White Album 2/Script/2027
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Text
Speaker | Text | Comment | |||
---|---|---|---|---|---|
Line # | JP | EN | JP | EN | |
1 | 女子学生 | Female Student | 「ナガセショーコさん…? 聞いたことないけど」 | ||
2 | 雪菜 | Setsuna | 「多分、三年なんだけど…」 | ||
3 | 女子学生 | Female Student | 「う~ん、[R商学部^ウチ]ってもともと学生多いしねぇ。 学生課に聞いてみたらどうかな?」 | ||
4 | 雪菜 | Setsuna | 「聞いたんだけど、そんな名前の人いないって…」 | ||
5 | 女子学生 | Female Student | 「だったらいないに決まってるじゃない」 | ||
6 | 雪菜 | Setsuna | 「でも…確かに商学部だって、本人が…」 | ||
7 | 女子学生 | Female Student | 「とりあえず、私は知らないなぁ。 お役に立てずにごめんね」 | ||
8 | 雪菜 | Setsuna | 「あ、いえ…ありがとうございました」 | ||
9 | ……… | .........
| |||
10 | 雪菜 | Setsuna | 「ふぅ…」 | ||
11 | 雪菜 | Setsuna | 「聞き違えたかなぁ? う~ん…」 | ||
12 | 雪菜 | Setsuna | 「仕方ないか。 今日は諦め…」 | ||
13 | ??? | ??? | 「あれぇ? あなた、確か…」 | ||
14 | 雪菜 | Setsuna | 「っ…長瀬さ…」 | ||
15 | 朋 | Tomo | 「小木曽さんじゃないですか~」 | ||
16 | 雪菜 | Setsuna | 「………ぁ」 | ||
17 | 朋 | Tomo | 「…なんです? そのあからさまなガッカリ感は」 | ||
18 | 雪菜 | Setsuna | 「え? い、いえ、そんなこと… こんにちは、柳原さん」 | ||
19 | 朋 | Tomo | 「どうしたんですかぁ? 天下の小木曽雪菜がこんな辺鄙なところに。 …男でも漁りに来ました?」 | ||
20 | 雪菜 | Setsuna | 「っ…別に。 ごめんなさいお邪魔しちゃって。 わたし、もう帰るから」 | ||
21 | 朋 | Tomo | 「あ~、ちょっと待ってくださいよ。 せっかく1号館まで来てくれたんだから、 ちょっとお話でもしません?」 | ||
22 | 雪菜 | Setsuna | 「悪いけど急ぐから…」 | ||
23 | 朋 | Tomo | 「ま~そんなこと言わずに。 付属からの先輩後輩じゃないですか」 | ||
24 | 雪菜 | Setsuna | 「でも、そんなに面識があった訳じゃ…」 | ||
25 | 朋 | Tomo | [F16「あなたイブの夜、 ][F16有海のインテグラルホテルにいたでしょ? ][F16…男と一緒に」] | ||
26 | 雪菜 | Setsuna | 「っ!?」 | ||
27 | 朋 | Tomo | 「あ~、やっぱりあれ、そうだったんだぁ。 へ~、あの難攻不落の小木曽雪菜にも とうとう特定の男がねぇ」 | ||
28 | 雪菜 | Setsuna | 「ち、違う、あれはただ…」 | ||
29 | 朋 | Tomo | 「相手、どんな男なんです? 何しろ小木曽さんの相手を務めるくらいだから、 そんじょそこらの大学生とは格が違いますよねぇ」 | ||
30 | 雪菜 | Setsuna | 「だから、違うの…」 | ||
31 | 朋 | Tomo | 「青年実業家とか医者とか弁護士とか、 あるいは資産家の御曹司とか~」 | ||
32 | 雪菜 | Setsuna | 「………っ」 | ||
33 | 朋 | Tomo | 「あ~、待ってくださいよ~。 実はわたしもね、あの時あそこにいたんですよ。 撮影の時に知り合った人に誘われちゃってぇ」 | ||
34 | 雪菜 | Setsuna | 「ごめんなさい。 ほんとに急いでるから」 | ||
35 | 朋 | Tomo | 「わたしと一緒にいたの、誰だかわかります? 結構みんな知ってる人だと思うんだけどなぁ」 | ||
36 | 雪菜 | Setsuna | 「別に、誰でも気にしないから。 わたしの方は言いふらしたりなんか…」 | ||
37 | 朋 | Tomo | 「っ…ちょっとそれ色々とどういう意味? あなた今、一言で二つもイヤミ言ったよね?」 | ||
38 | 雪菜 | Setsuna | 「え…?」 | ||
39 | 朋 | Tomo | 「わたしのことになんかまるで興味ないし、 しかもわたしはあなたと違ってお喋りだって… そういうことよね?」 | ||
40 | 雪菜 | Setsuna | 「そ、そんな… そういうつもりじゃ」 | ||
41 | 朋 | Tomo | 「…相変わらずお高いですね。 わたしみたいな低俗で格下の人間とは 話す気なんかないってこと?」 | ||
42 | 雪菜 | Setsuna | 「だから、違…」 | ||
43 | 朋 | Tomo | 「ほんっと、あんたって、 昔からそういうふうに人のこと見下しちゃってさ! ムカつくったら…」 | ||
44 | 雪菜 | Setsuna | 「ごめんなさい、謝るから。 だからもう、勘弁して…っ」 | ||
45 | 朋 | Tomo | 「ちょっ、待ちなさいよ! そうやってすぐ人のことシカトして!」 | ||
46 | 雪菜 | Setsuna | 「は、離して!」 | ||
47 | 朋 | Tomo | 「っ!? あ、あ~っ! わたしのランチボックス!」 | ||
48 | 雪菜 | Setsuna | 「え…?」 | ||
49 | 朋 | Tomo | 「やだ…ひっくり返っちゃった。 うわぁ…中身グシャグシャ」 | ||
50 | 雪菜 | Setsuna | 「ご、ごめん… ごめんなさい…っ」 | ||
51 | 朋 | Tomo | 「………どうしてくれるの、これ。 小木曽さんが叩き落としたからこうなったのよね?」 | ||
52 | 雪菜 | Setsuna | 「それは…その…」 | ||
53 | ……… | .........
| |||
54 | ??? | ??? | 「ふぁ~い…」 | ||
55 | 春希 | Haruki | 「やっと捕まえた! おい、和泉!」 | ||
56 | 千晶 | Chiaki | 「あ、やべ、春希だ…」 | ||
57 | 春希 | Haruki | 「お前、ゼミにも講義にも来ないで 一体何やってんだよ!?」 | ||
58 | 俺を認識した直後の第一声が『あ、やべ』ですか… | ||||
59 | 千晶 | Chiaki | 「しくった~。 ちゃんと着信見てから切ればよかった」 | ||
60 | 春希 | Haruki | 「色々と言いたいことはあるがとりあえず必要事項だけ。 …今どこにいるんだよ?」 | ||
61 | そして第二声が『しくった』ですかよ… | ||||
62 | 千晶 | Chiaki | 「えっと…言わなきゃ駄目?」 | ||
63 | 春希 | Haruki | 「ちゃんと講義受けてきちっとゼミに出てれば 言わずに済んだかもなぁ」 | ||
64 | 千晶 | Chiaki | 「うう…」 | ||
65 | 論文レビューも終わり、教授も先輩たちも戻り、 卒論発表会に向けてにわかに活気を取り戻した荻島研。 | ||||
66 | そんな、様々な人が入れ替わり立ち替わりしていた今週も、 一度たりとも顔を出さなかったゼミ生がいた。 | ||||
67 | 春希 | Haruki | 「教授も気にしてるぞ。 せっかく先月はそこそこ出てたのに…」 | ||
68 | 千晶 | Chiaki | 「え、えっと………そうだ! 春希にきっぱり振られちゃったから傷心旅行に…」 | ||
69 | 春希 | Haruki | 「………ほう、そうか。 なら追いかけて行ってやるから場所を言え」 | ||
70 | 千晶 | Chiaki | 「………なんか力強いね」 | ||
71 | 春希 | Haruki | 「開き直ってんだよ。 てかそういう言い逃れはやめてくれ冗談でも」 | ||
72 | 自分なりに茶化したつもりでも、 年末のあの微妙に事実っぽい状況のせいで、 スルーがスルーになっていないような痛々しさがある。 | ||||
73 | …そもそも、周りには教授や先輩もいるってのに、 『追いかけて』が、既にやってしまった感が強い。 | ||||
74 | 千晶 | Chiaki | 「別に茶化してるつもりはないよ。 春希、本当に強くなったって。 もう自分の気持ちは揺るがないって信念を感じる」 | ||
75 | 春希 | Haruki | 「…おかげさまで」 | ||
76 | 皮肉っぽく、 けれど心の底から誠意を込めて、 その言葉を紡ぎ出す。 | ||||
77 | 俺から本当にそんな信念を感じ取れるとしたら、 その人格形成には間違いなく和泉も関わってるから。 | ||||
78 | 千晶 | Chiaki | 「ん~、今の春希ってば、主役っぽいね。 うん、これならハッピーエンドもあるかもね」 | ||
79 | 春希 | Haruki | 「で、最初の質問に戻るが、お前今どこだ? 旅行中なら本当に追いかけて連れ戻す。 もちろん旅先では何一つハプニングはないけどな!」 | ||
80 | 千晶 | Chiaki | 「近所にいるよ。更に言えば大学の構内」 | ||
81 | 念入りに茶化したところに素直に受け答えられると、 またこれが更に痛々しい。 | ||||
82 | 春希 | Haruki | 「なら顔出せよ。 せっかくレポート通ったのに勿体ないだろ」 | ||
83 | 千晶 | Chiaki | 「ん~…」 | ||
84 | 春希 | Haruki | 「再来週から試験だぞ? ちゃんと準備してんのか?」 | ||
85 | 千晶 | Chiaki | 「いや、まぁ…ねぇ?」 | ||
86 | 春希 | Haruki | 「なんだったら試験対策付き合うぞ。 お前には色々と恩もあるし」 | ||
87 | 千晶 | Chiaki | 「あまり意気に感じてくれても、 心苦しいっちゃぁ心苦しいんだけどね」 | ||
88 | 春希 | Haruki | 「何のことだ?」 | ||
