// Resources for SEEN0717.TXT
// #character '朋也'
#character 'Tomoya'
// #character '河南子'
#character 'Kanako'
// #character '影'
#character 'Shadow'
// #character '声'
#character 'Voice'
// #character '男'
#character 'Man'
// #character '智代'
#character 'Tomoyo'
// #character '鷹文'
#character 'Takafumi'
// <0000> 7月17日(土)
<0000> July 17th (Sat)
// <0001> \{朋也}「休みの日だというのに、俺は河南子とふたりきりで河原にいた」
<0001> \{Tomoya}「休みの日だというのに、俺は河南子とふたりきりで河原にいた」
// <0002> \{河南子}「帰る」
<0002> \{Kanako}「帰る」
// <0003> \{朋也}「いや、冗談。よろしく頼むよ」
<0003> \{Tomoya}「いや、冗談。よろしく頼むよ」
// <0004> こうしているのは河南子から攻撃の避け方と、足捌きを習うためだった。
<0004> こうしているのは河南子から攻撃の避け方と、足捌きを習うためだった。
// <0005> 河南子が構え、俺がそれを避けて攻撃する。
<0005> 河南子が構え、俺がそれを避けて攻撃する。
// <0006> 河南子は攻撃を寸止めにしてくれるとのことだ。
<0006> 河南子は攻撃を寸止めにしてくれるとのことだ。
// <0007> \{河南子}「いくよー?」
<0007> \{Kanako}「いくよー?」
// <0008> \{朋也}「おう」
<0008> \{Tomoya}「おう」
// <0009> ぶんっ。
<0009> ぶんっ。
// <0010> ごすっ!
<0010> ごすっ!
// <0011> \{朋也}「ぐおぅっ!」
<0011> \{Tomoya}「ぐおぅっ!」
// <0012> 轟沈。
<0012> 轟沈。
// <0013> \{河南子}「わちゃ、ごめん。振り抜いちった」
<0013> \{Kanako}「わちゃ、ごめん。振り抜いちった」
// <0014> むちゃくちゃ痛い。あいつらに殴られたときより効いた。
<0014> むちゃくちゃ痛い。あいつらに殴られたときより効いた。
// <0015> \{朋也}(こいつ、マジで、あいつらより強いのか…)
<0015> \{Tomoya}(こいつ、マジで、あいつらより強いのか…)
// <0016> 河南子の強さを身をもって知った。
<0016> 河南子の強さを身をもって知った。
// <0017> 俺は空を見上げる。
<0017> 俺は空を見上げる。
// <0018> \{朋也}「みんな、すげぇなー」
<0018> \{Tomoya}「みんな、すげぇなー」
// <0019> \{河南子}「遠く見て黄昏んなよ…」
<0019> \{Kanako}「遠く見て黄昏んなよ…」
// <0020> 夜になると、また河原にいた。
<0020> 夜になると、また河原にいた。
// <0021> \{朋也}「こいや、おらあーーーっ!」
<0021> \{Tomoya}「こいや、おらあーーーっ!」
// <0022> \{河南子}「威勢だけはいいな」
<0022> \{Kanako}「威勢だけはいいな」
// <0023> \{朋也}「やけくそだよ」
<0023> \{Tomoya}「やけくそだよ」
// <0024> \{河南子}「もう、残るは根性だけだしな」
<0024> \{Kanako}「もう、残るは根性だけだしな」
// <0025> 大降りのフックが宙を切った。
<0025> 大降りのフックが宙を切った。
// <0026> ギリギリで避けられはしたが、とにかく攻撃の回転が速い。
<0026> ギリギリで避けられはしたが、とにかく攻撃の回転が速い。
// <0027> がしっ!
<0027> がしっ!
// <0028> ガードはできたが、体の芯まで痛みが広がる。
<0028> ガードはできたが、体の芯まで痛みが広がる。
// <0029> 今までの敵とは何かが違う。
<0029> 今までの敵とは何かが違う。
// <0030> \{河南子}「空手をやってると見た」
<0030> \{Kanako}「空手をやってると見た」
// <0031> \{朋也}「へー」
<0031> \{Tomoya}「へー」
// <0032> \{河南子}「お、もうびびんないんだな。感心感心」
<0032> \{Kanako}「お、もうびびんないんだな。感心感心」
// <0033> これだけやっていれば場慣れもする。
<0033> これだけやっていれば場慣れもする。
// <0034> どしっ!
<0034> どしっ!
// <0035> 攻撃を受けると、ガードごとダメージを受けてしまう。
<0035> 攻撃を受けると、ガードごとダメージを受けてしまう。
// <0036> なるべく距離を取りながら、相手の動きをよく見た。
<0036> なるべく距離を取りながら、相手の動きをよく見た。
// <0037> 体力に自信があるのか、敵はかさにかかって攻撃を繰り返してきた。
<0037> 体力に自信があるのか、敵はかさにかかって攻撃を繰り返してきた。
// <0038> 何とか体勢を崩せれば…
<0038> 何とか体勢を崩せれば…
// <0039> ぶん、とうなる拳が頬をかすめた。
<0039> ぶん、とうなる拳が頬をかすめた。
// <0040> 痛みがあるが、流れた体の裏を取れた。
<0040> 痛みがあるが、流れた体の裏を取れた。
// <0041> そのまま左右を相手の背中と脇腹にたたき込む。
<0041> そのまま左右を相手の背中と脇腹にたたき込む。
// <0042> \{影}「うげっ」
<0042> \{Shadow}「うげっ」
// <0043> いい感触だったが、これでは沈まない。
<0043> いい感触だったが、これでは沈まない。
// <0044> \{朋也}(…まだやんのかよ)
<0044> \{Tomoya}(…まだやんのかよ)
// <0045> 何かいい方法はないのか…
<0045> 何かいい方法はないのか…
// <0046> \{朋也}(うおっ!)
<0046> \{Tomoya}(うおっ!)
