Clannad:SEEN6800/2

From Baka-Tsuki
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<4988> *
// 夕飯をいただくと、今日も早めに帰宅する。
<4989> *
// 明日からはまた仕事だった。
<4990> \{渚} *
// \{渚}「四人で海なんて、とても素敵です。楽しみです」
<4991> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「俺はちょっと悔しいよ。先に計画を立てたかった」
<4992> \{渚} *
// \{渚}「でも、\m{B}くん、忙しかったです」
<4993> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「考えるなんていつだってできるからな…これじゃ単なる甲斐性ナシだよ」
<4994> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「とりあえず、夏休みが始まったらプールに行こう」
<4995> \{渚} *
// \{渚}「はい、構わないですけど、どうしてですか?」
<4996> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「あのふたりに見られる前に、先に見ておきたいんだよ」
<4997> \{渚} *
// \{渚}「何をですか?」
<4998> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「おまえの水着姿」
<4999> \{渚} *
// \{渚}「え…」
<5000> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ふたりで選んだ新しい水着だしさ」
<5001> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「とにかく、まずは俺が独り占め」
<5002> \{渚} *
// \{渚}「はい…わかりました」
<5003> \{渚} *
// \{渚}「ちょっと大胆なので、恥ずかしいですけど…」
<5004> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「大胆って、あんなの普通だろ?」
<5005> \{渚} *
// \{渚}「お腹とか、見せてしまいます」
<5006> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「そりゃ、水着だからな」
<5007> \{渚} *
// \{渚}「はい、でも、勇気を出して着たいです」
<5008> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くんに見てもらいたいです」
<5009> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ああ、楽しみにしてるよ」
<5010> \{渚} *
// \{渚}「はい」
<5011> *
// 照れ笑いする渚を見て思う。
<5012> *
// 本当に…いいことが続いている。
<5013> *
// 働き始めた頃は、あんなに辛かったけど…
<5014> *
// でも、それを乗り越えれば、こんな日々が待っているんだ。
<5015> \{渚} *
// \{渚}「ところで…それはなんですか」
<5016> *
// 渚が俺の胸元を見て、訊いていた。
<5017> *
// そこに俺は、紙袋を抱いていた。
<5018> *
// 中身は…オッサンからもらったエロ本数冊。
<5019> \{渚} *
// \{渚}「預かり物ですか?」
<5020> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「いや、なんていうか…私物」
<5021> \{渚} *
// \{渚}「実家に忘れたままだったんですか?」
<5022> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ま、そんなとこ」
<5023> \{渚} *
// \{渚}「なんですか。ちょっと気になります」
<5024> *
// 女の勘なのか…やけに食いついてくる。
<5025> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「雑誌だよ。捨ててもいいんだけどな…一応」
<5026> \{渚} *
// \{渚}「なんの雑誌ですか?」
<5027> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ええと…車とかバイクとかの」
<5028> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「おまえ、興味ないだろ?」
<5029> \{渚} *
// \{渚}「はい、ないですけど…」
<5030> \{渚} *
// \{渚}「でも、\m{B}くんが好きなら、わたしも好きになるようにしたいです」
<5031> \{渚} *
// \{渚}「そうしたほうが、たくさんお話できます」
<5032> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「無理しなくてもいいって」
<5033> \{渚} *
// \{渚}「無理じゃないです。そうしたいんです」
<5034> \{渚} *
// \{渚}「帰ったら、ちょっと読んでみたいです」
<5035> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「そ、そうか…うーん、どうしような…」
<5036> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くん、なんだか困った顔です」
<5037> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「え?  そうか…?」
<5038> *
// このまま持って帰ったら間違いなく、ばれる…。
<5039> *
// オッサンには悪いが、どこかで捨ててしまわないと…。
<5040> \{渚} *
// \{渚}「何か探してるんですか?  さっきから、きょろきょろしてます」
<5041> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「いや…何も」
<5042> *
// 捨てる隙がなかった…。
<5043> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くん、先にシャワー浴びてきてください」
<5044> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「後でいい」
<5045> \{渚} *
// \{渚}「いつも、\m{B}くんが先です」
<5046> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「今日は後がいい」
<5047> \{渚} *
// \{渚}「………」
<5048> *
// じっと、見つめられる。
<5049> *
// にこっと笑ってみる。
<5050> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くん、ヘンです」
<5051> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5052> \{渚} *
// \{渚}「その雑誌ですか」
<5053> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}(完璧に感づかれてる…)
<5054> \{渚} *
// \{渚}「わたしが見たら、いけない雑誌なんですか」
<5055> \{渚} *
// \{渚}「いけないって言うんなら見ないです」
<5056> \{渚} *
// \{渚}「でも、その…隠し事とかは、いけないと思います」
<5057> \{渚} *
// \{渚}「わたし、\m{B}くんに何も隠してないです」
<5058> *
// ああ…胸が苦しい。
<5059> *
// そんなふうに責められると、もう無抵抗になってしまう。
<5060> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ごめん…」