89 | 今日の和泉は… いや、この間からずっと調子が狂ってる。 | ||||
90 | けらけら笑って俺に依存する、女じゃない友達… もう、そんな気安いキャラじゃなくなってる。 | ||||
91 | 千晶 | Chiaki | 「ね、春希」 | ||
92 | 春希 | Haruki | 「ん?」 | ||
93 | 千晶 | Chiaki | 「あたし、四月になったらちゃんとゼミ行くから。 今は、そっとしておいて欲しいんだ」 | ||
94 | 春希 | Haruki | 「四月…って」 | ||
95 | 思いっきり試験の後… | ||||
96 | 千晶 | Chiaki | 「だからさ… その時は、また色々と助けて欲しいな…先輩」 | ||
97 | 春希 | Haruki | 「………なんだよ、それ」 | ||
98 | 千晶 | Chiaki | 「えっと、つまりね… 説明しにくいんだけど」 | ||
99 | 今の和泉は、今までの和泉じゃなかった。 | ||||
100 | 千晶 | Chiaki | 「あたしにとって大学ってのは、 単位を取って卒業するだけの場所じゃないってこと」 | ||
101 | 春希 | Haruki | 「…微妙に意味がわからん」 | ||
102 | あの、怠惰な口調はなりを潜め… | ||||
103 | やろうとしてることは投げやりっぽいくせに、 その言葉の勢いには、何故か前向きさを感じさせる。 | ||||
104 | 千晶 | Chiaki | 「ここに集まってくる人間たちには、 それ以外にも色々な目標とか人生とかあって、 進級や卒業が唯一無二とは言い切れないってことだよ」 | ||
105 | 春希 | Haruki | 「そもそも、和泉が目標とか人生とか語る時点で 訳わからん」 | ||
106 | 和泉のくせに説得力があるところが、 更に意味不明さを増長させているというか。 | ||||
107 | 『どんだけ俺に信用ないんだよお前』というか… | ||||
108 | 千晶 | Chiaki | 「…わかんないだろうねぇ。 春希の知ってる“和泉千晶”じゃ…」 | ||
109 | 春希 | Haruki | 「だったらお前、俺にわかる言葉で喋れよ」 | ||
110 | 千晶 | Chiaki | 「そうだなぁ…三月には種明かししてもいいかもね。 …二枚でいい?」 | ||
111 | 春希 | Haruki | 「もういいよ、和泉… 今の俺は、お前の言ってることがわかるほど、 お前に深く関わってないってことだろ?」 | ||
112 | 千晶 | Chiaki | 「ま、ね」 | ||
113 | 春希 | Haruki | 「ただ一つだけわかってるのは、 和泉は今、充実してるってこと。 ………で、いいんだよな?」 | ||
114 | 千晶 | Chiaki | 「あたしさぁ、 大学生活で無為に過ごした日々なんかないよ?」 | ||
115 | 春希 | Haruki | 「………とても信じられないけど、信じるよ」 | ||
116 | 今までと違う前向きな和泉は、 俺をほんのちょっとだけ安心させてくれたけど。 | ||||
117 | 今までと違う、俺を突き放したような和泉は 俺をほんのちょっとだけ、寂しい気分にさせた。 | ||||
118 | 千晶 | Chiaki | 「それじゃあね、春希。 また春に」 | ||
119 | 春希 | Haruki | 「ああ…春に」 | ||
120 | 千晶 | Chiaki | 「冬が、終わった頃に、ね?」 | ||
121 | 和泉が最後に呟いた言葉は、 その一つ前の言葉と、意味的には同じはずだった。 | ||||
122 | けれど俺には、あいつがわざと言い換えたところに、 彼女なりの励ましのメッセージが込められてる気がした。 | ||||
123 | …ま、もしかしたら恥ずかしい勘違いかもしれないけど。 | ||||
124 | 春希 | Haruki | 「冬が、終わった頃に、か…」 | ||
125 | 今度こそ、冬を終わらせろって。 春を、呼び込めって。 | ||||
126 | ただなんとなく、そんな気がした。 | ||||
127 | ……… | .........
| |||
128 | 店員 | Clerk | 「お待たせしました。 ミックスピザ、ハニートースト、 アイスコーヒーとウーロン茶になります」 | ||
129 | 雪菜 | Setsuna | 「あ、はい、どうも…」 | ||
130 | 朋 | Tomo | 「は~い、ウーロン茶以外は 全部こっちにお願いします~」 | ||
131 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
132 | 店員 | Clerk | 「それでは、ごゆっくりどうぞ」 | ||
133 | 朋 | Tomo | 「来た来た~。 それじゃ遠慮なく、いただきま~す」 | ||
134 | 雪菜 | Setsuna | 「こんなところじゃなくて、 もっと普通のレストランでも良かったのに…」 | ||
135 | 朋 | Tomo | 「駄目ですか? カラオケボックス」 | ||
136 | 雪菜 | Setsuna | 「そういう訳じゃ… でも、普段は入らないから」 | ||
137 | 朋 | Tomo | 「こんな庶民の娯楽場には居られないって? ほんっと、言葉の端々から 人を見下すオーラが…」 | ||
138 | 雪菜 | Setsuna | 「ち、違うよ… 昔はよく使ってたの。本当よ。 でも…」 | ||
139 | 朋 | Tomo | 「ま、いいわ。 今は食事を優先させないと。 何しろ随分と遅くなっちゃったから」 | ||
140 | 雪菜 | Setsuna | 「ごめんなさいね。 お弁当箱、ひっくり返しちゃって…」 | ||
141 | 朋 | Tomo | 「ほんと、いい迷惑。 あ~、おなかすいた」 | ||
142 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
143 | 朋 | Tomo | 「なによ? あげないわよ? 欲しかったら自分の分頼めばいいでしょ?」 | ||
144 | 雪菜 | Setsuna | 「あ、そういうことじゃなくて… その、お弁当、毎日作ってたのかなって」 | ||
145 | 朋 | Tomo | 「…悪い?」 | ||
146 | 雪菜 | Setsuna | 「ううん、でもちょっと意外かも」 | ||
147 | 朋 | Tomo | 「体型保つために色々苦労してるんですよ。 外食って結構カロリー高いし」 | ||
148 | 雪菜 | Setsuna | 「そうなんだ…すごいね。 わたし、そういうの気にしたことないから」 | ||
149 | 朋 | Tomo | 「…気にしなくてその身体ですか」 | ||
150 | 雪菜 | Setsuna | 「え?」 | ||
151 | 朋 | Tomo | 「ほんっと小木曽雪菜って人は、 天から二物も三物も与えられてるんですね。 わたしなんてこれで夜も抜くのに!」 | ||
152 | 雪菜 | Setsuna | 「だったらこの食事は…」 | ||
153 | 朋 | Tomo | 「なに? なんか言った?」 | ||
154 | 雪菜 | Setsuna | 「………ううん、何も」 | ||
155 | 朋 | Tomo | 「まったくもう、ムカつくったら」 | ||
156 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
157 | 朋 | Tomo | 「………(むぐむぐ)」 | ||
158 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
159 | 朋 | Tomo | 「………(んぐんぐ)」 | ||
160 | 雪菜 | Setsuna | 「あの、じゃあ… わたしそろそろ帰ってもいいかな? ちゃんと支払いは済ませておくから」 | ||
161 | 朋 | Tomo | 「なんで!?」 | ||
162 | 雪菜 | Setsuna | 「だ、だって… これでお昼ご飯は弁償したし」 | ||
163 | 朋 | Tomo | 「ご飯代出したらそれでおしまいですか? 人の食事には付き合えないってことですか?」 | ||
164 | 雪菜 | Setsuna | [F16「だって…こんな針のムシロにいたくないよ…」] | ||
165 | 朋 | Tomo | 「ほんっと、ナチュラルに傲慢なんだから。 付属の頃から、いつもいつも…っ」 | ||
166 | 雪菜 | Setsuna | 「わたし、付属の頃はあなたと話したことなんか…」 | ||
167 | 朋 | Tomo | 「ミス付属でも、軽音でも、 いっつも人を出し抜いておいて、 よくそんなことが言えますよねぇ…」 | ||
168 | 雪菜 | Setsuna | 「それは…わたしのせいじゃ…」 | ||
169 | 朋 | Tomo | 「いっつも人を押しのけて目立ってて… わたしのデビューが遅れたのは、 ひとえにあなたのせいなんだからね」 | ||
170 | 雪菜 | Setsuna | 「そ、そういえばDVD出るんだって? おめでとう」 | ||
171 | 朋 | Tomo | 「あんなものはただの足がかりに過ぎないの。 卒業したら局アナになってみせるんだから。 そのためにミス峰城取ったんだし」 | ||
172 | 雪菜 | Setsuna | 「そうなんだ…柳原さんも、 将来に対してすごく明確なビジョン持ってるんだね。 すごいなぁ」 | ||
173 | 朋 | Tomo | 「それで、そっちは?」 | ||
174 | 雪菜 | Setsuna | 「え…?」 | ||
175 | 朋 | Tomo | 「人より一年上なんだから、 来年、卒業したらどうするとかあるでしょ?」 | ||
176 | 雪菜 | Setsuna | 「それ、は…」 | ||
177 | 朋 | Tomo | 「わたしの将来の話、したんだから、 今度はそっちが話しなさいよ」 | ||
178 | 雪菜 | Setsuna | 「何も、ないよ。 将来なんて、何も見えない」 | ||
179 | 朋 | Tomo | 「またそうやって隠す… もしかして、今度もわたしを出し抜こうとかしてる? 実は同じ業界狙ってるとか…」 | ||
180 | 雪菜 | Setsuna | 「そういうんじゃ、ない。 本当に、何もないだけ」 | ||
181 | 朋 | Tomo | 「………」 | "........."
