// Resources for SEEN0811.TXT
// #character '朋也'
#character 'Tomoya'
// #character '河南子'
#character 'Kanako'
// #character '智代'
#character 'Tomoyo'
// #character '女性'
#character 'Woman'
// #character '管理人'
#character 'Manager'
// #character '有子'
#character 'Yuuko'
// <0000> 8月11日(水)
<0000> August 11th (Wed)
// <0001> 早朝。
<0001> 早朝。
// <0002> 仕事に出かける時間よりも早く、駅に集まっていた。
<0002> 仕事に出かける時間よりも早く、駅に集まっていた。
// <0003> それぞれ大きめの鞄を持っていた。数日分の着替えなどが入っている。
<0003> それぞれ大きめの鞄を持っていた。数日分の着替えなどが入っている。
// <0004> \{朋也}「忘れ物ないな」
<0004> \{Tomoya}「忘れ物ないな」
// <0005> \{河南子}「んなことしるかー」
<0005> \{Kanako}「んなことしるかー」
// <0006> \{智代}「大丈夫だ」
<0006> \{Tomoyo}「are you allright」
// <0007> ふたりとも制服姿だった。できるだけ品行よく見せるための努力だ。
<0007> ふたりとも制服姿だった。できるだけ品行よく見せるための努力だ。
// <0008> 特に河南子は言動からだと不良少女だと取られかねないので、強制的に家にまで取りにいかせた。
<0008> 特に河南子は言動からだと不良少女だと取られかねないので、強制的に家にまで取りにいかせた。
// <0009> \{智代}「それより、旅費のほうが心配なのだが…」
<0009> \{Tomoyo}「それより、旅費のほうが心配なのだが…」
// <0010> \{朋也}「…まあ、寸志もらったからな」
<0010> \{Tomoya}「…まあ、寸志もらったからな」
// <0011> 駅でチケットを買うと、結構な金額になった。
<0011> 駅でチケットを買うと、結構な金額になった。
// <0012> 親方から手渡しでもらった寸志があったので、三人分の往復と宿代ぐらいは何とかなるだろう。
<0012> 親方から手渡しでもらった寸志があったので、三人分の往復と宿代ぐらいは何とかなるだろう。
// <0013> 日々の生活も考えていかなくてはいけない。
<0013> 日々の生活も考えていかなくてはいけない。
// <0014> \{朋也}「時間、大丈夫か?」
<0014> \{Tomoya}「時間、大丈夫か?」
// <0015> \{智代}「あと20分くらいあるな」
<0015> \{Tomoyo}「あと20分くらいあるな」
// <0016> \{河南子}「ねー、アイス買っていい?」
<0016> \{Kanako}「ねー、アイス買っていい?」
// <0017> \{朋也}「仕方のないやつだなぁ…」
<0017> \{Tomoya}「仕方のないやつだなぁ…」
// <0018> 車窓を流れる風景は、それなりに楽しかった。
<0018> 車窓を流れる風景は、それなりに楽しかった。
// <0019> ときどきやってくる車内販売にも風情がある。
<0019> ときどきやってくる車内販売にも風情がある。
// <0020> \{河南子}「あ、アイス買ってーっ」
<0020> \{Kanako}「あ、アイス買ってーっ」
// <0021> \{朋也}「仕方のないやつだなぁ…」
<0021> \{Tomoya}「仕方のないやつだなぁ…」
// <0022> \{朋也}「って、おまえ、さっきも食ってなかったか」
<0022> \{Tomoya}「って、おまえ、さっきも食ってなかったか」
// <0023> 販売の女性を見つけ、買い求めた。
<0023> 販売の女性を見つけ、買い求めた。
// <0024> \{河南子}「でも、こういうのもいいよねー」
<0024> \{Kanako}「でも、こういうのもいいよねー」
// <0025> \{河南子}「あー、ともも連れてきてあげたかったなぁ」
<0025> \{Kanako}「あー、ともも連れてきてあげたかったなぁ」
// <0026> …鷹文は。
<0026> …鷹文は。
// <0027> 下半身がこわばりだした頃、ようやく駅に着いた。
<0027> 下半身がこわばりだした頃、ようやく駅に着いた。
// <0028> 鷹文が作ってくれた乗換え案内の紙を出して確認する。
<0028> 鷹文が作ってくれた乗換え案内の紙を出して確認する。
// <0029> \{朋也}「ここからバスか」
<0029> \{Tomoya}「ここからバスか」
// <0030> まだまだ時間がかかりそうだ。
<0030> まだまだ時間がかかりそうだ。
// <0031> バスは街道を抜け、山道へと入った。
<0031> バスは街道を抜け、山道へと入った。
// <0032> 民家が少しずつ消えていき、田畑と山林が広がっていく。
<0032> 民家が少しずつ消えていき、田畑と山林が広がっていく。
// <0033> そして、目的地のバス停に到着した。
<0033> そして、目的地のバス停に到着した。
// <0034> 降りがけ、バスの運転手に聞いたところ、時々人の出入りがあるらしかった。
<0034> 降りがけ、バスの運転手に聞いたところ、時々人の出入りがあるらしかった。
// <0035> 道は一本だから迷うことはないが、遠いよと同情してくれた。
<0035> 道は一本だから迷うことはないが、遠いよと同情してくれた。
// <0036> \{朋也}「けっこう歩くみたいだな」
<0036> \{Tomoya}「けっこう歩くみたいだな」
// <0037> \{智代}「先に昼を済ませたほうがよさそうだな」
<0037> \{Tomoyo}「先に昼を済ませたほうがよさそうだな」
// <0038> とはいえ、店は小さな雑貨屋しか見えない。
<0038> とはいえ、店は小さな雑貨屋しか見えない。
// <0039> \{河南子}「あ、アイスも買っていい?」
<0039> \{Kanako}「あ、アイスも買っていい?」
// <0040> \{朋也}「仕方のないやつだなぁ…」
<0040> \{Tomoya}「仕方のないやつだなぁ…」
// <0041> \{朋也}「って、仕方ないことあるかっ」
<0041> \{Tomoya}「って、仕方ないことあるかっ」
// <0042> \{朋也}「何本目だよっ」
<0042> \{Tomoya}「何本目だよっ」
// <0043> \{智代}「まあ、高いものでもなし、いいじゃないか」
<0043> \{Tomoyo}「まあ、高いものでもなし、いいじゃないか」
// <0044> \{朋也}「仕方のないやつだなぁ…」
<0044> \{Tomoya}「仕方のないやつだなぁ…」
// <0045> そこでパンとアイスを買い求め、近くのベンチに座り昼飯を済ませる。
<0045> そこでパンとアイスを買い求め、近くのベンチに座り昼飯を済ませる。
// <0046> 徒歩で山道に入る。
<0046> 徒歩で山道に入る。
// <0047> \{河南子}「鬱蒼としてますな、うっそーってぐらい」
<0047> \{Kanako}「鬱蒼としてますな、うっそーってぐらい」
// <0048> \{智代}「このへんは、湿度が低いのか、涼しく感じるぐらいだな」
<0048> \{Tomoyo}「このへんは、湿度が低いのか、涼しく感じるぐらいだな」
// <0049> \{智代}「夏場でも住み心地がいいんだろうな」
<0049> \{Tomoyo}「夏場でも住み心地がいいんだろうな」
// <0050> 河南子のだじゃれを素でスルーする智代。
<0050> 河南子のだじゃれを素でスルーする智代。
// <0051> \{河南子}「先輩、河南は傷つきました」
<0051> \{Kanako}「先輩、河南は傷つきました」
// <0052> \{智代}「なにうなだれてるんだ?」
<0052> \{Tomoyo}「なにうなだれてるんだ?」
// <0053> 智代につっこみの素質はない。そう考えると、河南子と智代の相性は最悪なのかもしれない。
<0053> 智代につっこみの素質はない。そう考えると、河南子と智代の相性は最悪なのかもしれない。
// <0054> 今まで、鷹文か俺が相手をしてやっていたから、河南子は自然に振る舞えていたのではないだろうか。
<0054> 今まで、鷹文か俺が相手をしてやっていたから、河南子は自然に振る舞えていたのではないだろうか。
// <0055> \{河南子}「いいんだ、ひとりで石の裏にうごめく虫でも眺めるんだ…」
<0055> \{Kanako}「いいんだ、ひとりで石の裏にうごめく虫でも眺めるんだ…」
// <0056> いじけたように、しゃがみ込む河南子。
<0056> いじけたように、しゃがみ込む河南子。
// <0057> \{河南子}「あぶなーーーい! 松ぼっくりトラップだああぁあーーーっ!」
<0057> \{Kanako}「あぶなーーーい! 松ぼっくりトラップだああぁあーーーっ!」
// <0058> ひょいひょいと松ぼっくりを投げてくる。
<0058> ひょいひょいと松ぼっくりを投げてくる。
// <0059> 俺と智代の体にいくつも当たる。
<0059> 俺と智代の体にいくつも当たる。
// <0060> \{河南子}「少しはよけろよ、おまえら」
<0060> \{Kanako}「少しはよけろよ、おまえら」
// <0061> \{朋也}「いや、おまえこそ少しは落ち着けよ」
<0061> \{Tomoya}「いや、おまえこそ少しは落ち着けよ」
// <0062> \{河南子}「あんたたちの危機感を試してみたんだよ」
<0062> \{Kanako}「あんたたちの危機感を試してみたんだよ」
// <0063> \{河南子}「ぜんぜんなってないね。本気で投げてたら、おまえら死んでたぞ」
<0063> \{Kanako}「ぜんぜんなってないね。本気で投げてたら、おまえら死んでたぞ」
// <0064> つっこんでやる
<0064> つっこんでやる
// <0065> 放っておいてみる
<0065> 放っておいてみる
