White Album 2/Script/3201

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	Speaker		Text		Comment
Line #	JP	EN	JP	EN
1	男性アナウンサー	Male Announcer	「さて本日２月１４日。 バレンタインデーのニュースです」
2	男性アナウンサー	Male Announcer	「まずはマイリースポーツさんの記事ですが… 『冬馬かずさ追加公演中止？』」
3	男性アナウンサー	Male Announcer	「１月の来日初コンサートも好評で、 今月末、追加公演が既に決定している ピアニスト冬馬かずささんですが…」
4	男性アナウンサー	Male Announcer	「実は現在、深刻な体調不良ということで 次回公演の開催が危ぶまれていることが、 関係者の話で明らかになりました」
5	男性アナウンサー	Male Announcer	「前回のコンサート以来、かずささんは、 プロデューサーであり母親の冬馬曜子さんとともに、 報道陣の前に一切姿を現さなくなりましたが…」
6	男性アナウンサー	Male Announcer	「実は、前回のコンサートの後に体調不良を訴え、 現在は都内の病院で療養していると言うんですね」
7	男性アナウンサー	Male Announcer	「というのもですね、実は先週、 かずささんの滞在先と思われるホテルに 深夜救急車が出動する騒ぎがありまして…」
8	男性アナウンサー	Male Announcer	「その時運び出された女性が 彼女ではないかという目撃者の証言もあり、 ここに来て追加公演の開催が危ぶまれています」
9	男性アナウンサー	Male Announcer	「なお、この件に対して冬馬曜子オフィスは昨夜、 『こちらではそのような報告を受けておりません。 現在確認中です』とのコメントを発表しました」
10	男性アナウンサー	Male Announcer	「冬馬かずささんの日本公演に関しては、 発売一時間でチケットが完売するほどの、 クラシックとしては異例の大人気となっていまして…」
11	かずさ	Kazusa	「………っ」
12	浜田	Hamada	「どういうことですかこの広告… 確か２１００円って話でしたよね？ なんで３１５０円になってるんです？」
13	浜田	Hamada	「いくら増刊号だからってこの価格は… え？　俺が強く推したって？　なんですそれ？」
14	浜田	Hamada	「………はぁ？ 聞いてませんよ、全然！ なんでそんな話になってんです？」
15	浜田	Hamada	「ええ、ええ………何ですって？　そんな… それ、初っ端に向こうにハねられた企画じゃないですか」
16	浜田	Hamada	「吉松さんが通したんですか？　それ。 え、だから俺じゃ…」
17	浜田	Hamada	「………ってことは」
18	浜田	Hamada	「…どうやら二人とも、部下に騙されてたみたいですね。 ええ、ええ、わかりました。とにかく本人と話してみます。 それじゃ、失礼します」
19	浜田	Hamada	「北原ぁ！」
20	浜田	Hamada	「北原！ どこ行きやがったこの野郎！」
21	鈴木	Suzuki	「う～るさいな～も～」
22	松岡	Matsuoka	「北原なら打ち合わせで直帰になってますよ。 浜田さんが出社する前に顔出してましたけどね」
23	浜田	Hamada	「…もしかして逃げやがったか？」
24	松岡	Matsuoka	「そろそろアンサンブル増刊号の 締め切りも近づいてきたみたいだし、 そっちで忙しいんじゃないですかね」
25	鈴木	Suzuki	「本職のグラフでは一番下っ端なのに、 部員の中で一番仕事の範囲が広いもんねぇ」
26	松岡	Matsuoka	「風岡二世の名は伊達じゃない…」
27	浜田	Hamada	「呑気に言ってる場合じゃない。 その増刊号がえらいことになってんだよ」
28	松岡	Matsuoka	「えらいことって？ 冬馬かずさのヌードグラビアでも載るとか？」
29	鈴木	Suzuki	「いやそれ社長賞ものだから」
30	浜田	Hamada	「ある意味これも特ダネだけど… でも、どうやって企画通したんだ？ いつの間にタイアップ先まで決めてきたんだよ？」
31	鈴木	Suzuki	「タイアップ？ どんどん話おっきくなってきたねぇ」
32	松岡	Matsuoka	「忘れないでくださいね？ あいつ、一年目のペーペーですよ？」
33	浜田	Hamada	「かと思えば追加公演中止なんて噂も流れてるし… 訳わかんねえよ。 一体どうなってんだよ北原！」
34	携帯アナウンス	Cellphone Voicemail	「留守番電話センターに接続します。 合図の後、３０秒以内でメッセージをお願いします」
35	武也	Takeya	「………」	"........."
