White Album 2/Script/3108

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	Speaker		Text		Comment
Line #	JP	EN	JP	EN
1	かずさ	Kazusa	「よ」	"Yo."
2	曜子	Youko	「かずさ…」	"Kazusa..."
3	かずさ	Kazusa	「美代子さんに聞いてさ。 また病院に連れ戻されたって」	"I heard Miyoko-san. You're going to the hospital again."
4	曜子	Youko	「念のためよ。 あなたのコンサートを聴くために、 今のうちから体調を整えてるの」	"Just in case. To hear your concert, from now on I'm trying to improve my physical condition."
5	かずさ	Kazusa	「そりゃ、どうも。 …なぁ、この花瓶って洗ってある？」	"Wow, thanks. Hey, is this vase washed?"
6	曜子	Youko	「…で、何の用？」	"... Yeah, why?"
7	かずさ	Kazusa	「これが見舞い以外の何に見えるって言うんだ」	"Other than a get well gift, what is this for?"
8	曜子	Youko	「あなたが花束なんて珍しすぎて怖いわよ。 もしかして、ノリ君から何か聞かされたの？ 実はもってあと一月とか」
9	かずさ	Kazusa	「手ぶらじゃなかったくらいでそこまで疑うのかよ。 どれだけ娘の常識を信用してないんだよ、あんた」
10	曜子	Youko	「………」	"........."
11	かずさ	Kazusa	「とりあえず、花をいけてくる。 すぐ戻るな」
12	曜子	Youko	「看護師さんに頼みなさい。 バラの刺で指を傷つけたら承知しないわよ」
13			………	.........
14	かずさ	Kazusa	「そういえば、聞いたよ」
15	曜子	Youko	「何を？」
16	かずさ	Kazusa	「あの廃墟、買い戻したんだって？」
17	曜子	Youko	「…というか、いつまでも売れ残ってたから、 不動産屋から引き取っただけよ」
18	かずさ	Kazusa	「それでも安くなかったろ」
19	曜子	Youko	「ま、確かにね。 それにこれからもリフォームで色々と入り用になりそう。 窓とか壊されてたし」
20	かずさ	Kazusa	「へぇ、悪い奴もいたもんだな。空き巣かな」
21	曜子	Youko	「…で？」
22	かずさ	Kazusa	「ん？」
23	曜子	Youko	「そのこと、責めに来たんじゃないの？」
24	かずさ	Kazusa	「別に、あんたの金をあんたがどう使おうが、 文句を言う筋合いはないよ。 あたしで儲けた金なんてどうせたかが知れてるし」
25	曜子	Youko	「そういう意味じゃないって、 わかっててとぼけてるのよね？」
26	かずさ	Kazusa	「…さぁね」
27	曜子	Youko	「リフォームが終わったら、あの家に戻る。 もう、ウィーンには戻らない」
28	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
29	曜子	Youko	「本当は、あなたとまた二人で暮らすつもりだった」
30	かずさ	Kazusa	「そりゃ凄い。 もし実現したら八年ぶりの快挙だな」
31	曜子	Youko	「やっぱり責めるつもりだった？」
32	かずさ	Kazusa	「…ごめん、今のは条件反射。 本当にそういうつもりで来たんじゃないんだ。 むしろ逆でさ」
33	曜子	Youko	「じゃあ…なに？」
34	かずさ	Kazusa	「ごめん、母さん。 あたし…」
35	曜子	Youko	「…そう。 あなたはウィーンに戻るのね？」
36	かずさ	Kazusa	「…母さんの事情も想いも理解できる。 本当は家族が支えなくちゃならないってわかってる。 けど…」
37	曜子	Youko	「…けど？」
38	かずさ	Kazusa	「あたしもう、日本にいられない… してはいけないこと、しちゃったから」
39	曜子	Youko	「彼を…奪って行くのね？」
40	かずさ	Kazusa	「………うん」
41	曜子	Youko	「おめでとう…ある意味」
42	かずさ	Kazusa	「いいよ、そんな苦しそうな祝福なんかいらない。 どれだけのことしたか、わかってるつもりだ」
43	曜子	Youko	「その割には全身から喜びが伝わってくるのよね。 こ～んなにツヤツヤしちゃって。彼とは対照的」
44	かずさ	Kazusa	「あいつに会ったのか？　最近」
45	曜子	Youko	「昨日ね。 入院に付き添ってくれたの。 美代ちゃんが別件で出ちゃってたから」
46	かずさ	Kazusa	「そっか… じゃあ、全部知ってたんだ。 あたしの結論」
47	曜子	Youko	「ここまで無茶な略奪愛、 あなたの先代でもなかったわよ」
48	かずさ	Kazusa	「全部、あたしのせいだ。 あたしが弱い人間だったから…」
49	曜子	Youko	「かずさ…」
50	かずさ	Kazusa	「弱いから、母さんに頼ろうとして、 けど母さんがそれどころじゃないって知って、 余計に、どうしようもなく弱くなっちゃって…」
51	かずさ	Kazusa	「結局、最悪の選択をした」
52	曜子	Youko	「…あなたを除いた全員にとって、ね。 もちろん、彼も例外じゃない」
53	かずさ	Kazusa	「…うん」
54	曜子	Youko	「かずさ、あなたは彼を… そして彼の周りの人たちをみんな不幸にするのよ？ …あなたの、おままごとみたいな子供の恋で」
55	かずさ	Kazusa	「受け止めるよ。何もかも」
56	曜子	Youko	「…だから、そこでますます幸せそうな顔しないの。 当事者がその顔見たらキれるわよ？」
57	かずさ	Kazusa	「そんな幸せそうな顔、してるかな？」
58	曜子	Youko	「冗談よ。 母親より圧倒的に男の方を愛してる娘に、 少しムカついただけ」
59	かずさ	Kazusa	「…ごめん」
60	曜子	Youko	「…ま、いいわ。 今度のコンサートで償ってもらうから」
61	かずさ	Kazusa	「うん…」
62	曜子	Youko	「あと三日ね。 調子はどう？」
63	かずさ	Kazusa	「最高だよ。 今すぐにでも弾ける」
64	曜子	Youko	「そう、よかった」
65	かずさ	Kazusa	「悔いは残さない… あたしの、日本で最後のコンサートだ」
66	曜子	Youko	「あなたの生のピアノも、 これで聴き納めかしらね…」
67	かずさ	Kazusa	「………母、さん」
68	曜子	Youko	「…少し疲れたみたい。 しばらく休ませてくれるかしら」
69	かずさ	Kazusa	「うん。あたしもそろそろスタジオに戻らないと。 また来るから」
70	曜子	Youko	「それじゃ…期待してるわよ、コンサート」
71	かずさ	Kazusa	「なぁ、母さん…」
72	曜子	Youko	「なぁに？」
73	かずさ	Kazusa	「離ればなれになった家族でも、 病気の親を見捨てて逃げた娘でも…」
74	かずさ	Kazusa	「………ピアニストでない冬馬かずさでも、 あんたはあたしのことを、これからも愛してくれるか？」
75	曜子	Youko	「…ピアノ、やめる気なの？」
76	かずさ	Kazusa	「やめたいなんて思ってないけどね」
77	曜子	Youko	「じゃあ、なんで急にそんなこと？」
78	かずさ	Kazusa	「万が一の話だよ。 まったく意味のないたとえ話だ。 …じゃあね」
79	曜子	Youko	「…かずさ？」
80			………	.........
