// Resources for SEEN0708.TXT
// #character '朋也'
#character 'Tomoya'
// #character '智代'
#character 'Tomoyo'
// #character 'とも'
#character 'Tomo'
// #character '先生'
#character 'Teacher'
// #character '女性'
#character 'Woman'
// #character '初老の女性'
#character 'Middle-aged woman'
// #character '鷹文'
#character 'Takafumi'
// <0000> 7月8日(木)
<0000> July 8th (Thu)
// <0001> …とんとんとん…
<0001> …とんとんとん…
// <0002> とんとんとん…
<0002> とんとんとん…
// <0003> 翌朝は、まな板の立てる音で目覚めた。
<0003> 翌朝は、まな板の立てる音で目覚めた。
// <0004> 布団には俺がひとりきり。上体を起こす。
<0004> 布団には俺がひとりきり。上体を起こす。
// <0005> 台所にはエプロン姿の智代。足下には、かごを椅子代わりにともが座っている。
<0005> 台所にはエプロン姿の智代。足下には、かごを椅子代わりにともが座っている。
// <0006> \{朋也}「うわ、すげー、なんか感動」
<0006> \{Tomoya}「うわ、すげー、なんか感動」
// <0007> \{智代}「ん、起きたのか。おはよう」
<0007> \{Tomoyo}「ん、起きたのか。おはよう」
// <0008> \{とも}「パパ、おはよー」
<0008> \{Tomo}「パパ、おはよー」
// <0009> \{朋也}「ああ、おはよ」
<0009> \{Tomoya}「ああ、おはよ」
// <0010> 布団から抜け出して、あくびをする。
<0010> 布団から抜け出して、あくびをする。
// <0011> \{朋也}「そういや、これ、同棲生活じゃん」
<0011> \{Tomoya}「そういや、これ、同棲生活じゃん」
// <0012> \{智代}「ん? ああ…」
<0012> \{Tomoyo}「ん? ああ…」
// <0013> \{智代}「うん、そうかもしれない」
<0013> \{Tomoyo}「うん、そうかもしれない」
// <0014> \{智代}「でも、ともがいるからな」
<0014> \{Tomoyo}「でも、ともがいるからな」
// <0015> \{智代}「共同生活だな」
<0015> \{Tomoyo}「共同生活だな」
// <0016> \{智代}「な、とも」
<0016> \{Tomoyo}「な、とも」
// <0017> \{とも}「ん?」
<0017> \{Tomo}「ん?」
// <0018> まったくわかっていない様子でともが智代を見上げている。
<0018> まったくわかっていない様子でともが智代を見上げている。
// <0019> \{智代}「いや、うん、なんでもない」
<0019> \{Tomoyo}「いや、うん、なんでもない」
// <0020> 言って、笑う。
<0020> 言って、笑う。
// <0021> ともも、笑う。
<0021> ともも、笑う。
// <0022> 朝日の逆光の中にいるふたりは、なんだか幸せな親子の象徴のように見えた。
<0022> 朝日の逆光の中にいるふたりは、なんだか幸せな親子の象徴のように見えた。
// <0023> 俺もその中に混じれるだろうか、なんて考えながらにやけてしまう。
<0023> 俺もその中に混じれるだろうか、なんて考えながらにやけてしまう。
// <0024> しばらくそうして見とれていたが、やらなくてはいけないことを思い出し、急いで布団を仕舞いにかかる。
<0024> しばらくそうして見とれていたが、やらなくてはいけないことを思い出し、急いで布団を仕舞いにかかる。
// <0025> 智代とともが話し込んでいる隙に、俺は幼稚園の場所を電話で調べ上げた。
<0025> 智代とともが話し込んでいる隙に、俺は幼稚園の場所を電話で調べ上げた。
// <0026> そんなに遠くはない。
<0026> そんなに遠くはない。
// <0027> けど徒歩だと、30分はかかる距離だ。
<0027> けど徒歩だと、30分はかかる距離だ。
// <0028> \{朋也}(まあ、今日はどうしようもないな…)
<0028> \{Tomoya}(まあ、今日はどうしようもないな…)
// <0029> テーブルに朝食が並べられていくのをぼーっと見守る。
<0029> テーブルに朝食が並べられていくのをぼーっと見守る。
// <0030> \{智代}「場所、わかったか?」
<0030> \{Tomoyo}「場所、わかったか?」
// <0031> \{朋也}「ん? ああ」
<0031> \{Tomoya}「ん? ああ」
// <0032> \{智代}「近かったか?」
<0032> \{Tomoyo}「近かったか?」
// <0033> \{朋也}「まあ、なんとか歩いていける距離」
<0033> \{Tomoya}「まあ、なんとか歩いていける距離」
// <0034> \{智代}「そうか。それはよかった」
<0034> \{Tomoyo}「そうか。それはよかった」
// <0035> \{智代}「とも、今日は私が連れていくからな」
<0035> \{Tomoyo}「とも、今日は私が連れていくからな」
// <0036> \{とも}「うんっ」
<0036> \{Tomo}「うんっ」
// <0037> お椀を持って、ともが座る。
<0037> お椀を持って、ともが座る。
// <0038> そのお椀にご飯をよそう智代。
<0038> そのお椀にご飯をよそう智代。
// <0039> \{朋也}「俺もいくよ」
<0039> \{Tomoya}「俺もいくよ」
// <0040> \{智代}「仕事のほうは大丈夫なのか?」
<0040> \{Tomoyo}「仕事のほうは大丈夫なのか?」
// <0041> \{朋也}「何事もなければな」
<0041> \{Tomoya}「何事もなければな」
// <0042> \{智代}「そうか。じゃあ、三人でいこう」
<0042> \{Tomoyo}「そうか。じゃあ、三人でいこう」
// <0043> 三人で出る支度をする。
