Difference between revisions of "White Album 2/Script/2001"
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+ | I am a Chicken that likes erotic games of Hide and Seek where the object of the game is to eat all of the korro fanbase for acts of stupid shipping. |
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Revision as of 20:15, 14 May 2014
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Translation
I am a Chicken that likes erotic games of Hide and Seek where the object of the game is to eat all of the korro fanbase for acts of stupid shipping.
Editing
Translation Notes
Text
Speaker | Text | Comment | |||
---|---|---|---|---|---|
Line # | JP | EN | JP | EN | |
1 | ??? | ??? | 「ん………ん~」 | "Nn... Nhh~"
| |
2 | 男子学生1 | Male Student 1 | 「お、いいところに! あのさ、昨日の英語史のノート、 もちろん取ってるよな?」 | "Ah, what a nice timing! You know, english history notes from yesterday, can I borrow it a little longer?" | |
3 | ??? | ??? | 「すぅぅぅ…んぅ…?」 | "Suuu... Nnh..?"
| |
4 | 女子学生1 | Female Student 1 | 「ねぇねぇ、先週の日本経済論のゼミのことなんだけど、 ほら、グループでレポート提出ってなってたじゃない? で、ものは相談なんだけど…」 | ||
5 | ??? | ??? | 「~♪」 | "~♪"
| |
6 | ??? | ??? | 「…んぅ?」 | "...Nmm?"
| |
7 | ??? | ??? | 「っ!? ん~…?」 | "..!? Nnn..? | |
8 | ??? | ??? | 「寒っ…」 | "So cold..."
| |
9 | 春希 | Haruki | 「もう11月も終わりだからな」 | "It's the end of november after all."
| |
10 | うららかな晩秋の陽が差し込むとはいえ、 その風の冷たさはもう誤魔化しようがなかった。 | ||||
11 | ??? | ??? | 「や、ちょっとぉ…閉~め~て~よぉ。 何してんのよぉ」 | ||
12 | 春希 | Haruki | 「何してるのかと問いたいのはこっちだ。 危うく踏むところだったぞ」 | ||
13 | 『荻島研究室』というプレートの貼られたドアを開けると、 目の前に転がっていたのは等身大の芋虫。 | ||||
14 | …に見える、 寝袋に身を包んで安らかに寝息を立てていた、 同じ三年のゼミ仲間だった。 | ||||
15 | 女子学生2 | Female Student 2 | 「昨夜はレポートにのめり込んじゃって… 気がついたら終電逃してて」 | ||
16 | 春希 | Haruki | 「嘘だな」 | ||
17 | 女子学生2 | Female Student 2 | 「本当だよ。 週明けに提出だってすっかり忘れてて」 | ||
18 | 春希 | Haruki | 「やっぱり嘘だ。 俺の知ってる和泉は、レポートを期限通り提出したりとか、 そんなまっとうな努力をする人間じゃない」 | ||
19 | 和泉 | Izumi | 「………い~じゃん、学園祭も終わったことだし」 | ||
20 | 春希 | Haruki | 「終わったからこそだ。 心機一転、気を引き締めて生活態度を改めろ」 | ||
21 | ついでに言えば、俺の知ってる和泉千晶という奴は、 すぐばれる嘘でその場を取り繕おうとして、 簡単に見破られると、たちまちふて腐れる人間だ。 | ||||
22 | 千晶 | Chiaki | 「ほんと、春希ってさ… 可愛い女のコにだけはとことん冷たいよね」 | ||
23 | 春希 | Haruki | 「だらしない人間に冷たいだけだ。 あと、自分を指して可愛いとか言う臆面もない奴とか」 | ||
24 | そもそもそういう台詞は きちんと寝癖を直してから言って欲しい。 | ||||
25 | 千晶 | Chiaki | 「んんぅぅぅ~……… そういえば、今何曜日?」 | ||
26 | 春希 | Haruki | 「人にものを尋ねるときはちゃんと推敲してからにしろ。 11時だよ」 | ||
27 | 千晶 | Chiaki | 「…意味を取り違えたつもりはないけど?」 | ||
28 | 春希 | Haruki | 「……水曜日だけど?」 | ||
29 | 千晶 | Chiaki | 「うっわ~、30時間以上寝ちゃったんだ」 | ||
30 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
31 | 二度終電を逃した訳か… よくそんなに寝られるな。 | ||||
32 | 人間の体内時計を持ってないのかこいつは。 | ||||
33 | 千晶 | Chiaki | 「そうとわかったら急にお腹がすいてきた… ね、春希、お昼ご飯おごってよ。 もちろん春希のおごりで」 | ||
34 | 春希 | Haruki | 「日本語の使い方が激しく間違ってるぞ。 特に厚かましい方向に」 | ||
35 | 千晶 | Chiaki | 「お財布の中50円しかないんだよ。 苦学生を助けると思ってさ」 | ||
36 | 春希 | Haruki | 「助けて欲しいと思ったら、 少しは字面通り苦労して勉強してみせろ」 | ||
37 | 千晶 | Chiaki | 「けちぃ」 | "So cheap"
| |
38 | 春希 | Haruki | 「俺だって苦しいんだよ。 今日だってこの後バイト2つ入れてるくらいだし」 | ||
39 | 千晶 | Chiaki | 「…ところでさ」 | "...Anyway"
| |
40 | 春希 | Haruki | 「…なんだよ?」 | "What is it?"
| |
41 | 千晶 | Chiaki | 「あたしこれ聴きたいんだけど」 | ||
42 | 春希 | Haruki | 「大した曲じゃないだろ」 | ||
43 | 千晶 | Chiaki | 「だからって消すことないじゃん。 なに? どうしても聴きたくないわけ?」 | ||
44 | 春希 | Haruki | 「そういう訳じゃないけど…」 | "I don't meant it like that, but..."
| |
45 | 千晶 | Chiaki | 「そういえば春希、付属からの持ち上がりだったね。 もしかして、この歌に何か…」 | ||
46 | 春希 | Haruki | 「学食行くぞ。 A定までなら目を瞑る」 | ||
47 | 千晶 | Chiaki | 「そうこなくっちゃ! 春希愛してる~」 | ||
48 | 春希 | Haruki | 「………冗談でも軽々しくそういうこと言うな」 | ||
49 | 冬が、間近に迫っていた。 | The winter, it's already nearby.
| |||
50 | 毎年、11月の後半に開催される峰城祭も終わり、 キャンパスの祭りの跡も、綺麗に洗い流された。 | ||||
51 | 春希 | Haruki | 「だから何度も言わせてもらうけどな和泉」 | ||
52 | 男子学生2 | Male Student 2 | 「あ、春希めっけ。 あのさ、この間のセミナーに呼んだ講師に支払う 講演料のことなんだけど」 | ||
53 | 春希 | Haruki | 「価格交渉して振り込みして受領も確認してもらってある。 ほら、通帳返すから。これ領収書な」 | ||
54 | 男子学生2 | Male Student 2 | 「悪いないつもいつも。 …お、予算こんなに余ってるラッキー」 | ||
55 | 千晶 | Chiaki | 「………」 | "........."
