White Album 2/Script/3208

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	Speaker		Text		Comment
Line #	JP	EN	JP	EN
1	かずさ	Kazusa	「と、言うわけで…」
2	曜子	Youko	「………」	"........."
3	美代子	Miyoko	「え…」
4	かずさ	Kazusa	「今までワガママばかりでごめんなさいっ！ 美代子さん！」
5	美代子	Miyoko	「ちょちょちょちょっと～！ やめてくださいかずささん！ やめさせてください社長～！」
6	曜子	Youko	「あ～、本人の気の済むまでやらせるわよ？ 美代ちゃんに土下座するってのが約束だもん」
7	美代子	Miyoko	「だ、だからって… なんでわざわざロビーなんですか？ せめて部屋に戻りましょうよぅ」
8	曜子	Youko	「それだと罰にも何にもならないじゃない。 みんなの見てる前でやらせるから意味があるのよ」
9	美代子	Miyoko	「みんなの中にマスコミが含まれてたら どうするんですか！？」
10	曜子	Youko	「美談じゃない？」
11	かずさ	Kazusa	「それで、話はそこで終わりじゃなくて… これからお願いすることもワガママ放題なんだけど…」
12	曜子	Youko	「だってよ？　美代ちゃん」
13	美代子	Miyoko	「だ、だから何で私に振るんですか！？」
14	曜子	Youko	「だぁ～って、 わたしの方はコンサートさえ無事に開催できれば 何の問題もないし～」
15	美代子	Miyoko	「しゃ、社長…」
16	かずさ	Kazusa	「コンサートスタッフとの打ち合わせを セットして欲しいんだ。 それも、今日のできるだけ早い時間に」
17	曜子	Youko	「それなら何とかなるんじゃない？ みんな今まで全然指示が来なくて暇してただろうし」
18	かずさ	Kazusa	「それが終わったらすぐに レコーディングスタッフとの打ち合わせ。 これは雪菜が集めるから同席してくれればいい」
19	曜子	Youko	「あ～、それも美代ちゃん頼むわね。 わたし夜は外出禁止食らってて」
20	かずさ	Kazusa	「あと、スタジオは一週間まるごと押さえて。 …できれば、毎日２４時間貸し切りで」
21	美代子	Miyoko	「それは…まぁ、交渉してみます」
22	かずさ	Kazusa	「それと、できれば火を使える許可を」
23	美代子	Miyoko	「…火、ですか？」
24	かずさ	Kazusa	「うん。 雪菜がさ、電気調理器だと どうしても火力が足りないからって」
25	曜子	Youko	「…あなたたち、スタジオで何するつもりなのよ？」
26	かずさ	Kazusa	「合宿」
27	曜子	Youko	「………」	"........."
28	美代子	Miyoko	「………」	"........."
29	かずさ	Kazusa	「三人でざっとスケジュール組んでみたんだけどさ。 そしたらあいつら、移動の時間も惜しいって…」
30	曜子	Youko	「………」	"........."
31	美代子	Miyoko	「………」	"........."
32	かずさ	Kazusa	「そんなわけだから、 あたしもすぐにスタジオ入りしないと。 あと何かあったらまた現地で相談させて」
33	曜子	Youko	「…はっ。 ちょっと、待ちなさいかずさ！」
34	かずさ	Kazusa	「なんだよ？　もう時間ないんだけどな。 遅刻したらネチネチ責める奴がいるし」
35	曜子	Youko	「間に合うの？ そんな具体策も何もない勢いだけのやり方で…」
36	かずさ	Kazusa	「…知らないのか？」
37	曜子	Youko	「何を？」
38	かずさ	Kazusa	「あたしたち三人が揃ったら、 できないことなんかないんだぞ？」
39	曜子	Youko	「あ…」
40	美代子	Miyoko	「………」	"........."
41	曜子	Youko	「…ギター君と同じ事言ってる」
42	美代子	Miyoko	「………っ」
43	曜子	Youko	「なんとまぁ… あれが若さかしらねぇ」
44	美代子	Miyoko	「………っ、 ふ、ふふ…っ」
45	曜子	Youko	「美代ちゃん？」
46	美代子	Miyoko	「っ…よ、よかったぁ…っ、 社長…かずささんが、かずささんがぁ…っ」
47	曜子	Youko	「ほうら、戦いが始まったばかりで泣くな。 …こうなった方があなた大変よ？」
48	美代子	Miyoko	「大丈夫です。 一週間なら…前向きな苦労なら頑張れます。 かずささんと同じで、ずっと寝なくても…」
49	曜子	Youko	「やめときなさいな…その歳で」
50	美代子	Miyoko	「年齢的にはまだ[R社長^おや]より[Rかずささん^おこさん]寄りです！」
51			………	.........
