// Resources for SEEN5006.TXT
// #character '朋也'
#character 'Tomoya'
// #character '智代'
#character 'Tomoyo'
// #character 'とも'
#character 'Tomo'
// #character '少女'
#character 'Young lady'
// <0000> アフター7日目
<0000> After - Day 7
// <0001> 土曜日。
<0001> 土曜日。
// <0002> おれの目が覚めたのが日曜日だったから、そろそろ一週間が経とうとしている。
<0002> おれの目が覚めたのが日曜日だったから、そろそろ一週間が経とうとしている。
// <0003> これまでのところ、おれの記憶が戻る様子はない。
<0003> これまでのところ、おれの記憶が戻る様子はない。
// <0004> なにかきっかけがあれば、と最初は簡単に考えていたが、家でも学校でも、なんら刺激されるところはない。
<0004> なにかきっかけがあれば、と最初は簡単に考えていたが、家でも学校でも、なんら刺激されるところはない。
// <0005> もし、これでひとりきりだったら…
<0005> もし、これでひとりきりだったら…
// <0006> とっくにおかしくなっていたかもしれない。
<0006> とっくにおかしくなっていたかもしれない。
// <0007> 想像以上に、思い出がない、というのはつらかった。
<0007> 想像以上に、思い出がない、というのはつらかった。
// <0008> 自分のすべてを否定されているような気になってくる。
<0008> 自分のすべてを否定されているような気になってくる。
// <0009> 幸いなことに、中学までの記憶があること。
<0009> 幸いなことに、中学までの記憶があること。
// <0010> そして、智代がそばにいてくれることが何よりの支えだ。
<0010> そして、智代がそばにいてくれることが何よりの支えだ。
// <0011> 焦ることはない。
<0011> 焦ることはない。
// <0012> いつかは思い出す。
<0012> いつかは思い出す。
// <0013> いや、たとえ思い出せなくたって…
<0013> いや、たとえ思い出せなくたって…
// <0014> このまま智代と一緒ならば、それはそれで幸せじゃないか。
<0014> このまま智代と一緒ならば、それはそれで幸せじゃないか。
// <0015> そう思えた。
<0015> そう思えた。
// <0016> その日、おれは少し具合が悪かった。
<0016> その日、おれは少し具合が悪かった。
// <0017> 寝相でも悪かったのか、軽く風邪を引いたようだ。
<0017> 寝相でも悪かったのか、軽く風邪を引いたようだ。
// <0018> 朝食にもあまり箸をつけることができなかった。
<0018> 朝食にもあまり箸をつけることができなかった。
// <0019> 智代も心配そうにしている。
<0019> 智代も心配そうにしている。
// <0020> \{朋也}「今日は休みにしないか」
<0020> \{Tomoya}「今日は休みにしないか」
// <0021> \{朋也}「ちょっと頭が痛いんだ…」
<0021> \{Tomoya}「ちょっと頭が痛いんだ…」
// <0022> 箸を下ろしてから、そう言った。
<0022> 箸を下ろしてから、そう言った。
// <0023> おれは智代がおかゆでも作ってくれるのを期待していた。
<0023> おれは智代がおかゆでも作ってくれるのを期待していた。
// <0024> 大した風邪でなくても、智代は大げさに看病してくれるだろう。
<0024> 大した風邪でなくても、智代は大げさに看病してくれるだろう。
// <0025> 熱を測ろうと、体温計ではなくてわざわざおでこをぴたりと当てたりして。
<0025> 熱を測ろうと、体温計ではなくてわざわざおでこをぴたりと当てたりして。
// <0026> おれは余計に熱っぽくなる。
<0026> おれは余計に熱っぽくなる。
// <0027> 汗をかくと、智代が服を脱がせて拭いてくれる。
<0027> 汗をかくと、智代が服を脱がせて拭いてくれる。
// <0028> そんな風にしてくれる…とまでは思わないものの、休みにしようという提案には頷いてくれると思っていた。
<0028> そんな風にしてくれる…とまでは思わないものの、休みにしようという提案には頷いてくれると思っていた。
// <0029> しかし、智代の返事は違っていた。
<0029> しかし、智代の返事は違っていた。
// <0030> \{智代}「それは…だめだ」
<0030> \{Tomoyo}「それは…だめだ」
// <0031> \{智代}「今日も学校へ行こう」
<0031> \{Tomoyo}「今日も学校へ行こう」
// <0032> \{朋也}「え?」
<0032> \{Tomoya}「え?」
// <0033> たしかにどうしても行けない、というほどではない。
<0033> たしかにどうしても行けない、というほどではない。
// <0034> ちょっと頭が痛い、という程度だ。
<0034> ちょっと頭が痛い、という程度だ。
// <0035> 言い返すこともできたが、智代の顔を見るとそうも言いにくい。
<0035> 言い返すこともできたが、智代の顔を見るとそうも言いにくい。
// <0036> \{朋也}「ああ…わかった」
<0036> \{Tomoya}「ああ…わかった」
// <0037> 外に出てからも、智代の様子はどこか変だった。
<0037> 外に出てからも、智代の様子はどこか変だった。
// <0038> 学校へは直接向かわずに、あたりをぶらぶらしている。
<0038> 学校へは直接向かわずに、あたりをぶらぶらしている。
// <0039> 智代について、おれも一緒に歩く。
<0039> 智代について、おれも一緒に歩く。
// <0040> 歩きながら、智代は昔の話をする。
<0040> 歩きながら、智代は昔の話をする。
// <0041> これまでにも聞いた話をしつこいくらいに。
<0041> これまでにも聞いた話をしつこいくらいに。
// <0042> \{智代}「あそこで、おまえは…」
<0042> \{Tomoyo}「あそこで、おまえは…」
// <0043> \{智代}「そういえば、あのとき…」
<0043> \{Tomoyo}「そういえば、あのとき…」
// <0044> \{智代}「どうだ、朋也。なにか思い出すことはないか?」
<0044> \{Tomoyo}「どうだ、朋也。なにか思い出すことはないか?」
// <0045> おれは智代の言葉を聞いてるうちに、頭痛がひどくなるのを覚えた。
<0045> おれは智代の言葉を聞いてるうちに、頭痛がひどくなるのを覚えた。
// <0046> いや、智代自身に対して、というわけではない。
<0046> いや、智代自身に対して、というわけではない。
// <0047> やはり体調がよくないのが響いているようだ。
<0047> やはり体調がよくないのが響いているようだ。
// <0048> 智代の言葉がわずらわしい、自分がそう思っているとは思いたくなかった。
<0048> 智代の言葉がわずらわしい、自分がそう思っているとは思いたくなかった。
// <0049> まだ初秋とはいえ、吹く風はときに冷たい。
<0049> まだ初秋とはいえ、吹く風はときに冷たい。
// <0050> 風邪気味の体には、ひどく堪える。
<0050> 風邪気味の体には、ひどく堪える。
// <0051> だが一時間近く経っても、まだ智代は商店街をうろうろとしていた。
<0051> だが一時間近く経っても、まだ智代は商店街をうろうろとしていた。
// <0052> \{朋也}「なあ、智代」
<0052> \{Tomoya}「なあ、智代」
// <0053> \{朋也}「学校に行くなら、早くしないか」
<0053> \{Tomoya}「学校に行くなら、早くしないか」
// <0054> \{朋也}「朝も言ったと思うが、今日はちょっと頭が痛いんだ」
<0054> \{Tomoya}「朝も言ったと思うが、今日はちょっと頭が痛いんだ」
// <0055> \{智代}「あ、うん。そうだったな…すまない」
<0055> \{Tomoyo}「あ、うん。そうだったな…すまない」
// <0056> \{智代}「朋也、痛いというのはどの辺りだ?」
<0056> \{Tomoyo}「朋也、痛いというのはどの辺りだ?」
// <0057> \{朋也}「そうだな…この辺りかな」
<0057> \{Tomoya}「そうだな…この辺りかな」
// <0058> 右手で痛むところを押さえる。
<0058> 右手で痛むところを押さえる。
// <0059> 後頭部だった。
<0059> 後頭部だった。
// <0060> 触ると、ずきずきと中で脈を打っているように思える。
<0060> 触ると、ずきずきと中で脈を打っているように思える。
// <0061> 本格的に風邪を引く前に、やはり今日は早く帰りたい。
<0061> 本格的に風邪を引く前に、やはり今日は早く帰りたい。
// <0062> \{智代}「そうか…」
<0062> \{Tomoyo}「そうか…」
// <0063> 智代の表情は暗い。
<0063> 智代の表情は暗い。
// <0064> \{朋也}「そう言えば。おれの記憶喪失の原因になった怪我っていうのは、どこらへんなんだ」
<0064> \{Tomoya}「そう言えば。おれの記憶喪失の原因になった怪我っていうのは、どこらへんなんだ」
// <0065> \{智代}「…後頭部だ」
<0065> \{Tomoyo}「…後頭部だ」
// <0066> \{智代}「…ちょうど、おまえが今痛むと言っている辺りだろう」
<0066> \{Tomoyo}「…ちょうど、おまえが今痛むと言っている辺りだろう」
// <0067> 言われて、頭の後ろを触る。
<0067> 言われて、頭の後ろを触る。
// <0068> 髪の毛に隠れてはっきりとはしないが、それらしい傷跡が指にひっかかった。
<0068> 髪の毛に隠れてはっきりとはしないが、それらしい傷跡が指にひっかかった。
// <0069> 何度か撫でてみる。
<0069> 何度か撫でてみる。
// <0070> もう傷自体はすっかりとふさがっているようだ。
<0070> もう傷自体はすっかりとふさがっているようだ。
// <0071> \{朋也}「………」
<0071> \{Tomoya}「………」
// <0072> なぜか違和感を覚える。
<0072> なぜか違和感を覚える。
// <0073> なにがおかしいのか。
<0073> なにがおかしいのか。
// <0074> …智代の言葉か?
<0074> …智代の言葉か?
