// Resources for SEEN0711.TXT
// #character '智代'
#character 'Tomoyo'
// #character '朋也'
#character 'Tomoya'
// #character 'とも'
#character 'Tomo'
// #character '鷹文'
#character 'Takafumi'
// #character '母親'
#character 'Mother'
// #character 'クマ'
#character 'Bear'
// #character 'パンダ'
#character 'Panda'
// <0000> 7月11日(日)
<0000> July 11th (Sun)
// <0001> 昼食を食べ終えると、智代は俺と鷹文を表まで連れ出した。
<0001> 昼食を食べ終えると、智代は俺と鷹文を表まで連れ出した。
// <0002> \{智代}「果たして、クマとパンダは仲がいいのか?」
<0002> \{Tomoyo}「果たして、クマとパンダは仲がいいのか?」
// <0003> そして唐突にそんなことを言い出す。
<0003> そして唐突にそんなことを言い出す。
// <0004> \{朋也}「あのな、とも」
<0004> \{Tomoya}「あのな、とも」
// <0005> 翌朝。朝食の場で俺は切り出す。
<0005> 翌朝。朝食の場で俺は切り出す。
// <0006> \{とも}「うん」
<0006> \{Tomo}「うん」
// <0007> トーストを食べながら上目遣いでこっちを見る。
<0007> トーストを食べながら上目遣いでこっちを見る。
// <0008> \{智代}「………」
<0008> \{Tomoyo}「………」
// <0009> そのあどけなさとは対照的に、口を固く結び耐える表情の智代。
<0009> そのあどけなさとは対照的に、口を固く結び耐える表情の智代。
// <0010> \{朋也}「ママに会いたいか」
<0010> \{Tomoya}「ママに会いたいか」
// <0011> ともは智代を指さす。
<0011> ともは智代を指さす。
// <0012> \{とも}「ママー」
<0012> \{Tomo}「ママー」
// <0013> 俺は首を振る。
<0013> 俺は首を振る。
// <0014> \{朋也}「とものママ」
<0014> \{Tomoya}「とものママ」
// <0015> \{とも}「………」
<0015> \{Tomo}「………」
// <0016> 驚きに目が大きく開かれる。かじりかけのトーストをちゃぶ台に落とす。智代がそれをお皿に戻す。
<0016> 驚きに目が大きく開かれる。かじりかけのトーストをちゃぶ台に落とす。智代がそれをお皿に戻す。
// <0017> \{とも}「…いるの?」
<0017> \{Tomo}「…いるの?」
// <0018> \{朋也}「ここにはいない」
<0018> \{Tomoya}「ここにはいない」
// <0019> \{朋也}「でも約束してあるから、今日会える」
<0019> \{Tomoya}「でも約束してあるから、今日会える」
// <0020> \{朋也}「ともは会いたいか?」
<0020> \{Tomoya}「ともは会いたいか?」
// <0021> ぶんぶんと縦に頷いた。
<0021> ぶんぶんと縦に頷いた。
// <0022> それは何も考えていない、本能からくる返答だった。
<0022> それは何も考えていない、本能からくる返答だった。
// <0023> そこに待つ辛さなど微塵も予測していない。
<0023> そこに待つ辛さなど微塵も予測していない。
// <0024> できるはずない。こんな小さな子に。
<0024> できるはずない。こんな小さな子に。
// <0025> でもそれを突きつけなければいけない。
<0025> でもそれを突きつけなければいけない。
// <0026> じゃないと前に進めない。
<0026> じゃないと前に進めない。
// <0027> いつか振り切るために。
<0027> いつか振り切るために。
// <0028> 午後になると俺たちは支度を始める。
<0028> 午後になると俺たちは支度を始める。
// <0029> ともには幼稚園の制服を着せた。
<0029> ともには幼稚園の制服を着せた。
// <0030> 智代が正装をと、そう提案した。
<0030> 智代が正装をと、そう提案した。
// <0031> 智代も、学生服を着た。
<0031> 智代も、学生服を着た。
// <0032> 俺も、できるだけまともな格好をと智代に指図され着替えた。
<0032> 俺も、できるだけまともな格好をと智代に指図され着替えた。
// <0033> \{朋也}「じゃあ、鷹文、留守番よろしく」
<0033> \{Tomoya}「じゃあ、鷹文、留守番よろしく」
// <0034> \{鷹文}「ああ、がんばってきてよ」
<0034> \{Takafumi}「ああ、がんばってきてよ」
// <0035> \{智代}「うん…いこう」
<0035> \{Tomoyo}「うん…いこう」
// <0036> 智代がともの手を取る。
<0036> 智代がともの手を取る。
// <0037> 待ち合わせ場所はともが住んでいたアパートの隣にある公園。
<0037> 待ち合わせ場所はともが住んでいたアパートの隣にある公園。
// <0038> 早めに来てしまったため、しばらくベンチで待つことになる。
<0038> 早めに来てしまったため、しばらくベンチで待つことになる。
// <0039> 智代は忙しなく時計と周りを交互に見ていた。
<0039> 智代は忙しなく時計と周りを交互に見ていた。
// <0040> 会話はない。
<0040> 会話はない。
// <0041> ただじっと待ち続けた。
<0041> ただじっと待ち続けた。
// <0042> 昨日と同じ日傘。それが視界の端に入る。
<0042> 昨日と同じ日傘。それが視界の端に入る。
// <0043> \{朋也}「おでましだ」
<0043> \{Tomoya}「おでましだ」
// <0044> \{智代}「どれだ…あれか…?」
<0044> \{Tomoyo}「どれだ…あれか…?」
// <0045> 日傘が近づいてくる。
<0045> 日傘が近づいてくる。
// <0046> 智代ももうそれだと気づいている。
<0046> 智代ももうそれだと気づいている。
// <0047> 俺たちは立ち上がって待つ。
<0047> 俺たちは立ち上がって待つ。
// <0048> 日傘が畳まれる。
<0048> 日傘が畳まれる。
// <0049> 現れたのはともの母親。
<0049> 現れたのはともの母親。
// <0050> 穏やかな表情をしていた。
<0050> 穏やかな表情をしていた。
// <0051> 写真に近い。優しい母親の顔。
<0051> 写真に近い。優しい母親の顔。
// <0052> なんで…どうして…
<0052> なんで…どうして…
// <0053> そんな表情ができるのに、見放せるんだろう。
<0053> そんな表情ができるのに、見放せるんだろう。
// <0054> …俺にはわからない。
<0054> …俺にはわからない。
// <0055> ともが駆け寄ろうとした。
<0055> ともが駆け寄ろうとした。
// <0056> けど、智代が手を握っていた。
<0056> けど、智代が手を握っていた。
// <0057> ともはそれでも駆け寄ろうとした。
<0057> ともはそれでも駆け寄ろうとした。
// <0058> 智代が手を離す。
<0058> 智代が手を離す。
// <0059> ともが母親の元へ駆ける。
<0059> ともが母親の元へ駆ける。
// <0060> その腰に抱きつく。
<0060> その腰に抱きつく。
// <0061> 母親は娘の頭を撫でた。
<0061> 母親は娘の頭を撫でた。
// <0062> 照りつける日差しの中で、しばらくそうしていた。
<0062> 照りつける日差しの中で、しばらくそうしていた。
// <0063> ともは安心しきった横顔でいた。
<0063> ともは安心しきった横顔でいた。
// <0064> あんな顔を俺たちは知らない。
<0064> あんな顔を俺たちは知らない。
// <0065> \{母親}「とも」
<0065> \{Mother}「とも」
// <0066> 母親が口を開く。
<0066> 母親が口を開く。
// <0067> 声も柔らかだった。
<0067> 声も柔らかだった。
// <0068> \{母親}「私はあなたに、人並みの幸せも与えられなかった」
<0068> \{Mother}「私はあなたに、人並みの幸せも与えられなかった」
// <0069> \{母親}「ごめんね、とも」
<0069> \{Mother}「ごめんね、とも」
// <0070> \{母親}「これからの幸せを…」
<0070> \{Mother}「これからの幸せを…」
// <0071> \{母親}「祈ってます」
<0071> \{Mother}「祈ってます」
// <0072> …え。
<0072> …え。
// <0073> 手が離れる。
<0073> 手が離れる。
// <0074> 優しい笑みを残して、母親が背中を向ける。
<0074> 優しい笑みを残して、母親が背中を向ける。
// <0075> 日傘を差して、歩いていく。
<0075> 日傘を差して、歩いていく。
// <0076> 遠ざかっていく。
<0076> 遠ざかっていく。
// <0077> 呆然と立ちつくす、とも。
<0077> 呆然と立ちつくす、とも。
// <0078> その手が宙に浮いていた。
