White Album 2/Script/3902

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1	春希	Haruki	「母娘で温泉旅行…？」
2	浜田	Hamada	「昨日ひょっこり帰ってきたんだとさ。 携帯も持たずに行き当たりばったりで、 周囲が騒ぎになってることも何処吹く風だったって」
3	春希	Haruki	「はぁ…」
4	浜田	Hamada	「けど実はな、 そんなことよりももっと深刻な問題があってだな」
5	春希	Haruki	「なんです？」
6	浜田	Hamada	「冬馬かずさが旅行先で階段から落ちて怪我したんだと。 右手に裂傷、左手に捻挫で、どっちも全治二週間」
7	春希	Haruki	「それは………大変ですね」
8			なるほど…そうまとめたか。
9	浜田	Hamada	「スポンサーは真っ青だよ… 勝手に遊びに行って勝手に怪我こさえて… さすがに弁護できないだろ」
10	春希	Haruki	「それは…まぁ」
11	浜田	Hamada	「こういうところはやっぱり冬馬曜子の娘だよなぁ。 そりゃ、週刊誌も色々書くわけだ」
12	春希	Haruki	「………」	"........."
13			昨夜、ようやく連絡がついた曜子さんは、 俺が今までのことを説明するよりも早く、 『全部任せておきなさい』とだけ言って電話を切った。
14			一体、俺たちのことを何処まで掴んでるのか… 本当に得体の知れない母親にしてプロモーターだ。
15	浜田	Hamada	「追加公演までには弾けるようにはなってるだろうけど、 完璧なコンディションを作れるかどうかは難しいな」
16	春希	Haruki	「…でしょうね。 完治しても、すぐに練習を再開できるかどうか」
17	浜田	Hamada	「ただでさえ先週の公演も微妙な評価だったのに、 踏んだり蹴ったりだな」
18	春希	Haruki	「…すいません」
19	浜田	Hamada	「お前が謝ることじゃないだろ。 別に彼女の怪我はお前のせいじゃないんだし」
20			俺のせいだ。
21	春希	Haruki	「でも、俺がちゃんと彼女に張りついていれば… 俺にはそれができたのに」
22			仕事と割り切れていれば。 かずさの側にいても、自分を保てていれば。
23			…かずさを、裏切りさえしなければ。
24	浜田	Hamada	「そう自分を責めるな。 仕方ないって。相手が相手だ」
25	春希	Haruki	「はい…」
26			そういう問題じゃない。 本質は、全然違うところにある。
27	浜田	Hamada	「というわけで、これまでの件は以上だ。 で、続いて今後の話になるんだが…」
28	春希	Haruki	「今後って…」
29	浜田	Hamada	「今回のトラブルは確かに残念だったけど、 ウチの企画がポシャった訳じゃない」
30	春希	Haruki	「………」	"........."
31	浜田	Hamada	「冬馬かずさ独占取材は、 一応、追加公演が終わるまでって契約になってる」
32			追加公演は、今月末。
33	浜田	Hamada	「で、先方は…というか冬馬曜子は、 引き続きお前が担当することを希望してる。 …問題ないよな？」
34	春希	Haruki	「浜田さん…」
35			あと一月は、事務所公認でかずさと一緒にいられる。
36			冬が、終わるまでは…
37	浜田	Hamada	「さすがにネタは残り少なくなってきたけど、 向こうがお前に求めてるのは、 それだけじゃないからな」
38			曜子さんが俺に一番求めてるのは、 多分、マネージャーとしての役目。
39			けれど、かずさが求めてるのは…
40	浜田	Hamada	「というわけで、通常業務に復帰しつつ、 今の特命業務も引き続き進めてくれ。以上だ」
41	春希	Haruki	「………わかりました」
42			どさくさに紛れて仕事を増やされてる気もしたけれど、 今は大人しく頷いておくしか選択肢はなかった。
43			なぜならその条件は、今の俺には… 今のあいつには、絶対に必要なものだったから。
44			………	.........
45	雪菜	Setsuna	「春希く～ん！ こっちこっち～！」
46	春希	Haruki	「あ…」
47			多くの人が行き交う駅前にもかかわらず、 俺の耳にまっすぐ届く、高く澄んだ声。
48			周囲の雑踏にかき消されたりしないのは、 声の大きさだけじゃなく、声の出し方だけじゃなく、 多分、気持ちのこもった声だから。
49	雪菜	Setsuna	「今週も、お疲れさまでした～」
50	春希	Haruki	「…悪い、待たせた」
51	雪菜	Setsuna	「ううん全然。 待つ時間がちっともつまらなくないから」
52	春希	Haruki	「雪菜…」
53			そう、気持ちがこもってた。
54			俺を見つけて大きく手を振る雪菜は。 俺が近づくのをまっすぐ見つめる雪菜は。
55			…俺に、信じ切った笑顔を向ける雪菜は。
56	雪菜	Setsuna	「ね、お買い物どうしてこうか？」
57	春希	Haruki	「あ、うん…」
58	雪菜	Setsuna	「家の近くのスーパーだと閉店ギリギリだし… こっちで買ってから帰ろうか？ ちょっと荷物が重くなるけど」
59			大阪で再会してから一週間…
60			今日は、あの夜以来の、 東京では一月ぶりの“一週間ルール”を果たす日。
61			心躍るはずの、逢瀬…
62	春希	Haruki	「あのさ…今日はどっか食べに行かないか？」
63	雪菜	Setsuna	「え？　どうして？」
64	春希	Haruki	「ええと… 実は俺、昼間抜いちゃったからもう腹ペコで」
65	雪菜	Setsuna	「今日は久しぶりに腕を振るうつもりで、 朝から気合入れてきたんだけどな…」
66	春希	Haruki	「そりゃ、すごく楽しみではあるけどさ…」
67	雪菜	Setsuna	「すぐに作るから。 さっさと買い物して、さっさと帰ろ？」
68			『帰ろ』…か。
69			俺の部屋。 雪菜が週末を過ごすべき場所。
70			けれど、今の俺の部屋は。 その隣は…
71	春希	Haruki	「今日はおごるからさ…軽く飲んでかないか？ すぐ近くにワインの美味い店があるって 先輩に教えてもらったんだ」
72	雪菜	Setsuna	「おごるなんて言ってたら余計に駄目だよ。 わたしたち、そろそろお金貯めないと。 だって…」
73	春希	Haruki	「あ…」
74			その雪菜の介入は、今の俺たちにとっては、 何の違和感もあり得ない、 理に適い過ぎた行為だった。
75			だって…
76			そんなお節介な言葉とともに 少し頬を染める雪菜の左薬指の輝きは、 今は、ちょっとだけ高級感を増している。
77	雪菜	Setsuna	「…そういうの、嫌かな？ ちょっと退いちゃった？」
78	春希	Haruki	「え？　いや、そんなことないけど」
79			一瞬だけ、言葉に詰まった俺を、 雪菜はふと寂しそうに見つめた。
80	雪菜	Setsuna	「でも別にそういうつもりじゃ… あ、ええと、そういうつもりっていうのが どういうつもりかっていうのは…」
81	春希	Haruki	「なに難しいこと言おうとしてるんだよ。 別に嫌とか退くとかあるわけないだろ」
82			…ように見えたのも、 本当は、俺の考えすぎなのかもしれないけど。
83	春希	Haruki	「ただ、ほっとしただけだよ。 …あまりにも、いつも通りの雪菜だったから」
84			でも、フォローせずにはいられなかった。
85	雪菜	Setsuna	「いつも通り…だったかな？」
86	春希	Haruki	「ああ、いつも通りだ。 ケチケチしてて、所帯じみてて、生活感たっぷりな、 いつもの雪菜だよ」
87			義務感でも責任感でもなく、 ただ、そうしたかったから。
88	雪菜	Setsuna	「そ、そんなにぬかみそ臭くはないと思うんだけど？」
89	春希	Haruki	「ぬかみそのなにが悪いんだ？ 家庭的で、実に雪菜っぽくていいじゃん」
90	雪菜	Setsuna	「だ、だからぁ！ なんかさっきから悪意があるよ春希くん～！」
91	春希	Haruki	「ほらほら、さっさとスーパー行くぞ？ さっきから俺、ハラペコだって言ってるだろ？」
92	雪菜	Setsuna	「も、もう！ わたしの名誉回復してからにしてよ～！」
93			本当に、好きなんだ。
94			ケチケチしてる雪菜が。 所帯じみてる雪菜が。 生活臭漂う雪菜が。
95			家庭的で、こんな俺をもほっとさせてくれる雪菜が、 心から、愛おしいんだ。
96			だからこそ、 雪菜とこうして穏やかな時間を過ごすのが…
97	春希	Haruki	「あ、ちょっとその前に… 上司に報告し忘れたことがあった」
98	雪菜	Setsuna	「もう、完全に誤魔化しモードに入ってるし～」
99			雪菜を半歩置き去りにして、 携帯を耳に当てる。
100			呼び出し先の名前に、 『坂本純生』という名を表示させながら…
101	携帯アナウンス	Cellphone Voicemail	「留守番電話サービスに接続します。 合図の後にメッセージをお願いします」
102	春希	Haruki	「あ、北原です。先ほど吉浜エンジニアリングの 木村さんからメールがありまして、月曜の打ち合わせの件、 午後４時からでお願いしますとのことでした」
103	春希	Haruki	「メールも転送してありますので確認してください。 それじゃ、失礼します」
104	春希	Haruki	「で、なんの話だっけ？」
105	雪菜	Setsuna	「…もういい。 さっさと買い物してさっさとご飯食べよ！」
106	春希	Haruki	「あ、待てよ雪菜。 俺、今日はイタリアンの気分なんだよね」
107	雪菜	Setsuna	「わかった。なら寄せ鍋ね。 白菜にしいたけに…お魚は鱈にしよっか？」
108	春希	Haruki	「…そういう地味な復讐はやめような？」
109			………	.........