// <0075> 確かに一度打った箇所が再び痛み始めたのかもしれない、と心配するのはわかる。
<0075> 確かに一度打った箇所が再び痛み始めたのかもしれない、と心配するのはわかる。
// <0076> だから、そこじゃない。
<0076> だから、そこじゃない。
// <0077> しかし、痛む頭ではそれ以上、考えがまとまらなかった。
<0077> しかし、痛む頭ではそれ以上、考えがまとまらなかった。
// <0078> \{朋也}「なあ、もしかして…」
<0078> \{Tomoya}「なあ、もしかして…」
// <0079> \{朋也}「今、傷跡が痛むのは風邪じゃなくて、その怪我が原因なんじゃないのか」
<0079> \{Tomoya}「今、傷跡が痛むのは風邪じゃなくて、その怪我が原因なんじゃないのか」
// <0080> おれがそれを口にする。
<0080> おれがそれを口にする。
// <0081> だが、智代は否定した。
<0081> だが、智代は否定した。
// <0082> \{智代}「…そんなことはないだろう」
<0082> \{Tomoyo}「…そんなことはないだろう」
// <0083> \{智代}「うん、きっと風邪の引きはじめだ」
<0083> \{Tomoyo}「うん、きっと風邪の引きはじめだ」
// <0084> \{智代}「だから…そんなに心配することじゃない」
<0084> \{Tomoyo}「だから…そんなに心配することじゃない」
// <0085> \{朋也}「そうか…ならいいんだが」
<0085> \{Tomoya}「そうか…ならいいんだが」
// <0086> だが、そう言ったにも関わらず、智代は家に帰ろうとしなかった。
<0086> だが、そう言ったにも関わらず、智代は家に帰ろうとしなかった。
// <0087> \{智代}「朋也、もう少しだけ付き合ってほしい」
<0087> \{Tomoyo}「朋也、もう少しだけ付き合ってほしい」
// <0088> \{智代}「ほら、今日で一週間になるだろう」
<0088> \{Tomoyo}「ほら、今日で一週間になるだろう」
// <0089> \{智代}「そろそろ、記憶も戻る頃だと思うんだ」
<0089> \{Tomoyo}「そろそろ、記憶も戻る頃だと思うんだ」
// <0090> \{智代}「だから、そのためにももう少し」
<0090> \{Tomoyo}「だから、そのためにももう少し」
// <0091> \{朋也}「………」
<0091> \{Tomoya}「………」
// <0092> \{朋也}「なあ、智代」
<0092> \{Tomoya}「なあ、智代」
// <0093> \{智代}「うん、なんだ」
<0093> \{Tomoyo}「うん、なんだ」
// <0094> \{朋也}「別に今日じゃなくてもいいだろう」
<0094> \{Tomoya}「別に今日じゃなくてもいいだろう」
// <0095> 智代の言葉を遮るように、言った。
<0095> 智代の言葉を遮るように、言った。
// <0096> \{朋也}「そりゃ、頭が痛いのは別に我慢できないほどじゃない」
<0096> \{Tomoya}「そりゃ、頭が痛いのは別に我慢できないほどじゃない」
// <0097> \{朋也}「でも、それこそ本格的に風邪をひいたら、明日から出歩けなくなる」
<0097> \{Tomoya}「でも、それこそ本格的に風邪をひいたら、明日から出歩けなくなる」
// <0098> \{朋也}「家で寝込んでいたら、戻る記憶も戻らなくなりそうじゃないか」
<0098> \{Tomoya}「家で寝込んでいたら、戻る記憶も戻らなくなりそうじゃないか」
// <0099> ずきずきする頭を軽く押さえ、おれはできるだけゆっくりとした口調で話す。
<0099> ずきずきする頭を軽く押さえ、おれはできるだけゆっくりとした口調で話す。
// <0100> \{朋也}「なあ、もう今日は帰ろう」
<0100> \{Tomoya}「なあ、もう今日は帰ろう」
// <0101> \{朋也}「おかゆか何か、軽いものでも作ってくれないか」
<0101> \{Tomoya}「おかゆか何か、軽いものでも作ってくれないか」
// <0102> \{朋也}「できれば、そいつを冷ましながら食べさせてくれ」
<0102> \{Tomoya}「できれば、そいつを冷ましながら食べさせてくれ」
// <0103> \{朋也}「なんなら、口移しでもかまわないぞ」
<0103> \{Tomoya}「なんなら、口移しでもかまわないぞ」
// <0104> \{智代}「………」
<0104> \{Tomoyo}「………」
// <0105> 笑おうとするおれに対して、智代の表情は暗い。
<0105> 笑おうとするおれに対して、智代の表情は暗い。
// <0106> しばらくの沈黙。
<0106> しばらくの沈黙。
// <0107> 辺りに人気はない。風の音だけが聞こえてくる。
<0107> 辺りに人気はない。風の音だけが聞こえてくる。
// <0108> 智代は静かに首を横に振った。
<0108> 智代は静かに首を横に振った。
// <0109> \{智代}「だめなんだ」
<0109> \{Tomoyo}「だめなんだ」
// <0110> \{朋也}「なにが…だめなんだ」
<0110> \{Tomoya}「なにが…だめなんだ」
// <0111> \{朋也}「今日のおまえは、ちょっとおかしいぞ」
<0111> \{Tomoya}「今日のおまえは、ちょっとおかしいぞ」
// <0112> \{智代}「だから…今日じゃなければ、だめなんだ」
<0112> \{Tomoyo}「だから…今日じゃなければ、だめなんだ」
// <0113> \{智代}「…もう、そろそろだから」
<0113> \{Tomoyo}「…もう、そろそろだから」
// <0114> おれの質問に答えず、同じ言葉を繰り返す。
<0114> おれの質問に答えず、同じ言葉を繰り返す。
// <0115> \{朋也}「智代っ」
<0115> \{Tomoya}「智代っ」
// <0116> 結局、またけんか腰になってしまう。
<0116> 結局、またけんか腰になってしまう。
// <0117> 智代が体を震わす。
<0117> 智代が体を震わす。
// <0118> これでは、まるでおれがいじめているみたいじゃないか。
<0118> これでは、まるでおれがいじめているみたいじゃないか。
// <0119> だが、自分が悪いとは思わない。
<0119> だが、自分が悪いとは思わない。
// <0120> また沈黙。そして…
<0120> また沈黙。そして…
// <0121> \{智代}「朋也、学校へ行こう」
<0121> \{Tomoyo}「朋也、学校へ行こう」
// <0122> いつもと変わらぬ調子で、智代が口にした。
<0122> いつもと変わらぬ調子で、智代が口にした。
// <0123> だが、表情は強張っている。
<0123> だが、表情は強張っている。
// <0124> 思いつめているように見えた。
<0124> 思いつめているように見えた。
// <0125> 智代は一体何を考えているんだろう…。
<0125> 智代は一体何を考えているんだろう…。
// <0126> 考えても、わからない。
<0126> 考えても、わからない。
// <0127> \{朋也}「ああ」
<0127> \{Tomoya}「ああ」
// <0128> だから、おれは頷くしかなかった。
<0128> だから、おれは頷くしかなかった。
// <0129> 学校に着いた時、智代の口から、何が語られるのか。
<0129> 学校に着いた時、智代の口から、何が語られるのか。
// <0130> それを知るのが恐い。
<0130> それを知るのが恐い。
// <0131> 智代と並んで歩く。
<0131> 智代と並んで歩く。
// <0132> もう智代は、ここを覚えているか?などと訊くことはなかった。
<0132> もう智代は、ここを覚えているか?などと訊くことはなかった。
// <0133> 町を見、空を見、そして樹を見ながら、おれたちは歩いた。
<0133> 町を見、空を見、そして樹を見ながら、おれたちは歩いた。
// <0134> 学校に続く坂の下まで来たところで、智代が訊いた。
<0134> 学校に続く坂の下まで来たところで、智代が訊いた。
// <0135> \{智代}「朋也はこの学校が好きか?」
<0135> \{Tomoyo}「朋也はこの学校が好きか?」
// <0136> いきなりな質問だった。
<0136> いきなりな質問だった。
// <0137> 不意をつかれたが、答える。
<0137> 不意をつかれたが、答える。
// <0138> \{朋也}「はっきり言って、わからないな」
<0138> \{Tomoya}「はっきり言って、わからないな」
// <0139> \{朋也}「中学はそれなりに楽しかったけど、ここは…」
<0139> \{Tomoya}「中学はそれなりに楽しかったけど、ここは…」
// <0140> \{朋也}「正直、自分の通った学校だっていう意識がないからな」
<0140> \{Tomoya}「正直、自分の通った学校だっていう意識がないからな」
// <0141> \{朋也}「好きも嫌いもないだろ…」
<0141> \{Tomoya}「好きも嫌いもないだろ…」
// <0142> \{智代}「うん、そうだな」
<0142> \{Tomoyo}「うん、そうだな」
// <0143> 智代はその答えを予想していたようだ。
<0143> 智代はその答えを予想していたようだ。
// <0144> \{朋也}「そういう智代はどうなんだ?」
<0144> \{Tomoya}「そういう智代はどうなんだ?」
// <0145> \{智代}「私は、好きだ」
<0145> \{Tomoyo}「私は、好きだ」
// <0146> \{智代}「だって、朋也と私が出会えた場所だ」
<0146> \{Tomoyo}「だって、朋也と私が出会えた場所だ」
// <0147> 訊くまでもない、智代の答えだった。
<0147> 訊くまでもない、智代の答えだった。
// <0148> \{智代}「朋也との思い出の多くが、学校にある」
<0148> \{Tomoyo}「朋也との思い出の多くが、学校にある」
// <0149> \{智代}「でも…思い出とは、いいものばかりではない」
<0149> \{Tomoyo}「でも…思い出とは、いいものばかりではない」
// <0150> \{智代}「嬉しかったこと、楽しかったこと、そして辛かったことも哀しかったことも」
<0150> \{Tomoyo}「嬉しかったこと、楽しかったこと、そして辛かったことも哀しかったことも」
// <0151> \{智代}「心に残っているすべてのことを、思い出と呼ぶ」
<0151> \{Tomoyo}「心に残っているすべてのことを、思い出と呼ぶ」
// <0152> \{智代}「それ自身には、なんの違いもない」
<0152> \{Tomoyo}「それ自身には、なんの違いもない」
// <0153> \{智代}「違いを生むのは、思い出を持っている人間の心にある」
<0153> \{Tomoyo}「違いを生むのは、思い出を持っている人間の心にある」
// <0154> \{朋也}「………」
<0154> \{Tomoya}「………」
// <0155> 智代は近くに立っている樹に、そっと手を寄せる。
<0155> 智代は近くに立っている樹に、そっと手を寄せる。
// <0156> \{朋也}「それは、おれたちの間にもあったことなのか」
<0156> \{Tomoya}「それは、おれたちの間にもあったことなのか」
// <0157> \{智代}「…朋也、私が生徒会長だったというのは話したな」
<0157> \{Tomoyo}「…朋也、私が生徒会長だったというのは話したな」
// <0158> \{朋也}「ああ、驚いたぞ。だけど、確かに智代なら似合っているかもな」