<0078> その手が宙に浮いていた。
// <0079> 母親を抱いていた手が。
<0079> 母親を抱いていた手が。
// <0080> ざっ、と土を蹴る音。
<0080> ざっ、と土を蹴る音。
// <0081> 智代が駆けていた。
<0081> 智代が駆けていた。
// <0082> ともの体を抱いて、その手を握る。
<0082> ともの体を抱いて、その手を握る。
// <0083> \{智代}「もう、終わりだっ…」
<0083> \{Tomoyo}「もう、終わりだっ…」
// <0084> \{智代}「とものつらいこと、ぜんぶ終わったから…」
<0084> \{Tomoyo}「とものつらいこと、ぜんぶ終わったから…」
// <0085> \{智代}「これからは楽しいことだけが待ってるから…」
<0085> \{Tomoyo}「これからは楽しいことだけが待ってるから…」
// <0086> \{智代}「私と過ごす毎日が待ってるから…」
<0086> \{Tomoyo}「私と過ごす毎日が待ってるから…」
// <0087> \{智代}「絶対それは楽しいから…」
<0087> \{Tomoyo}「絶対それは楽しいから…」
// <0088> \{智代}「な、とも…」
<0088> \{Tomoyo}「な、とも…」
// <0089> \{智代}「だから…もう安心しろ…」
<0089> \{Tomoyo}「だから…もう安心しろ…」
// <0090> \{智代}「不安なことなんてなにもない…」
<0090> \{Tomoyo}「不安なことなんてなにもない…」
// <0091> \{智代}「後は全部楽しいから…」
<0091> \{Tomoyo}「後は全部楽しいから…」
// <0092> \{智代}「な、とも…」
<0092> \{Tomoyo}「な、とも…」
// <0093> …終わった。
<0093> …終わった。
// <0094> 親子の生活が。
<0094> 親子の生活が。
// <0095> そして始まる。
<0095> そして始まる。
// <0096> 新しい生活が。
<0096> 新しい生活が。
// <0097> \{智代}「果たして、クマとパンダは仲がいいのか?」
<0097> \{Tomoyo}「果たして、クマとパンダは仲がいいのか?」
// <0098> 俺も、できるだけまともな格好をと智代に指図され着替えた。
<0098> 俺も、できるだけまともな格好をと智代に指図され着替えた。
// <0099> \{朋也}「じゃあ、留守番よろしく」
<0099> \{Tomoya}「じゃあ、留守番よろしく」
// <0100> 俺はともの手を取る。
<0100> 俺はともの手を取る。
// <0101> \{智代}「うん…」
<0101> \{Tomoyo}「うん…」
// <0102> 智代は重苦しい顔で俺たちを見送った。
<0102> 智代は重苦しい顔で俺たちを見送った。
// <0103> 待ち合わせ場所はともが住んでいたアパートの隣にある公園。
<0103> 待ち合わせ場所はともが住んでいたアパートの隣にある公園。
// <0104> 早めに来てしまったため、しばらくベンチで待つことになる。
<0104> 早めに来てしまったため、しばらくベンチで待つことになる。
// <0105> ともも遊び道具には目もくれず、大人しく座って待っていた。
<0105> ともも遊び道具には目もくれず、大人しく座って待っていた。
// <0106> 母親のことで頭がいっぱいなのだろう。
<0106> 母親のことで頭がいっぱいなのだろう。
// <0107> 会話はない。
<0107> 会話はない。
// <0108> ただじっと待ち続けた。
<0108> ただじっと待ち続けた。
// <0109> 昨日と同じ日傘。それが視界の端に入る。
<0109> 昨日と同じ日傘。それが視界の端に入る。
// <0110> おでましだ。
<0110> おでましだ。
// <0111> 日傘が近づいてくる。
<0111> 日傘が近づいてくる。
// <0112> 俺たちは立ち上がって待つ。
<0112> 俺たちは立ち上がって待つ。
// <0113> 日傘が畳まれる。
<0113> 日傘が畳まれる。
// <0114> 現れたのはともの母親。
<0114> 現れたのはともの母親。
// <0115> 穏やかな表情をしていた。
<0115> 穏やかな表情をしていた。
// <0116> 写真に近い。優しい母親の顔。
<0116> 写真に近い。優しい母親の顔。
// <0117> なんで…どうして…
<0117> なんで…どうして…
// <0118> そんな表情ができるのに、見放せるんだろう。
<0118> そんな表情ができるのに、見放せるんだろう。
// <0119> …俺にはわからない。
<0119> …俺にはわからない。
// <0120> ともが母親の元へ駆ける。
<0120> ともが母親の元へ駆ける。
// <0121> その腰に抱きつく。
<0121> その腰に抱きつく。
// <0122> 母親は娘の頭を撫でた。
<0122> 母親は娘の頭を撫でた。
// <0123> 照りつける日差しの中で、しばらくそうしていた。
<0123> 照りつける日差しの中で、しばらくそうしていた。
// <0124> ともは安心しきった横顔でいた。
<0124> ともは安心しきった横顔でいた。
// <0125> あんな顔を俺たちは知らない。
<0125> あんな顔を俺たちは知らない。
// <0126> \{母親}「とも」
<0126> \{Mother}「とも」
// <0127> 母親が口を開く。
<0127> 母親が口を開く。
// <0128> 声も柔らかだった。
<0128> 声も柔らかだった。
// <0129> \{母親}「私はあなたに、人並みの幸せも与えられなかった」
<0129> \{Mother}「私はあなたに、人並みの幸せも与えられなかった」
// <0130> \{母親}「ごめんね、とも」
<0130> \{Mother}「ごめんね、とも」
// <0131> \{母親}「これからの幸せを…」
<0131> \{Mother}「これからの幸せを…」
// <0132> \{母親}「願ってます」
<0132> \{Mother}「願ってます」
// <0133> …え。
<0133> …え。
// <0134> 手が離れる。
<0134> 手が離れる。
// <0135> 優しい笑みを残して、母親が背中を向ける。
<0135> 優しい笑みを残して、母親が背中を向ける。
// <0136> 日傘を差して、歩いていく。
<0136> 日傘を差して、歩いていく。
// <0137> 遠ざかっていく。
<0137> 遠ざかっていく。
// <0138> 呆然と立ちつくす、とも。
<0138> 呆然と立ちつくす、とも。
// <0139> その手が宙に浮いていた。
<0139> その手が宙に浮いていた。
// <0140> 母親を抱いていた手が。
<0140> 母親を抱いていた手が。
// <0141> 俺は歩いていって、その背中を抱きしめた。
<0141> 俺は歩いていって、その背中を抱きしめた。
// <0142> 母親の代わりにと。
<0142> 母親の代わりにと。
// <0143> …こんなにもあっけなく終わった。
<0143> …こんなにもあっけなく終わった。
// <0144> 親子の生活が。
<0144> 親子の生活が。
// <0145> ともの母親は一言伝えただけで帰っていった、と教えると、智代は安心したようだった。
<0145> ともの母親は一言伝えただけで帰っていった、と教えると、智代は安心したようだった。
// <0146> \{智代}「果たして、クマとパンダは仲がいいのか?」
<0146> \{Tomoyo}「果たして、クマとパンダは仲がいいのか?」
// <0147> そして俺と鷹文を外に連れ出すと、明るく努めて、そう訊いた。
<0147> そして俺と鷹文を外に連れ出すと、明るく努めて、そう訊いた。
// <0148> \{朋也}「いや、よくないだろ…」
<0148> \{Tomoya}「いや、よくないだろ…」
// <0149> \{智代}「まあ、それは現実だ」
<0149> \{Tomoyo}「まあ、それは現実だ」
// <0150> \{智代}「だが、ともはまだ幼い」
<0150> \{Tomoyo}「だが、ともはまだ幼い」
// <0151> \{智代}「なんとだ…サンタの存在をも信じているのだ。どうだ可愛いだろう」
<0151> \{Tomoyo}「なんとだ…サンタの存在をも信じているのだ。どうだ可愛いだろう」
// <0152> \{朋也}「いや、威張られても」
<0152> \{Tomoya}「いや、威張られても」
// <0153> \{智代}「だからクマとパンダは仲がいいという夢を見せてあげたい」
<0153> \{Tomoyo}「だからクマとパンダは仲がいいという夢を見せてあげたい」
// <0154> \{朋也}「いや、別にいいじゃん。そんな夢」
<0154> \{Tomoya}「いや、別にいいじゃん。そんな夢」
// <0155> \{智代}「そこでだ…」
<0155> \{Tomoyo}「そこでだ…」
// <0156> 話を聞いていない。
<0156> 話を聞いていない。
// <0157> \{智代}「おまえと鷹文がクマとパンダになって、仲の良さを見せてやってくれ」
<0157> \{Tomoyo}「おまえと鷹文がクマとパンダになって、仲の良さを見せてやってくれ」
// <0158> 俺は考える。
<0158> 俺は考える。
// <0159> \{朋也}「…白の上着に黒のズボンをはいて、マジックで目の周りを黒く塗りでもすればいいのか?」
