// Resources for SEEN5007.TXT
// #character '智代'
#character 'Tomoyo'
// #character '朋也'
#character 'Tomoya'
// #character '直幸'
#character 'Naoyuki'
// <0000> アフターラスト
<0000> After - Last
// <0001> よく晴れた秋の日。
<0001> よく晴れた秋の日。
// <0002> 目の前を飛ぶ赤とんぼを目で追う。
<0002> 目の前を飛ぶ赤とんぼを目で追う。
// <0003> くるり、と宙で輪を描くと目の届かぬところまで行ってしまった。
<0003> くるり、と宙で輪を描くと目の届かぬところまで行ってしまった。
// <0004> \{智代}「朋也、何をぼんやりとしているんだ」
<0004> \{Tomoyo}「朋也、何をぼんやりとしているんだ」
// <0005> \{朋也}「あ、ああ」
<0005> \{Tomoya}「あ、ああ」
// <0006> おれたちは、一軒の家の前に立っていた。
<0006> おれたちは、一軒の家の前に立っていた。
// <0007> 懐かしい、とは思わない。
<0007> 懐かしい、とは思わない。
// <0008> だが本当は、久しぶり、なのだ。
<0008> だが本当は、久しぶり、なのだ。
// <0009> 記憶の中ではこれまでも毎日家に帰っているのだが、実際の時間では何年ぶりになるのだろう。
<0009> 記憶の中ではこれまでも毎日家に帰っているのだが、実際の時間では何年ぶりになるのだろう。
// <0010> この家の敷居をまたぐのは。
<0010> この家の敷居をまたぐのは。
// <0011> よく見ると、壁の痛みが記憶にあるものよりもひどくなっている。
<0011> よく見ると、壁の痛みが記憶にあるものよりもひどくなっている。
// <0012> 今にも崩れてしまいそうな、寂しい印象を受ける。
<0012> 今にも崩れてしまいそうな、寂しい印象を受ける。
// <0013> この家には、ずっとひとりの男が住んでいた。
<0013> この家には、ずっとひとりの男が住んでいた。
// <0014> その男の心の内を示しているような気がした。
<0014> その男の心の内を示しているような気がした。
// <0015> おれと智代は、そいつに会うために来たんだ。
<0015> おれと智代は、そいつに会うために来たんだ。
// <0016> おれが手術を受けること。
<0016> おれが手術を受けること。
// <0017> そして、智代と結婚したことを報告するために。
<0017> そして、智代と結婚したことを報告するために。
// <0018> \{智代}「朋也が開けてくれ」
<0018> \{Tomoyo}「朋也が開けてくれ」
// <0019> 一枚の扉。
<0019> 一枚の扉。
// <0020> ただそれだけが、おれとこの家を隔てている。
<0020> ただそれだけが、おれとこの家を隔てている。
// <0021> 右手を取っ手にかけ、躊躇する。
<0021> 右手を取っ手にかけ、躊躇する。
// <0022> おれはここに来るまでに、智代から聞いた話を思い出していた。
<0022> おれはここに来るまでに、智代から聞いた話を思い出していた。
// <0023> \{智代}「直幸さんに会う前に、言っておくことがある」
<0023> \{Tomoyo}「直幸さんに会う前に、言っておくことがある」
// <0024> \{智代}「朋也の肩のことだ」
<0024> \{Tomoyo}「朋也の肩のことだ」
// <0025> 肩の高さまでしか上がらない右腕。
<0025> 肩の高さまでしか上がらない右腕。
// <0026> この肩のせいで、おれはバスケを断念することになったと聞いている。
<0026> この肩のせいで、おれはバスケを断念することになったと聞いている。
// <0027> だが、その原因を智代の口から聞いたことはなかった。
<0027> だが、その原因を智代の口から聞いたことはなかった。
// <0028> \{智代}「…この話をしないでいるのは、卑怯だと思う」
<0028> \{Tomoyo}「…この話をしないでいるのは、卑怯だと思う」
// <0029> \{朋也}「卑怯?」
<0029> \{Tomoya}「卑怯?」
// <0030> \{智代}「うん…」
<0030> \{Tomoyo}「うん…」
// <0031> \{智代}「私は本当はその原因を知っている。以前に朋也から聞いているからだ」
<0031> \{Tomoyo}「私は本当はその原因を知っている。以前に朋也から聞いているからだ」
// <0032> \{智代}「今の朋也なら、それを教えてもいいと思う」
<0032> \{Tomoyo}「今の朋也なら、それを教えてもいいと思う」
// <0033> \{智代}「いや、おまえは知らなくてはいけないんだ」
<0033> \{Tomoyo}「いや、おまえは知らなくてはいけないんだ」
// <0034> そして、智代の口から語られた話。
<0034> そして、智代の口から語られた話。
// <0035> 話自体は短いものだった。
<0035> 話自体は短いものだった。
// <0036> おれの右肩が駄目になったのは、親父のせいだという。
<0036> おれの右肩が駄目になったのは、親父のせいだという。
// <0037> ただ、それだけの話だ。
<0037> ただ、それだけの話だ。
// <0038> 記憶にない『おれ』は、そのせいでそれまで以上に親父に反発をするようになった。
<0038> 記憶にない『おれ』は、そのせいでそれまで以上に親父に反発をするようになった。
// <0039> そして、親父もまた。
<0039> そして、親父もまた。
// <0040> おれと距離を置くようになった。
<0040> おれと距離を置くようになった。
// <0041> …我が子なのに、まるで他人と接するように。
<0041> …我が子なのに、まるで他人と接するように。
// <0042> それは、冷たいわけじゃない。
<0042> それは、冷たいわけじゃない。
// <0043> むしろ、親しげだったと言う。
<0043> むしろ、親しげだったと言う。
// <0044> 親しい友人と話すように、おれに話しかけてきた。
<0044> 親しい友人と話すように、おれに話しかけてきた。
// <0045> それが、おれには我慢できなかった。
<0045> それが、おれには我慢できなかった。
// <0046> 智代の口から聞くだけでは、実感に乏しい部分もあった。
<0046> 智代の口から聞くだけでは、実感に乏しい部分もあった。
// <0047> だが、おれと親父の関係が、おれが知っている時よりも悪くなっているということはわかった。
<0047> だが、おれと親父の関係が、おれが知っている時よりも悪くなっているということはわかった。
// <0048> \{智代}「私は直幸さんと何回も会っている」
<0048> \{Tomoyo}「私は直幸さんと何回も会っている」
// <0049> \{智代}「おまえが記憶を失くす前、付き合い始めたばかりの頃にも会っている」
<0049> \{Tomoyo}「おまえが記憶を失くす前、付き合い始めたばかりの頃にも会っている」
// <0050> \{智代}「私には、あの人がおまえの言うような人には思えなかった」
<0050> \{Tomoyo}「私には、あの人がおまえの言うような人には思えなかった」
// <0051> \{智代}「あの人も苦しんでいるように見えた」
<0051> \{Tomoyo}「あの人も苦しんでいるように見えた」
// <0052> \{智代}「だから…朋也」
<0052> \{Tomoyo}「だから…朋也」
// <0053> おれは首を横に振る。
<0053> おれは首を横に振る。
// <0054> \{朋也}「正直言って、おれにはわからない」
<0054> \{Tomoya}「正直言って、おれにはわからない」
// <0055> \{朋也}「肩を壊していると知った時は、ショックだった」
<0055> \{Tomoya}「肩を壊していると知った時は、ショックだった」
// <0056> \{朋也}「バスケができなかったおれが、どんな学生生活を送ったかも智代から聞いた」
<0056> \{Tomoya}「バスケができなかったおれが、どんな学生生活を送ったかも智代から聞いた」
// <0057> \{朋也}「その原因が親父にあったこと、そのせいで親父とおれの関係がどうなったのかは今、聞いた」
