White Album 2/Script/5203
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Speaker | Text | Comment | |||
---|---|---|---|---|---|
Line # | JP | EN | JP | EN | |
1 | 「それじゃ…メリークリスマス!」\k\n | ||||
2 | 「メ、メリー、クリスマス」\k\n「メリー…クリスマス…」\k\n | ||||
3 | 三人の、それぞれ微妙に温度の違うかけ声の後、グラスのぶつかり合う乾いた音が部屋の中に響き、定番のクリスマスパーティが始まった。\k\n「うわぁ、美味しそう…お刺身と天ぷらとお鍋で祝うクリスマスってのも、たまにはいいよね?」\k\n「クリスマスプディングと茶碗蒸しって少し似てるよな…材料が」\k\n「チキンもあるしな…鍋の中に団子状で」\k\n 温泉旅館の和室に色とりどりの和食を並べ立て、旅館ロゴ入りの浴衣で着飾っての乾杯が定番だというのなら、という条件付きで。\k\n「それにしても、すごいね窓の外…ホワイトクリスマスだね」 | ||||
4 | 「ま、ね」\k\n「わざわざそういうところを選んだ訳だしな」\k\n 『雪を見に行こうよ』というのも、『冬休みに入ったらすぐにね』というのも、『温泉がいいな』というのも、全て[R雪菜^ひとり]の[R強い要望^ワガママ]だった。\k\n「そういえばね、露天風呂も凄かったんだよ! 屋根がないからお風呂の中にまで雪が降ってきて」\k\n「寒くて寒くて…上がった瞬間に凍え死にそうだった」\k\n「確かに寒かったけど、すっごく気持ちよかったよ。春希くんも入ってくればよかったのに」\k\n「そんな気力がありませんでした…」\k\n そんな女の子らしくない野望を打ち立てた後の主催者の動きは妙に素早く、親戚の経営する旅館に予約を入れ、両親を適当かつ強引に説き伏せ、三人分の学割申請から日程表の作成まで一人でさっさと進め、とうとう待望のこの日を迎えるに至った。 | ||||
5 | 「それだけ消耗してる割にはあまり役に立たなかったけどな」\k\n「お前ら元気だな…」\k\n「鍛え方が違うからな。特にここ二月は寝る暇もなかったし」\k\n「十一月は俺のせいだったけど、十二月は自業自得だろ…」\k\n この日までの数日間、この計画のために動いていたのは本当に雪菜だけだった。\k\n 他の二人は『温泉…?』というツッコミ以外はほぼ全てを雪菜に委ねていた。\k\n「ほんと、今年を思い返してみても、いろいろと大変だったよね。さ、飲も飲も」\k\n「忘年会のノリになってるぞ雪菜」\k\n「この状況は明らかに忘年会だろ。これをクリスマスパーティなんて言ったら欧米人に怒られる」\k\n 二人とも、かずさの追々々試対応でそれどころではなかったから。\k\n 雪菜のすることをある程度は信頼していたから。 | ||||
6 | 「クリスマスでも忘年会でもなんでもいいよ。一緒にいたい人たちと、一緒にいられるんだから」\k\n そして二人とも…いや、三人ともわかっていたから。\k\n「はいはい、雪菜姫。あなたのお望みのままに」\k\n「…ま、いっか。メリークリスマス」\k\n 雪菜の〝そういう〟想いを、二人が止めることは、ありえないということを。\k\n「えっと、今日はみなさん、お忙しいところお集まりいただき、本当にありがとうございました」\k\n で、そんな楽しい時間なんてのは、あっという間に過ぎ去るというのは定説…\k\n なんて言ったところで三人とも、こんなに楽しい時間をあっという間に終わらせるほどノリは悪くないし諦めは良くなかった。 | ||||
7 | 「今日は…ええと、いろいろとお祝いすることが多すぎて短くまとめられないかもしれないけど、まぁどうせ時間はたっぷりあるしいいよね?」\k\n テーブルに並べられたご馳走が底をつき、仲居さんが膳を下げてからが、彼らの本当のパーティの始まり。\k\n かずさが鞄の中から取り出したクリスマス定番の発泡飲料と、雪菜の鞄の中から出てきた大量のお菓子が机の上に並べられ、こうして二度目の乾杯の音頭が始まる。\k\n「ええと…まずは、もう一度メリークリスマス!」\k\n | ||||
8 | 雪菜の、鈴が鳴るような清らかな声に、やはり鈴の鳴るようなグラスの音が三つ重なり、三人の聖夜を祝福した。\k\n「それから、三人の卒業に」\k\n「まぁ、そのうちの一人は確かに聖夜の奇跡みたいなもんだったよなぁ」 | ||||
9 | 「お前帰れ。たった今から歩いて東京まで帰れ」\k\n | ||||
10 | 今度は、ちょっとばかり不純物の混じった声たちに、三つのグラスの音が重なる。\k\n それはともかく、その雪菜の祝いの言葉が示す通り、期末試験と、その後の一週間の追試期間を経て、めでたく三人全員の卒業は、冬休み前に確定した。\k\n 最終日、最後の最後まで鼻歌交じりで切り抜けた[R本人^かずさ]に対して、三年くらい寿命が縮まったような[R影武者^はるき]の憔悴ぶりがその戦いの理不尽さを物語っていた。\k\n「今日の、命からがらの生還に」\k\n「もう俺二度とお前の車乗らね」\k\n「なんだ、本当に歩いて東京に帰るつもりなんだな、見直した」\k\n | ||||
