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1 | | 「そんなに力入れなくていいから。手前にすうっと引く感じ」\k\n「ん…」\k\n 十二月に、なった。\k\n 街はいよいよ街路樹の葉を落とし、その代わり、駅前には特定の日のための大樹が突然生え、全体で冬という季節を主張するようになった。\k\n「あ、芽は刃のところじゃなくてそこで取るの」\k\n「そこってどこだよ…」\k\n 学園生活最後の煌めきだった学園祭も終わり、三年生ともなると、残る灰色だけの四か月に思いを馳せざるを得なくなる日々。
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2 | | 「あ~、ちょっと厚く剥きすぎだよ。それじゃ食べるとこなくなっちゃう」\k\n「………」\k\n とはいえ、上に大学のある付属校の強みか弱みか、すでにかなりの学生の進路は決まってるから、本物の灰色は半分以下。\k\n その中でも、他の大学に推薦の決まった強者や負け組、就職を決めた社会人組を除くと、残るは三桁を切る。\k\n「うん、とりあえずこんなところかな」\k\n「ふぅ~」\k\n「それじゃ、ジャガイモは残り五個、あとニンジンが二本と…」\k\n「………っ」\k\n これは、そのマイノリティに選ばれてしまった人間の、熱く、そして絶望的な…
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3 | | 「ああぁぁぁ~っ、こんなちまちま剥いてられるか~!」\k\n「あ~、ちょっと、途中でやめるのはナシだよ、かずさ」\k\n 戦いの日々…のはずだった。三十分前までは。\k\n「料理って、つまらないな」\k\n「まだ始めたばかりなのに…」\k\n 皮むき器でジャガイモの皮を剥く作業を一個目で早々と断念し、キッチンの椅子でくつろぎ始めた艶やかで長い黒髪を持つ少女の名は冬馬かずさ。\k\n 峰城大学付属学園三年E組。いつも教室の隅で目立たぬように惰眠を貪る趣味が災いしたか、卒業をあと三か月後に控えた身ながらも進路未定しかも目処なしというお先真っ暗な境遇を誇っている。
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4 | | 「だいたい、あたしに細かい作業は向かないんだ。適材適所って言葉知ってるだろ」\k\n「繊細の極地にあるピアニストの台詞じゃないよ、それ…」\k\n そして、先ほどからリズミカルに包丁の音を響かせつつ、しかもかずさへの的確なフォローと突っ込みも忘れない、こちらも長めの髪を二つに縛った少女の名は小木曽雪菜。\k\n 峰城大学付属学園三年A組。好むと好まざるとに関わらず常に皆の憧憬の眼差しを浴び、先行してしまった可憐なイメージを守るため適度な努力を重ねた結果、早々と峰城大学への推薦合格を決めるという将来有望な境遇に甘んじている。
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5 | | 「そうだよピアニストなんだよあたし。それが刃物とか、指怪我したらどうするんだ」\k\n「けどかずさが言い出したんだよ? 『カレーの一つも作れない女とか終わってるかな?』って」\k\n「だからって本当にカレー作るなんて流れにしたのは雪菜だろ。だいたい今日は試験勉強のために集まったんじゃないのか…」\k\n「ものすごく必死な顔ですがりついてきたのはどこの誰だったかなぁ…」\k\n
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6 | | 改めて…十二月に、なった。\k\n 明日から期末試験を控え、学園最後の日々は微妙に嫌な方向で慌ただしさを増していくはずだった。\k\n なのに、卒業も怪しい怠惰なピアニストの試験対策のために小木曽家に集まった面々は、いつの間にか一人を除き、何故かキッチンで夕食の仕度に勤しんでいた。
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7 | | 「なぁ、本当に俺、手伝わなくていいのか?」\k\n「来るなお前は。おとなしく部屋で一人勉強してろ」\k\n「…そもそも今日は誰のための勉強会だったっけ?」\k\n
