Difference between revisions of "White Album 2/Script/2031"
Jump to navigation
Jump to search
Jonathanasdf (talk | contribs) (Created page with "Return to the main page here. == Translation == == Editing == == Translation Notes == == Text == {{WA2ScriptTable}} {{WA2ScriptLine |1|| |峰城...") |
(→Text) |
||
Line 2,721: | Line 2,721: | ||
|451|武也|Takeya |
|451|武也|Takeya |
||
|「………神って呼んでもいい?」 |
|「………神って呼んでもいい?」 |
||
+ | | "May I call you God?" |
||
− | | |
||
|}} |
|}} |
||
Line 6,307: | Line 6,307: | ||
{{WA2ScriptTableEnd}} |
{{WA2ScriptTableEnd}} |
||
+ | |||
== Script Chart == |
== Script Chart == |
||
Revision as of 08:43, 21 February 2015
Return to the main page here.
Translation
Editing
Translation Notes
Text
Speaker | Text | Comment | |||
---|---|---|---|---|---|
Line # | JP | EN | JP | EN | |
1 | 峰城バレンタインコンサート… | ||||
2 | 大学内でミニFM局を運営する放送研究サークル 『峰城ブロードキャスト』が企画、運営する 峰城大生限定の音楽イベント。 | ||||
3 | 同サークルの企画の中では、 夏休み初日に行われるサマーライブと並ぶ 二大イベントの一つに数えられている。 | ||||
4 | ロック中心のサマーライブに対し、こちらは時節柄、 ソロやアコースティックバンドが多く、 曲もバラード調の静かなものがメインに据えられる。 | ||||
5 | また、ミニFM局主催ということもあり、 当日はホール内での演奏だけでなく、 その模様を大学内に生放送する。 | ||||
6 | そんなわけで、ウチの大学では毎年、 この日は春休みにも関わらず、 結構な数の学生がキャンパスに残っていたりする。 | ||||
7 | 早百合 | Sayuri | 「で…北ホールってどっちよ?」 | ||
8 | 孝宏 | Takahiro | 「ええと…こっちだろ? 北なんだから」 | ||
9 | 亜子 | Ako | 「結構歩くよね… 同じ敷地内なのに」 | ||
10 | 早百合 | Sayuri | 「にしてもさぁ、 バレンタインコンサートなのに、 なんで男が小木曽一人なのよ?」 | ||
11 | 孝宏 | Takahiro | 「知るかよ。勝手についてきやがって。 [F16…俺が誘ったのは一人だけだって~の」] | ||
12 | 亜子 | Ako | 「ごめんね小木曽君。 無理やり割り込んじゃって…」 | ||
13 | 孝宏 | Takahiro | 「げ…聞こえてた?」 | ||
14 | 小春 | Koharu | 「あ、みんなちょっと待って。 美穂子、こっちこっち」 | ||
15 | 美穂子 | Mihoko | 「う、うん…」 | ||
16 | 早百合 | Sayuri | 「…大丈夫、矢田? 何か顔色悪くない?」 | ||
17 | 亜子 | Ako | 「気分悪いならどこかで休もうか? 開演までまだ時間あるし」 | ||
18 | 小春 | Koharu | 「あ、ううん。大丈夫。 そういうんじゃないから…」 | ||
19 | 孝宏 | Takahiro | 「いや、けど… 明らかに足取りが重いような」 | ||
20 | 小春 | Koharu | 「ほら美穂子。 ちゃんと確かめるって言ったのはあなただよ?」 | ||
21 | 美穂子 | Mihoko | 「………」 | "........."
| |
22 | 小春 | Koharu | 「わたし、ずっとついてるからさ。 だから、一緒に見届けようよ」 | ||
23 | 孝宏 | Takahiro | 「…何を?」 | ||
24 | 小春 | Koharu | 「小木曽弟には関係ないの。 女の子たちの事情を軽々しく詮索しない」 | ||
25 | 孝宏 | Takahiro | 「全員分のチケット用意したの俺なんだけど…」 | ||
26 | 早百合 | Sayuri | 「姉の七光のくせに。 そもそも来週入試本番でしょうがあんた」 | ||
27 | 亜子 | Ako | 「で、でも楽しみだよね。 小木曽君のお姉さん、とうとう見れるんだ」 | ||
28 | 早百合 | Sayuri | 「未だに付属の伝説だもんねぇ、 小木曽のお姉さんと冬馬かずさのユニット。 …あたしも生で見たかったなぁ」 | ||
29 | 孝宏 | Takahiro | 「何度も言うけどさ、 姉ちゃんの方は大したことないぞ?」 | ||
30 | 小春 | Koharu | 「さ、美穂子…」 | ||
31 | 美穂子 | Mihoko | 「…うん。 みんなごめんね、待たせちゃって」 | ||
32 | 小春 | Koharu | 「…よし。 それじゃ行こうか」 | ||
33 | 孝宏 | Takahiro | 「………あれ?」 | ||
34 | 小春 | Koharu | 「小木曽、何してるの? 行くよ?」 | ||
35 | 孝宏 | Takahiro | 「あ、ああ、悪い」 | ||
36 | 早百合 | Sayuri | 「やっぱり周りはカップルばかりかな? だったらちょっと痛いなぁ」 | ||
37 | 亜子 | Ako | 「バレンタインだもんね。 わたしは別に構わないけど」 | ||
38 | 孝宏 | Takahiro | 「………“弟”には関係ない?」 | ||
39 | ……… | .........
| |||
40 | 春希 | Haruki | 「…まいったな」 | ||
41 | 孝宏君はある程度予測してたけど、 まさかあの二人を連れてくるとは… | ||||
42 | 多分、俺目当ての唯一、いや唯二の観客。 …何を期待して見に来たのかは考えたくないけど。 | ||||
43 | しかしこれはなんて言うか… あまり無様な姿を晒すわけにはいかなくなったな。 | ||||
44 | 男子学生1 | Male Student 1 | 「なぁ、本当に俺たちだけで行くのか? 男二人でバレンタインコンサートって…」 | ||
45 | 男子学生2 | Male Student 2 | 「仕方ないだろ。 聡子のやつ、絶対に嫌だって言うんだから」 | ||
46 | 男子学生1 | Male Student 1 | 「そりゃそうだろ。 他の女のコ目当てだなんて言ったら…」 | ||
47 | 男子学生2 | Male Student 2 | 「女のコったって出演者じゃん。 コンサートなんだから歌聴きに行って何が悪い?」 | ||
48 | 男子学生1 | Male Student 1 | 「別の思惑が透けて見えなきゃな… お前、付属出身だったよな?」 | ||
49 | 男子学生2 | Male Student 2 | 「いやマジで可愛いんだって小木曽先輩! お前が本物見たことないって言うから わざわざ誘ってやったんだぞ?」 | ||
50 | 男子学生1 | Male Student 1 | 「彼女の代わりだけどな。 ま、興味ないって言ったら嘘になるけど」 | ||
51 | 男子学生2 | Male Student 2 | 「早く行こうぜ? なるべく近くで見たいし」 | ||
52 | 男子学生1 | Male Student 1 | 「最前列はやめような… カップルの客に憐れんだ目で見られそうだ」 | ||
53 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
54 | 三年前の幻影に引きずられてる人間がここにも… しかも、後輩か。 | ||||
55 | そういえば、三年前は先輩のはずの大学生までもが 大挙して押し掛けてきてたっけ。 …たかが付属のショボいライブに。 | ||||
56 | ……… | .........
| |||
57 | 春希 | Haruki | 「ええと…」 | ||
58 | ちょっとした異変は、どうやらコンサート会場へと 向かう人たちばかりじゃなさそうだった。 | ||||
59 | 学食や喫茶室や各施設に、 春休みに入ったはずの学生たちがたむろしてた。 | ||||
60 | 多分、収容人数の関係であぶれた人たちが、 生放送の流れる場所に陣取ってるせいだろう。 誰もが開演の時間まで動きそうにない。 | ||||
61 | 一応、毎年の風物詩ではあるんだけど、 それにしても今年は、去年に比べても結構… | ||||
62 | ??? | ??? | 「ね」 | ||
63 | 雪菜 | Setsuna | 『もし、わたしたち目当てで来た人がいたら…』 | ||
64 | 心配いらないぞ。 …いや、むしろもっと意識した方がいいぞ。 | ||||
65 | ??? | ??? | 「ねってば、春希」 | ||
66 | やっぱり凄いな、雪菜は。 | ||||
67 | ほんの三年程度の雌伏なんて、 その輝きを曇らせることなんか何一つも… | ||||
68 | 千晶 | Chiaki | 「れろ」 | ||
69 | 春希 | Haruki | 「うわぁぁぁぁぁっ!?」 | ||
70 | …と、思いを馳せていたところに、 いきなりねっとりした感触が伝わってきた。 | ||||
71 | 千晶 | Chiaki | 「久しぶりの逢瀬なのに、 相変わらずつれないなぁ春希くんは~」 | ||
72 | 春希 | Haruki | 「い、い、い…和泉っ!?」 | ||
73 | しかも耳に。 | ||||
74 | 千晶 | Chiaki | 「何やってんのこんなとこで? ポッ○ー食べる?」 | ||
75 | 春希 | Haruki | 「ほれはほっひほ…ひゃめんは!」 | ||
76 | 『それはこっちの台詞だ』と返そうとしたけれど、 俺の口に突っ込まれた○ッキーがそれを遮った。 | ||||
77 | 千晶 | Chiaki | 「何言ってんだかわかんないって。 …も一本食べる?」 | ||
78 | そして、俺の食べかけの○ッキーを自分の口に押し込むと、 箱からもう一本を取り出して再び俺の口にあてがった。 | ||||
79 | 春希 | Haruki | 「…お前、試験の時はまるで顔出さなかったくせに」 | ||
80 | そんな相変わらずの、あまりのマイペースぶりに、 驚きも怒気も心配も全て適当に吹っ飛ばされてしまった。 | ||||
81 | 千晶 | Chiaki | 「いや、今日だって本当は忙しいんだけどね。 でも居場所取り上げられたし」 | ||
82 | 春希 | Haruki | 「だから、もう少し俺にもわかるように…」 | ||
83 | 千晶 | Chiaki | 「何より、春希の晴れ舞台だし、ね?」 | ||
84 | 春希 | Haruki | 「………知ってたのか」 | ||
85 | 千晶 | Chiaki | 「春希のことなら何でも」 | ||
86 | 春希 | Haruki | 「あ~、そりゃどうも」 | ||
87 | 千晶 | Chiaki | 「む~、信じてないな? 結構ヒくくらい詳しいのに」 | ||
88 | ヒくかどうかはともかく、 ちょっとだけ呆れて、 そして心の中で苦笑してるのは確かだった。 | ||||
89 | 教室にも研究室にも顔出さないくせに、 どうしてこういう情報だけは早いんだ、こいつ… | ||||
90 | 千晶 | Chiaki | 「にしても、さっきからキョドってるよね? あたし結構前から春希のこと見てたんだよ?」 | ||
91 | 春希 | Haruki | 「…相変わらずヤなとこ見てんなお前」 | ||
92 | 千晶 | Chiaki | 「もしかしてビビってる? 大勢の客の前で演奏すること」 | ||
93 | 春希 | Haruki | 「ビビってるのは確かだけど、 別に失敗を怖がってる訳じゃない」 | ||
94 | 何しろ練習再開して一月くらいしか経ってない。 | ||||
95 | 元から成功する見込みがないのだから、 最悪のケースを憂う必要もない。 何しろ、それが多分現実だ。 | ||||
96 | 千晶 | Chiaki | 「じゃあ、何に?」 | ||
97 | 春希 | Haruki | 「俺のパートナーの、相変わらずの人気に、かな」 | ||
98 | 千晶 | Chiaki | 「………」 | "........."
| |
99 | 春希 | Haruki | 「三年経ったけど、 未だに全然釣り合い取れてないって、 再認識したというか…」 | ||
100 | 千晶 | Chiaki | 「のろけ?」 | ||
101 | 春希 | Haruki | 「そう解釈できるニュアンスが見て取れるなら、 俺も結構前向きってことかもな」 | ||
102 | 千晶 | Chiaki | 「…言うじゃん」 | ||
103 | 春希 | Haruki | 「ここまでが茨の道だったからな。 そりゃ、少しは言いたくもなるさ」 | ||
104 | どれだけ電話代を注ぎ込んだか。 どれだけ聞き役に徹したか。 どれだけ指の皮を剥いたか。 | ||||
105 | どれだけ口説いたか。 どれだけ『好き』を繰り返したことか… | ||||
106 | 千晶 | Chiaki | 「そっか…そなんだ」 | ||
107 | 千晶 | Chiaki | 『あたしはね、 本当はあんたの想いの深さを知ってるよ?』 | ||
108 | 春希 | Haruki | 「そなんだよ」 | ||
109 | 俺も、思い知ったんだよ。 | ||||
110 | 千晶 | Chiaki | 「ね? チケットあったら頂戴よ。 入手できなかったんだよねぇ、あたし」 | ||
111 | 春希 | Haruki | 「あるけど…でもあと一枚しか」 | ||
112 | 千晶 | Chiaki | 「…で?」 | ||
113 | 春希 | Haruki | 「………ほらよ。 受け取ったからには絶対見に来いよ?」 | ||
114 | どうせ、開演までもう時間がない。 今から他の誰かに渡す予定も可能性もない。 | ||||
115 | …なんて理由よりも、こいつに渡すのが、 なんとなく一番しっくりしてたような気がした。 | ||||
116 | 千晶 | Chiaki | 「よし、これで目的も達成したし、 それじゃ先に会場入りしてるね」 | ||
117 | 春希 | Haruki | 「ああ、それじゃ後で」 | ||
118 | 千晶 | Chiaki | 「また人のホームに乗り込んできたんだから、 腹くくって、最高のパフォーマンス見せてよね?」 | ||
119 | 春希 | Haruki | 「最高に調子が良くても大したことないけどな。 ま、でも最善は尽くす。ありがとな」 | ||
120 | 千晶 | Chiaki | 「頑張ってね、春希。 …あんたの冬が終わったのかどうか、 ちゃんと聴かせてもらうからね?」 | ||
121 | 春希 | Haruki | 「あ…」 | ||
122 | 俺の手からチケットをひったくると、 和泉は、もう用はないとばかりに、 俺の視界からさっさと消えていた。 | ||||
123 | 結局またしても、からかい混じりに励まされるだけで 何も聞けなかった。 | ||||
124 | あいつの言葉の端々に込められた謎かけとか。 | ||||
125 | あの○ッキーに今日の日付的な意味があるのかとか。 | ||||
126 | あと、あいつの四月からの学年とか。 | ||||
127 | ……… | .........