<0043> 三人で出る支度をする。
// <0044> 智代がともの制服を着せている間に、リュックの中身を整頓する。
<0044> 智代がともの制服を着せている間に、リュックの中身を整頓する。
// <0045> \{朋也}「通園用の鞄ってこれ?」
<0045> \{Tomoya}「通園用の鞄ってこれ?」
// <0046> 中からストラップのついた小さな鞄を取り出す。
<0046> 中からストラップのついた小さな鞄を取り出す。
// <0047> \{智代}「うん、それに違いない。それにお弁当を入れて持っていくんだ」
<0047> \{Tomoyo}「うん、それに違いない。それにお弁当を入れて持っていくんだ」
// <0048> 跳ねるようにして立ち上がると、台所からハンカチの包みを持ってくる。
<0048> 跳ねるようにして立ち上がると、台所からハンカチの包みを持ってくる。
// <0049> \{智代}「とは言っても、今日はおにぎりだけなんだ」
<0049> \{Tomoyo}「とは言っても、今日はおにぎりだけなんだ」
// <0050> \{智代}「弁当箱がなかったからな」
<0050> \{Tomoyo}「弁当箱がなかったからな」
// <0051> \{智代}「だから帰ってきたら、弁当箱を買うことにしたんだ」
<0051> \{Tomoyo}「だから帰ってきたら、弁当箱を買うことにしたんだ」
// <0052> \{智代}「おにぎりだけなんて可哀想だからな」
<0052> \{Tomoyo}「おにぎりだけなんて可哀想だからな」
// <0053> 鞄を渡してやると、その中に大事に包みを詰め込む。
<0053> 鞄を渡してやると、その中に大事に包みを詰め込む。
// <0054> \{とも}「あーっ、手がでないよ、もー」
<0054> \{Tomo}「あーっ、手がでないよ、もー」
// <0055> ともが服の中で手をばたつかせていた。
<0055> ともが服の中で手をばたつかせていた。
// <0056> \{智代}「ああ、すまない」
<0056> \{Tomoyo}「ああ、すまない」
// <0057> 慌ただしくともの前に舞い戻って、服を着せてやる。
<0057> 慌ただしくともの前に舞い戻って、服を着せてやる。
// <0058> \{智代}「外は暑いからな、ちゃんと帽子もかぶって」
<0058> \{Tomoyo}「外は暑いからな、ちゃんと帽子もかぶって」
// <0059> \{智代}「ほら、できた」
<0059> \{Tomoyo}「ほら、できた」
// <0060> \{とも}「でーきたー!!」
<0060> \{Tomo}「でーきたー!!」
// <0061> 通行人に訊いて位置の確認を取りながら、幼稚園へと向かう。
<0061> 通行人に訊いて位置の確認を取りながら、幼稚園へと向かう。
// <0062> 途中で歩いていては間に合わないことに気づき、俺と智代が交互にともを負ぶって走った。
<0062> 途中で歩いていては間に合わないことに気づき、俺と智代が交互にともを負ぶって走った。
// <0063> \{とも}「あせ、すごいよー」
<0063> \{Tomo}「あせ、すごいよー」
// <0064> \{智代}「ああ…うん、今日は朝から暑いな」
<0064> \{Tomoyo}「ああ…うん、今日は朝から暑いな」
// <0065> 背中のともがハンカチを取り出して、智代の首筋を拭く。
<0065> 背中のともがハンカチを取り出して、智代の首筋を拭く。
// <0066> \{智代}「ありがとう」
<0066> \{Tomoyo}「ありがとう」
// <0067> 言って、目を線にして微笑む。
<0067> 言って、目を線にして微笑む。
// <0068> \{朋也}「ついたようだぞ」
<0068> \{Tomoya}「ついたようだぞ」
// <0069> 俺は前を見てそう告げた。
<0069> 俺は前を見てそう告げた。
// <0070> その先には、たくさんの園児や主婦が集まっていた。
<0070> その先には、たくさんの園児や主婦が集まっていた。
// <0071> \{智代}「ここからは歩こう」
<0071> \{Tomoyo}「ここからは歩こう」
// <0072> ともを地面に下ろして、手を繋ぐ。
<0072> ともを地面に下ろして、手を繋ぐ。
// <0073> 母親のようにして、門の前まで歩いていった。
<0073> 母親のようにして、門の前まで歩いていった。
// <0074> 俺もその後に続く。
<0074> 俺もその後に続く。
// <0075> \{智代}「おはよう」
<0075> \{Tomoyo}「おはよう」
// <0076> ひとりの先生に挨拶をする智代。
<0076> ひとりの先生に挨拶をする智代。
// <0077> \{智代}「この子の母親の代わりなんだが」
<0077> \{Tomoyo}「この子の母親の代わりなんだが」
// <0078> 繋いだ手を挙げてみせる。
<0078> 繋いだ手を挙げてみせる。
// <0079> その先に視線を落として、先生は笑みを作る。
<0079> その先に視線を落として、先生は笑みを作る。
// <0080> \{先生}「ああ、ともちゃんの」
<0080> \{Teacher}「ああ、ともちゃんの」
// <0081> \{先生}「ともちゃん、おはようございます」
<0081> \{Teacher}「ともちゃん、おはようございます」
// <0082> \{とも}「おはよーございます」
<0082> \{Tomo}「おはよーございます」
// <0083> 腰を屈めて挨拶した後、ともを園内に通す。
<0083> 腰を屈めて挨拶した後、ともを園内に通す。
// <0084> そして、智代に向き直る。一転して、真剣な顔つきで。
<0084> そして、智代に向き直る。一転して、真剣な顔つきで。
// <0085> \{先生}「坂上さんの…娘さんでしょうか」
<0085> \{Teacher}「坂上さんの…娘さんでしょうか」
// <0086> \{智代}「…ああ、そうだ」
<0086> \{Tomoyo}「…ああ、そうだ」
// <0087> \{先生}「親御さんが送りにこなかったのは…どうしてなんでしょう」
<0087> \{Teacher}「親御さんが送りにこなかったのは…どうしてなんでしょう」
// <0088> その質問にどう答えればいいのか、智代は逡巡する。
<0088> その質問にどう答えればいいのか、智代は逡巡する。