| |
56 | 春希 | Haruki | 「ええと…なんだっけ? あ、そうだそうだ。 何度も言わせてもらうけどな和泉…」 | ||
57 | 千晶 | Chiaki | 「うん、何度も何度も聞かされてもらってる」 | ||
58 | 春希 | Haruki | 「飲み会で終電逃したからって研究室で寝るなよ。 最初に入ってきたのが俺だから良かったようなものの…」 | ||
59 | 千晶 | Chiaki | 「でも先輩たちも時々見かけるよ? あの寝袋だって研究室に置いてあったやつだし」 | ||
60 | 春希 | Haruki | 「それは四年以上の特権。 俺たち[R新参者^さんねん]には許されない領域なの」 | ||
61 | ある者にはうたかたの夢が、 そしてある者にはただの秋休みが過ぎ去り、 大学生としての日常の姿を取り戻していく。 | ||||
62 | 春希 | Haruki | 「研究室で夜を明かしたければ教授にテーマもらえ。 お前、ゼミにも全然顔出してないだろ?」 | ||
63 | 千晶 | Chiaki | 「この前質問に行ったらさぁ、 あたしの教育係は春希に決まったから、 まずはそっちに聞けって」 | ||
64 | 春希 | Haruki | 「教授…」 | ||
65 | たった数か月で信頼を得たことは嬉しいですが、 たった数か月で教育義務を放棄しないで下さい… | ||||
66 | 春希 | Haruki | 「そもそも深夜の研究室に女が一人きりって… もう少し危機意識というか…」 | ||
67 | 千晶 | Chiaki | 「あ~わかったわかった。 わかりましたお巡りさん。 今度から気をつけますって」 | ||
68 | 春希 | Haruki | 「大学祭が終わって気が抜けたってのはわかるけど、 楽しいときこそ自らを律することを忘れずにだな…」 | ||
69 | 千晶 | Chiaki | 「あ~わかったわかった。 わかりました神様。 来世から気をつけますって」 | ||
70 | 春希 | Haruki | 「…そう思うならもっと崇拝しろよ」 | ||
71 | 目の前にいる和泉千晶は、 心底悪びれずにアジフライを頬張っている。 | ||||
72 | 洒落っ気のない服にぼさぼさの髪。 化粧っ気のない、けれど整った顔。 | ||||
73 | 実は女のくせに、それを感じさせない単なるゼミ仲間は、 その点に関してだけは、とてもありがたい存在だった。 | ||||
74 | 千晶 | Chiaki | 「でさ、今日は…」 | "But, today is..."
| |
75 | 女子学生3 | Female Student 3 | 「北原くん北原くん。 教授に頼まれてた来年のゼミ合宿の…」 | ||
76 | 春希 | Haruki | 「とりあえず新潟で探してます。 テニスコートが近くにあるホテル 3つほどピックアップして交渉中です」 | ||
77 | 女子学生3 | Female Student 3 | 「…もうそこまで進んでるんだ。 あ、それで下見…」 | ||
78 | 春希 | Haruki | 「それは院生の人たちにお任せします。 年明けには絞り込みますから」 | ||
79 | 女子学生3 | Female Student 3 | 「ありがと、完璧! …あ、ごめんね和泉さん、お邪魔しちゃって」 | ||
80 | 千晶 | Chiaki | 「…いえ別に」 | ||
81 | 女子学生3 | Female Student 3 | 「それじゃ、二人ともまた後でね」 | ||
82 | 千晶 | Chiaki | 「………」 | "........."
| |
83 | 春希 | Haruki | 「ええと…あ、そうだ、 そっちの話の途中だったよな?」 | ||
84 | 千晶 | Chiaki | 「今日はこの後どうするの? …って、ただそれだけだったんだけど」 | ||
85 | 春希 | Haruki | 「四コマ目まで出たら塾のバイト。 その後、夜中まで出版社のバイト」 | ||
86 | 千晶 | Chiaki | 「…相変わらずのワーカホリックだね。 あんたに私生活ってあるの?」 | ||
87 | 春希 | Haruki | 「こちとら正真正銘の苦学生ですから」 | ||
88 | 今は、な。 | ||||
89 | 千晶 | Chiaki | 「なんかさ… しなくてもいい苦労、わざとしてるみたいに見えるんだよ。 春希って」 | ||
90 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
91 | 千晶 | Chiaki | 「そんなだから、人にいいように利用されてさ。 絶対に人生損してるって」 | ||
92 | 目の前の生き証人がしみじみとそんなことを言う… | ||||
93 | 春希 | Haruki | 「若いうちの苦労は買ってでもしろという 格言があってだな」 | ||
94 | 千晶 | Chiaki | 「…そこまで言うなら、あたしも売ってあげよう。 とりあえず220円でいいよ」 | ||
95 | 春希 | Haruki | 「それ、苦労の売値じゃなくて かき揚げうどんの買値だから」 | ||
96 | 千晶 | Chiaki | 「…わかったよ、かき揚げはやめる。 大負けに負けてコロッケうどん200円でいいや!」 | ||
97 | 早速実践してくれなくてもとは思ったけどさ。 | ||||
98 | ……… | .........
| |||
99 | 春希 | Haruki | 「はい、それじゃ今日のところはここまで。 来週は模試だからしっかり頑張ってな~」 | ||
100 | 本日のバイトその1、無事終了。 | ||||
101 | 大手予備校とは施設も規模も、 ましてや講師の人材も雲泥の差の零細学習塾にも、 こうして大学進学を目指す生徒たちがそこそこに集う。 | ||||
102 | ま、だからこそ、俺のような学生バイト講師も こうしてありがたく働き口にありつける訳で。 | ||||
103 | 春希 | Haruki | 「ふぅ…」 | ||
104 | 現国と英文法という、 人材不足の塾ならではの掛け持ちを続けて一年半。 | ||||
105 | ようやくある程度の余裕を持って 授業をこなせるようになった。 生徒たちの反応も、そこそこ掴めるようになってきた。 | ||||
106 | けれどそれも… | ||||
107 | 女生徒1 | Female Student 1 | 「北原先生…」 | ||
108 | 春希 | Haruki | 「? ああ、矢田か」 | ||
109 | などと、ほんの少し感傷に浸ろうと思ったとき、 誰もいなくなったはずの教室に、小さな声が響いた。 | ||||
110 | 女生徒1 | Female Student 1 | 「あの…今、いいですか?」 | "Uum...today, is it okay?"