110			『…午後４時からでお願いしますとのことでした。 メールも転送してありますので確認してください。 それじゃ、失礼します』
111	携帯アナウンス	Cellphone Voicemail	「メッセージは、以上です」
112	かずさ	Kazusa	「４って…なんだっけ？」
113	かずさ	Kazusa	「………そっか。 雪菜、来るんだ」
114			………	.........
115			……	......
116			…	...
117	雪菜	Setsuna	「ふぅ、洗い物終わりっと」
118	春希	Haruki	「お疲れさま」
119	雪菜	Setsuna	「はい、疲れました～…よっと」
120	春希	Haruki	「っ…」
121			キッチンからとたとたと戻ってくると、 雪菜はわざわざ俺の向かいじゃなく隣に座り、 ゆっくりと身体をもたれさせてきた。
122			スーツを脱ぎ、楽な格好に着替え、 いつもの…お泊まりモードの雪菜になっていた。
123	雪菜	Setsuna	「春希くんも、一週間お疲れさま。 今週は色々あって大変だったでしょ？」
124	春希	Haruki	「いや、そんなこと…別に」
125			そりゃ、大変だったさ。
126			あまりにも色々ありすぎて、 しかもその一つ一つのことがあり得なさすぎて、 一言も雪菜に話せないくらい大変なことだらけだったんだ。
127	雪菜	Setsuna	「遠慮しなくてもいいよ。 心にも体にも溜まったもの全部吐き出していいよ？ …何でも受け止めるよ？」
128	春希	Haruki	「雪菜…」
129			言いながら雪菜が、ぴったりと身体を寄せてくる。
130			それは、俺たちの間なら通じないはずのない、 あからさまなサイン。
131			この後、俺は雪菜の肩を優しく、けれど強く抱きしめ、 雪菜はうっとりと俺を見上げ、目を閉じて…
132	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
133			なんて、三秒前の予想を簡単に正解にしてしまう。 俺を、求めてくれる。
134	春希	Haruki	「…雪菜」
135			雪菜の温かさが俺に染みてくる。 いつもの、俺の大好きな匂いが鼻をくすぐる。
136			そんな、心が踊りつつ穏やかなはずの時間が… けれど今の俺には、とてつもなく怖い。
137			自分の気持ちが外に漏れ出ていないかって。 雪菜に、伝わってしまわないかって。
138	雪菜	Setsuna	「春希く………んっ」
139	春希	Haruki	「ん…」
140			けれど結局、 何も、変わることはなかった。
141	雪菜	Setsuna	「ん、んぅ…ちゅ…は、あむ…」
142			あの夜の過ちを経ていながらも… 俺はまた、逆方向の過ちへと、揺り戻る。
143	春希	Haruki	「せつ、な…は、あ、あぁ…」
144	雪菜	Setsuna	「ふ、んむ…ん、ちゅぷ…は、あ、んむ」
145			多分俺はここでキスを続けたまま、 雪菜の服をたくし上げ、軽く愛撫する。
146			唇を繋げたまま抱きかかえ、 ベッドまで運び、仰向けに寝かせる。
147			服を脱いで、脱がせて、 優しく、激しく交わり…
148			果てた後、しばらく余韻を楽しんだら、 二人一緒に風呂に入る。
149	雪菜	Setsuna	「ふ、ん、んぅっ…ちゅぅぅ…は、ぁ… あ、あむぅ…ちゅ、ん、んぅ…」
150			けれど、今の俺は…
151			今まで愛情を込めて正しく営んできたその行為を、 とても罪深い所業へと変えてしまった俺は…
152	雪菜	Setsuna	「春希くん…もう…」
153	春希	Haruki	「ん…雪菜」
154			………唇を繋げたまま抱きかかえ、 ベッドまで運び、仰向けに寝かせる。
155			………	.........
156			その罪深き所業を咎める人も、 傷つく人も、ここにはいないから。
157			隣の部屋に、かずさはいないから。 今夜一晩、帰ってこないから。
158	雪菜	Setsuna	「んっ…や、はぁ…あぁぁ…」
159			俺が、そうしてくれと頼んだ。 …さっきの留守電で。
160			メッセージの中に、一つだけ数字を入れておき、 あらかじめ渡しておいた表と照らし合わせることで、 俺の本当のメッセージを伝えてる。
161			０は、『もうすぐ帰る』 １は、『遅くなる』 ２は、『今日は帰れない』
162	雪菜	Setsuna	「はぁぁんっ、んっ、ん、く…ぁぁ… はぁっ、はぁっ…あ、あぁ…い、いい…そこ、ぉ」
163			そして４は………『一晩部屋を空けてくれ』。 最低の最低を上塗りするときの、キーワード。
164			かずさは今、隣の部屋にいない。 だから雪菜がどれだけ大きな声を上げても、 何度も達しても、何の問題もない。
165			何の、問題もないんだ。 だってあいつが… かずさが、認めてしまったんだから。
166	雪菜	Setsuna	「あ、あ、あ…は、春希く…んあぁぁぁぁぁっ！」
167			俺が、今まで通り、雪菜と週末を過ごすことを。
168			雪菜を、抱くことを。
169	春希	Haruki	「何…言ってんだ」
170	かずさ	Kazusa	「仲直り、したんだろ？ だったら、会わない方が不自然じゃないか」
171	春希	Haruki	「かずさ…？」
172	かずさ	Kazusa	「週末には、必ず会ってるんだろ？ 土曜は、朝からずっと一緒なんだろ？ 金曜の夜は………泊めるんだろ？」
173	春希	Haruki	「それは…」
174	かずさ	Kazusa	「だったら、これからも同じだよ。 何一つ変わらない、いつもの日常だ」
175	春希	Haruki	「変わらない…って」
176	かずさ	Kazusa	「毎日、雪菜と電話して、メールして、 週末はずっと一緒にいて、 そして…そういう雰囲気になったらさ…」
177	春希	Haruki	「やめろよ。 そんなの、許されるわけ…」
178	かずさ	Kazusa	「許されないのは、こっちだ。 間違ってるのは、あたしだ」
179	春希	Haruki	「………」	"........."
180	かずさ	Kazusa	「そうしないと雪菜は怪しむし、悲しむ。 いいことなんか、一つもない」
181	春希	Haruki	「そんな、こと」
182	かずさ	Kazusa	「それに、お前たちが愛し合うのは正しいことだ。 …あたしとするのとは違って、いいことなんだ」
183	春希	Haruki	「そんなの、いいも悪いもない…」
184	かずさ	Kazusa	「それが、みんなにとって一番幸せなんだ。 本当はわかってるんだろ、春希？」
185	春希	Haruki	「けど俺、今は… 今は、お前の、 お前だけの…」
186	かずさ	Kazusa	「それは、あたしと二人きりの時だけでいいよ… それですら、とんでもないワガママなんだから」
187	春希	Haruki	「かずさ…お前」
188	かずさ	Kazusa	「お前みたいな真面目な奴には辛いかもしんないけどさ… それでも、あたしのために耐えてくれ。 …壊したくないんだ、春希も、雪菜もさ」
189	春希	Haruki	「お前は…っ」
190	かずさ	Kazusa	「できる、よな？」
191	春希	Haruki	「………」	"........."
192	かずさ	Kazusa	「頼むよ、春希。 お願いだ」
193	春希	Haruki	「………任せとけ、よ」
194	かずさ	Kazusa	「…うん」
195	春希	Haruki	「俺、俺、さ… 昔より、嘘、上手くなったんだ… だから絶対にバレたりしない」
196	かずさ	Kazusa	「そいつは………頼もしいな」
197	雪菜	Setsuna	「は…あ………っ、 ああああああああっ、あぁぁんっ、んぅぅっ…」
198	春希	Haruki	「………っ」
199			だから俺は… 雪菜の奥深くに、潜り込む。
200	雪菜	Setsuna	「やぁぁっ、はぁっ、あ、ああ…っ、 ご、ごめんなさい…また声、おっきく…」
201	春希	Haruki	「大丈夫… 誰にも、聞こえやしない」
202	雪菜	Setsuna	「うん、そうだね。 そうだったね…」
203	春希	Haruki	「だから、さ… 動いて、いいか？」
204	雪菜	Setsuna	「うん、ん、んぅ… いいよ…もっと。 この前みたいに、していいんだよ…？」
205	春希	Haruki	「雪菜…雪菜、ぁ…っ」
206	雪菜	Setsuna	「あああああ～っ！ はぁっ、あ、あんっ、ん、んぅ… んんんんん～っ、んぷ…あ、んむ…ちゅ…は、ぁぁ」
207			自らの罪を誤魔化すために、 雪菜の強さを信じて、甘え、依存する。
208			雪菜をこの腕に抱いているときは、 雪菜のことしか考えない。 雪菜を、雪菜だけを愛する。
209			…何も、難しいことなんかじゃない。 去年まで、当たり前のようにやってきたことだ。
210			………	.........