36	依緒	Io	「お待たせ。 こっち済んだわよ」
37	武也	Takeya	「ああ…」
38	依緒	Io	「なに？　まだ繋がらない？」
39	武也	Takeya	「週明けてからずっと留守電ばかりだ。 どうなってんだよ春希…」
40	依緒	Io	「締め切りが近くて連日徹夜とか？ 確か来月発売の本、メインで任されたんでしょ？」
41	武也	Takeya	「にしたって事前に一言あるだろあいつなら。 何しろ今日は…本当に来るつもりあるのか？」
42	依緒	Io	「信じるしかないよ。 春希だって、今日がどんな日か忘れてる訳ないし」
43	武也	Takeya	「けど、最近おかしかったろ？　あの二人」
44	依緒	Io	「それは…」
45	武也	Takeya	「なんか会ってる気配なかったし、 雪菜ちゃんに聞いても、どことなくぎこちなかったし」
46	依緒	Io	「でもほら、『お互い忙しくて』って言ってたじゃん。 今は仕方ないんじゃないのかな」
47	武也	Takeya	「…まさかあいつ、 まだ冬馬のこと引きずってるんじゃないだろうな」
48	依緒	Io	「っ、や、やめてよそういうこと言うの！」
49	武也	Takeya	「だってさ…公演キャンセルって噂が出てるんだぜ？ あいつ、絶対気にしてるだろ？ もしかして、冬馬のところに…」
50	依緒	Io	「だからやめろって～！ あたしまで不安になってきちゃうじゃん！」
51	武也	Takeya	「まぁいくらなんでも、 今の冬馬と春希とじゃあり得ないか… うん！　ないない！」
52	依緒	Io	「…しかも人の不安煽っておいて 自己解決しないでよね」
53	武也	Takeya	「ま、とにかく今日、 そこんとこハッキリ確かめとこうぜ。 そろそろ向かうか。雪菜ちゃんもう帰ってるって？」
54	依緒	Io	「そういえば…実はこっちも今朝からさ…」
55			………	.........
56	曜子	Youko	「で、あの飛ばし記事、美代ちゃんが流したの？」
57	美代子	Miyoko	「一部マスコミの間で、 社長の病気のことが取り沙汰されていたので、 目先を変えておこうかと思いまして」
58	曜子	Youko	「…なるほど、かずさの件がガセとわかったら、 今度は冬馬曜子だと言っても誰も信用しない、か」
59	美代子	Miyoko	「『ピンチをチャンスに変える会話術』は 社長に鍛えていただきましたから」
60	曜子	Youko	「さすがは冬馬曜子オフィス随一の切れ者。 やってくれるわね～」
61	美代子	Miyoko	「そもそも日本オフィスには私一人しかいませんし」
62	曜子	Youko	「…で、あの子はまだ？」
63	美代子	Miyoko	「ええ、客室から一歩も出てきません。 …そろそろ一週間になるんですけど」
64	曜子	Youko	「そう…」
65	美代子	Miyoko	「一応、毎日三回は伺ってるんですけど、 未だにドアを開けてくれません」
66	曜子	Youko	「ごめんね美代ちゃん。 うちの娘が迷惑かけて」
67	美代子	Miyoko	「いいんです。 彼女の気持ち、痛いほどわかりますから」