// <0066> \{朋也}「死ぬか」
<0066> \{Tomoya}「死ぬか」
// <0067> \{河南子}「これが高速で回転してたらすげぇえぐりそうじゃないか。こう自ら潜っていく感じで」
<0067> \{Kanako}「これが高速で回転してたらすげぇえぐりそうじゃないか。こう自ら潜っていく感じで」
// <0068> \{朋也}「そんな高速回転させられないから安心しろ」
<0068> \{Tomoya}「そんな高速回転させられないから安心しろ」
// <0069> \{河南子}「なんだとぅ? おまえら、明日の朝刊一面に『松ぼっくりが刺さってひとりが死亡ひとりが重体』って飾らせてやろうか…」
<0069> \{Kanako}「なんだとぅ? おまえら、明日の朝刊一面に『松ぼっくりが刺さってひとりが死亡ひとりが重体』って飾らせてやろうか…」
// <0070> \{朋也}「あほなこと言ってないで、いくぞ。こんなペースじゃ日が暮れちまうぞ」
<0070> \{Tomoya}「あほなこと言ってないで、いくぞ。こんなペースじゃ日が暮れちまうぞ」
// <0071> \{智代}「そうだな。急ごう」
<0071> \{Tomoyo}「そうだな。急ごう」
// <0072> 智代と俺が歩き出す。背後からなんか聞こえ続けるが無視し続ける。
<0072> 智代と俺が歩き出す。背後からなんか聞こえ続けるが無視し続ける。
// <0073> 一時間ほど歩いただろうか。ようやく視界が開けた。
<0073> 一時間ほど歩いただろうか。ようやく視界が開けた。
// <0074> …放っておいてみる。
<0074> …放っておいてみる。
// <0075> すると、智代がすっと一歩前に出た。
<0075> すると、智代がすっと一歩前に出た。
// <0076> \{智代}「あのな、河南子」
<0076> \{Tomoyo}「あのな、河南子」
// <0077> \{河南子}「うん?」
<0077> \{Kanako}「うん?」
// <0078> \{智代}「松ぼっくりが当たったぐらいで、人は死なない」
<0078> \{Tomoyo}「松ぼっくりが当たったぐらいで、人は死なない」
// <0079> \{河南子}「…うん」
<0079> \{Kanako}「…うん」
// <0080> \{智代}「………」
<0080> \{Tomoyo}「………」
// <0081> \{河南子}「………」
<0081> \{Kanako}「………」
// <0082> …見ろ、この相性の悪さを。
<0082> …見ろ、この相性の悪さを。
// <0083> しばらく放っておいてみよう。
<0083> しばらく放っておいてみよう。
// <0084> 俺たちは先へと進む。
<0084> 俺たちは先へと進む。
// <0085> \{河南子}「待って…」
<0085> \{Kanako}「待って…」
// <0086> \{智代}「どうした」
<0086> \{Tomoyo}「どうした」
// <0087> \{河南子}「ここ、さっき通った道だよ…」
<0087> \{Kanako}「ここ、さっき通った道だよ…」
// <0088> \{智代}「え?」
<0088> \{Tomoyo}「え?」
// <0089> \{河南子}「この木さ…」
<0089> \{Kanako}「この木さ…」
// <0090> 河南子が一本の大木に手を添える。
<0090> 河南子が一本の大木に手を添える。
// <0091> \{河南子}「さっき、あたしが植えたんだ…」
<0091> \{Kanako}「さっき、あたしが植えたんだ…」
// <0092> \{河南子}「あたしたち…同じ場所をぐるぐる回ってるよ…」
<0092> \{Kanako}「あたしたち…同じ場所をぐるぐる回ってるよ…」
// <0093> \{智代}「あのな、河南子」
<0093> \{Tomoyo}「あのな、河南子」
// <0094> \{河南子}「うん?」
<0094> \{Kanako}「うん?」
// <0095> \{智代}「そんな大きな木は、植えられない」
<0095> \{Tomoyo}「そんな大きな木は、植えられない」
// <0096> \{智代}「嘘ついてるだろ」
<0096> \{Tomoyo}「嘘ついてるだろ」
// <0097> \{河南子}「はい、ついてました」
<0097> \{Kanako}「はい、ついてました」
// <0098> \{智代}「嘘はよくないぞ」
<0098> \{Tomoyo}「嘘はよくないぞ」
// <0099> \{河南子}「はい、すいません」
<0099> \{Kanako}「はい、すいません」
// <0100> さらに進む。
<0100> さらに進む。
// <0101> \{河南子}「待って…」
<0101> \{Kanako}「待って…」
// <0102> \{智代}「どうした」
<0102> \{Tomoyo}「どうした」
// <0103> \{河南子}「鷹文が…いない…」
<0103> \{Kanako}「鷹文が…いない…」
// <0104> \{智代}「家だ」
<0104> \{Tomoyo}「家だ」
// <0105> \{河南子}「…うん」
<0105> \{Kanako}「…うん」
// <0106> さらに進む。
<0106> さらに進む。
// <0107> \{河南子}「まって…」
<0107> \{Kanako}「まって…」
// <0108> ………。
<0108> ………。
// <0109> \{河南子}「とおりがかりのりきしなんやけど…」
<0109> \{Kanako}「とおりがかりのりきしなんやけど…」
// <0110> ………。
<0110> ………。
// <0111> \{河南子}「じぶんら、りょうごくこくぎかん、しらん?」
<0111> \{Kanako}「じぶんら、りょうごくこくぎかん、しらん?」
// <0112> \{河南子}「あれ? どっちいったらいいんやろ…」
<0112> \{Kanako}「あれ? どっちいったらいいんやろ…」
// <0113> \{河南子}「かどばんやから、あせるわー…」
<0113> \{Kanako}「かどばんやから、あせるわー…」
// <0114> さらに進む。
<0114> さらに進む。
// <0115> \{河南子}「拾えや、こらあぁぁーーっ!」
<0115> \{Kanako}「拾えや、こらあぁぁーーっ!」
// <0116> ついに河南子がキレて、詰め寄ってくる。
<0116> ついに河南子がキレて、詰め寄ってくる。
// <0117> \{河南子}「てめぇが拾わずに誰が拾うんだよっ」
<0117> \{Kanako}「てめぇが拾わずに誰が拾うんだよっ」
// <0118> \{河南子}「なにしにきてんだ、てめぇはっ!」
<0118> \{Kanako}「なにしにきてんだ、てめぇはっ!」
// <0119> \{朋也}「………」
<0119> \{Tomoya}「………」
// <0120> \{智代}「なんだ、河南子? なにを怒ってるんだ」
<0120> \{Tomoyo}「なんだ、河南子? なにを怒ってるんだ」
// <0121> \{河南子}「この人、わざと黙ってるんです」
<0121> \{Kanako}「この人、わざと黙ってるんです」
// <0122> \{朋也}「いや、しゃべれるけど」
<0122> \{Tomoya}「いや、しゃべれるけど」
// <0123> \{河南子}「なら、拾えやっ、こらぁっ」
<0123> \{Kanako}「なら、拾えやっ、こらぁっ」
// <0124> \{朋也}「………」
<0124> \{Tomoya}「………」
// <0125> \{智代}「拾う? なにをだ」
<0125> \{Tomoyo}「拾う? なにをだ」
// <0126> \{河南子}「あたしのギャグ」
<0126> \{Kanako}「あたしのギャグ」
// <0127> \{智代}「…ギャグ?」
<0127> \{Tomoyo}「…ギャグ?」
// <0128> \{河南子}「こいつ、それをわざと流してるんです」
<0128> \{Kanako}「こいつ、それをわざと流してるんです」
// <0129> \{智代}「流す?」
<0129> \{Tomoyo}「流す?」
// <0130> \{河南子}「………」
<0130> \{Kanako}「………」
// <0131> \{河南子}「うあああぁぁーーっ! あたしの存在価値0じゃんっ」
<0131> \{Kanako}「うあああぁぁーーっ! あたしの存在価値0じゃんっ」
// <0132> おまえの存在はギャグがすべてなのか。
<0132> おまえの存在はギャグがすべてなのか。
// <0133> \{河南子}「帰ります」
<0133> \{Kanako}「帰ります」
// <0134> \{智代}「こら、こんなところで勝手なことを言い出すな」
<0134> \{Tomoyo}「こら、こんなところで勝手なことを言い出すな」
// <0135> \{河南子}「じゃあ、拾って。こいつの代わりに拾って、ねぇ、拾ってよぉ」
<0135> \{Kanako}「じゃあ、拾って。こいつの代わりに拾って、ねぇ、拾ってよぉ」
// <0136> \{智代}「拾えと言われても、どうすればいいのか…」
<0136> \{Tomoyo}「拾えと言われても、どうすればいいのか…」
// <0137> \{河南子}「真に受けて、驚いた後、ありえないことに気づいて、否定して」
<0137> \{Kanako}「真に受けて、驚いた後、ありえないことに気づいて、否定して」
// <0138> \{智代}「なんだそれは…難しいことを要求するな…」
<0138> \{Tomoyo}「なんだそれは…難しいことを要求するな…」
// <0139> 先へ進む。
<0139> 先へ進む。
// <0140> \{河南子}「待って…」
<0140> \{Kanako}「待って…」
// <0141> \{智代}「どうした」
<0141> \{Tomoyo}「どうした」
// <0142> \{河南子}「ここ、さっき通った道だよ…」
<0142> \{Kanako}「ここ、さっき通った道だよ…」
// <0143> \{智代}「え?」
<0143> \{Tomoyo}「え?」
// <0144> \{河南子}「この木さ…」
<0144> \{Kanako}「この木さ…」
// <0145> 先ほどと同じように一本の大木に手を添える。
