// Resources for SEEN0822.TXT
// #character '朋也'
#character 'Tomoya'
// #character '村人'
#character 'Villager'
// #character '鷹文'
#character 'Takafumi'
// #character '河南子'
#character 'Kanako'
// #character '管理人'
#character 'Manager'
// <0000> 8月22日(日)
<0000> August 22nd (Sun)
// <0001> \{朋也}「そっち、水平出てるか」
<0001> \{Tomoya}「そっち、水平出てるか」
// <0002> \{村人}「ああ、大丈夫」
<0002> \{Villager}「ああ、大丈夫」
// <0003> 黒板の上に、二本目の蛍光灯を設置していた。
<0003> 黒板の上に、二本目の蛍光灯を設置していた。
// <0004> 暗い室内でもちゃんと見えるように、と気を回してくれた管理人さんが探してくれたものだ。
<0004> 暗い室内でもちゃんと見えるように、と気を回してくれた管理人さんが探してくれたものだ。
// <0005> 屋内配線はすでに村人たちの手で済まされていた。
<0005> 屋内配線はすでに村人たちの手で済まされていた。
// <0006> あとはビスで固定するだけだ。
<0006> あとはビスで固定するだけだ。
// <0007> \{村人}「これでいいか?」
<0007> \{Villager}「これでいいか?」
// <0008> \{朋也}「オーケー」
<0008> \{Tomoya}「オーケー」
// <0009> 傘の部分を取りつけ、わざわざ町まで出向いて買ってきてもらった蛍光灯をはめる。
<0009> 傘の部分を取りつけ、わざわざ町まで出向いて買ってきてもらった蛍光灯をはめる。
// <0010> スイッチをつけた。
<0010> スイッチをつけた。
// <0011> 真夏の陽射しに負けない明るさが、室内を照らす。
<0011> 真夏の陽射しに負けない明るさが、室内を照らす。
// <0012> 真新しい机と椅子。
<0012> 真新しい机と椅子。
// <0013> まだ何も入っていないスチール棚。
<0013> まだ何も入っていないスチール棚。
// <0014> 教卓には、樹を削りだした指示棒が乗っている。
<0014> 教卓には、樹を削りだした指示棒が乗っている。
// <0015> 誰が書いたのか、壁に据えつけた黒板に大きく「ようこそ」の文字。
<0015> 誰が書いたのか、壁に据えつけた黒板に大きく「ようこそ」の文字。
// <0016> 床板にはワックスがかけられ、日差しを反射している。
<0016> 床板にはワックスがかけられ、日差しを反射している。
// <0017> 全てが終わった。
<0017> 全てが終わった。
// <0018> みんなの手で。
<0018> みんなの手で。
// <0019> \{朋也}「できた…」
<0019> \{Tomoya}「できた…」
// <0020> \{朋也}「終わったーっ!」
<0020> \{Tomoya}「終わったーっ!」
// <0021> 俺の叫びに反応して、口々にあがる歓声と拍手。
<0021> 俺の叫びに反応して、口々にあがる歓声と拍手。
// <0022> 誰もが喜んでいた。
<0022> 誰もが喜んでいた。
// <0023> だが、どうなるかはわからない。
<0023> だが、どうなるかはわからない。
// <0024> ここから先は、村人たちに任せるしかない。
<0024> ここから先は、村人たちに任せるしかない。
// <0025> 願わくば、この学校が村人たちの未来となりますように。
<0025> 願わくば、この学校が村人たちの未来となりますように。
// <0026> 俺は頭を垂れ、そう祈った。
<0026> 俺は頭を垂れ、そう祈った。
// <0027> 視界の端、村人の歓喜の輪からひとりはずれ、去っていく茶色い背中があった。
<0027> 視界の端、村人の歓喜の輪からひとりはずれ、去っていく茶色い背中があった。
// <0028> \{朋也}(智代…)
<0028> \{Tomoya}(智代…)
// <0029> 結局村人の前で、その正体を明かすことは最後までなかった。
<0029> 結局村人の前で、その正体を明かすことは最後までなかった。
// <0030> 夜になって、鷹文に電話をした。
<0030> 夜になって、鷹文に電話をした。
// <0031> \{鷹文}『ふぁい、おかはひでふ』
<0031> \{Takafumi}『ふぁい、おかはひでふ』
// <0032> \{朋也}「食いながら電話に出るなよ」
<0032> \{Tomoya}「食いながら電話に出るなよ」
// <0033> 慣れすぎていた。
<0033> 慣れすぎていた。
// <0034> \{鷹文}『ごめんごめん、ともと晩御飯食べてたから』
<0034> \{Takafumi}『ごめんごめん、ともと晩御飯食べてたから』
// <0035> \{鷹文}『で、どうなったの?』