<0158> \{Tomoya}「ああ、驚いたぞ。だけど、確かに智代なら似合っているかもな」
// <0159> \{智代}「私は生徒会長になって、多くの貴重な体験をした」
<0159> \{Tomoyo}「私は生徒会長になって、多くの貴重な体験をした」
// <0160> \{智代}「全校生徒のために、自分の持っている力を尽くす。それは大変だったが、やりがいもあった」
<0160> \{Tomoyo}「全校生徒のために、自分の持っている力を尽くす。それは大変だったが、やりがいもあった」
// <0161> \{朋也}「そうだろうな」
<0161> \{Tomoya}「そうだろうな」
// <0162> 自分には、おそらく到底真似のできないことだろう。
<0162> 自分には、おそらく到底真似のできないことだろう。
// <0163> だが、智代なら。
<0163> だが、智代なら。
// <0164> おれが思うとおりの智代ならば、きっとそうしただろう。
<0164> おれが思うとおりの智代ならば、きっとそうしただろう。
// <0165> \{智代}「でも…ひとつだけ、失ったものがあるんだ」
<0165> \{Tomoyo}「でも…ひとつだけ、失ったものがあるんだ」
// <0166> \{智代}「その失ったものは…私が得たすべてのものと比較してもしきれないほど、大事なものだった」
<0166> \{Tomoyo}「その失ったものは…私が得たすべてのものと比較してもしきれないほど、大事なものだった」
// <0167> \{智代}「それは、朋也。おまえだ」
<0167> \{Tomoyo}「それは、朋也。おまえだ」
// <0168> \{智代}「私は生徒会長の地位と引き換えに、おまえを失ったんだ」
<0168> \{Tomoyo}「私は生徒会長の地位と引き換えに、おまえを失ったんだ」
// <0169> \{朋也}「それは…どういうことだ?」
<0169> \{Tomoya}「それは…どういうことだ?」
// <0170> 口ではそう言いながらも、自分の中では予想がついていた。
<0170> 口ではそう言いながらも、自分の中では予想がついていた。
// <0171> 智代が生徒会長だったと知った時から、感じていたことだ。
<0171> 智代が生徒会長だったと知った時から、感じていたことだ。
// <0172> 生徒会長と不良生徒。
<0172> 生徒会長と不良生徒。
// <0173> しょせん、うまくいくわけがないのだ。
<0173> しょせん、うまくいくわけがないのだ。
// <0174> \{智代}「私と朋也の関係は、ちょうどここと」
<0174> \{Tomoyo}「私と朋也の関係は、ちょうどここと」
// <0175> そう言って、智代は地面を指す。
<0175> そう言って、智代は地面を指す。
// <0176> \{智代}「あそこのようなものだった」
<0176> \{Tomoyo}「あそこのようなものだった」
// <0177> 次は、坂の上にある学校を。
<0177> 次は、坂の上にある学校を。
// <0178> \{智代}「どちらが、どっちというわけではない」
<0178> \{Tomoyo}「どちらが、どっちというわけではない」
// <0179> \{智代}「お互いに、相手は自分よりも高みにいると思っていた」
<0179> \{Tomoyo}「お互いに、相手は自分よりも高みにいると思っていた」
// <0180> \{智代}「朋也は特に私が当選してからは、そう感じていたようだ」
<0180> \{Tomoyo}「朋也は特に私が当選してからは、そう感じていたようだ」
// <0181> \{智代}「生徒会長である私に、自分は釣り合わないのではないかと」
<0181> \{Tomoyo}「生徒会長である私に、自分は釣り合わないのではないかと」
// <0182> \{智代}「足を引っ張るんじゃないかと。そう思っていたみたいだ」
<0182> \{Tomoyo}「足を引っ張るんじゃないかと。そう思っていたみたいだ」
// <0183> 生徒会長になった智代は、多忙を極めた。
<0183> 生徒会長になった智代は、多忙を極めた。
// <0184> その合間を縫って、おれとの時間を作ってくれた。
<0184> その合間を縫って、おれとの時間を作ってくれた。
// <0185> だが、智代がそうすること自体が、いつしかおれには負担になっていた。
<0185> だが、智代がそうすること自体が、いつしかおれには負担になっていた。
// <0186> \{智代}「あれは、創立者祭からしばらく経った日のことだった」
<0186> \{Tomoyo}「あれは、創立者祭からしばらく経った日のことだった」
// <0187> 智代とおれは教師に呼び出されて、付き合いをとがめられたと言う。
<0187> 智代とおれは教師に呼び出されて、付き合いをとがめられたと言う。
// <0188> \{智代}「私は一向に気にしなかったんだ」
<0188> \{Tomoyo}「私は一向に気にしなかったんだ」
// <0189> \{智代}「…だが、おまえは違った」
<0189> \{Tomoyo}「…だが、おまえは違った」
// <0190> それがきっかけ、というわけでもなかったのだろうが。
<0190> それがきっかけ、というわけでもなかったのだろうが。
// <0191> \{智代}「おまえは、別れを切り出したんだ」
<0191> \{Tomoyo}「おまえは、別れを切り出したんだ」
// <0192> \{智代}「私はおまえが好きだった」
<0192> \{Tomoyo}「私はおまえが好きだった」
// <0193> \{智代}「きっと、おまえも私が好きだったはずだ」
<0193> \{Tomoyo}「きっと、おまえも私が好きだったはずだ」
// <0194> \{智代}「でも…別れた」
<0194> \{Tomoyo}「でも…別れた」
// <0195> \{智代}「あの日、私たちは別々の道を選んだ」
<0195> \{Tomoyo}「あの日、私たちは別々の道を選んだ」
// <0196> \{智代}「私を高みへと送り出すために、朋也は別れを告げたんだ」
<0196> \{Tomoyo}「私を高みへと送り出すために、朋也は別れを告げたんだ」
// <0197> \{智代}「私の足を引っ張らないために…」
<0197> \{Tomoyo}「私の足を引っ張らないために…」
// <0198> 智代の話をおれは黙って聞いていた。
<0198> 智代の話をおれは黙って聞いていた。
// <0199> 理解できる部分も、できない部分もあった。
<0199> 理解できる部分も、できない部分もあった。
// <0200> だが、その『おれ』は今の『おれ』と繋がっているのだ。
<0200> だが、その『おれ』は今の『おれ』と繋がっているのだ。
// <0201> たぶん自分ならばそうするだろう、と思えた。
<0201> たぶん自分ならばそうするだろう、と思えた。
// <0202> \{朋也}「それから、どうなったんだ」
<0202> \{Tomoya}「それから、どうなったんだ」
// <0203> それだけを訊いた。
<0203> それだけを訊いた。
// <0204> それから、何もなければおれたちは今ここにこうしていないだろう。
<0204> それから、何もなければおれたちは今ここにこうしていないだろう。
// <0205> 智代はおれの質問に、にこりと微笑む。
<0205> 智代はおれの質問に、にこりと微笑む。
// <0206> \{智代}「じゃあ、いこう。朋也」
<0206> \{Tomoyo}「じゃあ、いこう。朋也」
// <0207> \{朋也}「どこへ?」
<0207> \{Tomoya}「どこへ?」
// <0208> \{智代}「あの高みへ、だ」
<0208> \{Tomoyo}「あの高みへ、だ」
// <0209> 智代が指さす。
<0209> 智代が指さす。
// <0210> その先にあるのは、坂の上。
<0210> その先にあるのは、坂の上。
// <0211> これまでに、何度も足を運んだ学校だった。
<0211> これまでに、何度も足を運んだ学校だった。
// <0212> 今、改めて、おれはその場所の重みを感じた。
<0212> 今、改めて、おれはその場所の重みを感じた。
// <0213> \{智代}「桜があるだろう」
<0213> \{Tomoyo}「桜があるだろう」
// <0214> 校門にふたりで並ぶ。
<0214> 校門にふたりで並ぶ。
// <0215> 門は開いている。グラウンドからは部活動の声が聞こえてくる。
<0215> 門は開いている。グラウンドからは部活動の声が聞こえてくる。
// <0216> きっと野球部も練習をしているのだろう。
<0216> きっと野球部も練習をしているのだろう。
// <0217> だが、この時間に校門を通る生徒の姿はない。
<0217> だが、この時間に校門を通る生徒の姿はない。
// <0218> おれたちはふたりきりだった。
<0218> おれたちはふたりきりだった。
// <0219> 今、上ってきた坂を今度は見下ろす。
<0219> 今、上ってきた坂を今度は見下ろす。
// <0220> ここを終着地点として、下から続いている桜並木。
<0220> ここを終着地点として、下から続いている桜並木。
// <0221> 今は花を咲かせていない桜の樹。
<0221> 今は花を咲かせていない桜の樹。
// <0222> 以前智代が、守りたかった、と言った桜だ。
<0222> 以前智代が、守りたかった、と言った桜だ。
// <0223> \{智代}「これは、私と鷹文の思い出の桜なんだ」
<0223> \{Tomoyo}「これは、私と鷹文の思い出の桜なんだ」
// <0224> \{朋也}「…鷹文?」
<0224> \{Tomoya}「…鷹文?」
// <0225> 唐突に出てくる男の名前だった。
<0225> 唐突に出てくる男の名前だった。
// <0226> \{智代}「ふふ。やきもちを焼いてくれるのか。それは嬉しいな」
<0226> \{Tomoyo}「ふふ。やきもちを焼いてくれるのか。それは嬉しいな」
// <0227> \{智代}「でも、残念ながら違うんだ」
<0227> \{Tomoyo}「でも、残念ながら違うんだ」
// <0228> \{智代}「鷹文は、私の弟だ。大切な、たったひとりの弟だ」
<0228> \{Tomoyo}「鷹文は、私の弟だ。大切な、たったひとりの弟だ」
// <0229> \{智代}「朋也とも仲はいいんだぞ。この一週間は、私が頼んで顔を出さないように言ってあったがな」
<0229> \{Tomoyo}「朋也とも仲はいいんだぞ。この一週間は、私が頼んで顔を出さないように言ってあったがな」
// <0230> \{朋也}「…どうしてだ?」
<0230> \{Tomoya}「…どうしてだ?」
// <0231> \{朋也}「おれの記憶を戻したいなら、おれは知っている人にたくさん会った方がいいように思うんだが」
<0231> \{Tomoya}「おれの記憶を戻したいなら、おれは知っている人にたくさん会った方がいいように思うんだが」
// <0232> そうだろう。
<0232> そうだろう。
// <0233> 春原が今どこで何をしているのかは知らないが、おれの親友だったというならば、やはり会うべきだろう。
<0233> 春原が今どこで何をしているのかは知らないが、おれの親友だったというならば、やはり会うべきだろう。
// <0234> 昔から仲はよくないが、親父だって。会えば、記憶を取り戻す手助けになるはずだ。
<0234> 昔から仲はよくないが、親父だって。会えば、記憶を取り戻す手助けになるはずだ。
// <0235> だが、智代はそうしなかった。
<0235> だが、智代はそうしなかった。