<0145> 先ほどと同じように一本の大木に手を添える。
// <0146> \{河南子}「さっき、あたしが植えたんだ…」
<0146> \{Kanako}「さっき、あたしが植えたんだ…」
// <0147> \{智代}「へぇ」
<0147> \{Tomoyo}「へぇ」
// <0148> \{智代}「すごいなあ、河南子は」
<0148> \{Tomoyo}「すごいなあ、河南子は」
// <0149> \{智代}「力持ちなんだなあ」
<0149> \{Tomoyo}「力持ちなんだなあ」
// <0150> \{智代}「なかなかできることじゃないぞ」
<0150> \{Tomoyo}「なかなかできることじゃないぞ」
// <0151> \{智代}「いや、無理じゃないか…?」
<0151> \{Tomoyo}「いや、無理じゃないか…?」
// <0152> \{智代}「うん、無理だ」
<0152> \{Tomoyo}「うん、無理だ」
// <0153> \{智代}「無理だ、河南子」
<0153> \{Tomoyo}「無理だ、河南子」
// <0154> \{河南子}「………」
<0154> \{Kanako}「………」
// <0155> \{河南子}「う…うわああぁぁぁぁーーーん…」
<0155> \{Kanako}「う…うわああぁぁぁぁーーーん…」
// <0156> あまりのぐだぐださに泣き崩れる河南子。
<0156> あまりのぐだぐださに泣き崩れる河南子。
// <0157> \{朋也}「ほら、馬鹿やってないで、いこう」
<0157> \{Tomoya}「ほら、馬鹿やってないで、いこう」
// <0158> \{朋也}「ようやく見えてきたぞ」
<0158> \{Tomoya}「ようやく見えてきたぞ」
// <0159> 冗談もここまでだ。
<0159> 冗談もここまでだ。
// <0160> 山道が途切れ、目の前に見えたのは、どこかで見たような風景だった。
<0160> 山道が途切れ、目の前に見えたのは、どこかで見たような風景だった。
// <0161> イメージにあるような田舎の家が点在し、広がる畑では青々と野菜が生っている。
<0161> イメージにあるような田舎の家が点在し、広がる畑では青々と野菜が生っている。
// <0162> ちらほらと見える農作業を行う人々と、高台にはひときわ大きな家屋があり、そこの周囲にも人影が見えた。
<0162> ちらほらと見える農作業を行う人々と、高台にはひときわ大きな家屋があり、そこの周囲にも人影が見えた。
// <0163> \{智代}「…のどかなところだな」
<0163> \{Tomoyo}「…のどかなところだな」
// <0164> \{河南子}「でも見かけだけかもしれないよ。部外者だと知れたら、いきなり襲いかかってくるかも」
<0164> \{Kanako}「でも見かけだけかもしれないよ。部外者だと知れたら、いきなり襲いかかってくるかも」
// <0165> \{河南子}「用心して進みましょう」
<0165> \{Kanako}「用心して進みましょう」
// <0166> \{河南子}「先頭はあたしがいきます」
<0166> \{Kanako}「先頭はあたしがいきます」
// <0167> 河南子を先頭に、人のいる方へと足を進めた。
<0167> 河南子を先頭に、人のいる方へと足を進めた。
// <0168> 畑では、時折農作業に勤しむ人が見えた。
<0168> 畑では、時折農作業に勤しむ人が見えた。
// <0169> 何も聞けなかった。
<0169> 何も聞けなかった。
// <0170> 声をかけると誰もかれも、びっくりしたように逃げてしまうか、押し黙ってしまうかのどちらかなのだ。
<0170> 声をかけると誰もかれも、びっくりしたように逃げてしまうか、押し黙ってしまうかのどちらかなのだ。
// <0171> \{朋也}「襲われるどころか、逃げられまくりだな…」
<0171> \{Tomoya}「襲われるどころか、逃げられまくりだな…」
// <0172> \{河南子}「隠れて相談をしてるんですよ、きっと」
<0172> \{Kanako}「隠れて相談をしてるんですよ、きっと」
// <0173> \{朋也}「いや、逃げた人たち遠くにいるじゃん。ほら」
<0173> \{Tomoya}「いや、逃げた人たち遠くにいるじゃん。ほら」
// <0174> \{河南子}「えー、あれ、同じ奴かー?」
<0174> \{Kanako}「えー、あれ、同じ奴かー?」
// <0175> \{智代}「同じ人だ」
<0175> \{Tomoyo}「同じ人だ」
// <0176> 智代がはっきり答えた。
<0176> 智代がはっきり答えた。
// <0177> \{智代}「作業の邪魔をしてしまったみたいだな。どこう」
<0177> \{Tomoyo}「作業の邪魔をしてしまったみたいだな。どこう」
// <0178> 畑から遠ざかると、それまでと同じように農作業に戻る住人の姿が確認できた。
<0178> 畑から遠ざかると、それまでと同じように農作業に戻る住人の姿が確認できた。
// <0179> \{河南子}「…どうする? 帰る?」
<0179> \{Kanako}「…どうする? 帰る?」
// <0180> \{朋也}「帰るわけないだろ…」
<0180> \{Tomoya}「帰るわけないだろ…」
// <0181> \{朋也}「誰かに聞きつづけるしかない。なにもわからないんだから」
<0181> \{Tomoya}「誰かに聞きつづけるしかない。なにもわからないんだから」
// <0182> 遠くから蝉の泣き声が響く。
<0182> 遠くから蝉の泣き声が響く。
// <0183> 日向に出れば日差しは夏を思わせたが、山より吹き降ろす風が涼しく心地よい。
<0183> 日向に出れば日差しは夏を思わせたが、山より吹き降ろす風が涼しく心地よい。
// <0184> あぜ道は舗装されてなく、ただの土が顔を覗かせていた。
<0184> あぜ道は舗装されてなく、ただの土が顔を覗かせていた。
// <0185> ひときわ大きな家屋に辿り着くと、庭へ続く門の側にひとりの男性がいた。
<0185> ひときわ大きな家屋に辿り着くと、庭へ続く門の側にひとりの男性がいた。
// <0186> \{朋也}「あの、すみません」
<0186> \{Tomoya}「あの、すみません」
// <0187> 返事はなかった。
<0187> 返事はなかった。
// <0188> \{朋也}「ちょっと訊ねたいことがあるんだけど」
<0188> \{Tomoya}「ちょっと訊ねたいことがあるんだけど」
// <0189> だが、男はそのまま黙りこんでしまう。
<0189> だが、男はそのまま黙りこんでしまう。
// <0190> そのかわり、奥にあった建物を指差してから、畑の方向へ走り去っていった。
<0190> そのかわり、奥にあった建物を指差してから、畑の方向へ走り去っていった。
// <0191> \{河南子}「ちっ…また逃げやがった…」
<0191> \{Kanako}「ちっ…また逃げやがった…」
// <0192> \{朋也}「…いけってことか?」
<0192> \{Tomoya}「…いけってことか?」
// <0193> \{智代}「うん、そうだろう」
<0193> \{Tomoyo}「うん、そうだろう」
// <0194> 木造の建物は、ひんやりとしていた。
<0194> 木造の建物は、ひんやりとしていた。
// <0195> 丁寧に磨かれた床は、木目にワックスが塗られ、差し込む日の光を反射している。
<0195> 丁寧に磨かれた床は、木目にワックスが塗られ、差し込む日の光を反射している。
// <0196> 外見とは違い、手入れが行き届いていた。
<0196> 外見とは違い、手入れが行き届いていた。
// <0197> \{朋也}「すみません」
<0197> \{Tomoya}「すみません」
// <0198> 返事はない。
<0198> 返事はない。
// <0199> \{朋也}「ごめんくださーい」
<0199> \{Tomoya}「ごめんくださーい」
// <0200> \{女性}「…はいはい、聞こえてるわよ」
<0200> \{Woman}「…はいはい、聞こえてるわよ」
// <0201> 気だるそうに出てきたのは、ひとりの女性だった。
<0201> 気だるそうに出てきたのは、ひとりの女性だった。
// <0202> \{女性}「いらっしゃい、何か用?」
<0202> \{Woman}「いらっしゃい、何か用?」
// <0203> \{河南子}「おー、口聞いてるぞ、この人、ひゃっほー」
<0203> \{Kanako}「おー、口聞いてるぞ、この人、ひゃっほー」
// <0204> \{智代}「こら」
<0204> \{Tomoyo}「こら」
// <0205> 智代が河南子の軽口をたしなめる。
<0205> 智代が河南子の軽口をたしなめる。
// <0206> \{朋也}「あの、ちょっと人を探してるんだけど」
<0206> \{Tomoya}「あの、ちょっと人を探してるんだけど」
// <0207> \{女性}「ひと? 誰を?」
<0207> \{Woman}「ひと? 誰を?」
// <0208> \{朋也}「三島っていう人」
<0208> \{Tomoya}「三島っていう人」
// <0209> \{女性}「三島さん、三島さん…ああ、有子さんね」
<0209> \{Woman}「三島さん、三島さん…ああ、有子さんね」
// <0210> \{朋也}「ここにいるのか?」
<0210> \{Tomoya}「ここにいるのか?」
// <0211> \{女性}「いるわよ」
<0211> \{Woman}「いるわよ」
// <0212> 彼女は面白くもなさそうに言った。
<0212> 彼女は面白くもなさそうに言った。
// <0213> \{女性}「あんたたち、有子さんの知り合いとか?」
<0213> \{Woman}「あんたたち、有子さんの知り合いとか?」
// <0214> \{河南子}「どっちかといえば家族に近いね」
<0214> \{Kanako}「どっちかといえば家族に近いね」
// <0215> \{女性}「あれま、有子さんに家族居るなんて、初めて聞いたわ」
<0215> \{Woman}「あれま、有子さんに家族居るなんて、初めて聞いたわ」
// <0216> 俺も初耳だ。
<0216> 俺も初耳だ。
// <0217> \{河南子}「こちらの先輩、智代さんって言うんですけど、三島さんは…えーと、何になるんでしたっけ?」