<0035> \{Takafumi}『で、どうなったの?』
// <0036> \{朋也}「全部うまくいった」
<0036> \{Tomoya}「全部うまくいった」
// <0037> \{鷹文}『お、なんかよくわからないけど、すごいじゃん』
<0037> \{Takafumi}『お、なんかよくわからないけど、すごいじゃん』
// <0038> \{朋也}「明日来れるか?」
<0038> \{Tomoya}「明日来れるか?」
// <0039> \{鷹文}『たぶん大丈夫だと思うよ』
<0039> \{Takafumi}『たぶん大丈夫だと思うよ』
// <0040> \{鷹文}『じゃあ明日の朝、こっちを発つね』
<0040> \{Takafumi}『じゃあ明日の朝、こっちを発つね』
// <0041> \{朋也}「気をつけてな」
<0041> \{Tomoya}「気をつけてな」
// <0042> 受話器を置く。
<0042> 受話器を置く。
// <0043> 後は待つだけだ。
<0043> 後は待つだけだ。
// <0044> \{河南子}「どうだったー?」
<0044> \{Kanako}「どうだったー?」
// <0045> 部屋に戻ってくると河南子が俺の顔を見てそう訊く。
<0045> 部屋に戻ってくると河南子が俺の顔を見てそう訊く。
// <0046> \{朋也}「明日の朝出るって」
<0046> \{Tomoya}「明日の朝出るって」
// <0047> \{河南子}「そ。じゃあ、明日がともとのお別れの日になるんだね、寂しいねー」
<0047> \{Kanako}「そ。じゃあ、明日がともとのお別れの日になるんだね、寂しいねー」
// <0048> ふぅ、と俺は腰を落ち着ける。
<0048> ふぅ、と俺は腰を落ち着ける。
// <0049> 俺も、ともと過ごしてきた日のことを思う。
<0049> 俺も、ともと過ごしてきた日のことを思う。
// <0050> 鷹文が連れてきた日から始まり、ずいぶん遠くまできたもんだ。
<0050> 鷹文が連れてきた日から始まり、ずいぶん遠くまできたもんだ。
// <0051> まさか、こんな場所まできて学校を建てることになるなんて、思いもしなかった。
<0051> まさか、こんな場所まできて学校を建てることになるなんて、思いもしなかった。
// <0052> でもこれで、ともはまた母親と過ごせる。頑張った甲斐があった。
<0052> でもこれで、ともはまた母親と過ごせる。頑張った甲斐があった。
// <0053> \{朋也}「おまえも、よくやってくれたな」
<0053> \{Tomoya}「おまえも、よくやってくれたな」
// <0054> そう河南子を労う。
<0054> そう河南子を労う。
// <0055> \{河南子}「え? なんかしたっけ?」
<0055> \{Kanako}「え? なんかしたっけ?」
// <0056> \{朋也}「まあ、いろいろ」
<0056> \{Tomoya}「まあ、いろいろ」
// <0057> \{朋也}「そういや、智代は?」
<0057> \{Tomoya}「そういや、智代は?」
// <0058> \{河南子}「花畑のほうにいたよ」
<0058> \{Kanako}「花畑のほうにいたよ」
// <0059> \{朋也}「こんな夜にひとりでかよ…」
<0059> \{Tomoya}「こんな夜にひとりでかよ…」
// <0060> \{河南子}「だって、ひとりにしてくれって言うんだもん」
<0060> \{Kanako}「だって、ひとりにしてくれって言うんだもん」
// <0061> \{朋也}「おまえ、見張りだろうが」
<0061> \{Tomoya}「おまえ、見張りだろうが」
// <0062> \{河南子}「もう、あの人は大丈夫だよ。それはあんたもわかってるでしょ?」
<0062> \{Kanako}「もう、あの人は大丈夫だよ。それはあんたもわかってるでしょ?」
// <0063> 確かに、あれだけ献身的に学校建設を手伝っておいて、今更面倒なことを起こすとは思えなかった。
<0063> 確かに、あれだけ献身的に学校建設を手伝っておいて、今更面倒なことを起こすとは思えなかった。
// <0064> 後は、あいつがともを笑って見送れるか、どうかの問題だ。
<0064> 後は、あいつがともを笑って見送れるか、どうかの問題だ。
// <0065> \{朋也}「来るかな」
<0065> \{Tomoya}「来るかな」
// <0066> \{河南子}「ややこしい人だからねー」
<0066> \{Kanako}「ややこしい人だからねー」
// <0067> こんこん、とノックの音。
<0067> こんこん、とノックの音。
// <0068> 顔を出したのは、管理人だった。
<0068> 顔を出したのは、管理人だった。
// <0069> その手には一升瓶。
<0069> その手には一升瓶。
// <0070> \{管理人}「禁止してるんだけどさ、一緒にどう?」
<0070> \{Manager}「禁止してるんだけどさ、一緒にどう?」
// <0071> \{管理人}「寂しいわね、明日帰るんでしょ」
<0071> \{Manager}「寂しいわね、明日帰るんでしょ」
