White Album 2/Script/3204

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1	雪菜	Setsuna	「ここが…」
2	春希	Haruki	「ああ、かずさの滞在してるホテル」
3			御宿の高層ビル街の中心にそびえ立ち、 俺の部屋の窓からも視界に収められるほどの威容を誇る、 御宿インテグラルホテル。
4	春希	Haruki	「ロビーで工藤さんって人が待ってるから。 その人が部屋まで案内してくれる手はずになってる」
5			その高層ホテルの最上階にして 最高値のスイートルームが、今のかずさの天岩戸。
6			…世界から孤立して引きこもるには、 あまりに費用対効果の悪い滞在先。
7	雪菜	Setsuna	「わかった、春希くんはここまででいいよ。 後はわたし一人で大丈夫だから」
8	春希	Haruki	「なぁ、雪菜…」
9	雪菜	Setsuna	「ん？」
10	春希	Haruki	「本当に、いいのか？ …こんな、酷い役目」
11	雪菜	Setsuna	「…何回言ったっけ、その台詞。 そろそろ三桁超える頃じゃない？」
12	春希	Haruki	「けど…」
13			たっぷり時間を掛けて作戦を練り、 ここまで様々な手を打ってきた。
14			けれど、いよいよ本当の戦いが始まるという時に、 俺は、どうしても躊躇してしまう。
15	雪菜	Setsuna	「かずさのためなんだよ？ …それって、わたしたちのためじゃない」
16			アメノウズメになってくれって…
17			自分が求めたこととは言え、 雪菜に、ここまで残酷な役目を負わせることを。
18	春希	Haruki	「やっぱり…俺が行くよ。 もう一度かずさと話してみる」
19	雪菜	Setsuna	「無理だよ、春希くんには」
20	春希	Haruki	「大丈夫だから。 俺、もう迷ったりしないから…」
21	雪菜	Setsuna	「わたし、そんなこと気にしてるんじゃないよ。 かずさのことしか考えてない」
22	春希	Haruki	「…ごめん」
23			今、救われるべき人間は自分じゃないし、 もちろん俺でもないって…
24	雪菜	Setsuna	「今は、春希くんでも曜子さんでも駄目だと思う。 だってあなたたちは、かずさを愛し過ぎてるから」
25	春希	Haruki	「っ…」
26	雪菜	Setsuna	「叱ることできないし、 突き放すこともできない。 …甘えさせることしかできないよ」
27			そのことを今、誰よりも理解してるのは、 今まで一人、裏切られ続けてきた雪菜だった。
28	雪菜	Setsuna	「だからこそ、わたしなんだよ。 五年ぶりの、わたしなんだ」
29			どうしてこんな凄いコと一緒にいられたんだろう。 どうしてこんな凄いコが今でも側にいてくれるんだろう。
30	春希	Haruki	「雪菜、俺… 俺さ、雪菜のこと、今まで」
31	雪菜	Setsuna	「あ～、今はその話やめよう。 全部終わってからにしよ？」
32			いつから雪菜は、こんなに強い女になっていたんだろう。
33	雪菜	Setsuna	「今はかずさのことだけ考えていたい。 かずさとぶつかることに集中していたいの」
34			出逢ったときから？　結ばれてから？ …それとも、一度離れてしまってから？
35	春希	Haruki	「わかった… かずさのこと、任せた」
36	雪菜	Setsuna	「どうだろうね… こんなこと言っておいて苛めちゃうかも。 今までの恨みつらみ、ぶつけちゃうかも」
37	春希	Haruki	「え…」
38	雪菜	Setsuna	「やだなぁ、冗談だよぉ！ そんな悲しそうな顔してないで冗談で返してよぉ」
39	春希	Haruki	「じょ、冗談…？」
40	雪菜	Setsuna	「要するに、 掴み合いの喧嘩なんてしないから安心してってこと」
41	春希	Haruki	「ちょっと待って！ 冗談でもそういうこと言うのやめてくれ…」
42	雪菜	Setsuna	「そう、そんな感じ。まぁ面白くはないけど… でも、ちょっとだけほぐれてきたかな？」
43	春希	Haruki	「は、はは…」
44			俺が、雪菜を強くしてしまったんだろうか… 何度も傷つけたから。苦しみを与えたから。
45	雪菜	Setsuna	「ね、春希くん」
46	春希	Haruki	「ん？」
47	雪菜	Setsuna	「わたしが今、ここにいるのはね、 あなたが頑張ってきたからなんだよ？」
48	春希	Haruki	「そんな… 俺はただ、雪菜に寄りかかっただけで…」
49	雪菜	Setsuna	「でも、寄りかかられても倒れないわたしを作ったのは、 やっぱりあなたなんだよ」