| |||
128 | 男子学生3 | Male Student 3 | 「お、武也じゃん~」 | ||
129 | 武也 | Takeya | 「? …[R芳人^よしと]か! 2年ぶりくらい?」 | ||
130 | 男子学生3 | Male Student 3 | 「そんなになるかなぁ… 研究棟に篭もりっぱなしだと、 なかなかそっち行く機会がなくて」 | ||
131 | 武也 | Takeya | 「そっか、お前理工だったっけ」 | ||
132 | 男子学生3 | Male Student 3 | 「あ、わり、ツレと来てんだ。 じゃあな…水沢さんも」 | ||
133 | 依緒 | Io | 「あ、うん、またね」 | ||
134 | ……… | .........
| |||
135 | 依緒 | Io | 「…今の、誰だっけ?」 | ||
136 | 武也 | Takeya | 「豊浜。 一年の時同じクラスだったろ」 | ||
137 | 依緒 | Io | 「あ~、なんとなく覚えがあるような、ないような… にしても武也、男の顔もちゃんと覚えてるんだ」 | ||
138 | 武也 | Takeya | 「うるせぇな」 | ||
139 | 依緒 | Io | 「結構入ってる…かな?」 | ||
140 | 武也 | Takeya | 「ま、元々小さいハコだし、 チケットもタダ同然だし。 毎年ほとんど埋まるから」 | ||
141 | 依緒 | Io | 「毎年来てんの?」 | ||
142 | 武也 | Takeya | 「安く上がる割にはムードいいからな。 他の彼女に見つかるリスクは伴うけど」 | ||
143 | 依緒 | Io | 「…ごめん、3メートル離れて歩くわ。 そういう誤解受けるの最低だし」 | ||
144 | 武也 | Takeya | 「大丈夫、今の彼女の中にウチの学生はいない。 混乱を避けるため全員アウトソーシングにしてる」 | ||
145 | 依緒 | Io | 「元の意味と彼女たちに謝れ」 | ||
146 | 武也 | Takeya | 「へぇ…」 | ||
147 | 依緒 | Io | 「埋まってる…ね」 | ||
148 | 武也 | Takeya | 「明らかにいつもより入ってる。 …これも雪菜ちゃん効果かな」 | ||
149 | 依緒 | Io | 「あ、あそこにいるの律子だ。 ほら、3年のときB組だった」 | ||
150 | 武也 | Takeya | 「…そうか」 | ||
151 | 依緒 | Io | 「…なんで顔隠すの?」 | ||
152 | 武也 | Takeya | 「いや、ちょっと…」 | ||
153 | 依緒 | Io | 「へぇ、隣にいるの同じB組だった島津じゃん。 あの二人つきあってたんだ」 | ||
154 | 武也 | Takeya | 「んだとぉ? あいつ、別れてまだ一月しか…あ、いや」 | ||
155 | 依緒 | Io | 「…やっぱ離れて座るわ」 | ||
156 | 武也 | Takeya | 「そ、それにしても… ここまで昔の知り合いが多いと、 まるで付属の同窓会みたいだよな」 | ||
157 | 依緒 | Io | 「みんなトラウマになってるんだね。 あの学園祭ライブが」 | ||
158 | 武也 | Takeya | 「元の意味とみんなに謝れ。 …本人たちにとっては正しいのかもしれないけど」 | ||
159 | 依緒 | Io | 「ほんと、思った以上に入ってるなぁ。 まだ30分前なのに」 | ||
160 | 武也 | Takeya | 「元からコンサート目当てのカップルに、付属の連中と、 ラジオで初めて雪菜ちゃんの曲を聴いた新規のファンが 混ざってる感じかな?」 | ||
161 | 依緒 | Io | 「何割くらいが雪菜目当てかな」 | ||
162 | 武也 | Takeya | 「半々くらいと見た。 小木曽雪菜伝説、衰えず…だな」 | ||
163 | 依緒 | Io | 「付属時代よりは全然スケール小さいけどね」 | ||
164 | 武也 | Takeya | 「当たり前だ。 三年間、引退してたみたいなもんなんだから、彼女」 | ||
165 | 依緒 | Io | 「大丈夫かな? 本当に歌えるのかな、雪菜…」 | ||
166 | 武也 | Takeya | 「三年前も同じような心配してたよな。 …けどとりあえず今の俺たちの心配は席の確保だ」 | ||
167 | 依緒 | Io | 「まさかここまで埋まってるとはね。 どうする? 諦めて立ち見に…」 | ||
168 | ??? | ??? | 「水沢さん、飯塚さん、こっちこっち!」 | ||
169 | 武也 | Takeya | 「へ…?」 | ||
170 | 朋 | Tomo | 「こっちです! 最前列! ほら、ちゃんと二人分取ってありますよ~!」 | ||
171 | 依緒 | Io | 「な…柳原…朋?」 | ||
172 | 武也 | Takeya | 「どんな神経してんだよあいつ…」 | ||
173 | ……… | .........
| |||
174 | 峰城大学北ホール。 これが今日のコンサートの会場。 | ||||
175 | 校舎から国道一本隔てられたグラウンドのさらに奥。 部室棟すら通りすぎた端の端… | ||||
176 | そこに建っている、少し古めの小さなホール。 | ||||
177 | キャンパスの端からも徒歩15分の 辺鄙なロケーションだってのに、 今日は人が入り口の外にまで溢れてた。 | ||||
178 | カップルだったり男同士だったり一人だったり… | ||||
179 | 開演までの暇を彼女との会話で潰してそうな人。 煙草を吸うために外の灰皿周りに待避してる人。 会場に入れずに、雰囲気だけを味わっている人。 | ||||
180 | 本格的な寒さが舞い降りた冬の夜。 けれど、ここ一体の熱気は、 ほんの少しだけ今の気温を忘れさせて… | ||||
181 | 春希 | Haruki | 「あ…」 | ||
182 | 雪菜 | Setsuna | 「………久しぶり、春希くん」 | ||
183 | そんな会場の前… | ||||
184 | コートで包まれた身体を寒そうに震わせて、 白い息を吐きながら人待ち顔の雪菜がいた。 | ||||
185 | 春希 | Haruki | 「4時間ぶりくらいかな? 今までどうしてた?」 | ||
186 | 雪菜 | Setsuna | 「シャワー浴びて、ほんのちょっとだけ仮眠して、 それから着替えたら、もう出かける時間だった。 春希くんは?」 | ||
187 | 春希 | Haruki | 「俺は…結局あの後も練習してた。 寝過ごすのが怖かったし」 | ||
188 | 雪菜 | Setsuna | 「わたし、目覚まし三つもかけたよ? それでも結局お母さんに起こしてもらった」 | ||
189 | 昼過ぎまで、ずっと二人で練習してた。 まる二日以上、一緒だった。 | ||||
190 | カラオケボックスだったり、俺の部屋だったり… ギター一本抱えて迷惑のかからない場所を探して、 弾いて、歌って… | ||||
191 | 決して万全とは言えなかったけど、 タイムリミットが来たからいったん解散して、 雪菜は着替えのために一度家に帰った。 | ||||
192 | 春希 | Haruki | 「どうしてここで待ってたの? 先に入ってればよかったのに」 | ||
193 | 雪菜 | Setsuna | 「さっき控え室覗いたんだけど、 みんな結構緊張気味で、ピリピリしてて… なんだか申し訳なくって、出て来ちゃった」 | ||
194 | 春希 | Haruki | 「ま…俺たち以外は本気だもんな」 | ||
195 | みんなきっと、ずっと前から準備してたんだろう。 彼らにとって、俺たちはあまりにも奇異に映ったと思う。 | ||||
196 | 雪菜 | Setsuna | 「…またリハーサル欠席しちゃったね」 | ||
197 | 春希 | Haruki | 「仕方ないって。 そんなことやってる余裕なんかなかったんだから」 | ||
198 | 三年前は、看病と緊張のため。 今回は、あまりの準備不足のため。 | ||||
199 | 春希 | Haruki | 「それに俺たちが演るのは一曲だけだし。 用意するものだって[Rギター^これ]一本だけだし」 | ||
200 | 雪菜 | Setsuna | 「本当に、いいのかな? わたしたち、場違いじゃないのかな?」 | ||
201 | 場違いに決まってる。 | ||||
202 | 実績も経験もない、 練習だってほとんどしてない、 | ||||
203 | それなのに、開催者に特別扱いされて、 推薦枠出場の、しかもラストナンバー。 | ||||
204 | 三年前に、一度だけステージに上がったユニットの、 たった一曲だけのための再結成。 | ||||
205 | しかもあの時、音楽的に中心にいたメンバーは、 今はこの場にいないと来たら… | ||||
206 | 春希 | Haruki | 「大丈夫だよ」 | ||
207 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
208 | そんな不安を見せられる訳なんかない。 今日の俺は、死んでもやせ我慢を続けなくちゃならない。 | ||||
209 | “大丈夫”は、相手を気づかうための言葉だから。 相手に言い聞かせてこそ、意味を持つ言葉なんだから。 | ||||
210 | だから、だから今日だけは。 何があっても、俺が雪菜を守って… | ||||
211 | 雪菜 | Setsuna | 「大丈夫だよって、肩を叩いて~ あなたは笑顔で、元気をくれるね」 | ||
212 | 春希 | Haruki | 「雪菜…」 | ||
213 | それは、この二日間でやっと取り戻した… | ||||
214 | ふとした言葉に反応したり、感極まったときに、 思わず歌い出してしまう、雪菜らしい癖。 | ||||
215 | 雪菜 | Setsuna | 「その言葉があるから… だから、心から幸せだよ? わたし」 | ||
216 | 春希 | Haruki | 「離れてなんかいない。 ずっと、一緒だ」 | ||
217 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くん…」 | ||
218 | 鈴の鳴るような、澄んだ歌声と、 ちょっと恥ずかしいくらいの瑞々しい言動。 | ||||
219 | 取り戻したんだ。 必死で思い出したんだ。 | ||||
220 | 春希 | Haruki | 「行こうか… そろそろコンサートが始まる」 | ||
221 | 雪菜 | Setsuna | 「うん…」 | ||
222 | 今日のために。 そして、明日からのために… | ||||
223 | ……… | .........
| |||
224 | …… | ......
| |||
225 | … | ...
| |||
226 | 早百合 | Sayuri | 「ん~…ちょっと来たね今の」 | ||
227 | 亜子 | Ako | 「ボーカルの人、いい声してたよね~。 今までの中で一番良かった」 | ||
228 | 小春 | Koharu | 「ええと…これであと何組だっけ?」 | ||
229 | 孝宏 | Takahiro | 「次の次…」 | ||
230 | 美穂子 | Mihoko | 「………っ」 | ||
231 | 早百合 | Sayuri | 「なに緊張してるのよ矢田? 小木曽はわからなくないにしても」 | ||
232 | 小春 | Koharu | 「あ~、そこはさぁ… 今は深く考えないで欲しいんだ」 | ||
233 | 亜子 | Ako | 「にしても、もう残り二組か… 結構あっという間だったよね」 | ||
234 | 早百合 | Sayuri | 「思ったより拾い物だったよね。 アマチュアの大学生ばっかりって話だったから、 そんなに期待してなかったんだけど」 | ||
235 | 亜子 | Ako | 「うん、なかなかいい感じのコンサートだよね。 こういう雰囲気でチョコ渡せるといいなぁ…」 | ||
236 | 早百合 | Sayuri | 「残念ながら、一番必要なものが不足してるけどね。 …すなわち、渡すべき相手」 | ||
237 | 孝宏 | Takahiro | 「いちいち俺の方を見ながらそういうこと言うな。 ここに俺以外の男がいないのは俺のせいじゃない」 | ||
238 | 亜子 | Ako | 「だ、だからわたしはそんなつもりじゃ… [F16もう、早百合の馬鹿」] | ||
239 | 千晶 | Chiaki | 「うあ…出遅れた~。 もう座るとこなんか全然ないじゃん…」 | ||
240 | 千晶 | Chiaki | 「ほんっと、凄いね… ブランクなんかものともしない。 さすがは伝説のユニット」 | ||
241 | 千晶 | Chiaki | 「………ずっと追いかけてただけのことはあるよ」 | ||
242 | 武也 | Takeya | 「うわ、後ろ立ち見出てるよ…」 | ||
243 | 依緒 | Io | 「どうやら入場フリーにしたみたいね… もうすぐラストだし」 | ||
244 | 武也 | Takeya | 「マジで三年前の再現だな。 ラジオの力か、それとも…」 | ||
245 | 朋 | Tomo | 「つまんなかったな~、今の。 こう、ボーカルに引き込む力がないってゆ~か~」 | ||
246 | 依緒 | Io | 「…あんたさっきから貶してばっかりね。 一体何のために来たの?」 | ||
247 | 武也 | Takeya | 「もうちょい楽しもうって気はないのかよ? 一番乗りで最前列を確保した割には…」 | ||
248 | 朋 | Tomo | 「聴く価値がない歌を正直に評価してるだけ。 あんなんならまだわたしが歌った方がマシよ」 | ||
249 | 武也 | Takeya | 「いや、朋の歌なら三年前に聞いたけど…」 | ||
250 | 朋 | Tomo | 「あれからレッスンだって通ってるんだから! もう昔のわたしだと思わないことね!」 | ||
251 | 依緒 | Io | 「あ、一応自覚あるんだ。 昔は聴けたもんじゃなかったって」 | ||
252 | 朋 | Tomo | 「………」 | "........."