<0159> \{Tomoya}「…白の上着に黒のズボンをはいて、マジックで目の周りを黒く塗りでもすればいいのか?」
// <0160> \{智代}「馬鹿、人間丸出しじゃないか」
<0160> \{Tomoyo}「馬鹿、人間丸出しじゃないか」
// <0161> \{朋也}「じゃあどうしろって」
<0161> \{Tomoya}「じゃあどうしろって」
// <0162> \{智代}「私がクマとパンダの着ぐるみを用意する」
<0162> \{Tomoyo}「私がクマとパンダの着ぐるみを用意する」
// <0163> \{朋也}「クマはあったよな、確か。けどパンダはないだろ、さすがに」
<0163> \{Tomoya}「クマはあったよな、確か。けどパンダはないだろ、さすがに」
// <0164> \{智代}「実は今年の創立者祭で、私が用意した」
<0164> \{Tomoyo}「実は今年の創立者祭で、私が用意した」
// <0165> \{朋也}「………」
<0165> \{Tomoya}「………」
// <0166> 俺は閉口する他ない。
<0166> 俺は閉口する他ない。
// <0167> \{鷹文}「じゃんけっん、ぽんっ!」
<0167> \{Takafumi}「じゃんけっん、ぽんっ!」
// <0168> \{鷹文}「うわぁ、負けた」
<0168> \{Takafumi}「うわぁ、負けた」
// <0169> \{朋也}「よしっ、勝った!」
<0169> \{Tomoya}「よしっ、勝った!」
// <0170> \{朋也}「…って、どっちでもいいんだけどさ」
<0170> \{Tomoya}「…って、どっちでもいいんだけどさ」
// <0171> \{朋也}「勝ったほうがどっちだっけ、シマウマ?」
<0171> \{Tomoya}「勝ったほうがどっちだっけ、シマウマ?」
// <0172> \{智代}「そんなどうでもいいみたいに言うな。しかもパンダだ、シマウマじゃない」
<0172> \{Tomoyo}「そんなどうでもいいみたいに言うな。しかもパンダだ、シマウマじゃない」
// <0173> 植木の影に隠れて着替えを始める。
<0173> 植木の影に隠れて着替えを始める。
// <0174> アパートから人が出てこないことを祈るしかない。これでは単なる変質者だ。
<0174> アパートから人が出てこないことを祈るしかない。これでは単なる変質者だ。
// <0175> 智代が俺たちの背後に回り、背中のファスナーを上げる。
<0175> 智代が俺たちの背後に回り、背中のファスナーを上げる。
// <0176> 最後に頭をかぶり、完成だ。
<0176> 最後に頭をかぶり、完成だ。
// <0177> \{智代}「さて、動いてみせてくれ。まず朋也」
<0177> \{Tomoyo}「さて、動いてみせてくれ。まず朋也」
// <0178> パンダ、パンダと。
<0178> パンダ、パンダと。
// <0179> 俺はその場をうろうろ歩いてみせた後、智代を振り返る。
<0179> 俺はその場をうろうろ歩いてみせた後、智代を振り返る。
// <0180> 結構真剣に似せたつもりなんだが、智代の顔は不満げだ。
<0180> 結構真剣に似せたつもりなんだが、智代の顔は不満げだ。
// <0181> 鳴いてみよう。
<0181> 鳴いてみよう。
// <0182> \{朋也}「ケェーーーーーッ!」
<0182> \{Tomoya}「ケェーーーーーッ!」
// <0183> \{智代}「そんな声で鳴くかっ」
<0183> \{Tomoyo}「そんな声で鳴くかっ」
// <0184> \{智代}「しかもむちゃくちゃ直立していたじゃないか、もっと丸まれ」
<0184> \{Tomoyo}「しかもむちゃくちゃ直立していたじゃないか、もっと丸まれ」
// <0185> \{智代}「次は鷹文っ」
<0185> \{Tomoyo}「次は鷹文っ」
// <0186> 俺と入れ替わり、クマの着ぐるみが歩行を始める。
<0186> 俺と入れ替わり、クマの着ぐるみが歩行を始める。
// <0187> \{朋也}「わははははっ、おまえ、無茶苦茶直立してるぞっ、すげぇ姿勢のいいクマだな!」
<0187> \{Tomoya}「わははははっ、おまえ、無茶苦茶直立してるぞっ、すげぇ姿勢のいいクマだな!」
// <0188> \{智代}「おまえが笑うな」
<0188> \{Tomoyo}「おまえが笑うな」
// <0189> クマは木の枝に向かってパンチを繰り出す。凶暴さをアピールしているようだ。
<0189> クマは木の枝に向かってパンチを繰り出す。凶暴さをアピールしているようだ。
// <0190> \{朋也}「ばーか、それだって、人間のパンチじゃないかよ」
<0190> \{Tomoya}「ばーか、それだって、人間のパンチじゃないかよ」
// <0191> \{朋也}「こうだよ、こうっ」
<0191> \{Tomoya}「こうだよ、こうっ」
// <0192> フック気味にパンチを繰り出す。
<0192> フック気味にパンチを繰り出す。
// <0193> クマも振り返って、同じようにする。
<0193> クマも振り返って、同じようにする。
// <0194> すぱーん!と俺のパンダの顎にヒットした。
<0194> すぱーん!と俺のパンダの顎にヒットした。
// <0195> \{朋也}「お、やってくれるな」
<0195> \{Tomoya}「お、やってくれるな」
// <0196> しゅっ…
<0196> しゅっ…
// <0197> すぱーんっ!
<0197> すぱーんっ!
// <0198> 殴り返す。
<0198> 殴り返す。
// <0199> しゅっ…
<0199> しゅっ…
// <0200> ぱーんっ!
<0200> ぱーんっ!
// <0201> また返される。
<0201> また返される。
// <0202> すぱーんっ!
<0202> すぱーんっ!
// <0203> すぱーんっ!
<0203> すぱーんっ!
// <0204> すぱーんっ!
<0204> すぱーんっ!
// <0205> すぱーんっ!
<0205> すぱーんっ!
// <0206> ぼごっ!
<0206> ぼごっ!
// <0207> どぐっ!
<0207> どぐっ!
// <0208> どごっ!
<0208> どごっ!
// <0209> どぐっ!
<0209> どぐっ!
// <0210> べきっ!
<0210> べきっ!
// <0211> ばきっ!
<0211> ばきっ!
// <0212> ぼきっ!
<0212> ぼきっ!
// <0213> べきっ!
<0213> べきっ!
// <0214> ばきっ!
<0214> ばきっ!
// <0215> ぼきっ!
<0215> ぼきっ!
// <0216> 殴り合いになる。
<0216> 殴り合いになる。
// <0217> \{とも}「うわー、なんかけんかしてるっ!」
<0217> \{Tomo}「うわー、なんかけんかしてるっ!」
// <0218> \{とも}「パパーーっ! ママーーっ!」
<0218> \{Tomo}「パパーーっ! ママーーっ!」
// <0219> ………。
<0219> ………。
// <0220> \{智代}「…お、おまえらは…」
<0220> \{Tomoyo}「…お、おまえらは…」
// <0221> \{智代}「…何が起きたか、わかってるのか…」
<0221> \{Tomoyo}「…何が起きたか、わかってるのか…」
// <0222> 俺は着ぐるみの頭を持ち上げて、顔を外気にさらす。
<0222> 俺は着ぐるみの頭を持ち上げて、顔を外気にさらす。
// <0223> \{朋也}「よく見えなかったが、どうやら、ともがいたみたいだな。もういないのか?」
<0223> \{Tomoya}「よく見えなかったが、どうやら、ともがいたみたいだな。もういないのか?」
// <0224> \{智代}「ああ…逃げていった」
<0224> \{Tomoyo}「ああ…逃げていった」
// <0225> \{智代}「おまえらの、殴り合いを見てな…」
<0225> \{Tomoyo}「おまえらの、殴り合いを見てな…」
// <0226> \{朋也}「どうでもいいが、これで殴り合うと、楽しいな。痛くないし。な、鷹文」
<0226> \{Tomoya}「どうでもいいが、これで殴り合うと、楽しいな。痛くないし。な、鷹文」
// <0227> \{智代}「殴り合うなあぁぁーーっ!」
<0227> \{Tomoyo}「殴り合うなあぁぁーーっ!」
// <0228> \{朋也}「今、唾とんだ」
<0228> \{Tomoya}「今、唾とんだ」
// <0229> \{智代}「ああ、悪い…どこだ、ここか…」
<0229> \{Tomoyo}「ああ、悪い…どこだ、ここか…」
// <0230> 顔を指で拭いてくれる。
<0230> 顔を指で拭いてくれる。
// <0231> \{智代}「あと、どうでもいいって言うなあぁぁーーーっ!」
<0231> \{Tomoyo}「あと、どうでもいいって言うなあぁぁーーーっ!」
// <0232> \{朋也}「忙しい奴だな…」
<0232> \{Tomoya}「忙しい奴だな…」
// <0233> \{智代}「大事なことなんだぞ、これはっ」
<0233> \{Tomoyo}「大事なことなんだぞ、これはっ」
// <0234> \{智代}「ともの夢が壊れてしまうじゃないか…」
<0234> \{Tomoyo}「ともの夢が壊れてしまうじゃないか…」
// <0235> \{智代}「私たちが守らなくて、誰が守るんだっ」
<0235> \{Tomoyo}「私たちが守らなくて、誰が守るんだっ」
// <0236> 俺と鷹文が同時に、智代を指さす。
<0236> 俺と鷹文が同時に、智代を指さす。
// <0237> \{智代}「なんなんだっ! そんなときだけ打ち合わせしたように合わせるなっ」