11 | 初体験の高速道路に始まり、山道、雪道、そして迷子、さらに事故…\k\n 雪壁にめり込んだ車を旅館の車に引いてもらい目的地にたどり着いた頃、鼻歌交じりの[R運転手^かずさ]と憔悴しきった[Rナビ^はるき]という構図は試験の時のままだった。 | ||||
12 | 「かずさの…お母さんとの仲直りに」\k\n「お、おい…」\k\n「歴史的和解の瞬間、俺も見たかったなぁ」\k\n「うんうん、きっとかずさ、ぼっろぼろ泣いてたんだろうなぁ」\k\n「………をい」\k\n | ||||
13 | 半年ほど音信不通だったかずさの母、冬馬曜子から娘に電話があったのは、文化祭のステージの直後のことだった。\k\n それはつまり、かずさに男ができた直後ということでもあり…\k\n そんな美味しい話を、恋多きピアニストとして世界的に有名な曜子が見逃すはずもなく、照れと無遠慮と秘匿と携帯の奪い合いの末、壮絶な親子喧嘩が繰り広げられたとか。 | ||||
14 | …そう、十八にもなって、初めてかずさは本気で母親と喧嘩ができた。\k\n そのことを二人に話したときのかずさの、誰にも遠慮のない幸せそうな表情は、春希や雪菜にとっても、誰にも遠慮せず喜ぶことのできる最上の幸せだった。\k\n | ||||
15 | 「それと、天才ピアニスト冬馬かずさの復活に」\k\n「久しぶりにコンクールに出るだけで大げさな」\k\n「だって本人が優勝間違いなしなんて吹くからさぁ」\k\n「それとそれと、かずさの音大進学を祈って」\k\n「本選に出るだけで推薦取れるんだから楽勝だろ」\k\n「ほら、そんなふうに」\k\n | ||||
16 | かずさの、そして皆の幸運はそれだけに留まらなかった。\k\n 一度は娘の才能に見切りをつけたはずの曜子は、単なる文化祭の余興でしかなかったかずさの演奏に感銘を受けたらしく、その再起を後押しすることを申し出た。 | ||||
17 | 年明けのピアノコンクールで好成績を残せば、音大への推薦入学の斡旋、さらにその後の演奏活動への惜しみないサポート…ピアノが上手いだけのニートを日本クラシック界期待の若手ピアニストに変身させるチート技を披露するとかしないとか…\k\n「あ、あたしのことばっかじゃなくて…今度は、二人の峰城大合格に」\k\n「ありがとう、かずさ…」\k\n 飲んでいるのは酒ではないのに頬を真っ赤に染めたかずさが、雪菜から乾杯の音頭を奪い取り、皆のグラスにぶつけ…\k\n「ま、俺たちは当たり前のことを当たり前にやっただけだけどな」\k\n「訂正…雪菜の峰城大進学に」\k\n るふりをして、春希のグラスだけを華麗にスルーして。\k\n | ||||
18 | 「ええと、最後に…これはわたしの勝手な願いなんだけど」\k\n どうやら今度こそ最後らしく、もう一度雪菜が主導権を取り戻し、今まで以上に高くグラスを掲げる。 | ||||
19 | 「今日のこの日、峰城大付軽音楽同好会の同窓会を、ね…」\k\n けれど、勢いよく掲げた杯に比べ、挨拶の方は徐々に勢いを失っていく。\k\n「その、なんて言うか…来年とか、再来年とか…」\k\n「………」\k\n「………」\k\n「またこうして、雪を見て、お風呂に入って、夜通しお喋りして…」\k\n 鈴の鳴るような声が蚊の鳴くような声にまでトーンダウンしただけでなく、自信も、視線も、テーブルへと落ち込んでいく。\k\n「わたし今、痛いこと言ってるのかもしれない。勝手なこと言ってるのかもしれない」\k\n「二人の邪魔、してるだけかもしれない…」\k\n「雪菜…」 | ||||
20 | 春希は、雪菜のその表情を、今までに二度見た記憶があった。\k\n「でも、でもね…わたし、三人がいいの」\k\n「かずさも春希くんも、失いたくないの」\k\n | ||||
21 | 一度めは、学園祭一日目。ステージの前日。\k\n リハーサルで声が出せず、自信を失っていた彼女を教室まで迎えに行ったあのときの、泣きそうで、けれど少しだけ嬉しそうだった女給さんの儚い笑顔。\k\n | ||||
22 | 「やだな、何言ってるんだろわたし…やっぱり、すごく痛いコだ」\k\n そして二度目は…\k\n | ||||
23 | 二度目は、祭りの後、夕闇の第二音楽室。\k\n 居眠りしていた春希を優しく起こし、大切なことを伝えてくれた、あの時の…\k\n | ||||
24 | 「それでも、それでもね…わたしは、わたしは…っ」\k\n「あ~もうっ!」 | ||||
25 | 「いたぁっ!?」\k\n | ||||
26 | 「か、かずさ?」\k\n それは、雪菜にとっては突然の、かずさのゲンコツで。\k\n「何ウジウジしてんだよ! あたしのそういう態度叱ってくれたの雪菜だろ? 背中押してくれたの雪菜だろ!?」\k\n けれど、かずさにとっては我慢に我慢を重ねた上での限界で。\k\n「だから約束するよ雪菜………あたしたちは、ずっと三人だ」\k\n「あ、ぁ…」\k\n 恩人が悩んだり泣いたりするのが我慢できない、小心者の限界で。\k\n「あたしたち三人の同窓会は来年も、再来年も…ずっと、続いていくよ。な、春希?」\k\n「俺に…どんな欠席理由があるって言うんだよ?」\k\n「かずさぁ…春希くん…っ」 | ||||