| |
111 | 矢田美穂子。峰城大付属の三年。 要するに、俺の後輩。 | ||||
112 | そして、春からは… | ||||
113 | 春希 | Haruki | 「そういえば推薦決まったんだって? おめでとう」 | ||
114 | また、俺の後輩になる。 | ||||
115 | 美穂子 | Mihoko | 「ありがとうございます。 その、先生のおかげです」 | ||
116 | 春希 | Haruki | 「矢田の努力のおかげだろ」 | ||
117 | 美穂子 | Mihoko | 「ううん、やっぱり先生のおかげです。 いつも居残りまでして教えてくれたから…」 | ||
118 | いつも一番前で聞いてくれた、 いつも授業後に熱心に質問してくれた、 だから、初めて名前を覚えた教え子だった。 | ||||
119 | 春希 | Haruki | 「ま、矢田の場合、そもそも成績良かったし、 努力家だったから心配してなかったけどな」 | ||
120 | そんなふうに成績優秀かつ授業態度も理想的、 それでいて狙いは持ち上がりの推薦だったから、 むしろ予備校に来る必然性がわからなかったけど。 | ||||
121 | 春希 | Haruki | 「で、どうしたんだ? いつものように質問…って、 進路決まったのにそんなはずもないか」 | ||
122 | 美穂子 | Mihoko | 「い、いえ、それです。 いつものように質問…です」 | ||
123 | 春希 | Haruki | 「…そうなの?」 | ||
124 | それにしても、努力家もここまでくると… | ||||
125 | 美穂子 | Mihoko | 「だ、駄目ですか?」 | ||
126 | 俺でさえ…というのは傲慢かもしれないけど、 俺でさえ勉強そっちのけだった時期なのに。 | ||||
127 | 春希 | Haruki | 「駄目な訳ないだろ。 俺が授業後の質問断ったことあるか?」 | ||
128 | …何も、考えられなかった時期なのにな。 | ||||
129 | 美穂子 | Mihoko | 「…いえ、ないです。 どんなに遅くなっても、一生懸命教えてくれました」 | ||
130 | 春希 | Haruki | 「い、いや。 別にそこまで持ち上げなくてもいいから… じゃ、とにかく座って」 | ||
131 | 美穂子 | Mihoko | 「このままで、いいです」 | ||
132 | 春希 | Haruki | 「? 矢田?」 | ||
133 | けれど、ふとそんな思いに囚われた矢先。 | ||||
134 | 彼女は、いつも伏し目がちな瞳を、 今はまっすぐこちらに向けた。 | ||||
135 | 美穂子 | Mihoko | 「………今月で辞めるって本当ですか?」 | ||
136 | 春希 | Haruki | 「あ~…そのことか」 | ||
137 | 美穂子 | Mihoko | 「本当なんですね」 | ||
138 | 春希 | Haruki | 「うん」 | ||
139 | 美穂子 | Mihoko | 「………」 | "........."
| |
140 | まだ、塾長や他の先生たちにしか話してなかったけど、 実は、俺の受け持ちはあと3回分を残すのみだった。 | ||||
141 | 春希 | Haruki | 「俺ももうすぐ四年だし、ゼミやら就職活動やらで、 日中は色々と忙しくなりそうだし」 | ||
142 | 美穂子 | Mihoko | 「アルバイト、全部辞めちゃうんですか?」 | ||
143 | 春希 | Haruki | 「いや、ここだけ。 これからはなるべく夜働けるバイトに変えてくつもり」 | ||
144 | 美穂子 | Mihoko | 「そう、なんですか。 そんなに忙しくなるんですか…」 | ||
145 | 春希 | Haruki | 「て言うか、学生の本分に戻るだけだって」 | ||
146 | バイトに精を出しすぎて卒業できないなんていう、 ありがちな本末転倒は絶対に許されない。 常識的にも、生活的にも、矜持的にも… | ||||
147 | 春希 | Haruki | 「ま、来年からは同じ大学になるんだし、 今度はキャンパスで会おう? な?」 | ||
148 | 美穂子 | Mihoko | 「………」 | "........."
| |
149 | 春希 | Haruki | 「…矢田?」 | ||
150 | 美穂子 | Mihoko | 「次の質問、いいですか?」 | ||
151 | 春希 | Haruki | 「あ、ああ…?」 | ||
152 | 俺の言葉に納得したのかそうでないのか、 妙に表情を押し殺して、彼女は言葉を続ける。 | ||||
153 | 美穂子 | Mihoko | 「去年、先生が最初にここで授業をしたときのこと、 覚えてますか?」 | ||
154 | 春希 | Haruki | 「…随分昔の話だな」 | ||
155 | なんだ、これ? | ||||
156 | 美穂子 | Mihoko | 「最初だからって、自己紹介して、 その後、質問受け付けるって言ったら誰かが 『彼女いますか?』って聞いて、先生、詰まっちゃって」 | ||
157 | 春希 | Haruki | 「記憶力がいいのは財産だけど、 覚えておくべき情報の取捨選択は必要だと思うんだよ」 | ||
158 | 美穂子 | Mihoko | 「先生、しばらく黙りこくった後、 ぽつりと『いない』って答えて…」 | ||
159 | 春希 | Haruki | 「いや、だから俺が言いたいのは…」 | ||
160 | 美穂子 | Mihoko | 「それって今でも、ですか?」 | ||
161 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
162 | ああ、そうか。 | ||||
163 | 美穂子 | Mihoko | 「先生は、どんなに遅くなっても、 わたしの質問に一生懸命答えてくれました、よね?」 | ||
164 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
165 | 美穂子 | Mihoko | 「時間が必要なら待ってますから。 ゆっくり考えてもらっても…」 | ||
166 | 春希 | Haruki | 「…あの時と同じだ」 | ||
167 | 美穂子 | Mihoko | 「っ…ほ、本当ですか?」 | ||
168 | 春希 | Haruki | 「ああ…何も変わってない。 あの頃から、全然…」 | ||
169 | 美穂子 | Mihoko | [F16「よかった…よし、よしっ」] | ||
170 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
171 | そういう、ことか。 | ||||
172 | 美穂子 | Mihoko | 「そ、それじゃ、次の質問です!」 | ||
173 | 春希 | Haruki | 「…矢田」 | ||
174 | 美穂子 | Mihoko | 「さ、最後まで聞いてください! あの、わたし、わたしっ、先生が… 先生のこと…」 | ||
175 | 春希 | Haruki | 「矢田」 | ||
176 | 美穂子 | Mihoko | 「っ!? は、はい…」 | ||
177 | 大声を張り上げたりはしなかった。 | ||||
178 | ただ冷静に、あくまで冷静に。 …ありえないくらい、冷静に。 | ||||
179 | 春希 | Haruki | 「それは君の勘違いだ。 忘れなさい」 | ||
180 | 美穂子 | Mihoko | 「………ぇ?」 | ||
181 | 春希 | Haruki | 「今後二度とそういう質問はしないように。 …じゃ、さようなら」 | ||
182 | いつも通り。 ずっと変わらない、普段通りの、俺のまま。 | ||||
183 | ……… | .........