<5061> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「エ…\pエロ本です」
<5062> *
// がくっ、と膝を床について、うなだれる。
<5063> \{渚} *
// \{渚}「エッチな本ですか」
<5064> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「はい、エッチな本です」
<5065> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くん、見たかったんですか」
<5066> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「そりゃ男だからね…」
<5067> \{渚} *
// \{渚}「そうですか…」
<5068> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5069> \{渚} *
// \{渚}「ちょっと、ショックです」
<5070> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ああ、悪かったよ…」
<5071> \{渚} *
// \{渚}「可愛い子がいたんでしょうか…」
<5072> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「いや、まだ見てないから、知らないけど」
<5073> \{渚} *
// \{渚}「じゃ、いるかもしれないから、見るんですか…」
<5074> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ま、そうなるかな…」
<5075> \{渚} *
// \{渚}「それは…他の女の子のほうがいいという意味でしょうか…」
<5076> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「え?」
<5077> *
// まさか、こいつは…雑誌の女の子に嫉妬してるのだろうか。
<5078> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「違うぞ、渚。俺はいつだって、おまえが一番」
<5079> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「いや、一番というか、好きなのはおまえだけ」
<5080> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「他の女になんか、好きなんて感情すら抱かないって」
<5081> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「これは本当」
<5082> \{渚} *
// \{渚}「ありがとうございます…」
<5083> \{渚} *
// \{渚}「じゃあ、\m{B}くん…わたしのせいで、他の人のを見たくなるんでしょうか…」
<5084> \{渚} *
// \{渚}「また、わたし、\m{B}くんを我慢させてしまってたんでしょうか…」
<5085> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「いや…まぁ…そういうことに…なるのかな…」
<5086> \{渚} *
// \{渚}「ちゃんと言ってほしいです」
<5087> \{渚} *
// \{渚}「言ってくれたら…」
<5088> \{渚} *
// \{渚}「………」
<5089> *
// …ごくり。
<5090> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5091> \{渚} *
// \{渚}「テレビ見ましょう」
<5092> *
// ずるぅ!
<5093> *
// 思わず足を滑らせてしまう。
<5094> \{渚} *
// \{渚}「ニュース見ないとダメです」
<5095> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}(一番重要な部分を言わずに、こいつは…)
<5096> *
// 強引に話を逸らせた渚に、意地悪をしたくなってきた。
<5097> *
// 壁にもたれて座ると、おもむろに紙袋の中身を取りだし、表紙を吟味し始める。
<5098> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「うーん、渚より可愛い子はいないな…」
<5099> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「でも、仕方がない。こいつらで我慢するか…」
<5100> *
// 一冊だけを手元に残し、ページをめくり始める。
<5101> *
// ………。
<5102> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くん…」
<5103> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「うん?」
<5104> *
// 渚がじっとこちらを見ていた。
<5105> \{渚} *
// \{渚}「そんなの、見てほしくないです…」
<5106> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ああ…俺も、好きで見てるわけじゃない」
<5107> \{渚} *
// \{渚}「じゃあ、ちゃんと言ってほしいです…」
<5108> \{渚} *
// \{渚}「言ってくれたら…」
<5109> \{渚} *
// \{渚}「………」
<5110> \{渚} *
// \{渚}「ちょっとだけなら…わたしの見てもいいです」
<5111> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}(うわー…)
<5112> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}(言わせてしまったよ…)
<5113> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}(俺ってひどい男だ…)
<5114> *
// 見たいと言う
<5115> *
// ここらでやめとく
<5116> *
// ごくん…。
<5117> *
// 唾を飲んで…意を決す。
<5118> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「渚のが…\p見たい」
<5119> \{渚} *
// \{渚}「………」
<5120> \{渚} *
// \{渚}「はい…」
<5121> \{渚} *
// \{渚}「見てください…」
<5122> *
// 間が長くなる。
<5123> \{渚} *
// \{渚}「えっと…」
<5124> \{渚} *
// \{渚}「下着でいいですか…」
<5125> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「え?  下着だけ?」
<5126> \{渚} *
// \{渚}「えっ…その下もですか…」
<5127> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「だって、こっちの人たち、ぜんぶ脱いでるし…」
<5128> *
// …なんて意地悪なことを言っているんだ、俺は。
<5129> \{渚} *
// \{渚}「じゃあ…」
<5130> \{渚} *
// \{渚}「ちょっとだけです、一瞬です…」
<5131> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「えっと…どこを…?」
<5132> \{渚} *
// \{渚}「…胸ですけど…ダメですか…」
<5133> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5134> \{渚} *
// \{渚}「えっ、下ですかっ…」
<5135> \{渚} *
// \{渚}「下は絶対にダメです…」
<5136> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「あ、いや、胸でいい。それで十分」
<5137> \{渚} *
// \{渚}「はい…」
<5138> \{渚} *
// \{渚}「それでは、どうぞ…」
<5139> *
// 渚が上着の裾をたくし上げる。
<5140> \{渚} *
// \{渚}「あ…お腹、見えちゃってます…」
