// Resources for SEEN0707.TXT
// #character '初老の男'
#character 'Middle-aged man'
// #character '朋也'
#character 'Tomoya'
// #character '鷹文'
#character 'Takafumi'
// #character '智代'
#character 'Tomoyo'
// #character '智代・朋也'
#character 'Tomoyo & Tomoya'
// #character '女の子'
#character 'Girl'
// #character 'とも'
#character 'Tomo'
// <0000> 7月7日(水)
<0000> July 7th (Wed)
// <0001> \{初老の男}「すまんが、ちょっと頼まれてくれんか」
<0001> \{Middle-aged man}「すまんが、ちょっと頼まれてくれんか」
// <0002> ゴミ捨て場で初老の男性に呼び止められた。
<0002> ゴミ捨て場で初老の男性に呼び止められた。
// <0003> \{朋也}「え、なにか?」
<0003> \{Tomoya}「え、なにか?」
// <0004> \{初老の男}「悪いんだが、粗大ゴミを運んでもらえんか?」
<0004> \{Middle-aged man}「悪いんだが、粗大ゴミを運んでもらえんか?」
// <0005> \{朋也}「いいですよ」
<0005> \{Tomoya}「いいですよ」
// <0006> 俺は男性の家に上がり、脱衣所にある古い洗濯機を運び出した。
<0006> 俺は男性の家に上がり、脱衣所にある古い洗濯機を運び出した。
// <0007> ホースを処理して、水がこぼれないよう洗濯パンの上で一度傾ける。
<0007> ホースを処理して、水がこぼれないよう洗濯パンの上で一度傾ける。
// <0008> 排水をしていても結構たまっているものなのだ。
<0008> 排水をしていても結構たまっているものなのだ。
// <0009> 洗濯機は重いが、ちょっとしたコツでひとりで運べるようになる。
<0009> 洗濯機は重いが、ちょっとしたコツでひとりで運べるようになる。
// <0010> \{朋也}「…しょっと」
<0010> \{Tomoya}「…しょっと」
// <0011> 洗濯機をトラックに載せる。
<0011> 洗濯機をトラックに載せる。
// <0012> \{初老の男}「すまんの」
<0012> \{Middle-aged man}「すまんの」
// <0013> \{朋也}「いや、こちらこそ」
<0013> \{Tomoya}「いや、こちらこそ」
// <0014> \{初老の男}「悪いの、わざわざ家まで取りに来てもろうて」
<0014> \{Middle-aged man}「悪いの、わざわざ家まで取りに来てもろうて」
// <0015> \{初老の男}「年寄りには運べんからの」
<0015> \{Middle-aged man}「年寄りには運べんからの」
// <0016> \{朋也}「いいですよ。何か大きなゴミがあったらいつでも呼んで下さい。これくらいなら全然平気ですから」
<0016> \{Tomoya}「いいですよ。何か大きなゴミがあったらいつでも呼んで下さい。これくらいなら全然平気ですから」
// <0017> \{初老の男}「ああ、そうさせてもらおう」
<0017> \{Middle-aged man}「ああ、そうさせてもらおう」
// <0018> \{初老の男}「そうじゃ、お茶入れるから飲んでいきなさい」
<0018> \{Middle-aged man}「そうじゃ、お茶入れるから飲んでいきなさい」
// <0019> \{朋也}「いや、仕事中だから」
<0019> \{Tomoya}「いや、仕事中だから」
// <0020> \{初老の男}「若いの、遠慮なんかするものじゃないぞ」
<0020> \{Middle-aged man}「若いの、遠慮なんかするものじゃないぞ」
// <0021> \{初老の男}「ばあさんや、お茶出してやってくれ」
<0021> \{Middle-aged man}「ばあさんや、お茶出してやってくれ」
// <0022> 強引に連れていかれ、縁側で麦茶をもらった。
<0022> 強引に連れていかれ、縁側で麦茶をもらった。
// <0023> \{朋也}「すみません」
<0023> \{Tomoya}「すみません」
// <0024> \{初老の男}「なあに、年寄りの家じゃ。気兼ねなんぞするな」
<0024> \{Middle-aged man}「なあに、年寄りの家じゃ。気兼ねなんぞするな」
// <0025> おおらかに笑う老人。
<0025> おおらかに笑う老人。
// <0026> 後ろではにこにこと上品な笑顔を浮かべた初老の女性がいた。
<0026> 後ろではにこにこと上品な笑顔を浮かべた初老の女性がいた。
// <0027> \{朋也}「ここには、おふたりで?」
<0027> \{Tomoya}「ここには、おふたりで?」
// <0028> \{初老の男}「そうじゃな、息子どもは都会に出てしもうたから」
<0028> \{Middle-aged man}「そうじゃな、息子どもは都会に出てしもうたから」
// <0029> \{朋也}「そっか」
<0029> \{Tomoya}「そっか」
// <0030> \{初老の男}「おまえさんは、この町のもんか?」
<0030> \{Middle-aged man}「おまえさんは、この町のもんか?」
// <0031> \{朋也}「ええ、そうです」
<0031> \{Tomoya}「ええ、そうです」
// <0032> \{初老の男}「ずっとこの町で暮らすのか?」
<0032> \{Middle-aged man}「ずっとこの町で暮らすのか?」
// <0033> \{朋也}「…まだ、わかりません」
<0033> \{Tomoya}「…まだ、わかりません」
// <0034> でも、と思う。
<0034> でも、と思う。
// <0035> この二人のように、智代と暮らして歳をとっていけたら。
<0035> この二人のように、智代と暮らして歳をとっていけたら。
// <0036> それはなんて幸せなことなんだろう、と。
<0036> それはなんて幸せなことなんだろう、と。
// <0037> 仕事を終え、帰宅する。
<0037> 仕事を終え、帰宅する。
// <0038> 智代はまだ来ていないようだ。窓の向こうの流しに立つ姿はない。
<0038> 智代はまだ来ていないようだ。窓の向こうの流しに立つ姿はない。
// <0039> 鍵を挿して回す。
<0039> 鍵を挿して回す。
// <0040> 抵抗がない。すでに開錠されているのだ。
<0040> 抵抗がない。すでに開錠されているのだ。
// <0041> 中に入って靴を脱ぐ。
<0041> 中に入って靴を脱ぐ。
// <0042> \{朋也}「鷹文かー?」
<0042> \{Tomoya}「鷹文かー?」
// <0043> 呼びかけて部屋に上がる。
<0043> 呼びかけて部屋に上がる。
// <0044> 横になって寝ていた。
<0044> 横になって寝ていた。
// <0045> …見知らぬ女の子が。
<0045> …見知らぬ女の子が。
// <0046> \{朋也}「………」
<0046> \{Tomoya}「………」
// <0047> 俺はしばらく立ちつくす。
<0047> 俺はしばらく立ちつくす。
// <0048> 顎に手をやる。
<0048> 顎に手をやる。
// <0049> ここの合い鍵を持っているのは鷹文と智代だけ。
<0049> ここの合い鍵を持っているのは鷹文と智代だけ。
// <0050> あいつらに妹がいたのか…?
<0050> あいつらに妹がいたのか…?
// <0051> そんな話は聞いていない。
<0051> そんな話は聞いていない。
// <0052> 智代が連れてきた…?
<0052> 智代が連れてきた…?
// <0053> どんな理由で?
<0053> どんな理由で?
// <0054> …思い浮かばない。
<0054> …思い浮かばない。
// <0055> すると、鷹文か。
<0055> すると、鷹文か。
// <0056> どんな理由で?
<0056> どんな理由で?
// <0057> \{朋也}「おまえ、あんま女に興味ないのな」
<0057> \{Tomoya}「おまえ、あんま女に興味ないのな」
// <0058> \{鷹文}「え?」
<0058> \{Takafumi}「え?」
// <0059> \{鷹文}「あるよ、ちゃんと」
<0059> \{Takafumi}「あるよ、ちゃんと」
// <0060> うわあああぁぁぁぁーーーーっ!
<0060> うわあああぁぁぁぁーーーーっ!
// <0061> そういうことだったのか!
<0061> そういうことだったのか!
