White Album 2/Script/1008

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• Tumujimagari

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1			峰城大付属の学園祭は、 キャンパスが隣接する峰城大の大学祭と 同日開催で…いい加減しつこいから以下省略。
2			今日は、そんな、大盛り上がりの峰城大祭と、 中盛り上がりの峰城大付属祭の、二日目にして、 世間一般の休日である土曜日。
3			俺たちの一発勝負の、とうとう本番の日。
4	依緒	Io	「うん、準備できたよ～」
5	かずさ	Kazusa	「い、いや待て…」
6	雪菜	Setsuna	「うわぁ…冬馬さん、凄い」
7	春希	Haruki	「んじゃ入るぞ」
8	かずさ	Kazusa	「待てと言うのに！」
9	春希	Haruki	「あ…」
10	武也	Takeya	「♪」
11	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
12	雪菜	Setsuna	「ど、どうかな？」
13	春希	Haruki	「………」	"........."
14	武也	Takeya	「お前、どうしてすぐに『綺麗だ』とか『最高』とか 『マジスッゲー！』とか出てこないの？」
15	依緒	Io	「いや最後のは出さない方が…」
16	春希	Haruki	「………」	"........."
17			周りの茶々もなんのその… 俺はまるで、どこかのありきたりの漫画によくある、 着替え中に乱入してしまった主人公のごとく硬直していた。
18			だって… 武也の口にする美辞麗句が馬鹿馬鹿しく思えるくらい、 俺は今、目の前の二つの光景に目を奪われてるから。
19	かずさ	Kazusa	「どういうつもりだこの変態部長… あたしがいつこんな衣装を着るなんて言った？」
20	武也	Takeya	「リハーサルの日に衣装合わせだったんだよ。 だから仕方なく欠席裁判で」
21	雪菜	Setsuna	「いくつか候補があったんだけど、 冬馬さんなら黒がもの凄く似合いそうだなって」
22	かずさ	Kazusa	「小木曽のセンスなのか！？ この色も、このデザインも、この露出度も！」
23	依緒	Io	「多分、悪気はないと思うよ雪菜は。 …完璧なコントラストになってるところも含めて」
24			白と黒… 可愛さとカッコよさ…
25			俺に言わせれば、二人して意外性も何もない、 『かくあるべし』と思い描いた通りの完璧なチョイス。
26	雪菜	Setsuna	「飯塚君が見つけてきたのが、 最初からこういう系統のしかなかったんだよ。\k\n
27	雪菜	Setsuna	…どうする？　わたしのと交換する？」
28	かずさ	Kazusa	「そんなの余計着れるか… やっぱり制服で行く」
29	依緒	Io	「あ、こら、脱ぐなって男のいる前で」
30	かずさ	Kazusa	「だって北原は私服なんだろ？ そんなの不公平だ！」
31	武也	Takeya	「だってなぁ、 そんなところに金かけるの無駄だし。 やっぱ注目されるところに力入れたいじゃん？」
32	かずさ	Kazusa	「あたしだって全然注目されてない！」
33	雪菜	Setsuna	「されるよ。今日から」
34	依緒	Io	「絶対されるね」
35	武也	Takeya	「多分、何も知らない下級生が大量に釣れるな」
36	かずさ	Kazusa	「お前ら…」
37	雪菜	Setsuna	「どうせ見られちゃうのは十数分だけだよ。 覚悟を決めて、一緒に恥かこう？」
38	依緒	Io	「見られる方は恥ずかしくても、 見る方は絶賛する自信あるけどね」
39	武也	Takeya	「あ、あとその十数分は実行委員の手で動画化されて、 学園のサイトに永久に残ると思う」
40	かずさ	Kazusa	「き、北原…お前もいつまで黙りこくってるんだ？ なんとか言ったらどうなんだ！」
41	春希	Haruki	「いや、その… 言っていいのかどうか、正直迷ってて」
42	雪菜	Setsuna	「なんだ、冬馬さんもやっぱり 春希くんの感想聞きたいんだ？」
43	かずさ	Kazusa	「いや、小木曽とは求めてるものが違うから」
44	春希	Haruki	「多分、ものすごく熱い絶賛がだだ漏れになるけど、 耐えられるか、二人とも？」
45	かずさ	Kazusa	「な…」
46	雪菜	Setsuna	「似合ってる？　ねぇ、似合ってるかな？」
47	春希	Haruki	「駄目だこれ…凄ぇ、凄ぇよ…マジスッゲー！ もう二人とも似合い過ぎててヤバい。 どうすりゃいいんだ俺！」
