White Album 2/Script/1004

Return to the main page here.

Translation

• velocity7

Text

	Speaker		Text		Comment
Line #	JP	EN	JP	EN
1	武也	Takeya	「………」	"........."
2	雪菜	Setsuna	「小木曽雪菜です。今日から軽音楽同好会に\n入部させていただくことになりました。\nどうかよろしくお願いします」	"My name's Ogiso Setsuna. Starting today, I'll be entering the Light Music Club.\nPleased to meet you."
3	武也	Takeya	「………」	"........."
4	雪菜	Setsuna	「？　あの、えっと」	"? Umm, err..."
5	春希	Haruki	「飯塚武也。\n一応ここの会長」	"He's Iizuka Takeya,\nour club president for now."
6	雪菜	Setsuna	「ああ、あなたが飯塚君？\n色々と噂は聞いてます」	"Ahh, so you're Iizuka-kun?\nI've heard much about you."
7	春希	Haruki	「ごめん、とんでもない耳汚しを…」	"I'm sorry, he's just absolutely stunned..."
8	武也	Takeya	「ちょっとこっち来い春希！」	"Come right here, Haruki!"
9	雪菜	Setsuna	「あ…」	"Ah..."
10	春希	Haruki	「え？　あ、こら…ネタじゃねえか怒るなよ！\nあ、だから伸びるって、お～い！\n…ごめん小木曽、ちょっとここで待ってて」	"Eh? Hey, come on... I was just joking, don't get angry here!\nAh, don't drag me, come on~!\nI'm sorry Ogiso, wait here for a minute!"
11	雪菜	Setsuna	「う、うん…\nなるべく早く戻ってきてね～」	"O, okay...\nBe sure to come back soon, okay~?"
12	武也	Takeya	「はぁ、はぁ、はぁ…」	"Pant, pant, pant..."
13	春希	Haruki	「どうした？\n顔色悪いな？」	"What's wrong?\nYou look like hell."
14			ほんの少し俺を引きずったくらいで、\n武也は顔を真っ青にして荒い息を吐き出した。	Just from dragging me a little bit, Takeya's face had turned blue, catching his breath.
15	武也	Takeya	「お、お、お、お前な…\nこの前の教訓、何も活かしてないだろ？」	"Y, y, y, you know...\nYou haven't learned from my lesson at all, did you?"
16	春希	Haruki	「教訓を活かすべきは武也の方であり、\n俺には別に何の落ち度もなかったはずだぞ？\nそれに小木曽の場合、前のコとは意味が…」	"You're the one who should have learned your lesson. I didn't make any mistakes. And besides, Ogiso's reason for coming is different from that girl..."
17	武也	Takeya	「ナンバー２誘致で失敗したところに\nナンバー１持ってくる奴があるか！」	"Like hell there's a guy who would bring in the number one girl after failing to bring in the number two girl!"
18	春希	Haruki	「…違うんだけど、説明に時間がかかりそうだな」	"... that's not how it is. Looks like this will take some time."
19	武也	Takeya	「お前、こういう話題先行型は嫌いだったんじゃ？\n朋のときだって散々文句垂れて…」	"I thought you hated this sort of topic?\nYou complained so much about Tomo too..."
20	春希	Haruki	「そんなんじゃないって。彼女はだな…」	"It's not like that. She just..."
21	武也	Takeya	「見返りは？」	"What was the catch?"
22	春希	Haruki	「ない！\nこっちが頼み込んで出てもらうことになったの！\nお前がどうしても穴開けたくないって言ってたから！」	"None!\nI simply asked her to come in!\nBecause you wouldn't do a thing, you know!"
23	武也	Takeya	「今週あたりから諦めムードじゃなかったっけ？　俺」	"Wasn't I the one who'd given up this week or something?"
24	春希	Haruki	「俺の仕切り癖を知ってて俺に振るお前が悪い！」	"It's your fault for throwing that at me when you knew I went off helping everyone!"
25	武也	Takeya	「なんか今までの欲のなさが欠けてるぞお前の声」	"The usual lack of greed in your voice is starting to thin out."
26	春希	Haruki	「悪いかよ！」	"So what!?"
27			他人に理詰めで追い込まれることが\nこれほど不快とは思わなかった。	I never knew I was this uncomfortable with having to rationalize with others.