211	雪菜	Setsuna	「ああっ、ああっ、ああっ！ だ、だめ、そこ…春希くん駄目っ… やぁぁぁぁんっ、あっ、あ～っ！」
212	かずさ	Kazusa	「………っ、 ぃ、ぅ、ぅぅ…」
213	雪菜	Setsuna	「そ、そんなに…されたらぁ…あぁぁぁ…ぁんっ、 ま、また…また…っ、ひぅぅんっ、ん、ん～っ」
214	かずさ	Kazusa	「は…ぁ、はぁ、はぁぁ…っ、 ひっ、ぅ…ぃっく…ぅ、ぅぁ…」
215	雪菜	Setsuna	「う、ううん…違、違う、の… そ、それは、その…やめ、ないで… 今の…すごく、よかっ…あぁぁぁぁっ、あんっ」
216	かずさ	Kazusa	「～っ、ぃ、ぃぃ…はっ、ん、んんっ… ひくっ、ぅぅ…ぃっぅ…はぁ、ぁぁぁ…っ」
217	雪菜	Setsuna	「ん、んぅ…ちゅぷ…は、あむ…ん、んぅ… は、はうひ…ふん…もっろ…あ、あむ…んちゅ… んくっ、んっ、んんっ…んおぅんっ、ぷぁっ…」
218	かずさ	Kazusa	「は～…は～…はぁぁぁぁ～…っ、 ぃくっ、ぅ…ぅぁぁぁん…ん…ぃ、ぅぅ…」
219	雪菜	Setsuna	「わ、わらひ…も、もう…もふっ…ん、んむ…ちゅぅぅ… はむっ、はっ、あっ、あっ、あっ、あっ…ああああっ、 は、ぁぁ…きて、春希く…なか…あ、なか、に…っ」
220	かずさ	Kazusa	「～っ！ んっ、んっ…っ、そ…ぉぉ…ぃぃぃんっ、ん…っ」
221	雪菜	Setsuna	「ああっ、ああっ、ああああ…っ！ んんっ、んんっ、ん～っ！ あ、あ、あ、あ、あ…も、もう…わたし、わたし…っ」
222	かずさ	Kazusa	「春希………ぃ、 う、あ…あぁぁ…ひぐっ、ぅ…ぅぅ… ん～っ、ん、んっ…んぅぅぅぅっ」
223	雪菜	Setsuna	「あああああ…あっ、ああ………あ～っ！ あああああああぁぁぁぁぁぁぁ～っ！！！」
224	かずさ	Kazusa	「っっっ！ ふぅぅぅぅ～っ、う、ん～っ！」
225	雪菜	Setsuna	「ああああっ…あああっ…ああっ………あ… あぅっ、あ、ん…あ、熱…春希くん…の…あぁぁ」
226	かずさ	Kazusa	「はぁ、はぁ、はぁぁ…ぁぁ… はぁぁ、ぁぁ………ぁ」
227	雪菜	Setsuna	「ふ、ぅ…はぁぁ…はぁぁぁぁ…っ、 はぁ、はぁ…は、あ、あ…春希、く…んっ… んぅ…んぷ…」
228	かずさ	Kazusa	「………っ」
229	雪菜	Setsuna	「ちゅぷぁ…あ、あむ…むぁぁ…あ、ぷ… はっ、はぁ…はぁぁぁ…ちゅぅぅ…ぅ、んっ」
230	かずさ	Kazusa	「ぁ………ぁ、ぁ…っ」
231	雪菜	Setsuna	「春希くん…はる、き…くんっ… あぁ…あぁぁ…はぁぁぁんっ、ん、んぷ…んっ」
232	かずさ	Kazusa	「んぅぅぅぅ…ぅ… ひくっ、う、う、う…ぅぇぇぇぇ…っ」
233	かずさ	Kazusa	「ひぅっ…う、うぅ…ん…んぅ… ご、めん…」
234	かずさ	Kazusa	「ごめん…ごめん、ごめん…春希。 許して、許して許して………雪菜、ぁ」
235			………	.........
236			……	......
237			…	...
238	孝宏	Takahiro	「………さん、北原さんってば」
239	春希	Haruki	「っ！？ え？　あ、ああ、ごめん、何？」
240	孝宏	Takahiro	「…なんか疲れてるみたいだねって言ったんだけど、 もう答えは聞いたような気がするからいいや」
241	春希	Haruki	「あ…」
242			土曜日。
243			週末だけ寝起きの悪い雪菜と、 午前中は二人でだらだらと過ごし、 午後からはデートという名のショッピング。
244			そして夜、雪菜を家に送り届けるついでに、 小木曽家で夕食をご馳走になる。
245			昨年までは、毎週のように繰り返してた生活パターンに、 一月がかりでようやく戻ってきた。
246	雪菜の母	Setsuna's Mother	「あまり箸も進んでないみたいだし、 もしかしたら具合が悪いんじゃない？ 雪菜、ちょっとあれ持ってきてあれ」
247	雪菜	Setsuna	「あれじゃなくて体温計ってちゃんと言ってよ」
248	春希	Haruki	「あ、いえ、気遣っていただかなくてもいいです。 別にそんな大したことじゃ…」
249	孝宏	Takahiro	「………もしかして、 昨夜、姉ちゃんが寝かせてくれなかった？」
250	春希	Haruki	「ぶっ！？」
251	雪菜	Setsuna	「孝宏！」
252			さっきまで喉を通らなかった食事が、 今度はハッキリと詰まってしまった。
253	雪菜の母	Setsuna's Mother	「この子は…もうハタチになろうってのに、 まるで中学生みたいなことに興味持って…」
254	雪菜の父	Setsuna's Father	「よさないか…食事中だぞ」
255	孝宏	Takahiro	「なんで食事中にふさわしくない話だってわかるのさ？ 夜中じゅう、ずっとゲームに付き合わされてたのって、 そういうこと聞こうとしてたかもしんないじゃん俺」
256	雪菜の母	Setsuna's Mother	「しかも言い逃れまで中学生みたい。 そんなんで、彼女に逃げられても知らないわよ」
257	孝宏	Takahiro	「ちょ、ちょっと待ってくれよ！ 家に十回くらい連れてきただけで彼女かよ！？」
258	雪菜の母	Setsuna's Mother	「紛れもなく彼女でしょ」
259	春希	Haruki	「あ、あの、全然そういうことじゃないですから！ ただちょっと考え事してただけで」
260			何がそういうことなのかはともかく、 この一家は時々そういうことを包み隠さず話して、 俺を思いっきり口ごもらせる。
261			…まぁ、逆にこういう一家だからこそ、 雪菜を大っぴらに部屋に泊めることもできるんだけど。
262	孝宏	Takahiro	「考え事…ねぇ。 将来のこととか？」
263	春希	Haruki	「将来？」
264	雪菜の父	Setsuna's Father	「っ…お、おい」
265	雪菜の母	Setsuna's Mother	「ちょっと孝宏、それは…」
266	孝宏	Takahiro	「何言ってんだよ。 さっきからみんな聞きたくてウズウズしてるくせに」
267	春希	Haruki	「え、何を？」
268	雪菜の父	Setsuna's Father	「………」	"........."
269	雪菜の母	Setsuna's Mother	「…ええと」
270	春希	Haruki	「…？」
271	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
272			何のことかと雪菜に目配せしたけれど、 それは完全に空振りに終わってしまった。
273			何しろ、全員黙りこくってしまった小木曽家の中でも 雪菜が一番気まずそうに俯いてしまっていたから。
274	孝宏	Takahiro	「あのさ、北原さん。 もしかしてさ………姉ちゃんにプロポーズした？」
275	春希	Haruki	「………あ」
276	雪菜	Setsuna	「………っ」
277			テーブルの上… 雪菜が右手で左手をそっと隠した。
278			…新しい指輪が燦然と輝くその薬指を。
279	孝宏	Takahiro	「姉ちゃんに聞いてもハッキリ言わないしさ。 父さんなんか今週すっごい暗かったんだぜ？」
280	雪菜の父	Setsuna's Father	「っ…いい加減なことを言うな！」
281			そういえば… 指輪を渡して以来、初めての小木曽家だった。
282	雪菜の母	Setsuna's Mother	「た、孝宏… 何もそんな…食事中に。 ほら北原さん困ってるじゃないの」
283	孝宏	Takahiro	「ああっ、今になって急に自分だけいい顔して～！ どうやって口を割らせようかって、 最初に相談持ちかけたのはそっちだろ！」
284	雪菜の母	Setsuna's Mother	「…ええと。 だからそういう身も蓋もないことを 食事中にバラさなくても、ねぇ？」
285	春希	Haruki	「………」	"........."
