White Album 2/Script/3203

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1	雪菜		「初めまして、小木曽雪菜です」
2	曜子		「………」	"........."
3	雪菜		「ご挨拶が遅れてごめんなさい。 でも、やっとお目にかかれて嬉しいです。 …かずさのお母さんに」
4	曜子		「あ、ええと、その…」
5	雪菜		「小木曽、雪菜です。 雪菜でお願いします」
6	曜子		「なら…初めまして、雪菜さん。 かずさが、その…いつもお世話に、というか、 いつもご迷惑を、というか…」
7	雪菜		「そんな！ 迷惑かけてたのはわたしの方です。 それも、ずっと昔から…」
8	曜子		「あ、そ、そう、ええと…その…ちょっとギター君！ これはどういうことなのよ！？」
9	雪菜		「…ぎたーくん？」
10	春希		「あ、もしかして今、あまり体調良くなかったですか？ それなら改めて出直しますけど」
11	曜子		「ち、違うの、これは冷や汗で。 体調そのものはいいのよ。 …寿命は縮んだような気がするけど」
12			曜子さんと雪菜の初めての顔合わせは、 どうやら、雪菜の圧倒的勝利のようだった。
13			というか多分、自らの病名を知った時ですら、 曜子さんはここまで動揺しなかったんじゃないだろうか…
14	雪菜		「あの、これお見舞い…胡蝶蘭です」
15	曜子		「あ、ありがとう…いい香りね。 高かったんじゃない？」
16	雪菜		「値段は聞かない約束で。 …って、ふふっ、安物ですよ」
17	曜子		「そ、そう…」
18			曜子さんは、相変わらず雪菜と目を合わせられず、 わざとらしく花の香りなどを嗅いでいる。
19			まさか俺が連れてくるとは思わなかったんだろうし、 病室にまで乗り込んでくるとも思わなかったんだろう。
20	雪菜		「病気のこと、彼から聞きました。 差し出がましいようですけど、祈ってます。 頑張ってください…かずさのためにも」
21	曜子		「…っ」
22			何しろ、今まで彼女がかずさのためにしてきたことは、 雪菜をよく知らないからこそできたとも言える訳で。
23			だから、こうして目の前で曇りのない笑顔を見せられ、 真摯なお見舞いの言葉を伝えられた今、 彼女の心にのしかかる重さはいかばかりか…
24	曜子		「…それで？」
25	春希		「はい？」
26	曜子		「わたしを責めに来たの？」
27	春希		「………」	"........."
28			だから予想通り、 曜子さんは、助けを求めるように俺を睨みつける。
29			…この辺の感情の動き方は、やっぱり親子だった。
30	曜子		「彼女に話したのよね？ わたしが今まで、かずさのために何をしてきたのか」
31	春希		「それは…はい」
32	曜子		「そっか…そういうことね。 つまりあなたは、この人を選んだんだ」
33	春希		「曜子さん…」
34	曜子		「わかった、ギター君。 あなたの結論、尊重するわ。 …おめでとう」
35			自嘲、諦め、抑えきれぬ後悔…
36	曜子		「あの子は…かずさはわたしがなんとかする。 あなたの手は二度と煩わせない」
37			『自分で背負い込もうとしすぎ』と、 俺の深入りを警告してたその口で、 俺の撤退を責めるような言葉を漏らす。
38			この辺の、言葉と態度のぶれも、 やっぱり親子に間違いなくて…
39	曜子		「やっぱり、ちょっと疲れたみたい。 悪いけど、そろそろ帰って…」
40	雪菜		「待ってください！」
41	曜子		「え…」
42			だから雪菜は、踏み込んだ。
43	雪菜		「まだ何も終わってないです！ かずさは…かずさはわたしが絶対なんとかします！」
44	曜子		「雪菜…さん？」
45			目の前にいる人が、かずさと同じだって気づいたから。 戦うに値する相手だって、感じ取ったから。
46	雪菜		「ですから、わたしのプレゼンを聞いてください。 冬馬曜子オフィスにとっても、悪い話じゃないはずです」
47	曜子		「え…」
48	雪菜		「改めて、初めまして。 株式会社ナイツレコードの小木曽と申します…」
49			………	.........
