// Resources for SEEN5003.TXT
// #character '朋也'
#character 'Tomoya'
// #character '智代'
#character 'Tomoyo'
// #character '少女'
#character 'Young lady'
// #character '小川'
#character 'Ogawa'
// #character '女生徒'
#character 'Female student'
// <0000> アフター4日目
<0000> After - Day 4
// <0001> \{朋也}「ふあ~…」
<0001> \{Tomoya}「ふあ~…」
// <0002> あくびが出た。
<0002> あくびが出た。
// <0003> \{智代}「なんだ、まだ眠いのか」
<0003> \{Tomoyo}「なんだ、まだ眠いのか」
// <0004> \{智代}「確かに、昨日までより少し早い時間だが、普通に学校に行くには、もう遅い時間だぞ」
<0004> \{Tomoyo}「確かに、昨日までより少し早い時間だが、普通に学校に行くには、もう遅い時間だぞ」
// <0005> 智代はくすりと笑う。
<0005> 智代はくすりと笑う。
// <0006> \{智代}「そういうところも変わっていないな」
<0006> \{Tomoyo}「そういうところも変わっていないな」
// <0007> \{智代}「私が起こしにいかなければ、いつまでも眠っていたからな」
<0007> \{Tomoyo}「私が起こしにいかなければ、いつまでも眠っていたからな」
// <0008> \{智代}「本当に仕方のないやつだな」
<0008> \{Tomoyo}「本当に仕方のないやつだな」
// <0009> 眠いのは仕方ない。
<0009> 眠いのは仕方ない。
// <0010> それは智代が思うような理由とは少し違っているだろう。
<0010> それは智代が思うような理由とは少し違っているだろう。
// <0011> 時間を変えれば、また学校の様子も違うと言って、その日は早めに家を出た。
<0011> 時間を変えれば、また学校の様子も違うと言って、その日は早めに家を出た。
// <0012> 変化があったほうが刺激にもなるだろう、と智代は言う。
<0012> 変化があったほうが刺激にもなるだろう、と智代は言う。
// <0013> そんなものより、俺にとってはふたりで過ごす夜のほうがよっぽど刺激的だ。
<0013> そんなものより、俺にとってはふたりで過ごす夜のほうがよっぽど刺激的だ。
// <0014> 智代には指一本触れていない。
<0014> 智代には指一本触れていない。
// <0015> 智代も初日の昼以外は、何もしてこようとしない。
<0015> 智代も初日の昼以外は、何もしてこようとしない。
// <0016> 女の子の寝息がすぐ隣に聞こえている状況で眠りに就かなければいけないのは、拷問に近い。
<0016> 女の子の寝息がすぐ隣に聞こえている状況で眠りに就かなければいけないのは、拷問に近い。
// <0017> 悶々としてしまう。
<0017> 悶々としてしまう。
// <0018> 寝不足になるのも、無理はない。
<0018> 寝不足になるのも、無理はない。
// <0019> そんなことを智代に言えるはずもなく、おれは黙っているしかなかった。
<0019> そんなことを智代に言えるはずもなく、おれは黙っているしかなかった。
// <0020> 周りは人の姿もなく、静かだった。
<0020> 周りは人の姿もなく、静かだった。
// <0021> 早めの時間といっても、登校時間に合わせるわけにもいかず、時計は10時を指している。
<0021> 早めの時間といっても、登校時間に合わせるわけにもいかず、時計は10時を指している。
// <0022> 智代の話では、おれはこの位の時間かもっと遅くに登校することが多かったらしい。
<0022> 智代の話では、おれはこの位の時間かもっと遅くに登校することが多かったらしい。
// <0023> \{智代}「おまえの家まで起こしに行くのは、なかなか楽しかった」
<0023> \{Tomoyo}「おまえの家まで起こしに行くのは、なかなか楽しかった」
// <0024> \{智代}「朋也の寝顔は可愛い」
<0024> \{Tomoyo}「朋也の寝顔は可愛い」
// <0025> \{朋也}「かわいい?」
<0025> \{Tomoya}「かわいい?」
// <0026> \{智代}「うん、そうだ。寝ているときは誰でも無防備だからな」
<0026> \{Tomoyo}「うん、そうだ。寝ているときは誰でも無防備だからな」
// <0027> \{智代}「今朝の朋也も可愛かったが、以前はもう少し子供っぽさが残っていたからな」
<0027> \{Tomoyo}「今朝の朋也も可愛かったが、以前はもう少し子供っぽさが残っていたからな」
// <0028> \{智代}「もっと可愛かったぞ」
<0028> \{Tomoyo}「もっと可愛かったぞ」
// <0029> 嬉しそうに智代が笑う。
<0029> 嬉しそうに智代が笑う。
// <0030> こういうときの智代の悪戯な笑みは、なんというか…
<0030> こういうときの智代の悪戯な笑みは、なんというか…
// <0031> \{朋也}「可愛い…」
<0031> \{Tomoya}「可愛い…」
// <0032> \{智代}「あまり言うと、男としては傷つくのかな。女ならばどれだけ言われても嬉しいものだが」
<0032> \{Tomoyo}「あまり言うと、男としては傷つくのかな。女ならばどれだけ言われても嬉しいものだが」
// <0033> \{朋也}「いや、智代も可愛いよ。十分に」
<0033> \{Tomoya}「いや、智代も可愛いよ。十分に」