// <0062> \{朋也}「ということは…」
<0062> \{Tomoya}「ということは…」
// <0063> \{朋也}「鷹文がさらってきた…」
<0063> \{Tomoya}「鷹文がさらってきた…」
// <0064> それは大変なことだ。
<0064> それは大変なことだ。
// <0065> 犯罪だぞ、鷹文…。
<0065> 犯罪だぞ、鷹文…。
// <0066> とにかく、だ…
<0066> とにかく、だ…
// <0067> 扇風機が当たってるから、風邪を引かないようバスタオルをかけてあげよう。
<0067> 扇風機が当たってるから、風邪を引かないようバスタオルをかけてあげよう。
// <0068> がちゃり。
<0068> がちゃり。
// <0069> ドアが開く。
<0069> ドアが開く。
// <0070> \{朋也}「おい、鷹文」
<0070> \{Tomoya}「おい、鷹文」
// <0071> \{智代}「ん」
<0071> \{Tomoyo}「ん」
// <0072> 買い物袋を下げた智代だった。
<0072> 買い物袋を下げた智代だった。
// <0073> ふぅと重苦しいため息をついた後、口を開く。
<0073> ふぅと重苦しいため息をついた後、口を開く。
// <0074> \{智代}「おまえは私より、鷹文に来てほしいのか」
<0074> \{Tomoyo}「おまえは私より、鷹文に来てほしいのか」
// <0075> \{朋也}「ああ、いや…違う、今は鷹文を探していただけ」
<0075> \{Tomoya}「ああ、いや…違う、今は鷹文を探していただけ」
// <0076> \{智代}「おまえたち、本当にその気(け)があるのではないかと疑ってしまうぞ」
<0076> \{Tomoyo}「おまえたち、本当にその気(け)があるのではないかと疑ってしまうぞ」
// <0077> \{朋也}「いや、鷹文は違う気(け)だったよ…」
<0077> \{Tomoya}「いや、鷹文は違う気(け)だったよ…」
// <0078> \{智代}「ん? なんのことだ」
<0078> \{Tomoyo}「ん? なんのことだ」
// <0079> \{朋也}「いや、なんでも」
<0079> \{Tomoya}「いや、なんでも」
// <0080> 智代はいつもと同じように、テーブルに買い物袋を置き、椅子にかけてあったエプロンを手に取る。
<0080> 智代はいつもと同じように、テーブルに買い物袋を置き、椅子にかけてあったエプロンを手に取る。
// <0081> しばらくは炊事に集中してくれるだろう。
<0081> しばらくは炊事に集中してくれるだろう。
// <0082> さて、女の子をどうしたものか。智代にばれないうちに、押入にでも隠すか…。
<0082> さて、女の子をどうしたものか。智代にばれないうちに、押入にでも隠すか…。
// <0083> 俺はそっと女の子をバスタオルにくるんで、持ち上げる。
<0083> 俺はそっと女の子をバスタオルにくるんで、持ち上げる。
// <0084> \{智代}「なんだ、その子は」
<0084> \{Tomoyo}「なんだ、その子は」
// <0085> ぐあ…。
<0085> ぐあ…。
// <0086> すぐ背後で智代の声。
<0086> すぐ背後で智代の声。
// <0087> 振り返ると目が合う。
<0087> 振り返ると目が合う。
// <0088> \{智代}「どうしてそんな小さな女の子がここにいる」
<0088> \{Tomoyo}「どうしてそんな小さな女の子がここにいる」
// <0089> \{朋也}「いや、これは、鷹文が…」
<0089> \{Tomoya}「いや、これは、鷹文が…」
// <0090> \{智代}「鷹文? 鷹文がどうした」
<0090> \{Tomoyo}「鷹文? 鷹文がどうした」
// <0091> \{朋也}「えっと…」
<0091> \{Tomoya}「えっと…」
// <0092> いや、俺だけでもあいつを庇ってやらないとな。
<0092> いや、俺だけでもあいつを庇ってやらないとな。
// <0093> 俺はいつでも助けてやるって、あの日に誓ったんだから。
<0093> 俺はいつでも助けてやるって、あの日に誓ったんだから。
// <0094> \{朋也}「いや、鷹文じゃなくて…俺が…」
<0094> \{Tomoya}「いや、鷹文じゃなくて…俺が…」
// <0095> \{智代}「おまえが…?」
<0095> \{Tomoyo}「おまえが…?」
// <0096> \{朋也}「さらってきた」
<0096> \{Tomoya}「さらってきた」
// <0097> \{智代}「………」
<0097> \{Tomoyo}「………」
// <0098> \{智代}「お、おまえはっ! それは犯罪じゃないかっ」
<0098> \{Tomoyo}「お、おまえはっ! それは犯罪じゃないかっ」
// <0099> \{智代}「なんてことをしたんだ…まずはなんだ…そうだ、警察っ」
<0099> \{Tomoyo}「なんてことをしたんだ…まずはなんだ…そうだ、警察っ」
// <0100> \{朋也}「いや、冗談…」
<0100> \{Tomoya}「いや、冗談…」
// <0101> 慌てて電話に駆け寄る智代を制止するにはそう続けるしかなかった。
<0101> 慌てて電話に駆け寄る智代を制止するにはそう続けるしかなかった。
// <0102> \{智代}「はぁ…」
<0102> \{Tomoyo}「はぁ…」
// <0103> 智代はまた重たいため息をつく。
<0103> 智代はまた重たいため息をつく。
// <0104> \{智代}「おまえの冗談は昔から笑えない。よしてくれ…」
<0104> \{Tomoyo}「おまえの冗談は昔から笑えない。よしてくれ…」
// <0105> \{朋也}「ああ…」
<0105> \{Tomoya}「ああ…」
// <0106> \{智代}「で、なんなんだ、その子は?」
<0106> \{Tomoyo}「で、なんなんだ、その子は?」
// <0107> \{朋也}「俺の子」
<0107> \{Tomoya}「俺の子」
// <0108> \{智代}「………」
<0108> \{Tomoyo}「………」
// <0109> \{智代}「そうか…」
<0109> \{Tomoyo}「そうか…」
// <0110> \{朋也}「ああ…」
<0110> \{Tomoya}「ああ…」
// <0111> \{智代}「そうだったのか…」
<0111> \{Tomoyo}「そうだったのか…」
// <0112> \{智代}「私の恋は…不倫だったのか…」
<0112> \{Tomoyo}「私の恋は…不倫だったのか…」
// <0113> \{智代}「もっと早く言ってほしかったっ」
<0113> \{Tomoyo}「もっと早く言ってほしかったっ」
// <0114> \{智代}「もう、私はおまえから離れられないっ」
<0114> \{Tomoyo}「もう、私はおまえから離れられないっ」
// <0115> \{智代}「でも不倫はよくないことだっ」
<0115> \{Tomoyo}「でも不倫はよくないことだっ」
// <0116> \{智代}「私はどうしたらいいんだっ」
<0116> \{Tomoyo}「私はどうしたらいいんだっ」
// <0117> 智代が涙目になる。このまま泣き出しそうだ…。
<0117> 智代が涙目になる。このまま泣き出しそうだ…。
// <0118> \{朋也}「あのさ…」
<0118> \{Tomoya}「あのさ…」
// <0119> \{智代}「………」
<0119> \{Tomoyo}「………」
// <0120> \{智代}「…なんだ…」
<0120> \{Tomoyo}「…なんだ…」
// <0121> \{朋也}「今のも冗談…」
<0121> \{Tomoya}「今のも冗談…」
// <0122> \{智代}「………」
<0122> \{Tomoyo}「………」
// <0123> \{智代}「う…」
<0123> \{Tomoyo}「う…」
// <0124> その場でしゃがみ込んで、エプロンで顔を覆ってしまう。
<0124> その場でしゃがみ込んで、エプロンで顔を覆ってしまう。
// <0125> \{智代}「うわあああぁーーーーんっ」
<0125> \{Tomoyo}「うわあああぁーーーーんっ」
// <0126> うわぁ…本気で泣かせてしまった…。
<0126> うわぁ…本気で泣かせてしまった…。
// <0127> 正直に話すしかないようだ。
<0127> 正直に話すしかないようだ。
// <0128> \{朋也}「智代…その、ごめん…」
<0128> \{Tomoya}「智代…その、ごめん…」
// <0129> \{朋也}「正直に話すよ…」
<0129> \{Tomoya}「正直に話すよ…」
// <0130> \{朋也}「実は…こいつ…」
<0130> \{Tomoya}「実は…こいつ…」
// <0131> \{朋也}「鷹文がさらってきたんだ…」
<0131> \{Tomoya}「鷹文がさらってきたんだ…」
// <0132> \{朋也}「でも怒らないでやってほしいんだ…」
<0132> \{Tomoya}「でも怒らないでやってほしいんだ…」
// <0133> \{朋也}「あいつ戻ってきたら、俺が叱るから…」
<0133> \{Tomoya}「あいつ戻ってきたら、俺が叱るから…」
// <0134> \{朋也}「それで、親御さんに返しにいくから…」
<0134> \{Tomoya}「それで、親御さんに返しにいくから…」
// <0135> \{朋也}「な、智代…」
<0135> \{Tomoya}「な、智代…」
// <0136> 智代は泣きはらした顔をあげる。
<0136> 智代は泣きはらした顔をあげる。
// <0137> \{智代}「朋也…」
<0137> \{Tomoyo}「朋也…」
// <0138> \{智代}「私には嘘をつくな…」
<0138> \{Tomoyo}「私には嘘をつくな…」
// <0139> \{智代}「おまえがどんな逆境にあろうと、私は味方だ…」
<0139> \{Tomoyo}「おまえがどんな逆境にあろうと、私は味方だ…」
// <0140> \{智代}「ひとりで抱えるな…」
<0140> \{Tomoyo}「ひとりで抱えるな…」
// <0141> \{智代}「いつだって、ふたりは一緒だ…」
<0141> \{Tomoyo}「いつだって、ふたりは一緒だ…」
// <0142> \{朋也}「ああ…そうだったな…ごめん…」
<0142> \{Tomoya}「ああ…そうだったな…ごめん…」
// <0143> 手を伸ばし、智代の目元を拭う。
<0143> 手を伸ばし、智代の目元を拭う。
// <0144> その手を智代がつかむ。
<0144> その手を智代がつかむ。
// <0145> 引き寄せる。
<0145> 引き寄せる。
// <0146> 俺は女の子を抱きかかえたまま、智代とキスをした。
<0146> 俺は女の子を抱きかかえたまま、智代とキスをした。
// <0147> \{智代}「鷹文を…探さなければ…」
<0147> \{Tomoyo}「鷹文を…探さなければ…」
// <0148> 口を離して智代は呟いた。
<0148> 口を離して智代は呟いた。
// <0149> \{朋也}「だな…」
<0149> \{Tomoya}「だな…」
// <0150> そこへ、がちゃり、と戸が開く音。
<0150> そこへ、がちゃり、と戸が開く音。
// <0151> ふたり同時に振り返る。靴を脱いでいる鷹文がいた。
<0151> ふたり同時に振り返る。靴を脱いでいる鷹文がいた。
// <0152> \{鷹文}「あ、ふたりともいたんだ」
<0152> \{Takafumi}「あ、ふたりともいたんだ」
// <0153> \{智代・朋也}「鷹文っ」
<0153> \{Tomoyo & Tomoya}「鷹文っ」
// <0154> 俺と智代がその名を同時に呼ぶ。
<0154> 俺と智代がその名を同時に呼ぶ。
// <0155> \{鷹文}「どうしたの?」
<0155> \{Takafumi}「どうしたの?」
// <0156> \{智代}「鷹文…」
<0156> \{Tomoyo}「鷹文…」
// <0157> 智代が一歩前に踏み出す。
<0157> 智代が一歩前に踏み出す。
// <0158> \{智代}「言いたいことは山ほどあるが、話は後だ」
<0158> \{Tomoyo}「言いたいことは山ほどあるが、話は後だ」
// <0159> \{智代}「まず、この子の親を探そう。そして謝罪を」
<0159> \{Tomoyo}「まず、この子の親を探そう。そして謝罪を」
// <0160> \{鷹文}「え? その子の親?」
<0160> \{Takafumi}「え? その子の親?」
// <0161> \{智代}「ああ。ものすごく心配しているはずだ」
<0161> \{Tomoyo}「ああ。ものすごく心配しているはずだ」
// <0162> \{鷹文}「心配? してないんじゃないかなあ」
<0162> \{Takafumi}「心配? してないんじゃないかなあ」
// <0163> \{智代}「子供がいなくなって、心配しない親がいるものかっ」
<0163> \{Tomoyo}「子供がいなくなって、心配しない親がいるものかっ」
// <0164> \{鷹文}「だって、自分にこんな小さな子供がいるなんて知らないんだから」
<0164> \{Takafumi}「だって、自分にこんな小さな子供がいるなんて知らないんだから」
// <0165> \{智代}「…それは…」