| |
253 | 依緒 | Io | 「………」 | "........."
| |
254 | 武也 | Takeya | 「あ、いや…そこまででもなかったから」 | ||
255 | 朋 | Tomo | 「さぁて…やっとあと二組か。 あ~、もう疲れてきちゃった」 | ||
256 | 依緒 | Io | 「今のうちに言っとくけどさぁ、 あいつらが出てきたときに ヤジったり貶したりしたら…」 | ||
257 | 朋 | Tomo | 「…したら?」 | ||
258 | 依緒 | Io | 「つまみ出すからね? 本気で」 | ||
259 | 朋 | Tomo | 「やれるもんならやってみれば?」 | ||
260 | 依緒 | Io | 「………」 | "........."
| |
261 | 朋 | Tomo | 「………」 | "........."
| |
262 | 武也 | Takeya | 「お前らなぁ… 修羅場るならせめて俺を巡ってにしてくれよ」 | ||
263 | ……… | .........
| |||
264 | 春希 | Haruki | 「もうすぐ、だな」 | ||
265 | 雪菜 | Setsuna | 「うん…」 | ||
266 | いよいよ、俺たちの前の… 本来のラストの組の、しかも最後の曲が始まった。 | ||||
267 | あと10分もしないうちに、 今度は俺たちが、あの舞台の上に上がることになる。 | ||||
268 | 三年ぶりに、スポットライトを浴びて… | ||||
269 | 雪菜 | Setsuna | 「ね、似合ってるかな? …なんて、いつもの服だけど」 | ||
270 | 俺の前に立つと、 雪菜がくるりと一回転してみせる。 | ||||
271 | それは、あの時のステージ衣装とは違う、 シックで地に足の着いた…と言えば聞こえはいいけど、 ぶっちゃけ単なる私服だった。 | ||||
272 | 華やかさやステージ映えという観点から見れば、 間違いなく、三年前に及ぶべくもないけれど… | ||||
273 | 春希 | Haruki | 「似合ってる。 今の雪菜に、とても合ってる」 | ||
274 | でも、俺の口から出た言葉は、 心の底からの、本気の称賛だった。 | ||||
275 | 雪菜 | Setsuna | 「ありがと… 春希くんも似合ってるよ?」 | ||
276 | 春希 | Haruki | 「そっか…ありがとう」 | ||
277 | なんて、二人で互いを馬鹿みたいに誉め合って、 しばらくしたら、気まずそうにくすりと笑い合う。 | ||||
278 | 演奏が終わった人たちは既に去り、 俺と雪菜しか残っていない控え室。 | ||||
279 | 聞こえてくるのは前の組の歌。客席のざわめき。 | ||||
280 | 伝わってくるのは、静かで、 けれど盛り上がっている雰囲気。 | ||||
281 | 雪菜 | Setsuna | 「みんな上手いよね」 | ||
282 | 春希 | Haruki | 「ああ…」 | ||
283 | 雪菜 | Setsuna | 「…ショボいよね? わたしたち」 | ||
284 | 春希 | Haruki | 「少なくとも、 これからコンサートに出ようって感じじゃないよな」 | ||
285 | 雪菜 | Setsuna | 「服も、腕も、意気込みも… どれも遠く及ばない」 | ||
286 | 春希 | Haruki | 「別に、いいじゃないか。 俺たちは、俺たちにできることをすれば」 | ||
287 | 雪菜 | Setsuna | 「うん…それしかないよね」 | ||
288 | 三年ぶりの再結成なんだ。 誰も、昔通りにやれるなんて思ってない。 | ||||
289 | そもそも昔からして大したことなかったんだ。 期待値が高かろうはずもない。 | ||||
290 | …と、この際思っておくことにする。 | ||||
291 | 雪菜 | Setsuna | 「ね、春希くん…」 | ||
292 | 春希 | Haruki | 「ん…?」 | ||
293 | 雪菜 | Setsuna | 「ステージに上がる前に、 言っておきたいことがあるの」 | ||
294 | 春希 | Haruki | 「なに?」 | ||
295 | 雪菜 | Setsuna | 「わたしね、わたし… 今から、歌う。 きっとあの時のこと、思い出す」 | ||
296 | 春希 | Haruki | 「うん」 | ||
297 | それは、俺の望んだこと。 前に進むために、雪菜が選んだ道。 | ||||
298 | 雪菜 | Setsuna | 「そして思い出したら… あなたを嫌いになってしまうかもしれない。 憎んでしまうかもしれない」 | ||
299 | 春希 | Haruki | 「っ………ぅん」 | ||
300 | それは、俺が望む未来じゃないけれど… | ||||
301 | 前に進むために、雪菜が取ったリスク。 | ||||
302 | 雪菜 | Setsuna | 「だから、だからね…」 | ||
303 | ……… | .........
| |||
304 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
305 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
306 | 春希 | Haruki | 「………わかった」 | ||
307 | 雪菜 | Setsuna | 「ん…ありがとう」 | ||
308 | とうとう、前のチームの演奏が終わった。 | ||||
309 | もう5分もしないうちに、 俺たちは目の前の舞台から、 満員の観客に向かって、俺たちの音を発信する。 | ||||
310 | もう逃げ場はない。 そして、今さらおさらいなんかできない。 | ||||
311 | 三年前と同じ… いや、それよりも酷い状況に追い込まれた。 | ||||
312 | 春希 | Haruki | 「じゃあ…行こうか」 | ||
313 | 雪菜 | Setsuna | 「楽しく…やろうね? みんなを驚かせることはできないかもしれないけど」 | ||
314 | 春希 | Haruki | 「音を忘れたら、俺のギターの音を聴いて。 歌詞を忘れたら…その時は笑顔で誤魔化して」 | ||
315 | 雪菜 | Setsuna | 「忘れるわけないよ… だってこれ、わたしたちだけの歌なんだから」 | ||
316 | 春希 | Haruki | 「雪菜…」 | ||
317 | 雪菜 | Setsuna | 「じゃあ…行こう? 春希くん」 | ||
318 | 春希 | Haruki | 「ああ」 | ||
319 | やり残したことなんか、山ほどある。 | ||||
320 | 限られた時間は、本当に限られ過ぎていて、 怖じ気づく暇も、克服する暇も与えられなかった。 | ||||
321 | 壊れた絆が完全に修復したかどうかもわからない。 | ||||
322 | それでも俺たちは、 今までのたった二日間を、 今からのたった三分間にぶつける。 | ||||
323 | ……… | .........
| |||
324 | …… | ......
| |||
325 | … | ...
| |||
326 | 依緒 | Io | 「は、始まる…始まるよ!」 | ||
327 | 武也 | Takeya | 「わ、わかってるって! …俺たちに進歩がないことも含めて」 | ||
328 | 依緒 | Io | 「だ、大丈夫かな? 大丈夫なのかな? 雪菜、ちゃんと声出るかな? 春希、ちゃんと弾けるかな?」 | ||
329 | 武也 | Takeya | 「わ、わかるわけないって! 今回はあいつらの練習、一度も見てないんだから」 | ||
330 | 朋 | Tomo | 「ちょっとぉ、静かにしてよ。 どれだけ騒いでも、もう止められないんだから、 黙って見てなさいっての」 | ||
331 | 依緒 | Io | 「あ、あたしたちはねぇ、 あんたと違って…」 | ||
332 | 朋 | Tomo | 「わたしを何と言おうと構わないけど、とにかく今は黙れ。 歌の間、一言だって喋ったら許さないわよ?」 | ||
333 | 武也 | Takeya | 「と、朋…?」 | ||
334 | 依緒 | Io | 「あんた…」 | ||
335 | 朋 | Tomo | 「………」 | "........."
| |
336 | 舞台の、幕が開く… | ||||
337 | 同時に、静かにわき起こる拍手。 | ||||
338 | 小さな会場の、バレンタインコンサートという しっとりした感じのイベントは… | ||||
339 | どの出演者に対しても温かく、 そして穏やかに迎えてくれていた。 | ||||
340 | そんな、あの時とは違う空気に触れて… | ||||
341 | 雪菜は、伏せていた顔を、 ゆっくりと客席に向けた。 | ||||
342 | 雪菜 | Setsuna | 「皆さん、こんばんは」 | ||
343 | 雪菜 | Setsuna | 「ええと、歌の前に少しだけお話させて下さい。 わたしたち、持ち歌が一つしかないんです。 …歌ったらそれで終わっちゃうから」 | ||
344 | 雪菜 | Setsuna | 「改めてこんばんは」 | ||
345 | 雪菜 | Setsuna | 「ええと…『峰城大付属軽音楽同好会』です。 というか、今はもう存在しない同好会のOBです」 | ||
346 | 雪菜 | Setsuna | 「わたしがボーカルの…SETSUNA、です。 どうかよろしくお願いします」 | ||
347 | 雪菜 | Setsuna | 「彼がギターの………何て名前にしとく?」 | ||
348 | 雪菜 | Setsuna | 「え? え? ええと、HARUKIだそうです。 本当にそれでいいんだね? 春希くん?」 | ||
349 | 孝宏 | Takahiro | 「っ…」 | ||
350 | 早百合 | Sayuri | 「………すっげー綺麗な人だね。 何であれで小木曽と血が繋がってるの?」 | ||
351 | 亜子 | Ako | 「ほんと…困るなぁ」 | ||
352 | 早百合 | Sayuri | 「何で?」 | ||
353 | 美穂子 | Mihoko | 「………」 | "........."
| |
354 | 小春 | Koharu | 「思ったより…堂々としてるかな?」 | ||
355 | 孝宏 | Takahiro | 「~~~っ!」 | ||
356 | 早百合 | Sayuri | 「ところで… さっきからなに耳塞いでるのよ小木曽」 | ||
357 | 孝宏 | Takahiro | 「い、いや、前の時はそこそこ平気だったんだけど、 今回はなんて言うか… 子供の発表会を見守る親の心境?」 | ||
358 | 亜子 | Ako | 「あ、ちょっとわかっちゃうなぁ。 わたしも妹の運動会見に行ったときになった。 すごく心配で、恥ずかしくって…」 | ||
359 | 美穂子 | Mihoko | 「先生…」 | ||
360 | 小春 | Koharu | 「頑張れっ」 | ||
361 | 雪菜 | Setsuna | 「さて…わたしたち、 ほとんどの方は、初めましてだと思います」 | ||
362 | 雪菜 | Setsuna | 「でも、わたしたちがこれから歌う曲は、 峰城FMで何度かかけていただいていたので、 そちらの方で知ってる人が多いんじゃないかな」 | ||
363 | 雪菜 | Setsuna | 「三年前…」 | ||
364 | 雪菜 | Setsuna | 「ウチのキャンパスの中に併設されている、 『峰城大学付属学園』の学園祭が、 わたしたちの初ライブでした」 | ||
365 | 雪菜 | Setsuna | 「それは、もともと学園祭に出るためだけの 即席ユニットだったけど…」 | ||
366 | 雪菜 | Setsuna | 「そんなわたしたちの、間に合わせの演奏だったけど、 たくさんの観客の人たちに盛り上げてもらい、 自分の人生の中でも最高の時を過ごさせてもらいました」 | ||
367 | 雪菜 | Setsuna | 「その時のメンバーは三人… わたしと、今ここにいるHARUKIと、 もう一人は、今は海の向こうで頑張ってます」 | ||
368 | 雪菜 | Setsuna | 「三年前のライブが終わってから、 三人の間にも様々なことがあって、 それで、人生の進む方向が少しずつ違っていって…」 | ||
369 | 雪菜 | Setsuna | 「いつしか、お互いの距離が物理的に離れて、 もう三人で集まれることもなくなってしまい、 わたしたちの即席ユニットは、終わりを告げました」 | ||
370 | 雪菜 | Setsuna | 「それが今日、一人欠けてはいますけど、 三年ぶりに再結成させていただくことになりました」 | ||
371 | 千晶 | Chiaki | 「うん…うん…」 | ||
372 | 千晶 | Chiaki | 「本当に、よく帰ってきてくれたよ…あんたたち」 | ||
373 | 雪菜 | Setsuna | 「これには一応、いくつか理由がありまして… 一つは、本日主催の峰城ブロードキャストさんに、 色々と応援していただいたおかげです」 | ||
374 | 雪菜 | Setsuna | 「三年前の、あんな拙い歌を応援してくれて。 冬になると、何度も何度も構内で流してくれて。 …聴くたびに、顔から火が出そうでしたけど」 | ||
375 | 雪菜 | Setsuna | 「とにかく、それで沢山の人に知っていただき、 その人たちの後押しもあって、 今日こうして皆さんの前に立つことになりました」 | ||
376 | 雪菜 | Setsuna | 「二つめの理由は… その、今日はわたしの誕生日なので、 せっかくだから記念にってことで」 | ||
377 | 雪菜 | Setsuna | 「ありがとうございます。 すいません、祝ってもらっちゃって」 | ||
378 | 雪菜 | Setsuna | 「そして三つ目の…一番の理由は… これは凄く個人的なことなんですが、 あの時のことに、決着をつけなくちゃって…」 | ||
379 | 雪菜 | Setsuna | 「色々あって、三人で音楽やることになって、 色々あって、三人で楽しい日々を過ごして、 たった一度のステージで、最高の自己満足ができた」 | ||
380 | 雪菜 | Setsuna | 「それからも色々あって、三人が少しずつずれていって、 色々あって、一人が遠くへ行ってしまい、 色々あって、わたしは一度、歌をやめた」 | ||
381 | 雪菜 | Setsuna | 「でも、本当はやめることなんかなかった。 それは、負けたことから逃げてただけだった。 卑怯だったし、たくさんの人を傷つけた」 | ||
382 | 雪菜 | Setsuna | 「今日は、わたしたちの三年ぶりの再結成… そして、おそらく今日をもって また解散ってことになると思います」 | ||
383 | 雪菜 | Setsuna | 「でもわたし…もう音楽はやめません。 趣味でも生活でも…多分仕事ってことはないけれど、 また、楽しく歌いながら生きていきます」 | ||
384 | 雪菜 | Setsuna | 「だから皆さんとも、いつか別の機会で、 こうして会うことがあるかもしれません」 | ||
385 | 雪菜 | Setsuna | 「その時は… また、わたしの歌を、聴いてください」 | ||
386 | 雪菜 | Setsuna | 「それじゃ、聴いてください」 | ||
387 | 雪菜 | Setsuna | 「これが今夜の、わたしたちの唯一の…」 | ||
388 | 雪菜 | Setsuna | 「そして、このコンサートを締めくくる ラストナンバーになります」 | ||
389 | 雪菜 | Setsuna | 「『届かない恋』」 | ||
390 | ここにきてやっと、俺の唯一の… | ||||
391 | そして、俺の最大の試練で、苦難で、 ついでに見せ場が始まる。 | ||||
392 | 俺のアコースティックギターの頼りない旋律だけが、 雪菜を導かなくちゃならない。 | ||||
393 | 一月前に練習を再開したギターで、 二日前に練習を再開したボーカルと、 調和の取れたハーモニーを奏でなくちゃならない。 | ||||
394 | だって俺たちには…もう、ピアノがない。 | ||||
395 | 厳しく、そして優しく導いてくれる、 しっかりした音色は、もうここにはない。 | ||||
396 | 錆びついたギターと、歌を忘れたボーカルが、 ふらつきながらも、自分たちの力だけで前に進む。 | ||||
397 | そんな危なっかしいユニットで、 それでも観客に訴えかけなくちゃならない。 | ||||
398 | 孝宏 | Takahiro | 「はぁぁぁぁ~…」 | ||
399 | 早百合 | Sayuri | 「ね、これって…」 | ||
400 | 亜子 | Ako | 「うん…」 | ||
401 | 小春 | Koharu | 「………」 | "........."