81	春希	Haruki	「それで、ツール関係はこのフォルダに入ってますから。 使い方は手順書を見ればわかるようになってます」
82	松岡	Matsuoka	「………」	"........."
83	春希	Haruki	「こっちは関係者の連絡先リスト。 一応、名刺も渡しておきますから…」
84	松岡	Matsuoka	「…なぁ」
85	春希	Haruki	「何かわからないことありましたか？」
86	松岡	Matsuoka	「増刊の方、終わったんだって？」
87	春希	Haruki	「ええ、校正も全部。 あとは発売待ちです」
88	松岡	Matsuoka	「これで後、この引き継ぎが終わったら、 お前はもうここに来なくなるんだな…」
89	春希	Haruki	「…三月いっぱいまではこの会社の人間ですから、 一月かけてゆっくり引き継いでくれていいです」
90	松岡	Matsuoka	「馬鹿にすんな。俺、お前より二年も先輩なんだぞ？ この程度の仕事、今週で全部引き継いでみせる」
91	春希	Haruki	「…すいません」
92			俺の突然の辞表提出から十日…
93			苦り切った上司たちの、まさに苦肉の暫定策として、 俺の仕事は松岡さんに全部移管されることになった。
94	松岡	Matsuoka	「大変なのは引き継いだ後だ。 単純に考えても仕事量は二倍になるんだし、 しかもウチの編集部、来期の増員予定ないんだぞ」
95			その措置が決まった瞬間、 誰もが激しく拒否すると思ってた[R当の本人^まつおかさん]は、 少し考え込む仕草を見せると、あっさり首を縦に振った。
96	松岡	Matsuoka	「まさかグラフから人が抜けるなんて、 去年の段階で誰も予想してなかったし、 とっくに新入社員の採用は終わってるし…」
97			もちろんその瞬間、 俺をきつく睨みつけることは忘れなかったけど。
98	松岡	Matsuoka	「今、浜田さんが一生懸命人事と交渉してるけど、 しばらくはバイト増やして乗り切るしかないだろうって」
99	春希	Haruki	「本当に、みんなには迷惑かけてしまって…」
100	松岡	Matsuoka	「どんな家庭の事情があるのか知らないけどさ… 俺、お前のこと、仕事を放り出して 逃げ出した奴としか思ってないから」
101	春希	Haruki	「………はい」
102	松岡	Matsuoka	「送別会、断ったんだって？」
103	春希	Haruki	「円満退職じゃないですから… それに、誰も来てくれませんよ」
104			俺が辞めるって話が伝わって以来、 編集部の空気は、明らかに悪くなっていた。
105	松岡	Matsuoka	「なんでそんなふうに決めつけるんだよ。 そうやってお前が勝手に壁作るから、 ますます誰も声かけられなくなるんだろうが」
106	春希	Haruki	「…すいません」
107			浜田さんは部下に当たり散らすことが多くなり、 鈴木さんの雑談は消え、木崎さんはますます出先ばかり。
108	松岡	Matsuoka	「ほんっと、今のお前は苛つくな。 もともとそういう性格してたけど、 辞めるって言ってからますます意固地になりやがって」
109	春希	Haruki	「………はい」
110			そして、ほぼ唯一まだ俺と話をしてくれる… というか、仕事上話をせざるを得ない松岡さんは、 ずっと、こんな調子で。
111			自分でわかりすぎてる俺の問題を指摘して、 結局、俺に何も言えなくさせてしまう。
112			そうやって編集部からどんどん会話が消えていき、 締め切り後のエアポケットと相まって、 ここが出版社とは思えない静けさに包まれている。
113	松岡	Matsuoka	「なぁ」
114	春希	Haruki	「なんですか？」
115	松岡	Matsuoka	「少しくらいは償おうとか思わないのかよ。 俺なんか、来月から休日が全部吹っ飛ぶんだぞ？」
116	春希	Haruki	「それは… 俺でできることなら」
117			これも、俺の決断が招いてしまったこと。 壊してしまった、今までの世界の欠片。
118			あと一月。 この罪を少しでも償えるなら、俺は…
119	松岡	Matsuoka	「じゃあ… 今日のノルマが終わったら、飲みに行くぞ」
120	春希	Haruki	「………え？」
121	松岡	Matsuoka	「北原が奢れよ？ 俺に仕事押しつけて逃げてくんだからな。当然だろ？」
122	春希	Haruki	「松岡さん…？」
123			俺は、どんな責め苦でも受けるつもりだったのに…
124	松岡	Matsuoka	「その代わり、お前の分は俺が出すから。 …一応、送別会の主賓だし」
125	春希	Haruki	「それって…割り勘ってことじゃ」
126	松岡	Matsuoka	「いちいちうるせぇなぁ！ 来るのか？　来ないのか？ 口答えすんなよペーペーのくせに！」
127			浜田さんは部下に当たり散らすことが多くなり、 鈴木さんの雑談は消え、木崎さんはますます出先ばかり。
128			そして、松岡さんは…
129	春希	Haruki	「…ありがとう、ございます」
130	松岡	Matsuoka	「感謝なんかしたら後悔するぞ。 飲んでる間中、ずっとお前のこと罵ってやるからな」
131	春希	Haruki	「はい…覚悟しときます」
132			俺を厳しい表情で睨みつけ、 軽く、肩をぽんと叩いた。
133			………	.........
134	かずさ	Kazusa	「そっか…」
135	春希	Haruki	「というわけで悪いけど、今日遅くなる。 飲んで帰るから、夕飯は…」
136	かずさ	Kazusa	「あ～、わかってる。 外で済ませてくるから」
137	春希	Haruki	「食事抜くなよ？　野菜多めに取れよ？ あと酒と甘いものは控えるんだぞ？ …コンサート、明日なんだから」
138	かずさ	Kazusa	「そうやって、本物の母親より母親らしいこと言うな。 だからやっかまれるんだ」
139	春希	Haruki	「…誰に？」
140	かずさ	Kazusa	「とにかくこっちは了解したから。 行って来いよ、送別会なんだろ？ …お前は少しくらい羽目を外せ」
141	春希	Haruki	「ん…そうさせてもらう。 悪いな、コンサートの前日に側にいられなくて」
142	かずさ	Kazusa	「いいよ。 それより楽しんで来いよ？」
143	春希	Haruki	「あ、それでさ… 明日、何時に会場入りだっけ？」
144	かずさ	Kazusa	「昼過ぎには出るよ。 もしかしたら、すれ違いになるかもな」
145	春希	Haruki	「朝、出勤前に起こしてもいいか？ ほんの少し、話すだけでいいからさ」
146	かずさ	Kazusa	「うん、わかった。 それじゃ、今日は早く寝る」
147	春希	Haruki	「じゃ…おやすみ」
148	かずさ	Kazusa	「ああ…」
149	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
150	かずさ	Kazusa	「そっか…遅くなるのか」
151	かずさ	Kazusa	「ちょうど、良かった…」
152			………	.........
