White Album 2/Script/3002
| Speaker | Text | Comment | |||
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| Line # | JP | EN | JP | EN | |
| 1 | 武也 | Takeya | 「それじゃ、週明けから初の海外出張へと旅立つ 北原春希君の健康と無事と仕事の失敗を祈って…」 | ||
| 2 | 春希 | Haruki | 「おい」 | “Hey.”
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| 3 | 武也 | Takeya | 「生意気なんだよ一年目で海外出張なんて。 かんぱ~い!」 | “An overseas business trip is cheeky to do by your first year. Cheers!”
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| 4 | 全員 | All members | 「かんぱ~い!」 | “Cheers!”
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| 5 | 武也の、壮行会に相応しくない音頭とともに、 皆のグラスが一斉に傾けられた。 | “By Takeya, an unsuitable leader to the farewell party, everyone’s glass is tilted in unison.”
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| 6 | 金曜の夜… | “Friday night…”
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| 7 | 来週から出張だと言うことで、 奇跡的に早く帰らせてもらった俺は、 久々にいつものメンバーといつもの馬鹿話に興じる。 | ||||
| 8 | 雪菜 | Setsuna | 「ね、春希くん、なに頼む? わたし冷や奴と揚げ豆腐と豆腐サラダと…」 | ||
| 9 | 春希 | 「…冷や奴と揚げ餅とシーザーサラダにしないか?」 | |||
| 10 | もちろん、雪菜はいつも通り俺の隣に寄り添い。 | ||||
| 11 | 依緒 | 「あ、ほっけと串盛り合わせと牛肉コロッケよろしく。 ………っ、\k | |||
| 12 | 依緒 | と、生追加」 | |||
| 13 | 春希 | 「いきなりピッチ上げるな。 俺はお前のチキンレースには付き合わんからな」 | |||
| 14 | 依緒も、相変わらず慣れないヒールで駆けつけてくれた。 …って、こいつはそうやってすぐ走ろうとするから、 いつまで経ってもヒールと相性が悪いんだろうな。 | ||||
| 15 | 武也 | 「あんま飲み過ぎんなよ依緒。 もし意識を失ったら、目覚めた時 俺が隣で気怠げに煙草吸ってんぞ?」 | |||
| 16 | そして、すっかり落ち着いた… というか、意外なことに社会人が板についてる武也も、 当然のように俺との友情を続けてくれていた。 | ||||
| 17 | こんな、大学時代から… いや、付属時代から変わらない、俺たち四人… | ||||
| 18 | 朋 | 「北原さんわたしシャ○ルのバッグ! 後で型番メールするから間違えないでね?」 | |||
| 19 | 春希 | 「………日本にだって売ってるし通販でも買えるから」 | |||
| 20 | 武也 | 「…なんでお前がここにいるんだよ?」 | |||
| 21 | 朋 | 「あ、わたしウーロン茶おかわり。 あと、トマトスライスと海藻サラダ。 サラダはドレッシング抜きで」 | |||
| 22 | 依緒 | 「相変わらず人の話を聞かないコだよね…」 | |||
