// Resources for SEEN0823.TXT
// #character '河南子'
#character 'Kanako'
// #character '朋也'
#character 'Tomoya'
// #character '女性'
#character 'Woman'
// #character 'とも'
#character 'Tomo'
// #character '鷹文'
#character 'Takafumi'
// #character '智代'
#character 'Tomoyo'
// <0000> 8月23日(月)
<0000> August 23rd (Mon)
// <0001> 窓から差し込む日差しが目に痛い。仕方なく起き出す。
<0001> 窓から差し込む日差しが目に痛い。仕方なく起き出す。
// <0002> 床には畳まれた布団が一組。
<0002> 床には畳まれた布団が一組。
// <0003> 昨日は俺たちが寝入ってから戻ってきて、寝ぼけたまま少しだけ話をしたのを覚えている。
<0003> 昨日は俺たちが寝入ってから戻ってきて、寝ぼけたまま少しだけ話をしたのを覚えている。
// <0004> そして、今朝もこんな早くから、どこへいったというのだろう?
<0004> そして、今朝もこんな早くから、どこへいったというのだろう?
// <0005> 伸びをひとつして、窓を開ける。
<0005> 伸びをひとつして、窓を開ける。
// <0006> 涼しげな山風が入ってきた。
<0006> 涼しげな山風が入ってきた。
// <0007> 今日も天気はよさそうだ。
<0007> 今日も天気はよさそうだ。
// <0008> \{河南子}「…うー、みずー」
<0008> \{Kanako}「…うー、みずー」
// <0009> ベッドからうめき声がした。
<0009> ベッドからうめき声がした。
// <0010> 掛け布団をめくってみると、だるそうな顔をした河南子がいた。
<0010> 掛け布団をめくってみると、だるそうな顔をした河南子がいた。
// <0011> \{朋也}「どうかしたのか?」
<0011> \{Tomoya}「どうかしたのか?」
// <0012> \{河南子}「水、もってきて…」
<0012> \{Kanako}「水、もってきて…」
// <0013> どうやら二日酔いらしい。
<0013> どうやら二日酔いらしい。
// <0014> そういえば、俺の方が先に寝たんだっけ…。
<0014> そういえば、俺の方が先に寝たんだっけ…。
// <0015> 仕方なく水を汲んできてやることにした。
<0015> 仕方なく水を汲んできてやることにした。
// <0016> ついでにタオルを濡らして、額に置いてやる。
<0016> ついでにタオルを濡らして、額に置いてやる。
// <0017> 河南子は勢いよくコップの水を飲んで、もう一度横になる。
<0017> 河南子は勢いよくコップの水を飲んで、もう一度横になる。
// <0018> \{河南子}「…ふー、いきかえった」
<0018> \{Kanako}「…ふー、いきかえった」
// <0019> \{朋也}「おまえ、はめはずしすぎ」
<0019> \{Tomoya}「おまえ、はめはずしすぎ」
// <0020> \{河南子}「だいじょうぶらって…」
<0020> \{Kanako}「だいじょうぶらって…」
// <0021> \{河南子}「ねむくて、うごくの、めんどーなだけ…」
<0021> \{Kanako}「ねむくて、うごくの、めんどーなだけ…」
// <0022> そして、河南子の呼吸は、次第に規則的になった。
<0022> そして、河南子の呼吸は、次第に規則的になった。
// <0023> \{朋也}「…それだけかよ」
<0023> \{Tomoya}「…それだけかよ」
// <0024> 放っておこう。
<0024> 放っておこう。
// <0025> 外に出ると、村人たちはそれぞれの農作業へと戻っていた。
<0025> 外に出ると、村人たちはそれぞれの農作業へと戻っていた。
// <0026> 気軽に声をかけると、丁寧に会釈してくれたり、河南子のことを訊かれたりした。