// <0034> \{智代}「そ、そうか…ならいいんだ、うん」
<0034> \{Tomoyo}「そ、そうか…ならいいんだ、うん」
// <0035> おれをからかっているようでも、自分が言われるとすぐに照れてしまう。
<0035> おれをからかっているようでも、自分が言われるとすぐに照れてしまう。
// <0036> \{朋也}「…やっぱり、可愛い」
<0036> \{Tomoya}「…やっぱり、可愛い」
// <0037> ふたりで『可愛い』を繰り返しながら、学校に向かう。
<0037> ふたりで『可愛い』を繰り返しながら、学校に向かう。
// <0038> そばから見たら、変なカップルに違いない。
<0038> そばから見たら、変なカップルに違いない。
// <0039> 校門に近づく。
<0039> 校門に近づく。
// <0040> 最初にその姿に気づいたのは、智代だった。
<0040> 最初にその姿に気づいたのは、智代だった。
// <0041> \{智代}「うん? あの子は?」
<0041> \{Tomoyo}「うん? あの子は?」
// <0042> その声に釣られて、おれも校門の脇に立っている人影を見つけた。
<0042> その声に釣られて、おれも校門の脇に立っている人影を見つけた。
// <0043> \{智代}「遅刻か」
<0043> \{Tomoyo}「遅刻か」
// <0044> 立っていたのは女の子だ。
<0044> 立っていたのは女の子だ。
// <0045> 着ているのは、確かにこの学校の制服だ。
<0045> 着ているのは、確かにこの学校の制服だ。
// <0046> もう授業はとっくに始まっている時間。
<0046> もう授業はとっくに始まっている時間。
// <0047> 智代の言う通り、遅刻なのだろう。
<0047> 智代の言う通り、遅刻なのだろう。
// <0048> 少女は、校舎のほうを見上げていた。
<0048> 少女は、校舎のほうを見上げていた。
// <0049> 少し離れたところからしばらく見ていたが、動く様子がない。
<0049> 少し離れたところからしばらく見ていたが、動く様子がない。
// <0050> \{智代}「どうしたんだ。入らないのか?」
<0050> \{Tomoyo}「どうしたんだ。入らないのか?」
// <0051> 智代の足音と、声のどちらに早く気づいただろうか。
<0051> 智代の足音と、声のどちらに早く気づいただろうか。
// <0052> 不意をつかれたようで、少女の体がびくりと震えた。
<0052> 不意をつかれたようで、少女の体がびくりと震えた。
// <0053> 恐る恐る、こちらを向く。
<0053> 恐る恐る、こちらを向く。
// <0054> \{少女}「いえ、あの…そういうわけでは…」
<0054> \{Young lady}「いえ、あの…そういうわけでは…」
// <0055> \{智代}「遅刻はよくないな」
<0055> \{Tomoyo}「遅刻はよくないな」
// <0056> 突然現われた智代の正体が不審なのか、ただでさえ大人しそうな少女はおどおどしている。
<0056> 突然現われた智代の正体が不審なのか、ただでさえ大人しそうな少女はおどおどしている。
// <0057> \{智代}「さあ、早く入ろう」
<0057> \{Tomoyo}「さあ、早く入ろう」
// <0058> 智代が今にも、腕を引っ張ってでも少女を連れて行こうとする。
<0058> 智代が今にも、腕を引っ張ってでも少女を連れて行こうとする。
// <0059> \{朋也}「まあ、ちょっと待てよ」
<0059> \{Tomoya}「まあ、ちょっと待てよ」
// <0060> おれは止めに入る。
<0060> おれは止めに入る。
// <0061> \{朋也}「なんかわけがありそうだし、少し話を聞いてみてもいいんじゃないか」
<0061> \{Tomoya}「なんかわけがありそうだし、少し話を聞いてみてもいいんじゃないか」
// <0062> \{朋也}「それにどうせ、ここまできたらもう少しくらい遅れても同じことだろ」
<0062> \{Tomoya}「それにどうせ、ここまできたらもう少しくらい遅れても同じことだろ」
// <0063> \{朋也}「なあ?」
<0063> \{Tomoya}「なあ?」
// <0064> 少女に同意を求めると、ほっとしたような顔をした。
<0064> 少女に同意を求めると、ほっとしたような顔をした。
// <0065> \{智代}「まあ、朋也がそう言うのなら構わないが」
<0065> \{Tomoyo}「まあ、朋也がそう言うのなら構わないが」
// <0066> \{智代}「さすが、遅刻の大先輩だな」
<0066> \{Tomoyo}「さすが、遅刻の大先輩だな」
// <0067> その言葉がおかしかったのか、少女は微かに笑みを浮かべた。
<0067> その言葉がおかしかったのか、少女は微かに笑みを浮かべた。
// <0068> 制服を着ている智代と、私服のおれの組み合わせを、彼女がどう思っているかはわからない。
<0068> 制服を着ている智代と、私服のおれの組み合わせを、彼女がどう思っているかはわからない。
// <0069> ただ、少なくとも警戒している様子はなくなった。
<0069> ただ、少なくとも警戒している様子はなくなった。
// <0070> \{智代}「私は坂上という」
<0070> \{Tomoyo}「私は坂上という」
// <0071> \{少女}「小川です」
<0071> \{Young lady}「小川です」
// <0072> ふたりは自己紹介をし合った。
<0072> ふたりは自己紹介をし合った。
// <0073> \{小川}「久しぶりなんです」
<0073> \{Ogawa}「久しぶりなんです」
// <0074> \{智代}「うん?」
<0074> \{Tomoyo}「うん?」
