// Resources for SEEN0801.TXT
// #character '朋也'
#character 'Tomoya'
// #character '智代'
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#character 'Kanako'
// #character '鷹文'
#character 'Takafumi'
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// #character '部員'
#character 'Staff member'
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#character 'Tomo'
// <0000> 8月1日(日)
<0000> August 1st (Sun)
// <0001> 思いのほか多くの参加者がいたらしい。
<0001> 思いのほか多くの参加者がいたらしい。
// <0002> 臨時に作られた観客席の最上階からは、色とりどりのスポーツウェアに包まれた参加者が望めた。
<0002> 臨時に作られた観客席の最上階からは、色とりどりのスポーツウェアに包まれた参加者が望めた。
// <0003> 誰もが思い思いにアップを行い、スタートの刻限を待っている。
<0003> 誰もが思い思いにアップを行い、スタートの刻限を待っている。
// <0004> \{朋也}「何キロ走るんだ?」
<0004> \{Tomoya}「何キロ走るんだ?」
// <0005> \{智代}「鷹文は15キロのコースだ」
<0005> \{Tomoyo}「鷹文は15キロのコースだ」
// <0006> 気が遠くなる長さだった。俺は練習の3キロでさえ、へとへとだったのに。
<0006> 気が遠くなる長さだった。俺は練習の3キロでさえ、へとへとだったのに。
// <0007> コースの見取り図が大きく貼られ、一番長いコースが15キロとなっていた。
<0007> コースの見取り図が大きく貼られ、一番長いコースが15キロとなっていた。
// <0008> 山を駆け上り、峠道の側にある森林公園を一周してから、坂道を駆け下りる起伏の激しいコースだった。
<0008> 山を駆け上り、峠道の側にある森林公園を一周してから、坂道を駆け下りる起伏の激しいコースだった。
// <0009> \{朋也}「…もう少し簡単なコースでよかったんじゃないのか?」
<0009> \{Tomoya}「…もう少し簡単なコースでよかったんじゃないのか?」
// <0010> \{朋也}「こんな距離、練習でも走ってない」
<0010> \{Tomoya}「こんな距離、練習でも走ってない」
// <0011> \{智代}「昔はこれぐらい平気で走っていた」
<0011> \{Tomoyo}「昔はこれぐらい平気で走っていた」
// <0012> \{智代}「それに優勝しろなんて言っていない」
<0012> \{Tomoyo}「それに優勝しろなんて言っていない」
// <0013> \{智代}「ただ走りきってほしいだけだ」
<0013> \{Tomoyo}「ただ走りきってほしいだけだ」
// <0014> \{智代}「走り終えるためにな」
<0014> \{Tomoyo}「走り終えるためにな」
// <0015> \{朋也}「そうか…そうだな」
<0015> \{Tomoya}「そうか…そうだな」
// <0016> 一緒に俺たちの思いも届けばいいと思った。
<0016> 一緒に俺たちの思いも届けばいいと思った。
// <0017> いつだって、不満顔をしていた鷹文に。
<0017> いつだって、不満顔をしていた鷹文に。
// <0018> 今日は精一杯応援してやろう。
<0018> 今日は精一杯応援してやろう。
// <0019> \{朋也}「おまえも、応援してやれよ」
<0019> \{Tomoya}「おまえも、応援してやれよ」
// <0020> 俺は振り返って、そこに立つ河南子に向けて言う。
<0020> 俺は振り返って、そこに立つ河南子に向けて言う。
// <0021> \{河南子}「………」
<0021> \{Kanako}「………」
// <0022> 鷹文はスタート地点の広場のやや後方にいた。
<0022> 鷹文はスタート地点の広場のやや後方にいた。
// <0023> 俺たちはロープで張られた導入口側で声をかけた。
<0023> 俺たちはロープで張られた導入口側で声をかけた。
// <0024> \{朋也}「がんばってこいよ」
<0024> \{Tomoya}「がんばってこいよ」
// <0025> \{鷹文}「無理しない程度にがんばるよ」
<0025> \{Takafumi}「無理しない程度にがんばるよ」
// <0026> ストレッチで上半身を伸ばしながら、鷹文が答えた。
<0026> ストレッチで上半身を伸ばしながら、鷹文が答えた。
// <0027> スタート30秒前。
<0027> スタート30秒前。
// <0028> 参加者が位置につく。
<0028> 参加者が位置につく。
// <0029> 鷹文は気の抜けた顔のままで、やや見上げていた。
<0029> 鷹文は気の抜けた顔のままで、やや見上げていた。
// <0030> \{声}「よーい」
<0030> \{Voice}「よーい」
// <0031> スピーカーから響く、スターターの声。
<0031> スピーカーから響く、スターターの声。
// <0032> パーーーーン!
<0032> パーーーーン!