| |
182 | 雪菜 | Setsuna | 「だから、わたしのことなんて聞くだけ無駄だよ。 楽しいことなんか一つもないんだから」 | ||
183 | 朋 | Tomo | 「なによそれ… あなた本当に小木曽雪菜? わたしがいつも勝てなかったウザい女のなれの果て?」 | ||
184 | 雪菜 | Setsuna | 「…ごめんね」 | ||
185 | 朋 | Tomo | 「ふざけんじゃないわよ! こんな女、蹴落とす価値もないじゃない! どこまでも人のこと馬鹿にして…っ!」 | ||
186 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
187 | 朋 | Tomo | 「何か言いなさいよ? そこまで言われて黙ってるつもり?」 | ||
188 | 雪菜 | Setsuna | 「もう…帰ってもいいかな?」 | ||
189 | 朋 | Tomo | 「っ…」 | ||
190 | 雪菜 | Setsuna | 「期待に添えなくてごめんなさい。 でも、今のわたしは本当にこんな人間なの。 …あなたにライバル視される価値、ないんだよ」 | ||
191 | 朋 | Tomo | 「………じゃあさ」 | ||
192 | 雪菜 | Setsuna | 「ん?」 | ||
193 | 朋 | Tomo | 「ロクに話もできないんなら、歌ってよ」 | ||
194 | 雪菜 | Setsuna | 「え…」 | ||
195 | 朋 | Tomo | 「付属祭のステージの時みたいに、 こう、短いスカートひらひらさせてさ~」 | ||
196 | 雪菜 | Setsuna | 「や、柳原さん…」 | ||
197 | 朋 | Tomo | 「あの時、会場にいた男どもなんか、 みんなあんたに釘付けだったっけ。 ほんっと、アレはあざとかったよね~」 | ||
198 | 雪菜 | Setsuna | 「わ、わたし、そんな…」 | ||
199 | 朋 | Tomo | 「ほうら、これなら得意でしょ? あの時もノリノリで歌ってたしね」 | ||
200 | 雪菜 | Setsuna | 「っ…こ、これ…」 | ||
201 | 朋 | Tomo | 「それでは歌っていただきましょ~。 小木曽雪菜さんで『WHITE ALBUM』」 | ||
202 | 雪菜 | Setsuna | 「っ!」 | ||
203 | 朋 | Tomo | 「あっ! ちょ、ちょっとぉ! 何で止めるのよ?」 | ||
204 | 雪菜 | Setsuna | 「………無理。 もう、歌えない」 | ||
205 | 朋 | Tomo | 「別に下手でもいいじゃない。 どうせわたししか聴いてないんだし」 | ||
206 | 雪菜 | Setsuna | 「駄目なの…もう歌は駄目なの、わたし」 | ||
207 | 朋 | Tomo | 「だから、なんでよ!」 | ||
208 | 雪菜 | Setsuna | 「もう二度と、 あんな光の当たる場所には立てない。 …今のわたしには、眩しすぎるから」 | ||
209 | 朋 | Tomo | 「っ! あ、あんた、あんたさぁ…っ、 本当に、本当にあの小木曽雪菜なの!?」 | ||
210 | ……… | .........
| |||
211 | 春希 | Haruki | 「…最後に、皆さん。 短い間ですが、今回も色々とお世話になりました。 どうもありがとうございました」 | ||
212 | 最後に、軽く頭を下げた俺に、 温かい拍手と… | ||||
213 | 中川 | Nakagawa | 「ねぇ北原さ~ん、 本当にやめちゃうのぉ~?」 | ||
214 | 佐藤 | Satou | 「ああ…また地獄の週末が蘇る… せめて人が増えるまで残って欲しかったのに」 | ||
215 | 春希 | Haruki | 「いや、悪い…」 | ||
216 | ついでに、恨みがましい手向けの言葉が降り注ぐ。 | ||||
217 | 午後5時。 夕刻の、ちょうど早番と遅番が重なる時間帯。 | ||||
218 | ほんの少しだけスタッフ数に余裕ができる この時間帯を狙って、 俺のグッディーズ退職挨拶は滞りなく行われた。 | ||||
219 | とはいえ営業時間中だったので、 中心メンバーに絞っての小規模なものだったけど。 | ||||
220 | 中川 | Nakagawa | 「いるだけでもいいんだけどなぁ。 北原さんに見張られてるだけで みんな2割くらい真面目に働くし」 | ||
221 | 佐藤 | Satou | 「あ~、それいいっすねぇ。 客として朝から晩まで目を光らせてるとか」 | ||
222 | 春希 | Haruki | 「いや、それクレーマーだろ」 | ||
223 | 中川 | Nakagawa | 「大丈夫だって。 誰も文句言わないからさぁ…怖くって」 | ||
224 | 佐藤 | Satou | 「そうそう。 何しろ店長代理すら注意もできない客なんすから…」 | ||
225 | 春希 | Haruki | 「お前ら、俺を何だと…」 | ||
226 | 小春 | Koharu | 「ほらほら皆さん。営業時間中ですよ。 挨拶は終わったんだから持ち場へ戻った戻った!」 | ||
227 | と、俺に取りすがるチーフ連を押し返したのは、 この店の一番の新人。 | ||||
228 | …中心メンバーに絞っての挨拶に、 当然のように顔を連ねてる、 間違いなく一番の新人だったはずの杉浦だった。 | ||||
229 | 中川 | Nakagawa | 「で、でもさぁ… 小春っちは寂しくないの? 育ての親に逃げられちゃってさぁ」 | ||
230 | 小春 | Koharu | 「先輩は忙しいんです。四月から最終学年なんですから。 あとその親しき仲に礼儀なしな呼び方はやめてください」 | ||
231 | 佐藤 | Satou | 「ちょ、ちょっと、そんなに押さないで… き、北原さんお達者で~!」 | ||
232 | 中川 | Nakagawa | 「いつでも戻っていいからね~!」 | ||
233 | 小春 | Koharu | 「ふぅ、まったくもう…しつこいんだから」 | ||
234 | 春希 | Haruki | 「いや、あのな…」 | ||
235 | 店長とチーフを店長室から追い出し、 しかも追い打ちまでかけるルーキーに対して、 俺はそれ以上の言葉を見つけられなかった。 | ||||
236 | …まるで今までの俺を見ているようで。 | ||||
237 | 小春 | Koharu | 「先輩…」 | ||
238 | 春希 | Haruki | 「お、おお…」 | ||
239 | そんな生意気で融通が利かなくて横暴な新人は、 きっと俺の方を睨みつけると… | ||||
240 | 小春 | Koharu | 「これまで色々教えていただいて ありがとうございました。 本当にお疲れさまでした!」 | ||
241 | 春希 | Haruki | 「あ…ありがとう?」 | ||
242 | 何故だか俺にだけは礼儀正しく深々と頭を下げた。 | ||||
243 | …どんな力関係なんだよこの店は。 | ||||
244 | 小春 | Koharu | 「チーフたちはああ言ってましたけど、 先輩はこの店のこと心配しなくてもいいです」 | ||
245 | 春希 | Haruki | 「あ、でも…」 | ||
246 | 小春 | Koharu | 「なぜならこれからは、わたしが先輩の代わりを 完璧に務めるって話になってますから」 | ||
247 | 春希 | Haruki | 「卒業旅行までの短期じゃなかったんだっけ?」 | ||
248 | というか『話になってますから』? | ||||
249 | 小春 | Koharu | 「まぁ、何と言うか色々ありまして… 四月からも続けることになりましたので」 | ||
250 | 春希 | Haruki | 「えっと、それは………すまない」 | ||
251 | なんとなく、俺が辞めると言った日の、 終業後の様子が目に浮かんできたような気がする… | ||||
252 | 責任感の強い杉浦相手には、 きっと泣き落としが効果的な戦法だったんだろう。 …俺のときもその手口だったし。 | ||||
253 | 小春 | Koharu | 「ですから先輩におきましては何の心配もいりません。 就職と卒論と………色々頑張ってください」 | ||
254 | 春希 | Haruki | 「あ…」 | ||
255 | その“色々”のアクセントを耳にしたとき、 杉浦の励ましに込められた意味を理解した。 | ||||
256 | 今までも色々なコミュニティで、 様々な責任を負ってきた杉浦は… | ||||
257 | この店の中でも、また新しい責任を 自らに課したということなんだろう。 | ||||
258 | 春希 | Haruki | 「…ごめん」 | ||
259 | 小春 | Koharu | 「そこで謝られる意味がわかりません」 | ||
260 | 多分、それは… もう、ここからいなくなる誰かのために。 | ||||
261 | ……… | .........
| |||
262 | 春希 | Haruki | 「そっか… 矢田さん、ちゃんと登校するようになったか」 | ||
263 | 小春 | Koharu | 「しばらくは塞ぎ込んでましたけどね。 冬休み中に、何度か外に連れ出したら…」 | ||
264 | 店長とホールチーフを追い出して十分。 | ||||
265 | 態度のでかい新人は、 相変わらず店長室に居座り、 仕事に復帰していなかった。 | ||||
266 | 春希 | Haruki | 「ほんと、色々と悪いな。 もうちょっと穏やかな言い方もあったんだろうけど…」 | ||
267 | 小春 | Koharu | 「あのくらいハッキリ言ってくれて良かったです。 でないと引きずりますから。 [F16………美穂子以外の誰かさんも」] | ||
268 | 春希 | Haruki | 「そう言ってくれると…」 | ||
269 | けれど今の俺はもう関係者じゃないので、 そのサボリを咎める権限なんかない。 | ||||
270 | そしてもとより、 この時間を自分から終わらせる気もなかった。 | ||||
271 | 小春 | Koharu | 「それで、わたしも美穂子も推薦決まりました。 二人そろって、春からは先輩の後輩です」 | ||
272 | 春希 | Haruki | 「そっか…文学部か」 | ||
273 | 文学部なら『先輩の後輩』とか間違った日本語使うなって、 そういう野暮なことは、今は言うべきじゃない。 | ||||
274 | …そのくらいの女性心理学は、ここ数日で履修した。 | ||||
275 | 春希 | Haruki | 「じゃあ、入学してきたら、 今までのノート全部やるよ。 自分で言うのも何だけど、試験に役立つと思うぞ」 | ||
276 | 小春 | Koharu | 「その申し出は嬉しいんですけど… でもまずは自分で頑張ってみて、 それでも駄目だったら頼らせてもらいます」 | ||
277 | 春希 | Haruki | 「そういう奴だから安心して託せるんだよ。 杉浦、合格おめでとう」 | ||
278 | 小春 | Koharu | 「ありがとうございます。 春からも、よろしくお願いしますね、先輩」 | ||
279 | そう言って杉浦は… 今頃になって、今までで一番可愛い笑顔を向けやがった。 | ||||
280 | ……… | .........