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8 | | と、廊下から手持ち無沙汰そうに顔を出した、特に表現するまでもない特徴のない髪型をした少年の名は北原春希。\k\n「とにかく、晩飯はあたしたちに任せておけばいいんだよ」\k\n「あたしたち………ねぇ」\k\n「三人でやった方が早く準備できるだろ。さっさと食べて、さっさと勉強再開しないと。だいたいお前、まだ一科目目すら終わってないんだから」\k\n 峰城大学付属学園三年E組。杓子定規に誰にでも面倒見が良くしかも説教臭い性格で様々な学内組織を表裏の区別なく支配し続けた結果、峰城大学への推薦はおろか、卒業式での答辞まで確定的という前途洋々な境遇に陥っている。
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9 | | 「うるさいな、どうせ手伝うとなったらそうやっていちいち文句付けたりするんだろ。料理なんてやったことないくせにえらそうにさ」\k\n「やったことなくてもジャガイモの皮むきくらい誰でもできるだろ」\k\n「そうだね~、根気があれば」\k\n「雪菜…言いたいことがあるなら口をつぐんでろ」\k\n 春希が現場に踏み込んできてしまったせいで堂々とサボれなくなったかずさは、仕方なしにもう一度雪菜の隣に立ち、今度は比較的剥きやすそうなニンジンを手に取る。\k\n「そ、それはともかく! …さっきの、絶対にあいつには言うなよ?」\k\n …ふうに見せかけ、雪菜の耳元に小声で囁いた。\k\n「さっきのって?」\k\n「ほ、ほら、『カレーの一つも作れない女』ってやつ」\k\n「かずさがカレー一つ作れないこと? それともそのことで彼に嫌われるんじゃないかって死ぬほど気にしてること?」
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10 | | 「わ~、わ~、わぁぁぁぁ~!」\k\n「後者ね、了解」\k\n「…やっぱ雪菜ってかなりいい性格してるよな」\k\n 繰り返すが、十二月に、なった。\k\n かずさと春希が恋人同士となって…二週間が、過ぎようとしていた。\k\n
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11 | | 二週間前。\k\n 学園祭のライブステージは大盛況のうちに幕を閉じた。\k\n 予想通りの可憐さと、そして予想以上の歌を披露した雪菜への賞賛とアンコールは止むことなく、そしてそれを脇で完璧に支えたキーボード兼サックス兼ベース担当のかずさにも惜しみない絶賛が、ついでに自分のできる範囲で頑張ったギター担当の春希にもそれなりの拍手が送られた。
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12 | | 「ん…」\k\n「ど、どうだっ?」\k\n
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13 | | 「どうだって…ジャブカレーだな」\k\n「…お前の場合、わざとなのか素なのかわかり辛いのがタチが悪い」\k\n「春希くん、味! 感想!」\k\n「キャッチコピー通り、パンチの効いた辛さとコクのある深い味わい(甘口)」\k\n「もういい! こんな人の努力を認めない奴なんかに食わせるんじゃなかった」\k\n「か、かずさ…もう、春希くんってば」\k\n「俺、好きなんだよ。中学生くらいで辛いものが平気になってから、ずっとこれなんだ」
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14 | | 「え…」\k\n「それじゃあ…?」\k\n「おかわりあるかな?」\k\n「………」\k\n「美味いよ、これ。いつも通りにさ」\k\n そんな最高の十五分から二時間後…\k\n アイドルを盛り上げるために全力を尽くしたバックバンドの二人は、夕闇迫る更衣室がわりの第二音楽室で、お互いの気持ちを確かめ合った。
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15 | | 「…おかわり」\k\n「っ、あ、あ…雪菜ぁ」\k\n「おかわりだってさ、かずさ」\k\n「あ、ああ…今よそってくる」\k\n「あ、大盛りでな」\k\n「わかってるよ!」\k\n