// <0033> 号砲が鳴り、人の波が一斉に動き出した。
<0033> 号砲が鳴り、人の波が一斉に動き出した。
// <0034> \{智代}「鷹文はどこだ?」
<0034> \{Tomoyo}「鷹文はどこだ?」
// <0035> \{朋也}「あそこだ」
<0035> \{Tomoya}「あそこだ」
// <0036> 集団の中央、やたら元気な爺さんたちと同じスピードだった。
<0036> 集団の中央、やたら元気な爺さんたちと同じスピードだった。
// <0037> \{智代}「朋也、河南子、追いかけるぞ」
<0037> \{Tomoyo}「朋也、河南子、追いかけるぞ」
// <0038> \{朋也}「は?」
<0038> \{Tomoya}「は?」
// <0039> 意味がわからず訊き返す。
<0039> 意味がわからず訊き返す。
// <0040> \{智代}「鷹文を叱咤するんだ」
<0040> \{Tomoyo}「鷹文を叱咤するんだ」
// <0041> \{智代}「あいつは真面目に走ろうとしてない」
<0041> \{Tomoyo}「あいつは真面目に走ろうとしてない」
// <0042> \{智代}「だから、追いかけてちゃんと走らせてやるんだ」
<0042> \{Tomoyo}「だから、追いかけてちゃんと走らせてやるんだ」
// <0043> 言うが早いか、智代は走り出していた。
<0043> 言うが早いか、智代は走り出していた。
// <0044> \{朋也}「お、おいっ、ちょっと待てよ!」
<0044> \{Tomoya}「お、おいっ、ちょっと待てよ!」
// <0045> 慌てて駆け寄って追いつく。
<0045> 慌てて駆け寄って追いつく。
// <0046> \{朋也}「追いかけるって、どうやってだよ」
<0046> \{Tomoya}「追いかけるって、どうやってだよ」
// <0047> \{智代}「決まってる。走ってだ」
<0047> \{Tomoyo}「決まってる。走ってだ」
// <0048> \{智代}「幸い、ここから裏道を通れば近いからな」
<0048> \{Tomoyo}「幸い、ここから裏道を通れば近いからな」
// <0049> 息が荒い。
<0049> 息が荒い。
// <0050> 喉がひりつく。
<0050> 喉がひりつく。
// <0051> Tシャツが汗で背中に張りつく。
<0051> Tシャツが汗で背中に張りつく。
// <0052> \{智代}「間に合ったようだな」
<0052> \{Tomoyo}「間に合ったようだな」
// <0053> \{智代}「お…まだ先頭集団じゃないか」
<0053> \{Tomoyo}「お…まだ先頭集団じゃないか」
// <0054> 何の因果か、俺までマラソンに参加しているようだった。
<0054> 何の因果か、俺までマラソンに参加しているようだった。
// <0055> 俺たちが到着した時には、まだ先頭集団が通り過ぎようとしていたころだった。
<0055> 俺たちが到着した時には、まだ先頭集団が通り過ぎようとしていたころだった。
// <0056> 軽やかに街道を登っていく選手たちだが、人数が通るに連れて次第に遅くなっていく。
<0056> 軽やかに街道を登っていく選手たちだが、人数が通るに連れて次第に遅くなっていく。
// <0057> 半分を過ぎた頃だろうか、鷹文が近づいてきた。
<0057> 半分を過ぎた頃だろうか、鷹文が近づいてきた。
// <0058> \{智代}「たかふみーっ、ちゃんとはしれーっ」
<0058> \{Tomoyo}「たかふみーっ、ちゃんとはしれーっ」
// <0059> 割れんばかりの大声で檄を飛ばす智代。
<0059> 割れんばかりの大声で檄を飛ばす智代。
// <0060> 鷹文が目を剥いて、こちらを見た。
<0060> 鷹文が目を剥いて、こちらを見た。
// <0061> まさか居るとは思わなかったのだろう。
<0061> まさか居るとは思わなかったのだろう。
// <0062> あいつ自身、後は適当に流そうとしていたのかもしれない。
<0062> あいつ自身、後は適当に流そうとしていたのかもしれない。
// <0063> そうはさせるか。
<0063> そうはさせるか。
// <0064> \{朋也}「鷹文、死ぬ気で走らないと、この罰ゲームは終わらないぞーっ!」
<0064> \{Tomoya}「鷹文、死ぬ気で走らないと、この罰ゲームは終わらないぞーっ!」
// <0065> 鷹文のスピードがやや上がった。
<0065> 鷹文のスピードがやや上がった。
// <0066> \{河南子}「やっぱ罰ゲームなんじゃん」
<0066> \{Kanako}「やっぱ罰ゲームなんじゃん」
// <0067> ストライドが大きくなり、腕の振りもリズム良くなる。
<0067> ストライドが大きくなり、腕の振りもリズム良くなる。
// <0068> \{智代}「よし、昔の走り方にもどってきたな」
<0068> \{Tomoyo}「よし、昔の走り方にもどってきたな」
// <0069> \{智代}「次、いくぞ」
<0069> \{Tomoyo}「次、いくぞ」
// <0070> \{朋也}「まだやるのかよ」
<0070> \{Tomoya}「まだやるのかよ」
// <0071> \{智代}「間に合った」
<0071> \{Tomoyo}「間に合った」
// <0072> \{朋也}「すげぇとこ走ってきたよな…」
<0072> \{Tomoya}「すげぇとこ走ってきたよな…」
// <0073> 途中からは走るじゃなくて、山道を登っていたようだったが。
<0073> 途中からは走るじゃなくて、山道を登っていたようだったが。
// <0074> \{智代}「来たぞ」
<0074> \{Tomoyo}「来たぞ」
// <0075> 長く続いた上り坂に、やや顎が上がった鷹文がいた。
<0075> 長く続いた上り坂に、やや顎が上がった鷹文がいた。
// <0076> 前よりかなり順位を上げていた。
<0076> 前よりかなり順位を上げていた。
// <0077> \{智代}「やればできるじゃないかっ」