50	春希	Haruki	「雪菜…？」
51	雪菜	Setsuna	「あの時… 大阪に会いに来てくれたとき、 あなたがわたしに勇気をくれたから…」
52	春希	Haruki	「それって…」
53			『仕事、頑張ってな。 …ミスしたんなら、気にして原因突き詰めろ。 そしたら次は、少しだけ上手くやれるから』
54			身勝手に雪菜にすがりに行ったら、 雪菜は俺なんかよりもよっぽど追い詰められていて。
55	雪菜	Setsuna	「次の日からね、 朝から晩までずっと謝っては走っての繰り返しだった」
56			だから俺は、自分のことを棚に上げて、 空気を読まない上に説教臭い、 最悪の照れ隠しで逃げただけで。
57	雪菜	Setsuna	「自分のミスだったのに、 自分でフォローできることは限られてたから… こっちは、何もできない新人だし」
58	春希	Haruki	「そっか…」
59	雪菜	Setsuna	「とにかく、ミスしたこと思いっきり気にして、 どこが悪かったのか考えに考えて… ほんの少しでも上手くやれるように頑張ってみた」
60	春希	Haruki	「うん」
61	雪菜	Setsuna	「それでも、自分にできることは少なかったから、 とにかくその場をうまく回すことだけ考えて、 言われたこと一生懸命、とにかく笑顔でやってみた」
62	春希	Haruki	「………」	"........."
63	雪菜	Setsuna	「そしたらね、 いつの間にか現場の雰囲気が凄く良くなっててね… 昨日のことは何だったんだってくらい」
64	春希	Haruki	「う、ん」
65	雪菜	Setsuna	「最後には、今度のイベントの時もよろしくって… お世辞でも、嬉しかったなぁ」
66	春希	Haruki	「………」	"........."
67			なのに、雪菜は…
68			そんな俺の誤魔化しでしかない言葉で自分を奮い立たせ、 俺に裏切られていたかも知れないその同じ時、 本当に、本当に、頑張って。
69	春希	Haruki	「凄いな、雪菜は…」
70	雪菜	Setsuna	「何が？」
71	春希	Haruki	「自分で考えて、自分で解決して…強いよ」
72			本当に、強い。 いや、強くなった。
73	雪菜	Setsuna	「ううん、春希くんのおかげだよ」
74	春希	Haruki	「違う。俺は何もしてない。 雪菜に感謝されるようなことなんて、なにも…」
75	雪菜	Setsuna	「でも来てくれた。 本当に会いたかったときに、側にいてくれた」
76	春希	Haruki	「俺は、そんな… 雪菜の思い描いてるような、そんな奴じゃ…」
77	雪菜	Setsuna	「今までも、ずっとわたしに 一生懸命な背中を見せ続けてくれた。 わたしの前を走っててくれた」
78	春希	Haruki	「俺、は…」
79	雪菜	Setsuna	「あなたが認めなくても、わたしはあなたを認めてる。 わたしは、ずっとあなたを信じてる」
80	春希	Haruki	「っ…」
81			今の雪菜は、心も、想いも、芯も強くて…
82	雪菜	Setsuna	「だからこれからは、わたしが頑張る番だよ。 春希くんは今まで十分頑張ったから、少し休んでて」
83	春希	Haruki	「雪菜…」
84	雪菜	Setsuna	「あなたの願い、受け取ったから。 あなたのバトン、受け取ったから」
85			だったら俺は… 彼女が身につけてしまった無敵の強さに、 これからどう報いていけばいいんだろう。
86	雪菜	Setsuna	「でもね、わたしはアンカーじゃないよ？」
87			彼女が内に秘めてしまった無限の慈愛に、 これからどう応えていけばいいんだろう。
88	雪菜	Setsuna	「わたし、頑張って一周してくる。 そして、必ずもう一度あなたにバトンを返すから」
89	春希	Haruki	「わかった…待ってる」
90	雪菜	Setsuna	「だから、その時は…三人でゴールしようね？」
91	春希	Haruki	「っ…雪菜」
92			彼女は… これから一生かかって償わせてくれるだろうか。
93	雪菜	Setsuna	「それじゃ、行ってきます」
94	春希	Haruki	「頼む…」
95	雪菜	Setsuna	「はい、頼まれました」
96			もう、多分俺を必要としないはずの彼女は。
97	春希	Haruki	「頼む雪菜… かずさを…かずさを………お願い、します」
98			出逢ったときの… ミス付属の学園アイドル、三年Ａ組小木曽雪菜のように、 俺にとって高嶺の花になり過ぎてしまった彼女は…
99	雪菜	Setsuna	「…よしっ」
100			………	.........