| |
402 | 美穂子 | Mihoko | 「小春…ちゃん?」 | ||
403 | 小春 | Koharu | 「あ、いや、これは…」 | ||
404 | 美穂子 | Mihoko | 「………」 | "........."
| |
405 | 小春 | Koharu | 「っ…」 | ||
406 | 雪菜が、歌う。 | ||||
407 | あの時でも素人同然だったけど、 あの時よりも、さらに素人丸出しな俺たちの演奏。 | ||||
408 | けれど、そこに込められた想いだけは、 あの時の俺たちにだって引けは取ってないと思ってる。 | ||||
409 | そうやって、ただ感情だけ激しく込めたまま、 テクニックも何もなく、 俺たちはただ三分間を駆け抜ける。 | ||||
410 | かずさに、伝えるために。 | ||||
411 | 遠い空にいる、もう一人の親友に、 俺たちは大丈夫だよって、伝えるために。 | ||||
412 | 女子生徒2 | Female Student 2 | 『っ…』 | ||
413 | 女子生徒1 | Female Student 1 | 『どうしたの? …あれ? 泣いてる?』 | ||
414 | 女子生徒2 | Female Student 2 | 『っ!? な、何言ってんの!』 | ||
415 | 女子生徒3 | Female Student 3 | 『けど、目真っ赤だよ? …もしかして、ツボっちゃった?』 | ||
416 | 女子生徒2 | Female Student 2 | 『嘘、嘘だってそんな… だって、歌ってるの小木曽雪菜だよ…?』 | ||
417 | 女子生徒1 | Female Student 1 | 『い、いや… そんな顔されながら言われても…』 | ||
418 | 女子生徒2 | Female Student 2 | 『なんで、なんで…』 | ||
419 | 女子生徒2 | Female Student 2 | 『どうして、泣けてきちゃうんだろ…』 | ||
420 | 女子生徒3 | Female Student 3 | 『朋…』 | ||
421 | 朋 | Tomo | 「っ…ぃ、ぅ…ひくっ…」 | ||
422 | 武也 | Takeya | 「………」 | "........."
| |
423 | 依緒 | Io | 「…ほら、ハンカチ」 | ||
424 | 朋 | Tomo | 「静かにしててよぉっ… ひっ、う、く………ぅぇぇ」 | ||
425 | 武也 | Takeya | 「お前、まさか…」 | ||
426 | 依緒 | Io | 「雪菜に歌って欲しかったから… 本当に、ただそれだけだったの?」 | ||
427 | 朋 | Tomo | 「あ~もうちくしょ、 わたし、小木曽雪菜なんて大嫌い…っ」 | ||
428 | 朋 | Tomo | 「なのに、なのに… どうしてこの歌だけは駄目なんだろ。 いつ聴いても泣けて来ちゃうんだろ」 | ||
429 | 武也 | Takeya | 「…なんつ~タチの悪い追っかけだよ」 | ||
430 | 依緒 | Io | 「馬っ鹿だねぇ… あんたって、本当に馬鹿だ… そんな不器用じゃ、友達いないでしょ?」 | ||
431 | 朋 | Tomo | 「ぃぅぅぅ…ぅるさぁぃ…」 | ||
432 | かずさがいなくなって、 俺たちは、二人になった。 | ||||
433 | 俺も雪菜も、 少し意味は違ったかもしれないけれど、 寂しかったし、哀しかった。 | ||||
434 | 多分、これからも、 その寂寥感が癒されることはないだろう。 | ||||
435 | だけどこれからは、俺たちは二人で生きていく。 | ||||
436 | もう、かずさには貰ったから。 | ||||
437 | 俺にとってはたった一年。 雪菜に至っては半年の… | ||||
438 | それでも、今までの人生に引けを取らないほどの 苦しみと、悲しみと、傷と、思い出と、追憶と、重みと… | ||||
439 | たくさんの、いろいろな、 形に残らないものをもらったから。 | ||||
440 | だから今度こそ…今度こそ本当に。 | ||||
441 | さよなら、かずさ。 | ||||
442 | 千晶 | Chiaki | 「ふぅ…ご馳走様でした」 | ||
443 | 千晶 | Chiaki | 「さてと…三年ぶりに力もらったことだし、 あたしもラストスパート頑張るか」 | ||
444 | 千晶 | Chiaki | 「じゃあね、春希…」 | ||
445 | ……… | .........
| |||
446 | …… | ......
| |||
447 | … | ...
| |||
448 | 孝宏 | Takahiro | 「あ、飯塚さん! こっちこっち!」 | ||
449 | 武也 | Takeya | 「お、孝宏君。 今日はまた大人数で…師匠って呼んでもいい?」 | ||
450 | 孝宏 | Takahiro | 「違うんだよ。 みんな勝手について来ちゃったんだよ…」 | ||
451 | 武也 | Takeya | 「………神って呼んでもいい?」 | "May I call you God?"
| |
452 | 孝宏 | Takahiro | 「えっと…全員クラスメイト。 紹介はしないよ? 後はどうせ自分でやるだろうし」 | ||
453 | 早百合 | Sayuri | 「ねぇねぇ、あの人って柳原先輩じゃない? ほら、あたしたちが一年だったときのミス付属」 | ||
454 | 亜子 | Ako | 「あ、本当だ………けど」 | ||
455 | 朋 | Tomo | 「ひっ、ぃ、ぅ…あは、あはは…っ」 | ||
456 | 依緒 | Io | 「ほらぁ…もういい加減落ち着きなよ。 こっちだって結構キてるのに、 あんたのせいで浸れないじゃないか」 | ||
457 | 朋 | Tomo | 「あはははは…聴いた? 聴いたぁ? へったくそだったよねぇ…えへへ、えへ…っ、 ぇ、ぃぃ…ぅ、く…っ」 | ||
458 | 依緒 | Io | 「あ~よしよし… もういい、わかった。 今夜は胸を貸してやる」 | ||
459 | 孝宏 | Takahiro | 「…どしたのあれ? なんで水沢さんを女の子に取られてんの?」 | ||
460 | 武也 | Takeya | 「大学生にもなると色々とあるんだよ。 …今日だけは全部許す方向で」 | ||
461 | 孝宏 | Takahiro | 「ふぅん… 俺も進学したらわかるようになんのかな?」 | ||
462 | 小春 | Koharu | 「ふぅぅ…よかったね、美穂子。 ほんと、よかったねぇ」 | ||
463 | 美穂子 | Mihoko | 「………うん」 | ||
464 | 小春 | Koharu | 「カッコ良かったよね、先輩。 何よ、ああいうのもできるんじゃない」 | ||
465 | 美穂子 | Mihoko | 「…わたしがそう思うのはいいけど、 どうして小春ちゃんまで」 | ||
466 | 小春 | Koharu | 「あ~…もういいじゃない美穂子ってばさぁ! そんな細かいこと…」 | ||
467 | 美穂子 | Mihoko | 「そうだね… どうせ、わたしたちには、もう…」 | ||
468 | 小春 | Koharu | 「…あのさ、どっか寄ってこっか? ケーキのやけ食いとか」 | ||
469 | 武也 | Takeya | 「お、いいねぇそれ! それじゃとりあえずみんなで移動しよっか?」 | ||
470 | 小春 | Koharu | 「…飯塚先輩に仕切っていただく必要はありません。 わたしたちはわたしたちだけで行きますから」 | ||
471 | 武也 | Takeya | 「そんな冷たいこと言わないでさぁ、 お互い自己紹介もまだなんだし~」 | ||
472 | 孝宏 | Takahiro | 「あ、それでさ飯塚さん、 お忙しいところ悪いんだけど… 姉ちゃん、見なかった?」 | ||
473 | 武也 | Takeya | 「…え?」 | ||
474 | 孝宏 | Takahiro | 「こいつらがさぁ、 どうしても一度会いたいって言うから、 ここで待ってるんだけど…」 | ||
475 | 早百合 | Sayuri | 「だぁ~って、ねぇ?」 | ||
476 | 亜子 | Ako | 「一言だけでも… とっても感動しましたって」 | ||
477 | 武也 | Takeya | 「あ、ああ、そっか… でもなぁ…」 | ||
478 | 孝宏 | Takahiro | 「電話もまだ繋がらないんだよね。 二人なら知ってるかなって」 | ||
479 | 依緒 | Io | 「雪菜は…もういないよ?」 | ||
480 | 孝宏 | Takahiro | 「え? もしかして先に帰っちゃった?」 | ||
481 | 依緒 | Io | 「ああ………三年前に帰るべきだったところに、ね」 | ||
482 | ……… | .........
| |||
483 | …… | ......
| |||
484 | … | ...