| |||
184 | 男性編集部員1 | Male Editor 1 | 「お~いバイト、この前頼んだアンケート集計 どうなってる?」 | ||
185 | 春希 | Haruki | 「E×c○lにまとめてあるんで今から送ります。 マクロで項目別にも集計し直せるようにしてあります」 | ||
186 | 男性編集部員2 | Male Editor 2 | 「これ、外注から上がってきた原稿。 軽く校正しといて。今日中!」 | ||
187 | 春希 | Haruki | 「わかりました。 日付変わる前までに」 | ||
188 | 女性編集部員1 | Female Editor 1 | 「ね~ね~北原くん。 都内カレー屋ランキングシリーズが、 今度シーフード編に突入するんだけどさ~」 | ||
189 | 春希 | Haruki | 「この前みたいにwebでのレビュー拾いでいいですか? ええと…明日中に全部まとめておきます」 | ||
190 | 男性編集部員3 | Male Editor 3 | 「悪い、これ2ページでレイアウト頼む。 やり方はバックナンバー参考。 | ||
191 | 男性編集部員3 | Male Editor 3 | …うわまずい、約束の時間過ぎてる!」 | ||
192 | 春希 | Haruki | 「…帰ってもいいですけど、 わからないこと聞くと思うんで、 携帯オフにしないでくださいよね?」 | ||
193 | 男性編集部員3 | Male Editor 3 | 「ごめん、メールにしといて~」 | "Sorry, I don't know the mail"
| |
194 | 春希 | Haruki | 「…了解」 | ||
195 | 午後9時15分。 | ||||
196 | 開桜社ビル3F。 雑誌『開桜グラフ』編集部。 | ||||
197 | 本日のバイトその2、無事継続中。 | ||||
198 | 男性編集部員1 | Male Editor 1 | 「…なんだよ木崎の奴? やたら慌ててたな?」 | ||
199 | 専門誌から大衆誌まで、20を超える部門を抱える 大手出版社『開桜社』。 | ||||
200 | 女性編集部員1 | Female Editor 1 | 「なんか彼女から別れ話切り出されてるみたいで、 今日が峠とか言ってましたよ?」 | ||
201 | ここには、夜6時から出勤しても、 7~8時間は平気で仕事できる、 両方の意味で有難いバイトがある。 | ||||
202 | 男性編集部員2 | Male Editor 2 | 「…だからって仕上げバイトに振って大丈夫なのかなぁ? 校了、週明けなのに」 | ||
203 | なにしろ、週3~4回の頻度で顔を出すだけで、 死ぬほどの仕事量と、家賃を超える報酬が手に入る。 | ||||
204 | 春希 | Haruki | 「出来なければ連絡入れますから。 厳しかったら浜田さんに相談するかも」 | ||
205 | そのどちらも必要な俺にとって、 しばらくは辞められそうにない、大事なバイト先。 | ||||
206 | 浜田 | Hamada | 「俺だっていっぱいいっぱいだっての! 今月、自分の企画3つも抱えてるんだぞ? ヘルプなら松岡か鈴木に…」 | ||
207 | 松岡 | Matsuoka | 「いや今忙しくない人いないっしょ?」 | ||
208 | 鈴木 | Suzuki | 「敢えて一人挙げるとすれば………デスク?」 | ||
209 | 春希 | Haruki | 「…わかりました。 では田中デスクに相談することにします。 すいません、田中さん~」 | ||
210 | 浜田 | Hamada | 「待~て待て待て待て! どうしてそう冗談が通じないんだお前は」 | ||
211 | 春希 | Haruki | 「冗談だったんですか? じゃあ俺は、木崎さんの記事を落としそうになったら、 一体誰に相談を?」 | ||
212 | 松岡 | Matsuoka | 「いや、だからな北原? もうちょっとネタにネタらしく反応しろというか… いや、本当はわざとやってるよな?」 | ||
213 | 春希 | Haruki | 「ここでほのぼの笑ってるだけで落ちなくなるなら いくらでも腹抱えてみせますけど…」 | ||
214 | 鈴木 | Suzuki | 「北原くんってさ、 バイトの中じゃ冗談みたいに仕事できるけど、 本物の冗談の方は全然笑えないよね」 | ||
215 | 浜田 | Hamada | 「やっぱり上司の教育に問題があったんじゃ…」 | ||
216 | ??? | ??? | 「へぇぇ… 私の雑用マシーンを捕まえて散々な言いようね?」 | ||
217 | 浜田 | Hamada | 「ひぃぃぃっ!?」 | ||
218 | 春希 | Haruki | 「あ、お帰りなさい」 | ||
219 | 松岡 | Matsuoka | 「ま、麻理さん…」 | ||
220 | 鈴木 | Suzuki | 「あっちゃぁ… 今週、海外取材だったはずじゃ?」 | ||
221 | どうやら皆、俺をイジることに夢中で、 自分たちの背後がおろそかになっていたらしい。 | ||||
222 | 春希 | Haruki | 「あ、1時間前に成田に着いたって連絡ありました。 けどまさか今日こっちに顔出すとは…」 | ||
223 | 浜田 | Hamada | 「そういう肝心なことは早く言えよ北原!」 | ||
224 | 両手を腰に当てて立ちはだかる長身の凛とした姿は、 バイトだけでなく社員たちすら震え上がらせる 風格と威厳に満ちている。 | ||||
225 | 鈴木 | Suzuki | 「あ~麻理さん。 わたしたちが勝手に言いつけてるんじゃないからね? 北原くんの方から『なんか仕事ないですか?』って…」 | ||
226 | 松岡 | Matsuoka | 「そうそう! 暇な奴を遊ばせておく余裕はウチにはないですよね? 『立ってる奴は社長でも使え』という社訓が…」 | ||
227 | …この人たちとあまり年代の変わらない 若手社員(本人談)なんだけど。 | ||||
228 | 麻理 | Mari | 「…本当なの北原?」 | ||
229 | で、その威圧感漂う上から目線が、今度は俺を襲う。 | ||||
230 | 春希 | Haruki | 「…麻理さんに頼まれた仕事は 一昨日で全部片づいたので」 | ||
231 | 風岡麻理。 | ||||
232 | 開桜社、開桜グラフ編集部所属。 | ||||
233 | 現在の俺の、直属の上司。 | ||||
234 | 麻理 | Mari | 「あんたに指示を出すのは私のはずでしょ? 勝手に他の部員から仕事貰うなって、 何度言ったか覚えてる?」 | ||
235 | 春希 | Haruki | 「こっちも生活がありますし」 | ||
236 | 鈴木 | Suzuki | 「そんなこと言う学生バイト初めて…」 | ||
237 | 麻理 | Mari | 「何度も言ってるでしょう? そんなにいつも根詰めて頑張り続けてたら…」 | ||
238 | 春希 | Haruki | 「それより出張どうでした? ロンドンでしたっけ?」 | ||
239 | 麻理 | Mari | 「ヨーロッパに行って一国で済むはずがないでしょ? 5日で8か国回ったわよ」 | ||
240 | 浜田 | Hamada | 「…なに取材してきたんだよ?」 | ||
241 | 麻理 | Mari | 「ハーゲン監督の新作試写会にインタビュー、 イタリアの新車発表会にフランスのアニメフェア。 あと紀行文のために色々な観光地を回って…」 | ||
242 | 松岡 | Matsuoka | 「…それ完全に編集部またいでないですか?」 | ||
243 | 麻理 | Mari | 「仕方ないでしょ。経費節約のためよ。 ちゃんと各編集部に掛け合って取材費せしめてきたし、 どうせ私が書いた方がいい記事になるに決まってる」 | ||
244 | 鈴木 | Suzuki | 「北原くんが他の部員にまで仕事貰いに行く理由って、 もっと根源的なところにあるとか思いません?」 | ||
245 | 俺が社会に出て初めて戦慄した仕事魔人。 | ||||
246 | ……… | .........