<0057> \{Tomoya}「その原因が親父にあったこと、そのせいで親父とおれの関係がどうなったのかは今、聞いた」
// <0058> \{朋也}「でも…今のおれには中学までの記憶しかない」
<0058> \{Tomoya}「でも…今のおれには中学までの記憶しかない」
// <0059> \{朋也}「おれの知るあいつはだらしない男だった」
<0059> \{Tomoya}「おれの知るあいつはだらしない男だった」
// <0060> \{朋也}「誰からも頼りにされず、仕事も大したことはしていない」
<0060> \{Tomoya}「誰からも頼りにされず、仕事も大したことはしていない」
// <0061> \{朋也}「かろうじて金を稼いでくるだけの…」
<0061> \{Tomoya}「かろうじて金を稼いでくるだけの…」
// <0062> \{朋也}「いてもいなくても、変わらないような…」
<0062> \{Tomoya}「いてもいなくても、変わらないような…」
// <0063> \{朋也}「そんな奴だった」
<0063> \{Tomoya}「そんな奴だった」
// <0064> \{朋也}「でも智代が、あいつに結婚の報告をしたいと言うから…」
<0064> \{Tomoya}「でも智代が、あいつに結婚の報告をしたいと言うから…」
// <0065> \{朋也}「だから…今日はおまえの顔を立てて来ただけだ」
<0065> \{Tomoya}「だから…今日はおまえの顔を立てて来ただけだ」
// <0066> \{朋也}「智代が何を考えているかはしらないが…期待はしないでくれ」
<0066> \{Tomoya}「智代が何を考えているかはしらないが…期待はしないでくれ」
// <0067> \{智代}「うん」
<0067> \{Tomoyo}「うん」
// <0068> 呼び鈴を鳴らし、返事を待たずにおれは扉を開けた。
<0068> 呼び鈴を鳴らし、返事を待たずにおれは扉を開けた。
// <0069> 一瞬、息を飲む。
<0069> 一瞬、息を飲む。
// <0070> あのだらしない男が何年もひとり暮らしをしていたのだ。
<0070> あのだらしない男が何年もひとり暮らしをしていたのだ。
// <0071> 家の中はどんなものだろうかと覚悟をしていた。
<0071> 家の中はどんなものだろうかと覚悟をしていた。
// <0072> だが…
<0072> だが…
// <0073> まず目に入ったのは玄関先ですでにおれたちを待つ親父の姿だった。
<0073> まず目に入ったのは玄関先ですでにおれたちを待つ親父の姿だった。
// <0074> 記憶の中にある姿よりも、随分と年を取っている。
<0074> 記憶の中にある姿よりも、随分と年を取っている。
// <0075> 頭の毛は白くなり、しわも目立つ。
<0075> 頭の毛は白くなり、しわも目立つ。
// <0076> だが、おれの知っている親父だった。
<0076> だが、おれの知っている親父だった。
// <0077> \{直幸}「待っていたよ、朋也くん」
<0077> \{Naoyuki}「待っていたよ、朋也くん」
// <0078> \{直幸}「智代さんも、よく来てくれた」
<0078> \{Naoyuki}「智代さんも、よく来てくれた」
// <0079> \{直幸}「さあ、上がってくれ」
<0079> \{Naoyuki}「さあ、上がってくれ」
// <0080> 促されるままに、おれと智代は靴を脱ぐ。
<0080> 促されるままに、おれと智代は靴を脱ぐ。
// <0081> おれたちの少し前を歩く親父は、ひとまわり小さくなってしまったように見えた。
<0081> おれたちの少し前を歩く親父は、ひとまわり小さくなってしまったように見えた。
// <0082> 狭い廊下を抜けると、すぐに居間に行きつく。
<0082> 狭い廊下を抜けると、すぐに居間に行きつく。
// <0083> 親父はおれたちを居間に通すと、姿を消した。
<0083> 親父はおれたちを居間に通すと、姿を消した。
// <0084> 部屋を見回す。
<0084> 部屋を見回す。
// <0085> ささくれた畳、すきま風の入る窓、どことなく湿った空気。
<0085> ささくれた畳、すきま風の入る窓、どことなく湿った空気。
// <0086> それらが年月の経過を感じさせる。
<0086> それらが年月の経過を感じさせる。
// <0087> だが、綺麗だった。
<0087> だが、綺麗だった。
// <0088> 廊下にも部屋にも、埃は落ちていなかった。
<0088> 廊下にも部屋にも、埃は落ちていなかった。
// <0089> 行き届いた掃除がされているようだ。
<0089> 行き届いた掃除がされているようだ。
// <0090> \{朋也}「智代、今日来ることを言ったのか?」
<0090> \{Tomoya}「智代、今日来ることを言ったのか?」
// <0091> 智代は黙って首を振った。
<0091> 智代は黙って首を振った。
// <0092> どうして、親父はおれたちが来るのを知っていたんだろう…。
<0092> どうして、親父はおれたちが来るのを知っていたんだろう…。
// <0093> ほどなく、親父はお茶を入れて持ってきた。
<0093> ほどなく、親父はお茶を入れて持ってきた。
// <0094> \{直幸}「なにもないが、どうぞ」
<0094> \{Naoyuki}「なにもないが、どうぞ」
// <0095> 差し出された茶碗はふちがわずかに欠けていた。
<0095> 差し出された茶碗はふちがわずかに欠けていた。
// <0096> 三人でちゃぶ台を囲む。
<0096> 三人でちゃぶ台を囲む。
// <0097> 親父は、おれたちの顔を交互に見ていた。
<0097> 親父は、おれたちの顔を交互に見ていた。
// <0098> \{直幸}「久しぶりだね、朋也くん」
<0098> \{Naoyuki}「久しぶりだね、朋也くん」
// <0099> \{朋也}「どうして」
<0099> \{Tomoya}「どうして」
// <0100> \{朋也}「どうして一回も来なかったんだよ」
<0100> \{Tomoya}「どうして一回も来なかったんだよ」
// <0101> \{直幸}「うん」
<0101> \{Naoyuki}「うん」
// <0102> \{直幸}「…どうしてかな」
<0102> \{Naoyuki}「…どうしてかな」
// <0103> まるで他人事のような口ぶり。
<0103> まるで他人事のような口ぶり。
// <0104> やはり、こいつは智代が言っていたように、おれのことを他人だと思っているのか。
<0104> やはり、こいつは智代が言っていたように、おれのことを他人だと思っているのか。
// <0105> \{智代}「直幸さん、今日は話があってきたんだ」
<0105> \{Tomoyo}「直幸さん、今日は話があってきたんだ」
// <0106> おれが言葉を発する前に、智代が言う。
<0106> おれが言葉を発する前に、智代が言う。
// <0107> \{智代}「報告が後になって非常に申し訳ないんだが…」
<0107> \{Tomoyo}「報告が後になって非常に申し訳ないんだが…」
// <0108> \{智代}「籍を入れたんだ」
<0108> \{Tomoyo}「籍を入れたんだ」
// <0109> 握った俺の手に力を込める。それを持ち上げて見せた。
<0109> 握った俺の手に力を込める。それを持ち上げて見せた。
// <0110> \{直幸}「そうか…」
<0110> \{Naoyuki}「そうか…」
// <0111> \{直幸}「それは、おめでとう」
<0111> \{Naoyuki}「それは、おめでとう」
// <0112> \{智代}「それと…もうひとつ、大事な報告がある」
<0112> \{Tomoyo}「それと…もうひとつ、大事な報告がある」
// <0113> \{智代}「朋也が…手術をすることにしたんだ」
<0113> \{Tomoyo}「朋也が…手術をすることにしたんだ」
// <0114> \{直幸}「そうか…」
<0114> \{Naoyuki}「そうか…」
// <0115> 今度のそうか、はさっきのそうかとはまったく違う響きだ。
<0115> 今度のそうか、はさっきのそうかとはまったく違う響きだ。
// <0116> 複雑な…心配するような『そうか』だった。
<0116> 複雑な…心配するような『そうか』だった。
// <0117> \{朋也}「手術はきっと成功する。そうしたら、おれは智代とふたりで暮らす」
<0117> \{Tomoya}「手術はきっと成功する。そうしたら、おれは智代とふたりで暮らす」