// <0047> 相手のパンチが何発も飛んでくる。
<0047> 相手のパンチが何発も飛んでくる。
// <0048> いくつかはもらってしまう。
<0048> いくつかはもらってしまう。
// <0049> \{朋也}「はっはっは!」
<0049> \{Tomoya}「はっはっは!」
// <0050> 笑顔で返す。
<0050> 笑顔で返す。
// <0051> \{河南子}「お、やられてるムエタイ選手のようだぞ!? いつの間にそんな技を…」
<0051> \{Kanako}「お、やられてるムエタイ選手のようだぞ!? いつの間にそんな技を…」
// <0052> テレビで。
<0052> テレビで。
// <0053> 奥歯を噛みしめ、反撃。
<0053> 奥歯を噛みしめ、反撃。
// <0054> 左はガードされるが、右は相手の胸当たりへと入る。
<0054> 左はガードされるが、右は相手の胸当たりへと入る。
// <0055> そのまま相手を掴み、思いきり引っ張った。
<0055> そのまま相手を掴み、思いきり引っ張った。
// <0056> 相手がバランスを崩し、前のめりになった。
<0056> 相手がバランスを崩し、前のめりになった。
// <0057> 俺はとっさに首を掴んで膝を振り上げる。
<0057> 俺はとっさに首を掴んで膝を振り上げる。
// <0058> ずし、と腹に決まって、動きが止まった。
<0058> ずし、と腹に決まって、動きが止まった。
// <0059> \{河南子}「おっ、マジでムエタイっぽいなっ、いつの間にそんな技を…」
<0059> \{Kanako}「おっ、マジでムエタイっぽいなっ、いつの間にそんな技を…」
// <0060> テレビで。
<0060> テレビで。
// <0061> 7月18日(日)
<0061> July 18th (Sun)
// <0062> \{河南子}「こうやって避けるの」
<0062> \{Kanako}「こうやって避けるの」
// <0063> \{河南子}「相手に向かっていくように」
<0063> \{Kanako}「相手に向かっていくように」
// <0064> \{河南子}「絶対真後ろに下がっちゃダメだよ」
<0064> \{Kanako}「絶対真後ろに下がっちゃダメだよ」
// <0065> \{河南子}「聞いてる?」
<0065> \{Kanako}「聞いてる?」
// <0066> \{朋也}「…聞こえてるよ」
<0066> \{Tomoya}「…聞こえてるよ」
// <0067> \{朋也}「みんな、すげぇー」
<0067> \{Tomoya}「みんな、すげぇー」
// <0068> 今日も河原で河南子との特訓をしていたが、避けそこなってダウン中だ。
<0068> 今日も河原で河南子との特訓をしていたが、避けそこなってダウン中だ。
// <0069> \{河南子}「練習中そればっかだな…」
<0069> \{Kanako}「練習中そればっかだな…」
// <0070> \{河南子}「でも、ちゃんと反応できてるし、悪くないよ」
<0070> \{Kanako}「でも、ちゃんと反応できてるし、悪くないよ」
// <0071> \{河南子}「何かスポーツやってた?」
<0071> \{Kanako}「何かスポーツやってた?」
// <0072> \{朋也}「…昔、少しだけな」
<0072> \{Tomoya}「…昔、少しだけな」
// <0073> 夜も飽きずに河原にいる。
<0073> 夜も飽きずに河原にいる。
// <0074> \{朋也}「で、次は誰だよ」
<0074> \{Tomoya}「で、次は誰だよ」
// <0075> \{影}「今日はこいつ」
<0075> \{Shadow}「今日はこいつ」
// <0076> 向かい合う。
<0076> 向かい合う。
// <0077> わりと小柄だ。スピードがありそうな雰囲気。
<0077> わりと小柄だ。スピードがありそうな雰囲気。
// <0078> 距離を取って、ガードを構えた。
<0078> 距離を取って、ガードを構えた。
// <0079> いきなり相手が飛び込んでくる。
<0079> いきなり相手が飛び込んでくる。
// <0080> 左側に回り込もうとしてステップを踏むが…
<0080> 左側に回り込もうとしてステップを踏むが…
// <0081> \{朋也}(え…?)
<0081> \{Tomoya}(え…?)
// <0082> 宙を舞う。
<0082> 宙を舞う。
// <0083> 気がつくと背中から地面に落ちていた。
<0083> 気がつくと背中から地面に落ちていた。
// <0084> 突き抜ける衝撃。
<0084> 突き抜ける衝撃。
// <0085> 胃液が口までのぼってきた。
<0085> 胃液が口までのぼってきた。
// <0086> \{朋也}「うげー」
<0086> \{Tomoya}「うげー」
// <0087> \{河南子}「苦しい時こそ笑えっ、ムエタイ精神だ!」
<0087> \{Kanako}「苦しい時こそ笑えっ、ムエタイ精神だ!」
// <0088> \{朋也}「うげげげげげっ」
<0088> \{Tomoya}「うげげげげげっ」
// <0089> \{河南子}「吐きながら笑うな!」
<0089> \{Kanako}「吐きながら笑うな!」
// <0090> 胃をからっぽにしたら、少しは楽になった。
<0090> 胃をからっぽにしたら、少しは楽になった。
// <0091> 全身がバラバラになりそうだったが、気合いで起きあがり距離を取る。
<0091> 全身がバラバラになりそうだったが、気合いで起きあがり距離を取る。
// <0092> 相手は飛び込んでくるタイミングを見計らっているのか、簡単にはこなかった。
<0092> 相手は飛び込んでくるタイミングを見計らっているのか、簡単にはこなかった。
// <0093> 同じように対峙する。
<0093> 同じように対峙する。
// <0094> 懐に飛び込まれたら勝ち目はない。
<0094> 懐に飛び込まれたら勝ち目はない。
// <0095> 敵はまっすぐに向かってきた。
<0095> 敵はまっすぐに向かってきた。
// <0096> 両手が伸びてくる。
<0096> 両手が伸びてくる。
// <0097> その隙間をかいくぐる。
<0097> その隙間をかいくぐる。
// <0098> …届くっ!
<0098> …届くっ!