// <0236> まるで、ひとりだけで頑張ろうとするみたいに、戦っていた。
<0236> まるで、ひとりだけで頑張ろうとするみたいに、戦っていた。
// <0237> \{智代}「…そのとおりだな」
<0237> \{Tomoyo}「…そのとおりだな」
// <0238> そう言って、黙る。
<0238> そう言って、黙る。
// <0239> \{智代}「何から話したらいいのだろうな。ひとつひとつが関係していて、複雑なんだ」
<0239> \{Tomoyo}「何から話したらいいのだろうな。ひとつひとつが関係していて、複雑なんだ」
// <0240> そして、また沈黙。
<0240> そして、また沈黙。
// <0241> その間、おれは智代の顔をずっと見ていた。
<0241> その間、おれは智代の顔をずっと見ていた。
// <0242> 綺麗な、そして哀しそうな顔だった。
<0242> 綺麗な、そして哀しそうな顔だった。
// <0243> \{智代}「そうだな。やはり、桜の話からにしよう」
<0243> \{Tomoyo}「そうだな。やはり、桜の話からにしよう」
// <0244> 春になれば、新入生を祝うために咲き誇る桜並木。
<0244> 春になれば、新入生を祝うために咲き誇る桜並木。
// <0245> それを巡る話は、智代と鷹文、そしてその家族の話だった。
<0245> それを巡る話は、智代と鷹文、そしてその家族の話だった。
// <0246> 坂上鷹文。智代のふたつ下の弟。
<0246> 坂上鷹文。智代のふたつ下の弟。
// <0247> 壊れようとしてた家庭を救うために、戦った少年。
<0247> 壊れようとしてた家庭を救うために、戦った少年。
// <0248> そいつが選んだ手段は、とても考えつかないようなものだった。
<0248> そいつが選んだ手段は、とても考えつかないようなものだった。
// <0249> 鷹文は文字通り自分の命を賭して、家族のために戦った。
<0249> 鷹文は文字通り自分の命を賭して、家族のために戦った。
// <0250> 家族ってなんなんだ。
<0250> 家族ってなんなんだ。
// <0251> そんなものは存在しない。
<0251> そんなものは存在しない。
// <0252> 人間は、ひとりずつだ。
<0252> 人間は、ひとりずつだ。
// <0253> その集合なんて、幻想に過ぎないはずだ。
<0253> その集合なんて、幻想に過ぎないはずだ。
// <0254> おれと親父がそうであるように。
<0254> おれと親父がそうであるように。
// <0255> それでも、鷹文はその幻のために命を賭けたんだ。
<0255> それでも、鷹文はその幻のために命を賭けたんだ。
// <0256> 智代の肩が震えていた。
<0256> 智代の肩が震えていた。
// <0257> \{智代}「幸い、弟は一命を取り留めた」
<0257> \{Tomoyo}「幸い、弟は一命を取り留めた」
// <0258> \{智代}「私たちは、ようやく気づいたんだ」
<0258> \{Tomoyo}「私たちは、ようやく気づいたんだ」
// <0259> \{智代}「失ってしまったら、取り返しがつかないものがあるということに」
<0259> \{Tomoyo}「失ってしまったら、取り返しがつかないものがあるということに」
// <0260> \{智代}「そして、私たちは人間らしさを思い出し、家族になったんだ」
<0260> \{Tomoyo}「そして、私たちは人間らしさを思い出し、家族になったんだ」
// <0261> \{智代}「もちろん、すぐにとはいかないけどな」
<0261> \{Tomoyo}「もちろん、すぐにとはいかないけどな」
// <0262> \{智代}「だが、弟は私たちが互いに向き合うための、戦うためのきっかけを与えてくれた」
<0262> \{Tomoyo}「だが、弟は私たちが互いに向き合うための、戦うためのきっかけを与えてくれた」
// <0263> \{智代}「鷹文は最高の弟だ。私が誇れる、最高の」
<0263> \{Tomoyo}「鷹文は最高の弟だ。私が誇れる、最高の」
// <0264> \{智代}「そして、私はこの学校に入ろうと誓った。そのために一年かけて、懸命に勉強した」
<0264> \{Tomoyo}「そして、私はこの学校に入ろうと誓った。そのために一年かけて、懸命に勉強した」
// <0265> \{智代}「ここで生徒会長になるために」
<0265> \{Tomoyo}「ここで生徒会長になるために」
// <0266> \{朋也}「ちょっと待ってくれ」
<0266> \{Tomoya}「ちょっと待ってくれ」
// <0267> \{朋也}「智代の話はわかったけど、それと生徒会長がなんの関係があるんだ」
<0267> \{Tomoya}「智代の話はわかったけど、それと生徒会長がなんの関係があるんだ」
// <0268> \{智代}「あるんだ」
<0268> \{Tomoyo}「あるんだ」
// <0269> \{智代}「それが、この桜だ」
<0269> \{Tomoyo}「それが、この桜だ」
// <0270> 智代はそう言って、脇に立つ桜の樹を撫でる。
<0270> 智代はそう言って、脇に立つ桜の樹を撫でる。
// <0271> \{智代}「この坂の下に続くところに病院が建っている」
<0271> \{Tomoyo}「この坂の下に続くところに病院が建っている」
// <0272> \{智代}「桜並木も、以前はずっと続いていたんだ。その病院から、この学校まで」
<0272> \{Tomoyo}「桜並木も、以前はずっと続いていたんだ。その病院から、この学校まで」
// <0273> \{智代}「鷹文は、そこに入院した」
<0273> \{Tomoyo}「鷹文は、そこに入院した」
// <0274> \{智代}「鷹文が入院していた時、ちょうど花が盛りだったんだ」
<0274> \{Tomoyo}「鷹文が入院していた時、ちょうど花が盛りだったんだ」
// <0275> \{智代}「ようやく車椅子で鷹文が外出できるようになったとき」
<0275> \{Tomoyo}「ようやく車椅子で鷹文が外出できるようになったとき」
// <0276> \{智代}「私たちはふたりで、その桜並木を歩いたんだ」
<0276> \{Tomoyo}「私たちはふたりで、その桜並木を歩いたんだ」
// <0277> \{智代}「綺麗だった」
<0277> \{Tomoyo}「綺麗だった」
// <0278> \{智代}「私ははなびら散る桜の下を、鷹文の車椅子の背中を押して歩いたんだ」
<0278> \{Tomoyo}「私ははなびら散る桜の下を、鷹文の車椅子の背中を押して歩いたんだ」
// <0279> \{智代}「…今はもうないがな」
<0279> \{Tomoyo}「…今はもうないがな」
// <0280> 確かにあった気がする。花見の季節は、賑わっていた。
<0280> 確かにあった気がする。花見の季節は、賑わっていた。
// <0281> \{朋也}「町は変わるってことか」
<0281> \{Tomoya}「町は変わるってことか」
// <0282> 記憶喪失になって、実感したことだ。
<0282> 記憶喪失になって、実感したことだ。
// <0283> 刻一刻と、その姿を変えていく。
<0283> 刻一刻と、その姿を変えていく。
// <0284> 望む人、望まない人。
<0284> 望む人、望まない人。
// <0285> その思いを飲み込んで。
<0285> その思いを飲み込んで。
// <0286> \{智代}「桜並木の潰された後には、たくさんの人たちが住んでいるんだ」
<0286> \{Tomoyo}「桜並木の潰された後には、たくさんの人たちが住んでいるんだ」
// <0287> \{智代}「それは、多分いいことなんだ」
<0287> \{Tomoyo}「それは、多分いいことなんだ」
// <0288> \{智代}「でも、あの日に鷹文と見た桜がすべて切られてしまうのは、私には耐えられなかった」
<0288> \{Tomoyo}「でも、あの日に鷹文と見た桜がすべて切られてしまうのは、私には耐えられなかった」
// <0289> \{智代}「せめて、この学校の周りだけでも残したかった」
<0289> \{Tomoyo}「せめて、この学校の周りだけでも残したかった」
// <0290> \{朋也}「…そのために、生徒会長に?」
<0290> \{Tomoya}「…そのために、生徒会長に?」
// <0291> \{智代}「そうだ。私はそのために、生徒会長になりたかったんだ」
<0291> \{Tomoyo}「そうだ。私はそのために、生徒会長になりたかったんだ」
// <0292> \{智代}「私と鷹文の思い出を守るために」
<0292> \{Tomoyo}「私と鷹文の思い出を守るために」
// <0293> \{朋也}「いいじゃないか。素敵なことだと思うぞ、おれは」
<0293> \{Tomoya}「いいじゃないか。素敵なことだと思うぞ、おれは」
// <0294> \{朋也}「上手くいったんだろう? 桜は切られなかったんだろう?」
<0294> \{Tomoya}「上手くいったんだろう? 桜は切られなかったんだろう?」
// <0295> その答えは、この場所を見ればわかる。
<0295> その答えは、この場所を見ればわかる。
// <0296> \{智代}「うん、色々と大変だったけどな」
<0296> \{Tomoyo}「うん、色々と大変だったけどな」
// <0297> \{智代}「頭の固い人間はどこにでもいるからな」
<0297> \{Tomoyo}「頭の固い人間はどこにでもいるからな」
// <0298> \{智代}「役所では口より先に手が出ないように自分を抑えるのに、結構苦労したんだ」
<0298> \{Tomoyo}「役所では口より先に手が出ないように自分を抑えるのに、結構苦労したんだ」
// <0299> 智代は苦笑いを浮かべる。
<0299> 智代は苦笑いを浮かべる。
// <0300> \{智代}「そして、多くの人の助けもあって最終的には桜は守られた」
<0300> \{Tomoyo}「そして、多くの人の助けもあって最終的には桜は守られた」
// <0301> \{智代}「私は目標を成し遂げたんだ」
<0301> \{Tomoyo}「私は目標を成し遂げたんだ」
// <0302> 少し誇らしげに、微笑んだ。
<0302> 少し誇らしげに、微笑んだ。
// <0303> \{智代}「だから、次は私の番だった」
<0303> \{Tomoyo}「だから、次は私の番だった」
// <0304> \{智代}「朋也が私たちのために別れを選んだように、私は私たちのために再会を望んだ」
<0304> \{Tomoyo}「朋也が私たちのために別れを選んだように、私は私たちのために再会を望んだ」
// <0305> \{智代}「あれは、雪の降る日だった」
<0305> \{Tomoyo}「あれは、雪の降る日だった」
// <0306> \{智代}「傘が必要というほどではないが、放っておけば髪の毛にぱらぱらと粉雪が被ってくるような…」
<0306> \{Tomoyo}「傘が必要というほどではないが、放っておけば髪の毛にぱらぱらと粉雪が被ってくるような…」
// <0307> \{智代}「そんな、雪の日だった」
<0307> \{Tomoyo}「そんな、雪の日だった」
// <0308> \{智代}「私たちは…恋人になったんだ」
<0308> \{Tomoyo}「私たちは…恋人になったんだ」
// <0309> 智代は微笑んでいた。
<0309> 智代は微笑んでいた。
// <0310> \{智代}「八ヶ月、私は朋也のことを思い出さない日はなかった」
<0310> \{Tomoyo}「八ヶ月、私は朋也のことを思い出さない日はなかった」
// <0311> \{智代}「そして…もう二度と朋也を失いたくないと思った」
<0311> \{Tomoyo}「そして…もう二度と朋也を失いたくないと思った」