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16 | | だから今、バックバンドの女の子は、バックバンドの男の子のちょっと不親切でぶっきらぼうな褒め言葉に、こうして過敏なまでに反応してしまう。\k\n「ぷっ、ふふ…あはは」\k\n「…何がおかしいんだよ?」
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17 | | 「だって今、かずさの表情、何回変わったか見てた?」\k\n だから今、アイドルの女の子は、いそいそとカレー皿を抱えて部屋を出て行くバックバンドの女の子の過剰反応にこぼれる笑みを隠しきれない。\k\n「俺、なんかまずいことしたかな?」\k\n「ちょ~っと空気読んでなかったよねぇ。一口目ですぐおいしいって言ってあげればいいだけなのに」\k\n「けど市販のルーを使えば…いや、そうだな、ごめん」\k\n「まぁ、そのおかげで半泣きのかずさが見れたし、わたし的には全然OKだけどね」\k\n「…前から思ってたけど、雪菜って結構いい性格してるな」\k\n
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18 | | そんな流れで三人は、学園祭が終わったあともステージから下りることなく、ずっとあの夢のような時間を続けていた。\k\n 恋人同士の二人と、二人を結びつけたキューピッドの、三人のままで。
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19 | | 二時間後。\k\n
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20 | | 「いや、だから本当に美味かったって」\k\n「ああ、ジャブカレーは美味いよな。誰が作っても同じ味だしな」\k\n 夕食を食べ、休憩という名の雑談に花を咲かせ、そして勉強会に軌道修正しようとする春希をよそにグダグダのまま夜は更けて。\k\n
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21 | | 「三杯もおかわりしただろ。お前だって嬉しそうにしてたじゃん」\k\n「さっきは誤魔化されてたんだ。あんな誠意のこもってない適当な言葉に踊らされるなんて、あたしも安い女になったもんだ」\k\n 結局、勉強面においては大した成果もなく、けれど栄養面で大きく巻き返しつつ、戦利品のミカンとともに小木曽家を退出し。\k\n「だからぁ、そう食いつくなって…本当に嬉しかったんだってば」\k\n「あ~そうだよな、どんな風に作ってもお前の好きな市販の味に…」\k\n「俺の…『おふくろの味』ってやつだからさ」
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22 | | 「え…」\k\n 寒空の中、結局カレーを食べたときの反応に話は戻る。\k\n「月イチくらいは鍋に大量に作ってあってさ…自分で温めて食ったなぁ」\k\n「………」\k\n「いつもはできあいの総菜が適当にテーブルに並んでるだけなんだけど」\k\n「カレーだけは、曲がりなりにも母親が自分で作ってて…まぁ、とは言っても結局のところ市販のルーなんだけどさ」\k\n「朝も昼も晩も、一緒に食べることなんか全然なかったけど…」\k\n「それでも、ウチの台所がカレー臭くなってる日は、いつもに比べてほんのちょっとだけ嬉しかったんだよな」
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23 | | 「………」\k\n 春希が、今にも星が氷粒となって降り注ぎそうな寒空を見上げる。\k\n 天に向かって吐き出した息は白く舞い上がり、満天の星を雲のように覆い隠す。\k\n その表情は、確かに嬉しさと、懐かしさと、けれどほんの少しの寂しさをたたえ…\k\n「だから今日はさ、本当に…」\k\n「お前…」\k\n「ん?」\k\n「…今、また誤魔化そうとしただろ。適当な言い訳並べ立ててるだけだろ」\k\n「…あ、わかった?」\k\n …という態度が見せかけだということは、たった二週間とはいえもはや〝彼女〟の烙印を押されたかずさには通用しないようだった。