// <0118> おれは精一杯強がってみせた。
<0118> おれは精一杯強がってみせた。
// <0119> こんな奴に心配なんかされたくない。
<0119> こんな奴に心配なんかされたくない。
// <0120> \{朋也}「そうなればもう…この家に来ることもないだろう」
<0120> \{Tomoya}「そうなればもう…この家に来ることもないだろう」
// <0121> \{朋也}「さあ、いこう。智代」
<0121> \{Tomoya}「さあ、いこう。智代」
// <0122> 智代はしばらく迷っていた。
<0122> 智代はしばらく迷っていた。
// <0123> 迷った後、結局おれに続いた。
<0123> 迷った後、結局おれに続いた。
// <0124> \{朋也}「じゃあな、親父」
<0124> \{Tomoya}「じゃあな、親父」
// <0125> \{朋也}「もう会うこともないだろうけど、元気でな」
<0125> \{Tomoya}「もう会うこともないだろうけど、元気でな」
// <0126> 言い残して、おれは足早に玄関に向かった。
<0126> 言い残して、おれは足早に玄関に向かった。
// <0127> 親父は何も言わなかった。
<0127> 親父は何も言わなかった。
// <0128> ついてくることもなかった。
<0128> ついてくることもなかった。
// <0129> …呆気ないものだ。
<0129> …呆気ないものだ。
// <0130> これで、おれと親父のつながりは終わったんだ。
<0130> これで、おれと親父のつながりは終わったんだ。
// <0131> 智代が隣にいないことに気づく。
<0131> 智代が隣にいないことに気づく。
// <0132> 振り返ると、智代は窓から家の中を覗いていた。
<0132> 振り返ると、智代は窓から家の中を覗いていた。
// <0133> \{朋也}「智代、何をやってるんだ」
<0133> \{Tomoya}「智代、何をやってるんだ」
// <0134> \{智代}「朋也…」
<0134> \{Tomoyo}「朋也…」
// <0135> おれを見る智代の目が何か言いたげだ。
<0135> おれを見る智代の目が何か言いたげだ。
// <0136> \{智代}「おまえも見ろ」
<0136> \{Tomoyo}「おまえも見ろ」
// <0137> そう言って、場所を空ける。
<0137> そう言って、場所を空ける。
// <0138> 今更…何を見るものがあるんだ。
<0138> 今更…何を見るものがあるんだ。
// <0139> 窓にはまったガラスは、端がひびわれていた。
<0139> 窓にはまったガラスは、端がひびわれていた。
// <0140> それをテープで補強してある。
<0140> それをテープで補強してある。
// <0141> ガラスを買い換える金もないのか。
<0141> ガラスを買い換える金もないのか。
// <0142> 智代に促され、部屋の中を見る。
<0142> 智代に促され、部屋の中を見る。
// <0143> 誰もいない。
<0143> 誰もいない。
// <0144> さっきまでおれたちがいた部屋の中はもぬけの殻だった。
<0144> さっきまでおれたちがいた部屋の中はもぬけの殻だった。
// <0145> 親父は別のところにいったのだろうか。
<0145> 親父は別のところにいったのだろうか。
// <0146> 探す気もなく、目を廊下に向ける。
<0146> 探す気もなく、目を廊下に向ける。
// <0147> そこに、親父はいた。
<0147> そこに、親父はいた。
// <0148> 廊下にひざまずいている。
<0148> 廊下にひざまずいている。
// <0149> なにをしてるんだ?
<0149> なにをしてるんだ?
// <0150> 親父は懸命に手を動かしている。
<0150> 親父は懸命に手を動かしている。
// <0151> その手には雑巾が握られていた。
<0151> その手には雑巾が握られていた。
// <0152> 親父は、掃除をしているんだ。
<0152> 親父は、掃除をしているんだ。
// <0153> 廊下を磨いている。
<0153> 廊下を磨いている。
// <0154> ひたすらに。
<0154> ひたすらに。
// <0155> 一心に。
<0155> 一心に。
// <0156> 遠目に見ても、親父の表情は真剣だった。
<0156> 遠目に見ても、親父の表情は真剣だった。
// <0157> あんなに、何かに懸命な親父の姿を見るのは初めてだった。
<0157> あんなに、何かに懸命な親父の姿を見るのは初めてだった。
// <0158> \{朋也}「あいつは…いったい何をしてるんだ…?」
<0158> \{Tomoya}「あいつは…いったい何をしてるんだ…?」
// <0159> \{智代}「朋也、私は知っている」
<0159> \{Tomoyo}「朋也、私は知っている」
// <0160> \{智代}「お父さんは、ああして家を掃除しているんだ」
<0160> \{Tomoyo}「お父さんは、ああして家を掃除しているんだ」
// <0161> \{智代}「毎日、毎日。まず間違いなく来ないだろう朋也を待っていた」
<0161> \{Tomoyo}「毎日、毎日。まず間違いなく来ないだろう朋也を待っていた」
// <0162> \{智代}「丁寧に掃除をして、家の空気を入れ替えていた」
<0162> \{Tomoyo}「丁寧に掃除をして、家の空気を入れ替えていた」
// <0163> \{智代}「夕方に帰ってくると、夜半過ぎまで」
<0163> \{Tomoyo}「夕方に帰ってくると、夜半過ぎまで」
// <0164> \{智代}「この三年間、毎日のように家を綺麗にしていた」
<0164> \{Tomoyo}「この三年間、毎日のように家を綺麗にしていた」
// <0165> \{智代}「いつ朋也が来てもいいようにだ」
<0165> \{Tomoyo}「いつ朋也が来てもいいようにだ」
// <0166> 親父が家を掃除していた?
<0166> 親父が家を掃除していた?
// <0167> 確かに、部屋はちりも落ちていないほど綺麗だった。
<0167> 確かに、部屋はちりも落ちていないほど綺麗だった。
// <0168> それは、今日おれが来ることを知って掃除をしたわけじゃなくて…
<0168> それは、今日おれが来ることを知って掃除をしたわけじゃなくて…
// <0169> いつ、おれが来てもいいようにしていたというのか…。
<0169> いつ、おれが来てもいいようにしていたというのか…。
// <0170> 親父だって、おれが自分で部屋を借りていることは知っているだろう。
<0170> 親父だって、おれが自分で部屋を借りていることは知っているだろう。
// <0171> たとえ記憶が戻ったところで、おれがこの家に戻ってくることがないことも。
<0171> たとえ記憶が戻ったところで、おれがこの家に戻ってくることがないことも。
// <0172> それ以前の問題として、おれと仲違いをしていたのだから…
<0172> それ以前の問題として、おれと仲違いをしていたのだから…
// <0173> 親父がおれを待つ理由なんて、ないはずじゃないか。
<0173> 親父がおれを待つ理由なんて、ないはずじゃないか。
// <0174> \{朋也}「どうして…」
<0174> \{Tomoya}「どうして…」
// <0175> \{智代}「それは…家族だからだろう?」
<0175> \{Tomoyo}「それは…家族だからだろう?」
// <0176> その理由がわからないおれを哀れむような声で言った。
<0176> その理由がわからないおれを哀れむような声で言った。
// <0177> \{智代}「朋也が最初に倒れた三年前から…」
<0177> \{Tomoyo}「朋也が最初に倒れた三年前から…」
// <0178> \{智代}「いつだって、お父さんは準備していたんだ」
<0178> \{Tomoyo}「いつだって、お父さんは準備していたんだ」
// <0179> \{智代}「おまえが、頼ってくるかもしれない日に備えて」
<0179> \{Tomoyo}「おまえが、頼ってくるかもしれない日に備えて」
// <0180> \{智代}「いつ、この家に戻ってくるかもわからない…」
<0180> \{Tomoyo}「いつ、この家に戻ってくるかもわからない…」
// <0181> \{智代}「また自分が守ってあげなくてはならない…」
<0181> \{Tomoyo}「また自分が守ってあげなくてはならない…」
// <0182> \{智代}「…その日に備えて、ずっとだ」
<0182> \{Tomoyo}「…その日に備えて、ずっとだ」