<0237> \{Tomoyo}「なんなんだっ! そんなときだけ打ち合わせしたように合わせるなっ」
// <0238> \{智代}「もういい…」
<0238> \{Tomoyo}「もういい…」
// <0239> \{智代}「おまえたちに期待した私が馬鹿だった…」
<0239> \{Tomoyo}「おまえたちに期待した私が馬鹿だった…」
// <0240> \{智代}「ともの夢は私ひとりで守る…」
<0240> \{Tomoyo}「ともの夢は私ひとりで守る…」
// <0241> \{智代}「脱げ…ひとり二役でも、なんでもこなしてみせる…」
<0241> \{Tomoyo}「脱げ…ひとり二役でも、なんでもこなしてみせる…」
// <0242> \{智代}「素早く動けば、残像が残って、クマとパンダ、ふたり同時にいるように見えるだろ…」
<0242> \{Tomoyo}「素早く動けば、残像が残って、クマとパンダ、ふたり同時にいるように見えるだろ…」
// <0243> \{朋也}「いくらおまえでも無理だからさ…」
<0243> \{Tomoya}「いくらおまえでも無理だからさ…」
// <0244> \{鷹文}「冗談だよ、ねぇちゃん」
<0244> \{Takafumi}「冗談だよ、ねぇちゃん」
// <0245> 鷹文も頭を取る。
<0245> 鷹文も頭を取る。
// <0246> \{智代}「すでに、冗談になっていないっ」
<0246> \{Tomoyo}「すでに、冗談になっていないっ」
// <0247> \{鷹文}「これから仲のいいところを見せるからさ」
<0247> \{Takafumi}「これから仲のいいところを見せるからさ」
// <0248> \{智代}「本当だろうな…」
<0248> \{Tomoyo}「本当だろうな…」
// <0249> \{鷹文}「信用ないなあ」
<0249> \{Takafumi}「信用ないなあ」
// <0250> \{智代}「あるわけないだろ」
<0250> \{Tomoyo}「あるわけないだろ」
// <0251> \{朋也}「はっはっは、弟のくせに」
<0251> \{Tomoya}「はっはっは、弟のくせに」
// <0252> \{智代}「おまえもだ」
<0252> \{Tomoyo}「おまえもだ」
// <0253> がーーーーん…
<0253> がーーーーん…
// <0254> \{鷹文}「ははは、彼氏のくせに」
<0254> \{Takafumi}「ははは、彼氏のくせに」
// <0255> ぼかっとクマの腹を殴ってやる。
<0255> ぼかっとクマの腹を殴ってやる。
// <0256> \{智代}「殴るなぁぁーーっ!」
<0256> \{Tomoyo}「殴るなぁぁーーっ!」
// <0257> \{朋也}「また唾とんだ」
<0257> \{Tomoya}「また唾とんだ」
// <0258> \{智代}「ああ、悪い…
<0258> \{Tomoyo}「ああ、悪い…
// <0259> って、もういいっ」
<0259> って、もういいっ」
// <0260> \{智代}「いいか、これからおまえたちがボケたら、これで突っ込んでやるからな」
<0260> \{Tomoyo}「いいか、これからおまえたちがボケたら、これで突っ込んでやるからな」
// <0261> 智代の手にはお手製のハリセン。
<0261> 智代の手にはお手製のハリセン。
// <0262> \{朋也}「というか、ボケるつもりはないんだが」
<0262> \{Tomoya}「というか、ボケるつもりはないんだが」
// <0263> \{鷹文}「ボケてたつもりもないしね」
<0263> \{Takafumi}「ボケてたつもりもないしね」
// <0264> すぱーーーんっ!
<0264> すぱーーーんっ!
// <0265> と鷹文がはたかれる。
<0265> と鷹文がはたかれる。
// <0266> \{智代}「うん、今のはいいボケだったな」
<0266> \{Tomoyo}「うん、今のはいいボケだったな」
// <0267> \{朋也}「天然も含まれるそうだぞ」
<0267> \{Tomoya}「天然も含まれるそうだぞ」
// <0268> \{鷹文}「あと、かなり痛い…」
<0268> \{Takafumi}「あと、かなり痛い…」
// <0269> \{智代}「だったら早く頭をかぶれ」
<0269> \{Tomoyo}「だったら早く頭をかぶれ」
// <0270> \{朋也}「頭かぶると、相手の声、聞こえづらくなるから気をつけろ」
<0270> \{Tomoya}「頭かぶると、相手の声、聞こえづらくなるから気をつけろ」
// <0271> \{鷹文}「オーケー、身振り手振りで伝えるよ」
<0271> \{Takafumi}「オーケー、身振り手振りで伝えるよ」
// <0272> \{智代}「ほら、早くしろ。今もともの頭の中では、クマとパンダが喧嘩したまんまなんだぞ」
<0272> \{Tomoyo}「ほら、早くしろ。今もともの頭の中では、クマとパンダが喧嘩したまんまなんだぞ」
// <0273> 智代に急かされ、俺と鷹文は頭をかぶり、動物と化す。
<0273> 智代に急かされ、俺と鷹文は頭をかぶり、動物と化す。
// <0274> \{智代}「のっそり歩け。そうそう。いい感じだ」
<0274> \{Tomoyo}「のっそり歩け。そうそう。いい感じだ」
// <0275> のっそりと歩いていく。
<0275> のっそりと歩いていく。
// <0276> \{とも}「あ、ママ、さがしてたっ」
<0276> \{Tomo}「あ、ママ、さがしてたっ」
// <0277> \{智代}「どうしたんだ、とも」
<0277> \{Tomoyo}「どうしたんだ、とも」
// <0278> \{とも}「わー、さっきのがはいってきてるっ」
<0278> \{Tomo}「わー、さっきのがはいってきてるっ」
// <0279> \{智代}「ああ、恐がることはないぞ。さっきともが見たのは、ただふざけていただけなんだ」
<0279> \{Tomoyo}「ああ、恐がることはないぞ。さっきともが見たのは、ただふざけていただけなんだ」
// <0280> \{智代}「実はとても仲がいいんだ、こいつらは」
<0280> \{Tomoyo}「実はとても仲がいいんだ、こいつらは」
// <0281> \{智代}「なっ」
<0281> \{Tomoyo}「なっ」
// <0282> \{クマ}「………」
<0282> \{Bear}「………」
// <0283> \{パンダ}「………」
<0283> \{Panda}「………」
// <0284> 棒立ちのふたり。
<0284> 棒立ちのふたり。
// <0285> \{智代}「………」
<0285> \{Tomoyo}「………」
// <0286> 智代の頬が震えている気がする。
<0286> 智代の頬が震えている気がする。
// <0287> 何かしないとまずそうだ。
<0287> 何かしないとまずそうだ。
// <0288> 仲のよさを証明せねば。
<0288> 仲のよさを証明せねば。
// <0289> 俺はクマを座らせてから、押し倒す。
<0289> 俺はクマを座らせてから、押し倒す。
// <0290> すぱーーーーんっ!
<0290> すぱーーーーんっ!
// <0291> 殴られた。
<0291> 殴られた。
// <0292> 今ので伝わる智代もすごいが。
<0292> 今ので伝わる智代もすごいが。
// <0293> \{とも}「どうしたの?」
<0293> \{Tomo}「どうしたの?」
// <0294> \{智代}「こいつらがボケたから突っ込んだだけだ。これはお決まりだ。気にするな」
<0294> \{Tomoyo}「こいつらがボケたから突っ込んだだけだ。これはお決まりだ。気にするな」
// <0295> \{智代}「さて、今度は本当に仲の良さを見せてくれるぞ」
<0295> \{Tomoyo}「さて、今度は本当に仲の良さを見せてくれるぞ」
// <0296> そう言われても…
<0296> そう言われても…
// <0297> 俺はクマを見る。クマは小首を傾げ、腕組みをした。
<0297> 俺はクマを見る。クマは小首を傾げ、腕組みをした。
// <0298> 俺も腕組みをして考えてみる。
<0298> 俺も腕組みをして考えてみる。
// <0299> \{クマ}「………」
<0299> \{Bear}「………」
// <0300> \{パンダ}「………」
<0300> \{Panda}「………」
// <0301> \{とも}「…かんがえごとしてる」
<0301> \{Tomo}「…かんがえごとしてる」
// <0302> \{智代}「そうだな…」
<0302> \{Tomoyo}「そうだな…」
// <0303> \{とも}「なにかんがえてるんだろ」
<0303> \{Tomo}「なにかんがえてるんだろ」
// <0304> \{智代}「きっと楽しいことだぞ。何をして遊ぼうか、とかな」
<0304> \{Tomoyo}「きっと楽しいことだぞ。何をして遊ぼうか、とかな」
// <0305> \{クマ}「………」
<0305> \{Bear}「………」
// <0306> \{パンダ}「………」
<0306> \{Panda}「………」
// <0307> \{クマ}「………」
<0307> \{Bear}「………」
// <0308> ふたりとも身じろぎひとつしない。
<0308> ふたりとも身じろぎひとつしない。
// <0309> \{とも}「そんなたのしいことかんがえてなさそー…」
<0309> \{Tomo}「そんなたのしいことかんがえてなさそー…」
// <0310> すぱーーーーんっ!
<0310> すぱーーーーんっ!