<0165> \{Tomoyo}「…それは…」
// <0166> \{智代}「複雑な家庭のようだな…」
<0166> \{Tomoyo}「複雑な家庭のようだな…」
// <0167> \{智代}「よし、私が事情を説明しよう」
<0167> \{Tomoyo}「よし、私が事情を説明しよう」
// <0168> \{智代}「電話番号を言え」
<0168> \{Tomoyo}「電話番号を言え」
// <0169> \{鷹文}「え? 電話するの?」
<0169> \{Takafumi}「え? 電話するの?」
// <0170> \{智代}「する。こんなこと放っておけるものか」
<0170> \{Tomoyo}「する。こんなこと放っておけるものか」
// <0171> 部屋の隅に正座して、受話器を取る。
<0171> 部屋の隅に正座して、受話器を取る。
// <0172> \{智代}「番号」
<0172> \{Tomoyo}「番号」
// <0173> \{鷹文}「えーと、○○の○○○○」
<0173> \{Takafumi}「えーと、○○の○○○○」
// <0174> \{智代}「○○の○○○○…と…」
<0174> \{Tomoyo}「○○の○○○○…と…」
// <0175> \{智代}「って、これうちの電話番号じゃないかっ」
<0175> \{Tomoyo}「って、これうちの電話番号じゃないかっ」
// <0176> 受話器を置いて、智代が鷹文につっこむ。
<0176> 受話器を置いて、智代が鷹文につっこむ。
// <0177> \{鷹文}「うん、だって、父さんの子だもん」
<0177> \{Takafumi}「うん、だって、父さんの子だもん」
// <0178> \{智代}「………」
<0178> \{Tomoyo}「………」
// <0179> \{智代}「私はそうだ…」
<0179> \{Tomoyo}「私はそうだ…」
// <0180> \{鷹文}「僕もそうだよ」
<0180> \{Takafumi}「僕もそうだよ」
// <0181> \{鷹文}「そして、その子も」
<0181> \{Takafumi}「そして、その子も」
// <0182> \{智代}「………」
<0182> \{Tomoyo}「………」
// <0183> \{鷹文}「父さんの隠し子」
<0183> \{Takafumi}「父さんの隠し子」
// <0184> \{鷹文}「愛人との間にできちゃった子」
<0184> \{Takafumi}「愛人との間にできちゃった子」
// <0185> \{鷹文}「僕らの腹違いの妹」
<0185> \{Takafumi}「僕らの腹違いの妹」
// <0186> \{智代}「………」
<0186> \{Tomoyo}「………」
// <0187> \{鷹文}「あのさ、なにか喋ってくれない?」
<0187> \{Takafumi}「あのさ、なにか喋ってくれない?」
// <0188> \{智代}「………」
<0188> \{Tomoyo}「………」
// <0189> 智代は黙ったまま、ダイヤルをプッシュする。
<0189> 智代は黙ったまま、ダイヤルをプッシュする。
// <0190> そして…
<0190> そして…
// <0191> \{智代}「何を考えてるんだ、貴様はあぁぁぁーーっ!」
<0191> \{Tomoyo}「何を考えてるんだ、貴様はあぁぁぁーーっ!」
// <0192> 電話口に向かって叫んでいた。
<0192> 電話口に向かって叫んでいた。
// <0193> \{鷹文}「あ、ねぇちゃん、母さんには言っちゃ駄目だよっ」
<0193> \{Takafumi}「あ、ねぇちゃん、母さんには言っちゃ駄目だよっ」
// <0194> \{智代}「ああん?」
<0194> \{Tomoyo}「ああん?」
// <0195> \{鷹文}「母さんは知らないんだからさ」
<0195> \{Takafumi}「母さんは知らないんだからさ」
// <0196> \{智代}「………」
<0196> \{Tomoyo}「………」
// <0197> 再び受話器を耳に当てる。
<0197> 再び受話器を耳に当てる。
// <0198> \{智代}「…すまない、私だ」
<0198> \{Tomoyo}「…すまない、私だ」
// <0199> \{智代}「うん、なんでもない」
<0199> \{Tomoyo}「うん、なんでもない」
// <0200> \{智代}「今のは鷹文がエッチなことをしてきたから叫んだだけだ」
<0200> \{Tomoyo}「今のは鷹文がエッチなことをしてきたから叫んだだけだ」
// <0201> \{智代}「うん、もう大丈夫だ。今は落ち着いている。用はない。ではな」
<0201> \{Tomoyo}「うん、もう大丈夫だ。今は落ち着いている。用はない。ではな」
// <0202> がちゃん、と受話器を置く。
<0202> がちゃん、と受話器を置く。
// <0203> \{智代}「ふぅ…」
<0203> \{Tomoyo}「ふぅ…」
// <0204> \{鷹文}「ねぇちゃん、何げに僕の家族での立場を悪くしないでよね…」
<0204> \{Takafumi}「ねぇちゃん、何げに僕の家族での立場を悪くしないでよね…」
// <0205> \{智代}「自業自得だ」
<0205> \{Tomoyo}「自業自得だ」
// <0206> \{鷹文}「どこがさ」
<0206> \{Takafumi}「どこがさ」
// <0207> \{智代}「おまえが連れてきたんだろう」
<0207> \{Tomoyo}「おまえが連れてきたんだろう」
// <0208> \{鷹文}「そうだけど、仕方がなかったんだって」
<0208> \{Takafumi}「そうだけど、仕方がなかったんだって」
// <0209> \{智代}「どうして」
<0209> \{Tomoyo}「どうして」
// <0210> \{鷹文}「放っておいたら、家にあがってきてたよ」
<0210> \{Takafumi}「放っておいたら、家にあがってきてたよ」
// <0211> \{鷹文}「そうしたら、母さんとも会うことになってさ…」
<0211> \{Takafumi}「そうしたら、母さんとも会うことになってさ…」
// <0212> \{鷹文}「大問題勃発」
<0212> \{Takafumi}「大問題勃発」
// <0213> \{鷹文}「結婚記念日の数日後にだよ?」
<0213> \{Takafumi}「結婚記念日の数日後にだよ?」
// <0214> \{鷹文}「それとも会わせたほうがよかった?」
<0214> \{Takafumi}「それとも会わせたほうがよかった?」
// <0215> \{鷹文}「今のあのふたりに、今更隠し子がいましたって、そんな現実突きつけられる?」
<0215> \{Takafumi}「今のあのふたりに、今更隠し子がいましたって、そんな現実突きつけられる?」
// <0216> \{鷹文}「ふたりは、それぞれ愛人と別れてさ…」
<0216> \{Takafumi}「ふたりは、それぞれ愛人と別れてさ…」
// <0217> \{鷹文}「それで、また家族としてやり直してきたんだ」
<0217> \{Takafumi}「それで、また家族としてやり直してきたんだ」
// <0218> \{鷹文}「また同じものを失うかもしれない」
<0218> \{Takafumi}「また同じものを失うかもしれない」
// <0219> \{鷹文}「また長い時間を失うかもしれない」
<0219> \{Takafumi}「また長い時間を失うかもしれない」
// <0220> \{智代}「でも…この子は、あの人に会いに来たんだろう?」
<0220> \{Tomoyo}「でも…この子は、あの人に会いに来たんだろう?」
// <0221> 俺の胸で眠る女の子の髪に手で触れた。
<0221> 俺の胸で眠る女の子の髪に手で触れた。
// <0222> \{智代}「会わせないのも可哀想だ…」
<0222> \{Tomoyo}「会わせないのも可哀想だ…」
// <0223> \{鷹文}「だからさ、僕は考えたんだ」
<0223> \{Takafumi}「だからさ、僕は考えたんだ」
// <0224> \{智代}「なにを」
<0224> \{Tomoyo}「なにを」
// <0225> \{鷹文}「にぃちゃんが父親のふりをすればいいんじゃないかって」
<0225> \{Takafumi}「にぃちゃんが父親のふりをすればいいんじゃないかって」
// <0226> \{朋也}「はぁ…?」
<0226> \{Tomoya}「はぁ…?」
// <0227> 話が自分に及んできて、怪訝な声をあげる。
<0227> 話が自分に及んできて、怪訝な声をあげる。
// <0228> \{鷹文}「この子には母親がちゃんといるんだよ」
<0228> \{Takafumi}「この子には母親がちゃんといるんだよ」
// <0229> \{鷹文}「ただ、一度、父親にも会いたかっただけなんだよ」
<0229> \{Takafumi}「ただ、一度、父親にも会いたかっただけなんだよ」
// <0230> \{鷹文}「だからさ、今だけにぃちゃんが父親のふりをすればさ、願いも果たせてさ…」
<0230> \{Takafumi}「だからさ、今だけにぃちゃんが父親のふりをすればさ、願いも果たせてさ…」
// <0231> \{鷹文}「満足して自分の家に帰れる」
<0231> \{Takafumi}「満足して自分の家に帰れる」
// <0232> \{智代}「それは嘘じゃないか…」
<0232> \{Tomoyo}「それは嘘じゃないか…」
// <0233> \{鷹文}「でも、誰も傷つかない、何も失わない」
<0233> \{Takafumi}「でも、誰も傷つかない、何も失わない」
// <0234> \{智代}「………」
<0234> \{Tomoyo}「………」
// <0235> \{鷹文}「ね、にぃちゃん、そうしてあげようよ」
<0235> \{Takafumi}「ね、にぃちゃん、そうしてあげようよ」
// <0236> \{鷹文}「今の父さんに会わせても、温かく迎えられるはずないよ」
<0236> \{Takafumi}「今の父さんに会わせても、温かく迎えられるはずないよ」
// <0237> \{鷹文}「今の父さんには、僕たち家族のほうが大事なんだから…」
<0237> \{Takafumi}「今の父さんには、僕たち家族のほうが大事なんだから…」
// <0238> \{鷹文}「父さんも、母さんも、その子も…みんなが、傷つくよ…」
<0238> \{Takafumi}「父さんも、母さんも、その子も…みんなが、傷つくよ…」
// <0239> \{朋也}「………」
<0239> \{Tomoya}「………」
// <0240> 俺は黙ったままでいた。
<0240> 俺は黙ったままでいた。
// <0241> 嘘をつくことが正しい。
<0241> 嘘をつくことが正しい。
// <0242> そんなことあるはずない。
<0242> そんなことあるはずない。
// <0243> ないんだけど…
<0243> ないんだけど…
// <0244> 真実はあまりに辛辣で…
<0244> 真実はあまりに辛辣で…
// <0245> 鷹文が身を張って、守った家族を…
<0245> 鷹文が身を張って、守った家族を…
// <0246> また、壊しかねなくて…
<0246> また、壊しかねなくて…
// <0247> 本当にこの子の存在は…
<0247> 本当にこの子の存在は…
// <0248> みんなを傷つけてしまうんだ。
<0248> みんなを傷つけてしまうんだ。
// <0249> \{女の子}「ん…」
<0249> \{Girl}「ん…」
// <0250> 声がした。胸の子から。
<0250> 声がした。胸の子から。
// <0251> \{女の子}「あ…」
<0251> \{Girl}「あ…」
// <0252> 目が開いて、俺を見た。
<0252> 目が開いて、俺を見た。
// <0253> 口が開く。
<0253> 口が開く。
// <0254> \{女の子}「パパ?」
<0254> \{Girl}「パパ?」
// <0255> その可愛らしい口が訊いた。
<0255> その可愛らしい口が訊いた。
// <0256> 俺は首を振れないでいた。
<0256> 俺は首を振れないでいた。
// <0257> そうすると、その子は…
<0257> そうすると、その子は…
// <0258> \{女の子}「パパっ!」
<0258> \{Girl}「パパっ!」
// <0259> そう言って、抱きついてきた。
<0259> そう言って、抱きついてきた。
// <0260> 顔を胸にすりすりされる。
<0260> 顔を胸にすりすりされる。
// <0261> 庇護心をくすぐられ、無意識にその頭を撫でてしまう…。
<0261> 庇護心をくすぐられ、無意識にその頭を撫でてしまう…。
// <0262> ああ、嘘つきだ、俺…。
<0262> ああ、嘘つきだ、俺…。
// <0263> \{女の子}「こっちは?」
<0263> \{Girl}「こっちは?」
// <0264> ばっと顔を上げて、智代を指さしていた。
<0264> ばっと顔を上げて、智代を指さしていた。
// <0265> \{女の子}「ママ?」
<0265> \{Girl}「ママ?」
// <0266> \{智代}「う…」
<0266> \{Tomoyo}「う…」
// <0267> 智代も返答に詰まる。
<0267> 智代も返答に詰まる。
// <0268> \{鷹文}「うん、ママだねぇ」
<0268> \{Takafumi}「うん、ママだねぇ」
// <0269> 鷹文が答えていた!