68	曜子	Youko	[F16「…本当はわかるわけないんだけどね」]
69	美代子	Miyoko	「私だって泣きたいくらいショックなんですよ？ 社長が引退しちゃったら、 冬馬曜子オフィスはどうなるんですか…」
70	曜子	Youko	「まぁ、その件は退院してから相談するとして、 それで、コンサートの準備の方は？」
71	美代子	Miyoko	「そちらは準備万端です。 開催についても…撤退についても。 例の記事も半分はそれが狙いですから」
72	曜子	Youko	「…やっぱり冬馬曜子オフィス随一の切れ者ね」
73	美代子	Miyoko	「社長が決断した瞬間に、 すぐに各方面が動けるように手配しています。 損害も最小限に抑えられるように手を打ちました」
74	曜子	Youko	「ありがとう美代ちゃん。 …でも大丈夫、追加公演は予定通り開催するわ」
75	美代子	Miyoko	「…やるんですか？ 正直、今のかずささんを見ていると、 とてもあと二週間で元通り弾けるようになるとは…」
76	曜子	Youko	「それでもやるわよ。 ついでにね、コンサート前にもう一仕事入れたわ。 今夜、担当がそっちに行く手はずになってるから」
77	美代子	Miyoko	「はぁっ！？　何言ってるんですか社長！？ 今の状況わかってるんですか！」
78	曜子	Youko	「冬馬親子は不治の病と恋の病に冒されて、 二人揃ってピアニスト生命の危機…ってところかしら？」
79	美代子	Miyoko	「わかってるなら考え直してください。 コンサートのことだけでも慎重な対応が必要なのに、 この上まだ負担をかけるなんて！」
80	曜子	Youko	「…まぁね、実はわたしもちょっとビビってる。 あまりにもやりすぎなんじゃないかなって」
81	美代子	Miyoko	「でしたら！」
82	曜子	Youko	「でも…今はその劇薬にすがるしかないかなって。 日本でなければできないことがあるかなって」
83	美代子	Miyoko	「でも彼女、今は誰とも会おうとしないんですよ？ わたしでさえ部屋に入れてくれないんですから」
84	曜子	Youko	「…それは多分大丈夫。 とにかく美代ちゃんは、担当の人が来たら、 部屋の前まで案内するだけでいいから」
85	美代子	Miyoko	「そこから先は本当に責任持てませんよ？」
86	曜子	Youko	「ええ、それでいいわ。 …だってあの子は、その人に対してだけは、 逃げることは許されないから」
87	美代子	Miyoko	「…よくわかりませんけどわかりました。 やります。仕事ですから」
88	曜子	Youko	「本当、いつもいつも面倒かけてゴメンね？ 退職金弾むから」
89	美代子	Miyoko	「冗談でもそう言う縁起でもないこと 言わないでください！」
90	曜子	Youko	「それじゃね美代ちゃん。 あとよろしく～」
91	美代子	Miyoko	「もうっ！」
92	美代子	Miyoko	「………」	"........."
93	美代子	Miyoko	「…恋の病？」
94			………	.........