<0077> \{Tomoyo}「やればできるじゃないかっ」
// <0078> \{智代}「最後までがんばれー!」
<0078> \{Tomoyo}「最後までがんばれー!」
// <0079> \{鷹文}「うるさいよっ」
<0079> \{Takafumi}「うるさいよっ」
// <0080> 声まで返ってくる。
<0080> 声まで返ってくる。
// <0081> \{智代}「遅いぞ、朋也」
<0081> \{Tomoyo}「遅いぞ、朋也」
// <0082> \{朋也}「今の落ちたら死ぬような場所だったぞっ」
<0082> \{Tomoya}「今の落ちたら死ぬような場所だったぞっ」
// <0083> \{智代}「ここからは楽だ」
<0083> \{Tomoyo}「ここからは楽だ」
// <0084> \{智代}「あまり起伏がないからな」
<0084> \{Tomoyo}「あまり起伏がないからな」
// <0085> 俺たちは森林公園の入り口に来ていた。
<0085> 俺たちは森林公園の入り口に来ていた。
// <0086> 距離的には三分の一を過ぎたあたりだ。
<0086> 距離的には三分の一を過ぎたあたりだ。
// <0087> 先頭集団はもう過ぎてしまったらしく、木陰の遊歩道をひとり、またひとりと選手が通り抜けていく。
<0087> 先頭集団はもう過ぎてしまったらしく、木陰の遊歩道をひとり、またひとりと選手が通り抜けていく。
// <0088> \{朋也}「そろそろじゃないか」
<0088> \{Tomoya}「そろそろじゃないか」
// <0089> \{智代}「さっきはこのあたりだったんだが…」
<0089> \{Tomoyo}「さっきはこのあたりだったんだが…」
// <0090> やや遅れて、中位グループあたりを鷹文が走っているのが見えた。
<0090> やや遅れて、中位グループあたりを鷹文が走っているのが見えた。
// <0091> 歩幅は小さく、前傾姿勢のままにして走っていた。
<0091> 歩幅は小さく、前傾姿勢のままにして走っていた。
// <0092> \{朋也}「死ぬ気で走れよっ!」
<0092> \{Tomoya}「死ぬ気で走れよっ!」
// <0093> 俺は大声で叫んだ。
<0093> 俺は大声で叫んだ。
// <0094> \{鷹文}「死ぬよっ」
<0094> \{Takafumi}「死ぬよっ」
// <0095> 悲鳴のような声だった。
<0095> 悲鳴のような声だった。
// <0096> 息は荒く、酸欠なのか顔色が悪い。
<0096> 息は荒く、酸欠なのか顔色が悪い。
// <0097> \{朋也}「…大丈夫なのか?」
<0097> \{Tomoya}「…大丈夫なのか?」
// <0098> \{智代}「わからない…」
<0098> \{Tomoyo}「わからない…」
// <0099> \{智代}「たかふみっ! 追い抜け、目の前のやつをだ!」
<0099> \{Tomoyo}「たかふみっ! 追い抜け、目の前のやつをだ!」
// <0100> すぐ声を飛ばす。
<0100> すぐ声を飛ばす。
// <0101> 俺たちはその先の広場へと移動した。
<0101> 俺たちはその先の広場へと移動した。
// <0102> 設えられた階段を登り、続く山道を歩く。
<0102> 設えられた階段を登り、続く山道を歩く。
// <0103> ちょうど公園を一周しながら登っていくため、こちらはちょっとした段差を上がるだけでよかった。
<0103> ちょうど公園を一周しながら登っていくため、こちらはちょっとした段差を上がるだけでよかった。
// <0104> 山道を囲む木陰から出ると、夏の陽射しが肌を照りつけた。
<0104> 山道を囲む木陰から出ると、夏の陽射しが肌を照りつけた。
// <0105> ロープでガイドを作られた先に、巨大な樹が一本立っている。
<0105> ロープでガイドを作られた先に、巨大な樹が一本立っている。
// <0106> そこが折り返し地点だった。
<0106> そこが折り返し地点だった。
// <0107> 鷹文の表情は歪み、歩幅は小さくなり、腕は姿勢を支えるために弱々しく振られているだけだ。
<0107> 鷹文の表情は歪み、歩幅は小さくなり、腕は姿勢を支えるために弱々しく振られているだけだ。
// <0108> \{智代}「たかふみっ、足が動いてないぞ!」
<0108> \{Tomoyo}「たかふみっ、足が動いてないぞ!」
// <0109> \{朋也}「死ぬ気で走れよっ!」
<0109> \{Tomoya}「死ぬ気で走れよっ!」
// <0110> 何度も繰り返した応援をする。
<0110> 何度も繰り返した応援をする。
// <0111> だが、答えはない。
<0111> だが、答えはない。
// <0112> 言い返すどころか、手さえ振ってこなかった。
<0112> 言い返すどころか、手さえ振ってこなかった。
// <0113> \{智代}「聞いてるのかっ!」
<0113> \{Tomoyo}「聞いてるのかっ!」
// <0114> \{朋也}「返事しろーっ」
<0114> \{Tomoya}「返事しろーっ」
// <0115> はぁ…はぁ…
<0115> はぁ…はぁ…
// <0116> 聞こえてるよ、うるさいな…
<0116> 聞こえてるよ、うるさいな…
// <0117> まったく…
<0117> まったく…
// <0118> はぁ…はぁ…
<0118> はぁ…はぁ…
// <0119> ああ、ダメだ…
<0119> ああ、ダメだ…
// <0120> ぜんぜん足が動かない…
<0120> ぜんぜん足が動かない…
// <0121> もう僕は走れないんだ…
<0121> もう僕は走れないんだ…
// <0122> もういいでしょ…
<0122> もういいでしょ…
// <0123> 疲れた…
<0123> 疲れた…
// <0124> 足を止めるよ…
<0124> 足を止めるよ…
// <0125> ………
<0125> ………
// <0126> ……
<0126> ……
// <0127> …今夜、家にこないかい?
<0127> …今夜、家にこないかい?
