White Album 2/Script/2306
Return to the main page here.
Translation
Editing
Translation Notes
Text
Speaker | Text | Comment | |||
---|---|---|---|---|---|
Line # | JP | EN | JP | EN | |
1 | 春希 | Haruki | 「ん…」 | ||
2 | 春希 | Haruki | 「…十時ぃ?」 | ||
3 | 携帯の時計には、 確かにそんな時間が刻まれていた。 | ||||
4 | 昨日の金曜日… 久々の開桜社は、変わらず修羅場だった。 | ||||
5 | 麻理さんになんか理不尽な叱られ方をして、 鈴木さんに『ずっとほっとくから』って謎なこと言われて、 勘を取り戻す暇もなく、家に辿り着いたのが確か八時。 | ||||
6 | そして今日は土曜日。 | ||||
7 | 今週からは丸ごと自由な時間になったはずの、 何も考えずに眠ろうと決心した、怠惰な一日。 | ||||
8 | 春希 | Haruki | 「はぁい…北原…」 | ||
9 | 眠い目をこすりながら開くと、 ベッドの上に、怒り狂いながらも麻理さんが渡してくれた、 予想通り悪趣味満載なグァム土産のキーホルダーがあった。 | ||||
10 | …年末に海外取材に行ってたのすら知らなかったことも、 怒りを買った要因の一つだったっけ。 | ||||
11 | ??? | ??? | 「あ、北原さん! よかった捕まった!」 | ||
12 | 春希 | Haruki | 「………じゃあな。おやすみ」 | ||
13 | 佐藤 | Satou | 「お願いです! 目を覚まして下さ~い!」 | ||
14 | そんな俺の『わざと何も考えない状況を作った休日』を 踏みにじってくれたのは、 先週まですっかりお馴染みだった電話番号の… | ||||
15 | ……… | .........
| |||
16 | 携帯アナウンス | Cellphone Voicemail | 「留守番電話サービスに接続します…」 | ||
17 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
18 | …杉浦。 | ||||
19 | どうしたんだよ、一体? | ||||
20 | ……… | .........
| |||
21 | …… | ......
| |||
22 | … | ...
| |||
23 | 中川 | Nakagawa | 「うおおお北原さ~ん愛してる~。 今アンケート取ったら抱かれたい男ナンバー1!」 | ||
24 | 春希 | Haruki | 「なんでこんな状況になってんだよ…」 | ||
25 | 開店直後の店内は、 当然ながらまだそれほど席が埋まってないにもかかわらず、 スタッフだけがテンパっているという異常事態だった。 | ||||
26 | 佐藤 | Satou | 「さっきも電話で話した通りっす。 ホールが全然足りないんすよ…」 | ||
27 | 中川 | Nakagawa | 「離さない~、もう二度と離さない~。 さあ一緒に死のうね~」 | ||
28 | 泣きながらまとわりついてくるホールチーフを引き剥がし、 俺は素早く店内に目を走らせる。 | ||||
29 | 春希 | Haruki | 「…中川さんしかいないじゃん」 | ||
30 | 佐藤 | Satou | 「だから電話でそう言ったっしょ? 早くフォローお願いしますよ~」 | ||
31 | 春希 | Haruki | 「なんでこんなシフトにしたんだよ… 最低でも三人で回せってあれほど」 | ||
32 | 佐藤 | Satou | 「ちゃんと三人で組んでたのに、 二人もドタキャンなんて想定してないっすよ。 せめてもう一人いればなんとかなったのに…」 | ||
33 | 春希 | Haruki | 「なんで、そうなるんだよ…」 | ||
34 | 泣きそうな声の(というか泣いていたなきっと) 佐藤の電話の内容は…まぁそんな感じだった。 | ||||
35 | もう少し詳細に言うと、 開店30分前に店に電話がかかってきたらしい。 | ||||
36 | それは、『熱が39度もあり起きられない』という、 喉から絞り出すような島本さんの声だったとか。 | ||||