153			……	......
154			…	...
155	かずさ	Kazusa	「あ…」
156	かずさ	Kazusa	「本当に、来てくれたんだ」
157	かずさ	Kazusa	「ありがとう………雪菜」
158	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
159			………	.........
160	かずさ	Kazusa	「その、ごめん」
161	雪菜	Setsuna	「…何が？」
162	かずさ	Kazusa	「え、ええと… こんな夜遅くに呼び出したりして」
163	雪菜	Setsuna	「あぁ、それなら何時でも平気」
164	かずさ	Kazusa	「でも雪菜の家って確か両親が…」
165	雪菜	Setsuna	「大丈夫。 先週から家を出てビジネスホテルに泊まってる」
166	かずさ	Kazusa	「え、なんで？」
167	雪菜	Setsuna	「………うざいから、家族。 顔も見たくない」
168	かずさ	Kazusa	「…ぇ？」
169	雪菜	Setsuna	「今になって、 昔かずさが言ってたこと、わかるようになってきた。 ほんっと、いい加減にして欲しい」
170	かずさ	Kazusa	「せ、雪菜…？」
171	雪菜	Setsuna	「そんなことよりも今はかずさのことだよ！ ね、明日、追加公演だよね？」
172	かずさ	Kazusa	「え？　あ、ああ…」
173	雪菜	Setsuna	「先月の公演も大盛況だったんだよね！ 余計にプレッシャーとかかかったりしない？」
174	かずさ	Kazusa	「…今度は大丈夫。 もう完璧に仕上がってる。 今日はゆっくり寝て、明日に備えるだけだよ」
175	雪菜	Setsuna	「そっか…よかった。 うん、本当によかった！　頑張ってね！ あ～、わたし見に行けないけどごめんね」
176	かずさ	Kazusa	「あ、あのさ、雪菜…」
177	雪菜	Setsuna	「ね、その眼鏡さぁ」
178	かずさ	Kazusa	「え…？」
179	雪菜	Setsuna	「最初、誰だかわからなかった。髪形も違ってるし。 けどやっぱりかずさだと何でも似合うよね」
180	かずさ	Kazusa	「あ、ああ、これ伊達なんだ。 何度か面が割れちゃって、それで」
181	雪菜	Setsuna	「ほんっと大活躍だもんね！ 日本中で有名になっちゃったね」
182	かずさ	Kazusa	「別にあたしは何も変わってないけどさ…」
183	雪菜	Setsuna	「そんなことないよ！ 何しろ、ジェバンニ国際コンクール入賞だよ」
184	かずさ	Kazusa	「優勝どころか、３位にも入れなかった。 だいたい皆、優勝者の名前ちゃんと知ってるのかな」
185	雪菜	Setsuna	「それでも日本人最高位だもん！ 国内で騒がれるのは当たり前だよ」
186	かずさ	Kazusa	「違うよ、あたしが曜子の娘だから。 冬馬って名字だから。 ただ、それだけだよ」
187	雪菜	Setsuna	「ううん、それだけじゃない。 かずさ自身の力だよ。 そうに決まってる！」
188	かずさ	Kazusa	「そんなこと…」
189	雪菜	Setsuna	「そんなことある。 あなたはたくさんのものを持ってるよ」
190	かずさ	Kazusa	「せ、雪菜…」
191	雪菜	Setsuna	「ピアノに、賞に、女性としての魅力。 それに、それに…」
192	かずさ	Kazusa	「やめろって、くすぐったい」
193	雪菜	Setsuna	「愛する、ひと」
194	かずさ	Kazusa	「……ぇ」
195	雪菜	Setsuna	「全部、かずさが持ってる」
196	雪菜	Setsuna	「いつの間にか、 かずさのものになってる…」
197	かずさ	Kazusa	「雪菜…」
198	鈴木	Suzuki	「お、いたいた。 やっほ～、楽しんでる～？」
199	春希	Haruki	「え…？」
200			いつものバーで細々と飲んでいた俺たちの席に、 いつもみたいに賑やかな声が被さった。
201	松岡	Matsuoka	「今吊るし上げてたとこ。 自分がどれだけ身勝手で人の事を考えなくて、 仕事もできない最低最悪な奴かってことをさ」
202	鈴木	Suzuki	「松っちゃんがそれ言うか～、ってとこはあるけど、 まぁ、一番の被害者だもん仕方ないよね。 あ、わたしもとりあえずビール」
203	春希	Haruki	「鈴木さん…？」
204			けどそれは、飛び入りにしてもありえないメンバーで…
205	松岡	Matsuoka	「今日のこと、実は鈴木さんの企画だったんだよ。 で、俺が連れ出す役目だったわけ」
206	春希	Haruki	「どうして…？」
207	鈴木	Suzuki	「だってさぁ、正式な送別会って言っちゃうと、 北原君、意固地になって辞退すると思ってさ」
208	春希	Haruki	「そういう意味で聞いたんじゃなくて…」
209			俺が辞めるって話が伝わって以来、 編集部の空気は、悪くなっていたはずだった。
210			浜田さんは部下に当たり散らすことが多くなり、 そして今、目の前にいる鈴木さんの口から雑談は消え…
211	松岡	Matsuoka	「もちろん、二人とも納得してないぞ。 そんなの、当たり前だろ」
212	鈴木	Suzuki	「理由も言わず仕事放り出して辞めるなんて言われて、 怒らない方がどうかしてるじゃんねぇ。 上司が北原君なら一日中説教されるレベルだよ」
213	春希	Haruki	「そうですよ。 なのに…」
214			それでも、その口数の減った先輩は今俺の隣にいて、 当然のように俺の送別会に参加する。
215	松岡	Matsuoka	「お前の悪口は昨日の飲み会で言い尽くしたんだよ。 だからもう、黙って送り出そうってことになってさ」
216			俺の身勝手のとばっちりを受けて、 ずっと俺に厳しく当たっていた先輩とともに。
217	鈴木	Suzuki	「わたしたちだって後味悪い終わり方なんて嫌だもん。 バイト時代から数えたらさぁ、 三年も一緒に働いた仲間じゃん」
218	松岡	Matsuoka	「だからこそ、黙って行かれるのは 『やってられるか』とも思うけどさ…」
219	鈴木	Suzuki	「それでもきっと、思いっきり悩んだんだよね。 一生分の苦労を背負う勢いでさ。 そういう男の子だもん、君は」
220	春希	Haruki	「そんな、こと…」
221	松岡	Matsuoka	「それじゃ、あらためて乾杯！」
222	鈴木	Suzuki	「北原君の、新天地での活躍を祈念して」
223	春希	Haruki	「っ…」
224			………	.........