// <0128> え。
<0128> え。
// <0129> 先生…
<0129> 先生…
// <0130> \{先生}「今夜、家にこないかい?」
<0130> \{Teacher}「今夜、家にこないかい?」
// <0131> あ、説教ですか…
<0131> あ、説教ですか…
// <0132> 体育の時間、まじめに走ってなかったから…
<0132> 体育の時間、まじめに走ってなかったから…
// <0133> \{先生}「ああ、いや、そんなつもりはぜんぜんないよ」
<0133> \{Teacher}「ああ、いや、そんなつもりはぜんぜんないよ」
// <0134> \{先生}「鍋をやるからね、一緒にどうかと思って」
<0134> \{Teacher}「鍋をやるからね、一緒にどうかと思って」
// <0135> \{先生}「まあ急には難しいかな。親御さん、心配されるか」
<0135> \{Teacher}「まあ急には難しいかな。親御さん、心配されるか」
// <0136> あ、いえ、それはないんで。
<0136> あ、いえ、それはないんで。
// <0137> \{先生}「…じゃ、どうだろう?」
<0137> \{Teacher}「…じゃ、どうだろう?」
// <0138> 別にいいですよ。おいしいもの食べられるなら。
<0138> 別にいいですよ。おいしいもの食べられるなら。
// <0139> \{先生}「味の保証はしないけどね、ははは」
<0139> \{Teacher}「味の保証はしないけどね、ははは」
// <0140> \{男}「また、ひょろいのがきたなあ」
<0140> \{Man}「また、ひょろいのがきたなあ」
// <0141> \{男}「ちゃんと食ってんのか?」
<0141> \{Man}「ちゃんと食ってんのか?」
// <0142> \{男}「おまえだって、少し前はこんなだったっての」
<0142> \{Man}「おまえだって、少し前はこんなだったっての」
// <0143> \{男}「先生、素質とかまったく考えずに連れてくんだからさ」
<0143> \{Man}「先生、素質とかまったく考えずに連れてくんだからさ」
// <0144> \{キャプテン}「だから一向に強くならないんだっての!」
<0144> \{Captain}「だから一向に強くならないんだっての!」
// <0145> \{男}「まあ、遠慮なく食べろよ」
<0145> \{Man}「まあ、遠慮なく食べろよ」
// <0146> \{キャプテン}「おまえ、一銭も払ってねぇっての!」
<0146> \{Captain}「おまえ、一銭も払ってねぇっての!」
// <0147> はははははっ!
<0147> はははははっ!
// <0148> \{先生}「…坂上くん、遠慮しなくていいんだよ、どうぞ」
<0148> \{Teacher}「…坂上くん、遠慮しなくていいんだよ、どうぞ」
// <0149> \{先生}「ただ、夕食の席にしては、ちょっとばかしうるさいけどね」
<0149> \{Teacher}「ただ、夕食の席にしては、ちょっとばかしうるさいけどね」
// <0150> はぁ…。
<0150> はぁ…。
// <0151> あんたたち、ほんとに陸上部なの?
<0151> あんたたち、ほんとに陸上部なの?
// <0152> \{部員}「…どうして」
<0152> \{Staff member}「…どうして」
// <0153> すごく遅いから。
<0153> すごく遅いから。
// <0154> \{部員}「なんだ、てめぇ、喧嘩売ってんのか」
<0154> \{Staff member}「なんだ、てめぇ、喧嘩売ってんのか」
// <0155> \{部員}「よし、なら勝負だ」
<0155> \{Staff member}「よし、なら勝負だ」
// <0156> \{部員}「腐っても陸上部なとこ見せてやるよ」
<0156> \{Staff member}「腐っても陸上部なとこ見せてやるよ」
// <0157> \{部員}「…はぁ…はぁ…」
<0157> \{Staff member}「…はぁ…はぁ…」
// <0158> \{部員}「…わりぃ…」
<0158> \{Staff member}「…わりぃ…」
// <0159> \{部員}「…もう一回、勝負してくんない? 今度はキャプテンと」
<0159> \{Staff member}「…もう一回、勝負してくんない? 今度はキャプテンと」
// <0160> \{部員}「てめぇ、キャプテンより早く走んなよっ! まがりなりにもキャプテンなんだぞっ!」
<0160> \{Staff member}「てめぇ、キャプテンより早く走んなよっ! まがりなりにもキャプテンなんだぞっ!」
// <0161> \{部員}「キャプテンなんとかしてくださいよぉっ!」
<0161> \{Staff member}「キャプテンなんとかしてくださいよぉっ!」
// <0162> \{キャプテン}「…だれでもいいから、ほら、追い抜けよ、あいつを!」
<0162> \{Captain}「…だれでもいいから、ほら、追い抜けよ、あいつを!」
// <0163> \{キャプテン}「…このままじゃ、腐っても陸上部が、腐った陸上部になるぞっ!」
<0163> \{Captain}「…このままじゃ、腐っても陸上部が、腐った陸上部になるぞっ!」
// <0164> \{部員}「…いいじゃん、そもそも実ったこともないっての」
<0164> \{Staff member}「…いいじゃん、そもそも実ったこともないっての」
// <0165> …はははははっ!
<0165> …はははははっ!