// <0312> \{智代}「あの雪の日…私は、永遠の愛はあるんだと思ったんだ」
<0312> \{Tomoyo}「あの雪の日…私は、永遠の愛はあるんだと思ったんだ」
// <0313> \{智代}「なのに…」
<0313> \{Tomoyo}「なのに…」
// <0314> \{智代}「私は…またおまえを失ってしまった」
<0314> \{Tomoyo}「私は…またおまえを失ってしまった」
// <0315> \{智代}「でも…」
<0315> \{Tomoyo}「でも…」
// <0316> \{智代}「私は信じている」
<0316> \{Tomoyo}「私は信じている」
// <0317> \{智代}「何度失おうとも…」
<0317> \{Tomoyo}「何度失おうとも…」
// <0318> \{智代}「おまえはまた、戻ってきてくれると…」
<0318> \{Tomoyo}「おまえはまた、戻ってきてくれると…」
// <0319> \{智代}「あの雪の日と同じように、だ…」
<0319> \{Tomoyo}「あの雪の日と同じように、だ…」
// <0320> ずっと、健気におれを支えてきてくれた智代。
<0320> ずっと、健気におれを支えてきてくれた智代。
// <0321> その智代が、すがっていた。
<0321> その智代が、すがっていた。
// <0322> 胸が痛む。
<0322> 胸が痛む。
// <0323> この子を、不安にさせたくない。
<0323> この子を、不安にさせたくない。
// <0324> 悲しませたくない。
<0324> 悲しませたくない。
// <0325> 幸せでいてほしい。
<0325> 幸せでいてほしい。
// <0326> ずっと、穏やかでいてほしい。
<0326> ずっと、穏やかでいてほしい。
// <0327> そんな気持ちが、心の底からわいてきた。
<0327> そんな気持ちが、心の底からわいてきた。
// <0328> それは、おれが記憶を失い、結果彼女を悲しませてるからじゃない。
<0328> それは、おれが記憶を失い、結果彼女を悲しませてるからじゃない。
// <0329> 過去のおれは関係ない。
<0329> 過去のおれは関係ない。
// <0330> 今のおれが、この一週間、彼女のそばにいて、自然にわいてきた感情だ。
<0330> 今のおれが、この一週間、彼女のそばにいて、自然にわいてきた感情だ。
// <0331> おれは智代と一緒に居たい。
<0331> おれは智代と一緒に居たい。
// <0332> これからも、ずっと一緒に。
<0332> これからも、ずっと一緒に。
// <0333> この気持ちを、きっと…
<0333> この気持ちを、きっと…
// <0334> 恋と呼ぶんだ。
<0334> 恋と呼ぶんだ。
// <0335> \{朋也}「智代、好きだ」
<0335> \{Tomoya}「智代、好きだ」
// <0336> 言葉にした。
<0336> 言葉にした。
// <0337> あの時、感じた衝動を。
<0337> あの時、感じた衝動を。
// <0338> キスをしたいと思ったおれの思いは、つまりそういうことだったんだ。
<0338> キスをしたいと思ったおれの思いは、つまりそういうことだったんだ。
// <0339> 智代と一緒に居たい。
<0339> 智代と一緒に居たい。
// <0340> ただ、それだけの気持ちだったんだ。
<0340> ただ、それだけの気持ちだったんだ。
// <0341> キスをしてから、告白するなんて。
<0341> キスをしてから、告白するなんて。
// <0342> \{朋也}「順番が逆かも知れないけど」
<0342> \{Tomoya}「順番が逆かも知れないけど」
// <0343> \{朋也}「おれは智代が好きだ」
<0343> \{Tomoya}「おれは智代が好きだ」
// <0344> おれの言葉に、智代は黙ったままだ。
<0344> おれの言葉に、智代は黙ったままだ。
// <0345> じぃっと、おれの顔を見ている。
<0345> じぃっと、おれの顔を見ている。
// <0346> だんだん、不安になってくる。
<0346> だんだん、不安になってくる。
// <0347> なにかひどく間違ったことを言ったんじゃないか、と。
<0347> なにかひどく間違ったことを言ったんじゃないか、と。
// <0348> ほんの数秒…
<0348> ほんの数秒…
// <0349> でも、永遠にも等しい時間がすぎた。
<0349> でも、永遠にも等しい時間がすぎた。
// <0350> \{智代}「うれしい」
<0350> \{Tomoyo}「うれしい」
// <0351> \{智代}「私もだ」
<0351> \{Tomoyo}「私もだ」
// <0352> \{智代}「朋也、おまえが好きだ」
<0352> \{Tomoyo}「朋也、おまえが好きだ」
// <0353> これまでも何度となく聞いた智代のセリフ。
<0353> これまでも何度となく聞いた智代のセリフ。
// <0354> おれのことが『好き』だという言葉。
<0354> おれのことが『好き』だという言葉。
// <0355> 初めて気づく。
<0355> 初めて気づく。
// <0356> その言葉に込められた意味を。
<0356> その言葉に込められた意味を。
// <0357> ごめんな、智代。
<0357> ごめんな、智代。
// <0358> 今頃になって、やっとわかった。
<0358> 今頃になって、やっとわかった。
// <0359> \{智代}「やっぱり、この学校は大切な場所なんだな」
<0359> \{Tomoyo}「やっぱり、この学校は大切な場所なんだな」
// <0360> \{智代}「私たちにとって、いつも始まりの場所になる」
<0360> \{Tomoyo}「私たちにとって、いつも始まりの場所になる」
// <0361> \{智代}「あの日もそうだった。そして、今日も」
<0361> \{Tomoyo}「あの日もそうだった。そして、今日も」
// <0362> \{智代}「そう…これは、終わりじゃないんだ」
<0362> \{Tomoyo}「そう…これは、終わりじゃないんだ」
// <0363> \{智代}「これは、始まりだ」
<0363> \{Tomoyo}「これは、始まりだ」
// <0364> \{智代}「とも…」
<0364> \{Tomoyo}「とも…」
// <0365> \{智代}「これから、どんなことがあっても…」
<0365> \{Tomoyo}「これから、どんなことがあっても…」
// <0366> \{智代}「どんなつらいことがあっても…」
<0366> \{Tomoyo}「どんなつらいことがあっても…」
// <0367> \{智代}「私はのりこえてみせるから…」
<0367> \{Tomoyo}「私はのりこえてみせるから…」
// <0368> \{智代}「だからともも…」
<0368> \{Tomoyo}「だからともも…」
// <0369> \{智代}「がんばるんだぞ…」
<0369> \{Tomoyo}「がんばるんだぞ…」
// <0370> \{とも}「うん」
<0370> \{Tomo}「うん」
// <0371> \{智代}「どっちがつよくなれるか、競争だな…」
<0371> \{Tomoyo}「どっちがつよくなれるか、競争だな…」
// <0372> \{智代}「まけないぞ…」
<0372> \{Tomoyo}「まけないぞ…」
// <0373> \{とも}「うん」
<0373> \{Tomo}「うん」
// <0374> \{智代}「朋也…」
<0374> \{Tomoyo}「朋也…」
// <0375> \{智代}「おまえは、もうすぐ…記憶を失う」
<0375> \{Tomoyo}「おまえは、もうすぐ…記憶を失う」
// <0376> \{朋也}「え…?」
<0376> \{Tomoya}「え…?」
// <0377> \{智代}「この一週間の記憶を失う」
<0377> \{Tomoyo}「この一週間の記憶を失う」
// <0378> \{智代}「…おまえが私を好きだと言ってくれた」
<0378> \{Tomoyo}「…おまえが私を好きだと言ってくれた」
// <0379> \{智代}「その気持ちも、失ってしまう」
<0379> \{Tomoyo}「その気持ちも、失ってしまう」
// <0380> \{智代}「………」
<0380> \{Tomoyo}「………」
// <0381> \{智代}「この夏は…おまえが事故に遭った夏じゃない」
<0381> \{Tomoyo}「この夏は…おまえが事故に遭った夏じゃない」
// <0382> \{智代}「その三年後の夏だ」
<0382> \{Tomoyo}「その三年後の夏だ」
// <0383> \{朋也}「………」
<0383> \{Tomoya}「………」
// <0384> \{智代}「あれから、もう三年という月日が流れたんだ」
<0384> \{Tomoyo}「あれから、もう三年という月日が流れたんだ」
// <0385> しばらく理解できず、呆然とする。
<0385> しばらく理解できず、呆然とする。
// <0386> ただ、嘘でも冗談でもない。それはわかる。
<0386> ただ、嘘でも冗談でもない。それはわかる。
// <0387> 智代の口から聞く言葉は、すべて等しく真実だった。
<0387> 智代の口から聞く言葉は、すべて等しく真実だった。
// <0388> 智代が語る『好き』と同じように。
<0388> 智代が語る『好き』と同じように。
// <0389> \{智代}「これを見てほしい」
<0389> \{Tomoyo}「これを見てほしい」
// <0390> ポケットから取り出したのは、システム手帳だった。
<0390> ポケットから取り出したのは、システム手帳だった。
// <0391> おれは無言のまま受け取り、中を開く。
<0391> おれは無言のまま受け取り、中を開く。
// <0392> カレンダーの六日前に、文字が記してある。
<0392> カレンダーの六日前に、文字が記してある。
// <0393> 退院記念日。
<0393> 退院記念日。
// <0394> 智代の、記念日をたくさん増やしていこう、という言葉を思い出す。
<0394> 智代の、記念日をたくさん増やしていこう、という言葉を思い出す。
// <0395> だからそう記してあるのだろう。
<0395> だからそう記してあるのだろう。
// <0396> そこからさかのぼっていく。
<0396> そこからさかのぼっていく。
// <0397> また一週間前にも、同じように、退院記念日の文字。
<0397> また一週間前にも、同じように、退院記念日の文字。
// <0398> さらにまた10日もしないうちに同じ文字。
<0398> さらにまた10日もしないうちに同じ文字。
// <0399> それがずっと続いていた。
<0399> それがずっと続いていた。
// <0400> 以前に撮ったプリントシールも貼られている。
<0400> 以前に撮ったプリントシールも貼られている。
// <0401> この間のものだけではない。
<0401> この間のものだけではない。
// <0402> もっと古いものも、たくさんあった。
<0402> もっと古いものも、たくさんあった。
// <0403> どの智代も笑っている。
<0403> どの智代も笑っている。
// <0404> どのおれも笑っている。
<0404> どのおれも笑っている。
// <0405> みんな笑っていた。
<0405> みんな笑っていた。
// <0406> …三年もの長い間。
<0406> …三年もの長い間。
// <0407> 智代は、どんな気持ちで笑っていたんだろう。
<0407> 智代は、どんな気持ちで笑っていたんだろう。