| |||
247 | 春希 | Haruki | 「すいませんでした。 勝手な真似をしてしまって」 | ||
248 | 麻理 | Mari | 「もういい。今度から気をつけるようにね」 | ||
249 | 春希 | Haruki | 「わかりました」 | ||
250 | 相変わらず、麻理さんの怒りは 簡単に爆発するけど、ちっとも引きずらない。 | ||||
251 | 冷たいブラックの缶コーヒーとともに、 喉に流し込んで、はいおしまい。 | ||||
252 | 麻理 | Mari | 「…そこまで暇なら、今までの3倍の仕事をあげるから それで我慢しなさい」 | ||
253 | 春希 | Haruki | 「…ども」 | ||
254 | …はいおしまい、だよな? | ||||
255 | 麻理 | Mari | 「なんてね、宿題いっぱい持ち帰ったから手伝って。 インタビュー記事なんか全部で四か国語あるから、 起こし甲斐あるわよ?」 | ||
256 | 春希 | Haruki | 「英語とフランス語以外はできません。 あるいは倍以上の時間がかかります。 …他の人に振る方が効率的ですよ?」 | ||
257 | 麻理 | Mari | 「仕事請けまくるくせに、 できることできないことはきっちり分けられるか… 雑用だけならもう三年目レベルね」 | ||
258 | 春希 | Haruki | 「…雑用って年数を経るごとに減る仕事なんでは?」 | ||
259 | 麻理 | Mari | 「けど、やっぱりもう一度だけ忠告。 北原、あんたバイトのくせに働きすぎよ?」 | ||
260 | 春希 | Haruki | 「麻理さんの下についたからだと思うんですが…」 | ||
261 | ついさっき、通常の三倍の仕事を押し付けた口が、 そんな原則論をのたまう。 | ||||
262 | 麻理 | Mari | 「人事の同期に聞いたんだけど…あんた、面接の時に 『一番無茶な仕事を振る人の下に付けてください』 って言ったそうね?」 | ||
263 | 春希 | Haruki | 「…その方が仕事を早く覚えられるかなと」 | ||
264 | 麻理 | Mari | 「北原…あんたどれだけMなのよ?」 | ||
265 | それで選ばれる方も相当のSだと思うけど。 | ||||
266 | 春希 | Haruki | 「経験積みたくてそうお願いしました。 …就職、出版社狙ってるんですよ」 | ||
267 | 麻理 | Mari | 「本当にそれだけ?」 | ||
268 | 春希 | Haruki | 「当たり前です。 たかがバイトですよ、俺は」 | ||
269 | 麻理 | Mari | 「私には、あんたがわざと自滅型の人生を 歩んでるようにしか見えないけど、ね」 | ||
270 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
271 | 麻理 | Mari | 「…カスった?」 | ||
272 | 春希 | Haruki | 「麻理さんだって」 | ||
273 | 麻理 | Mari | 「…カスったんだ」 | ||
274 | 春希 | Haruki | 「俺以上に自分を追い込んでるように見えますが?」 | ||
275 | 麻理 | Mari | 「私はきっちり経験を積んで、 無茶できるラインをちゃんとわきまえて無茶してる」 | ||
276 | 春希 | Haruki | 「そうなんですか?」 | ||
277 | 麻理 | Mari | 「ただ、そのボーダーラインが高すぎるから、 周りには心配されるけどね」 | ||
278 | 春希 | Haruki | 「さり気なく自慢ですか…」 | ||
279 | 覗かれる感覚が好きじゃなくて反抗しようにも、 やっぱり人生経験の差は埋めようがなく。 | ||||
280 | 降参の意味を込めて缶を放り投げると、 そそくさと逃げるように編集部へと… | ||||
281 | 麻理 | Mari | 「あと、仕事持ち帰るのも禁止」 | ||
282 | 春希 | Haruki | 「あ~、そっちもバレてましたか。 さり気なくやってたつもりだったんですけどね」 | ||
283 | 戻ろうにも、今日の麻理さんは、 いつもと比べ、なかなかにしつこかった。 | ||||
284 | 麻理 | Mari | 「情報漏洩とかコンプライアンスとか、 今はそういうややこしい理屈は覚えなくてもいい。 ただバイトなら、雇い主の言いつけは守って」 | ||
285 | 春希 | Haruki | 「…はい」 | ||
286 | 麻理 | Mari | 「大体、持ち帰ってもバイト代増えないわよ? 時給制なんだから」 | ||
287 | 春希 | Haruki | 「その代わり、信頼は増えます。 次はもっと質の高い仕事を回してくれるかも」 | ||
288 | 麻理 | Mari | 「だからお前はバイトなんだってば…」 | ||
289 | 春希 | Haruki | 「それに…」 | ||
290 | 麻理 | Mari | 「ん?」 | ||
291 | 春希 | Haruki | 「家に帰っても、勉強くらいしかやることないですし」 | ||
292 | 麻理 | Mari | 「天下の坊ちゃん大の学生が寂しいこと言うな。 合コンとかサークルとかあるだろ出会いが?」 | ||
293 | 春希 | Haruki | 「峰城大生にだって色々いるんですよ。 俺みたいに無趣味で退屈な人間とか」 | ||
294 | 麻理 | Mari | 「そ、そうなんだ?」 | ||
295 | 春希 | Haruki | 「そうです」 | ||
296 | 麻理 | Mari | 「………」 | "........."