// <0099> 右を振り抜く。
<0099> 右を振り抜く。
// <0100> ごきっ。
<0100> ごきっ。
// <0101> 手首が折れたかと思うような衝撃。
<0101> 手首が折れたかと思うような衝撃。
// <0102> 慌てて距離を取ると、相手は地面にうつぶせで倒れていた。
<0102> 慌てて距離を取ると、相手は地面にうつぶせで倒れていた。
// <0103> \{河南子}「なんだ、おまえ、すげーじゃん」
<0103> \{Kanako}「なんだ、おまえ、すげーじゃん」
// <0104> \{声}「油断したのか?」
<0104> \{Voice}「油断したのか?」
// <0105> \{声}「狙ったのか…」
<0105> \{Voice}「狙ったのか…」
// <0106> …一応。
<0106> …一応。
// <0107> \{声}「なんだかこいつさ…徐々に強くなっていってる気がしないか…」
<0107> \{Voice}「なんだかこいつさ…徐々に強くなっていってる気がしないか…」
// <0108> 7月19日(月)
<0108> July 19th (Mon)
// <0109> \{河南子}「面白いように当たるぜ、ひゅっひゅー!」
<0109> \{Kanako}「面白いように当たるぜ、ひゅっひゅー!」
// <0110> ぽか
<0110> ぽか
// <0111> ぽか。
<0111> ぽか。
// <0112> \{朋也}「止めてくれるんじゃなかったのかよっ」
<0112> \{Tomoya}「止めてくれるんじゃなかったのかよっ」
// <0113> \{河南子}「止めてるよー。本気だったら、あんたもう立ってないって」
<0113> \{Kanako}「止めてるよー。本気だったら、あんたもう立ってないって」
// <0114> 繰り返し、繰り返し、河南子の攻撃を食らい…
<0114> 繰り返し、繰り返し、河南子の攻撃を食らい…
// <0115> \{河南子}「よっと」
<0115> \{Kanako}「よっと」
// <0116> \{朋也}「ふんっ」
<0116> \{Tomoya}「ふんっ」
// <0117> 体を沈めて大きく踏み込む。拳は頭を掠めるように消えた。
<0117> 体を沈めて大きく踏み込む。拳は頭を掠めるように消えた。
// <0118> そのまま、回り込むように軸をずらし、後ろ足を引きつける。
<0118> そのまま、回り込むように軸をずらし、後ろ足を引きつける。
// <0119> 泳いだ河南子の体が目の前にある。
<0119> 泳いだ河南子の体が目の前にある。
// <0120> …当てられる!
<0120> …当てられる!
// <0121> 本気で右ストレートを打った。
<0121> 本気で右ストレートを打った。
// <0122> ばしっ。
<0122> ばしっ。
// <0123> \{河南子}「…いったー」
<0123> \{Kanako}「…いったー」
// <0124> 俺の攻撃は左腕で受けとめられていた。
<0124> 俺の攻撃は左腕で受けとめられていた。
// <0125> \{朋也}「………」
<0125> \{Tomoya}「………」
// <0126> 俺はその場で体育座りをする。
<0126> 俺はその場で体育座りをする。
// <0127> \{朋也}「みんな、すげぇー」
<0127> \{Tomoya}「みんな、すげぇー」
// <0128> 黄昏れる。
<0128> 黄昏れる。
// <0129> \{河南子}「いや、あんたもかなり、すごくなってるからさっ」
<0129> \{Kanako}「いや、あんたもかなり、すごくなってるからさっ」
// <0130> 喧嘩に明け暮れる毎日。
<0130> 喧嘩に明け暮れる毎日。
// <0131> 今日で何日目だろう、何人目だろう…。
<0131> 今日で何日目だろう、何人目だろう…。
// <0132> もうよくわからない…。
<0132> もうよくわからない…。
// <0133> \{朋也}「今日は?」
<0133> \{Tomoya}「今日は?」
// <0134> 一人の男が前に出た。
<0134> 一人の男が前に出た。
// <0135> 背丈は俺と同じくらい。
<0135> 背丈は俺と同じくらい。
// <0136> 一見して強そう、とは見えなかった。
<0136> 一見して強そう、とは見えなかった。
// <0137> \{男}「それじゃ、始めようか」
<0137> \{Man}「それじゃ、始めようか」
// <0138> \{朋也}「ああ」
<0138> \{Tomoya}「ああ」
// <0139> お互いが構え、距離を縮める。
<0139> お互いが構え、距離を縮める。
// <0140> 心もち上体を屈め、相手の攻撃に備えた。
<0140> 心もち上体を屈め、相手の攻撃に備えた。
// <0141> 相手はフットワークで、とん、とん、とリズムを刻み始める。
<0141> 相手はフットワークで、とん、とん、とリズムを刻み始める。
// <0142> すると…
<0142> すると…
// <0143> ぐしゃっ。
<0143> ぐしゃっ。
// <0144> 眉間が陥没したとも思えるような痛み。
<0144> 眉間が陥没したとも思えるような痛み。
// <0145> 左手で押さえると、濡れた感触があった。
<0145> 左手で押さえると、濡れた感触があった。
// <0146> …切れた!?
<0146> …切れた!?