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24 | | 「そうやってイタい思い出話で逃げようとするな。あたしは母親の手料理なんてトーストですら食べたことがないぞ」\k\n「そりゃ…さすがの冬馬曜子だな」\k\n「前にも言っただろ、お前の過去なんて中途半端もいいとこだって。だいたい…」\k\n「あ、だったらさ」\k\n「何だよ」\k\n「今度は俺がカレー作ろうか?」\k\n「………………………はぁ?」\k\n だからかずさは春希のその申し出に対しても、どうせまた見せかけだろうという表情で怪訝そうに眉をつり上げはしたけれど…\k\n「今日のお礼でさ。テストの打ち上げの時とかさ」\k\n「………………………何、を」
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25 | | 「そりゃ、スパイス調合して作るのは無理だけど…そうだな、具の方を工夫してシーフードカレーに挑戦するとか」\k\n「カレーより………プリンがいい」\k\n 申し出を受けたときの、壮絶な反応遅れが既に負けフラグだった。\k\n「プリンの素を使っていいか? 牛乳入れて冷やして固めるだけのやつ」\k\n「その代わり三袋分だぞ。ボウル一杯に作るんだぞ?」\k\n「そんなことしたら型崩れするだろ…」\k\n「大丈夫だ、ボウルのままスプーンですくって食べるから」\k\n「…まさかとは思うが、お前、それを一度に食う気じゃないだろうな?」\k\n「お前だって今日カレー三杯食べたじゃないか。量的にはおあいこだ」\k\n「栄養の偏り的に全然違うだろ! 主に砂糖と乳脂肪!」
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26 | | だから二人は寒空の中、今度は数日後に対面するはずのご褒美のプリンに思いを馳せつつ、人通りのない住宅街を近所迷惑なほど賑やかに歩く。\k\n「………」\k\n「………」\k\n で、さらに三十五分後。\k\n 小木曽邸から末次町駅まで徒歩で十五分、そこから電車で岩津町駅まで十分、さらに歩いて十分。\k\n 住宅街の中、左側に白くて長い壁がずっと続く道を歩く頃には、いつの間にか二人の口数はめっきり減っていた。\k\n「………」\k\n「………」\k\n なぜならその白い壁は、とある世界的なピアニストの大邸宅を仕切る塀であり、つまり次の曲がり角を左に曲がればもう…
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27 | | 「…なんだよ」\k\n「い、いや…ごめん」\k\n と、あと数歩で、二人が並んで歩く理由がなくなってしまう間際になって…\k\n ものすごく恐縮した面持ちで、男の子が、ミカンの袋を持っていない方の手を、女の子のミカンの袋を持っていない方の手に絡めようとした。\k\n「なんで今、なんだよ」\k\n 女の子…かずさの、少し恨みがましい上目遣いの瞳が、淡い街灯の明かりに照らされて揺れながら輝く。\k\n その視線も言葉も、春希の突然の発情を責めているのか、それとも今まで我慢していた方こそを責めているのか、どちらとも取れるような微妙なものだった。
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28 | | 「嫌、か?」\k\n「ああ、嫌だ」\k\n「そ、そか、ごめ…」\k\n「お前に退かれるのが嫌だ」\k\n「え?」\k\n 短い言葉の応酬の間、二人の手は触れては離れ、離しては絡めを繰り返す。\k\n「あたしの手、女の子の手じゃないから」\k\n「あ…」\k\n「お前より、ほとんどの男より硬くてごつごつした指、してるんだ」\k\n 攻め込み、跳ね返し、躊躇し、翻し。\k\n「そんなの、退くもんか」\k\n「けど…」\k\n「だって、それが俺の師匠の手だ」
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29 | | 「っ…」\k\n そして男の子は、とうとうありったけの勇気を振り絞り、退路を断ち…\k\n やっと、女の子の言う通りのごつごつした指先に、きちんと自らの指を絡めた。\k\n「そういう努力の跡が好きなんだって…お前のピアノが好きなんだって、言っただろ」\k\n 本当に、硬かった。\k\n 付属に入学してから二年間、ずっとサボリ続けていても硬さを保つほど、子供の頃から鍛え上げられてきた…\k\n いや、もしかしたらサボっていたなんてのは口だけで、本当はピアノから離れることなんかできずにいた、意地と誇りに満ちた指先だったのかもしれなくて。\k\n「なんでそんな顔に似合わない恥ずかしい言葉が出てくるんだ。本当に痛い奴だな」