<0269> 鷹文が答えていた!
// <0270> ぽかぽかと智代が鷹文を叩く。
<0270> ぽかぽかと智代が鷹文を叩く。
// <0271> \{女の子}「こわいママ?」
<0271> \{Girl}「こわいママ?」
// <0272> さっと手を引いて引きつった笑みを浮かべる智代。
<0272> さっと手を引いて引きつった笑みを浮かべる智代。
// <0273> \{智代}「こわくないぞ」
<0273> \{Tomoyo}「こわくないぞ」
// <0274> \{女の子}「ほんと?」
<0274> \{Girl}「ほんと?」
// <0275> \{智代}「ああ、ほんと」
<0275> \{Tomoyo}「ああ、ほんと」
// <0276> \{女の子}「じゃ、だっこ」
<0276> \{Girl}「じゃ、だっこ」
// <0277> \{智代}「うん、よし、代わるんだ、朋也」
<0277> \{Tomoyo}「うん、よし、代わるんだ、朋也」
// <0278> その小さな体を智代の細い腕に託す。
<0278> その小さな体を智代の細い腕に託す。
// <0279> \{智代}「どうだ? ん?」
<0279> \{Tomoyo}「どうだ? ん?」
// <0280> \{女の子}「いいにおい」
<0280> \{Girl}「いいにおい」
// <0281> その頬を智代の胸にこすりつける。
<0281> その頬を智代の胸にこすりつける。
// <0282> 智代の膝が折れ、女の子を抱きかかえたままその場に崩れる。
<0282> 智代の膝が折れ、女の子を抱きかかえたままその場に崩れる。
// <0283> \{朋也}「智代、どうした」
<0283> \{Tomoya}「智代、どうした」
// <0284> \{智代}「だめだ…」
<0284> \{Tomoyo}「だめだ…」
// <0285> \{朋也}「何が?」
<0285> \{Tomoya}「何が?」
// <0286> \{智代}「かわいすぎる…」
<0286> \{Tomoyo}「かわいすぎる…」
// <0287> \{朋也}「あ、そ…」
<0287> \{Tomoya}「あ、そ…」
// <0288> そうだ…こいつは子供が大好きだったんだ…。
<0288> そうだ…こいつは子供が大好きだったんだ…。
// <0289> \{女の子}「いいにおいー」
<0289> \{Girl}「いいにおいー」
// <0290> \{智代}「そうか? 髪かな。気に入ってもらえてよかった」
<0290> \{Tomoyo}「そうか? 髪かな。気に入ってもらえてよかった」
// <0291> 頬が緩みっぱなしの智代。
<0291> 頬が緩みっぱなしの智代。
// <0292> 俺相手では見せないその顔がなんだか、愛おしい。
<0292> 俺相手では見せないその顔がなんだか、愛おしい。
// <0293> \{智代}「名前は?」
<0293> \{Tomoyo}「名前は?」
// <0294> \{女の子}「とも」
<0294> \{Girl}「とも」
// <0295> \{朋也}「…また紛らわしいな」
<0295> \{Tomoya}「…また紛らわしいな」
// <0296> \{智代}「馬鹿、そんなこと言うんじゃない」
<0296> \{Tomoyo}「馬鹿、そんなこと言うんじゃない」
// <0297> \{智代}「むちゃくちゃかわいいじゃないか」
<0297> \{Tomoyo}「むちゃくちゃかわいいじゃないか」
// <0298> \{朋也}「あ、そ…」
<0298> \{Tomoya}「あ、そ…」
// <0299> この溺愛っぷり…。
<0299> この溺愛っぷり…。
// <0300> \{智代}「とも、おなか空いていないか? 今から晩ご飯作るからな。一緒に食べよう」
<0300> \{Tomoyo}「とも、おなか空いていないか? 今から晩ご飯作るからな。一緒に食べよう」
// <0301> \{とも}「うん」
<0301> \{Tomo}「うん」
// <0302> \{智代}「そうか、そこまではお母さんと一緒だったのか」
<0302> \{Tomoyo}「そうか、そこまではお母さんと一緒だったのか」
// <0303> \{智代}「そこからはひとりだったのか」
<0303> \{Tomoyo}「そこからはひとりだったのか」
// <0304> \{智代}「家の前でずっと待っていたのか」
<0304> \{Tomoyo}「家の前でずっと待っていたのか」
// <0305> \{智代}「それは寂しかっただろう」
<0305> \{Tomoyo}「それは寂しかっただろう」
// <0306> 智代は台所に立って、夕飯の支度。
<0306> 智代は台所に立って、夕飯の支度。
// <0307> ともはその足下で、ひっくり返した洗濯かごを椅子代わりにして座っていた。
<0307> ともはその足下で、ひっくり返した洗濯かごを椅子代わりにして座っていた。
// <0308> \{朋也}「パパに会いにきたんじゃなかったっけ?」
<0308> \{Tomoya}「パパに会いにきたんじゃなかったっけ?」
// <0309> \{鷹文}「でも気に入ったのは、ママのほうみたいだね」
<0309> \{Takafumi}「でも気に入ったのは、ママのほうみたいだね」
// <0310> 俺と鷹文はふたりに背中を向けて、テレビゲームをしていた。
<0310> 俺と鷹文はふたりに背中を向けて、テレビゲームをしていた。
// <0311> \{朋也}「で、あの子、どうするんだ」
<0311> \{Tomoya}「で、あの子、どうするんだ」
// <0312> \{鷹文}「僕に訊かないでよ」
<0312> \{Takafumi}「僕に訊かないでよ」
// <0313> \{朋也}「おまえが連れてきたんだろ…」
<0313> \{Tomoya}「おまえが連れてきたんだろ…」
// <0314> \{鷹文}「そんな先のことまで考えてなかったよ」
<0314> \{Takafumi}「そんな先のことまで考えてなかったよ」
// <0315> \{鷹文}「僕は…家族を守るので必死だったんだから…」
<0315> \{Takafumi}「僕は…家族を守るので必死だったんだから…」
// <0316> \{朋也}「ああ…そうだな…」
<0316> \{Tomoya}「ああ…そうだな…」
// <0317> \{朋也}「おまえは間違ってなかった」
<0317> \{Tomoya}「おまえは間違ってなかった」
// <0318> \{朋也}「たださ、もし何かあってもさ…」
<0318> \{Tomoya}「たださ、もし何かあってもさ…」
// <0319> \{朋也}「おまえはもう、なんもしなくていいからな」
<0319> \{Tomoya}「おまえはもう、なんもしなくていいからな」
// <0320> \{朋也}「おまえには、もう味方がいるだろ?」
<0320> \{Tomoya}「おまえには、もう味方がいるだろ?」
// <0321> \{鷹文}「ああ…うん」
<0321> \{Takafumi}「ああ…うん」
// <0322> 顔を下げる。前髪でその表情が隠れる。
<0322> 顔を下げる。前髪でその表情が隠れる。
// <0323> \{鷹文}「もちろん…あんなこと二度としないよ」
<0323> \{Takafumi}「もちろん…あんなこと二度としないよ」
// <0324> \{とも}「おいしー」
<0324> \{Tomo}「おいしー」
// <0325> 智代お手製のかぼちゃコロッケを口にして、目を輝かせるとも。
<0325> 智代お手製のかぼちゃコロッケを口にして、目を輝かせるとも。
// <0326> \{智代}「そうか、それはよかった」
<0326> \{Tomoyo}「そうか、それはよかった」
// <0327> \{智代}「ともは、かぼちゃも好きなんだな。えらいぞ」
<0327> \{Tomoyo}「ともは、かぼちゃも好きなんだな。えらいぞ」
// <0328> \{とも}「ううん、かぼちゃいつもたべられないんだー」
<0328> \{Tomo}「ううん、かぼちゃいつもたべられないんだー」
// <0329> \{とも}「こんなぐらいにきって、そのままでてくるの」
<0329> \{Tomo}「こんなぐらいにきって、そのままでてくるの」
// <0330> \{朋也}「そのままはださないだろ」
<0330> \{Tomoya}「そのままはださないだろ」
// <0331> \{智代}「煮てあるんだな。やわらかくなってただろ?」
<0331> \{Tomoyo}「煮てあるんだな。やわらかくなってただろ?」
// <0332> \{とも}「うん、でも、たべにくくて、ともにがてなんだー」
<0332> \{Tomo}「うん、でも、たべにくくて、ともにがてなんだー」
// <0333> 智代は子供の言葉が理解できるらしい。
<0333> 智代は子供の言葉が理解できるらしい。
// <0334> \{とも}「でも、これはかなりおいしいよー」
<0334> \{Tomo}「でも、これはかなりおいしいよー」
// <0335> \{智代}「うんうん、それはよかった」
<0335> \{Tomoyo}「うんうん、それはよかった」
// <0336> \{朋也}「で、おまえはなんでいんの」
<0336> \{Tomoya}「で、おまえはなんでいんの」
// <0337> 俺は同じ智代の手料理をつつく鷹文を見る。
<0337> 俺は同じ智代の手料理をつつく鷹文を見る。
// <0338> \{鷹文}「なんでって、雰囲気だよ」
<0338> \{Takafumi}「なんでって、雰囲気だよ」
// <0339> \{鷹文}「押しつけておいて、悪いでしょ」
<0339> \{Takafumi}「押しつけておいて、悪いでしょ」
// <0340> \{鷹文}「ま、いいじゃん。減るもんじゃなし」
<0340> \{Takafumi}「ま、いいじゃん。減るもんじゃなし」
// <0341> \{朋也}「いや、ウチの食料が著しく減っていってるんだが」
<0341> \{Tomoya}「いや、ウチの食料が著しく減っていってるんだが」
// <0342> \{智代}「ああ…それは私が悪かった。今度、お米を持ってこよう」
<0342> \{Tomoyo}「ああ…それは私が悪かった。今度、お米を持ってこよう」
// <0343> \{朋也}「いや、別に一日ぐらいいいけどさ…」
<0343> \{Tomoya}「いや、別に一日ぐらいいいけどさ…」
// <0344> \{智代}「いや、それがだな、朋也…」
<0344> \{Tomoyo}「いや、それがだな、朋也…」
// <0345> \{朋也}「なに」
<0345> \{Tomoya}「なに」
// <0346> \{智代}「ともの母親なんだが…少しの間帰ってこないらしい」
<0346> \{Tomoyo}「ともの母親なんだが…少しの間帰ってこないらしい」
// <0347> \{朋也}「どうして」
<0347> \{Tomoya}「どうして」
// <0348> \{智代}「いや、それはともにもわからないらしいんだ」
<0348> \{Tomoyo}「いや、それはともにもわからないらしいんだ」
// <0349> \{智代}「だから朋也…その間ここにおいてやってくれないか」
<0349> \{Tomoyo}「だから朋也…その間ここにおいてやってくれないか」
// <0350> \{朋也}「………」
<0350> \{Tomoya}「………」
// <0351> 空気が重く沈む。
<0351> 空気が重く沈む。
// <0352> \{鷹文}「これってさ…」