225	かずさ	Kazusa	「…ごめん」
226	雪菜	Setsuna	「何が？」
227	かずさ	Kazusa	「何がって…それは、その…」
228	雪菜	Setsuna	「なんでそんなにウジウジしてるのかなぁ。 今や日本中で話題の天才美人ピアニストらしくないなぁ」
229	かずさ	Kazusa	「じゃあ、はっきり言うよ。 …雪菜の[R春希^もの]、奪ってごめん」
230	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
231	かずさ	Kazusa	「諦めが悪くてごめん。 最低の裏切りしてごめん。 …ずっと春希、愛してて、ごめん」
232	雪菜	Setsuna	「ふ、ふふ…」
233	かずさ	Kazusa	「雪菜？」
234	雪菜	Setsuna	「別に謝られることなんか何もないよぉ。 ふふっ、あはは…」
235	かずさ	Kazusa	「で、でもあたしは」
236	雪菜	Setsuna	「知ってたもん。 わたし、かずさの気持ちが変わらないって、 知ってたもん」
237	かずさ	Kazusa	「え…」
238	雪菜	Setsuna	「あなたと春希くんが再会したら絶対にこうなるって、 五年前から、ずぅっと知ってたんだもん」
239	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
240	雪菜	Setsuna	「けれどね、わたしね、 三人にとって一番の解決法、見つけたの。 だからもう、いいんだよ」
241	かずさ	Kazusa	「それ…って」
242	雪菜	Setsuna	「三人でね…三人でいればいいの。 これからも、ずっと」
243	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
244	雪菜	Setsuna	「だから、謝ってもらうことなんかない。 だって、みんな一緒に幸せになるんだから…」
245	かずさ	Kazusa	「…無理だよ、雪菜。 それこそ、ただの夢だ」
246	雪菜	Setsuna	「どうして…？ 昔はできてたのに、なんで…」
247	かずさ	Kazusa	「何言ってんだよ… 昔から、全然できてなんかいなかったよ」
248	雪菜	Setsuna	「え…」
249	かずさ	Kazusa	「三人でいることに耐えられなかったんだよ、あたし。 だから、逃げ出したんじゃないか」
250	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
251	かずさ	Kazusa	「全部、あたしの独占欲がいけないんだ…」
252	雪菜	Setsuna	「かずさ…」
253	かずさ	Kazusa	「三人でいることがどれだけ楽しくても、 気がついたら雪菜を妬んでるんだ。 憎んでるんだよ、あたし」
254	かずさ	Kazusa	「雪菜のことをどれだけ好きになっても、 春希と一緒にいる…春希と愛しあってる雪菜は、 絶対に許せないんだよ…」
255	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
256	かずさ	Kazusa	「だから、これからも一緒に歩いていけない。 雪菜から春希を奪うしかないんだ。 たとえ…」
257	雪菜	Setsuna	「思い込みじゃ…ないのかなぁ」
258	かずさ	Kazusa	「え？」
259	雪菜	Setsuna	「…あなたの求めてる春希くんは、 本当に、今ここにいる春希くんなのかなぁ」
260	かずさ	Kazusa	「…なんだよ、それ」
261	雪菜	Setsuna	「ずっと会えなかった五年間のうちに かずさが作り上げた理想の存在… アイドル、なんじゃないの？」
262	かずさ	Kazusa	「っ…雪菜！」
263	雪菜	Setsuna	「わたしはずっと、本当の春希くんを知ってる」
264	雪菜	Setsuna	「三年間、ずっと遠くから見てきた。 二年間、ずっと側で見てきた」
265	かずさ	Kazusa	「雪菜…お前、ついさっき言ったじゃないか。 あたしの気持ちが変わらないこと知ってるって…」
266	雪菜	Setsuna	「かずさの気持ちが変わらなくても、 春希くんは変わってしまったんだって、 どうして思えないのかなぁ」
267	かずさ	Kazusa	「あたしの想いが、嘘だって… ただの思い込みだって言うのかよ…？」
268	雪菜	Setsuna	「じゃあかずさは、 春希くんの欠点をどれだけ知ってる？」
269	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
270	雪菜	Setsuna	「わたしは、嫌なところも駄目なところも沢山知ってる。 …それ以上に、いいところも、素敵なところも、 数え切れないくらい知ってる」
271	雪菜	Setsuna	「かずさが五年間、 ずっと夢の中で描いてきた春希くんなんかとは違う… 本物…なの」
272	かずさ	Kazusa	「あたしが…本当の春希を見てないって言うのか？」
273	雪菜	Setsuna	「違う…かな？」
274	かずさ	Kazusa	「ふざけるな… あたしの頭の中にいる理想の男が、 こんなにもあたしを苦しめるもんか、泣かせるもんか」
275	雪菜	Setsuna	「かずさ…」
276	かずさ	Kazusa	「あたしを受け入れるまでに、あんなに迷うもんか。 …あたしを選ぶことで、あんなに傷つくもんか」
277	かずさ	Kazusa	「たとえあたしの五年間が全部夢だったとしても、 それでもあたしはこの数日間、現実と戦ったんだ…」
278	かずさ	Kazusa	「そしてあたしは… 理想と現実とのギャップに、 押し潰されたりしなかったんだ」
279	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
280	かずさ	Kazusa	「今の春希が好きだ…」
281	雪菜	Setsuna	「わたしだって、今の春希くんが好き」
282	かずさ	Kazusa	「根っこのところで全然変わってない、 あの杓子定規がやっぱり好きなんだ！」
283	雪菜	Setsuna	「ずっと苦しんで、昔以上に頑張って、 少しずつ、優しく、強く変わっていった彼を、 変わるたびに新しく愛していったんだよ」
284	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
285	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
286	かずさ	Kazusa	「わかってたけど… あたしたち、もう元通りに戻れないんだな」
287	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
288	かずさ	Kazusa	「ただ、償うしか…」
289	雪菜	Setsuna	「ふ、ふふ…」
290	かずさ	Kazusa	「え？」
291	雪菜	Setsuna	「別に謝られることなんか何もないよぉ。 ふふっ、あはは…」
292	かずさ	Kazusa	「せ、雪菜…？」
293	雪菜	Setsuna	「だってわたしね、 三人にとって一番の解決法、見つけたの。 だからもう、いいんだよ」
294	かずさ	Kazusa	「お、おい…」
