// Resources for SEEN0803.TXT
// #character '朋也'
#character 'Tomoya'
// #character '河南子'
#character 'Kanako'
// #character '鷹文'
#character 'Takafumi'
// #character 'とも'
#character 'Tomo'
// #character '智代'
#character 'Tomoyo'
// <0000> 8月3日(火)
<0000> August 3rd (Tue)
// <0001> \{朋也}「…うーん」
<0001> \{Tomoya}「…うーん」
// <0002> 親方が他県から引き取ってきた珍しい修理品を前にして、俺は頭を悩ましている。
<0002> 親方が他県から引き取ってきた珍しい修理品を前にして、俺は頭を悩ましている。
// <0003> 数十年前の蓄音機だ。
<0003> 数十年前の蓄音機だ。
// <0004> ギアが噛んでしまいまったく動かないので、とりあえず分解清掃をすることにした。
<0004> ギアが噛んでしまいまったく動かないので、とりあえず分解清掃をすることにした。
// <0005> 図書館から借りてきた本を参考に、ギアを白灯油で磨き、古いグリスを落とす。
<0005> 図書館から借りてきた本を参考に、ギアを白灯油で磨き、古いグリスを落とす。
// <0006> ゼンマイは生きているようなので、グリスだけ注入して組み上げた。
<0006> ゼンマイは生きているようなので、グリスだけ注入して組み上げた。
// <0007> 構造自体は簡単なので、それほど困ることはない。
<0007> 構造自体は簡単なので、それほど困ることはない。
// <0008> 組み上がった後、レバーを回しゼンマイを巻くと、綺麗に動き出した。
<0008> 組み上がった後、レバーを回しゼンマイを巻くと、綺麗に動き出した。
// <0009> これでまた、誰かの心を豊かにしてくれることだろう。
<0009> これでまた、誰かの心を豊かにしてくれることだろう。
// <0010> 音楽を聴くこと、それだって生き甲斐のひとつとなりえる。
<0010> 音楽を聴くこと、それだって生き甲斐のひとつとなりえる。
// <0011> 俺はあまり聴くほうではなかったけど。
<0011> 俺はあまり聴くほうではなかったけど。
// <0012> ただいま、とドアノブを開きかけたところで気づく。
<0012> ただいま、とドアノブを開きかけたところで気づく。
// <0013> 郵便受けに、封筒が。
<0013> 郵便受けに、封筒が。
// <0014> ノブから手を離し、それを引き抜く。
<0014> ノブから手を離し、それを引き抜く。
// <0015> 差出人は、三島有子。
<0015> 差出人は、三島有子。
// <0016> …三島。
<0016> …三島。
// <0017> \{朋也}(…あ)
<0017> \{Tomoya}(…あ)
// <0018> 一瞬後に、思い出す、その人物を。
<0018> 一瞬後に、思い出す、その人物を。
// <0019> ともの母親だ。
<0019> ともの母親だ。
// <0020> 俺はその場で開封する。
<0020> 俺はその場で開封する。
// <0021> 白く手触りのいい便箋に、端正な筆文字が綴られていた。
<0021> 白く手触りのいい便箋に、端正な筆文字が綴られていた。
// <0022> \size{22}\r
// 岡崎朋也様
<0022> \size{22}\r
岡崎朋也様
// <0023> 拝啓\r
// 残暑の厳しい折、岡崎様はいかがお過ごしでしょうか。
<0023> 拝啓\r
残暑の厳しい折、岡崎様はいかがお過ごしでしょうか。
// <0024> 私はあれから、方々を転々と致しまして、漸く安住の地を得ております。
<0024> 私はあれから、方々を転々と致しまして、漸く安住の地を得ております。
// <0025> 穏やかな毎日と申しますのは、失って初めて判るものでございます。
<0025> 穏やかな毎日と申しますのは、失って初めて判るものでございます。
// <0026> さて、先般お約束いただきましたともの写真でございますが、その後如何でしょうか。
<0026> さて、先般お約束いただきましたともの写真でございますが、その後如何でしょうか。
// <0027> 次の金曜日にそちらへ伺う用事がございます。
<0027> 次の金曜日にそちらへ伺う用事がございます。
// <0028> ご面倒を申し上げますが、お写真を過日の公園までお持ちいただけますでしょうか。
<0028> ご面倒を申し上げますが、お写真を過日の公園までお持ちいただけますでしょうか。
// <0029> 全く勝手なお願いではございますが、ご高配いただけますよう宜しくお願い致します。
<0029> 全く勝手なお願いではございますが、ご高配いただけますよう宜しくお願い致します。
// <0030> 末筆ながら皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます。 かしこ
<0030> 末筆ながら皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます。 かしこ
// <0031> \{朋也}(そうか…そうだよな…約束だったもんな)
<0031> \{Tomoya}(そうか…そうだよな…約束だったもんな)
// <0032> その約束をした日が何年も昔のように思える。
<0032> その約束をした日が何年も昔のように思える。
// <0033> ともはもう、俺たちの家族で…
<0033> ともはもう、俺たちの家族で…
// <0034> ずっと一緒に暮らしてきたかのように感じる。
<0034> ずっと一緒に暮らしてきたかのように感じる。
// <0035> それほどあの日は遠い。
<0035> それほどあの日は遠い。
// <0036> 部屋に入ると、いきなり甲高い笑い声が耳をつく。
<0036> 部屋に入ると、いきなり甲高い笑い声が耳をつく。
// <0037> 智代がヘンなきのこでも食べたのか?