<0217> \{Kanako}「こちらの先輩、智代さんって言うんですけど、三島さんは…えーと、何になるんでしたっけ?」
// <0218> \{智代}「一応義理の母、ということになるか」
<0218> \{Tomoyo}「一応義理の母、ということになるか」
// <0219> \{河南子}「で、こっちの男が朋也で智代さんの彼氏」
<0219> \{Kanako}「で、こっちの男が朋也で智代さんの彼氏」
// <0220> \{河南子}「そのうち結婚するだろうから、こっちも家族ですね」
<0220> \{Kanako}「そのうち結婚するだろうから、こっちも家族ですね」
// <0221> \{朋也}「勝手に決めるなよ」
<0221> \{Tomoya}「勝手に決めるなよ」
// <0222> 見ると、目の前の女性はくすくすと笑っていた。
<0222> 見ると、目の前の女性はくすくすと笑っていた。
// <0223> \{女性}「わかったわ、それでどうしたいわけ?」
<0223> \{Woman}「わかったわ、それでどうしたいわけ?」
// <0224> \{朋也}「会わせてもらえますか」
<0224> \{Tomoya}「会わせてもらえますか」
// <0225> \{女性}「私の一存じゃ無理よ。本人に聞いてくるから、ちょっと待っててもらえる?」
<0225> \{Woman}「私の一存じゃ無理よ。本人に聞いてくるから、ちょっと待っててもらえる?」
// <0226> 女性は奥へと消えていった。
<0226> 女性は奥へと消えていった。
// <0227> やがて、許可が出たのか、女性が奥から手招きしてくれた。
<0227> やがて、許可が出たのか、女性が奥から手招きしてくれた。
// <0228> 薄暗い廊下を歩くと、きし、きし、と音を立てた。
<0228> 薄暗い廊下を歩くと、きし、きし、と音を立てた。
// <0229> \{朋也}「…この建物、なんなんだ?」
<0229> \{Tomoya}「…この建物、なんなんだ?」
// <0230> \{女性}「元々は病院なんだけどね」
<0230> \{Woman}「元々は病院なんだけどね」
// <0231> \{朋也}「じゃ、今は?」
<0231> \{Tomoya}「じゃ、今は?」
// <0232> \{女性}「うーん、病院みたいなもの」
<0232> \{Woman}「うーん、病院みたいなもの」
// <0233> 女性は口を濁した。
<0233> 女性は口を濁した。
// <0234> \{女性}「ここの村ね、あんまり普通の人、来ないから」
<0234> \{Woman}「ここの村ね、あんまり普通の人、来ないから」
// <0235> \{女性}「初めは祖父が、この病院を作ったの」
<0235> \{Woman}「初めは祖父が、この病院を作ったの」
// <0236> \{女性}「戦前くらいかな、このあたりの山々には全く病院がなくてね」
<0236> \{Woman}「戦前くらいかな、このあたりの山々には全く病院がなくてね」
// <0237> 女性はかいつまんで、この村のことを話してくれた。
<0237> 女性はかいつまんで、この村のことを話してくれた。
// <0238> この村に住んでいる人々は、町や都会に適応できなかったりした人らしい。
<0238> この村に住んでいる人々は、町や都会に適応できなかったりした人らしい。
// <0239> どこか心を痛め、傷ついている人たちを最初は治療の一環として入院してもらった。
<0239> どこか心を痛め、傷ついている人たちを最初は治療の一環として入院してもらった。
// <0240> だが、女性の祖父が引退し、病院がなくなった。
<0240> だが、女性の祖父が引退し、病院がなくなった。
// <0241> \{女性}「だから、私がその跡をついで管理人になったわけ」
<0241> \{Woman}「だから、私がその跡をついで管理人になったわけ」
// <0242> \{河南子}「ふーん、じゃ、お医者さんなんですか?」
<0242> \{Kanako}「ふーん、じゃ、お医者さんなんですか?」
// <0243> \{女性}「医者じゃないわ、管理人よ」
<0243> \{Woman}「医者じゃないわ、管理人よ」
// <0244> 階段を登ると、古めかしい引き戸が連なり、一番奥だけが閉まっていた。
<0244> 階段を登ると、古めかしい引き戸が連なり、一番奥だけが閉まっていた。
// <0245> その戸を軽くノックする女性。
<0245> その戸を軽くノックする女性。
// <0246> \{管理人}「有子さん、起きてる?」
<0246> \{Manager}「有子さん、起きてる?」
// <0247> ややあって、小さく、はい、と聞こえた。
<0247> ややあって、小さく、はい、と聞こえた。
// <0248> 前に聞いた声だった。
<0248> 前に聞いた声だった。
// <0249> 部屋に入ると、母親はベッドに寝かされていた。
<0249> 部屋に入ると、母親はベッドに寝かされていた。
// <0250> その向こうには、大きく切り取られた窓があった。
<0250> その向こうには、大きく切り取られた窓があった。
// <0251> 谷合の坂道が見え、左側に覆い被さるような山があった。
<0251> 谷合の坂道が見え、左側に覆い被さるような山があった。
// <0252> \{管理人}「お客さんよ。親戚だって」
<0252> \{Manager}「お客さんよ。親戚だって」
// <0253> 俺はなんとなくばつが悪くなり、黙って頭を下げた。
<0253> 俺はなんとなくばつが悪くなり、黙って頭を下げた。
// <0254> \{管理人}「じゃ、私は仕事に戻るから、何かあったら呼んでね」
<0254> \{Manager}「じゃ、私は仕事に戻るから、何かあったら呼んでね」
// <0255> 備え付けのパイプ椅子を勧められ、俺たちは座った。
<0255> 備え付けのパイプ椅子を勧められ、俺たちは座った。
// <0256> \{有子}「…どうして、ここが?」
<0256> \{Yuuko}「…どうして、ここが?」
// <0257> \{朋也}「いろいろ調べてね」
<0257> \{Tomoya}「いろいろ調べてね」
// <0258> \{朋也}「これとか」
<0258> \{Tomoya}「これとか」
// <0259> 俺は手紙を差し出した。何度となく読んだそれは、封筒の角や便せんが擦り切れていた。
<0259> 俺は手紙を差し出した。何度となく読んだそれは、封筒の角や便せんが擦り切れていた。
// <0260> \{朋也}「あとは、窓の向こうの景色とかね」
<0260> \{Tomoya}「あとは、窓の向こうの景色とかね」
// <0261> \{朋也}「あの山だろ? 春には桜が見えるって」
<0261> \{Tomoya}「あの山だろ? 春には桜が見えるって」
// <0262> \{有子}「そう…ですね」
<0262> \{Yuuko}「そう…ですね」
// <0263> 指差した山のふもとには若干色の違う木々が見えた。
<0263> 指差した山のふもとには若干色の違う木々が見えた。
// <0264> はっきりとはわからないが、一斉に咲く桜を思い浮かべることができた。
<0264> はっきりとはわからないが、一斉に咲く桜を思い浮かべることができた。
// <0265> \{有子}「手紙は…消印ですか?」
<0265> \{Yuuko}「手紙は…消印ですか?」
// <0266> \{朋也}「それもあるけど、決め手のひとつになったのはこっち」
<0266> \{Tomoya}「それもあるけど、決め手のひとつになったのはこっち」
// <0267> 俺は便せんを見せる。
<0267> 俺は便せんを見せる。
// <0268> \{朋也}「これ、珍しい和紙なんだってな」
<0268> \{Tomoya}「これ、珍しい和紙なんだってな」
// <0269> 母親は不思議そうに見てから、小さく頷いた。
<0269> 母親は不思議そうに見てから、小さく頷いた。
// <0270> \{有子}「そうですね…ここの特産品だそうですから」
<0270> \{Yuuko}「そうですね…ここの特産品だそうですから」
// <0271> \{有子}「管理人さんが筆を使うなら、と持ってきてくださったんです…」
<0271> \{Yuuko}「管理人さんが筆を使うなら、と持ってきてくださったんです…」
// <0272> 俺たちの背後を窺う。
<0272> 俺たちの背後を窺う。
// <0273> \{有子}「ともは…来ていませんでしょうか?」
<0273> \{Yuuko}「ともは…来ていませんでしょうか?」
// <0274> \{朋也}「ああ、家で留守番してるよ。こいつの弟に任せてる」
<0274> \{Tomoya}「ああ、家で留守番してるよ。こいつの弟に任せてる」
// <0275> \{智代}「しっかり者だから、心配ない」
<0275> \{Tomoyo}「しっかり者だから、心配ない」
// <0276> \{有子}「そうですか…よかった」
<0276> \{Yuuko}「そうですか…よかった」
// <0277> \{朋也}「何で、よかったんだ?」
<0277> \{Tomoya}「何で、よかったんだ?」
// <0278> ふと、俺は疑問に思った。
<0278> ふと、俺は疑問に思った。
// <0279> ともに会いたくないわけはない。それなら写真すらいらないはずだ。
<0279> ともに会いたくないわけはない。それなら写真すらいらないはずだ。
// <0280> \{有子}「今更もう会えません」
<0280> \{Yuuko}「今更もう会えません」
// <0281> \{智代}「それは…あなたが今もとものことを愛してるからだ」
<0281> \{Tomoyo}「それは…あなたが今もとものことを愛してるからだ」
// <0282> 智代が床を見つめたままつぶやく。
<0282> 智代が床を見つめたままつぶやく。
// <0283> \{智代}「だから、会えなくてほっとしてるんだ…」
<0283> \{Tomoyo}「だから、会えなくてほっとしてるんだ…」
// <0284> \{智代}「それは矛盾したような感情だ」
<0284> \{Tomoyo}「それは矛盾したような感情だ」
// <0285> \{智代}「でも、今ならわかるんだ、そんな心情も…そうさせる何かが起こりえることも」
