White Album 2/Script/3206

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1			『ごめん機能もしんて』
2	春希	Haruki	「………機能？」
3			いつもより数時間遅い雪菜からの定例メールからは、 昨日の成果が未だ芳しくないことと、 今とても焦っていることが伝わってきた。
4			多分『昨日も進展なし』って打ちたかったんだろうな…
5	雪菜	Setsuna	「いやぁぁぁぁ！？ 途中で送信しちゃったぁ！」
6	雪菜	Setsuna	「霧島橋のナイツレコード本社まで！ ごめんなさい大急ぎで！ あと５分で会議始まっちゃう～！」
7	雪菜	Setsuna	「ああっ！　やっぱり静かに走って！ …目もと直してる間だけ！」
8			………	.........
9	かずさ	Kazusa	「ふああぁぁ～」
10	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
11	かずさ	Kazusa	「スタジオ入り、昼からにしよ」
12			………	.........
13			……	......
14			…	...
15			『さっきはごめんなさい』
16			『連絡遅れてごめんなさい。 出社してから今までずっと会議でした』
17			『それと、朝は意味不明のメール送っちゃって ごめんなさい。あの時言おうとしていたのは “ごめん、昨日も進展なし”でした』
18			『それとそれと、そんな間違いメールでさえ、 半日遅れちゃってごめんなさい。 ちょっと昨晩は色々あって忙しかったの』
19			『うん、昨晩はね…すごく忙しかったの。 寝る暇もないくらいたくさんのことがあったんだよ』
20			『あのね、春希くん。 もしかしてもしかしたらもうすぐ…』
21			『ううん、今は言わないでおく。 だってまだ、わたしは何も成しえていないんだから』
22			『今夜もメール遅くなるかもしれません。 けれど、それは決して悪いことじゃないから。 信じて待っててください』
23			『それじゃ』
24	春希	Haruki	「………」	"........."
25			かずさの元に通うようになってから、 雪菜はふたたび、俺から連絡をすることを禁止した。
26			そして自分からも、極端にビジネスライクに簡潔に、 毎日の進捗報告だけを淡々と報告するに留めていた。
27			かずさを救うまで、決着をつけるまで… 男女どころか、友達の会話さえしないでおこうって、 そういう意味を込めた約束だった。
28			けれど、今日のメールのテンションは…
29	浜田	Hamada	「おい北原！　何ぼうっとしてんだよ！ 俺の指示しといた仕事、 まさか手つけてないなんて言い出したら…」
30	春希	Haruki	「大丈夫です！　もう８割は終わりました。 明日の朝までには何としても上げますから」
31	浜田	Hamada	「そんな程度で威張ってんじゃない！ 大体、アンサンブル増刊の方はどうなってんだよ。 お前、もしかして現実逃避でこっちの仕事ばっかり…」
32	春希	Haruki	「そっちも今週中には入稿終わります！ 最終チェックにまるまる一週間取れます！」
33			そうだ、今週中には絶対に終わらせる。
34			だって、もしかしたらもうすぐ…
35	浜田	Hamada	「馬鹿野郎！　いくら本の方が終わったからって、 ＣＤが全然音沙汰ないじゃないか！ あれから一体どうなってんだよ！？」
36	春希	Haruki	「すいません！ そっちも並行して対応しときます！」
37			どうやら雪菜のメールのテンションは、 俺のリアルのテンションにまで 影響を及ぼしてるらしかった。
38	浜田	Hamada	「アホたれ！ そんなに一気に仕事詰めて倒れたらどうすんだ！ 自分の体を守るのも編集の仕事だろうが！」
39	春希	Haruki	「すいません！　本当すいません！」
40			コンサートまで… そして、締め切りまであと一週間。