<0026> 気軽に声をかけると、丁寧に会釈してくれたり、河南子のことを訊かれたりした。
// <0027> 雑草をむしる姿。
<0027> 雑草をむしる姿。
// <0028> 今日の収穫分を、籠に入れて建物へと運ぶ姿。
<0028> 今日の収穫分を、籠に入れて建物へと運ぶ姿。
// <0029> 雨避けのネットを点検する姿。
<0029> 雨避けのネットを点検する姿。
// <0030> ここで流れていく毎日が戻っていた。
<0030> ここで流れていく毎日が戻っていた。
// <0031> \{女性}「…おはよう」
<0031> \{Woman}「…おはよう」
// <0032> いつだったか、洗濯機を直した時にいた女性だ。
<0032> いつだったか、洗濯機を直した時にいた女性だ。
// <0033> \{朋也}「ああ、おはよう」
<0033> \{Tomoya}「ああ、おはよう」
// <0034> \{女性}「朝ご飯…いなかったけど……食べた?」
<0034> \{Woman}「朝ご飯…いなかったけど……食べた?」
// <0035> そういえば食べてない。
<0035> そういえば食べてない。
// <0036> 起きたときにはもう終わっていたようだ。
<0036> 起きたときにはもう終わっていたようだ。
// <0037> \{朋也}「いや、まだ」
<0037> \{Tomoya}「いや、まだ」
// <0038> \{女性}「…これ」
<0038> \{Woman}「…これ」
// <0039> 彼女は、そっと籠からトマトを取り出し、手渡してくれた。
<0039> 彼女は、そっと籠からトマトを取り出し、手渡してくれた。
// <0040> \{女性}「…これ…食べて」
<0040> \{Woman}「…これ…食べて」
// <0041> \{朋也}「ああ、悪いな」
<0041> \{Tomoya}「ああ、悪いな」
// <0042> \{女性}「…いいの」
<0042> \{Woman}「…いいの」
// <0043> ぺこり、と一礼してから、畑の中に戻っていった。
<0043> ぺこり、と一礼してから、畑の中に戻っていった。
// <0044> 俺はそれを齧りながら、散歩を続ける。
<0044> 俺はそれを齧りながら、散歩を続ける。
// <0045> 途中、遠回りをして、できたばかりの学校へ立ち寄ってみた。
<0045> 途中、遠回りをして、できたばかりの学校へ立ち寄ってみた。
// <0046> 昨日までの喧騒はない。
<0046> 昨日までの喧騒はない。
// <0047> だが、森に近いここは思いの外賑やかだ。
<0047> だが、森に近いここは思いの外賑やかだ。
// <0048> 風が葉擦れを運んでくる。
<0048> 風が葉擦れを運んでくる。
// <0049> 遠くから、近くから響く蝉の合唱。
<0049> 遠くから、近くから響く蝉の合唱。
// <0050> 夏鳥が色とりどりにさえずる。
<0050> 夏鳥が色とりどりにさえずる。
// <0051> 昨日までずっと、俺はこの音を聞きながら仕事をしていたのだろうか。
<0051> 昨日までずっと、俺はこの音を聞きながら仕事をしていたのだろうか。
// <0052> 気にも留めなかった。
<0052> 気にも留めなかった。
// <0053> それだけ目の前のことに集中していたのか、と我ながら思う。
<0053> それだけ目の前のことに集中していたのか、と我ながら思う。
// <0054> まだ、どこか信じられない。
<0054> まだ、どこか信じられない。
// <0055> 俺は木陰に座り、汗ばんだ肌を風にさらした。
<0055> 俺は木陰に座り、汗ばんだ肌を風にさらした。
// <0056> 涼しさが通り抜けていく。
<0056> 涼しさが通り抜けていく。
// <0057> ふと、人の声を聞いた気がした。
<0057> ふと、人の声を聞いた気がした。
// <0058> 畑の方では、誰かのはしゃぐ声がする。
<0058> 畑の方では、誰かのはしゃぐ声がする。
// <0059> どうやら、河南子が復活して、村人たちと遊んでいるようだ。