95	美代子	Miyoko	「すいません、開けてください」
96	美代子	Miyoko	「今、お客様をロビーに待たせてるんです。 社長から、その方と会うようにという指示も来てるんです」
97	美代子	Miyoko	「お願いします、そろそろ外に出てきてください！ せめて食事だけでも！」
98	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
99	美代子	Miyoko	「今日は…今日は簡単に引き下がりませんよ？ 返事をしてくれるまで、ずっとここで待ってますからね？」
100	美代子	Miyoko	「元気ですか？　起きてますか？ …意識、ちゃんとしっかりしてるんですか？ お願いですから、これ以上心配かけないで…っ」
101	かずさ	Kazusa	「っ…」
102	美代子	Miyoko	「あ…っ」
103	かずさ	Kazusa	「ごめん、なさい…っ」
104	美代子	Miyoko	「か、かずささん？ かずささんなんですね！？」
105	かずさ	Kazusa	「ごめんなさい美代子さん… 本当に…ごめん…っ」
106	美代子	Miyoko	「よ、良かったぁ… とにかく大丈夫なんですね？ お腹、すいてません？」
107	かずさ	Kazusa	「いい…何も食べたくない」
108	美代子	Miyoko	「かずささん…」
109	かずさ	Kazusa	「…わかんないよ、もう。 なにも、わかんない」
110	美代子	Miyoko	「…とにかく、ここ開けてください。 落ち着いて話をしましょう？」
111	かずさ	Kazusa	「駄目だよ…今は人に会えない。 どんなこと言い出すか、どんなことしてしまうか、 自分でもわからないんだ」
112	美代子	Miyoko	「だからこそ人に会うべきなんですよ… 自分一人で考え込んじゃったら、 何もいい解決策なんか浮かんできませんよ」
113	かずさ	Kazusa	「でも、でも…でもっ、 駄目だよあたし…もうこの国にいるのは嫌だ… ウィーンに帰る」
114	美代子	Miyoko	「社長は…お母さんのことはどうされるんです？」
115	かずさ	Kazusa	「っ…わからない、だから何もわからないんだって！ どうしたらいいかわからないから逃げたいんじゃないかぁ」
116	かずさ	Kazusa	「なのに、どうしたらいいかわからないから逃げられない。 もう、とっくに荷造りだって済ませたのに、 ここから外に出られない」
117	美代子	Miyoko	「………」	"........."
118	かずさ	Kazusa	「なにもできない。決められない。動けない。 生きてる価値ないよ、もう…っ」
119	美代子	Miyoko	「そんな、そんなこと………あ」
120	かずさ	Kazusa	「今日は…帰って。 大丈夫、まだ生きてるよ。 生き恥、さらしてるよ」
121	美代子	Miyoko	「え、ええ、ここなんですけど… でもその、やっぱりまだ体調が悪いみたいで」
122	かずさ	Kazusa	「………？」
123	美代子	Miyoko	「はい、だから今日のところは…え？ あ、でも、その…」
124	かずさ	Kazusa	「美代子さん…？」
125	美代子	Miyoko	「は、はい、確かに冬馬はそう申してましたが。 ………信じていいんですね？」
126	かずさ	Kazusa	「じゃあ…切るよ、もう」
127	美代子	Miyoko	「あ、ちょっと待ってくださいかずささん。 今、代わりますから！」
128	かずさ	Kazusa	「代わる、って、 …誰に？」
129	？？？	???	「いつもお世話になっております。 わたくし、ナイツレコードの…小木曽と申します」
130	かずさ	Kazusa	「～～～っ！？」
131	雪菜	Setsuna	「久しぶりだね………かずさ」
132			………	.........
133			……	......
134			…	...
135	春希	Haruki	「あ…」
136			朝までという願いも虚しく、 雪は、一時間も経たずにやんでしまっていた。
137			始発が動き出すまでにはまだ時間があり、 タクシーを使ってまで動こうという気力も湧かず。
138			俺は、この寒さの中、他に佇む人もいない公園のベンチで、 徐々に雲が切れていく空を見上げていた。
139			そう… 俺は、動くことすらできなかった。
140	雪菜	Setsuna	「こんばんは」
141	春希	Haruki	「………」	"........."