52			……	......
53			…	...
54	春希	Haruki	「さてと、それじゃ“やっと”全員揃ったことだし、 チームミーティング、始めようか」
55	雪菜	Setsuna	「よろしくお願いしま～す」
56	かずさ	Kazusa	「ほんの２０分遅刻しただけだろ… 本当に陰険な奴」
57	春希	Haruki	「…本番まであと１５０時間くらいしかないんだぞ？ そのうちの２０分がどれだけ貴重かわかるか？」
58			本当は、詰まりそうになる言葉を無理に振り絞っていた。 すすってしまいそうになる鼻を無理に押し留めていた。
59	かずさ	Kazusa	「２０分は２０分だ。 ハンバーガーの一つも食べてたらすぐに過ぎる時間だろ」
60			目の前にいるかずさは、 俺のもとを離れていったときと同様に、 俺と目を合わせてはくれなかったけど…
61	春希	Haruki	「この期に及んでジャンクフードとかなに考えてんだお前。 これからは時間と同じくらい体力が大事だって時に」
62	かずさ	Kazusa	「ハンバーガーなんて喩えに決まってるだろ。 どうしてそう実のない説教ばかりしたがるんだお前は」
63			それでも、その表情はいい感じにふてくされ、 軽口に悪口で、皮肉に毒舌で応えてくれる。
64	雪菜	Setsuna	「どっちにしても、今夜からはわたしが栄養管理するから。 だから安心して、春希くん。 絶対にスタミナ切れなんて起こさせないからね、かずさ」
65	かずさ	Kazusa	「あ、ああ…頼む」
66	春希	Haruki	「雪菜…」
67			そして雪菜は…
68			あの時と同じ、新加入のボーカルよろしく、 よくわかってないけど楽しそうに、 俺たち二人のやり取りをにこにこしながら眺めてる。
69	雪菜	Setsuna	「…まぁ、寝不足の方は 自分で克服してもらうしかないけどね？」
70	かずさ	Kazusa	「そっち対策はコーヒー買い込んであるから大丈夫」
71	春希	Haruki	「コーヒーって… この１００ｍｌ当たり８０キロカロリーとか書いてある コーヒー“風味”飲料のことか？」
72	かずさ	Kazusa	「…栄養も取れてお得だろ？」
73	雪菜	Setsuna	「はいはい、それじゃ始めようよ春希くん。 コンサート本番まで、時間ないんだよね？」
74			あのときとは違い、 俺たちの一番中心にいて、 一番深く関わっているくせに…
75	春希	Haruki	「あ、ああ、そうだな。 確かに、雪菜の言う通り…」
76	かずさ	Kazusa	「時間がない時間がないってせっつく奴に限って、 ばたばたと時間を浪費するっていう悪い見本だな」
77	春希	Haruki	「お前が今までグダグダしてるのが悪いんだろうが！ 自分で限界まで時間削っておいて何を今さら…」
78	雪菜	Setsuna	「だからぁ、仲良く喧嘩しないの～！」
79			みんな、本当はわかってる。 誰もが空元気を振り絞ってるって。
80			泣きそうなのを必死で抑えて、 端から見たらものすごくくだらない馬鹿をやってるって。
81			それでも俺たちは、誰もが決して素に戻るまいと誓いつつ、 手探りで、五年前の俺たちを作っていく。
82			あの、三人が初めて音楽室で一堂に会したときのように。
83			待てよ…？
84			あの時って四人だったっけ？ もうよく覚えてないけど。
85			………	.........