<0352> \{Takafumi}「これってさ…」
// <0353> 鷹文が口を開く。
<0353> 鷹文が口を開く。
// <0354> \{朋也}「いや、言うな…」
<0354> \{Tomoya}「いや、言うな…」
// <0355> \{鷹文}「ああ…うん…」
<0355> \{Takafumi}「ああ…うん…」
// <0356> …この子は…捨てられたんだ。
<0356> …この子は…捨てられたんだ。
// <0357> そのことに俺と鷹文だけは気づいていた。
<0357> そのことに俺と鷹文だけは気づいていた。
// <0358> とも本人は、コロッケを食べるのに夢中。
<0358> とも本人は、コロッケを食べるのに夢中。
// <0359> 智代は深く考えていないのか、優しい微笑みを浮かべたまま、ご飯のおかずにしながら、と茶碗を持たせようとしていた。
<0359> 智代は深く考えていないのか、優しい微笑みを浮かべたまま、ご飯のおかずにしながら、と茶碗を持たせようとしていた。
// <0360> \{鷹文}「…どうするつもり?」
<0360> \{Takafumi}「…どうするつもり?」
// <0361> 皿を拭きながら鷹文が小声で訊いてくる。今度は後かたづけで俺たちが流しの前に立つ番だった。
<0361> 皿を拭きながら鷹文が小声で訊いてくる。今度は後かたづけで俺たちが流しの前に立つ番だった。
// <0362> 智代とともは、畳の上で抱き合って転がっている。なんとも仲むつまじい。
<0362> 智代とともは、畳の上で抱き合って転がっている。なんとも仲むつまじい。
// <0363> \{鷹文}「…警察…とか?」
<0363> \{Takafumi}「…警察…とか?」
// <0364> \{朋也}「いや、それは考えてない」
<0364> \{Tomoya}「いや、それは考えてない」
// <0365> \{鷹文}「そ、よかった」
<0365> \{Takafumi}「そ、よかった」
// <0366> \{鷹文}「でも、本当に少しの間の用事でさ…」
<0366> \{Takafumi}「でも、本当に少しの間の用事でさ…」
// <0367> \{鷹文}「すぐ帰ってくるかも、お母さん」
<0367> \{Takafumi}「すぐ帰ってくるかも、お母さん」
// <0368> \{朋也}「それで、認知もされていない父親の元に預けるなんて考えるかよ…」
<0368> \{Tomoya}「それで、認知もされていない父親の元に預けるなんて考えるかよ…」
// <0369> \{鷹文}「…うん、そうだね…」
<0369> \{Takafumi}「…うん、そうだね…」
// <0370> \{智代}「聞いてくれ、朋也っ、いや、聞きたいだろう?」
<0370> \{Tomoyo}「聞いてくれ、朋也っ、いや、聞きたいだろう?」
// <0371> 居間に戻るなり、智代がもったいぶって訊いてくる。
<0371> 居間に戻るなり、智代がもったいぶって訊いてくる。
// <0372> ともは背中から両足ではさんで、大事そうに抱えられている。
<0372> ともは背中から両足ではさんで、大事そうに抱えられている。
// <0373> \{朋也}「なんだよ…」
<0373> \{Tomoya}「なんだよ…」
// <0374> \{智代}「さっき、ともとキスしたんだ」
<0374> \{Tomoyo}「さっき、ともとキスしたんだ」
// <0375> \{朋也}「あ、そ…」
<0375> \{Tomoya}「あ、そ…」
// <0376> \{智代}「口と口だぞ」
<0376> \{Tomoyo}「口と口だぞ」
// <0377> \{智代}「ちなみにおまえとはしないそうだ」
<0377> \{Tomoyo}「ちなみにおまえとはしないそうだ」
// <0378> \{智代}「私だけだぞ」
<0378> \{Tomoyo}「私だけだぞ」
// <0379> ひとり上機嫌の智代。
<0379> ひとり上機嫌の智代。
// <0380> それを見て、ははは…と苦笑いの弟。
<0380> それを見て、ははは…と苦笑いの弟。
// <0381> \{朋也}「で…今日はおまえ、どうすんの」
<0381> \{Tomoya}「で…今日はおまえ、どうすんの」
// <0382> \{智代}「ん…?」
<0382> \{Tomoyo}「ん…?」
// <0383> \{朋也}「ともと泊まってくのか?」
<0383> \{Tomoya}「ともと泊まってくのか?」
// <0384> \{智代}「ああ…」
<0384> \{Tomoyo}「ああ…」
// <0385> \{智代}「うん…そうだな。そうしたい」
<0385> \{Tomoyo}「うん…そうだな。そうしたい」
// <0386> \{智代}「ともも、私といたいだろ?」
<0386> \{Tomoyo}「ともも、私といたいだろ?」
// <0387> \{とも}「うん」
<0387> \{Tomo}「うん」
// <0388> \{智代}「そうか。ならいてやる」
<0388> \{Tomoyo}「そうか。ならいてやる」
// <0389> \{智代}「一緒に寝よう」
<0389> \{Tomoyo}「一緒に寝よう」
// <0390> \{とも}「うんー」
<0390> \{Tomo}「うんー」
// <0391> \{朋也}「布団ひとつしかないんだけどさ」
<0391> \{Tomoya}「布団ひとつしかないんだけどさ」
// <0392> \{智代}「この季節だ、大丈夫だろ」
<0392> \{Tomoyo}「この季節だ、大丈夫だろ」
// <0393> \{朋也}「まあ、おまえがいいなら、いいけどさ」
<0393> \{Tomoya}「まあ、おまえがいいなら、いいけどさ」
// <0394> \{智代}「この子がいたら、ヘンなこともされないから安心だ」
<0394> \{Tomoyo}「この子がいたら、ヘンなこともされないから安心だ」
// <0395> \{朋也}「あ、そ…」
<0395> \{Tomoya}「あ、そ…」
// <0396> \{智代}「ああ、ともの肌は柔らかいな」
<0396> \{Tomoyo}「ああ、ともの肌は柔らかいな」
// <0397> \{智代}「どうしてこんなに柔らかいんだ?」
<0397> \{Tomoyo}「どうしてこんなに柔らかいんだ?」
// <0398> 頬をすり合わせる。
<0398> 頬をすり合わせる。
// <0399> 目の中に入れても痛くないという様子だ。
<0399> 目の中に入れても痛くないという様子だ。
// <0400> \{朋也}「鷹文、おまえは?」
<0400> \{Tomoya}「鷹文、おまえは?」
// <0401> \{鷹文}「え? 僕? 帰るけど」
<0401> \{Takafumi}「え? 僕? 帰るけど」
// <0402> \{朋也}「だな、賢明だ」
<0402> \{Tomoya}「だな、賢明だ」
// <0403> 鷹文はいちゃついているふたりの前にしゃがみこむ。
<0403> 鷹文はいちゃついているふたりの前にしゃがみこむ。
// <0404> そして、ともの髪を撫でる。
<0404> そして、ともの髪を撫でる。
// <0405> \{鷹文}「じゃ、おにぃちゃんは帰るね」
<0405> \{Takafumi}「じゃ、おにぃちゃんは帰るね」
// <0406> \{とも}「え? どこに?」
<0406> \{Tomo}「え? どこに?」
// <0407> \{鷹文}「自分のおうち。ここ自分んちじゃないから」
<0407> \{Takafumi}「自分のおうち。ここ自分んちじゃないから」
// <0408> \{とも}「あ、そうなんだー」
<0408> \{Tomo}「あ、そうなんだー」
// <0409> \{智代}「馬鹿、とも、こんな大きい子がいるわけないだろう」
<0409> \{Tomoyo}「馬鹿、とも、こんな大きい子がいるわけないだろう」
// <0410> \{鷹文}「そ。僕はこのおねぇちゃんの弟の鷹文」
<0410> \{Takafumi}「そ。僕はこのおねぇちゃんの弟の鷹文」
// <0411> \{智代}「覚えづらい名前だろ」
<0411> \{Tomoyo}「覚えづらい名前だろ」
// <0412> \{智代}「その点、私の名前はおまえのともに『よ』を足しただけの智代だ。覚えやすいだろ?」
<0412> \{Tomoyo}「その点、私の名前はおまえのともに『よ』を足しただけの智代だ。覚えやすいだろ?」
// <0413> \{とも}「うん、ともよね、ともよ」
<0413> \{Tomo}「うん、ともよね、ともよ」
// <0414> \{智代}「うん、もう呼び捨てでもなんでもかまわないぞ」
<0414> \{Tomoyo}「うん、もう呼び捨てでもなんでもかまわないぞ」
// <0415> すでにふたりだけの世界ができあがっている。
<0415> すでにふたりだけの世界ができあがっている。
// <0416> それを前に鷹文は言葉なく呆れたように立ち上がる。
<0416> それを前に鷹文は言葉なく呆れたように立ち上がる。
// <0417> \{鷹文}「にぃちゃん、しばらくねぇちゃんとエッチなことできそうもないね」
<0417> \{Takafumi}「にぃちゃん、しばらくねぇちゃんとエッチなことできそうもないね」
// <0418> \{朋也}「ちなみに初めての外泊ね」
<0418> \{Tomoya}「ちなみに初めての外泊ね」
// <0419> \{鷹文}「まぁ、頑張ってよ。僕も手伝えることあったら手伝うから」
<0419> \{Takafumi}「まぁ、頑張ってよ。僕も手伝えることあったら手伝うから」
// <0420> \{朋也}「エッチの?」
<0420> \{Tomoya}「エッチの?」
// <0421> \{鷹文}「そんなこと手伝ってほしいの?」
<0421> \{Takafumi}「そんなこと手伝ってほしいの?」
// <0422> \{朋也}「たまには」
<0422> \{Tomoya}「たまには」
// <0423> \{鷹文}「気が向いたらね」
<0423> \{Takafumi}「気が向いたらね」
// <0424> \{鷹文}「他にも…いろいろとあるでしょ」
<0424> \{Takafumi}「他にも…いろいろとあるでしょ」
// <0425> \{鷹文}「きっと、いろんなことあるよ」
<0425> \{Takafumi}「きっと、いろんなことあるよ」
// <0426> \{朋也}「ああ…そうだな」
<0426> \{Tomoya}「ああ…そうだな」
// <0427> ふたりで長いため息をつき、苦笑し合う。
<0427> ふたりで長いため息をつき、苦笑し合う。
// <0428> \{鷹文}「後、あの子の荷物、置いてあるから」
<0428> \{Takafumi}「後、あの子の荷物、置いてあるから」
// <0429> 部屋の隅を指さした。そこにはリュックサック。
<0429> 部屋の隅を指さした。そこにはリュックサック。
// <0430> \{朋也}「ああ」
<0430> \{Tomoya}「ああ」
// <0431> \{鷹文}「じゃ、おやすみ」
<0431> \{Takafumi}「じゃ、おやすみ」
// <0432> \{朋也}「ああ、おやすみ」
<0432> \{Tomoya}「ああ、おやすみ」
// <0433> 靴を履いて出て行くのを見送る。
<0433> 靴を履いて出て行くのを見送る。
// <0434> \{智代}「見ろ。あのふたりはできてるんだ。男同士なのにな」
<0434> \{Tomoyo}「見ろ。あのふたりはできてるんだ。男同士なのにな」