// <0072> \{管理人}「ずっとここにいれば?」
<0072> \{Manager}「ずっとここにいれば?」
// <0073> \{朋也}「いや、そういうわけにはいかないから」
<0073> \{Tomoya}「いや、そういうわけにはいかないから」
// <0074> \{管理人}「じゃあ、結婚して年取って、やることなくなったらおいでなさいよ」
<0074> \{Manager}「じゃあ、結婚して年取って、やることなくなったらおいでなさいよ」
// <0075> \{河南子}「え、誰が?」
<0075> \{Kanako}「え、誰が?」
// <0076> \{管理人}「あんたたちふたりよ」
<0076> \{Manager}「あんたたちふたりよ」
// <0077> \{河南子}「こいつなんかと結婚するかよっ!」
<0077> \{Kanako}「こいつなんかと結婚するかよっ!」
// <0078> \{管理人}「あれ? 最初、そう紹介されなかった?」
<0078> \{Manager}「あれ? 最初、そう紹介されなかった?」
// <0079> \{河南子}「いや、あたしが、先輩とこいつは結婚するだろうからって紹介したはずだけど」
<0079> \{Kanako}「いや、あたしが、先輩とこいつは結婚するだろうからって紹介したはずだけど」
// <0080> \{管理人}「あら、そうだったっけ? いつの間にか勘違いしちゃってたのね」
<0080> \{Manager}「あら、そうだったっけ? いつの間にか勘違いしちゃってたのね」
// <0081> \{管理人}「ふたり、仲がいいものだから」
<0081> \{Manager}「ふたり、仲がいいものだから」
// <0082> \{管理人}「そうなの、お相手はかなちゃんじゃなかったのね」
<0082> \{Manager}「そうなの、お相手はかなちゃんじゃなかったのね」
// <0083> \{管理人}「あの女の子も美人さんね。料理もできるし」
<0083> \{Manager}「あの女の子も美人さんね。料理もできるし」
// <0084> とってつけたような褒め言葉。
<0084> とってつけたような褒め言葉。
// <0085> …不思議に思った。
<0085> …不思議に思った。
// <0086> いつもなら、智代が皆を先導して、人望を勝ち得ているはずなのに。
<0086> いつもなら、智代が皆を先導して、人望を勝ち得ているはずなのに。
// <0087> 思い返せば、この村での智代は、悪いところばかりが表立っていた。
<0087> 思い返せば、この村での智代は、悪いところばかりが表立っていた。
// <0088> いいところは、クマに変装している間しか発揮してなかったから誰にも伝わっていない。
<0088> いいところは、クマに変装している間しか発揮してなかったから誰にも伝わっていない。
// <0089> それが今更悔しい。
<0089> それが今更悔しい。
// <0090> \{朋也}「あいつ、普段はいい奴なんだよ…」
<0090> \{Tomoya}「あいつ、普段はいい奴なんだよ…」
// <0091> \{朋也}「それで、すごい奴なんだ…」
<0091> \{Tomoya}「それで、すごい奴なんだ…」
// <0092> \{朋也}「俺の自慢の彼女なんだ…」
<0092> \{Tomoya}「俺の自慢の彼女なんだ…」
// <0093> 独り言のように呟いていた。
<0093> 独り言のように呟いていた。
// <0094> \{河南子}「うん、先輩、いい人だよ」
<0094> \{Kanako}「うん、先輩、いい人だよ」
// <0095> \{河南子}「子供だけどねー」
<0095> \{Kanako}「子供だけどねー」
// <0096> \{管理人}「かなちゃんより? そうは見えないわよ」
<0096> \{Manager}「かなちゃんより? そうは見えないわよ」
// <0097> 管理人は楽しげに河南子と会話を続ける。
<0097> 管理人は楽しげに河南子と会話を続ける。
// <0098> \{管理人}「わっしゃっしゃっしゃって笑い声ももう聞けなくなるのねぇ」
<0098> \{Manager}「わっしゃっしゃっしゃって笑い声ももう聞けなくなるのねぇ」
// <0099> \{河南子}「んな下品な笑い方しないってば、もー」
<0099> \{Kanako}「んな下品な笑い方しないってば、もー」
// <0100> 俺はひとり黙って、智代のことを考えていた。
<0100> 俺はひとり黙って、智代のことを考えていた。
// <0101> あいつだったら、俺たちがやったことより、もっとすごいことができるはずだ。
<0101> あいつだったら、俺たちがやったことより、もっとすごいことができるはずだ。
// <0102> どんな困難だって乗り越えて…
<0102> どんな困難だって乗り越えて…
// <0103> もっとたくさんの人を救ってみせるはずだ。
<0103> もっとたくさんの人を救ってみせるはずだ。
// <0104> そうだよな…
<0104> そうだよな…
// <0105> な、智代。
<0105> な、智代。