// Resources for SEEN5002.TXT
// #character '智代'
#character 'Tomoyo'
// #character '朋也'
#character 'Tomoya'
// <0000> アフター3日目
<0000> After - Day 3
// <0001> 次の日も、午後になってから同じように学校へ向かった。
<0001> 次の日も、午後になってから同じように学校へ向かった。
// <0002> 授業中の校内は静かで、おれたちが廊下で話している声が教室の中まで聞こえるのではないかと、思ってしまう。
<0002> 授業中の校内は静かで、おれたちが廊下で話している声が教室の中まで聞こえるのではないかと、思ってしまう。
// <0003> 智代は、昨日に引き続き、おれたちが出会った頃の話をしてくれた。
<0003> 智代は、昨日に引き続き、おれたちが出会った頃の話をしてくれた。
// <0004> \{智代}「おまえはどうしてか話しやすかった」
<0004> \{Tomoyo}「おまえはどうしてか話しやすかった」
// <0005> \{智代}「私は編入してきたばかりでクラスの友達はすぐにできたが、まだどこか互いに遠慮をしていた頃だ」
<0005> \{Tomoyo}「私は編入してきたばかりでクラスの友達はすぐにできたが、まだどこか互いに遠慮をしていた頃だ」
// <0006> \{智代}「思えば、おまえもそして春原も、素の自分を私にそのままさらしていたんだろうな。出会ったばかりにも関わらず」
<0006> \{Tomoyo}「思えば、おまえもそして春原も、素の自分を私にそのままさらしていたんだろうな。出会ったばかりにも関わらず」
// <0007> \{朋也}「春原って奴の素はそれか…嫌だな」
<0007> \{Tomoya}「春原って奴の素はそれか…嫌だな」
// <0008> \{智代}「それは違いない」
<0008> \{Tomoyo}「それは違いない」
// <0009> 智代が笑ってから、ぽつりと付け足す。
<0009> 智代が笑ってから、ぽつりと付け足す。
// <0010> \{智代}「似たもの同士だったんだ」
<0010> \{Tomoyo}「似たもの同士だったんだ」
// <0011> \{朋也}「…そうなのか」
<0011> \{Tomoya}「…そうなのか」
// <0012> \{智代}「うん。私は以前の学校では、浮いていたからな」
<0012> \{Tomoyo}「うん。私は以前の学校では、浮いていたからな」
// <0013> \{智代}「周りと壁を作っていた」
<0013> \{Tomoyo}「周りと壁を作っていた」
// <0014> \{智代}「それはおまえたちも、同じだった」
<0014> \{Tomoyo}「それはおまえたちも、同じだった」
// <0015> おれや春原は、十分にありえそうな話だが…
<0015> おれや春原は、十分にありえそうな話だが…
// <0016> 智代ならば誰とでも上手くやっていけるように思えたから、それは意外な言葉だった。
<0016> 智代ならば誰とでも上手くやっていけるように思えたから、それは意外な言葉だった。
// <0017> \{智代}「私も朋也も、そこを互いに感じ取ったのかもな」
<0017> \{Tomoyo}「私も朋也も、そこを互いに感じ取ったのかもな」
// <0018> 半ば独り言のように呟いた。
<0018> 半ば独り言のように呟いた。
// <0019> 言葉の真意はわからなかった。
<0019> 言葉の真意はわからなかった。
// <0020> が、そんな智代はどこか寂しそうに見えた。
<0020> が、そんな智代はどこか寂しそうに見えた。
// <0021> 授業を終えた生徒たちを避けて、外に出る。
<0021> 授業を終えた生徒たちを避けて、外に出る。
// <0022> 今日もいい天気だ。
<0022> 今日もいい天気だ。
// <0023> 九月も終わりに近ければ、照りつけるような陽射しとは言わないが、まだ少し汗ばむような暖かさが残っている。
<0023> 九月も終わりに近ければ、照りつけるような陽射しとは言わないが、まだ少し汗ばむような暖かさが残っている。
// <0024> そんな天気に誘われて、体を動かしてみたくなった。
<0024> そんな天気に誘われて、体を動かしてみたくなった。
// <0025> 放課後のグラウンドは、今日は部活が休みなのか、ちょうど空いている。
<0025> 放課後のグラウンドは、今日は部活が休みなのか、ちょうど空いている。