27 | 「あ~恥ずかし、ほんと恥ずかし、もう、早く飲んで忘れたい」\k\n けれど、そうやって[R痛いコ^せつな]の背中を押す自分の痒さにも耐えきれなかったりして、ますます赤く染まった自分の頬を浴衣の袖で隠しながらグラスを掲げる。\k\n「そんなわけで、今度こそ最後だぞ雪菜…きちんと締めろよ?」\k\n「う、うん…うんっ」\k\n そんな親友の心強い後押しに、目を真っ赤に腫らしていた雪菜が、とうとう我慢しきれず、頬からぽろぽろ涙をこぼしつつ、割れた鈴のような声を絞り出す。\k\n | ||||
28 | 「それじゃ…それじゃあ、三人に」\k\n「かんぱい…」 | ||||
29 | 「ね」\k\n「ん?」\k\n 灯りの消された部屋の中を、窓から入り込む雪の白い光だけが照らす午前四時。\k\n「ありがとね」\k\n「何が?」\k\n 夕食食べ終わっても馬鹿騒ぎして、露天風呂で混浴をめぐって馬鹿騒ぎして、今度は誰がどこで寝るかで馬鹿騒ぎして。\k\n「乾杯の時のこと」\k\n「あれは…グラス持ってる腕が疲れたから」\k\n「そっちもあるけど、そうじゃなくて」\k\n「じゃあ、なんだよ?」\k\n やっと皆が寝ついたかと思った頃、隣の部屋の春希に聞こえないくらいの、けれど隣の布団のかずさには聞こえるくらいの声で、雪菜が囁きかけた。 | ||||
30 | 「ずっと三人って言ってくれて…ありがとね」\k\n「そんな当たり前のことで感謝されても…その、困る」\k\n もちろんかずさが起きていると…ついでに、春希が眠っていると確信してから。\k\n「かずさと友達になれてよかった」\k\n「雪菜…」\k\n かずさには絶対に伝えておきたかったことだから。\k\n | ||||
31 | 「親友になってくれて、本当に嬉しかったんだよ…っ」\k\n ついでに、春希には、なるべく聞かれたくないことだったから。\k\n「ふ、ふふ…っ、ぃ、ぇぐ…あはは…」\k\n「っ、たく、もう…」\k\n 雪菜は、まだ数時間前の自分を引きずったままだった。\k\n 嬉しいというたった一つの感情を、喜怒哀楽の全てで表現しようとするめちゃくちゃなパフォーマンス。 | ||||
32 | 表情と声と言葉と涙がバラバラに入り乱れた、形にも音にも色にもなっていない混沌とした想いが、混沌であるがゆえにかえって真っ直ぐに突き刺さってきて、かずさは思わず布団の中で雪菜に背を向ける。\k\n つい数か月前まで、人から向けられる感情を誰彼ともなく遮断し続けてきたかずさにとって、こんな滅茶苦茶なのに直球な雪菜の気持ちは思いっきり苦手だったから。\k\n「なぁ、雪菜」\k\n「ん、んぅ?」\k\n「なんで、あたしなんだ?」\k\n「ふぇ?」\k\n そうやって雪菜から避ける態度を取っておきながら、それでもかずさは問いかけずにはいられなかった。 | ||||
33 | 「どうして水沢や他の奴じゃなくて、あたしが親友なんだ?」\k\n だって、苦手という感情は、嫌いという感情とは違うから。\k\n「あたしみたいに無愛想で、口が悪くて、性格も悪くて、他人なんかみんな大嫌いで、そもそも人間として最悪な奴と、どうして仲良くなりたいって思ったんだ?」\k\n「かずさ…」\k\n「それに頭も悪くて、ピアノしか取り柄がなくて、そのピアノだってずっとやめてて、このままだったら引きこもりにしかなれないような落ちこぼれなんだぞ?」\k\n「………」\k\n「それに、それにさ…あたしは、お前の…」\k\n「そうだなぁ…」\k\n と、あまりに痛い自虐にしびれを切らしたのか、それともその先を言わせないためなのか、雪菜が久しぶりに冷静な口調に戻り… | ||||
34 | 「可愛いから、かな」\k\n「んなっ!?」\k\n かずさの背中にぴとっと身体を重ねてきた。\k\n …いつの間にか、同じ布団にするりと潜り込みつつ。\k\n「んふふ…かずさぁ」\k\n「ちょ、ちょっと待て雪菜…まさかお前、隠れて酒飲んだ?」\k\n「そんなことするわけないよぉ?」\k\n「酔ってるとしか思えないぞ!?」\k\n かずさの背中に柔らかく温かい感触が広がる。\k\n 石鹸と湯と肌が混ざりあった、ほのかで艶やかな香りが鼻腔をくすぐる。\k\n「ふふっ、そんなに怯えないでよ…ちょっと抱きしめてキスしちゃおうかなって思っただけだよ」 | ||||
35 | 「普通ビビるってそれ!」\k\n 耳元に、温かい息とともに甘い言葉が吹きかけられる。\k\n背中から回された手は、かずさのお腹と胸に伸び、その、雪菜にも負けず劣らずの柔肌を蹂躙するように撫で回す。\k\n「あ~、冗談のつもりだったけど、なんだか柔らかいしいい匂いだし、気持ちよくなってきちゃった…ま、いっか、相手がかずさだったら、わたし…」\k\n「よくないからこっち側は!」\k\n「そんな大きな声出しちゃっていいのかなぁ…春希くん起きちゃうよ?」\k\n | ||||
36 | 「っ…ぃ、ゃ、ゃめ…っ」\k\n | ||||
37 | 「………って、そこで本当に小声になるところが可愛いんだよね」\k\n「………へ?」\k\n と、いつの間にか抱きしめられていた腕は引っ込められ、背中に押しつけられていた二つの感触も失われていた。 | ||||