// <0408> \{智代}「今から三年前。おまえが卒業してから半年くらいしてからだ」
<0408> \{Tomoyo}「今から三年前。おまえが卒業してから半年くらいしてからだ」
// <0409> \{智代}「おまえは事故に遭った」
<0409> \{Tomoyo}「おまえは事故に遭った」
// <0410> \{智代}「その時は、外傷の手当てをしただけで、なんともなかったんだ…」
<0410> \{Tomoyo}「その時は、外傷の手当てをしただけで、なんともなかったんだ…」
// <0411> \{智代}「しばらくしてから、ある日突然倒れてしまった」
<0411> \{Tomoyo}「しばらくしてから、ある日突然倒れてしまった」
// <0412> \{智代}「それから、一時は意識不明の重態だったんだ」
<0412> \{Tomoyo}「それから、一時は意識不明の重態だったんだ」
// <0413> \{智代}「ようやく目が覚めたとき、おまえは中学卒業以降の記憶を失っていた」
<0413> \{Tomoyo}「ようやく目が覚めたとき、おまえは中学卒業以降の記憶を失っていた」
// <0414> \{智代}「最初は一時的なものだと思われた。医者も私も、楽観していたんだ」
<0414> \{Tomoyo}「最初は一時的なものだと思われた。医者も私も、楽観していたんだ」
// <0415> \{智代}「それから、一週間経った日だった」
<0415> \{Tomoyo}「それから、一週間経った日だった」
// <0416> \{智代}「おまえは、頭痛を訴え…そしてまた意識を失った」
<0416> \{Tomoyo}「おまえは、頭痛を訴え…そしてまた意識を失った」
// <0417> \{智代}「目を覚ましたら、その一週間の記憶をなくしていた」
<0417> \{Tomoyo}「目を覚ましたら、その一週間の記憶をなくしていた」
// <0418> \{智代}「医者にも原因はわからなかった」
<0418> \{Tomoyo}「医者にも原因はわからなかった」
// <0419> \{智代}「その後も、同じことが続いた」
<0419> \{Tomoyo}「その後も、同じことが続いた」
// <0420> \{智代}「10日と保たず、おまえは記憶をなくしてゆく」
<0420> \{Tomoyo}「10日と保たず、おまえは記憶をなくしてゆく」
// <0421> \{智代}「そんなことが…もう、三年続いている」
<0421> \{Tomoyo}「そんなことが…もう、三年続いている」
// <0422> \{朋也}「………」
<0422> \{Tomoya}「………」
// <0423> \{朋也}「じゃあ…」
<0423> \{Tomoya}「じゃあ…」
// <0424> \{朋也}「おまえは、卒業しているのに制服を着て学校に行っていたんだな…」
<0424> \{Tomoya}「おまえは、卒業しているのに制服を着て学校に行っていたんだな…」
// <0425> \{智代}「制服を着ていたほうが、おまえの中にある私の姿に近い」
<0425> \{Tomoyo}「制服を着ていたほうが、おまえの中にある私の姿に近い」
// <0426> \{智代}「朋也の記憶を取り戻す手助けになるだろうと思ったんだ」
<0426> \{Tomoyo}「朋也の記憶を取り戻す手助けになるだろうと思ったんだ」
// <0427> \{智代}「私は学校に事情を話した」
<0427> \{Tomoyo}「私は学校に事情を話した」
// <0428> \{智代}「生徒会長だったおかげで、協力も得やすかった」
<0428> \{Tomoyo}「生徒会長だったおかげで、協力も得やすかった」
// <0429> \{智代}「先生方にも、理解してもらえた」
<0429> \{Tomoyo}「先生方にも、理解してもらえた」
// <0430> \{智代}「私の選挙活動で、色々な部活を相手にしていたおかげで下級生の子たちにも結構知られていたからな」
<0430> \{Tomoyo}「私の選挙活動で、色々な部活を相手にしていたおかげで下級生の子たちにも結構知られていたからな」
// <0431> \{智代}「気が向いた時は、練習を手伝ったりしていたんだ」
<0431> \{Tomoyo}「気が向いた時は、練習を手伝ったりしていたんだ」
// <0432> 言われて、野球部のことを思い出す。
<0432> 言われて、野球部のことを思い出す。
// <0433> あの部長は、そういう事情を踏まえた上で、おれに笑いかけてくれたのか。
<0433> あの部長は、そういう事情を踏まえた上で、おれに笑いかけてくれたのか。
// <0434> \{朋也}「ああ…」
<0434> \{Tomoya}「ああ…」
// <0435> 長い息が口から漏れる。
<0435> 長い息が口から漏れる。
// <0436> そして、思い出す。
<0436> そして、思い出す。
// <0437> 小川さんという女の子のことだ。
<0437> 小川さんという女の子のことだ。
// <0438> 入学以来、ほとんど登校できず。この秋になってようやく復学できたという少女。
<0438> 入学以来、ほとんど登校できず。この秋になってようやく復学できたという少女。
// <0439> そして、彼女を探していた学級委員の少女。
<0439> そして、彼女を探していた学級委員の少女。
// <0440> あの時、少女が言っていた『伝説の生徒会長』とは美佐枝さんという寮母ではなく、智代のことだったんだ。
<0440> あの時、少女が言っていた『伝説の生徒会長』とは美佐枝さんという寮母ではなく、智代のことだったんだ。
// <0441> \{智代}「…すまなかった。決してだますつもりはなかったんだ」
<0441> \{Tomoyo}「…すまなかった。決してだますつもりはなかったんだ」
// <0442> \{朋也}「…いや、別に責めているわけじゃないんだ」
<0442> \{Tomoya}「…いや、別に責めているわけじゃないんだ」
// <0443> \{朋也}「ただ…」
<0443> \{Tomoya}「ただ…」
// <0444> \{朋也}「辛かっただろうなって…」
<0444> \{Tomoya}「辛かっただろうなって…」
// <0445> 彼女が過ごした時間を思う。
<0445> 彼女が過ごした時間を思う。
// <0446> おれが一週間だと思っていた時間が、実は三年間だったとは。
<0446> おれが一週間だと思っていた時間が、実は三年間だったとは。
// <0447> その間ずっとおれの記憶を取り戻そうとしてきた。
<0447> その間ずっとおれの記憶を取り戻そうとしてきた。
// <0448> 繰り返し、何回も。何十回も。
<0448> 繰り返し、何回も。何十回も。
// <0449> \{智代}「…うん」
<0449> \{Tomoyo}「…うん」
// <0450> 智代は小さく頷く。
<0450> 智代は小さく頷く。
// <0451> \{智代}「私は朋也の記憶を取り戻そうと懸命だった」
<0451> \{Tomoyo}「私は朋也の記憶を取り戻そうと懸命だった」
// <0452> \{智代}「春原や鷹文や河南子、他にもおまえを知る人たちを呼んできては、おまえと話をしてもらった」
<0452> \{Tomoyo}「春原や鷹文や河南子、他にもおまえを知る人たちを呼んできては、おまえと話をしてもらった」
// <0453> \{智代}「いろんな場所にも行ったんだ。いろんなことを試した」
<0453> \{Tomoyo}「いろんな場所にも行ったんだ。いろんなことを試した」
// <0454> \{智代}「旅行にも行ったんだ。温泉がいいと聞けば、そこにも行った」
<0454> \{Tomoyo}「旅行にも行ったんだ。温泉がいいと聞けば、そこにも行った」
// <0455> \{智代}「私は神様は信じないが、それにすがろうと思ったこともあった」
<0455> \{Tomoyo}「私は神様は信じないが、それにすがろうと思ったこともあった」
// <0456> \{智代}「…でも、駄目だった」
<0456> \{Tomoyo}「…でも、駄目だった」
// <0457> \{智代}「十日も経たないうちに、おまえはまた記憶を失って中学の頃に戻ってしまう」
<0457> \{Tomoyo}「十日も経たないうちに、おまえはまた記憶を失って中学の頃に戻ってしまう」
// <0458> \{智代}「そうして一年が経ち、二年が経ち…」
<0458> \{Tomoyo}「そうして一年が経ち、二年が経ち…」
// <0459> \{智代}「鷹文は卒業し、大学に進学するため、この町を出ていった」
<0459> \{Tomoyo}「鷹文は卒業し、大学に進学するため、この町を出ていった」
// <0460> \{智代}「これは、私がそうさせたんだ。あいつを悪く思わないでやってほしい」
<0460> \{Tomoyo}「これは、私がそうさせたんだ。あいつを悪く思わないでやってほしい」
// <0461> \{朋也}「わかるよ」
<0461> \{Tomoya}「わかるよ」
// <0462> \{智代}「うん…ありがとう」
<0462> \{Tomoyo}「うん…ありがとう」
// <0463> \{智代}「鷹文がいなくなり、河南子もそれについていった」
<0463> \{Tomoyo}「鷹文がいなくなり、河南子もそれについていった」
// <0464> \{智代}「春原はずっと実家で仕事を続けている」
<0464> \{Tomoyo}「春原はずっと実家で仕事を続けている」
// <0465> \{智代}「そうして…誰もいなくなって、ふたりきりになった」
<0465> \{Tomoyo}「そうして…誰もいなくなって、ふたりきりになった」
// <0466> \{智代}「この三年めは、ずっとふたりきりだ」
<0466> \{Tomoyo}「この三年めは、ずっとふたりきりだ」
// <0467> \{智代}「それでも、歩き続けた」
<0467> \{Tomoyo}「それでも、歩き続けた」
// <0468> \{智代}「この学校まで」
<0468> \{Tomoyo}「この学校まで」
// <0469> \{智代}「ふたりにとって、一番思い出深い場所だ」
<0469> \{Tomoyo}「ふたりにとって、一番思い出深い場所だ」
// <0470> \{智代}「私はこの学校という場所を、信じていたんだ」
<0470> \{Tomoyo}「私はこの学校という場所を、信じていたんだ」
// <0471> \{智代}「そうしてずっと願っていた」
<0471> \{Tomoyo}「そうしてずっと願っていた」
// <0472> \{智代}「朋也が記憶を取り戻してくれる日を」
<0472> \{Tomoyo}「朋也が記憶を取り戻してくれる日を」
// <0473> \{智代}「もう失わずに済む日を」
<0473> \{Tomoyo}「もう失わずに済む日を」
// <0474> \{智代}「だから今日も無理を言って、おまえを連れてきてしまった…」
<0474> \{Tomoyo}「だから今日も無理を言って、おまえを連れてきてしまった…」
// <0475> \{智代}「すまない…」
<0475> \{Tomoyo}「すまない…」
// <0476> \{智代}「おまえの頭痛は、風邪じゃない」
<0476> \{Tomoyo}「おまえの頭痛は、風邪じゃない」
// <0477> \{智代}「それは、また記憶を失う前兆だ」
<0477> \{Tomoyo}「それは、また記憶を失う前兆だ」
// <0478> \{智代}「おまえが、頭痛を訴え、意識を失うと…」
<0478> \{Tomoyo}「おまえが、頭痛を訴え、意識を失うと…」
// <0479> \{智代}「私は子供のように、ひとしきり泣いて…」
<0479> \{Tomoyo}「私は子供のように、ひとしきり泣いて…」
// <0480> \{智代}「おまえの目覚めを待つ…」
