White Album 2/Script/3005

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	Speaker		Text		Comment
Line #	JP	EN	JP	EN
1	雪菜	Setsuna	「あ！　ここだよね… かずさがコンサートを開く会場って」
2	春希	Haruki	「ああ…そうだな」
3	武也	Takeya	「………」	"........."
4	雪菜	Setsuna	「すっごいよねぇ…何千人入るんだろ？ いきなりこんな大きなところなんて、 ほんと、雲の上の人になっちゃったねぇ」
5	春希	Haruki	「そう、だな」
6	依緒	Io	「………」	"........."
7			かずさの日本公演が決まった。 １月２７日に、ここ御宿芸術文化ホールで。
8			そして昨日、予定を上回る人気を受けて、 一月後の追加公演まで決まってしまった。
9	雪菜	Setsuna	「この前、授賞式のときのニュース見たけど、 すっごく綺麗になってたよねぇ、かずさ」
10	春希	Haruki	「そうか？ そんなに変わってないような気がしたけど」
11	雪菜	Setsuna	「そりゃ、昔から綺麗だったもん。 でも今は、綺麗さに凄みが増してきたって感じ。 わたしたち、本当に彼女と友達だったのかなぁ…」
12	春希	Haruki	「………」	"........."
13			つい数日前、そんな特ダネを知ってから、 雪菜はずっとテンションが高いままだった。
14			今日だって、こうして二年参りに行く道すがら、 ずっとその話で持ち切りだった。
15			同級生の華々しい活躍に。 部活仲間の晴れ舞台に。
16			…親友の、実に五年ぶりの帰国に。
17	武也	Takeya	「おい、春希！」
18	春希	Haruki	「え？」
19	依緒	Io	「行くなよ？ 絶対に行くんじゃないぞ？　コンサート」
20	春希	Haruki	「さっきから何度確かめれば気が済むんだよ… 行く予定なんかないって言ってるだろ」
21			そして、残り二人の反応はこれまた独特で、 あまりにも雪菜とは対照的だった。
22			はしゃぐ雪菜と距離を置き、 やっぱり何度も同じことを小声で囁く。
23	武也	Takeya	「雪菜ちゃん、無理してるだけなんだからな？ 本心は違うんだからな？　きっと」
24	依緒	Io	「雪菜が行きたいって言ったからって、 馬鹿正直にチケット取ったりするなよ？」
25			しかも左右の耳に多重音声で。
26	春希	Haruki	「手に入れようにも瞬殺だっただろ…」
27			昨日開始したネットでのチケット先行販売。
28			二千枚はあったはずの入場券は、 １０時の受付開始から三十分も保たずに完売した。
29			その間、申し込みサイトにはアクセスが集中し、 一度もページに繋がらずに買えなかった人が続出。 ネットオークションで１０倍以上の価格がついていた。
30	武也	Takeya	「でもお前、ツテがあるだろ？ お前の会社、コンサートに協賛してるしな」
31	春希	Haruki	「…よく知ってるなお前」
32			そう、そんなプレミアコンサートに、 我が開桜社は協賛スポンサーとして名を連ねていた。
33			もともと、冬馬曜子と開桜社…というか、 アンサンブルの編集長の繋がりは深く、 彼女関連のイベントにはほぼ全て関わっていた。
34			だから、またウチの編集部にも１～２枚おこぼれがあり、 普段クラシックなんか聴かない人々の間で 壮絶な争奪戦が繰り広げられることになるだろう。
35			けど俺が、その戦いに参加することは…
36	依緒	Io	「それと…コンサートに行かないだけじゃないぞ？」
37	武也	Takeya	「絶対に、二人きりで会うなよ？　冬馬と」
38	依緒	Io	「もし向こうから連絡があっても無視するんだぞ？」
39	武也	Takeya	「そりゃ、冬馬には残酷かもしれないけど… けど、それがお前たち三人のためなんだからな？」
40			相変わらずのステレオ放送が交互に俺を責め立てる。
41	春希	Haruki	「…そんな機会なんかある訳ないだろ？ お前ら冬馬かずさをなんだと思ってるんだ？」
42	依緒	Io	「峰城大付属学園同窓生」
43	武也	Takeya	「軽音学同好会ＯＢ」
44	春希	Haruki	「今、日本で一番人気のあるピアニストだぞ？ まるでアイドル扱いだ…」
45			確かに、実力に対しての評価もあるだろうけど、 今の国内での騒がれ方は、 明らかにそれだけじゃなかった。
46			『冬馬曜子の娘』 『美人ピアニスト』 『海外で成功したジャパニーズドリームの体現者』
47			そんな、かつて一世を風靡したアーティストのように… というか、ほぼそのままの扱いをされていた。
48	春希	Haruki	「たとえ来日したところで、 あちこち引っ張り回されて大忙しで、 プライベートな時間なんてあるわけが…」
49	依緒	Io	「彼女の事情なんかどうでもいいよ。 …春希はどうなのさ？」
50	春希	Haruki	「………会おうなんて思わないよ。 今さらそんなつもりはない」
51	武也	Takeya	「…信じていいんだな？」
52	雪菜	Setsuna	「みんな～！ 早く早く～！ そろそろ年が明けちゃうよ～？」
53	春希	Haruki	「…当たり前だ」
54			ため息混じりに答えながら、 ホールの階段から大きく手を振る雪菜に、 軽く手を振り返す。
55			２０１３年まで、あと５分を切っていた。
56			………	.........