// <0089> \{智代}「ん…ああ…忙しいんだ、あいつらは…」
<0089> \{Tomoyo}「ん…ああ…忙しいんだ、あいつらは…」
// <0090> 苦しげにそう答えた。
<0090> 苦しげにそう答えた。
// <0091> \{先生}「そうなんですか…」
<0091> \{Teacher}「そうなんですか…」
// <0092> \{先生}「ともちゃんは…ちゃんと新しいおうちに迎えられたんでしょうか」
<0092> \{Teacher}「ともちゃんは…ちゃんと新しいおうちに迎えられたんでしょうか」
// <0093> \{先生}「そのことが心配で…」
<0093> \{Teacher}「そのことが心配で…」
// <0094> \{智代}「新しいうち…」
<0094> \{Tomoyo}「新しいうち…」
// <0095> 初めて聞く単語のように繰り返す。
<0095> 初めて聞く単語のように繰り返す。
// <0096> \{智代}「うちがか…?」
<0096> \{Tomoyo}「うちがか…?」
// <0097> \{先生}「え…娘さんは知らされてなかったんですか」
<0097> \{Teacher}「え…娘さんは知らされてなかったんですか」
// <0098> \{先生}「ともちゃんのお母さんからは、そう伺っています」
<0098> \{Teacher}「ともちゃんのお母さんからは、そう伺っています」
// <0099> \{先生}「あの子は、坂上さんの家の子になります、と…」
<0099> \{Teacher}「あの子は、坂上さんの家の子になります、と…」
// <0100> \{智代}「………」
<0100> \{Tomoyo}「………」
// <0101> 智代が何か言おうとした。俺はその手を握った。
<0101> 智代が何か言おうとした。俺はその手を握った。
// <0102> 智代が俺を振り返る。俺は首を振った。
<0102> 智代が俺を振り返る。俺は首を振った。
// <0103> 智代は当惑していた。当然だった。
<0103> 智代は当惑していた。当然だった。
// <0104> 智代だけだったんだから。知らなかったのは。
<0104> 智代だけだったんだから。知らなかったのは。
// <0105> \{先生}「あの子のお母さん…三島さんは、とても子供思いで優しい方でした」
<0105> \{Teacher}「あの子のお母さん…三島さんは、とても子供思いで優しい方でした」
// <0106> \{先生}「でも、精神的に、弱いひとで…」
<0106> \{Teacher}「でも、精神的に、弱いひとで…」
// <0107> \{先生}「あの子を手放したことで、思い詰めていないといいんですけど…」
<0107> \{Teacher}「あの子を手放したことで、思い詰めていないといいんですけど…」
// <0108> \{先生}「ともちゃんは…昨日は元気でしたか」
<0108> \{Teacher}「ともちゃんは…昨日は元気でしたか」
// <0109> \{智代}「………」
<0109> \{Tomoyo}「………」
// <0110> \{朋也}「ああ、元気だったよ」
<0110> \{Tomoya}「ああ、元気だったよ」
// <0111> \{朋也}「こいつにすごく懐いてるんだ」
<0111> \{Tomoya}「こいつにすごく懐いてるんだ」
// <0112> 代わりに俺が答えた。
<0112> 代わりに俺が答えた。
// <0113> \{先生}「そうですか」
<0113> \{Teacher}「そうですか」
// <0114> \{先生}「優しいお姉さんがいるなら、大丈夫ですね」
<0114> \{Teacher}「優しいお姉さんがいるなら、大丈夫ですね」
// <0115> \{智代}「………」
<0115> \{Tomoyo}「………」
// <0116> 結局、智代は最後まで呆然としたままだった。
<0116> 結局、智代は最後まで呆然としたままだった。
// <0117> \{朋也}「学校、ちゃんといけよ」
<0117> \{Tomoya}「学校、ちゃんといけよ」
// <0118> 俺は誰もいない歩道に立ちつくす智代にそう声をかける。
<0118> 俺は誰もいない歩道に立ちつくす智代にそう声をかける。
// <0119> いつまで経っても、歩きだそうとしない。
<0119> いつまで経っても、歩きだそうとしない。
// <0120> \{智代}「………」
<0120> \{Tomoyo}「………」
// <0121> \{智代}「なぁ…」
<0121> \{Tomoyo}「なぁ…」
// <0122> \{智代}「あの子は何も知らないんだ…」
<0122> \{Tomoyo}「あの子は何も知らないんだ…」
// <0123> \{朋也}「………」
<0123> \{Tomoya}「………」
// <0124> \{智代}「お父さんに会えるからって、家の前まで連れてこられただけなんだ…」
<0124> \{Tomoyo}「お父さんに会えるからって、家の前まで連れてこられただけなんだ…」
// <0125> \{朋也}「………」
<0125> \{Tomoya}「………」
// <0126> \{智代}「たちの悪い悪戯か…」
<0126> \{Tomoyo}「たちの悪い悪戯か…」
// <0127> \{朋也}「………」
<0127> \{Tomoya}「………」
// <0128> \{智代}「そんな悪戯したら、可哀想だろ…」
<0128> \{Tomoyo}「そんな悪戯したら、可哀想だろ…」
// <0129> \{智代}「あんないい子なのに…」
<0129> \{Tomoyo}「あんないい子なのに…」
// <0130> \{智代}「可哀想だろ…」
<0130> \{Tomoyo}「可哀想だろ…」
// <0131> \{朋也}「………」
<0131> \{Tomoya}「………」
// <0132> \{朋也}「そうだな…」
<0132> \{Tomoya}「そうだな…」
// <0133> \{朋也}「だから、今日は一緒に弁当箱買いにいってやれよ」
<0133> \{Tomoya}「だから、今日は一緒に弁当箱買いにいってやれよ」
// <0134> そう言って、肩を叩いてやる。
<0134> そう言って、肩を叩いてやる。
// <0135> \{智代}「………」
<0135> \{Tomoyo}「………」