295	雪菜	Setsuna	「三人でね…三人でいればいいの。 これからも、ずっと」
296	かずさ	Kazusa	「………っ」
297	雪菜	Setsuna	「わたし、あなたの気持ち、否定しない。 …あなたたちのこと、認める」
298	かずさ	Kazusa	「雪菜…どうしたんだよ」
299	雪菜	Setsuna	「だって、悪いのはわたしだもん。 五年前、かずさを裏切って、春希くんを傷つけて…」
300	かずさ	Kazusa	「そういうこと言ってるんじゃないよ。 ついさっき、その話は終わったばかりだろ？」
301	雪菜	Setsuna	「え？　したっけ？」
302	かずさ	Kazusa	「せ、雪菜…」
303	雪菜	Setsuna	「？ ………あ～、またかぁ」
304	かずさ	Kazusa	「また…って」
305	雪菜	Setsuna	「わたし、言ってることおかしかった？ 支離滅裂？」
306	かずさ	Kazusa	「あ、いや…ただ」
307	雪菜	Setsuna	「なんか、ここ数日みんなが同じこと言うんだよねぇ」
308	かずさ	Kazusa	「同じこと…って？」
309	雪菜	Setsuna	「さっき話してたことすぐ忘れて同じ話を繰り返すとか、 自分の言ったことを自分で否定するとか」
310	かずさ	Kazusa	「っ…」
311	雪菜	Setsuna	「なんなんだろうねぇ。 わたし、壊れちゃったのかなぁ」
312	かずさ	Kazusa	「い、いや…そんなこと」
313	雪菜	Setsuna	「あはは…気を使わなくていいよぉ。 実はちょっとだけ自覚症状あるんだ」
314	かずさ	Kazusa	「そんな…」
315	雪菜	Setsuna	「ふと気づくとね、 人の言ったことも、自分の言ったことも、 全然覚えてなかったりするの」
316	かずさ	Kazusa	「ぁ、ぁ…」
317	雪菜	Setsuna	「つい今しがた、電話で話してたことも、 切ったらすっかり忘れてたりして、 もう、仕事にならないんだ」
318	雪菜	Setsuna	「だから昨日、とうとう担当外されちゃった。 すぐに帰ってお医者さんに見てもらえって。 しばらくは大きな仕事任せないって…言われちゃった」
319	かずさ	Kazusa	「それで…行ったのか？　病院」
320	雪菜	Setsuna	「ね、かずさはどう思う？ わたし、本当に壊れちゃったのかな？」
321	かずさ	Kazusa	「そんなのあたしにわかるわけない。 だから病院に行こう？」
322	雪菜	Setsuna	「でも、壊れちゃってもいいかぁ…」
323	かずさ	Kazusa	「雪菜！」
324	雪菜	Setsuna	「だって、わたしが壊れてしまったら… 何もかも忘れてしまって、 もう、彼なしには生きていけなくなってしまえたら…」
325	雪菜	Setsuna	「そしたら春希くんは、考え直してくれるかなぁ。 少しは、迷ってくれるのかなぁ…？」
326	かずさ	Kazusa	「そんなこと言うなよ… そんなこと、言わないでくれよ！」
327	雪菜	Setsuna	「ね、かずさはどう思う？ わたし、やっぱりあなたに勝てないかなぁ？」
328	かずさ	Kazusa	「わからない、わからない、わからないよ…っ、 あいつがまた、すごく苦しむってことしか、わからない」
329	雪菜	Setsuna	「かずさがそれを言うんだぁ… 最初に彼を追い詰めたあなたが…っ」
330	かずさ	Kazusa	「あいつは言ったんだ。もしもの話に意味はないって。 そういうこと、ならなかったんだって。 だから、考えるだけ無駄だって」
331	雪菜	Setsuna	「じゃあ、もしも… もしも本当に、わたしが…」
332	かずさ	Kazusa	「あいつだけじゃない…あたしだって苦しむ。 どうしたらいいか、死にものぐるいで考えるよ！」
333	雪菜	Setsuna	「そっか…そっかぁ」
334	かずさ	Kazusa	「でも、でもさ…っ」
335	雪菜	Setsuna	「んぅ？」
336	かずさ	Kazusa	「それでも、あたしが春希を諦めることは、 もう、ないよ」
337	雪菜	Setsuna	「かず、さ…」
338	木崎	Kizaki	「お待たせ～。 悪い悪い、唐澤先生いつも通り締め切りギリギリでさ～」
339	春希	Haruki	「あ…」
340			三人で、二度目の乾杯をしてから数分後…
341	鈴木	Suzuki	「おっそ～い！ もう来ないかと思っちゃったよ～」
342	松岡	Matsuoka	「最初はビールでいいですよね？ すいません、これ同じの二つ」
343			あろうことか、三度目の乾杯の機会が巡ってきた。
344	木崎	Kizaki	「いやほんと、悪かったな北原。 せっかくの送別会なのに遅刻しちゃって」
345	春希	Haruki	「木崎さんまで…」
346			最近、ずっと出先ばかりで、 たまに顔を合わせても一言も会話がなくて、 あからさまに避けられてたはずの先輩が…
347	木崎	Kizaki	「どうした暗い顔して？
348	木崎	Kizaki	あ～、早速こいつらにこっぴどく苛められたな？」
349	春希	Haruki	「い、いえ…いえっ」
350			昔みたいに軽く背中を叩くと、 昔みたいな軽い笑顔を向けてくれる。
351			俺の、送別会で。
352	鈴木	Suzuki	「松っちゃんたら酷いの。 わたしが来たときにはもう北原君泣かせててさぁ、 だから今、間に入って必死で慰めてたとこ」
353	松岡	Matsuoka	「全然逆じゃん！ 鈴木さん来てからもう雰囲気悪いのなんのって。 いつまで根に持ってんだよこの人って感じで」
354	木崎	Kizaki	「あ～あ、最低だな。 お前らには容赦ってものがないのか」
355	春希	Haruki	「そんな…違うんです。 悪いのは俺の方で」
356	松岡	Matsuoka	「…いや、そこでマジに反応されたら、 俺たちのネタが潰されちゃうんだけど」
357	鈴木	Suzuki	「…忘れてた。北原君だったんだ。 自虐で笑い取れない人だもんねぇ」
358	木崎	Kizaki	「ほらお前ら、もういいから弄ってやるな。 その代わりここの払いは任せとけ。 …って、浜田さんからの伝言」
359	春希	Haruki	「………ぇ？」
360			そして極めつけは…
361	松岡	Matsuoka	「お～！ さっすが話せる上司～！」
362	鈴木	Suzuki	「それじゃ全員揃ったところで～、 浜田さんに乾杯～！」
363			自分のチームの部下に、 何の理由も告げられず辞められて、 一番ショックを受けていたはずの先輩が…
364	春希	Haruki	「き、木崎さん…？」
365	木崎	Kizaki	「あの人もさぁ、本当は来たかったんだろうけどな。 でも立場ってものもあるから…わかってあげてくれ」
366	春希	Haruki	「～～～っ！」
367			何もかも自分の胸に納めて、 何も言わず、送り出してくれる。
368	木崎	Kizaki	「お、おい…北原？」
369	松岡	Matsuoka	「なんだよ～。 木崎さんこそいきなり北原苛めてんじゃん～」
370	鈴木	Suzuki	「来て一分も経たないうちに泣かせちゃって～。 ほんっとウチの編集部の男どもって、 陰湿なのばっかなんだから～」
371	春希	Haruki	「す、すいませ…っ、 は、はは…っ」
372			………	.........