57	雪菜	Setsuna	「コンサート行きたいね！ 行けるといいね」
58	春希	Haruki	「今月の東京公演はもう完売だよ… 追加公演のチケットは今月末発売だって」
59	雪菜	Setsuna	「そっかぁ…次こそ頑張って取らないとね！ ちゃんと発売日とか調べておかないと」
60			年が明けても、二年参りを終わらせても、 武也たちと別れて、南末次まで戻ってきても、 まだ雪菜のテンションは高いままだった。
61	武也	Takeya	『雪菜ちゃん、無理してるだけなんだからな？』
62			その、明らかにはしゃぎ過ぎってわかる態度が、 武也の言ったあの台詞の信憑性を上げてるみたいで、 なんとなく、背筋がむずむずした。
63	雪菜	Setsuna	「だいたいさぁ、告知が急すぎるんだよ。 来日が決まった二日後にはチケット販売なんて、 かなり前に決まってたとしか思えないよね」
64	春希	Haruki	「決まってた…んだろうな」
65			発表からわずか二日後のチケット販売という、 あまりにも取り回しの早いスケジュールは、 世間に様々な憶測を飛び交わせた。
66			ジェバンニ国際コンクール入賞という旬を逃さないよう、 大手広告代理店が強引に押し込んだとか。
67			日本公演はとっくの昔に決まっていたけれど、 世間を煽るためわざと発表を遅らせてたとか。
68			ギャラの取り分に関して[R冬馬曜子^ははおや]がゴネて、 ずっと発表できずにいたとか…
69	春希	Haruki	「………」	"........."
70			でも、そんな様々な憶測よりも、 俺は正確な情報を掴んでいたはずなのに。
71			一番信頼できる[Rソース^ほんにん]が 『行かない』って言ったのに。
72			だから俺は、あのストラスブールでの再会を、 何度も、これが最後だと言い聞かせたのに。
73			かずさだって、『もう終わりだ』って。 『日本へは行かない』って。 『これだけは確かだ』って…
74			なのに、どうして… たった二日で、自分の言ったことをひるがえして…
75	雪菜	Setsuna	「…春希くん？」
76	春希	Haruki	「なんでもない。 さ、帰ろうか」
77	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
78			雪菜の手を取って歩き出す。 …俺のマンションへと続く道を。
79			余計なことなんか考えなくていい。 今は、雪菜と過ごす正月のことだけを思い浮かべよう。
80			ギリギリ『泊まった』と言われない程度の時間だけ、 雪菜と、俺の部屋で過ごし。
81			朝方には、一緒に小木曽家にお邪魔して、 お母さんと雪菜の作ったおせちをご馳走になり。
82			お父さんに微妙な表情されながら、 まるで家族の一員みたいにのんびりくつろぎ。
83			昼過ぎから家族の初詣に付き合い、 今年に入って二度目のお参りをして。
84			一日は一応そこで失礼するけれど、 二日の早朝には、すぐに雪菜が俺の部屋に来て。
85			昨日の残りのおせちを二人きりで食べ、 肩を並べて暇そうにテレビを見て。
86			福袋を買いに行こうか、遊びに行こうかとか相談して、 けれどなんとなく動くのが億劫で、 ずっと俺の部屋でくっついたまま過ごす。
87			そんな、怠惰で、変化に乏しくて… そして、心から安らげる時間を、雪菜と一緒に…
88			他のことなんか、何も考えずに、ただ…
89	雪菜	Setsuna	「ね、春希くん」
90	春希	Haruki	「ん？」
91	雪菜	Setsuna	「かずさに…会いたい？」
92	春希	Haruki	「………いや、別に」
93			他のことなんか、何も考えたくなかったのに。
94			いつの間にか神妙な態度に戻っていた雪菜が、 気づかわしげに俺の顔を覗き込む。
95	雪菜	Setsuna	「五年ぶりだよ？ 日本に、帰ってくるんだよ？」
96	春希	Haruki	「だから俺には…」
97	雪菜	Setsuna	「………“あの時”以来なんだよ？」
98	春希	Haruki	「やめろよ、雪菜… どうしてそんなこと言うんだ」
99	雪菜	Setsuna	「ごめんなさい…」
