Editing White Album 2/Script/6102 (section)

== Text ==
{{WA2ScriptTable}}

{{WA2ScriptLine
|1|春希|Haruki
|「それじゃ、行ってきます」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|2|雪菜|Setsuna
|「いい？　さっきの約束、絶対だからね？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|3|春希|Haruki
|「わかってる。<br>１０時までには絶対帰る」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|4|雪菜|Setsuna
|「今日だけは、誰に誘われても<br>飲んできちゃ駄目だからね？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|5|春希|Haruki
|「いや、さすがに所帯持ちを今日誘う人はいないだろ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|6|雪菜|Setsuna
|「夜遅く特ダネが入って来ても<br>取材に行っちゃ駄目だからね？<br>先輩とか編集長に押し付けてでも帰ってくるんだよ？」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|7|春希|Haruki
|「っ……ぜ、善処します」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|8|雪菜|Setsuna
|「絶対だよ？<br>今日中に帰ってこなかったら、<br>わたし実家に戻っちゃうからね？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|9|春希|Haruki
|「えっと……わかった。<br>絶対に、帰ってくるから」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|10|雪菜|Setsuna
|「それじゃ、行ってらっしゃいあなた」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|11|春希|Haruki
|「ああ……行ってきます」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|12||
|…………
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|}}

{{WA2ScriptLine
|13||
|いつもより長い『行ってきます』の後、<br>いつも通り、俺の唇に軽く雪菜の唇が触れる。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|14||
|今日の雪菜は、普段よりも随分と念入りで、<br>そしてある意味理不尽なワガママモードに入っていた。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|15||
|……けれどまぁ、それも仕方ない。<br>いや、夫としての度量とかそういうのとは関係なくて。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|16||
|雪菜がこういうモードに入るのは、たった年に三回。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|17||
|一つめは、雪菜の誕生日、２月１４日。<br>この日は、まぁ、当然といえば当然だ。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|18||
|二つめは、４月の俺の誕生日。<br>別に、俺としてはどうということもないただの日だけど、<br>多分、一年で一番のご馳走が用意されているのはこの日だ。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|19||
|そして三つめは……
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|}}

{{WA2ScriptLine
|20||
|それが今日……１２月２４日。<br>クリスマスイブ。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|21||
|普通の夫婦や恋人たちには、<br>プレゼントやデートのための、<br>まぁ、そこそこ商業主義に乗せられたメモリアルデー。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|22||
|けれど俺たちには……<br>まぁ、何年越しかの、因縁の日、だったりして。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|23||
|北の温泉で、永遠の友情を誓ったり、<br>海沿いのホテルで、決定的な危機を迎えたり、<br>欧州の小都市で、ふたたびすれ違いが始まってしまったり。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|24||
|そんな、主に俺の罪ばかりが強調される、<br>まぁ、ある意味とても重要なメモリアルデー。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|25||
|だから俺は、<br>今日だけは、雪菜との約束を、<br>二度と破るわけにはいかない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|26||
|今日中に雪菜にふたたび会って、<br>今日中に、メリークリスマスを告げて、<br>そして今日中に、俺には雪菜だけだと宣言する。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|27|春希|Haruki
|「……よしっ！」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|28||
|というわけで、職場に辿り着く前に、<br>もう一度気合を入れ直す。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|29||
|いつもの『仕事頑張ろう』とは真逆の、<br>とても社会人失格な、確固たる誓いを貫くために。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|30||
|…………
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|31|松岡|Matsuoka
|「北原、こっち上がったからチェック頼むな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|32|鈴木|Suzuki
|「あ、あとこっちのレイアウトもお願い～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|33|春希|Haruki
|「その二件、了解いたしました！<br>……が続いて残念なお知らせです。本日の業務受付は<br>ただ今を持ちまして終了させていただきます」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|34||
|ふと編集部の時計を見上げると、<br>いつの間にか午後８時を指している。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|35||
|雪菜と約束した『２２時までに自宅』を守るには、<br>そろそろ仕事を収束させていかなくちゃならない時間帯だ。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|36|松岡|Matsuoka
|「あ～、なにその態度？<br>一番の新入りのくせに生意気な」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|37|鈴木|Suzuki
|「よりによってイブの夜に<br>そんなあからさまな態度取られると、<br>イラっとするよね～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|38||
|……なのだが、二人の先輩方は、<br>今年のクリスマスはどうやら色々とある……というか、<br>今年に関しては色々とないみたいだった。
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|}}