| 23 | …ちょっとだけ訂正。 | ||||
| 24 | こんな、大学時代から変わらない… そして、付属時代からちょっとだけ変わった、俺たち五人。 | ||||
| 25 | 朋 | 「いいじゃないですか、今日はめでたい日なんですから。 実はですねぇ、わたし先月… 土壇場でようやく東亜テレビに内定決まったんですよ~」 | |||
| 26 | 春希 | 「…マジ? キー局じゃないか」 | |||
| 27 | 雪菜 | 「…うん、マジみたい。 内定通知、10回くらい見せられたし」 | |||
| 28 | あのコンサート以来、 いつの間にか俺たちの輪の中に、 華やかで刺々しい薔薇が混じるようになっていた。 | ||||
| 29 | 武也 | 「意外と粘るな。 そろそろ脱ぐ頃だと思ってたんだけど」 | |||
| 30 | 依緒 | 「そもそもグラビアアイドルとかやってた人間を よく採用する気になったよねテレビ局が」 | |||
| 31 | 朋 | 「ま、そこは普段からたゆまぬ努力の賜と言いますか、 可能な限り人脈と弱みは握っておくに限ると言いますか」 | |||
| 32 | 柳原朋。 峰城大学商学部四回生。 | ||||
| 33 | 二年前のミス峰城は、今でもキャンパス内で、 その存在感をケバケバしいほどに示しているらしい。 | ||||
| 34 | 武也 | 「…その時の光景が目に浮かぶようだ」 | |||
| 35 | 依緒 | 「後でスキャンダルにならなきゃいいけど…」 | |||
| 36 | 朋 | 「スキャンダルも話題作りとして利用すればいいんです。 どうせ最終目標は早めに退社してフリーになって、 女優やアーティストとしても活躍することなんだし」 | |||
| 37 | 雪菜 | 「口ではこんなこと言ってるけど、 彼女、本当に死に物狂いで努力してたんだよ? ボイストレーニングも、英会話も、もちろん勉強も」 | |||
| 38 | 春希 | 「…信じがたいけど、そうらしいな」 | |||
| 39 | あれからも柳原朋は、相変わらず雪菜を弄ってた。 | ||||
| 40 | けれど、二人の奇妙な友情… というのかもわからない関係は、 雪菜が大学を卒業した今も続いている。 | ||||
| 41 | 小木曽家のホームパーティに何度も顔を出したり、 雪菜がレコード会社を希望していると知るや、 自分のコネを最大限に利用しようと走り回ったり。 | ||||
| 42 | 雪菜の歌に更に磨きをかけようと、 趣味半分の雪菜以上の本気をもって、 一緒にボイストレーニングに通ったり。 | ||||
| 43 | さらに今でも“あの歌”をメジャーに売り込もうと、 例の人脈とやらにデモCDを配ったりとかもしてるらしく、 その執念には雪菜も武也も呆れるばかりだとか。 | ||||
| 44 | …いつまで経っても、 いい奴なんだか悪い奴なんだかわからない、変な奴。 | ||||
| 45 | ……… | .........
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| 46 | 武也 | 「だからな、大学で勉強ばっかしてた奴らは 結局会社じゃ役に立たないんだよ」 | |||
| 47 | 雪菜 | 「そ、そうなの…かな?」 | |||
| 48 | 武也 | 「大学生ってのはさ、 遊ぶことによって社会と触れあってんだよ。 馬鹿やって人との付き合い方がわかってくんだよ」 | |||
| 49 | 朋 | 「まぁ、確かに飯塚先輩は 七年間馬鹿しかやってこなかったですけど」 | |||
| 50 | 武也 | 「…で、そうやってると、 自然と社会人としてのスキルが磨かれてくんだって。 研究に明け暮れてんなら大学に残った方がよっぽどいい」 | |||
| 51 | 依緒 | 「営業の視点だけ、それもたった半年かじっただけで、 そんなわかったようなこと言われてもねぇ」 | |||
