White Album 2/Script/3904
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Speaker | Text | Comment | |||
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Line # | JP | EN | JP | EN | |
1 | 留守電アナウンス | Answering Machine | 「ただ今留守にしております。 ご用の方は発信音の後にメッセージをお願いします」 | "The person you are trying to contact isn't here right now. Please leave a message at the tone."
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2 | ??? | ??? | 「お、春希か? 久しぶりやな~! …って、覚えとる? 俺のこと?」 | "Oh, Haruki? Long time, no see! ...Do you remember me?"
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3 | ??? | ??? | 「ほら、早坂! 早坂親志! 付属の三年とき、おんなじクラスやったやん?」 | "Hey, it's Hayasaka! Chikashi Hayasaka! Weren't we in the same class for three years?"
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4 | 親志 | Chikashi | 「ほんま久しぶりやな。もう五年か? お前ちっとも連絡よこさんし、ったく友達甲斐のない奴や。 …って、俺も二年ぶりやけどな」 | "It really has been a while. Five years have already gone by, huh? We haven't talked all this time, I guess we're not really that close. ...Well, I can't say I haven't also been busy for the last two years." | |
5 | 親志 | Chikashi | 「あ~、そや、こんなんしとる場合やなかった、本題本題。 あんな、いま日本に来とるやろ冬馬? ほら、俺らと同じクラスやった冬馬かずさ」 | "Ah, anyway, the main issue here. So apparently, Touma just went to Japan? Wait, we were in the same class as Kazusa Touma." | |
6 | 親志 | Chikashi | 「…まぁ、お前にそっちの説明はいらん思うけど、 実は俺な、追加公演のチケット何とか手に入ってな。 二月の末にそっち行こう思ってんねん」 | ||
7 | 親志 | Chikashi | 「それで、せっかく東京戻るんやし、 時間取れるんやったら久しぶりにみんなで会いたいなぁって」 | ||
8 | 親志 | Chikashi | 「…また夜に電話すっから、 ちょっと考えといてや」 | ||
9 | 親志 | Chikashi | 「そんじゃ、また………あ、そやった。 この前、武也から電話あってな」 | ||
10 | 親志 | Chikashi | 「聞いたでお前? すごいやん!」 | ||
11 | 鈴木 | Suzuki | 「ほ~い、松っちゃん、春ちゃん。 先輩からの愛を込めたおすそ分けだよ~」 | ||
12 | 松岡 | Matsuoka | 「おすそ分けって言ってる時点で 義理感覚満載なんですけど…」 | ||
13 | 春希 | Haruki | 「まぁでも今のご時世、義理でも重要ですし…」 | ||
14 | 鈴木さんが男性陣の机に順番で置いていくチョコレートは、 まるで出張先の土産のようなサイズと予算が見て取れた。 | ||||
15 | 具体的には、ハワイ土産で定番の マカダミアナッツチョコを一人につき一粒ずつ。 | ||||
16 | …それでも、某バイト先で一緒だった チョコ○ビー一粒を配る人に比べたら、 随分と良心的なので文句を言う気にもなれなかったけど。 | ||||
17 | 鈴木 | Suzuki | 「来月、楽しみにしてるからね~。 わたし今ろくろ屋のバウムクーヘンにハマってんだ。 西急の地下にあるんだけどいっつも1時間待ちで」 | ||
18 | 松岡 | Matsuoka | 「なぁ北原、俺が金半分出すから お前は並んできてくれよな?」 | ||
19 | 春希 | Haruki | 「…素直に『お前買ってきてくれ。ワリカンで』 と言ってくれた方が印象いいんですけど」 | ||
20 | そんなわけで、2月14日。 | ||||
21 | ここ数日、コンビニからデパ地下まで、 バリエーション豊かなチョコレートで埋め尽くした 製菓業者の、その企業努力が報われる日。 | ||||
22 | そして俺にとってはもう一つの、 そして全然重みの違う記念日でもあり… | ||||