28			…今度から少しだけ思いやりを持とう。	... I'll keep that in mind a little bit next time.
29	武也	Takeya	「………」	"........."
30	春希	Haruki	「な、なんだよその目は？\nそりゃ、確かに俺だってあり得ない展開とは思うけどさ」	"W, what's with that look of yours?\nWell, even I knew this was quite impossible to begin with."
31	武也	Takeya	「………」	"........."
32	春希	Haruki	「でも現に、俺が誘って小木曽は受けちゃったんだよ。\nそこに色々と深い事情はあるんだけど、\n他言無用だからこれ以上説明できないんだよ」	"But the truth is, I invited Ogiso and she accepted.\nThere were some deep reasons as to why,\nbut I can't explain it to you."
33	武也	Takeya	「………」	"........."
34	春希	Haruki	「だからさぁ、武也…」	"So look, Takeya..."
35	武也	Takeya	「………でかした」	"......... you pulled it off."
36	春希	Haruki	「お前、納得したけど理解してないだろ」	"You look like you've accepted it, but you haven't understood one thing at all."
37			まるで狂信者の慈愛溢れる微笑み…\nいつも俺に女の子紹介するときの表情だ。	It was as if it were the smile of an affectionate, religious fanatic...\nThe same face he gave me when he introduced me to other girls.
38	武也	Takeya	「春希…お前、本当に目覚めちまったんだなぁ。\nなんて言うか、娘を嫁がせる父親の心境だよ」	"Haruki... you've truly awakened.\nI feel like a father who's wed his daughter to someone."
39	春希	Haruki	「今まで長い間お世話になってないから」	"I'm not thanking you for all your help up until now, okay?"
40	武也	Takeya	「初挑戦がエベレストなのはどうかと思うけど、\nそこに二つ山があるから仕方ないよなぁ」	"I don't know how you managed Mt. Everest in a single try,\nbut there were two mountains so it couldn't be helped!"
41	春希	Haruki	「年相応の下品な冗談はやめてくれ」	"Stop with the vulgar jokes for your age."
42	武也	Takeya	「それに、俺の見たところ奇跡的に脈有りっぽいし。\nお前一体いつの間に俺の技を盗んだ？」	"And, from what it seems, this pulse of yours is like a miracle.\nSince when did you learn my technique?"
43	春希	Haruki	「何度も言うけど、そう言うんじゃないから。\nただ純粋に、ステージに穴を開けたくなくて。\n…お前の言うとおり、学園最後の思い出作りだし」	"I've told you many times already, but that's not how it is. I just wanted to really go on stage... I wanted to create memories of the last of my school days, just like you said."
44	武也	Takeya	「じゃ俺口説いていいの？」	"Then can I hit on her?"
45	春希	Haruki	「今度ぶち壊したら殺す」	"I will kill you if you screw this up."
46	武也	Takeya	「ごめんお待たせ。\n俺が色々と噂の飯塚武也。こいつと同じギター担当。\n歓迎するよ、雪菜ちゃん。…でいいよな？」	"Sorry to keep you waiting.\nI'm the rumored Iizuka Takeya, a guitarist like this guy.\nWelcome, Setsuna-chan... is that okay?"
47	雪菜	Setsuna	「あ、よろしくお願いします…」	"Ah, nice to meet you..."
48	春希	Haruki	「良くない。\nさん付けで呼べ。小木曽さんと」	"That's no good.\nCall her Ogiso-san, with the -san."
49			いきなり握手に下の名前…\n俺が一週間かけてできないことをたった３分で。	Suddenly shaking her hand and calling her by her first name...\nHe did everything I couldn't do for a week in merely three minutes.
50	武也	Takeya	「まさか君が参加してくれるなんて奇跡だ。\n助かる。本当にピンチだったんだよボーカル。\n学園祭、盛り上げていこうな？」	"It's a miracle that you've even come to join us.\nWe'rein your debt. We really needed a vocalist.\nLet's make sure this event's a blast!"
51	雪菜	Setsuna	「あ、えと、ご期待に添えるかわかりませんけど。\nその、カラオケでしか歌ったことないし」	"Ah, umm, I'm not sure if I can live up to that.\nWell, I've only sung at karaokes."
52	武也	Takeya	「そんなの全然ＯＫ。何しろまだ一月もあるんだ。\nこれから練習してけば余裕で間に合うって」	"That's totally fine. We still have a month, anyway.\nWe'll make it if we start practicing now."