37 | ホールスタッフが3人から2人に減ってしまったことを、 けれどその時点ではまだ誰も慌ててはいなかった。 | ||||
38 | 何しろチーフである中川さんの出勤日だったし、 それにもう一人来る予定になっていたスタッフは、 サボりとか遅刻とかとは最も縁遠い、使えるコで… | ||||
39 | 春希 | Haruki | 「杉浦…まだ連絡来ないの?」 | ||
40 | 佐藤 | Satou | 「こっちからかけても留守電で… 電源切ってるみたいなんすよねぇ」 | ||
41 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
42 | 連絡がないまま来ないなんて、 誰一人として想像してなかったから。 | ||||
43 | 佐藤 | Satou | 「やっぱあれっすかね。 [R北原さん^ししょう]がシフト外しちゃったから、 心の張りがぷっつりと切れちゃって…」 | ||
44 | 中川 | Nakagawa | 「だから呼び戻したのよ。 [R北原さん^かれし]がこうしてここで働いてくれてれば、 匂いにつられて彼女も戻って来るんじゃないかって…」 | ||
45 | 春希 | Haruki | 「俺関係ないから! 師匠でも彼氏でもないから! そもそも彼女に思いっきり失礼だから!」 | ||
46 | なんて悪態をついてても、 俺がヘルプに回るしかないことはわかってる… | ||||
47 | 彼女の教育係は俺で、 その彼女が無断欠勤したんだから、 責任を取るしかないわけで。 | ||||
48 | …まぁ、俺を教育係に任命した奴の責任は 終業後に問うとして。 | ||||
49 | けど、なんで… | ||||
50 | 本当に、どうしちまったんだよ、杉浦… | ||||
51 | ……… | .........
| |||
52 | …… | ......
| |||
53 | … | ...
| |||
54 | それから二時間は、 まさに地獄が待っていた。 | ||||
55 | 元々、二人で回すには無理がある広さに加え、 昨日の激務と睡眠不足がたたり、 なかなか能率が上がらない。 | ||||
56 | …いや、普段ならその程度の疲労なら、 一度集中してしまえば気にならないはずだった。 | ||||
57 | ただ今は、何もかも忘れて没頭することなんか、 できるわけがなかった。 | ||||
58 | 春希 | Haruki | 「お待たせいたしました。 ご注文お伺いいたします」 | ||
59 | 佐藤 | Satou | 「ありがとうございます。 グッディーズ南末次店でございます」 | ||
60 | お客様1 | Guest 1 | 「ええと…リブロースステーキにAセットで」 | ||
61 | 春希 | Haruki | 「ライスとパンはどちらになさいますか?」 | ||
62 | 佐藤 | Satou | 「杉浦さん! いま家? 大丈夫ですか?」 | ||
63 | お客様1 | Guest 1 | 「ライス」 | ||
64 | 春希 | Haruki | 「…スープとサラダは」 | ||
65 | お客様1 | Guest 1 | 「スープ。 クラムチャウダーで」 | ||
66 | 佐藤 | Satou | 「うん、うん… あ~、そうだったんだ。 それは大変でしたね~」 | ||
67 | お客様2 | Guest 2 | 「俺はミートスパゲティ。 それにミックスピザ」 | ||
68 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
69 | お客様2 | Guest 2 | 「あ、それをドリンクセットで」 | ||
70 | 佐藤 | Satou | 「今はどんな調子です? ええ…ええ…そうですか」 | ||
71 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
72 | お客様2 | Guest 2 | 「…注文、終わったけど」 | ||
73 | 春希 | Haruki | 「っ!? え、あ、ああ、かしこまりました。 それでは、ご注文繰り返させていただきます」 | ||
74 | 佐藤 | Satou | 「う~ん、それじゃ今日は無理しない方が」 | ||
75 | 春希 | Haruki | 「………リブロースステーキ、Aセットで、 ライスとミネストローネ…」 | ||
76 | お客様1 | Guest 1 | 「いや、クラムチャウダー…」 | ||