// <0435> \{智代}「特にあの男は変態なんだ」
<0435> \{Tomoyo}「特にあの男は変態なんだ」
// <0436> \{とも}「パパ、へんたいなの?」
<0436> \{Tomo}「パパ、へんたいなの?」
// <0437> \{智代}「うん」
<0437> \{Tomoyo}「うん」
// <0438> \{朋也}「こらこら、ヘンなこと教えるな」
<0438> \{Tomoya}「こらこら、ヘンなこと教えるな」
// <0439> \{智代}「本当のことだからいいんだ」
<0439> \{Tomoyo}「本当のことだからいいんだ」
// <0440> \{朋也}「嘘だからよくない」
<0440> \{Tomoya}「嘘だからよくない」
// <0441> \{智代}「おまえは変態だという自覚があったじゃないか」
<0441> \{Tomoyo}「おまえは変態だという自覚があったじゃないか」
// <0442> \{朋也}「いや、あれはあん時だけ。普段は正常」
<0442> \{Tomoya}「いや、あれはあん時だけ。普段は正常」
// <0443> \{智代}「そんな都合のいい変態がいるか」
<0443> \{Tomoyo}「そんな都合のいい変態がいるか」
// <0444> \{智代}「おまえは変態だ」
<0444> \{Tomoyo}「おまえは変態だ」
// <0445> \{とも}「だーかーらっ」
<0445> \{Tomo}「だーかーらっ」
// <0446> \{とも}「けんかよくないっ」
<0446> \{Tomo}「けんかよくないっ」
// <0447> 俺が詰め寄ったところで、甲高い声。
<0447> 俺が詰め寄ったところで、甲高い声。
// <0448> ともが両手をあげてふたりの間を塞いでいた。
<0448> ともが両手をあげてふたりの間を塞いでいた。
// <0449> \{智代}「ああ、いや、とも、違うんだ、これは喧嘩じゃないんだ」
<0449> \{Tomoyo}「ああ、いや、とも、違うんだ、これは喧嘩じゃないんだ」
// <0450> \{智代}「な、朋也」
<0450> \{Tomoyo}「な、朋也」
// <0451> \{朋也}「あ、ああ…」
<0451> \{Tomoya}「あ、ああ…」
// <0452> \{とも}「なかなおりした?」
<0452> \{Tomo}「なかなおりした?」
// <0453> \{智代}「仲直りもなにも、喧嘩していないんだ」
<0453> \{Tomoyo}「仲直りもなにも、喧嘩していないんだ」
// <0454> \{とも}「じゃ、ちゅー」
<0454> \{Tomo}「じゃ、ちゅー」
// <0455> \{智代}「ああ、うん、してやるぞ」
<0455> \{Tomoyo}「ああ、うん、してやるぞ」
// <0456> \{とも}「ともにじゃなく、パパに」
<0456> \{Tomo}「ともにじゃなく、パパに」
// <0457> \{智代}「………」
<0457> \{Tomoyo}「………」
// <0458> 空気が凍りつく。
<0458> 空気が凍りつく。
// <0459> \{とも}「なおちゃんのパパとママもね、なかなおりするとしてるんだよ」
<0459> \{Tomo}「なおちゃんのパパとママもね、なかなおりするとしてるんだよ」
// <0460> \{智代}「………」
<0460> \{Tomoyo}「………」
// <0461> ぐっ、と歯を食いしばる智代。その口を重々しく開いた。
<0461> ぐっ、と歯を食いしばる智代。その口を重々しく開いた。
// <0462> \{智代}「あのな、とも…」
<0462> \{Tomoyo}「あのな、とも…」
// <0463> \{智代}「よそはよそ、うちはうち、だ」
<0463> \{Tomoyo}「よそはよそ、うちはうち、だ」
// <0464> でたーーーっ!
<0464> でたーーーっ!
// <0465> \{とも}「でも、さっきともにはしてくれた」
<0465> \{Tomo}「でも、さっきともにはしてくれた」
// <0466> 返されたーーーっ!
<0466> 返されたーーーっ!
// <0467> \{とも}「ともにはできるのにパパにできないってヘンだよ」
<0467> \{Tomo}「ともにはできるのにパパにできないってヘンだよ」
// <0468> \{智代}「ヘンか…そうか…ヘンなのか…」
<0468> \{Tomoyo}「ヘンか…そうか…ヘンなのか…」
// <0469> \{とも}「うんうん」
<0469> \{Tomo}「うんうん」
// <0470> \{智代}「わかった…とも…するから…ちゃんと見ておけ…」
<0470> \{Tomoyo}「わかった…とも…するから…ちゃんと見ておけ…」
// <0471> \{とも}「うんうん」
<0471> \{Tomo}「うんうん」
// <0472> ともの肩に手を置き、立ち上がる。
<0472> ともの肩に手を置き、立ち上がる。
// <0473> \{智代}「いくぞ…」
<0473> \{Tomoyo}「いくぞ…」
// <0474> 向かい合う。
<0474> 向かい合う。
// <0475> 下では、ともがじっと俺たちのことを見つめている。
<0475> 下では、ともがじっと俺たちのことを見つめている。
// <0476> さすがに人前でするキスは恥ずかしいのか、しばらく顔を伏せている智代。
<0476> さすがに人前でするキスは恥ずかしいのか、しばらく顔を伏せている智代。
// <0477> なんだか初々しい。
<0477> なんだか初々しい。
// <0478> \{朋也}「初めてキスした時のことを思い出すな」
<0478> \{Tomoya}「初めてキスした時のことを思い出すな」
// <0479> \{智代}「うん…私も同じことを考えていたところだ…」
<0479> \{Tomoyo}「うん…私も同じことを考えていたところだ…」
// <0480> あれは学校の廊下だった。
<0480> あれは学校の廊下だった。
// <0481> 俺も制服姿だった。
<0481> 俺も制服姿だった。
// <0482> あの時と同じように、俺から智代の首を引き寄せる。
<0482> あの時と同じように、俺から智代の首を引き寄せる。
// <0483> そして唇を重ねた。
<0483> そして唇を重ねた。
// <0484> 廊下の不自然な静けさの中で。
<0484> 廊下の不自然な静けさの中で。
// <0485> 部活動に勤しむ生徒たちのかけ声を遠くに。
<0485> 部活動に勤しむ生徒たちのかけ声を遠くに。
// <0486> 口を離す。
<0486> 口を離す。
// <0487> すると、あの時と同じように、智代がもう一度求めてきた。
<0487> すると、あの時と同じように、智代がもう一度求めてきた。
// <0488> 先ほどよりもっと深く合わせる。
<0488> 先ほどよりもっと深く合わせる。
// <0489> 感じてか、んっ…と智代の鼻息が荒くなる。
<0489> 感じてか、んっ…と智代の鼻息が荒くなる。
// <0490> \{とも}「うわーすごくなかなおりしたんだねー」
<0490> \{Tomo}「うわーすごくなかなおりしたんだねー」
// <0491> ばっ!と智代が俺の胸を突き放す。
<0491> ばっ!と智代が俺の胸を突き放す。
// <0492> そして、
<0492> そして、
// <0493> どーん!と床に突っ伏した。
<0493> どーん!と床に突っ伏した。
// <0494> \{智代}「見られてるの…忘れてた…」
<0494> \{Tomoyo}「見られてるの…忘れてた…」
// <0495> \{智代}「とも…今の…忘れるんだ…うん、いい子だね…」
<0495> \{Tomoyo}「とも…今の…忘れるんだ…うん、いい子だね…」
// <0496> \{とも}「あした、みんなにじまんしよー」
<0496> \{Tomo}「あした、みんなにじまんしよー」
// <0497> どーーーん!と再び効果音が鳴るほどに肩を落とす。
<0497> どーーーん!と再び効果音が鳴るほどに肩を落とす。
// <0498> \{朋也}「明日って、そういや、学校…じゃないな、幼稚園か、いくのか?」
<0498> \{Tomoya}「明日って、そういや、学校…じゃないな、幼稚園か、いくのか?」
// <0499> \{とも}「いくよー、とも、やすんだことないんだ、えらいでしょー」
<0499> \{Tomo}「いくよー、とも、やすんだことないんだ、えらいでしょー」
// <0500> \{朋也}「そうか、そいつはえらいな」
<0500> \{Tomoya}「そうか、そいつはえらいな」
// <0501> \{朋也}「でも、ここからは遠いんじゃないのか?」
<0501> \{Tomoya}「でも、ここからは遠いんじゃないのか?」
// <0502> \{とも}「しらないよ。ここ、とものしらないとこだもん」
<0502> \{Tomo}「しらないよ。ここ、とものしらないとこだもん」
// <0503> \{朋也}「名前は? 幼稚園の名前」
<0503> \{Tomoya}「名前は? 幼稚園の名前」
// <0504> それを聞き出して、電話帳を開いて調べてみる。
<0504> それを聞き出して、電話帳を開いて調べてみる。
// <0505> \{朋也}「市内だな」
<0505> \{Tomoya}「市内だな」
// <0506> \{朋也}「今日はもう遅いから、明日朝一で電話して場所を聞こう」
<0506> \{Tomoya}「今日はもう遅いから、明日朝一で電話して場所を聞こう」
// <0507> \{朋也}「な、智代」
<0507> \{Tomoya}「な、智代」
// <0508> \{智代}「ともはいい子だな…いい子は好きだぞ…」
<0508> \{Tomoyo}「ともはいい子だな…いい子は好きだぞ…」
// <0509> まだ落ち込んでいるし。
<0509> まだ落ち込んでいるし。
// <0510> \{朋也}「とも、いつも何時に寝てるんだ」
<0510> \{Tomoya}「とも、いつも何時に寝てるんだ」
// <0511> \{とも}「んーあと1時間くらいかなー?」
<0511> \{Tomo}「んーあと1時間くらいかなー?」
// <0512> \{朋也}「そうか、じゃ、そろそろ風呂入らないとな」
<0512> \{Tomoya}「そうか、じゃ、そろそろ風呂入らないとな」
// <0513> \{朋也}「一緒に入るか?」
<0513> \{Tomoya}「一緒に入るか?」
// <0514> \{とも}「うん、いいよ」
<0514> \{Tomo}「うん、いいよ」
// <0515> \{智代}「馬鹿っ、ダメだっ」
<0515> \{Tomoyo}「馬鹿っ、ダメだっ」
// <0516> ここでようやく智代が復活。
<0516> ここでようやく智代が復活。
// <0517> \{智代}「女の子だぞ、女の子っ」
<0517> \{Tomoyo}「女の子だぞ、女の子っ」
// <0518> \{朋也}「いいじゃん、小さいんだし」
<0518> \{Tomoya}「いいじゃん、小さいんだし」
// <0519> \{智代}「おまえはダメだ。私が入れる」
<0519> \{Tomoyo}「おまえはダメだ。私が入れる」
// <0520> \{とも}「じゃあ、さんにんで」
<0520> \{Tomo}「じゃあ、さんにんで」
// <0521> 空気が凍りつく。
<0521> 空気が凍りつく。
// <0522> しかし俺にはうれしい提案だった!