// <0166> \{キャプテン}「…てめぇ、まてぇっ!」
<0166> \{Captain}「…てめぇ、まてぇっ!」
// <0167> \{キャプテン}「…くそーっ、すげぇじゃんか、優勝だぞ、一位だぞっ!」
<0167> \{Captain}「…くそーっ、すげぇじゃんか、優勝だぞ、一位だぞっ!」
// <0168> \{キャプテン}「…てめぇは、もううちの部のエースだっ!」
<0168> \{Captain}「…てめぇは、もううちの部のエースだっ!」
// <0169> いや、そもそも入部してないし…
<0169> いや、そもそも入部してないし…
// <0170> \{キャプテン}「…もうエースなんだよっ、地区で優勝したやつなんて、いねぇよ、俺たちっ!」
<0170> \{Captain}「…もうエースなんだよっ、地区で優勝したやつなんて、いねぇよ、俺たちっ!」
// <0171> \{キャプテン}「くそぅ、悔しいが、てめぇがエースだっ、陸上部は任せたあっ!」
<0171> \{Captain}「くそぅ、悔しいが、てめぇがエースだっ、陸上部は任せたあっ!」
// <0172> \{部員}「…いや、キャプテン、部ごと放棄しないでくださいよ…」
<0172> \{Staff member}「…いや、キャプテン、部ごと放棄しないでくださいよ…」
// <0173> \{部員}「くっそー、こいつ頭もよかったんだよぉっ!」
<0173> \{Staff member}「くっそー、こいつ頭もよかったんだよぉっ!」
// <0174> \{部員}「顔は負けてないんだけどなっ」
<0174> \{Staff member}「顔は負けてないんだけどなっ」
// <0175> \{河南子}「…いや、負けてるし」
<0175> \{Kanako}「…いや、負けてるし」
// <0176> \{部員}「河南子、てめぇーっ!」
<0176> \{Staff member}「河南子、てめぇーっ!」
// <0177> \{河南子}「…ん? やる気?」
<0177> \{Kanako}「…ん? やる気?」
// <0178> \{部員}「…やらねぇよっ、くそーーーっ!」
<0178> \{Staff member}「…やらねぇよっ、くそーーーっ!」
// <0179> なに、強いの、きみ?
<0179> なに、強いの、きみ?
// <0180> \{河南子}「…ん? 強いよ」
<0180> \{Kanako}「…ん? 強いよ」
// <0181> うちのねぇちゃんも相当強いんだけどさ…どっちが強いんだろう?
<0181> うちのねぇちゃんも相当強いんだけどさ…どっちが強いんだろう?
// <0182> \{部員}「ばーか、河南子に決まってんじゃん」
<0182> \{Staff member}「ばーか、河南子に決まってんじゃん」
// <0183> \{河南子}「…最強ですよ」
<0183> \{Kanako}「…最強ですよ」
// <0184> \{先生}「…ほら、おまえたち、もう火が通ったぞ」
<0184> \{Teacher}「…ほら、おまえたち、もう火が通ったぞ」
// <0185> \{河南子}「安い肉だけに早いなぁ。ぺらぺらじゃん、これ」
<0185> \{Kanako}「安い肉だけに早いなぁ。ぺらぺらじゃん、これ」
// <0186> \{先生}「…河南子」
<0186> \{Teacher}「…河南子」
// <0187> \{先生}「おまえは誰に似たんだかなぁ」
<0187> \{Teacher}「おまえは誰に似たんだかなぁ」
// <0188> \{先生}「父親はこんなに体が弱いってのにな」
<0188> \{Teacher}「父親はこんなに体が弱いってのにな」
// <0189> \{河南子}「…努力のたまものっすよ」
<0189> \{Kanako}「…努力のたまものっすよ」
// <0190> \{キャプテン}「…おれたち陸上部とちがって、河南子はいい高校に推薦でいけんだろうなあ」
<0190> \{Captain}「…おれたち陸上部とちがって、河南子はいい高校に推薦でいけんだろうなあ」
// <0191> 僕までいっしょにしないでよ。
<0191> 僕までいっしょにしないでよ。
// <0192> \{キャプテン}「…こ、このエースがあぁぁーっ!」
<0192> \{Captain}「…こ、このエースがあぁぁーっ!」
// <0193> それ、怒ってるのか、負けを認めるのかどっちさ…。
<0193> それ、怒ってるのか、負けを認めるのかどっちさ…。
// <0194> \{部員}「…どうだった…」
<0194> \{Staff member}「…どうだった…」
// <0195> ………。
<0195> ………。
// <0196> \{部員}「…ダメ…ふられた…」
<0196> \{Staff member}「…ダメ…ふられた…」
// <0197> \{キャプテン}「…はーはっはっ! 玉砕したぞぉーーーーっ!」
<0197> \{Captain}「…はーはっはっ! 玉砕したぞぉーーーーっ!」
// <0198> \{キャプテン}「…いやっほーーーーーうっ! てめぇも負け組だぁっ!」
<0198> \{Captain}「…いやっほーーーーーうっ! てめぇも負け組だぁっ!」
// <0199> \{キャプテン}「…おまえとおれは永遠の親友だ、よし、今夜は飲もう!」
<0199> \{Captain}「…おまえとおれは永遠の親友だ、よし、今夜は飲もう!」
// <0200> あんたら学生でしょ。
<0200> あんたら学生でしょ。
// <0201> \{キャプテン}「…どうだった…」
<0201> \{Captain}「…どうだった…」
// <0202> ………。
<0202> ………。
// <0203> \{部員}「ふられたさ!」
<0203> \{Staff member}「ふられたさ!」
// <0204> \{キャプテン}「…ひゃっほーーーーう! おまえも今日から仲間入りだ!」
<0204> \{Captain}「…ひゃっほーーーーう! おまえも今日から仲間入りだ!」
// <0205> \{部員}「…あとさ、気になるやつがいるってさ…」
<0205> \{Staff member}「…あとさ、気になるやつがいるってさ…」
// <0206> \{キャプテン}「…え?」
<0206> \{Captain}「…え?」
// <0207> \{キャプテン}「…どこに?」
<0207> \{Captain}「…どこに?」
// <0208> \{部員}「…おれたちの中に」
<0208> \{Staff member}「…おれたちの中に」
// <0209> ………。
<0209> ………。
// <0210> \{キャプテン}「…だれだよ、それ…」
<0210> \{Captain}「…だれだよ、それ…」
// <0211> \{キャプテン}「…鷹文、今、暇か」
<0211> \{Captain}「…鷹文、今、暇か」
// <0212> ごめん、シューズの手入れ中。
<0212> ごめん、シューズの手入れ中。
// <0213> \{キャプテン}「…そんなのおれがやるよ」
<0213> \{Captain}「…そんなのおれがやるよ」
// <0214> え? なんだよいきなり気持ち悪いな…
<0214> え? なんだよいきなり気持ち悪いな…
// <0215> \{キャプテン}「…河南子が買い出し、手伝ってほしいってさ」
<0215> \{Captain}「…河南子が買い出し、手伝ってほしいってさ」
// <0216> 僕に?