{{WA2ScriptLine
|39|松岡|Matsuoka
|「なんだ～北原は？<br>さっさと帰って、あの美人の奥さんと<br>イチャイチャクリスマスかぁ？」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|40|鈴木|Suzuki
|「ちょっと洒落になんないもんね～北原君の奥さん。<br>ナイツレコードの美人広報って業界でも有名なんだよね？<br>なんでこんな堅物に引っかかっちゃったかなぁ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|41|松岡|Matsuoka
|「やっぱ堅かったんじゃないかな色々と」
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{{WA2ScriptLine
|42|鈴木|Suzuki
|「松っちゃん、それわたしが訴えたら<br>慰謝料がっぽりもらえるレベル」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|43|春希|Haruki
|「……二人とも、そんな無駄話してる暇があったら、<br>さっさと帰ったらどうですか？<br>だいたい松岡さんだって彼女との約束ないんですか？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|44|松岡|Matsuoka
|「それなんだよ！<br>なぁ、ちょっと相談に乗ってくれよ北原……」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|45|春希|Haruki
|「え、でも俺、一番の新入りですし」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|46|松岡|Matsuoka
|「家庭持ちの先輩の意見を聞かせて欲しいんだよ！<br>頼むよ！」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|47|春希|Haruki
|「いや、俺の意見なんて……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|48|松岡|Matsuoka
|「実はさ、俺、今、彼女にプレッシャーかけられててさ、<br>今会ったら、何らかの決心しなくちゃならない<br>状況なんだよね」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|49|春希|Haruki
|「……役に立つかどうか微妙なところなんですが、<br>なのにそんなクリティカルな事情話していいんですか？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|50|松岡|Matsuoka
|「年明けにさ、実家に誘われてんだよ？<br>これってマズいよな？<br>行っちゃったら色々決まっちゃうよな？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|51|春希|Haruki
|「いや、実家くらい行けばいいでしょう。<br>もしかしたら、ずっと付き合っていくかもしれないし、<br>断り続けて悪印象持たれるのも……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|52|松岡|Matsuoka
|「でも俺、まだそういうつもり、全っ然ないんだよ！<br>３０までは一人でいたいっていうかさぁ……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|53|鈴木|Suzuki
|「……あ～いるいるこういう煮え切らない男。<br>俺はまだ自分に自信が持てないんだ～とか、<br>けど、決してお前に飽きたわけじゃないんだ～とか」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|54|松岡|Matsuoka
|「……鈴木さん、俺に盗聴器仕掛けてる？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|55|鈴木|Suzuki
|「だいたいさぁ、自信なんて最初からある訳ないじゃん？<br>未知の領域に飛び込んでいって、一生懸命頑張って、<br>色々やりながら身につけていくものでしょ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|56||
|確かに鈴木さんの意見は正論ではあった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|57|鈴木|Suzuki
|「あ～腹立つ！<br>勇気もその気もない男なんか滅んでしまえばいいのに！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|58|春希|Haruki
|「鈴木さん、もしかして彼と……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|59|松岡|Matsuoka
|「……うん、俺が悪かった。<br>もうこの話はやめよう」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|60||
|だが、その正しさをものともしない<br>実体験っぽいオーラが、その言葉のありがたさを<br>台無しにしてくれちゃっていたりして。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|61|鈴木|Suzuki
|「……二人とも、こんな無駄話してる暇があったら、<br>今年いっぱい、一度も家に帰れないくらいの<br>仕事あげようか？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|62|春希|Haruki
|「今日の受付は終了しましたから！」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|63|松岡|Matsuoka
|「お、俺も彼女との約束があるんで！<br>それじゃお疲れ……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|64||
|そんなこんなで、鈴木さんの負のオーラにおののき、<br>俺と松岡さんが一斉に鞄を持って席を立った瞬間……
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|}}