| |
297 | …ちょっとネガティブ過ぎたかな? 常に強気な麻理さんが退いている。 | ||||
298 | 麻理 | Mari | 「ま、まぁ頑張って。 いや、あまり頑張り過ぎない程度にだけど」 | ||
299 | 春希 | Haruki | 「どっちなんですか」 | ||
300 | 麻理 | Mari | 「あ~、そうだ、ほらお土産。 これで元気出しなさい」 | ||
301 | 春希 | Haruki | 「…何ですか、これ?」 | ||
302 | 出てきたのは、 いかにも世界中の観光地で適当に売ってそうな、 人形のついたキーホルダー。 | ||||
303 | 思いっきり喜ばれることも、 思いっきり微妙な感情を抱かせることもないはずの、 何の変哲もない民芸品。 | ||||
304 | 麻理 | Mari | 「気にしないで。 単なる嫌がらせだから」 | ||
305 | 春希 | Haruki | 「嫌がらせなら気にさせた方が目的達成なのでは?」 | ||
306 | その造型の、あまりにも悪趣味なことを除けば。 | ||||
307 | 麻理 | Mari | 「ま、パワハラだと思ったら断ってもいいけど?」 | ||
308 | きっと本人、これ見つけたとき、 受け取った側の何とも言えない表情を思い浮かべて、 一人ニヤニヤしていたに違いない。 | ||||
309 | …そう、今、目の前にあるその表情のように。 | ||||
310 | 春希 | Haruki | 「まさか。 ありがたく頂きますよ。 …大事にはしませんけど」 | ||
311 | 一人、こういう悪趣味なアイテムが好きそうな奴の 心当たりもあるし。 | ||||
312 | 麻理 | Mari | 「いいわよ。 肌身離さず持たれてたらかえって不気味だし」 | ||
313 | …本当に、何のために買ってきてくれたんだこの人は。 | ||||
314 | 春希 | Haruki | 「それじゃ、今日は俺、この辺で失礼します。 あまり働きすぎるなって釘を刺されたばかりだし」 | ||
315 | 麻理 | Mari | 「だからその資料は置いていけ。 持ち帰るなと釘を刺したばかりだ」 | ||
316 | ……… | .........
| |||
317 | 春希 | Haruki | 「ふぅ…」 | ||
318 | 午前2時。 | ||||
319 | 精も根も尽き果てて、 帰宅するなりベッドに倒れこむ。 …予定通りに。 | ||||
320 | 住み始めて三年目になる見慣れた天井は、 今日も無機質に白く光り、 俺の帰りを無関心に迎えてくれる。 | ||||
321 | ここは、誰も俺に干渉することのない、自分だけの城。 | ||||
322 | もともと空気のようだった母親からも隔離された、 俺が求めていた無菌室。 | ||||
323 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
324 | 南末次駅から徒歩10分。 実家からでも電車を使えば30分圏内。 | ||||
325 | 家賃は8万円。 毎日の遅くまでのバイト代は、 半分以上がこの住宅事情に消えていく。 | ||||
326 | そんな話を聞くと、大抵の知り合いは呆れ返り、 親と同居しない理由を尋ねてきたりする。 | ||||
327 | けれど俺にしてみれば、 せっかくある程度の自立ができる立場になった今、 親と同居する理由を考える方が難しい。 | ||||
328 | 大学生の一人暮らしにしては、 たとえワンルームとは言え マンションは贅沢だと言う輩もいる。 | ||||
329 | だけど自分の稼いだ金で住んでいる以上、 そんな的外れな意見はシャットアウト。 | ||||
330 | 今は親に援助してもらっている学費も、 就職したら分割ででも全額返す予定。 | ||||
331 | それが全て終われば、めでたく俺は、 『ただの北原春希という個人』になれるから。 | ||||
332 | 春希 | Haruki | 「あ…」 | ||
333 | 『今度の土曜、久しぶりに飲もうぜ。 御宿駅で6時待ち合わせ、死んでも来い』 | ||||
334 | 春希 | Haruki | 「武也…」 | ||
335 | 武也からは、今でも週に3回くらいはメールが届く。 | ||||
336 | たまには電話もかかってくるけど、 昼はほとんど講義、夜はほとんどバイトの俺は、 どうしても武也の生活時間帯と噛み合わない。 | ||||
337 | それでもこうして頻繁に連絡をくれるあいつは、 女に対して培ったマメさという資質を考慮しても、 やっぱりいい友人って言えるんだろうな。 | ||||
338 | それでも… | ||||
339 | 春希 | Haruki | 「…送信、と」 | ||
340 | 『悪い、土曜もバイトでとっくに死んでる。 今度また誘ってくれ。じゃあな』 | ||||
341 | 今の俺が、あいつの遊びの誘いに乗ることは、 めったになくなってしまっていた。 | ||||
342 | 春希 | Haruki | 「ふあぁぁぁ…」 | ||
343 | 望み通り、もう瞼を上げていられない。 | ||||
344 | 全身を包み込む、 心地良いと言うには少し深めの疲労感。 | ||||
345 | 体が動かないのは、肉体的疲労よりも、 もう何も考えられなくなっている脳のせい。 | ||||
346 | 春希 | Haruki | 「…おやすみ」 | ||
347 | 目覚ましは、5時にセットしてある。 | ||||
348 | 起きたらすぐにシャワーを浴びて、 朝食を摂りながら予習復習。 | ||||
349 | それでも運良く時間が余れば、 昨夜、結局持ち帰った仕事の続き。 | ||||
350 | ちょっとノってきたなと思った頃には、 そろそろ出ないと一コマ目の講義に間に合わない。 | ||||
351 | 明日もそんな忙しない… だからこそ気楽な日であることを願いながら、 ゆっくりと、急いで意識を閉じていく。 | ||||
352 | 夢なんか見ないくらいに 深い眠りを求めて。 | ||||
353 | ……… | .........
| |||
354 | …… | ......
| |||
355 | … | ...