<0480> \{Tomoyo}「おまえの目覚めを待つ…」
// <0481> \{智代}「一抹の望みにかける…」
<0481> \{Tomoyo}「一抹の望みにかける…」
// <0482> \{智代}「でも、目覚めたおまえは私の名前がわからず…」
<0482> \{Tomoyo}「でも、目覚めたおまえは私の名前がわからず…」
// <0483> \{智代}「またふたりは、自己紹介から始めるんだ…」
<0483> \{Tomoyo}「またふたりは、自己紹介から始めるんだ…」
// <0484> おれは今週の始まりを思い出す。
<0484> おれは今週の始まりを思い出す。
// <0485> 白い病院の天井。
<0485> 白い病院の天井。
// <0486> そばに座っていた少女。
<0486> そばに座っていた少女。
// <0487> その時は、まだ彼女の名前を知らなかった。
<0487> その時は、まだ彼女の名前を知らなかった。
// <0488> 坂上智代。
<0488> 坂上智代。
// <0489> そう、名乗る。
<0489> そう、名乗る。
// <0490> おれが記憶喪失だと、告げる。
<0490> おれが記憶喪失だと、告げる。
// <0491> そんなことを、智代は何十回と、あるいは何百回と…
<0491> そんなことを、智代は何十回と、あるいは何百回と…
// <0492> \{智代}「でも、もう終わらせよう…この繰り返しの日々を」
<0492> \{Tomoyo}「でも、もう終わらせよう…この繰り返しの日々を」
// <0493> \{智代}「これまでおまえは私に『ありがとう』としか言ってくれなかった」
<0493> \{Tomoyo}「これまでおまえは私に『ありがとう』としか言ってくれなかった」
// <0494> \{智代}「私が聞きたいのは、その言葉じゃなかった」
<0494> \{Tomoyo}「私が聞きたいのは、その言葉じゃなかった」
// <0495> \{智代}「もう聞けないんじゃないかと思ったこともある」
<0495> \{Tomoyo}「もう聞けないんじゃないかと思ったこともある」
// <0496> \{智代}「でも…今日、ようやく…」
<0496> \{Tomoyo}「でも…今日、ようやく…」
// <0497> \{智代}「ようやく、おまえは、私に好きと言ってくれた…」
<0497> \{Tomoyo}「ようやく、おまえは、私に好きと言ってくれた…」
// <0498> \{智代}「それは、この三年間で初めてのことなんだ…」
<0498> \{Tomoyo}「それは、この三年間で初めてのことなんだ…」
// <0499> \{智代}「それでわかった」
<0499> \{Tomoyo}「それでわかった」
// <0500> \{智代}「私たちの愛は続いている」
<0500> \{Tomoyo}「私たちの愛は続いている」
// <0501> \{智代}「今も」
<0501> \{Tomoyo}「今も」
// <0502> \{智代}「今、おまえが証明してくれたんだ」
<0502> \{Tomoyo}「今、おまえが証明してくれたんだ」
// <0503> \{智代}「だから…」
<0503> \{Tomoyo}「だから…」
// <0504> \{智代}「勇気をもって…私はおまえに告げる…」
<0504> \{Tomoyo}「勇気をもって…私はおまえに告げる…」
// <0505> \{智代}「朋也、おまえの記憶喪失は手術で治るんだ」
<0505> \{Tomoyo}「朋也、おまえの記憶喪失は手術で治るんだ」
// <0506> ………。
<0506> ………。
// <0507> 何も返せないでいた。
<0507> 何も返せないでいた。
// <0508> 記憶喪失が、治る。
<0508> 記憶喪失が、治る。
// <0509> それが本当なら、すぐにもそうする。
<0509> それが本当なら、すぐにもそうする。
// <0510> けど、次の言葉が、その期待を打ち砕いた。
<0510> けど、次の言葉が、その期待を打ち砕いた。
// <0511> \{智代}「ただし成功する確率は、半分に満たない」
<0511> \{Tomoyo}「ただし成功する確率は、半分に満たない」
// <0512> \{朋也}「………」
<0512> \{Tomoya}「………」
// <0513> 俺はそのまま黙り込んだままでいた。
<0513> 俺はそのまま黙り込んだままでいた。
// <0514> \{智代}「その原因となっている脳の腫瘍は手術がとても難しい場所にあるんだ」
<0514> \{Tomoyo}「その原因となっている脳の腫瘍は手術がとても難しい場所にあるんだ」
// <0515> \{智代}「でも、成功すれば、記憶が戻る可能性も高いという話だ…」
<0515> \{Tomoyo}「でも、成功すれば、記憶が戻る可能性も高いという話だ…」
// <0516> \{智代}「今のところは手術をせずとも、命には関わらない…」
<0516> \{Tomoyo}「今のところは手術をせずとも、命には関わらない…」
// <0517> \{智代}「私と朋也のお父さんは、話し合った末に、様子を見る、という結論を出した」
<0517> \{Tomoyo}「私と朋也のお父さんは、話し合った末に、様子を見る、という結論を出した」
// <0518> \{智代}「私はずっと…こわかったんだ」
<0518> \{Tomoyo}「私はずっと…こわかったんだ」
// <0519> \{智代}「私はおまえの記憶が戻ることを望んでいた」
<0519> \{Tomoyo}「私はおまえの記憶が戻ることを望んでいた」
// <0520> \{智代}「それは偽りのない気持ちだ」
<0520> \{Tomoyo}「それは偽りのない気持ちだ」
// <0521> \{智代}「でも、それ以上に私はおまえを永遠に失うことがこわかった」
<0521> \{Tomoyo}「でも、それ以上に私はおまえを永遠に失うことがこわかった」
// <0522> \{智代}「だから、私は自然に記憶が戻るのを待つことを選んだ…」
<0522> \{Tomoyo}「だから、私は自然に記憶が戻るのを待つことを選んだ…」
// <0523> そして、智代は自らに辛い日々を課した。
<0523> そして、智代は自らに辛い日々を課した。
// <0524> 三年という時間。
<0524> 三年という時間。
// <0525> 途方もない時間だ。
<0525> 途方もない時間だ。
// <0526> \{智代}「これがすべてだ」
<0526> \{Tomoyo}「これがすべてだ」
// <0527> \{智代}「真実だ」
<0527> \{Tomoyo}「真実だ」
// <0528> \{智代}「許してほしい…」
<0528> \{Tomoyo}「許してほしい…」
// <0529> \{朋也}「いや…」
<0529> \{Tomoya}「いや…」
// <0530> 智代の選択は決して間違ったものじゃない。
<0530> 智代の選択は決して間違ったものじゃない。
// <0531> リスクが少ないならば、そちらを選ぶのは自然なことだ。
<0531> リスクが少ないならば、そちらを選ぶのは自然なことだ。
// <0532> \{智代}「もう何があろうと迷わない」
<0532> \{Tomoyo}「もう何があろうと迷わない」
// <0533> \{智代}「この先、何が起ころうとも…」
<0533> \{Tomoyo}「この先、何が起ころうとも…」
// <0534> \{智代}「私たちの愛は永遠だ」
<0534> \{Tomoyo}「私たちの愛は永遠だ」
// <0535> \{智代}「…朋也」
<0535> \{Tomoyo}「…朋也」
// <0536> \{智代}「朋也は…どうしたい?」
<0536> \{Tomoyo}「朋也は…どうしたい?」
// <0537> …手術を受けるか、受けないか。
<0537> …手術を受けるか、受けないか。
// <0538> 受ければ、成功するかもしれないし、失敗するかもしれない。
<0538> 受ければ、成功するかもしれないし、失敗するかもしれない。
// <0539> 成功すれば、おれは記憶を取り戻すことができるだろう…智代と過ごした学生時代の記憶を。
<0539> 成功すれば、おれは記憶を取り戻すことができるだろう…智代と過ごした学生時代の記憶を。
// <0540> しかし、失敗する可能性も高い。
<0540> しかし、失敗する可能性も高い。
// <0541> おれは…命を落とすかもしれない。
<0541> おれは…命を落とすかもしれない。
// <0542> 手術を受けない、という選択肢もある。
<0542> 手術を受けない、という選択肢もある。
// <0543> このまま眠りにつけば、明日目覚めた時、おれはまた病院のベッドの上で戸惑うのだろう。
<0543> このまま眠りにつけば、明日目覚めた時、おれはまた病院のベッドの上で戸惑うのだろう。
// <0544> 隣に座る智代を、初めて出会う人だと思い…今、この時間を中学時代の続きだと思う。
<0544> 隣に座る智代を、初めて出会う人だと思い…今、この時間を中学時代の続きだと思う。
// <0545> 智代がどれだけ大切な人かを、知らないおれがいる。
<0545> 智代がどれだけ大切な人かを、知らないおれがいる。
// <0546> そして、何も知らないまま一週間が始まる。
<0546> そして、何も知らないまま一週間が始まる。
// <0547> これまでがそうだったように。
<0547> これまでがそうだったように。
// <0548> 智代は、その流れの中でおれの記憶が戻るのを待ち続ける。
<0548> 智代は、その流れの中でおれの記憶が戻るのを待ち続ける。
// <0549> これまでと変わらない、生活が続いていく。
<0549> これまでと変わらない、生活が続いていく。
// <0550> おれだって、なにも進んで危険を冒したくはない。
<0550> おれだって、なにも進んで危険を冒したくはない。
// <0551> でも…
<0551> でも…
// <0552> 坂上智代。
<0552> 坂上智代。
// <0553> おれの好きな人。
<0553> おれの好きな人。
// <0554> 大切な、ひと。
<0554> 大切な、ひと。
// <0555> この気持ちを忘れたくない。
<0555> この気持ちを忘れたくない。
// <0556> 他人を愛しく想うこの気持ちを。
<0556> 他人を愛しく想うこの気持ちを。
// <0557> それに。
<0557> それに。
// <0558> 智代の話の中に出てきた名前。
<0558> 智代の話の中に出てきた名前。
// <0559> 春原や鷹文や河南子。
<0559> 春原や鷹文や河南子。
// <0560> 他にも、おれには、きっと大切なひとたちがいる。
<0560> 他にも、おれには、きっと大切なひとたちがいる。
// <0561> 彼らが大切だと思う気持ちを、自分の心に取り戻したい。
<0561> 彼らが大切だと思う気持ちを、自分の心に取り戻したい。
// <0562> おれは、智代のために。
<0562> おれは、智代のために。
// <0563> そして、誰よりも自分のためにすべてを…
<0563> そして、誰よりも自分のためにすべてを…
// <0564> 思い出したい。
<0564> 思い出したい。
// <0565> 恐くない、と言えば嘘になる。
<0565> 恐くない、と言えば嘘になる。
// <0566> でも、迷わない。
<0566> でも、迷わない。
// <0567> 智代がおれに勇気をもらったと言うのなら、それはおれだって同じだ。
<0567> 智代がおれに勇気をもらったと言うのなら、それはおれだって同じだ。
// <0568> なあ、智代。
<0568> なあ、智代。
// <0569> そうだろう?