<0059> どうやら、河南子が復活して、村人たちと遊んでいるようだ。
// <0060> 時計を見ると、ちょうど昼ご飯時だった。
<0060> 時計を見ると、ちょうど昼ご飯時だった。
// <0061> 新しい住民がやってくるのは、午後を過ぎてからだろう。
<0061> 新しい住民がやってくるのは、午後を過ぎてからだろう。
// <0062> 俺はしばらく、学校を眺めることにした。
<0062> 俺はしばらく、学校を眺めることにした。
// <0063> 昼食の後、俺と河南子は、村の入り口に立ち、その訪れを待っていた。
<0063> 昼食の後、俺と河南子は、村の入り口に立ち、その訪れを待っていた。
// <0064> 智代は相変わらず姿を見せていない。昼ご飯も食べず、どこで何をやってるんだか。
<0064> 智代は相変わらず姿を見せていない。昼ご飯も食べず、どこで何をやってるんだか。
// <0065> 本人に現れる気がないのなら、探しても意味がないと思って、放ったままにしてある。
<0065> 本人に現れる気がないのなら、探しても意味がないと思って、放ったままにしてある。
// <0066> \{河南子}「きた、あれだ!」
<0066> \{Kanako}「きた、あれだ!」
// <0067> ゆっくりと歩いてくる。
<0067> ゆっくりと歩いてくる。
// <0068> 小さな歩幅で。
<0068> 小さな歩幅で。
// <0069> 待っていられなくなって、河南子が地面を蹴って駆けていく。
<0069> 待っていられなくなって、河南子が地面を蹴って駆けていく。
// <0070> \{河南子}「ともーっ、会いたかったよーっ!」
<0070> \{Kanako}「ともーっ、会いたかったよーっ!」
// <0071> …鷹文は。
<0071> …鷹文は。
// <0072> 三人、手を取り合って、村へ辿り着いた。
<0072> 三人、手を取り合って、村へ辿り着いた。
// <0073> ようこそ、未来と希望。
<0073> ようこそ、未来と希望。
// <0074> そう胸の中で迎えた。
<0074> そう胸の中で迎えた。
// <0075> \{朋也}「元気だったか、とも」
<0075> \{Tomoya}「元気だったか、とも」
// <0076> 膝をついて、その頭を撫でてやる。
<0076> 膝をついて、その頭を撫でてやる。
// <0077> \{とも}「うんー」
<0077> \{Tomo}「うんー」
// <0078> 可愛い奴だ。
<0078> 可愛い奴だ。
// <0079> \{鷹文}「いろいろあったみたいだね。大丈夫だった?」
<0079> \{Takafumi}「いろいろあったみたいだね。大丈夫だった?」
// <0080> \{朋也}「なんとかな」
<0080> \{Tomoya}「なんとかな」
// <0081> \{河南子}「どうでもいいけど、おまえ影薄いよな」
<0081> \{Kanako}「どうでもいいけど、おまえ影薄いよな」
// <0082> \{鷹文}「ほんとにどうでもいいよ」
<0082> \{Takafumi}「ほんとにどうでもいいよ」
// <0083> \{鷹文}「で、ねぇちゃんは?」
<0083> \{Takafumi}「で、ねぇちゃんは?」
// <0084> \{河南子}「くま…\wait{400}\shake{2}
<0084> \{Kanako}「くま…\wait{400}\shake{2}
// <0085> うっ」
<0085> うっ」
// <0086> 言いかけたところで、脇腹をつついてやる。
<0086> 言いかけたところで、脇腹をつついてやる。
// <0087> \{河南子}「なんだよ、てめー」
<0087> \{Kanako}「なんだよ、てめー」
// <0088> ともの前だから隠しておけと片目を閉じて合図を送る。
<0088> ともの前だから隠しておけと片目を閉じて合図を送る。
// <0089> \{河南子}「なに? 鷹文を倒せ?」
<0089> \{Kanako}「なに? 鷹文を倒せ?」
// <0090> \{河南子}「ラジャー」
<0090> \{Kanako}「ラジャー」