50	雪菜		「やっぱり噂どおりのすごい人だね。冬馬曜子さん。 最初から最後まで圧倒されっぱなしだったよ」
51	かずさ		「………」	"........."
52	雪菜		「けれど、噂とは全然違って、 優しくて、子煩悩のいい人だね。 …かずさのお母さん」
53	かずさ		「そう…」
54	雪菜		「顔、見たがってたよ？ お見舞い、最初に行ったきりなんだって？ なんなら、明日にでも一緒に…」
55	かずさ		「行かない」
56	雪菜		「かずさ…」
57	かずさ		「………」	"........."
58	雪菜		「まぁ、いいか。 週明けには退院できそうだって言ってたもんね。 退院してから会えばいいよね」
59	かずさ		「………」	"........."
60	雪菜		「だいぶ顔色も良かったし、 本人も体調がいいって言ってたし、 きっと大丈夫だよ、かずさ」
61	かずさ		「大丈夫…」
62	雪菜		「うん、大丈夫！ あの人相手なら、どんな病気だって逃げていくよ」
63	かずさ		「っ…」
64	雪菜		「あはは…ちょっと失礼だったかな。 でも、そういうパワーを感じさせる人だよね」
65	かずさ		「………」	"........."
66	雪菜		「あ、そういえばさ、曜子さんって、 春希くんのことギター君って呼ぶんだね。 ねぇ、あれって学園祭の時の…」
67	かずさ		「………のか？」
68	雪菜		「ん？」
69	かずさ		「保証、してくれるのか？」
70	雪菜		「かずさ？」
71	かずさ		「母さんが、ずっと…１００まで生きるって」
72	雪菜		「え…」
73	かずさ		「完治するって。 ピアノやめるって言ったの撤回するって。 あたしと一緒に、ウィーンに帰るって」
74	かずさ		「雪菜が、約束してくれるって言うのか？ …何の根拠があって？」
75	雪菜		「かず、さ…」
76	かずさ		「わかってるのか？ 雪菜には、本当にわかってるのか？ …あたしが、母さんを失うってことの意味が」
77	雪菜		「失うって…そんなのまだ決まったわけじゃ」
78	かずさ		「家族に囲まれて、家族で笑いあって、 家族でご飯食べて、家族でパーティやって、 困ったことがあったら家族で話し合って…」
79	かずさ		「そんな雪菜に、たった一人の家族を失うかもしれない あたしの気持ち、わかるのかよ！？」
80	雪菜		「………」	"........."
81	かずさ		「お前の慰めなんか、まるで心に響かない。 何もかも持ってる奴の憐れみなんか、苛つくだけだ」
82	雪菜		「そっか…」
83	かずさ		「だから雪菜…もういいだろ？」
84	かずさ		「あたしが悪いのはわかってる。 だから、こんなに回りくどく責めなくたっていいだろ？」
85	かずさ		「何発でもぶん殴っていいから、 早くあたしの前から消えてくれ」
86	雪菜		「………」	"........."
87	かずさ		「そして、もう二度と…」
88	雪菜		「そうだね… 確かに、違うかもしれないね」
89	かずさ		「え…？」
90	雪菜		「もし自分のお母さんが重い病気だって知ったら… お父さんと、孝宏と…みんなで大泣きするだろうな」
91	雪菜		「泣きながら夜通し話し合って、けど何も決められなくて、 なのにお母さんの病室に行くと、みんな笑うんだ。 真っ赤な目をして、けれど、必死に笑うんだと思う」
92	雪菜		「病気のこと、とっくに本人にバレてるのに、 誰もがそんなことわかってるのに、 それでもかずさの言う『家族』を演じるんだと思う」
93	かずさ		「…だから、なんだよ？」
94	雪菜		「そしてもし、もしもその日がきてしまったら… きっと、かずさと同じように、 世界の終わりが来たみたいな気持ちになると思う」
95	かずさ		「………」	"........."
