White Album 2/Script/2021

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	Speaker		Text		Comment
Line #	JP	EN	JP	EN
1	春希	Haruki	「………」	"........."
2	春希	Haruki	「ん…」	"Nhh..."
3			音源との距離感を掴めないまま、 薄暗がりの中、闇雲に手を伸ばす。	I cannot reach where the source of sound came from. I tried blindly stretch my hand, while in state of sleepiness.
4			やっと指先に触れた固い物体は規則的に震え、 それが俺の探していたものだと教えてくれた。	Finally, I can touch that object with my fingertip, it's vibrating. It was clear to me that this was the thing I search.
5	春希	Haruki	「はい…」	"Yes..."
6	麻理	Mari	「あ、北原か？ 私、風岡」	"Ah, Kitahara? It's me, Kazaoka."
7	春希	Haruki	「………」	"........."
8			何気なく電話に出てから気がついた。	I realized that I just casually answered the phone.
9			人と会話するのが、数日ぶりだってことに。	This is my conversation with people for the first time in few days.
10	麻理	Mari	「…あれ？　起きてる？ 昼過ぎだから大丈夫だと思ったんだけど」	"...Eh? Are you awake? I thought it'd be alright because it's afternoon now."
11	春希	Haruki	「ああ、えっと…」	"Ahh, ummm..."
12			久々の会話に、頭がついていかない。	This is my first conversation after some times, so my mind can't keep up.
13			しかも寝起きであることが、 反応の鈍さに拍車をかける。	Moreover, I just woke up, so my reaction's still dull.
14	春希	Haruki	「あ…」	"Ahh..."
15			と、その『寝起き』という事実に行き着き、 余計に妙な反応を返してしまう。	That answer has impression of "just woke up". I keep give her that weird reaction.
16	麻理	Mari	「…済まない。 どうやら本当に寝てたみたいだな」	"...Sorry. Seems like you really asleep."
17	春希	Haruki	「いえ、そんな…問題ないです。 ちょっとうたた寝しちゃってただけで」	"No, that's... no problem. I just took a nap."
18			眠ってたんだ、俺… とうとう、眠れたんだ。	Truthfully, I was asleep... finally asleep.
19	麻理	Mari	「ということは、今は家？ 大丈夫？　ちょっとだけでも話せる？」	"So, now you're home? Are you okay? Can we talk a bit?"
20	春希	Haruki	「…今、何日の何時ですか？」	"...Now, what date today and what time?"
21	麻理	Mari	「…北原、お前一体何日間寝てたんだよ？ ２８日の１３時半だ」	...Kitahara, just how many days you've been asleep? Today's date is 28th, right now is 13:30."
22	春希	Haruki	「っ… そう、ですか」	".....! I.. see..."
23			２４時間以上ぶりにカーテンを開けると、 冬の柔らかい陽射しでさえ眩しくて目がくらむ。	I opened my curtain for the first time after a while, the sunlight make the soft snow look so dazzling.
24			時計が１２時を指していた記憶は残ってる。 てことは、眠れたのは１時間程度か。	If my memory correct, the clock was at 12 before I slept. So that meant I've had slept for about a hour.
25	麻理	Mari	「…なんか大丈夫じゃなさそうだな。 明日にでもかけ直そうか？」	"....You don't look fine to me. Should I change it to tomorrow?"
26	春希	Haruki	「ああ、いや、大丈夫ですから。 なんでした？」	"Ahh, no, I'm all right really. So, what's wrong?"
27			本当は、頭も体もちっとも休まっていない。	Though the truth is, my head and my body haven't rested at all.
28			相変わらず頭はぼうっとしたまま。 もやもやした気分は引きずったまま。 中途半端な睡眠が、余計に体を疲れさせた気もする。	My head feel dreamily like usual. It was dragged by my hazy mood. Obviously, my body still tired, half-hearted sleep didn't do much help.
29			それでも、この睡眠には大きな意味があった。 何より、人と話せるきっかけをもたらした。	Even so, mine fell asleep had big meaning. More than anything, it lead me having conversation with people.
30			ずっと逃げていたはずの、人からの接触に、 無意識のおかげで応えることができたんだから。	I've always running away before, then someone contacted me. Thanks for me being unconscious, I responded it without much thought.
31	麻理	Mari	「いや、大した話じゃないんだけど… 最近、バイトの方顔出してないから。 その、元気でやってるか？」	"Well, it's not something important... It just, recently you haven't showed at work. I meant, are you doing okay?"
32	春希	Haruki	「………元気ですよ」	"....I'm fine."
33	麻理	Mari	「その声で言われてもなぁ」	"Your voice didn't tell me that way."
34	春希	Haruki	「寝起きですから」	"Because I just woke up."