<0522> しかし俺にはうれしい提案だった!
// <0523> \{朋也}「じゃあ、仕方ないなあ…」
<0523> \{Tomoya}「じゃあ、仕方ないなあ…」
// <0524> \{智代}「仕方ないことあるかっ」
<0524> \{Tomoyo}「仕方ないことあるかっ」
// <0525> \{智代}「一緒にお風呂に入るだと? 素っ裸じゃないかっ」
<0525> \{Tomoyo}「一緒にお風呂に入るだと? 素っ裸じゃないかっ」
// <0526> \{朋也}「そりゃまあ…」
<0526> \{Tomoya}「そりゃまあ…」
// <0527> \{智代}「おまえは絶対私の裸を見るじゃないかっ」
<0527> \{Tomoyo}「おまえは絶対私の裸を見るじゃないかっ」
// <0528> \{朋也}「そりゃまあ…」
<0528> \{Tomoya}「そりゃまあ…」
// <0529> \{智代}「ああもう、おまえは絶対エッチなことを考えるっ」
<0529> \{Tomoyo}「ああもう、おまえは絶対エッチなことを考えるっ」
// <0530> \{朋也}「そうかなあ」
<0530> \{Tomoya}「そうかなあ」
// <0531> \{智代}「絶対だ、絶対!」
<0531> \{Tomoyo}「絶対だ、絶対!」
// <0532> \{とも}「またけんかっ?」
<0532> \{Tomo}「またけんかっ?」
// <0533> \{智代}「あ、いや、違うんだ、ともっ」
<0533> \{Tomoyo}「あ、いや、違うんだ、ともっ」
// <0534> \{とも}「じゃ、なかなおりのちゅー」
<0534> \{Tomo}「じゃ、なかなおりのちゅー」
// <0535> \{智代}「仲直りも何も、仲はいいまんまなんだ」
<0535> \{Tomoyo}「仲直りも何も、仲はいいまんまなんだ」
// <0536> \{とも}「じゃ、なかのいいちゅー」
<0536> \{Tomo}「じゃ、なかのいいちゅー」
// <0537> \{智代}「………」
<0537> \{Tomoyo}「………」
// <0538> \{智代}「…ともは、私をいじめてるんだな…」
<0538> \{Tomoyo}「…ともは、私をいじめてるんだな…」
// <0539> \{智代}「そんなにともの前でキスばかりさせないでくれ…」
<0539> \{Tomoyo}「そんなにともの前でキスばかりさせないでくれ…」
// <0540> \{とも}「どうして?」
<0540> \{Tomo}「どうして?」
// <0541> \{智代}「子供の前でキスばかりしてたら…ヘンだ…」
<0541> \{Tomoyo}「子供の前でキスばかりしてたら…ヘンだ…」
// <0542> \{とも}「そんなことないよ」
<0542> \{Tomo}「そんなことないよ」
// <0543> \{とも}「ウチのママはパパと仲が悪くなって、それでひとりになっちゃったんだから」
<0543> \{Tomo}「ウチのママはパパと仲が悪くなって、それでひとりになっちゃったんだから」
// <0544> \{とも}「パパとママはなかよく」
<0544> \{Tomo}「パパとママはなかよく」
// <0545> \{とも}「じゃないと、さっきのおにいちゃんも、ともみたいにパパのいない子になっちゃうよ」
<0545> \{Tomo}「じゃないと、さっきのおにいちゃんも、ともみたいにパパのいない子になっちゃうよ」
// <0546> その言葉に、智代の表情が変わる。
<0546> その言葉に、智代の表情が変わる。
// <0547> 一瞬固まって、動かなかった。
<0547> 一瞬固まって、動かなかった。
// <0548> 色々と誤解があるものの、ともの言いたいことはよく伝わった。
<0548> 色々と誤解があるものの、ともの言いたいことはよく伝わった。
// <0549> \{智代}「そうか…」
<0549> \{Tomoyo}「そうか…」
// <0550> \{智代}「そうだな…」
<0550> \{Tomoyo}「そうだな…」
// <0551> ゆっくりと俺のほうを向く。
<0551> ゆっくりと俺のほうを向く。
// <0552> \{智代}「朋也…私たちは仲良くいよう」
<0552> \{Tomoyo}「朋也…私たちは仲良くいよう」
// <0553> \{朋也}「だな…」
<0553> \{Tomoya}「だな…」
// <0554> \{智代}「ほら…キス…」
<0554> \{Tomoyo}「ほら…キス…」
// <0555> 智代が顔を寄せてくる。
<0555> 智代が顔を寄せてくる。
// <0556> 今度は扇情的なキスではなく、触れあわせるだけのキスだった。
<0556> 今度は扇情的なキスではなく、触れあわせるだけのキスだった。
// <0557> それでも時間を長く費やす。
<0557> それでも時間を長く費やす。
// <0558> \{智代}「ああ…でも、やっぱ変態ちっくだ…」
<0558> \{Tomoyo}「ああ…でも、やっぱ変態ちっくだ…」
// <0559> 口を離すと、智代はそうぼやいた。
<0559> 口を離すと、智代はそうぼやいた。
// <0560> \{智代}「こんなにキスばかりしている親がいるのか…」
<0560> \{Tomoyo}「こんなにキスばかりしている親がいるのか…」
// <0561> \{智代}「というか、それを子供に見せてるんだぞ…」
<0561> \{Tomoyo}「というか、それを子供に見せてるんだぞ…」
// <0562> \{智代}「ああ…私まで変態だ…」
<0562> \{Tomoyo}「ああ…私まで変態だ…」
// <0563> \{とも}「じゃ、さんにんでおふろ」
<0563> \{Tomo}「じゃ、さんにんでおふろ」
// <0564> \{智代}「それだけはダメだあっ!」
<0564> \{Tomoyo}「それだけはダメだあっ!」
// <0565> \{とも}「だめなの?」
<0565> \{Tomo}「だめなの?」
// <0566> \{智代}「それだけは許してくれ、とも…」
<0566> \{Tomoyo}「それだけは許してくれ、とも…」
// <0567> その小さな体にすがるように抱きつく。
<0567> その小さな体にすがるように抱きつく。
// <0568> \{智代}「日常茶飯事のように裸なんて見せたくない…」
<0568> \{Tomoyo}「日常茶飯事のように裸なんて見せたくない…」
// <0569> \{智代}「そういうのは…エッチする時だけにしたいんだ…」
<0569> \{Tomoyo}「そういうのは…エッチする時だけにしたいんだ…」
// <0570> \{智代}「って、何を言ってるんだ、私は…」
<0570> \{Tomoyo}「って、何を言ってるんだ、私は…」
// <0571> \{智代}「泣きたくなってきた…」
<0571> \{Tomoyo}「泣きたくなってきた…」
// <0572> \{智代}「とも、ママが泣いたら支えてくれるか…」
<0572> \{Tomoyo}「とも、ママが泣いたら支えてくれるか…」
// <0573> \{朋也}「ほら、いい加減入ってこいよ、9時すぎるぞ」
<0573> \{Tomoya}「ほら、いい加減入ってこいよ、9時すぎるぞ」
// <0574> \{とも}「パパは?」
<0574> \{Tomo}「パパは?」
// <0575> \{朋也}「こんな下宿の風呂じゃ、小さすぎて、三人も入れないよ。だから先にふたりで入ってこい」
<0575> \{Tomoya}「こんな下宿の風呂じゃ、小さすぎて、三人も入れないよ。だから先にふたりで入ってこい」
// <0576> \{とも}「そう…ざんねん」
<0576> \{Tomo}「そう…ざんねん」
// <0577> \{智代}「朋也も私をいじめてたんだぁ…」
<0577> \{Tomoyo}「朋也も私をいじめてたんだぁ…」
// <0578> \{朋也}「明日の朝は早いぞ」
<0578> \{Tomoya}「明日の朝は早いぞ」
// <0579> \{智代}「いいんだ…私の裸なんて、二度と見せてやらないんだ…」
<0579> \{Tomoyo}「いいんだ…私の裸なんて、二度と見せてやらないんだ…」
// <0580> \{朋也}「すねるなよ…」
<0580> \{Tomoya}「すねるなよ…」
// <0581> \{智代}「いいか、絶対に後ろを見るんじゃないぞ」
<0581> \{Tomoyo}「いいか、絶対に後ろを見るんじゃないぞ」
// <0582> \{智代}「見たら、手がでるぞ」
<0582> \{Tomoyo}「見たら、手がでるぞ」
// <0583> \{朋也}「ああ、わかってるよ」
<0583> \{Tomoya}「ああ、わかってるよ」
// <0584> \{智代}「ともの着る服はあるのか?」
<0584> \{Tomoyo}「ともの着る服はあるのか?」
// <0585> \{朋也}「多分」
<0585> \{Tomoya}「多分」
// <0586> 俺は部屋の隅のリュックを指さす。
<0586> 俺は部屋の隅のリュックを指さす。
// <0587> \{智代}「そうか。出しておこう」
<0587> \{Tomoyo}「そうか。出しておこう」
// <0588> \{朋也}「いや、いいよ。俺が出しておくよ」
<0588> \{Tomoya}「いや、いいよ。俺が出しておくよ」
// <0589> \{朋也}「それより、おまえはどうすんの」
<0589> \{Tomoya}「それより、おまえはどうすんの」
// <0590> \{智代}「うん、何か貸してもらえると助かる」
<0590> \{Tomoyo}「うん、何か貸してもらえると助かる」
// <0591> \{朋也}「了解」
<0591> \{Tomoya}「了解」
// <0592> 俺が背中を向けている間に、ふたりは服を脱いで、風呂に入っていった。
<0592> 俺が背中を向けている間に、ふたりは服を脱いで、風呂に入っていった。
// <0593> ふたりが出てくる前に確認しなくてはいけないことがある。
<0593> ふたりが出てくる前に確認しなくてはいけないことがある。
// <0594> ともの荷物を確認
<0594> ともの荷物を確認
// <0595> 智代の下着を確認
<0595> 智代の下着を確認
// <0596> ふたりが出てくる前に、ともの荷物を確認する。
<0596> ふたりが出てくる前に、ともの荷物を確認する。
// <0597> 大量の衣服が詰め込んである。
<0597> 大量の衣服が詰め込んである。
// <0598> 振り返ると、風呂のドア下に脱ぎたての制服が畳んで置いてある。
<0598> 振り返ると、風呂のドア下に脱ぎたての制服が畳んで置いてある。
// <0599> 下着は…どこだ?