// <0091> \{鷹文}「いででっ、いだいよっ、かなごっ!」
<0091> \{Takafumi}「いででっ、いだいよっ、かなごっ!」
// <0092> 関節をきめられながら、口を引っ張られる鷹文。
<0092> 関節をきめられながら、口を引っ張られる鷹文。
// <0093> \{朋也}「そのぐらいでいい。もうよしてやれ」
<0093> \{Tomoya}「そのぐらいでいい。もうよしてやれ」
// <0094> \{河南子}「は」
<0094> \{Kanako}「は」
// <0095> \{鷹文}「つつ…」
<0095> \{Takafumi}「つつ…」
// <0096> \{朋也}「智代はともが通う学校作りを熱心に手伝ってくれたんだ」
<0096> \{Tomoya}「智代はともが通う学校作りを熱心に手伝ってくれたんだ」
// <0097> \{朋也}「今は疲れてて、少し休んでる。そのうち来るよ」
<0097> \{Tomoya}「今は疲れてて、少し休んでる。そのうち来るよ」
// <0098> \{鷹文}「そうなんだ…」
<0098> \{Takafumi}「そうなんだ…」
// <0099> \{鷹文}「で、今の関節技の意味は…?」
<0099> \{Takafumi}「で、今の関節技の意味は…?」
// <0100> \{河南子}「え? 気晴らし」
<0100> \{Kanako}「え? 気晴らし」
// <0101> \{鷹文}「えぇーっ!」
<0101> \{Takafumi}「えぇーっ!」
// <0102> 馬鹿を繰り広げるふたりの後ろで、ともはぽつんと立ちつくしていた。
<0102> 馬鹿を繰り広げるふたりの後ろで、ともはぽつんと立ちつくしていた。
// <0103> いつもなら、一緒に笑うか、咎めたりするのに、黙ったままだった。
<0103> いつもなら、一緒に笑うか、咎めたりするのに、黙ったままだった。
// <0104> 寄っていって、その頭を撫でる。
<0104> 寄っていって、その頭を撫でる。
// <0105> \{朋也}「お母さんに会いにいこうか」
<0105> \{Tomoya}「お母さんに会いにいこうか」
// <0106> うんっ、と強く頷いた。
<0106> うんっ、と強く頷いた。
// <0107> もう彼女には、そのこと以外頭にないようだった。
<0107> もう彼女には、そのこと以外頭にないようだった。
// <0108> \{鷹文}「いででっ、いだいよっ!!」
<0108> \{Takafumi}「いででっ、いだいよっ!!」
// <0109> また鷹文が関節技をかけられている。
<0109> また鷹文が関節技をかけられている。
// <0110> \{朋也}「ほら、おまえら、最後ぐらいは締めろよ」
<0110> \{Tomoya}「ほら、おまえら、最後ぐらいは締めろよ」
// <0111> \{河南子}「最後、か…」
<0111> \{Kanako}「最後、か…」
// <0112> \{鷹文}「そうだね…」
<0112> \{Takafumi}「そうだね…」
// <0113> \{朋也}「いくぞ」
<0113> \{Tomoya}「いくぞ」
// <0114> \{河南子}「は」
<0114> \{Kanako}「は」
// <0115> \{鷹文}「オーケー」
<0115> \{Takafumi}「オーケー」
// <0116> 俺たちは、ともと寄り添い歩き始める。
<0116> 俺たちは、ともと寄り添い歩き始める。
// <0117> 再会の場所に向けて。
<0117> 再会の場所に向けて。
// <0118> 景色が開けた。
<0118> 景色が開けた。
// <0119> 村人たちがそこで出迎えていた。
<0119> 村人たちがそこで出迎えていた。
// <0120> ひとり残らず、全員だ。
<0120> ひとり残らず、全員だ。
// <0121> ここに初めて来たときは、あんなにも拒絶されたのに。
<0121> ここに初めて来たときは、あんなにも拒絶されたのに。
// <0122> 今ある光景が、奇跡のようだった。
<0122> 今ある光景が、奇跡のようだった。
// <0123> 旅の最果てだった村。
<0123> 旅の最果てだった村。