// <0026> 残っているのはわずかな人数だけだ。
<0026> 残っているのはわずかな人数だけだ。
// <0027> おれひとりくらいが、ちょっとバスケのゴールを借りたところで問題はないだろう。
<0027> おれひとりくらいが、ちょっとバスケのゴールを借りたところで問題はないだろう。
// <0028> \{智代}「朋也、なにをする気だ」
<0028> \{Tomoyo}「朋也、なにをする気だ」
// <0029> \{朋也}「ちょっと、バスケをするだけだ」
<0029> \{Tomoya}「ちょっと、バスケをするだけだ」
// <0030> \{智代}「なっ、だめだ」
<0030> \{Tomoyo}「なっ、だめだ」
// <0031> 慌てるように智代が止める。
<0031> 慌てるように智代が止める。
// <0032> \{朋也}「どうして。別に試合をしようってわけじゃない。少し体を動かすだけだ」
<0032> \{Tomoya}「どうして。別に試合をしようってわけじゃない。少し体を動かすだけだ」
// <0033> \{朋也}「しばらくやらないと体もなまるからな」
<0033> \{Tomoya}「しばらくやらないと体もなまるからな」
// <0034> \{朋也}「いくら記憶喪失でも、バスケのやり方くらいは覚えてる」
<0034> \{Tomoya}「いくら記憶喪失でも、バスケのやり方くらいは覚えてる」
// <0035> \{智代}「………」
<0035> \{Tomoyo}「………」
// <0036> \{朋也}「今、グラウンドは使っていないみたいだし、ちょっとくらいはいいだろ」
<0036> \{Tomoya}「今、グラウンドは使っていないみたいだし、ちょっとくらいはいいだろ」
// <0037> まだ智代が何か言おうとしているのを無視して、おれはグラウンドに出る。
<0037> まだ智代が何か言おうとしているのを無視して、おれはグラウンドに出る。
// <0038> 片隅に設けられたバスケのゴールの下に、片付け忘れたボールがひとつ転がっていた。
<0038> 片隅に設けられたバスケのゴールの下に、片付け忘れたボールがひとつ転がっていた。
// <0039> それを拾い上げる。
<0039> それを拾い上げる。
// <0040> …不意に違和感。肩に軽い痛みが走った。
<0040> …不意に違和感。肩に軽い痛みが走った。
// <0041> しばらく使っていなかったから、肩が慣れていないのだろう。
<0041> しばらく使っていなかったから、肩が慣れていないのだろう。
// <0042> 気にも止めなかった。
<0042> 気にも止めなかった。
// <0043> いつの間にか、智代が隣にいた。
<0043> いつの間にか、智代が隣にいた。
// <0044> 黙ったまま、おれを見ていた。
<0044> 黙ったまま、おれを見ていた。
// <0045> \{朋也}「どうした?」
<0045> \{Tomoya}「どうした?」
// <0046> さっきはやめさせようとしていたみたいだったが。
<0046> さっきはやめさせようとしていたみたいだったが。
// <0047> \{智代}「うん。いや…いい」
<0047> \{Tomoyo}「うん。いや…いい」
// <0048> \{智代}「やらないのか」
<0048> \{Tomoyo}「やらないのか」
// <0049> \{朋也}「ああ、やってやるよ」
<0049> \{Tomoya}「ああ、やってやるよ」
// <0050> \{朋也}「こう見えても、おれはバスケが得意なんだ」
<0050> \{Tomoya}「こう見えても、おれはバスケが得意なんだ」
// <0051> \{朋也}「そんなことくらい知ってるか」
<0051> \{Tomoya}「そんなことくらい知ってるか」
// <0052> \{智代}「………」
<0052> \{Tomoyo}「………」
// <0053> まずは軽くシュートを決めよう。
<0053> まずは軽くシュートを決めよう。
// <0054> ゴールから少し離れた位置に立ち、頭上を見上げる。
<0054> ゴールから少し離れた位置に立ち、頭上を見上げる。
// <0055> 右手でボールを弾ませる。
<0055> 右手でボールを弾ませる。
// <0056> リズムをつける。
<0056> リズムをつける。
// <0057> 三回、四回、五回。
<0057> 三回、四回、五回。
// <0058> 右手に向かって跳ねてきたボールに左手も添える。
<0058> 右手に向かって跳ねてきたボールに左手も添える。