96	雪菜		「悲しくて、悲しくて、いつまで泣いても涙が溢れて、 だからもう、何も考えたくなくて」
97	かずさ		「そう思うんなら、あたしを一人に…」
98	雪菜		「でもね、良くも悪くも、 そこで終わりじゃないんだよ？」
99	かずさ		「雪菜…？」
100	雪菜		「看取ってくれたお医者さんにちゃんとお礼を言って、 葬儀屋さんと打ち合わせして、式場を押さえて、 親戚みんなに、お通夜とお葬式の日取りを連絡して」
101	雪菜		「お葬式の日も、色々と忙しくって、 親戚や知り合いが来たら一言二言思い出話をして、 葬式終わっても、香典返しのリスト作らないと」
102	かずさ		「…何が言いたいんだよ」
103	雪菜		「本当に辛いんだよ？　何もしたくないんだよ？ それでもわたしは、わたしたちは、 人と触れ合わないわけにはいかない」
104	かずさ		「…っ」
105	雪菜		「けれどそれは、嫌なことばかりじゃない」
106	雪菜		「そうやって人と話しているうちに、 世界が壊れてしまいそうな悲しみが 少しずつ癒えていくから」
107	雪菜		「人と繋がっているうちに、 ゆっくりと、世界が修復されていくから」
108	かずさ		「それは…雪菜の場合だ。 あたしは違う。 触れ合う人なんかいない」
109	雪菜		「いるよ…」
110	かずさ		「いるもんか。 母さんがいなくなったら、もう…」
111	雪菜		「かずさの周りにだって、たくさんいるんだよ。 あなたが見ようとしないだけだよ」
112	かずさ		「いない、誰もいない。 あたしには、もう母さんしかいない。 いついなくなってしまうかもわからない、あの人しか」
113	雪菜		「いるよ！ わたしがいる！」
114	かずさ		「………いない」
115	雪菜		「それに、春希くんだって！」
116	かずさ		「二人ともいない！　二人ともいらない！ あたしとはまったく違う世界の人間だ！」
117	雪菜		「かずさ！」
118	かずさ		「春希はあたしを捨てたんだ。 雪菜があたしの側にいる理由なんかないんだ」
119	雪菜		「好きだから！ かずさのこと、大好きだからじゃいけないの！？」
120	かずさ		「…相変わらずいい性格してるな雪菜。 そんな都合のいい嘘、 信じられるとでも思ってるのか？」
121	雪菜		「なんで…そんなふうに思うのよぉ」
122	かずさ		「…信じてるからだよ。 自分の心の意地汚さを」
123	雪菜		「っ…」
124	かずさ		「こんな酷い中身ごと好きになってくれる奴なんて、 もうこの世にいないって、信じられるからだよ」
125	雪菜		「でも、わたしは好きだよ。 好きなんだよかずさのこと！」
126	かずさ		「信じない信じない、信じるもんか！ あたしみたいな人間を、 心の底から守ろうとする奴なんかもういない！」
127	雪菜		「ここにいるんだって！ いくらでもいるんだって！」
128	かずさ		「こんな最低な奴、好きになるはずがない！」
129	雪菜		「最低な人を好きになっちゃいけないなんて、 一体誰が決めたのよ！？」
130	かずさ		「好きになれる訳ないじゃないか！ だって、汚くて、卑怯で…っ」
131	雪菜		「じゃあどうしてかずさは春希くんを好きになったのよ！ あんな嘘だらけの汚くて卑怯な人を、なんでっ！」
132	曜子		「ねぇ」
133	春希		「なんですか？」
134	曜子		「あなた一体、何者なの？」
135	春希		「俺…ですか？ 彼女じゃなくて？」
136			雪菜が花を生けるために席を外すと、 曜子さんは、なんだか呆れたような視線で俺を見上げた。
137	曜子		「そうよ、あなたよ。 …あんな凄いコに愛されてるあなたって何者よ」
138	春希		「ああ…」
139			曜子さんが本当に聞きたかったのは、 結局『俺じゃなくて彼女のこと』だった。
140	春希		「俺は別に…ただの一般人ですよ。 雪菜の…彼女の趣味が悪いだけです」
141	曜子		「そうやってウチの子の趣味まで否定しないの」
142	春希		「…すいません」
143	曜子		「なるほどね… こりゃ、ウチのが切羽詰まるのもわかるわ。 あんなコにどうやって勝てって言うのよ」
144	春希		「………」	"........."