53			そう、まだ一月もある。	Yeah, there's still a month.
54			ベースを見つけてドラムを見つけて\nできればキーボードを見つけて曲決めて練習して\nその他諸々の問題を解決するには十分な時間だ。	There's plenty of time to go find a bassist, drummist, and maybe a keyboardist. Decide on a song, practice, and deal with the rest of the things.
55			…どこが？	... exactly how?
56	武也	Takeya	「改めて、これからよろしく。\nそれと…」	"Once again, I look forward to working with you.\nAnd..."
57	雪菜	Setsuna	「はい？」	"Yes?"
58	武也	Takeya	「こいついい奴だから、\nお願いだから捨てないでやってな」	"He's a good guy,\nso please don't throw him away."
59	春希	Haruki	「ばっ…！！！？」	"Ba...!!!?"
60			『馬鹿、カバ』の次が差別用語だと気づき、\nこれ以上の発言ができない。
61	雪菜	Setsuna	「ええ、いい人ですよね。北原くんって。\n本気でそう思います」	"Yeah, Kitahara-kun really is a good guy.\nI truly think so."
62	春希	Haruki	「ばっ…！！！？」	"Ba...!!!?"
63			『バッカじゃないの？』の次があまりにも恥ずかしくて、\nこれ以上の発言ができない。
64	武也	Takeya	「…師匠って呼んでいい？」	"... can I call you 'master'?"
65	春希	Haruki	「…まだ娘と呼ばれた方がマシだ」	"... I would be rather be called your daughter."
66	雪菜	Setsuna	「っ…ぷ…ふふ…\nやっぱり、男の子同士の遠慮のない会話って面白いね」	"... heh... heheh...\nI knew it'd be interesting seeing guys talk so honestly."
67			自分がネタ振りしたくせに受けてるし。
68	春希	Haruki	「え、ええと！　じゃ練習始めるから！\n小木曽は…今日はひとまず見学ってことでいい？」
69			これ以上このまま会話を続けると、\n色んな意味で俺の寿命が縮んでしまいそうだ。
70	雪菜	Setsuna	「あれ？　そういえば…」
71	春希	Haruki	「なに？」
72	雪菜	Setsuna	「今日はピアノの人はお休み？」
73	武也	Takeya	「へ？」
74	春希	Haruki	「ピアノ………っ？」
75			………	.........
76	武也	Takeya	「だからやめとけって春希。\n無駄だって」
77	春希	Haruki	「けど、けど…\nこのままじゃ同好会が…学園祭が…」
78			『あ、ああ…ピアノの奴ね』
79			『悪い！　言ってなかったな。\n今日は具合が悪くて早退だって』
80			『え、ええと…胃腸風邪らしいから、\n二、三日したら復帰すると思う。\nああ、出てきたらちゃんと紹介するから』
81	武也	Takeya	「見栄張るお前が悪いんだろ？\n正直に言っちまえば良かったんだよ。\n『ウチは初めからピアノなんかいない』って…」
82	春希	Haruki	「ついでに今はベースもドラムも、\n何もかもいないってか！？」
83	武也	Takeya	「逆ギレすんなよ。\n春希らしくもない」
84	春希	Haruki	「…すまん」
85	武也	Takeya	「いや、まぁ…\n恋する漢は百万馬力なのかもしれないけど」
86	春希	Haruki	「何とでも言え。\n今の俺に皮肉は通用しない」
87	武也	Takeya	「けど、そうやってずっと誤魔化してると、\nどんどん引っ込みがつかなくなるぞ？」
88	春希	Haruki	「………」	"........."
89			『そうなると、\n後はそのイメージを守るために見栄に見栄を重ねて…』
90			そっか…
91			今、俺のしてることって、\n２年前から小木曽がずっとしてきたことと同じだな。
92			相手に気に入られたくて、いい顔して、\n向こうの勘違いをそのまま放置して、\nどんどん追い込まれていって。
93	春希	Haruki	「着いた…[R３年Ｈ組^おんがくか]」
94			…だからって、\n今、小木曽に本当のことを言って、\n彼女のモチベーションを下げるなんてとんでもない。
95			彼女があの時、思わずあの歌を口ずさんだのは、\n下手くそなギターのせい、だけじゃなかった。
96			そんなつっかえつっかえの主旋律に完璧に合わせてた、\n流暢なピアノがあったから、なんだ。
97	武也	Takeya	「お、おい…本当に音楽科の奴らに頭下げんのかよ？\n俺はヤだぞ」
98	春希	Haruki	「武也は降りてもいい…\nけど今となっては、例の“松川君”に頼むしかないんだ」
99			第二音楽室の主…
100			こっちのどんな演奏にも\n即興で合わせてくれる完璧なピアノ。
101			ギターしかいない俺たち軽音楽同好会にとって、\nその実力は、喉から食指のついた手が出てくるほどで。
102	春希	Haruki	「ちょっとごめん！\n松川君っているかな？」
103			………	.........