| 52 | 武也 | 「いや基本どの仕事もおんなじだって。 やっぱ会社に属する以上、人とコミュニケーションが 取れてナンボってとこあるじゃん?」 | |||
| 53 | 依緒 | 「けどさぁ、春希は勉強しまくってたけど、 十分役に立ってるみたいじゃん?」 | |||
| 54 | 武也 | 「こいつはおかしいんだよ。突然変異」 | |||
| 55 | 春希 | 「酷い言われようだな、おい」 | |||
| 56 | 武也 | 「そもそもこんな根暗でオタクっぽい奴が、 大学一のアイドルとらぶらぶだって時点で、 何かおかしいってことに気づけよ」 | |||
| 57 | 依緒 | 「卑怯だぞ武也… それ言われたら論破のしようがないじゃないか」 | |||
| 58 | 春希 | 「…をい」 | |||
| 59 | 朋 | 「雪菜が大学一…ってのには、 やっぱりまだ異議を唱えたい自分がいるんですけど~」 | |||
| 60 | 雪菜 | 「みんなやだなぁ、恥ずかしいからやめてよ… 別に、アイドルとかそういうんじゃないよ、全然」 | |||
| 61 | 武也 | 「しかも“らぶらぶ”の方は照れないし…」 | |||
| 62 | 春希 | 「そういうのを恣意的報道と言うんだ。 もうちょっと公平な視点でものを見ろ。 使える社会人だって言うんなら」 | |||
| 63 | 雪菜 | 「もしかして春希くん照れてる?」 | |||
| 64 | 春希 | 「だから後ろから撃たないで雪菜…」 | |||
| 65 | 乾杯から1時間… | ||||
| 66 | お酒の注文を三度、四度と重ねるうち、 皆の口の方もかなり滑らかになってきて。 | ||||
| 67 | 俺たちは、昔と同じように、 真面目に、適当に、熱く、ゆるく騒ぎ合う。 | ||||
| 68 | それは、大学時代の馴れ合いの延長なのか、 それとも普段のストレスの発散なのか… | ||||
| 69 | 春希 | 「にしてもさ… 俺たちが飲み会の席で仕事の愚痴を言い合うなんてな」 | |||
| 70 | 雪菜 | 「五年前からじゃ想像もできなかったよね」 | |||
| 71 | 依緒 | 「あたしは一年前でも想像してなかったよ」 | |||
| 72 | 朋 | 「わたし正直、まだちょっとついていけてません」 | |||
| 73 | 武也 | 「そうか? そういうもんかな…」 | |||
| 74 | 春希 | 「ほら、特に武也。 お前、妙に語るようになったよなぁ。 仕事とか会社とか社会とか…」 | |||
| 75 | 依緒 | 「なんかダサい…」 | |||
| 76 | 武也 | 「ダサい人間嫌いかよ? 去年まではチャラい人間嫌いだって言ってたくせによ」 | |||
| 77 | 依緒 | 「え? あ、あぁ…ええと… あたしは…その時その時の武也の性格が 一番嫌いって言うか…」 | |||
| 78 | 武也 | 「あ~あ~そうですかそうですか。 どうすりゃいいんでしょうかね俺は~」 | |||
| 79 | 春希 | 「よせ、武也…」 | |||
| 80 | で、やっぱり乾杯から一時間ってことで… | ||||
| 81 | 五杯、六杯と重ねていくうちに、 普段ならさらりと流す相手の毒舌が、 どうしても癇に障ってしまったり… | ||||
| 82 | 依緒 | 「違うよ、春希。 …今のはあたしが悪い」 | |||
| 83 | 雪菜 | 「依緒…」 | |||
| 84 | 普段ならギャグっぽく言うべき言葉を、 ぼそりと本音っぽく呟いてしまったり、する。 | ||||
| 85 | 依緒 | 「あたしさ… 実はちょっと嫉妬してるんだ。みんなに」 | |||
| 86 | 春希 | 「お前、何を…」 | |||
| 87 | 依緒 | 「だってさ… 多分、仕事に対して本気で不満持ってるの、 この中じゃあたしだけだって気がするもん」 | |||
| 88 | 武也 | 「………」 | "........."