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30 | | 「二人きりなんだから、いいだろ?」\k\n「ただでさえ凍えそうなのに、寒い台詞まで聞かされたあたしの身にもなってみろ」\k\n「だからあったまろうぜ、こうして…」\k\n
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31 | | 「あ、こら…ぁ」\k\n 二人の手からミカンの袋がずり落ちて、解放されたもう片方の手も一緒に握りあう。\k\n 手のひらを合わせるだけでなく、指と指、一本ずつしっかりと絡めて。\k\n お互いしっかり向き合って、もう、歩くついでなんて言い訳もかなぐり捨てて。
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32 | | 「…お前が、こうしたいって言ったんだからな?」\k\n「うん」\k\n「全部お前が望んだことなんだからな?」\k\n「うん」\k\n「だから、だから…お前から離すことは許されないんだぞ?」\k\n「うん」\k\n「あたしが『離せ』って言うまで、ずっとこのまま繋いでいないといけないんだぞ?」\k\n「離さない、かずさ」\k\n「………春希ぃ」\k\n 二人が恋人同士となって二週間。\k\n 二人が、お互いを名前で呼び合うようになって、二週間。\k\n「…って言ってんのにさぁ、どうしてまだそんな目するんだよ」
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33 | | 冬馬かずさは、目つきの悪い女の子のままだった。\k\n「泣きそうな目、するんだよ…」\k\n「………」\k\n けれどそれは、今までの、全てを拒絶する孤独な狼の目ではなくて、例えれば、生まれて初めて[R与えられた餌^きんだんのかじつ]を口にしてしまった捨て犬の目というか…\k\n「俺たち、つきあってるんだぞ? 今、いちゃついてんだぞ?」\k\n「どうしてお前はいちいち言い回しが痛いんだ」\k\n「少しでもいいから笑って欲しいんだけどな」\k\n「そんなの…あたしの勝手だ」\k\n「けどさ」\k\n「いつお前を失うのか、いつ離ればなれになるのか、いつこの夢から覚めるのか…」\k\n「あ…」\k\n「ずっと、そんなことばかり考えてしまう、あたしの勝手だ」
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34 | | 「かずさ…」\k\n 冬馬かずさは、孤高ではなくなった。\k\n「春希はどこにも行かないよな?」\k\n けれど、臆病なままだった。\k\n「母さんみたいに、行ってしまわないよな…?」\k\n 人を好きになるのに躊躇する。\k\n 裏切られることばかりを想像する。\k\n そんな、相手を愛することを覚えたばかりの、過剰反応だらけの女の子、だった。\k\n「そうだな…目、閉じてくれたらな」\k\n「んっ」\k\n「…なんでそんな思いっきり目をつぶるんだよ?」\k\n「だって、だってさ………するんだろ?」\k\n「そりゃ、するけど」
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35 | | 「だったら早く…さっさと済ませろ」\k\n「なんでそんな雰囲気ぶち壊すようなことばっか言うんだよ」\k\n「だって、だってさぁ………は、恥ずかしいよっ」\k\n だけど、少しずつ…\k\n 本当に少しずつだけど、素直な自分を取り戻していく、今はまだその過渡期。\k\n「そういう裏返った声もいいな、お前…」\k\n「ば、馬鹿…ぁんっ、ん、んぅ…」\k\n 冬馬家の玄関まで、あとたったの二十歩ほど。\k\n さっさと家に入った方がずっと温まることを知っていて、でもかずさはもう動けない。\k\n
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36 | | ご主人さまの『待て』の魔法が解けるまでは。
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