48	依緒	Io	「駄目なのはお前の方だ…」
49	かずさ	Kazusa	「うわ、やめろ、やめてくれ！」
50	雪菜	Setsuna	「あははは…ちょっと春希くん、 いつもと違う人だよそれ」
51	春希	Haruki	「い、いや、ごめん、しかし… これはちょっと洒落になんないだろこれは」
52	武也	Takeya	「ま、そのせいで、ステージ上では、 春希がビジュアル的にどうしようもなく邪魔だけどな」
53	依緒	Io	「でも武也はこの二人にとってどうしようもなく邪魔だし。 難しいところだねぇ」
54	春希	Haruki	「え、えっと、だから… 雪菜も冬馬も、なんて言うか、完璧？」
55	かずさ	Kazusa	「…やめろって言ってるのに」
56	雪菜	Setsuna	「嬉しいくせに。 わたしみたいに素直になろうよ冬馬さん」
57	かずさ	Kazusa	「だから小木曽は苦手だと言ってるんだ…」
58			現在の時刻、午後１時。
59			俺たちの出番まで、いよいよあと二時間。
60			緊張はしてるけど、それ以上に高ぶってて、 指も体も、いつもより鋭敏に動きそう。 今ならどんなミスも犯す気がしない。
61			ま、えてしてそんな時にこそ、致命的な失敗を…
62			いや、そういうこと考えるのやめような。
63			………	.........
64	親志	Chikashi	「よ、春希。 あのさ、ミス峰城大付のことなんだけどさ」
65	春希	Haruki	「俺はもう学園祭実行委員でも、 裏学園祭実行委員でもないぞ」
66	親志	Chikashi	「そりゃ、選挙管理委員やってた人間が 候補者の第一秘書になってるようなもんだからなぁ」
67	春希	Haruki	「嫌な喩えをするな」
68			どっちの実行委員の連中にも、 ものすごい勢いで後ろ指を指されまくったからなぁ。 …主に辞めることではなく辞める理由について。
69	親志	Chikashi	「大評判だぞ今年… 投票用紙、千枚刷ったのに、 二日目でなくなりかけてる」
70	春希	Haruki	「そろそろ学園側も黙っちゃいないだろ。 あまり規模を大きくし過ぎるなよ」
71			何しろ『ミス峰城大付属』は、『ミス峰城大』と違い、 裏開催を黙認されているだけの、実質的な闇イベント。
72			少しでも問題を起こしたら、 いとも簡単に取り潰されるため、 裏実行委員には、細心の注意と深い根回しが求められる。
73			…と、去年の裏委員長から[R滔々^とうとう]と諭されたっけ。
74	親志	Chikashi	「何言ってんだよ。 規模が大きくなったのは誰のせいだと…」
75	春希	Haruki	「俺が実行委員してたときには、 常に細心の注意をもってだなぁ」
76	親志	Chikashi	「お前が辞めたことと、その辞めた理由が、 今度のコンテストをえらいことにしちまったんだろうが」
77	春希	Haruki	「せ…小木曽のことか？」
78	親志	Chikashi	「雪菜でいい。 武也から聞いてるから」
79	春希	Haruki	「何を！？」
80	親志	Chikashi	「二年連続ミス峰城大付が、 今年はとうとうステージ進出だもんなぁ。 そりゃ、どっちも話題になるって」
81	春希	Haruki	「…なってるんだ、やっぱ」
82	親志	Chikashi	「今年さ… いつもに比べて妙に大学生を見かけると思わないか？ 向こうだって学祭やってるってのに」
83	春希	Haruki	「………確かに」
84			気のせいかもしれないけど、 昼間からいつもより年齢層が高いような…
85			いつもはもう少し夕方近くというか、 大学祭を遊びきった連中が冷やかしに来る程度だったはず。
86	親志	Chikashi	「付属のサーバって大学と共有だからさ、 ウチの学祭のページって、 向こうからでも見えるんだよな」
87			それは逆も真なりで、俺たちが持ち場をサボって 峰城大祭に行くためにも有効活用されてる。
88			何しろ向こうは芸能人とか文化人とか来るし、 やってるイベントの規模も普通に桁違いだし。
89			そいや、今年は何かのパネルディスカッションで、 緒方英二が来るって言ってたっけ…
90	親志	Chikashi	「で、大学側の学祭関係のＢＢＳに、 小木曽のステージのことが書かれてるのを見つけた。 …レスももの凄くついてた」
91	春希	Haruki	「暇なんだな大学生って…」
92	親志	Chikashi	「来年は向こうの一年生だからな。 注目されててもおかしくないのかも」
93	春希	Haruki	「………」	"........."