// <0183> \{智代}「おまえはずっと、あの人の息子だ」
<0183> \{Tomoyo}「おまえはずっと、あの人の息子だ」
// <0184> \{智代}「そうだろ?」
<0184> \{Tomoyo}「そうだろ?」
// <0185> \{朋也}「………」
<0185> \{Tomoya}「………」
// <0186> 何か口にすれば、涙声になってしまいそうだった。
<0186> 何か口にすれば、涙声になってしまいそうだった。
// <0187> …この家に来ることもないだろう。
<0187> …この家に来ることもないだろう。
// <0188> …もう会うこともないだろうけど、元気でな。
<0188> …もう会うこともないだろうけど、元気でな。
// <0189> おれはそんな捨て台詞を残してきたのに…
<0189> おれはそんな捨て台詞を残してきたのに…
// <0190> なのに、親父はまだ掃除を続ける。
<0190> なのに、親父はまだ掃除を続ける。
// <0191> 今日からも。
<0191> 今日からも。
// <0192> 小さくなった体で。
<0192> 小さくなった体で。
// <0193> 老いた体で。
<0193> 老いた体で。
// <0194> おれとあの人は家族なんだ。
<0194> おれとあの人は家族なんだ。
// <0195> おれが生まれた時から、これから先もずっと。
<0195> おれが生まれた時から、これから先もずっと。
// <0196> \{朋也}「親父…ありがとう」
<0196> \{Tomoya}「親父…ありがとう」
// <0197> \{朋也}「また…来るから」
<0197> \{Tomoya}「また…来るから」
// <0198> それだけを窓越しに言った。
<0198> それだけを窓越しに言った。
// <0199> その後はもう何も出てこない。
<0199> その後はもう何も出てこない。
// <0200> 涙に埋もれて。
<0200> 涙に埋もれて。
// <0201> 智代がおれの体を抱きしめてくれる。
<0201> 智代がおれの体を抱きしめてくれる。
// <0202> すぐには、仲直りはできないかもしれない…。
<0202> すぐには、仲直りはできないかもしれない…。
// <0203> ぎこちない関係は、まだ続くだろう…。
<0203> ぎこちない関係は、まだ続くだろう…。
// <0204> 取り戻すのに、これまでと同じだけの時間がかかるとしても。
<0204> 取り戻すのに、これまでと同じだけの時間がかかるとしても。
// <0205> それでもいいんだ。
<0205> それでもいいんだ。
// <0206> おれたちが帰った後も、親父は掃除を続けるのだろう。
<0206> おれたちが帰った後も、親父は掃除を続けるのだろう。
// <0207> 床を、窓ガラスを雑巾で磨き、塵ひとつ残さないよう、家を綺麗にするのだろう。
<0207> 床を、窓ガラスを雑巾で磨き、塵ひとつ残さないよう、家を綺麗にするのだろう。
// <0208> おれたちが次に来る日のために。
<0208> おれたちが次に来る日のために。
// <0209> その日は…多分遠くない。
<0209> その日は…多分遠くない。
// <0210> その日はずっとふたりで部屋にいた。
<0210> その日はずっとふたりで部屋にいた。
// <0211> あまり話をすることもなく、テレビを観たり、本を読んだりしていた。
<0211> あまり話をすることもなく、テレビを観たり、本を読んだりしていた。
// <0212> 夕食を終えて、風呂に入る。
<0212> 夕食を終えて、風呂に入る。
// <0213> あっという間の一日だった。
<0213> あっという間の一日だった。
// <0214> いよいよ、明日は入院だ。
<0214> いよいよ、明日は入院だ。
// <0215> 成功すれば、しばらく帰ってくることはできない。
<0215> 成功すれば、しばらく帰ってくることはできない。
// <0216> 退院までは、この家とはしばしの別れになる。
<0216> 退院までは、この家とはしばしの別れになる。
// <0217> もし…失敗すれば。
<0217> もし…失敗すれば。
// <0218> 二度と…
<0218> 二度と…
// <0219> 考えたくはない。
<0219> 考えたくはない。
// <0220> 考えたくはない…が。
<0220> 考えたくはない…が。
// <0221> 頭に浮かんだ嫌な気持ちを洗い流そうと、湯舟のお湯をすくい、顔を洗う。
<0221> 頭に浮かんだ嫌な気持ちを洗い流そうと、湯舟のお湯をすくい、顔を洗う。
// <0222> …だが。
<0222> …だが。
// <0223> 考えても仕方ない。
<0223> 考えても仕方ない。
// <0224> そう思おうとすればするほど、嫌な気持ちは少しずつ溜まっていくような気がした。
<0224> そう思おうとすればするほど、嫌な気持ちは少しずつ溜まっていくような気がした。
// <0225> これまでは考えたこともなかったのに。
<0225> これまでは考えたこともなかったのに。
// <0226> あるいは、考えないようにしていたのに。
<0226> あるいは、考えないようにしていたのに。
// <0227> ここに来て、その嫌な気持ちは確実に膨らんでいく。
<0227> ここに来て、その嫌な気持ちは確実に膨らんでいく。
// <0228> \{朋也}「もし、失敗したら…」
<0228> \{Tomoya}「もし、失敗したら…」
// <0229> それは涙腺を通って、溢れ出そうとしている。
<0229> それは涙腺を通って、溢れ出そうとしている。
// <0230> いくら顔を擦っても、引いていかない。
<0230> いくら顔を擦っても、引いていかない。
// <0231> 今にも出てきてしまいそうだ。
<0231> 今にも出てきてしまいそうだ。
// <0232> 一度、溢れ出したら、二度と止まらないだろう。
<0232> 一度、溢れ出したら、二度と止まらないだろう。
// <0233> …我慢しなくては。
<0233> …我慢しなくては。
// <0234> そう意識すると、余計に駄目だった。
<0234> そう意識すると、余計に駄目だった。
// <0235> わけもわからないまま、おれは…
<0235> わけもわからないまま、おれは…
// <0236> \{智代}「朋也」
<0236> \{Tomoyo}「朋也」
// <0237> 智代の声が、ドア越しに聞こえた。
<0237> 智代の声が、ドア越しに聞こえた。
// <0238> 途端、おれははっとする。
<0238> 途端、おれははっとする。
// <0239> \{朋也}「え、なに」
<0239> \{Tomoya}「え、なに」
// <0240> 声は普通に出た。
<0240> 声は普通に出た。
// <0241> \{智代}「その、湯加減はどうだ」
<0241> \{Tomoyo}「その、湯加減はどうだ」
// <0242> \{朋也}「ああ、ちょうどいい」
<0242> \{Tomoya}「ああ、ちょうどいい」
// <0243> これまで、智代がそんな風に聞いてきたことなんてなかった。
<0243> これまで、智代がそんな風に聞いてきたことなんてなかった。
// <0244> どうしたんだろうか。
<0244> どうしたんだろうか。
// <0245> \{智代}「いや、うん、それならいいんだ」
<0245> \{Tomoyo}「いや、うん、それならいいんだ」
// <0246> そう言って、智代は離れていった。
<0246> そう言って、智代は離れていった。
// <0247> なんなんだ。
<0247> なんなんだ。
// <0248> でも…
<0248> でも…
// <0249> 智代の声を聞いただけで、さっきまで感じていた嫌な気持ちが、嘘のように消えていた。
<0249> 智代の声を聞いただけで、さっきまで感じていた嫌な気持ちが、嘘のように消えていた。
// <0250> やっぱり…
<0250> やっぱり…
// <0251> 智代はすごい奴なんだ。
<0251> 智代はすごい奴なんだ。
// <0252> そう改めて実感する。
<0252> そう改めて実感する。
// <0253> こんな気分さえ晴れさせてくれるんだから。
<0253> こんな気分さえ晴れさせてくれるんだから。
// <0254> おれの後に風呂に入った智代が、出てくる。
<0254> おれの後に風呂に入った智代が、出てくる。
// <0255> 湯上りの彼女の長い髪に、どきりとした。