{{WA2ScriptLine
|65||
|何かの予感をはらませた音が、編集部に響いた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|66|松岡|Matsuoka
|「……なぁ北原、<br>お前、『松岡の法則』って知ってるか？」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|67|春希|Haruki
|「知りませんし知りたくもありません」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|68|松岡|Matsuoka
|「俺、いっつもそうなんだよ。大事な用があって<br>絶対に帰らなくちゃならないときに限って、<br>狙ったように新しい仕事が舞い込んできて……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|69|鈴木|Suzuki
|「松っちゃんの場合、<br>今までほっぽっといた仕事の締切が発覚するだけでしょ」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|70|松岡|Matsuoka
|「とにかく俺が取ると絶対にやばいんだって！<br>まず間違いなく緊急の仕事が舞い込んでくるんだよ。<br>だからここは俺が取らない方が……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|71||
|いや、鳴っちゃった以上は、<br>誰がとっても同じ内容になってしまうのでは……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|72|春希|Haruki
|「す、鈴木さん……」
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|}}

{{WA2ScriptLine
|73|鈴木|Suzuki
|「あ～忙しい忙しい。<br>クリスマスなのに仕事終わらないわ男に捨てられるわ、<br>とても電話なんか取ってる暇ないわね～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|74||
|男に捨てられたのは忙しい理由にはならないような……
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|}}