101	雪菜	Setsuna	「いつもお世話になっております。 わたくし、ナイツレコードの…小木曽と申します」
102			……	......
103			…	...
104	雪菜	Setsuna	「ええと、こんばんは。 その…雪菜だけど」
105	雪菜	Setsuna	「昨日は本当にごめんなさい。 まだ痛む？」
106	雪菜	Setsuna	「あんなことしちゃったから、 もう二度と顔を見たくないとは思うけど…」
107	雪菜	Setsuna	「でも、できればここ、開けてくれないかな。 昨日のこと、きちんと謝りたいの」
108	雪菜	Setsuna	「それで、もし仲直りできたなら、 改めてお仕事の話をさせて欲しいなって」
109	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
110	雪菜	Setsuna	「寝てる、のかな？」
111	雪菜	Setsuna	「それとも、やっぱりもう会いたくないのかな？」
112	雪菜	Setsuna	「今日は無理だって言うなら日を改めます。 だから、せめて返事してください」
113	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
114	雪菜	Setsuna	「…眠ってるの？ それとも、具合でも悪いのかな？」
115	雪菜	Setsuna	「声だけでも…聞かせてくれないかな？」
116	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
117			………	.........
118	雪菜	Setsuna	「…あれ？」
119			…	...
120	雪菜	Setsuna	「だから、かずさが返事しないの！ 部屋の中から何も聞こえてこないの！ 声どころか、携帯も鳴らないの！」
121	雪菜	Setsuna	「どうしよう、どうしよう…っ！ 昨日、わたしが酷いことしたから… かずさのこと、追い込んじゃったから！」
122	雪菜	Setsuna	「ごめん春希くん…ごめんなさいっ！ わたしがついていながら… ううん、わたしがついてたせいでこんなことにっ」
123	雪菜	Setsuna	「う、うん…落ち着いてる、大丈夫だよ。 わたしは冷静だって！ それよりもかずさだよ！」
124	雪菜	Setsuna	「そうか、連絡。 警察と救急車と…あとどこだっけ？ え？　ああそうか、まずはフロントか！」
125	雪菜	Setsuna	「うん、すぐに部屋の鍵開けてもらう。 そしたらまた連絡するから！」
126			………	.........
127	雪菜	Setsuna	「え？」
128	フロント	Front Clerk	「ええ、冬馬様でしたら先ほど外出されました」
129	雪菜	Setsuna	「え…？」
130	フロント	Front Clerk	「…あの、小木曽様でいらっしゃいますか？ でしたらメッセージをお預かりしておりますが」
131	雪菜	Setsuna	「………え？」
132			……	......
133			…	...