38 | 「おかえしだよ、かずさ」\k\n「な、何の…」\k\n「何ウジウジしてんだよ…ってやつ」\k\n「あ…」\k\n その代わり、かずさの後頭部に、ぽかりという軽い感触とともに拳が押しつけられる。\k\n「だから約束する、かずさ………わたしたちは、ずっと親友だよ」\k\n「せ、雪菜…お前なぁ」\k\n「ふふっ、びっくりした?」\k\n「お前さ、自分の行動がどれだけ相手を骨抜きにするかわかってないだろ」\k\n 照れ隠しかマジ泣きか、今度はかずさが感情の揺れまくった甲高い声を上げる。\k\n「え~、そんなことないと思うけどなぁ」\k\n「あるよ! 今の、女のあたしだって思いっきりドキドキしたぞ!」 | ||||
39 | 「ふふ、そう? かずさにそう感じてもらえたのなら嬉しいなぁ…」\k\n「だからそれだよ…お前に迫られて落ちない人間なんて、男も女もいないって」\k\n「ん~、過大評価だと思うけどなぁ」\k\n そんなふうに、むやみに感情が揺れてしまったからだろうか。\k\n それとも、雪菜があまりにも気持ちを表に出しすぎるからだろうか。\k\n「だからあたしは最初、お前が苦手だった。怖かった。警戒してた」\k\n「え…どうして?」\k\n「………」\k\n | ||||
40 | かずさは、墓にまで持って行くつもりだった暗い気持ちを、不用意に口にした。\k\n「ね…どうして?」\k\n「だってそれは…あいつには絶対に言うなよ?」\k\n「…うん」 | ||||
41 | 「取られると…思ったんだよ」\k\n「…あ~」\k\n「お前が相手じゃかなわないって…思ったんだよ」\k\n | ||||
42 | 『冬馬さん、だよね?』\k\n 『小木曽…雪菜』\k\n | ||||
43 | 初めて雪菜が自分を名前で呼びかけたときから。\k\n 初めて自分が雪菜の瞳の中を覗き込んだときから。\k\n「やっぱあたし、人として最低だな」\k\n「………」\k\n かずさは、雪菜の気持ちが、自分と同じ方角を向いていることに気づいていた。\k\n「なぁ雪菜…お前さ、本当に、こんなのが親友で…」\k\n「そういうところが可愛いんだよね~」 | ||||
44 | 「は、はぁ?」\k\n けれどそれは、何もかずさの方だけに限った話ではなく。\k\n「そういう、最初っから思いっきりバレてることを必死に隠そうとするところが」\k\n 初めて自分からかずさに声を掛けたときから。\k\n 初めてかずさが自分を揺れる瞳で見つめてきたときから。\k\n「顔や態度や仕草に似合わない、乙女ちっくな思考回路が、ね?」\k\n 雪菜は、かずさの気持ちが、自分より強く、激しいことに気づいていた。\k\n「せ、雪菜…?」\k\n「ふふ…ふふふっ、あはははっ」\k\n「わ、笑うなよ、おい…」\k\n「だ、だけど、だけどさぁ…っ、ほんっと、かずさってば、かずさってさぁ…っ」\k\n「笑って、いいのかよ…」 | ||||
45 | 「え、なんで?」\k\n そう、二人は最初からわかっていた。\k\n お互いが、同じ男の子のことを意識していると。\k\n「雪菜はもう笑えるのか? 本当に笑って済ませられるのか?」\k\n「それ…って」\k\n「あたしは…お前を裏切ったんだぞ?」\k\n けれど二人は、祭りの前に確かめ合ってしまったから。\k\n | ||||
46 | 『わたしが一番好きな男の子は三年E組北原春希くんです…これでいいかな?』\k\n 『あたしの、好きな奴…は………そんな奴、いない』\k\n あの時、かずさは一度、勝負から降りた。\k\n 雪菜の宣戦布告に応えなかった。 | ||||
47 | 「あたしは…本当にお前の親友なのか? 親友で、いいのか…?」\k\n なのに今、春希の隣にいるのは…\k\n 戦ってもいないのに、勝ってしまったのは…\k\n「なんで…あんなことしたんだよ?」\k\n「ええと…覗いちゃった罪滅ぼし?」\k\n「ふざけるなよ…」\k\n | ||||
48 | 祭りの後…学園祭のライブステージから二時間後。\k\n アイドルを盛り上げるために全力を尽くしたバックバンドの二人は、夕闇迫る更衣室がわりの第二音楽室で、お互いの気持ちを確かめ合った。\k\n …けれど実は、この気恥ずかしい恋物語には、もう一つの裏話があって。 | ||||
49 | 「ごめんねかずさ。あの時わたし、あなたに恥をかかせちゃったよね」\k\n「どうして譲ったんだよ…お前もあいつのこと好きだったんじゃないのかよ」\k\n | ||||
50 | 夕闇迫る更衣室がわりの第二音楽室で気持ちを伝えたのは、実は片方だけだった。\k\n 魔法が掛かったように眠る男の子に目覚めのキスをして、けれどあわてて逃げ出した恥ずかしがり屋の女の子。\k\n | ||||
51 | 「それはね…わたしたちにとって、今の関係が一番だって信じてるから」\k\n「雪菜…」\k\n だからそこには、このままでは完結するはずのなかった物語に軌道修正を掛けた、もう一人の登場人物がいた。\k\n 目覚めたばかりの男の子にガラスの靴を差し出して、その靴にぴったりと合う女の子を捜させた、お節介な女の子。 | ||||