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| 89 | 依緒 | 「雪菜は会社でも、やっぱり看板背負ってる。 春希は最初から期待値が高くて、しかもそれに応えてる。 武也だって、大学時代からは信じられない高評価」 | |||
| 90 | 毎日、違う場所で過ごし、違う時間に生きて、 違う毎日を送ってる俺たちは… | ||||
| 91 | 『昔と同じように』ふざけ合うことなんて、 もう、二度とできないのかもしれない。 | ||||
| 92 | 依緒 | 「朋だって、前途洋々な未来が開けてさ… なんか、あたしだけ… あたしだけ」 | |||
| 93 | 朋 | 「水沢さん…」 | |||
| 94 | 依緒は…第一志望だった スポーツ用品メーカーに就職した。 | ||||
| 95 | 企画職を希望してたけど、なかなか競争率が高いらしく、 今は人事部で事務仕事に忙殺される毎日だとか。 | ||||
| 96 | つまり、それはきっと、 自らが思い描いた将来の姿とは少なからず離れてて… | ||||
| 97 | 依緒 | 「あ~あ、なんだかなぁ。 あたし、本当はこんなこと言うつもりなんか…」 | |||
| 98 | 武也 | 「嫌ならやめちまえ。 別にお前の進む道が一つだなんて決めた奴はいねぇだろ」 | |||
| 99 | 依緒 | 「…なんだって?」 | |||
| 100 | 春希 | 「だから、武也…」 | |||
| 101 | 武也 | 「自分から変えてやろうとかもしないくせに、 与えられたことに不満持ってぶちぶち…誰だよお前」 | |||
| 102 | けれど、そんな弱気な依緒を一番見たくない奴は、 間違いなくこの中にいるわけで。 | ||||
| 103 | 武也 | 「そうだ、なんなら結婚退職しちゃうか? お前の相手になってやってもいいって言う酔狂な奴も、 世界中でたった一人くらいならいるかも…」 | |||
| 104 | 依緒 | 「………黙れ」 | |||
| 105 | 雪菜 | 「い、依緒…」 | |||
| 106 | 依緒 | 「あたしのこと、武也にだけはとやかく言われたくない。 …世界中でたった一人、心底気にくわない奴からは」 | |||
| 107 | 武也 | 「………久々にやるかぁ?」 | |||
| 108 | 依緒 | 「………望むところだね」 | |||
| 109 | 春希 | 「あ~あ…」 | |||
| 110 | 場が、変なふうに盛り上がってしまった。 | ||||
| 111 | 二人は、昔とは違い、 真面目にふざけ、適当に戯言を飛ばし、 熱く罵り合い、ゆるく睨み合う。 | ||||
| 112 | 大学時代の馴れ合いでもなく、 普段のストレス発散でもなく。 | ||||
| 113 | きっとそれは、付属の頃よりも… 俺がまだ、二人と会うよりも前の… | ||||
| 114 | 雪菜 | 「は、春希くん…っ」 | |||
| 115 | 朋 | 「北原さん… なんとかしてくださいよ、あの二人…」 | |||
| 116 | 俺の両隣の二人が、殺伐とした場の空気に押され、 心細そうに俺の両袖を掴む。 | ||||
| 117 | だから俺は、 この不毛な争いに決着をつけるべく… | ||||
| 118 | 春希 | 「すいません、店員さん…」 | |||
| 119 | 店員 | 「はい、お伺いしま~す」 | |||
| 120 | 春希 | 「飲み物メニュー、いただけますか?」 | |||
| 121 | 雪菜&朋 | 「………え?」 | |||
| 122 | ……… | .........
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| 123 | …… | ......
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| 124 | … | ...
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| 125 | 武也 | 「よ~しそんじゃもう一軒行こうかもう一軒~! 今度こそ完全決着つけてやるからな~」 | |||
| 126 | 雪菜 | 「ちょ、ちょっと武也くん… しっかりして」 | |||
| 127 | 朋 | 「…ほんっとおっさんくさくなったなぁ飯塚さん。 これでネクタイ頭に巻いてたら完璧」 | |||
| 128 | 武也 | 「どこ行こっか雪菜ちゃん? 今度はもうちょっと静かに飲めるとこがいいかな~」 | |||
| 129 | 雪菜 | 「もう帰った方がいいって。 タクシーで家まで送ってあげるから」 | |||
| 130 | 武也 | 「何言ってんの? せっかくの週末じゃん。 俺たちの夜は、まだまだこれからだ…ってかぁ」 | |||
| 131 | 朋 | 「わたし、通りでタクシー捕まえてくるから、 雪菜はここでちょっと見てて…」 | |||
| 132 | 武也 | 「よし、そんじゃこうしよう。 二次会はカラオケってことで。 雪菜ちゃん、一人で歌いたいだけ歌っていいからさ」 | |||
| 133 | 雪菜 | 「………そ、そう? それじゃあ」 | |||
| 134 | 朋 | 「…何流されそうになってんのよ雪菜」 | |||
| 135 | 雪菜 | 「い、いい加減わたしだけ呼び捨てはやめてよ!」 | |||
| 136 | ……… | .........