145			それはきっと、誉められているはずなのに、 俺にとっては、どうにも居心地の悪い空気が漂う。
146			照れとも、謙遜とも違う。 実は、密かなる同意。
147			あんなコに、俺はどうやって釣り合えって言うんだ…
148	曜子		「で…？ あのプレゼン、あなたが考えたの？」
149	春希		「…二人で。 まる一日かかりました」
150	曜子		「そう…本当に、とんでもないコたちね。 いい意味でも、悪い意味でも」
151	春希		「すいません」
152			雪菜のプレゼンは、 曜子さんを驚かせることは叶ったけれど、 どうやら冬馬社長を納得させるには至らなかったらしい。
153			まぁ、冷静に考えれば当然だ。
154			売り込むべきクライアントは入院中。 しかも、何一つ正式な段取りを踏まずに、 ただ、友達の母親というコネを利用しただけのゴリ押し。
155	曜子		「普通、ここまでする？ ふった女のために。 自分の彼にコナかけてくる女のために」
156	春希		「大事な奴なんです…」
157			それでも、その強引な手を使った熱意だけは どうやら伝わってるみたいだった。
158	曜子		「本当に、やるつもりなの？」
159	春希		「はい」
160	曜子		「あのコを、今のかずさに会わせるつもりなの？」
161	春希		「そうしたいと…思ってます」
162	曜子		「本当にあのコがやるって言ったの？ 相手は自分の彼を奪おうとした女なのよ？」
163	春希		「けど親友です。五年来の。 …俺のせいで、一度は離れてしまったけど」
164	曜子		「………」	"........."
165	春希		「そういうコなんですよ…雪菜って」
166			何度も俺に裏切られたのに。 何度も泣かされたのに。
167			そして大抵の場合、 その原因にかずさが絡んでたのに…
168			かずさに対してのわだかまり、後ろめたさ… そんな、言葉じゃ言い表せない複雑すぎる思いも、 数え切れないほど抱えてたはずなのに。
169			それでも雪菜は、かずさに会うって言った。 元気付けてあげたいって、願った。
170	曜子		「勝負、ついちゃったかもね」
171	春希		「どうでしょうか… 俺を許してくれるとは言われてませんけど」
172	曜子		「そりゃ、わたしなら許さないわね。 土下座させておいて、そのまま立ち去るわ」
173	春希		「俺も…そうすると思います」
174			かずさだけは、許すって…
175	曜子		「でも、我が子ながら 一筋縄じゃ行かないと思うわよ？」
176	春希		「そんなことわかってます。 一度や二度で済むなんて思ってません」
177	曜子		「けれど二度目はないかもしれない。 かずさは、雪菜さんが自分のところに来た瞬間、 もう自分に望みはないって思い知るだろうから」
178	春希		「だから、曜子さんの協力がいるんです。 あの二人が毎日会わなくちゃならない状況を作るために」
179			雪菜は、『自信はない』って言った。 だから、『何度も何度も頑張りたい』って。
180			だったら俺は、その状況を意地でも作り出すしかない。
181	曜子		「さてと、どうしようかな。 そりゃ、ナイツさんにだって知り合いはいるけどね。 …以前、一度だけＣＤ出したことだってあるし」
182	春希		「ええ、知ってました。 その時の担当が、今の彼女の部署の部長です」
183	曜子		「既に話を通すルートまで見つけてあるんだ… 抜け目ないわね」
184	春希		「冬馬曜子オフィスは一筋縄では行かないって、 上司からも聞き及んでいますから」
185	曜子		「でもさ、彼女は『損をさせない』って言ったけど、 実はメリットもそんなに感じないのよね」
186	春希		「ええ、増刊の話が立ち上がったとき、 あなたに最初に却下されたのがこの企画だって」
187	曜子		「あの子の商品価値を高めたかったの。 日本での初ＣＤが雑誌のおまけなんて なんか安っぽいじゃない？」
188	春希		「その代わり、たくさんの人が手にすることができます。 新しいファンの開拓に役立つと確信しています」
189	曜子		「そんなに売れると思ってるの？ たかが音楽誌のムック本が」
190	春希		「今の冬馬かずさの人気なら………これくらいは」
191	曜子		「この程度じゃ大した宣伝効果はないわね。 ………せめてこれはないと」
192	春希		「そこまで行くと編集長の判断が必要になってきます。 とりあえず今約束できるのは………」
193	曜子		「今すぐもらってくるのよ。 子供の使いじゃないんだから………」
194	春希		「ウチだけならそれで行けますけど、 今回はナイツレコードさんも絡んでて………」
195	曜子		「そんな事情知ったことですか。 わたしの首を縦に振らせたいのなら ………今すぐこの数を約束なさい！」
196	雪菜		「お待た…？」
197	春希		「じゃあ間を取って………これで！ 今約束できるギリギリの線です！」
198	曜子		「嘘おっしゃい！ 最初からあなたに数を決める権限なんかないくせに」
199	春希		「知ってるんなら乗って来ないでください！」
200	雪菜		「ちょっと、興奮しないでください。 血圧上がったらどうするんですか」
201			………	.........