35			その、久々の人とのコミュニケーションで、 早速嘘をつくことになるのは、少し気が引けるけど。	This is my first conversation in a while, but to think I can immediately tell a lie, that's a bit shameful of me.
36	麻理	Mari	「ま、いいや。 それで、今度はいつ来てくれる？」	"Well, whatever. So, when you'll come this time?"
37	春希	Haruki	「ええと、それは…」	"Ummm... that's..."
38	麻理	Mari	「年末進行終わったからって、暇な訳じゃないんだ。 みんなお前の手を借りたがってる。 時間があれば手伝いに来てくれないかな？」	"Even if you have finished your work for end of the year, it doesn't mean you have free times afterward. Everyone want your help here. So can you help if you have time?"
39	春希	Haruki	「…ありがとう、ございます」	"...Yes, thank you.. very much."
40			その言葉は、今のこんな俺にとってでも、 迷惑とも、お節介とも感じられなかった。	That words, even for me at this state, didn't sounds like a nuisance, nor do I think she is busybody.
41			図らずとも世界と隔絶されてしまった時にこそ、 その世界に必要とされてるって伝えてくれる言葉は、 それだけで嬉しくなる。	Precisely because I isolated myself from outside world without even me realized it, her words like told me that those world still need me. I'm happy with just that.
42	麻理	Mari	「あ、けれど私の方は、今年中はもう来ないんだ。 今日から取材でアメリカ。で、今成田」	"Ah, however as for me, I can't come this year. Today onward I'm on interviews in America. So right now I'm in Narita Airport."
43	春希	Haruki	「へぇ…年末なのに？」	"Hee... but until end of the year?"
44	麻理	Mari	「ニューヨークとかロスとか色々回って、 帰りがけにグァムで友達と合流してそこからバカンス。 こっちに帰ってくるのは来年の５日くらい」	"I'll go around like to New York, Los Angeles. After it end, I'll take vacation with my friend. I'll come back here around fifth on next year."
45	春希	Haruki	「そうですか… お疲れさまです」	"Is that so... thank you for your hard work."
46			そっか、そのことを伝えに… たかがバイトの部下に対して、相変わらず律儀な…	I see, and she told that... to a mere subordinates like me, she so honest as usual.
47	麻理	Mari	「…あ、友達って男じゃないぞ？ 北原も会ったよな？　ほら、雨宮佐和子。 毎年恒例のまるっきり男っ気のない女の二人旅で…」	"Ah, the friend I meant are not a boy, okay? You and Kitahara had met her too, right? Her name Sawako Amemiya. It's purely annual trip together with just two woman without involving man in...."
48	春希	Haruki	「は、はぁ…そうですか」	"Ha... I got it."
49	麻理	Mari	「………いや、そんなこと北原に言っても仕方ないな。 済まなかった、今のは忘れてくれ」
50	春希	Haruki	「？　わかりました。 佐和子さんにもよろしく伝えてください。 楽しんできてくださいって」
51	麻理	Mari	「いいよ別にあいつはどうでも」
52			麻理さんの、その妙に言い訳がましい態度の意味は、 今の俺には、よく意味がわからなかった。
53	麻理	Mari	「あ、それで、ここからが一応の本題。 北原の住所に郵便物送っといたから。 こっちにも昨日届いたばかりで直接渡す時間がなくて」
54	春希	Haruki	「俺に？ 一体なんです？」
55	麻理	Mari	「それがね… 冬馬曜子のニューイヤーコンサートのチケット」
56	春希	Haruki	「え…？」
57	麻理	Mari	「冬馬曜子の事務所から、 直接アンサンブルの編集部に送られてきたんだって。 …あの記事を書いたライターにって」
58	春希	Haruki	「………」	"........."
59			やっと普通に声が出るようになってきたところに、 また頭を真っ白にしてくれる名字がこぼれ出た…
60	麻理	Mari	「凄いな北原。 初めての記事でここまで取材元に気に入られるなんて 普通はないぞ」
61	春希	Haruki	「い、いや… それは相手が特殊なだけで…」
62	麻理	Mari	「せっかくだから楽屋に顔出してみたらどうだ？ きっとアンサンブルの名前を出せば会ってくれるぞ？」
63	春希	Haruki	「え…」
64	麻理	Mari	「ウチの業界は人脈が特に大事だからな。 会っておいて損なことは一つもないぞ？」
65			事情も知らずに軽く言ってくれる麻理さんに、 俺はますます言葉を詰まらせていく。
66			もし、俺が冬馬曜子に会いに行ったら、 向こうは二度も驚くことになるだろう。 あの記事を書いたのが娘の…だったって。
67			…いや、覚えてる方がおかしいか。 三年前に一度会ったきりだし。
68	春希	Haruki	「あの、麻理さん。 ありがたい話ですけど、俺は…」
69	麻理	Mari	「もしかしたら… 冬馬かずさと会わせてくれるかもしれないだろ？」
70	春希	Haruki	「………ぇ」
71	麻理	Mari	「会いたいんじゃないのか？　本当は」
72			『事情も知らずに』なんて… 麻理さんを甘く見てたとしか言いようがない。
73	春希	Haruki	「なん、で…」
74	麻理	Mari	「あの記事が世に出てから、北原来なくなったからさ… もしかして、昔を思い出して 落ち込んでるんじゃないかって思って」
75	春希	Haruki	「………」	"........."