| |||
485 | 雪菜 | Setsuna | 「はっ…は、はぁぁ…っ」 | ||
486 | 春希 | Haruki | 「っ…」 | ||
487 | 雪菜 | Setsuna | 「はぁっ、はぁっ、はぁぁっ、 はぁぁぁぁ~っ」 | ||
488 | 春希 | Haruki | 「………少し、歩く?」 | ||
489 | 雪菜 | Setsuna | 「う、ううん…大丈夫。 まだ、大丈夫」 | ||
490 | 春希 | Haruki | 「本当に? 自分に言い聞かせてないか?」 | ||
491 | 雪菜 | Setsuna | 「………大丈夫。 だって、自分はもう…聞く耳持ってないから」 | ||
492 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
493 | 雪菜 | Setsuna | 「はぁっ、はぁぁ… それに、あと少しだし」 | ||
494 | 春希 | Haruki | 「わかった。 じゃあ…」 | ||
495 | 雪菜 | Setsuna | 「うん…っ、 はぁっ、はぁっ、はぁぁっ」 | ||
496 | 最初は、二人とも歩いてた。 | ||||
497 | 国道を渡り、キャンパスを抜け、 正門から出た辺りで、早足になった。 | ||||
498 | それが繁華街に入り、 駅が見えてきた頃から、駆け足になった。 | ||||
499 | 今、俺たちの目の前には… | ||||
500 | ガードをくぐった先の、 見慣れたマンションが、ある。 | ||||
501 | 春希 | Haruki | 「っ、は、ぁ…」 | ||
502 | 雪菜 | Setsuna | 「はぁっ、はっ、はっ…」 | ||
503 | 俺が、雪菜の手を取り、 必死でその身体を進行方向へと引っ張っていく。 | ||||
504 | 雪菜も、俺の手を握り返し、 可能な限り、俺への負担をかけまいと、 必死で脚を速く動かす。 | ||||
505 | そんなふうに、 あまりにも余裕のない俺たち。 切羽詰まりすぎている俺たち。 | ||||
506 | 端から見れば、周りの景色から明らかに浮いてて、 余裕のなさ過ぎる態度が滑稽に映ってるに違いない。 | ||||
507 | だけど、そんな周囲に与えるはずの違和感なんて、 今の俺たちにしてみれば、 些細にも程がある問題だった。 | ||||
508 | 春希 | Haruki | 「着い、た…」 | ||
509 | 雪菜 | Setsuna | 「う………うんっ」 | ||
510 | だって、だって… | ||||
511 | 約束、したんだから。 | ||||
512 | 雪菜 | Setsuna | 『ね、春希くん…』 | ||
513 | 春希 | Haruki | 『ん…?』 | ||
514 | 雪菜 | Setsuna | 『ステージに上がる前に、 言っておきたいことがあるの』 | ||
515 | 春希 | Haruki | 『なに?』 | ||
516 | 雪菜 | Setsuna | 『わたしね、わたし… 今から、歌う。 きっとあの時のこと、思い出す』 | ||
517 | 春希 | Haruki | 『うん』 | ||
518 | 雪菜 | Setsuna | 『そして思い出したら… あなたを嫌いになってしまうかもしれない。 憎んでしまうかもしれない』 | ||
519 | 春希 | Haruki | 『っ………ぅん』 | ||
520 | 雪菜 | Setsuna | 『だから、だからね…』 | ||
521 | 雪菜 | Setsuna | 『コンサートが終わったら… わたしを、無理やり奪ってください』 | ||
522 | 春希 | Haruki | 『せ…つ、な』 | ||
523 | 雪菜 | Setsuna | 『わたしがどれだけ泣いても、抵抗しても… あなたに恨みの言葉をぶつけても…』 | ||
524 | 雪菜 | Setsuna | 『もう…待たないって』 | ||
525 | 春希 | Haruki | 『………』 | ||
526 | 雪菜 | Setsuna | 『そんな昔の記憶に囚われた… 洗脳されてしまったわたしなんかの言葉に、 絶対に、耳を貸さないって』 | ||
527 | 雪菜 | Setsuna | 『約束して…ください』 | ||
528 | 春希 | Haruki | 『………』 | ||
529 | 雪菜 | Setsuna | 『………』 | ||
530 | 春希 | Haruki | 『………わかった』 | ||
531 | 雪菜 | Setsuna | 『ん…ありがとう』 | ||
532 | 春希 | Haruki | 「眠らないのか?」 | ||
533 | 雪菜 | Setsuna | 「ん…」 | ||
534 | 時計は、2時を指してた。 | ||||
535 | 俺が雪菜のなかに放出した後も、 俺たちは、しばらくキスを繰り返し… | ||||
536 | それから、やっと互いの波が少しだけ去り、 二人とも名残惜しげに唇だけ離して、 身体を絡めたまま、しばらくの休憩。 | ||||
537 | その間、俺が目を閉じて押し黙ってても、 雪菜はじいっとこっちを見つめ続けてた。 | ||||
538 | 春希 | Haruki | 「昨日も一昨日も全然寝てないだろ? 少しは休んだ方が…」 | ||
539 | それに、さっきまであんなに激しく… | ||||
540 | 雪菜 | Setsuna | 「別に、眠くないから。 ほら、お昼に仮眠取ったって言ったでしょ?」 | ||
541 | 春希 | Haruki | 「でも…」 | ||
542 | 雪菜 | Setsuna | 「それに、今は眠りたくない」 | ||
543 | 春希 | Haruki | 「どうして?」 | ||
544 | 雪菜 | Setsuna | 「今の現実を感じていたいの… わたし、春希くんのベッドにいるんだって。 春希くんに、抱きしめられてるんだって」 | ||
545 | 春希 | Haruki | 「雪菜…」 | ||
546 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くんは眠っててもいいよ? そっちこそ二日間、全然寝てないんだから。 わたしのことなんか気にせずに、ね?」 | ||
547 | 春希 | Haruki | 「いや…俺も眠れなくてさ。 色んなことがありすぎて、頭が冴えちゃって」 | ||
548 | 雪菜 | Setsuna | 「そっか、そっかぁ」 | ||
549 | 春希 | Haruki | 「うん…」 | ||
550 | 今の言葉… 雪菜は、どっちのことだって思っただろうか。 | ||||
551 | あの、二度目のステージのことか、 それともその後の、初めて…のことか。 | ||||
552 | 正解は…正解は、俺にもわからない。 | ||||
553 | 雪菜 | Setsuna | 「楽しかった、ね」 | ||
554 | 『た~のしかったね~』 | ||||
555 | 春希 | Haruki | 「ああ…楽しかった」 | ||
556 | 『めちゃくちゃ、な』 | ||||
557 | 三年前よりも落ち着いた、 三年前よりも成熟した。 | ||||
558 | そんな、噛みしめるような俺たちの嘆息。 | ||||
559 | 雪菜 | Setsuna | 「わたし、歌えたんだね。 また、あのスポットライトに照らされて歌ったんだね」 | ||
560 | 春希 | Haruki | 「全然衰えてなかった。 全盛期のままだった。 …よかったよ、雪菜」 | ||
561 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くんも腕落ちてなかったよ? あなたのギターに、安心して身を任せることができた」 | ||
562 | 春希 | Haruki | 「それは贔屓目。 それか、ギターの上手い下手がわかってないだけ」 | ||
563 | 雪菜 | Setsuna | 「それを言うなら春希くんだって。 歌の上手い下手がわかってないだけだよ?」 | ||
564 | 春希 | Haruki | 「そうかな?」 | ||
565 | 雪菜 | Setsuna | 「そうだよ」 | ||
566 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
567 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
568 | 少し話しては、黙り込む。 けれど気まずくも、穏やかでもない。 さっきから、そんな微妙な時間を繰り返してる。 | ||||
569 | 三年前は、妙な緊張で言葉が続かなかった。 今は…想いが渦巻きすぎて言葉が続かない。 | ||||
570 | 『これからも、ずっと一緒にいてね?』 | ||||
571 | あの時は、そこに繋がっていったっけ。 | ||||
572 | もし今、雪菜に同じ事を聞かれたら、 即座に『ずっと一緒だ』って答える準備はできてる。 | ||||
573 | 雪菜は、俺の答えを知ってるはずなのに、 でも、言えずにいるみたいに見える。 | ||||
574 | 俺の腕に抱かれて… けれど、本当の意味で安心できてるのかな? | ||||
575 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
576 | 少し…一人で考えたい。 | ||||
577 | これからの雪菜とのこと。 償いのこと、愛し方のこと。 | ||||
578 | これからも、ずっと二人でいるために、 決めなくちゃならないこと全てを洗い出したい。 | ||||
579 | 春希 | Haruki | 「な、雪菜… 眠くないんだったら、お風呂入ってきたら?」 | ||
580 | 雪菜 | Setsuna | 「え…」 | ||
581 | 春希 | Haruki | 「ほら、その…色々と汚れちゃったし。 俺のせいで」 | ||
582 | 雪菜 | Setsuna | 「あ…っ」 | ||
583 | 口の周りの唾液は、そろそろ乾いてきてた。 けれどきっと下の方は、まだ… | ||||
584 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
585 | と、これ以上想像するのはやめにしよう。 | ||||
586 | せっかくの真面目な動機と行動を、 湧き上がる欲望で台無しにしてしまいそうだ。 | ||||
587 | 終わったばかりでまた求めるのは、 まるで身体目当てみたいで、 雪菜を更に不安にしてしまうに違いないから。 | ||||
588 | 春希 | Haruki | 「すぐに沸くから。 俺、お湯張って…」 | ||
589 | 雪菜 | Setsuna | 「え、え~。 でも、春希くんの匂い、消したくないなぁ」 | ||
590 | 春希 | Haruki | 「っ…?」 | ||
591 | 俺がベッドから起き上がろうとすると、 雪菜は、ふざけ半分っぽく可愛い駄々をこねた。 | ||||
592 | 雪菜 | Setsuna | 「せっかく春希くんにツバつけられたのに」 | ||
593 | 春希 | Haruki | 「それ、言葉のまんまじゃないか…」 | ||
594 | 軽い言葉と、軽い態度。 俺をからかってるかのような、悪戯っぽい表情。 | ||||
595 | 雪菜 | Setsuna | 「それとも、汚れたわたしは嫌? ついてるの、全部春希くんの出したものなのに?」 | ||
596 | 春希 | Haruki | 「だから、そういうあからさまなこと…」 | ||
597 | 雪菜 | Setsuna | 「え~、もうちょっと。 もうちょっとだけ、こうしてようよ、ね?」 | ||
598 | 妙に扇情的な表現を駆使して、 雪菜は、俺の言うことを無視しようとする。 | ||||
599 | それが本当に言葉通り、 俺のつけた痕跡にこだわりたいというのなら… | ||||
600 | 想いが遂げられた余韻に浸りたいという、 前向きな想いなら… それだったら、いいんだけど。 | ||||
601 | 春希 | Haruki | 「なら…俺が先に入ってきていい?」 | ||
602 | 雪菜 | Setsuna | 「っ………消しちゃうの? わたしの匂い」 | ||
603 | 春希 | Haruki | 「消したら二度とつけられない訳じゃない。 俺たちもう、そういう関係なんだよな?」 | ||
604 | 雪菜 | Setsuna | 「う、うん…それは、そうなんだけど…」 | ||
605 | これからは何度だってマーキングできる。 | ||||
606 | つけては消して、消してはまたつけて、 気の赴くまま、互いの身体に刻める。 | ||||
607 | 春希 | Haruki | 「すぐ出てくるから。 なんならテレビでもつけて…」 | ||
608 | 雪菜 | Setsuna | 「………っ」 | ||
609 | 春希 | Haruki | 「雪菜…?」 | ||
610 | なのに、雪菜は離れない。 | ||||
611 | 俺に覆い被さった身体を決して離すことなく、 背中に回した手に、急に力を込める。 | ||||
612 | …いや、本当は、急にって訳じゃなかった。 | ||||
613 | からかい半分っぽく嫌がってたときから、 俺を拘束しようとする力は、 少し変に思うくらい必死だった。 | ||||
614 | 春希 | Haruki | 「…どうした?」 | ||
615 | 雪菜 | Setsuna | 「寒い…」 | ||
616 | 春希 | Haruki | 「エアコン、ついてるけど?」 | ||
617 | 雪菜 | Setsuna | 「でも、寒い。 事実寒いんだから仕方ないよ」 | ||
618 | 春希 | Haruki | 「雪菜…」 | ||
619 | 雪菜 | Setsuna | 「っ…寒いよぉ」 | ||
620 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
621 | この部屋が寒いはずがない。 | ||||
622 | 裸で眠ることを考えて、 エアコンの設定温度はかなり高くしてる。 | ||||
623 | ベッドの窓側には俺が陣取り、 外から入る冷気も雪菜には届かせてない。 | ||||
624 | なにより寒いなら、 熱い湯に浸かって温まるべきなのに。 | ||||
625 | 雪菜 | Setsuna | 「ねぇ、眠ってよ、春希くん」 | ||
626 | それはつまり、 雪菜はきっと、身体が寒いんじゃなくて… | ||||
627 | 雪菜 | Setsuna | 「疲れてるんでしょう? ずっと寝てないじゃない」 | ||
628 | 自分一人が風呂に入ることが寒いって。 俺一人が風呂に入ることが寒いって。 | ||||
629 | 雪菜 | Setsuna | 「だからさぁ…寝ようよ? わたしに、ずっとその寝顔を見せていてよ?」 | ||
630 | 春希 | Haruki | 「けど…」 | ||
631 | 雪菜 | Setsuna | 「お願い、お願い…離さないで。 せめて朝まで…わたしを温めていて」 | ||
632 | そんな実体のない寒さ、 夜が明けたとしても、消える保証なんて… | ||||
633 | 雪菜 | Setsuna | 「っ…ぅ、ぅぅ…寒い、ょ」 | ||
634 | 雪菜は、本気で凍えている。 | ||||
635 | 熱を持った身体は細かく震え、 歯はガチガチと鳴り、 息は絶え絶えで。 | ||||
636 | さっきまでの虚勢はとっくに吹き飛び、 ただ、どうしたらいいかわからない子供のように、 母親でもない俺にしがみつく。 | ||||
637 | 春希 | Haruki | 「雪菜…」 | ||
638 | なら俺はどうしたら、 その寒さを和らげることができるんだろう? | ||||
639 | 一度離れようとしてしまった以上、 このまま気が変わったと、一緒に眠るだけで、 雪菜はふたたび心から温まってくれるだろうか? | ||||
640 | もし、そんな簡単な話じゃないとしたら… | ||||
641 | 春希 | Haruki | 「じゃあ、じゃあさ…」 | ||
642 | 雪菜 | Setsuna | 「…んぅ?」 | ||
643 | 春希 | Haruki | 「一緒に、入ろうか?」 | ||
644 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
645 | 春希 | Haruki | 「ちょっと…いや、かなり狭いけど、 くっついてたら、なんとか二人で入れるかも」 | ||
646 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
647 | 春希 | Haruki | 「駄目、かな?」 | ||
648 | 今以上に触れあうことでしか、 雪菜をふたたび温められないというのなら… | ||||
649 | そうすれば、いいんじゃないか。 何も取り繕う必要なんかないじゃないか。 | ||||
650 | だって、きっと雪菜は。 雪菜の望んでいることは… | ||||
651 | 雪菜 | Setsuna | 「ううん」 | ||
652 | ほら、な。 | ||||
653 | 雪菜 | Setsuna | 「狭いの…好き」 | ||
654 | ……… | .........
| |||
655 | …… | ......
| |||
656 | … | ...