52 | 「一番好きな人どうしが一番好きでいられる関係が一番だって、信じてるから」\k\n「…なんか〝一番〟ばっかだな、それ」\k\n「春希くんに怒られそうだよね。そんな汚い日本語使うなって」\k\n そんな、お姫様と衛兵1ほどに役割の違った二人の女優は、今はこうして同じ布団の中で見つめ合い…\k\n「なんで二人揃って、あんな奴でなきゃ駄目なんだろうな…」\k\n「ふふ、そうだね…こ~んないい女が二人も揃って、ね~?」\k\n「あんな小役人みたいな、なぁ」\k\n「ううん、春希くんは絶対もっと出世するよ。きっと[R大役人^かんりょう]になるよ!」\k\n「…どっちにしてもいい男っぽくないけどな」\k\n「ふふ、そだね」\k\n「ま、あいつらしいっちゃあいつらしいかぁ」\k\n そして、立場の違いを忘れて笑いあう。 | ||||
53 | 「ね、かずさ」\k\n「ん?」\k\n「このまま、こっちで寝てもいい?」\k\n「うん、そうだな…一人だと寒いもんな」\k\n「あ、なら、春希くんも呼ぼうか?」\k\n「…あんまり調子に乗るなよ、雪菜」\k\n「それってふざけるなってこと? それとも自分の男にちょっかい出すなってこと?」\k\n「………おやすみっ」\k\n | ||||
54 | 夢だった。\k\n これは、雪菜がずっと求めていた夢だった。 | ||||
55 | 覚めて欲しくない、そう願ってやまない夢だった。\k\n お互い何でもさらけ出せる親友と、中学生みたいな恋に悩んで。\k\n 夢を共有した仲間同士で、永遠の友情を誓い。\k\n そしてきっと、これからもっともっと嬉しいことが増えていく…\k\n 「おやすみ」\k\n けれど雪菜は、本当はわかっていた。\k\n 永遠に続く夢などありはしないと。\k\n その夢が幸せであればあるほど、覚めないことはないのだと。 | ||||
56 | 「着いたぞ」\k\n「ああ」\k\n 楽しい時間はすぐに過ぎ去る。\k\n …なんてのもさることながら、たった一泊の旅行ともなると、やはり四十八時間以内に決着がついてしまうもので。\k\n かずさの運転する、出発前よりちょっと傷の増えた高級外車が春希の住むマンションのすぐ下に止まった。\k\n | ||||
57 | 「疲れた、な」\k\n「うん」\k\n「あたしも早く帰って、シャワー浴びて、ぐっすり寝る」\k\n「俺もシャワーにするか…大きな風呂が恋しいけど」\k\n「何思い出してんだこのスケベ」\k\n「…思い出させるようなことを言うな」 | ||||
58 | 雪菜とは、十分ほど前に彼女の家の前で別れていた。\k\n 彼女は、車からその姿が見えなくなるまでずっと手を振っていた。\k\n 馬鹿みたいに楽しかった旅の余韻に浸るように。\k\n …それとも、[R三人^ゆめ]から[R一人^げんじつ]へと戻ることに抗うように。\k\n | ||||
59 | 「じゃあ、な」\k\n「ああ…」\k\n そして今、素っ気ない別れの挨拶を済ませ、春希は車から降り。\k\n「………」\k\n「………」\k\n トランクから旅行鞄を取り出し、ゆっくりと肩に担ぎ。\k\n「………」\k\n「………」\k\n 運転席に向かって軽く手を振ると、かずさも軽く返し、車を発進させる。 | ||||
60 | 「………」\k\n「………」\k\n エンジンの音が徐々に遠ざかり、三人のクリスマスパーティは、幕を閉じる。\k\n「…早く行けよ」\k\n「そうなんだけど、な」\k\n はず、だったのに…\k\n「………」\k\n「………」\k\n 春希が車を降りようとしないから、二人の解散は一番最初からつまづいていた。 | ||||
61 | 「おい…」\k\n「うん…」\k\n いや、本当は、そこが一番最初の課程ではなくて。\k\n「いいよ別に、気を使わなくても」\k\n「そう言われてもな」\k\n「勝手に振りほどいて行けばいいだろ。そんなに強く握ってない」\k\n「そっちから離すって選択肢はないのかよ」\k\n「冗談じゃない、なんであたしが」\k\n「あのなぁ」\k\n | ||||
62 | ほんの一分ほど前、かずさは車をこの場所に止めた。\k\n 道路の脇に寄せて、ブレーキを踏み、クラッチを切り、ギアをニュートラルに入れ、サイドブレーキを引き、クラッチとブレーキから足を離し、そして…\k\n サイドブレーキから離した右手を、急いで春希の左手に絡ませた。 | ||||
63 | 「冗談じゃ、ない」\k\n「かずさ…」\k\n 振りほどけばいいなんて言っておきながら、その言葉を発して以降、春希の手には、ピアニストの強い握力がかかったまま。\k\n 滑らかで、硬くて、熱くて、汗がにじんでて、ほんの少し震えているかずさの手は、さっきからその持ち主の言葉とは正反対の行動をとり続けていた。\k\n「なら、ならさ…離すつもりがないんなら」\k\n「…んぅ?」\k\n「こっち、来い」\k\n 春希には、わかっていた。\k\n「離すつもりがないんなら…こっち、来いよ」\k\n かずさの言葉と行動が乖離するとき、どちらが本当のかずさの気持ちなのかを。\k\n 半年のすれ違いと、一月のふれ合いを経て、わかるようになっていた。 | ||||