// <0147> 何がなんだかわからなかった。
<0147> 何がなんだかわからなかった。
// <0148> 腹を膝で抉られる。こみ上げる吐き気と鈍く激しい痛み。
<0148> 腹を膝で抉られる。こみ上げる吐き気と鈍く激しい痛み。
// <0149> そのままダウンするしかなかった。
<0149> そのままダウンするしかなかった。
// <0150> \{河南子}「大丈夫か…?」
<0150> \{Kanako}「大丈夫か…?」
// <0151> \{朋也}「…油断しただけだって」
<0151> \{Tomoya}「…油断しただけだって」
// <0152> 起きあがろうとすると、蹴りが顔にきた。
<0152> 起きあがろうとすると、蹴りが顔にきた。
// <0153> やばい。
<0153> やばい。
// <0154> かろうじて両手でブロックしたが、そのまま吹き飛ばされた。
<0154> かろうじて両手でブロックしたが、そのまま吹き飛ばされた。
// <0155> その容赦のなさに戦慄する。
<0155> その容赦のなさに戦慄する。
// <0156> ダウンした俺に、河南子が駆け寄ってきた。
<0156> ダウンした俺に、河南子が駆け寄ってきた。
// <0157> \{河南子}「相手、強すぎだっ」
<0157> \{Kanako}「相手、強すぎだっ」
// <0158> \{河南子}「素人じゃ無理だよっ」
<0158> \{Kanako}「素人じゃ無理だよっ」
// <0159> \{朋也}「あれ…」
<0159> \{Tomoya}「あれ…」
// <0160> \{朋也}「俺、もう素人じゃないはずだろ…?」
<0160> \{Tomoya}「俺、もう素人じゃないはずだろ…?」
// <0161> \{朋也}「師匠もいるしさ…」
<0161> \{Tomoya}「師匠もいるしさ…」
// <0162> \{河南子}「それって…」
<0162> \{Kanako}「それって…」
// <0163> \{朋也}「ああ…」
<0163> \{Tomoya}「ああ…」
// <0164> \{朋也}「おまえのことだよ、河南子…」
<0164> \{Tomoya}「おまえのことだよ、河南子…」
// <0165> \{朋也}「…サンキュな」
<0165> \{Tomoya}「…サンキュな」
// <0166> 言って、気合いだけで起きあがる。
<0166> 言って、気合いだけで起きあがる。
// <0167> \{河南子}「こ…」
<0167> \{Kanako}「こ…」
// <0168> \{河南子}「これから死ぬキャラみたいなこと言うなよぉーーーっ!」
<0168> \{Kanako}「これから死ぬキャラみたいなこと言うなよぉーーーっ!」
// <0169> 避けるどころじゃない。
<0169> 避けるどころじゃない。
// <0170> 相手の攻撃に、何もできなかった。
<0170> 相手の攻撃に、何もできなかった。
// <0171> ………。
<0171> ………。
// <0172> …すでに左目は見えてない。腫れて塞がり、開けられなくなっている。
<0172> …すでに左目は見えてない。腫れて塞がり、開けられなくなっている。
// <0173> 痛みは遠くで溜まっているように感じた。
<0173> 痛みは遠くで溜まっているように感じた。
// <0174> \{河南子}「ね、タオル投げるよ…」
<0174> \{Kanako}「ね、タオル投げるよ…」
// <0175> \{河南子}「もう、ボロボロだよ、わかってる…?」
<0175> \{Kanako}「もう、ボロボロだよ、わかってる…?」
// <0176> \{朋也}「…やるって…」
<0176> \{Tomoya}「…やるって…」
// <0177> \{朋也}「俺が気を失うまでは…ぜったいとめるな…」
<0177> \{Tomoya}「俺が気を失うまでは…ぜったいとめるな…」
// <0178> 力の入らない両手で相手の腰に飛びつく。
<0178> 力の入らない両手で相手の腰に飛びつく。
// <0179> 離れれば殴られるだけだ。
<0179> 離れれば殴られるだけだ。
// <0180> 細い右目で見ると、さすがに疲れたのか息が上がっているのはわかった。
<0180> 細い右目で見ると、さすがに疲れたのか息が上がっているのはわかった。
// <0181> どむっ。
<0181> どむっ。
// <0182> …げほっ!
<0182> …げほっ!
// <0183> 背中に刺すような痛み。肘を落とされたのだろうか。
<0183> 背中に刺すような痛み。肘を落とされたのだろうか。
// <0184> だが、もう構うことはない。
<0184> だが、もう構うことはない。
// <0185> 足を引っかけ、体重を預けて、地面へと押し倒す。
<0185> 足を引っかけ、体重を預けて、地面へと押し倒す。
// <0186> そのまま何発か腕を振り回し殴りつけた。
<0186> そのまま何発か腕を振り回し殴りつけた。
// <0187> 反撃がくる。
<0187> 反撃がくる。
// <0188> 顔面が弾け、衝撃で仰け反った。
<0188> 顔面が弾け、衝撃で仰け反った。
// <0189> その隙に相手は俺から距離を取って立ち上がった。
<0189> その隙に相手は俺から距離を取って立ち上がった。
// <0190> \{男}「…そろそろ止めないか?」
<0190> \{Man}「…そろそろ止めないか?」
// <0191> …呆れたような口調だ。
<0191> …呆れたような口調だ。
// <0192> \{男}「あんたに勝ち目はないよ」
<0192> \{Man}「あんたに勝ち目はないよ」
// <0193> \{男}「これ以上やったら、取り返しがつかなくなるかもしれないし」
<0193> \{Man}「これ以上やったら、取り返しがつかなくなるかもしれないし」
// <0194> \{朋也}「…ああ」
<0194> \{Tomoya}「…ああ」
// <0195> 立ち上がりながら答える。
<0195> 立ち上がりながら答える。
// <0196> 口の中が不快だ。唾を吐くと血の塊が出た。口の中が切れているようだ。
<0196> 口の中が不快だ。唾を吐くと血の塊が出た。口の中が切れているようだ。
// <0197> \{朋也}「…悪いけど…引けないんだ」
<0197> \{Tomoya}「…悪いけど…引けないんだ」
// <0198> \{朋也}「もう少し…つきあって…くれよ」
<0198> \{Tomoya}「もう少し…つきあって…くれよ」
// <0199> 言ってから駆け出す。
<0199> 言ってから駆け出す。
// <0200> 疲労とダメージで、体は満足に動いてくれない。
<0200> 疲労とダメージで、体は満足に動いてくれない。
// <0201> もう、体当たりしかできない。
<0201> もう、体当たりしかできない。
// <0202> がつん、と側頭部に熱さ。
<0202> がつん、と側頭部に熱さ。
// <0203> 目の前が瞬間だけ赤くなり、やがて暗くなる。
<0203> 目の前が瞬間だけ赤くなり、やがて暗くなる。
// <0204> あー…このまま眠ったら…気持ちいいんだろうなあ…
<0204> あー…このまま眠ったら…気持ちいいんだろうなあ…