142			なのに雪菜は、こんなどうしようもない俺のために、 こんな真夜中に、タクシーを飛ばしてここに来てくれた。
143	雪菜	Setsuna	「これ、使い捨てカイロ。 懐に入れて温めておきました…なんてね」
144	春希	Haruki	「っ…」
145			カイロを握らせてくれる雪菜の手が、 カイロよりも温かく、俺の全身に染みる。
146	雪菜	Setsuna	「お疲れさま…春希くん」
147	春希	Haruki	「雪菜…雪菜ぁ…っ」
148			二週間ぶりに聞くその声は、 やっぱり、いつまでも褪せない優しさに満ちていた。
149	雪菜	Setsuna	「ごめんね、ずっと連絡しなくて。 辛い思いさせてしまって、ごめんね？」
150			でも、その空白の二週間を、 雪菜は、本当は謝る必要なんかない。
151	春希	Haruki	「ごめん、ごめん、雪菜… 俺、やっぱり…あいつを支えきれなかった」
152	雪菜	Setsuna	「ん…」
153			だって、約束だったから。
154			かずさから逃げないって。 今はかずさの側にいるって。
155			かずさを安心させるって。
156			それまでは、会わないって約束だったから。
157	春希	Haruki	「いや、俺が支えようとすることそのものが 間違ってたのかも。 …やっぱり俺じゃ、駄目だったんだ」
158	雪菜	Setsuna	「駄目なこと、ないよ。 そんなこと、ないって」
159			だから雪菜は、 俺が何度も言い訳がましいメールを送っても、 約束通り、返事もよこさなかった。
160	春希	Haruki	「駄目だよ、やっぱり… だって、俺といると、かずさは余計に傷つく。 俺があいつの針のムシロになっちまってる」
161			けれど、たった一言『助けて』って書いた途端、 ５分も経たないうちにコールバックしてくれた。
162			見ててくれてた… ずっと返事をしなかったときも、 届いたメール、すぐに見ててくれたんだ、雪菜は。
163	雪菜	Setsuna	「話して、くれるかな…？」
164	春希	Haruki	「………」	"........."
165			そして、来てくれた… 雪菜が、俺のもとへと来てくれた。
166	雪菜	Setsuna	「この二週間のこと。 春希くんがどう頑張って、どう挫折したのかを」
167			かずさと同じように、辛い現実から逃げ出して、 雪菜に救いを求めた俺を、受け入れてくれた。
168	雪菜	Setsuna	「春希くんは今… 何を、求めているのかを」
169	春希	Haruki	「雪菜…雪菜…っ」
170			雪菜は、慈しむような視線で俺を見つめてくれている。
171			だから俺は、ゆっくりと手を伸ばし、 雪菜を求めるように、立ち上がる。
172			その胸で、泣くために。
173			………	.........
174	雪菜	Setsuna	「じゃあ、改めて。 …ナイツレコード広報担当の小木曽と申します。 今後ともよろしくお願いいたします」
175	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
176	雪菜	Setsuna	「…って、とりあえず社会人の義務は果たしました、と。 それにしてもすっごい部屋だね～。 一泊何万くらい取られるの？」
177	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
178	雪菜	Setsuna	「わたしも他のインテグラル泊まったことあるけど、 いっつも普通の客室だから… それでも２万くらい取られるんだよ？」
179	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
180	雪菜	Setsuna	「あ、いきなり下世話だったかな。ごめん。 ウチ、お母さんがすぐお金のこと気にするから、 ついつい影響受けちゃうんだよね」
181	かずさ	Kazusa	「…なんで」
182	雪菜	Setsuna	「ん？」
183	かずさ	Kazusa	「なんで、来たんだ。 あたしを見下したいのか？」
184	雪菜	Setsuna	「かずさ…」
185	かずさ	Kazusa	「笑いに来たのか？　罵りに来たのか？ それとも…哀れみに来てくれたとでも言うのか？」
186	雪菜	Setsuna	「話を、しに来たんだけど。 ただ、それだけなんだけど」