64 | 「…なんて主体性のない奴だ。自分から動かないなんて」\k\n「だったら俺振りほどくぞ? 自主的に帰るぞ?」\k\n「ついでに…なんて冷たい奴だ」\k\n「冷たくなんかない。ただ」\k\n「ただ…?」\k\n「どんな意地悪をしてでもかずさの甘える仕草が見たい、駄目人間ってだけだ」\k\n「ふん…っ」\k\n そして春希のオッズの低い賭けは、つまらないくらいあっさり的中する。\k\n「かずさ…」\k\n「るさい」\k\n かずさが、運転席から身体を放り出し、助手席の春希に覆い被さる。\k\n 胸の辺りに思い切り顔を埋めると、セーターから素肌を掘り起こさんばかりにぶるぶると左右に震わせ、そのまま大きく息を吸い込む。 | ||||
65 | まるで二日間おあずけを喰らっていた犬がようやくご褒美にありつけたかのように、ひたすらご主人様の匂いを確かめ、ついでに自分の匂いをマーキングしているようで。\k\n「かずさ…お前、いい匂いするな」\k\n だから、そんなひたむきで、けれど少し動物的な行為に、春希はあくまで人間的…というか、飼い主的なおおらかさをもって抱きしめる。\k\n「…キモい、春希」\k\n「ま、否定はしない」\k\n …過剰な照れ隠しで手を噛まれても受け止められるくらいなおおらかさをもって。\k\n「俺、お前のことに関してはキモいかもしれない。オタクかもしれない」\k\n「お前なぁ…そういうの、本当にキモいぞ」\k\n「だから、否定してないじゃん」\k\n「まさかそんなわざとらしいこと言われて嬉しがる女がいるとでも思ってるのか?」 | ||||
66 | 「別に、俺そういうつもりで…」\k\n「あたし以外に、いるとでも思ってるのか?」\k\n そしてやはり、噛んだ後はその傷口をぺろぺろ舐めて甘えるのもかずさの常套手段。\k\n「あたしだけだ…そんな奴」\k\n「かずさ…」\k\n 肩に置いていた両手を春希の首に回し、もっと自分の匂いを伝えようと、春希の顔に自分の黒髪を押しつける。\k\n「お前のキモさ、わざとらしさ、情けなさ…嫌々ながらでもわかってやれるのは、あたしだけなんだ」\k\n「うん…」\k\n「だからお前は、あたしだけを口説いてればいいんだ」\k\n「うん…っ」\k\n 春希も、そのかずさのスキンシップを受け止めて、髪の香りを胸一杯に吸い込む。 | ||||
67 | 昨夜の湯上がりの時のような石鹸の香りは消えていたけれど、かえってかずさ自身のほのかな匂いが直接脳を刺激して、蕩けるような快感に包まれる。\k\n だって、かずさに出会った春の頃から、ずっとこの匂いが大好きだったから。\k\n「あ~もう、本当キモい台詞ばっかり吐きやがって」\k\n「お前だって…」\k\n「お互いキモすぎて、寒気がする」\k\n「ほんとにもう…」\k\n 次から次へと出てくる文句を聞き流しつつ、頬と頬とを擦りつける。\k\n「寒気が、するんだよ」\k\n「そうかよ」\k\n「そうかよじゃないだろ…寒いって、言ってるのに…っ」\k\n「だからさぁ…そんなめんどくさい甘え方すんなよ」\k\n 理不尽な罵倒をかわしつつ、額と額とをこつんとぶつける。 | ||||
68 | 「甘えてなんかないっ」\k\n「はいはい、わかったわかった。じゃあ帰るな、俺」\k\n | ||||
69 | 「お前はっ! …ん、んぅっ!?」\k\n 仕上げとばかりに、激しかけたかずさの唇を、抵抗するはずもないのに無理矢理奪う。\k\n「ん、ん…」\k\n と、かずさはこれ以上ないほど幸せそうに目を閉じて、春希に全てを委ねてきた。\k\n 目を閉じ、耳を塞ぎ、そして口は春希に塞いでもらって…\k\n かずさは、心を空っぽにして何も考えず、恋人との睦みごとに全神経を集中する。\k\n 特に、昨夜の〝彼女〟との会話だけは絶対に思い出さないよう、祈りながら…\k\n そんな、苦みを喉の奥に追いやり、舌先だけで味わう甘い時間がしばらく続き… | ||||
70 | 「ん、ん…」\k\n「んぷ…あ、はぁぁ…」\k\n 二人はようやく、唇を離す。\k\n「もう、寒くないよな?」\k\n「いや…寒い」\k\n「…かずさ?」\k\n お互い、触れあう全身も、唇や頬にかかる吐息も、火傷するくらいに火照っていたのがわかっているのに。\k\n「寒いよ、春希…」\k\n「お前、どうして…」\k\n「どうして、なんだろうな…」\k\n なのに、かずさはまだ、頑なに身体を離そうとしなかった。 | ||||
71 | 「こんなに幸せなのに。こんなに嬉しいことばかりなのに」\k\n 唇だけでなく、目元までも濡らしながら。\k\n「心が、温かくなっているはずなのに…」\k\n 唇だけでなく、身体までも震わせながら。\k\n「春希は寒くないのか? 全然、寒くないのか?」\k\n「俺は、その…熱いくらいで」\k\n 春希の戸惑いが、かずさにも伝わってくる。\k\n かずさが焦れば焦るほど、感情の格差が埋められなくなっていく。\k\n 今、この場で〝結果〟を求めているのは、自分だけだと気づいてしまう。\k\n「そっか、熱いんだ…春希は」 | ||||