| |||
356 | 千晶 | Chiaki | 「え~、本当にいいの? こんな可愛いのもらっちゃって」 | ||
357 | 春希 | Haruki | 「可愛いんだ…」 | ||
358 | 心当たりはあったけど、 本当に心当たるとは… | ||||
359 | 千晶 | Chiaki | 「干し首っぽさがいいよね。 シワの付き方といい、微妙な柔らかさといい」 | ||
360 | 春希 | Haruki | 「やっぱ捨てるから返して」 | ||
361 | 前々から変な奴だとは思っていたけど、 そこまで正しい裏付けを取らせてくれなくても。 | ||||
362 | 千晶 | Chiaki | 「鞄に付けよっかな? それとも家の鍵に…」 | ||
363 | 春希 | Haruki | 「どっちでもいいけど、 俺から貰ったって言うなよ?」 | ||
364 | 千晶 | Chiaki | 「なんで? 付き合ってるって誤解されるのが嫌?」 | ||
365 | 春希 | Haruki | 「そっちは別にどうだっていいけど…」 | ||
366 | こんなものを買うような人間だと 誤解されるのが嫌すぎる。 | ||||
367 | 千晶 | Chiaki | 「そだ、お昼おごるよ。 これと、昨日のお礼に」 | ||
368 | 春希 | Haruki | 「そういう不吉な予兆を見せないでくれ。 ただでさえ、そろそろ初雪が降っても おかしくない季節なんだから」 | ||
369 | 千晶 | Chiaki | 「…そういうこと言うと、 カフェテラスでパスタランチ奢るよ? しかもデザートとコーヒー付き」 | ||
370 | 春希 | Haruki | 「そこまで降らせたいかよ?」 | ||
371 | それだとAランチが3つは食える… | ||||
372 | 千晶 | Chiaki | 「い~じゃん雪。白くて冷たくて綺麗でさ。 春希は、嫌い?」 | ||
373 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
374 | 千晶 | Chiaki | 「?」 | ||
375 | 春希 | Haruki | 「別に…どっちでも」 | ||
376 | 一瞬… | ||||
377 | 『嫌い』じゃなくて『辛い』って、 意味不明の反応を返すところだった。 | ||||
378 | 千晶 | Chiaki | 「それじゃ行こうか。 ちょっと歩くけど、いいよね?」 | ||
379 | 春希 | Haruki | 「あ…」 | ||
380 | 千晶 | Chiaki | 「どしたの?」 | ||
381 | 春希 | Haruki | 「…いや、なんでも」 | ||
382 | 千晶 | Chiaki | 「今日の春希は随分と曖昧だなぁ」 | ||
383 | カフェテラスは、俺たちの研究室がある3号館と正反対。 大学の南側、6号館の端にある。 | ||||
384 | そこは、三年になってから、 ほとんど足を踏み入れたことがない場所で。 | ||||
385 | 千晶 | Chiaki | 「早く早くぅ。 急がないと席埋まっちゃうよ?」 | ||
386 | 春希 | Haruki | 「あ、ああ…」 | ||
387 | けどまぁ、『きっと大丈夫だろ』って… そのとき俺は、意味不明の判断をしてた。 | ||||
388 | 女子学生4 | Female Student 4 | 「うわ、寒くなってきたね~」 | ||
389 | 女子学生5 | Female Student 5 | 「毎年、峰城祭が終わると冬って感じがしますよね。 来週からコートいるかなぁ」 | ||
390 | 女子学生6 | Female Student 6 | 「ね~ね~それよりさ、 今週末の、医学部との合コンどうなってるのよ?」 | ||
391 | 女子学生4 | Female Student 4 | 「6時にケセラで集まって少し歌ってから、 8時にフィレンツェって計画まではできてるんだけど…」 | ||
392 | 女子学生5 | Female Student 5 | 「けど?」 | ||
393 | 女子学生4 | Female Student 4 | 「ちょっと今根本的なところで問題が発生して、 開催そのものが危ぶまれているところでして…」 | ||
394 | 女子学生6 | Female Student 6 | 「え~、どういうこと? 向こう完全に乗り気だって、由美言ってたじゃん」 | ||
395 | 女子学生4 | Female Student 4 | 「つまりさぁ… あっちが乗り気だったのは…」 | ||
396 | 女子学生5 | Female Student 5 | 「………あ~、そういうことですか。 本命が来ないって言い出したから」 | ||
397 | 女子学生6 | Female Student 6 | 「それって、要するに…」 | ||
398 | 女子学生4 | Female Student 4 | 「………」 | "........."
| |
399 | 女子学生5 | Female Student 5 | 「………」 | "........."
| |
400 | 女子学生7 | Female Student 7 | 「え? あ、ごめん… その日、友達と約束があるから…」 | ||
401 | 女子学生4 | Female Student 4 | 「最初のカラオケだけでも来れないかな?」 | ||
402 | 女子学生6 | Female Student 6 | 「そうそう。途中でいつの間にか消えちゃったって、 わたしたちは望むところ…じゃなくて問題ないから」 | ||
403 | 女子学生5 | Female Student 5 | 「そこまで負けを認めなくても…」 | ||
404 | 女子学生7 | Female Student 7 | 「本当にごめん。 やっぱり行けないよ。 だって…」 | ||
405 | 女子学生7 | Female Student 7 | 「わたし…歌わないんだ」 | ||
406 | 千晶 | Chiaki | 「あ、そいえばさぁ、 学祭前に出てた課題、 提出期限っていつだっけ?」 | ||
407 | 春希 | Haruki | 「もちろん学祭前でございますよサボリ姫」 | ||
408 | 千晶 | Chiaki | 「…マジっすか? それって先週ってことじゃん?」 | ||
409 | 女子学生6 | Female Student 6 | 「ああもう、千載一遇のチャンスだったのになぁ…」 | ||
410 | 女子学生4 | Female Student 4 | 「ウチの医学部の男どもでも駄目なんて、 本物の医者か弁護士連れてくるしかないわけ?」 | ||
411 | 女子学生5 | Female Student 5 | 「そ、そういうことじゃないんでしょう? もともと、こういうイベントに顔出さないですし」 | ||
412 | 女子学生7 | Female Student 7 | 「あ…」 | ||
413 | 春希 | Haruki | 「和泉…お前、その先週含め 二週間もゼミに顔出さなかったろ?」 | ||
414 | 千晶 | Chiaki | 「気を利かせてあたしの分まで 出しといてくれたとかいうことは…」 | ||
415 | 春希 | Haruki | 「ない、皆無、ネバー。 俺が人を手伝うのは、相手が頑張ってるときだ」 | ||
416 | 女子学生6 | Female Student 6 | 「あなたの場合、 逃げれば逃げるほど知名度は上がっていくのにねぇ」 | ||
417 | 女子学生4 | Female Student 4 | 「撃墜記録の更新ばかりしてないで、 普通に男作っちゃえば、ここまで騒がれることも… やっぱあるかもしれないけどさぁ」 | ||
418 | 女子学生7 | Female Student 7 | 「………」 | "........."