77 | 春希 | Haruki | 「っ!? 申し訳ありません。 クラムチャウダー…と」 | ||
78 | 佐藤 | Satou | 「え? ああ、そうですねぇ… 一時期は大変でしたけど、今は何とか」 | ||
79 | 春希 | Haruki | 「………木イチゴのパフェに、 シーザーサラダのドリンクセット…」 | ||
80 | お客様2 | Guest 2 | 「いやそれドリンクセットしか合ってないし、 そもそもサラダにそんなセットないし」 | ||
81 | 佐藤 | Satou | 「ええ、実は島本さんも杉浦さんと同じで… インフルエンザ流行ってますからね」 | ||
82 | 春希 | Haruki | 「………………お客様」 | ||
83 | お客様2 | Guest 2 | 「う、うん?」 | ||
84 | 春希 | Haruki | 「大変申し訳ございませんっ、 すぐに、別の者が参ります!」 | ||
85 | お客様2 | Guest 2 | 「え、ええっ!?」 | ||
86 | 春希 | Haruki | 「中川さん8番テーブルオーダーお願い! 俺、3分休憩入るから!」 | ||
87 | 中川 | Nakagawa | 「え、ええっ!?」 | ||
88 | なんという失態… 俺が教育係だったら怒鳴りつけてる。 | ||||
89 | けど今は… 仕方ないなんて言ったら終わりだけど、 でも、仕方ないだろ… | ||||
90 | だって… | ||||
91 | 佐藤 | Satou | 「あ~、だから今は大丈夫ですって。 杉浦さんのヘルプと言えばあの人しか…」 | ||
92 | 春希 | Haruki | 「代われ!」 | ||
93 | 佐藤 | Satou | 「うおっ!?」 | ||
94 | 春希 | Haruki | 「杉浦! お前、一体どこでなにしてたんだよ!?」 | ||
95 | 小春 | Koharu | 「っ!? せ…先輩?」 | ||
96 | ずっと、こいつのことが気になって、 仕事が手につかないんだから… | ||||
97 | 小春 | Koharu | 「え、え…どうして? 今日はシフトに入ってなかったんじゃ…」 | ||
98 | 春希 | Haruki | 「え、ええと、それは… そんな細かいことはどうだっていいだろ!」 | ||
99 | 佐藤 | Satou | 「あ、あ~、ええと。 彼女、つい今目が覚めたそうで」 | ||
100 | 春希 | Haruki | 「寝坊か? 寝坊なのか!? 杉浦小春ともあろう奴がなんて失態だよ!」 | ||
101 | 小春 | Koharu | 「先輩…」 | ||
102 | だから今、彼女の声が受話器の向こうから聞こえてきて、 安堵感のあまり、いつもの説教がだだ漏れになる。 | ||||
103 | 佐藤 | Satou | 「寝坊は寝坊なんすけど、 昨夜から熱が38度近くですねぇ…」 | ||
104 | 春希 | Haruki | 「お前は黙ってろよ! 俺は杉浦と話してるんだ!」 | ||
105 | 佐藤 | Satou | 「………了解しました。 お飾りの店長代理、沈黙します」 | ||
106 | 小春 | Koharu | 「ごめんなさい… その…迷惑かけて、ごめんなさ…っ」 | ||
107 | 春希 | Haruki | 「………病気ならしょうがないな。 怒鳴って悪かった」 | ||
108 | 小春 | Koharu | 「………っ、 すいません」 | ||
109 | だから、彼女の声に潜むほんのちょっとのビブラートには、 その時は全然気づかなかった。 | ||||
110 | 春希 | Haruki | 「そ、それにしてもさぁ… 昨日からそんなに調子悪いなら昨日のうちに連絡しろよ。 そしたらこっちだってちゃんと対応できるのに」 | ||
111 | 小春 | Koharu | 「だって先輩、もう来ないって… なんだかわたしのこと避けるみたいだったから…」 | ||
112 | 春希 | Haruki | 「………俺にじゃなくて、店にとか。 佐藤とか、中川さんとか」 | ||
113 | 小春 | Koharu | 「………本当に、ごめんなさい」 | ||
114 | 春希 | Haruki | 「と、とにかく、そんな訳なら… 今日はおとなしく寝てろ。 家族、誰かいるか?」 | ||
115 | 小春 | Koharu | 「………」 | "........."
