 この白いかずさを、思いっきり抱きしめたいのに。 | ||||
207 | なのに、かずさはあまりにも覚悟ができていなかった。 | ||||
208 | かずさ | Kazusa | 「だ、だって、あたしは、あたしは……っ」 | ||
209 | もう、一緒に暮らして三年になるのに。 籍を入れてからだって、ずいぶん長いのに。 | ||||
210 | なのに、自分が花嫁になるというその儀式だけは、 なぜか想定もしていなかったみたいだった。 | ||||
211 | かずさ | Kazusa | 「あたしは、お前の妻になりたかっただけで、 別に、花嫁なんかになりたかったわけじゃ……」 | ||
212 | 春希 | Haruki | 「いいじゃん、別に。 花嫁になっても、さ」 | ||
213 | かずさ | Kazusa | 「け、けど、けどぉっ」 | ||
214 | まだ、どこかに罪悪感が残っているのか…… | ||||
215 | 今までかずさは、ステージでの衣装以外に、 自分を着飾ることをしようとしなかった。 | ||||
216 | まぁ、元からものぐさということも、 多少はあったんだろうけど。 | ||||
217 | 春希 | Haruki | 「本当に、綺麗だ…… 馬鹿みたいに、似合ってる」 | ||
218 | かずさ | Kazusa | 「春希っ…… う、うう、ふぇぇ……っ」 | ||
219 | 春希 | Haruki | 「いいのか? 泣いちゃって? 曜子さんが大喜びでビデオ回すぞ?」 | ||
220 | かずさ | Kazusa | 「うるさいっ! うるさいっ、うるさいぃ……っ」 | ||
221 | 春希 | Haruki | 「妙なサプライズ、大成功しちまったな……」 | ||
222 | 俺たちはもう、 もし、とか、あの時こうしてたら、とか、 そんなふうに、後悔することはしない。 | ||||
223 | 今ここにいる俺たちを、絶対に否定しない。 | ||||
224 | けれど、だからこそ、 俺たちは、今の自分たちを肯定する。 | ||||
225 | この、俺たちが一番楽しくて、 そして、一番切なかった場所から、 また、始める。 | ||||
226 | というわけで、遅ればせながら…… 今日、これから、俺たちの結婚式を始めます。 | ||||
227 | 春希 | Haruki | 「なぁ、かずさ…… 俺、お前とずっと一緒にいるって、誓うから」 | ||
228 | かずさ | Kazusa | 「そんなのもう、あたしは百万回誓ってる」 | ||
229 | 春希 | Haruki | 「そっか……」 | ||
230 | かずさ | Kazusa | 「……まぁ、百万と一回なんて、 決して多くないけどな」 | ||
231 | 春希 | Haruki | 「うん……」 | ||
232 | 曜子 | Youko | 「あ~! ちょっとぉ~! それは私の立ち合いのもとでやるって言ったでしょ~!」 | ||
233 | ………… | ||||
234 | 友人1 | 「……準備、できたってよ」 | |||
235 | 友人2 | 「じゃ、そろそろ行こうか?」 | |||
236 | 友人3 | 「うんっ」 |
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Introductory Chapter | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1001 | 1008 | 1009 | 1010 | 1011 | 1012 | 1013 |
1002 | 1008_020 | 1009_020 | 1010_020 | 1011_020 | 1012_020 | |
1003 | 1008_030 | 1009_030 | 1010_030 | 1011_030 | 1012_030 | |
1004 | 1008_040 | 1010_040 | 1012_030_2 | |||
1005 | 1008_050 | 1010_050 | ||||
1006 | 1010_060 | |||||
1006_2 | 1010_070 | |||||
1007 |
Closing Chapter | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | ||||||
2001 | 2011 | 2020 | 2027 | 2301 | 2309 | 2316 | 2401 | 2408 | 2501 | 2510 |
2002 | 2012 | 2021 | 2028 | 2302 | 2310 | 2317 | 2402 | 2409 | 2502 | 2511 |
2003 | 2013 | 2022 | 2029 | 2303 | 2311 | 2318 | 2403 | 2410 | 2503 | 2512 |
2004 | 2014 | 2023 | 2030 | 2304 | 2312 | 2319 | 2404 | 2411 | 2504 | 2513 |
2005 | 2015 | 2024 | 2031 | 2305 | 2313 | 2320 | 2405 | 2412 | 2505 | 2514 |
2006 | 2016 | 2025 | 2032 | 2306 | 2314 | 2321 | 2406 | 2413 | 2506 | 2515 |
2007 | 2017 | 2026 | 2033 | 2307 | 2315 | 2322 | 2407 | 2507 | 2516 | |
2008 | 2018 | 2308 | 2508 | 2517 | ||||||
2009 | 2019 | 2509 | ||||||||
2010 | ||||||||||
Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | |||||||
2031_2 | 2312_2 | 2401_2 | 2504_2 | 2511_2 | ||||||
2031_3 | 2313_2 | 2402_2 | 2507_2 | 2513_2 | ||||||
2031_4 | 2313_3 | 2402_3 |
Coda | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Kazusa (True) | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | ||||||
3001 | 3008 | 3014_2 | 3020 | 3101 | 3107 | 3201 | 3207 | 3901 | 3907 |
3002 | 3009 | 3014_3 | 3021 | 3102 | 3108 | 3202 | 3208 | 3902 | 3908 |
3003 | 3010 | 3015 | 3022 | 3103 | 3109 | 3203 | 3209 | 3903 | 3909 |
3004 | 3011 | 3016 | 3023 | 3104 | 3110 | 3204 | 3210 | 3904 | |
3005 | 3012 | 3017 | 3024 | 3105 | 3111 | 3205 | 3211 | 3905 | |
3006 | 3013 | 3018 | 3106 | 3206 | 3906 | ||||
3007 | 3014 | 3019 | |||||||
Common | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | |||||||
3001_2 | 3210_2 | 3901_2 | 3906_2 | ||||||
3015_2 | 3902_2 | 3907_2 | |||||||
3902_3 | 3907_3 | ||||||||
3904_2 |
Mini After Story and Extra Episode | |||
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The Path Back to Happiness | The Path Forward to Happiness | Dear Mortal Enemy | |
6001 | 6101 | 4000 | 4005 |
6002 | 6102 | 4001 | 4006 |
6003 | 6103 | 4002 | 4007 |
6004 | 6104 | 4003 | 4008 |
6005 | 4004 | 4009 |
Novels | |||||
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The Snow Melts, And Until The Snow Falls | The Idol Who Forgot How to Sing | Twinkle Snow ~Reverie~ | After the Festival ~Setsuna's Thirty Minutes~ | His God, Her Savior | |
5000 | 5100 | 5200 | 5205 | 5300 | 5400 |
5001 | 5101 | 5201 | 5206 | 5301 | 5401 |
5002 | 5102 | 5202 | 5207 | 5302 | |
5003 | 5103 | 5203 | 5208 | 5303 | |
5004 | 5104 | 5204 | 5209 |
Short Stories | |||
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Princess Setsuna's Distress and Her Minister's Sinister Plan | Koharu Climate After the Passing of the Typhoon | This isn't the Season for White Album | Todokanai Koi, Todoita |
7000 | 7100 | 7200 | 7300 |