94	親志	Chikashi	「もうコンテスト的な興味は、 『小木曽の三連覇なるか』ってより、 二位以下にどれだけ差を付けるかって方に移ってるな」
95			学園のアイドルだけでなく、 大学のアイドルに…
96			そんな雪菜が、 俺に雪菜って呼ばれて喜んでるあの雪菜と、 どうしても繋がらなくなるときがある。
97	親志	Chikashi	「不安になったか？」
98	春希	Haruki	「…無様な姿見せるわけにはいかないな。 雪菜のためにも」
99	親志	Chikashi	「わざとそっちの方向に話持ってった？」
100			………	.........
101	大学生１	University Student 1	「まだ一時間以上あるぜ？ どうする？」
102	大学生２	University Student 2	「ステージはやってんだろ？　もう入っとこうぜ？」
103	大学生１	University Student 1	「付属の奴らの演奏聞いてもなぁ」
104	大学生２	University Student 2	「俺らの目的だって付属のコの歌だろうが」
105	春希	Haruki	「………」	"........."
106			まただ…
107	男子生徒１	Male Student 1	「あ、北原。 悪いんだけど、ウチの屋台、 バッテリーの調子がおかしくなっちゃってさ」
108	春希	Haruki	「知らん。 俺は実行委員じゃない」
109			これでさっきからもう３組目の、 俺たち…というか雪菜目当ての大学生。
110			親志の言ってたことは、誇張でも何でもなく、 間違いなくいつもよりも大学生で溢れてる。
111			付属祭と違って大学祭ってのは、 参加することに意義がある訳じゃないのか…？
112	女子生徒１	Female Student 1	「ほら、早く行かないといい席なくなっちゃうよ？」
113	女子生徒２	Female Student 2	「なんでわたしが客席に… こんなはずじゃなかったのに」
114	女子生徒３	Female Student 3	「まだ言ってる… 自業自得でしょ？」
115	女子生徒１	Female Student 1	「大体、学園祭のステージで目立とうってのはいいけど、 あんたって歌上手かったっけ？」
116	女子生徒２	Female Student 2	「あいつだってまともに歌えるわけないわよ… 絶対、客席で声上げて笑ってやるんだから」
117	女子生徒３	Female Student 3	「せせこましいなぁ…」
118	女子生徒２	Female Student 2	「だって酷いじゃない！ わたしの作戦パクるなんて。 しかもあの小木曽雪菜が！」
119	女子生徒３	Female Student 3	「朋以上の目立ちたがりだったから、 今まで２年連続でナンバーワン取ってきたのかもね」
120	女子生徒１	Female Student 1	「もう、早く早く～」
121	春希	Haruki	「………」	"........."
122			い…今のは…
123			どこかで見たような気もするけど、 なんだか脳が思い出すことを拒否してるような…
124	男子生徒２	Male Student 2	「北原先輩！ すみません、ちょっと来てください！ ウチの調理係が指切っちゃって」
125	春希	Haruki	「だから俺は実行委員じゃないって。 向こうに実行委員会のテントがあるからそっち行け」
126			それはともかく、 大学生だけじゃなく、もちろん学園生も。
127			しかも、男子だけじゃなく女子まで、 俺たちの出番に合わせて体育館へと集まってる。
128			…どうなるんだ一体？
129	孝宏	Takahiro	「母さん、ほら早く」
130	雪菜の母	Setsuna's Mother	「へぇ、賑わってるわねぇ。 とても付属の学園祭とは思えないわ」
131	孝宏	Takahiro	「いいなぁ…やっぱ俺もここにしようかなぁ」
132	雪菜の母	Setsuna's Mother	「何言ってるの。 孝宏、あなた全然成績足りてないじゃない」
133	孝宏	Takahiro	「いや、だって… 姉ちゃんに続いて俺まで私立だったら、 ウチ大変だろうなと思って…」
134	雪菜の母	Setsuna's Mother	「行けるならたとえ無理してでも行かせるわよ。 大体、都立にだってもっといいところは沢山…」
135	孝宏	Takahiro	「あ～あっちだあっち、体育館！ 姉ちゃんたち、確か３時からだよな？」
136	春希	Haruki	「………」	"........."