| |||
657 | 雪菜 | Setsuna | 「ん…」 | ||
658 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
659 | 雪菜 | Setsuna | 「すぅ…すぅぅ…ん…すぅぅぅぅ…」 | ||
660 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
661 | 雪菜 | Setsuna | 「………んぅ?」 | ||
662 | 春希 | Haruki | 「………ぁ」 | ||
663 | 雪菜 | Setsuna | 「………ん~」 | ||
664 | 春希 | Haruki | 「…雪菜?」 | ||
665 | 雪菜 | Setsuna | 「………ん、んぅぅ?」 | ||
666 | 春希 | Haruki | 「おはよ」 | ||
667 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
668 | 春希 | Haruki | 「おはよう、雪菜」 | ||
669 | 雪菜 | Setsuna | 「………?」 | ||
670 | 目覚めたばかりの雪菜が、 半開きの瞳を俺に向け、 “?”丸出しの表情を見せる。 | ||||
671 | 寝ぼけてるのか… というか、間違いなく寝ぼけてるんだろうけど、 今の状況を全然把握していないようで… | ||||
672 | 雪菜 | Setsuna | 「あ~、春希くんだぁ」 | ||
673 | 春希 | Haruki | 「そりゃ、俺だけど」 | ||
674 | 雪菜 | Setsuna | 「ん~…んぅぅぅぅ~♪」 | ||
675 | 無邪気に、そして適当に甘えてくる。 | ||||
676 | 春希 | Haruki | 「あのさ、雪菜…っ!?」 | ||
677 | 雪菜 | Setsuna | 「ん…ちゅ…ちゅぷ… は、まう、ん…ちゅぅぅぅぅ…っぷ」 | ||
678 | 春希 | Haruki | 「ん? ん、んんっ!?」 | ||
679 | しかも甘えるだけでは飽きたらず… | ||||
680 | 雪菜 | Setsuna | 「ん、ふぁ、あむ…んふふ… ん~、んふふふふ~」 | ||
681 | 舌まで、入れてくる。 | ||||
682 | 雪菜 | Setsuna | 「ん、ちゅぷ…は、あむ、ん、んぅ…ふふっ… しんぞうがとまるよ~な~、 恋が、あることし~ってる~……んむぅぅぅ」 | ||
683 | しかも、歌とキスを織り交ぜながら。 | ||||
684 | 雪菜 | Setsuna | 「は、あ、んむ…ちゅ、ちゅっ… はぁ、あ、ぁぁ…ん~…春希くぅぅん…」 | ||
685 | 何度も、何度も、 舌を絡ませ、口中を舐めまくり… | ||||
686 | 春希 | Haruki | 「ん、んぅ…雪菜…ちゅぷ… ちゅ、んぷ…あ、はぁ、あむ…」 | ||
687 | 雪菜 | Setsuna | 「………んぅ?」 | ||
688 | だから俺も、 雪菜の寝起きの責めに応えるように、 舌と舌を絡め、唾液を吸い上げて… | ||||
689 | 雪菜 | Setsuna | 「っ!? え、え、え…えええええっ!?」 | ||
690 | 春希 | Haruki | 「っ…あ」 | ||
691 | と、し始めた途端、 雪菜は慌てて俺を引き剥がし、 大きく目を見開く。 | ||||
692 | 雪菜 | Setsuna | 「は、は、は…」 | ||
693 | 春希 | Haruki | 「おはよう、雪菜」 | ||
694 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くんっ!?」 | ||
695 | 呆然とそう叫ぶ口元は、 やっぱり二人の唾液にまみれてて… | ||||
696 | だから雪菜は、まず自分の口の周りを指でぬぐい… | ||||
697 | 雪菜 | Setsuna | 「え? な…なに? これ、一体どういう………ん、んく」 | ||
698 | 春希 | Haruki | 「落ち着けって、まず」 | ||
699 | とりあえずそのまま舌で絡めとり、 喉に流し込んだ。 | ||||
700 | ……… | .........
| |||
701 | 雪菜 | Setsuna | 「ここ、は…」 | ||
702 | 春希 | Haruki | 「俺の部屋」 | ||
703 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
704 | 雪菜があんなに寝ぼけてたのも無理はない。 | ||||
705 | 今朝方まで、三日三晩ほとんど完徹で、 しかも歌の練習、コンサート本番、 そして…あんなに激しい行為。 | ||||
706 | 雪菜 | Setsuna | 「あ、あのね、春希くん…」 | ||
707 | そんな彼女を一瞬で現実に引き戻したのは、 多分、いつもの夢の中の自分との、あまりの境遇の違い。 | ||||
708 | だって、雪菜の夢の中の俺は、 いつも彼女に何もしない唐変木だったから。 | ||||
709 | キスも、それ以上の行為も、 いつも彼女の方からしなければならなかったから。 | ||||
710 | 雪菜 | Setsuna | 「さっきのこと…忘れてくれる? わたし低気圧だから、朝は…」 | ||
711 | 春希 | Haruki | 「そんなに気にすることないだろ。 昨夜、俺たちがしたことに比べれば」 | ||
712 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
713 | 『低血圧だろ』という指摘は、 この場の空気を冷静に鑑みて敢えてスルーした。 | ||||
714 | だって、そう頭の中を整理してる最中にも、 雪菜の顔色が… | ||||
715 | 雪菜 | Setsuna | 「ゆ、昨夜のことも全部忘れてくださいっ!」 | ||
716 | 春希 | Haruki | 「…嫌だ」 | ||
717 | 雪菜 | Setsuna | 「は、春希くん…」 | ||
718 | 真っ赤になったり、蒼白になったりと、 あまりにも忙しそうだったから。 | ||||
719 | 春希 | Haruki | 「だいたいさ、 今だってこうして裸で抱き合ってたのに…」 | ||
720 | 雪菜 | Setsuna | 「………裸、だね」 | ||
721 | 自分を包んだ毛布を少しだけ解くと、 胸から下を覗き込み、また酷く赤面する雪菜。 | ||||
722 | 雪菜 | Setsuna | 「わたし、何も着てないね…」 | ||
723 | 春希 | Haruki | 「そこに畳んであるから。 寒かったら着ればいい」 | ||
724 | …昨夜とのギャップが凄すぎて、 もう、色々とどうしたらいいのやら。 | ||||
725 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くんの部屋、だね」 | ||
726 | 春希 | Haruki | 「さっきもそう言った」 | ||
727 | 雪菜 | Setsuna | 「…泊まったんだね、わたし」 | ||
728 | 春希 | Haruki | 「それだけじゃない、俺たち…」 | ||
729 | 雪菜 | Setsuna | 「っ、言わないで!」 | ||
730 | 春希 | Haruki | 「でも俺、雪菜のこと!」 | ||
731 | 雪菜 | Setsuna | 「自分でちゃんと思い出したいの! あれは本当だったんだって、噛みしめたいの!」 | ||
732 | 春希 | Haruki | 「え…」 | ||
733 | その言葉で、やっと確信が持てた。 | ||||
734 | 雪菜の方こそ、昨日までのことを 忘れるつもりなんか全然ないってことを。 | ||||
735 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
736 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
737 | 歌を取り戻したことも。 ファンを取り戻したことも。 ステージ度胸を取り戻したことも。 | ||||
738 | 絆を、取り戻したことも。 | ||||
739 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
740 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
741 | 雪菜 | Setsuna | 「………っ、 ふ、ふぇ…っ」 | ||
742 | 春希 | Haruki | 「え…」 | ||
743 | 雪菜 | Setsuna | 「う、うええ…ふぇぇぇぇ…っ」 | ||
744 | 春希 | Haruki | 「せ、雪菜?」 | ||
745 | けれど、記憶を噛みしめたはずの雪菜は、 またしても想像の埒外の反応をして、 俺を困惑させてくれる。 | ||||
746 | 雪菜 | Setsuna | 「う…ひっ、ひぅっ… ご、ごめん、ごめんなさぁい…っ」 | ||
747 | 春希 | Haruki | 「だからなんで雪菜が謝るんだよ? 悪いのは俺の…」 | ||
748 | 雪菜 | Setsuna | 「だ、だって、嬉しくて、嬉しくて…っ」 | ||
749 | 春希 | Haruki | 「ぁ…」 | ||
750 | 『嬉しいからって謝る奴はいない』 | ||||
751 | …もちろん、そんな至極まっとうな指摘だって、 今の俺がするわけなんかない。 | ||||
752 | 雪菜 | Setsuna | 「歌えたことも、泊まったことも、一緒に寝たことも…」 | ||
753 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
754 | 雪菜 | Setsuna | 「そして、抱きあったことも… 春希くんに、愛してもらったことも、 ものすごく嬉しくて…」 | ||
755 | 春希 | Haruki | 「おいで、雪菜…」 | ||
756 | 雪菜 | Setsuna | 「う、ん… 春希くん…春希くぅん…っ! う、ふぇ、うぇぇぇぇ…っ」 | ||
757 | 春希 | Haruki | 「っ…」 | ||
758 | 雪菜が、俺たちを隔ててた毛布を一気に剥ぎ取ると、 ついさっきまでの定位置に戻ってきた。 | ||||
759 | つまり、俺の胸の中に。 | ||||
760 | 雪菜 | Setsuna | 「ひっ…ぅ、ぅっく…う、ぅぅ… やだ、もう…まだ寝ぼけてるよ、わたし… ただ思い出しただけで、こんなに泣けてきちゃうなんて」 | ||
761 | 春希 | Haruki | 「雪菜…」 | ||
762 | そうやって、俺の胸にすがりついて泣く雪菜は、 昨夜の激しい彼女とも、また違う女の子だった。 | ||||
763 | 今、ここにいるのは、 昨夜、雪菜自身によって完璧に砕かれたはずの… | ||||
764 | ずっと俺が抱いてた幻想通りの、 小木曽雪菜という“少女”だった。 | ||||
765 | ……… | .........
| |||
766 | 雪菜 | Setsuna | 「知られちゃったね」 | ||
767 | 春希 | Haruki | 「何を?」 | ||
768 | 雪菜 | Setsuna | 「ほんとのわたし、春希くんに見られちゃったね。 全部、ばれちゃったね」 | ||
769 | 俺の胸に顔を埋め、 軽くひと泣きしてから。 | ||||
770 | やっぱり俺の胸に顔を埋めたまま、 雪菜は、ぽつぽつ話し出した。 | ||||
771 | 雪菜 | Setsuna | 「…認めます。 あれが本物の小木曽雪菜です」 | ||
772 | 春希 | Haruki | 「本物…」 | ||
773 | 雪菜 | Setsuna | 「根暗で、恨みがましくて、エッチくて、 どうしようもない性格破綻者です」 | ||
774 | 春希 | Haruki | 「それは…」 | ||
775 | 違うって言い切れる根拠を、 今の俺は自信を持って提示することができるのか…? | ||||
776 | 雪菜は、ずっと三年前のことを引きずってた。 | ||||
777 | 愛の言葉を交わしてても、キスを交わしてても、 身体を交わらせていても… | ||||
778 | そんな睦みごとの真っ最中にも、 突然過去の話を持ち出して、落ち込んだり怒ったり、 泣いたり、償いを求めたりした。 | ||||
779 | しかも、その感情の波を修復する行為… 謝罪や贖罪、治療とリハビリに、 全て男女の行為を当てはめ、求め、そして施した。 | ||||
780 | 俺たちが三年間でゆっくり重ねるはずだった行為に、 たった三時間で追いつこうとした。 | ||||
781 | 雪菜 | Setsuna | 「お願いです…どうか、どうか嫌いにならないで」 | ||
782 | 根暗で、恨みがましくて、エッチくて… けれどそれは、全て一本の線で繋がってた。 | ||||
783 | 雪菜 | Setsuna | 「幻滅…は、もうしちゃったと思うけど、 もしかしたら、重いかもしれないけど、 どうか今のわたしを受け止めてください…」 | ||
784 | 春希 | Haruki | 「雪菜…」 | ||
785 | 雪菜 | Setsuna | 「ごめんねぇ…」 | ||
786 | 『それは俺のせいだから。 俺が背負わなくちゃならないから』 | ||||
787 | その言葉は、論理的な正解。 そして、俺にとっての正解。 | ||||
788 | 春希 | Haruki | 「あのさ、俺… 昔の、俺の前で歌ってくれた雪菜が 世界で一番好きって言っただろ?」 | ||
789 | 雪菜 | Setsuna | 「うん… 今のわたしは二番目でしかないって」 | ||
790 | 春希 | Haruki | 「穿った見方するなって…」 | ||
791 | 雪菜 | Setsuna | 「根暗、だもぉん…っ」 | ||
792 | けれど、感情的な大不正解。 雪菜にとっては、悪い意味での殺し文句。 | ||||
793 | 春希 | Haruki | 「今日になって、 順位が入れ替わった」 | ||
794 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
795 | 春希 | Haruki | 「もしかしたら、 もうオチは割れてるかもしれないけど…」 | ||
796 | 雪菜 | Setsuna | 「………ぜんぜん、わかりません」 | ||
797 | 言いつつも、俺の首に回される雪菜の手が、 きゅっと強められた。 | ||||
798 | 合わせた胸から伝わる鼓動が早まり、 腕に鳥肌が立ち、頬が瞬間的に紅潮し… | ||||
799 | 春希 | Haruki | 「今、俺の腕の中にいる雪菜が、 世界で一番好きな女の子に、なりました」 | ||
800 | 雪菜 | Setsuna | 「っ…あ、あは… あはは…」 | ||
801 | その、俺の感情的な正解に、 俺と雪菜にとっての正解に… | ||||
802 | 雪菜 | Setsuna | 「ふふ…ふぅぅ… ふぇぇぇぇ…っ」 | ||
803 | 雪菜は、俺を抱きしめる腕の力と、肌の温かさと… | ||||
804 | 何度流してみせても、その尊さにちっとも陰りの見えない 一筋の涙で答え合わせをしてくれた。 | ||||
805 | ……… | .........
| |||
806 | 春希 | Haruki | 「な、雪菜… そろそろ起きようか」 | ||
807 | 雪菜 | Setsuna | 「今、何時?」 | ||
808 | 春希 | Haruki | 「ん…5時、ちょっと過ぎたな」 | ||
809 | 雪菜 | Setsuna | 「5時…? それにしては…明るいね?」 | ||
810 | 春希 | Haruki | 「こんなもんだろ、2月だと」 | ||
811 | 雪菜 | Setsuna | 「え、でも…」 | ||
812 | 春希 | Haruki | 「腹減ったろ。晩飯食べる? ま、簡単なものしかできないけど」 | ||
813 | 雪菜 | Setsuna | 「………晩ご飯?」 | ||
814 | 途中で気づいてたけれど、 あえて今まで指摘はしないでおいたこと。 | ||||
815 | 雪菜は、まだちょっとだけ寝ぼけてるってこと。 | ||||
816 | 春希 | Haruki | 「あっちは西。 …もし東だったら、これ北枕になっちまう」 | ||
817 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
818 | と、俺は、窓の隙間から差し込む夕陽を指差した。 | ||||
819 | ……… | .........
| |||
820 | …… | ......