// <0311> 突っ込みがきた。
<0311> 突っ込みがきた。
// <0312> ふたりして、だってぇ、と両腕を開いて、智代に抗議する。
<0312> ふたりして、だってぇ、と両腕を開いて、智代に抗議する。
// <0313> ああ、わかった、わかった、と智代が頷く。
<0313> ああ、わかった、わかった、と智代が頷く。
// <0314> \{智代}「実はこのパンダとクマは、芸ができるんだ」
<0314> \{Tomoyo}「実はこのパンダとクマは、芸ができるんだ」
// <0315> \{とも}「どんな?」
<0315> \{Tomo}「どんな?」
// <0316> \{智代}「組体操」
<0316> \{Tomoyo}「組体操」
// <0317> \{とも}「くみたいそう?」
<0317> \{Tomo}「くみたいそう?」
// <0318> \{智代}「ああ。ふたりで協力して、扇の形を作るぞ。扇とはこういう扇子の形だな」
<0318> \{Tomoyo}「ああ。ふたりで協力して、扇の形を作るぞ。扇とはこういう扇子の形だな」
// <0319> \{智代}「よく見てるんだぞ、とも」
<0319> \{Tomoyo}「よく見てるんだぞ、とも」
// <0320> \{とも}「うん」
<0320> \{Tomo}「うん」
// <0321> …ふたりでできるのか、あれ。
<0321> …ふたりでできるのか、あれ。
// <0322> クマと目を合わせる。その顔が頷く。
<0322> クマと目を合わせる。その顔が頷く。
// <0323> ここは言うとおりにしよう、ということだ。
<0323> ここは言うとおりにしよう、ということだ。
// <0324> 俺はクマと手を握り合う。
<0324> 俺はクマと手を握り合う。
// <0325> \{とも}「わあ、てつないだよっ」
<0325> \{Tomo}「わあ、てつないだよっ」
// <0326> \{智代}「うん、仲がいいんだ」
<0326> \{Tomoyo}「うん、仲がいいんだ」
// <0327> ふたり肩を並べて、お互いの内側の足を支点にして、右と左に体重を掛け合う。
<0327> ふたり肩を並べて、お互いの内側の足を支点にして、右と左に体重を掛け合う。
// <0328> \{智代}「ほら、これが扇だ」
<0328> \{Tomoyo}「ほら、これが扇だ」
// <0329> びりっ。
<0329> びりっ。
// <0330> …びりっ?
<0330> …びりっ?
// <0331> その音と共に、力が抜けたようにふたりは倒れてしまう。
<0331> その音と共に、力が抜けたようにふたりは倒れてしまう。
// <0332> 視界の先、俺の手の中に、クマの片手だけがあった。
<0332> 視界の先、俺の手の中に、クマの片手だけがあった。
// <0333> \{とも}「うわーっ、て、とれたっ!」
<0333> \{Tomo}「うわーっ、て、とれたっ!」
// <0334> \{とも}「うわっ、なんか、なかみでてるっ!」
<0334> \{Tomo}「うわっ、なんか、なかみでてるっ!」
// <0335> \{とも}「うわー、うわー!」
<0335> \{Tomo}「うわー、うわー!」
// <0336> 視界が揺れてる。
<0336> 視界が揺れてる。
// <0337> ともの叫び声が遠ざかっていく。
<0337> ともの叫び声が遠ざかっていく。
// <0338> 気づくと、外にいた。
<0338> 気づくと、外にいた。
// <0339> \{智代}「はぁ…はぁ…」
<0339> \{Tomoyo}「はぁ…はぁ…」
// <0340> \{智代}「新たなトラウマを与えるなあぁぁーーっ!」
<0340> \{Tomoyo}「新たなトラウマを与えるなあぁぁーーっ!」
// <0341> すぱぱーーーんっ!とふたり同時に叩かれる。
<0341> すぱぱーーーんっ!とふたり同時に叩かれる。
// <0342> \{朋也}「いや、だって、おまえの案だろ」
<0342> \{Tomoya}「いや、だって、おまえの案だろ」
// <0343> 俺と鷹文は頭部をはずして、胸に抱える。
<0343> 俺と鷹文は頭部をはずして、胸に抱える。
// <0344> \{鷹文}「次は手に包帯してたら自然じゃない?」
<0344> \{Takafumi}「次は手に包帯してたら自然じゃない?」
// <0345> \{智代}「手をとれたままにするなっ!」
<0345> \{Tomoyo}「手をとれたままにするなっ!」
// <0346> \{朋也}「またくっついてたほうが恐いだろ」
<0346> \{Tomoya}「またくっついてたほうが恐いだろ」
// <0347> \{智代}「なかったことにするんだ。私が縫い直しておくから」
<0347> \{Tomoyo}「なかったことにするんだ。私が縫い直しておくから」
// <0348> \{智代}「今日は終わりだ」
<0348> \{Tomoyo}「今日は終わりだ」
// <0349> ともに夢を見せるのは失敗に終わったようだった。
<0349> ともに夢を見せるのは失敗に終わったようだった。
// <0350> \{とも}「ママ、ぶじだった!」
<0350> \{Tomo}「ママ、ぶじだった!」
// <0351> 部屋に戻ると、すぐともが智代の元まで飛んでくる。
<0351> 部屋に戻ると、すぐともが智代の元まで飛んでくる。
// <0352> \{智代}「ああ、無事だぞ。どうしたんだ?」
<0352> \{Tomoyo}「ああ、無事だぞ。どうしたんだ?」
// <0353> \{とも}「さっきのクマとパンダ、すごくこわかった」
<0353> \{Tomo}「さっきのクマとパンダ、すごくこわかった」
// <0354> \{智代}「今日はおかしかったけど、普段はいい奴らなんだ。また今度遊ぼうと言ってたぞ」
<0354> \{Tomoyo}「今日はおかしかったけど、普段はいい奴らなんだ。また今度遊ぼうと言ってたぞ」
// <0355> ぶんぶんと首を横に振る。
<0355> ぶんぶんと首を横に振る。
// <0356> \{智代}「………」
<0356> \{Tomoyo}「………」
// <0357> \{智代}「よし、気を取り直して、買い物にいこう。冷蔵庫がからっぽだ」
<0357> \{Tomoyo}「よし、気を取り直して、買い物にいこう。冷蔵庫がからっぽだ」
// <0358> \{とも}「うんー」
<0358> \{Tomo}「うんー」
// <0359> ともが俺と鷹文を振り返る。
<0359> ともが俺と鷹文を振り返る。
// <0360> \{とも}「おにいちゃんとパパは?」
<0360> \{Tomo}「おにいちゃんとパパは?」
// <0361> \{智代}「あいつらは反省会だ」
<0361> \{Tomoyo}「あいつらは反省会だ」
// <0362> \{とも}「はんせい? わるいことしちゃったのー?」
<0362> \{Tomo}「はんせい? わるいことしちゃったのー?」
// <0363> \{智代}「ああ、とっても悪いことだ。いたいけな子供心をもてあそぶなんてな」
<0363> \{Tomoyo}「ああ、とっても悪いことだ。いたいけな子供心をもてあそぶなんてな」
// <0364> \{智代}「というわけで、残念だがふたりでいこう」
<0364> \{Tomoyo}「というわけで、残念だがふたりでいこう」
// <0365> \{とも}「しかたないねー」
<0365> \{Tomo}「しかたないねー」
// <0366> \{とも}「じゃあねー」
<0366> \{Tomo}「じゃあねー」
// <0367> ともが手を握ったり、開いたりする。
<0367> ともが手を握ったり、開いたりする。
// <0368> 俺たちも同じようにして見送った。
<0368> 俺たちも同じようにして見送った。
// <0369> \{鷹文}「………」
<0369> \{Takafumi}「………」
// <0370> \{鷹文}「…反省会するの?」
<0370> \{Takafumi}「…反省会するの?」
// <0371> \{朋也}「ぜんぶおまえが悪い。終わり」
<0371> \{Tomoya}「ぜんぶおまえが悪い。終わり」
// <0372> \{鷹文}「僕なんにもしてないんだけどさ」
<0372> \{Takafumi}「僕なんにもしてないんだけどさ」
// <0373> \{朋也}「しかし…なんか最近この2対2の図が多くないか?」
<0373> \{Tomoya}「しかし…なんか最近この2対2の図が多くないか?」
// <0374> \{鷹文}「そりゃねぇちゃん、ともにべったりだもん」
<0374> \{Takafumi}「そりゃねぇちゃん、ともにべったりだもん」
// <0375> \{朋也}「恋人としては、危機的状況だぞ」
<0375> \{Tomoya}「恋人としては、危機的状況だぞ」
// <0376> \{鷹文}「まあいいじゃん。それまでべったりだったんだから」
<0376> \{Takafumi}「まあいいじゃん。それまでべったりだったんだから」
// <0377> \{鷹文}「僕はねぇちゃんが幸せそうだったらいいよ」
<0377> \{Takafumi}「僕はねぇちゃんが幸せそうだったらいいよ」
// <0378> \{朋也}「おまえ、自分の姉が女として悦んでる姿を見るのが趣味だったはずじゃないか」
<0378> \{Tomoya}「おまえ、自分の姉が女として悦んでる姿を見るのが趣味だったはずじゃないか」
// <0379> \{鷹文}「いや、そんな趣味ないから」
<0379> \{Takafumi}「いや、そんな趣味ないから」
// <0380> \{朋也}「あのな、俺はともがやってきてから、してないんだぞ」
<0380> \{Tomoya}「あのな、俺はともがやってきてから、してないんだぞ」
// <0381> \{鷹文}「いや、そんなこと激白されても…」
<0381> \{Takafumi}「いや、そんなこと激白されても…」
// <0382> \{朋也}「おまえ、手伝うって言ってたじゃないか」
<0382> \{Tomoya}「おまえ、手伝うって言ってたじゃないか」
// <0383> \{鷹文}「何を?」
<0383> \{Takafumi}「何を?」
// <0384> \{朋也}「エッチ」
<0384> \{Tomoya}「エッチ」
// <0385> \{鷹文}「…そんなこと言ったっけ?」
<0385> \{Takafumi}「…そんなこと言ったっけ?」