// <0075> \{小川}「ここに来るのは、半年ぶりなんです」
<0075> \{Ogawa}「ここに来るのは、半年ぶりなんです」
// <0076> \{朋也}「学校にか」
<0076> \{Tomoya}「学校にか」
// <0077> \{小川}「はい。私、昔から体が弱くて。入学してから、すぐに入院してしまったんです」
<0077> \{Ogawa}「はい。私、昔から体が弱くて。入学してから、すぐに入院してしまったんです」
// <0078> \{小川}「夏休みが終わって、やっとよくなって。お医者さんに通学してもいいって言われました」
<0078> \{Ogawa}「夏休みが終わって、やっとよくなって。お医者さんに通学してもいいって言われました」
// <0079> \{小川}「昨日はお母さんと一緒に来ました。先生やクラスのみんなも喜んでくれました」
<0079> \{Ogawa}「昨日はお母さんと一緒に来ました。先生やクラスのみんなも喜んでくれました」
// <0080> \{智代}「それはよかったじゃないか」
<0080> \{Tomoyo}「それはよかったじゃないか」
// <0081> \{小川}「はい」
<0081> \{Ogawa}「はい」
// <0082> \{小川}「…でも、急にこわくなってしまって」
<0082> \{Ogawa}「…でも、急にこわくなってしまって」
// <0083> 少女の顔が陰る。
<0083> 少女の顔が陰る。
// <0084> \{小川}「家を出たときは、なんともなかったんです」
<0084> \{Ogawa}「家を出たときは、なんともなかったんです」
// <0085> \{小川}「今日はひとりで行きます、ってお母さんに言って出てきました。自分でも驚くくらいに元気よく、です」
<0085> \{Ogawa}「今日はひとりで行きます、ってお母さんに言って出てきました。自分でも驚くくらいに元気よく、です」
// <0086> \{小川}「それが、学校に近づくにつれて、すごく不安になってしまったんです」
<0086> \{Ogawa}「それが、学校に近づくにつれて、すごく不安になってしまったんです」
// <0087> \{小川}「先生もクラスのみんなも、ほとんど初めて会ったも同じような人たちばかりで…」
<0087> \{Ogawa}「先生もクラスのみんなも、ほとんど初めて会ったも同じような人たちばかりで…」
// <0088> \{小川}「学校に向かう途中でも、他の人たちはおしゃべりや挨拶をしてるのに、自分はひとりぼっち…」
<0088> \{Ogawa}「学校に向かう途中でも、他の人たちはおしゃべりや挨拶をしてるのに、自分はひとりぼっち…」
// <0089> \{小川}「昨日はお母さんと一緒だったから大丈夫だったけど…これからはずっとひとりなんだって」
<0089> \{Ogawa}「昨日はお母さんと一緒だったから大丈夫だったけど…これからはずっとひとりなんだって」
// <0090> \{小川}「そう思ったら…急に、すごくこわくなってしまったんです」
<0090> \{Ogawa}「そう思ったら…急に、すごくこわくなってしまったんです」
// <0091> \{智代}「それで、校門で立っていたのか」
<0091> \{Tomoyo}「それで、校門で立っていたのか」
// <0092> 智代の口調は、先ほどの咎めるようなものではなく、やわらかいものだ。
<0092> 智代の口調は、先ほどの咎めるようなものではなく、やわらかいものだ。
// <0093> \{小川}「…はい」
<0093> \{Ogawa}「…はい」
// <0094> \{小川}「迷っているうちに、どんどん時間が過ぎていって、ますます入りづらくなってしまいました」
<0094> \{Ogawa}「迷っているうちに、どんどん時間が過ぎていって、ますます入りづらくなってしまいました」
// <0095> \{智代}「遅刻になったら、ますます入りにくいだろう」
<0095> \{Tomoyo}「遅刻になったら、ますます入りにくいだろう」
// <0096> \{小川}「…それはわかっているんですが」
<0096> \{Ogawa}「…それはわかっているんですが」
// <0097> \{智代}「朋也」
<0097> \{Tomoyo}「朋也」
// <0098> 不意に名前を呼ぶ。
<0098> 不意に名前を呼ぶ。
// <0099> 智代の考えていることはわかるつもりだ。
<0099> 智代の考えていることはわかるつもりだ。
// <0100> それが少女にとって本当に良いことかどうかはわからない。
<0100> それが少女にとって本当に良いことかどうかはわからない。
// <0101> だが、智代ならば間違いなくそうするだろう。
<0101> だが、智代ならば間違いなくそうするだろう。
// <0102> それが坂上智代という人間なのだと、おれはこの数日でわかった気がする。
<0102> それが坂上智代という人間なのだと、おれはこの数日でわかった気がする。
// <0103> ああ、と頷きあって、互いの意思を確認した。
<0103> ああ、と頷きあって、互いの意思を確認した。
// <0104> 智代が左、おれが右。少女の脇に立つ。
<0104> 智代が左、おれが右。少女の脇に立つ。
// <0105> \{小川}「えっ?」
<0105> \{Ogawa}「えっ?」
// <0106> \{智代}「さあ、いくぞ」
<0106> \{Tomoyo}「さあ、いくぞ」
// <0107> おれは少女の右腕をつかむ。智代も同様に。
<0107> おれは少女の右腕をつかむ。智代も同様に。
// <0108> \{小川}「あ、あの…」
<0108> \{Ogawa}「あ、あの…」
// <0109> 戸惑う少女に構わず、引っ張っていく。