100	春希	Haruki	「いや…謝ることなんかない。 俺のほうこそ、変な言い方してごめん」
101	雪菜	Setsuna	「春希くん…」
102	春希	Haruki	「けどさ雪菜、今日はなんだか変だぞ。 妙にはしゃぎすぎてる」
103	雪菜	Setsuna	「うん、はしゃぎすぎてるよ。 …だって、春希くんが沈みすぎてるから」
104	春希	Haruki	「………っ」
105			全然、気づかなかった。
106			あいつらが俺にばかり釘を刺すのも、 雪菜に対して何も言わなかったのも。
107			…客観的に見れば、 俺の方がよっぽどおかしかったから、なのか？
108	雪菜	Setsuna	「だから、その理由を聞きたくて… けれど、なんとなく聞きたくなくて、 色々と、ぎこちなくなってるの」
109			雪菜が意識してたのは、 かずさのことじゃなかった。
110			かずさのことを意識しすぎてる、俺のこと…
111	雪菜	Setsuna	「ね、春希くん… かずさ、日本に来るんだよ？ わたしたちのすぐ近くまで、戻ってくるんだよ？」
112	春希	Haruki	「すぐにまたウィーンに帰る。 今の冬馬にとっては、向こうが故郷なんだ」
113			意識的に“冬馬”って言い繕ってしまうくらい、 かずさのことを意識している、俺の…
114	雪菜	Setsuna	「わたし、かずさに会わないでなんて言わない… そんなこと、神様にお願いなんかしてないよ」
115	春希	Haruki	「雪菜…」
116	雪菜	Setsuna	「ただ、春希くんのままでいてくれたらそれでいい。 今の、あなたのままで」
117			雪菜がはしゃいでたのは、不安だったから。 俺の不安が伝染してしまったから。
118			俺が、かずさのことを意識しすぎてるから。 あまりにも気にしすぎていたから。
119			あいつのせいで… あいつのちょっとした気まぐれのせいで。
120			だから、安心させないと。 雪菜の不安を取り除いてあげないと。
121			俺は…
122			１．かずさとは二度と会わない		Choice
123			２．かずさと会った		Choice
124	春希	Haruki	「それでもやっぱり、 冬馬にはもう二度と会わない」
125	雪菜	Setsuna	「春希くん…」
126	春希	Haruki	「そんなことより俺、雪菜との時間を大切にしたい。 …あいつに会ってる暇なんかないよ」
127	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
128			それは、全然答えになっていない答えだった。 お互い、そんなことはわかってた。
129	春希	Haruki	「それにさ…せっかく会いに行ったのに 『あんた誰？』って言われたら、 やっぱり少しはショックだろ？」
130	雪菜	Setsuna	「絶対に言わないよ… かずさは絶対に忘れてない」
131			だから雪菜の不安は、完全には払拭されない。 どれだけ俺が雪菜だけだと言い張っても、 心の底から理解を示してはくれない。
132			そんなの当たり前だ… だって雪菜は、俺のその場限りの嘘に 心奪われるような、そんな愚かな女じゃない。
133	春希	Haruki	「とにかく、俺は会いに行かない。 多分、コンサートも見に行かない。 …行きたくないんだよ、雪菜」
134	雪菜	Setsuna	「そう…残念」
135			それは、ただの問題の先送り。 目の前の現実からの逃避。 決断をしないことによるかりそめの安寧。
136	春希	Haruki	「とにかく、もうこの話は終わり。 帰ろう、雪菜。 “俺たちの”部屋へ」
137	雪菜	Setsuna	「………うん」
138			握っていた手を離すと、 改めて、肩をぎゅっと抱きしめる。
139			こうすることで、 雪菜の匂いを、柔らかさを、温かさを、 ゆっくりと全身に行き渡らせる。
140			俺の意識を、雪菜だけで埋め尽くす。
141	春希	Haruki	「今年も、よろしくな」
142	雪菜	Setsuna	「うん…あけまして、おめでとう」
143			『わたし、かずさに会わないでなんて言わない…』