// <0205> \{朋也}(…やばいっ)
<0205> \{Tomoya}(…やばいっ)
// <0206> 俺はとっさに自分の頬を張った。
<0206> 俺はとっさに自分の頬を張った。
// <0207> 気を失いかけていたからだ。
<0207> 気を失いかけていたからだ。
// <0208> \{朋也}(まだだっ)
<0208> \{Tomoya}(まだだっ)
// <0209> 必死にしがみつく。
<0209> 必死にしがみつく。
// <0210> 左手を相手の服に絡め、離れないようにした。
<0210> 左手を相手の服に絡め、離れないようにした。
// <0211> もう離されないようにするだけの握力は残ってないから。
<0211> もう離されないようにするだけの握力は残ってないから。
// <0212> 引きつけて右を振り回す。
<0212> 引きつけて右を振り回す。
// <0213> 反撃がきた。より強力で、より数の多い。
<0213> 反撃がきた。より強力で、より数の多い。
// <0214> でも、それは問題じゃない。
<0214> でも、それは問題じゃない。
// <0215> 諦めなければいい。
<0215> 諦めなければいい。
// <0216> 意識を失わなければ、それだけでいい。
<0216> 意識を失わなければ、それだけでいい。
// <0217> ともを、守るため。
<0217> ともを、守るため。
// <0218> とものため。
<0218> とものため。
// <0219> そのとき、一瞬ともの泣き顔が脳裏をよぎった。
<0219> そのとき、一瞬ともの泣き顔が脳裏をよぎった。
// <0220> それはともが、母親に捨てられたことを知ってしまった日のことだ。
<0220> それはともが、母親に捨てられたことを知ってしまった日のことだ。
// <0221> 俺はあの時、何も声をかけられずにいた。
<0221> 俺はあの時、何も声をかけられずにいた。
// <0222> そんな俺に、ともを守る資格なんてあるのだろうか?
<0222> そんな俺に、ともを守る資格なんてあるのだろうか?
// <0223> そんなことを考えてる場合じゃない。
<0223> そんなことを考えてる場合じゃない。
// <0224> ばきっ
<0224> ばきっ
// <0225> 、と側頭部に衝撃が走ってから気づいた。
<0225> 、と側頭部に衝撃が走ってから気づいた。
// <0226> 気が遠くなり、巻きつけていた腕が離れ、何度も攻撃を喰らってしまう。
<0226> 気が遠くなり、巻きつけていた腕が離れ、何度も攻撃を喰らってしまう。
// <0227> 倒れそうな体を支え、力を振り絞る。
<0227> 倒れそうな体を支え、力を振り絞る。
// <0228> ほとんど塞がった目、そこに相手の拳が迫ってくる…
<0228> ほとんど塞がった目、そこに相手の拳が迫ってくる…
// <0229> \{朋也}(あ…)
<0229> \{Tomoya}(あ…)
// <0230> もう、音がしなかった。
<0230> もう、音がしなかった。
// <0231> 力が入らない。
<0231> 力が入らない。
// <0232> 視界がかすむ…。
<0232> 視界がかすむ…。
// <0233> たのむ…。
<0233> たのむ…。
// <0234> まだ…終わって…
<0234> まだ…終わって…
// <0235> ………。
<0235> ………。
// <0236> ……。
<0236> ……。
// <0237> …。
<0237> …。
// <0238> \{朋也}「…いてて」
<0238> \{Tomoya}「…いてて」
// <0239> \{朋也}(あれ…? どうなったんだっけ…?)
<0239> \{Tomoya}(あれ…? どうなったんだっけ…?)
// <0240> 俺は部屋にいた。
<0240> 俺は部屋にいた。
// <0241> 体中を包帯やガーゼだらけにされて。
<0241> 体中を包帯やガーゼだらけにされて。
// <0242> 布団の中に。
<0242> 布団の中に。
// <0243> \{智代}「よかった! 目が覚めたんだな」
<0243> \{Tomoyo}「よかった! 目が覚めたんだな」
// <0244> 状況がよくわからない。
<0244> 状況がよくわからない。
// <0245> \{智代}「吐き気や頭痛はないか?」
<0245> \{Tomoyo}「吐き気や頭痛はないか?」
// <0246> \{朋也}「あ、ああ、それは大丈夫だけど…」
<0246> \{Tomoya}「あ、ああ、それは大丈夫だけど…」
// <0247> \{朋也}「俺、どうなったんだっけ…?」
<0247> \{Tomoya}「俺、どうなったんだっけ…?」
// <0248> \{河南子}「思いっきりのされたの、覚えてない?」
<0248> \{Kanako}「思いっきりのされたの、覚えてない?」
// <0249> 俺は黙って首を横に振った。
<0249> 俺は黙って首を横に振った。
// <0250> というか、喧嘩の途中から記憶が全くない。
<0250> というか、喧嘩の途中から記憶が全くない。
// <0251> \{智代}「もう大丈夫だ」
<0251> \{Tomoyo}「もう大丈夫だ」
// <0252> \{智代}「河南子から話は聞いた」
<0252> \{Tomoyo}「河南子から話は聞いた」
// <0253> \{智代}「河南子が私を呼んでくれたからな」
<0253> \{Tomoyo}「河南子が私を呼んでくれたからな」
// <0254> 見ると智代の腕にも包帯が巻かれていた。
<0254> 見ると智代の腕にも包帯が巻かれていた。
// <0255> おそらくガードしたときに受けたんだろう。
<0255> おそらくガードしたときに受けたんだろう。
// <0256> \{河南子}「やっぱ先輩は最強っすよ」
<0256> \{Kanako}「やっぱ先輩は最強っすよ」
// <0257> なんだよ、それ…
<0257> なんだよ、それ…
// <0258> そうならないために、頑張ってたのに…
<0258> そうならないために、頑張ってたのに…
// <0259> \{智代}「もう、終わったんだ」
<0259> \{Tomoyo}「もう、終わったんだ」
// <0260> \{智代}「よく頑張ったな」
<0260> \{Tomoyo}「よく頑張ったな」
// <0261> \{朋也}「…そうか」
<0261> \{Tomoya}「…そうか」
// <0262> 俺は負けた。
<0262> 俺は負けた。
// <0263> それは認めないといけない事実。
<0263> それは認めないといけない事実。
// <0264> そして…
<0264> そして…
// <0265> もし、この先、もっと大きな困難が訪れたとき…
<0265> もし、この先、もっと大きな困難が訪れたとき…
// <0266> それでも、智代やともを支えていけるか…
<0266> それでも、智代やともを支えていけるか…
// <0267> その答えがでた。
<0267> その答えがでた。
// <0268> 俺には無理だ、と。
<0268> 俺には無理だ、と。
// <0269> …それだけだったかな?
