White Album 2/Script/3008

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Line #	JP	EN	JP	EN
1	春希	Haruki	「お断わりします」
2	浜田	Hamada	「んだとぉ！？」
3			昼下がりの会議室。
4			拳で机を叩く音と怒号が響いたかと思うと、 しばらくの間、今度は静寂が支配した。
5			今は二人しかいない広めの会議室に、 気まずさと緊迫感が混ざったような微妙な空気が漂う。
6	浜田	Hamada	「………いててててぇ」
7	春希	Haruki	「…大丈夫ですか？」
8			その間、[R俺の上司^はまださん]は右手の拳を抱え込み、 涙目になりながら小刻みに震えていた。
9	浜田	Hamada	「なぁ、なんとかならないかなぁ北原？ 一応、上司命令なんだけどなぁこれ…」
10	春希	Haruki	「はぁ…すいません」
11			…怒り慣れてるせいなのかわからないけど、 その爆発力がなかなか持続しないのが、 浜田さんの長所であり短所なんじゃないかと思ったりする。
12	浜田	Hamada	「この仕事は編集部の期待も大きいしさぁ、 お前にとってもステップアップのチャンスだろ？」
13	春希	Haruki	「確かに…そうかもしれないですが…」
14			けど、押されようが引かれようが、 今の俺にとって今回の申し出ばかりは躊躇せざるを得ない。
15	浜田	Hamada	「先週出た最新号のインタビュー記事が評判良くてな。 何しろ今年一発目で去年のどの号よりも出たんだよ。 …ほら、社長賞の金一封だ」
16	春希	Haruki	「…どうも」
17			手渡された封筒はとても軽かった。 物理的にも、心証的にも。 何しろ茶封筒にボールペンの手書きで『社長賞』…
18			…実は浜田さんのポケットマネーなんじゃ？
19	浜田	Hamada	「ま、旬の素材を取り上げた時点で 勝ちは決まってたようなもんだけどな。 …アンサンブルには本当に申し訳ないことをした」
20	春希	Haruki	「…ですね」
21			例の日本公演が早まってしまったせいで、 向こうの企画をこちらに掲載することになり、 結果それが社長賞モノという…
22	浜田	Hamada	「だから何としても恩返しをしないと。 北原、お前だってそう思うだろ？」
23			アンサンブルの編集長と浜田さんと、 ついでに冬馬曜子との間で、 酒飲みながら適当に決まったらしい二誌のコラボ企画。
24			『冬馬かずさ日本公演密着取材レポ』
25			その企画の担当として、 俺に白羽の矢が立ったという話だった。
26	春希	Haruki	「でも、彼女はタレントじゃなくてピアニストですよ？ しかもクラシックの」
27	浜田	Hamada	「なのに今はそこらの売れっ子タレントより、 よっぽど世間の注目を集めてる。 …だからこそ余計に特集する価値がある」
28	春希	Haruki	「だからって彼女の私生活は？」
29			つまり俺に期待されているのは、 コンサート当日まで毎日のように冬馬かずさに張り付き、 コメントを引き出し、写真を撮りまくること。
30			彼女のプライベートを奪い、 自らのプライベートを犠牲にする。 つまり、雑誌記者らしい仕事。
31			…かずさが聞いたら怒り狂いそうなくらいに。
32	春希	Haruki	「インタビューした時に感じたんですけど… 彼女、そういう風に周囲が騒ぐことについて、 かなりナーバスになってるんですよ？」
33	浜田	Hamada	「そこを刺激しないように、 取材相手といい関係を築きつつ、 しかもいい記事を書くのが作り手の腕の見せ所だろうが」
34	春希	Haruki	「…そんなハードルの高い仕事、俺には無理です」
35	浜田	Hamada	「お前ならできる！ 風岡チルドレンのお前なら！」
36	春希	Haruki	「………」	"........."