<0255> 湯上りの彼女の長い髪に、どきりとした。
// <0256> \{智代}「朋也…」
<0256> \{Tomoyo}「朋也…」
// <0257> \{智代}「入院の前に、ひとつ約束を果たさないといけない」
<0257> \{Tomoyo}「入院の前に、ひとつ約束を果たさないといけない」
// <0258> \{朋也}「…約束?」
<0258> \{Tomoya}「…約束?」
// <0259> \{智代}「うん、そうだ…」
<0259> \{Tomoyo}「うん、そうだ…」
// <0260> \{智代}「今のおまえは…おぼえていないだろうが」
<0260> \{Tomoyo}「今のおまえは…おぼえていないだろうが」
// <0261> \{智代}「次にキスをするときは…」
<0261> \{Tomoyo}「次にキスをするときは…」
// <0262> そう言うと、智代が近づく。
<0262> そう言うと、智代が近づく。
// <0263> 洗い髪のいい匂いがした。
<0263> 洗い髪のいい匂いがした。
// <0264> なにをしようとしているか、わからないわけじゃない。
<0264> なにをしようとしているか、わからないわけじゃない。
// <0265> おれは目をつむる。
<0265> おれは目をつむる。
// <0266> まるで、男女逆だ。
<0266> まるで、男女逆だ。
// <0267> 唇に感触。
<0267> 唇に感触。
// <0268> 以前はともかく、今のおれにとっては初めて触れる唇。
<0268> 以前はともかく、今のおれにとっては初めて触れる唇。
// <0269> \{智代}「ん、んあ…」
<0269> \{Tomoyo}「ん、んあ…」
// <0270> 智代の声が、これまでに聞いたことのない艶を帯びていた。
<0270> 智代の声が、これまでに聞いたことのない艶を帯びていた。
// <0271> やわらかい。
<0271> やわらかい。
// <0272> こんなにも、ひとの体がやわらかいなんて。
<0272> こんなにも、ひとの体がやわらかいなんて。
// <0273> あたたかい。
<0273> あたたかい。
// <0274> こんなにも、女の子の唇があたたかいなんて。
<0274> こんなにも、女の子の唇があたたかいなんて。
// <0275> 智代の舌が、おれの唇を舐めた。
<0275> 智代の舌が、おれの唇を舐めた。
// <0276> おれが唇を開けると、すっと舌が入ってくる。
<0276> おれが唇を開けると、すっと舌が入ってくる。
// <0277> 前歯の裏を、上あごを撫でつけてくる。
<0277> 前歯の裏を、上あごを撫でつけてくる。
// <0278> ぴちゃ、ぴちゃ、ぬちゃ、ぴちゃ。
<0278> ぴちゃ、ぴちゃ、ぬちゃ、ぴちゃ。
// <0279> むさぼる。
<0279> むさぼる。
// <0280> \{智代}「んぁぁ、ん、ん…」
<0280> \{Tomoyo}「んぁぁ、ん、ん…」
// <0281> 智代の喘ぎ声が続く。
<0281> 智代の喘ぎ声が続く。
// <0282> このまま、ずっとキスをしていたい。
<0282> このまま、ずっとキスをしていたい。
// <0283> キスだけで、こんなにも気持ちいい。
<0283> キスだけで、こんなにも気持ちいい。
// <0284> ふたりの舌だけが、まるで別の生き物になったかのように動いている。
<0284> ふたりの舌だけが、まるで別の生き物になったかのように動いている。
// <0285> 唾液が絡み合う。
<0285> 唾液が絡み合う。
// <0286> 舌が絡み合う。
<0286> 舌が絡み合う。
// <0287> おれの口が智代の舌に犯されている。
<0287> おれの口が智代の舌に犯されている。
// <0288> 智代の息が、声が。
<0288> 智代の息が、声が。
// <0289> おれの口を、頬を、耳を。
<0289> おれの口を、頬を、耳を。
// <0290> 撫でる。
<0290> 撫でる。
// <0291> 舐める。
<0291> 舐める。
// <0292> 自分の意志に関係なく、うごめいている。
<0292> 自分の意志に関係なく、うごめいている。
// <0293> キスしているだけで…
<0293> キスしているだけで…
// <0294> 頭が真っ白になる。
<0294> 頭が真っ白になる。
// <0295> ………。
<0295> ………。
// <0296> ……。
<0296> ……。
// <0297> \{智代}「朋也…」
<0297> \{Tomoyo}「朋也…」
// <0298> ようやく、智代が口を離した。
<0298> ようやく、智代が口を離した。
// <0299> おれは酸素を求めて、呼吸する。
<0299> おれは酸素を求めて、呼吸する。
// <0300> 息苦しささえ、心地よかった。
<0300> 息苦しささえ、心地よかった。
// <0301> 智代の頬は化粧でもしたかのように赤く上気している。
<0301> 智代の頬は化粧でもしたかのように赤く上気している。
// <0302> 普段、色白な智代の頬は紅色に染まっていた。
<0302> 普段、色白な智代の頬は紅色に染まっていた。
// <0303> \{智代}「朋也…これが、ディープキスだ」
<0303> \{Tomoyo}「朋也…これが、ディープキスだ」
// <0304> \{智代}「次にキスするときは、男と女のキスをしようと約束していたんだ」
<0304> \{Tomoyo}「次にキスするときは、男と女のキスをしようと約束していたんだ」
// <0305> \{智代}「今が…それを果たすときだ」
<0305> \{Tomoyo}「今が…それを果たすときだ」
// <0306> その微笑みが、いやらしい。
<0306> その微笑みが、いやらしい。
// <0307> \{智代}「おまえはキスが好きだからな」
<0307> \{Tomoyo}「おまえはキスが好きだからな」
// <0308> \{智代}「…私まで、好きになってしまったんだ」
<0308> \{Tomoyo}「…私まで、好きになってしまったんだ」
// <0309> \{智代}「でも、それはおまえだけだ…愛する人だからしたいんだ」
<0309> \{Tomoyo}「でも、それはおまえだけだ…愛する人だからしたいんだ」
// <0310> \{朋也}「たしかに…」
<0310> \{Tomoya}「たしかに…」
// <0311> \{朋也}「こんなキスなら、おれもずっとしていたいくらいだ」
<0311> \{Tomoya}「こんなキスなら、おれもずっとしていたいくらいだ」
// <0312> \{智代}「でも…朋也」
<0312> \{Tomoyo}「でも…朋也」
// <0313> \{智代}「愛し合うふたりは、もっと深く愛し合う」
<0313> \{Tomoyo}「愛し合うふたりは、もっと深く愛し合う」
// <0314> \{朋也}「深く…」
<0314> \{Tomoya}「深く…」
// <0315> \{智代}「うん…もっと深くでつながるんだ…」
<0315> \{Tomoyo}「うん…もっと深くでつながるんだ…」
// <0316> 智代の右手がおれに伸びてくる。
<0316> 智代の右手がおれに伸びてくる。
// <0317> 顔を軽く撫でると、その手はおれの股間に向かった。
<0317> 顔を軽く撫でると、その手はおれの股間に向かった。
// <0318> \{朋也}「なっ」
<0318> \{Tomoya}「なっ」
// <0319> 思わず、腰を引く。
<0319> 思わず、腰を引く。
// <0320> 恥ずかしい。
<0320> 恥ずかしい。
// <0321> だって、その部分は…
<0321> だって、その部分は…
// <0322> \{智代}「朋也…」
<0322> \{Tomoyo}「朋也…」
// <0323> \{智代}「さっきのキスで感じてくれたんだな」
<0323> \{Tomoyo}「さっきのキスで感じてくれたんだな」
// <0324> そう、おれの股間は痛いほどに固くなっていた。
<0324> そう、おれの股間は痛いほどに固くなっていた。
// <0325> 自分自身で信じられないくらいに。
<0325> 自分自身で信じられないくらいに。
// <0326> \{智代}「かわいいな、朋也は」
<0326> \{Tomoyo}「かわいいな、朋也は」
// <0327> \{智代}「どちらかと言うと、以前は私が色々と無茶をさせられたからな」
<0327> \{Tomoyo}「どちらかと言うと、以前は私が色々と無茶をさせられたからな」