| |||
281 | 朋 | Tomo | 「ねぇ」 | ||
282 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
283 | 朋 | Tomo | 「どこ行くの? 小木曽さん」 | ||
284 | 雪菜 | Setsuna | 「帰る」 | ||
285 | 朋 | Tomo | 「もう? まだ8時になったばかりじゃない」 | ||
286 | 雪菜 | Setsuna | 「日が暮れる前に帰るはずだったのよ。 それなのにあなたが…」 | ||
287 | 朋 | Tomo | 「わたしがなに? こっちだってお弁当はメチャメチャにされるわ、 リクエストは却下されるわ、散々」 | ||
288 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
289 | 朋 | Tomo | 「ね、今からちょっと飲まない? まだこの間のクリスマスのこと聞けてないし。 で、あの時の男、結局誰なのよ?」 | ||
290 | 雪菜 | Setsuna | 「そんなの…話せるわけないでしょ」 | ||
291 | 朋 | Tomo | 「こっちは話したのに。 すっごい不公平~」 | ||
292 | 雪菜 | Setsuna | [F16「柳原さんが勝手に話しただけじゃない。 ][F16聞きたくないって言っても怒るし…」] | ||
293 | 朋 | Tomo | 「ん~、なに?」 | ||
294 | 雪菜 | Setsuna | 「…何でも、ないよ」 | ||
295 | 朋 | Tomo | 「とりあえずさ、阿佐田橋の方行こうよ。 事務所のコに教えてもらったお店があるのよ。 これが結構いい雰囲気で…」 | ||
296 | 雪菜 | Setsuna | 「もう許してよ…お願い。 わたし、そんな酷いことしたかなぁ?」 | ||
297 | 朋 | Tomo | 「………わたしが何を許してないって? そんな酷い意地悪してるって?」 | ||
298 | 雪菜 | Setsuna | 「そういう訳じゃ…ないけど」 | ||
299 | 朋 | Tomo | 「どうしてそう煮え切らない返事ばかりするかなぁ… 嫌いなら嫌いだって、きちんと喧嘩売ってくれないと、 こっちだって本気出せませんよ~?」 | ||
300 | 雪菜 | Setsuna | 「っ…」 | ||
301 | 朋 | Tomo | 「ほら、言ってみなよ。 あんたなんか大嫌いだって。 …さっきからずっとその言葉を待ってるんだけどなぁ」 | ||
302 | 雪菜 | Setsuna | 「あ、あなた一体、 わたしに何の恨みが…」 | ||
303 | チャラい男1 | Carefree Man 1 | 「ね~ね~君たち。 これからどっか遊びに行くの?」 | ||
304 | 雪菜 | Setsuna | 「え…?」 | ||
305 | チャラい男2 | Carefree Man 2 | 「二人揃ってレベル高いね~。 芸能人? モデルか何か?」 | ||
306 | 朋 | Tomo | 「え~、やだ、やっぱそんなふうに見える~?」 | ||
307 | チャラい男1 | Carefree Man 1 | 「よかったら一緒に遊ばない? 俺たち、車で来てるからさ、どこでも行けるよ?」 | ||
308 | 朋 | Tomo | 「え~、車ってどれ~? どこに止めてある奴?」 | ||
309 | 雪菜 | Setsuna | 「いえ、結構です。 今から帰るところですから」 | ||
310 | 朋 | Tomo | 「………」 | "........."
| |
311 | チャラい男2 | Carefree Man 2 | 「そ~んなこと言わないでさ~。 まだ全然早いじゃん。 いいじゃん行こうよ~」 | ||
312 | チャラい男1 | Carefree Man 1 | 「飲みでもいいし~、 カラオケとかでも楽しいし~。 あ、冬の海ってのも雰囲気あっていいよね~」 | ||
313 | 雪菜 | Setsuna | 「だから、帰るって…」 | ||
314 | チャラい男2 | Carefree Man 2 | 「じゃ送ってく送ってく。 さ、乗って乗って」 | ||
315 | 雪菜 | Setsuna | 「いい加減に…」 | ||
316 | 朋 | Tomo | 「じゃ、乗せてもらおっかな~」 | ||
317 | 雪菜 | Setsuna | 「ぇ…?」 | ||
318 | 朋 | Tomo | 「今から二人でゴハン食べようと思ってたのよね。 いい店あるんだ。阿佐田橋からちょっと行ったとこ」 | ||
319 | 雪菜 | Setsuna | 「ちょ、ちょっと…」 | ||
320 | チャラい男1 | Carefree Man 1 | 「おっけ~! そこにしよ~」 | ||
321 | チャラい男2 | Carefree Man 2 | 「話せるね~彼女。 それなら15分くらいで行けるし」 | ||
322 | 朋 | Tomo | 「で、車どれよ~。 言っとくけどわたし、ヤンキー仕様とかパスだからね?」 | ||
323 | チャラい男1 | Carefree Man 1 | 「大丈夫大丈夫、ワンボックス。 すげ~ゆったりできるから」 | ||
324 | 雪菜 | Setsuna | [F16「や、柳原さん。 ][F16ちょっと…」] | ||
325 | 朋 | Tomo | 「なによ~。 一人だけ暗い顔して~」 | ||
326 | 雪菜 | Setsuna | [F16「駄目だよ、そんな軽々しくついてったら。 ][F16どこの誰かもわからない男の人たちに」] | ||
327 | 朋 | Tomo | 「…なにカビの生えた倫理観振りかざしてるのよ? あなたって結構おばさんくさいよね」 | ||
328 | 雪菜 | Setsuna | [F16「で、でも… ][F16女の子一人でそんな…」] | ||
329 | 朋 | Tomo | 「何言ってんのよ。 そっちも来るに決まってんじゃない」 | ||
330 | 雪菜 | Setsuna | 「え………?」 | ||
331 | 朋 | Tomo | 「それとも何? わたし一人で行けって? …どこの誰かもわからない男の人たちに?」 | ||
332 | 雪菜 | Setsuna | 「だ、だからわたしは…」 | ||
333 | チャラい男2 | Carefree Man 2 | 「ほら、これこれ。 さ、乗って~」 | ||
334 | 雪菜 | Setsuna | 「え、え、え?」 | ||
335 | 朋 | Tomo | 「わ~新車じゃんこれ! いくらしたの?」 | ||
336 | チャラい男1 | Carefree Man 1 | 「350万くらいかなぁ… 先月納車したばかりでさ」 | ||
337 | 朋 | Tomo | 「ほら、雪菜雪菜! あんた後ろね、わたし助手席~」 | ||
338 | チャラい男2 | Carefree Man 2 | 「へ~、雪菜ちゃんって言うんだ。 さ、どうぞ、入って入って」 | ||
339 | 雪菜 | Setsuna | 「え、え、え…ええええっ!?」 | ||
340 | ……… | .........
| |||
341 | 春希 | Haruki | 「麻理さん、こっち校正終わりました。 チェック箇所は赤入れてありますから」 | ||
342 | 麻理 | Mari | 「ん、悪いな。 そっちの未決箱に入れといて」 | ||
343 | 鈴木 | Suzuki | 「こっちも今終わった~! くっそ~、今日も北原君にスピードで勝てなかったか~」 | ||
344 | 春希 | Haruki | 「いや、鈴木さんとバイトの俺じゃ もともと与えられた量が違いますから」 | ||
345 | 鈴木 | Suzuki | 「や、それはそうかもしれないけどさぁ」 | ||
346 | 麻理 | Mari | 「まぁ、確かに違うけどな。 北原が15ページで鈴木が12ページだった」 | ||
347 | 鈴木 | Suzuki | 「…あんたのせいで余計に敗北感を味わわされた。 松っちゃんの気持ちが少しわかっちゃった」 | ||
348 | 春希 | Haruki | 「…いや、こんな単純作業、 編集者のスキルと関係ないですから」 | ||
349 | 午後8時。 | ||||
350 | 年が明けてから、これで5度目の開桜社のバイト。 | ||||
351 | 鈴木 | Suzuki | 「ま、それはともかく… 今日はこんなところでいいですか? 麻理さん」 | ||
352 | 麻理 | Mari | 「ああ、一区切りついた。ご苦労さん。 私も今日はこのくらいにしとく。 …北原もありがとな」 | ||
353 | 春希 | Haruki | 「お疲れさまです~」 | ||
354 | あんな恥ずかしくも赤裸々な相談をしてから一か月… | ||||
355 | 年が明けて最初のうちは、 結構、顔を合わせるのが照れくさかったけど、 今はもう、開き直れた。 | ||||
356 | 麻理 | Mari | 「これでなんとか来週には無事に出発できそうだ。 明日あたりチケットの予約してくるか」 | ||
357 | 春希 | Haruki | 「またアメリカでしたっけ?」 | ||
358 | 麻理 | Mari | 「ああ、まぁな。 色々と決めてこなくちゃいけないこともあるし。 今度は半月くらいは滞在するかも」 | ||
359 | その麻理さんは、 年明けにグァムから帰ってきたばかりなのに、 一月も経たないうちに、また米国出張らしい。 | ||||
360 | 鈴木 | Suzuki | 「ホント仕事好きですよねぇ麻理さんって…」 | ||
361 | 麻理 | Mari | 「その言い方は間違ってないけど正確じゃないな… 心から愛してるというのが正しい」 | ||
362 | 鈴木 | Suzuki | 「その情熱の1割でも恋愛に割けば、 どんな男でもイチコロなんですけどねぇ…」 | ||
363 | 麻理 | Mari | 「ええいうるさい!」 | ||
364 | 確かに鈴木さんの言う通り、 今の麻理さんは男の入る隙間が まるっきりなさそうだった。 | ||||
365 | こんなに美人で有能なのに…もったいない。 | ||||
366 | 麻理 | Mari | 「…なんだよ? 北原まで人の顔じろじろ見て」 | ||
367 | 春希 | Haruki | 「え? あ、いや…」 | ||
368 | 麻理 | Mari | 「言いたいことがあるならハッキリ言えよ。 みんなして人のこと馬鹿にして… 仕事愛して何が悪いって言うんだ」 | ||
369 | 春希 | Haruki | 「ええと…ハッキリ言っちゃっていいんですか?」 | ||
370 | 鈴木 | Suzuki | 「つい今しがた『ええいうるさい』って…」 | ||
371 | 麻理 | Mari | 「ええいうるさい!」 | ||
372 | 春希 | Haruki | 「ならその… 『こんなに美人で有能なのにもったいない』と」 | ||
373 | 麻理 | Mari | 「………」 | "........."