<0109> 戸惑う少女に構わず、引っ張っていく。
// <0110> \{智代}「やはり遅刻はよくないからな。今からでも行くべきだ」
<0110> \{Tomoyo}「やはり遅刻はよくないからな。今からでも行くべきだ」
// <0111> \{朋也}「まあ、行ってしまえばなんとでもなるさ」
<0111> \{Tomoya}「まあ、行ってしまえばなんとでもなるさ」
// <0112> \{小川}「は、はあ」
<0112> \{Ogawa}「は、はあ」
// <0113> 引きずられるようにして、少女は校門を通り抜ける。
<0113> 引きずられるようにして、少女は校門を通り抜ける。
// <0114> 最初はおれたちが連行しているみたいだったが、やがて彼女は自分の足で歩き始めた。
<0114> 最初はおれたちが連行しているみたいだったが、やがて彼女は自分の足で歩き始めた。
// <0115> \{小川}「私、大丈夫でしょうか…」
<0115> \{Ogawa}「私、大丈夫でしょうか…」
// <0116> 下駄箱を前に、ぽつりともらす。
<0116> 下駄箱を前に、ぽつりともらす。
// <0117> \{智代}「それはわからない」
<0117> \{Tomoyo}「それはわからない」
// <0118> その言葉に少女がうつむいてしまう。
<0118> その言葉に少女がうつむいてしまう。
// <0119> \{智代}「それは、おまえが決めることだと私は思う」
<0119> \{Tomoyo}「それは、おまえが決めることだと私は思う」
// <0120> \{智代}「ただひとつ言えるのは…」
<0120> \{Tomoyo}「ただひとつ言えるのは…」
// <0121> \{智代}「もし家に帰ってしまっていたら、二度と学校に行けなかったんじゃないだろうか」
<0121> \{Tomoyo}「もし家に帰ってしまっていたら、二度と学校に行けなかったんじゃないだろうか」
// <0122> \{智代}「あそこで逃げてしまったら、何も始まらない。それだけは確かだと思う」
<0122> \{Tomoyo}「あそこで逃げてしまったら、何も始まらない。それだけは確かだと思う」
// <0123> \{智代}「そうだな、朋也」
<0123> \{Tomoyo}「そうだな、朋也」
// <0124> \{朋也}「さあな。おれは遅刻の常習犯だったみたいだしな」
<0124> \{Tomoya}「さあな。おれは遅刻の常習犯だったみたいだしな」
// <0125> そう言うと、智代が苦笑いする。
<0125> そう言うと、智代が苦笑いする。
// <0126> \{朋也}「たまには遅刻するのもいいんじゃないか」
<0126> \{Tomoya}「たまには遅刻するのもいいんじゃないか」
// <0127> \{朋也}「案外、いつもの時間にいくとわからないことがわかったりするかもしれないぞ」
<0127> \{Tomoya}「案外、いつもの時間にいくとわからないことがわかったりするかもしれないぞ」
// <0128> \{智代}「おまえは遅刻ばかりしていたけどな」
<0128> \{Tomoyo}「おまえは遅刻ばかりしていたけどな」
// <0129> \{小川}「私は遅刻するもしないも、今日がほとんど初めてみたいなものですけどね」
<0129> \{Ogawa}「私は遅刻するもしないも、今日がほとんど初めてみたいなものですけどね」
// <0130> 彼女が笑うのと、その声が聞こえたのはほぼ同時だった。
<0130> 彼女が笑うのと、その声が聞こえたのはほぼ同時だった。
// <0131> \{女生徒}「あっ、小川さん」
<0131> \{Female student}「あっ、小川さん」
// <0132> 驚きと喜びが入り混じった声。
<0132> 驚きと喜びが入り混じった声。
// <0133> それは、ひとりの女子生徒の声だった。
<0133> それは、ひとりの女子生徒の声だった。
// <0134> \{小川}「えっ、えーと…」
<0134> \{Ogawa}「えっ、えーと…」
// <0135> 彼女は、その生徒のことがわからないようで、困った顔をしている。
<0135> 彼女は、その生徒のことがわからないようで、困った顔をしている。
// <0136> \{女生徒}「昨日、会ったばかりなんだけどな」
<0136> \{Female student}「昨日、会ったばかりなんだけどな」
// <0137> 女生徒が笑う。
<0137> 女生徒が笑う。
// <0138> \{小川}「あ、あの…ごめんなさい、わかんなくて」
<0138> \{Ogawa}「あ、あの…ごめんなさい、わかんなくて」
// <0139> \{女生徒}「ううん、それは仕方ないよ。それよりも、みんな心配していたんだよ」
<0139> \{Female student}「ううん、それは仕方ないよ。それよりも、みんな心配していたんだよ」
// <0140> \{小川}「えっ、どうして…」
<0140> \{Ogawa}「えっ、どうして…」
// <0141> \{女生徒}「もちろん、小川さんが学校に来てないからに決まってるでしょ?」
<0141> \{Female student}「もちろん、小川さんが学校に来てないからに決まってるでしょ?」
// <0142> \{女生徒}「先生が小川さんの家に電話したら、もう家を出ましたって言われたの」
<0142> \{Female student}「先生が小川さんの家に電話したら、もう家を出ましたって言われたの」
// <0143> \{女生徒}「だから、もしかして途中で倒れちゃったのかもしれないって」
<0143> \{Female student}「だから、もしかして途中で倒れちゃったのかもしれないって」
// <0144> \{女生徒}「先生も小川さんのお母さんも、私たちも心配になって」