373	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
374	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
375	雪菜	Setsuna	「ねぇ」
376	かずさ	Kazusa	「ん？」
377	雪菜	Setsuna	「もう、帰ったら？ どれだけ話し合っても無駄だよ？」
378	かずさ	Kazusa	「けど…」
379	雪菜	Setsuna	「今のわたしが聞いたって意味ないから。 すぐに忘れちゃうかもしれないし」
380	かずさ	Kazusa	「………っ」
381	雪菜	Setsuna	「だから、帰った方がいいよ。 どうせ何も解決なんかしない」
382	かずさ	Kazusa	「雪菜…」
383	雪菜	Setsuna	「それに明日、あなたは…」
384	かずさ	Kazusa	「それでも聞いてくれ。 聞き流したって、無視したって、忘れたっていい」
385	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
386	かずさ	Kazusa	「あたし、雪菜のこと好きだ。 好きだし、尊敬してる」
387	かずさ	Kazusa	「お前は、初めて会ったときから正しい人間だった。 春希と同じ…ううん、 あいつ以上にまっすぐで、強かった」
388	かずさ	Kazusa	「あたしには、雪菜のその正しさが怖かった。 そして眩しかった」
389	かずさ	Kazusa	「だってあたし、何もかも間違った人間だから。 雪菜と正反対だったからさ…」
390	かずさ	Kazusa	「なのにお前はさ…あたしとぜんぜん違ういい奴のくせに、 男の趣味の悪さだけは、 嫌になるくらいあたしと同じだった…」
391	雪菜	Setsuna	「っ…」
392	かずさ	Kazusa	「だから、裏切った。 あたしのこと、わかろうとしてくれた… 好きになってくれたお前を、一番酷いやり方で、二度も」
393	かずさ	Kazusa	「あたしには、それを止められない」
394	かずさ	Kazusa	「悪いことだってわかってる。 許されないって知ってる。 けど、裏切らずにはいられないんだ」
395	かずさ	Kazusa	「あたし弱い人間だから、 あたしが卑しい人間だから、 お前から、春希を奪うしかないんだ」
396	かずさ	Kazusa	「だからもう、三人でいられない。 雪菜のせいじゃなくて、春希のせいじゃなくて、 …あたしのせいで」
397	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
398	かずさ	Kazusa	「ごめん、な」
399	雪菜	Setsuna	「ごめん、聞いてなかった」
400	かずさ	Kazusa	「いいよ、別に。 あたしが勝手に喋ってるだけだ」
401	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
402	かずさ	Kazusa	「だからさ、雪菜…」
403	かずさ	Kazusa	「あたしの憧れだった強い雪菜が、 あたしのせいで、その強さを失ってしまうなら…」
404	かずさ	Kazusa	「………っ」
405	かずさ	Kazusa	「あたし、代償を払う。 …ピアノ、あげるよ」
406	雪菜	Setsuna	「…そんなの、何の意味もない」
407	かずさ	Kazusa	「ああ、そうだな。 単なるあたしの自己満足だ」
408	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
409	かずさ	Kazusa	「家事なんか何もできないけど、 そもそも、人の役に立つこと何もしないけど」
410	雪菜	Setsuna	「………ピア、ノ？」
411	かずさ	Kazusa	「あたしが雪菜にしたことに比べれば、 全然足りないのはわかってるけどさ…」
412	かずさ	Kazusa	「でもあたしにはピアノしかないから。 他には何も持ってない駄目な女だから…」
413	雪菜	Setsuna	「っ！？」
414	かずさ	Kazusa	「だから…ピアノを捨てるくらいしかないんだ。 ごめんね、雪菜」
415			………	.........
416			……	......
417			…	...
418	春希	Haruki	「ふぅぅぅぅ～」
419			本当に久しぶりだった。
420			浴びるように飲んだのも。 あれだけ喋ったのも、笑ったのも。 そして、少しみっともない感情の爆発も。
421			あんなに見苦しい自分を他人に見せたのも。 こんなに苦しくない気持ちになれたのも。
422			日本を全部捨てたはずの俺に、 少しだけ、向こうに持って行ってもいい 思い出を残してくれた。
423			単なる社交辞令かもしれないけど、 それが大人の対応なのかもしれないけど。
424			それでも、みんなの心遣いがありがたかった。 心の底から嬉しかった。
425			全身が火照ってる。 顔も、喉も、ついでに目まで。
426			これだけ酔ってるのに。
427			ここ最近、眠れない夜が続いたせいで、 ものすごい睡眠不足なのに。
428			それでも今夜は、別の意味で眠れそうにない。 というか、眠りたくなかった。
429	春希	Haruki	「…と」
430			エレベーターから一歩踏み出すと、 それだけで体がふらつく。
431			いつもなら、こんな飲み方をする同僚や友人を、 肩を貸しながら説教するはずの俺が。
432	春希	Haruki	「い、しょ、と」
433			酔っ払いみたいな掛け声とともに、 壁にもたれると、そのまま壁伝いにゆっくりと進む。
434			なるべく物音を立てないようにという理性だけは、 ほんの少し保ったまま。
435			だって、かずさはもう寝てる。
436			明日はコンサートだから、 今日だけは、起こしてしまうわけにはいかない。
437			自分の部屋で寝てくれてたらいいけど、 もし俺のベッドにいたらどうやって…
438	春希	Haruki	「………ぇ？」
439	かずさ	Kazusa	「ん…」
440	春希	Haruki	「………」	"........."
441			かずさは、もう寝てた。
442			明日はコンサートだから、 今日だけは、起こしてしまうわけにはいかない。
443			自分の部屋で寝てくれてたらいいけど、 もし俺の…
444	春希	Haruki	「かずさ！ おい、何やってんだよお前！」
445	かずさ	Kazusa	「…んあ？」
446			なんて、どう気を使おうか考えてる場合じゃなかった。
447			かずさは、もう寝てた。 …外で。
448	春希	Haruki	「明日コンサートだってのに凍死する気か！ あ～もう、訳わかんないことしないでくれよ…」
449	かずさ	Kazusa	「………おかえり、春希」
450			少しろれつの回らない俺の怒号を、 えらくあっさりとスルーしてかずさが微笑む。
451			…ほんの少し、寂しさと痛さを感じさせる表情で。
452	春希	Haruki	「…鍵、どっかに落としたか？」
453	かずさ	Kazusa	「あ、ええと…持ってる。 どっちの部屋のも」
454	春希	Haruki	「じゃあ、なんで入ってないんだよ。 後は鍵外してドア開けるだけだろ。 どんだけ物臭なんだよ」
455	かずさ	Kazusa	「それは、その… どうしても、春希の顔、見たくなっちゃってさ」
456	春希	Haruki	「え、ええと… 明日、そっちに顔出すって言ったろ」
457	かずさ	Kazusa	「なるべく早く… とにかく、可能な限り早く、 お前に会いたかったんだよ」
458	春希	Haruki	「かずさ…？」
459			それは、確かに俺に甘えてる仕草も混じってたけど。
460			けれどその喉の奥に、甘いだけではない、 別の味が広がっているみたいな表情をたたえてて…
461	春希	Haruki	「…手、出せ」
462	かずさ	Kazusa	「………え」
463	春希	Haruki	「立つんだよ。 ほら」
464	かずさ	Kazusa	「い、いや…いいよ。 自分で立てるよ」
465			俺の差し出した手を取ろうとせず、 その場からも動こうとしない。
466			会いたかったと言ってた俺に会えたはずなのに、 瞳から、不安と苦痛の色は未だ消えていない。
467	春希	Haruki	「どうしたんだよ、本当に」
468	かずさ	Kazusa	「そ、それは…」
469			俺の手から逃れるように、 自分の手を背中に回し、壁との間に隠す。
470			その意固地なくせにうじうじした態度に、 酔っていた俺は簡単に我慢の限界を突破し…
471	春希	Haruki	「風邪ひくだろ！ 意味もなく拗ねるのもいい加減にしろ！」
472	かずさ	Kazusa	「や、やめっ…」
473			かずさの目の前に膝をつき、 抱きかかえるように背中に手を回し、 かずさの両手をまさぐる。
474			かずさは必死に抵抗したけれど、 所詮、男の力に…というか、 身体ごと抱え込まれてはどうしようもなく…
475	春希	Haruki	「っ………なんだよ、これ」
476	かずさ	Kazusa	「…っ」
477			とうとう俺に、手のひらを掴まれ、 苦悶の表情を浮かべ…
478	春希	Haruki	「まるで凍ってるみたいじゃないか… こんなんで明日ピアノ弾けるのかよ！ お前、本当になに考えて…」
479	かずさ	Kazusa	「なんで…五体満足なんだろうな、あたし」
480	春希	Haruki	「え…？」
481			そして、意味のわからない独り言を呟いた。
482			かずさの手は、とても冷たくて… そしていつも通り、細く白く滑らかだった。
483	雪菜	Setsuna	「っ…」
484	かずさ	Kazusa	「ぁ…」
485	店員	Clerk	「お、お客様？」
486	雪菜	Setsuna	「すいません。 グラス落としてしまって。 今、片づけますから」
487	店員	Clerk	「あ………い、いえ！ こちらで片づけますから。 お手を触れないように」
488	雪菜	Setsuna	「本当にごめんなさい。 ………出ようか、かずさ」
489	かずさ	Kazusa	「雪菜…」
490			………	.........