<0037> 智代がヘンなきのこでも食べたのか?
// <0038> …んなわけない。
<0038> …んなわけない。
// <0039> \{河南子}「それが鷹文そっくりでさー」
<0039> \{Kanako}「それが鷹文そっくりでさー」
// <0040> 河南子だ。
<0040> 河南子だ。
// <0041> \{鷹文}「そんなに似てたかなぁ」
<0041> \{Takafumi}「そんなに似てたかなぁ」
// <0042> 鷹文もいる。
<0042> 鷹文もいる。
// <0043> 戻ってきていたのか。そりゃ賑やかに…
<0043> 戻ってきていたのか。そりゃ賑やかに…
// <0044> \{朋也}「って、待て、なんでこの部屋に戻ってくるんだよっ」
<0044> \{Tomoya}「って、待て、なんでこの部屋に戻ってくるんだよっ」
// <0045> \{河南子}「あ、おかえりー」
<0045> \{Kanako}「あ、おかえりー」
// <0046> \{朋也}「おまえ、家に帰ったはずだろ。なんで鷹文と一緒に戻ってきてんだよ」
<0046> \{Tomoya}「おまえ、家に帰ったはずだろ。なんで鷹文と一緒に戻ってきてんだよ」
// <0047> \{河南子}「まだ夏休みは始まったばかりですよ、わっしゃっしゃっしゃっしゃ」
<0047> \{Kanako}「まだ夏休みは始まったばかりですよ、わっしゃっしゃっしゃっしゃ」
// <0048> \{鷹文}「夏休みいっぱいは、ここにいるんだってさ」
<0048> \{Takafumi}「夏休みいっぱいは、ここにいるんだってさ」
// <0049> \{河南子}「ともさんも、河南と一緒に遊びたいですよね?」
<0049> \{Kanako}「ともさんも、河南と一緒に遊びたいですよね?」
// <0050> \{とも}「うんー」
<0050> \{Tomo}「うんー」
// <0051> \{河南子}「ほらみろっ、聞いたかっ、ばーーーかっ、鷹文、ばーーーか!」
<0051> \{Kanako}「ほらみろっ、聞いたかっ、ばーーーかっ、鷹文、ばーーーか!」
// <0052> \{鷹文}「なんで僕がくそみそに言われてるのかよくわかんないけど、堪忍するしかないね、にぃちゃん」
<0052> \{Takafumi}「なんで僕がくそみそに言われてるのかよくわかんないけど、堪忍するしかないね、にぃちゃん」
// <0053> \{朋也}「おまえ、このまま居着くんじゃないだろうなあ…」
<0053> \{Tomoya}「おまえ、このまま居着くんじゃないだろうなあ…」
// <0054> \{朋也}「ただでさえ狭いってのに…」
<0054> \{Tomoya}「ただでさえ狭いってのに…」
// <0055> \{智代}「飲み物持ってくるから、朋也も、聞いてやってくれ。河南子の新しいお父さんの話を聞いていたんだ」
<0055> \{Tomoyo}「飲み物持ってくるから、朋也も、聞いてやってくれ。河南子の新しいお父さんの話を聞いていたんだ」
// <0056> \{智代}「それが鷹文そっくりらしいんだ」
<0056> \{Tomoyo}「それが鷹文そっくりらしいんだ」
// <0057> \{鷹文}「ぜんぜん似てないって」
<0057> \{Takafumi}「ぜんぜん似てないって」
// <0058> \{河南子}「最後にさ、緊張して、てんぱったままさ、大声で『お母さんと河南子ちゃんは僕が絶対に幸せにします!』ってさ…」
<0058> \{Kanako}「最後にさ、緊張して、てんぱったままさ、大声で『お母さんと河南子ちゃんは僕が絶対に幸せにします!』ってさ…」
// <0059> \{鷹文}「河南子がずっと無言のままいるからだよ。すごく怖がってて可哀想だったよ」