<0144> \{Female student}「先生も小川さんのお母さんも、私たちも心配になって」
// <0145> \{女生徒}「とりあえず、クラス代表で私が探しにいくことになったの」
<0145> \{Female student}「とりあえず、クラス代表で私が探しにいくことになったの」
// <0146> \{女生徒}「先生は職員室で、そこら中の病院に電話をかけまくっているところよ」
<0146> \{Female student}「先生は職員室で、そこら中の病院に電話をかけまくっているところよ」
// <0147> \{女生徒}「無事に見つかって、本当によかった」
<0147> \{Female student}「無事に見つかって、本当によかった」
// <0148> ふーっと、と長い息を吐いた。
<0148> ふーっと、と長い息を吐いた。
// <0149> 言葉どおり、本当に安心しているようだ。
<0149> 言葉どおり、本当に安心しているようだ。
// <0150> 意地悪な見方をすれば、当てもなく外に探しに出る羽目にならなくて済んでほっとしている、ともとれる。
<0150> 意地悪な見方をすれば、当てもなく外に探しに出る羽目にならなくて済んでほっとしている、ともとれる。
// <0151> けど、彼女の表情は、心から小川さんのことを心配していたようにしか見えない。
<0151> けど、彼女の表情は、心から小川さんのことを心配していたようにしか見えない。
// <0152> どうして彼女はそんなふうに、名前しか知らなかったようなクラスメイトのために、心を砕けるのだろう。
<0152> どうして彼女はそんなふうに、名前しか知らなかったようなクラスメイトのために、心を砕けるのだろう。
// <0153> そこで、女生徒は初めておれたちに気づいたというふうにこちらを向く。
<0153> そこで、女生徒は初めておれたちに気づいたというふうにこちらを向く。
// <0154> \{女生徒}「あの、あなた方は?」
<0154> \{Female student}「あの、あなた方は?」
// <0155> \{智代}「小川さんの友達だ」
<0155> \{Tomoyo}「小川さんの友達だ」
// <0156> \{朋也}「通りがかりの正義の味方だ」
<0156> \{Tomoya}「通りがかりの正義の味方だ」
// <0157> \{女生徒}「そうなんですか。ここまで小川さんを連れてきてくださったんですね。ありがとうございます」
<0157> \{Female student}「そうなんですか。ここまで小川さんを連れてきてくださったんですね。ありがとうございます」
// <0158> そう言って、軽く頭を下げた。
<0158> そう言って、軽く頭を下げた。
// <0159> \{朋也}「よかったな」
<0159> \{Tomoya}「よかったな」
// <0160> おれは小川さんに向かって言う。
<0160> おれは小川さんに向かって言う。
// <0161> \{朋也}「あんたはひとりじゃないみたいだ」
<0161> \{Tomoya}「あんたはひとりじゃないみたいだ」
// <0162> \{小川}「はい」
<0162> \{Ogawa}「はい」
// <0163> 今日聞いた中で、一番大きな声で彼女は頷いた。
<0163> 今日聞いた中で、一番大きな声で彼女は頷いた。
// <0164> \{女生徒}「じゃあ、一緒に教室まで行きましょう」
<0164> \{Female student}「じゃあ、一緒に教室まで行きましょう」
// <0165> \{小川}「うん」
<0165> \{Ogawa}「うん」
// <0166> \{朋也}「ちょっと待ってくれ」
<0166> \{Tomoya}「ちょっと待ってくれ」
// <0167> なぜか呼び止めてしまった。
<0167> なぜか呼び止めてしまった。
// <0168> \{女生徒}「はい?」
<0168> \{Female student}「はい?」
// <0169> \{朋也}「いや…あんたはクラス委員か何かなのか?」
<0169> \{Tomoya}「いや…あんたはクラス委員か何かなのか?」
// <0170> \{女生徒}「私ですか。ええ、そうですが」
<0170> \{Female student}「私ですか。ええ、そうですが」
// <0171> \{朋也}「だから彼女を、小川さんを探しに出たのか? 教師に言われて」
<0171> \{Tomoya}「だから彼女を、小川さんを探しに出たのか? 教師に言われて」
// <0172> \{女生徒}「…確かにそうです」
<0172> \{Female student}「…確かにそうです」
// <0173> おれの質問の意味を探るように、ゆっくりと返事をする。
<0173> おれの質問の意味を探るように、ゆっくりと返事をする。
// <0174> おれ自身、どうしてこんなことを訊いているのかよくわからなかったが。
<0174> おれ自身、どうしてこんなことを訊いているのかよくわからなかったが。
// <0175> \{女生徒}「でも、小川さんのことが心配だったんです」
<0175> \{Female student}「でも、小川さんのことが心配だったんです」
// <0176> \{女生徒}「昨日見た小川さんは学校に来れて嬉しそうだったから、今日も絶対に来るに違いないって思ったんです」
<0176> \{Female student}「昨日見た小川さんは学校に来れて嬉しそうだったから、今日も絶対に来るに違いないって思ったんです」
// <0177> \{女生徒}「なのに、今日は来ていないから、どうしたんだろうって心配していたんです」
<0177> \{Female student}「なのに、今日は来ていないから、どうしたんだろうって心配していたんです」