104	春希	Haruki	「はぁぁぁぁ…」
105			誰もいない放課後の教室に、\n俺のため息が盛大に響く。
106			身も心も疲れた…
107	春希	Haruki	「もう音楽科の連中とは口きかん。\nなんであんなにプライド高いんだ奴らは」
108			俺の、熱意溢れる音楽科アタックは、\n結局、武也が予想した通りの結果に終わった。
109	春希	Haruki	「にしても、どうなってんだ…？\n第二音楽室って誰が使ってんだよ…？」
110			…いや、予想を遥かに下回る成果だったかもしれない。
111			………	.........
112			件の松川君は、すぐに見つかった。\n痩せぎすで、長身で、度の強い眼鏡をかけた、\n随分と神経質そうな外見の男子だった。
113			…で、ちょっと話してみただけで、俺のその第一印象は、\nまるっきり正鵠を得ていたことを痛感させられた。
114			松川は、俺の申し出を聞くなり、\n散々軽音楽同好会のことを馬鹿にした。
115			やれ計画性がないだの、無謀だの、\n素人の浅はかさに呆れるだの、\nどうせ上手く行くはずがないから参加を取り消せだの。
116			それでも、幾度も飛び掛ろうとする武也を抑えて、\n粘り強く交渉を進めたのは、性格はともかく\nあのピアノに魅せられたからだったんだけど。
117			なのに最後…\n“あの野郎”は、あろうことか、こう言い放った。
118			『とにかく、僕は第二音楽室を使ったことなんかない。\nウチのクラスであそこを使う人間なんかいない。\nあんな不愉快な場所、寄り付くはずもない！』
119			…飛び掛ろうとする俺を、\n武也が一生懸命羽交い絞めにしてたっけ。
120	春希	Haruki	「そういうことなら最初に言えよ…\nそしたらあっさり引き下がったよ…」
121			これじゃあ俺、罵られ損じゃないか。
122	春希	Haruki	「はぁぁぁぁぁぁぁ…」
123			と、いうわけで、振り出しに戻ってしまった\n『第二音楽室の主』探し。
124			ただ一つだけ得た新しい情報は、\n『音楽科の人間は第二音楽室を使わない』という事実。
125			実際、松川の野郎以外の誰に聞いても、\n『第二音楽室なんか使ってない』の一点張りだった。
126			確かに、Ｈ組の隣にあれだけ広い第三音楽室があるし、\nわざわざ普通科側の音楽室を使う理由はない気がする。
127			音楽科の人間は『普通科専用』だと言い、\n普通科の人間は『音楽科専用』だと思い込んでいた\n第二音楽室。
128			しかも、第二音楽室のことを聞いたときの、\n音楽科の連中の態度も気になる。
129			なんだか、やけに触れたくない話題のようで、\n気まずそうに目をそらしたり、\n関わり合いになるのを恐れたり。
130			音楽科の連中があの教室を使っていないのは事実としても、\nそれでも何かを知っているような気がする。
131			奴らの態度に、謎を解く鍵が…？
132	春希	Haruki	「…待てよ？」
133			誰も使っていないはずの音楽室。\n鳴り響くピアノ。\nそして、口を閉ざす生徒たち。
134			学校の…七不思議。
135			まさか…
136			『第二音楽室の主』って…\nもしかしたら、もうこの世には…
137	？？？	???	「ねえ」
138	春希	Haruki	「うわああああああああああああっ！？」
139	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「っ！？」
140	春希	Haruki	「な、な、な、なんだよっ、驚かすなっ！」
141	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「っ…」
142	春希	Haruki	「あ、い、いや違う。すまん。\n勝手に驚いた俺が悪い」
143	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「………帰る」
144	春希	Haruki	「待て待て待て！\nだから悪かった。悪かったってば！」
145			お隣が向こうから話しかけてくるなんて、\n月に一度あるかないかってのに、\nそんな千載一遇の機会を自分からドブに捨ててどうする。
146			…そういえば数日前、\n向こうから話しかけてきてくれたのに、\n思いっきりスルーしたばかりのような。
147			………まずい。
148	春希	Haruki	「え、えっと、どしたんだこんな遅くまで？\n部活入ってたっけ？」
149	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「…そっちこそ」
150	春希	Haruki	「俺？」
151	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「今日はへたくそなギター弾かないの？」
152	春希	Haruki	「…音楽室は週に二日しか使えないの。\n弱小同好会だから」
153			へたくそ…へたくそ…
154	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「そんなんで学園祭大丈夫なんだ？」
155	春希	Haruki	「……順調だよ。\nボーカルだって見つかった」
156	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「ボーカル…」
157	春希	Haruki	「聞いて驚け。\nなんとあの…」
158	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「聞かないから驚かない」
159	春希	Haruki	「あ、そ」
160	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「そう」
161	春希	Haruki	「………」	"........."