137			………挨拶するタイミングを逸した。 て言うか、本当に来たんだ、あの親子。
138			大学生だけじゃなく、学園生だけでもなく、 とうとう家族まで…
139			雪菜の注目度は、留まるところを知らないな。
140	女性	Woman	「ねえ、ちょっと」
141	春希	Haruki	「だから俺は実行委員じゃ…っ！？」
142	女性	Woman	「体育館ってどちらかしら？ ここ、初めて来るものだから」
143	春希	Haruki	「こっちです！ どうぞ、ご案内しますから！」
144			いかん… 一般人にあたるところだった…
145			………	.........
146	武也	Takeya	「もう次の次か」
147	依緒	Io	「…ねぇ、さっきからどんどん人増えてってない？」
148	武也	Takeya	「立ち見が出始めてる。 再結成して一月も経ってない同好会目当てに。 …笑えない状況だな」
149	依緒	Io	「これ、全部雪菜目当てなの？」
150	武也	Takeya	「少なくとも春希のギターを聴きに来た奴はいないだろ。 …冬馬目当ての奴らなら、少しはいるみたいだけどな」
151	依緒	Io	「ああ、音楽科？」
152	武也	Takeya	「相当嫌ってるらしいからなぁお互い。 笑い者にしたくてしょうがないんじゃないか？」
153	依緒	Io	「なんてネガティブな…」
154	武也	Takeya	「目立てば目立つほど敵も増えるさ。 それは雪菜ちゃんだって例外じゃない。 …外したら一気に叩かれるぞ」
155	依緒	Io	「なんか実感こもってないその言葉？\k\n
156	依緒	Io	男であんたに味方してくれるの春希しかいないもんね」
157	武也	Takeya	「人のこと言えるのかスパルタキャプテン？ …さ、そろそろあいつらのとこ行くか」
158	依緒	Io	「雪菜、またガチガチになってなきゃいいけど… 下手なこと言って余計なプレッシャーかけるなよ？」
159	かずさ	Kazusa	「………」	"........."
160	雪菜	Setsuna	「………」	"........."
161	春希	Haruki	「………」	"........."
162	武也	Takeya	「よっ、次だな。 お前ら目当てで立ち見まで出てるぞ」
163	依緒	Io	「言った側からいきなり約束破ってどうするの！ ちょっとは空気読めって…」
164	雪菜	Setsuna	「どれどれ…わ、ほんとだ。 春希くん春希くん、すっごいよ人」
165			雪菜が少しだけ舞台に上がり、 幕の隙間から客席の様子を伝えてくる。
166	春希	Haruki	「だからさっきからそう言ってるだろ。 大学からもかなり流れてきてたって」
167			とは言え、俺もつい数分前に入ったばかりだから、 客席の、ある意味惨状は十分に認識してた。
168	春希	Haruki	「…あと、雪菜のお母さんと弟も。 探してみれば見つかるんじゃないかな？」
169			予想した通り、ほとんどが雪菜目当ての、 普段はライブとかにほとんど興味のなさそうな、 いわゆる『素人』だった。
170	雪菜	Setsuna	「…その二人が一番嫌。 家帰ったら絶対ボロボロに言うんだよ？ 二人ともカラオケで外しまくるのにさぁ」
171	春希	Haruki	「へぇ、家族でもカラオケ行くことあるのか？」
172	雪菜	Setsuna	「…みんなが１曲ずつ歌う間に５曲は歌うから、 最近は一緒に来てくれないけどね」
173	春希	Haruki	「自業自得だ自業自得。 どうして歌うことに関しては謙虚になれないかな？」
174	雪菜	Setsuna	「仕方ないよ～、 だってわたしの方が上手いんだもん。 たくさん歌ってもいいんじゃないかなぁ」
175	依緒	Io	「…あれ？」
176	武也	Takeya	「で、誰が空気読んでないって？」
177	かずさ	Kazusa	「寝不足でテンション上がってるんだろ。 何しろ昨日から一睡もしてないんだから」
178	春希	Haruki	「寝てないのは冬馬だって同じだろ？ お前だけどうしてそんなに落ち着いてるんだ？」
179			とはいえ、 テンション上がってハイになってる冬馬なんてのは、 出会って半年の間、お目に掛かったことないけどな。
180	かずさ	Kazusa	「あたしは５歳の頃からコンクール出てた。 毎年少なくとも３回は出てた。 で…優勝できなかったのは２回くらいかな？」