// <0124> 今は皆が、未来と希望を待っていた。
<0124> 今は皆が、未来と希望を待っていた。
// <0125> 先頭にはふたりが立つ。
<0125> 先頭にはふたりが立つ。
// <0126> 管理人と、そして三島有子…ともの母親。
<0126> 管理人と、そして三島有子…ともの母親。
// <0127> \{朋也}「ほら、とも。お母さんだ」
<0127> \{Tomoya}「ほら、とも。お母さんだ」
// <0128> \{とも}「ママ!」
<0128> \{Tomo}「ママ!」
// <0129> 駆け出そうとする。
<0129> 駆け出そうとする。
// <0130> ふたりの距離は縮まらない。足は地面を滑り続けていた。俺がその肩を押さえていたから。
<0130> ふたりの距離は縮まらない。足は地面を滑り続けていた。俺がその肩を押さえていたから。
// <0131> ともはやきもきするように体を揺すった。
<0131> ともはやきもきするように体を揺すった。
// <0132> その小さな体の正面に跪く。
<0132> その小さな体の正面に跪く。
// <0133> 否応なしに、視界は閉ざされる。
<0133> 否応なしに、視界は閉ざされる。
// <0134> \{朋也}「とも、いいか、よく聞くんだ」
<0134> \{Tomoya}「とも、いいか、よく聞くんだ」
// <0135> \{朋也}「ともが望めば、ここでお母さんと暮らしていける」
<0135> \{Tomoya}「ともが望めば、ここでお母さんと暮らしていける」
// <0136> \{朋也}「でもそれは、いつまでも続かない」
<0136> \{Tomoya}「でもそれは、いつまでも続かない」
// <0137> \{朋也}「ほんの少しかもしれない」
<0137> \{Tomoya}「ほんの少しかもしれない」
// <0138> ともは暴れて聞いていない様子だ。
<0138> ともは暴れて聞いていない様子だ。
// <0139> \{朋也}「とも、よく聞け」
<0139> \{Tomoya}「とも、よく聞け」
// <0140> 再び、強く言う。
<0140> 再び、強く言う。
// <0141> \{朋也}「ともは、ここでお母さんと暮らしていける」
<0141> \{Tomoya}「ともは、ここでお母さんと暮らしていける」
// <0142> \{朋也}「でも、それは長くは続かない」
<0142> \{Tomoya}「でも、それは長くは続かない」
// <0143> \{朋也}「お母さんは病気なんだ」
<0143> \{Tomoya}「お母さんは病気なんだ」
// <0144> その言葉で、ようやく目が覚めたように俺の顔にピントを合わせた。
<0144> その言葉で、ようやく目が覚めたように俺の顔にピントを合わせた。
// <0145> \{朋也}「重い病気だ。もう治らない」
<0145> \{Tomoya}「重い病気だ。もう治らない」
// <0146> \{とも}「どうなるの…?」
<0146> \{Tomo}「どうなるの…?」
// <0147> \{朋也}「死ぬ」
<0147> \{Tomoya}「死ぬ」
// <0148> \{とも}「しぬの!? ママ、しんじゃうの!?」
<0148> \{Tomo}「しぬの!? ママ、しんじゃうの!?」
// <0149> \{朋也}「まだだ。でも、遠くない未来にそうなる」
<0149> \{Tomoya}「まだだ。でも、遠くない未来にそうなる」
// <0150> \{朋也}「それでもともは…\pお母さんと暮らしていくことを選ぶか?」
<0150> \{Tomoya}「それでもともは…\pお母さんと暮らしていくことを選ぶか?」
// <0151> \{とも}「ママ! ママッ!」
<0151> \{Tomo}「ママ! ママッ!」
// <0152> ともはもう俺を見ていない。その遙か後ろを見ていた。
<0152> ともはもう俺を見ていない。その遙か後ろを見ていた。
// <0153> \{朋也}「とも、答えろ、それでもお母さんと最後まで一緒にいたいか?」
<0153> \{Tomoya}「とも、答えろ、それでもお母さんと最後まで一緒にいたいか?」