| |
374 | 鈴木 | Suzuki | 「うあ、北原君それマズいよ直球だよ」 | ||
375 | 春希 | Haruki | 「いやでも最初に言い出したの鈴木さんじゃないですか。 俺はただ追随しただけで」 | ||
376 | 鈴木 | Suzuki | 「そういう問題じゃないんだよ気づけよ男の子。 君は鈍感なのかフェミニストなのか極悪人なのか 判断に悩む奴だなぁ…」 | ||
377 | 麻理 | Mari | [F16「お、落ち着け、落ち着くんだ… ][F16こいつには好きな女がいるんだ…」] | ||
378 | ……… | .........
| |||
379 | 鈴木 | Suzuki | 「けど北原君さぁ、 今年になってから、なんか変わったよね?」 | ||
380 | 春希 | Haruki | 「そう、ですか?」 | ||
381 | 開桜社のビルを出て、 三人で、いつもより早い帰路についてからも、 鈴木さんの滑らかな舌は滞ることはなかった。 | ||||
382 | 鈴木 | Suzuki | 「ちょっとだけ明るくなった? というか、わたしたちに対して 今まで以上に遠慮がなくなったというか」 | ||
383 | 麻理 | Mari | [F16「ちょっとどころなものか。 ][F16上司をからかって何が楽しいんだ。 ][F16馬鹿にしやがって」] | ||
384 | 春希 | Haruki | 「それは…まぁ、確かに」 | ||
385 | なくなったのは遠慮ってより、壁かもしれない。 | ||||
386 | 鈴木 | Suzuki | 「なに? 冬休みの間に何かあった? 彼女ができたとか色々卒業したとか?」 | ||
387 | 春希 | Haruki | 「いや、そういうのは…」 | ||
388 | というか、むしろ全てが裏目だった訳だけど。 | ||||
389 | 春希 | Haruki | 「ただ、ちょっとだけ前向きになれました」 | ||
390 | 麻理 | Mari | 「………」 | "........."
| |
391 | 鈴木 | Suzuki | 「前向き…?」 | ||
392 | 春希 | Haruki | 「状況を自分で動かす気になれたって言うか… 『ここまで来て諦めるのも馬鹿みたいだよな』って 思えるようになったというか…」 | ||
393 | 麻理 | Mari | 「そ、そうか…そうなんだ…」 | ||
394 | こうやって軽口を叩いていても、 確かに俺は、変わったんじゃないかって実感する。 | ||||
395 | 何しろ、こんな軽口が叩けるような性格じゃなかった。 忌避したり、説教する側のはずだった。 | ||||
396 | 春希 | Haruki | 「ま、冬休みの間に色々あったのは確かです。 けど今の俺があるのは、その時のことよりも、 その後で励ましてくれた人たちのお陰ですよ」 | ||
397 | 鈴木 | Suzuki | 「なに? どういうこと? 北原君、やっぱり女の子絡み?」 | ||
398 | 春希 | Haruki | 「さあ、どうなんでしょうね…」 | ||
399 | 麻理 | Mari | 「………」 | "........."
| |
400 | …と、励ましてくれた人の方をちらりと見たけど、 どうやら本人には伝わっていないようだった。 | ||||
401 | ……… | .........
| |||
402 | 春希 | Haruki | 「それじゃ失礼します。 しばらく来れませんけど、皆さんお元気で」 | ||
403 | 麻理 | Mari | 「あ…」 | ||
404 | 鈴木 | Suzuki | 「ねぇ、今度はいつ来られるの? 試験が終わったらすぐ復帰する?」 | ||
405 | 春希 | Haruki | 「今は…ちょっとわかりません。 目の前に片づけなくちゃいけないことがありまして」 | ||
406 | 鈴木 | Suzuki | 「片づけなくちゃいけないことって… 就職決まるまで来ないってこと?」 | ||
407 | 春希 | Haruki | 「いえ、就職よりも大事なこと、です」 | ||
408 | 麻理 | Mari | 「………」 | "........."
| |
409 | 春希 | Haruki | 「それじゃ…」 | ||
410 | 麻理 | Mari | 「っ…北原!」 | ||
411 | 春希 | Haruki | 「はい?」 | ||
412 | 麻理 | Mari | 「え、えっと、あの…」 | ||
413 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
414 | 麻理 | Mari | 「いや、その… 私が言いたいのは…」 | ||
415 | 鈴木 | Suzuki | 「せっかくだから今から飲みに行かない? 北原君の送別会と、麻理さんの壮行会で。 ま、どっちも短い間なんだけどさぁ」 | ||
416 | 麻理 | Mari | 「あ…」 | ||
417 | 鈴木 | Suzuki | 「…ってことですよね、麻理さん?」 | ||
418 | 麻理 | Mari | 「鈴木…」 | ||
419 | 春希 | Haruki | 「ありがとうございます」 | ||
420 | 鈴木 | Suzuki | 「じゃあ…」 | ||
421 | 春希 | Haruki | 「でもごめんなさい、今日は失礼します」 | ||
422 | 麻理 | Mari | 「あ…」 | ||
423 | 鈴木 | Suzuki | 「なんで? もう試験勉強? 試験は再来週からでしょ?」 | ||
424 | 春希 | Haruki | 「いえ…練習です」 | ||
425 | 鈴木 | Suzuki | 「練習? なんの?」 | ||
426 | 春希 | Haruki | 「内緒です。 じゃあ失礼します」 | ||
427 | 鈴木 | Suzuki | 「あ…うん」 | ||
428 | 二人の気持ちは嬉しかったけど… | ||||
429 | 今の俺にとって、それは、本当に大事なことだから。 | ||||
430 | だからしばらくは、貯金を切り崩してでも、 母親に頭下げてでも、優先させなくちゃならない。 | ||||
431 | そう… 少なくとも、『冬が終わる頃』までは。 | ||||
432 | ……… | .........
| |||
433 | 麻理 | Mari | 「………」 | "........."
| |
434 | 鈴木 | Suzuki | 「あの、麻理さん…」 | ||
435 | 麻理 | Mari | 「え…?」 | ||
436 | 鈴木 | Suzuki | 「…二人で飲みに行きません?」 | ||
437 | 麻理 | Mari | 「鈴木…お前、何か誤解してるだろ? 私は別に落ち込んでなんか…」 | ||
438 | 鈴木 | Suzuki | 「誤解でもなんでもいいじゃないですか。 朝まで付き合いますよ?」 | ||
439 | 麻理 | Mari | 「………」 | "........."
| |
440 | 鈴木 | Suzuki | 「ね? 麻理さん」 | ||
441 | 麻理 | Mari | 「…悪いな。今夜は私のおごりだ」 | ||
442 | ……… | .........