23 | 松岡 | Matsuoka | 「ところで北原? お前、今年は何個くらい貰えそう? できれば誤差プラスマイナス1くらいで 答えて欲しいんだけど」 | ||
24 | 春希 | Haruki | 「…なんでそんなことそんな精度で 喋らなくちゃならないんですか?」 | ||
25 | 松岡 | Matsuoka | 「だって浜田さんは娘にもらったチョコ自慢しかしないし、 木崎さんも結婚決めちゃって食いつき悪くなったしさぁ、 勝負できそうなのお前ぐらいしかいないんだよ」 | ||
26 | 春希 | Haruki | 「俺が聞いてるのは、どうしてそんなことで 勝負しなくちゃならないかなんですが」 | ||
27 | 鈴木 | Suzuki | 「それが松っちゃんの先輩としてのプライドなんでしょ。 そりゃ、仕事で打ち負かせと言ってやりたいけどね」 | ||
28 | 松岡 | Matsuoka | 「何言ってんですか。 麻理さんに手取り足取り鍛えられた北原に 俺が勝てるわけないでしょ?」 | ||
29 | 鈴木 | Suzuki | 「二年先輩がこの言い草… あんただって麻理さんに頭下げてお願いしてたら とことんまで鍛えてくれたのに」 | ||
30 | 松岡 | Matsuoka | 「そうかなぁ… 麻理さん、北原のこと特別扱いしてた気がするけど」 | ||
31 | 鈴木 | Suzuki | 「そりゃまぁ、 お気に入りの男の子だったことだけは確かだけどね。 …そのうちアメリカにまでお呼びがかかるかも」 | ||
32 | 春希 | Haruki | 「出先行ってきます! 今日はそのまま直帰ですから!」 | ||
33 | 今日の浮かれた日に、この人たちに付き合ってると、 痛くも無くない腹を探られるかもしれないから さっさと職場から逃げ出した。 | ||||
34 | それに今日は、 他にも早く上がらなくちゃならない理由がある。 | ||||
35 | まだ誕生日プレゼント、買ってない… 今夜、小木曽家に呼ばれてるってのに。 | ||||
36 | ……… | .........
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37 | 女性記者 | Female Reporter | 「関係筋からの情報によりますと、 かずささんは手を怪我していて、 次回公演までに間に合わないかもしれないとか…」 | ||
38 | 曜子 | Youko | 「いいえ、そのようなことはありません。 確かに前回公演後、手首に少し痛みが出たようですが、 現在は完治していますので」 | ||
39 | 女性記者 | Female Reporter | 「前回のコンサートでは、 一部でコンディション不良と報道されましたが、 その痛みによるものだったということでしょうか?」 | ||
40 | 曜子 | Youko | 「それも違います。痛み出したのはコンサート後で… とにかく次回は最高のパフォーマンスをお約束します」 | ||
41 | 女性記者 | Female Reporter | 「やはり前回は良い演奏ではなかったと…」 | ||
42 | 曜子 | Youko | 「そんなことは言ってません。 前回よりも更に良いものを目指すのは当然でしょう?」 | ||
43 | 女性記者 | Female Reporter | 「…と、いうようなお話を、 かずささん自身からお伺いしたかったのですが」 | ||
44 | 曜子 | Youko | 「それはすみませんねぇ。 今朝になって急に体調が優れないと連絡がありまして」 | ||
45 | 女性記者 | Female Reporter | 「…本当ですか?」 | ||
46 | 曜子 | Youko | 「わたしの発言は、冬馬かずさの公式のものと 報じていただいて構いません。 それでも何か問題がおありで?」 | ||
47 | 女性記者 | Female Reporter | 「…とある他社さんからの取材には かなり頻繁に応じていらっしゃるようですけど?」 | ||
48 | 曜子 | Youko | 「あらご存じ? 今度アンサンブルから彼女の特集号が出るんですのよ? 記事の中でも是非取り上げてくださると嬉しいですわ」 | ||
49 | 女性記者 | Female Reporter | 「………」 | "........."
| |
50 | 曜子 | Youko | 「…そろそろ時間ですわね。 今日はわざわざありがとうございました」 | ||
51 | ……… | .........
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52 | 美代子 | Miyoko | 「…すいません。 こんな大変な時なのに無理して来ていただいて」 | ||
53 | 曜子 | Youko | 「…美代ちゃん。 あの子の取材は勝手に請けないでって言ったでしょ。 いつこういうことが起こるかわからないんだから」 | ||
54 | 美代子 | Miyoko | 「本当に申し訳ありません。 昨日までは短い時間なら問題ないと言ってたので…」 | ||
55 | 曜子 | Youko | 「それで、あの子と連絡はついた?」 | ||
56 | 美代子 | Miyoko | 「それが…」 | ||
57 | 曜子 | Youko | 「………」 | "........."