// <0328> \{智代}「うん、こういうのは新鮮だ」
<0328> \{Tomoyo}「うん、こういうのは新鮮だ」
// <0329> 腰が引けていたおれに、智代が覆いかぶさってくる。
<0329> 腰が引けていたおれに、智代が覆いかぶさってくる。
// <0330> あっけなく、畳の上に押し倒された。
<0330> あっけなく、畳の上に押し倒された。
// <0331> 智代は右手でおれの股間を撫でながら、左手では器用にパジャマのズボンを下ろそうとしていた。
<0331> 智代は右手でおれの股間を撫でながら、左手では器用にパジャマのズボンを下ろそうとしていた。
// <0332> 智代の指が、おれのあそこを触っている。
<0332> 智代の指が、おれのあそこを触っている。
// <0333> 触れるか、触れないかの微妙な感覚。
<0333> 触れるか、触れないかの微妙な感覚。
// <0334> さわさわ、と撫でたかと思うと、手のひらで擦るように刺激する。
<0334> さわさわ、と撫でたかと思うと、手のひらで擦るように刺激する。
// <0335> 今度は人差し指一本で、裏の部分をなで上げる。
<0335> 今度は人差し指一本で、裏の部分をなで上げる。
// <0336> \{智代}「朋也…」
<0336> \{Tomoyo}「朋也…」
// <0337> \{朋也}「あ、ああ」
<0337> \{Tomoya}「あ、ああ」
// <0338> めちゃくちゃ、気持ちよかった。
<0338> めちゃくちゃ、気持ちよかった。
// <0339> 智代は、今まで見せたことのない顔をしている。
<0339> 智代は、今まで見せたことのない顔をしている。
// <0340> 女の顔だと思った。
<0340> 女の顔だと思った。
// <0341> 智代の手がトランクスにかかる。
<0341> 智代の手がトランクスにかかる。
// <0342> \{朋也}「は、恥ずかしい…」
<0342> \{Tomoya}「は、恥ずかしい…」
// <0343> 我ながら情けない台詞だとは思う。
<0343> 我ながら情けない台詞だとは思う。
// <0344> \{智代}「今日は私に任せてくれ…」
<0344> \{Tomoyo}「今日は私に任せてくれ…」
// <0345> \{智代}「私も脱ぐ」
<0345> \{Tomoyo}「私も脱ぐ」
// <0346> \{智代}「だから、朋也も恥ずかしがるな」
<0346> \{Tomoyo}「だから、朋也も恥ずかしがるな」
// <0347> そう言って、智代がパジャマの上着のボタンに手をかける。
<0347> そう言って、智代がパジャマの上着のボタンに手をかける。
// <0348> 胸元の隙間からわずかに覗く、智代の白い肌。
<0348> 胸元の隙間からわずかに覗く、智代の白い肌。
// <0349> 智代の一挙手一投足に、興奮していた。
<0349> 智代の一挙手一投足に、興奮していた。
// <0350> 口の中がからからになっていた。
<0350> 口の中がからからになっていた。
// <0351> 無理やり、つばを飲み込む。
<0351> 無理やり、つばを飲み込む。
// <0352> \{朋也}「寝るときは下着をつけないんだな」
<0352> \{Tomoya}「寝るときは下着をつけないんだな」
// <0353> \{智代}「当たり前だ…ブラをつけていたら、その、あれだ…」
<0353> \{Tomoyo}「当たり前だ…ブラをつけていたら、その、あれだ…」
// <0354> \{智代}「苦しくなってしまうからな…」
<0354> \{Tomoyo}「苦しくなってしまうからな…」
// <0355> \{智代}「…あまりじろじろ見るんじゃない」
<0355> \{Tomoyo}「…あまりじろじろ見るんじゃない」
// <0356> \{智代}「これで結構恥ずかしいんだ…」
<0356> \{Tomoyo}「これで結構恥ずかしいんだ…」
// <0357> \{朋也}「あ、ああ…すまない」
<0357> \{Tomoya}「あ、ああ…すまない」
// <0358> そう言われても、どうしても視線は智代の胸に釘付けになった。
<0358> そう言われても、どうしても視線は智代の胸に釘付けになった。
// <0359> 露わになった、智代の胸。
<0359> 露わになった、智代の胸。
// <0360> ふたつの丘。
<0360> ふたつの丘。
// <0361> そのてっぺんにある、桜色の膨らみ。
<0361> そのてっぺんにある、桜色の膨らみ。
// <0362> うつくしかった。
<0362> うつくしかった。
// <0363> 女の子って、こんなにも綺麗なんだ。
<0363> 女の子って、こんなにも綺麗なんだ。
// <0364> \{智代}「朋也も脱ぐんだ…」
<0364> \{Tomoyo}「朋也も脱ぐんだ…」
// <0365> \{智代}「よし…私がやろう」
<0365> \{Tomoyo}「よし…私がやろう」
// <0366> 智代に迫られる。
<0366> 智代に迫られる。
// <0367> 智代の胸が、目の前に…
<0367> 智代の胸が、目の前に…
// <0368> 今、智代に下半身を触られたら…
<0368> 今、智代に下半身を触られたら…
// <0369> それだけで、やばそうだった。
<0369> それだけで、やばそうだった。
// <0370> \{朋也}「い、いい…自分で脱ぐから」
<0370> \{Tomoya}「い、いい…自分で脱ぐから」
// <0371> トランクスを脱ぎ捨てる。
<0371> トランクスを脱ぎ捨てる。
// <0372> \{智代}「うん、それでいい」
<0372> \{Tomoyo}「うん、それでいい」
// <0373> それから…
<0373> それから…
// <0374> どうしたら、いい?
<0374> どうしたら、いい?
// <0375> 智代が優しく微笑む。
<0375> 智代が優しく微笑む。
// <0376> \{智代}「ともや…」
<0376> \{Tomoyo}「ともや…」
// <0377> 布団によこたわる。
<0377> 布団によこたわる。
// <0378> 誘われるように、おれは智代に覆いかぶさった。
<0378> 誘われるように、おれは智代に覆いかぶさった。
// <0379> \{智代}「その…私のここに、おまえのが…はいる…」
<0379> \{Tomoyo}「その…私のここに、おまえのが…はいる…」
// <0380> 智代がおれの指を導く。
<0380> 智代がおれの指を導く。
// <0381> 触れた途端…ぴちゃり、と音がした。
<0381> 触れた途端…ぴちゃり、と音がした。
// <0382> \{朋也}「濡れてる…」
<0382> \{Tomoya}「濡れてる…」
// <0383> \{智代}「うん…そうだろ…」
<0383> \{Tomoyo}「うん…そうだろ…」
// <0384> \{智代}「私をこんな風にしたのは…朋也、おまえなんだぞ…」
<0384> \{Tomoyo}「私をこんな風にしたのは…朋也、おまえなんだぞ…」
// <0385> \{智代}「それとも、なんだ…こんな私は嫌いか…?」
<0385> \{Tomoyo}「それとも、なんだ…こんな私は嫌いか…?」
// <0386> \{朋也}「…そんなことない」
<0386> \{Tomoya}「…そんなことない」
// <0387> \{朋也}「すごく魅力的だ…」
<0387> \{Tomoya}「すごく魅力的だ…」
// <0388> そのまま、指を動かす。
<0388> そのまま、指を動かす。
// <0389> \{智代}「あぁっ…」
<0389> \{Tomoyo}「あぁっ…」
// <0390> 智代の声がひときわ、高くなる。
<0390> 智代の声がひときわ、高くなる。
// <0391> \{朋也}「い、痛いのか…?」
<0391> \{Tomoya}「い、痛いのか…?」
// <0392> 思わず指を離してしまう。
<0392> 思わず指を離してしまう。
// <0393> \{智代}「ち、ちがう…気持ちいいんだ…」
<0393> \{Tomoyo}「ち、ちがう…気持ちいいんだ…」
// <0394> \{智代}「朋也…気持ちいいから…」
<0394> \{Tomoyo}「朋也…気持ちいいから…」
// <0395> \{智代}「…続けてくれ…」
<0395> \{Tomoyo}「…続けてくれ…」
// <0396> その言葉に、おれの頭は真っ白になる。
<0396> その言葉に、おれの頭は真っ白になる。
// <0397> おれの愛する人が、おれの指で感じている。