187	かずさ	Kazusa	「怒ってんだろ？　あたしのこと。 許す気なんか、ないんだろ？」
188	雪菜	Setsuna	「そうだね… せっかく帰国してきたのに一度も連絡くれないこととか、 ちょっと根に持ってるかも」
189	かずさ	Kazusa	「っ…あ、あたしがそんなことできるわけないって 知ってるくせに…」
190	雪菜	Setsuna	「あ～あ、連絡欲しかったな。 かずさ、昔の携帯番号繋がらないし。 何より、わたしから連絡入れても嫌だろうし」
191	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
192	雪菜	Setsuna	「それは否定してくれないんだ。 あ～あ、地味にショックかも、やっぱり」
193	かずさ	Kazusa	「これが雪菜の復讐なのかよ？ みじめなあたしの姿を見ることが… 醜いあたしの未練を嘲笑うことが…っ」
194	雪菜	Setsuna	「なんでそんなネガティブに考えちゃうかなぁ…」
195	かずさ	Kazusa	「だって、だって…！ お前にここ教えたの、春希だろ！？」
196	雪菜	Setsuna	「…そうだよ。 少し考えればわかることだもんね」
197	かずさ	Kazusa	「つまり二人してあたしのこと笑ってたんだろ？ 昔のことずっと根に持ってる痛い女だって！ まるでストーカーみたいだって！」
198	雪菜	Setsuna	[F16「…どっちかと言うと春希くんの方が ][F16その傾向強いんだけどなぁ」]
199	かずさ	Kazusa	「ほら答えられないじゃないか！ そうなんじゃないか！」
200	雪菜	Setsuna	「………それじゃあ、そろそろ本題行こうか。 そういう話してても埒が明かないしね」
201	かずさ	Kazusa	「っ！　埒が明かないってどういうことだよ！ 雪菜、やっぱりお前あたしのこと馬鹿に…っ」
202	雪菜	Setsuna	「このたび弊社は、開桜社アンサンブル増刊号 同梱ＣＤ『冬馬かずさミニアルバム』の プロデュースを手がけることになりました」
203	かずさ	Kazusa	「………なんだって？」
204	雪菜	Setsuna	「それで、今日はご挨拶とスケジュールの確認に。 収録内容はおいおい相談していくことにしましょう。 何しろ同時期にコンサートもあるから日程がタイトで…」
205	かずさ	Kazusa	「開桜社…？ アンサンブル…？」
206	雪菜	Setsuna	「ちなみに、今回はウチの完全持ち出し。 いずれ日本で冬馬かずさのＣＤが発売されるときのために、 恩を売っておこうってのがぶっちゃけた狙いなの」
207	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
208	雪菜	Setsuna	「かずさとの契約ってすごくハードル高いんだよ？ クラシックレーベル持ってる[Rレコード会社^ところ]は ほとんど全社が狙ってるんじゃないかな？」
209	かずさ	Kazusa	「………だな？」
210	雪菜	Setsuna	「ん？」
211	かずさ	Kazusa	「あいつが売ったんだな…？」
212	雪菜	Setsuna	「売った…って」
213	かずさ	Kazusa	「自分の仕事のために…雪菜の機嫌を取るために… あいつ、あたしのこと売ったんだな！？」
214	雪菜	Setsuna	「………そう思う？」
215	かずさ	Kazusa	「だ、だって…だってそんな… そうじゃなきゃ、こんな出来過ぎた話あるかよ…っ」
216	雪菜	Setsuna	「そう思うんなら思えばいいんじゃない？ …かずさがその可能性を信じられるなら、だけどね」
217	かずさ	Kazusa	「…っ」
218	雪菜	Setsuna	「でも、最終的には冬馬曜子さんの… あなたの所属会社の社長が決めたの。 だからこれは、正式な契約なんだよ」
219	かずさ	Kazusa	「母さん…まで？ 母さんまで、あたしを見捨てたって言うのか…？」
220	雪菜	Setsuna	「自分で本人に聞いてみたらどうかな？ …心配してたよ、曜子さん」
221	かずさ	Kazusa	「雪菜…？」
222	雪菜	Setsuna	「もちろん、コネはあったよ。 春希くんが直接曜子さんに口利きしたから、 理屈抜きでウチが仕事を取れた」