162	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「………」	"........."
163			なんだろう。
164			こんなに長話したのは数か月ぶりなのに、\nどうしてここまで話が弾まないんだろう。
165			………数か月ぶりのコミュニケーションだからか。
166	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「で、ベースは？」
167	春希	Haruki	「へ…？」
168	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「ドラムは？」
169	春希	Haruki	「あれ？」
170	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「ギターとボーカル以外のメンバーは？」
171	春希	Haruki	「………」	"........."
172			こんなに長話したのは数か月ぶりなのに、\nどうしてここまで悲しくなってくるんだろう。
173			というか親志の奴、余計なことを。
174			いくら席が前後のよしみだからって、\nバラしていいことと悪いことがあるだろう。
175	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「男の涙目は可愛くない」
176	春希	Haruki	「大丈夫だよ…大丈夫なんだよっ。\n俺にはもう一つの秘密兵器があるんだ」
177			ついさっき、なくなったばかりな気もするけど。
178	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「へぇ…それは僥倖。どんな人？」
179	春希	Haruki	「どうでもいいだろ…」
180	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「どうでもいいんだ…ふぅん」
181	春希	Haruki	「あのなぁ、\nいつもはこっちから話しかけてもシカトしまくりなくせに、\n人が落ち込んでる時だけわざわざ話しかけてくるなよ…」
182	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「あ～…それは悪ぅございましたね～」
183	春希	Haruki	「からかうだけなら帰ってくれ。\n俺はもうしばらく一人でいたいんだよ」
184	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「そう…」
185	春希	Haruki	「そうなの。\nはいさよなら。お疲れさま。\nしっしっ」
186	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「………」	"........."
187	春希	Haruki	「………」	"........."
188			いつもの冷たい視線が、\n今日はさらに凍てつく波動をまとってる気がして…
189	隣席の女子生徒	Neighboring Female Student	「さよなら」
190	春希	Haruki	「っ…」
191	春希	Haruki	「～っ！？」
192			教室の扉は、あれだけのダメージにかかわらず、\nなんとか元の形を保ち。
193			そして、その揺れが収まったとき、\nやっと教室に、俺の求めた静寂が訪れる。
194	春希	Haruki	「小学生のガキですか俺は…」
195			またしても新たな悩みの種を増やしつつ。
196	春希	Haruki	「久しぶりにやっちまった…」
197			どうもお隣とはコミュニケーションが上手く行かない。\n小木曽とだと、呆れるくらいに何故か話が弾むのに。
198			………	.........
199			３年になって、初めて同じクラスになった。\nそれまでは、恥ずかしながら存在すら知らなかった。
200			どうにもあのつっけんどんな態度が馴染めなくて、\n向こうも俺の干渉しすぎる態度が気にくわなくて、\n最初のうちは結構衝突したっけなぁ。
201			けど今は、そんなきっかけもあって進展したと思ってた。
202			…少なくとも、ぶたれたりせずに、\nただ鬱陶しがられるだけくらいには。
203	春希	Haruki	「ふあぁぁ…」
204			…俺がいい関係でありたいと願う、\n数少ない『男以外』なんだけど、な。
205	春希	Haruki	「ん…」
206			小木曽のこともあるし…
207			今にして思えば、\n俺って相当面食いなのかもしれないな。
208	春希	Haruki	「すぅ…」
209			………	.........