// <0178> \{女生徒}「だから、先生から話を聞いたとき、私はすぐに行きますって返事をしました」
<0178> \{Female student}「だから、先生から話を聞いたとき、私はすぐに行きますって返事をしました」
// <0179> どこか必死に訴えかける。
<0179> どこか必死に訴えかける。
// <0180> \{朋也}「…いや、悪かった。別にあんたを責めてるわけじゃないんだ」
<0180> \{Tomoya}「…いや、悪かった。別にあんたを責めてるわけじゃないんだ」
// <0181> \{朋也}「ただ、どうしてほとんど繋がりのないクラスメイトにそこまで関われるんだろうって思っただけなんだ」
<0181> \{Tomoya}「ただ、どうしてほとんど繋がりのないクラスメイトにそこまで関われるんだろうって思っただけなんだ」
// <0182> 女生徒は少しぽかんとした顔をしてから…
<0182> 女生徒は少しぽかんとした顔をしてから…
// <0183> \{女生徒}「でも…あなた方もそうじゃないですか」
<0183> \{Female student}「でも…あなた方もそうじゃないですか」
// <0184> そう笑った。
<0184> そう笑った。
// <0185> \{朋也}「…そうだったな」
<0185> \{Tomoya}「…そうだったな」
// <0186> \{女生徒}「この学校には伝説の生徒会長がいるんですよ」
<0186> \{Female student}「この学校には伝説の生徒会長がいるんですよ」
// <0187> \{女生徒}「私の憧れなんです」
<0187> \{Female student}「私の憧れなんです」
// <0188> \{女生徒}「文武にすぐれて人情に厚くて、生徒からすごい人気があったらしいんです」
<0188> \{Female student}「文武にすぐれて人情に厚くて、生徒からすごい人気があったらしいんです」
// <0189> \{女生徒}「だから、少しでもそういうふうになれたらいいなあって思ってるんです」
<0189> \{Female student}「だから、少しでもそういうふうになれたらいいなあって思ってるんです」
// <0190> \{智代}「あっ、ああ。その話なら私も知っているぞ」
<0190> \{Tomoyo}「あっ、ああ。その話なら私も知っているぞ」
// <0191> それまで黙って話を聞いていた智代が口をはさむ。
<0191> それまで黙って話を聞いていた智代が口をはさむ。
// <0192> \{智代}「ずいぶんと前の人らしいな」
<0192> \{Tomoyo}「ずいぶんと前の人らしいな」
// <0193> \{女生徒}「そうなんですか? そんなに古い話ではなかったはずですが…」
<0193> \{Female student}「そうなんですか? そんなに古い話ではなかったはずですが…」
// <0194> 彼女が首を傾げた時、チャイムが鳴った。
<0194> 彼女が首を傾げた時、チャイムが鳴った。
// <0195> \{智代}「ほら、次の授業がはじまってしまうぞ」
<0195> \{Tomoyo}「ほら、次の授業がはじまってしまうぞ」
// <0196> \{女生徒}「あ、はい。では、いきますね」
<0196> \{Female student}「あ、はい。では、いきますね」
// <0197> \{小川}「あの、ありがとうございました」
<0197> \{Ogawa}「あの、ありがとうございました」
// <0198> \{朋也}「しっかりな」
<0198> \{Tomoya}「しっかりな」
// <0199> ふたりはお辞儀をしながら、廊下の先に歩いていった。
<0199> ふたりはお辞儀をしながら、廊下の先に歩いていった。
// <0200> しばらくふたりで顔を見合わせていた。
<0200> しばらくふたりで顔を見合わせていた。
// <0201> 先に口を開いたのは、智代だった。
<0201> 先に口を開いたのは、智代だった。
// <0202> \{智代}「朋也も、相当おせっかいだな」
<0202> \{Tomoyo}「朋也も、相当おせっかいだな」
// <0203> \{智代}「いや、おまえらしいかな」
<0203> \{Tomoyo}「いや、おまえらしいかな」
// <0204> \{朋也}「そうかな」
<0204> \{Tomoya}「そうかな」
// <0205> \{智代}「うん、そうだな。もっとも、朋也が優しいのは女の子ばかりなんだけどな」
<0205> \{Tomoyo}「うん、そうだな。もっとも、朋也が優しいのは女の子ばかりなんだけどな」
// <0206> そう言って、智代がふくれっ面をしてみせた。
<0206> そう言って、智代がふくれっ面をしてみせた。
// <0207> \{朋也}「なっ…」
<0207> \{Tomoya}「なっ…」
// <0208> 可愛いと、思ってしまった。
<0208> 可愛いと、思ってしまった。
// <0209> \{朋也}「いや、そんなつもりじゃ…」
<0209> \{Tomoya}「いや、そんなつもりじゃ…」
// <0210> \{朋也}「ただ、あの子のことはどうしてか気になったんだ」
<0210> \{Tomoya}「ただ、あの子のことはどうしてか気になったんだ」
// <0211> 校門の前で、たたずんでいる少女。
<0211> 校門の前で、たたずんでいる少女。
// <0212> その構図がなぜか、気になった。
<0212> その構図がなぜか、気になった。
// <0213> もしかして、おれの記憶と関係があるのだろうか。
<0213> もしかして、おれの記憶と関係があるのだろうか。
// <0214> 智代にそう言うと、少し寂しそうな顔をした。
<0214> 智代にそう言うと、少し寂しそうな顔をした。
// <0215> \{智代}「うん、わかっている…朋也はそういう奴だ」