// <0136> \{智代}「うん…」
<0136> \{Tomoyo}「うん…」
// <0137> 頷いて、ようやく歩き始めた。
<0137> 頷いて、ようやく歩き始めた。
// <0138> 俺も仕事場へ急いだ。
<0138> 俺も仕事場へ急いだ。
// <0139> 洗濯機と向かい合っていた。
<0139> 洗濯機と向かい合っていた。
// <0140> 今日はこいつの修理だ。
<0140> 今日はこいつの修理だ。
// <0141> スイッチを入れてみると、ものすごい異音がした。
<0141> スイッチを入れてみると、ものすごい異音がした。
// <0142> 俺はそこで確認をやめ、分解掃除に取りかかった。
<0142> 俺はそこで確認をやめ、分解掃除に取りかかった。
// <0143> 大体洗濯機は表側が綺麗でも、中はカビと洗剤だらけだ。
<0143> 大体洗濯機は表側が綺麗でも、中はカビと洗剤だらけだ。
// <0144> 業務用洗剤とスポンジを手に、丁寧に洗い始めた。
<0144> 業務用洗剤とスポンジを手に、丁寧に洗い始めた。
// <0145> 午後からの外回り、ごみ収集場所をいくつか巡っていると、手を振って合図をする女性に出会った。
<0145> 午後からの外回り、ごみ収集場所をいくつか巡っていると、手を振って合図をする女性に出会った。
// <0146> 昨日の人だ。おおらかな老人の奥さん。
<0146> 昨日の人だ。おおらかな老人の奥さん。
// <0147> \{女性}「ごめんなさいね、呼び止めてしまって」
<0147> \{Woman}「ごめんなさいね、呼び止めてしまって」
// <0148> \{朋也}「いいですよ。どうかしましたか」
<0148> \{Tomoya}「いいですよ。どうかしましたか」
// <0149> \{女性}「あのね、修理ってお願いできるかしら?」
<0149> \{Woman}「あのね、修理ってお願いできるかしら?」
// <0150> \{朋也}「一応してますけど」
<0150> \{Tomoya}「一応してますけど」
// <0151> \{女性}「お願いなんだけど、ここに行ってもらえるかしら?」
<0151> \{Woman}「お願いなんだけど、ここに行ってもらえるかしら?」
// <0152> メモには住所が書いてあった。
<0152> メモには住所が書いてあった。
// <0153> いつも回っている地区なので場所はすぐにわかった。
<0153> いつも回っている地区なので場所はすぐにわかった。
// <0154> \{朋也}「急ぎですか?」
<0154> \{Tomoya}「急ぎですか?」
// <0155> \{初老の女性}「そうなの、困ってるみたいだから」
<0155> \{Middle-aged woman}「そうなの、困ってるみたいだから」
// <0156> \{朋也}「じゃ、先に伺います」
<0156> \{Tomoya}「じゃ、先に伺います」
// <0157> \{初老の女性}「悪いわねえ、急にお願いして」
<0157> \{Middle-aged woman}「悪いわねえ、急にお願いして」
// <0158> \{朋也}「いや、気にしないでください」
<0158> \{Tomoya}「いや、気にしないでください」
// <0159> 困ってるなら、急いで行った方がいいだろう。
<0159> 困ってるなら、急いで行った方がいいだろう。
// <0160> 軽トラを飛ばして目的地に行くと、おばさんが待っていた。
<0160> 軽トラを飛ばして目的地に行くと、おばさんが待っていた。
// <0161> \{女性}「あ、高町さんにお願いしたんだけど、あなたかな?」
<0161> \{Woman}「あ、高町さんにお願いしたんだけど、あなたかな?」
// <0162> \{朋也}「修理が必要って聞いたんですが」
<0162> \{Tomoya}「修理が必要って聞いたんですが」
// <0163> \{女性}「そうなの、いきなり冷蔵庫が壊れてね」
<0163> \{Woman}「そうなの、いきなり冷蔵庫が壊れてね」
// <0164> \{女性}「電気屋さんに訊いたら、明日だって言われたから困っちゃって」
<0164> \{Woman}「電気屋さんに訊いたら、明日だって言われたから困っちゃって」
// <0165> \{女性}「もうあったかいし、冷凍庫のものが溶けちゃうじゃない。ねぇ?」
<0165> \{Woman}「もうあったかいし、冷凍庫のものが溶けちゃうじゃない。ねぇ?」
// <0166> \{朋也}「わかりました。とりあえず見てみます」
<0166> \{Tomoya}「わかりました。とりあえず見てみます」
// <0167> 冷蔵庫はけっこう旧式のものだった。
<0167> 冷蔵庫はけっこう旧式のものだった。
// <0168> 古い分、部品は手に入りにくいことがあるが、作りが簡単なので修理はしやすい。
<0168> 古い分、部品は手に入りにくいことがあるが、作りが簡単なので修理はしやすい。
// <0169> 開けてみると冷気が全く出ていなかったが、冷蔵庫は普通に動いていた。
<0169> 開けてみると冷気が全く出ていなかったが、冷蔵庫は普通に動いていた。
// <0170> \{朋也}「いつ頃から動かなくなったんですか?」
<0170> \{Tomoya}「いつ頃から動かなくなったんですか?」
// <0171> \{女性}「お昼くらいかしら」
<0171> \{Woman}「お昼くらいかしら」
// <0172> そんなに時間は経ってない。
<0172> そんなに時間は経ってない。
// <0173> 俺は冷蔵庫を引き出して、背面カバーを開けた。
<0173> 俺は冷蔵庫を引き出して、背面カバーを開けた。
// <0174> コンプレッサーが動いておらず、全く音がしない。
<0174> コンプレッサーが動いておらず、全く音がしない。
// <0175> なら、こいつが壊れてるか、センサーの不良あたりだろう。
<0175> なら、こいつが壊れてるか、センサーの不良あたりだろう。
// <0176> 冷蔵が生きている以上、冷却液の漏れはない。
<0176> 冷蔵が生きている以上、冷却液の漏れはない。
// <0177> 確認するために、霜取り用タイマーを手動で動かしてみた。
<0177> 確認するために、霜取り用タイマーを手動で動かしてみた。
// <0178> 10センチくらいのボックスへドライバーを刺しこみ、少しずつ回す。