286			毎日顔を合わせてて薬指の変化に気づかないほど、 絆の浅い家族じゃないってわかってたのに。
287			指摘されるまで知らぬ顔を決め込むなんて、 皆にとっても、雪菜にとっても、 取っていい態度じゃなかったはずなのに。
288	雪菜	Setsuna	「ちょ、ちょっと、やめてよ。 別にこれは、そんな深い意味は…」
289	雪菜の母	Setsuna's Mother	「…ないの？ だってそれ、随分と高そうじゃない？ 前のオモチャみたいな安っぽいのと全然違うし」
290	春希	Haruki	「…すいません、安っぽくて」
291	雪菜	Setsuna	「…前のも春希くんに貰ったものなんだけど」
292	雪菜の母	Setsuna's Mother	「あ、あら…そ、そう。それはあれね… ほら、あれよあれ、ねぇ孝宏」
293	孝宏	Takahiro	「つまりさぁ、 姉ちゃんが前もってきっちり説明しとけば、 こうして北原さんに恥をかかせることもなかったと…」
294	雪菜の母	Setsuna's Mother	「そ、それよそれ！ ほんとこの子ってば、 肝心なところで変に頑固なんだから」
295	雪菜	Setsuna	「だ、だからぁ、違うんだってば。 別にこれは…今すぐって意味じゃないんだから」
296	春希	Haruki	「雪菜…その言い方だと」
297	雪菜	Setsuna	「だよねぇ春希くん？ わたしたち、そんな…ねぇ？」
298	春希	Haruki	「………」	"........."
299	雪菜	Setsuna	「…春希くん？」
300	孝宏	Takahiro	「ええと… 『今すぐ』ではないってことは…？」
301	雪菜の母	Setsuna's Mother	「要するに… 『将来的には』って話があったってこと？」
302	雪菜の父	Setsuna's Father	「っ…」
303	雪菜	Setsuna	「え………」
304	孝宏	Takahiro	「あ～あ、語るに落ちちゃった…」
305	雪菜	Setsuna	「え？　え…？」
306	雪菜の母	Setsuna's Mother	「ほ～ら孝宏！ やっぱりお母さんの言った通りだったでしょ！ 絶対何かあるってピンと来たんだから！」
307	孝宏	Takahiro	「なんだよ母さん。 自分で聞けもしなかったくせに急に調子付いちゃって」
308	雪菜の父	Setsuna's Father	「やめないかお前たち！ 要するに何も決まってないってことだと言ってるだろ！」
309	孝宏	Takahiro	「いや言ってない。言ってないよ。 ほとんど決まったって言ってんだよ」
310	雪菜の母	Setsuna's Mother	「お父さん… いくら認めたくないからって、 あまりにも自分の都合のいいように聞き違えるのは…」
311	雪菜	Setsuna	「ちょ、ちょっとぉ！ だから、だからぁ… 本人の前でそういう話はやめてよぉ」
312	春希	Haruki	「は………はは」
313			なのに俺は…
314			この、軽くて浮き足立った雰囲気の中でも。 一世一代の決め所かもしれなかった場面でも…
315			流れを掴むことも、流れを止めることもできず、 ただ、俯いて黙り込んでいるだけだった。
316			深く、沈み込んだ気持ちのまま。 ただ、必死で作った笑顔だけを表情に貼りつかせて。
317			………	.........
318	雪菜	Setsuna	「今日はごめんね… なんか変な話になっちゃって」
319	春希	Haruki	「いや、そんなこと…」
320			こっちこそ、ごめん。
321	雪菜	Setsuna	「もう、みんな気が早すぎるんだから。 本人たちほったらかして勝手に盛り上がっちゃって…」
322	春希	Haruki	「だから、気にしてないって」
323			気が早すぎても、問題ないはずだった。 それどころか、正式に申し込むべき話の流れだった。
324			だって、気が早い『だけ』で、 言ってることは間違ってない…はずなんだから。
325			だから、ごめん。 黙ってて、ごめん。 大事なこと、言えなくてごめん。
326	雪菜	Setsuna	「本当にごめんなさい。 でも、お母さんも孝宏も悪気はないの。 お父さんは………後でちゃんと話しておくから」
327	春希	Haruki	「うん…」
328			なのに、そんな俺の致命的なミスを、 雪菜は自分の落ち度のように、何度も謝る。
329			俺に負担を掛けないように。 俺に責任を負わせないように。
330			自分が何を求めているのか、 俺にどうして欲しいのか…
331			ほんの少しだけ気持ちが漏れ出たけれど、 それを失言と片づけて、 あとは全て自分の中に押し込んで。
332	春希	Haruki	「それじゃ…」
333	雪菜	Setsuna	「また来週…ね」
334	春希	Haruki	「うん。 連絡する」
335	雪菜	Setsuna	「ばいばい…」
336			………	.........
337			小木曽家での[R夕餉^ゆうげ]は、いつも以上に盛り上がった。 …まぁ、うち一人は途中で席を立ってしまったけど。
338			お母さんは、もう親戚の予定を気にしだして、 『内輪で』を多用する若手組と真っ向から対立し。
339			孝宏君は、雪菜が出ていった後の部屋の使用権を主張し、 『そのままにしておく』という女性組と真っ向から対立し。
340			お父さんはそういう話には参加したがらなかったけれど、 去り際、俺の母親に一度会う必要があると呟いた。
341	携帯アナウンス	Cellphone Voicemail	「留守番電話サービスに接続します。 合図の後にメッセージをお願いします」
342	春希	Haruki	「………ゼロ」
343			そんな、小木曽家では当然の… 北原家には存在しない、しがらみだらけの会話。
344			すこし辟易しつつ、少し羨望を抱き、 そして徐々に、自分も染まっていくはずだったのに。
345			あの、温かくて大らかな輪の中に 望んで入っていくはずだったのに。
346			………	.........
347	春希	Haruki	「あ…」
348	かずさ	Kazusa	「お帰り」
349			なのに今の俺は…
350			二人の手を繋いだくらいの小さな輪を、 もう一つ抱え込む。
351	春希	Haruki	「別に、迎えに来る必要なかったのに」
352	かずさ	Kazusa	「一分でも長く、春希と一緒にいたかった。 外でも、春希と過ごしてみたかった」
353	春希	Haruki	「かずさ…」
354	かずさ	Kazusa	「なんてな…ははっ、信じたか？ 本当は、金曜からまだ一度も部屋に帰ってないんだ。 あたしも今、ちょうど駅に着いたところでさ」
355	春希	Haruki	「…ネタとしては微妙な上に、 結局俺のせいなのがなんとも」
356			金曜の夜… 行く当てのないはずのかずさを部屋から追い出したのは、 雪菜を連れ込んだ俺なんだから。
357	かずさ	Kazusa	「心が痛んだか？」
358	春希	Haruki	「い～や、別に？」
359	かずさ	Kazusa	「ま、当然だよな。 お前の方に落ち度なんか何もないんだから」
360	春希	Haruki	「………」	"........."
361			だったら、声を震わせながら喋るのは… 目を潤ませながら笑うのはやめて欲しい。
362			いつか『寒いから』だけでは誤魔化しきれなくなるから。
363	かずさ	Kazusa	「さてと、帰ろ帰ろ。 お前、明日は出勤する？」
364	春希	Haruki	「大丈夫。 少しだけ仕事残ってるけど、 出なくてもなんとかなる」
365	かずさ	Kazusa	「そっかそっか…はは、 じゃあ、お前の日曜、独り占めだな」
366	春希	Haruki	「かずさ…お前」
367			そんな危ない言葉を軽く流し、 かずさが俺の左手に自分の右手を絡める。
368			かずさの手のひらは、 この冬の夜の街を歩いていたにしては、温かく、そして…
369	春希	Haruki	「なんで包帯取ってるんだよ？ まだ完治してなかったろ？」
370	かずさ	Kazusa	「………そこをまず気にするところが 空気読めない委員長のままだよな、春希」
371			手の甲の、たった一枚の絆創膏が頼りなかった。
372	春希	Haruki	「全治二週間って診断だったんだろ？ 治りが遅くなったらどうすんだよ」
373	かずさ	Kazusa	「なんでそんなこと…って、ああ、大本営の発表か。 そんなのわざと大げさに言ってるに決まってるだろ」