<5141> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「そりゃ見えるだろ…」
<5142> *
// 初めて見る渚のお腹。
<5143> *
// 痩せすぎでも、太りすぎでもない、ほどよい肉感。
<5144> *
// 触って確かめたいほどに、肌が綺麗だった。
<5145> *
// さらに、するすると裾が上がっていく。
<5146> *
// その下から双丘を包む白い下着が顔を覗かせた。
<5147> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}(ああ、すげぇ…なんか感動…)
<5148> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}(大きくないけど…好みの大きさっつーか…)
<5149> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くん…」
<5150> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「え?」
<5151> *
// 渚はたくし上げた服の裾を胸の上で押さえたままでいた。
<5152> \{渚} *
// \{渚}「こうしてるので…」
<5153> \{渚} *
// \{渚}「そっと…\pめくって…見てください」
<5154> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「いいのか?」
<5155> \{渚} *
// \{渚}「はい…」
<5156> \{渚} *
// \{渚}「でも…ちょっとだけです…\pじっくり見たらダメです…」
<5157> \{渚} *
// \{渚}「見えたら、すぐおろしてください…」
<5158> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ええと…\pどこまで見ていいの?」
<5159> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くんが見たいところまでですっ…」
<5160> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「了解…」
<5161> *
// あまりに甘美的な状況…。
<5162> *
// 俺は今から、渚が他のどんな男にも見せたことがない部分を見ようとしている…。
<5163> *
// それは俺のために…渚が見せてくれるものだった。
<5164> *
// 腕を伸ばして、ブラの裾を指で摘んだ。
<5165> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}(結構キツイんだな…)
<5166> *
// 力を込めて…ゆっくりと、めくりあげていく。
<5167> *
// 渚は…目を固く瞑って、この状況を耐えていた。
<5168> *
// さらに…掴んだ部分を持ち上げる。
<5169> *
// 3分の1ほどが…外気に触れた。
<5170> *
// アンダーバストというのだろうか…ぷくりとした膨らみ。
<5171> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}(すげぇ…可愛い…そして、いやらしい…)
<5172> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くん…\p長すぎです…」
<5173> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「いや、まだ、見えてないって…」
<5174> \{渚} *
// \{渚}「嘘です…すごく見えちゃってます…」
<5175> \{渚} *
// \{渚}「もう…終わりですっ」
<5176> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「…え?」
<5177> *
// すっと、渚が体を引いた。
<5178> \{渚} *
// \{渚}「はい、お仕舞いですっ」
<5179> *
// ぱんぱん、と直した服の裾を叩いていた。
<5180> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5181> *
// 俺は、下着をめくろうとする情けない格好のまま、固まっていた。
<5182> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}(嘘だろ…まだ見てないのに…)
<5183> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くん、これで、エッチな本見なくてもいいです」
<5184> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}(見てないのに…)
<5185> *
// でも、あれだけのことをさせたんだからな…。
<5186> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}(くそぅ…)
<5187> *
// 俺はオッサンからもらった本を、渋々ゴミ箱に突っ込んだ。
<5188> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くん、素直です」
<5189> *
// …褒められたよ。
<5190> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「冗談」
<5191> *
// 言って俺は本を紙袋の中に戻し、入念に口を折って封をした。
<5192> *
// そして、テレビのブラウン管に目を移す。
<5193> \{渚} *
// \{渚}「冗談って、どういう意味ですか…」
<5194> \{渚} *
// \{渚}「その…」
<5195> \{渚} *
// \{渚}「わたし、からかわれてたんでしょうか…」
<5196> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「いや、途中まで真剣だったけど、なんかおまえをいじめてるみたいになってきたから、やめた」
<5197> \{渚} *
// \{渚}「そんなことないです…わたし、そんなふうに思ってないです」
<5198> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くんのためだったら、その…恥ずかしくても…」
<5199> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「いや、こんな手使って見せてもらっても、自分が嫌になるだけだ」
<5200> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「また、自然にそうなった時に、な」
<5201> \{渚} *
// \{渚}「………」
<5202> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「それに、もう、この本も捨てるし」
<5203> \{渚} *
// \{渚}「本当ですか?」
<5204> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ああ」
<5205> \{渚} *
// \{渚}「…よかったです」
<5206> *
// 安堵の息をついた後、座り直してテレビに目を向けた。
<5207> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}(本当にグラビアの子相手に妬いてたんだな、こいつは…)
<5208> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}(純真な奴め…)
<5209> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}(ま…可愛い反応も見れたし…)
<5210> *
// 本の入った紙袋をそのまま、ゴミ箱に突っ込む。
<5211> \{渚} *
// \{渚}「あ…」
<5212> *
// 渚がその様子を見て、声をあげていた。
<5213> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「いいんだって。ほら、テレビ見ようぜ」
<5214> \{渚} *
// \{渚}「はい」
<5215> *
// ふたり寄り添うようにして、座り直す。