<0178> 10センチくらいのボックスへドライバーを刺しこみ、少しずつ回す。
// <0179> かちん、と音がして、唸るような作動音がした。
<0179> かちん、と音がして、唸るような作動音がした。
// <0180> どうやらここが原因みたいだ。
<0180> どうやらここが原因みたいだ。
// <0181> \{朋也}「霜取りタイマーがおかしいみたいですね」
<0181> \{Tomoya}「霜取りタイマーがおかしいみたいですね」
// <0182> \{朋也}「冷凍庫に霜がつかないよう、タイマーが運転を止めるんです」
<0182> \{Tomoya}「冷凍庫に霜がつかないよう、タイマーが運転を止めるんです」
// <0183> \{朋也}「でもタイマーが故障して、戻らなくなったみたいですね」
<0183> \{Tomoya}「でもタイマーが故障して、戻らなくなったみたいですね」
// <0184> \{朋也}「修理しないといけないけど、明日までならこれでとりあえず冷えますから」
<0184> \{Tomoya}「修理しないといけないけど、明日までならこれでとりあえず冷えますから」
// <0185> \{女性}「本当ですか?」
<0185> \{Woman}「本当ですか?」
// <0186> \{朋也}「なるべく冷凍庫は開けないようにしてください」
<0186> \{Tomoya}「なるべく冷凍庫は開けないようにしてください」
// <0187> \{女性}「ありがとうございます」
<0187> \{Woman}「ありがとうございます」
// <0188> 女性は深々と頭を下げてくれた。
<0188> 女性は深々と頭を下げてくれた。
// <0189> \{女性}「それで、あの、御代はどのくらいでしょうか?」
<0189> \{Woman}「それで、あの、御代はどのくらいでしょうか?」
// <0190> \{朋也}「…は?」
<0190> \{Tomoya}「…は?」
// <0191> \{女性}「修理代ですけど、いかほど…」
<0191> \{Woman}「修理代ですけど、いかほど…」
// <0192> ちょっと固まってしまった。
<0192> ちょっと固まってしまった。
// <0193> そういえば、そのあたりのことは全然知らない。
<0193> そういえば、そのあたりのことは全然知らない。
// <0194> \{朋也}「…あの、電話借りていいですか?」
<0194> \{Tomoya}「…あの、電話借りていいですか?」
// <0195> \{女性}「ええ、いいですよ」
<0195> \{Woman}「ええ、いいですよ」
// <0196> おばさんは不思議そうに俺を見ていた。
<0196> おばさんは不思議そうに俺を見ていた。
// <0197> 親方に笑われた。
<0197> 親方に笑われた。
// <0198> 親切もいいが、ちゃんと仕事にしてくれ、と。
<0198> 親切もいいが、ちゃんと仕事にしてくれ、と。
// <0199> 何か修理したわけではなく、原因を突き止めただけなので、手間賃でいいだろうとのことで決着がついた。
<0199> 何か修理したわけではなく、原因を突き止めただけなので、手間賃でいいだろうとのことで決着がついた。
// <0200> 修理するなら最後まで面倒を見てもいい、と許可ももらっていた。
<0200> 修理するなら最後まで面倒を見てもいい、と許可ももらっていた。
// <0201> \{朋也}「…じゃあ、今回は千円でどうですか?」
<0201> \{Tomoya}「…じゃあ、今回は千円でどうですか?」
// <0202> \{朋也}「調整しただけだし、手間賃ってことで」
<0202> \{Tomoya}「調整しただけだし、手間賃ってことで」
// <0203> \{女性}「いいんですか?」
<0203> \{Woman}「いいんですか?」
// <0204> \{朋也}「タイマーのスイッチを入れただけですからね」
<0204> \{Tomoya}「タイマーのスイッチを入れただけですからね」
// <0205> \{朋也}「多分戻ればパーツがあると思うから、よかったら持ってきますよ」
<0205> \{Tomoya}「多分戻ればパーツがあると思うから、よかったら持ってきますよ」
// <0206> \{朋也}「それだったら、部品代と手間賃で、えーと…」
<0206> \{Tomoya}「それだったら、部品代と手間賃で、えーと…」
// <0207> 俺は計算機を持ち出して叩いた。
<0207> 俺は計算機を持ち出して叩いた。
// <0208> 交換しても一時間かからない仕事だから、出張費を足してこのくらいでどうかと提示した。
<0208> 交換しても一時間かからない仕事だから、出張費を足してこのくらいでどうかと提示した。
// <0209> \{女性}「それでよろしいのですか?」
<0209> \{Woman}「それでよろしいのですか?」
// <0210> 思いのほか安かったらしい。
<0210> 思いのほか安かったらしい。
// <0211> \{朋也}「せっかく直るものだしね。買い換えるのはもったいないでしょ」
<0211> \{Tomoya}「せっかく直るものだしね。買い換えるのはもったいないでしょ」
// <0212> \{女性}「本当にありがとう。この冷蔵庫、捨てたくなかったんですよ」
<0212> \{Woman}「本当にありがとう。この冷蔵庫、捨てたくなかったんですよ」
// <0213> \{女性}「もう十何年も前になりますけど、義母(はは)が揃えてくれたので…」
<0213> \{Woman}「もう十何年も前になりますけど、義母(はは)が揃えてくれたので…」
// <0214> \{女性}「私がこの家に嫁いできたとき、喜んでくれて…」
<0214> \{Woman}「私がこの家に嫁いできたとき、喜んでくれて…」
// <0215> \{女性}「無口な義母(はは)ですけど、旦那と私が恥ずかしくないようにって」
<0215> \{Woman}「無口な義母(はは)ですけど、旦那と私が恥ずかしくないようにって」
// <0216> \{女性}「今は、さっさと買い替えなさいって言ってくれるんですけど、私は気に入ってるんですよ」
<0216> \{Woman}「今は、さっさと買い替えなさいって言ってくれるんですけど、私は気に入ってるんですよ」
// <0217> 物に込める想い、というものがあるのは知っていた。