72 | ――なんであたし、こんな奴がいいんだよ。\k\n どうしてこんな奴を、誰にも渡したくないなんて思っちゃうんだよ。\k\n こんな奴、こんな奴、あたし以外に、誰も欲しがりなんか…\k\n かずさの頭の中に、次から次へと理性が問いかける。\k\n かずさが心に抱える、燃えるような寒さをクールダウンさせるために。\k\n 『ううん、春希くんは絶対もっと出世するよ。きっと大役人になるよ!』\k\n 「っ…」\k\n なのに、どれだけ焦りを取り除こうと足掻いても… | ||||
73 | ――なんで、あんなコが。\k\n どうして、誰もが好きになってしまうような、あんなコが、さ…\k\n あの、邪気のないまっすぐな思慕の言葉が。\k\n 本気なくせに悪戯っぽい、透き通る声が。\k\n どうしようもなく、心の中を引っかき回す…\k\n | ||||
74 | 「あ…」\k\n だから結局、今までよりももっと強い力で春希の全身に覆い被さる。\k\n「あたしは寒い…全然、逆だな」\k\n けれど、身体を重ねれば重ねるほど春希には伝わってしまう。\k\n かずさの、嘘と言うにはあまりにも稚拙な、子供の駄々が。\k\n かずさの、求めているものが。 | ||||
75 | 「なら、ならさ…」\k\n「かずさ…」\k\n ここまではまだ甘えで済んだ。\k\n 〝三人の中の二人〟と言ってもよかった。\k\n けれど、ここが分水嶺だった。\k\n | ||||
76 | 『あたしたちは、ずっと三人だ』\k\n あの、自分がたった一日前に立てた誓いに殉ずるためには、ここで引き返さなくてはならなかったのに…\k\n 『でも、でもね…わたし、三人がいいの』 | ||||
77 | 「その熱で、あたしを温めてくれよ…」\k\n 同じ意味の、違うひとが発した言葉が、かずさの中の本能を呼び覚ます。\k\n それは、自らの欲望に従うよう囁いているのか。\k\n それとも、危機を察知し警告を発しているのか。\k\n あるいは、その両方か…\k\n「代わりに、お前を冷ましてやるからさ…春希」\k\n「かず、さ…」\k\n ――最低だな、あたし。\k\n だから、あまりにもあっさりと…\k\n かずさは、雪菜との誓いを、反故にした。\k\n たった一日前、あれほど触れあったのに、あれほどじゃれあったのに。 | ||||
78 | ――でも…最低でいい。\k\n …いや、だからこそ。\k\n 雪菜の女の子としての魅力を全身で感じてしまったからこそ、裏切るしかなかった。\k\n だって、雪菜を好きになればなるほど。\k\n その魅力を感じれば感じるほど。\k\n 一緒にいたいと思えば思うほど…\k\n 三人が三人のままであることに、恐怖を感じてしまったから。\k\n「言っとくけど俺、お前が思うほど堅物じゃないぞ?」\k\n「そういうこと前もって断るところが堅物なんだよ…」\k\n そして、かずさが期待した通り…\k\n 春希は、最後の最後で〝恋人〟のワガママを聞いてくれる。\k\n きっと、三人が三人のままでいられる方法を一生懸命考えながら。 | ||||
79 | ――こいつは、あたしのだ。\k\n もう、どこにも行かない、あたしだけの…\k\n 「痛いって言っても、やめないぞ…?」\k\n「言うもんか」\k\n だから、後のことは春希に任せればいい。\k\n 自分はただ、彼にどこまでもじゃれついていればいい…\k\n ――いいよな、雪菜…?\k\n お前、あたしたちのこと、認めてくれたんだよな?\k\n だから、何も問題なんかないよな…? | ||||
80 | 「[W15]痛[W15]い[W15]よ、[W15]春[W15]希[W15]…[W15]」 |
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Introductory Chapter | ||||||
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1001 | 1008 | 1009 | 1010 | 1011 | 1012 | 1013 |
1002 | 1008_020 | 1009_020 | 1010_020 | 1011_020 | 1012_020 | |
1003 | 1008_030 | 1009_030 | 1010_030 | 1011_030 | 1012_030 | |
1004 | 1008_040 | 1010_040 | 1012_030_2 | |||
1005 | 1008_050 | 1010_050 | ||||
1006 | 1010_060 | |||||
1006_2 | 1010_070 | |||||
1007 |
Closing Chapter | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | ||||||
2001 | 2011 | 2020 | 2027 | 2301 | 2309 | 2316 | 2401 | 2408 | 2501 | 2510 |
2002 | 2012 | 2021 | 2028 | 2302 | 2310 | 2317 | 2402 | 2409 | 2502 | 2511 |
2003 | 2013 | 2022 | 2029 | 2303 | 2311 | 2318 | 2403 | 2410 | 2503 | 2512 |