<5216> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くん、やっぱり優しいです」
<5217> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「んなことないけどさ…」
<5218> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くんのそういうところ、すごく好きです」
<5219> \{渚} *
// \{渚}「えへへ…」
<5220> *
// 俺が全部悪いのに、そんなことを言われると本当に自分が嫌な奴に思えてしまう。
<5221> *
// 猛省…。
<5222> *
// 夏休みが始まった。
<5223> *
// 去年までは、俺にも当然のようにあったものだったのに、突然それはなくなっていた。
<5224> *
// そして、それは二度と訪れないものだった。
<5225> *
// 長い休暇なんて、あるとしたら、もう老後にしかない。
<5226> *
// それまで、俺はずっと働き続けるのだろう。
<5227> *
// 本当に、子供のように遊んでいられる時間は終わってしまったのだ。
<5228> *
// そのことを今更になって、痛感していた。
<5229> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ずっと家で待ってんのも、暇だろ。好きなことしてろよ」
<5230> \{渚} *
// \{渚}「ウチの学校、宿題が多いですから、そんなに遊んでるわけにもいかないです」
<5231> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「宿題やるんなら、実家帰れよ。涼しいだろ」
<5232> \{渚} *
// \{渚}「いえ、この部屋でやります」
<5233> *
// 今は陽が暮れてしばらく経っていたからマシだったが、日中この部屋はうだるような暑さになる。
<5234> *
// ふたりで過ごす休日は、出払っていることが多いので、俺はそう経験することもないが、渚は違う。
<5235> *
// これから毎日のように、その暑さの中で過ごすことになるのだ。
<5236> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「クーラー…買ってもいい?」
<5237> \{渚} *
// \{渚}「いらないです」
<5238> *
// 強情だ…。
<5239> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「そんなに高くなくて、あると思うけどな…」
<5240> \{渚} *
// \{渚}「冷房の風は、あんまり体によくないです」
<5241> \{渚} *
// \{渚}「扇風機の風が、いいです」
<5242> *
// そう言われると、強引に押しきることもできなくなる。
<5243> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ひとつ言っておくけどさ…」
<5244> \{渚} *
// \{渚}「はい」
<5245> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「俺のためを思って、無理しすぎんなよ」
<5246> \{渚} *
// \{渚}「こんなこと、ぜんぜん平気です」
<5247> \{渚} *
// \{渚}「実家に帰ってろと言われたほうが、つらいです」
<5248> \{渚} *
// \{渚}「この部屋で\m{B}くんの帰りを待って、いろんなこと考えて…」
<5249> \{渚} *
// \{渚}「今日の夕飯は何を作ろう、とか…」
<5250> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くん、前は何をおいしそうに食べてたっけ、とか…」
<5251> \{渚} *
// \{渚}「そういうの、すごく楽しくて、幸せです」
<5252> \{渚} *
// \{渚}「それをダメって言われると、悲しいです」
<5253> \{渚} *
// \{渚}「だって、ここは…」
<5254> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くんとわたしの家です」
<5255> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5256> *
// そうか…。
<5257> *
// 俺のほうが、よっぽど、軽薄だった…。
<5258> *
// あの日、ふたりで生活を始めた日から…
<5259> *
// この場所は、アパートの一室ではなく…俺たちの家だったはずだ。
<5260> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ああ…そうだな」
<5261> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「でも、体壊したら元も子もないからな。それだけは念頭に置いてくれよ」
<5262> \{渚} *
// \{渚}「はい」
<5263> *
// 今度は素直に頷いてくれた。
<5264> *
// 去年の夏は、渚はずっと、寝込んでいた。
<5265> *
// だから、渚の夏服姿を見ているだけでも、嬉しい気持ちになる。
<5266> *
// 夏休みに入って、最初の土曜日。約束通り、渚を連れて市営プールへと出かけた。
<5267> *
// ものすごい人の数でいきなり面食らってしまったけど、それも直に慣れてしまう。
<5268> *
// 数時間後には、その混雑の中で、恥じらいもなくはしゃぐ俺たちの姿があった。
<5269> *
// 俺の知り合いには会わなかったけど、古河パンの常連客が子連れで来ていて、渚が何度も水着姿を冷やかされていた。
<5270> *
// 俺はその隣で笑っていた。
<5271> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くん、見た目も優しくなった気がします」
<5272> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「え…そうか?」
<5273> \{渚} *
// \{渚}「はい。わたしが他の人に話しかけられていた時も、ずっと笑ってました」
<5274> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「そりゃ、自分の彼女がいろんな人に可愛い可愛い言われてたら、頬も緩むだろ」
<5275> \{渚} *
// \{渚}「でも、昔だったら、\m{B}くん、違ってたと思います」
<5276> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「どうしてたかな」
<5277> \{渚} *
// \{渚}「…ちょっと離れて、立ってただけだと思います」
<5278> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5279> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「…そうかもな」
<5280> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「知らない人と一緒に笑い合うなんてしなかったかもな…」
<5281> *
// その時の俺はきっと、こう考えていただろう。
<5282> *
// うぜぇ…と。
<5283> *
// あの頃は他人のちょっかいや、おせっかいが、ただただ鬱陶しかった。
<5284> *
// 人の繋がりが、鬱陶しかった。
<5285> *
// 今は、そうじゃなくなっているとしたら…
<5286> *
// 渚から始まった人との繋がりの中で、俺も知っていったのだろうか。
<5287> *
// そんなに悪いものじゃないということを。
<5288> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くん」
<5289> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「あん?」
<5290> \{渚} *
// \{渚}「手、つないでいいですか」
<5291> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「あ、ああ」