| |
116 | 一瞬で沸いた頭は、それなりに妥当な理由を聞いて、 安堵とともに、これまた一瞬でクールダウンした。 | ||||
117 | 春希 | Haruki | 「薬とかあるか? 飯は食えてる? 何か欲しいものがあったら、帰りに届けても…」 | ||
118 | 小春 | Koharu | 「先輩…」 | ||
119 | 春希 | Haruki | 「ん? なに?」 | ||
120 | 俺がそんなふうに激しく怒ったのも、 そしてすぐに怒りを収めたのも、 ちょっとだけ、後ろめたかったからかもしれない。 | ||||
121 | 小春 | Koharu | 「先輩は…そこにいるんですか? 今日一日」 | ||
122 | 春希 | Haruki | 「うん… さすがに俺が帰ったら中川さんに殺される。 俺と、ついでに佐藤も」 | ||
123 | 佐藤 | Satou | 「いや、マジ帰んないでくださいね?」 | ||
124 | 『なんだかわたしのこと避けるみたいだったから』 | ||||
125 | だって、当の本人に思いっきり気づかれてたんだから。 | ||||
126 | 小春 | Koharu | 「………先輩」 | ||
127 | 春希 | Haruki | 「なんだ?」 | ||
128 | 小春 | Koharu | 「今からそっち行きます」 | ||
129 | 春希 | Haruki | 「………はぁ!?」 | ||
130 | だから、これ以上はうるさいこと言わずに、 罪滅ぼしも兼ねてお見舞いにでもと思ってた矢先… | ||||
131 | 小春 | Koharu | 「足りないんですよね人手? 今から30分以内に行きますから」 | ||
132 | また展開が、訳のわからない方向に飛んでいく。 | ||||
133 | 春希 | Haruki | 「何言ってんだ君は! 思いっきり風邪ひいてんだろ!?」 | ||
134 | 小春 | Koharu | 「風邪ならもう治ってます。 昼までぐっすり寝たせいで熱も完全に下がってます」 | ||
135 | 春希 | Haruki | 「自分のことだけじゃないだろ。 他のみんなにうつったらどうすんだ? シフト全滅だぞ!?」 | ||
136 | 小春 | Koharu | 「治ってるって言ったじゃないですか! それに、絶対にうつさない自信あります! だって…」 | ||
137 | 春希 | Haruki | 「なんだよ?」 | ||
138 | 小春 | Koharu | 「………っ!」 | ||
139 | 春希 | Haruki | 「ああっ!? 勝手に切りやがった! おい杉浦! こら、ちょっと待て!」 | ||
140 | 風邪をひいたから休ませて欲しいと 済まなそうに電話を掛けてきたはずの杉浦は… | ||||
141 | 治ってるから30分以内にここに来ると、 わずか3分の間に病気を完治させてしまった。 | ||||
142 | ……… | .........
| |||
143 | 普通ないから、そういうこと。 | ||||
144 | ……… | .........
| |||
145 | 小春 | Koharu | 「本当にすいませんでした。 遅刻した上、連絡まで遅れてしまって」 | ||
146 | 佐藤 | Satou | 「………」 | "........."
| |
147 | 中川 | Nakagawa | 「………」 | "........."