| |||
821 | … | ...
| |||
822 | 雪菜 | Setsuna | 「ね」 | ||
823 | 春希 | Haruki | 「ん?」 | ||
824 | 雪菜 | Setsuna | 「迷惑、だったよね?」 | ||
825 | 春希 | Haruki | 「何が?」 | ||
826 | 雪菜 | Setsuna | 「思いっきり寝過ごしちゃって。 …12時間も」 | ||
827 | 春希 | Haruki | 「別に、そんなこと」 | ||
828 | 結局、『お詫び』と言い張る雪菜を説得しきれずに、 俺はキッチン…という程でもない火元を追われ… | ||||
829 | 仕方がないから雪菜を口説…じゃなくて、 [Rそれ用のツール^ギター]を適当に弾いていた。 | ||||
830 | 雪菜 | Setsuna | 「だって春希くん…ずっと起きてたんでしょ? わたしが目覚めるまで、側にいてくれたんだよね?」 | ||
831 | 春希 | Haruki | 「…ごちそうさまでした」 | ||
832 | 雪菜 | Setsuna | 「会話が繋がってないよ… いつもそういうの注意するくせに」 | ||
833 | 春希 | Haruki | 「あはは…」 | ||
834 | 別に、12時間も寝過ごしてなんかない。 | ||||
835 | だって、俺が普段目覚めるのは6時… だから、たったの11時間だ。 | ||||
836 | 雪菜 | Setsuna | 「起こしてくれればよかったのに…」 | ||
837 | 春希 | Haruki | 「そんなことしてる暇なんかなかった。 雪菜の寝顔を見てるっていう重大な用があったし」 | ||
838 | 雪菜 | Setsuna | 「っ………指、ざくっと行きそうになったよ?」 | ||
839 | 春希 | Haruki | 「そこでそうはならないのが雪菜だもんな。 ちゃんとその辺は信頼して口説いてる」 | ||
840 | 雪菜 | Setsuna | 「もう…だからって、からかわないでよ」 | ||
841 | 11時間、三大欲求を我慢する代わりに、 11時間、雪菜を全身で堪能することができた。 | ||||
842 | だから、おつりが来るくらいだ。 | ||||
843 | 春希 | Haruki | 「それにさ、謝るくらいなら、 目が覚めたときにすぐ起きてれば…」 | ||
844 | 雪菜 | Setsuna | 「そ、それは………」 | ||
845 | 俺が『起きようか』って言った夕方の5時… | ||||
846 | 雪菜は『ん~』とか『そうだね…』とか、 適当に相槌を打っては、俺の胸に顔を隠した。 | ||||
847 | 背中に指で何か文字を書き… それはあまりに簡単なひらがな二文字だったけど、 敢えて俺に答えさせようとはせず。 | ||||
848 | なのに自分の口からは、 それに類した言葉や感情の波を、 次々と溢れさせて。 | ||||
849 | 胸に息を吹きかけ、軽く唇で触れて、 互いの太股をこすり合わせ、 足の指で色んなところをつつき。 | ||||
850 | けれどまだ日が出てるせいなのか、 決してそれ以上の雰囲気には持ち込まず、 俺を前屈みに…いたたまれなくさせた。 | ||||
851 | 雪菜 | Setsuna | 「ほ、ほら、低血圧だって言ったよね? 朝弱いんだよ、わたし…」 | ||
852 | 春希 | Haruki | 「今は夜の7時だけど?」 | ||
853 | 要するに一言で言えば、 ベッドでくっついたまま二時間もイチャイチャしてた。 | ||||
854 | …自分でもよく理性が保ったと思う。 | ||||
855 | 雪菜 | Setsuna | 「寝起きが弱いんだよ… もう、それくらい汲んでよ」 | ||
856 | 春希 | Haruki | 「そんなに弱いのか?」 | ||
857 | 雪菜 | Setsuna | 「もう本当に辛いよ… 朝、ベッドの中で30分はモゾモゾしてる」 | ||
858 | …さっきはその4倍だったような気もするけど。 | ||||
859 | 春希 | Haruki | 「じゃあ、今の時期なんか特に大変だろ? しかも冷え性だもんな、雪菜」 | ||
860 | 雪菜 | Setsuna | 「え…言ったっけ? それ」 | ||
861 | 春希 | Haruki | 「ああ、昨夜。 『寒い』って…」 | ||
862 | 雪菜 | Setsuna | 「あ…」 | ||
863 | だから、ずっと目が離せなかった。 | ||||
864 | 身体と、それに心を熱くして、 雪菜は、ようやく俺の胸で眠ってくれたけど… | ||||
865 | でも、その前の寒がり方は尋常じゃなかった。 身体はちっとも冷えてなかったのに、だ。 | ||||
866 | だからもし、心の火照りがふたたび冷め、 雪菜が目覚めたとき、俺が側にいなかったら… | ||||
867 | なんて考えたら、 ベッドから抜け出ることなんか… いや、ふたたび眠ることすらも。 | ||||
868 | 雪菜 | Setsuna | 「やっぱり…迷惑、かけちゃってたね」 | ||
869 | 春希 | Haruki | 「さっきも言っただろ? 俺は俺で楽しかったって」 | ||
870 | 雪菜 | Setsuna | 「でも…」 | ||
871 | 春希 | Haruki | 「嬉しかったんだ、本当だ。 こんなに幸せを感じたことは、今までになかった」 | ||
872 | 雪菜 | Setsuna | 「春希、くん」 | ||
873 | 春希 | Haruki | 「俺が、温めてあげられたから。 俺だけが、できることだから」 | ||
874 | 雪菜 | Setsuna | 「………ぅん」 | ||
875 | 本当なんだ… 心の底から幸せと、充実感を得ることができたんだ。 | ||||
876 | だって、今の俺にはできるんだから。 凍える雪菜を抱きしめて、温かさを伝えることが。 | ||||
877 | そして、雪菜が『寒い』と感じなくなるまで、 ずっと彼女の側にい続けることが。 | ||||
878 | 雪菜 | Setsuna | 「♪~~~」 | ||
879 | いつか、俺が抱きしめてなくても眠れるように。 離れても大丈夫だって信じられるように。 | ||||
880 | 今が、心から幸せなんだって、思えるように。 | ||||
881 | ……… | .........
| |||
882 | 雪菜 | Setsuna | 「やっぱり、帰らないと」 | ||
883 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
884 | 俺の冷蔵庫という貧弱な戦力しか与えられぬまま、 必死に知恵を絞って作られた雪菜の料理は… | ||||
885 | 本当に久しぶりだったけど、 だからこそ、懐かしい味がした。 | ||||
886 | 今さら『美味しい』なんて当たり前のこと、 彼女にとっては何の誉め言葉でもないから、 とにかく食欲の赴くままに貪った。 | ||||
887 | …途中で『美味しい?』と聞かれたときに 咽せてしまうほど、一心不乱に。 | ||||
888 | 雪菜 | Setsuna | 「寒いからずっとここにいるなんて、 そんなワガママ言い続けてる訳にもいかないもんね」 | ||
889 | そして、テーブルの上の料理を ほとんど片づけてしまった頃合いを見計らって、 雪菜は、切り出した。 | ||||
890 | この部屋に来て、五日目の決断だった。 | ||||
891 | 春希 | Haruki | 「雪菜が、本当に帰りたくなったのなら、 俺には反対する理由はない、けど…」 | ||
892 | 『別に、いつまでいてもいいんだ』って意味は、 きちんと言外に滲ませた。 | ||||
893 | 雪菜 | Setsuna | 「きっとお父さん怒ってるもん。 お母さん心配してるもん…」 | ||
894 | 雪菜だって、ちゃんと読み取ってくれた。 | ||||
895 | だからその言葉を発する前、寂しそうに、 けれど嬉しそうに頷いてくれた。 | ||||
896 | 雪菜 | Setsuna | 「昨夜はとうとう連絡も入れなかった。 帰ったら、ものすごく叱られるだろうなぁ」 | ||
897 | 春希 | Haruki | 「電話なら入れたよ、俺の部屋にいるって。 コンサート疲れでずっと眠ってるって」 | ||
898 | 雪菜 | Setsuna | 「…ほんと、委員長は抜かりがないよね」 | ||
899 | 全裸の雪菜を腕枕したまま、 起こさずにその父親と話を続けるのは、 委員長とやらにあるまじき態度だったけどな。 | ||||
900 | 春希 | Haruki | 「だから別に…いつまでいてもいいんだ」 | ||
901 | 雪菜 | Setsuna | 「っ…」 | ||
902 | 結局、視線で伝えるだけでは飽きたらず、 その想いを口に出してしまった。 | ||||
903 | 春希 | Haruki | 「俺、バイトしばらく入れてないし。 それに春休みだろ? だから…」 | ||
904 | 雪菜 | Setsuna | 「それでも…これ以上は。 お父さんたちが許してくれないよ」 | ||
905 | 春希 | Haruki | 「俺が叱られるから。 一緒に謝りに行くから。 …許してもらえるまで、毎日」 | ||
906 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くん…」 | ||
907 | 春希 | Haruki | 「だから、人がどう思うかなんて気にしないでいい。 自分の気持ちだけで決めてくれればいいから」 | ||
908 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
909 | 春希 | Haruki | 「ゆっくり考えて…決めればいい。 その間、俺は側を離れないから」 | ||
910 | 雪菜 | Setsuna | 「………ずるいよ」 | ||
911 | 春希 | Haruki | 「バレた? …今のは単純に俺の希望。 もう少し、一緒にいたくてさ」 | ||
912 | 雪菜 | Setsuna | 「そんなことわたしに委ねられたら、 わたし、二度とこの部屋を出られなくなる。 春希くんから、離れられなくなっちゃうよ」 | ||
913 | 春希 | Haruki | 「それならそれで、 俺は一向に構わない」 | ||
914 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
915 | 箸の止まった食卓に、 甘いけれど重い静けさに包まれる。 | ||||
916 | お互いうつむき、 辛くはないけど悩ましい選択に思いを馳せ。 | ||||
917 | けれど、時たまちらりと相手の顔を見つめては、 目が合ったりすると、嬉しそうに微笑み合う。 | ||||
918 | 春希 | Haruki | 「せめてさ、今夜… もう一日くらいは泊まってけよ」 | ||
919 | 雪菜 | Setsuna | 「………ぅん」 | ||
920 | そんな、重楽しい沈黙が、 もどかしくも、心地良い。 | ||||
921 | ……… | .........
| |||
922 | …… | ......
| |||
923 | … | ...
| |||
924 | 雪菜 | Setsuna | 「………ね」 | ||
925 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
926 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くん…起きてる?」 | ||
927 | 春希 | Haruki | 「ん…どしたぁ?」 | ||
928 | もちろん起きてたけど、 それでも俺は、たった今起きたみたいに、 寝ぼけ声で応える。 | ||||
929 | 今の雪菜を、独りぼっちにはできないけど、 そうやって気を使ってることを 悟らせる訳にもいかないから。 | ||||
930 | だって、俺がそんなふうに考えてるって知ったら、 多分、雪菜は“寒がり”な自分を嫌悪する。 | ||||
931 | 雪菜 | Setsuna | 「明日、ね」 | ||
932 | 春希 | Haruki | 「ん?」 | ||
933 | 雪菜 | Setsuna | 「朝になったら…帰るね」 | ||
934 | 春希 | Haruki | 「………そう」 | ||
935 | そうやって必死に俺が取り繕ってるのに… | ||||
936 | 雪菜はあっさり自分の心にけじめをつけ、 『本当は正しい』結論を出してしまった。 | ||||
937 | 雪菜 | Setsuna | 「もう限界… わたし、こんなに幸せなところにずっといたら、 人として駄目になっちゃう」 | ||
938 | 春希 | Haruki | 「なっても…構わないのに」 | ||
939 | 悪魔の誘惑だって、自覚してた。 | ||||
940 | 溺れてるだけの、 二人して堕ちてるだけの日々だって、 本当はわかってた。 | ||||
941 | 雪菜 | Setsuna | 「わたしが構うの。 …春希くんに愛される資格だけは 絶対になくしたくないから」 | ||
942 | 春希 | Haruki | 「雪菜…」 | ||
943 | けれど今は麻薬が必要だって思ったんだ。 | ||||
944 | だって雪菜は、三年間も闘病生活で苦しんだ末、 つい二日前に痛みを乗り越えたばかりなんだから。 | ||||
945 | せめて冬が終わるまでは、 俺が温めてあげたいって。 どんな辛いことからも逃がしてあげたいって… | ||||
946 | 雪菜 | Setsuna | 「二日間… ううん、練習も入れると五日間だね。 …本当に、お世話になりました」 | ||
947 | でも、本当はこうなるって薄々気づいてた。 というか、理解してた。雪菜のこと。 | ||||
948 | 雪菜 | Setsuna | 「色々とあったけど… 特に、最初は辛いことや苦しいことが多くて、 色々と酷いこと言っちゃってごめんなさい」 | ||
949 | たった数日で、色んな雪菜に触れた。 | ||||
950 | 春希 | Haruki | 「俺の方こそ… 色々と無理強いして悪かった」 | ||
951 | 感激屋の雪菜。 激情家の雪菜。 | ||||
952 | 昼の、可憐な少女の雪菜。 夜の、匂い立つ女の雪菜。 | ||||
953 | 雪菜 | Setsuna | 「ううん、そんなこと思わないで… だって、あなたが強く願ってくれたから、 わたしは歌を取り戻すことができたんだから」 | ||
954 | そして多分、これが本物の… 最終形の雪菜。 | ||||
955 | 雪菜 | Setsuna | 「それに…最後の二日は、それが一気に報われた」 | ||
956 | 昼の雪菜でも、夜の雪菜でもない、 夜明け前の、雪菜。 | ||||
957 | 雪菜 | Setsuna | 「嬉しかったよ? 本当だよ? こんなに幸せを感じたことは、今までになかったよ?」 | ||
958 | 春希 | Haruki | 「それ、さっき俺が…」 | ||
959 | 雪菜 | Setsuna | 「ふふっ… あ、そうだ…それに、すごく気持ちよかったよ? これも本当だよ?」 | ||
960 | 春希 | Haruki | 「お、おい…」 | ||
961 | 少女としての優しさと、 女としての激しさを併せ持つ、 とてつもなく魅力的な… | ||||
962 | でも、その二人をねじ伏せる強さまで持ってる、 小木曽雪菜という“女性” | ||||
963 | 雪菜 | Setsuna | 「そのせいで、お部屋とか、お風呂とか、ベッドとか、 ちょっとだけ汚しちゃったけど…」 | ||
964 | わかってた。 本物の雪菜は、そういうひとなんだって。 | ||||
965 | 雪菜 | Setsuna | 「え、ええと… その、明日、帰る前に洗濯とお掃除だけしていきます。 い、色んなところに痕跡が残ってそうで…」 | ||
966 | 甘えるし、ワガママも言うし、 かと思えば我慢しすぎて自滅したり、 その反動でキレちゃったりもするけれど。 | ||||
967 | 春希 | Haruki | 「いいよ別に…」 | ||
968 | 雪菜 | Setsuna | 「だ、だって…」 | ||
969 | 春希 | Haruki | 「俺としては絶対に消して欲しくないから。 …雪菜の残り香」 | ||
970 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くん…」 | ||
971 | でも最後は、必ず自分の足で立ち上がる。 | ||||
972 | どれだけ辛くても、苦しくても、 頑張って、頑張って…いつか、乗り越える。 | ||||
973 | そんな、自分の弱さを知っていて、 だからこそ本物の強さを持っている、 世界で一番魅力的な女性なんだって。 | ||||
974 | ……… | .........
