// Resources for SEEN0744.TXT
// #character '朋也'
#character 'Tomoya'
// #character '鷹文'
#character 'Takafumi'
// #character '智代'
#character 'Tomoyo'
// #character '主婦'
#character 'Housewife'
// <0000> バッドエンド
<0000> バッドエンド
// <0001> \{朋也}「ただいま…」
<0001> \{Tomoya}「ただいま…」
// <0002> 返事がなかった。
<0002> 返事がなかった。
// <0003> 誰もいなかった。
<0003> 誰もいなかった。
// <0004> 狭い、と最近思っていたのだが、誰もいない部屋はやけに広く思えた。
<0004> 狭い、と最近思っていたのだが、誰もいない部屋はやけに広く思えた。
// <0005> 鷹文が来なくなってから、しばらくして河南子もいなくなった。別れの言葉もなく。
<0005> 鷹文が来なくなってから、しばらくして河南子もいなくなった。別れの言葉もなく。
// <0006> あの憎まれ口が、すごく聞きたかった。
<0006> あの憎まれ口が、すごく聞きたかった。
// <0007> 騒がしい毎日を懐かしく思った。
<0007> 騒がしい毎日を懐かしく思った。
// <0008> しばし感傷に浸った後、俺は冷蔵庫を開け、冷えた麦茶を取り出そうとする。
<0008> しばし感傷に浸った後、俺は冷蔵庫を開け、冷えた麦茶を取り出そうとする。
// <0009> が、作り置きの麦茶は入っていなかった。
<0009> が、作り置きの麦茶は入っていなかった。
// <0010> \{朋也}「珍しいな…智代が忘れるなんて」
<0010> \{Tomoya}「珍しいな…智代が忘れるなんて」
// <0011> とりあえず俺はやかんに水を溜め、ガスレンジにかけた。
<0011> とりあえず俺はやかんに水を溜め、ガスレンジにかけた。
// <0012> TVから終盤の白熱した野球中継が流れている。
<0012> TVから終盤の白熱した野球中継が流れている。
// <0013> だが、俺の耳にはほとんど入ってこなかった。
<0013> だが、俺の耳にはほとんど入ってこなかった。
// <0014> 時計は9時を過ぎた頃。
<0014> 時計は9時を過ぎた頃。
// <0015> 心配を通り越して、怖くなってきた。
<0015> 心配を通り越して、怖くなってきた。
// <0016> 事故にでも遭ったんじゃないか。
<0016> 事故にでも遭ったんじゃないか。
// <0017> もしかして誘拐なんかに…
<0017> もしかして誘拐なんかに…
// <0018> 唐突に電話の音が鳴り響く。
<0018> 唐突に電話の音が鳴り響く。
// <0019> \{朋也}「うわっ」
<0019> \{Tomoya}「うわっ」
// <0020> びっくりした。
<0020> びっくりした。
// <0021> ちょっと気を落ち着かせてから、受話器を取った。
<0021> ちょっと気を落ち着かせてから、受話器を取った。
// <0022> \{朋也}「はい、岡崎です」
<0022> \{Tomoya}「はい、岡崎です」
// <0023> \{鷹文}『あ、にぃちゃん?』
<0023> \{Takafumi}『あ、にぃちゃん?』
// <0024> 鷹文だった。久しぶりに声を聞いた気がする。
<0024> 鷹文だった。久しぶりに声を聞いた気がする。
// <0025> \{朋也}「…なんだ、鷹文か」
<0025> \{Tomoya}「…なんだ、鷹文か」
// <0026> \{鷹文}『なんだって、久しぶりなのにひどいね』
<0026> \{Takafumi}『なんだって、久しぶりなのにひどいね』
// <0027> \{朋也}「いや、ともと智代がいないんだ」
<0027> \{Tomoya}「いや、ともと智代がいないんだ」
// <0028> \{鷹文}『うちにいるよ。とりあえず元気だけど』
<0028> \{Takafumi}『うちにいるよ。とりあえず元気だけど』
// <0029> \{朋也}「ああ、そっか。なら安心…\p…待て」
<0029> \{Tomoya}「ああ、そっか。なら安心…\p…待て」
// <0030> 引っかかる。
<0030> 引っかかる。
// <0031> 智代はまだしも『とも』が『うち』にいるということに。
<0031> 智代はまだしも『とも』が『うち』にいるということに。