202	雪菜		「かずさだって、かずさだって…わかってないくせに。 あの日から、わたしがどんな思いをしてきたか、 全然わかってないくせに！」
203	かずさ		「………雪菜っ」
204	雪菜		「あなたがいなくなってから… あなたがわたしたちの決着を先延ばしにしてから… どれだけもがいて、悩んで、苦しんで、泣いたか…っ」
205	かずさ		「勝手なこと言うな…そんなのあたしのせいじゃない。 その証拠に今、お前たち愛し合ってるじゃないか！」
206	雪菜		「ここに来るまでに何度すれ違ったと思ってるのよ！ 何度離れそうになったと思ってるのよ！ 何度諦めかけたと思ってるのよ！？」
207	かずさ		「でも愛し合ってる！ あたしのことなんかすっかり忘れて！」
208	雪菜		「違う！　春希くんは全然忘れなかった！ かずさのこと、一度たりとも忘れてはくれなかった！」
209	かずさ		「だったらどうしてふられるんだよあたし！？」
210	雪菜		「あなたが彼を五年も放っておくからじゃない！」
211	かずさ		「なんだよ！ あたしのせいだってのかよ！」
212	雪菜		「それ以外に理由なんかある訳ないじゃない！ 全部あなたが臆病なのが悪いんじゃない！」
213	かずさ		「っ…雪菜…そこまで言うか？ 何もかも手に入れたお前が、 何もかも失ったあたしに、そこまで言うのか？」
214	雪菜		「そっちこそ勝手なこと言わないで。 彼の気持ちをずっと独り占めしてきたくせに、 今さら被害者みたいな顔しないでよ！」
215	かずさ		「～っ！」
216	雪菜		「っ！？」
217	かずさ		「あ…っ」
218	雪菜		「………っ」
219	かずさ		「せ、雪菜…？」
220	雪菜		「ぅ、ぅぅ…っ」
221	かずさ		「あ、あ………あたし」
222	雪菜		「ぅぅ…ぁ、ぅぁぁ…ぃぅ…」
223	かずさ		「ご、ごめ…その、あたし…っ！？」
224	雪菜		「………っ」
225	かずさ		「な…」
226	雪菜		「どうしてすぐ奪いに来なかったのよ…」
227	かずさ		「せつ、な…」
228	雪菜		「かずさが日本に残ってれば、 春希くんはあなたのものだった。 なのに、どうして逃げちゃったのよ…」
229	かずさ		「だってお前がっ！ お前が、あいつを…」
230	雪菜		「そうだよ。わたしが彼を奪った。 …でもあなたはわたしに何も言わなかった。 戦おうとせずに逃げちゃった」
231	かずさ		「っ…」
232	雪菜		「あの時かずさはわたしに春希くんを譲ったんだよ。 春希くんのこと、諦めたはずなんだよ」
233	かずさ		「それは、それは…それはぁ…っ」
234	雪菜		「なのに、五年ぶりに再会した途端にこんな… 今さら気が変わったなんて言われても知らないよ！」
235	かずさ		「うるさぁいっ！」
236	雪菜		「臆病者！」
237	かずさ		「偽善者！」
238	雪菜		「馬鹿っ！」
239	かずさ		「言うなぁぁぁぁああああっ！ 雪菜…雪菜ぁぁぁっ！」
240	雪菜		「かずさの馬鹿ぁっ！ 馬鹿、馬鹿…大馬鹿ぁぁぁぁっ！」
241	かずさ		「馬鹿で悪いかぁぁぁっ！」
242	雪菜		「悪いに決まってるじゃないっ！」
243			………	.........