| |
148 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
149 | 本当に来やがったよ… しかもきっちり30分で。 | ||||
150 | 小春 | Koharu | 「今日の分の時給は結構ですから。 …って、そんなの当たり前ですけど、 今からだけでも置いてください。お願いします」 | ||
151 | 佐藤 | Satou | 「いや、あのですね杉浦さん。 バイトを無給で働かせるというのは、 色々な法律関係の絡みで無理でして…」 | ||
152 | 中川 | Nakagawa | 「そんなこと真面目に答えてどうすんのよ…」 | ||
153 | 5分で着替えた制服は、 ほんのちょっとだけスカートの裾が乱れてた… | ||||
154 | それでも、立ち姿も、顔色も、声も、喋り方も、 確かに杉浦の言う通り、『大丈夫』のうちに入るかも。 | ||||
155 | 春希 | Haruki | 「やっぱり体調悪いんだろ?」 | ||
156 | …ただ、辛そうな表情だけは隠せずにいた。 | ||||
157 | 小春 | Koharu | 「…そんなことないです。元気ですよ?」 | ||
158 | 春希 | Haruki | 「杉浦みたいな奴の『平気』を 額面通り信用できるか」 | ||
159 | 小春 | Koharu | 「っ!?」 | ||
160 | だから、自分の感覚で判断するしかない。 | ||||
161 | 無造作に、杉浦の額に手を伸ばし、 その体温を測ってみる。 | ||||
162 | 小春 | Koharu | 「………なにするんですか」 | ||
163 | 春希 | Haruki | 「少しだけ大人しくしてろ」 | ||
164 | 小春 | Koharu | 「………」 | "........."
| |
165 | そんな拒絶の言葉とは裏腹に、 さっきまで立て板に流れていた水が止まった。 | ||||
166 | 佐藤 | Satou | 「………」 | "........."
| |
167 | 中川 | Nakagawa | 「………」 | "........."
| |
168 | 春希 | Haruki | 「ついでにお前らは早く持ち場に戻れ」 | ||
169 | 熱は…ない。 | ||||
170 | 見て、触れた限りでは、 杉浦の『平気』という言葉を否定する要素は 何一つ見つからない。 | ||||
171 | 絶対に強がりだと確信してたのに、 それも単なる俺の思い込み…? | ||||
172 | 小春 | Koharu | 「………っ」 | ||
173 | 諦めきれずにずっと杉浦の額に触れてたら、 顔色だけはちょっと怪しくなってきた。 | ||||
174 | けれどこれは反応的に、 どうにも原因が病気にあるとは… | ||||
175 | 小春 | Koharu | 「…彼女のいる人がこういうことしないでください。 それってセクハラですよ?」 | ||
176 | 春希 | Haruki | 「…なら態度で嫌がれよ」 | ||
177 | セクハラって、 彼女がいるかどうかに関係するものだったっけ? | ||||
178 | その後杉浦は、 結局俺の厳しい検疫の目をくぐり抜け、 ホールへの職場復帰を果たした。 | ||||
179 | そして、それから数時間… | ||||
180 | 結論から言えば、やっぱり杉浦は、 病気をおして無理やり頑張ってるようにしか見えなかった。 | ||||
181 | だっていつもより、全然役に立ってなかった。 | ||||
182 | ぼうっとして、ミスも多くて… 初日を含めても、最低の働きぶりだったから。 | ||||
183 | ……… | .........
| |||
184 | …… | ......
| |||
185 | 春希 | Haruki | 「なんか今日は色々あったなぁ…」 | ||
186 | 小春 | Koharu | 「…すいません。 色々と迷惑かけて」 | ||
187 | 春希 | Haruki | 「別に責めてる訳じゃない。 これも教育係の義務だから」 | ||
188 | 小春 | Koharu | 「義務…か」 | ||
189 | 春希 | Haruki | 「義務ってのは全部嫌々ながら果たすものじゃないことは、 杉浦ならわかってるとは思うけど?」 | ||
190 | 小春 | Koharu | 「………」 | "........."