<0599> 下着は…どこだ?
// <0600> 膝をついたまま、その前に移動。
<0600> 膝をついたまま、その前に移動。
// <0601> その制服に触れてみる。智代の温もりが残っている。
<0601> その制服に触れてみる。智代の温もりが残っている。
// <0602> それをめくってみる。その下に白い下着が隠されていた。
<0602> それをめくってみる。その下に白い下着が隠されていた。
// <0603> なんだ、この興奮は…。
<0603> なんだ、この興奮は…。
// <0604> 無性に、その、智代の恥ずかしい部分と一日擦れ合っていた箇所の匂いを味わいたい…。
<0604> 無性に、その、智代の恥ずかしい部分と一日擦れ合っていた箇所の匂いを味わいたい…。
// <0605> …匂いフェチなのか、俺は?
<0605> …匂いフェチなのか、俺は?
// <0606> 無性に、その、智代の恥ずかしい部分と一日擦れ合っていた箇所の味を味わいたい…。
<0606> 無性に、その、智代の恥ずかしい部分と一日擦れ合っていた箇所の味を味わいたい…。
// <0607> 汗とかいろんなものが染みこんでいるのだろう。
<0607> 汗とかいろんなものが染みこんでいるのだろう。
// <0608> 後ろめたさがこれほどまでに性欲をかき立てているのか。
<0608> 後ろめたさがこれほどまでに性欲をかき立てているのか。
// <0609> \{朋也}「って、ちっがーーーーーうっ!!」
<0609> \{Tomoya}「って、ちっがーーーーーうっ!!」
// <0610> 俺は我に返る。
<0610> 俺は我に返る。
// <0611> 智代の下着に惑わされてる場合じゃない。
<0611> 智代の下着に惑わされてる場合じゃない。
// <0612> 今のうちに、ともの荷物を確認しておかなくてはいけないんじゃないのか。
<0612> 今のうちに、ともの荷物を確認しておかなくてはいけないんじゃないのか。
// <0613> リュックの前に移動する。
<0613> リュックの前に移動する。
// <0614> ジッパーを開くと、大量の衣服が詰め込んであった。
<0614> ジッパーを開くと、大量の衣服が詰め込んであった。
// <0615> リュックのポケットには保険証が入っていた。
<0615> リュックのポケットには保険証が入っていた。
// <0616> \{朋也}(やっぱりか…)
<0616> \{Tomoya}(やっぱりか…)
// <0617> ともの母親は数日では帰ってこない。それがわかった。
<0617> ともの母親は数日では帰ってこない。それがわかった。
// <0618> パジャマも入っている。それと下着を揃えて、風呂場の前に置いておく。
<0618> パジャマも入っている。それと下着を揃えて、風呂場の前に置いておく。
// <0619> 智代のはどうしよう。
<0619> 智代のはどうしよう。
// <0620> 俺のTシャツと…下は、なんだろう。ジャージでいいか。
<0620> 俺のTシャツと…下は、なんだろう。ジャージでいいか。
// <0621> 出してきて、並べておく。
<0621> 出してきて、並べておく。
// <0622> 風呂の中からは賑やかなふたりの声が聞こえてくる。
<0622> 風呂の中からは賑やかなふたりの声が聞こえてくる。
// <0623> \{朋也}(本当に子供好きだよな…あいつ)
<0623> \{Tomoya}(本当に子供好きだよな…あいつ)
// <0624> \{朋也}(ともが捨てられたかもしれないってわかったら…どうするんだろ…)
<0624> \{Tomoya}(ともが捨てられたかもしれないってわかったら…どうするんだろ…)
// <0625> \{朋也}(養子にする、とか言い出さないだろうな…)
<0625> \{Tomoya}(養子にする、とか言い出さないだろうな…)
// <0626> \{智代}「朋也、でるぞ」
<0626> \{Tomoyo}「朋也、でるぞ」
// <0627> 浴室のドアの隙間から智代の声。
<0627> 浴室のドアの隙間から智代の声。
// <0628> \{朋也}「ああ、大丈夫、後ろ向いてるよ」
<0628> \{Tomoya}「ああ、大丈夫、後ろ向いてるよ」
// <0629> \{智代}「あっ…」
<0629> \{Tomoyo}「あっ…」
// <0630> \{智代}「………」
<0630> \{Tomoyo}「………」
// <0631> 何か、絶句している様子だが…。
<0631> 何か、絶句している様子だが…。
// <0632> \{とも}「どうしたの?」
<0632> \{Tomo}「どうしたの?」
// <0633> \{智代}「ううん、なんでもない」
<0633> \{Tomoyo}「ううん、なんでもない」
// <0634> \{智代}「あっ、私の服が乱れているっ」
<0634> \{Tomoyo}「あっ、私の服が乱れているっ」
// <0635> \{智代}「なんて、ことはないな…うん、感心、感心」
<0635> \{Tomoyo}「なんて、ことはないな…うん、感心、感心」
// <0636> \{智代}「とも、おまえのは大丈夫か?」
<0636> \{Tomoyo}「とも、おまえのは大丈夫か?」
// <0637> \{とも}「あるよー」
<0637> \{Tomo}「あるよー」
// <0638> \{智代}「あの男は変態さんだからな、気をつけておくんだぞ」
<0638> \{Tomoyo}「あの男は変態さんだからな、気をつけておくんだぞ」
// <0639> \{智代}「ほら、歩き回らない。髪をよく拭くんだ」
<0639> \{Tomoyo}「ほら、歩き回らない。髪をよく拭くんだ」
// <0640> \{智代}「拭いてやるから、こっちにこい」
<0640> \{Tomoyo}「拭いてやるから、こっちにこい」
// <0641> \{智代}「女の子の髪は大切だからな。痛めないようにな」
<0641> \{Tomoyo}「女の子の髪は大切だからな。痛めないようにな」
// <0642> 電気を消して、ひとつの布団に三人で潜り込む。
<0642> 電気を消して、ひとつの布団に三人で潜り込む。
// <0643> もちろん、真ん中がとも。川の字、というやつだ。
<0643> もちろん、真ん中がとも。川の字、というやつだ。
// <0644> \{朋也}「やっぱり狭いな…」
<0644> \{Tomoya}「やっぱり狭いな…」
// <0645> \{智代}「大丈夫だ、私がともを抱いて寝る」
<0645> \{Tomoyo}「大丈夫だ、私がともを抱いて寝る」
// <0646> 言って、真ん中のともを抱き込む。
<0646> 言って、真ん中のともを抱き込む。
// <0647> \{とも}「ん…においがかわった」
<0647> \{Tomo}「ん…においがかわった」
// <0648> \{智代}「ん? ああ、髪の匂いか?」
<0648> \{Tomoyo}「ん? ああ、髪の匂いか?」
// <0649> \{智代}「朋也のシャンプーだったからな」
<0649> \{Tomoyo}「朋也のシャンプーだったからな」
// <0650> \{智代}「トリートメントもないし、よくないな」
<0650> \{Tomoyo}「トリートメントもないし、よくないな」
// <0651> \{智代}「明日は自分のを持ってこよう」
<0651> \{Tomoyo}「明日は自分のを持ってこよう」
// <0652> \{智代}「それにパジャマもいるな」
<0652> \{Tomoyo}「それにパジャマもいるな」
// <0653> \{智代}「上はいいものの、下がずりさがって困る」
<0653> \{Tomoyo}「上はいいものの、下がずりさがって困る」
// <0654> \{智代}「でもそこまでしては家出するんじゃないかと親が心配してしまうな、ふふ…」
<0654> \{Tomoyo}「でもそこまでしては家出するんじゃないかと親が心配してしまうな、ふふ…」
// <0655> \{朋也}「眠る邪魔するなよ」
<0655> \{Tomoya}「眠る邪魔するなよ」
// <0656> \{智代}「そうだな…うん、もう寝よう、おやすみ、とも」
<0656> \{Tomoyo}「そうだな…うん、もう寝よう、おやすみ、とも」
// <0657> \{とも}「おやすみ…」
<0657> \{Tomo}「おやすみ…」
// <0658> その後、すぐともの寝息が聞こえてきた。
<0658> その後、すぐともの寝息が聞こえてきた。
// <0659> なんだか、智代のはしゃぎっぷりだけが目立った一日だった。
<0659> なんだか、智代のはしゃぎっぷりだけが目立った一日だった。
// <0660> その智代も、幸せそうに、ともの頭に鼻っ面を当てて眠っている。
<0660> その智代も、幸せそうに、ともの頭に鼻っ面を当てて眠っている。
// <0661> \{朋也}(やっかいなことにならないといいけど…)
<0661> \{Tomoya}(やっかいなことにならないといいけど…)
// <0662> いや…もう十分なっているか。
<0662> いや…もう十分なっているか。