76			いや、本当の事情を知るはずがない。 そんな深くまで喋った記憶なんかない。
77	麻理	Mari	「…そこで笑い飛ばしてくれたら 私も安心できたんだがな」
78	春希	Haruki	「すいません…」
79			それはただ、純粋に麻理さんの洞察力の賜物であり。
80			そしてそれは、俺をそこまで心配してくれているという 動かぬ証拠でもあった。
81	麻理	Mari	「北原って結構ナイーブだよな。 傷つきやすくて、自分で自分を責めてばかりで」
82	春希	Haruki	「そう…でしょうか？」
83	麻理	Mari	「そうだよ。それに辛いことがあると、 仕事や勉強に逃げようとするから、 すぐにそういうのわかるし」
84			本当に、俺のこと見ててくれるんだな、この人。
85			それでも…
86	春希	Haruki	「傷ついてるからって理由で、 俺が被害者だって言うのは、違うと思います」
87	麻理	Mari	「ん？」
88	春希	Haruki	「だって… 相手につけた傷の深さに比べたら、 俺のかすり傷なんて、笑ってしまうくらいの軽さで」
89	麻理	Mari	「………」	"........."
90			それでもやっぱり、 自分の部下に対する贔屓目が抜けてないのは、 好ましくて、そして間違ってる。
91	春希	Haruki	「そんな俺が、こうして麻理さんに慰めてもらうなんて、 おこがましいにも程があると思うんですよ」
92	麻理	Mari	「だから余計落ち込むのか？ 誰も、自分を叱ってくれないから。 …叱った後、許してくれないから」
93	春希	Haruki	「………」	"........."
94			麻理さんの指摘は、 俺が昨日まで考えてたこととほとんど一緒だった。
95	麻理	Mari	「じゃあ…私はお前を責めないよ。 だから、許しもしない」
96	春希	Haruki	「え…」
97	麻理	Mari	「北原が話すだけ。それを私が聞くだけ。 誰もお前を許しはしないけど、 それでもお前は少しだけ楽になる」
98	春希	Haruki	「けど…俺一人が楽になったって…」
99	麻理	Mari	「自分が楽になれば、 相手に償おうって気も起きるんじゃないかな？」
100	春希	Haruki	「………」	"........."
101	麻理	Mari	「ま、話したくないなら別にいいけど。 完全にお前のプライベートだし、 私はバイト先の上司でしかないし」
102	春希	Haruki	「聞いて…くれるんですか？」
103	麻理	Mari	「あ…」
104	春希	Haruki	「麻理さん…？」
105	麻理	Mari	「………聞くよ。 そして何もアドバイスはしない」
106	春希	Haruki	「ありがとう…ございます」
107	麻理	Mari	「それで？」
108	春希	Haruki	「俺、冬馬かずさのこと、今でも好きだったんです」
109	麻理	Mari	「そ、そうか…」
110	春希	Haruki	「まだ、忘れてなかったんです」
111	麻理	Mari	「ま、まぁ…そんな感じはしてたよな」
112	春希	Haruki	「そのせいで、傷つけてしまった相手がいるんです」
113	麻理	Mari	「っ…」
114			呆れるくらい赤裸々に喋ってしまった。
115			俺が最初にユニットに引き入れたのは、 こともあろうにミス峰城付属の女の子だったこと。
116			その人気と注目度の高さとは裏腹に、 ありえないほど気さくな彼女と、 あっという間に馴染んでいったこと。
117			学園祭のステージが終わった夜… 俺が気持ちを確かめ合ったのは、 かずさじゃなく、彼女だったこと。
118			その頃、周囲に公認だったのは、 かずさと俺じゃなく、彼女と俺だったことも。
119			かずさとのことで彼女を裏切り、 それからも、ずっと沢山のことを抱え、 お互い引きずったままだってこと。
120			そして、クリスマスの夜…
121			かずさとのことで、また彼女を裏切り、 お互いがまだ引きずっているって再認識してしまったこと。
122	麻理	Mari	「………」	"........."