491	かずさ	Kazusa	「なんで…」
492	かずさ	Kazusa	「なんで…止めるんだよ」
493	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
494	かずさ	Kazusa	「あたし、お前の幸せぶち壊したんだぞ？ 人生、狂わせたんだぞ？」
495	かずさ	Kazusa	「しかも、これで二回目なんだぞ？ 雪菜と春希のこと、邪魔ばかりしてたんだぞ？」
496	かずさ	Kazusa	「………不倶戴天の敵、なんだぞ？」
497	雪菜	Setsuna	「っ…」
498	かずさ	Kazusa	「少しは…恨みを晴らそうとか思わないのかよ。 あたしを同じ目に遭わせようとか、考えないのかよ」
499	雪菜	Setsuna	「わからない…っ」
500	かずさ	Kazusa	「え…」
501	雪菜	Setsuna	「わたし、まるで理解してなかった。 かずさの言ってること、何も頭に入ってなかったんだよ。 本当に、どうでもよかったんだ…」
502	かずさ	Kazusa	「じゃあ、なんで…」
503	雪菜	Setsuna	「だからわからないんだよ！ 気がついたら振り払ってた。 あなたの愚かな真似を、必死で止めてた」
504	かずさ	Kazusa	「ぁ…」
505	雪菜	Setsuna	「…わたしには関係ないはずだったのに」
506	かずさ	Kazusa	「雪菜…っ」
507	雪菜	Setsuna	「なんで… どうしてわたし…」
508	かずさ	Kazusa	「雪菜、お前は…」
509	雪菜	Setsuna	「違う…」
510	かずさ	Kazusa	「やっぱりお前はさぁ…っ、 こんなにも、こんなにもさぁ…」
511	雪菜	Setsuna	「言わないで！」
512	かずさ	Kazusa	「っ…」
513	雪菜	Setsuna	「わからない… わたしには、何もわからない」
514	雪菜	Setsuna	「自分のことも、春希くんのことも、かずさのことも…」
515	雪菜	Setsuna	「もう、何もかも、わからないんだよ…」
516			………	.........
517	かずさ	Kazusa	「春希、春希、春希ぃ… う、うぇぇ…ごめん、ごめん、あたしっ」
518	春希	Haruki	「今は、そんなにしがみつくなよ。 俺、酒臭いだろ」
519	かずさ	Kazusa	「雪菜を、壊しちゃった… なのに、お前のこと護ろうとして、余計に傷つけて」
520	春希	Haruki	「かずさ…」
521			どんなに諌めても、引き剥がそうとしても、 かずさは怯むことなく、 俺の胸に思い切り顔を擦り付ける。
522			むせ返るようなアルコール臭の中、 ほんのわずかな俺の匂いを逃すまいとするように。
523	かずさ	Kazusa	「あたし、馬鹿だ…」
524	春希	Haruki	「何を今さら」
525	かずさ	Kazusa	「言うなぁ…っ」
526			かずさは今夜、 俺に黙って、雪菜に会いに行っていた。
527			雪菜との破局に苦しむ俺を見かねて、 俺を庇おうと、護ろうとしたらしかった。
528			それは、とてもこいつらしい… 考えなしで、無鉄砲で、意味のない行動だった。
529	かずさ	Kazusa	「許されるとは思ってなかった。 それでも謝りたかった。償いたかった。 …話を、したかったんだよ」
530	春希	Haruki	「そっか…」
531			本当に、馬鹿だ。
532			二人とも傷つくに決まってるのに。
533			それでも、俺を救うなんて自分の中の甘言に[R唆^そそのか]され、 雪菜にとってはまるで意味のない、 けれどかずさの命とも言えるものを差し出そうとした。
534	かずさ	Kazusa	「でも、雪菜は…っ、 あたしのせいで、雪菜はぁ…っ」
535	春希	Haruki	「もう泣くな…」
536			それがますます雪菜を追い込み、 どうしようもなく決裂してしまうなんて、 火を見るより明らかだったのに。
537			………	.........