144			『ただ、春希くんのままでいてくれたらそれでいい。 今の、あなたのままで』
145			簡単に言わないでくれよ、雪菜。
146			できるわけないだろ、そんなこと…
147			俺、は…
148	春希	Haruki	「………っ」
149			雪菜を元気づけるって… 何を思い上がったこと言ってるんだ。
150			また、雪菜を裏切ってたくせに。 一番大事なことを、黙っていたくせに。
151	春希	Haruki	「違うんだよ、雪菜…」
152	雪菜	Setsuna	「何、が？」
153			最初から正直に話しておけば、 俺が、理由のはっきりした不安に駆られることも、 雪菜が正体のわからない不安に駆られることもなかった。
154	春希	Haruki	「あいつと会うことが問題じゃないんだ」
155			けれど、もう遅い。 一週間も遅い。
156	春希	Haruki	「あいつと“会った”ことが問題だったんだ」
157	雪菜	Setsuna	「………え」
158			再会は、とっくに果たされていた。
159			その事実を今まで雪菜に黙っていたことが、 何よりの俺の罪にして、十字架だった。
160	雪菜	Setsuna	「いつ…？ どこで…？」
161	春希	Haruki	「…ストラスブール」
162	雪菜	Setsuna	「っ…」
163			それだけで、雪菜は全てを理解したみたいだった。
164			そこからは…
165			懺悔をする人間がやたら饒舌になる典型みたいに、 俺は、この一週間の罪を告白した。
166			突然割り込んできた２５日の取材内容が、 日本で話題沸騰中の若手ピアニストの 独占インタビューだったこと。
167			現地に来るまでは、相手がかずさだと知らなかったこと。
168			そしてかずさの方も、相手が俺だと知らなかったこと。
169			２５日の朝、雪菜と散歩して、朝食を摂って、 その足でかずさに会いに行ったこと。
170			雪菜が一人で街を歩いていた頃、 俺は、かずさと過ごしていたこと。
171			そして…
172			１．それだけ		Choice
173			２．かずさと再会したのは、イブの夜だったこと		Choice
174			告白したのは、そこまでだった。 そこまでで十分だった。
175	春希	Haruki	「ごめん、雪菜。 …本当にごめん」
176	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
177			だって雪菜は、十分過ぎるくらいショックを受けてる。 俺の裏切りに、衝撃を受けている。
178			もう、そこから先を話す必要はない。 話したところで、どのみち許されるべき話じゃない。
179			それに、あのときの出来事は、俺にとって…
180			１．話すほどのことじゃない		Choice
181			２．誰にも話したくない		Choice
182			『怪我をしていた旅行者』が、 誰あろうかずさだったこと。
183			一緒にミサに行けなかった原因が、 誰あろうかずさだったこと。
184			二年近く続いた一週間ルールを破った原因が、 誰あろうかずさだったこと。
185	春希	Haruki	「ごめん、雪菜。 …本当にごめん」
186	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
187			それは蛇足だったかもしれない。 意味のないネタばらしだったかもしれない。
188			俺たち二人の初めての海外旅行先で かずさと再会したと言う、ただそれだけで。
189			そのことを、現地で雪菜に話さずに、 俺とかずさだけの秘密にしてしまっただけで。
190			『だけ』なんて言えないくらい、 雪菜にとっては重苦しく、酷い裏切りだったのに…
191			それでも話した。 話さずには、いられなかった。
192			…それが誰のためなのか、 誰に何を伝えたかったのか、わからないまま。
193	雪菜	Setsuna	「そ………っか」
194			いつの間にか、俺たちの手は離れてた。
195			俺の部屋へと向かう歩みは止まり、 寒風の吹く道の真ん中で、無言で向かい合う。