41			ラストスパートの時は、 もう、目の前に迫っているのかもしれない。
42	浜田	Hamada	「なに大声出してんだよ！ 鬱陶しい！」
43	春希	Haruki	「すいません！　以後気をつけます！」
44	松岡	Matsuoka	[F16「言いがかりもいいとこ…」]
45	鈴木	Suzuki	[F16「ま、浜田さんの気持ちもわからないでもないけど。 ][F16やっぱ今のうちに摘んどくべき芽だよね～」]
46	雪菜	Setsuna	「ねぇお母さん！ あれどこやったっけ？　ほらあれ！ 確か押入れの奥にしまってあったよね！」
47	雪菜の母	Setsuna's Mother	「あれじゃわかんないわよ…」
48	孝宏	Takahiro	「ホント親子もいいとこ…」
49	雪菜	Setsuna	「っ、あった！ よしっ、これで手荷物は全部かな？」
50	孝宏	Takahiro	「…って、それ全部持ってくの？ 姉ちゃん一人で？」
51	雪菜	Setsuna	「大丈夫だよ、タクシー呼んであるから。 それに出張先、そんなに遠くないし」
52	雪菜の母	Setsuna's Mother	「それで、いつ帰って来れるの？」
53	雪菜	Setsuna	「だからぁ、さっきから言ってるじゃない。 問題が解決するまでだって」
54	雪菜の母	Setsuna's Mother	「それもどうなのかしら… そんな、いつ終わるかわからない出張なんて」
55	孝宏	Takahiro	「姉ちゃん、レコード会社の広報なんだぜ？ 何日も帰らないことなんかザラだって」
56	雪菜の母	Setsuna's Mother	「けれど一年目の女の子なのよ？ もう少しなんて言うか、会社も考えてくれても…」
57	雪菜	Setsuna	「ごめんお母さん。 でも今度の出張は、わたしからお願いしたの。 …これはわたしがやらなきゃならない仕事なの」
58	雪菜の母	Setsuna's Mother	「雪菜…」
59	孝宏	Takahiro	「そんな大事な仕事なんだ」
60	雪菜	Setsuna	「うん、とっても大事。 三人の未来がかかった一大プロジェクトなの！」
61	雪菜	Setsuna	「あ、タクシー来た！ それじゃ悪いけどしばらく留守にします。 お父さんには後から電話するって伝えといて」
62	雪菜の母	Setsuna's Mother	「気をつけるのよ？ お腹壊したりしないようにね？」
63	雪菜	Setsuna	「うん、気をつける。 それじゃ、行ってきま～す！」
64	孝宏	Takahiro	「妙にテンション高いなぁ… そんなに出張が嬉しいのかな？」
65	雪菜の母	Setsuna's Mother	「ついこの前大阪に行ってきたばかりでもう…」
66	孝宏	Takahiro	「ところでさ… 未来がかかった三人って…誰？」
67			………	.........
68	かずさ	Kazusa	「で…これは何の真似だ？」
69	雪菜	Setsuna	「今日からお世話になろうかなって… 色々と言い争うこともたくさんあるし」
70	かずさ	Kazusa	「その手に持ってるのは？」
71	雪菜	Setsuna	「着替えに洗面用具にその他… 女の子のお泊りに必要なもの一式って感じ？」
72	かずさ	Kazusa	「いや、スーツケースの方じゃなくて、 左手に抱えてる…」
73	雪菜	Setsuna	「ああこれ？　電熱器。 フロントに聞いたらガス使えないって」
74	かずさ	Kazusa	「当たり前だ。 ここはホテルの客室だぞ」
75	雪菜	Setsuna	「それに、お鍋とフライパン。 あと、来る途中に食材も買ってきたの。 お肉とお魚と…お野菜たっぷり」
76	かずさ	Kazusa	「…何の真似だ」
77	雪菜	Setsuna	「昨日の喧嘩のお詫び。 今日はわたしがご馳走するね。 …ほら、ワインも」
78	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
79	雪菜	Setsuna	「それじゃ、お邪魔しま～す」
80			………	.........