538	春希	Haruki	「お前は馬鹿なんだからさ」
539	かずさ	Kazusa	「う、うん…」
540	春希	Haruki	「あれこれ考えたって、 いい解決法なんか浮かぶ訳ないんだからさ。 それどころか事態を引っかき回すだけなんだからさ」
541	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
542	春希	Haruki	「こういうことに関しては、 本当に役立たずなんだからさ」
543	かずさ	Kazusa	「お前…本当のことだからって、 何もそんな滅茶苦茶に言うことないだろ…」
544	春希	Haruki	「お前が滅茶苦茶なことするからだろ。 あまりにも馬鹿なこと考えるからだろ」
545	かずさ	Kazusa	「う…」
546			こうして噛んで含めるようにかずさに語りかけるうちに、 ますますこいつのしたことが、 あまりに考えなしだったことが浮き彫りになる。
547	春希	Haruki	「俺なんかのためにピアノを捨てるとか捨てないとか。 本当にもう…馬鹿すぎて目が離せないだろ」
548			しかも、コンサートの前日に。
549	かずさ	Kazusa	「だって大事なんだよ… それくらい、お前のことが大切なんだってば」
550			こうして、そうはならなかった今でも、 果たして明日弾けるのかわからなくなるくらい、 激しく心を乱すようなことをしでかした。
551	春希	Haruki	「………大事な物を手に入れるために、 大事な物を捨てなくちゃならないなんて考えこそ捨てろ」
552	かずさ	Kazusa	「春希…」
553			この際、自分に対しての過大評価…というか、 あまりの想いの深さには触れないままにしておく。
554			もし触れてしまったら、 俺の方が決壊してしまうから。
555	春希	Haruki	「ただ、お前が幸せになるために、ピアノがいるなら残せ。 いらないなら…捨ててもいいよ」
556			ただでさえ、かずさの肌の温かさ、柔らかさ、甘い匂い… 全てが渾然一体となって俺の五感をくすぐってるんだから。
557	かずさ	Kazusa	「わかんない…まだあたし、わかんないよ」
558			そんなかずさの熱いため息が、 俺の胸にかかり、ますます挑発してくる。
559	かずさ	Kazusa	「生まれてきたときから、ずっと側にあったんだ。 人生の半分以上の時間を、こいつと過ごしてきたんだ。 …お前よりもずっと長い時間、一緒だったんだ」
560			かずさにその気はないのかもしれないけれど、 完全に自縄自縛だけど、残酷すぎる。
561	かずさ	Kazusa	「それにお前のことだけじゃなくて。 母さんの…冬馬曜子のこととか、本当に色々…」
562	春希	Haruki	「だったら結論は先送りにしてもいい。 向こうに帰って、しばらくゆっくりして… 時間を掛けて決めればいい」
563			そんな悶えんばかりの葛藤を決して表に出さず、 俺は、必死に腕の力を緩め、かずさを胸にかき抱く。
564			余計にかずさの温もりを感じてしまうという 甘い制裁を俺に科す。
565	春希	Haruki	「でも、だからこそ… 明日だけは、何もかも忘れて思いっきり弾いてこい」
566	かずさ	Kazusa	「春希…」
567	春希	Haruki	「最高のステージを見せてやれよ… そして、日本の観客に『さよなら』してこい」
568	かずさ	Kazusa	「ああ…」
569			俺に触れているかずさの肌が、熱を帯びてくる。
570	かずさ	Kazusa	「弾くよ。あたし弾いてみせる。 お前がいれば、何も怖いことなんて…」
571	春希	Haruki	「ああ、頑張れよ…」
572	かずさ	Kazusa	「だから、明日のコンサート… そして、これからもずっと、 あたしのこと、見守っていてくれよ？」
573			………	.........
574	かずさ	Kazusa	「…今、何時？」
575	春希	Haruki	「…３時。 そろそろ寝ろ」
576	かずさ	Kazusa	「ああ…」
577	春希	Haruki	「じゃ、おやすみ」
578	かずさ	Kazusa	「おやすみ」
579	春希	Haruki	「………」	"........."
580	かずさ	Kazusa	「………なぁ」
581	春希	Haruki	「もう寝ろよ…」
582	かずさ	Kazusa	「あたしはこうして、 春希に抱きしめてもらって傷を治すことができる。 落ち込んでも、立ち直ることができる」
583	春希	Haruki	「これからも…ずっとそうする。 もう、寂しい思いは…」
584	かずさ	Kazusa	「雪菜は… あいつは、これからどうやって、 傷を癒していくんだろうな」
585	春希	Haruki	「………」	"........."
586	かずさ	Kazusa	「あいつ、あたしのせいであんなに傷ついてた。 なのに、心の中はなにも変わってなかった」
587	春希	Haruki	「そ…っか」
588	かずさ	Kazusa	「無意識にあたしのこといじめるくせに、 いざってときに、どうしようもないくらい 自分を殺してしまう」
589	かずさ	Kazusa	「壊れるのも構わずにさ…っ」
590	春希	Haruki	「………」	"........."
591	かずさ	Kazusa	「強くて、人のことなんでも見透かしてて、 逃げ道を塞いで、常に先手を打って…」
592	かずさ	Kazusa	「だからすごく苦手で、ちょっと嫌で、 羨ましくて、憧れてて…」
593	かずさ	Kazusa	「でもあいつ、最後の最後でどうしようもなく優しくて、 見誤って、手を離して、足を止めて…」
594	かずさ	Kazusa	「だからやっぱり憎めなくて、 好きだった…」
595	春希	Haruki	「もういい、もういいんだ」
596	かずさ	Kazusa	「そうだよ、好きだったんだよ、雪菜のこと！」
597	春希	Haruki	「うん…」
598	かずさ	Kazusa	「春希が… お前さえいなければ、 あたしたち、本当の親友になれたかもしれないのに」
599	春希	Haruki	「ごめんな、ごめん…」
600	かずさ	Kazusa	「…ううん、お前がいなければ、 そもそもあたしたち、出会うこともなかったもんな」
601	春希	Haruki	「かずさ…」
602	かずさ	Kazusa	「お前があたしと雪菜を繋いだ。 そして、お前のせいで断ち切られた」
603	かずさ	Kazusa	「………恨む、よ」
604	春希	Haruki	「ああ、一生恨め」
605	かずさ	Kazusa	「いいんだな？　一生言い続けるんだぞあたし。 ことあるごとに持ち出すんだぞ？ お前の側で、ずっとずっと」
606	春希	Haruki	「その代わり、俺も遠慮せずに言い返すからな。 そうやって、いつまでも喧嘩していこう」
607	かずさ	Kazusa	「春希…」
608	春希	Haruki	「おやすみ」
609	かずさ	Kazusa	「ああ…おやすみ」
610			そうだ、喧嘩しよう、俺たち。 これからも、何度だって。
611			傷ついて、傷つけられて、疲れてもまだ、 息ができないほどの恋に、落ちていこう…
612	雪菜	Setsuna	「届かない恋をしていても… 映し出す日が来るかな…」
613	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
614	雪菜	Setsuna	「あ、あは…」
615	雪菜	Setsuna	「あはは…あはははは…っ」
616	雪菜	Setsuna	「………っ」
617	雪菜	Setsuna	「ぅ、ぅぇ…」
618	雪菜	Setsuna	「ふぇぇ、うぇぇぇぇ…っ」
619	雪菜	Setsuna	「卑怯者、卑怯者…」
620	雪菜	Setsuna	「小木曽雪菜の、卑怯者ぉ」
621	雪菜	Setsuna	「うぅ…ぃぅっ、 うぇぇぇぇ…う、あ、あぁぁ…っ」
622	雪菜	Setsuna	「ひくっ、う、ふあぁぁぁ… あぁぁぁぁぁぁ、うあぁぁぁぁぁぁ…っ」
623			………	.........
624			……	......
625			…	...
626	雪菜	Setsuna	「………ぇ」

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Mini After Story and Extra Episode
The Path Back to Happiness	The Path Forward to Happiness	Dear Mortal Enemy
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6002	6102	4001	4006
6003	6103	4002	4007
6004	6104	4003	4008
6005		4004	4009

Novels
The Snow Melts, And Until The Snow Falls	The Idol Who Forgot How to Sing	Twinkle Snow ~Reverie~		After the Festival ~Setsuna's Thirty Minutes~	His God, Her Savior
5000	5100	5200	5205	5300	5400
5001	5101	5201	5206	5301	5401
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5003	5103	5203	5208	5303
5004	5104	5204	5209

Short Stories
Princess Setsuna's Distress and Her Minister's Sinister Plan	Koharu Climate After the Passing of the Typhoon	This isn't the Season for White Album	Todokanai Koi, Todoita
7000	7100	7200	7300