<0216> 僕に?
// <0217> \{キャプテン}「…そうだよ」
<0217> \{Captain}「…そうだよ」
// <0218> \{河南子}「…お、鷹文、いいところにきた、これから買い出しにいくんだけどさ、手伝ってくんないかな」
<0218> \{Kanako}「…お、鷹文、いいところにきた、これから買い出しにいくんだけどさ、手伝ってくんないかな」
// <0219> いや、河南子が呼んだんでしょ。
<0219> いや、河南子が呼んだんでしょ。
// <0220> \{河南子}「…え?」
<0220> \{Kanako}「…え?」
// <0221> え?
<0221> え?
// <0222> \{キャプテン}「…ヒントをやろう、たっくん」
<0222> \{Captain}「…ヒントをやろう、たっくん」
// <0223> たっくんて…
<0223> たっくんて…
// <0224> \{キャプテン}「そいつはな…」
<0224> \{Captain}「そいつはな…」
// <0225> \{キャプテン}「…この中で、一番鈍感なやつだ」
<0225> \{Captain}「…この中で、一番鈍感なやつだ」
// <0226> \{部員}「………」
<0226> \{Staff member}「………」
// <0227> うわ…みんな、なに見てんのさ…コワイよ…
<0227> うわ…みんな、なに見てんのさ…コワイよ…
// <0228> \{キャプテン}「河南子は待ってんだよ…」
<0228> \{Captain}「河南子は待ってんだよ…」
// <0229> \{キャプテン}「…恋のエースをな」
<0229> \{Captain}「…恋のエースをな」
// <0230> \{部員}「…キャプテン、それほぼ答えっすよ…」
<0230> \{Staff member}「…キャプテン、それほぼ答えっすよ…」
// <0231> あの、河南子…
<0231> あの、河南子…
// <0232> \{河南子}「…ん?」
<0232> \{Kanako}「…ん?」
// <0233> いや…河南子さん…
<0233> いや…河南子さん…
// <0234> \{河南子}「………」
<0234> \{Kanako}「………」
// <0235> あなたのことが好きです…
<0235> あなたのことが好きです…
// <0236> 僕と付き合ってくれませんか…
<0236> 僕と付き合ってくれませんか…
// <0237> \{河南子}「………」
<0237> \{Kanako}「………」
// <0238> \{河南子}「…いいよ」
<0238> \{Kanako}「…いいよ」
// <0239> やった…
<0239> やった…
// <0240> \{声}「…よっしゃあああぁぁぁぁーーーーっ!」
<0240> \{Voice}「…よっしゃあああぁぁぁぁーーーーっ!」
// <0241> うわぁ!
<0241> うわぁ!
// <0242> 今期最高タイムですよ!
<0242> 今期最高タイムですよ!
// <0243> 先生、先生っ!
<0243> 先生、先生っ!
// <0244> \{先生}「…よし、よくやったな」
<0244> \{Teacher}「…よし、よくやったな」
// <0245> これで、河南子をくれますかっ!
<0245> これで、河南子をくれますかっ!
// <0246> \{先生}「…ははは、それはまだだなぁ」
<0246> \{Teacher}「…ははは、それはまだだなぁ」
// <0247> \{先生}「…まだまだそんなんじゃ河南子はやれないなぁ」
<0247> \{Teacher}「…まだまだそんなんじゃ河南子はやれないなぁ」
// <0248> 走ればいいんですね、もっと速く。
<0248> 走ればいいんですね、もっと速く。
// <0249> 走りますよ、僕!
<0249> 走りますよ、僕!
// <0250> \{鷹文}「あ…」
<0250> \{Takafumi}「あ…」
// <0251> \{鷹文}「うあああぁぁぁぁーーーーーっ!」
<0251> \{Takafumi}「うあああぁぁぁぁーーーーーっ!」
// <0252> \{鷹文}「はぁ…はぁ…」
<0252> \{Takafumi}「はぁ…はぁ…」
// <0253> \{智代}「よし、よくがんばったな、鷹文」
<0253> \{Tomoyo}「よし、よくがんばったな、鷹文」
// <0254> \{鷹文}「………」
<0254> \{Takafumi}「………」
// <0255> \{朋也}「すげぇラストスパートだったな」
<0255> \{Tomoya}「すげぇラストスパートだったな」
// <0256> \{鷹文}「………」
<0256> \{Takafumi}「………」
// <0257> \{鷹文}「…ぼくは…」
<0257> \{Takafumi}「…ぼくは…」
// <0258> \{鷹文}「…優勝した…?」
<0258> \{Takafumi}「…優勝した…?」
// <0259> \{智代}「いや…」
<0259> \{Tomoyo}「いや…」
// <0260> \{鷹文}「負けたの…?」
<0260> \{Takafumi}「負けたの…?」
// <0261> \{鷹文}「一位じゃなかったの…?」
<0261> \{Takafumi}「一位じゃなかったの…?」
// <0262> \{智代}「ああ…」
<0262> \{Tomoyo}「ああ…」
// <0263> \{鷹文}「何位だったの…?」
<0263> \{Takafumi}「何位だったの…?」
// <0264> \{智代}「………」
<0264> \{Tomoyo}「………」
// <0265> \{智代}「それは…」
<0265> \{Tomoyo}「それは…」
// <0266> \{朋也}「31位だ」
<0266> \{Tomoya}「31位だ」
// <0267> \{鷹文}「………」
<0267> \{Takafumi}「………」
// <0268> \{鷹文}「な…」
<0268> \{Takafumi}「な…」
// <0269> \{鷹文}「なんだよ、それ…」