134	かずさ	Kazusa	「…あ」
135	雪菜	Setsuna	「かずさぁぁぁ…っ」
136	かずさ	Kazusa	「どうしたんだ一体？」
137	雪菜	Setsuna	「もうやだ、驚かせないでよぉ。 わたし、わたし、てっきり…っ」
138	かずさ	Kazusa	「風呂場で手首切ってるとでも思った？ クローゼットで首吊ってるとでも思った？ 窓から飛び降りてるとでも思った？」
139	雪菜	Setsuna	「それは…その…えっと… あ、あの時は気が動転しててっ！」
140	かずさ	Kazusa	「本当に思ってたんだ…」
141	雪菜	Setsuna	「それはそうと！ どうして今日になって、外に出ようって思ったの？ …ここに来ようって、思ったの？」
142	かずさ	Kazusa	「別に、雪菜がウザくなっただけじゃないよ」
143	雪菜	Setsuna	「それもあるんだ…」
144	かずさ	Kazusa	「ただ、そろそろこいつが恋しくなっただけだ」
145	雪菜	Setsuna	「あ…」
146	かずさ	Kazusa	「なにしろめんどくさい奴だからな。 …ほんの少し口をきかなかっただけで、 ここまで扱い辛くなりやがって」
147	雪菜	Setsuna	「かずさ…」
148	かずさ	Kazusa	「日本に来てから、何回も無視したからな。 かなりへそ曲げてるみたいだ。 あたしの指からするりと逃げてく」
149	雪菜	Setsuna	「もしかして…コンサート、やる気になった？」
150	かずさ	Kazusa	「…ＣＤの方は絶対にやんないからな？」
151	雪菜	Setsuna	「今はそのことはいいよ。 それよりも…また、弾く気になってくれた？」
152	かずさ	Kazusa	「…まだ迷ってる」
153	雪菜	Setsuna	「そっか…」
154	かずさ	Kazusa	「あと、たったの二週間で、 最高のパフォーマンスを出せると思えない。 …技術が戻っても、心が戻る自信がない」
155	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
156	かずさ	Kazusa	「だからって、何もかもから逃げ出していいとは、 さすがに思えなくなった」
157	雪菜	Setsuna	「少しは前向きになれた？」
158	かずさ	Kazusa	「あたしだって別にさ、 人が悲しむ姿を見たいわけじゃない。 …どっちかって言うと、すごく見たくないんだよ」
159	雪菜	Setsuna	「うんうん」
160	かずさ	Kazusa	「母さんも、美代子さんも、あと…まぁ、雪菜も。 みんながあたしのこと、祈るような顔で見るのがさ…」
161	雪菜	Setsuna	「…一人抜いてるのはわざとだよね」
162	かずさ	Kazusa	「そんなふうに憂鬱な気分に浸ってたら、 昨夜、手紙が来てさ…柴田さんから」
163	雪菜	Setsuna	「ああ、日本に住んでた時のヘルパーさん？」
164	かずさ	Kazusa	「追加公演のチケットありがとうって。 今度こそ絶対に見に行くって」
165	雪菜	Setsuna	「そっか、よかったね。 って、言っていいのかな？」
166	かずさ	Kazusa	「おかしいだろ？ あたし、送った覚えなんかないんだよ」
167	雪菜	Setsuna	「…あ～」
168	かずさ	Kazusa	「相変わらず外堀から埋めてきやがって。 あたしの弱点ついてきやがって。 …やってられない」
169	雪菜	Setsuna	「本当、やってられないよね、あの卑怯者」
170	かずさ	Kazusa	「せっかく顔出さなくなってせいせいしてたのに… どうしてあんなに空気が読めないんだよあいつ」
171	雪菜	Setsuna	[F16「本当、やられちゃうよね…あの卑怯者」]
172	かずさ	Kazusa	「だからとにかく、指だけでも動かしとく。 もし気持ちが戻ったとき、体がついてこれるように」
173	雪菜	Setsuna	「うん…うん！ やっぱり前向きになってる！ 嬉しいよ、かずさ…」
174	かずさ	Kazusa	「ＣＤはやらないって言ってるんだぞ？ 雪菜の得になること、何も言ってないんだぞ？」
175	雪菜	Setsuna	「ねぇ、ここで聴いてていいかな？ かずさのピアノ」
176	かずさ	Kazusa	「そうだな…途中で寝たりしないなら」
177	雪菜	Setsuna	「やだなぁ、そんな勿体ないことするわけないじゃない」
178	かずさ	Kazusa	「………そっか」
179	かずさ	Kazusa	「…ところで雪菜、 本当にその顔で会社行ったのか、今日？」
180	雪菜	Setsuna	「もう聞いてよ！　みんなが腫れ物扱いするんだよ？ …まぁ、本当に腫れてるからしょうがないけど」
181	かずさ	Kazusa	「ば～か」

Script Chart

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