<0285> \{Tomoyo}「でも、今ならわかるんだ、そんな心情も…そうさせる何かが起こりえることも」
// <0286> 智代がゆっくり顔を上げる。
<0286> 智代がゆっくり顔を上げる。
// <0287> \{智代}「だから、聞かせてほしい…」
<0287> \{Tomoyo}「だから、聞かせてほしい…」
// <0288> \{智代}「そのために私たちはここに来たんだ」
<0288> \{Tomoyo}「そのために私たちはここに来たんだ」
// <0289> \{智代}「あなたをそこまで追い込んだもの…」
<0289> \{Tomoyo}「あなたをそこまで追い込んだもの…」
// <0290> \{智代}「それはなんなんだ」
<0290> \{Tomoyo}「それはなんなんだ」
// <0291> 相手の目を真正面から見据えて、言った。
<0291> 相手の目を真正面から見据えて、言った。
// <0292> 母親はしばらく表情も変えず止まっていた。
<0292> 母親はしばらく表情も変えず止まっていた。
// <0293> 智代も、瞬きもせず、その口が開くのを待った。その真剣な表情はどれだけ時間が過ぎようと崩れることはなかった。
<0293> 智代も、瞬きもせず、その口が開くのを待った。その真剣な表情はどれだけ時間が過ぎようと崩れることはなかった。
// <0294> 智代の真摯な思いが伝わったのだろう。
<0294> 智代の真摯な思いが伝わったのだろう。
// <0295> \{有子}「わかりました。お話しましょう」
<0295> \{Yuuko}「わかりました。お話しましょう」
// <0296> 静かに口は開かれた。
<0296> 静かに口は開かれた。
// <0297> 語られるは、彼女の半生。
<0297> 語られるは、彼女の半生。
// <0298> 身よりのない彼女は、ずっとひとりで夜の仕事をしていた。
<0298> 身よりのない彼女は、ずっとひとりで夜の仕事をしていた。
// <0299> 智代の父親との出会い。
<0299> 智代の父親との出会い。
// <0300> 初めて知る愛という情念。
<0300> 初めて知る愛という情念。
// <0301> そして絶望。
<0301> そして絶望。
// <0302> その中で、生まれてきた小さな命。
<0302> その中で、生まれてきた小さな命。
// <0303> それを希望に生き始めた新しい日々。
<0303> それを希望に生き始めた新しい日々。
// <0304> だが生活はひっ迫し、娘を守るためには夜の仕事を続けるしかなかった。
<0304> だが生活はひっ迫し、娘を守るためには夜の仕事を続けるしかなかった。
// <0305> そのことで他の母子との摩擦が起きる。
<0305> そのことで他の母子との摩擦が起きる。
// <0306> 自分の仕事が知れ渡ってしまうと、ともと子供を遊ばせてくれる親はいなくなっていた。
<0306> 自分の仕事が知れ渡ってしまうと、ともと子供を遊ばせてくれる親はいなくなっていた。
// <0307> 園内でも、ひとりきりで遊ぶとも。
<0307> 園内でも、ひとりきりで遊ぶとも。
// <0308> その姿を見たら、自分が嫌になった。
<0308> その姿を見たら、自分が嫌になった。
// <0309> 自分を呪った。
<0309> 自分を呪った。
// <0310> それでも、生きるためには働くしかなかった。
<0310> それでも、生きるためには働くしかなかった。
// <0311> 精神もぼろぼろになり、やがて過労で倒れた。
<0311> 精神もぼろぼろになり、やがて過労で倒れた。
// <0312> 運び込まれた小さな病院は、彼女に大きな病院を紹介した。
<0312> 運び込まれた小さな病院は、彼女に大きな病院を紹介した。
// <0313> そこで知らされるのは、過労とはまったく関係のない病名。
<0313> そこで知らされるのは、過労とはまったく関係のない病名。
// <0314> ドラマでよく聞くような病名。
<0314> ドラマでよく聞くような病名。
// <0315> 身よりのない彼女はその後、さらに辛辣な現実を告げられる。
<0315> 身よりのない彼女はその後、さらに辛辣な現実を告げられる。
// <0316> すでに手遅れだということを。
<0316> すでに手遅れだということを。
// <0317> …錯乱。
<0317> …錯乱。
// <0318> 自分ひとりの面倒も見ることができなくなった彼女は、ともを父親に託すことを思いつく。
<0318> 自分ひとりの面倒も見ることができなくなった彼女は、ともを父親に託すことを思いつく。
// <0319> そして、ひとりになった彼女は自分の居場所を求めた。
<0319> そして、ひとりになった彼女は自分の居場所を求めた。
// <0320> 辿り着いた場所がここだった。
<0320> 辿り着いた場所がここだった。
// <0321> \{有子}「ここには、何もありません」
<0321> \{Yuuko}「ここには、何もありません」
// <0322> \{有子}「あるのは、ひっそりとしたその日の暮らしだけ」
<0322> \{Yuuko}「あるのは、ひっそりとしたその日の暮らしだけ」
// <0323> \{有子}「ここなら、余生を過ごせると思いました」
<0323> \{Yuuko}「ここなら、余生を過ごせると思いました」
// <0324> \{有子}「だから私は、この場所で暮らすことにしました」
<0324> \{Yuuko}「だから私は、この場所で暮らすことにしました」
// <0325> 俺たちは、入れられたお茶を飲んでいた。
<0325> 俺たちは、入れられたお茶を飲んでいた。
// <0326> 誰もが押し黙り、今告げられた事実を飲み下していた。
<0326> 誰もが押し黙り、今告げられた事実を飲み下していた。
// <0327> すでに母親の姿はない。
<0327> すでに母親の姿はない。
// <0328> まだ作業があるからと言って、退室していた。
<0328> まだ作業があるからと言って、退室していた。
// <0329> その時の母親の表情は、本当に何気ないものだった。
<0329> その時の母親の表情は、本当に何気ないものだった。
// <0330> \{河南子}「なんか言えよ…」
<0330> \{Kanako}「なんか言えよ…」
// <0331> 河南子が俺の膝をつつきながら、囁いてくる。
<0331> 河南子が俺の膝をつつきながら、囁いてくる。
// <0332> \{朋也}「それおまえの役目だろ…」
<0332> \{Tomoya}「それおまえの役目だろ…」
// <0333> 耳打ちで返す。
<0333> 耳打ちで返す。
// <0334> \{河南子}「重すぎるよ…」
<0334> \{Kanako}「重すぎるよ…」
// <0335> \{河南子}「こんな展開、予想だにしてなかったっての…」
<0335> \{Kanako}「こんな展開、予想だにしてなかったっての…」
// <0336> \{河南子}「今なに言っても、笑えないじゃん…」
<0336> \{Kanako}「今なに言っても、笑えないじゃん…」
// <0337> \{朋也}「おまえのはいつだって笑えねぇよ…」
<0337> \{Tomoya}「おまえのはいつだって笑えねぇよ…」
// <0338> \{河南子}「そんなこと今言うなよ…ショックだよ…軽く鬱はいるよ…」
<0338> \{Kanako}「そんなこと今言うなよ…ショックだよ…軽く鬱はいるよ…」
// <0339> \{朋也}「思い出してみろよ…おまえが来てから、誰か笑ってた記憶あるのかよ…」
<0339> \{Tomoya}「思い出してみろよ…おまえが来てから、誰か笑ってた記憶あるのかよ…」
// <0340> \{河南子}「………」
<0340> \{Kanako}「………」
// <0341> \{河南子}「うわ、ねぇよー」
<0341> \{Kanako}「うわ、ねぇよー」
// <0342> \{河南子}「なんだこれー、なんでこんな時にあたし、別のことでショック受けてんだー、わけわかんねー」
<0342> \{Kanako}「なんだこれー、なんでこんな時にあたし、別のことでショック受けてんだー、わけわかんねー」
// <0343> \{朋也}「今こそ、挽回しろよ…」
<0343> \{Tomoya}「今こそ、挽回しろよ…」
// <0344> \{河南子}「今こそって、今笑わすの、生きてきた中で一番難易度高いよ…」
<0344> \{Kanako}「今こそって、今笑わすの、生きてきた中で一番難易度高いよ…」
// <0345> \{朋也}「むしろ笑えるかもしれねぇだろ…」
<0345> \{Tomoya}「むしろ笑えるかもしれねぇだろ…」
// <0346> \{河南子}「まじかよー…」
<0346> \{Kanako}「まじかよー…」
// <0347> \{朋也}「ああ、この空気でだったら、何言われても笑ってしまうな…」
<0347> \{Tomoya}「ああ、この空気でだったら、何言われても笑ってしまうな…」
// <0348> \{朋也}「だから言え…そして、この空気を変えてくれ…おまえならできる…否、おまえにしかできない…」
<0348> \{Tomoya}「だから言え…そして、この空気を変えてくれ…おまえならできる…否、おまえにしかできない…」
// <0349> \{河南子}「なんだ…? そこまであたしを必要としているのか…」
<0349> \{Kanako}「なんだ…? そこまであたしを必要としているのか…」
// <0350> \{朋也}「ああ…頼む…」
<0350> \{Tomoya}「ああ…頼む…」
// <0351> \{河南子}「わかった…やってみるよ…」
<0351> \{Kanako}「わかった…やってみるよ…」
// <0352> すぅ、と息を飲む音。その口が開かれる。
<0352> すぅ、と息を飲む音。その口が開かれる。
// <0353> \{河南子}「たすけてーどらえもーん」
<0353> \{Kanako}「たすけてーどらえもーん」
// <0354> \{河南子}「ぱらぱぱっぱぱ~ん! どらみちゃん」
<0354> \{Kanako}「ぱらぱぱっぱぱ~ん! どらみちゃん」
// <0355> \{朋也}「………」
<0355> \{Tomoya}「………」
// <0356> 終わったのか…?