<5292> *
// もうなんだっていい。
<5293> *
// 自分に笑えた。
<5294> *
// 朝礼で、親方からお盆休みについての話があった。
<5295> *
// 全員、三連休をとることができた。
<5296> *
// 学生の頃に比べると、あまりに短い休みだったけど、それでも今の俺には十分だった。
<5297> \{芳野} *
// \{芳野}「おまえはどうするんだ?」
<5298> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ちゃんと、予定あります」
<5299> \{芳野} *
// \{芳野}「彼女と旅行にでもいくのか」
<5300> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「海にいきます」
<5301> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「彼女だけじゃなくて、彼女と家族と一緒に」
<5302> \{芳野} *
// \{芳野}「ほぅ、家族ぐるみで付き合いがあるのか。今時珍しい」
<5303> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「芳野さんは、どうするんですか」
<5304> \{芳野} *
// \{芳野}「俺か…どうするだろうな」
<5305> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「彼女とどっか行かないんですか」
<5306> *
// 居るのかどうかも知らなかったけど、そう訊いてみた。
<5307> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「彼女とどっか行かないんですか」
<5308> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「伊吹さんとどっか行かないんですか」
<5309> \{芳野} *
// \{芳野}「そうだな…そうできたらいいな」
<5310> *
// それだけを言って、先に事務所を後にする。
<5311> *
// 芳野さんなりの照れ隠しなのだろうか。
<5312> *
// 俺も、出遅れないように後を追った。
<5313> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ただいま」
<5314> \{渚} *
// \{渚}「おかえりなさいです」
<5315> *
// 渚はこの暑い中、火の前に立っていた。
<5316> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くん、先にシャワー浴びますか」
<5317> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ああ、そうだな…今日もすげぇ暑かったし…」
<5318> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「つーか、おまえも、汗かいてる」
<5319> *
// 額やこめかみに、びっしり汗の粒が浮かんでいた。
<5320> \{渚} *
// \{渚}「平気です」
<5321> *
// 両手が塞がっていて、拭うこともできないらしい。
<5322> *
// 俺はハンカチを取り出し、汗を拭ってやる。
<5323> \{渚} *
// \{渚}「ありがとうございます」
<5324> \{渚} *
// \{渚}「これ、かき混ぜ続けないと焦げてしまうんです」
<5325> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「じゃ、こんなことされても、手は止めちゃいけないな」
<5326> \{渚} *
// \{渚}「え…?」
<5327> *
// 俺は渚の体を背後から抱きしめる。
<5328> \{渚} *
// \{渚}「あ…はい…手、止められないです…」
<5329> *
// さらに、汗で湿った頬に自分の頬を擦りつけた。
<5330> \{渚} *
// \{渚}「ああ、揺れます…」
<5331> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「じゃ、じっとしてる」
<5332> \{渚} *
// \{渚}「いえ、もう、そろそろできます」
<5333> *
// コンロの火を止めた。
<5334> \{渚} *
// \{渚}「はい…これで危なくないです…どうしてもらってもいいです」
<5335> *
// 女の子に『どうしてもらってもいい』なんて言われると否が応でも興奮してしまう…。
<5336> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「じゃ…こっち向いてくれる?」
<5337> \{渚} *
// \{渚}「はい」
<5338> *
// 弛めた腕の中で、渚が半回転する。
<5339> *
// その渚をぎゅっと抱きしめる。汗ばんだ体が合わさった。
<5340> \{渚} *
// \{渚}「シャワー浴びてからでなくて、よかったですか…」
<5341> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「どうせまた汗かくし」
<5342> \{渚} *
// \{渚}「じゃ…」
<5343> *
// 渚から、抱く腕に力を入れてくれる。
<5344> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「渚…」
<5345> \{渚} *
// \{渚}「はい、\m{B}くん…」
<5346> *
// 上体だけを離し、見つめ合う。
<5347> *
// 可愛い唇。
<5348> *
// 渚も、それと気づいたのだろう。目を閉じて…口を差し出してきた。
<5349> *
// 俺も口を寄せる。
<5350> *
// プルルルルル…
<5351> *
// 合わさる寸前で、電話が鳴り始めた。
<5352> \{渚} *
// \{渚}「あ…電話です」
<5353> \{渚} *
// \{渚}「ちょっと出てきます」
<5354> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「あ、ああ…」
<5355> *
// 無視しておいても、また後でかかってくるだろうに…。
<5356> *
// 俺は渋々、渚の体を解放した。
<5357> *
// 渚は電話の前で膝をつき、受話器を取った。
<5358> \{渚} *
// \{渚}「はい…あ、はい、そうです」
<5359> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くん」
<5360> *
// 受話器を手で押さえて渚がこっちを見た。
<5361> \{渚} *
// \{渚}「木下さん、という男性の方です」
<5362> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「え?  俺?」
<5363> \{渚} *
// \{渚}「はい」
<5364> *
// 木下…\p誰だっただろうか。
<5365> *
// 思い出せないまま、受話器を受け取った。
<5366> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「はい、代わりました」
<5367> \{声} *
// \{声}『\m{B}くんかいっ?』
<5368> *
// 年輩の声。すぐ親父の昔の仕事仲間だと思い出す。
<5369> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「はい、そうですけど」
<5370> \{木下} *
// \{木下}『あんたの親父さん…捕まっちゃったよ』
<5371> *
// ……え?
<5372> \{木下} *
// \{木下}『やばいもの取引してたんだってさ…』
<5373> *
// …なんて?
<5374> \{木下} *
// \{木下}『\m{B}くん、聞こえてる?』
<5375> *
// …なにが?
<5376> *
// …どうしたって?
<5377> *
// …何も理解できない。
<5378> *
// …どうしてだ?
<5379> \{木下} *
// \{木下}『\m{B}くんってばっ、あんたの親父さん、警察に捕まっちまったって、そう言ってるんだよ?』
<5380> *
// 親父が…
<5381> *
// どうしたって?