<0215> \{Tomoyo}「うん、わかっている…朋也はそういう奴だ」
// <0216> \{智代}「…変わらないな。たとえ記憶がなくても、朋也は朋也だ」
<0216> \{Tomoyo}「…変わらないな。たとえ記憶がなくても、朋也は朋也だ」
// <0217> \{朋也}「そう言えば、あの子が言っていた伝説の生徒会長ってなんだろう」
<0217> \{Tomoya}「そう言えば、あの子が言っていた伝説の生徒会長ってなんだろう」
// <0218> \{智代}「………」
<0218> \{Tomoyo}「………」
// <0219> \{智代}「…多分、美佐枝さんのことだろう」
<0219> \{Tomoyo}「…多分、美佐枝さんのことだろう」
// <0220> \{朋也}「みさえさん?」
<0220> \{Tomoya}「みさえさん?」
// <0221> \{智代}「うん、そうだ。伝説の生徒会長だ。全校生徒の遅刻をやめさせたりしたんだ」
<0221> \{Tomoyo}「うん、そうだ。伝説の生徒会長だ。全校生徒の遅刻をやめさせたりしたんだ」
// <0222> \{智代}「色々と逸話のある、とても素敵な人だぞ。朋也も面識がある」
<0222> \{Tomoyo}「色々と逸話のある、とても素敵な人だぞ。朋也も面識がある」
// <0223> \{朋也}「おれが? その生徒会長と?」
<0223> \{Tomoya}「おれが? その生徒会長と?」
// <0224> \{智代}「もちろん、生徒会長だったのは昔の話だ。今は寮母さんをやっている」
<0224> \{Tomoyo}「もちろん、生徒会長だったのは昔の話だ。今は寮母さんをやっている」
// <0225> 寮母という言葉にぴんと来なかったが、訊けば男子寮の管理人だと言う。
<0225> 寮母という言葉にぴんと来なかったが、訊けば男子寮の管理人だと言う。
// <0226> \{智代}「おまえや春原はよく怒られていたな」
<0226> \{Tomoyo}「おまえや春原はよく怒られていたな」
// <0227> \{朋也}「…また春原か」
<0227> \{Tomoya}「…また春原か」
// <0228> \{智代}「あいつは寮に住んでいたからな。朋也もよく遊びにいっていた」
<0228> \{Tomoyo}「あいつは寮に住んでいたからな。朋也もよく遊びにいっていた」
// <0229> それから、懐かしいな、とぽつりと付け加えた。
<0229> それから、懐かしいな、とぽつりと付け加えた。
// <0230> \{朋也}「行ってみようか」
<0230> \{Tomoya}「行ってみようか」
// <0231> \{智代}「…今からか?」
<0231> \{Tomoyo}「…今からか?」
// <0232> \{朋也}「ああ。いつも学校ばかりでも飽きるからな」
<0232> \{Tomoya}「ああ。いつも学校ばかりでも飽きるからな」
// <0233> \{朋也}「学校の方はいいのか?」
<0233> \{Tomoya}「学校の方はいいのか?」
// <0234> おれの記憶を取り戻すためにも、学校に足を運んでいるわけだし。
<0234> おれの記憶を取り戻すためにも、学校に足を運んでいるわけだし。
// <0235> それだけじゃない。
<0235> それだけじゃない。
// <0236> 智代はいつも制服を着て学校に来ているが、授業を受けている様子がない。
<0236> 智代はいつも制服を着て学校に来ているが、授業を受けている様子がない。
// <0237> たまに教師とすれ違っても、あちらも何も言わないようだ。
<0237> たまに教師とすれ違っても、あちらも何も言わないようだ。
// <0238> おれのために時間を割いていることを、学校側も承知しているということだろうか。
<0238> おれのために時間を割いていることを、学校側も承知しているということだろうか。
// <0239> そのあたりのことを訊いても、智代はいつもはぐらかしてしまう。
<0239> そのあたりのことを訊いても、智代はいつもはぐらかしてしまう。
// <0240> おれの負担になると思っているのだろう。
<0240> おれの負担になると思っているのだろう。
// <0241> \{智代}「それはかまわないが…」
<0241> \{Tomoyo}「それはかまわないが…」
// <0242> \{智代}「美佐枝さんは、この時間はいないかもしれない」
<0242> \{Tomoyo}「美佐枝さんは、この時間はいないかもしれない」
// <0243> \{朋也}「それならそれで仕方ない。たまには別の場所もいいだろ?」
<0243> \{Tomoya}「それならそれで仕方ない。たまには別の場所もいいだろ?」
// <0244> \{朋也}「今朝、違う時間に行ったらいつもと違うことがあったように、いつもと違う場所に行けば、また何かあるかもしれない」
<0244> \{Tomoya}「今朝、違う時間に行ったらいつもと違うことがあったように、いつもと違う場所に行けば、また何かあるかもしれない」
// <0245> \{智代}「…そうだな」
<0245> \{Tomoyo}「…そうだな」
// <0246> \{智代}「私も久しぶりに来るな」
<0246> \{Tomoyo}「私も久しぶりに来るな」
// <0247> \{智代}「どうだ? 見覚えはあるか?」
<0247> \{Tomoyo}「どうだ? 見覚えはあるか?」
// <0248> \{朋也}「………」
<0248> \{Tomoya}「………」
// <0249> 首を横に振った。
<0249> 首を横に振った。
// <0250> よく遊びに来ていたというが、特に思い出せることはない。
<0250> よく遊びに来ていたというが、特に思い出せることはない。