| |
58 | 美代子 | Miyoko | 「誰か部屋に向かわせましょうか? もし本当に体調を崩されていたら…」 | ||
59 | 曜子 | Youko | 「それはないから安心して。 体調管理に関しては優秀なマネージャー付けてるから」 | ||
60 | 美代子 | Miyoko | 「そうなんですか?」 | ||
61 | 曜子 | Youko | 「ま…諸刃の剣なんだけどね」 | ||
62 | 午後7時。 | ||||
63 | やっと仕事も… いや、それは5時には終わらせたけど。 | ||||
64 | やっとプレゼントも手に入れて… 相変わらず選ぶのに2時間くらいかかったけど。 | ||||
65 | とにかく、本日の大事な用事は全て終了し、 今から本日の最も大事な用事へと移る。 | ||||
66 | 雪菜の誕生日パーティ。 小木曽家のホームパーティ。 | ||||
67 | そして… ご両親への、正式な挨拶。 | ||||
68 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
69 | 雪菜はそんなこと、一言も求めなかった。 ただ、俺の決断の言葉を笑顔と涙で受け止めてくれた。 | ||||
70 | そして、友人たちは矢のようにけしかけた。 …今でも毎日確認のメールが届くくらいに。 | ||||
71 | けれど別に、それらの空気に背中を押されたから 決心した訳じゃない。 | ||||
72 | ただ前回、そういった話がうやむやのまま、 何の結論も出さずに小木曽家を退去してしまった以上、 常識的に今日は何らかの意思表示をするべきで… | ||||
73 | そして、俺も雪菜も周りの雰囲気も、 この話をなかったことにする流れは どこにも存在しないから。 | ||||
74 | 少なくとも、表面上は… | ||||
75 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
76 | そんな思いに耽りながら俺が選んだ通話先は、 『雪菜』じゃなくて『[R坂本純生^かずさ]』だった。 | ||||
77 | 平日だから、今日中に部屋には帰るつもりだけど、 それでも『[R今日は帰れない^2]』と伝言を残すために。 | ||||
78 | だって、今日だけは… かずさの顔をまともに見られない。 | ||||
79 | 俺と雪菜が、絶対的な第一歩を踏み出す、 そんな今日だけは… | ||||
80 | かずさ | Kazusa | 「春希…」 | ||
81 | 春希 | Haruki | 「え…?」 | ||
82 | 留守番電話に繋がるまでには、 いつもは8回ほどコールを待つ必要があった。 | ||||
83 | なのに今日は、 たった2回くらいのコールで繋がってしまった。 | ||||
84 | かずさ | Kazusa | 「春希ぃ…」 | ||
85 | 春希 | Haruki | 「かずさ…?」 | ||
86 | そして、スピーカーから流れてきたのは、 オペレーターの無味乾燥な明るさとは対極にある、 静かだけど、深い声。 | ||||
87 | かずさ | Kazusa | 「っ…あ、あは、あはは…」 | ||
88 | 冷静に話そうとして大失敗してるみたいな… | ||||
89 | 具体的には、笑おうとして泣き出してしまったような、 そんな、不安定な感情がダイレクトに伝わる声。 | ||||
90 | 春希 | Haruki | 「どうしたんだ、よ…」 | ||
91 | ここ数日はなりを潜めてたのに。 | ||||
92 | かずさ | Kazusa | 「ぃぅっ…ぅ、ぅぅ…ご、ごめん。 出ちゃいけない、はずだったのに」 | ||
93 | 春希 | Haruki | 「いいよそんなの… なんか急ぎの用があったんだろ?」 | ||
94 | 三食ちゃんと食べてた。 かすかだけど笑ってくれてた。 | ||||
95 | 昼間は[R普段の生活^ピアノ]を取り戻してた。 夜は優しく抱きあって、キスをしあってた。 | ||||
96 | 残り少ない二人だけの生活を楽しく過ごそうって、 そう、誓い合っていたはずなのに… | ||||
97 | かずさ | Kazusa | 「別に…別に…急ぎなんかじゃ… ただ、お祝いの言葉、伝えないとって…」 | ||
98 | 春希 | Haruki | 「雪菜の…誕生日のこと?」 | ||
99 | かずさ | Kazusa | 「雪菜と…春希に。 ………婚約、おめでとうって。 ~~~っ、ぅ、ぅぅ…ぅぁぁ…ぁ…っ」 | ||
100 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