<0059> \{Takafumi}「河南子がずっと無言のままいるからだよ。すごく怖がってて可哀想だったよ」
// <0060> \{河南子}「まあ、そこまではなんか貧弱そうで、頼りないなあって思ってたし」
<0060> \{Kanako}「まあ、そこまではなんか貧弱そうで、頼りないなあって思ってたし」
// <0061> \{河南子}「でも、その言葉聞いて、こりゃ鷹文だって思ったんだよね」
<0061> \{Kanako}「でも、その言葉聞いて、こりゃ鷹文だって思ったんだよね」
// <0062> \{河南子}「情けないけど、こいつは本気だなって」
<0062> \{Kanako}「情けないけど、こいつは本気だなって」
// <0063> \{河南子}「だから言ってあげたんだよ」
<0063> \{Kanako}「だから言ってあげたんだよ」
// <0064> \{河南子}「ああ、あんたならできるよ、ってさ」
<0064> \{Kanako}「ああ、あんたならできるよ、ってさ」
// <0065> \{鷹文}「もっと話してあげればよかったのにさ」
<0065> \{Takafumi}「もっと話してあげればよかったのにさ」
// <0066> \{鷹文}「僕のほうが河南子の父親と話してたよ。僕のほうが子供になるみたいだったよ。わけわかんなかったよ」
<0066> \{Takafumi}「僕のほうが河南子の父親と話してたよ。僕のほうが子供になるみたいだったよ。わけわかんなかったよ」
// <0067> \{河南子}「いいんだよ。あたしはこれから嫌なほど時間あるんだからさ」
<0067> \{Kanako}「いいんだよ。あたしはこれから嫌なほど時間あるんだからさ」
// <0068> \{河南子}「というわけで、今はともと遊ぶー」
<0068> \{Kanako}「というわけで、今はともと遊ぶー」
// <0069> その小さな体を抱きしめ、頬にキスをする。
<0069> その小さな体を抱きしめ、頬にキスをする。
// <0070> \{智代}「うまくいきそうでよかった」
<0070> \{Tomoyo}「うまくいきそうでよかった」
// <0071> 智代が目の前に冷えたグラスを置いて、そう俺に笑いかけた。
<0071> 智代が目の前に冷えたグラスを置いて、そう俺に笑いかけた。
// <0072> 自分のことのように嬉しそうだった。
<0072> 自分のことのように嬉しそうだった。
// <0073> みんなが笑い合う光景を見ながら、俺はさきほど読んだ手紙のことを思い出していた。
<0073> みんなが笑い合う光景を見ながら、俺はさきほど読んだ手紙のことを思い出していた。
// <0074> \{朋也}「智代」
<0074> \{Tomoya}「智代」
// <0075> \{智代}「うん、なんだ」
<0075> \{Tomoyo}「うん、なんだ」
// <0076> \{朋也}「明日は早く帰ってくるよ。ともを連れてでかけよう」
<0076> \{Tomoya}「明日は早く帰ってくるよ。ともを連れてでかけよう」
// <0077> そう提案していた。
<0077> そう提案していた。
// <0078> \{智代}「そんなことできるのか?」
<0078> \{Tomoyo}「そんなことできるのか?」
// <0079> \{朋也}「なんとかする。写真、そろそろ送らないといけないからさ」
<0079> \{Tomoya}「なんとかする。写真、そろそろ送らないといけないからさ」
// <0080> それだけで智代には伝わったようだ。嫌なことを思い出したように真顔になって、そうだったな、と頷いた。
<0080> それだけで智代には伝わったようだ。嫌なことを思い出したように真顔になって、そうだったな、と頷いた。