<5382> *
// ああ…わからない。
<5383> *
// 何も理解できない。
<5384> *
// 俺はいつから、こんなに馬鹿になってしまったんだ…。
<5385> \{木下} *
// \{木下}『さっきの子に代わってくれよ、話しておくから』
<5386> \{木下} *
// \{木下}『ね、ほら、彼女に代わろう』
<5387> \{木下} *
// \{木下}『\m{B}くんには後で、落ち着いてから話をしてもらうように言っておくからさ』
<5388> *
// 俺は、受話器から手を離す。床に落ちた。
<5389> *
// それを慌てて拾い上げる渚の姿を、ぼーっと見ていた。
<5390> *
// 小さな町だったから、噂が回るのは早かった。
<5391> *
// 数日後には俺は親方に呼び出され…
<5392> *
// 悪いが、就職の話はなかったことにしてくれ、と言われた。
<5393> \{親方} *
// \{親方}「誰も、\m{A}くんが悪いなんて思っていないよ」
<5394> \{親方} *
// \{親方}「ここでは今まで通り、働いてくれればいい」
<5395> \{親方} *
// \{親方}「みんな、\m{A}くんのことはよくわかってるから」
<5396> \{親方} *
// \{親方}「でも、ちょっと時期が悪かったよね…」
<5397> *
// ああ…ずっと頑張って…手に入れようとしていたものなのに。
<5398> *
// 頑張っていれば、その先にはちゃんといいことが待ってるんだって…
<5399> *
// そう思っていたのに。
<5400> *
// なくしてしまった…。
<5401> *
// 俺のせいじゃなく…
<5402> *
// あの人のせいで。
<5403> *
// 俺はもう、あの人とは関係なく生きていけると思っていたのに…。
<5404> *
// 全部、自分の手でこれからはなんでもできると思っていたのに…。
<5405> *
// 愛する人も、俺の手で幸せにできると思ってたのに…。
<5406> *
// なのに…。
<5407> *
// ああ…こんなことってない。
<5408> *
// 俺は呪われてるのか…。
<5409> *
// …あの人に。
<5410> *
// 俺と渚は向かい合って座っていた。
<5411> *
// ふたりでお辞儀しあって、同棲暮らしを始めた日のことを、俺は思い出していた。
<5412> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「なぁ、渚…」
<5413> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ふたりでさ…」
<5414> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「この町、出ないか」
<5415> \{渚} *
// \{渚}「………」
<5416> \{渚} *
// \{渚}「ダメです…」
<5417> \{渚} *
// \{渚}「それは、逃げることです」
<5418> \{渚} *
// \{渚}「前向きじゃないです…」
<5419> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「俺はずっと逃げ続けてきたんだよ…」
<5420> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「もういいじゃないか…」
<5421> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「これで最後だ」
<5422> \{渚} *
// \{渚}「ダメです…」
<5423> \{渚} *
// \{渚}「こんなことで、\m{B}くん、挫けちゃダメです」
<5424> \{渚} *
// \{渚}「わたしを…幸せにしてほしいです…この町で」
<5425> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「幸せにする」
<5426> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「でも、それはこの町じゃなくてもできるだろ?  違うか?」
<5427> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「俺さえいればいいって言ってくれないのか?」
<5428> \{渚} *
// \{渚}「それは…」
<5429> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くんさえいれば、どんな場所にだっていきます」
<5430> \{渚} *
// \{渚}「でも、この町を出る時は前向きじゃないとダメです」
<5431> \{渚} *
// \{渚}「でないと…ここは、帰ってくる場所じゃなくなってしまいます」
<5432> \{渚} *
// \{渚}「この町は、わたしたちが生まれた場所です」
<5433> \{渚} *
// \{渚}「今日まで育ってきた町です」
<5434> \{渚} *
// \{渚}「わたしたちの、町なんです」
<5435> \{渚} *
// \{渚}「違いますか?」
<5436> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「いいことなんて、なかってもか」
<5437> \{渚} *
// \{渚}「いいことなかったですか…」
<5438> \{渚} *
// \{渚}「わたし、たくさんありました」
<5439> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くんと出会えたこと、それが一番です」
<5440> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5441> *
// 渚…
<5442> *
// おまえは、本当に、俺のために居てくれるんだな。
<5443> *
// こんな奴の言うことが聞けない俺は、なんて分からず屋なんだろう…。
<5444> *
// 考えは頑ななのに、自分の情けなさに涙が出てくる。
<5445> *
// わかってるのに…。
<5446> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くん…辛いですか」
<5447> *
// 顔を伏せた俺の手を、渚が握っていた。
<5448> \{渚} *
// \{渚}「わたしの言ってることが…\m{B}くんを苦しめてますか」
<5449> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5450> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くんの苦しみは…\m{B}くんにしかわからないです」
<5451> \{渚} *
// \{渚}「わたしができることは、そばにいることだけです」
<5452> \{渚} *
// \{渚}「ですから、教えてください」
<5453> \{渚} *
// \{渚}「辛いですか」
<5454> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5455> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「…辛い」
<5456> \{渚} *
// \{渚}「そうですか…」
<5457> \{渚} *
// \{渚}「じゃあ…いつかまた前向きになれる日まで…」
<5458> \{渚} *
// \{渚}「この町、離れてもいいです」
<5459> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5460> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ああ…」
<5461> *
// いつか、あの人と同じ場所に立った時…俺はどんな気持ちでいるのだろうか。
<5462> *
// その時に、後悔することなどないのだろうか。
<5463> *
// もし、後悔なんてしたら…俺は…
<5464> *
// ずっと、遡って、すべての生きた時間を後悔し始めるかもしれない。
<5465> *
// 今は、自分を信じるしかなかった。
<5466> *
// もし、後悔することになっても…
<5467> *
// 渚が居てくれれば、きっと立ち直れる。
<5468> *
// だから、行こう。
<5469> *
// ふたりで。
<5470> *
// 歩いていく先に…女の子がいた。
<5471> *
// こっちを向いて、立っていた。
<5472> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くん、待ってました」