<0217> 物に込める想い、というものがあるのは知っていた。
// <0218> 漠然とした考えだったが、肌で実感できたことに感謝した。
<0218> 漠然とした考えだったが、肌で実感できたことに感謝した。
// <0219> 俺は一度会社へ、部品を取りに戻った。
<0219> 俺は一度会社へ、部品を取りに戻った。
// <0220> 交換して様子を見てください、とだけ伝えて、家を後にした。
<0220> 交換して様子を見てください、とだけ伝えて、家を後にした。
// <0221> 旦那さんとお母さんも戻っており、口々にお礼を言ってもらえた。
<0221> 旦那さんとお母さんも戻っており、口々にお礼を言ってもらえた。
// <0222> 俺は純粋に嬉しかった。
<0222> 俺は純粋に嬉しかった。
// <0223> お礼を言ってもらえたことじゃない。
<0223> お礼を言ってもらえたことじゃない。
// <0224> その人たちにとって、かけがえのない思い出が詰まっているものを直せたことに。
<0224> その人たちにとって、かけがえのない思い出が詰まっているものを直せたことに。
// <0225> その日の仕事を終え、帰宅する。
<0225> その日の仕事を終え、帰宅する。
// <0226> 俺の部屋の前に、あからさまに不審な男が張りついていた。
<0226> 俺の部屋の前に、あからさまに不審な男が張りついていた。
// <0227> \{朋也}「おまえ、人の家、覗くのやめろ」
<0227> \{Tomoya}「おまえ、人の家、覗くのやめろ」
// <0228> \{鷹文}「あ、にぃちゃんか」
<0228> \{Takafumi}「あ、にぃちゃんか」
// <0229> \{鷹文}「いや、なんか入りづらくてさ」
<0229> \{Takafumi}「いや、なんか入りづらくてさ」
// <0230> \{鷹文}「ねぇちゃん、すごく幸せそうだから」
<0230> \{Takafumi}「ねぇちゃん、すごく幸せそうだから」
// <0231> 鷹文の背後から俺も部屋の中をのぞき見る。
<0231> 鷹文の背後から俺も部屋の中をのぞき見る。
// <0232> そこには、ぬいぐるみを手にともと遊んでいる智代の姿。
<0232> そこには、ぬいぐるみを手にともと遊んでいる智代の姿。
// <0233> ずっと頬を緩めて、笑っていた。
<0233> ずっと頬を緩めて、笑っていた。
// <0234> \{鷹文}「にぃちゃんとふたりでいる時のねぇちゃんも愛を感じて幸せそうだったけど…」
<0234> \{Takafumi}「にぃちゃんとふたりでいる時のねぇちゃんも愛を感じて幸せそうだったけど…」
// <0235> \{鷹文}「今は違う愛を感じてるよね」
<0235> \{Takafumi}「今は違う愛を感じてるよね」
// <0236> \{鷹文}「母性愛っていうの?」
<0236> \{Takafumi}「母性愛っていうの?」
// <0237> \{鷹文}「僕はさ、ねぇちゃんの幸せそうな姿見るの好きなんだ」
<0237> \{Takafumi}「僕はさ、ねぇちゃんの幸せそうな姿見るの好きなんだ」
// <0238> \{朋也}「好きでもいいけど、ひとのエッチは見んなよ…」
<0238> \{Tomoya}「好きでもいいけど、ひとのエッチは見んなよ…」
// <0239> \{鷹文}「いやあれは事故だってば」
<0239> \{Takafumi}「いやあれは事故だってば」
// <0240> \{朋也}「合わせてたようにしか思えなかったけどな」
<0240> \{Tomoya}「合わせてたようにしか思えなかったけどな」
// <0241> \{鷹文}「それに、あの、ねぇちゃんだからね」
<0241> \{Takafumi}「それに、あの、ねぇちゃんだからね」
// <0242> 荒れていた長い時間を経て今がある。幸せな姿であればどんなものでも新鮮なのだろう。
<0242> 荒れていた長い時間を経て今がある。幸せな姿であればどんなものでも新鮮なのだろう。
// <0243> 鷹文は、家族の幸せを願い、そしてそれをようやく手に入れ、今こうして実感するに至っている。
<0243> 鷹文は、家族の幸せを願い、そしてそれをようやく手に入れ、今こうして実感するに至っている。
// <0244> \{鷹文}「あと、うちのほうにはやっぱりなんにも話はなかったみたいだよ」
<0244> \{Takafumi}「あと、うちのほうにはやっぱりなんにも話はなかったみたいだよ」
// <0245> 一瞬なんの話だかわからなかった。
<0245> 一瞬なんの話だかわからなかった。
// <0246> すぐ、ともの件だと気づく。
<0246> すぐ、ともの件だと気づく。
// <0247> 坂上家はいつもと変わりなかったということだ。
<0247> 坂上家はいつもと変わりなかったということだ。
// <0248> \{朋也}「ああ、そっか…だろうな…」
<0248> \{Tomoya}「ああ、そっか…だろうな…」
// <0249> 窓の向こうで、智代がともにキスしていた。
<0249> 窓の向こうで、智代がともにキスしていた。
// <0250> \{朋也}「な、鷹文」
<0250> \{Tomoya}「な、鷹文」
// <0251> \{朋也}「捜索願い、出しておいてくれないか」
<0251> \{Tomoya}「捜索願い、出しておいてくれないか」
// <0252> \{鷹文}「えっ、警察沙汰にするの?」
<0252> \{Takafumi}「えっ、警察沙汰にするの?」
// <0253> \{朋也}「母親だけだよ」
<0253> \{Tomoya}「母親だけだよ」
// <0254> \{朋也}「あの子は巻き込まないから」
<0254> \{Tomoya}「あの子は巻き込まないから」
// <0255> \{鷹文}「うん、まあ、ならいいけど…」
<0255> \{Takafumi}「うん、まあ、ならいいけど…」
// <0256> \{朋也}「よろしく」
<0256> \{Tomoya}「よろしく」
// <0257> 言って、ドアノブに手をかけた。
<0257> 言って、ドアノブに手をかけた。
// <0258> \{朋也}「ただいま」
<0258> \{Tomoya}「ただいま」
// <0259> \{鷹文}「とも、こんにちは」
<0259> \{Takafumi}「とも、こんにちは」
// <0260> \{智代}「ほら、見ろ。あのふたりは男同士なのにできているんだ」