{{WA2ScriptLine
|75|春希|Haruki
|「とりあえず俺が受けますけど……<br>松岡さん、逃げないでくださいよ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|76||
|と、俺は色々と悲壮な覚悟を決めて、<br>その、しつこくなり続ける受話器を取った。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|77|春希|Haruki
|「はい、開桜グラフ編集部……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|78|松岡|Matsuoka
|「…………」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|79|鈴木|Suzuki
|「…………」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|80||
|そして……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|81|春希|Haruki
|「はい、はい……ええ、わかりました。<br>それじゃ……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|82|松岡|Matsuoka
|「き、北原……？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|83|鈴木|Suzuki
|「結局、なんだった？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|84|春希|Haruki
|「……先週、違法献金問題で、<br>ウチにスッパ抜かれた建設大臣がいましたよね？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|85|松岡|Matsuoka
|「え、いや、ちょっと……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|86|鈴木|Suzuki
|「そのレベルは……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|87|春希|Haruki
|「……つい先ほど辞任表明したそうです。<br>今から記者会見だそうです」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|88|松岡|Matsuoka
|「それここにいるメンバーだけじゃ捌ききれないよ！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|89|春希|Haruki
|「というわけで編集部全員に連絡取ります！<br>皆さんご協力お願いします！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|90|松岡|Matsuoka
|「お、俺たちのクリスマスが～！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|91|春希|Haruki
|「よかったですね松岡さん！<br>これで堂々と彼女の誘いを断れて！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|92|鈴木|Suzuki
|「ふ、ふふ、ふふふ……<br>どうやらわたしの願いを神が聞き入れてくれたようね。<br>そうよ、クリスマスなんて滅んでしまえばいいのよ～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|93||
|ほら、やっぱり。<br>『松岡の法則』は一度発動したら止められない……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|94||
|……いや、本当にどうしよう。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|95||
|…………
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|96|春希|Haruki
|「ごめんなさい！<br>本っ当～に許して！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|97||
|目の回る忙しさがほんの一段落つき、<br>やっと雪菜への連絡が取れたのは、<br>日付をまたぐ、その瞬間だった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|98||
|ああ、クリスマスイブが……今、消えた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|99|春希|Haruki
|「さっき記者会見が終わったところ。<br>これから記事書いて、差し替えて……<br>えっと、多分、３時頃には帰れるかな～と」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|100||
|なおこの電話、本当に雪菜が出ているのか定かではない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|101|春希|Haruki
|「だからその、今日のところは……<br>夕食はラップにくるんで冷蔵庫に入れて、<br>雪菜はもう寝ていてくれると助かるんだけどな～と」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|102||
|何しろ、繋がってから一度も相手が言葉を発していない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|103||
|ただ、俺の延々と続く言い訳と謝罪を聞いているだけ……<br>いや、そもそも聞いているかもわからないんだけど。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|104|雪菜|Setsuna
|「ふぅっ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|105|春希|Haruki
|「せ、雪菜！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|106||
|と、途方に暮れそうになったその瞬間、<br>電話口から、ようやく待ち焦がれた声が聞こえてきた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|107|雪菜|Setsuna
|「約束通り、実家に帰らせていただきます」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|108|春希|Haruki
|「雪菜ぁぁぁぁぁぁ～！？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|109||
|……どうしても回避したかった台詞と共に。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|110|雪菜|Setsuna
|「……ふふっ、<br>な～んてね？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|111|春希|Haruki
|「え……？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|112|雪菜|Setsuna
|「『先輩も編集長も総動員の特ダネが入る』<br>っていうのは、お互いさすがに想定してなかったよね」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|113|春希|Haruki
|「いや、そりゃそうだけど……？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|114|雪菜|Setsuna
|「けどさ、『都内の大型ショップ全店に頭下げて回る』<br>なんて仕事が入ることも想定してなかったんだよね」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|115|春希|Haruki
|「なんだそりゃ……？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|116|雪菜|Setsuna
|「昨日発売したウチのソフトに不備が見つかっちゃってね。<br>おかげで全回収となりました～、あはははは～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|117|春希|Haruki
|「……いや、ちょっと待て」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|118||
|それは今の雪菜みたいに<br>笑って話せるレベルの話じゃ……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|119|雪菜|Setsuna
|「この時間になって、どこのお店も閉店しちゃって、<br>謝るところがなくなっちゃったから、<br>やっと本社に戻ってきたところ……おかしいでしょ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|120|春希|Haruki
|「……あまりに悲惨すぎて、<br>かける言葉も見つからないな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|121|雪菜|Setsuna
|「あ～、引かないでよ。<br>こっちはもう笑うしかないんだから～」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|122|春希|Haruki
|「はは……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|123||
|今日だけは絶対に早く帰るって約束し合っておいて、<br>どっちも年に一度レベルのイベントが発生するとか……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|124|雪菜|Setsuna
|「ね、春希くん」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|125|春希|Haruki
|「ん～？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|126|雪菜|Setsuna
|「今日、待ち合わせて一緒に帰ろうよ。<br>そっち終わったら電話ちょうだい」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|127|春希|Haruki
|「俺、始発になるかもしれないぞ？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|128|雪菜|Setsuna
|「わたしだって似たようなものだよ。<br>だから、一緒にタクシーで帰ろう？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|129|春希|Haruki