181	春希	Haruki	「…いやお前の自慢話が聞きたかった訳じゃないんだ」
182			確かに十分自慢に値するエピソードだけど。 というかやっぱりこいつ天才なんじゃないかって思うけど。
183	雪菜	Setsuna	「じゃあ、そのベテランの冬馬さんから、 わたしたちに一言アドバイスを」
184	春希	Haruki	「雪菜…」
185			舞台の袖から戻ってきた雪菜が、 さっきのまま、陽気に冬馬に問いかける。
186			ハイであろうが、落ち着いていなかろうが、 もう昨日のような、青ざめて震える弱々しい女の子は、 そこにはいなかった。
187			今の雪菜なら、うっかりミスはあっても、 緊張で失敗することはあり得ないって信じられる。 そんな、強い瞳を俺たちに見せてくれる。
188	かずさ	Kazusa	「じゃあ、一言だけ…」
189			で、そんな強い光を受けても、 冬馬の淡々として、それでいて不敵な面構えは、 やっぱり崩れるはずもなかった。
190			二人とも、なんて頼もしい。 …やっぱり失敗するとしたら俺だろうな。
191	かずさ	Kazusa	「こんな準備不足で上手く演れるわけがない。 これは全て、同好会を一度は崩壊させた部長と、 時間がないのにやっつけで再結成した北原の責任だ」
192	武也	Takeya	「うわぁ…」
193	春希	Haruki	「ひえぇ…」
194	依緒	Io	「なんて正論…」
195			『失敗するとしたら』どころか、 すでに俺が失敗していると言い切られてしまった…
196	かずさ	Kazusa	「二人は音楽を馬鹿にしてる。しかも北原に至っては、 本番前日になってさらに１曲増やすとか言ってるし。 もはやこれは正気を疑うレベルだ」
197	武也	Takeya	「それは確かになぁ」
198	依緒	Io	「酷い話よねぇ」
199	春希	Haruki	「ちょ、ちょっと待て…」
200			冬馬が曲を作ったのに…？ 打ち込みだってやってたのに…？
201			…って、今はみんなを鼓舞する時間じゃなかったのか？ もう１０分もしないうちに俺たちの出番なのに？
202	雪菜	Setsuna	「じゃあ、わたしも正気じゃないよね？ それでも春希くんのしたことが正しいって、 そう信じてるんだから」
203	春希	Haruki	「え？」
204	かずさ	Kazusa	「…というわけで、誰も正気じゃないから、 まぁ、なんとかなるんじゃないか？」
205	春希	Haruki	「ふぇ…？」
206	雪菜	Setsuna	「楽しくやろうね？ そして、みんなをびっくりさせてあげようね？」
207	かずさ	Kazusa	「二人とも、迷ったらあたしの音だけ聴け。 なんとか導いてやるから」
208	雪菜	Setsuna	「でもね、ラストナンバーだけは、 観客なんか気にせずに、三人だけで盛り上がろう？ だってこれ、わたしたちだけの歌なんだもん」
209	かずさ	Kazusa	「あたしはそれで構わないけど…北原は？」
210	春希	Haruki	「雪菜…冬馬…」
211			とうとう、前のチームの演奏が終わった。
212			あと１０分もしないうちに、 俺たちは目の前の舞台から、 満員の観客に向かって、音を発信する。
213			もう逃げ場はない。 そして、今さらおさらいなんかできない。
214	雪菜	Setsuna	「じゃ、行こうか。 冬馬さん、春希くん。\k\n
215	雪菜	Setsuna	…わたしのせいで超満員になっちゃってごめんね？」
216	かずさ	Kazusa	「その時々傲慢になるところがホント苦手だ… ほら、行くぞ北原」
217	春希	Haruki	「ああ！ …二人とも、俺がソロ外しても笑うなよ！」
218	雪菜	Setsuna	「笑うに決まってるよ」
219	かずさ	Kazusa	「指差して笑ってやる」
220	春希	Haruki	「お前ら…」
221			でも、もうやり残したことなんかない。
222			限られた時間の中で、練習して、徹夜して、曲作って、 喧嘩して、仲直りして、風邪ひいて、看病して、 怖じ気づいて、克服して、そして今日を迎えた。
223			友情なのか、それ以外なのかわからないけど、 三人の間に、強い絆だって育んだ…はずだ。
224			だから、俺たちは力強い足取りで、 今までのたった二週間を、 今からのたった十数分にぶつける。
225			………	.........