// <0059> 両の手で掴んで、両足を曲げ、体をばねにする。
<0059> 両の手で掴んで、両足を曲げ、体をばねにする。
// <0060> そのままの勢いで、ボールをゴールに向かって投げる。
<0060> そのままの勢いで、ボールをゴールに向かって投げる。
// <0061> 簡単なことだ。
<0061> 簡単なことだ。
// <0062> 何百回と繰り返してきた基本動作。
<0062> 何百回と繰り返してきた基本動作。
// <0063> その時もボールはネットをくぐるはずだった。
<0063> その時もボールはネットをくぐるはずだった。
// <0064> しかし…
<0064> しかし…
// <0065> 両手を高く差し出そうとした瞬間、右肩に激痛。
<0065> 両手を高く差し出そうとした瞬間、右肩に激痛。
// <0066> 耐え切れない痛みだった。
<0066> 耐え切れない痛みだった。
// <0067> 肩が外れてしまいそうな、そんな痛みだ。
<0067> 肩が外れてしまいそうな、そんな痛みだ。
// <0068> おれが投げようとしたボールは力なく地面に転がった。
<0068> おれが投げようとしたボールは力なく地面に転がった。
// <0069> 目でそのボールを追いながら、おれは呟く。
<0069> 目でそのボールを追いながら、おれは呟く。
// <0070> \{朋也}「なんだよ」
<0070> \{Tomoya}「なんだよ」
// <0071> \{朋也}「いったい、なんなんだよっ、これはっ」
<0071> \{Tomoya}「いったい、なんなんだよっ、これはっ」
// <0072> \{朋也}「なあ、智代…おれの肩はどうなってるんだっ」
<0072> \{Tomoya}「なあ、智代…おれの肩はどうなってるんだっ」
// <0073> こんな肩でバスケができるのか。
<0073> こんな肩でバスケができるのか。
// <0074> この痛みは記憶喪失と何か関係があるのか。
<0074> この痛みは記憶喪失と何か関係があるのか。
// <0075> それとも、もっと以前からの……?
<0075> それとも、もっと以前からの……?
// <0076> 智代はこれを知っていたのか。
<0076> 智代はこれを知っていたのか。
// <0077> だから、止めようとしたのか。
<0077> だから、止めようとしたのか。
// <0078> \{智代}「朋也、おまえはバスケをやっていない」
<0078> \{Tomoyo}「朋也、おまえはバスケをやっていない」
// <0079> \{智代}「バスケ部には入らなかったんだ」
<0079> \{Tomoyo}「バスケ部には入らなかったんだ」
// <0080> \{智代}「その怪我のせいで、おまえは三年間、一度もバスケをしていない」
<0080> \{Tomoyo}「その怪我のせいで、おまえは三年間、一度もバスケをしていない」
// <0081> そう告げた。
<0081> そう告げた。
// <0082> \{朋也}「どうして」
<0082> \{Tomoya}「どうして」
// <0083> ショックだった。
<0083> ショックだった。
// <0084> 自分が記憶喪失だと知ったときよりも、衝撃的だった。
<0084> 自分が記憶喪失だと知ったときよりも、衝撃的だった。
// <0085> \{朋也}「どうして、おれはこんな怪我をしたんだ?」
<0085> \{Tomoya}「どうして、おれはこんな怪我をしたんだ?」
// <0086> \{智代}「………」
<0086> \{Tomoyo}「………」
// <0087> \{朋也}「智代も知らないのか…?」
<0087> \{Tomoya}「智代も知らないのか…?」
// <0088> \{智代}「………」
<0088> \{Tomoyo}「………」
// <0089> \{朋也}「知ってるなら、教えろよっ」
<0089> \{Tomoya}「知ってるなら、教えろよっ」
// <0090> 思わず、大声が出る。
<0090> 思わず、大声が出る。
// <0091> \{智代}「すまない」
<0091> \{Tomoyo}「すまない」
// <0092> \{朋也}「いや、こっちも言いすぎた…」
<0092> \{Tomoya}「いや、こっちも言いすぎた…」
// <0093> \{朋也}「なあ、だったらおれは三年間、何をしてたんだ?」
<0093> \{Tomoya}「なあ、だったらおれは三年間、何をしてたんだ?」
// <0094> \{朋也}「バスケをしてたから、推薦で入学できたはずだ」