<0397> おれの愛する人が、おれの指で感じている。
// <0398> そんな幸せがあるだろうか。
<0398> そんな幸せがあるだろうか。
// <0399> おれは、智代のやわらかい部分を指で撫で続けた。
<0399> おれは、智代のやわらかい部分を指で撫で続けた。
// <0400> ちゅぷ、ちゅぷ。
<0400> ちゅぷ、ちゅぷ。
// <0401> 動かすたび、ぬめりを帯びていく。
<0401> 動かすたび、ぬめりを帯びていく。
// <0402> \{智代}「あっ、あぁ…」
<0402> \{Tomoyo}「あっ、あぁ…」
// <0403> \{智代}「うん、そうだ…うれしい」
<0403> \{Tomoyo}「うん、そうだ…うれしい」
// <0404> \{智代}「ともや…」
<0404> \{Tomoyo}「ともや…」
// <0405> \{智代}「きもちいい…」
<0405> \{Tomoyo}「きもちいい…」
// <0406> おれの指が、ぷっくりと膨らんだ場所にあたると智代の声がより大きくなる。
<0406> おれの指が、ぷっくりと膨らんだ場所にあたると智代の声がより大きくなる。
// <0407> おれは、そこを人差し指と中指で刺激し続けた。
<0407> おれは、そこを人差し指と中指で刺激し続けた。
// <0408> \{智代}「んあ、ともや…」
<0408> \{Tomoyo}「んあ、ともや…」
// <0409> \{智代}「いく…」
<0409> \{Tomoyo}「いく…」
// <0410> 智代の体が小さく震える。
<0410> 智代の体が小さく震える。
// <0411> 力がぐっと入ったかと思うと、途端にぐったりしてしまった。
<0411> 力がぐっと入ったかと思うと、途端にぐったりしてしまった。
// <0412> \{朋也}「…大丈夫か」
<0412> \{Tomoya}「…大丈夫か」
// <0413> \{智代}「あ、ああ…」
<0413> \{Tomoyo}「あ、ああ…」
// <0414> 赤く染めた頬をこちらに向け、智代が恥ずかしそうに頷く。
<0414> 赤く染めた頬をこちらに向け、智代が恥ずかしそうに頷く。
// <0415> \{智代}「………」
<0415> \{Tomoyo}「………」
// <0416> \{智代}「おまえは記憶がないはずなのにな…」
<0416> \{Tomoyo}「おまえは記憶がないはずなのにな…」
// <0417> \{智代}「やはり、根っからのすけべだったんだな、朋也は…」
<0417> \{Tomoyo}「やはり、根っからのすけべだったんだな、朋也は…」
// <0418> \{智代}「朋也…そろそろ…」
<0418> \{Tomoyo}「朋也…そろそろ…」
// <0419> \{朋也}「あ、ああ」
<0419> \{Tomoya}「あ、ああ」
// <0420> \{朋也}「その…できれば、教えてほしい」
<0420> \{Tomoya}「その…できれば、教えてほしい」
// <0421> 女の子の体は…よくわからなかった。
<0421> 女の子の体は…よくわからなかった。
// <0422> 智代は微笑むと、指をおれに絡めた。
<0422> 智代は微笑むと、指をおれに絡めた。
// <0423> その指が導くままに、おれは智代の体に沈んでいく。
<0423> その指が導くままに、おれは智代の体に沈んでいく。
// <0424> 濡れていた。
<0424> 濡れていた。
// <0425> 智代のその部分は、やわらかく、あたたかく、おれにまとわりついてきた。
<0425> 智代のその部分は、やわらかく、あたたかく、おれにまとわりついてきた。
// <0426> 智代に包まれている。
<0426> 智代に包まれている。
// <0427> おれと智代はひとつだ。
<0427> おれと智代はひとつだ。
// <0428> ふたりでひとり。
<0428> ふたりでひとり。
// <0429> 今、おれは智代の中にいる。
<0429> 今、おれは智代の中にいる。
// <0430> \{智代}「朋也…」
<0430> \{Tomoyo}「朋也…」
// <0431> \{智代}「…好きだ」
<0431> \{Tomoyo}「…好きだ」
// <0432> \{智代}「大好きだ…朋也…」
<0432> \{Tomoyo}「大好きだ…朋也…」
// <0433> \{朋也}「…おれもだ」
<0433> \{Tomoya}「…おれもだ」
// <0434> \{朋也}「おれは…智代のことが好きだ」
<0434> \{Tomoya}「おれは…智代のことが好きだ」
// <0435> \{朋也}「智代…」
<0435> \{Tomoya}「智代…」
// <0436> \{智代}「朋也…」
<0436> \{Tomoyo}「朋也…」
// <0437> \{朋也}「智代…愛してる」
<0437> \{Tomoya}「智代…愛してる」
// <0438> \{智代}「朋也…私もだ」
<0438> \{Tomoyo}「朋也…私もだ」
// <0439> 互いの名前を呼び合う。
<0439> 互いの名前を呼び合う。
// <0440> それだけで、全身を快感が襲う。
<0440> それだけで、全身を快感が襲う。
// <0441> 少しでも動いたら、すぐさま果ててしまいそうだ。
<0441> 少しでも動いたら、すぐさま果ててしまいそうだ。
// <0442> \{朋也}「智代…」
<0442> \{Tomoya}「智代…」
// <0443> \{智代}「朋也…」
<0443> \{Tomoyo}「朋也…」
// <0444> おれの名を呼ぶ智代の唇を、自分の唇でふさぐ。
<0444> おれの名を呼ぶ智代の唇を、自分の唇でふさぐ。
// <0445> \{智代}「ん、んん…」
<0445> \{Tomoyo}「ん、んん…」
// <0446> 何度も、何度も口づける。
<0446> 何度も、何度も口づける。
// <0447> 智代の唇に吸いつく。
<0447> 智代の唇に吸いつく。
// <0448> \{朋也}「智代っ…」
<0448> \{Tomoya}「智代っ…」
// <0449> \{智代}「朋也っ…」
<0449> \{Tomoyo}「朋也っ…」
// <0450> そして…
<0450> そして…
// <0451> おれは彼女の名を叫びながら、智代の中で果てた。
<0451> おれは彼女の名を叫びながら、智代の中で果てた。
// <0452> \{智代}「朋也…」
<0452> \{Tomoyo}「朋也…」
// <0453> \{智代}「まだ、起きているか…」
<0453> \{Tomoyo}「まだ、起きているか…」
// <0454> \{朋也}「ああ…」
<0454> \{Tomoya}「ああ…」
// <0455> \{智代}「眠れないのか…?」
<0455> \{Tomoyo}「眠れないのか…?」
// <0456> \{朋也}「…そうだな」
<0456> \{Tomoya}「…そうだな」
// <0457> \{智代}「そうか…私もだ…」
<0457> \{Tomoyo}「そうか…私もだ…」
// <0458> 智代と抱き合った心地よさを感じているのに、なかなか眠気は訪れない。
<0458> 智代と抱き合った心地よさを感じているのに、なかなか眠気は訪れない。
// <0459> \{智代}「もう少し、こちらに来ないか…」
<0459> \{Tomoyo}「もう少し、こちらに来ないか…」
// <0460> おれは智代のそばまで、体を寄せた。
<0460> おれは智代のそばまで、体を寄せた。
// <0461> \{智代}「もっとだ」
<0461> \{Tomoyo}「もっとだ」
// <0462> もっと、と言われても…
<0462> もっと、と言われても…
// <0463> これ以上寄ると、智代と抱き合うことになる。
<0463> これ以上寄ると、智代と抱き合うことになる。
// <0464> おれたちは、そのままの姿…ようするに裸だった。
<0464> おれたちは、そのままの姿…ようするに裸だった。
// <0465> いざ事を終えてしまうと、恥ずかしいものだった。
<0465> いざ事を終えてしまうと、恥ずかしいものだった。
// <0466> \{朋也}「いや、いい」
<0466> \{Tomoya}「いや、いい」
// <0467> \{智代}「…そんなことを言わないでくれ」
<0467> \{Tomoyo}「…そんなことを言わないでくれ」
// <0468> \{智代}「こっちに来てほしいんだ…朋也」
<0468> \{Tomoyo}「こっちに来てほしいんだ…朋也」