210			……	......
211			…	...
212	春希	Haruki	「………んぅ？」
213	春希	Haruki	「あ…れ？」
214			とても当たり前のことだけど…
215			目が覚めたことで、\n自分が眠っていたことがわかった。
216			精神的にクるイベントが２つ連続で重なったせいで、\n身も心も本気で疲れていたらしい。
217	春希	Haruki	「ふあぁぁぁ～」
218			大きく伸びをして、脳に空気を行き渡らせてから\nゆっくり教室を見渡す。
219			と、見事に自分以外の人間がいないこの場所は、\nさっきよりも随分と夕闇に侵食されていた。
220			時計を見ると、何だかんだでもう５時を過ぎてる。\n結局、いつもの練習時間まで居座ってしまった。
221	春希	Haruki	「帰ろ」
222			あまりにも無駄な一日だった…
223			意味もなく罵られ、振り出しに戻り、\n最後には無駄な喧嘩まで。
224			結局『第二音楽室の主』の手がかりは掴めないまま。\nしかも、あの、三人の“音”が重なった日以来、\nピアノの音色は途絶えたままで。
225			もしこのまま、\n彼が二度と第二音楽室に戻ってこなかったら…
226	春希	Haruki	「………ん？」
227			あの、三人の“音”が重なった日以来、\nピアノの音は途絶えたまま…？
228	春希	Haruki	「ああああ～っ！？」
229			今…鳴ってたよな？
230			で、たった今、鳴り止んだよな？
231	春希	Haruki	「しくったぁぁぁ～！！！」
232			起き抜けでぼうっとしていた頭が、\nあの流れるような旋律をスルーしてしまっていた。
233			あまりにもプロフェッショナルな演奏だから、\n街中で流れているＢＧＭのように\n聞き流してしまっていたのかもしれない。
234	春希	Haruki	「言い訳すんな俺～！」
235			…などと色々ごたくを並べてはみたものの、\n致命的なミスを犯したのは動かしがたい事実で…
236			………	.........
237	春希	Haruki	「あ…」
238			扉を開けた瞬間は全然気がついてなかったけれど…
239			実は、この第二音楽室の鍵が開いていたのは、\n今日が初めてだったりした。
240	春希	Haruki	「ああ…」
241			開いた窓から吹き込む、ちょっとだけ冷たい風。
242			その風に吹き上げられ、\n窓にぶつかり、パタパタと音を立てるカーテン。
243			そして…
244			教室の真ん中に、\n堂々と鎮座するグランドピアノ。
245			けれどそこには…予想通り、誰もいない。
246	春希	Haruki	「これが…」
247			いつも俺のギターに寄り添ってくれる、\n分不相応なパートナー、か。
248			ほんのついさっきまで、いつものように、\n軽快で、重厚で、流麗で、頑強な音を奏でてたのか。
249	春希	Haruki	「………」	"........."
250			今日は、厄日だ。
251			音楽科の松川に、意味もなく罵られ。
252			『第二音楽室の主』の探索は、振り出しに戻り。
253			そして…お隣さんとは無駄な喧嘩まで。
254			とどめに『第二音楽室の主』の尻尾を掴むチャンスを、\n自らのポカで棒に振ってしまった。
255	春希	Haruki	「いける…」
256			だけど、そのポカの果て。\n最後の最後の最後に、\nたった一つの蜘蛛の糸を掴み取った。
257	春希	Haruki	「今度こそ、会える。\n会ってみせる」
258			ここ数日、沈黙を続けていた、\nこの、第二音楽室のピアノが鳴った。
259			だから、もう一度チャンスが到来した。
260			相手は学園七不思議のピアノ幽霊なんかじゃない。
261			自分の練習中には厳重に鍵をかけるくせに、\n帰るときには施錠どころか窓を閉めることすら忘れる、\n用心深いくせに無頓着な人間、だ。
262			………	.........
263			……	......
264			…	...