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| 137 | 依緒 | 「…ごめん」 | |||
| 138 | 春希 | 「何が?」 | |||
| 139 | 依緒 | 「見苦しいとこ、見せちゃって…」 | |||
| 140 | 春希 | 「潰れてないだけマシだ。 [R武也^あのバカ]みたいに」 | |||
| 141 | とはいえ、潰したのは実質俺だけどな… | ||||
| 142 | 睨み合う二人が見せる、やるせない表情は、 笑って済ませられる雰囲気を超えていた。 …多分、揉め事の本題とは違う方向で。 | ||||
| 143 | だから俺は、二人の言葉での争いに、 無理やり水を…いや、酒を差した。 | ||||
| 144 | 俺の提示したルールに、ほっとしたように頷いた二人は、 次から次へとやって来るグラスを次から次へと空にした。 | ||||
| 145 | 厳格な審判は、決してピッチを上げることを許さず、 そして1時間にもわたる勝負の末… | ||||
| 146 | 結局、両者の腕が審判によって掲げられ、 そこで一次会はお開きになった。 | ||||
| 147 | 依緒 | 「最近、あいつとは結構あんな風になっちゃうんだよね。 だからなるべく二人では会わないようにしてるんだけど」 | |||
| 148 | 春希 | 「でも、あいつは会いたがってるんだろ? それも原因の一つなんじゃないのか?」 | |||
| 149 | 依緒 | 「…正直、戸惑ってるんだよ。 だってあいつ、変わっちゃったんだもん」 | |||
| 150 | 春希 | 「誰のために変わったのか、 本当はわかってるよな?」 | |||
| 151 | 依緒 | 「………」 | "........."
| ||
| 152 | 依緒の言う通り、武也は変わった。 | ||||
| 153 | 大学の時には 『○曜日の彼女』なんて言い方が通用するくらい、 多彩な女性関係を誇ってた。 | ||||
| 154 | それも、俺たち…特に[R誰かさん^いお]に見せつける意図が強く、 その件に関してだけは、誰もがあいつのことを 痛々しく見ていた部分があった。 | ||||
| 155 | けれど今、武也の回りに女の影は微塵もない。 | ||||
| 156 | それは本来、喜ぶべきことで… 俺たちも、今の武也の公私ともどもの頑張りぶりは、 心の底から応援してる。 | ||||
| 157 | 依緒 | 「誰のためかなんて知らない。 けど、誰のせいかってのは知ってる。 …春希のせいだよ」 | |||
| 158 | 春希 | 「“せい”って…」 | |||
| 159 | 仲間うちの、ただ一人を除いて。 | ||||
| 160 | 依緒 | 「春希がさ、自分の三年越しの想いを… そして、雪菜の三年越しの想いを実らせちゃったから」 | |||
| 161 | 春希 | 「“ちゃった”って…」 | |||
| 162 | 依緒 | 「だからさぁ… な~んか、変な影響受けちゃったみたいなんだよねぇ」 | |||
| 163 | 春希 | 「それって…俺が悪いって言うのか?」 | |||
| 164 | 依緒 | 「ううん、悪くない。 むしろあたしだって、とっても嬉しかった。 …ずっと雪菜の側で、あの子の涙、見てきたからね」 | |||
| 165 | 春希 | 「………」 | "........."
| ||
| 166 | 依緒 | 「けどさぁ…まさかこんなふうに、 武也が、あたしたちのケースに当てはめようとするなんて、 思いもしなかったんだよねぇ」 | |||
| 167 | 武也と依緒は、知り合ってもう10年になる。 | ||||
| 168 | 依緒 | 「あのさ… あたしたちが春希と知り合う前に、 あたしがあいつに何したか知ってる?」 | |||
| 169 | 春希 | 「ああ… 親友、だから」 | |||
| 170 | 依緒 | 「そっか… なら、あたしがためらうのも少しはわかるよね?」 | |||
| 171 | 春希 | 「………」 | "........."