// <0154> 押さえつけて、問う。
<0154> 押さえつけて、問う。
// <0155> 酷だ。
<0155> 酷だ。
// <0156> でも、その答えが得られないと、母親の元にはやれない。
<0156> でも、その答えが得られないと、母親の元にはやれない。
// <0157> \{朋也}「一緒にいたいか…?」
<0157> \{Tomoya}「一緒にいたいか…?」
// <0158> 辛抱強く訊く。
<0158> 辛抱強く訊く。
// <0159> ともが再び俺を見る。
<0159> ともが再び俺を見る。
// <0160> そして…
<0160> そして…
// <0161> こくん。
<0161> こくん。
// <0162> 頷いた。
<0162> 頷いた。
// <0163> \{朋也}「そっか…」
<0163> \{Tomoya}「そっか…」
// <0164> \{朋也}「じゃあ、俺たちとはここでお別れだ」
<0164> \{Tomoya}「じゃあ、俺たちとはここでお別れだ」
// <0165> \{朋也}「俺たちは帰らないといけない」
<0165> \{Tomoya}「俺たちは帰らないといけない」
// <0166> \{朋也}「俺たちには俺たちの生活があるから」
<0166> \{Tomoya}「俺たちには俺たちの生活があるから」
// <0167> \{河南子}「とも」
<0167> \{Kanako}「とも」
// <0168> \{河南子}「ともといられて、すんげー楽しかったよ」
<0168> \{Kanako}「ともといられて、すんげー楽しかったよ」
// <0169> \{鷹文}「僕たちのこと忘れないでよね」
<0169> \{Takafumi}「僕たちのこと忘れないでよね」
// <0170> \{鷹文}「元気で、とも」
<0170> \{Takafumi}「元気で、とも」
// <0171> 皆が口々に別れの言葉を口にする。
<0171> 皆が口々に別れの言葉を口にする。
// <0172> \{朋也}「じゃあな、とも」
<0172> \{Tomoya}「じゃあな、とも」
// <0173> 俺はその体を解放する。
<0173> 俺はその体を解放する。
// <0174> \{とも}「………」
<0174> \{Tomo}「………」
// <0175> 走り出すかと思いきや、ともは突っ立ったままでいた。
<0175> 走り出すかと思いきや、ともは突っ立ったままでいた。
// <0176> \{とも}「ママは?」
<0176> \{Tomo}「ママは?」
// <0177> 不意に俺を見てそう訊いた。
<0177> 不意に俺を見てそう訊いた。
// <0178> \{朋也}「いるだろ、あそこに」
<0178> \{Tomoya}「いるだろ、あそこに」
// <0179> \{とも}「ううん、パパのママ」
<0179> \{Tomo}「ううん、パパのママ」
// <0180> …智代のことを訊いているのか。
<0180> …智代のことを訊いているのか。
// <0181> \{朋也}「智代は…今はいない」
<0181> \{Tomoya}「智代は…今はいない」
// <0182> そう答えるしかなかった。
<0182> そう答えるしかなかった。
// <0183> \{とも}「そ…」
<0183> \{Tomo}「そ…」
// <0184> ともがうつむく。
<0184> ともがうつむく。
// <0185> ポケットから、ふたつのぬいぐるみを取り出した。
<0185> ポケットから、ふたつのぬいぐるみを取り出した。
// <0186> クマとパンダだった。
<0186> クマとパンダだった。
// <0187> そのクマのほうを俺に向けて差し出した。
<0187> そのクマのほうを俺に向けて差し出した。
// <0188> \{とも}「これ…ママの」
<0188> \{Tomo}「これ…ママの」
// <0189> \{とも}「こっちは、ともの」
<0189> \{Tomo}「こっちは、ともの」
// <0190> \{とも}「またいっしょにあそべるように」
<0190> \{Tomo}「またいっしょにあそべるように」