2004 | 2014 | 2023 | 2030 | 2304 | 2312 | 2319 | 2404 | 2411 | 2504 | 2513 |
2005 | 2015 | 2024 | 2031 | 2305 | 2313 | 2320 | 2405 | 2412 | 2505 | 2514 |
2006 | 2016 | 2025 | 2032 | 2306 | 2314 | 2321 | 2406 | 2413 | 2506 | 2515 |
2007 | 2017 | 2026 | 2033 | 2307 | 2315 | 2322 | 2407 | 2507 | 2516 | |
2008 | 2018 | 2308 | 2508 | 2517 | ||||||
2009 | 2019 | 2509 | ||||||||
2010 | ||||||||||
Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | |||||||
2031_2 | 2312_2 | 2401_2 | 2504_2 | 2511_2 | ||||||
2031_3 | 2313_2 | 2402_2 | 2507_2 | 2513_2 | ||||||
2031_4 | 2313_3 | 2402_3 |
Coda | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Kazusa (True) | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | ||||||
3001 | 3008 | 3014_2 | 3020 | 3101 | 3107 | 3201 | 3207 | 3901 | 3907 |
3002 | 3009 | 3014_3 | 3021 | 3102 | 3108 | 3202 | 3208 | 3902 | 3908 |
3003 | 3010 | 3015 | 3022 | 3103 | 3109 | 3203 | 3209 | 3903 | 3909 |
3004 | 3011 | 3016 | 3023 | 3104 | 3110 | 3204 | 3210 | 3904 | |
3005 | 3012 | 3017 | 3024 | 3105 | 3111 | 3205 | 3211 | 3905 | |
3006 | 3013 | 3018 | 3106 | 3206 | 3906 | ||||
3007 | 3014 | 3019 | |||||||
Common | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | |||||||
3001_2 | 3210_2 | 3901_2 | 3906_2 | ||||||
3015_2 | 3902_2 | 3907_2 | |||||||
3902_3 | 3907_3 | ||||||||
3904_2 |
Mini After Story and Extra Episode | |||
---|---|---|---|
The Path Back to Happiness | The Path Forward to Happiness | Dear Mortal Enemy | |
6001 | 6101 | 4000 | 4005 |
6002 | 6102 | 4001 | 4006 |
6003 | 6103 | 4002 | 4007 |
6004 | 6104 | 4003 | 4008 |
6005 | 4004 | 4009 |
Novels | |||||
---|---|---|---|---|---|
The Snow Melts, And Until The Snow Falls | The Idol Who Forgot How to Sing | Twinkle Snow ~Reverie~ | After the Festival ~Setsuna's Thirty Minutes~ | His God, Her Savior | |
5000 | 5100 | 5200 | 5205 | 5300 | 5400 |
5001 | 5101 | 5201 | 5206 | 5301 | 5401 |
5002 | 5102 | 5202 | 5207 | 5302 | |
5003 | 5103 | 5203 | 5208 | 5303 | |
5004 | 5104 | 5204 | 5209 |
Short Stories | |||
---|---|---|---|
Princess Setsuna's Distress and Her Minister's Sinister Plan | Koharu Climate After the Passing of the Typhoon | This isn't the Season for White Album | Todokanai Koi, Todoita |
7000 | 7100 | 7200 | 7300 |