123			麻理さんは公約通り、ただ黙って聞いてくれた。
124			時々、俺の話の時系列が飛んでしまった時に、 ほんの少し補足を挟む以外は、 本当に俺の喋るままにしてくれた。
125			だから俺は最後まで、 本当に、肝心なところまで喋って…
126	春希	Haruki	「…すいません」
127	麻理	Mari	「なんで謝るんだ？ 私は“聞く”って言ったぞ？」
128	春希	Haruki	「それでも、話し過ぎたかなって。 酒の席でもないのに。 それどころか、面と向かってもいないのに…」
129	麻理	Mari	「面と向かってないからこそ話せたんだろ？ これだと、相手の反応が見えないもんな」
130	春希	Haruki	「そう…なんでしょうか」
131	麻理	Mari	「それに、しばらく顔合わせないからこそ話せたんだろ？ 次に顔を合わせるときは、 もうお互い忘れてるかもしれないもんな」
132	春希	Haruki	「かも、しれませんね」
133			次に会ったときだって、 きっとお互い覚えてるってのはわかってる。
134			それでも、時間さえ経っていれば、 忘れた“ふりをする”のがそれだけ簡単になる。
135			そこまで配慮して、 わざと電話越しに話を聞いてくれた。 …ってのは、さすがに考えすぎだろうか。
136	麻理	Mari	「にしても、若いな北原は。 たまにこういう青い話を聞くとほっとする」
137	春希	Haruki	「俺…普段、そんなに年寄り臭いですか？」
138	麻理	Mari	「ま、悪い意味じゃないよ。 落ち着きすぎてるって言うか、 理屈っぽいって言うか、醒めてるって言うか」
139	春希	Haruki	「悪い意味じゃないんですかそれ全部…」
140	麻理	Mari	「あのさ… 最初に約束した通り、私は責めも許しもしない」
141	春希	Haruki	「はい…」
142	麻理	Mari	「だから、北原の話を聞きながら、 私ならどうするかって考えてたんだけど…」
143	春希	Haruki	「麻理さんなら…どうしますか？」
144	麻理	Mari	「正直、わからないよ」
145	春希	Haruki	「………」	"........."
146	麻理	Mari	「お前が選んだ選択が… お前のしたことが正しいのか、 私にはわからなかった」
147	春希	Haruki	「そう、ですか…」
148	麻理	Mari	「『そうか、大変だな』とも言えないし、 『私にもわかるよ』とも言えない」
149	春希	Haruki	「麻理さん…」
150	麻理	Mari	「だからやっぱり『お前は間違ってる』とも言えない。 …いや、まぁ、元から言わない約束だけどな、それは」
151	春希	Haruki	「はい…」
152	麻理	Mari	「すまないな… 私、どうやら本当の役立たずみたいだ。 こういう話は…」
153	春希	Haruki	「ありがとうございます。 それで十分です」
154	麻理	Mari	「なんでだ？ 私、フォローも何もしてないぞ？」
155	春希	Haruki	「俺…自分だけが間違ってるんじゃないかって… 自分だけが、何もわかってないんじゃないかって、 そう思ってたんです」
156	麻理	Mari	「え…」
157	春希	Haruki	「けど、そんな訳でもないんだって… あ、やっぱり俺だけ少し救われたみたいだ。 よくないな、これって」
158	麻理	Mari	「北原…」
159	麻理	Mari	「さてと… ＰＤＣＡのＣのフェーズはこのくらいかな？」
160	春希	Haruki	「ＰＤＣＡって…」
161	麻理	Mari	「あとは自分の力でＡのフェーズに移行しろ。 …北原なら、できるよな？」
162			ＰＬＡＮ（計画）、ＤＯ（実行）、 ＣＨＥＣＫ（点検）、ＡＣＴ（改善）…
163			元々は製造業の管理サイクルだけど、 今は一般的な仕事の進め方についても適用される手法。
164			…バイトを始めて一週間で、 徹底的に叩き込まれたっけ。
165	麻理	Mari	「それじゃ、そろそろ行く。 …私が日本に戻ったら、 また大量の仕事を回してやるからな」
166			半分くらいは照れ隠しだと思うけど、 それでも残り半分には、真理が含まれてた。
167			改善、しろって。 頑張れって…
168	麻理	Mari	「じゃあ…行ってきます」
169	春希	Haruki	「ありがとう…麻理さん」
170	麻理	Mari	「ありがとうございます…だ」
171			そして、多分これはほとんどが照れ隠し。
172	春希	Haruki	「ありがとう…ございます」
173			それでも俺にとって、 そのことを看破したからと言って、 彼女の指示に従わない選択肢はなかった。
174			………	.........
175	麻理	Mari	「さてと…」
176	麻理	Mari	「あ～あ、置いてかれちゃった… ニューヨーク行きってまだあるのかな？　今日」

Script Chart

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