| |
419 | 女子学生5 | Female Student 5 | 「? どうしたんですか? 気分でも悪いんですか?」 | ||
420 | 千晶 | Chiaki | 「頑張ってたんだって~その頃。 それはもう口では言えないほどの血の滲む努力を…」 | ||
421 | 春希 | Haruki | 「そうか、正直者だな和泉は。見直したぞ。 …嘘を口に出して言うことができないとは」 | ||
422 | 千晶 | Chiaki | 「それは酷いんじゃないの春希~」 | "It's not that terrible, Haruki~"
| |
423 | 女子学生6 | Female Student 6 | 「ちょっとぉ、そんなところで突っ立ってないの。 行くよ、雪菜!」 | "Waaiit, don't just stand around in here. Let's go, Setsuna!" | |
424 | カフェテラスは、『文学部』がある3号館と正反対。 大学の南側、『政治経済学部』がある6号館の端。 | From cafe terrace, to the opposite of building 3, there's a literature faculty. On the south side of university, in the end of building 6, there's a Political, Science, and Economics faculty. | |||
425 | そこは、三年になり、転部してから、 ほとんど足を踏み入れたことがない場所、だった。 | ||||
426 | 雪菜 | Setsuna | 「………ぁ」 | ||
427 | 春希 | Haruki | 「っ…」 | ||
428 | どうして『きっと大丈夫だろ』なんて、 そんないい加減な判断をしたんだ、俺は。 | ||||
429 | ここは、俺たち『文学部』の人間がいる場所じゃないのに。 彼女たち『政経』のテリトリーで。 | ||||
430 | 俺とは、関係のない場所だったはずなのに… | ||||
431 | 雪菜 | Setsuna | 「~~~っ」 | ||
432 | 春希 | Haruki | 「早く行こう、和泉。 急がないと席が埋まる」 | "Hurry up and let's go. The seat will full if you not hurry." | |
433 | 千晶 | Chiaki | 「え? あ、うん…」 | "Eh? ah, yes..."
| |
434 | 皮膚が、粟立ってくる。 | Her skin.. seems like it have a shiver..
| |||
435 | 女子学生5 | Female Student 5 | 「雪菜さん?」 | "Setsuna-san?"
| |
436 | 女子学生6 | Female Student 6 | 「なに? ホント調子悪いの? 医務室行く?」 | "What? Is it really that bad? Want to go to infirmary?" | |
437 | 雪菜 | Setsuna | 「う、ううん、違うの」 | "N- No.. It's somehow different.."
| |
438 | 寒いものが背中を駆け上がってくる。 | "The cold came from my back."
| |||
439 | 千晶 | Chiaki | 「…知り合い?」 | "... An acquaintance?"
| |
440 | 春希 | Haruki | 「誰と?」 | "Who?"
| |
441 | 千晶 | Chiaki | 「………」 | "........."
| |
442 | だって、冬が間近に迫ってきた。 | "Well, because winter will coming soon."
| |||
443 | 女子学生4 | Female Student 4 | 「雪菜…」 | "Setsuna...."
| |
444 | 雪菜 | Setsuna | 「なんでも、ないの…っ」 | "It's.... nothing..."
| |
445 | 俺が峰城大に入ってから三度目の… | ||||
446 | 『[W7]W[W7]H[W7]I[W7]T[W7]E[W7] A[W7]L[W7]B[W7]U[W7]M[W7]の[W7]季[W7]節[W7]』[W7]が、[W7] ま[W7]た、[W7]やっ[W7]て[W7]き[W7]た。 |
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Introductory Chapter | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1001 | 1008 | 1009 | 1010 | 1011 | 1012 | 1013 |
1002 | 1008_020 | 1009_020 | 1010_020 | 1011_020 | 1012_020 | |
1003 | 1008_030 | 1009_030 | 1010_030 | 1011_030 | 1012_030 | |
1004 | 1008_040 | 1010_040 | 1012_030_2 | |||
1005 | 1008_050 | 1010_050 | ||||
1006 | 1010_060 | |||||
1006_2 | 1010_070 | |||||
1007 |
Closing Chapter | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | ||||||
2001 | 2011 | 2020 | 2027 | 2301 | 2309 | 2316 | 2401 | 2408 | 2501 | 2510 |
2002 | 2012 | 2021 | 2028 | 2302 | 2310 | 2317 | 2402 | 2409 | 2502 | 2511 |
2003 | 2013 | 2022 | 2029 | 2303 | 2311 | 2318 | 2403 | 2410 | 2503 | 2512 |
2004 | 2014 | 2023 | 2030 | 2304 | 2312 | 2319 | 2404 | 2411 | 2504 | 2513 |
2005 | 2015 | 2024 | 2031 | 2305 | 2313 | 2320 | 2405 | 2412 | 2505 | 2514 |
2006 | 2016 | 2025 | 2032 | 2306 | 2314 | 2321 | 2406 | 2413 | 2506 | 2515 |
2007 | 2017 | 2026 | 2033 | 2307 | 2315 | 2322 | 2407 | 2507 | 2516 | |
2008 | 2018 | 2308 | 2508 | 2517 | ||||||
2009 | 2019 | 2509 | ||||||||
2010 | ||||||||||
Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | |||||||
2031_2 | 2312_2 | 2401_2 | 2504_2 | 2511_2 | ||||||
2031_3 | 2313_2 | 2402_2 | 2507_2 | 2513_2 | ||||||
2031_4 | 2313_3 | 2402_3 |
Coda | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Kazusa (True) | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | ||||||
3001 | 3008 | 3014_2 | 3020 | 3101 | 3107 | 3201 | 3207 | 3901 | 3907 |
3002 | 3009 | 3014_3 | 3021 | 3102 | 3108 | 3202 | 3208 | 3902 | 3908 |
3003 | 3010 | 3015 | 3022 | 3103 | 3109 | 3203 | 3209 | 3903 | 3909 |
3004 | 3011 | 3016 | 3023 | 3104 | 3110 | 3204 | 3210 | 3904 | |
3005 | 3012 | 3017 | 3024 | 3105 | 3111 | 3205 | 3211 | 3905 | |
3006 | 3013 | 3018 | 3106 | 3206 | 3906 | ||||
3007 | 3014 | 3019 | |||||||
Common | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | |||||||
3001_2 | 3210_2 | 3901_2 | 3906_2 | ||||||
3015_2 | 3902_2 | 3907_2 | |||||||
3902_3 | 3907_3 | ||||||||
3904_2 |
Mini After Story and Extra Episode | |||
---|---|---|---|
The Path Back to Happiness | The Path Forward to Happiness | Dear Mortal Enemy | |
6001 | 6101 | 4000 | 4005 |
6002 | 6102 | 4001 | 4006 |
6003 | 6103 | 4002 | 4007 |
6004 | 6104 | 4003 | 4008 |
6005 | 4004 | 4009 |
Novels | |||||
---|---|---|---|---|---|
The Snow Melts, And Until The Snow Falls | The Idol Who Forgot How to Sing | Twinkle Snow ~Reverie~ | After the Festival ~Setsuna's Thirty Minutes~ | His God, Her Savior | |
5000 | 5100 | 5200 | 5205 | 5300 | 5400 |
5001 | 5101 | 5201 | 5206 | 5301 | 5401 |
5002 | 5102 | 5202 | 5207 | 5302 | |
5003 | 5103 | 5203 | 5208 | 5303 | |
5004 | 5104 | 5204 | 5209 |
Short Stories | |||
---|---|---|---|
Princess Setsuna's Distress and Her Minister's Sinister Plan | Koharu Climate After the Passing of the Typhoon | This isn't the Season for White Album | Todokanai Koi, Todoita |
7000 | 7100 | 7200 | 7300 |