37			なんとなく、二年前のあの時の流れを彷彿とさせる。
38			雪菜との決裂のきっかけになった… つまり修復のきっかけにもなった、俺の初仕事。
39	浜田	Hamada	「あいつなら相手の心情と自分の仕事のどっちも取る。 お前はその背中を見て育ったよな？」
40	春希	Haruki	「…そこで麻理さんの名前出すのは卑怯ですよ」
41	浜田	Hamada	「とにかく、向こうの承諾は得てる。 お前さえＯＫなら絶対に反対なんかされないから！」
42	かずさ	Kazusa	「冗談じゃない。そんなのは絶対にお断わりだ」
43	曜子	Youko	「かずさ…」
44	かずさ	Kazusa	「どうしてそんな話を請けてくるんだ。 あんたあたしの親だろ？」
45	曜子	Youko	「今回の日本公演に関しては マネージャーも兼任してるつもりだけど？」
46	かずさ	Kazusa	「ならなおさらだ。 あたしはアイドルタレントじゃないんだぞ？」
47	曜子	Youko	「そんなようなものよ。 今の冬馬かずさってブランドは、ね」
48	かずさ	Kazusa	「…そんなの知るか。 あたしが望んだことじゃない」
49	曜子	Youko	「大体、なにが嫌なの？ わたし取材って大好きよ。 世間の注目集めるのって快感じゃない？」
50	かずさ	Kazusa	「あたしはそういうふうに、 生まれつき図々しい変人じゃないんだよ」
51	曜子	Youko	「ねぇ、かずさ。 あなたもいつまでもわたしに頼ってばかりじゃなくて、 そろそろ独り立ちをね…」
52	かずさ	Kazusa	「…面白い冗談だ。 あたしほど親に投げっぱなされだった子供は 世間でも珍しいと思うぞ？」
53	曜子	Youko	「だから今、罪滅ぼししてるんじゃないの。 これもあなたの社会復帰の一環だと思って頂戴」
54	かずさ	Kazusa	「…人を社会不適合者みたいに言うな」
55	曜子	Youko	「違うって言うならもっと世間とうまく付き合ってよ。 スタッフとも、ファンとも、マスコミとも」
56	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
57	曜子	Youko	「昨夜も記者を思いっきり睨みつけたんだって？ 記事にはなってないけど、噂にはなってるわよ？」
58	かずさ	Kazusa	「…向こうが悪いんだ。 どれだけシカトしてもつきまとって来るから」
59	曜子	Youko	「…少しくらい何かコメントしてあげれば、 相手だってそんなに追っかけてこないわよ」
60	かずさ	Kazusa	「あたしはただ、あたしに触って欲しくないだけだ。 静かにピアノだけ弾けてればいいんだ」
61	曜子	Youko	「ピアノ弾いてご飯食べてくつもりの人間が、 人と付き合わずに生きていくのは不可能よ。 自分を売り込まないと、誰もお金なんて払わない」
62	かずさ	Kazusa	「だからそれは母さんが…」
63	曜子	Youko	「ほらね？ あなたいつまでわたしの臑をかじるつもり？」
64	かずさ	Kazusa	「………とにかく密着取材なんて冗談じゃない。 それだけは絶対に断らせてもらう」
65	曜子	Youko	「担当がギター君でも？」
66	かずさ	Kazusa	「っ…」
67	春希	Haruki	「俺、を…？」
68	浜田	Hamada	「そう、お前をわざわざ指名してきたんだ。 …担当が北原でなければこの話はなかったことにって」
69	春希	Haruki	「………」	"........."