226	武也	Takeya	「なんだよあのコたち… あそこまで春希を信じられるって、 どうかしてんじゃないのか？」
227	依緒	Io	「武也には一生かかっても作れない関係だよね。 女の子と、男としてしか向き合えないから」
228	武也	Takeya	「………うるせえよ」
229	依緒	Io	「でもさ… あんなにどうしようもなくなっちゃったら、 これからが辛いよね、あの三人」
230			………	.........
231			……	......
232			…	...
233			舞台の、幕が開く…
234			同時に、海のものとも山のものともつかない 即席ユニットに浴びせられるには不相応な数の拍手。
235			そして俺たちは、段々と視界が広がっていく幕の隙間から、 突き刺さる大量の好奇の視線たちと、とうとう相対する。
236			舞台の中央…
237			きっと、ここにいる９９％以上の人たちの視線を集めてる、 俺たちの、看板ボーカリスト。
238			雪菜が歌い出すと、 いっきに波のように歓声が広がり、 舞台の上にまでその驚きを運んでくる。
239			…そう、彼らは知らなかった。 雪菜が『ヒトカラの女王』だってことを。 だって、彼女の歌なんか聴いたことがないから。
240			ただ、人気があるだけで選ばれて、 本人も軽い気持ちで目立とうと思って、 そんな利害の一致しかないと思ってた人も多いはずだ。
241			今ここに立つまでに、この曲をどれだけ歌い込んでて、 そして、ここ二週間でさらにどれだけ磨いたか、 わかってる人なんて、両手指で数えられるに違いない。
242			プロには遠く及ばない。 アマだって、もっと上手いのはゴロゴロいる。
243			ただ、素人を大きく逸脱していることが大きかった。 だって皆、雪菜のことを素人だと思っていたんだから。
244			舞台の左側…観客席から見て右側に位置する俺は、 この少し異常な観客の反応は全て雪菜に任せ、 とにかく自分のパートに集中する。
245			それほど今の雪菜は大丈夫だから。 昨日までの、ビビリの雪菜はどこにもいないから。
246			頭で考えず、指の反応に任せ、 とにかく自分らしく、積み上げ、積み重ね…
247			………	.........
248			凄い… 俺のくせに、指が動く。
249			二週間前と比べると、信じられないくらいによく回る。
250			そして舞台の右側…観客席から見て左側には あまりにも軽々とキーボードを操る冬馬の姿。
251			ピアノの時みたいに力加減を必要としない 電子楽器は、彼女には物足りないのか、 指先を全然見ずに、常に俺たちへと目配りを忘れない。
252			『二人とも、迷ったらあたしの音だけ聴け。 なんとか導いてやるから』
253			きっと本気で実践する気で、 しかも余裕だと思ってるんだろうな。
254			そろそろ最初の熱気は徐々に静まり、 観客が聴きモードに入ってきてた。
255			けど、これも予想の範囲内。
256			もともと静かな曲なので、 曲の最初から最後までノリノリなんてことは、 絶対にあり得ないってわかってる。
257			というか、皆が聴き入ってるってことはつまり、 雪菜の歌を、もう完全に『聴けるレベル』だって、 認識したってこと。
258			ここからは、歌だけじゃなく、 俺と冬馬の方にも少しずつ注意が向いてくる時間帯。
259			冬馬は相変わらず全然心配ない。
260			未だに指先を全く見ることもなく、 それでも紡ぎ出す音とテンポには、 まったくの狂いはない。
261			そして、今は雪菜の方をケアすることもやめてしまい、 安心して俺の指先にばかり注意を向けている。
262			…やっぱりこのユニットの中では、 俺が一番心配されてるんだろうな。
263			で、そんな俺は… まぁ、今のところ多分心配はないと思う。
264			相変わらず、指先も脳神経も絶好調で、 まるで何かが覚醒したかのように、 “ほとんど”ミスをしてない。
265			何しろ思いはもう２曲目のソロパートに飛んでいってて、 俺のくせに今は流してる感覚が強かったりする。
266			………	.........