| |||
443 | 朋 | Tomo | 「あ、この辺。 止めて止めて~」 | ||
444 | チャラい男1 | Carefree Man 1 | 「え、ここ? けどこの辺、何もないよ?」 | ||
445 | チャラい男2 | Carefree Man 2 | 「阿佐田橋の方だったよね? まだ結構あるじゃん」 | ||
446 | 朋 | Tomo | 「いいのいいの。 だって…」 | ||
447 | 朋 | Tomo | 「わたしの家、このすぐ先だから」 | ||
448 | 雪菜 | Setsuna | 「え…?」 | ||
449 | チャラい男1 | Carefree Man 1 | 「ど、どういう意味?」 | ||
450 | 朋 | Tomo | 「送ってくれてありがと~ね。 助かっちゃった~」 | ||
451 | チャラい男2 | Carefree Man 2 | 「ちょ、ちょっとさぁ、 それはないんじゃない? ゴハン食べに行くんじゃなかったの?」 | ||
452 | 朋 | Tomo | 「ごめ~ん、急用思い出しちゃった。 それにわたし、夜は食べないことにしてるんだ。 そもそも無理があったよね~」 | ||
453 | 雪菜 | Setsuna | 「や、柳原さん…?」 | ||
454 | チャラい男1 | Carefree Man 1 | 「なに、なに朋ちゃん? いきなりそういうのって冷たくね? これから盛り上がってこうって時にさぁ」 | ||
455 | チャラい男2 | Carefree Man 2 | 「そうだって。 それなら別にドライブでもいいじゃん。 ここでお別れは寂しくない?」 | ||
456 | 朋 | Tomo | 「あ~その辺は大丈夫。 ………後は雪菜が二人の相手してくれるから」 | ||
457 | 雪菜 | Setsuna | 「柳原さんっ!?」 | ||
458 | チャラい男1 | Carefree Man 1 | 「え、え~? そりゃ、俺たちはいいかもしんないけど、 今度は雪菜ちゃんが寂しがらない?」 | ||
459 | 朋 | Tomo | 「ま、確かにね。 そのコさ、最近彼氏と別れたばっかで寂しいの。 …だから二人で慰めてあげて欲しいんだ」 | ||
460 | 雪菜 | Setsuna | 「や、や…そんな、ちょっと…」 | ||
461 | チャラい男2 | Carefree Man 2 | 「そっか~、それは可哀想だな… 辛かったね雪菜ちゃん」 | ||
462 | 朋 | Tomo | 「そんなわけだから、お疲れ~。 後は任せたからね? お互いに」 | ||
463 | 雪菜 | Setsuna | 「わ、わたしもっ! わたし帰ります! 家に帰らないと!」 | ||
464 | 朋 | Tomo | 「え~、だとしたら雪菜、 余計ここで降りたら駄目じゃない。 家、全然逆方向だし」 | ||
465 | 雪菜 | Setsuna | 「っ!? あ、あなた…あなたはっ!」 | ||
466 | 朋 | Tomo | 「じゃね~。 みんなはゆっくり楽しんでってね。 ………さよなら、小木曽雪菜ちゃん」 | ||
467 | 雪菜 | Setsuna | 「ま、待って…柳原さん待って!」 | ||
468 | チャラい男1 | Carefree Man 1 | 「おっと~。 雪菜ちゃんここで降りてもしょうがないんでしょ?」 | ||
469 | チャラい男2 | Carefree Man 2 | 「そっか~。 さっきから元気なかったのそういう訳だったんだ。 ゆっくり話聞いてあげるから、まずは場所変えよ?」 | ||
470 | 雪菜 | Setsuna | 「お、降りる…降ろしてっ!」 | ||
471 | チャラい男1 | Carefree Man 1 | 「だから大丈夫だって。 パァ~っと騒いで、嫌なことなんか忘れちゃお?」 | ||
472 | 雪菜 | Setsuna | 「違う、違うの! わたし、そんなつもりじゃ」 | ||
473 | チャラい男2 | Carefree Man 2 | 「いいや、とりあえず出しちゃえって。 走りながらゆっくり話せばいいから」 | ||
474 | 雪菜 | Setsuna | 「だ、駄目…やだ、やだぁ…」 | ||
475 | チャラい男1 | Carefree Man 1 | 「乗ってきたのそっちなんだからさ。 ちゃんと付き合ってくれなくちゃ困るよな」 | ||
476 | 雪菜 | Setsuna | 「いやぁ…駄目、降ろして… こんなの嫌ぁぁ…」 | ||
477 | チャラい男2 | Carefree Man 2 | 「だ~か~ら~、 そんなに怖がらなくっても~」 | ||
478 | 雪菜 | Setsuna | 「いやぁぁぁっ! 助けて! 春希くん、春希くんっ!」 | ||
479 | チャラい男1 | Carefree Man 1 | 「そんな別れた男のことなんか忘れてさぁ………ん?」 | ||
480 | 雪菜 | Setsuna | 「っ! た、助けて、誰か助け………あ」 | ||
481 | チャラい男2 | Carefree Man 2 | 「…朋ちゃん? どしたの?」 | ||
482 | 朋 | Tomo | 「ごめ~ん、さっきの嘘。 さ、雪菜、帰るよ」 | ||
483 | 雪菜 | Setsuna | 「…ぇ?」 | ||
484 | チャラい男1 | Carefree Man 1 | 「な、なに? ちょっとそれ、どういうこと!?」 | ||
485 | 朋 | Tomo | 「実はわたしたち喧嘩中だったのよねぇ。 だからちょっと意地悪して置いてっちゃったの。 ほら、早く降りて、雪菜」 | ||
486 | 雪菜 | Setsuna | 「ゃ…柳原、さん…」 | ||
487 | チャラい男2 | Carefree Man 2 | 「ま、待ってよ! そんな、ここまでついて来といて!」 | ||
488 | 朋 | Tomo | 「それ以上ゴネたらこっちも必死で抵抗するよ? せっかくの新車にキズがついちゃったりして~。 昔やらなかった? こうやって百円玉でガリガリって…」 | ||
489 | チャラい男1 | Carefree Man 1 | 「あああああっ…やめてやめてっ!」 | ||
490 | 朋 | Tomo | 「雪菜! 早く降りなさい!」 | ||
491 | 雪菜 | Setsuna | 「あ…ぁ…ぁぁ…」 | ||
492 | ……… | .........
| |||
493 | …… | ......
| |||
494 | … | ...
| |||
495 | 朋 | Tomo | 「白い雪が街に~、 優しく積もるように~♪」 | ||
496 | 雪菜 | Setsuna | 「っ…ぅ…ぅぅ…ぅぇぇ…っ」 | ||
497 | 朋 | Tomo | 「アルバムの~空白を~♪」 | ||
498 | 雪菜 | Setsuna | 「ふぇぇ…ぅ、ぅくっ…ひっ…ぃぅ…」 | ||
499 | 朋 | Tomo | 「あれ…2番だっけ?」 | ||
500 | 雪菜 | Setsuna | 「ひくっ…う、ぁ…ぅぁぁぁぁ…っ」 | ||
501 | 朋 | Tomo | 「…ウザいなぁ。 いい加減泣きやんだら?」 | ||
502 | 雪菜 | Setsuna | 「ひどい! ひどいよ!」 | ||
503 | 朋 | Tomo | 「もういいじゃない。 こうして助けてあげたんだし」 | ||
504 | 雪菜 | Setsuna | 「わ、わたし…わたしっ、 もしあのまま…っ」 | ||
505 | 朋 | Tomo | 「だ~いじょうぶだって。 車のナンバー、写メで友達送ってあったから、 わたしまで拉致られたら警察動いてたよ」 | ||
506 | 雪菜 | Setsuna | 「肩…何度も触られた」 | ||
507 | 朋 | Tomo | 「そんくらい大したことないでしょ。 常に男に狙われてる小木曽さんが」 | ||
508 | 雪菜 | Setsuna | 「手…握られそうになった!」 | ||
509 | 朋 | Tomo | 「どこの箱入り娘よ… って、もしかして本当にそうなの?」 | ||
510 | 雪菜 | Setsuna | 「ねぇ、楽しい? わたしをからかって、そんなに楽しいの?」 | ||
511 | 朋 | Tomo | 「楽しいね、すごく」 | ||
512 | 雪菜 | Setsuna | 「な…」 | ||
513 | 朋 | Tomo | 「だってさぁ、わたしはこれからも、 ずっと小木曽雪菜を嫌い続けてくんだから。 だから、あなたがとことん堕ちてくのは見逃せない」 | ||
514 | 雪菜 | Setsuna | 「そんな、そんな… わたし、あなたにそこまで嫌われる理由なんか…」 | ||
515 | 朋 | Tomo | 「あ、そういえばさぁ… さっきあなたが叫んでた春希くんって…思い出した」 | ||
516 | 雪菜 | Setsuna | 「っ…」 | ||
517 | 朋 | Tomo | 「軽音の北原先輩の名前が、 確か春希でしたよね?」 | ||
518 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
519 | 朋 | Tomo | 「それって三年前に捨てられた相手じゃないですかぁ。 噂になってましたよ? わたしたちの学年でも」 | ||
520 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
521 | 朋 | Tomo | 「…って、なにそれ? 三年前に振られたこと未だに引きずってんの?」 | ||
522 | 雪菜 | Setsuna | 「………っ」 | ||
523 | 朋 | Tomo | 「信じられない、あの小木曽雪菜が? たかがそんな程度のことで、 こんな見る影もなくなっちゃったっての?」 | ||
524 | 雪菜 | Setsuna | 「………そんな程度って、どんな?」 | ||
525 | 朋 | Tomo | 「え?」 | ||
526 | 雪菜 | Setsuna | 「あなたに何がわかるの…?」 | ||
527 | 朋 | Tomo | 「小木曽さん…?」 | ||
528 | 雪菜 | Setsuna | 「あなたはわたしが人を見下してるって言ったけど、 本当に見下してるのはあなたの方よね?」 | ||
529 | 朋 | Tomo | 「…ふぅん」 | ||
530 | 雪菜 | Setsuna | 「ほら、その目! そんなふうに人を見下して、貶めて…」 | ||
531 | 朋 | Tomo | 「それで?」 | ||
532 | 雪菜 | Setsuna | 「ずっとそんなふうに生きてきて、 人との関係に苦しんだことがあるの? 本気で相手のこと想ったことがあるの!?」 | ||
533 | 朋 | Tomo | 「………」 | "........."
| |
534 | 雪菜 | Setsuna | 「だから、何がおかしいのよ… さっきから人の顔見て笑ってばかり… 一体何が楽しいのよ!」 | ||
535 | 朋 | Tomo | 「そうそう、そうやって食いついてきてよ。 抵抗もせずに叩き潰されるような女じゃないよね。 …わたしの知ってる小木曽雪菜はさ」 | ||
536 | 雪菜 | Setsuna | 「馬鹿にするのもいい加減にしてよ…」 | ||
537 | ……… | .........
| |||
538 | 雪菜 | Setsuna | 「付属を卒業してから三年間… ずっと、退屈な毎日を過ごしてきた」 | ||
539 | 雪菜 | Setsuna | 「何の目的も期待もなく大学に通って、 友達の誘いも断り続けて… ううん、友達と呼べる人なんか数えるほどもいなくて」 | ||
540 | 雪菜 | Setsuna | 「家と大学の往復だけで、バイトもしなくて、 外出もそんなにしなくて、家で一人で過ごして、 弟には、よく引きこもりだって笑われた」 | ||
541 | 雪菜 | Setsuna | 「だから、たまにデートだって嘘ついて、 一人で映画見たりして…」 | ||
542 | 雪菜 | Setsuna | 「男の人に声かけられるの嫌だから、 わざと地味な服着て、三つ編みして、眼鏡かけて…」 | ||
543 | 雪菜 | Setsuna | 「退屈でも我慢して夜遅くまで時間潰して、 飲みたくもないお酒まで飲んで、 酔って遅く帰って、家族には深い関係みたいに装って…」 | ||
544 | 朋 | Tomo | 「………キモい」 | ||
545 | 雪菜 | Setsuna | 「うるさいなぁ! そうだよ! キモいよわたし! そんなのわかってるよ!」 | ||
546 | 朋 | Tomo | 「………」 | "........."