| |
191 | ちょっとでもネガティブに取れる言動をこっちがすると、 しゅんと落ち込んでしまう今日の杉浦。 | ||||
192 | この、弾まない会話のせいかなんなのか、 帰りの足の、なんと重いことか。 | ||||
193 | 春希 | Haruki | 「本当は、まだ万全じゃないだろ? 熱だけ無理やり薬で下げてるんじゃないのか?」 | ||
194 | 小春 | Koharu | 「そんなこと…ないですよ。 だって」 | ||
195 | 春希 | Haruki | 「だって?」 | ||
196 | 小春 | Koharu | 「…本当にもう大丈夫なんです。 大丈夫に決まってるんです。 それだけは信じてください」 | ||
197 | 春希 | Haruki | 「それで信じろと言われる方が辛いぞ…」 | ||
198 | 答えになっていないところが、余計に不安を煽る。 | ||||
199 | 小春 | Koharu | 「わたし…平気だから」 | ||
200 | バイトからの帰り道、 いつも通り、家まで送る俺の後ろを 何も言わずとことこついてきた。 | ||||
201 | …いや、いつも通りなのは半分だけ。 | ||||
202 | いつもは俺を早足で置いてこうとするし、 何かしら俺の穴を見つけては説教を始めるのに。 | ||||
203 | それが今日は、帰り道のペースもとてつもなく遅い。 | ||||
204 | 春希 | Haruki | 「杉浦さ…やっぱ明日は休めよ」 | ||
205 | 小春 | Koharu | 「…今のわたし、迷惑ですか?」 | ||
206 | 春希 | Haruki | 「いや、そういうんじゃなくて」 | ||
207 | 小春 | Koharu | 「って、当たり前ですよね。 今日、何回ミスしたか数え切れないし。 お客様にも、みんなにも、先輩にも迷惑かけどおし」 | ||
208 | 春希 | Haruki | 「ミスだけなら休めなんて言うか。 それどころか明日は二倍働いて返せって言う」 | ||
209 | 小春 | Koharu | 「じゃあ、二倍働きますから…」 | ||
210 | 春希 | Haruki | 「だから違うって! ミスしたのも、そうやってネガティブに考えるのも、 今の杉浦が疲れてるせいだと思ってるからだよ」 | ||
211 | 小春 | Koharu | 「疲れてますか? わたし…」 | ||
212 | 春希 | Haruki | 「俺に聞かれても本当のところはわからない。 自分の体に聞いてみろよ」 | ||
213 | 小春 | Koharu | 「………」 | "........."
| |
214 | いつもと同じ時間に店を出たのに、 いつもの3本後の電車にしか乗れなかった。 | ||||
215 | 駅に着いてからも、いつも徒歩15分の道のりが、 このままじゃ、いつもの倍以上かかりそうだった。 | ||||
216 | 気がつくと杉浦の足は止まってて、 俺は何度も後ろを振り返り、 行ったり来たりを繰り返した。 | ||||
217 | なのに『体調悪いのか?』と何度聞いても、 判で押したようにさっきの答えが返ってくるだけ… | ||||
218 | 春希 | Haruki | 「だから今夜はゆっくり寝て、 できれば明日もゆっくり寝て…」 | ||
219 | 小春 | Koharu | 「でもわたしがいないとシフトが… 島本さん、インフルエンザだって」 | ||
220 | 春希 | Haruki | 「俺がカバーするよ。 今日みたいに」 | ||
221 | 小春 | Koharu | 「でも先輩、しばらくは忙しいって。 そろそろ試験も始まるって…」 | ||
222 | 春希 | Haruki | 「実は全部落としても進級できるんだよ。 一応、杉浦と同じで日頃からコツコツやってる方でね」 | ||
223 | 小春 | Koharu | 「…大丈夫なんですね?」 | ||
224 | 春希 | Haruki | 「ああ。 だから明日はゆっくり休んで体調を整えとけ。 佐藤には俺から言っとくから」 | ||
225 | 元々、試験が近いなんてのは 適当な逃げでしかなかった。 | ||||
226 | ただ、何と言うか… 本当は、こういう時間を避けるためだったと言うか、 ここでネタばらしたら意味ないじゃないかと言うか… | ||||
227 | 小春 | Koharu | 「先輩が…来るんですね?」 | ||
228 | 春希 | Haruki | 「うん、だから安心して…」 | ||
229 | 小春 | Koharu | 「わかりました」 | ||
230 | 春希 | Haruki | 「お大事にな」 | ||
231 | 小春 | Koharu | 「…ありがとうございます」 | ||
232 | まぁ、いいか… | ||||
233 | これで、明日は杉浦は来ないから。 | ||||
234 | だから、俺がグッディーズに行ったとしても、 もう、こういう時間は… | ||||
235 | 俺が、思わず待ち望んでしまいそうになる、 こういう時間は… | ||||
236 | ……… | .........
