White Album 2/Script/2008

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	Speaker		Text		Comment
Line #	JP	EN	JP	EN
1	麻理	Mari	「つまらん」
2	春希	Haruki	「っ…」
3	麻理	Mari	「客観的すぎ。杓子定規。枯れてる。淡泊。熱くない。 こんなの拾ったコメントを羅列しただけ」
4			ようやく上がった、俺の単独初仕事の初稿は。
5	麻理	Mari	「一体なんなんだこの駄文？ 読めば読むほど気持ち悪くなってくる。 得意なのは雑用だけだった？　頭使う仕事は無理？」
6			『叩いて伸ばすという教育方針にのっとった』と 説明されても、にわかには信じられないくらいの 大酷評だった。
7	麻理	Mari	「いや、これスキル云々じゃないな。 あまりにも問題外すぎる。 お前、読者になにも伝える気ないだろ？」
8			いや、そもそもそんなフォローは信じようがない。 なぜなら、麻理さんの表情が全てを物語ってる。
9	鈴木	Suzuki	「ま、麻理さん… そのくらいにしといた方が…」
10	浜田	Hamada	「そうそう。 北原、バイトだし。 自分で書くのは初めてだし」
11			だって…
12	麻理	Mari	「初仕事で頼まれてもいない提灯記事書く奴がいるか。 しかも提灯なのに媚びてもいない。最低だこんなの！」
13	春希	Haruki	「………」	"........."
14			ただ単に記事がヘタクソでムカついてるだけなら、 こんなに心の底から悔しそうな顔するはずがない。
15	麻理	Mari	「北原…一体どうしたんだお前？ いくらなんでもこんな読んでもしょうがない文章 書く奴じゃなかったろ？」
16			ついでに、ここまで男言葉になることも…
17	麻理	Mari	「今回の記事… 何のためにお前を起用したと思ってるんだ？」
18	春希	Haruki	「俺が冬馬かずさの同級生だったから…です」
19	麻理	Mari	「そうだよ。お前の人脈とか元々持ってる情報量とか、 そういう部外者にはないアドバンテージに期待したんだ」
20	春希	Haruki	「はい…」
21	麻理	Mari	「それが何だこれ？ そこらの子供だって聞き出せるコメントばかりじゃないか。 これなら松岡の方が全然マシ！」
22	鈴木	Suzuki	「ほらほら松岡。やったじゃん。 あんた麻理さんに認められてるよ？」
23	松岡	Matsuoka	「こんな評価のされ方はさすがに嫌…」
24	麻理	Mari	「（んく、んく）ふぅぅぅぅ… ちょっとクールダウン」
25	浜田	Hamada	「いや、ますますテンション上がらないかそれ？」
26			机の上に常備してあったドリンクを一気に煽ると、 麻理さんはつとめて冷静な表情を作った。
27	麻理	Mari	「お前なぁ… 人と繋がってないと、この仕事できないよ？」
28	春希	Haruki	「すいません」
29			ついでに口調も、 かなり頑張って元に戻そうとしてた。
30	麻理	Mari	「そりゃ北原は、 暗いし、冗談通じないし、融通利かないけど、 コミュニケーション能力がないわけじゃないと思うのよ」
31	鈴木	Suzuki	「そりゃあ事実だけど、 もうちょっと部下に対して優しさと言うか…」
32	春希	Haruki	「いえ、麻理さんの言う通りですから」
33			俺にとっては、どれも誉め言葉だし、 一つも否定しようのない事実だと思ってる。
34			今までだって、ちゃんと人には関わってきたし、 関わりすぎたせいでウザがられることもあった。
35			…特定の条件を持つ相手を除いて、だけど。
36	麻理	Mari	「もうちょっと彼女の素顔に迫れないかな？ 探せばいるだろ誰か？ 昔の担任とか、親友とか、彼氏とか…」
37	春希	Haruki	「…一人だったんですよ、いつも」
38			むしろ、人とのコミュニケーション能力がなかったのは、 あいつの方で。
39			だから、本当のあいつについて話せる人が、 学園内に誰もいなくて。
40			そのせいで今回だって、 みんなあいつを知らないから、 おためごかしの美辞麗句ばかりで…
41	麻理	Mari	「ほら、それ」
42	春希	Haruki	「え？」
43	麻理	Mari	「『冬馬かずさはいつも一人だった』 どうしてそう書かないの？」
44	春希	Haruki	「それは…」
45	麻理	Mari	「ちゃんと本当のこと掴んでるじゃない。 なんで出し惜しみするの？」
46	春希	Haruki	「………」	"........."