265	春希	Haruki	「っ…来た！」
266	武也	Takeya	「ああ、来たな…」
267			『第二音楽室の主』を、\nすんでのところで取り逃がしてからまる一日。
268			俺の予測通り、彼は、\n昨日から日々の練習を再開したらしかった。
269	春希	Haruki	「隣に…行ってくる。\n俺の身に何かあったら、フォロー頼むな」
270	武也	Takeya	「そりゃいいけどさ…」
271	春希	Haruki	「じゃ…」
272	武也	Takeya	「なぁ、春希…\n隣に行く前に、もう一度自分の格好を\n見つめ直す気はないか？」
273	春希	Haruki	「…それを言うなよ。\nせっかく決心が固まったところだったのに」
274			武也のその一言のせいで、\n見たくもない自分の腹周りに目が行ってしまう。
275			体育倉庫からくすねた綱引き用のロープにくくられた\n自分の胴体がまぶしい。
276			ロープの反対側は教室の柱にしっかり固定。\n完璧だ。
277			…最初に長さを測ったときは、\nここの高さより十分過ぎるほど長くて、\n見事に命綱の役割を果たしてなかったけど。
278	武也	Takeya	「痛いぞ今のお前…」
279	春希	Haruki	「…やっぱそう見える？」
280	武也	Takeya	「開けてくれないってんなら出待ちすりゃいいじゃん。\nなんでわざわざ窓伝いに？」
281	春希	Haruki	「そんな当たり前のアプローチじゃ、\n首を縦に振ってくれそうになくてな…」
282			何しろ相手は、今までのことを考えても、\n自分の演奏中の姿を誰にも見せる気がないらしい。\nまず間違いなく、かなり気難しい人間だろう。
283			…少なくとも、俺とセッションしてくれるくらい\n変わり者であることは間違いないわけだし。
284			そんな相手に正攻法で行ったところで望み薄。\n何らかのインパクトを与え、\nこっちに興味を持ってもらわないと勝ち目はない。
285	春希	Haruki	「それに…\n『若いうちの馬鹿は買ってでもしろ』って言うだろ？」
286	武也	Takeya	「そりゃ、言うけどさ…」
287	春希	Haruki	「言わねえよ。\n日本人のくせに日本語の使い方間違えるな」
288	武也	Takeya	「お前、ヤな奴だなぁ…」
289	春希	Haruki	「それじゃ、今度こそ行ってくる。\nロープ見ててな」
290	武也	Takeya	「気をつけろよ…\nこんなことで怪我したら本気で馬鹿馬鹿しいからな」
291			武也の温かい励ましを背に、\n窓の桟に足をかける。
292	春希	Haruki	「よ…と」
293			隣の第二音楽室の窓までは、およそ２メートル。
294			まずは教室と教室の間にある雨どいに移り、\nそこを新たな足場として向こうの教室の窓に飛び移る。
295			距離的にも、強度的にも問題はないことは何度も確認した。\n人並みの運動神経があれば余裕のはず。\nもし駄目だったとしても、命綱が安全を保証してくれる。
296	春希	Haruki	「っ…」
297			…んだけど、\nそれは３階の窓から下を見下ろさなかったときの\n想像での話だよなぁ。
298			思ったより、高いな…
299			壁、固いな。\nしかもざらついてるな…
300			いくら命綱があっても、\nもし手が離れたら全身ズルむけだな…
301	春希	Haruki	「く…っ」
302			気合いを入れ直し、\n恐怖心を忘れるため、目を閉じて雨どいに手を伸ばす。
303			………	.........