// <0191> \{朋也}「わかった。渡しておく」
<0191> \{Tomoya}「わかった。渡しておく」
// <0192> そのクマを受け取った。
<0192> そのクマを受け取った。
// <0193> ともが背中を向ける。
<0193> ともが背中を向ける。
// <0194> その途中で、動きを止めた。
<0194> その途中で、動きを止めた。
// <0195> 何かを驚いたように見ていた。
<0195> 何かを驚いたように見ていた。
// <0196> \{朋也}「どうした」
<0196> \{Tomoya}「どうした」
// <0197> \{とも}「クマさんだ」
<0197> \{Tomo}「クマさんだ」
// <0198> そう言った。
<0198> そう言った。
// <0199> 横を向く。遠く、木立を背に立っていた。
<0199> 横を向く。遠く、木立を背に立っていた。
// <0200> 手に黄色い輪を持って。
<0200> 手に黄色い輪を持って。
// <0201> いつから立っていたのか。
<0201> いつから立っていたのか。
// <0202> そして、いつまでそうしているつもりなのか。
<0202> そして、いつまでそうしているつもりなのか。
// <0203> 突っ立ったままでいた。
<0203> 突っ立ったままでいた。
// <0204> ともも、立ちつくしている。
<0204> ともも、立ちつくしている。
// <0205> ふたりの間には風だけが吹く。
<0205> ふたりの間には風だけが吹く。
// <0206> クマがうつむく。
<0206> クマがうつむく。
// <0207> またしばらくの時がすぎる。
<0207> またしばらくの時がすぎる。
// <0208> そして、顔を上げると同時、長い逡巡を振り切って、足を踏み出した。
<0208> そして、顔を上げると同時、長い逡巡を振り切って、足を踏み出した。
// <0209> ゆっくりとこちらに向けて。
<0209> ゆっくりとこちらに向けて。
// <0210> ともに向けて。
<0210> ともに向けて。
// <0211> クマはともの正面まで辿り着くと、手に携えたものを差し出した。
<0211> クマはともの正面まで辿り着くと、手に携えたものを差し出した。
// <0212> それは、立派な花飾りだった。
<0212> それは、立派な花飾りだった。
// <0213> 手作りだ。
<0213> 手作りだ。
// <0214> 今日まで、花畑でひとりで作ってきたのだろう。
<0214> 今日まで、花畑でひとりで作ってきたのだろう。
// <0215> 何もなかったこの村で。
<0215> 何もなかったこの村で。
// <0216> \{とも}「…くれるの?」
<0216> \{Tomo}「…くれるの?」
// <0217> こく、と頷く。
<0217> こく、と頷く。
// <0218> ともはそれを受け取ると、その美しさにわぁーと感嘆の声をあげた。
<0218> ともはそれを受け取ると、その美しさにわぁーと感嘆の声をあげた。
// <0219> クマが、ゆっくり背中を向ける。
<0219> クマが、ゆっくり背中を向ける。
// <0220> 帰っていく。
<0220> 帰っていく。
// <0221> \{朋也}「いいのか、それで」
<0221> \{Tomoya}「いいのか、それで」
// <0222> 俺は言った。
<0222> 俺は言った。
// <0223> \{朋也}「おまえがいない」
<0223> \{Tomoya}「おまえがいない」
// <0224> …私は…
<0224> …私は…
// <0225> …笑って見送ってやれないんだ…
<0225> …笑って見送ってやれないんだ…
// <0226> 智代の声。
<0226> 智代の声。
// <0227> \{朋也}「そんなことない」
<0227> \{Tomoya}「そんなことない」
// <0228> \{朋也}「ともと過ごしてきた時間を思えば…自然に笑えるよ」
<0228> \{Tomoya}「ともと過ごしてきた時間を思えば…自然に笑えるよ」
// <0229> \{朋也}「な、智代」