// <0386> \{朋也}「言ったよ。それが僕にできる唯一の恩返しだって」
<0386> \{Tomoya}「言ったよ。それが僕にできる唯一の恩返しだって」
// <0387> \{鷹文}「言ったかなあ。しかも恩ってなんだろ」
<0387> \{Takafumi}「言ったかなあ。しかも恩ってなんだろ」
// <0388> \{朋也}「ほら、勝手にパソコン置いて、占拠してるだろ」
<0388> \{Tomoya}「ほら、勝手にパソコン置いて、占拠してるだろ」
// <0389> \{鷹文}「いや、まあそうだけど」
<0389> \{Takafumi}「いや、まあそうだけど」
// <0390> \{朋也}「な。今こそ、恩を返せ」
<0390> \{Tomoya}「な。今こそ、恩を返せ」
// <0391> \{鷹文}「何をすればいいのさ。ねぇちゃんを羽交い締めにするとか?」
<0391> \{Takafumi}「何をすればいいのさ。ねぇちゃんを羽交い締めにするとか?」
// <0392> \{朋也}「そんなのふたりがかりでも無理だ」
<0392> \{Tomoya}「そんなのふたりがかりでも無理だ」
// <0393> \{鷹文}「さっきは、僕たちふたりが担がれてたぐらいだからね」
<0393> \{Takafumi}「さっきは、僕たちふたりが担がれてたぐらいだからね」
// <0394> \{朋也}「なんか考えろよ、おまえ、そういうの得意そうじゃん。ゲーム作れるぐらいなんだからさ」
<0394> \{Tomoya}「なんか考えろよ、おまえ、そういうの得意そうじゃん。ゲーム作れるぐらいなんだからさ」
// <0395> \{鷹文}「…関係なくない?」
<0395> \{Takafumi}「…関係なくない?」
// <0396> \{朋也}「ようはアイデア勝負ってことだよ。知恵だせよ」
<0396> \{Tomoya}「ようはアイデア勝負ってことだよ。知恵だせよ」
// <0397> \{鷹文}「仕方のない人だなあ」
<0397> \{Takafumi}「仕方のない人だなあ」
// <0398> \{鷹文}「じゃあ、ともを利用することにするよ。今のあの人の弱みはそこだからね」
<0398> \{Takafumi}「じゃあ、ともを利用することにするよ。今のあの人の弱みはそこだからね」
// <0399> \{朋也}「すげぇ悪知恵だな…」
<0399> \{Tomoya}「すげぇ悪知恵だな…」
// <0400> \{鷹文}「ともなら無力だからね。人質にとったら、ねぇちゃんに好き放題できるよ」
<0400> \{Takafumi}「ともなら無力だからね。人質にとったら、ねぇちゃんに好き放題できるよ」
// <0401> \{朋也}「いや、そうかもしれないけどさ、それすげぇ卑劣だからさ」
<0401> \{Tomoya}「いや、そうかもしれないけどさ、それすげぇ卑劣だからさ」
// <0402> \{鷹文}「どんなのがご所望で?」
<0402> \{Takafumi}「どんなのがご所望で?」
// <0403> 料理を作ってる最中の智代を後ろから
<0403> 料理を作ってる最中の智代を後ろから
// <0404> 昼寝しているともの真横で声を殺して
<0404> 昼寝しているともの真横で声を殺して
// <0405> 所望しない
<0405> 所望しない
// <0406> \{朋也}「料理を作ってる最中の智代を後ろから」
<0406> \{Tomoya}「料理を作ってる最中の智代を後ろから」
// <0407> …答えてしまっている俺がいた!
<0407> …答えてしまっている俺がいた!
// <0408> \{鷹文}「オーケー。そう指示するよ。そっちもうまくやってよね」
<0408> \{Takafumi}「オーケー。そう指示するよ。そっちもうまくやってよね」
// <0409> \{朋也}「昼寝しているともの真横で声を殺して」
<0409> \{Tomoya}「昼寝しているともの真横で声を殺して」
// <0410> …答えてしまっている俺がいた!
<0410> …答えてしまっている俺がいた!
// <0411> \{鷹文}「………」
<0411> \{Takafumi}「………」
// <0412> しかも少し引かれた!
<0412> しかも少し引かれた!
// <0413> \{鷹文}「まあいいや、そう指示するよ。そっちもうまくやってよね」
<0413> \{Takafumi}「まあいいや、そう指示するよ。そっちもうまくやってよね」
// <0414> \{朋也}「う…」
<0414> \{Tomoya}「う…」
// <0415> のど元まで性癖丸出しのシチュエーションが出かかったが、髪の毛を掻きむしり、必死に堪えてみせる。
<0415> のど元まで性癖丸出しのシチュエーションが出かかったが、髪の毛を掻きむしり、必死に堪えてみせる。
// <0416> \{朋也}「うおぉぉぉ…」
<0416> \{Tomoya}「うおぉぉぉ…」
// <0417> \{鷹文}「ものすごい葛藤が見て取れるんだけど…」
<0417> \{Takafumi}「ものすごい葛藤が見て取れるんだけど…」
// <0418> \{鷹文}「選びきれないの?」
<0418> \{Takafumi}「選びきれないの?」
// <0419> \{鷹文}「まあいいや、その時にまで考えといてね」
<0419> \{Takafumi}「まあいいや、その時にまで考えといてね」
// <0420> 鷹文は本当にやる気のようだ。
<0420> 鷹文は本当にやる気のようだ。
// <0421> まあ、智代が相手だ。その時は訪れないだろうが。
<0421> まあ、智代が相手だ。その時は訪れないだろうが。
// <0422> \{智代}「ただいま」
<0422> \{Tomoyo}「ただいま」
// <0423> \{とも}「ただいまー」
<0423> \{Tomo}「ただいまー」
// <0424> ふたりが帰宅する。
<0424> ふたりが帰宅する。
// <0425> \{智代}「反省したか?」
<0425> \{Tomoyo}「反省したか?」
// <0426> \{朋也}「ああ、したよ」
<0426> \{Tomoya}「ああ、したよ」
// <0427> \{鷹文}「僕が全部悪いことになったけどね」
<0427> \{Takafumi}「僕が全部悪いことになったけどね」
// <0428> \{智代}「なんだそれは?」
<0428> \{Tomoyo}「なんだそれは?」
// <0429> 俺は鷹文のケツを蹴っておく。
<0429> 俺は鷹文のケツを蹴っておく。
// <0430> \{とも}「なっとー!」
<0430> \{Tomo}「なっとー!」
// <0431> ともがスーパーの袋から、納豆のパックを取り出していた。
<0431> ともがスーパーの袋から、納豆のパックを取り出していた。
// <0432> \{とも}「みんな、なっとー、たべれるかなー」
<0432> \{Tomo}「みんな、なっとー、たべれるかなー」
// <0433> \{朋也}「なんだ? ともは食べられるのか、えらいな」
<0433> \{Tomoya}「なんだ? ともは食べられるのか、えらいな」
// <0434> ともが話を逸らせてくれたのでありがたく便乗しておく。
<0434> ともが話を逸らせてくれたのでありがたく便乗しておく。
// <0435> \{とも}「うん、すごいでしょー」
<0435> \{Tomo}「うん、すごいでしょー」
// <0436> \{智代}「だから今日は餃子にした」
<0436> \{Tomoyo}「だから今日は餃子にした」
// <0437> \{朋也}「餃子に納豆?」
<0437> \{Tomoya}「餃子に納豆?」
// <0438> \{智代}「うん、納豆餃子だ。安上がりだしな」
<0438> \{Tomoyo}「うん、納豆餃子だ。安上がりだしな」
// <0439> 想像もつかないが、智代のことだから、きっと美味しいんだろう。
<0439> 想像もつかないが、智代のことだから、きっと美味しいんだろう。
// <0440> \{智代}「もうこんな時間か。楽しかったんで、つい長居をしてしまった」
<0440> \{Tomoyo}「もうこんな時間か。楽しかったんで、つい長居をしてしまった」
// <0441> \{智代}「すぐ作るから、待っていてくれ」
<0441> \{Tomoyo}「すぐ作るから、待っていてくれ」
// <0442> 言って、台所に入っていく。
<0442> 言って、台所に入っていく。
// <0443> ともも、ぴったりとその後ろについていく。
<0443> ともも、ぴったりとその後ろについていく。
// <0444> 鷹文が入れ替わりに立ち上がる。
<0444> 鷹文が入れ替わりに立ち上がる。
// <0445> 何かを心に決めた男の表情だ。
<0445> 何かを心に決めた男の表情だ。
// <0446> そのまま無言で表へと出ていった。
<0446> そのまま無言で表へと出ていった。
// <0447> すぐ戻ってくる。
<0447> すぐ戻ってくる。
// <0448> \{朋也}「うぉぉ…こわいぞ、おまえ…」
<0448> \{Tomoya}「うぉぉ…こわいぞ、おまえ…」
// <0449> その鷹文の顔は紙袋で覆われていた。前面にはふたつの穴が開いていて、とりあえずそれで視界は確保してあるようだ。
<0449> その鷹文の顔は紙袋で覆われていた。前面にはふたつの穴が開いていて、とりあえずそれで視界は確保してあるようだ。
// <0450> そのまままっすぐに台所へ。
<0450> そのまままっすぐに台所へ。
// <0451> ともの背後に膝をつくと、その首に腕を回した。
<0451> ともの背後に膝をつくと、その首に腕を回した。
// <0452> \{とも}「わあ」
<0452> \{Tomo}「わあ」
// <0453> ともが悲鳴をあげる。
<0453> ともが悲鳴をあげる。
// <0454> \{智代}「どうした、とも?」
<0454> \{Tomoyo}「どうした、とも?」
// <0455> \{鷹文}「動くなあっ! 一歩でも動いたら」
<0455> \{Takafumi}「動くなあっ! 一歩でも動いたら」
// <0456> その時、彼は死を覚悟したという。
<0456> その時、彼は死を覚悟したという。
// <0457> 空を切って唸りをあげる智代の右足。
<0457> 空を切って唸りをあげる智代の右足。
// <0458> ばきいいぃぃぃぃーーーーーっ!