86	春希	Haruki	「一応、こっちが当日までのスケジュール案。 大ざっぱに３０分刻みだけど」
87			と、俺は二人の前に、 今朝出かける前に打ち出してきたＡ４の紙を置いてみせた。
88	雪菜	Setsuna	「細か～…」
89	かずさ	Kazusa	「何が大ざっぱだ。 そうやってわざわざ自分の偏執さをアピールするな」
90	春希	Haruki	「…昼間はレコーディングスタッフを迎えてＣＤの収録。 夜はコンサートに向けた練習ってのが基本的な流れ」
91			雑多な意見はすべからく無視すべし。 今はとにかくスピード重視だ。
92	春希	Haruki	「一応、睡眠時間枠は二時間取ってるけど、 これはあくまでもその日のノルマを果たした場合だ」
93			過酷なスケジュールだってのはわかってる。 絶対に噛みつかれるってわかってる。
94			けれどまず、かずさ自身に 『寝る間もない』という言葉を 身近に感じてもらう必要があるから…
95	春希	Haruki	「その日の出来に納得いかなかった場合、 優先的にここを削るからな。 だからこそ、時間は計画的に…」
96	かずさ	Kazusa	「って、おいちょっと待て！ 入浴が一時間しか取ってないじゃないか！ しかも移動時間込みで！」
97	春希	Haruki	「え、クレームそこなの？」
98	雪菜	Setsuna	「それだけじゃないよ… 二日に一回しか予定に入ってない…なにこれぇ？」
99	春希	Haruki	「いや、えっと…一週間くらいいいだろ？ 俺なんか予定にすら入れてないんだぞ？ 会社のシャワー室で済ますつもりだし」
100	かずさ	Kazusa	「お前、女の身だしなみを何だと…」
101	春希	Haruki	「いや、だって… どうせここには俺しかいないんだし、 少しくらいみっともないとこ見られたって…」
102	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
103	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
104	春希	Haruki	「え？　何？　なんなの？」
105			二人して更に逆鱗に触れたような表情に…
106	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
107	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
108	春希	Haruki	「…君ら今がどんな状況なのか自覚してる？」
109			というわけで、 スケジュール調整はいきなり暗礁に乗り上げた。
110			結果…
111			入浴時間を毎日、しかも３０分延長する代わりに、 睡眠時間が更に３０分短縮された…
112			………	.........
113	春希	Haruki	「で、これがＣＤの収録曲目のリスト。 一応、雪菜の会社の人にもＯＫもらってるけど…」
114	かずさ	Kazusa	「…なんだよ、これ」
115			スケジュール表の次に取り出したＡ４の紙を見るやいなや、 またしてもすぐにかずさが噛みついてきた。
116	春希	Haruki	「難しいか？ 一応、実績のある曲を中心に選んだつもりなんだけどな」
117	かずさ	Kazusa	「実績があるどころか、 前のコンサートで弾いた曲ばかりじゃないか」
118			けれど、今度噛みついてきたところは、 さっきほど予想外のところではなく…
119	春希	Haruki	「…ついでに追加公演のプログラムとも８割方被せてる。 ほら、こっちがそのリスト」
120	雪菜	Setsuna	「うわぁ…何て言うか………えっと、どこが違うの？」
121	春希	Haruki	「ほら、この三曲目。 これだけはＣＤの収録曲から外れてるだろ？」
122	雪菜	Setsuna	「あ、本当だ…なんだか間違い探しみたいだね」
123			クラシックのことなんか何もわからない俺が、 かずさの楽曲リストを作ってくるということは、 つまり、こういうことだった。
124			追加公演は、前回のプログラムから何も変えない。 ミニアルバムは、コンサートで弾いた曲の抜粋のみ。
125	かずさ	Kazusa	「…どういうつもりだよ？ 何でこんなクソつまんないプログラムを組んでくるんだ？ 母さんがそうしろって言ったのか？」
126	春希	Haruki	「いや、俺が提案した。 曜子さんは『俺たちで決めていい』って 言ってくれたから…」
127	かずさ	Kazusa	「ああ、道理でな… 道理で、こんな…」
128	雪菜	Setsuna	「ねぇ、どういうこと？」
129	かずさ	Kazusa	「こいつはな、雪菜… あたしに手抜きしろって言ってるんだよ」
130	雪菜	Setsuna	「え…？」
131	春希	Haruki	「違う、効率化だ。 あと一週間で何とか形にするための、 これがギリギリの選択だよ…」
132			自分でもかなり思い悩んだけれど…
133			それでも今の状況を考えると、 どうしても譲れない線というものは存在する…
134			………	.........