70	浜田	Hamada	「取材相手からの一本釣りだぞ？ 新人にそんな風に声がかかるなんて普通ないぞ？ …ビッグチャンスだろ？」
71	春希	Haruki	「でもそれって… 冬馬かずさ本人の希望じゃないですよね…？」
72	浜田	Hamada	「いや、本人の希望じゃないのか？ どうして違うなんて思うんだ？」
73	春希	Haruki	「それは…」
74			浜田さんたちがこの企画の話で盛り上がってる頃、 俺はかずさと来日のことで言い争っていた訳で。
75	浜田	Hamada	「そういえば、この前の出迎えも嫌がってたな。 ひょっとしてインタビューの時、 彼女に何か失礼なことでもしたのか？」
76	春希	Haruki	「別に…そんなことは」
77			インタビュー『だけ』は、 そつなくこなしたと思う。
78			ただ、それ以外で色々とありすぎて、 だからもう、お互い二度と顔を合わせないって…
79	浜田	Hamada	「とにかくウチにはお前しかいないんだ。 能力的にも、コネ的にも、ついでに人数的にも」
80	春希	Haruki	「けど、俺は…」
81			プライベートの事情を仕事に持ち込むのは、 社会人として失格だし、 しかも新人とくれば、お前何様だよレベルだ。
82			けど、俺にだってどうしても譲れない一線はある。
83			これ以上、雪菜を傷つけたくない。
84			たとえ何もなくたって、 俺とかずさが一緒にいるってだけで、 雪菜が平穏な心のままでいられるなんて思わない。
85			それだけ、雪菜に想われてるって自負はある。 雪菜を想ってるって自覚はあるんだ。
86			だから…
87	浜田	Hamada	「でも、お前が下りたら、 結局、無理にでも他の担当がつくことになるんだぞ？ …そんなの誰もが望んでないけど」
88	春希	Haruki	「けどさっき、 俺が断ったらこの話はなくなるって…」
89	浜田	Hamada	「そんな簡単に引き下がれるわけないだろ？ [Rマスコミ^おれたち]が」
90	春希	Haruki	「………」	"........."
91	浜田	Hamada	「それに、もしウチが下りたところで他社は？ 今より余計に取材合戦みたいなことになって、 かえって彼女に迷惑がかかることにならないか？」
92	春希	Haruki	「まさか…」
93	浜田	Hamada	「今朝、記者と揉めたらしいぞ。 …幸い大きな騒ぎにはなってないけど」
94	春希	Haruki	「っ…」
95			あの馬鹿…
96			嫌いな相手だろうがなんだろうが、 適当に愛想振りまくくらいのことできないのかよ。
97			………できないよなぁ。 俺が知ってるあいつだったら。
98	浜田	Hamada	「もうちょっと考えてみてくれよ。 今週中までに結論出してくれればいいから」
99	春希	Haruki	「浜田さん…」
100	かずさ	Kazusa	「………それがどうした。 誰が担当だろうが駄目なものは駄目だ」
101	曜子	Youko	「…ふぅん」
102	かずさ	Kazusa	「あいつの名前を出せばあたしが喜ぶとでも思ったのか？ 残念だったな、思惑が外れて」
103	曜子	Youko	「どっちにしろ劇的な反応するとは思ってたけど、 想像通りだったわね」
104	かずさ	Kazusa	「～～～っ！」
105	曜子	Youko	「気づいてる？ あなた、来日してからずっと精神的に不安定なのよ。 ほとんど眠れてないでしょ？」
106	かずさ	Kazusa	「…時差ボケだ。 すぐに治るよ」
107	曜子	Youko	「そのせいでピアノも荒れてる。 正直、今のままの状態じゃコンサートも心許ないわね」
108	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
109	曜子	Youko	「前評判が高い分、ちょっとでも腑抜けた演奏したら、 あっという間に手のひらを返されるわよ？ …あなたの大嫌いなマスコミに」
110	かずさ	Kazusa	「それが…なんだよ。 それと取材がどう繋がるんだよ。 母さんの言ってること、さっぱりわからないよ」
111	曜子	Youko	「“取材”だって捉えると、 わからなくなっちゃうかもね」
112	かずさ	Kazusa	「あたしの機嫌を取りたかったら、 周囲の雑音を全てシャットアウトした方が効果的だ。 試してみればいい」
113	曜子	Youko	「かずさ…」
114	かずさ	Kazusa	「とにかくあたしは、もうこれ以上誰の干渉も受けない。 ロビーで張ってる連中に通達しといてくれ」
115	曜子	Youko	「できるわけないでしょ。広報の立場としては。 わたしは彼らとこれからも仲良くしていきたいの。 …あなたのためにもね」
116	かずさ	Kazusa	「…そんなの知るか」
117	曜子	Youko	「ま、とりあえず今日のところはここまでね。 …午後いっぱい用があるから、 それまで一人で練習でもしてなさい」
118	かずさ	Kazusa	「どこ行くんだ？ 午後いっぱいって、何時くらいまで…」
119	曜子	Youko	「だから何度も言うようだけどね、 いつまでもわたしに甘えてないで…」
120	かずさ	Kazusa	「二度と帰ってくるな！」

Script Chart

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