<0260> \{Tomoyo}「ほら、見ろ。あのふたりは男同士なのにできているんだ」
// <0261> \{智代}「待ち合わせて帰ってきてるんだぞ。どうだ気持ち悪いだろう。きもいと言ってやれ」
<0261> \{Tomoyo}「待ち合わせて帰ってきてるんだぞ。どうだ気持ち悪いだろう。きもいと言ってやれ」
// <0262> \{とも}「きもいー」
<0262> \{Tomo}「きもいー」
// <0263> \{朋也}「しょうもない言葉を覚えさせるな」
<0263> \{Tomoya}「しょうもない言葉を覚えさせるな」
// <0264> \{智代}「ふふ」
<0264> \{Tomoyo}「ふふ」
// <0265> \{朋也}「で、その、ぬいぐるみはなんだ? どうしたんだ?」
<0265> \{Tomoya}「で、その、ぬいぐるみはなんだ? どうしたんだ?」
// <0266> ふたりが手にしている見慣れないぬいぐるみについて訊いてみる。
<0266> ふたりが手にしている見慣れないぬいぐるみについて訊いてみる。
// <0267> \{智代}「ああ、うん、おもちゃ屋さんも覗いたんだ」
<0267> \{Tomoyo}「ああ、うん、おもちゃ屋さんも覗いたんだ」
// <0268> \{智代}「そうしたら、ともが気に入ったんで、思わず買ってしまった」
<0268> \{Tomoyo}「そうしたら、ともが気に入ったんで、思わず買ってしまった」
// <0269> \{智代}「実は私もだけどな」
<0269> \{Tomoyo}「実は私もだけどな」
// <0270> \{智代}「くまが私ので、ぱんだがとものなんだ」
<0270> \{Tomoyo}「くまが私ので、ぱんだがとものなんだ」
// <0271> \{智代}「ここは遊ぶものもないからな」
<0271> \{Tomoyo}「ここは遊ぶものもないからな」
// <0272> \{智代}「ふたつぬいぐるみがあれば、ふたりで遊べる」
<0272> \{Tomoyo}「ふたつぬいぐるみがあれば、ふたりで遊べる」
// <0273> \{智代}「な、とも」
<0273> \{Tomoyo}「な、とも」
// <0274> 言って、くまの頭をぱんだの頭にすり合わせてみせる。
<0274> 言って、くまの頭をぱんだの頭にすり合わせてみせる。
// <0275> とももお返しにとばかりに、押し込む。
<0275> とももお返しにとばかりに、押し込む。
// <0276> \{智代}「ああ…心配するな、小遣いは結構貯めてあるんだ」
<0276> \{Tomoyo}「ああ…心配するな、小遣いは結構貯めてあるんだ」
// <0277> ともと遊びながら、そう俺に伝えた。
<0277> ともと遊びながら、そう俺に伝えた。
// <0278> \{智代}「弁当箱も忘れず買ってある。ふたりで選んだんだ」
<0278> \{Tomoyo}「弁当箱も忘れず買ってある。ふたりで選んだんだ」
// <0279> \{智代}「それもすごく可愛い」
<0279> \{Tomoyo}「それもすごく可愛い」
// <0280> \{智代}「すごく可愛いの、見つけたんだ…」
<0280> \{Tomoyo}「すごく可愛いの、見つけたんだ…」
// <0281> \{智代}「ともも、これで明日からみんなと同じお弁当だ…」
<0281> \{Tomoyo}「ともも、これで明日からみんなと同じお弁当だ…」
// <0282> \{智代}「私が毎日作る…」
<0282> \{Tomoyo}「私が毎日作る…」
// <0283> \{智代}「楽しくて、温かい、同じ毎日だ…」
<0283> \{Tomoyo}「楽しくて、温かい、同じ毎日だ…」
// <0284> くまのぬいぐるみが、うなだれていた。
<0284> くまのぬいぐるみが、うなだれていた。
// <0285> その頭をぱんだの手がよしよしと撫でていた。
<0285> その頭をぱんだの手がよしよしと撫でていた。
// <0286> \{智代}「………」
<0286> \{Tomoyo}「………」
// <0287> \{智代}「…ともっ!」
<0287> \{Tomoyo}「…ともっ!」
// <0288> 感極まって、その小さな体に抱きつく。
<0288> 感極まって、その小さな体に抱きつく。
// <0289> \{とも}「あはは、どうしたのー、ともがきくよー?」
<0289> \{Tomo}「あはは、どうしたのー、ともがきくよー?」
// <0290> 何も知らないともだけが、それを無邪気に受け止める。
<0290> 何も知らないともだけが、それを無邪気に受け止める。
// <0291> \{とも}「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
<0291> \{Tomo}「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
// <0292> そう言って、智代の背中を撫でた。
<0292> そう言って、智代の背中を撫でた。
// <0293> ともを寝かしつけた後、俺と智代は暗がりの中で肩を並べていた。
<0293> ともを寝かしつけた後、俺と智代は暗がりの中で肩を並べていた。
// <0294> \{朋也}「おまえが家からいなくなったらさ…結局同じことなんじゃないのか?」
<0294> \{Tomoya}「おまえが家からいなくなったらさ…結局同じことなんじゃないのか?」
// <0295> \{智代}「家は大丈夫だ…鷹文もいるしな」
<0295> \{Tomoyo}「家は大丈夫だ…鷹文もいるしな」
// <0296> \{朋也}「たまには帰れよ」
<0296> \{Tomoya}「たまには帰れよ」
// <0297> \{朋也}「ここには俺がいるからさ」
<0297> \{Tomoya}「ここには俺がいるからさ」
// <0298> \{智代}「でも…私もいたい…」
<0298> \{Tomoyo}「でも…私もいたい…」
// <0299> \{智代}「それともなんだ…私がいるのは迷惑か…」
<0299> \{Tomoyo}「それともなんだ…私がいるのは迷惑か…」
// <0300> \{朋也}「馬鹿…そんなことあるわけないだろ…」
<0300> \{Tomoya}「馬鹿…そんなことあるわけないだろ…」
// <0301> \{智代}「うん…悪かった…」
<0301> \{Tomoyo}「うん…悪かった…」