| ||
| 172 | 依緒 | 「あんたなら…わかるよね。 雪菜のこと、三年も避け続けたあんたなら」 | |||
| 173 | 俺が武也と知り合ったとき、 二人はとっくに腐れ縁だった。 | ||||
| 174 | 春希 | 「武也のこと…嫌いか?」 | |||
| 175 | 依緒 | 「嫌いな奴と10年一緒にいるほど、 あたしは自分の人生を捨ててない」 | |||
| 176 | 春希 | 「そう、か」 | |||
| 177 | つまり、俺と雪菜なんかよりよっぽど歴史のある、 由緒正しい腐れ縁なんだ。 | ||||
| 178 | 雪菜 | 「ねぇ、春希く~ん!」 | |||
| 179 | 春希 | 「なんだ~?」 | |||
| 180 | 雪菜 | 「あのさぁ、 こっち多数決でカラオケって流れになってるんだけど、 そっちの二票はどうかなぁ?」 | |||
| 181 | 春希 | 「………だってよ」 | |||
| 182 | 依緒 | 「………」 | "........."
| ||
| 183 | 春希 | 「勝手にしろ~!」 | |||
| 184 | 雪菜 | 「りょうか~い! 今からお店押さえてきま~す!」 | |||
| 185 | 朋 | 「行くのは構わないけどさぁ、 せめて雪菜が5曲入れる間に1曲くらいは歌わせてよ?」 | |||
| 186 | 雪菜 | 「デュエットしようよデュエット! あと、コーラス入れてくれてもいいし」 | |||
| 187 | 朋 | 「…自分が遠慮するという選択肢はないのね」 | |||
| 188 | 依緒 | 「…ねぇ、春希」 | |||
| 189 | 春希 | 「ん?」 | |||
| 190 | 大きく手を振る雪菜に、苦笑混じりで振り返しながら、 また、依緒がぽつりと呟く。 | ||||
| 191 | 依緒 | 「あんたは、これからどうするの? 雪菜とのこと…どうするつもり?」 | |||
| 192 | 春希 | 「…今さらそんなこと聞くのかよ?」 | |||
| 193 | それも結構、核心中の核心を。 | ||||
| 194 | 依緒 | 「きっと、あんたらがもう一つ先に進んだら、 決定的な結論を出したらさ… 武也は、今よりもっと決意を固めると思うんだ」 | |||
| 195 | 春希 | 「ん…」 | |||
| 196 | 依緒の、武也に関する認識は、 傲慢なほどに揺るぎない。 | ||||
| 197 | けどそれは、今のこの二人を見ていたら、 誰もが一時間で辿り着く結論でもあったりして。 | ||||
| 198 | 依緒 | 「そしたらさ… あたしの方も、そろそろ腹くくらなくちゃ…」 | |||
| 199 | 春希 | 「え…?」 | |||
| 200 | 依緒 | 「ね、春希」 | |||
| 201 | そして今、依緒は… | ||||
| 202 | 誰もが結構見抜けなかった結論を、 さらりと口に出したような気がしないでもなかった。 | ||||
| 203 | 依緒 | 「あんたは…いつ、決心するの?」 | |||
| 204 | 春希 | 「………」 | "........."
| ||
| 205 | 決心…か。 | ||||
| 206 | 依緒 | 「あれから二年、だよね。 もう、完全に独り立ちできてるよね。 雪菜…待ってるよね?」 | |||
| 207 | 決心なんて… そんなの、とっくの昔にできてる。 | ||||
| 208 | 後はタイミングだけ。 ただ、それだけなんだ。 | ||||
| 209 | 春希 | 「依緒、俺は…」 | |||
| 210 | 依緒 | 「クリスマスにヨーロッパかぁ… いいよねぇ、あんたたちはロマンチックで。 あたし、有海誘われてんだよ。定番過ぎない?」 | |||
| 211 | 春希 | 「………それはヤバかったな。 出張がなければ俺たちも有海だった」 | |||
| 212 | 依緒 | 「勘弁してよあんたたち…」 | |||
| 213 | 春希 | 「しょうがないだろ。 あいつ、俺のそっち方面の師匠でもあるんだから」 | |||
| 214 | そっか。 『クリスマスにヨーロッパ』か… | ||||
| 215 | つまりその“タイミング”ってのは… | ||||
| 216 | すぐそこにまで、迫ってきてるって、こと。 | ||||