<0458> ばきいいぃぃぃぃーーーーーっ!
// <0459> \{智代}「まったく…開いた口がふさがらない」
<0459> \{Tomoyo}「まったく…開いた口がふさがらない」
// <0460> \{智代}「おかげで、棚がひとつ失われてしまった」
<0460> \{Tomoyo}「おかげで、棚がひとつ失われてしまった」
// <0461> 中央に置かれた大皿から納豆餃子をひとつとり、食べる。うまい。
<0461> 中央に置かれた大皿から納豆餃子をひとつとり、食べる。うまい。
// <0462> \{智代}「その上に置いてあった電子レンジが無事だったのは奇跡的だとしか言いようがない」
<0462> \{Tomoyo}「その上に置いてあった電子レンジが無事だったのは奇跡的だとしか言いようがない」
// <0463> \{鷹文}「僕が生きていたのも奇跡的だと思うんだよね」
<0463> \{Takafumi}「僕が生きていたのも奇跡的だと思うんだよね」
// <0464> \{鷹文}「あのゼロ距離で首を狩られていたら、間違いなく死んでたよ…」
<0464> \{Takafumi}「あのゼロ距離で首を狩られていたら、間違いなく死んでたよ…」
// <0465> \{智代}「人を格闘家みたいに言うな」
<0465> \{Tomoyo}「人を格闘家みたいに言うな」
// <0466> \{朋也}「しかしよくよけられたな。偶然か?」
<0466> \{Tomoya}「しかしよくよけられたな。偶然か?」
// <0467> 鷹文はとっさに頭を下げて、智代の蹴りをかわしてみせたのだ。
<0467> 鷹文はとっさに頭を下げて、智代の蹴りをかわしてみせたのだ。
// <0468> \{鷹文}「まあ、反射神経はいいほうだし」
<0468> \{Takafumi}「まあ、反射神経はいいほうだし」
// <0469> \{朋也}「血筋か? うらやましいかぎりだ」
<0469> \{Tomoya}「血筋か? うらやましいかぎりだ」
// <0470> \{智代}「よくわからないが、ふたりとも運動は得意なほうだな」
<0470> \{Tomoyo}「よくわからないが、ふたりとも運動は得意なほうだな」
// <0471> \{智代}「鷹文、毎日パソコンにかじりついていないで、また運動始めたらどうなんだ」
<0471> \{Tomoyo}「鷹文、毎日パソコンにかじりついていないで、また運動始めたらどうなんだ」
// <0472> 智代が思いも寄らぬ方向へと話題を逸らした。
<0472> 智代が思いも寄らぬ方向へと話題を逸らした。
// <0473> \{鷹文}「もう面倒だよ」
<0473> \{Takafumi}「もう面倒だよ」
// <0474> \{智代}「昔はあんなに頑張ってたじゃないか」
<0474> \{Tomoyo}「昔はあんなに頑張ってたじゃないか」
// <0475> \{鷹文}「やることなかったから、やってただけだよ」
<0475> \{Takafumi}「やることなかったから、やってただけだよ」
// <0476> 鷹文が運動をしていたなんて初耳だった。
<0476> 鷹文が運動をしていたなんて初耳だった。
// <0477> \{朋也}「なにやってたんだ、おまえ?」
<0477> \{Tomoya}「なにやってたんだ、おまえ?」
// <0478> \{智代}「陸上だ。長距離を走っていた」
<0478> \{Tomoyo}「陸上だ。長距離を走っていた」
// <0479> 智代が答える。
<0479> 智代が答える。
// <0480> \{智代}「それが今では部屋の中で、日がな一日コンピュータにかじりついて…」
<0480> \{Tomoyo}「それが今では部屋の中で、日がな一日コンピュータにかじりついて…」
// <0481> \{鷹文}「幸せは人それぞれでしょ」
<0481> \{Takafumi}「幸せは人それぞれでしょ」
// <0482> \{智代}「そんなんだと彼女ができないぞ」
<0482> \{Tomoyo}「そんなんだと彼女ができないぞ」
// <0483> \{鷹文}「ふたり見てたら、お腹いっぱいだよ」
<0483> \{Takafumi}「ふたり見てたら、お腹いっぱいだよ」
// <0484> \{智代}「う…」
<0484> \{Tomoyo}「う…」
// <0485> \{智代}「その…見てても、埋まらないものがあるだろ…」
<0485> \{Tomoyo}「その…見てても、埋まらないものがあるだろ…」
// <0486> \{智代}「その歳で女の子に興味がないわけではあるまい…」
<0486> \{Tomoyo}「その歳で女の子に興味がないわけではあるまい…」
// <0487> \{朋也}「すごく気持ちいいぞ」
<0487> \{Tomoya}「すごく気持ちいいぞ」
// <0488> \{智代}「そうだぞ、鷹文。すごく気持ちいい」
<0488> \{Tomoyo}「そうだぞ、鷹文。すごく気持ちいい」
// <0489> \{智代}「って、ともの前で、何話してるんだ、私はあぁぁーっ!」
<0489> \{Tomoyo}「って、ともの前で、何話してるんだ、私はあぁぁーっ!」
// <0490> \{智代}「そもそも、ともがいなくても、女の子が話すべき内容じゃないっ」
<0490> \{Tomoyo}「そもそも、ともがいなくても、女の子が話すべき内容じゃないっ」
// <0491> \{智代}「鷹文、おまえが男として情けなさすぎるからだぞっ、ヘンなことを諭させるなっ」
<0491> \{Tomoyo}「鷹文、おまえが男として情けなさすぎるからだぞっ、ヘンなことを諭させるなっ」
// <0492> \{朋也}「と、彼女ができたらこうして遊べるぞ」
<0492> \{Tomoya}「と、彼女ができたらこうして遊べるぞ」
// <0493> \{鷹文}「確かに。それはうらやましいね」
<0493> \{Takafumi}「確かに。それはうらやましいね」
// <0494> \{智代}「うああぁ…遊ばれていたんだ…」
<0494> \{Tomoyo}「うああぁ…遊ばれていたんだ…」
// <0495> \{智代}「もう、朋也とはキスしない。ともとだけするんだ…」
<0495> \{Tomoyo}「もう、朋也とはキスしない。ともとだけするんだ…」
// <0496> \{智代}「な、とも」
<0496> \{Tomoyo}「な、とも」
// <0497> \{とも}「だめだよーパパともしないとー」
<0497> \{Tomo}「だめだよーパパともしないとー」
// <0498> \{智代}「うああぁぁぁ…ともまでそんなことを…」
<0498> \{Tomoyo}「うああぁぁぁ…ともまでそんなことを…」
// <0499> \{智代}「みんな、私で遊ぶのがそんなに楽しいんだ…」
<0499> \{Tomoyo}「みんな、私で遊ぶのがそんなに楽しいんだ…」
// <0500> \{智代}「もういい、誰とでもキスしてやる…」
<0500> \{Tomoyo}「もういい、誰とでもキスしてやる…」
// <0501> \{智代}「ともにも、朋也にも、鷹文、おまえもだぞっ」
<0501> \{Tomoyo}「ともにも、朋也にも、鷹文、おまえもだぞっ」
// <0502> \{鷹文}「うわあ、それ変態だって」
<0502> \{Takafumi}「うわあ、それ変態だって」
// <0503> \{智代}「朋也とするときみたいにしてやるからな、覚悟しておけ」
<0503> \{Tomoyo}「朋也とするときみたいにしてやるからな、覚悟しておけ」
// <0504> \{鷹文}「ごめん、謝るからっ」
<0504> \{Takafumi}「ごめん、謝るからっ」
// <0505> 夕飯を食べ終え、今日も鷹文と俺が洗い物をすることに。
<0505> 夕飯を食べ終え、今日も鷹文と俺が洗い物をすることに。
// <0506> 俺が皿を洗い流して、鷹文がそれをふきんで拭いていく。
<0506> 俺が皿を洗い流して、鷹文がそれをふきんで拭いていく。
// <0507> \{朋也}「普通、自分の姉貴とか妹って、ぜんぜん性欲の対象にならないっていうけど、おまえの姉貴はなりそうだよな」
<0507> \{Tomoya}「普通、自分の姉貴とか妹って、ぜんぜん性欲の対象にならないっていうけど、おまえの姉貴はなりそうだよな」
// <0508> \{鷹文}「いや、ならないけど」
<0508> \{Takafumi}「いや、ならないけど」
// <0509> \{朋也}「ありゃ、そうなの? 智代が俺の姉貴だったら、絶対隠れて、いろいろするけどな」
<0509> \{Tomoya}「ありゃ、そうなの? 智代が俺の姉貴だったら、絶対隠れて、いろいろするけどな」
// <0510> \{鷹文}「にぃちゃんと一緒にしないでよ」
<0510> \{Takafumi}「にぃちゃんと一緒にしないでよ」
// <0511> \{朋也}「おまえ、一体どんな女に興味あんの?」
<0511> \{Tomoya}「おまえ、一体どんな女に興味あんの?」