81	雪菜	Setsuna	「春希くんはね、 ずっと、ずっと、かずさのことが好きなままだよ。 五年間変わらず、かずさを一番愛してるんだよ」
82	かずさ	Kazusa	「…そんなの信じられるか。 だって今、あいつが見てる女はあたしじゃない」
83	雪菜	Setsuna	「彼の気持ちをわかっていながら、 それでもしつこく言い寄ってきた女の子がいたからね」
84	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
85	雪菜	Setsuna	「優しい春希くんは、そんな痛いコを見捨てられなくて… とうとう根負けして、受け入れてしまったんだよ」
86	かずさ	Kazusa	「そういう卑屈なことばかり言うな。 かえって腹が立つ」
87	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
88	かずさ	Kazusa	「あいつは五年前から雪菜のことが好きだったよ。 ずっとあいつを見てたあたしだからわかるんだよ…」
89	雪菜	Setsuna	「それでも、彼の中の一番はずっと変わらなかった。 …途中からだけど、ずっと彼を見てるわたしならわかる」
90	かずさ	Kazusa	「っ…」
91	雪菜	Setsuna	「初めて好きになった相手で、世界一愛した女の子で… そんなコを、追い抜けるわけなんかなかった。 どれだけ頑張っても、肩を並べるのが精いっぱい」
92	かずさ	Kazusa	「でも雪菜は努力した。 …あたしのしなかった努力をさ」
93	雪菜	Setsuna	「かずさ…」
94	かずさ	Kazusa	「だから、あいつが世界一愛してる女になった。 …元からいい女だったくせに、 手に負えないくらい凄い女になった」
95	雪菜	Setsuna	「そんなこと…」
96	かずさ	Kazusa	「お前の勝ちだよ。もう勝負はついてる。 …わざわざ、あたしに負けを認めさせなくてもいいだろ」
97	雪菜	Setsuna	「だからわたしはそういうつもりで…」
98	かずさ	Kazusa	「あたしのこと好きだから構うなんて… そんなふうに、自分にまで嘘をつくなよ」
99	雪菜	Setsuna	「そういう卑屈なことばかり言わないでよ。 かえって怒れてきちゃうよ」
100	かずさ	Kazusa	「あたしはお前には… お前にだけは、許してもらう資格はないんだ。 …わかるだろそんなこと？」
101	雪菜	Setsuna	「でも、でも… わたし、かずさに対して無関心じゃいられない。 …好きと、ものすごく近いところにいるんだよ！」
102	かずさ	Kazusa	「雪菜…っ」
103	雪菜	Setsuna	「あきらめないよ、わたし…あきらめないから」
104			………	.........
105	かずさ	Kazusa	「嫌いだ…春希なんか」
106	雪菜	Setsuna	「そう…」
107	かずさ	Kazusa	「あいつがあたしのことをどう思っていようが、 あたしはあいつのことなんか大嫌いだ…」
108	雪菜	Setsuna	「彼の、どういうところが嫌い？」
109	かずさ	Kazusa	「真面目に決めたことは全部正しいって… そんな間違った思い込みをしてるところだよ」
110	雪菜	Setsuna	「え…」
111	かずさ	Kazusa	「本気の人間が全て正しいって… 自分は思い悩んだからその決断は正しいって、 変な固定観念に凝り固まってるところだよ」
112	雪菜	Setsuna	「春希くんは間違ってるって言うの？ あんなに思い悩んで、一生懸命な彼が？」
113	かずさ	Kazusa	「あいつの言ってることは全部間違いだ。 だってあいつは、人としてのセンスがないから」
114	雪菜	Setsuna	「センスって…そんなことで？」
115	かずさ	Kazusa	「どれだけ真面目に考えても、適当に決めても、 才能の段階で、あいつが正しいことなんてないんだよ」
116	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
117	かずさ	Kazusa	「雪菜にはわからないだろうな… ううん、日本人にはわかりにくいのかも」
118	雪菜	Setsuna	「天才なら…芸術家ならわかるっていうの？ かずさみたいに」
119	かずさ	Kazusa	「な、嫌いだろ？　あたしのこと。 お前たちには合わないだろ？」
120	雪菜	Setsuna	「っ…」
121			………	.........
122	雪菜	Setsuna	「そうだね、彼は間違ってるかもしれない。 嘘つきの上に、愚かで… どうしようもないひとなのかもしれない」
123	かずさ	Kazusa	「最初からそう言ってるじゃないか。 あんな奴を愛してるなんて、 雪菜のセンスも大したことないな」
124	雪菜	Setsuna	「でも、彼が間違いを犯すのは、 彼にセンスがないからじゃない。 ただ、最初から公平じゃないんだよ」
125	かずさ	Kazusa	「はぁ？」
126	雪菜	Setsuna	「すごく真面目に考えて、思い悩んで、 正しい結論に辿り着いた上で、 自信満々に逆の選択をしてるだけだよ」
127	かずさ	Kazusa	「何だ、それ…」
128	雪菜	Setsuna	「だから、間違ってるように見える。 …ううん、明らかに間違えてる」
129	かずさ	Kazusa	「…意味わかんない。 なんでそんなことするんだ」