|「……うん、わかった」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|130||
|本当、どんだけ気の合う夫婦だよ……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|131||
|…………
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|132||
|そして、午前三時。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|133||
|記事も書き、浜田さんのチェックも済ませ、<br>ヘトヘトになって会社を出た頃には、<br>外はもう、洒落にならない寒気に覆われていた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|134|雪菜|Setsuna
|「お帰り、春希くん」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|135||
|けれど、そんな寒空の中、<br>誰もいない歩道に立ち尽くして俺を待っていた雪菜は、<br>なんというか、妙に楽しそうな表情をしていた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|136|春希|Haruki
|「……本当に仕事だったんだな」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|137|雪菜|Setsuna
|「え～、なにそれ？<br>ちゃんと説明したでしょ？<br>大トラブルだったって」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|138|春希|Haruki
|「いや、実は俺に気を使って嘘ついてくれたのかなって、<br>ほんの少しだけ思ってたりして」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|139|雪菜|Setsuna
|「嘘って？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|140|春希|Haruki
|「本当は、雪菜はとっくに家に帰ってて、<br>冷めたご馳走眺めて寂しそうにしてたら<br>どうしようって」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|141||
|それは、ある意味すごく失礼で、<br>相手を馬鹿にしたような酷い物言いだったかもしれない。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|142||
|けれど……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|143|雪菜|Setsuna
|「そうだね、昔はついてたね、そういう嘘」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|144||
|ずっとずっと昔……<br>俺たちの絆が弱く、脆く、<br>お互いに、間違った気遣いをしてしまっていたあの頃。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|145||
|俺を思いやってついたはずの雪菜の嘘は、<br>後になって俺を苦しめ、<br>そして、雪菜自身を絶望の底に突き落とした。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|146|雪菜|Setsuna
|「でも今は、そんな嘘つかないよ。<br>だって、必要ないもん」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|147|春希|Haruki
|「うん」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|148||
|その後も、俺たちは、<br>ずっと間違い続けてしまった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|149||
|間違った気遣いをなくすため、<br>間違った誓いを立てた。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|150||
|絶対に守られるべき約束を打ち立てて、<br>それが破られたとき俺たちは壊れてしまうって、<br>そんな、強迫観念で互いを縛ろうとした。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|151|雪菜|Setsuna
|「けど、どうせなら、<br>春希くん一人に罪をかぶせたかったけどなぁ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|152|春希|Haruki
|「罪って……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|153|雪菜|Setsuna
|「どんどん冷めていく料理。<br>いくら待っても連絡一つよこさない夫。<br>待ち続ける妻の不安は募るばかり……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|154|春希|Haruki
|「いや連絡しただろ！<br>土下座して謝っただろ！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|155|雪菜|Setsuna
|「え～、本当にした？　土下座」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|156|春希|Haruki
|「見せたかったよなぁあれ……<br>俺の誠意が全身から滲み出ててさ」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|157||
|だから次に、俺たちは全ての間違いを正した。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|158||
|絶対に守られるべき約束を打ち立てて、<br>それが破られたとき……
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|159||
|やっぱり、俺たちは俺たちのままだって、<br>そんなふうに誓いあい……いや、適当に決めあった。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|160|雪菜|Setsuna
|「ま、こんなとこでずっと喋っててもしょうがないし、<br>そろそろ行こうか」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|161|春希|Haruki
|「そうだな、じゃタクシー拾って……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|162|雪菜|Setsuna
|「ね、春希くん……<br>もう帰るのめんどくさいし、ホテル泊まってかない？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|163|春希|Haruki
|「え、けど空いてるかなぁ？<br>だって、今日……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|164||
|そう、今日はクリスマスイブ。<br>そういう宿泊施設が、一年で一番混みあう日。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|165|雪菜|Setsuna
|「ほら、そろそろ例の６時間も終わりだよ？<br>出てきてる人いるんじゃない？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|166|春希|Haruki
|「いや、けど、今から探すのか？<br>一つ一つ電話かけて？」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|167|雪菜|Setsuna
|「えへへ、実はね……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|168|春希|Haruki
|「雪菜、お前まさか」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|169|雪菜|Setsuna
|「すぐ裏にあるところなんだけどね？<br>さっき電話したら、ちょうど一部屋空いたところだって」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|170|春希|Haruki
|「…………」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|171|雪菜|Setsuna
|「でね？　これは取るしかないってことで、<br>すでに予約入れちゃってたりして……」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|172|春希|Haruki
|「……明日も仕事だぞ？　お互い」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|173|雪菜|Setsuna
|「眠かったら寝るだけでいいよ？<br>わたしも我慢するから」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|174|春希|Haruki
|「無理！　絶対無理！<br>俺我慢できない！」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|175|雪菜|Setsuna
|「えへへ……じゃ、そういうことで」
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|176||
|俺たちはきっと、これからも毎年、同じ約束をする。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|177||
|一生懸命守ろうとして、けれど時々綻んで、<br>約束を守れない時もあったりして。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|178||
|そんなときも俺たちは、すぐ仲直りして、<br>翌日からはまたいつも通り、引きずらずに日々を過ごす。
|
|}}

{{WA2ScriptLine
|179||
|そんな適当なクリスマスを、<br>雪菜の誕生日を、俺の誕生日を、<br>これからも過ごしていく。
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{{WA2ScriptLine
|180|雪菜|Setsuna
|「まぁ、終わってからでも二時間くらいは寝られるよ。<br>じゃ、早く早く」
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|181||
|もちろん、一睡もしなかった。<br>するはずがなかった。
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