// <0251> 智代に連れられてきた男子寮は、古ぼけた建物だった。
<0251> 智代に連れられてきた男子寮は、古ぼけた建物だった。
// <0252> おれが暮らしているアパートとそんなに大差ないだろう。
<0252> おれが暮らしているアパートとそんなに大差ないだろう。
// <0253> …そのくらいの印象しかない。
<0253> …そのくらいの印象しかない。
// <0254> 寮を訪ねたが、誰もいなかった。
<0254> 寮を訪ねたが、誰もいなかった。
// <0255> そもそも、鍵がかかって入れなかった。
<0255> そもそも、鍵がかかって入れなかった。
// <0256> 授業中だから、生徒がいないのは当然だが。
<0256> 授業中だから、生徒がいないのは当然だが。
// <0257> \{智代}「やはり美佐枝さんは出かけているみたいだな」
<0257> \{Tomoyo}「やはり美佐枝さんは出かけているみたいだな」
// <0258> \{朋也}「まあ、突然来たからな。いなくても仕方ないだろう」
<0258> \{Tomoya}「まあ、突然来たからな。いなくても仕方ないだろう」
// <0259> \{智代}「うん、そうだな」
<0259> \{Tomoyo}「うん、そうだな」
// <0260> \{智代}「どうせなら、久しぶりに会いたかったな…」
<0260> \{Tomoyo}「どうせなら、久しぶりに会いたかったな…」
// <0261> \{朋也}「まあ、せっかく来たんだから。少しぶらぶらしてみるか」
<0261> \{Tomoya}「まあ、せっかく来たんだから。少しぶらぶらしてみるか」
// <0262> 寮の周りをぐるぐると歩いてみる。
<0262> 寮の周りをぐるぐると歩いてみる。
// <0263> よく見てみても、やはりその寮はところどころひびが入っていて、築何年だろうと思わせる古い建物でしかなかった。
<0263> よく見てみても、やはりその寮はところどころひびが入っていて、築何年だろうと思わせる古い建物でしかなかった。
// <0264> 自分が住んでいるアパートや三年間通った学校、そしてずっと恋人だったという女の子といても思い出せないのだから、男子寮を見たくらいで思い出せないのも当然だった。
<0264> 自分が住んでいるアパートや三年間通った学校、そしてずっと恋人だったという女の子といても思い出せないのだから、男子寮を見たくらいで思い出せないのも当然だった。
// <0265> \{智代}「春原を起こしにきたり、美佐枝さんに会いにきたり、私たちはここによく来たんだ」
<0265> \{Tomoyo}「春原を起こしにきたり、美佐枝さんに会いにきたり、私たちはここによく来たんだ」
// <0266> \{朋也}「どうして春原まで?」
<0266> \{Tomoya}「どうして春原まで?」
// <0267> \{智代}「おまえを起こすついでだ」
<0267> \{Tomoyo}「おまえを起こすついでだ」
// <0268> \{智代}「それに、私の知り合いに遅刻するやつがいるのは許せないからな」
<0268> \{Tomoyo}「それに、私の知り合いに遅刻するやつがいるのは許せないからな」
// <0269> \{朋也}「どうしてそんなに遅刻にこだわるんだ」
<0269> \{Tomoya}「どうしてそんなに遅刻にこだわるんだ」
// <0270> 自分で訊いてから、さきほどの話を思い出す。
<0270> 自分で訊いてから、さきほどの話を思い出す。
// <0271> \{朋也}「そう言えば、美佐枝さんは全校生徒の遅刻をやめさせたって話だったな」
<0271> \{Tomoya}「そう言えば、美佐枝さんは全校生徒の遅刻をやめさせたって話だったな」
// <0272> \{朋也}「それと何か関係あるのか?」
<0272> \{Tomoya}「それと何か関係あるのか?」
// <0273> \{智代}「うん?」
<0273> \{Tomoyo}「うん?」
// <0274> \{智代}「…そうだな。美佐枝さんは私の憧れだからな」
<0274> \{Tomoyo}「…そうだな。美佐枝さんは私の憧れだからな」
// <0275> \{智代}「真似をしていた、というか。負けたくなかったというのはあるかもしれないな」
<0275> \{Tomoyo}「真似をしていた、というか。負けたくなかったというのはあるかもしれないな」
// <0276> \{智代}「及ばなくとも、挑戦したいという気持ちだ」
<0276> \{Tomoyo}「及ばなくとも、挑戦したいという気持ちだ」
// <0277> \{智代}「少なくとも、私の周りの人だけでも、遅刻は許さないと思うのは当然だろう?」
<0277> \{Tomoyo}「少なくとも、私の周りの人だけでも、遅刻は許さないと思うのは当然だろう?」
// <0278> …当然なのか?
<0278> …当然なのか?
// <0279> よくわからないが。
<0279> よくわからないが。
// <0280> ただ、智代の真っ直ぐな物言いが自分にとって心地よいことはわかった。
<0280> ただ、智代の真っ直ぐな物言いが自分にとって心地よいことはわかった。
// <0281> きっと、以前のおれはこんなところに惚れたんだろうと思った。
<0281> きっと、以前のおれはこんなところに惚れたんだろうと思った。
// <0282> そして、今のおれも、また。
<0282> そして、今のおれも、また。
// <0283> そんな彼女の態度を好ましく思っていることに気づく。
<0283> そんな彼女の態度を好ましく思っていることに気づく。
// <0284> 以前のおれと、今のおれは記憶こそ途切れてしまっているが、同じ『岡崎朋也』に違いないのだから。
<0284> 以前のおれと、今のおれは記憶こそ途切れてしまっているが、同じ『岡崎朋也』に違いないのだから。