<0269> …それだけだったかな?
// <0270> 智代を守るため、ってのもあるな…。
<0270> 智代を守るため、ってのもあるな…。
// <0271> そうだ。
<0271> そうだ。
// <0272> 守ってやりたいから。
<0272> 守ってやりたいから。
// <0273> 智代にどんな過去があっても。
<0273> 智代にどんな過去があっても。
// <0274> 智代がどんなに強いか知っていても。
<0274> 智代がどんなに強いか知っていても。
// <0275> 俺自身が強くなりたいから。
<0275> 俺自身が強くなりたいから。
// <0276> \{朋也}「かくごしろ、てめぇ…」
<0276> \{Tomoya}「かくごしろ、てめぇ…」
// <0277> \{朋也}「おれが…のしてやるからな…」
<0277> \{Tomoya}「おれが…のしてやるからな…」
// <0278> 囁くような声。
<0278> 囁くような声。
// <0279> 引きつけた相手の耳に届いただろうか。
<0279> 引きつけた相手の耳に届いただろうか。
// <0280> どうでもいいか…。
<0280> どうでもいいか…。
// <0281> 腕を振り回す。
<0281> 腕を振り回す。
// <0282> ただ、負けないように。
<0282> ただ、負けないように。
// <0283> 左腕にみし、と嫌な音がした。
<0283> 左腕にみし、と嫌な音がした。
// <0284> しびれて動きが止まると、そのまま腹を蹴られ、引き離された。
<0284> しびれて動きが止まると、そのまま腹を蹴られ、引き離された。
// <0285> ぼろ雑巾のように転がり、大の字になる。
<0285> ぼろ雑巾のように転がり、大の字になる。
// <0286> 左腕、まだ動く。
<0286> 左腕、まだ動く。
// <0287> 両足、痛いがどうってことはない。
<0287> 両足、痛いがどうってことはない。
// <0288> 右目は、星空を綺麗に映している。
<0288> 右目は、星空を綺麗に映している。
// <0289> 動ける。
<0289> 動ける。
// <0290> なら、起きあがろう。
<0290> なら、起きあがろう。
// <0291> すげぇ…
<0291> すげぇ…
// <0292> 立ったよ、俺…
<0292> 立ったよ、俺…
// <0293> 強くなってるよな、俺…
<0293> 強くなってるよな、俺…
// <0294> な、智代…。
<0294> な、智代…。
// <0295> 前より…マシだよな…?
<0295> 前より…マシだよな…?
// <0296> 成長…してるよな…?
<0296> 成長…してるよな…?
// <0297> あの時よりさ…。
<0297> あの時よりさ…。
// <0298> おまえの前からいなくなった、あの時より…。
<0298> おまえの前からいなくなった、あの時より…。
// <0299> ………。
<0299> ………。
// <0300> \{男}「待った」
<0300> \{Man}「待った」
// <0301> 足を踏み出した俺を、相手が制止した。
<0301> 足を踏み出した俺を、相手が制止した。
// <0302> \{男}「…もうやめよう」
<0302> \{Man}「…もうやめよう」
// <0303> \{男}「俺の負けでいいからさ」
<0303> \{Man}「俺の負けでいいからさ」
// <0304> \{男}「あんた、死ぬまで来そうだから」
<0304> \{Man}「あんた、死ぬまで来そうだから」
// <0305> 何の話かわからない。
<0305> 何の話かわからない。
// <0306> \{男}「…あーあ、結局誰も坂上まで届かなかったな」
<0306> \{Man}「…あーあ、結局誰も坂上まで届かなかったな」
// <0307> \{朋也}「…は?」
<0307> \{Tomoya}「…は?」
// <0308> \{男}「今日で終わり。あんた、全員に勝ったんだよ」
<0308> \{Man}「今日で終わり。あんた、全員に勝ったんだよ」
// <0309> え…
<0309> え…
// <0310> おれ…\p勝ったのか?
<0310> おれ…\p勝ったのか?