<0269> \{Takafumi}「なんだよ、それ…」
// <0270> \{鷹文}「そんな悪い成績、聞いたことないや…」
<0270> \{Takafumi}「そんな悪い成績、聞いたことないや…」
// <0271> \{鷹文}「はは…」
<0271> \{Takafumi}「はは…」
// <0272> ………。
<0272> ………。
// <0273> ……。
<0273> ……。
// <0274> …。
<0274> …。
// <0275> 先生がいた。
<0275> 先生がいた。
// <0276> いつもと同じ夢だ。
<0276> いつもと同じ夢だ。
// <0277> ただ違うのは、今回は何も言うことがないということだ。
<0277> ただ違うのは、今回は何も言うことがないということだ。
// <0278> 勝てなかったから。
<0278> 勝てなかったから。
// <0279> それでも、報告だけはしておこう…。
<0279> それでも、報告だけはしておこう…。
// <0280> \{鷹文}「先生…」
<0280> \{Takafumi}「先生…」
// <0281> ………。
<0281> ………。
// <0282> 先生は相変わらず黙ったままだ。
<0282> 先生は相変わらず黙ったままだ。
// <0283> \{鷹文}「…先生」
<0283> \{Takafumi}「…先生」
// <0284> \{鷹文}「僕、走りましたよ…」
<0284> \{Takafumi}「僕、走りましたよ…」
// <0285> \{鷹文}「走りました…」
<0285> \{Takafumi}「走りました…」
// <0286> \{鷹文}「でも…」
<0286> \{Takafumi}「でも…」
// <0287> \{鷹文}「ぜんぜんダメで…」
<0287> \{Takafumi}「ぜんぜんダメで…」
// <0288> ………。
<0288> ………。
// <0289> 報告はそれだけだったけど…
<0289> 報告はそれだけだったけど…
// <0290> でも、まだ言いたいことがあった。
<0290> でも、まだ言いたいことがあった。
// <0291> それは、今までひとりで走っていた時とは違う思いがあったから。
<0291> それは、今までひとりで走っていた時とは違う思いがあったから。
// <0292> \{鷹文}「ダメでしたけど…」
<0292> \{Takafumi}「ダメでしたけど…」
// <0293> \{鷹文}「でも…\p
<0293> \{Takafumi}「でも…\p
// <0294> 楽しかったです」
<0294> 楽しかったです」
// <0295> ………。
<0295> ………。
// <0296> \{鷹文}「今も、僕の周りには仲間がいてくれて…」
<0296> \{Takafumi}「今も、僕の周りには仲間がいてくれて…」
// <0297> \{鷹文}「それは、先生が集めた陸上部みたいな、毎日馬鹿をしてる人たちで…」
<0297> \{Takafumi}「それは、先生が集めた陸上部みたいな、毎日馬鹿をしてる人たちで…」
// <0298> \{鷹文}「あの頃みたいだったんです…」
<0298> \{Takafumi}「あの頃みたいだったんです…」
// <0299> \{鷹文}「一番楽しくて、幸せだった時…」
<0299> \{Takafumi}「一番楽しくて、幸せだった時…」
// <0300> \{鷹文}「みんながいて、一緒に馬鹿やって、盛り上がって…」
<0300> \{Takafumi}「みんながいて、一緒に馬鹿やって、盛り上がって…」
// <0301> \{鷹文}「それで、そばにはいつもあいつがいてくれて…」
<0301> \{Takafumi}「それで、そばにはいつもあいつがいてくれて…」
// <0302> ………。
<0302> ………。
// <0303> \{鷹文}「先生…」
<0303> \{Takafumi}「先生…」
// <0304> 口が勝手に動く。喋るのを止められない。
<0304> 口が勝手に動く。喋るのを止められない。
// <0305> \{鷹文}「僕は…」
<0305> \{Takafumi}「僕は…」
// <0306> \{鷹文}「先生と…」
<0306> \{Takafumi}「先生と…」
// <0307> \{鷹文}「あのくそ弱い陸上部と…」
<0307> \{Takafumi}「あのくそ弱い陸上部と…」
// <0308> \{鷹文}「河南子が…」
<0308> \{Takafumi}「河南子が…」
// <0309> \{鷹文}「好きでした…」
<0309> \{Takafumi}「好きでした…」
// <0310> \{鷹文}「大好きでした…」
<0310> \{Takafumi}「大好きでした…」
// <0311> ………。
<0311> ………。
// <0312> \{鷹文}「そして…」
<0312> \{Takafumi}「そして…」
// <0313> 言っちゃいけない。その先を。
<0313> 言っちゃいけない。その先を。
// <0314> 僕は、知ってるのに。
<0314> 僕は、知ってるのに。
// <0315> この先に待つ結末を。
<0315> この先に待つ結末を。
// <0316> 辛辣な言葉を。
<0316> 辛辣な言葉を。
// <0317> ずっと僕を苦しめてきた言葉を。
<0317> ずっと僕を苦しめてきた言葉を。
// <0318> でも、僕は…
<0318> でも、僕は…
// <0319> \{鷹文}「今も僕は…」
<0319> \{Takafumi}「今も僕は…」
// <0320> \{鷹文}「河南子が好きです…」
<0320> \{Takafumi}「河南子が好きです…」
// <0321> \{鷹文}「大好きです」
<0321> \{Takafumi}「大好きです」
// <0322> 言った。
<0322> 言った。
// <0323> ………。
<0323> ………。
// <0324> 先生の口元が震える。
<0324> 先生の口元が震える。