135	春希	Haruki	「だから何度言ったらわかるんだよ！ 今の俺たちにとって最大の敵は時間だって」
136	かずさ	Kazusa	「お前こそ何度言ったらわかるんだ！ 今回だけは何一つ手を抜くわけにはいかないって」
137	春希	Haruki	「手を抜いてるわけじゃない。効率化だ！ アルバムはもちろん、追加公演での新曲はなし。 いや、どれだけ譲ってもせめて１曲…」
138	かずさ	Kazusa	「いいや全部新曲やる。 大失敗した前のコンサートの曲なんて縁起悪い。 二度と弾きたくないね」
139	春希	Haruki	「それこそ逃げなんじゃないのかよ？」
140	かずさ	Kazusa	「とにかく、そんなの面白くない。 あたしはやりたくないね」
141	春希	Haruki	「面白いだけじゃやってけないだろ。 現実見ろよ」
142	かずさ	Kazusa	「自分が楽しめなかったら モチベーションに影響するだろ！ お前はアーティストのこと何もわかってない！」
143	春希	Haruki	「わかんないよ俺素人だもん！ そりゃ確かにわかんないけどさ、 お前のコンディション考えるとこれしかないんだよ！」
144	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
145	春希	Haruki	「………」	"........."
146	雪菜	Setsuna	「あ、あの… 二人とも、落ち着いて」
147			やっぱりこの事態も、 ある程度は想定してた。
148	かずさ	Kazusa	「歓迎の曲なんだ… あたしの、新しい世界への…」
149	雪菜	Setsuna	「かずさ…」
150	かずさ	Kazusa	「新しいあたしを表現するための手段なんだ。 ここで手を抜くわけにはいかないんだよ…」
151			そして、かずさのこの前向きな気持ちも、 とてもとても、尊いものだってわかってた。
152			でも…
153	春希	Haruki	「だからって完成度の低いものを出したら どうしようもないじゃないかよ…」
154			もう、見たくない。
155			暗い部屋の中で膝を抱えて俯くかずさを。
156			やっと芽生えた希望をもう一度踏み潰されて、 また壊れてしまうかずさを。
157	春希	Haruki	「今回はサプライズとかバラエティとかいらないんだ。 その分全部クオリティに注ぎ込んでくれ」
158	かずさ	Kazusa	「どうして両立できないって最初から諦めるんだよ？ 妥協するためにあたしに弾かせるつもりなのかよ？」
159	春希	Haruki	「けどさ、けど、ものには限度ってもんが！」
160	かずさ	Kazusa	「失敗するって言うのか…？ 本気を出したあたしが、 不可能を可能にできないって言うのかよ…？」
161	春希	Haruki	「かずさ…」
162			だから、ほんの少しだけ安全サイドに振れる。
163			今回俺が求めるのは“成功”であり、 “大成功”じゃない。
164			それこそが、真にかずさのためだって…
165	かずさ	Kazusa	「昔さ、お前… あたしのこと天才だって言ったよな？ 『何でもできるんだな』って、驚いてたよな？」
166	春希	Haruki	「ああ、天才どころか神だよ… 今でも崇めてるよ…」
167	雪菜	Setsuna	「永遠の女神、だよね… 悔しいくらい、崇拝してるもんね」
168	かずさ	Kazusa	「だったら、だったらさ… 少しは神のお告げ、信じろよ…」
169			かずさを、信じるのか。 それとも、かずさを護るための自分の判断を信じるのか。
170	春希	Haruki	「でも、かずさ… 今度ばっかりは俺たち、 一緒に笑われること、できないんだぞ…？」
171	雪菜	Setsuna	「春希くん…」
172			あの時は、ステージの上に三人とも立っていた。
173			でも、今の俺たちは…
174	春希	Haruki	「俺と雪菜は、全力でお前のこと、サポートするよ。 …けど、結局サポートなんだ」
175	かずさ	Kazusa	「それが、何だよ…」
176	春希	Haruki	「お前が疲れたとき、 俺が代わりに弾くことできないんだ。 雪菜が代わりに歌うことできないんだよ…」
177	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
178			でも今は、拍手喝采を浴びるのも、 ブーイングを浴びるのも、ただ一人。
179	春希	Haruki	「どれだけ辛くたって、苦しくたって… この先、お前だけは休むことはできないんだ」
180			全ての負荷は… 衝動も反動も、かずさ一人へと収束する。
181	春希	Haruki	「だから、だからさ、俺は…」
182	かずさ	Kazusa	「………何言ってんだ、お前？」
183	春希	Haruki	「え？」
184	かずさ	Kazusa	「なんでそんな他人事みたいにのんびり構えてんだよ？ お前たちだって、休ませないに決まってるだろ？」
185	春希	Haruki	「………え？」
186			いや、だから…
187			『かずさ一人だからこそ、そこまで無理させる訳には』 という話の流れのつもりだったんだけど…
188			………	.........