<0094> \{Tomoya}「バスケをしてたから、推薦で入学できたはずだ」
// <0095> \{朋也}「そのバスケをしていないなんて…」
<0095> \{Tomoya}「そのバスケをしていないなんて…」
// <0096> \{智代}「私が聞いた話では、おまえは入学が決まった後、中学最後の試合で肩を痛めたらしい」
<0096> \{Tomoyo}「私が聞いた話では、おまえは入学が決まった後、中学最後の試合で肩を痛めたらしい」
// <0097> \{智代}「もう入学は決まっていたから、それを理由に取り消されることはなかったが…」
<0097> \{Tomoyo}「もう入学は決まっていたから、それを理由に取り消されることはなかったが…」
// <0098> \{智代}「結局、肩は治らないままだったようだ」
<0098> \{Tomoyo}「結局、肩は治らないままだったようだ」
// <0099> \{智代}「私と知り合ったとき、おまえはいわゆる不良だった」
<0099> \{Tomoyo}「私と知り合ったとき、おまえはいわゆる不良だった」
// <0100> \{智代}「授業はさぼる、遅刻はする、赤点は取る…」
<0100> \{Tomoyo}「授業はさぼる、遅刻はする、赤点は取る…」
// <0101> それは、確かに智代から以前に聞いた話だった。
<0101> それは、確かに智代から以前に聞いた話だった。
// <0102> しかし、今ではその意味はまったく異なってくる。
<0102> しかし、今ではその意味はまったく異なってくる。
// <0103> 授業の態度が多少悪くても、バスケで活躍しているものだと思っていた。
<0103> 授業の態度が多少悪くても、バスケで活躍しているものだと思っていた。
// <0104> \{朋也}「おれはそんな駄目なやつだったのか…」
<0104> \{Tomoya}「おれはそんな駄目なやつだったのか…」
// <0105> おれからバスケを取ったら…何が残るんだ。
<0105> おれからバスケを取ったら…何が残るんだ。
// <0106> \{智代}「そんなことはない。おまえはすごいやつだ」
<0106> \{Tomoyo}「そんなことはない。おまえはすごいやつだ」
// <0107> きっぱりと智代が言い切った。
<0107> きっぱりと智代が言い切った。
// <0108> \{智代}「駄目なやつだったら、私が好きになるわけがない」
<0108> \{Tomoyo}「駄目なやつだったら、私が好きになるわけがない」
// <0109> \{智代}「私が好きになったのだから、おまえは駄目なんかじゃない」
<0109> \{Tomoyo}「私が好きになったのだから、おまえは駄目なんかじゃない」
// <0110> \{智代}「朋也、おまえはいいやつだ」
<0110> \{Tomoyo}「朋也、おまえはいいやつだ」
// <0111> 言い聞かせるように、繰り返す。
<0111> 言い聞かせるように、繰り返す。
// <0112> \{智代}「確かにちょっとすけべだし、時々変なことを言うが…」
<0112> \{Tomoyo}「確かにちょっとすけべだし、時々変なことを言うが…」
// <0113> \{智代}「私には最高の恋人だ」
<0113> \{Tomoyo}「私には最高の恋人だ」
// <0114> \{智代}「私はおまえに何度助けられたか、わからない」
<0114> \{Tomoyo}「私はおまえに何度助けられたか、わからない」
// <0115> \{智代}「だから、今度は私がおまえを助ける番なんだ」
<0115> \{Tomoyo}「だから、今度は私がおまえを助ける番なんだ」
// <0116> 熱心に語る智代に、おれは何も言うことはできなかった。
<0116> 熱心に語る智代に、おれは何も言うことはできなかった。
// <0117> \{朋也}「…ありがとう」
<0117> \{Tomoya}「…ありがとう」
// <0118> それだけを告げた。
<0118> それだけを告げた。
// <0119> 本音を言えば、肩を痛めた理由を知りたかった。
<0119> 本音を言えば、肩を痛めた理由を知りたかった。
// <0120> 智代は本当はその理由を知っているのではないだろうか。
<0120> 智代は本当はその理由を知っているのではないだろうか。
// <0121> 知っていて、言わないのではないか。
<0121> 知っていて、言わないのではないか。
// <0122> そんな気がした。
<0122> そんな気がした。