196	雪菜	Setsuna	「あの時の『ごめん』って… そういうこと、だったんだね」
197	春希	Haruki	「ごめん…」
198			雪菜は聡明な女性だから、 今日の俺の態度の変化には気づいてた。
199			けれど、そればかりは、 今やっと気づいたみたいだった。
200	雪菜	Setsuna	「春希くん、ずっと悩んでたんだね。 わたしが傷つくと思って、言えずにいたんだね」
201			俺の態度の変化が… 本当は、あの日からとっくに始まってたってことは。
202	雪菜	Setsuna	「彼女、失格だね。 彼氏のこと、全部わかってるなんて思い上がって…」
203	春希	Haruki	「違う、雪菜は悪くない。 ただ、俺が…」
204	雪菜	Setsuna	「でもね、でも！」
205	春希	Haruki	「っ…」
206	雪菜	Setsuna	「わたしが悪いってわかってるんだけど、 春希くんが話せないのも当然だなぁって思うけれど…」
207			雪菜は、やっぱりまだテンションが高かった。
208	雪菜	Setsuna	「それでもやっぱり話して欲しかったなぁって。 …そう思っちゃう心を止められないよ」
209			…ただ、方向だけが１８０度変わってた。
210	雪菜	Setsuna	「わたしだってかずさに会いたかったのに。 久しぶりに、話をしたかったのに」
211			もしもあの時、かずさが側にいるって話したら、 雪菜は、本当に会いたがっただろう。
212	雪菜	Setsuna	「三人で会いたかったのに。 夜通し思い出を語り合いたかったのに」
213			かずさと再会したら、すごく感激したに違いない。 二度と離さない勢いで、泣いて、笑って…
214	雪菜	Setsuna	「でも、そんなふうに思ってたのは、 やっぱりわたしだけなのかな？」
215			そして俺は、そんな二人を見て、 微笑ましく思うと同時に、 激しい息苦しさとうしろめたさに苛まれ。
216	雪菜	Setsuna	「かずさは、わたしになんか会いたくないのかな？ 春希くんは、かずさと会ってるところを、 わたしに見られたくなんかないのかな」
217			そしてかずさは、雪菜と懐かしそうに語らい、 けれどどこか辛そうに時おり黙り込み。
218	雪菜	Setsuna	「ううん、そもそも… わたしだって、本当にそう思ってたのかな？」
219			そして雪菜は…
220			かずさと別れ、二人きりに戻ったとき、 深く傷ついていた自分に初めて気づき、 無意識の涙を流す。
221	雪菜	Setsuna	「…ごめん、考えが上手くまとまらない。 今、春希くんと笑って話せない」
222			…そう、今みたいに。
223			正解かどうかはわからないけれど、 それが、あの時俺が思い描いた三人の再会。
224	雪菜	Setsuna	「………今日は、帰るね」
225	春希	Haruki	「雪菜…」
226			だからあの時、雪菜に話せなかった。 いつ話したところでこうなるって思っていたから。
227	雪菜	Setsuna	「しばらく一人で考えたいの。 …考えがまとまったら連絡するから」
228			時間が経てば経つほど、長く隠せば隠すほど、 知られたときの傷が深くなるって知っていながら。
229	雪菜	Setsuna	「だから、その…」
230	春希	Haruki	「わかった、待ってる。 …雪菜が連絡くれるまで、 こっちからはしないから」
231	雪菜	Setsuna	「ごめんね…」
232	春希	Haruki	「それは俺の…いや、おやすみ」
233	雪菜	Setsuna	「おやすみ…」
234			雪菜が、踵を返す。
235			俺の部屋と反対方向… 駅への道を、戻っていく。
236	雪菜	Setsuna	「ね、春希くん！ 今年も、よろしくね…っ」
237			けれど、もう一度振り返り、 無理やり、笑顔を作ってみせた。
238	春希	Haruki	「ああ…こっちこそ」
239			なのに俺は、その泣きそうな笑顔に…
240			軽く手を振ることでしか、応えられなかった。

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