// <0512> \{鷹文}「とりあえず小さい女の子と、自分の姉貴にはないね」
<0512> \{Takafumi}「とりあえず小さい女の子と、自分の姉貴にはないね」
// <0513> \{朋也}「難しい奴だなあ」
<0513> \{Tomoya}「難しい奴だなあ」
// <0514> \{鷹文}「いや、そのふたつ消えても、十分許容範囲広いでしょ…」
<0514> \{Takafumi}「いや、そのふたつ消えても、十分許容範囲広いでしょ…」
// <0515> \{朋也}「俺は心配してやってんだからさ、好みの女が現れたら俺に言えよ」
<0515> \{Tomoya}「俺は心配してやってんだからさ、好みの女が現れたら俺に言えよ」
// <0516> \{鷹文}「ぶちこわしにされる気がするけど、ま、そうするよ」
<0516> \{Takafumi}「ぶちこわしにされる気がするけど、ま、そうするよ」
// <0517> \{朋也}「だからとりあえず先に、俺のほうをなんとかしてくれよ」
<0517> \{Tomoya}「だからとりあえず先に、俺のほうをなんとかしてくれよ」
// <0518> \{鷹文}「えぇー、まだ続ける気?」
<0518> \{Takafumi}「えぇー、まだ続ける気?」
// <0519> \{朋也}「当然だろ。俺のほうはぜんぜん解消されてないんだから」
<0519> \{Tomoya}「当然だろ。俺のほうはぜんぜん解消されてないんだから」
// <0520> \{鷹文}「さっきの結果見たでしょ。ねぇちゃんは無敵だよ」
<0520> \{Takafumi}「さっきの結果見たでしょ。ねぇちゃんは無敵だよ」
// <0521> \{朋也}「戦えよ」
<0521> \{Tomoya}「戦えよ」
// <0522> \{鷹文}「負けるよ」
<0522> \{Takafumi}「負けるよ」
// <0523> \{朋也}「弱点はないのかよ」
<0523> \{Tomoya}「弱点はないのかよ」
// <0524> \{鷹文}「だからその唯一が子供なんだって。でも、逆鱗に触れるから諸刃の剣なんだよ」
<0524> \{Takafumi}「だからその唯一が子供なんだって。でも、逆鱗に触れるから諸刃の剣なんだよ」
// <0525> \{朋也}「そんな子供を人質にとってまでしたくないよ…」
<0525> \{Tomoya}「そんな子供を人質にとってまでしたくないよ…」
// <0526> \{鷹文}「じゃあ、やめよう」
<0526> \{Takafumi}「じゃあ、やめよう」
// <0527> \{朋也}「いや、おまえが幼児に退行しろよ。よだれ垂らしながら、えへへ、おねぇちゃーん…ってさ」
<0527> \{Tomoya}「いや、おまえが幼児に退行しろよ。よだれ垂らしながら、えへへ、おねぇちゃーん…ってさ」
// <0528> \{朋也}「おまえが幼児に退行しろよ。よだれ垂らしながら、えへへ、おねぇちゃーん…ってさ」
<0528> \{Tomoya}「おまえが幼児に退行しろよ。よだれ垂らしながら、えへへ、おねぇちゃーん…ってさ」
// <0529> \{鷹文}「それ、すごい演技力が必要だよね…」
<0529> \{Takafumi}「それ、すごい演技力が必要だよね…」
// <0530> \{朋也}「おまえならできる」
<0530> \{Tomoya}「おまえならできる」
// <0531> \{朋也}「うわあっ、大変だっ!」
<0531> \{Tomoya}「うわあっ、大変だっ!」
// <0532> \{智代}「どうした、騒がしいな」
<0532> \{Tomoyo}「どうした、騒がしいな」
// <0533> \{朋也}「鷹文が…子供にもどっちまった!」
<0533> \{Tomoya}「鷹文が…子供にもどっちまった!」
// <0534> \{智代}「なんだそれは」
<0534> \{Tomoyo}「なんだそれは」
// <0535> \{鷹文}「えへへ…おねぇちゃーん…」
<0535> \{Takafumi}「えへへ…おねぇちゃーん…」
// <0536> 床を這いずって、姉を呼ぶ鷹文。
<0536> 床を這いずって、姉を呼ぶ鷹文。
// <0537> \{智代}「………」
<0537> \{Tomoyo}「………」
// <0538> \{智代}「…ばかだろ、おまえたち」
<0538> \{Tomoyo}「…ばかだろ、おまえたち」
// <0539> \{鷹文}「えへへ…おねぇちゃーん…」
<0539> \{Takafumi}「えへへ…おねぇちゃーん…」
// <0540> \{鷹文}「このひと、だれぇ…?」
<0540> \{Takafumi}「このひと、だれぇ…?」
// <0541> \{朋也}「た、鷹文…おまえ、俺のことも忘れちまったのかよ…」
<0541> \{Tomoya}「た、鷹文…おまえ、俺のことも忘れちまったのかよ…」
// <0542> \{智代}「…そうか、どけ。治してやる」
<0542> \{Tomoyo}「…そうか、どけ。治してやる」
// <0543> 俺を押しのけて、鷹文の前にひざまずくと、その顔を両手で持ち上げる。
<0543> 俺を押しのけて、鷹文の前にひざまずくと、その顔を両手で持ち上げる。
// <0544> その口に尖らせた口を押しつけた。
<0544> その口に尖らせた口を押しつけた。
// <0545> \{朋也}「うわぁ…」
<0545> \{Tomoya}「うわぁ…」
// <0546> \{鷹文}「んっ…んっ…」
<0546> \{Takafumi}「んっ…んっ…」
// <0547> 鷹文が体をじたばたさせるが、逃れられない。
<0547> 鷹文が体をじたばたさせるが、逃れられない。
// <0548> \{鷹文}「………」
<0548> \{Takafumi}「………」
// <0549> ………。
<0549> ………。
// <0550> ……。
<0550> ……。
// <0551> そのうち、動かなくなる。
<0551> そのうち、動かなくなる。
// <0552> \{とも}「すごいなか、いいんだねー」
<0552> \{Tomo}「すごいなか、いいんだねー」
// <0553> ともがのんきにその異常な光景を見ている。
<0553> ともがのんきにその異常な光景を見ている。
// <0554> \{智代}「ぷはぁ…」
<0554> \{Tomoyo}「ぷはぁ…」
// <0555> ねっとりと唇を離す。
<0555> ねっとりと唇を離す。
// <0556> \{智代}「次目覚めたら正常だ」
<0556> \{Tomoyo}「次目覚めたら正常だ」
// <0557> \{智代}「じゃあ、ともと私は風呂に入るからな、覗くんじゃないぞ」
<0557> \{Tomoyo}「じゃあ、ともと私は風呂に入るからな、覗くんじゃないぞ」
// <0558> \{朋也}「………」
<0558> \{Tomoya}「………」
// <0559> \{朋也}「…おーい、鷹文」
<0559> \{Tomoya}「…おーい、鷹文」
// <0560> その背中をつついてみる。
<0560> その背中をつついてみる。
// <0561> \{鷹文}「はっ」
<0561> \{Takafumi}「はっ」
// <0562> 意識を取り戻して、かっ、と目を見開く。
<0562> 意識を取り戻して、かっ、と目を見開く。
// <0563> \{鷹文}「ああ…寝てたのか、僕…」
<0563> \{Takafumi}「ああ…寝てたのか、僕…」
// <0564> \{鷹文}「なんだか、すごく危険な夢を見ていたよ…」
<0564> \{Takafumi}「なんだか、すごく危険な夢を見ていたよ…」
// <0565> \{朋也}「いや、それ現実だから」
<0565> \{Tomoya}「いや、それ現実だから」
// <0566> \{鷹文}「うああぁぁぁぁぁーーーっ!」
<0566> \{Takafumi}「うああぁぁぁぁぁーーーっ!」
// <0567> \{朋也}「近所に迷惑だからさ」
<0567> \{Tomoya}「近所に迷惑だからさ」
// <0568> ばっ、と立ち上がる。
<0568> ばっ、と立ち上がる。
// <0569> \{朋也}「ん? 帰るのか」
<0569> \{Tomoya}「ん? 帰るのか」
// <0570> \{鷹文}「旅にでる」
<0570> \{Takafumi}「旅にでる」
// <0571> \{朋也}「あ、そ」
<0571> \{Tomoya}「あ、そ」
// <0572> \{智代}「ん? 鷹文は帰ったのか」
<0572> \{Tomoyo}「ん? 鷹文は帰ったのか」
// <0573> \{朋也}「旅にでた」
<0573> \{Tomoya}「旅にでた」
// <0574> \{智代}「なんだそれは、また何かの冗談か?」
<0574> \{Tomoyo}「なんだそれは、また何かの冗談か?」
// <0575> \{朋也}「いや、結構本気っぽかった」
<0575> \{Tomoya}「いや、結構本気っぽかった」