// <0032> \{鷹文}『うん、にぃちゃんの想像どおりなんだけどね』
<0032> \{Takafumi}『うん、にぃちゃんの想像どおりなんだけどね』
// <0033> \{鷹文}『母さんにばれちゃった』
<0033> \{Takafumi}『母さんにばれちゃった』
// <0034> \{鷹文}『もう、ウチの家、すごいことになってる』
<0034> \{Takafumi}『もう、ウチの家、すごいことになってる』
// <0035> 鷹文の口調は、いつもと変わらない。
<0035> 鷹文の口調は、いつもと変わらない。
// <0036> 諦めているのか、それとも慣れているのか。
<0036> 諦めているのか、それとも慣れているのか。
// <0037> \{朋也}「…どうしてだ?」
<0037> \{Tomoya}「…どうしてだ?」
// <0038> \{鷹文}『んー、ごめん。僕が余計な意地張ったからなのもあるんだけど』
<0038> \{Takafumi}『んー、ごめん。僕が余計な意地張ったからなのもあるんだけど』
// <0039> \{鷹文}『ここんとこ、にぃちゃん、僕をつかまえようとして実家に来てたじゃない』
<0039> \{Takafumi}『ここんとこ、にぃちゃん、僕をつかまえようとして実家に来てたじゃない』
// <0040> \{鷹文}『そしたら、にぃちゃんを迎えに来てたねぇちゃんとともを見かけたらしいんだよね』
<0040> \{Takafumi}『そしたら、にぃちゃんを迎えに来てたねぇちゃんとともを見かけたらしいんだよね』
// <0041> \{鷹文}『母さん、すごい顔して『朋也さんにはお子さんがいるの!?』って責め立てられて』
<0041> \{Takafumi}『母さん、すごい顔して『朋也さんにはお子さんがいるの!?』って責め立てられて』
// <0042> \{鷹文}『僕はとぼけ通したんだけど、結局ねぇちゃんからばれちゃった』
<0042> \{Takafumi}『僕はとぼけ通したんだけど、結局ねぇちゃんからばれちゃった』
// <0043> \{鷹文}『ねぇちゃん、嘘つくの下手だからさ…』
<0043> \{Takafumi}『ねぇちゃん、嘘つくの下手だからさ…』
// <0044> 意味がわからない。理解したくない。
<0044> 意味がわからない。理解したくない。
// <0045> 無理やり言葉を飲み下した後、とてつもない後悔が襲ってきた。
<0045> 無理やり言葉を飲み下した後、とてつもない後悔が襲ってきた。
// <0046> 発端は、俺の浅はかな行動だ。
<0046> 発端は、俺の浅はかな行動だ。
// <0047> \{鷹文}『あ、にぃちゃんのせいじゃないからね?』
<0047> \{Takafumi}『あ、にぃちゃんのせいじゃないからね?』
// <0048> \{鷹文}『元々無理な相談だったんだよ』
<0048> \{Takafumi}『元々無理な相談だったんだよ』
// <0049> \{鷹文}『ごめんね、うちの家族の揉めごとに巻き込んじゃって…』
<0049> \{Takafumi}『ごめんね、うちの家族の揉めごとに巻き込んじゃって…』
// <0050> それはまるで、他人に言う台詞のようだった。
<0050> それはまるで、他人に言う台詞のようだった。
// <0051> \{鷹文}『…もしもし? 聞いてる?』
<0051> \{Takafumi}『…もしもし? 聞いてる?』
// <0052> \{朋也}「…ああ、聞こえてる」
<0052> \{Tomoya}「…ああ、聞こえてる」
// <0053> \{朋也}「自分が嫌になってるところだ」
<0053> \{Tomoya}「自分が嫌になってるところだ」
// <0054> \{鷹文}『駄目だよ、自分の責任とか考えちゃ』
<0054> \{Takafumi}『駄目だよ、自分の責任とか考えちゃ』
// <0055> \{鷹文}『今は大丈夫だからね。また電話するよ』
<0055> \{Takafumi}『今は大丈夫だからね。また電話するよ』
// <0056> \{朋也}「…ああ」
<0056> \{Tomoya}「…ああ」
// <0057> 俺は受話器を置き、ひっくり返った。
<0057> 俺は受話器を置き、ひっくり返った。
// <0058> 何も考えたくない。
<0058> 何も考えたくない。
// <0059> ただ、そのまま落ちていき、埋もれてしまいたかった。
<0059> ただ、そのまま落ちていき、埋もれてしまいたかった。
// <0060> 眠れないまま、俺は布団に転がっていた。