<0356> 終わったのか…?
// <0357> \{朋也}「は…はは…ははははは…」
<0357> \{Tomoya}「は…はは…ははははは…」
// <0358> 意味はわからなかったが、無理してでも笑ってみせる。
<0358> 意味はわからなかったが、無理してでも笑ってみせる。
// <0359> \{河南子}「ラクすんなよ!って話でさ」
<0359> \{Kanako}「ラクすんなよ!って話でさ」
// <0360> \{河南子}「ぜんぶ、それで済むじゃんねー」
<0360> \{Kanako}「ぜんぶ、それで済むじゃんねー」
// <0361> \{朋也}「はは…河南子はおもしれーなー」
<0361> \{Tomoya}「はは…河南子はおもしれーなー」
// <0362> \{河南子}「よかったー、先輩もおもしろかったー?」
<0362> \{Kanako}「よかったー、先輩もおもしろかったー?」
// <0363> \{河南子}「うわぁ! ありえないぐらい重苦しい顔してるっ」
<0363> \{Kanako}「うわぁ! ありえないぐらい重苦しい顔してるっ」
// <0364> \{智代}「………」
<0364> \{Tomoyo}「………」
// <0365> すがるような目が俺に向いた。まぶたを閉じれば涙がこぼれそうに潤んでいた。
<0365> すがるような目が俺に向いた。まぶたを閉じれば涙がこぼれそうに潤んでいた。
// <0366> \{朋也}「河南子、おまえ、アイス買いにいくんだろ?」
<0366> \{Tomoya}「河南子、おまえ、アイス買いにいくんだろ?」
// <0367> \{河南子}「いや、こんなところで売ってないし…」
<0367> \{Kanako}「いや、こんなところで売ってないし…」
// <0368> \{朋也}「じゃ、作れよ」
<0368> \{Tomoya}「じゃ、作れよ」
// <0369> \{河南子}「………」
<0369> \{Kanako}「………」
// <0370> \{河南子}「わかったよ…」
<0370> \{Kanako}「わかったよ…」
// <0371> \{河南子}「がんばれば、できるんかなー…」
<0371> \{Kanako}「がんばれば、できるんかなー…」
// <0372> 空気を察してか、大人しく部屋を後にする河南子。
<0372> 空気を察してか、大人しく部屋を後にする河南子。
// <0373> ドアが閉じると、智代はしばらくの沈黙の後漏らした。
<0373> ドアが閉じると、智代はしばらくの沈黙の後漏らした。
// <0374> \{智代}「私は浅はかだった…」
<0374> \{Tomoyo}「私は浅はかだった…」
// <0375> \{智代}「一方的に、母親が悪いと決めてかかっていたんだ…」
<0375> \{Tomoyo}「一方的に、母親が悪いと決めてかかっていたんだ…」
// <0376> \{朋也}「知らなかったんだから仕方ないだろ」
<0376> \{Tomoya}「知らなかったんだから仕方ないだろ」
// <0377> \{智代}「でも、もう知ってしまった…」
<0377> \{Tomoyo}「でも、もう知ってしまった…」
// <0378> \{智代}「想像してみろ…」
<0378> \{Tomoyo}「想像してみろ…」
// <0379> \{智代}「それがどれだけの恐怖かを…」
<0379> \{Tomoyo}「それがどれだけの恐怖かを…」
// <0380> 自分の手を見ていた。それは細かく震えていた。
<0380> 自分の手を見ていた。それは細かく震えていた。
// <0381> \{朋也}「やめとけ」
<0381> \{Tomoya}「やめとけ」
// <0382> その手を押さえつけるように握る。
<0382> その手を押さえつけるように握る。
// <0383> \{智代}「朋也…」
<0383> \{Tomoyo}「朋也…」
// <0384> \{智代}「震えが止まらないんだ…」
<0384> \{Tomoyo}「震えが止まらないんだ…」
// <0385> \{智代}「どうしようもないんだ…」
<0385> \{Tomoyo}「どうしようもないんだ…」
// <0386> \{朋也}「大丈夫だ」
<0386> \{Tomoya}「大丈夫だ」
// <0387> そのまま抱きしめてやる。
<0387> そのまま抱きしめてやる。
// <0388> もたれかかるようにして智代は崩れた。
<0388> もたれかかるようにして智代は崩れた。
// <0389> ようやく体を起こす。
<0389> ようやく体を起こす。
// <0390> そして、ゆっくりと俺を見た。泣いてはいなかった。
<0390> そして、ゆっくりと俺を見た。泣いてはいなかった。
// <0391> ただこの一瞬で、憔悴しきっていた。
<0391> ただこの一瞬で、憔悴しきっていた。
// <0392> \{智代}「これからどうすればいいんだろう…」
<0392> \{Tomoyo}「これからどうすればいいんだろう…」
// <0393> そう呟いた。
<0393> そう呟いた。
// <0394> \{朋也}「あの人はもうすぐなくなる…」
<0394> \{Tomoya}「あの人はもうすぐなくなる…」
// <0395> \{朋也}「そして、ともは本当の意味で母親を失うんだ…」
<0395> \{Tomoya}「そして、ともは本当の意味で母親を失うんだ…」
// <0396> \{朋也}「それを考えれば、わかるだろ…?」
<0396> \{Tomoya}「それを考えれば、わかるだろ…?」
// <0397> \{智代}「え…」
<0397> \{Tomoyo}「え…」
// <0398> 困惑した顔。
<0398> 困惑した顔。
// <0399> \{智代}「………」
<0399> \{Tomoyo}「………」
// <0400> 俺が黙っていると、目を瞑って真剣に考え始める。
<0400> 俺が黙っていると、目を瞑って真剣に考え始める。
// <0401> \{朋也}「…わからないのか?」
<0401> \{Tomoya}「…わからないのか?」
// <0402> \{智代}「待ってくれ…」
<0402> \{Tomoyo}「待ってくれ…」
// <0403> \{智代}「………」
<0403> \{Tomoyo}「………」
// <0404> \{朋也}「ふたりは…どうすべきなんだ?」
<0404> \{Tomoya}「ふたりは…どうすべきなんだ?」
// <0405> そこまで言ってやる。
<0405> そこまで言ってやる。
// <0406> \{智代}「ふたりは…」
<0406> \{Tomoyo}「ふたりは…」
// <0407> \{智代}「一緒に暮らすべき…なのか?」
<0407> \{Tomoyo}「一緒に暮らすべき…なのか?」
// <0408> \{朋也}「ああ、そうだ」
<0408> \{Tomoya}「ああ、そうだ」
// <0409> \{智代}「そうか…そうだな…」
<0409> \{Tomoyo}「そうか…そうだな…」
// <0410> \{朋也}「当然だろ」
<0410> \{Tomoya}「当然だろ」
// <0411> \{智代}「うん…当然だった」
<0411> \{Tomoyo}「うん…当然だった」
// <0412> \{朋也}「よし、じゃあ、いくぞ」
<0412> \{Tomoya}「よし、じゃあ、いくぞ」
// <0413> \{智代}「え、どこに?」
<0413> \{Tomoyo}「え、どこに?」
// <0414> \{智代}「帰るのか?」
<0414> \{Tomoyo}「帰るのか?」
// <0415> \{朋也}「帰るかよ。母親の説得だ」
<0415> \{Tomoya}「帰るかよ。母親の説得だ」
// <0416> \{智代}「ああ、そうだな…それが先だな」
<0416> \{Tomoyo}「ああ、そうだな…それが先だな」
// <0417> \{智代}「よし、いこう」
<0417> \{Tomoyo}「よし、いこう」
// <0418> 出口に向かうその目には、何も映っていないように見えた。
<0418> 出口に向かうその目には、何も映っていないように見えた。
// <0419> \{朋也}「おまえさ…」
<0419> \{Tomoya}「おまえさ…」
// <0420> その肩を掴む。
<0420> その肩を掴む。
// <0421> \{智代}「え、どうした」
<0421> \{Tomoyo}「え、どうした」
// <0422> \{朋也}「おまえ、大丈夫か?」
<0422> \{Tomoya}「おまえ、大丈夫か?」
// <0423> \{智代}「私が…どうかしたのか?」
<0423> \{Tomoyo}「私が…どうかしたのか?」
// <0424> ふぅ…と俺はため息をつく。
<0424> ふぅ…と俺はため息をつく。
// <0425> 今の智代は自分の心で動いていない。
<0425> 今の智代は自分の心で動いていない。
// <0426> 俺に言われるがままにしているだけだ。
<0426> 俺に言われるがままにしているだけだ。
// <0427> あるいは、言葉だけで理解して、感情で理解していない。
<0427> あるいは、言葉だけで理解して、感情で理解していない。
// <0428> …いつか心が追いついてくれるだろうか。
<0428> …いつか心が追いついてくれるだろうか。
// <0429> それを願って、部屋を後にした。
<0429> それを願って、部屋を後にした。
// <0430> ふたりは畑にいた。
<0430> ふたりは畑にいた。
// <0431> 俺たちが寄っていくと、母親の前に管理人が立ちはだかった。
<0431> 俺たちが寄っていくと、母親の前に管理人が立ちはだかった。
// <0432> けど、母親は構わない、と手で制して、ゆっくり前に歩み出た。
<0432> けど、母親は構わない、と手で制して、ゆっくり前に歩み出た。
// <0433> 冷ややかな表情のまま、無言でこちらの言葉を待つ。
<0433> 冷ややかな表情のまま、無言でこちらの言葉を待つ。
// <0434> 俺は口を開いた。
<0434> 俺は口を開いた。
// <0435> \{朋也}「あんたは今もとものことを愛してる」
<0435> \{Tomoya}「あんたは今もとものことを愛してる」
// <0436> \{朋也}「だったら、一緒に暮らせばいいじゃないか」
<0436> \{Tomoya}「だったら、一緒に暮らせばいいじゃないか」
// <0437> \{朋也}「呼んでやればいいじゃないか、ここに」
<0437> \{Tomoya}「呼んでやればいいじゃないか、ここに」
// <0438> \{有子}「あなたはここのことをなにも知らない」
<0438> \{Yuuko}「あなたはここのことをなにも知らない」
// <0439> \{有子}「ここは、子供の住む場所ではありません」
<0439> \{Yuuko}「ここは、子供の住む場所ではありません」
// <0440> \{有子}「ここには何もない」
<0440> \{Yuuko}「ここには何もない」