<5473> *
// そう俺に話しかけてきた。
<5474> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「おまえ、こんなところでなにしてんだよ…」
<5475> \{渚} *
// \{渚}「一緒に、\m{B}くんのお父さんに会いに行きます」
<5476> *
// 誰から聞いたんだろう…。
<5477> *
// 親方か…芳野さんか…。
<5478> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「戻ってろ」
<5479> \{渚} *
// \{渚}「どうしてですか。ついていってはダメですか」
<5480> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「駄目だ」
<5481> \{渚} *
// \{渚}「今だけはわがまま言わせてください。とても大事なことですから」
<5482> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「俺にとっては、大事かもしれない」
<5483> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「けどな、おまえには関係ないだろ…」
<5484> \{渚} *
// \{渚}「それはそうかもしれないですけど…」
<5485> \{渚} *
// \{渚}「でも、わたしひとりは思っていたいです。わたしにも、大事なことだって…」
<5486> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くんが、わたしに関係ないって、そう思っても…」
<5487> \{渚} *
// \{渚}「わたしだけは関係あって、それはとても大事なことだと…そう思いたいです」
<5488> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5489> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「…勝手にしろ」
<5490> *
// ふたりで電車に揺られ、隣町までやってくる。
<5491> *
// 親父はこの町の拘置所にいるという話だった。
<5492> *
// 警察で道を訊いて、その場所に辿り着く。
<5493> *
// 背中では、渚が小さく息を切っていた。
<5494> *
// よくもまぁ、俺の早足についてこれたものだ。
<5495> *
// 振り返りもせず、その門をくぐった。
<5496> *
// ガラスの向こうにいる親父は…まるで囚人だった。
<5497> *
// まだ被疑者でしかなかったのだろうけど。
<5498> \{親父} *
// \{親父}「………」
<5499> *
// 普段通りの、穏和な表情。
<5500> *
// 俺を前にしても、眉一つ動かさなかった。
<5501> *
// それが、許せなかった。
<5502> *
// 慌てて、頭を下げてほしかった。
<5503> *
// 許しを乞うてほしかった。
<5504> *
// これまでの…\p十年分の謝罪と共に。
<5505> \{親父} *
// \{親父}「………」
<5506> *
// でも…\p黙ったままだった。
<5507> *
// だから、俺から口を開いた。
<5508> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「あんたは…」
<5509> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「あんたは一体何がしたいんだよ…」
<5510> *
// 声が震えるのを押さえられなかった。
<5511> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「人の人生の邪魔なんてして、楽しいのかよ…」
<5512> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「俺はあんたを親だなんて、思ってねぇ…」
<5513> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「けどな、世の中はそう思ってくれないんだ」
<5514> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「俺はあんたの息子なんだよ…」
<5515> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「犯罪を犯した男の息子なんだよっ…」
<5516> \{親父} *
// \{親父}「………」
<5517> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「もう、喋る気もないのかよ…」
<5518> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「迷惑かけ続けた息子に言う言葉もないのかよ…」
<5519> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ふ…」
<5520> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ふざけんなよぉっ!」
<5521> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くんっ」
<5522> *
// 温かい手が、俺の背中に触れた。
<5523> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5524> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「もういい…」
<5525> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「これ以上話すことなんてねぇよ…」
<5526> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「そのまま一生、不自由な生活してろっ」
<5527> *
// 吐き捨てて、背を向けた。
<5528> *
// もうどこをどう歩いたかもわからない。
<5529> *
// 目の奥が怒りでチカチカして、どんな景色も入ってこなかった。
<5530> *
// 気づいた時には、眩しい陽の下にいた。
<5531> *
// 腕が震えている。
<5532> *
// もう一方の手で掴んでも、震えはやまない。
<5533> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「うああぁーーっ!」
<5534> *
// 仕方なく、壁を殴りつけた。
<5535> *
// 打ちつけられた拳から、じんじんと痛みが伝わってくる。
<5536> *
// 震えが収まり、代わりにひどい痛みが手を覆った。
<5537> \{声} *
// \{声}「\m{B}くんっ」
<5538> *
// 遠くで声がした。
<5539> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5540> *
// 走ってくる足音。
<5541> *
// いきなり、抱きつかれた。
<5542> \{渚} *
// \{渚}「なにやってるんですか、\m{B}くん」
<5543> \{渚} *
// \{渚}「手、見せてください」
<5544> \{渚} *
// \{渚}「…ひどいです…」
<5545> \{渚} *
// \{渚}「なんてことしてるんですかっ…」
<5546> *
// 痛かった手が、何かに縛られる。
<5547> *
// それにより痛みが一時的に弱まってしまったようだ。
<5548> *
// すると、また怒りがこみ上げてきて、腕が震え始めた。
<5549> *
// また、壁に打ちつけるしかない。
<5550> *
// 腕を引く。
<5551> \{渚} *
// \{渚}「あっ…ダメです、\m{B}くんっ!」
<5552> *
// 打ちつける寸前、強く体を締めつけられた。
<5553> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「こらっ…邪魔じゃないか…」
<5554> \{渚} *
// \{渚}「邪魔してるんですっ」
<5555> \{渚} *
// \{渚}「馬鹿なことしようとしてる、\m{B}くんの邪魔してるんですっ」
<5556> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「馬鹿じゃないっ…こうしないと収まらないんだよっ…」