374	春希	Haruki	「そう、なのか？」
375	かずさ	Kazusa	「そう言っておけば、 次もコケたとき言い訳にできるだろ？ 場合によっては追加公演をキャンセルすることも…」
376	春希	Haruki	「お前…」
377	かずさ	Kazusa	「…軽蔑したか？ またファンの声がどうとか言うか？」
378	春希	Haruki	「ネタ、だよな？」
379	かずさ	Kazusa	「どう思う？」
380	春希	Haruki	「お前、それで納得できるのか…？」
381	かずさ	Kazusa	「別に」
382	春希	Haruki	「確かに私生活は怠惰そのものだけど、 ピアノに対してだけは妥協しないのが 冬馬かずさって奴だろ？」
383	かずさ	Kazusa	「でもなぁ… 日本に来た目的、もう果たしちゃったしなぁ」
384	春希	Haruki	「まだ追加公演が残ってるだろ。 お前のピアノ、まだ何千人も楽しみにしてんだろ」
385	かずさ	Kazusa	「お前、あたしが来日した目的が、 コンサートのためだなんて本気で思ってるのか？」
386	春希	Haruki	「それ以外に何があるんだよ… いい加減なこと言って自分を貶めるのはやめろ」
387	かずさ	Kazusa	「春希…」
388	春希	Haruki	「俺、お前のピアノが好きだ。 他の皆も、一度聴けば絶対好きになるって信じてる。 それだけ、お前のピアノが凄いって思ってるんだ」
389	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
390	春希	Haruki	「だから、だからさ… そういう人たちの期待を裏切るのは…」
391	かずさ	Kazusa	「でも春希は逃げた。 好きだったはずのあたしのピアノから、逃げ出した…」
392	春希	Haruki	「っ…ご、ごめん」
393	かずさ	Kazusa	「ぁ…」
394	春希	Haruki	「俺…あの時、俺… お前が近くて、 どうしていいか、わからなくて」
395	かずさ	Kazusa	「春希…あ、あのさ」
396	春希	Haruki	「距離を置かないと、とんでもないことになるって。 …いや、結局なっちゃったんだけど、でも」
397	かずさ	Kazusa	「わかった、わ～かった！ 嘘だよ、冗談だよ。 マジになるなよ…」
398	春希	Haruki	「っ…」
399			マズい方向に行きかけていた話の流れを、 かずさが大きな声で強引に元に戻す。
400			未だに引きつるはずの右手にしっかり力を入れ、 俺の肩に身体を寄せ、体温を伝え合う。
401	かずさ	Kazusa	「全部ネタだよ、もちろん。 やるよ追加公演。一生懸命弾くよ」
402	春希	Haruki	「かずさ…」
403	かずさ	Kazusa	「持てる力を出し切ってさ、 その結果叩かれても仕方ないってくらい頑張るよ」
404	春希	Haruki	「何、言ってんだ… 本気を出したお前が絶賛されないわけないだろ。 それでも叩く奴がいたら、反論記事で叩き潰してやる」
405			自分の声が、寒さのせいでなく震えてるのがわかる。
406	かずさ	Kazusa	「…本当、シャレの通じない奴だな」
407			だって、かずさの声がますます震えてるから。
408	春希	Haruki	「そうだよ、俺、冗談通じないんだよ。 だからこんなことに、なったんだ…」
409	かずさ	Kazusa	「春希…ぃ」
410			二人、身体を重ね合ってこんなに温かいのに、 心だって重なって、熱くなってるはずなのに。
411			なのに、こうして互いの震えが伝わってきてしまう。 …嘘と、意地と、悲しみを伴って。
412	春希	Haruki	「冗談で、終われない。 気持ちを込めずに抱いたりできない。 俺、お前のこと冗談なんかじゃ…」
413	かずさ	Kazusa	「冗談じゃ、ないよ。 冗談じゃ、ないんだよ」
414	春希	Haruki	「かずさ…」
415	かずさ	Kazusa	「単なる、過ちだ。 本気だけど、間違ってるだけだ」
416	春希	Haruki	「そんなの…ますます最低だ」
417			互いの会話に、切れがない。
418	かずさ	Kazusa	「最低でも、あたしはいい。 …だから、頼む。 この冬だけは、お前もいいことにしてくれ」
419	春希	Haruki	「…お前のものだ。 今から俺、お前だけのものだよ」
420			手、握ってるのに。 心、繋いでるのに。 身体、重ねてるのに。
421			そんな睦みあいの最中に零れる言葉が、 どうしてこんなにも辛く、哀しいんだろう。
422	かずさ	Kazusa	「さっきまでのお前は、正しい週末を過ごしてた。 雪菜だけの春希だった」
423	春希	Haruki	「っ…」
424	かずさ	Kazusa	「…でも今からのお前は、間違った週末を過ごすんだ。 あたしの、あたしだけの春希になるんだ」
425	春希	Haruki	「う、ん…っ」
426	かずさ	Kazusa	「春希…春希春希春希…っ、 は、はぁ、ぁぁぁ…ぁぁ…」
427			俺の左手と、かずさの右手が、強く指を絡め合う。 いつの間にか逆の手同士も真似してる。
428			立ち止まって、抱きあってしまっている。 力いっぱい、想いいっぱいに。
429	かずさ	Kazusa	「は、春希…ぁぁ…あ、んむ…む…っ」
430	春希	Haruki	「かず、さ…っ」
431			ここから俺たちの部屋まで、 歩いて５分もかからないのに…
432			でも、その５分が耐えられない。 二人でいられる時間に、 抱きあわないなんて、考えられない。
433			だって俺たち、あと一月なんだから。
434	かずさ	Kazusa	「消してやる… こんな、雪菜の匂いなんか、消してやる。 お前を、あたしの匂いで埋め尽くしてやる…っ」
435	春希	Haruki	「っ…あ、あ、あぁ…」
436	かずさ	Kazusa	「ん、ん、んぅ…んぷ…は、はぁ、ぁ、ぁ…っ」
437			春がやって来るとともに溶けてしまう雪のように…
438			かずさの日本公演が終わるとともに、 儚く消え去ってしまう関係なんだから。
439			………	.........
440	かずさ	Kazusa	「ん、んぷ…あ、あむ…ん、んく… んぅぅぅぅっ、んっ、んっ…ん～っ！」
441	春希	Haruki	「はぁ、ぁぁ…ぁぁぁ…か、ずさ…は、あぁ」
442			肩を抱きあったままマンションまで戻り、 エレベーターの中でも我慢しきれずに触りあい。
443			部屋に戻るとすぐ、 かずさは俺をベッドに押し倒し、唇を押しつけた。
444	かずさ	Kazusa	「ん、んぷっ、は、あ、あ…んむぅぅ… ん、ぷ…ちゅぷ…あ、あ、あ…んむっ」
445			毎日、俺がすることを一生懸命真似て、 舌を押し込み、口の中をかき回し、 わざと音を立て喉を鳴らし、唾液を飲み込む。
446			最初は全然拙かった動きも、 懸命にいやらしく、ひたむきに貪ることで、 徐々に滑らかに、俺を感じさせていく。
447	かずさ	Kazusa	「はぁ、ぁぁ…あむ…んく、ん…んぅぅ… ぷぁっ…はぁ、はぁ、はぁぁ…あ、れろ…ん、ちゅ」
448	春希	Haruki	「むぅぅ…あ、あむ…ん、んぁ…はぁ、ん」
449			いつも、主導権を握ろうとする。 俺を押し倒し、服を脱がせ、唇を奪い。
450			…俺のせいじゃないって、必死で庇おうとする。
451	かずさ	Kazusa	「は…春希…ぃ。 あ、ちゅぷ…は、はぁ、ぁぁぁ…はぁぁぁぁっ、 あ、あ～っ、ん、んぷ…むぁぁ…あむっ」
452			俺の罪を。 証拠のある悪行を。 理由のある罪悪感を。
453			何としても押し流そうと、 自分から求めようとする行為に没頭する。
454	かずさ	Kazusa	「はぁ、はぁ、はぁぁ…あ、あ…ぁぁぁ…」
455	春希	Haruki	「っ…」
456			だから今日も、 かずさよりも先に、俺のものが晒される。
457	かずさ	Kazusa	「これが… 昨夜、雪菜のなかに、入ってたんだな」
458	春希	Haruki	「っ… やめろ…」
459			行為では、必死で俺を傷つけないよう頑張って…
460			そして言葉では、意識的か無意識か、 俺の心に、細い針を埋め込んでいく。
461	かずさ	Kazusa	「もっと気持ちよく…してやる。 昨夜より、もっと、もっと…」
462	春希	Haruki	「っ…あ、あああああ…っ」