| |
547 | 雪菜 | Setsuna | 「ずっと一人の相手を引きずって…根暗だよ! しかもその相手がこっち向いても受け入れられなくて… まるで分裂症だよ!」 | ||
548 | 朋 | Tomo | 「あ~、そのケあるかもねぇ」 | ||
549 | 雪菜 | Setsuna | 「あなたなんかに…あんたなんかに、 わたしの気持ちがわかるわけがない!」 | ||
550 | 朋 | Tomo | 「わかるわけないじゃない。 そんなキモい女の心なんか」 | ||
551 | 雪菜 | Setsuna | 「っ…ぅ、ぅぅ…っ」 | ||
552 | 朋 | Tomo | 「………い~いこと聞いちゃった。 元・峰城のアイドル小木曽雪菜の知られざる素顔」 | ||
553 | 雪菜 | Setsuna | 「ぅぅ…ぅ、く…」 | ||
554 | 朋 | Tomo | 「どんな男も想像できそうにない、 暗くて、深くて、キモい心の闇。 真実を知ったら、みんなどう思うんだろ?」 | ||
555 | 雪菜 | Setsuna | 「…勝手に言いふらせばいいでしょ? あなたはわたしと違ってお喋りなんだから」 | ||
556 | 朋 | Tomo | 「こんな話、誰が言ったって信じないでしょ。 それどころか、こっちが気の毒な顔されるわ。 そんな嘘までついて陥れたいほど嫉妬してるのかってね」 | ||
557 | 雪菜 | Setsuna | 「それでいいじゃない… それこそが、現・峰城のアイドル柳原朋の 知られざる素顔なんだから」 | ||
558 | 朋 | Tomo | 「…やっと、朋って名前を呼んだね?」 | ||
559 | 雪菜 | Setsuna | 「あなたの『小木曽雪菜』って呼び方、大嫌い」 | ||
560 | 朋 | Tomo | 「それは嬉しいわ。 嫌われたくてわざとそう呼んでる身としては」 | ||
561 | 雪菜 | Setsuna | 「………っ」 | ||
562 | 朋 | Tomo | 「じゃあ、そろそろタクシー拾いますか。 あなたの家、末次町よね?」 | ||
563 | 雪菜 | Setsuna | 「そんなことまで知ってるんだ… まるでストーカーみたい」 | ||
564 | 朋 | Tomo | 「ま、当たらずとも遠からずなんじゃない? さ、大通りまで出るわよ」 | ||
565 | 雪菜 | Setsuna | 「わたしに指図しないで…」 | ||
566 | ……… | .........
| |||
567 | 春希 | Haruki | 「っ…」 | ||
568 | 綿棒に染み込ませた消毒薬が指先に触れると、 引きつるような痛みが走り、思わず顔をしかめる。 | ||||
569 | ここ一週間、ほとんど毎日のように行われている 儀式だったけど、未だになかなか慣れてくれない。 | ||||
570 | 春希 | Haruki | 「あ~あ…酷ぇ」 | ||
571 | つけたのは透明な薬液のはずなのに、 真っ赤な色をたたえた腫れた指先を眺めると、 我ながら情けないため息が自然と口をつく。 | ||||
572 | あの頃は、2、3日に一回だった。 最低でも20時間は保つくらいに固かった。 | ||||
573 | 自分の腕の衰えと練習不足と皮膚の弱さ… 互いに相関関係のある、どれも情けない今の現実に ため息をつくと、それが指先に触れてまた痛む。 | ||||
574 | こんなことで、全盛期の自分を取り戻せるんだろうか。 | ||||
575 | 全盛期だって全然大したことなかったのに、 今の俺は、素人に産毛が生えたかどうかもわからない。 | ||||
576 | 春希 | Haruki | 「…乾いたかな?」 | ||
577 | …なんて、今を嘆いて何も始めないのは、 去年までの俺でしかない。 | ||||
578 | 今の俺は、痛む指をさすり、ブツブツ泣き言は言うけど、 その後、傷ついた指にテーピングをして、 何事もなかったかのように練習を再開する。 | ||||
579 | …せめて今日中に、最初のハードルだけは 越えておきたい。 | ||||
580 | 春希 | Haruki | 「…おっと」 | ||
581 | と、気合いを入れ直したところに、 タイミング良く…というか悪く、無粋な横槍が入った。 | ||||
582 | 充電器の上の携帯が電子音とともに振動し、 俺を電話に出るよう催促してくる。 | ||||
583 | 俺はテープを巻いた指に触れないよう携帯を手に取り、 そのまま画面も確認せず無造作に着信ボタンを押した。 | ||||
584 | だって多分それは、ここ数日毎日のようにかかってくる、 武也の陣中見舞いにして励ましにして賑やかし… | ||||
585 | ??? | ??? | 「北原春希のばかぁっ!」 | ||
586 | 春希 | Haruki | 「………え?」 | ||
587 | ……… | .........
| |||
588 | 雪菜 | Setsuna | 「っ…ぅ、ぅぇぇ…ふぇぇぇぇ…」 | ||
589 | 雪菜 | Setsuna | 「いっ…ぁ、ぅ…ぅ、くっ…」 | ||
590 | 雪菜 | Setsuna | 「っ!」 | ||
591 | 雪菜 | Setsuna | 「うるさいなぁ! こんな夜遅くに電話してこないでよ!」 | ||
592 | 春希 | Haruki | 「………ごめん」 | ||
593 | 雪菜 | Setsuna | 「馬鹿、馬鹿、馬鹿ぁ… 春希くんの…春希くんの…ばかぁ…っ」 | ||
594 | 春希 | Haruki | 「ごめんな、雪菜…」 | ||
595 | 雪菜 | Setsuna | 「なに謝ってるのよ… 最初に掛けたのはこっちなのに、 こんな酷い言いがかりにどうして謝っちゃうのよ!」 | ||
596 | 春希 | Haruki | 「うん…」 | ||
597 | 雪菜は、明らかに酩酊してた。 | ||||
598 | 雪菜 | Setsuna | 「わたしに振られたくせに、そうやってぺこぺこ謝ったり、 まだ好きだなんて諦めの悪いこと言ったり、 ほんと、今の春希くんってイライラするよ!」 | ||
599 | 春希 | Haruki | 「そうだな…」 | ||
600 | 普段の、過剰なまでの遠慮や消極さはなりを潜め、 逆に過剰なほど昂ぶった感情をぶつけてきた。 | ||||
601 | 雪菜 | Setsuna | 「それでいて、 わたしが辛い思いをしてるときも何もしてくれない… 本当に、本当に役立たずなんだからっ!」 | ||
602 | 春希 | Haruki | 「何か、あった? 話してみる気、ある?」 | ||
603 | それは、出会って間もない頃の、 電話口だといつもの3倍くらいワガママになってしまう、 困った雪菜。 | ||||
604 | 雪菜 | Setsuna | 「なんで助けに来てくれなかったのよ… 呼んだのに…わたし、あなたのこと何度も呼んだのに!」 | ||
605 | 春希 | Haruki | 「気づかなかった…悪い」 | ||
606 | 雪菜 | Setsuna | 「わたし、あなたのせいで、あなたのせいで…っ あなた以外の男に触られた! 身の毛もよだつ思いがした!」 | ||
607 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
608 | 雪菜 | Setsuna | 「後悔、した?」 | ||
609 | 春希 | Haruki | 「うん」 | ||
610 | 雪菜 | Setsuna | 「相手の男の人に嫉妬、した?」 | ||
611 | 春希 | Haruki | 「引き裂いてやろうかと思った」 | ||
612 | 雪菜 | Setsuna | 「嘘つき… そんな淡々と言わないでよ… 気にしてないのが見え見えで、また泣けてくる…っ」 | ||
613 | 春希 | Haruki | 「ごめんな…」 | ||
614 | 嘘じゃ、ないんだけど。 手に持った携帯を握り潰してしまいそうなんだけど。 | ||||
615 | ただ、今の俺は、激情に身を任せることはできない。 まだ、雪菜に対してそんな権利はない。 | ||||
616 | 雪菜 | Setsuna | 「もう嫌… なんでこんな辛い思いをしなきゃならないの?」 | ||
617 | 今の彼女があるのは、 間違いなく酒のせいに違いなかった。 | ||||
618 | そして今日遭遇した 嫌な出来事のせいでもあると思われた。 | ||||
619 | 雪菜 | Setsuna | 「あなたが…春希くんが、 いつまでも、遠くも近くもないところにいるせいだよ…」 | ||
620 | 春希 | Haruki | 「雪菜…」 | ||
621 | 多分雪菜は、明日になって酔いが醒めたら、 数時間前まで赤かった顔を真っ青に染めて、 俺に電話を掛けたことすらものすごく後悔するだろう。 | ||||
622 | 雪菜 | Setsuna | 「逃げないで、でも近づかないでって… そんなわたしの気まぐれを忠実に守ってるせいだよ…」 | ||
623 | でも今は、彼女の傍らにあるグラスと酒瓶に感謝した。 それに手を伸ばさせた『嫌なこと』に感謝した。 | ||||
624 | …『嫌な男』には破滅を願ったけど。 | ||||
625 | 雪菜 | Setsuna | 「全部、あなたのせいなんだよ…?」 | ||
626 | だって、あの、元旦の時以来、 雪菜の声を聞くことができたんだから。 | ||||
627 | 三年以上前以来の、 雪菜の罵倒を浴びることができたんだから。 | ||||
628 | 雪菜 | Setsuna | 「わたしは全然悪くないんだよ…?」 | ||
629 | これが、かつて俺が奪ってしまった純粋な雪菜。 俺が潰してしまった残酷な雪菜。 | ||||
630 | 俺が消してしまった、本物の雪菜。 | ||||
631 | 雪菜 | Setsuna | 「ただ、あなたに裏切られて、振り回されて、 こんな根暗でキモい女の子に なっちゃっただけなんだよ…?」 | ||
632 | 春希 | Haruki | 「っ…」 | ||
633 | 涙が出るほど懐かしかった。 いや、実際にこぼれてた。 | ||||
634 | いつか、酒の力も何も借りない普段のままで、 この雪菜にもう一度会いたいって思った。 | ||||
635 | ワガママを言われたい。 拗ねられたい。 困らされたい。 | ||||
636 | 馬鹿みたいに、甘えてもらいたい。 | ||||
637 | 俺が失ったものを… 俺のせいで失ったものを、取り返したい。 | ||||
638 | 雪菜 | Setsuna | 「何とか…言いなさいよ。 叱りなさいよ、怒鳴りなさいよ…」 | ||
639 | 春希 | Haruki | 「うん…」 | ||
640 | 雪菜 | Setsuna | 「相手の間違いを指摘しない春希くんなんて、 そんなの本物の北原春希じゃないよぉ…っ」 | ||
641 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
642 | 雪菜 | Setsuna | 「わたしの…わたしの春希くんじゃ…」 | ||
643 | 春希 | Haruki | 「あのさ、雪菜…」 | ||
644 | 雪菜 | Setsuna | 「な………なに?」 | ||
645 | 春希 | Haruki | 「いったん、切るな」 | ||
646 | 雪菜 | Setsuna | 「っ!? なんでぇっ!?」 | ||
647 | 春希 | Haruki | 「えっと…別に大したことじゃないんだ。 ただ、部屋の電話から掛け直すだけ」 | ||
648 | 雪菜 | Setsuna | 「…どうして携帯じゃいけないの?」 | ||
649 | 春希 | Haruki | 「…ちょっとね」 | ||
650 | 雪菜 | Setsuna | 「そんなこと言って、 本当はもう掛けてこないんでしょ? …わたしなんかともう話したくないんでしょ?」 | ||
651 | 春希 | Haruki | 「絶対に掛けるから」 | ||
652 | 雪菜 | Setsuna | 「それで携帯の電源切って、 部屋の電話もケーブル引っこ抜いて…っ」 | ||
653 | 春希 | Haruki | 「しないって。 そんなことするわけないだろ、俺が…」 | ||
654 | 雪菜 | Setsuna | 「今まで何度も裏切ってきたくせに! ずっと逃げて、距離を置いてきたくせに!」 | ||
655 | 春希 | Haruki | 「雪菜…」 | ||
656 | 雪菜 | Setsuna | 「信じられない… 絶対に、絶対に…切っちゃ嫌ぁ」 | ||
657 | 春希 | Haruki | 「………今だけ。 あと一度だけ、俺を信じて」 | ||
658 | 雪菜 | Setsuna | 「待って! 春希くん待っ…っ!?」 | ||
659 | 雪菜 | Setsuna | 「ぁ、ぁ…っ」 | ||
660 | 雪菜 | Setsuna | 「そんな、こと言われたって… 不安なものは、不安なんだよぉ」 | ||
661 | 雪菜 | Setsuna | 「それくらいのこと、わかってよぉ…っ」 | ||
662 | 雪菜 | Setsuna | 「っ…ぅ、ぅぅ…」 | ||
663 | ……… | .........