| |||
975 | 少し、明けてきた。 | ||||
976 | 朝まで、あと数時間。 俺たちの残り時間も、もうあとわずか。 | ||||
977 | 春希 | Haruki | 「な、雪菜…」 | ||
978 | 雪菜 | Setsuna | 「ん…?」 | ||
979 | でも、まだ雪菜は、眠っていなかった。 | ||||
980 | 何度も肌を温め合った今なら、 本当なら眠れるはずなのに。 | ||||
981 | 春希 | Haruki | 「明後日、デートしよう? どっか出かけよう?」 | ||
982 | 雪菜 | Setsuna | 「そうしたいけど… もしかしたら、外出禁止になってるかも」 | ||
983 | もしかして、俺と同じで、 この触れあう肌の温もりと、 別れを惜しんでいたんだろうか…? | ||||
984 | 春希 | Haruki | 「なら電話する。 また俺のギター聴いてくれるか?」 | ||
985 | 雪菜 | Setsuna | 「そんな嬉しいこと言わないでよぉ… あなたがそんなに優しいから、 だからわたし、駄目になっちゃうんだよ?」 | ||
986 | それとも、俺と同じで、 明日からの二人のことを、 必死に考えていたんだろうか…? | ||||
987 | 春希 | Haruki | 「でも俺の方は… 雪菜と会えないと駄目になりそうで」 | ||
988 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くん…」 | ||
989 | 覚悟を決めた雪菜に比べて、 俺の方は結構みっともなかった。 | ||||
990 | 春希 | Haruki | 「リバウンドが、怖いんだ… 今のこの夜が、明日は来ないんだって思うと…」 | ||
991 | 俺が雪菜を庇護してるつもりだったのに。 義務感を持ってるって、思い込んでたのに。 | ||||
992 | 雪菜 | Setsuna | 「わたしだって怖いよ。 本当は、春希くんよりもよっぽど怖いんだよ?」 | ||
993 | 春希 | Haruki | 「だったら、あと一日くらいは…」 | ||
994 | 雪菜 | Setsuna | 「でも今乗り越えるしかないんだよ… 明日になれば、余計に離れるのが怖くなる。 一人でなんて、二度と眠れなくなる」 | ||
995 | 春希 | Haruki | 「雪菜…」 | ||
996 | 本当に依存してたのは、 一体どっちだったんだろうな… | ||||
997 | 雪菜 | Setsuna | 「だから春希くん…今は」 | ||
998 | 春希 | Haruki | 「それでも…明後日会おう? 駄目なら電話で通じ合おう?」 | ||
999 | 雪菜 | Setsuna | 「だから、そんなだと、 わたしはいつまで経っても…」 | ||
1000 | 春希 | Haruki | 「明後日会ったら、 次は、その三日後に会おう?」 | ||
1001 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くん…?」 | ||
1002 | それでも… たとえみっともなくても俺は、 やっぱりこの先のことを求めずにはいられない。 | ||||
1003 | 春希 | Haruki | 「その次は、その四日後に会おう?」 | ||
1004 | せっかく結ばれたのに。 三年越しの想いが叶ったのに。 | ||||
1005 | 春希 | Haruki | 「少しずつ、少しずつ一緒にいる時間を調整して、 ゆっくり、ゆっくり日常にとけ込もう?」 | ||
1006 | そんな簡単に、自制なんかできるわけがない。 | ||||
1007 | 春希 | Haruki | 「幸い今は春休みだ。 俺たちのリハビリには最適だろ?」 | ||
1008 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
1009 | 俺の、夢に浮かされたような言葉に、 雪菜は途中から言葉を止めた。 | ||||
1010 | あまりにも馬鹿馬鹿しいと思ったのか、 あまりにも女々しいと思ったのか、 あまりにも傲慢だと思ったのか… | ||||
1011 | …なんて、どれもこれも、 最低の想像しか浮かんでこないんだけど。 | ||||
1012 | でも俺は、雪菜に会いたい。 本当は、俺だって毎日会いたいのに… | ||||
1013 | 雪菜 | Setsuna | 「そのリハビリには一つ、 致命的な欠点があるんだけど…?」 | ||
1014 | 春希 | Haruki | 「え…?」 | ||
1015 | 雪菜はやっぱり、俺の胸に顔を埋め、 その表情を悟らせないまま… | ||||
1016 | 雪菜 | Setsuna | 「上限はどこ?」 | ||
1017 | 春希 | Haruki | 「上限…?」 | ||
1018 | 雪菜 | Setsuna | 「会えない時間はどこまで広がるの? 十日? 一月? 一年? それとも三年?」 | ||
1019 | 春希 | Haruki | 「あ…」 | ||
1020 | 雪菜 | Setsuna | 「そんなの、わたしもう二度と耐えられない。 絶対に、嫌だよ…」 | ||
1021 | 春希 | Haruki | 「雪菜…」 | ||
1022 | 実は結構ダメージを受けていた。 | ||||
1023 | 雪菜 | Setsuna | 「もうやだ…せっかく帰る決心したのに。 春希くん、わたしを脅して楽しいの? わたし、本当はまだ乗り越えてなんか…」 | ||
1024 | 強い雪菜の虚勢を張りきれず、 少女の雪菜が顔を覗かせていた。 | ||||
1025 | 春希 | Haruki | 「じゃあこうしよう… 間隔が一週間になったら、そこが上限」 | ||
1026 | 雪菜 | Setsuna | 「一週間…?」 | ||
1027 | そんな、ちょっとだけ弱い雪菜を感じると、 俺はさっきまでの弱い自分を隠し、 思いっきり虚勢を張ることができる。 | ||||
1028 | 強い雪菜に憧憬を抱きつつも寂しさを感じ、 そして弱い雪菜に不安を覚えつつ、愛しさを溢れさせる。 | ||||
1029 | 春希 | Haruki | 「そう… バイトとかゼミとか就職活動とかがあっても、 必ず一週間に一度は…」 | ||
1030 | 雪菜 | Setsuna | 「誓う? 必ず一週間に一度は会うって! ちなみにわたしは誓います、今ここで!」 | ||
1031 | 春希 | Haruki | 「………誓います。 今ここで」 | ||
1032 | 雪菜 | Setsuna | 「………っ」 | ||
1033 | そんな、呆れるくらいに現金な奴… | ||||
1034 | 春希 | Haruki | 「大丈夫だよ、雪菜… 俺たちはもう、大丈夫なんだよ」 | ||
1035 | 雪菜 | Setsuna | 「本当に…? 本当に、春希くん?」 | ||
1036 | 春希 | Haruki | 「これからは、何があっても受け止めるから。 雪菜のこと、離さないから」 | ||
1037 | 雪菜に対しての、小さくて、狭くて、 そして、深い愛情だけが、今の俺のよりどころ。 | ||||
1038 | 雪菜 | Setsuna | 「じゃあ、今それを証明して?」 | ||
1039 | 春希 | Haruki | 「いいよ? 具体的には?」 | ||
1040 | 雪菜 | Setsuna | 「…折れるくらいに抱きしめて」 | ||
1041 | 春希 | Haruki | 「本当に折れたらごめんな?」 | ||
1042 | 雪菜 | Setsuna | 「大丈夫。 苦しくて死にそうになっても絶対に言わないよ。 だってそれ、ある意味理想の死に方だよね」 | ||
1043 | 春希 | Haruki | 「それは大丈夫とは言わない…」 | ||
1044 | だから俺は… 公約通り、雪菜を折れんばかりに抱きしめた。 | ||||
1045 | ……… | .........
| |||
1046 | 翌朝… | ||||
1047 | 結局、雪菜が俺の部屋を出たのは11時… | ||||
1048 | 8時に目覚めてから、 きっちり二時間はベッドの中でモゾモゾしてた。 |
Script Chart
Edit this section For more instructions on how the script chart works, please click here.
If you are below the age of consent in your respective country, you are advised to not read any adult content (marked by cells with red backgrounds) where applicable. Otherwise, you are agreeing to the terms of our Disclaimer.
Introductory Chapter | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1001 | 1008 | 1009 | 1010 | 1011 | 1012 | 1013 |
1002 | 1008_020 | 1009_020 | 1010_020 | 1011_020 | 1012_020 | |
1003 | 1008_030 | 1009_030 | 1010_030 | 1011_030 | 1012_030 | |
1004 | 1008_040 | 1010_040 | 1012_030_2 | |||
1005 | 1008_050 | 1010_050 | ||||
1006 | 1010_060 | |||||
1006_2 | 1010_070 | |||||
1007 |
Closing Chapter | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | ||||||
2001 | 2011 | 2020 | 2027 | 2301 | 2309 | 2316 | 2401 | 2408 | 2501 | 2510 |
2002 | 2012 | 2021 | 2028 | 2302 | 2310 | 2317 | 2402 | 2409 | 2502 | 2511 |
2003 | 2013 | 2022 | 2029 | 2303 | 2311 | 2318 | 2403 | 2410 | 2503 | 2512 |
2004 | 2014 | 2023 | 2030 | 2304 | 2312 | 2319 | 2404 | 2411 | 2504 | 2513 |
2005 | 2015 | 2024 | 2031 | 2305 | 2313 | 2320 | 2405 | 2412 | 2505 | 2514 |
2006 | 2016 | 2025 | 2032 | 2306 | 2314 | 2321 | 2406 | 2413 | 2506 | 2515 |
2007 | 2017 | 2026 | 2033 | 2307 | 2315 | 2322 | 2407 | 2507 | 2516 | |
2008 | 2018 | 2308 | 2508 | 2517 | ||||||
2009 | 2019 | 2509 | ||||||||
2010 | ||||||||||
Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | |||||||
2031_2 | 2312_2 | 2401_2 | 2504_2 | 2511_2 | ||||||
2031_3 | 2313_2 | 2402_2 | 2507_2 | 2513_2 | ||||||
2031_4 | 2313_3 | 2402_3 |
Coda | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Kazusa (True) | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | ||||||
3001 | 3008 | 3014_2 | 3020 | 3101 | 3107 | 3201 | 3207 | 3901 | 3907 |
3002 | 3009 | 3014_3 | 3021 | 3102 | 3108 | 3202 | 3208 | 3902 | 3908 |
3003 | 3010 | 3015 | 3022 | 3103 | 3109 | 3203 | 3209 | 3903 | 3909 |
3004 | 3011 | 3016 | 3023 | 3104 | 3110 | 3204 | 3210 | 3904 | |
3005 | 3012 | 3017 | 3024 | 3105 | 3111 | 3205 | 3211 | 3905 | |
3006 | 3013 | 3018 | 3106 | 3206 | 3906 | ||||
3007 | 3014 | 3019 | |||||||
Common | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | |||||||
3001_2 | 3210_2 | 3901_2 | 3906_2 | ||||||
3015_2 | 3902_2 | 3907_2 | |||||||
3902_3 | 3907_3 | ||||||||
3904_2 |
Mini After Story and Extra Episode | |||
---|---|---|---|
The Path Back to Happiness | The Path Forward to Happiness | Dear Mortal Enemy | |
6001 | 6101 | 4000 | 4005 |
6002 | 6102 | 4001 | 4006 |
6003 | 6103 | 4002 | 4007 |
6004 | 6104 | 4003 | 4008 |
6005 | 4004 | 4009 |
Novels | |||||
---|---|---|---|---|---|
The Snow Melts, And Until The Snow Falls | The Idol Who Forgot How to Sing | Twinkle Snow ~Reverie~ | After the Festival ~Setsuna's Thirty Minutes~ | His God, Her Savior | |
5000 | 5100 | 5200 | 5205 | 5300 | 5400 |
5001 | 5101 | 5201 | 5206 | 5301 | 5401 |
5002 | 5102 | 5202 | 5207 | 5302 | |
5003 | 5103 | 5203 | 5208 | 5303 | |
5004 | 5104 | 5204 | 5209 |
Short Stories | |||
---|---|---|---|
Princess Setsuna's Distress and Her Minister's Sinister Plan | Koharu Climate After the Passing of the Typhoon | This isn't the Season for White Album | Todokanai Koi, Todoita |
7000 | 7100 | 7200 | 7300 |