463			いつの間にか、俺のだけじゃなく 自分の服も剥ぎ取っていたかずさが、 俺を、押しつけるように包み込む。
464			その、白く大きな両胸で。
465	かずさ	Kazusa	「こういうの…やったこと、あるか？」
466	春希	Haruki	「あ、あ…あぁぁっ… ば、馬鹿、お前、何を…」
467	かずさ	Kazusa	「…してもらって、ないんだな？ 雪菜にも、してもらったこと」
468	春希	Haruki	「だ、だって、こんな…ぁぁぁっ」
469	かずさ	Kazusa	「んっ、ん、く…はぁ、はぁぁ… な、春希…こっち、見ろ」
470	春希	Haruki	「か、かずさ…おい…っ」
471			一度見た瞬間、両手で目を隠してしまった俺に、 かずさが挑発するように語りかける。
472			日々身体を重ねるようになって、まだ一週間…
473	かずさ	Kazusa	「あたしを見ろ…もっと、しっかり見ろよ… な？　あたし、いやらしいだろ…？ 気持ちいい、よな？」
474	春希	Haruki	「は、あ、あ…あぁぁぁっ」
475			そんな、まだ未成熟なはずの俺たちが、 今辿り着くはずのないプレイに、かずさが誘い込む。
476			…まるで、生き急いでいるかのように。
477	かずさ	Kazusa	「ん、んん…れろ。 は、ぁぁ…そうだ、そう… もっと、見て…あぁぁぁっ」
478	春希	Haruki	「～～～っ！」
479			必死で、隠していた手をどけて、 かずさに包まれている俺の下半身に目を向ける。
480			…そこには、信じられないくらい淫靡な光景が 浮かび上がっていた。
481	かずさ	Kazusa	「ん…んぅ………ちゅ…ぷ。 はぁ、あ、ああ…あぁぁんっ、ん、んぅ…ぷ」
482	春希	Haruki	「あぁ、あぁぁ…っ」
483			夜の闇の中、白く輝くかずさのたわわな乳房が、 いつもの形を大きく変え、俺のものにまとわりつく。
484			傷と捻挫を負ったはずの両手に強く押し潰され、 俺の茎全体をぎゅうって包み込み、 前後に大きく揺すられる。
485			そのたびに、縦に伸ばされた乳房が太股までもこすり、 先端がくすぐって、別の刺激まで与えてくる。
486	かずさ	Kazusa	「んっ、んっ、んぅぅ…ぷぁ、あ、あ…あむ。 は、春希…どんどん、固く、なってる、ぞ？ ん、んむ…ちゅぱ…は、あ、あぁ…」
487	春希	Haruki	「だ、だって…お前、くっ…あ、あああっ」
488			それだけでは飽きたらず、 かずさは、自分の胸からはみ出た俺の先端に、 もっと過酷な運命を誘う。
489			先端の割れ目に舌を這わせ、唾液を垂らし、 俺の先走りと混ぜ合わせ、どろどろに溶かす。
490	かずさ	Kazusa	「んぅっ、れろ…ちゅぷ…は、あぁ、あむぅ… は、はは…あぁぁ…熱…うあ…春希、熱い…ぃ」
491			先端からこぼれ出た俺とかずさの混ざりあいは、 そのままかずさの胸の谷間に流れ込み、 俺の茎までもを濡らしていく。
492			最初のうちは乾いていた俺たちのこすれる音がやがて、 にちゃ、にちゃと、湿り気を伴った淫靡なものへと変わる。
493	かずさ	Kazusa	「はぁっ、はぁっ、はぁぁっ…んん、ん…ん～っ、 んむっ、ぇろ…ぷぁ…あ、あむぅぁ…あ、はぁぁんっ」
494	春希	Haruki	「う、く、く…ああ、あぁぁぁっ、あ～っ」
495			耐えきれずに天井を見上げても、 もう、かずさのその姿は俺の瞼から消えてくれない。
496			どれだけ手のひらで潰しても、 その指の隙間から存在を主張するかずさの乳房。
497			乳首はいつの間にか固く尖っていて、 時おり、それが俺の肌にめり込んだ瞬間、 かずさの表情が恍惚としたものに変わる。
498	かずさ	Kazusa	「はぁぁっ、はっ、はぁぁぁぁ～っ、あふっ、う… はぁぁんっ、あ、む…むぷ…ぷぁ、あぁぁ…」
499			そんなかずさの反応もさることながら、 俺をさらに導いているのは、 かずさの、さらに先に行こうとする行為。
500			先端に舌をねじ込み、俺の先走りを舐め取るだけでなく、 いつしか唇の先にまで俺のものをねじ込ませる。
501			胸の谷間だけでなく、唇の中にまで包み込み、 俺を、身体全体で愛撫する。
502	かずさ	Kazusa	「はっ、はっ、はぁぁぁっ…あ、ん、む～っ！ んっ、んっ、んっ…んぷっ…ちゅぷぁ、あ、ぁぁ… はむっ、む…むぅぅ…んぐっ、ぷ、ぁぁ…っ」
503	春希	Haruki	「うあ、あぁぁ…かずさ…あ、あ、あ…っ」
504			胸と茎のこすれる音。先端が口の中に包まれる音。 舌先で転がされ、口全体でしゃぶられ、 喉の奥で蠢く、俺たちの液を飲み込む音。
505			部屋中のあらゆる音が全て、 かずさと俺の重なり合う部分から漏れ出てる。
506	かずさ	Kazusa	「んっ、んく…ちゅ…むぅ…あ、あ…っ、 んんっ、んぅっ、ふ、く…あ、はぁ、ああぁぁ…」
507			俺の先端と、かずさの胸と、唇と、舌と、喉と…
508			俺たちの… 普通じゃ繋がるはずのない、 淫靡すぎる行為の賜物として。
509	春希	Haruki	「か、かず…かずさっ…」
510	かずさ	Kazusa	「はぁっ、はぁっ、はぁぁ…春希、春希…？ ど、どう、だ？　あたしの…おっぱい… 気持ち、いいだろぉ…？　あ、あ、ああ…っ」
511			恥ずかしい言葉まで駆使して、 かずさが俺を導こうとしてる。
512			全然、自然と湧き出た言葉じゃない。 ものすごく作為的で、照れまで混じってる。
513	かずさ	Kazusa	「いいんだぞ… あたしの口と胸、汚していいんだぞ…？ お前ので…どろどろにして…いんだ、ぞ？」
514	春希	Haruki	「あっ、あっ、あああっ…あぁぁぁ…っ」
515			けれど今の俺にとっては、 そんな欠点がわかったところで無駄なことで…
516			かずさがいやらしい言葉を使うって事実だけで。 俺を、必死で誘ってるという現実だけで、 もう、どうしようもないくらい、高まってしまうから。
517	かずさ	Kazusa	「春希、春希、春希…っ、 あ、んむっ、んぷっ、んぅっ、んっ、んっ… はぁぁっ、ああっ、あっ、あんっ、んぅぅっ」
518	春希	Haruki	「あ、く、ぁぁ…ああ…あああ…っ」
519			なにも、考えられない…
520			ただ、かずさを汚すことしか。 欲望のはけ口にすることしか。
521			かずさを…俺まみれにすることしか。
522	かずさ	Kazusa	「んっ、んぷ、は、あ、あ、ああ…っ？ 春希、固…あ、あ、あ…ああああっ！ んっ、んぅ…んんんんん～っ！」
523	春希	Haruki	「あああああああっ！」
524			そして、俺の限界を感じ取ったかずさが、 とどめとばかりに口と舌と胸で俺を押し潰し…
525	かずさ	Kazusa	「ん～っ、んんんんんんっ！ ぷぁっ、あっ、あぁぁぁぁぁ…あ…っ」
526			瞬間、俺の理性を突き破って飛び出た精液が、 かずさの口と、顔と、胸の全てをどろどろに溶かす。
527	かずさ	Kazusa	「ぷぁっ、あぁ、あああ…あんっ、あぁぁぁっ、 けほっ、う、うぅぅ…ぷぁっ、あ、あああ…」
528	春希	Haruki	「か、かず…かずさ…あぁぁぁぁ…っ、 ご、ごめ…うぁぁ…ぁ…っ」
529	かずさ	Kazusa	「ば、か…謝る、なぁ…あむっ…ん、ぷぁぁ…っ、 はぁっ、はぁっ、はぁぁ…あ、あたしが、したくて… ん、はぁ、ああ………だから…あ、んく…ん、んぅ…」
530			全身を溶かされても、 かずさはまだ、必死で喉を動かし、 身体の中からも溶けることを望む。
531	かずさ	Kazusa	「あ、ああ…春希… 熱………んぅ…濃…ぃ…っ、 ん、んぅ…んくっ…」
532	春希	Haruki	「か、かずさ…や、め…っ」
533			出してしまった俺を、 かずさはまだ胸と唇で包み込み、 じっくりと後始末に熱中する。
534			かずさの唾液と、俺の先走りに、 さらに精液まで混ざって、 熱さとぬめりがとんでもないことになっていた。
535	かずさ	Kazusa	「ん、れろ…ちゅぷ…あ、あむ…む、むぅ、んっ、 ちゅぅぅ…ぅ、んっ、んく…ぷ、あ、ふぁぁぁ…」
536			そんな、全身濡れそぼったかずさが、 俺を上目遣いで見上げ、俺を口に含んだまま…
537	かずさ	Kazusa	「………まだ、凄い、ぞ？ お前…こんなとこまで、お堅くなりやがって」
538	春希	Haruki	「…馬鹿かお前は」
539			誘うような笑みを浮かべ、 本気で、誘ってきた。
540			………	.........