<5557> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「やらせろっ」
<5558> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くん、正気じゃないですっ」
<5559> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「正気だよっ、冷静だよっ、だからこうするしかないんだよっ」
<5560> \{渚} *
// \{渚}「見てください、\m{B}くんっ」
<5561> *
// 頬を両手で掴まれた。
<5562> *
// そして引き寄せられる先に、渚の顔があった。
<5563> \{渚} *
// \{渚}「わかりますか、\m{B}くん。渚です」
<5564> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「正気だって、言ってるだろ、馬鹿っ…」
<5565> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くんの彼女の渚です」
<5566> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「んなこたぁ、わかってるっ…」
<5567> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くんを大好きな渚です…」
<5568> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ああ…」
<5569> \{渚} *
// \{渚}「それで、\m{B}くんも大好きでいてくれてると信じてる渚です」
<5570> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5571> \{渚} *
// \{渚}「違いましたか…」
<5572> \{渚} *
// \{渚}「わたしの言ってること、間違ってましたか…」
<5573> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「いや…」
<5574> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「合ってる…」
<5575> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「俺も…\p
<5576> *
// 大好きだから…」
<5577> \{渚} *
// \{渚}「なら、すがってください」
<5578> \{渚} *
// \{渚}「わたしは\m{B}くんのために今、ここにいるんです」
<5579> \{渚} *
// \{渚}「他の誰のためでもないです」
<5580> \{渚} *
// \{渚}「\m{B}くんのため、だけにです」
<5581> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5582> \{渚} *
// \{渚}「手を回してください」
<5583> \{渚} *
// \{渚}「それで、抱きしめてください」
<5584> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「あ、ああ…」
<5585> *
// 渚の背中に腕を回す。そして、それに力をこめた。
<5586> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「渚…」
<5587> *
// 汗の滲む渚の首筋に、俺は顔を押し当てた。
<5588> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「渚…」
<5589> \{渚} *
// \{渚}「はい、\m{B}くん」
<5590> *
// 手のひらで何度も背中をなぞる。
<5591> *
// 合わせられる部分は、すべて合わせようと力を籠める。
<5592> *
// そうして、その存在を強く確かめる。
<5593> *
// それは支えで、俺を繋ぎ止めてくれる。
<5594> *
// 怒りの感情はやがて、大好きな渚を思う穏やかな気持ちに変わっていった。
<5595> \{渚} *
// \{渚}「落ち着きましたか」
<5596> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ああ…」
<5597> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5598> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「…手が痛い」
<5599> \{渚} *
// \{渚}「お風呂に入ると浸みます、きっと」
<5600> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「だろうな…シャワーだけにしとくよ」
<5601> \{渚} *
// \{渚}「はい」
<5602> *
// 渚の肩越しに、通行人の姿が見える。
<5603> *
// 彼らは、抱き合う俺たちを見て見ぬふりして、通り過ぎていく。
<5604> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5605> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「なぁ、渚…」
<5606> \{渚} *
// \{渚}「はい」
<5607> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「結婚しよう」
<5608> \{渚} *
// \{渚}「はい」
<5609> *
// 渚は迷いもなく答えていた。
<5610> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「いいのか…?」
<5611> \{渚} *
// \{渚}「はい、わたしも\m{B}くん以外にいないと思ってました…ずっと」
<5612> \{渚} *
// \{渚}「だから…うれしいです」
<5613> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「…本当にか?」
<5614> \{渚} *
// \{渚}「はい」
<5615> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「俺みたいな情けない男でもいいのか」
<5616> \{渚} *
// \{渚}「わたしだって、情けないです」
<5617> \{渚} *
// \{渚}「でも、こうして、わたしたちはお互いを支えとしてがんばっていけます」
<5618> \{渚} *
// \{渚}「そうして、今まで強くなってきました」
<5619> \{渚} *
// \{渚}「だから、これからは、もっと強くなっていけると思います」
<5620> \{渚} *
// \{渚}「ふたり、一緒だったらです」
<5621> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「………」
<5622> *
// 全身に広がっていく感覚がある。
<5623> *
// それは心から発されたものなのだろうか。
<5624> *
// それとも渚の言葉からだろうか。
<5625> *
// いや、渚自身からか…。
<5626> *
// なんでもいい。
<5627> *
// 幸せだった。
<5628> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「なぁ、渚」
<5629> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ずっと、そばに居てくれるか」
<5630> \{渚} *
// \{渚}「はい、ずっとそばに居ます」
<5631> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「どんなときも、いつまでも…」
<5632> \{渚} *
// \{渚}「はい、どんなときも、いつまでも、そばに居ます」
<5633> *
// なら、何度でも立ち上がれる気がする。
<5634> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「ありがとう…」
<5635> \{\m{B}} *
// \{\m{B}}「なら、俺は渚を幸せにする」
<5636> \{渚} *
// \{渚}「はい、お願いします」
<5637> *
// いつまでも、ふたりで…
<5638> *
// 生きよう。

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