// <0311> 夜空で花火が炸裂した。
<0311> 夜空で花火が炸裂した。
// <0312> その後も、次々と。
<0312> その後も、次々と。
// <0313> みんなが空を見上げていた。
<0313> みんなが空を見上げていた。
// <0314> 俺が倒してきた連中が。
<0314> 俺が倒してきた連中が。
// <0315> 呆然と見ていると、膝が崩れ、そのまま前のめりに倒れた。
<0315> 呆然と見ていると、膝が崩れ、そのまま前のめりに倒れた。
// <0316> 緊張の糸が切れたようだった。
<0316> 緊張の糸が切れたようだった。
// <0317> \{男}「一緒に病院こいよ。俺も拳がやばそうだ」
<0317> \{Man}「一緒に病院こいよ。俺も拳がやばそうだ」
// <0318> \{朋也}「…いや、いい」
<0318> \{Tomoya}「…いや、いい」
// <0319> \{男}「そうか」
<0319> \{Man}「そうか」
// <0320> \{男}「あんた、すごいな」
<0320> \{Man}「あんた、すごいな」
// <0321> \{男}「根性だけで俺に勝つなんて」
<0321> \{Man}「根性だけで俺に勝つなんて」
// <0322> \{男}「縁があったらまた会おう」
<0322> \{Man}「縁があったらまた会おう」
// <0323> 男は去っていく。
<0323> 男は去っていく。
// <0324> \{声}「次は勝つからな」
<0324> \{Voice}「次は勝つからな」
// <0325> \{声}「ちゃんと治してこいよ」
<0325> \{Voice}「ちゃんと治してこいよ」
// <0326> \{声}「病院、行けよ」
<0326> \{Voice}「病院、行けよ」
// <0327> 集まった連中は口々に俺へ言付けていく。
<0327> 集まった連中は口々に俺へ言付けていく。
// <0328> 花火も終わり、やがて、俺と河南子だけが残った。
<0328> 花火も終わり、やがて、俺と河南子だけが残った。
// <0329> \{河南子}「このやろー」
<0329> \{Kanako}「このやろー」
// <0330> \{河南子}「ちょっとロマンチックになっちゃったじゃないか」
<0330> \{Kanako}「ちょっとロマンチックになっちゃったじゃないか」
// <0331> \{朋也}「ろまんちっく?」
<0331> \{Tomoya}「ろまんちっく?」
// <0332> \{朋也}「それより…河南子、肩貸してくれ」
<0332> \{Tomoya}「それより…河南子、肩貸してくれ」
// <0333> \{朋也}「全然動けねぇ…から」
<0333> \{Tomoya}「全然動けねぇ…から」
// <0334> \{河南子}「はぁ…」
<0334> \{Kanako}「はぁ…」
// <0335> \{河南子}「めんどーな奴だなーもぅ…」
<0335> \{Kanako}「めんどーな奴だなーもぅ…」
// <0336> 這うようにして、なんとかアパートまで辿り着く。
<0336> 這うようにして、なんとかアパートまで辿り着く。
// <0337> 部屋のドアを開け放つ。
<0337> 部屋のドアを開け放つ。
// <0338> 中には…\p鷹文しかいなかった。
<0338> 中には…\p鷹文しかいなかった。
// <0339> \{朋也}「…ふたりは?」
<0339> \{Tomoya}「…ふたりは?」
// <0340> \{鷹文}「うわっ、死にそうになってんじゃんっ」
<0340> \{Takafumi}「うわっ、死にそうになってんじゃんっ」
// <0341> \{朋也}「いいから、ふたりはっ」
<0341> \{Tomoya}「いいから、ふたりはっ」
// <0342> \{鷹文}「え? ねぇちゃんなら、ともを連れて出かけたよ」
<0342> \{Takafumi}「え? ねぇちゃんなら、ともを連れて出かけたよ」
// <0343> \{鷹文}「大丈夫だと伝えてくれって」
<0343> \{Takafumi}「大丈夫だと伝えてくれって」
// <0344> \{朋也}「………」
<0344> \{Tomoya}「………」
// <0345> \{河南子}「これは風雲急を告げる展開だ」
<0345> \{Kanako}「これは風雲急を告げる展開だ」
// <0346> \{河南子}「行き場所は?」
<0346> \{Kanako}「行き場所は?」
// <0347> \{鷹文}「聞いてないけど」
<0347> \{Takafumi}「聞いてないけど」
// <0348> あれ…?
<0348> あれ…?
// <0349> 俺はとんでもない勘違いをしてたんじゃないのか…?
<0349> 俺はとんでもない勘違いをしてたんじゃないのか…?
// <0350> あいつら全員と拳を交えた今ならわかる。
<0350> あいつら全員と拳を交えた今ならわかる。
// <0351> あいつらは、弱い者に手を出すような卑劣な連中じゃない。ひとりとして。
<0351> あいつらは、弱い者に手を出すような卑劣な連中じゃない。ひとりとして。
// <0352> ただ智代に雪辱を果たしたい奴らが、お祭り騒ぎのように一堂に会しただけだ…。
<0352> ただ智代に雪辱を果たしたい奴らが、お祭り騒ぎのように一堂に会しただけだ…。
// <0353> ということは…
<0353> ということは…
// <0354> …幼稚園に出没していた不審者とは無関係。
<0354> …幼稚園に出没していた不審者とは無関係。
// <0355> \{鷹文}「あのさ…」
<0355> \{Takafumi}「あのさ…」
// <0356> \{鷹文}「…みんなで何やってんの?」
<0356> \{Takafumi}「…みんなで何やってんの?」
// <0357> \{河南子}「え?」
<0357> \{Kanako}「え?」
// <0358> \{河南子}「ウルトラクイズ」
<0358> \{Kanako}「ウルトラクイズ」
// <0359> \{鷹文}「え、まじ?」
<0359> \{Takafumi}「え、まじ?」
// <0360> \{朋也}「信じるなよ…」
<0360> \{Tomoya}「信じるなよ…」
// <0361> \{河南子}「笑いどころだっつーの」
<0361> \{Kanako}「笑いどころだっつーの」
// <0362> \{朋也}「俺、いくな…」
<0362> \{Tomoya}「俺、いくな…」
// <0363> ドアを押す。
<0363> ドアを押す。
// <0364> \{河南子}「え、動けんの!?」
<0364> \{Kanako}「え、動けんの!?」
// <0365> だって、その不審者はまだどこかに潜んでいるんだぞ…。
<0365> だって、その不審者はまだどこかに潜んでいるんだぞ…。
// <0366> いかなきゃならない。
<0366> いかなきゃならない。
// <0367> 全身の痛みが煩わしい。