| |||
237 | …… | ......
| |||
238 | … | ...
| |||
239 | で… | ||||
240 | 小春 | Koharu | 「おはようございます」 | ||
241 | 佐藤 | Satou | 「………」 | "........."
| |
242 | 中川 | Nakagawa | 「………」 | "........."
| |
243 | 春希 | Haruki | 「………おい」 | ||
244 | 小春 | Koharu | 「昨日はご迷惑お掛けしました。 一晩ぐっすり眠って、今度こそ全快しました。 今日こそは昨日の分も取り返してみせますから」 | ||
245 | 佐藤 | Satou | 「いや、あのですね杉浦さん…」 | ||
246 | 小春 | Koharu | 「ちゃんとお給料いただきますから。 それなら問題ないですよね?」 | ||
247 | 中川 | Nakagawa | 「そんなとこ真面目に理論武装してどうすんのよ…」 | ||
248 | 小春 | Koharu | 「今日だってわたしを含めても 3人しかいないじゃないですか、ホール。 追い返すべきか働かせるべきか冷静にお考えください」 | ||
249 | 佐藤 | Satou | 「………」 | "........."
| |
250 | 中川 | Nakagawa | 「………」 | "........."
| |
251 | 春希 | Haruki | 「お前ら言いくるめられようとしてるだろ!?」 | ||
252 | 俺の綿密な根回しにもかかわらず、 今日も引き続き、同じ時間を過ごすことになりそうだった。 | ||||
253 | 春希 | Haruki | 「どうして来たんだよ? 今日は大事を取って休めって…」 | ||
254 | 小春 | Koharu | 「この方が、元気になるって気づいたんです」 | ||
255 | 春希 | Haruki | 「なんで?」 | ||
256 | 小春 | Koharu | 「先輩なら、多分理解できる感覚だと思います。 …細かい理由は言うつもりはありませんけどね」 | ||
257 | 春希 | Haruki | 「それじゃ理解できないだろ」 | ||
258 | 小春 | Koharu | 「喉元過ぎれば熱さを忘れるんですね、誰でも」 | ||
259 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
260 | 結局、その言葉通り… | ||||
261 | 相変わらず、多少元気はなかったけど、 杉浦は、昨日と比べれば、 格段にマシになっていた。 |
Script Chart
Edit this section For more instructions on how the script chart works, please click here.
If you are below the age of consent in your respective country, you are advised to not read any adult content (marked by cells with red backgrounds) where applicable. Otherwise, you are agreeing to the terms of our Disclaimer.