// <0441> \{有子}「ここに暮らすみんなも、何かがない。失ってるんです。失い続けてるんです」
<0441> \{Yuuko}「ここに暮らすみんなも、何かがない。失ってるんです。失い続けてるんです」
// <0442> \{有子}「そういう人が暮らす場所なんです」
<0442> \{Yuuko}「そういう人が暮らす場所なんです」
// <0443> 俺は思い出す。話もしてくれなかった住人たちのことを。
<0443> 俺は思い出す。話もしてくれなかった住人たちのことを。
// <0444> \{有子}「ここは旅の終点なんです」
<0444> \{Yuuko}「ここは旅の終点なんです」
// <0445> 旅の、終点。
<0445> 旅の、終点。
// <0446> \{有子}「この先にはなにもない」
<0446> \{Yuuko}「この先にはなにもない」
// <0447> \{有子}「未来も希望もすべてがあるあの子をここに連れてくるわけにはいきません」
<0447> \{Yuuko}「未来も希望もすべてがあるあの子をここに連れてくるわけにはいきません」
// <0448> ………。
<0448> ………。
// <0449> 話は終わったのだろうか…。
<0449> 話は終わったのだろうか…。
// <0450> なら言い返さなければ…。
<0450> なら言い返さなければ…。
// <0451> じゃあ、あんたがここから出ていけばいい。
<0451> じゃあ、あんたがここから出ていけばいい。
// <0452> そんな文句を思いつくが、それはあまりに軽々しかった。
<0452> そんな文句を思いつくが、それはあまりに軽々しかった。
// <0453> 彼女の半生を知った今…
<0453> 彼女の半生を知った今…
// <0454> その旅の終点へと辿り着いた彼女に、また過酷の中へ出向けと…
<0454> その旅の終点へと辿り着いた彼女に、また過酷の中へ出向けと…
// <0455> 言えるのだろうか、俺は。
<0455> 言えるのだろうか、俺は。
// <0456> \{有子}「それに…」
<0456> \{Yuuko}「それに…」
// <0457> \{有子}「今、他人になっておけば、あの子は、私の死を知らずに済む」
<0457> \{Yuuko}「今、他人になっておけば、あの子は、私の死を知らずに済む」
// <0458> なんだよ、それ…。
<0458> なんだよ、それ…。
// <0459> 違う気がする。
<0459> 違う気がする。
// <0460> でも、もう俺の中からは言葉が出てこない。
<0460> でも、もう俺の中からは言葉が出てこない。
// <0461> 俺は隣を見る。
<0461> 俺は隣を見る。
// <0462> 同じように立ちつくす智代と目が合う。
<0462> 同じように立ちつくす智代と目が合う。
// <0463> \{智代}「………」
<0463> \{Tomoyo}「………」
// <0464> 智代は無言のまま顔を伏せた。
<0464> 智代は無言のまま顔を伏せた。
// <0465> \{管理人}「ようは…」
<0465> \{Manager}「ようは…」
// <0466> \{管理人}「ふたりにとって、これが、一番よかった」
<0466> \{Manager}「ふたりにとって、これが、一番よかった」
// <0467> \{管理人}「そういうこと」
<0467> \{Manager}「そういうこと」
// <0468> そう管理人がまとめて、ふたりは作業に戻っていった。
<0468> そう管理人がまとめて、ふたりは作業に戻っていった。
// <0469> 一際セミの鳴き声が大きくなり、耳を塞ぎたくなった。
<0469> 一際セミの鳴き声が大きくなり、耳を塞ぎたくなった。
// <0470> \{管理人}「納得できた?」
<0470> \{Manager}「納得できた?」
// <0471> \{朋也}「いや」
<0471> \{Tomoya}「いや」
// <0472> 俺は首を振った。
<0472> 俺は首を振った。
// <0473> 納得はしない。
<0473> 納得はしない。
// <0474> \{管理人}「そうなの」
<0474> \{Manager}「そうなの」
// <0475> 別にどっちでも構わない、というような返事。
<0475> 別にどっちでも構わない、というような返事。
// <0476> こういう事態にも慣れているのかもしれない。
<0476> こういう事態にも慣れているのかもしれない。
// <0477> 管理人は、俺たちの茶碗にお茶を注いでくれた。
<0477> 管理人は、俺たちの茶碗にお茶を注いでくれた。
// <0478> \{朋也}(悪い人じゃないんだろうな)
<0478> \{Tomoya}(悪い人じゃないんだろうな)
// <0479> そう考えながら、横顔をじっと見ていた。
<0479> そう考えながら、横顔をじっと見ていた。
// <0480> \{管理人}「ところで、あんたたち、どうやって帰るの?」
<0480> \{Manager}「ところで、あんたたち、どうやって帰るの?」
// <0481> その顔がこちらを向く。
<0481> その顔がこちらを向く。
// <0482> \{朋也}「行きはバスで来たけど」
<0482> \{Tomoya}「行きはバスで来たけど」
// <0483> \{管理人}「もう、最終便には間に合わないわよ」
<0483> \{Manager}「もう、最終便には間に合わないわよ」
// <0484> \{河南子}「えー」
<0484> \{Kanako}「えー」
// <0485> 時計を見ると、午後五時を回ったところだ。
<0485> 時計を見ると、午後五時を回ったところだ。
// <0486> \{朋也}「早いな」
<0486> \{Tomoya}「早いな」
// <0487> \{管理人}「田舎のバスだから五時半で終わっちゃうのよ」
<0487> \{Manager}「田舎のバスだから五時半で終わっちゃうのよ」
// <0488> \{管理人}「間に合わないかも知れないけど、タクシーでも呼ぶ?」
<0488> \{Manager}「間に合わないかも知れないけど、タクシーでも呼ぶ?」
// <0489> これくらい、と言われた金額は、少々高いものだったが、払えないことはない。
<0489> これくらい、と言われた金額は、少々高いものだったが、払えないことはない。
// <0490> しかし、このまま帰ってしまってもいいのだろうか。
<0490> しかし、このまま帰ってしまってもいいのだろうか。
// <0491> ともを手放した理由を知るという目的は果たした。
<0491> ともを手放した理由を知るという目的は果たした。
// <0492> でも、納得はしていない。
<0492> でも、納得はしていない。
// <0493> だから、まだここを去るわけにはいかない。
<0493> だから、まだここを去るわけにはいかない。
// <0494> \{朋也}「あの…俺たちの寝床、なんとかならないかな」
<0494> \{Tomoya}「あの…俺たちの寝床、なんとかならないかな」
// <0495> \{管理人}「まぁ、使ってない部屋はあるし、布団も用意できるけど」
<0495> \{Manager}「まぁ、使ってない部屋はあるし、布団も用意できるけど」
// <0496> \{河南子}「やったー!」
<0496> \{Kanako}「やったー!」
// <0497> \{管理人}「じゃあ、特別ね。一応は有子さんの身内だし」
<0497> \{Manager}「じゃあ、特別ね。一応は有子さんの身内だし」
// <0498> よかった。突然押しかけた俺たちに寝床まで用意してもらえるなんて普通は考えられない。
<0498> よかった。突然押しかけた俺たちに寝床まで用意してもらえるなんて普通は考えられない。
// <0499> 申し訳ない、と頭を下げておく。
<0499> 申し訳ない、と頭を下げておく。
// <0500> \{管理人}「帰れないんじゃ仕方ないでしょ」
<0500> \{Manager}「帰れないんじゃ仕方ないでしょ」
// <0501> 管理人が立ち上がる。
<0501> 管理人が立ち上がる。
// <0502> \{管理人}「じゃあ、夕飯の準備してくるわ」
<0502> \{Manager}「じゃあ、夕飯の準備してくるわ」
// <0503> \{河南子}「わーい」
<0503> \{Kanako}「わーい」
// <0504> \{管理人}「スーパーも、コンビニもここにはないからね」
<0504> \{Manager}「スーパーも、コンビニもここにはないからね」
// <0505> \{朋也}「手伝ってもいいかな」
<0505> \{Tomoya}「手伝ってもいいかな」
// <0506> \{管理人}「どうぞ」
<0506> \{Manager}「どうぞ」
// <0507> 俺は智代を見る。しばらくぼぅっとしていたが、目が合うと、思い出したように立ち上がった。
<0507> 俺は智代を見る。しばらくぼぅっとしていたが、目が合うと、思い出したように立ち上がった。
// <0508> そして管理人の後に続く。
<0508> そして管理人の後に続く。
// <0509> \{朋也}「おまえもこいよ」
<0509> \{Tomoya}「おまえもこいよ」
// <0510> \{河南子}「えー」
<0510> \{Kanako}「えー」
// <0511> \{朋也}「何を手伝ったらいい?」
<0511> \{Tomoya}「何を手伝ったらいい?」
// <0512> 広めの台所では所狭しと、村人が食事を作っていた。
<0512> 広めの台所では所狭しと、村人が食事を作っていた。
// <0513> \{管理人}「じゃ、そっちの野菜切ってくれる?」
<0513> \{Manager}「じゃ、そっちの野菜切ってくれる?」
// <0514> \{管理人}「それ、サラダにするから」
<0514> \{Manager}「それ、サラダにするから」
// <0515> \{管理人}「切り方とか盛りつけは任せるから、好きにしていいわよ」
<0515> \{Manager}「切り方とか盛りつけは任せるから、好きにしていいわよ」
// <0516> 籠に積まれたトマトとキュウリを示しながら、管理人は別の作業に取りかかっていた。
<0516> 籠に積まれたトマトとキュウリを示しながら、管理人は別の作業に取りかかっていた。
// <0517> 智代は手早くトマトを八分にし、キュウリを塩もみした後、乱切りにした。
<0517> 智代は手早くトマトを八分にし、キュウリを塩もみした後、乱切りにした。
// <0518> \{管理人}「あら、男っぽい口調のわりに、器用なのね。そういうこと疎いのかと思ってた」
<0518> \{Manager}「あら、男っぽい口調のわりに、器用なのね。そういうこと疎いのかと思ってた」
// <0519> 管理人は素直な驚きを口にしていた。
<0519> 管理人は素直な驚きを口にしていた。
// <0520> 俺も見様見真似で包丁を扱う。
<0520> 俺も見様見真似で包丁を扱う。
// <0521> ひゅん!