<0367> 全身の痛みが煩わしい。
// <0368> 全部麻痺してしまえばいいのに。
<0368> 全部麻痺してしまえばいいのに。
// <0369> 何度も意識が遠くなる。
<0369> 何度も意識が遠くなる。
// <0370> 地面が傾くたび、足に力を入れて、痛みと共に覚醒する。
<0370> 地面が傾くたび、足に力を入れて、痛みと共に覚醒する。
// <0371> あと、もう少しだけ保ってくれ。
<0371> あと、もう少しだけ保ってくれ。
// <0372> ふたりを見つけるまで。
<0372> ふたりを見つけるまで。
// <0373> \{朋也}「はぁ…はぁ…」
<0373> \{Tomoya}「はぁ…はぁ…」
// <0374> 智代がいた。
<0374> 智代がいた。
// <0375> ひとりでいた。
<0375> ひとりでいた。
// <0376> ともの姿が見あたらなかった。
<0376> ともの姿が見あたらなかった。
// <0377> 俺は覚束ない足取りで近づいていく。
<0377> 俺は覚束ない足取りで近づいていく。
// <0378> 智代が気づいて…俺を見る。
<0378> 智代が気づいて…俺を見る。
// <0379> \{智代}「…朋也」
<0379> \{Tomoyo}「…朋也」
// <0380> \{朋也}「ともは…」
<0380> \{Tomoya}「ともは…」
// <0381> \{智代}「大丈夫だ」
<0381> \{Tomoyo}「大丈夫だ」
// <0382> \{智代}「お友達と遊んでいる」
<0382> \{Tomoyo}「お友達と遊んでいる」
// <0383> きぃきぃとブランコの音が聞こえた。
<0383> きぃきぃとブランコの音が聞こえた。
// <0384> その方向を見る。
<0384> その方向を見る。
// <0385> 小さな影が動いている。
<0385> 小さな影が動いている。
// <0386> ともと…同じぐらいの女の子がいた。
<0386> ともと…同じぐらいの女の子がいた。
// <0387> それを見守るのは、不器用そうな中年の男だ。
<0387> それを見守るのは、不器用そうな中年の男だ。
// <0388> \{智代}「いろんな家庭がある、事情がある」
<0388> \{Tomoyo}「いろんな家庭がある、事情がある」
// <0389> \{智代}「それを知った」
<0389> \{Tomoyo}「それを知った」
// <0390> \{智代}「あの子は、他人に興味を持てない子供なんだそうだ…」
<0390> \{Tomoyo}「あの子は、他人に興味を持てない子供なんだそうだ…」
// <0391> \{智代}「だからずっと、たったひとりでこの夜の公園で遊んでいた」
<0391> \{Tomoyo}「だからずっと、たったひとりでこの夜の公園で遊んでいた」
// <0392> \{智代}「そういう子は、なかなか他人には理解してもらえないらしい」
<0392> \{Tomoyo}「そういう子は、なかなか他人には理解してもらえないらしい」
// <0393> \{智代}「でも、ともだけは違った」
<0393> \{Tomoyo}「でも、ともだけは違った」
// <0394> \{智代}「母親には内緒で、遊ぼうとしていたらしい」
<0394> \{Tomoyo}「母親には内緒で、遊ぼうとしていたらしい」
// <0395> \{智代}「ほら、ここは、前に住んでいたアパートのすぐ裏手だから」
<0395> \{Tomoyo}「ほら、ここは、前に住んでいたアパートのすぐ裏手だから」
// <0396> \{智代}「けど、朋也の部屋で過ごすようになって、ここには来られなくなった」
<0396> \{Tomoyo}「けど、朋也の部屋で過ごすようになって、ここには来られなくなった」
// <0397> \{智代}「あの子の父親は、どうしても、ともと遊ばせたくて、いろいろ動いていたんだそうだ」
<0397> \{Tomoyo}「あの子の父親は、どうしても、ともと遊ばせたくて、いろいろ動いていたんだそうだ」
// <0398> \{智代}「最初から話してくれていればよかったのに…」
<0398> \{Tomoyo}「最初から話してくれていればよかったのに…」
// <0399> \{朋也}「………」
<0399> \{Tomoya}「………」
// <0400> そこまで話を聞くと、体の力が抜けた。緊張の糸が切れたのだ。
<0400> そこまで話を聞くと、体の力が抜けた。緊張の糸が切れたのだ。
// <0401> そのまま崩れ落ちる。
<0401> そのまま崩れ落ちる。
// <0402> \{智代}「朋也っ」
<0402> \{Tomoyo}「朋也っ」
// <0403> 抱きかかえられる。
<0403> 抱きかかえられる。
// <0404> 智代の匂いと温度を感じた。
<0404> 智代の匂いと温度を感じた。
// <0405> 好きな人の温もりだ。
<0405> 好きな人の温もりだ。
// <0406> …温かいなあ。
<0406> …温かいなあ。
// <0407> \{智代}「ぼろぼろじゃないか…」
<0407> \{Tomoyo}「ぼろぼろじゃないか…」
// <0408> \{智代}「詳しいことはわからないが…」
<0408> \{Tomoyo}「詳しいことはわからないが…」
// <0409> \{智代}「頑張ってくれてたんだな…朋也は…」
<0409> \{Tomoyo}「頑張ってくれてたんだな…朋也は…」
// <0410> \{智代}「それは…もう終わったのか?」
<0410> \{Tomoyo}「それは…もう終わったのか?」
// <0411> 俺は頷く。
<0411> 俺は頷く。
// <0412> \{朋也}「俺…馬鹿だ」
<0412> \{Tomoya}「俺…馬鹿だ」
// <0413> \{智代}「そんなことはない」
<0413> \{Tomoyo}「そんなことはない」
// <0414> \{智代}「ありがとう」
<0414> \{Tomoyo}「ありがとう」
// <0415> その一言で報われた気がした。
<0415> その一言で報われた気がした。
// <0416> ただ、この胸の中で今は休みたい。
<0416> ただ、この胸の中で今は休みたい。
// <0417> 遠くで、とものはしゃぎ声。
<0417> 遠くで、とものはしゃぎ声。
// <0418> 体はこんなにも、ぼろぼろなのに…
<0418> 体はこんなにも、ぼろぼろなのに…
// <0419> 今、この上ない安らぎと、幸せを感じている。
<0419> 今、この上ない安らぎと、幸せを感じている。
// <0420> \{朋也}「…休んでもいい?」
<0420> \{Tomoya}「…休んでもいい?」
// <0421> \{智代}「もちろん」
<0421> \{Tomoyo}「もちろん」
// <0422> じゃあ…
<0422> じゃあ…
// <0423> …おやすみ。
<0423> …おやすみ。