223	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
224	雪菜	Setsuna	「開桜社、ナイツレコード、冬馬曜子オフィス… 三社を巻き込んだ、ありえない友達仕事だよね」
225	かずさ	Kazusa	「友達…」
226	雪菜	Setsuna	「月曜に企画書を出して、 今朝プロデューサーの決裁が下りた。 いくら雑誌付属のミニアルバムでも普通ないよこんなの」
227	かずさ	Kazusa	「それが…なんだよ」
228	雪菜	Setsuna	「あなたが絡むと、社会の常識なんて 結構ねじ曲がっちゃうってこと。 …これが、冬馬かずさって人間の力なんだよ？」
229	かずさ	Kazusa	「そんなの知らない… そんな力、欲しかった訳じゃない」
230	雪菜	Setsuna	「ただ、好きな人を振り向かせられたら良かった？ …春希くんにさえ、届けば良かった？」
231	かずさ	Kazusa	「っ…雪菜！」
232	雪菜	Setsuna	「かずさって…本当に春希くんのことが大好きなんだね」
233	かずさ	Kazusa	「～～～っ」
234	雪菜	Setsuna	「ふふ…図星？ …なんて、聞くまでもないよね」
235	かずさ	Kazusa	[F16「………………………悪いかよぅ」]
236	雪菜	Setsuna	「…やだなぁもう。その可愛さ反則だよ」
237	かずさ	Kazusa	「からかうなよ…」
238	雪菜	Setsuna	[F16「そんな顔されたら、そりゃ春希くん参っちゃうよ。 ][F16かずさのこと、二度と離せなくなっちゃうよ…」]
239	かずさ	Kazusa	「………帰れよ」
240	雪菜	Setsuna	「だいたい仕事の内容は理解してくれた？」
241	かずさ	Kazusa	「いいから帰ってくれよ！ あたしはそんな仕事しない。 するわけないだろ！」
242	雪菜	Setsuna	「…わかった、とりあえず帰るね。 今日のところは挨拶だけのつもりだったし」
243	かずさ	Kazusa	「二度と…来ないでくれ」
244	雪菜	Setsuna	「そんな訳にはいきません。 締め切り迫ってるしね。 追加公演より前に収録済ませちゃいたいし」
245	かずさ	Kazusa	「そんなの…物理的にだって無理だ。 あと二週間しかない」
246	雪菜	Setsuna	「あと二週間かぁ… 昔も、そんなやっつけ仕事があったね」
247	かずさ	Kazusa	「………っ」
248	雪菜	Setsuna	「それじゃあ、おやすみなさい。 あ、これ差し入れ。 おなかが空いたら食べて」
249	かずさ	Kazusa	「いらない。 持って帰れ」
250	雪菜	Setsuna	「別に変なもの入ってないよ？ そりゃ、わたしが作ったから味の保証はないけれど」
251	かずさ	Kazusa	「なんでもいいから、早くいなくなってくれ…」
252	雪菜	Setsuna	「わかった…それじゃ、おやすみなさい。 …また明日」
253	かずさ	Kazusa	「二度と来るなって言っただろ！」
254	かずさ	Kazusa	「っ…」
255	かずさ	Kazusa	「っ…ぅ、ぅぅ…っ」
256			………	.........
257	雪菜	Setsuna	「ふぅ…」
258	雪菜	Setsuna	「先、長そ」
259	雪菜	Setsuna	「本当に、これでいいのかな？ わたしで、大丈夫なのかな？」
260	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
261	雪菜	Setsuna	「…何言ってるの。 たった一日で、いきなり弱音吐いてどうするの」
262	雪菜	Setsuna	「くじけるな、わたし！」
263	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
264	雪菜	Setsuna	「依緒たち、怒ってるだろうなぁ」
265			………	.........
266	かずさ	Kazusa	「馬鹿野郎…」
267	かずさ	Kazusa	「誕生日だったんじゃないかよ、あいつ」
268	かずさ	Kazusa	「そんな大切な日に、 なんでこんなとこ、来てるんだよ…」

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