// <0325> その口が…
<0325> その口が…
// <0326> \{鷹文}「………」
<0326> \{Takafumi}「………」
// <0327> \{鷹文}「え…」
<0327> \{Takafumi}「え…」
// <0328> \{河南子}「許すよ」
<0328> \{Kanako}「許すよ」
// <0329> \{鷹文}「かなこ…」
<0329> \{Takafumi}「かなこ…」
// <0330> \{河南子}「許すから」
<0330> \{Kanako}「許すから」
// <0331> \{河南子}「あたしが許すから…」
<0331> \{Kanako}「あたしが許すから…」
// <0332> \{河南子}「あんたが夢で苦しんだら…」
<0332> \{Kanako}「あんたが夢で苦しんだら…」
// <0333> \{河南子}「あたしがそばで、こうして、許してあげるから…」
<0333> \{Kanako}「あたしがそばで、こうして、許してあげるから…」
// <0334> \{河南子}「許し続けるから」
<0334> \{Kanako}「許し続けるから」
// <0335> \{河南子}「だから、もういいんだよ…」
<0335> \{Kanako}「だから、もういいんだよ…」
// <0336> \{河南子}「もう…夢の中で走らなくても…」
<0336> \{Kanako}「もう…夢の中で走らなくても…」
// <0337> \{鷹文}「もう…」
<0337> \{Takafumi}「もう…」
// <0338> \{鷹文}「…走らなくていいの…?」
<0338> \{Takafumi}「…走らなくていいの…?」
// <0339> \{河南子}「うん、もういいんだよ…」
<0339> \{Kanako}「うん、もういいんだよ…」
// <0340> \{鷹文}「もう…勝たなくていいの?」
<0340> \{Takafumi}「もう…勝たなくていいの?」
// <0341> \{河南子}「勝たなくていいよ」
<0341> \{Kanako}「勝たなくていいよ」
// <0342> \{鷹文}「もう…夢におびえなくていいの…?」
<0342> \{Takafumi}「もう…夢におびえなくていいの…?」
// <0343> \{河南子}「うん、もう、怯えなくていいよ…」
<0343> \{Kanako}「うん、もう、怯えなくていいよ…」
// <0344> \{河南子}「許すよ…ぜんぶ」
<0344> \{Kanako}「許すよ…ぜんぶ」
// <0345> \{河南子}「あたしが許すから…」
<0345> \{Kanako}「あたしが許すから…」
// <0346> \{鷹文}「………」
<0346> \{Takafumi}「………」
// <0347> \{河南子}「だから、もう休みなよ…」
<0347> \{Kanako}「だから、もう休みなよ…」
// <0348> \{河南子}「夢の中でも」
<0348> \{Kanako}「夢の中でも」
// <0349> \{河南子}「…おつかれさま」
<0349> \{Kanako}「…おつかれさま」
// <0350> \{鷹文}「………」
<0350> \{Takafumi}「………」
// <0351> \{鷹文}「う…」
<0351> \{Takafumi}「う…」
// <0352> \{鷹文}「うあぁぁぁーーーー…」
<0352> \{Takafumi}「うあぁぁぁーーーー…」
// <0353> 鷹文は泣いた。
<0353> 鷹文は泣いた。
// <0354> 河南子の胸で。
<0354> 河南子の胸で。
// <0355> 恩師の名を連呼しながら。
<0355> 恩師の名を連呼しながら。
// <0356> その後、鷹文は、俺たちの前で正式に、河南子に交際の再開を申し出た。
<0356> その後、鷹文は、俺たちの前で正式に、河南子に交際の再開を申し出た。
// <0357> それまでは憎まれ口を叩き続けていた河南子だったが、その時ばかりは恥じらい顔で、うん、いいよ、と頷いた。
<0357> それまでは憎まれ口を叩き続けていた河南子だったが、その時ばかりは恥じらい顔で、うん、いいよ、と頷いた。
// <0358> 頬を染めて、嫉妬するぐらいに可愛い顔で。
<0358> 頬を染めて、嫉妬するぐらいに可愛い顔で。
// <0359> あまりに癪だったので、膝蹴りを入れながら、鷹文に飛びかかってやった。
<0359> あまりに癪だったので、膝蹴りを入れながら、鷹文に飛びかかってやった。
// <0360> 智代も感極まったように、河南子に抱きついていた。
<0360> 智代も感極まったように、河南子に抱きついていた。
// <0361> そうして三年間、走り続けてきた鷹文は…
<0361> そうして三年間、走り続けてきた鷹文は…
// <0362> ようやく走り終えた。
<0362> ようやく走り終えた。
// <0363> 台所からはとんとんと包丁の立てる音。
<0363> 台所からはとんとんと包丁の立てる音。
// <0364> 聞こえてくる音はそれだけだった。
<0364> 聞こえてくる音はそれだけだった。
// <0365> \{朋也}「…静かだ」
<0365> \{Tomoya}「…静かだ」
// <0366> 部屋には、晩ご飯の支度をしている智代と、ともと俺の三人だけ。
<0366> 部屋には、晩ご飯の支度をしている智代と、ともと俺の三人だけ。
// <0367> 河南子は実家に戻っている。
<0367> 河南子は実家に戻っている。
// <0368> 母親と話し合いをするため。
<0368> 母親と話し合いをするため。
// <0369> 鷹文はその付き添いだ。
<0369> 鷹文はその付き添いだ。
// <0370> \{とも}「んーっ」
<0370> \{Tomo}「んーっ」
// <0371> ともが眠そうに伸びをした。
<0371> ともが眠そうに伸びをした。
// <0372> 退屈そうだった。
<0372> 退屈そうだった。
// <0373> あれだけ賑やかだったんだから、仕方がないか。
<0373> あれだけ賑やかだったんだから、仕方がないか。