189	かずさ	Kazusa	「…とまぁ、アルバムの収録曲はそんな感じで決まった。 母さんは『あたしたちで決めていい』って言ったし」
190	春希	Haruki	「………」	"........."
191	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
192	かずさ	Kazusa	「春希が母さんに何を言ったのか知らないけど、 それが冬馬曜子オフィスとしての正式決定。 …開桜社的に駄目なら、アルバムの話自体がなくなる」
193	春希	Haruki	「………………」
194	かずさ	Kazusa	「何か質問はある？ なければミーティング終わるけど」
195	春希	Haruki	「………………………待て」
196	かずさ	Kazusa	「そうか、ＮＧか。 残念だったな雪菜。 どうやらアルバムの企画はお流れらしいぞ」
197	雪菜	Setsuna	「え？　あ…」
198	春希	Haruki	「待てってそういう意味じゃないって！ あ、いや、だけどやっぱＮＧだろそれは！」
199	かずさ	Kazusa	「ん？　なんでだ？ あたしはちゃんと弾くって言ってるんだぞ？」
200	春希	Haruki	「そりゃ、確かにお前も弾くよ？ 弾くけど、でも、それは…」
201			かずさの口にしたアルバムの収録曲… いや、収録曲候補と言うべきものは、 予想通り、俺の候補曲とは似ても似つかないものだった。
202	春希	Haruki	「それは既に冬馬かずさのアルバムじゃないだろ…」
203	雪菜	Setsuna	「春希くん…」
204			というか企画そのものが、 青天の霹靂と呼ぶにふさわしい超企画に変貌していた…
205	かずさ	Kazusa	「お前たちさ… ただ、あたしにちょっかいをかけるために、 この企画をねじ込んだんだろ？」
206	春希	Haruki	「ちょっかいって…お前…」
207	かずさ	Kazusa	「最後まで、お前たちの思惑通りに進むと思うなよ？ 期待の新人編集だか、話題の美人広報だか知らないけど、 孤高の天才ピアニストをなめてもらっちゃ困る…」
208	春希	Haruki	「無理だって今さら！ まだ現役の雪菜はともかく、 それ俺の負荷高すぎるだろ！？」
209	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
210	かずさ	Kazusa	「そう、どれだけ辛くたって、苦しくたって、 この先、お前だけは多分休むことはできないんだろうな」
211	春希	Haruki	「意味ないだろそれ！ 一体誰が得するんだよ！？」
212	かずさ	Kazusa	「誰が得すると思う？」
213	春希	Haruki	「知るかよそんなの！」
214	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
215			そりゃ、話題にはなるかもしれない。 一部には、熱狂的に喜ぶ輩もいるかもしれない。
216			けれど大半の冬馬かずさファンは 『何それ？』と首を傾げるに違いなく…
217	かずさ	Kazusa	「なぁ、春希… 少なくともこの中に一人いるって思わないか？」
218	春希	Haruki	「この中って…だからお前何言って………っ！？」
219	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
220			まずい、まずい…
221	春希	Haruki	「せ、雪菜…？」
222	雪菜	Setsuna	「春希くん…」
223	春希	Haruki	「あ、あのさ… 俺たち、もう分別のある社会人だよな…？」
224	雪菜	Setsuna	「面白そうだね…」
225	春希	Haruki	「………」	"........."
226			ああ、やっぱり…
227			雪菜の無責任さは、 五年前に証明済みだった。
228	雪菜	Setsuna	「ね、やろうよ！ ………また三人で笑い者になっちゃおうよ！」
229	春希	Haruki	「ああぁぁぁ…っ」
230			根っこのところでは、何も変わってなかったんだ。
231			たとえその『面白そうだけど大変なこと』が 自分の身に降りかかってきても、 やっぱり面白そうに頑張ってしまうところも含めて…
232	雪菜	Setsuna	「あ、でも本当にいいの？　かずさ」
233	かずさ	Kazusa	「あたしのアルバムだ。 誰にも文句は言わせない…」
234	春希	Haruki	「待て、待て、待て！ 全国の書店で売るんだぞ！？ 初版○万部だぞ！？」
235	かずさ	Kazusa	「お前たち、前に一度、二人で再結成したんだろ？ あたし抜きで、勝手に歌ったんだよなぁ？」
236			信じられない。 こんなの、想像しうる範囲での最悪の…
237	かずさ	Kazusa	「今度こそ完全再結成だ。 ………峰城大付属軽音楽同好会の」
238			いや、想像すらしなかった、 最悪すぎる展開だった。

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