| |||
664 | 雪菜 | Setsuna | 「早く、早く…」 | ||
665 | …… | ......
| |||
666 | 雪菜 | Setsuna | 「早く、ぅ…っ」 | ||
667 | … | ...
| |||
668 | 雪菜 | Setsuna | 「っ!」 | ||
669 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くん…春希くん、春希くんっ!」 | ||
670 | 雪菜 | Setsuna | 「………ぁ」 | ||
671 | 春希 | Haruki | 「ごめん… 固定電話の方にしか、ハンズフリーがなかったから」 | ||
672 | 雪菜 | Setsuna | 「は、ぁぁ…ぁ…」 | ||
673 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
674 | スピーカーモードにした電話機から、 ノイズ混じりの雪菜の声が聞こえる。 | ||||
675 | それはかなり音質が悪くて、 ため息なのか、笑い声なのか、涙声なのか、 まるで判別がつかなかった。 | ||||
676 | ただそれは、さっきまでの 悲しそうで、不安そうで、感情的な息遣いとは違ってた。 | ||||
677 | 春希 | Haruki | 「先週から始めたばかりだから、 まだ下手だけど…」 | ||
678 | 雪菜 | Setsuna | 「………ほんと、へたくそ」 | ||
679 | 春希 | Haruki | 「ん…」 | ||
680 | 雪菜 | Setsuna | 「でも…昔からそんなに上手くもなかったよね」 | ||
681 | 春希 | Haruki | 「ま、ね」 | ||
682 | 弦を握り込む右手の指先が、ぴりぴりと痛む。 | ||||
683 | ここ数日の『1日10時間』の練習のせいで、 神経が剥き出しになるほど皮を剥いてしまったから。 | ||||
684 | もうすぐ四年だってのに。 もうすぐ就職活動だってのに。 もうすぐ期末試験だってのに… | ||||
685 | 何やってんだろうな、俺。 | ||||
686 | 雪菜 | Setsuna | 「なにやってるの春希くん… もうすぐ、試験なのに」 | ||
687 | 春希 | Haruki | 「本当に、なぁ」 | ||
688 | 雪菜 | Setsuna | 「馬鹿、みたいだよ。 何の意味もないよ」 | ||
689 | 春希 | Haruki | 「うん、馬鹿だよな。 無意味だよな」 | ||
690 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
691 | そんな呆れたような言葉を投げかける雪菜は、 やっぱり、さっきまでの雪菜とは、明らかに違ってた。 | ||||
692 | 言葉から力が抜けて、感情が和らいで、 声も、ギリギリ聞き取れるくらいに小さくなって。 | ||||
693 | 雪菜 | Setsuna | 「ねぇ、春希くぅん」 | ||
694 | 春希 | Haruki | 「ん?」 | ||
695 | なにより… | ||||
696 | とっても、眠たそうだった。 | ||||
697 | 雪菜 | Setsuna | 「わたし、あなたが大好き。 けれど、あなたが大嫌い…」 | ||
698 | 春希 | Haruki | 「俺は、雪菜が大好きだ。 ただ、それだけだよ」 | ||
699 | 雪菜 | Setsuna | 「知ってたよ、そんなこと…」 | ||
700 | 春希 | Haruki | 「うん…」 | ||
701 | 雪菜 | Setsuna | 「だってわたしは、春希くんのこと、 なんでも知ってるんだから…」 | ||
702 | 春希 | Haruki | 「なぁ、雪菜…」 | ||
703 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
704 | 春希 | Haruki | 「雪菜…?」 | ||
705 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
706 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
707 | 雪菜 | Setsuna | 「すぅ…すぅぅ…」 | ||
708 | 春希 | Haruki | 「………おやすみ」 | ||
709 | 雪菜 | Setsuna | 「ん………んぅ」 |
Script Chart
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Introductory Chapter | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1001 | 1008 | 1009 | 1010 | 1011 | 1012 | 1013 |
1002 | 1008_020 | 1009_020 | 1010_020 | 1011_020 | 1012_020 | |
1003 | 1008_030 | 1009_030 | 1010_030 | 1011_030 | 1012_030 | |
1004 | 1008_040 | 1010_040 | 1012_030_2 | |||
1005 | 1008_050 | 1010_050 | ||||
1006 | 1010_060 | |||||
1006_2 | 1010_070 | |||||
1007 |
Closing Chapter | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | ||||||
2001 | 2011 | 2020 | 2027 | 2301 | 2309 | 2316 | 2401 | 2408 | 2501 | 2510 |
2002 | 2012 | 2021 | 2028 | 2302 | 2310 | 2317 | 2402 | 2409 | 2502 | 2511 |
2003 | 2013 | 2022 | 2029 | 2303 | 2311 | 2318 | 2403 | 2410 | 2503 | 2512 |
2004 | 2014 | 2023 | 2030 | 2304 | 2312 | 2319 | 2404 | 2411 | 2504 | 2513 |
2005 | 2015 | 2024 | 2031 | 2305 | 2313 | 2320 | 2405 | 2412 | 2505 | 2514 |
2006 | 2016 | 2025 | 2032 | 2306 | 2314 | 2321 | 2406 | 2413 | 2506 | 2515 |
2007 | 2017 | 2026 | 2033 | 2307 | 2315 | 2322 | 2407 | 2507 | 2516 | |
2008 | 2018 | 2308 | 2508 | 2517 | ||||||
2009 | 2019 | 2509 | ||||||||
2010 | ||||||||||
Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | |||||||
2031_2 | 2312_2 | 2401_2 | 2504_2 | 2511_2 | ||||||
2031_3 | 2313_2 | 2402_2 | 2507_2 | 2513_2 | ||||||
2031_4 | 2313_3 | 2402_3 |
Coda | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Kazusa (True) | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | ||||||
3001 | 3008 | 3014_2 | 3020 | 3101 | 3107 | 3201 | 3207 | 3901 | 3907 |
3002 | 3009 | 3014_3 | 3021 | 3102 | 3108 | 3202 | 3208 | 3902 | 3908 |
3003 | 3010 | 3015 | 3022 | 3103 | 3109 | 3203 | 3209 | 3903 | 3909 |
3004 | 3011 | 3016 | 3023 | 3104 | 3110 | 3204 | 3210 | 3904 | |
3005 | 3012 | 3017 | 3024 | 3105 | 3111 | 3205 | 3211 | 3905 | |
3006 | 3013 | 3018 | 3106 | 3206 | 3906 | ||||
3007 | 3014 | 3019 | |||||||
Common | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | |||||||
3001_2 | 3210_2 | 3901_2 | 3906_2 | ||||||
3015_2 | 3902_2 | 3907_2 | |||||||
3902_3 | 3907_3 | ||||||||
3904_2 |
Mini After Story and Extra Episode | |||
---|---|---|---|
The Path Back to Happiness | The Path Forward to Happiness | Dear Mortal Enemy | |
6001 | 6101 | 4000 | 4005 |
6002 | 6102 | 4001 | 4006 |
6003 | 6103 | 4002 | 4007 |
6004 | 6104 | 4003 | 4008 |
6005 | 4004 | 4009 |
Novels | |||||
---|---|---|---|---|---|
The Snow Melts, And Until The Snow Falls | The Idol Who Forgot How to Sing | Twinkle Snow ~Reverie~ | After the Festival ~Setsuna's Thirty Minutes~ | His God, Her Savior | |
5000 | 5100 | 5200 | 5205 | 5300 | 5400 |
5001 | 5101 | 5201 | 5206 | 5301 | 5401 |
5002 | 5102 | 5202 | 5207 | 5302 | |
5003 | 5103 | 5203 | 5208 | 5303 | |
5004 | 5104 | 5204 | 5209 |
Short Stories | |||
---|---|---|---|
Princess Setsuna's Distress and Her Minister's Sinister Plan | Koharu Climate After the Passing of the Typhoon | This isn't the Season for White Album | Todokanai Koi, Todoita |
7000 | 7100 | 7200 | 7300 |