<0229> \{Tomoya}「な、智代」
// <0230> 俺は手に持っていたクマのぬいぐるみをその胸に押し込む。
<0230> 俺は手に持っていたクマのぬいぐるみをその胸に押し込む。
// <0231> 逡巡を振り切り…
<0231> 逡巡を振り切り…
// <0232> クマはそれを掴んで、小さく頷いてみせた。
<0232> クマはそれを掴んで、小さく頷いてみせた。
// <0233> 両手を頭に当て、頭部を持ち上げた。
<0233> 両手を頭に当て、頭部を持ち上げた。
// <0234> ばさりと長い髪が落ちた。
<0234> ばさりと長い髪が落ちた。
// <0235> \{とも}「ママっ」
<0235> \{Tomo}「ママっ」
// <0236> その呼びかけにゆっくりと振り返る。
<0236> その呼びかけにゆっくりと振り返る。
// <0237> 智代は笑っていた。
<0237> 智代は笑っていた。
// <0238> \{智代}「とも…」
<0238> \{Tomoyo}「とも…」
// <0239> \{智代}「これから、どんなことがあっても…」
<0239> \{Tomoyo}「これから、どんなことがあっても…」
// <0240> \{智代}「どんなつらいことがあっても…」
<0240> \{Tomoyo}「どんなつらいことがあっても…」
// <0241> \{智代}「私はのりこえてみせるから…」
<0241> \{Tomoyo}「私はのりこえてみせるから…」
// <0242> \{智代}「だからともも…」
<0242> \{Tomoyo}「だからともも…」
// <0243> \{智代}「がんばるんだぞ…」
<0243> \{Tomoyo}「がんばるんだぞ…」
// <0244> \{とも}「うん」
<0244> \{Tomo}「うん」
// <0245> 力強く、ともは頷いてみせた。
<0245> 力強く、ともは頷いてみせた。
// <0246> \{智代}「どっちがつよくなれるか、競争だな…」
<0246> \{Tomoyo}「どっちがつよくなれるか、競争だな…」
// <0247> \{智代}「まけないぞ…」
<0247> \{Tomoyo}「まけないぞ…」
// <0248> \{とも}「うん」
<0248> \{Tomo}「うん」
// <0249> \{智代}「………」
<0249> \{Tomoyo}「………」
// <0250> \{智代}「とも…」
<0250> \{Tomoyo}「とも…」
// <0251> \{とも}「うん」
<0251> \{Tomo}「うん」
// <0252> \{智代}「大好きなとも…」
<0252> \{Tomoyo}「大好きなとも…」
// <0253> \{とも}「うん」
<0253> \{Tomo}「うん」
// <0254> \{智代}「元気で…」
<0254> \{Tomoyo}「元気で…」
// <0255> \{とも}「うん」
<0255> \{Tomo}「うん」
// <0256> \{智代}「いつまでも元気で…」
<0256> \{Tomoyo}「いつまでも元気で…」
// <0257> \{とも}「うん」
<0257> \{Tomo}「うん」
// <0258> ………。
<0258> ………。
// <0259> 別れの言葉を伝えきった。
<0259> 別れの言葉を伝えきった。
// <0260> もう智代は何も言わない。
<0260> もう智代は何も言わない。
// <0261> もう見送るだけだった。
<0261> もう見送るだけだった。
// <0262> ともは、最後にもう一度頷いた後…
<0262> ともは、最後にもう一度頷いた後…
// <0263> 駆け出した。
<0263> 駆け出した。
// <0264> 母親の元へ向けて。
<0264> 母親の元へ向けて。
// <0265> ともは今日から強くなるんだろう。
<0265> ともは今日から強くなるんだろう。
// <0266> そう思う。
<0266> そう思う。
// <0267> そして、同じスタートラインに立った智代も。
<0267> そして、同じスタートラインに立った智代も。