541	かずさ	Kazusa	「動くな…よ？ 今日は、あたしが…あたしがお前を…」
542	春希	Haruki	「そんなの…約束できるもんか」
543	かずさ	Kazusa	「…ふふ、そうだよな。 お前、いっつも、激しいもんなぁ」
544	春希	Haruki	「っ…あ、あ、あ…っ」
545	かずさ	Kazusa	「んんんんんっ、んっ…くぅぅぅっ… んぅぅぅぅぅぅ～っ！」
546			濡れていたのは、胸や唇だけじゃなかった。
547			俺の先端にあてがったかずさの秘唇は、 触れた瞬間、さっきまでと同じ湿った音が響き、 そのまま、柔らかく俺を飲み込んだ。
548	かずさ	Kazusa	「はっ、あ、あ、あ…あぁぁぁぁ…っ、 ん、く…ぅぁ…ぁ…っ」
549	春希	Haruki	「大丈夫…か？」
550	かずさ	Kazusa	「あ、たり前、だろ…っ、 どれだけ、お前のこと受け入れたと思ってる…？」
551	春希	Haruki	「………うん」
552			実は、やっと両手で数え切れなくなった程度だったけど…
553			それでも五年前と比べると、 十倍以上、俺たちは繋がっている。
554			キスしてる、愛撫してる、重なり合ってる。 …快感を、分かち合ってる。
555	かずさ	Kazusa	「は、あ、あ…あぁぁんっ、 ん、く…はぁ、はぁぁ…あ、あ…」
556	春希	Haruki	「かずさ…かずさ…っ」
557	かずさ	Kazusa	「う、うん…春希。 今日も…たくさん、愛してな？」
558	春希	Haruki	「っ…うん。 わかって、る」
559	かずさ	Kazusa	「はぁぁぁぁっ、あっ、あ～っ、 ん、んぅぅ…はぁ、あ、あぁぁんっ」
560			かずさはとうとう最後まで腰を下ろし、 俺を、先端だけじゃなく根本まで受け入れた。
561			俺は、そんなかずさに鞭打つように、 両手を伸ばし、その乳房を強く握り込む。
562			けれど、胸に滴る精液と唾液が手を滑らせ、 指の先からもどかしく逃げ回る。
563	かずさ	Kazusa	「はぁぁっ、あっ、あぁっ、 あ、んっ…ん、んぅ…くぁ、あ、あんっ」
564			その間に、ゆっくりと腰を動かせ始め、 序盤は、かずさが主導権を握る形で始まった。
565			二人の繋がりは、熱く、きつく… 互いの想いを代弁するかのように、密着する。
566	かずさ	Kazusa	「はぁぁっ、ああっ、お…お前…っ、 あ、あ…あたしの中で、こんなに、なって…」
567	春希	Haruki	「う、ん…っ、あ、ああ… はぁ～、はぁ～、はぁぁぁぁ～っ」
568			本当に、こんなになってる…
569			かずさの胎内に飲み込まれてるのに。 かずさの膣壁にこすり取られているのに。
570	かずさ	Kazusa	「はぁぁぁぁんっ、ん、ん～っ！ こ、こら…そんなに、気持ちいいかぁ？ あたしの…あたしの、なか…」
571			その圧迫感が、刺激が… 俺を、どんどん大きく、逞しく育てていく。
572			徐々に奥深くまで突き上げるようにそそり立ち、 腰を動かさなくても、刺激を与えていく。
573	かずさ	Kazusa	「はぁ、はぁぁ…あぁ… 春希………もっと、もっと間違えて、くれ」
574	春希	Haruki	「っ…う、あ、あぁぁ…」
575	かずさ	Kazusa	「あたしに、溺れて… たくさん、犯して… 取り返しがつかないくらい…気持ち、込めて、もっと…」
576			身体にだけじゃなく、 心までも挟み込み、飲み込み、愛撫する。
577			俺の、かずさを愛する気持ちを。 ずっと奥深くに抱え込んでいた鬱屈とした想いを、 弾けさせようと、責め立てる。
578	かずさ	Kazusa	「大丈夫、大丈夫だから… 今だけ、夢の中でだけ…っ、 あ、あああ…あああああっ！」
579	春希	Haruki	「かずさ…あ、ああ…うぅぁぁぁ…っ」
580			どろりと濡れ、掴めなかった胸を、 乳首を強く摘むことで、やっと手の中に入れた。
581			固くしこったその先端は、 俺の指の間で潰れ、弄ばれ、 張りのある丸い乳房ごと、俺の指の間で踊る。
582	かずさ	Kazusa	「あ、あああ、あああああっ！ い、痛く…して、くれ。 あたしに、傷を…一生消えない傷を…あぁぁんっ」
583			かずさが背中をのけ反らせ、 俺のその激しい愛撫に感じてみせる。
584			ほんの数日前まで痛がっていた表情は、 演技か本気かわからないくらいには、 恍惚としたものを見せられるようになった。
585	かずさ	Kazusa	「はぁぁっ、ああんっ、あんっ… あ、んぅ…ん、く…ああ、あ、んっ…」
586	春希	Haruki	「かずさ…ん…」
587	かずさ	Kazusa	「春希ぃ…ぃ、ぁぁぁぁぁ…っ、 あ、あむ…ん～っ、んぅ、ちゅぅぅぅぅ…っ」
588			俺が目で招くと、頭突きをするような勢いで、 必死で唇を重ねようと覆い被さってくる。
589			俺の手に余っていたボリュームある胸がさらに圧迫され、 自らぎゅっと押し潰されようとする。
590	春希	Haruki	「ん、んむ…あむ…」
591	かずさ	Kazusa	「はぁぁっ、んっ、ん、く…んむぅぅ… あ、あふ…ぁぁ…むぅんっ、ん、ちゅぱ…ぷ、ぷぁぁ…」
592			そんな、子供みたいな喜びを伴ったキスは、 必死で隠してたかずさの未熟さを露わにする。
593			無我夢中で唇を押しつけ、 繋がったことだけで喜びを爆発させ、 ただ、自分の感情のまま、叩きつける。
594			…ノってるときの、こいつのピアノみたいに。
595	かずさ	Kazusa	「はぁぁんっ、あっ、あぷっ、ん、むぅぅ…あ、あむっ、 ぷぁぁっ…は～、はぁぁ～、はぁぁぁぁ…っ」
596			その恍惚とした表情も、泣きそうな瞳も。
597			俺がこいつと出逢った頃から夢に描いてた 『こんなコだったらいいのにな』が、 何もかも、そのまま実現されてる。
598	かずさ	Kazusa	「ちゅぅぅ…ん、んぷっ…あ、はっ、はっ… あは…ははは…ふぅぇぇぇ…ぅぇ…っ、ぇぅっ…」
599			………そんな五年前の夢想が、 どうして、こんな許されない状況の中でだけ 現実にはみ出てきてしまうんだろう。
600			本気で愛したら… 信じ合ったら… 一緒になったらいけなくなった、今になって…
601	かずさ	Kazusa	「ふぇ…ぅぁぁ…あ…っ、はぁぁ… ………何で、優しくするんだよ」
602	春希	Haruki	「………お前、こそ」
603			そんな拙いキスは、かずさの、そして俺の、 “満たしたらいけない想い”に染み入ってくる。
604			愛おしさが、狂おしさにまで昇華されそうになり、 抱きあった後、身体を離すことをますます辛くさせる。
605	かずさ	Kazusa	「もっと強く、痛くしろよ… あたしに、後悔させてくれよ…っ」
606	春希	Haruki	「う、ん」
607			それは次を… 明日を、明後日を、来週を、来月を…
608			“ふたたび”を期待させてしまう、許されない行為。
609	かずさ	Kazusa	「う、あ、んっ…い、いぅっ…！？ そ、そう、だ…もっと、もっと、あああぁぁっ」
610			もう、もどかしさはいらない。 互いの思いを確かめ合う行為は、罪なだけ。
611			だから俺は、必死でかずさを突き上げる。 胸を押し上げ、握り潰すように強く揉む。 乳首を、爪の先で引っ掻くように転がす。
612			かずさからの行為を待たずに、かずさを壊しにかかる。
613	かずさ	Kazusa	「はぁっ、はっ、あ、あああっ！ は、春希…うあああああんっ、あっ、ん～っ！」
614			かずさと繋がってる部分が、 粘りつつ乾いた破裂音を立てるようになる。
615			俺が下から突き上げるたび、かずさのお尻が跳ね上がり、 俺の体に垂れてる黒髪が、汗とともにふわりと舞う。
616			乳首を指で挟み、引っ張り上げ、 今度は白い乳房に全ての指を食い込ませ、 めちゃくちゃに揺り動かす。
617	かずさ	Kazusa	「あぁぁっ、ああっ、あんっ、んぅっ… も、もっと…もっと、もっと…ああああっ、 や、は、やぁぁんっ、あ、ん、うあぁぁぁっ…」
618			それなのに、かずさの表情は… とても、俺に苦しめられてるようには見えない。
619			痛さも、苦しみも、辛さも、 全て嬉しさに変換してしまっているかのように、 俺の目を見つめる瞳に想いを込める。
620	かずさ	Kazusa	「は、あ、あ…春希、春希… どうして、どうしてお前はそんなに…ぃぃぃ…っ、 ふぁ、あ、あ…なんで、あたしを大事にするんだよぅ」
621	春希	Haruki	「俺は…俺、は…違…っ」
622			本当は、違う。 俺は、かずさを大事に扱ってない。 優しく抱くなんて、そんな余裕を持ってない。
623			本当は、かずさが勘違いしてるだけ。
624	かずさ	Kazusa	「はぁっ、あ、あ、あ…も、もう…あたし… はぁ、あぁぁ…は、春希………来て…っ」
625			俺が優しくしなくても、 勝手に優しくされてるって、ただ信じてるだけ。
626			俺を、信じてしまってる、だけ…
627	かずさ	Kazusa	「早く、速く、はやく…っ、 あたしの…あたしの、なか、ふかく…っ、 ああ、あっ、あああんっ、ん、く、ぅぅ…っ」
628	春希	Haruki	「かず、さ…」
629			とっくに限界は超えていた。 いつ、かずさのなかで暴発してもおかしくなかった。
630			けれど、必死で待った。 かずさがいつもと同じ事を求めるか、 確かめるために。
631	かずさ	Kazusa	「ああっ、あんっ、ん、んぅ…だ、駄目… あ、あたし、あた…っ、ふぁぁぁぁっ、あ、あっ…」
632			そして今日も…
633			かずさは、胎内に注がれることを、 自ら望んだ。
634	かずさ	Kazusa	「ああああっ、あっ、あっ… い、いぁ、あぁぁぁ…ああ、あぁぁぁっ」
635	春希	Haruki	「っ、あ、ああ… かずさ…ああ、うあぁぁぁ…っ」
636			だから今日も…
637	かずさ	Kazusa	「あっ、あっ…く、来る…あ、あぁ………っ！？ あ～っ！　あ、あ、ああああああああ～っ！」
638			俺は、そのかずさの懇願を、 歓喜と共に受け入れてしまう。
639	かずさ	Kazusa	「あっ、あっ、あぁぁぁぁぁぁ…っ、 うあぁぁ…ああっ、ああああああ～っ」
640			かずさのお尻を突き上げた瞬間… 一番奥に届いたまま、激しく射精する。
641			最奥に、届かせる。
642	かずさ	Kazusa	「あああぁぁぁ…ああ、ひぅんっ、ん… んく…は、あぁぁぁ…ああ、あんっ」
643			愛おしいというまっすぐな気持ちと、 独占したいという歪んだ気持ちのどちらもが、 一気に弾け、かずさの胎内に注がれる。
644	かずさ	Kazusa	「ん、んぅ…あ、あ…まだ…来て…っ、 ふぁ…ん、んぅ…はぁぁぁぁ…っ」
645			そんな俺の射精を、 かずさは何度も何度も、最後までなかで受け止めて。
646			そのままゆっくり、俺の上に倒れ込み、 熱い吐息を耳元で響かせる。
647	かずさ	Kazusa	「あぁぁぁぁ…は、ぁぁ… はぁ、は、ぁぁ…春希…」
648	春希	Haruki	「はぁ、ぁ、ぁぁ…」
649	かずさ	Kazusa	「抱きしめろよ…もっと。 このまま、朝まで、ずっと、さ…」
650	春希	Haruki	「………っ、 かずさ」
651	かずさ	Kazusa	「ん、んぅ…ちゅ…は、あむ… あぁ…んっ………嬉、し…っ」
652			互いの熱すぎる身体が混ざりあい、 夜の闇に溶け込んでいく。
653			ずっと、繋がったまま、朝まで…
654			………	.........