244			……	......
245			…	...
246	雪菜		「………」	"........."
247	かずさ		「………」	"........."
248	雪菜		「………ごめんなさい」
249	かずさ		「………なんで雪菜が謝るんだよ。 あたしが悪いのに」
250	雪菜		「ううん、わたしが全面的に悪いの。 変に挑発しちゃって」
251	かずさ		「喧嘩は先に手を出したほうが悪い」
252	雪菜		「先にキれた方がもっと悪いよ」
253	かずさ		「それだって、あたしがずっとイジけてたせいだ」
254	雪菜		「そんなこと…」
255	かずさ		「あたしのせいだって言ってるだろ… 喧嘩したのも、雪菜の顔傷つけたのも、 雪菜の心傷つけたのも、何もかもあたしが…」
256	雪菜		「…かずさっていっつもそう」
257	かずさ		「何がだよ」
258	雪菜		「自分のこと悪い人間だって思い込んで、 だから人と触れ合えないって、 すぐに距離を置こうとする」
259	かずさ		「本当にそういう奴なんだから仕方ないだろ。 暗くて、いじけてて、人のこと妬んでばかりで…」
260	雪菜		「だから、どうして決めつけるのよ」
261	かずさ		「だってそうなんだから仕方ないだろ」
262	雪菜		「違うよ…かずさはそんな女の子じゃない。 優しくて、繊細で、人のことを思いやれる、いいコだよ」
263	かずさ		「あたしのことはあたしが一番よく知ってる。 他人に余計なこと言われたくないな」
264	雪菜		「他人って…っ、 なんでそんなふうに言うかなぁ…」
265	かずさ		「他人は他人だろ。 それともお前、 あたしのママにでもなるつもりなのか？」
266	雪菜		「だから、どうしてそんなふうにわざと悪ぶるのよ。 言ったそばから後悔してるくせに！」
267	かずさ		「後悔なんかしてない！ 雪菜こそ勝手に人のこと決めつけて！」
268	雪菜		「なによ！」
269	かずさ		「なんだよ！」
270	雪菜		「………」	"........."
271	かずさ		「………」	"........."
272	雪菜		「………ごめんなさい」
273	かずさ		「………なんで雪菜が謝るんだよ。 あたしが悪いのに」
274	雪菜		「わたしたち、何度これ繰り返せばいいのよ…」
275	かずさ		「お前が二度と来なくなるまでだろ」
276	雪菜		「…最初に言ったでしょ？ わたし、この仕事取って来ないと会社に戻れない。 それまで、ずっとあなたの側を離れないから」
277	かずさ		「なら、雪菜の上司に言ってクビにしてやる」
278	雪菜		「そしたらわたし、あなたの社長に仲裁を頼む。 あの人はきっとわたしの味方をしてくれる」
279	かずさ		「………」	"........."
280	雪菜		「………」	"........."
281	かずさ		「なぁ、雪菜」
282	雪菜		「何よ」
283	かずさ		「お前、やっぱあたしのこと嫌いだろ」
284	雪菜		「好きだよ… かずさのこと、本当に好きなんだよ」
285	かずさ		「っ…」
286	雪菜		「なのに、どうしてこうなっちゃうんだろ… って、五年前からずっと、自分に問いかけてる」
287	かずさ		「雪菜…」
288	雪菜		「好きとか、嫌いとか、愛してるとか、憎いとか… そんなふうに、十文字以内で答えられるほど、 わたしたちの関係、単純じゃないのかな…？」
289	かずさ		「知るか」
290	雪菜		「そう…」
291	かずさ		「………」	"........."
292	雪菜		「………」	"........."
293	かずさ		「…もう帰れよ。 明日、会社なんだろ？」
294	雪菜		「この顔で出社するのかぁ…」

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