Introductory Chapter | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1001 | 1008 | 1009 | 1010 | 1011 | 1012 | 1013 |
1002 | 1008_020 | 1009_020 | 1010_020 | 1011_020 | 1012_020 | |
1003 | 1008_030 | 1009_030 | 1010_030 | 1011_030 | 1012_030 | |
1004 | 1008_040 | 1010_040 | 1012_030_2 | |||
1005 | 1008_050 | 1010_050 | ||||
1006 | 1010_060 | |||||
1006_2 | 1010_070 | |||||
1007 |
Closing Chapter | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | ||||||
2001 | 2011 | 2020 | 2027 | 2301 | 2309 | 2316 | 2401 | 2408 | 2501 | 2510 |
2002 | 2012 | 2021 | 2028 | 2302 | 2310 | 2317 | 2402 | 2409 | 2502 | 2511 |
2003 | 2013 | 2022 | 2029 | 2303 | 2311 | 2318 | 2403 | 2410 | 2503 | 2512 |
2004 | 2014 | 2023 | 2030 | 2304 | 2312 | 2319 | 2404 | 2411 | 2504 | 2513 |
2005 | 2015 | 2024 | 2031 | 2305 | 2313 | 2320 | 2405 | 2412 | 2505 | 2514 |
2006 | 2016 | 2025 | 2032 | 2306 | 2314 | 2321 | 2406 | 2413 | 2506 | 2515 |
2007 | 2017 | 2026 | 2033 | 2307 | 2315 | 2322 | 2407 | 2507 | 2516 | |
2008 | 2018 | 2308 | 2508 | 2517 | ||||||
2009 | 2019 | 2509 | ||||||||
2010 | ||||||||||
Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | |||||||
2031_2 | 2312_2 | 2401_2 | 2504_2 | 2511_2 | ||||||
2031_3 | 2313_2 | 2402_2 | 2507_2 | 2513_2 | ||||||
2031_4 | 2313_3 | 2402_3 |
Coda | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Kazusa (True) | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | ||||||
3001 | 3008 | 3014_2 | 3020 | 3101 | 3107 | 3201 | 3207 | 3901 | 3907 |
3002 | 3009 | 3014_3 | 3021 | 3102 | 3108 | 3202 | 3208 | 3902 | 3908 |
3003 | 3010 | 3015 | 3022 | 3103 | 3109 | 3203 | 3209 | 3903 | 3909 |
3004 | 3011 | 3016 | 3023 | 3104 | 3110 | 3204 | 3210 | 3904 | |
3005 | 3012 | 3017 | 3024 | 3105 | 3111 | 3205 | 3211 | 3905 | |
3006 | 3013 | 3018 | 3106 | 3206 | 3906 | ||||
3007 | 3014 | 3019 | |||||||
Common | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | |||||||
3001_2 | 3210_2 | 3901_2 | 3906_2 | ||||||
3015_2 | 3902_2 | 3907_2 | |||||||
3902_3 | 3907_3 | ||||||||
3904_2 |
Mini After Story and Extra Episode | |||
---|---|---|---|
The Path Back to Happiness | The Path Forward to Happiness | Dear Mortal Enemy | |
6001 | 6101 | 4000 | 4005 |
6002 | 6102 | 4001 | 4006 |
6003 | 6103 | 4002 | 4007 |
6004 | 6104 | 4003 | 4008 |
6005 | 4004 | 4009 |
Novels | |||||
---|---|---|---|---|---|
The Snow Melts, And Until The Snow Falls | The Idol Who Forgot How to Sing | Twinkle Snow ~Reverie~ | After the Festival ~Setsuna's Thirty Minutes~ | His God, Her Savior | |
5000 | 5100 | 5200 | 5205 | 5300 | 5400 |
5001 | 5101 | 5201 | 5206 | 5301 | 5401 |
5002 | 5102 | 5202 | 5207 | 5302 | |
5003 | 5103 | 5203 | 5208 | 5303 | |
5004 | 5104 | 5204 | 5209 |
Short Stories | |||
---|---|---|---|
Princess Setsuna's Distress and Her Minister's Sinister Plan | Koharu Climate After the Passing of the Typhoon | This isn't the Season for White Album | Todokanai Koi, Todoita |
7000 | 7100 | 7200 | 7300 |