655	かずさ	Kazusa	「なに、考えてる？」
656	春希	Haruki	「何も」
657	かずさ	Kazusa	「そんなわけあるか。 あたしに嘘、通じないぞ？」
658	春希	Haruki	「嘘なんかじゃ…」
659	かずさ	Kazusa	「ずっとお前のこと見つめてるんだぞ？ お前よりも、お前のこと見てるんだぞ？」
660	春希	Haruki	「………」	"........."
661			夜明けまで、あと一時間くらい。
662			かずさを安らかに眠らせるための 腕枕を務めてたつもりだったけど、 どうやら役に立っていないらしかった。
663	かずさ	Kazusa	「雪菜のこと、考えてたんだろ。 裏切ったこと、悩んでたんだろ」
664	春希	Haruki	「そんな、こと………」
665	かずさ	Kazusa	「何が『昔より嘘上手くなった』だよ… あたしに言わせれば、 五年前と何も変わってないよ、お前」
666			『そんなこと』の先の句が継げないせいで、 俺の強がりは、あっさりと看破される。
667	かずさ	Kazusa	「そんなんじゃ、いずれ雪菜にだってバレる。 たった一月も保たないぞ？」
668	春希	Haruki	「っ…」
669			五年前。 二年前。 そして、今。
670			あんなに最低な嘘を重ねたのに。 何度も騙し続けたのに。
671			それでも俺はまだ、 完璧に人を騙すことすらできないのかよ。 そのスキルだけは、どうしても上がらないのかよ。
672	かずさ	Kazusa	「はぁ…お前の強がりを信じたあたしが馬鹿だった」
673			『…それって、騙せたってことじゃん。 俺、お前に嘘つけてたじゃん』
674			そんな詭弁合戦なら得意なんだけどな…
675	かずさ	Kazusa	「もういい、あたしが嘘のつき方を教えてやる。 心して聞けよ」
676	春希	Haruki	「お前は…得意だって言うのかよ？　嘘」
677	かずさ	Kazusa	「ああ、少なくともお前よりはな」
678	春希	Haruki	「そんなの、なんの根拠があって…」
679	かずさ	Kazusa	「五年前もさ… 結局、自分からバラすまでは、 最後まで相手に気づかれなかったよ」
680	春希	Haruki	「それって…」
681			どんな内容の嘘だったのか。 誰を、そしていつから騙してた嘘なのか。
682			いつバラした嘘なのか…
683			一生懸命考えれば何とか正解に辿り着きそうで、 けれど正解に辿り着いたら、また新たな罪を負いそうで。
684	かずさ	Kazusa	「春希、お前はもう悩むな。もうなにも考えるな。 いちいち苦悩することが、お前の最大の欠点だよ」
685	春希	Haruki	「え…」
686			…そんな、まさに俺が今見せた態度こそを、 かずさは厳しく糾弾した。
687	かずさ	Kazusa	「お前が悩めば、雪菜に伝わる。 隠し事も、嘘も、裏切りも全部見透かされる。 …雪菜を、傷つけるんだ」
688			罪悪感こそが罪悪だと。 苦悩こそが最悪だと。
689	かずさ	Kazusa	「だから考えるな。 あたしと過ごすときは、ただ獣みたいに身体だけを求めろ。 雪菜と過ごすときは、何もかも忘れて心から愛してやれ」
690	春希	Haruki	「馬鹿か、お前… そんなの俺、人として最低だろ」
691	かずさ	Kazusa	「最低で何が悪い？」
692	春希	Haruki	「かずさ…」
693	かずさ	Kazusa	「それであたしは満たされる。お前も悩みから解放される。 雪菜は幸せでいられる。何の問題もないじゃないか」
694			無茶苦茶で強引な論理展開。 粗も穴も探せば山ほど見つかりそうな詭弁。
695			けれど今の俺には、 必死ですがりつきたくなるような力を持った言霊…
696	かずさ	Kazusa	「だからさ、春希…まずは練習だ。 あたしと二人きりでいる間、 何も考えずに、ずっと嘘をついてみろよ」
697	春希	Haruki	「けどお前は俺の嘘を見破るんだろ？ なのに、そんなバレバレの嘘をつけってのか？」
698	かずさ	Kazusa	「大丈夫…都合のいい嘘にだけは騙されてやる」
699	春希	Haruki	「都合のいい…嘘？」
700	かずさ	Kazusa	「あたしのこと好きだって、愛してるって、 ずっと昔から、変わらぬ気持ちのままだって…」
701	春希	Haruki	「お前…」
702			かずさの提案は、やっぱり無茶苦茶で強引で。
703	かずさ	Kazusa	「そんな嘘をつかれたらさぁ… あたし、嬉しくて、天にも昇る気持ちになるからさぁ」
704	春希	Haruki	「嘘、なのに？」
705	かずさ	Kazusa	「嘘、だからこそだよ。 嘘だから、安心できるんだ」
706			ほんの数秒前の自分の言葉とも、 いくつか矛盾してたりしてたけど。
707	かずさ	Kazusa	「雪菜のことを愛してる春希が現実にいるから。 あたしのことを愛してない春希が日常にいるから」
708	かずさ	Kazusa	「三人に、それぞれ帰る場所があるからこそ、 あたしはこうして、お前に安心して抱きしめてもらえる」
709			その、あまりにも想いの篭もった悪魔の囁きは、 俺を、甘く縛る。
710	かずさ	Kazusa	「だから春希、頑張れ。 お前は『嘘』をつくんだ」
711	春希	Haruki	「嘘、を…」
712	かずさ	Kazusa	「あたしにかける言葉を、 あたしにすることを、真実だなんて思うな。 お前の真実は、ずっと昔から雪菜だけだ」
713			かずさが、俺にすがりついてる。 俺が、力いっぱい抱きしめてる。
714	かずさ	Kazusa	「冬が終わったら、 コンサートが終わったら、あたしと離れたら、 お前は雪菜のいる日常に戻るんだから」
715	かずさ	Kazusa	「真っ暗な悪夢から目覚めて、 バラ色の現実に戻るんだから…」
716			言葉だけでなく、身体も甘く縛り合う。
717			それは俺たちの言葉と身体を、 気持ちから切り離す儀式。
718	かずさ	Kazusa	「ちょっとやってみろよ。 嘘の、練習」
719			今から俺の話す言葉は、 脳から発信されず、心臓も経由せず、 ただ、神経を伝う電気信号として口から放出される。
720			考えず、悩まず… そして、後悔せず。
721	春希	Haruki	「好きだ」
722	かずさ	Kazusa	「っ…」
723	春希	Haruki	「好きだよ」
724	かずさ	Kazusa	「うん…」
725	春希	Haruki	「好きなんだよ」
726	かずさ	Kazusa	「信じる、よ。 春希」
727	春希	Haruki	「大好きだ」
728	かずさ	Kazusa	「これで、大丈夫」
729	春希	Haruki	「愛してる」
730	かずさ	Kazusa	「もうあたし… お前の嘘、見破れないよ」
731	春希	Haruki	「離れたくない…」
732	かずさ	Kazusa	「見破りたく…ないよぉ」
733	春希	Haruki	「愛してる…愛してる…かずさ…っ」
734	かずさ	Kazusa	「うん、うん…うんっ！ あは、あはは… 気持ちのいい…嘘だよなぁ」
735			かずさの身体が、ひときわ強く俺に折り重なる。
736			向こうが力を込めたのが先か、 俺が強く抱きしめたのが先か、 そんなことはわからず、そしてどっちでも良かった。
737	かずさ	Kazusa	「は、あ、あぁぁ…ああ、んっ、 は、春希、春希…ふぁ、ぁぁぁ…っ」
738	春希	Haruki	「離さない、ぞ」
739	かずさ	Kazusa	「うん…っ」
740			だって、嘘だから。 これはただの、条件反射なんだから。

Script Chart

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