47			でも俺は…
48			彼らが何も知らずに、 あいつについて適当に語ってるって知ってて、 その言葉をそのまま書き写した。
49			それって、表に出てくる部分だけ見ると、みんなと同じ。 何も知らない、知ろうともしなかった人間ってこと。
50			麻理さんの逆鱗に触れるのは当然、だ。
51	麻理	Mari	「[R取材対象^どうきゅうせい]に配慮した？ せっかく賞も取ってこれからって時に、 ネガティブなこと書いて足引っ張りたくなかった？」
52	春希	Haruki	「いえ…違います」
53			ただ、どう書けばいいかわからなかった。
54			あいつのことを思ってなんて、全然なかった。 逆だった。あいつのことを思いたくなかった。
55	麻理	Mari	「そんな配慮は、まず面白い記事を書いてから考えなさい。 それこそ、十年早いわ」
56			自分でやるって決めておきながら、 吹っ切るって決心しておきながら、 逃げて、逃げて、辿り着いたその果ての、最低の結果。
57			馬鹿だな、俺…
58			好きな人を傷つけて傷ついた最低な自分を、 自分のやりたかった事にまで持ち込むなんて。
59	麻理	Mari	「というわけで総没。 さて、どうする？」
60	春希	Haruki	「今までのは取材内容も含め全部捨てます」
61	麻理	Mari	「投げ出すってこと？」
62	春希	Haruki	「いえ、やり直します。 まるっきり中身変えます。 主観入るかもしれません」
63	麻理	Mari	「今回は最初からそういうのを望んでる。 今まで北原が勝手に履き違えてただけよ」
64	春希	Haruki	「あと、もしかしたらチェック通らないかも」
65	麻理	Mari	「そんな危ない話が書けるなら大したもの。 その時は大喜びで破り捨ててあげるわ」
66	春希	Haruki	「確か、締め切りは来週末でしたよね？」
67	麻理	Mari	「それは最終だから。 次のバイトの日までに持ってきなさい」
68	春希	Haruki	「…わかりました」
69			次は、火曜日… ということは、月曜までに全書き直し、か。
70	麻理	Mari	「それじゃ、私はこれから会議だから。 今日はもう帰っていいわ。お疲れさま」
71	春希	Haruki	「はい、失礼します」
72			そんな、学生には少し大変で、 社会人なら当たり前のはずの仕事を指示して、 麻理さんは編集部を後にした。
73	浜田	Hamada	「ま～その、なんだ。 気にするなって」
74	鈴木	Suzuki	「そうそう、北原君バイトなんだからさ。 元々ハードルが高すぎるんだよ」
75			後には、俺を取り囲むように、 編集部の人たちがフォローに回ってくれる。
76	春希	Haruki	「大丈夫です。 麻理さんの指摘は全部正しいですから。 …俺が気にしようが気にしまいが」
77	鈴木	Suzuki	「…やっぱ気にしてんのね」
78			…この人たちのこういう甘さがあるから、 麻理さんは安心して下に厳しくあたれるんだろうな。
79	松岡	Matsuoka	「な、北原、今から飲み行くか？ 俺も今日デスクに色々言われちゃってさ、 お互い溜まってること吐き出そうぜ？」
80	浜田	Hamada	「お前は誰も帰っていいなんて言ってないぞ。 俺が頼んだ修正、ちゃんと今日中に終わるんだろうな？」
81	松岡	Matsuoka	「…えっと、２５時頃駅前で待ち合わせにしない？ 俺の愚痴が倍に増えそうなんで朝まで飲み明かそうぜ？」
82	春希	Haruki	「…いえ帰ります。 早速家で書き直しやりたいんで」
83			で、この人たちのこういう甘さがあるから、 麻理さんは下に厳しくせざるを得ないのかもしれない。
84	浜田	Hamada	「まぁ、根詰めるなよ？ どうしても進まなかったら相談乗るからさ」
85	春希	Haruki	「ありがとうございます。 それじゃ、失礼します」
86	鈴木	Suzuki	「お疲れ～」
87	松岡	Matsuoka	「いいなぁ、もう帰れて…」
88			次の締め切りまで、あと三日。
89			明日はグッディーズのバイトが入ってるから、実質二日…
90			それまでに、一週間かけて取材までした記事より、 内容で数倍上回る新しい記事を書き上げる。
91			…問題は時間でも、ネタでもない。 そんなものはどっちも十分にある。
92			ただ一つだけ。 俺に書けるか、書けないか。
93			俺だけが知ってる、本当のあいつのことを、 俺は、人に話す気になれるのかなって…

Script Chart

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