<0060> 眠れないまま、俺は布団に転がっていた。
// <0061> かしゃん、と小さく開錠の音が響き、古い玄関が音を立てて開いた。
<0061> かしゃん、と小さく開錠の音が響き、古い玄関が音を立てて開いた。
// <0062> \{智代}「…寝てたか?」
<0062> \{Tomoyo}「…寝てたか?」
// <0063> \{朋也}「起きてる」
<0063> \{Tomoya}「起きてる」
// <0064> \{智代}「…そうか」
<0064> \{Tomoyo}「…そうか」
// <0065> 智代は靴を脱ぎ、布団の側へ座り、俺の手を握った。
<0065> 智代は靴を脱ぎ、布団の側へ座り、俺の手を握った。
// <0066> \{朋也}「電気、つけなくていいのか?」
<0066> \{Tomoya}「電気、つけなくていいのか?」
// <0067> \{智代}「今はいい…」
<0067> \{Tomoyo}「今はいい…」
// <0068> …長い沈黙があった。
<0068> …長い沈黙があった。
// <0069> 何回も、何十回も謝ろう、と考えた。
<0069> 何回も、何十回も謝ろう、と考えた。
// <0070> だが、俺の口からは何も出なかった。
<0070> だが、俺の口からは何も出なかった。
// <0071> 深い後悔と、自分への憤りが上っ面だけの謝りをせせら笑っていた。
<0071> 深い後悔と、自分への憤りが上っ面だけの謝りをせせら笑っていた。
// <0072> \{智代}「…すまない」
<0072> \{Tomoyo}「…すまない」
// <0073> \{智代}「とものこと…隠しきれなかった」
<0073> \{Tomoyo}「とものこと…隠しきれなかった」
// <0074> やめてくれ。
<0074> やめてくれ。
// <0075> それは俺の言葉だ。
<0075> それは俺の言葉だ。
// <0076> \{智代}「最初は…ともはおまえの子だと思われていた」
<0076> \{Tomoyo}「最初は…ともはおまえの子だと思われていた」
// <0077> \{智代}「事情を話すわけにもいかず耐えていたんだが…」
<0077> \{Tomoyo}「事情を話すわけにもいかず耐えていたんだが…」
// <0078> \{智代}「母親は、次第におまえを罵るようになった」
<0078> \{Tomoyo}「母親は、次第におまえを罵るようになった」
// <0079> \{智代}「耐えきれなくて、言い返してしまったんだ」
<0079> \{Tomoyo}「耐えきれなくて、言い返してしまったんだ」
// <0080> \{智代}「朋也は、私たちの家族を守っていてくれたんだ…」
<0080> \{Tomoyo}「朋也は、私たちの家族を守っていてくれたんだ…」
// <0081> \{智代}「私たち家族が、平穏に暮らせるように、と…」
<0081> \{Tomoyo}「私たち家族が、平穏に暮らせるように、と…」
// <0082> \{智代}「自分の身を削っても、私とともを、両親を守っていたんだ」
<0082> \{Tomoyo}「自分の身を削っても、私とともを、両親を守っていたんだ」
// <0083> \{智代}「父親が産ませた、何の関係もない子供を必死に守って…」
<0083> \{Tomoyo}「父親が産ませた、何の関係もない子供を必死に守って…」
// <0084> \{智代}「すまない…」
<0084> \{Tomoyo}「すまない…」
// <0085> \{智代}「本当に…すまない…」
<0085> \{Tomoyo}「本当に…すまない…」
// <0086> すすり泣く声。
<0086> すすり泣く声。
// <0087> 繋がれた手が、強く握られた。
<0087> 繋がれた手が、強く握られた。
// <0088> \{朋也}「違う…」
<0088> \{Tomoya}「違う…」
// <0089> \{朋也}「俺は何もできなかった」
<0089> \{Tomoya}「俺は何もできなかった」
// <0090> \{朋也}「他に方法があったはずなんだ…」
<0090> \{Tomoya}「他に方法があったはずなんだ…」
// <0091> \{朋也}「俺が余計なことをしなければ…」
<0091> \{Tomoya}「俺が余計なことをしなければ…」
// <0092> \{朋也}「もう少し気を遣っていれば、こんなことにはならなかった…」
<0092> \{Tomoya}「もう少し気を遣っていれば、こんなことにはならなかった…」
// <0093> \{朋也}「俺がもっとがんばっていれば…」