// <0469> 智代の声に混じる感情に気づく。
<0469> 智代の声に混じる感情に気づく。
// <0470> おれのことを気遣っているのだろうが、それ以上に、智代がおれに来てほしいんだ。
<0470> おれのことを気遣っているのだろうが、それ以上に、智代がおれに来てほしいんだ。
// <0471> 智代がおれを求めている。
<0471> 智代がおれを求めている。
// <0472> \{朋也}「ああ…わかった」
<0472> \{Tomoya}「ああ…わかった」
// <0473> おれと智代は密着する形になる。
<0473> おれと智代は密着する形になる。
// <0474> 智代の顔。
<0474> 智代の顔。
// <0475> 智代の肌。
<0475> 智代の肌。
// <0476> 智代の胸。
<0476> 智代の胸。
// <0477> すべてが、ふたたびおれと触れ合う。
<0477> すべてが、ふたたびおれと触れ合う。
// <0478> \{朋也}「少し汗ばんでるな」
<0478> \{Tomoya}「少し汗ばんでるな」
// <0479> \{智代}「ばか…女の子にそんなことを言うな」
<0479> \{Tomoyo}「ばか…女の子にそんなことを言うな」
// <0480> \{智代}「…相変わらず朋也はデリカシーに欠けているな」
<0480> \{Tomoyo}「…相変わらず朋也はデリカシーに欠けているな」
// <0481> それから、急に智代は笑った。
<0481> それから、急に智代は笑った。
// <0482> \{智代}「ふふ」
<0482> \{Tomoyo}「ふふ」
// <0483> \{智代}「朋也は、やっぱり朋也だ」
<0483> \{Tomoyo}「朋也は、やっぱり朋也だ」
// <0484> \{朋也}「なんだ、今更」
<0484> \{Tomoya}「なんだ、今更」
// <0485> \{智代}「…そうだな。確かに今更だな」
<0485> \{Tomoyo}「…そうだな。確かに今更だな」
// <0486> \{智代}「…長い、三年間だった」
<0486> \{Tomoyo}「…長い、三年間だった」
// <0487> \{朋也}「それも、明日で終わる」
<0487> \{Tomoya}「それも、明日で終わる」
// <0488> \{智代}「…そうだな」
<0488> \{Tomoyo}「…そうだな」
// <0489> おれは智代の胸に顔を寄せた。
<0489> おれは智代の胸に顔を寄せた。
// <0490> 左胸に耳を当てる。
<0490> 左胸に耳を当てる。
// <0491> \{智代}「あっ…」
<0491> \{Tomoyo}「あっ…」
// <0492> そのふくらみは、あたたかい。
<0492> そのふくらみは、あたたかい。
// <0493> 智代の心のように。
<0493> 智代の心のように。
// <0494> とくん。とくん。
<0494> とくん。とくん。
// <0495> \{朋也}「心臓の音がする」
<0495> \{Tomoya}「心臓の音がする」
// <0496> おれがそう言うと、智代は、うんと小さく答えた。
<0496> おれがそう言うと、智代は、うんと小さく答えた。
// <0497> 一定のリズムで脈打っている。
<0497> 一定のリズムで脈打っている。
// <0498> とくん。とくん。
<0498> とくん。とくん。
// <0499> 子守唄のように。
<0499> 子守唄のように。
// <0500> その音を聞いていると、とても安らいだ気持ちになってくる。
<0500> その音を聞いていると、とても安らいだ気持ちになってくる。
// <0501> \{智代}「朋也の音も聞こえてくる」
<0501> \{Tomoyo}「朋也の音も聞こえてくる」
// <0502> 今度は智代が、おれの胸に耳を当てる。
<0502> 今度は智代が、おれの胸に耳を当てる。
// <0503> おれは代わりに、智代の胸に手を当てる。
<0503> おれは代わりに、智代の胸に手を当てる。
// <0504> とくん。とくん。
<0504> とくん。とくん。
// <0505> 手のひらを通じて、おれは智代を感じる。
<0505> 手のひらを通じて、おれは智代を感じる。
// <0506> おれたちは、今同じリズムを刻んでいる。
<0506> おれたちは、今同じリズムを刻んでいる。
// <0507> とくん。とくん。
<0507> とくん。とくん。
// <0508> でも、この先もずっと…
<0508> でも、この先もずっと…
// <0509> …共に刻んでいけるとは限らないんだ。
<0509> …共に刻んでいけるとは限らないんだ。
// <0510> また不安になる。
<0510> また不安になる。
// <0511> でも、それは、先ほどまで感じていた恐怖のようなものじゃない…。
<0511> でも、それは、先ほどまで感じていた恐怖のようなものじゃない…。
// <0512> それは智代が取り去ってくれた。
<0512> それは智代が取り去ってくれた。
// <0513> 残っているものは…\p智代に対する心許なさだ。
<0513> 残っているものは…\p智代に対する心許なさだ。
// <0514> それだけがどうして残ったかはわからない…。
<0514> それだけがどうして残ったかはわからない…。
// <0515> 今、抱きしめているこの肩から伝わってくるようだった。
<0515> 今、抱きしめているこの肩から伝わってくるようだった。
// <0516> 智代が、とてもか弱い存在に感じられた。
<0516> 智代が、とてもか弱い存在に感じられた。
// <0517> もしかしたら、本当の智代はもっと弱くて…
<0517> もしかしたら、本当の智代はもっと弱くて…
// <0518> 智代とふたりで暮らしていたおれは、そのことをずっと心配していたんじゃないだろうか…。
<0518> 智代とふたりで暮らしていたおれは、そのことをずっと心配していたんじゃないだろうか…。
// <0519> そう思える。
<0519> そう思える。
// <0520> \{朋也}「智代は…もう大丈夫だよな…」
<0520> \{Tomoya}「智代は…もう大丈夫だよな…」
// <0521> 口をついて出てしまっていた。
<0521> 口をついて出てしまっていた。
// <0522> \{智代}「うん?」
<0522> \{Tomoyo}「うん?」
// <0523> \{朋也}「三年という時間…」
<0523> \{Tomoya}「三年という時間…」
// <0524> \{朋也}「こんな長くて、苦しい逆境さえ、乗り越えてしまうんだから…」
<0524> \{Tomoya}「こんな長くて、苦しい逆境さえ、乗り越えてしまうんだから…」
// <0525> \{朋也}「この先、何があっても…大丈夫だよな…」
<0525> \{Tomoya}「この先、何があっても…大丈夫だよな…」
// <0526> \{智代}「…うん」
<0526> \{Tomoyo}「…うん」
// <0527> \{朋也}「そっか…そうだよな…」
<0527> \{Tomoya}「そっか…そうだよな…」
// <0528> \{朋也}「やっぱり、おまえはすごい奴なんだな…」
<0528> \{Tomoya}「やっぱり、おまえはすごい奴なんだな…」
// <0529> \{智代}「うん」
<0529> \{Tomoyo}「うん」
// <0530> \{朋也}「これから先…どんなことがあっても…」
<0530> \{Tomoya}「これから先…どんなことがあっても…」
// <0531> \{朋也}「迷わず…進め…」
<0531> \{Tomoya}「迷わず…進め…」
// <0532> \{朋也}「おまえなら、それができると思うから…」
<0532> \{Tomoya}「おまえなら、それができると思うから…」
// <0533> \{朋也}「な、智代…」
<0533> \{Tomoya}「な、智代…」
// <0534> \{朋也}「恥ずかしいけど…」
<0534> \{Tomoya}「恥ずかしいけど…」
// <0535> \{朋也}「今のうちに言っておくな…」
<0535> \{Tomoya}「今のうちに言っておくな…」
// <0536> \{智代}「…うん」
<0536> \{Tomoyo}「…うん」
// <0537> \{朋也}「おれたちの…」
<0537> \{Tomoya}「おれたちの…」
// <0538> \{朋也}「愛は…」
<0538> \{Tomoya}「愛は…」
// <0539> エピローグ
<0539> エピローグ