130	雪菜	Setsuna	「相手を思いやる心に、あまりに引きずられるから。 …かずさのことばかり、ひいきするから」
131	かずさ	Kazusa	「っ！？」
132	雪菜	Setsuna	「そういうとこ…正直嫌だって思うこともある。 ほんと酷いよね、春希くん」
133	かずさ	Kazusa	「あたしのせいで、春希が間違えてるって？ 道を踏み外してるって言うのかよ…？」
134	雪菜	Setsuna	「一週間前… 彼がわたしになんて言ったか知ってる？」
135	かずさ	Kazusa	「そんなの嘘だ！ だって、あいつは…あいつはあたしを…っ！」
136	雪菜	Setsuna	「いつもはみんながそう思うんだよ… 五年前…わたしだって思わなかったわけじゃない」
137	かずさ	Kazusa	「っ…雪菜！」
138	雪菜	Setsuna	「今、かずさがそう思うのは、 初めて自分が拒絶されたからだよ。 …今回だけ選ばれなかったからだよ」
139	かずさ	Kazusa	「や、やめ…やめろっ」
140	雪菜	Setsuna	「いつもいつも、かずさを抱きしめてた春希くんが、 いきなりかずさを突き放したから… だから、根に持ってるだけだよ」
141	かずさ	Kazusa	「やめろって言ってるだろ！」
142	雪菜	Setsuna	「『嫌いな』相手に拒絶されただけなのに、 どうしてそんなにショックを受けるのかな？」
143	かずさ	Kazusa	「あたしを…あたしをこれ以上打ちのめすな！ 勝者が敗者を責めるなんて卑怯だろ！」
144	雪菜	Setsuna	「彼がどれだけかずさを第一に… それこそ、憎たらしいくらいあなた優先で決断してるか、 何もわかってないくせに」
145	かずさ	Kazusa	「わかってたまるか！ そんなこと、信じられるか！」
146	雪菜	Setsuna	「かずさにはわからないだろうね… ううん、日本人でないとわかりにくいのかも」
147	かずさ	Kazusa	「っ…お前」
148	雪菜	Setsuna	「嫌いでしょ？　わたしのこと」
149	かずさ	Kazusa	「………ああ、嫌いだね。 そうやって、大人げない仕返ししてくるところが！」
150	雪菜	Setsuna	「今のが仕返しだってわかるんだ… やっぱりかずさって、わたしと同じだね。 …センスのない日本人が、大好きなんだね」
151	かずさ	Kazusa	「…っ」
152			………	.........
153			……	......
154			…	...
155	かずさ	Kazusa	「ピアノ…やめようかな」
156	雪菜	Setsuna	「そんな…どうしてそういうこと言うかなぁ」
157	かずさ	Kazusa	「もう、聴かせたい相手がいないんだよ。 みんな、あたしの前からいなくなっちゃった」
158	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
159	かずさ	Kazusa	「今までは、ピアノを弾けば幸せになれた。 …ウィーンにいれば、あたしは五年前から 先に進む必要がなかった」
160	雪菜	Setsuna	「かずさ…」
161	かずさ	Kazusa	「けれど日本に来て、五年後の世界に来て… 幸せな空想が、現実に壊された」
162	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
163	かずさ	Kazusa	「目指してた人が、あたしの先にいなくなった… ずっと支えてくれていた人が、消えてしまった」
164	雪菜	Setsuna	「曜子さんは、いなくなったりしないよ。 あなたのために、一生懸命生き続けるよ」
165	かずさ	Kazusa	「人の心は移ろうものなんだって… 会って、想いを重ねない限り、 色褪せてしまうものなんだって、思い知った」
166	雪菜	Setsuna	「色褪せてなんか… 彼の気持ちは、悔しいくらい何も変わってないよ」
167	かずさ	Kazusa	「でも現実には、 あたしの望みは何一つ叶わない。 わかってたことだけど、永遠に知りたくなかった…っ」
168	雪菜	Setsuna	「っ…」
169	かずさ	Kazusa	「あたしの小さな世界は、もうすぐ消える。 そしたら次は、世界の創造主が消えるだけ…」
170	雪菜	Setsuna	「そんな…そんなこと、ない」
171	かずさ	Kazusa	「もういい… もう、いいんだ」
172	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
173	かずさ	Kazusa	「おやすみ、雪菜。 ごめんな、こんな話して。 …夜が明けたら、もう少しだけ前向きになるから」
174	雪菜	Setsuna	「かずさ…かずさぁ」
175	かずさ	Kazusa	「もう、寝るよ。 ありがと、雪菜。 今夜も、側にいてくれて」
176	雪菜	Setsuna	「っ…」
177	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
178	雪菜	Setsuna	「かずさ…」
179	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
180			………	.........
181			……	......
182			…	...

Script Chart

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