<0093> \{Tomoya}「俺がもっとがんばっていれば…」
// <0094> ぎりぎり、と噛み締めた歯が軋む。
<0094> ぎりぎり、と噛み締めた歯が軋む。
// <0095> なぜかそれが、これまでの生活が次第に壊れていく音に思えた。
<0095> なぜかそれが、これまでの生活が次第に壊れていく音に思えた。
// <0096> \{智代}「…そろそろ帰る」
<0096> \{Tomoyo}「…そろそろ帰る」
// <0097> \{朋也}「ああ」
<0097> \{Tomoya}「ああ」
// <0098> \{智代}「すまない…家を黙って抜け出してきたから帰らないといけないんだ」
<0098> \{Tomoyo}「すまない…家を黙って抜け出してきたから帰らないといけないんだ」
// <0099> \{朋也}「こっちは気にするな」
<0099> \{Tomoya}「こっちは気にするな」
// <0100> \{智代}「また、電話する」
<0100> \{Tomoyo}「また、電話する」
// <0101> 智代が同じように、暗い部屋から出ていった。
<0101> 智代が同じように、暗い部屋から出ていった。
// <0102> 正直、ありがたかった。
<0102> 正直、ありがたかった。
// <0103> もともと、俺なんかが守るなんておこがましい話だ。
<0103> もともと、俺なんかが守るなんておこがましい話だ。
// <0104> つい半年前まで、自分ひとりの面倒すら見られなかった。
<0104> つい半年前まで、自分ひとりの面倒すら見られなかった。
// <0105> 智代とふたりで、幸せな生活を夢見て。
<0105> 智代とふたりで、幸せな生活を夢見て。
// <0106> 努力すれば何でもできる、といい気になって。
<0106> 努力すれば何でもできる、といい気になって。
// <0107> 結果、俺に何ができたのだろうか?
<0107> 結果、俺に何ができたのだろうか?
// <0108> 挑戦し、失敗しただけ。
<0108> 挑戦し、失敗しただけ。
// <0109> \{朋也}「…はは」
<0109> \{Tomoya}「…はは」
// <0110> 思い出したことに、つい笑ってしまった。
<0110> 思い出したことに、つい笑ってしまった。
// <0111> いつだったか、智代を残しておいてくれた神様に感謝した覚えがある。
<0111> いつだったか、智代を残しておいてくれた神様に感謝した覚えがある。
// <0112> 恨みを言うつもりはないが、ただ教えてほしかった。
<0112> 恨みを言うつもりはないが、ただ教えてほしかった。
// <0113> 俺に何をさせたかったのかと。
<0113> 俺に何をさせたかったのかと。
// <0114> …寝よう。
<0114> …寝よう。
// <0115> ひとしきり笑ってから、寝返りを打って目を閉じた。
<0115> ひとしきり笑ってから、寝返りを打って目を閉じた。
// <0116> そろそろ後悔にも飽きてきたから。
<0116> そろそろ後悔にも飽きてきたから。
// <0117> \{主婦}「ちょっとごめんなさい、これ運んでくれるかしら?」
<0117> \{Housewife}「ちょっとごめんなさい、これ運んでくれるかしら?」
// <0118> \{朋也}「はい、いいですよ」
<0118> \{Tomoya}「はい、いいですよ」
// <0119> 体は勝手に動いてくれる。
<0119> 体は勝手に動いてくれる。
// <0120> 愛想もいつからかわからないが、表情が覚えていた。
<0120> 愛想もいつからかわからないが、表情が覚えていた。
// <0121> \{朋也}「故障とかあったら、言ってください。これ、連絡先です」
<0121> \{Tomoya}「故障とかあったら、言ってください。これ、連絡先です」
// <0122> 社会人としては、うまくいっているんじゃないか、と思う。
<0122> 社会人としては、うまくいっているんじゃないか、と思う。
// <0123> もちろん智代の支えがあってこそ。
<0123> もちろん智代の支えがあってこそ。
// <0124> その智代の実家は…あの後どうなったか、それはもう考えない。
<0124> その智代の実家は…あの後どうなったか、それはもう考えない。
// <0125> 俺は、自分以外の誰の面倒も見られない。
<0125> 俺は、自分以外の誰の面倒も見られない。
// <0126> 智代を支えに、今日も生きていく。
<0126> 智代を支えに、今日も生きていく。