// <0302> 智代の肩を引き寄せる。
<0302> 智代の肩を引き寄せる。
// <0303> 顔を寄せ合って、キスをした。
<0303> 顔を寄せ合って、キスをした。
// <0304> \{智代}「おまえのキス魔が移ったんだ…」
<0304> \{Tomoyo}「おまえのキス魔が移ったんだ…」
// <0305> \{智代}「ともにキスばかりしている…」
<0305> \{Tomoyo}「ともにキスばかりしている…」
// <0306> \{朋也}「愛情表現だから、いいんじゃないのか」
<0306> \{Tomoya}「愛情表現だから、いいんじゃないのか」
// <0307> \{朋也}「好きだから、したくなるんだから」
<0307> \{Tomoya}「好きだから、したくなるんだから」
// <0308> \{智代}「うん…そうだな…」
<0308> \{Tomoyo}「うん…そうだな…」
// <0309> しばらく黙って、キスをし続けた。
<0309> しばらく黙って、キスをし続けた。
// <0310> \{智代}「なあ…実はひとつ案を思いついたんだ」
<0310> \{Tomoyo}「なあ…実はひとつ案を思いついたんだ」
// <0311> 抱き合って頬にキスをしながら、そう囁いた。
<0311> 抱き合って頬にキスをしながら、そう囁いた。
// <0312> \{智代}「とてもいい案だと思うんだ」
<0312> \{Tomoyo}「とてもいい案だと思うんだ」
// <0313> \{朋也}「なに…」
<0313> \{Tomoya}「なに…」
// <0314> \{智代}「朋也がともを養子にとるんだ」
<0314> \{Tomoyo}「朋也がともを養子にとるんだ」
// <0315> \{朋也}「………」
<0315> \{Tomoya}「………」
// <0316> \{智代}「本当におまえの子供にするんだ」
<0316> \{Tomoyo}「本当におまえの子供にするんだ」
// <0317> \{智代}「そうすれば、あの子も安心できると思うんだ」
<0317> \{Tomoyo}「そうすれば、あの子も安心できると思うんだ」
// <0318> \{智代}「本当のことを知っても」
<0318> \{Tomoyo}「本当のことを知っても」
// <0319> \{智代}「名案だと思うんだ」
<0319> \{Tomoyo}「名案だと思うんだ」
// <0320> \{朋也}「まあ…待て…」
<0320> \{Tomoya}「まあ…待て…」
// <0321> \{智代}「何か問題でもあるのか」
<0321> \{Tomoyo}「何か問題でもあるのか」
// <0322> \{朋也}「俺はまだ未成年だ」
<0322> \{Tomoya}「俺はまだ未成年だ」
// <0323> \{智代}「………」
<0323> \{Tomoyo}「………」
// <0324> \{智代}「そうか…そうだったな…」
<0324> \{Tomoyo}「そうか…そうだったな…」
// <0325> \{智代}「法が許さないか…」
<0325> \{Tomoyo}「法が許さないか…」
// <0326> \{朋也}「もしできたとしても…本物の親は別にいる」
<0326> \{Tomoya}「もしできたとしても…本物の親は別にいる」
// <0327> \{智代}「血なんて関係ない」
<0327> \{Tomoyo}「血なんて関係ない」
// <0328> \{智代}「あの子に愛を注げて、そしてあの子から愛される存在…」
<0328> \{Tomoyo}「あの子に愛を注げて、そしてあの子から愛される存在…」
// <0329> \{智代}「それがあの子の親になる資格のある人間だ」
<0329> \{Tomoyo}「それがあの子の親になる資格のある人間だ」
// <0330> \{智代}「私の父はあの子に愛を注げない」
<0330> \{Tomoyo}「私の父はあの子に愛を注げない」
// <0331> \{智代}「あの子の母は、あの子を置いて去った」
<0331> \{Tomoyo}「あの子の母は、あの子を置いて去った」
// <0332> \{智代}「ふたりとも、その資格はない」
<0332> \{Tomoyo}「ふたりとも、その資格はない」
// <0333> \{朋也}「そんなにあっさり結論を出すな」
<0333> \{Tomoya}「そんなにあっさり結論を出すな」
// <0334> \{朋也}「何をそんなに焦ってるんだ…」
<0334> \{Tomoya}「何をそんなに焦ってるんだ…」
// <0335> \{智代}「早くしないと、ともが可哀想じゃないか…」
<0335> \{Tomoyo}「早くしないと、ともが可哀想じゃないか…」
// <0336> \{朋也}「おまえは…」
<0336> \{Tomoya}「おまえは…」
// <0337> \{朋也}「誰かを好きになると、盲目的になるのな」
<0337> \{Tomoya}「誰かを好きになると、盲目的になるのな」
// <0338> \{智代}「そうか…?」
<0338> \{Tomoyo}「そうか…?」
// <0339> \{智代}「自分ではよくわからない…」
<0339> \{Tomoyo}「自分ではよくわからない…」
// <0340> \{朋也}「俺のときも、そうだった」
<0340> \{Tomoya}「俺のときも、そうだった」
// <0341> \{智代}「………」
<0341> \{Tomoyo}「………」
// <0342> \{朋也}「今度は俺がなんとかしてみせるから…」
<0342> \{Tomoya}「今度は俺がなんとかしてみせるから…」
// <0343> \{朋也}「だから、少し待っててくれ」
<0343> \{Tomoya}「だから、少し待っててくれ」
// <0344> …明日は、ともの暮らしていた場所を訪れよう。
<0344> …明日は、ともの暮らしていた場所を訪れよう。
// <0345> そう考える。
<0345> そう考える。
// <0346> 住所は保険証に書いてあった。
<0346> 住所は保険証に書いてあった。
// <0347> 部屋の号数が最後に記されていたのは記憶している。アパートなのだろう。
<0347> 部屋の号数が最後に記されていたのは記憶している。アパートなのだろう。
// <0348> 明日の朝、確認しておこう。
<0348> 明日の朝、確認しておこう。