304			…と、視覚なしでこんな真似をすることの\n命知らずさに戦慄し、しっかりと目を見開く。
305	春希	Haruki	「…よし」
306			まず、雨どいに手を掛けて、\nそのまま足も一緒に掛ける。
307			まずは一歩を踏み出すことに成功。
308	春希	Haruki	「次…」
309			雨どいに全身を預けたときの嫌な軋み音を\n聞かなかったことにするため、\n息を整える間もなく、隣の教室の窓に手を伸ばす。
310			いつものように、窓を開けておいてくれてたから、\nなんとか窓枠に左手を掛けることができた。
311	春希	Haruki	「もうちょい…っ」
312			窓枠にかけた左手を引き寄せ、\n左足も窓枠に引っかける。
313			あとは雨どいに引っかけてある右足を思い切り蹴っ飛ばし、\nそのまま窓から部屋へとなだれ込むだけ。
314			待ってろよ…『第二音楽室の主』。
315	春希	Haruki	「………？」
316			最後の目的地を見定めるべく、\n窓の中を覗き込んだとき、\n教室の真ん中のグランドピアノが目に飛び込んできた。
317			昨日、誰もいなかったその場所には、\n当たり前と言えば当たり前なんだけど、\n彼が腰掛け、一心不乱に両手の指を動かしている。
318			いや、当たり前、じゃなかった。
319	春希	Haruki	「え…？」
320			“彼”じゃない。
321			ここから見えるのは、“彼”の後ろ姿だけ。
322			黒く艶やかな髪が背中でふわりと舞う。
323			その身体は、思ったよりもよっぽど小柄だった。
324			けれど指先だけでなく、\n全身で躍動しているかのように生き生きと鍵盤を弾く。
325			線が細く、顔も小さく、\n何より、その横顔の白さ。
326			けれど、それらのか細いイメージを一掃する、\n俺の耳を叩く力強い旋律。
327			“彼女”だ。
328			いつの間にか男と決めつけてたけれど、\nそんなの、何の根拠もなかったことを\n今さら思い知らされる。
329			しかも…しかも彼女は…
330	春希	Haruki	「そんな…馬鹿な…」
331	男性教師	Male Teacher	「こらぁそこ！\n何をやっとるか～！」
332	春希	Haruki	「っ！？」
333			“彼女”の顔を確かめようと、\nさらに一歩を踏み出そうとした瞬間…
334	春希	Haruki	「あ…」
335	武也	Takeya	「春希！？」
336			俺の、いくつの校則を違反しているか定かでない行為は、\nとうとう、校内で然るべき責任を持つ人たちの\n知ることとなり。
337	春希	Haruki	「あ、あ、あっ…あああああぁぁぁぁ～っ！？」
338	男性教師	Male Teacher	「あああああ～！？\n誰か、誰かマット持ってこい～！」
339			そして…\n今回のミッションで想定しうる最高の結果は、\n今ここに不可能との裁定が下った。
340	春希	Haruki	「…嘘だろ？」
341			命綱は、まだ役に立ってはいなかった。
342			足を滑らせた瞬間、なんとか両手を必死で伸ばし、\nそのまま窓枠にぶら下がることに成功してたから。
343			だから、後はこのまま懸垂の要領で、\nぐいっと体を持ち上げ、華麗に教室に躍り込めば…
344	春希	Haruki	「………嘘、だろ？」
345			掴まってるのが鉄棒だったら、\nそれもできたんだろうけど。
346			指先だけが窓枠に引っかかり、\n腕全体の力を集中させることができない。
347			そして何よりも…\n今は、俺が一番混乱していた。
348	春希	Haruki	「お前だったのか…」
349			武也の呼びかけも、下での騒動も、\n何も耳に入っては来なかった。
350			だって…\n落ちる寸前にとうとう俺の視界に捕らえた、\n“彼女”の正体は…
351	春希	Haruki	「あのピアノ、お前だったのかぁ！？」
352	春希	Haruki	「冬馬…」
353			『第二音楽室の主』。\n放課後のお隣さんの、これが正体。
354	かずさ	Kazusa	「北原…何やってんだよこの馬鹿…」
355			３年Ｅ組　冬馬かずさ。
356			俺の、授業中の、お隣さん。

Script Chart

Edit this section For more instructions on how the script chart works, please click here.

If you are below the age of consent in your respective country, you are advised to not read any adult content (marked by cells with red backgrounds) where applicable. Otherwise, you are agreeing to the terms of our Disclaimer.

Mini After Story and Extra Episode
The Path Back to Happiness	The Path Forward to Happiness	Dear Mortal Enemy
6001	6101	4000	4005
6002	6102	4001	4006
6003	6103	4002	4007
6004	6104	4003	4008
6005		4004	4009

Novels
The Snow Melts, And Until The Snow Falls	The Idol Who Forgot How to Sing	Twinkle Snow ~Reverie~		After the Festival ~Setsuna's Thirty Minutes~	His God, Her Savior
5000	5100	5200	5205	5300	5400
5001	5101	5201	5206	5301	5401
5002	5102	5202	5207	5302
5003	5103	5203	5208	5303
5004	5104	5204	5209

Short Stories
Princess Setsuna's Distress and Her Minister's Sinister Plan	Koharu Climate After the Passing of the Typhoon	This isn't the Season for White Album	Todokanai Koi, Todoita
7000	7100	7200	7300