267			でも、ま… 何しろ俺のやることだ。 それでも保険を掛けておくに越したことはない。
268			…そんな卑怯な考えも、 実はこの次の計画には含まれていたりした。
269	春希	Haruki	『冬馬、そろそろ』
270	かずさ	Kazusa	『本当にやるのか？』
271			ずっと俺の手元を注目してた冬馬に、 意味ありげな目配せを送る。
272			それこそが、俺がまるっきりの思いつきで計画し、 冬馬さえ呆れた、馬鹿馬鹿しい大道芸。
273	春希	Haruki	『絶対にウケるって』
274	かずさ	Kazusa	『…知らないぞあたしは』
275			やっぱり何度目配せを送っても、 冬馬の俺を見る目は懐疑的で、少し馬鹿にしてて、 思いっきり冷たかったけど。
276	春希	Haruki	『行けっ、冬馬！』
277	かずさ	Kazusa	『やりゃいいんだろやりゃ！』
278			最後に、盛大に俺に向かって舌を出すと…
279			そのまま、キーボードから手を離し、 舞台の前へと進み出る。
280			冬馬は…
281			専門じゃないサックスを吹く間でも、 俺と目配せで会話できるほど余裕を持っていた。
282	春希	Haruki	『ほうら見ろ！　大ウケ！』
283	かずさ	Kazusa	『なんだかなぁ』
284	男子生徒１	Male Student 1	「…滑稽だな」
285	男子生徒２	Male Student 2	「あの冬馬がこんな曲弾きを…」
286	男子生徒１	Male Student 1	「音楽舐めてる。 天才だとか金の卵だとかちやほやされて、 行き着いたのがこれかよ。まったく失望だ」
287	男子生徒２	Male Student 2	「…お前冬馬に期待してたの？ 一番嫌ってたような気がしたけど」
288	男子生徒１	Male Student 1	「こんな茶番、これ以上見てられるか。 …俺のライバルはここにはいなくなった。 いるのは曲芸を見せて悦に入るピエロだけだ」
289	男子生徒２	Male Student 2	「…お前冬馬に相手にされてたっけ？ どのコンクールでも勝てたためしがなかったような」
290	男子生徒１	Male Student 1	「お前さっきからうるさいなぁ！」
291	男子生徒２	Male Student 2	「けどさ、これって… あいつらの作戦勝ちじゃね？」
292	男子生徒１	Male Student 1	「何が！？」
293	男子生徒２	Male Student 2	「だってさ…」
294	男子生徒２	Male Student 2	「どうなのよ？　これ」
295	男子生徒１	Male Student 1	「………」	"........."
296			………	.........

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Mini After Story and Extra Episode
The Path Back to Happiness	The Path Forward to Happiness	Dear Mortal Enemy
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6002	6102	4001	4006
6003	6103	4002	4007
6004	6104	4003	4008
6005		4004	4009

Novels
The Snow Melts, And Until The Snow Falls	The Idol Who Forgot How to Sing	Twinkle Snow ~Reverie~		After the Festival ~Setsuna's Thirty Minutes~	His God, Her Savior
5000	5100	5200	5205	5300	5400
5001	5101	5201	5206	5301	5401
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5003	5103	5203	5208	5303
5004	5104	5204	5209

Short Stories
Princess Setsuna's Distress and Her Minister's Sinister Plan	Koharu Climate After the Passing of the Typhoon	This isn't the Season for White Album	Todokanai Koi, Todoita
7000	7100	7200	7300