<0521> ひゅん!
// <0522> ひゅん!
<0522> ひゅん!
// <0523> 隣では河南子が片手で包丁を振り回していた。
<0523> 隣では河南子が片手で包丁を振り回していた。
// <0524> \{朋也}「あぶねぇよ、おまえっ」
<0524> \{Tomoya}「あぶねぇよ、おまえっ」
// <0525> \{河南子}「んだよ、やるのか、てめー」
<0525> \{Kanako}「んだよ、やるのか、てめー」
// <0526> \{朋也}「それ持って言うな、まじ恐いからさ…」
<0526> \{Tomoya}「それ持って言うな、まじ恐いからさ…」
// <0527> \{智代}「危ないからやめろ」
<0527> \{Tomoyo}「危ないからやめろ」
// <0528> 智代が河南子の手から包丁を取り上げる。
<0528> 智代が河南子の手から包丁を取り上げる。
// <0529> \{智代}「河南子は、そっちで皿を並べてくれ」
<0529> \{Tomoyo}「河南子は、そっちで皿を並べてくれ」
// <0530> \{河南子}「えー」
<0530> \{Kanako}「えー」
// <0531> \{朋也}「おまえさっきからロクなセリフ言ってないな…」
<0531> \{Tomoya}「おまえさっきからロクなセリフ言ってないな…」
// <0532> 病院で見るようなカートに大鍋などを乗せて、一部屋ずつ回る。
<0532> 病院で見るようなカートに大鍋などを乗せて、一部屋ずつ回る。
// <0533> \{朋也}「…あのさ、こういうとこだとみんなで食べたりとかしないのか?」
<0533> \{Tomoya}「…あのさ、こういうとこだとみんなで食べたりとかしないのか?」
// <0534> \{管理人}「たまにはあるけど、あんまりしないわね」
<0534> \{Manager}「たまにはあるけど、あんまりしないわね」
// <0535> \{管理人}「一緒に暮らしてるけど、やっぱり人の目が気になったり、もめたりするから」
<0535> \{Manager}「一緒に暮らしてるけど、やっぱり人の目が気になったり、もめたりするから」
// <0536> \{管理人}「食事とか自由な時間はひとりにしているのよ」
<0536> \{Manager}「食事とか自由な時間はひとりにしているのよ」
// <0537> \{管理人}「だから、あんたたちも自分の部屋でご飯食べてね」
<0537> \{Manager}「だから、あんたたちも自分の部屋でご飯食べてね」
// <0538> 案内された部屋は、思いの外綺麗に掃除がされていた。
<0538> 案内された部屋は、思いの外綺麗に掃除がされていた。
// <0539> \{河南子}「いただきまーす」
<0539> \{Kanako}「いただきまーす」
// <0540> テーブルが床に置かれ、四人が囲んでいた。
<0540> テーブルが床に置かれ、四人が囲んでいた。
// <0541> なぜか、私も仲間に入れてねと、管理人が一緒になっている。
<0541> なぜか、私も仲間に入れてねと、管理人が一緒になっている。
// <0542> メニューは焼き茄子、湯がいたトウモロコシ、トマトとキュウリのサラダ、オクラの和え物。
<0542> メニューは焼き茄子、湯がいたトウモロコシ、トマトとキュウリのサラダ、オクラの和え物。
// <0543> 見事なまでに野菜だけだった。
<0543> 見事なまでに野菜だけだった。
// <0544> \{朋也}「健康のためとか?」
<0544> \{Tomoya}「健康のためとか?」
// <0545> \{管理人}「何が?」
<0545> \{Manager}「何が?」
// <0546> \{朋也}「野菜しかないからさ」
<0546> \{Tomoya}「野菜しかないからさ」
// <0547> \{管理人}「ああ、それね。畑でとれた野菜だからよ」
<0547> \{Manager}「ああ、それね。畑でとれた野菜だからよ」
// <0548> \{管理人}「ここは自給自足だからね」
<0548> \{Manager}「ここは自給自足だからね」
// <0549> \{管理人}「売ってもいるけど、みんな自分のために畑仕事をしてるのよ」
<0549> \{Manager}「売ってもいるけど、みんな自分のために畑仕事をしてるのよ」
// <0550> \{朋也}「…そうなのか」
<0550> \{Tomoya}「…そうなのか」
// <0551> 相づちともつかないような頷きだけで、一口食べた。
<0551> 相づちともつかないような頷きだけで、一口食べた。
// <0552> \{朋也}「…うまい」
<0552> \{Tomoya}「…うまい」
// <0553> \{管理人}「でしょ? これも自分のためだからね」
<0553> \{Manager}「でしょ? これも自分のためだからね」
// <0554> 洗いざらしのシーツを人数分渡され、さらに布団が運び込まれた。
<0554> 洗いざらしのシーツを人数分渡され、さらに布団が運び込まれた。
// <0555> \{管理人}「一部屋しかないんだけど、別にいいわよね?」
<0555> \{Manager}「一部屋しかないんだけど、別にいいわよね?」
// <0556> \{朋也}「ああ」
<0556> \{Tomoya}「ああ」
// <0557> \{河南子}「こいつと一緒かよっ!」
<0557> \{Kanako}「こいつと一緒かよっ!」
// <0558> \{朋也}「いや、おまえずっと同じ部屋で寝起きしてるだろ」
<0558> \{Tomoya}「いや、おまえずっと同じ部屋で寝起きしてるだろ」
// <0559> \{河南子}「まあそうなんだけど、一応びびっておかないと、女の子らしくないっしょ」
<0559> \{Kanako}「まあそうなんだけど、一応びびっておかないと、女の子らしくないっしょ」
// <0560> \{朋也}「そうだな、超女の子らしいよ」
<0560> \{Tomoya}「そうだな、超女の子らしいよ」
// <0561> こいつにだけは欲情すまいと誓いつつ、適当に流しておく。
<0561> こいつにだけは欲情すまいと誓いつつ、適当に流しておく。
// <0562> \{管理人}「あなたは大丈夫?」
<0562> \{Manager}「あなたは大丈夫?」
// <0563> ぼぅっとしたまま立つ智代に訊いた。
<0563> ぼぅっとしたまま立つ智代に訊いた。
// <0564> \{智代}「ん?」
<0564> \{Tomoyo}「ん?」
// <0565> \{智代}「ああ…うん。大丈夫だ。世話になる」
<0565> \{Tomoyo}「ああ…うん。大丈夫だ。世話になる」
// <0566> \{管理人}「ごめんね、ここしかないのよ。ちゃんと寝られる部屋って」
<0566> \{Manager}「ごめんね、ここしかないのよ。ちゃんと寝られる部屋って」
// <0567> \{管理人}「天井に穴が空いてて床がないのが我慢できるならもうひとつあるけど」
<0567> \{Manager}「天井に穴が空いてて床がないのが我慢できるならもうひとつあるけど」
// <0568> \{河南子}「おまえいけ」
<0568> \{Kanako}「おまえいけ」
// <0569> \{朋也}「やだよ…」
<0569> \{Tomoya}「やだよ…」
// <0570> 寝床の準備は簡単だった。
<0570> 寝床の準備は簡単だった。
// <0571> 床に布団を敷き、シーツの端を折り込んで終わり。
<0571> 床に布団を敷き、シーツの端を折り込んで終わり。
// <0572> 広さはそれなりにあるので、床でも充分寝られそうだった。
<0572> 広さはそれなりにあるので、床でも充分寝られそうだった。
// <0573> 窓のそばでは管理人が持ってきてくれた蚊取り線香が焚かれていた。
<0573> 窓のそばでは管理人が持ってきてくれた蚊取り線香が焚かれていた。
// <0574> 消灯すると、部屋は真っ暗になる。
<0574> 消灯すると、部屋は真っ暗になる。
// <0575> すぐ河南子の寝息が聞こえてきた。
<0575> すぐ河南子の寝息が聞こえてきた。
// <0576> \{朋也}(こいつ、連れてきた意味あんのか…)
<0576> \{Tomoya}(こいつ、連れてきた意味あんのか…)
// <0577> 智代のほうからはまだ寝息は聞こえてこない。
<0577> 智代のほうからはまだ寝息は聞こえてこない。
// <0578> 手を伸ばして、その体を探した。
<0578> 手を伸ばして、その体を探した。
// <0579> 触れたのは背中だった。
<0579> 触れたのは背中だった。
// <0580> 後ろからそっと抱きしめる。
<0580> 後ろからそっと抱きしめる。
// <0581> 眠るまでずっとそうしていた。
<0581> 眠るまでずっとそうしていた。