<0569> そうだろう?
// <0570> だから、おれの口から出た言葉は、こうだった。
<0570> だから、おれの口から出た言葉は、こうだった。
// <0571> \{朋也}「結婚しよう、智代」
<0571> \{Tomoya}「結婚しよう、智代」
// <0572> \{智代}「えっ?」
<0572> \{Tomoyo}「えっ?」
// <0573> この気持ちを形にしよう。
<0573> この気持ちを形にしよう。
// <0574> 永遠の『愛してる』に等しい、ただひとつの言葉。
<0574> 永遠の『愛してる』に等しい、ただひとつの言葉。
// <0575> \{朋也}「結婚しよう」
<0575> \{Tomoya}「結婚しよう」
// <0576> おれと智代は、家族になるんだ。
<0576> おれと智代は、家族になるんだ。
// <0577> 唖然としている智代に向かって、おれは言った。
<0577> 唖然としている智代に向かって、おれは言った。
// <0578> \{朋也}「これからも、ずっと一緒だ」
<0578> \{Tomoya}「これからも、ずっと一緒だ」
// <0579> \{朋也}「この気持ちは、永遠に失われないから」
<0579> \{Tomoya}「この気持ちは、永遠に失われないから」
// <0580> \{朋也}「そのために、おれは手術を受けるんだ」
<0580> \{Tomoya}「そのために、おれは手術を受けるんだ」
// <0581> \{朋也}「もう、忘れたくないから」
<0581> \{Tomoya}「もう、忘れたくないから」
// <0582> \{智代}「うん…」
<0582> \{Tomoyo}「うん…」
// <0583> \{智代}「そうしよう」
<0583> \{Tomoyo}「そうしよう」
// <0584> \{智代}「私もこの気持ちは永遠だ」
<0584> \{Tomoyo}「私もこの気持ちは永遠だ」
// <0585> \{智代}「結婚…しよう」
<0585> \{Tomoyo}「結婚…しよう」
// <0586> \{朋也}「たとえ…次に目覚めて、今日までの記憶がまたなくなっていたとしても」
<0586> \{Tomoya}「たとえ…次に目覚めて、今日までの記憶がまたなくなっていたとしても」
// <0587> \{朋也}「おれはまた智代を好きになる」
<0587> \{Tomoya}「おれはまた智代を好きになる」
// <0588> \{朋也}「きっと」
<0588> \{Tomoya}「きっと」
// <0589> \{朋也}「きっと、だ」
<0589> \{Tomoya}「きっと、だ」
// <0590> 頭痛がひどくなる。
<0590> 頭痛がひどくなる。
// <0591> 耐えきれない痛みが襲う。
<0591> 耐えきれない痛みが襲う。
// <0592> \{智代}「朋也…」
<0592> \{Tomoyo}「朋也…」
// <0593> 気がつけば、智代の腕の中にいた。
<0593> 気がつけば、智代の腕の中にいた。
// <0594> すでに、意識はぼんやりとしている。
<0594> すでに、意識はぼんやりとしている。
// <0595> これが…記憶がなくなる前兆なのか。
<0595> これが…記憶がなくなる前兆なのか。
// <0596> 智代は、悲しそうな顔をしている。
<0596> 智代は、悲しそうな顔をしている。
// <0597> \{朋也}「智代…」
<0597> \{Tomoya}「智代…」
// <0598> \{朋也}「悲しむ必要はないんだ…」
<0598> \{Tomoya}「悲しむ必要はないんだ…」
// <0599> \{朋也}「おれは、また戻ってくるから…」
<0599> \{Tomoya}「おれは、また戻ってくるから…」
// <0600> \{朋也}「だから、待っていてほしい」
<0600> \{Tomoya}「だから、待っていてほしい」
// <0601> 痛みに耐えながら、おれは笑った。
<0601> 痛みに耐えながら、おれは笑った。
// <0602> \{朋也}「智代も笑ってほしい」
<0602> \{Tomoya}「智代も笑ってほしい」
// <0603> \{朋也}「最後に見るのが、泣き顔なんて嫌だからな」
<0603> \{Tomoya}「最後に見るのが、泣き顔なんて嫌だからな」
// <0604> \{智代}「ああ、わかった」
<0604> \{Tomoyo}「ああ、わかった」
// <0605> 智代が微笑む。
<0605> 智代が微笑む。
// <0606> \{智代}「待っているからな、朋也」
<0606> \{Tomoyo}「待っているからな、朋也」
// <0607> \{智代}「だから…今はゆっくり眠ってくれ」
<0607> \{Tomoyo}「だから…今はゆっくり眠ってくれ」
// <0608> ………
<0608> ………
// <0609> 智代の体はやわらかかった。
<0609> 智代の体はやわらかかった。
// <0610> その温もりの中。
<0610> その温もりの中。
// <0611> おれの意識は遠のいていった。
<0611> おれの意識は遠のいていった。
// <0612> アフター8日目
<0612> アフター8日目
// <0613> 薄明かりに目をしょぼつかせる。
<0613> 薄明かりに目をしょぼつかせる。
// <0614> まぶたひとつ動かすことが、ひどくつらい。
<0614> まぶたひとつ動かすことが、ひどくつらい。
// <0615> それでも、強引に開く。
<0615> それでも、強引に開く。
// <0616> 白い天井があった。
<0616> 白い天井があった。
// <0617> そして、覗き込んでいる少女がいた。
<0617> そして、覗き込んでいる少女がいた。
// <0618> その瞳は悲しみに満ちていた。
<0618> その瞳は悲しみに満ちていた。
// <0619> おれは口を開こうとする。
<0619> おれは口を開こうとする。
// <0620> 喉が、ひどく乾いている。
<0620> 喉が、ひどく乾いている。
// <0621> \{朋也}「あ、うぅ」
<0621> \{Tomoya}「あ、うぅ」
// <0622> それだけ言うのがやっとだった。
<0622> それだけ言うのがやっとだった。
// <0623> \{少女}「朋也」
<0623> \{Young lady}「朋也」
// <0624> 少女がゆっくりと誰かの名を呼ぶ。
<0624> 少女がゆっくりと誰かの名を呼ぶ。
// <0625> \{少女}「とも、や……」
<0625> \{Young lady}「とも、や……」
// <0626> 二回目は弱々しく。
<0626> 二回目は弱々しく。
// <0627> それは、おれの名なのだろうか。
<0627> それは、おれの名なのだろうか。
// <0628> ともや。
<0628> ともや。
// <0629> そうだ。
<0629> そうだ。
// <0630> おれの名は岡崎朋也だ。
<0630> おれの名は岡崎朋也だ。
// <0631> だんだんと意識が戻ってくる。
<0631> だんだんと意識が戻ってくる。
// <0632> \{少女}「私の名前は…わからないな?」
<0632> \{Young lady}「私の名前は…わからないな?」
// <0633> わからない。
<0633> わからない。
// <0634> 頷くしかなかった。
<0634> 頷くしかなかった。
// <0635> \{少女}「私の名は、岡崎智代。おまえの名は、岡崎朋也」
<0635> \{Young lady}「私の名は、岡崎智代。おまえの名は、岡崎朋也」
// <0636> 少女がおれの腕を取る。
<0636> 少女がおれの腕を取る。
// <0637> 指の先までを伸ばさせた。
<0637> 指の先までを伸ばさせた。
// <0638> 彼女の薬指に光るものがひとつ。
<0638> 彼女の薬指に光るものがひとつ。
// <0639> おれの薬指にも、同じものがひとつ。
<0639> おれの薬指にも、同じものがひとつ。
// <0640> \{智代}「私たちは…\p
<0640> \{Tomoyo}「私たちは…\p
// <0641> 家族だ」
<0641> 家族だ」
// <0642> たった今、初めて出会う少女。
<0642> たった今、初めて出会う少女。
// <0643> だが、はっきりとわかる。
<0643> だが、はっきりとわかる。
// <0644> ああ、そうだ。
<0644> ああ、そうだ。
// <0645> おれと智代は、愛し合っている。
<0645> おれと智代は、愛し合っている。
// <0646> ずっと前から、そうだったと信じられる。
<0646> ずっと前から、そうだったと信じられる。
// <0647> \{朋也}「智代」
<0647> \{Tomoya}「智代」
// <0648> \{智代}「なんだ。朋也」
<0648> \{Tomoyo}「なんだ。朋也」
// <0649> \{朋也}「愛してる」
<0649> \{Tomoya}「愛してる」
// <0650> \{智代}「うん、私もだ」
<0650> \{Tomoyo}「うん、私もだ」