101 | どうして、それを? | ||||
102 | どうしてそのことを、 俺以外に日本と繋がらないはずのお前が知ってんだよ… | ||||
103 | かずさ | Kazusa | 「ぃ、ぃぅ…、っ…ぁ、ぁぁ… な、なんでもない、なんでも…」 | ||
104 | 違うんだ、それは… | ||||
105 | それは、かずさとこうなる前の、 俺が、お前を拒絶するために選んだ決断で。 | ||||
106 | 今の俺は、あの頃とは… | ||||
107 | 春希 | Haruki | 「…会って話そう」 | ||
108 | そんな、言い訳でしかない言葉をどれだけ羅列しても、 かずさどころか俺でさえ納得できるはずがない。 | ||||
109 | かずさ | Kazusa | 「話すことなんて…ないよぅ。 お前は、何も間違ったこと、してないじゃないかぁ…っ」 | ||
110 | かずさとこうなってからも推し進めたのは俺で、 今でもその決断を間違ってるとは思っていないのも俺で。 | ||||
111 | 春希 | Haruki | 「それでも会って話そう。 今どこだ? まだ俺の部屋か?」 | ||
112 | かずさ | Kazusa | 「やめろ、やめろよ…」 | ||
113 | 嘘がばれる可能性があることを知りながら、 俺の部屋で愛し合い、そのまま寝かせておいたのも… | ||||
114 | かずさ | Kazusa | 「だってお前は、今から雪菜のところに行くんだろ? 誕生日、祝いに行くんだろ?」 | ||
115 | つまり… また、かずさを悲しませたのも、やっぱり俺で… | ||||
116 | 春希 | Haruki | 「すぐ帰る。 だからそこにいろ。 いいか? 一歩も動くなよ?」 | ||
117 | かずさ | Kazusa | 「雪菜の親に……… 結婚認めてもらいに、行くんだろぉ…っ?」 | ||
118 | 春希 | Haruki | 「行かないから! 今からお前のところに帰るから…」 | ||
119 | 春希 | Haruki | 「………っ」 | ||
120 | 最後の俺の言葉が、 かずさに届いたかどうかは微妙だった。 | ||||
121 | 俺の想いが、 かずさに届いたかどうかは、もっと微妙だった… | ||||
122 | 自分が冷静さを失っていくのを、 頭の中だけで理解する。 | ||||
123 | そして、かずさのこととなると、 頭の言うことをまるで聞かない手足が動き出す。 | ||||
124 | 春希 | Haruki | 「雪菜…?」 | ||
125 | 最低の嘘を喋る口が、 俺の心の全てを支配する。 | ||||
126 | 春希 | Haruki | 「ごめん、俺… 仕事が…どうしても抜けられない取材、入っちゃって」 | ||
127 | ……… | .........
| |||
128 | 雪菜 | Setsuna | 「それじゃ…始めよっか?」 | ||
129 | 孝宏 | Takahiro | 「北原さん、なんだって?」 | ||
130 | 雪菜 | Setsuna | 「ん…遅れるって。 どうしても抜けられない仕事が入っちゃったみたい」 | ||
131 | 雪菜の母 | Setsuna's Mother | 「そんなぁ… せっかく雪菜が会社休んでまで準備したのに…」 | ||
132 | 雪菜 | Setsuna | 「そんなの別に気にしないよ。 今日のお休みだって、この前の出張の代休なんだし」 | ||
133 | 雪菜の父 | Setsuna's Father | 「雪菜の方が変に張り切り過ぎなんだ。 だいたい今日は木曜日だぞ? そう簡単に早く帰れる男の方が頼りにならん」 | ||
134 | 雪菜の母 | Setsuna's Mother | 「遅くまで働いた方が偉いとか、 もうそんな時代じゃないでしょうに。 わたしは家庭を大事にしてくれる人の方がいいわねぇ」 | ||
135 | 孝宏 | Takahiro | 「てか、あからさまにほっとしてるよね父さん。 どうせいつかは通らなくちゃならない道なのに…」 | ||
136 | 雪菜 | Setsuna | 「………っ」 | ||
137 | ……… | .........
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138 | 春希 | Haruki | 「っ…」 | ||
139 | 俺が席から立ち上がると、 目の前で吊革に掴まっていた中年の女性が、 また俺の方に気遣わしげな目を向けてきた。 | ||||
140 | 春希 | Haruki | 「…大丈夫です。 次で降りますから。 本当にありがとうございました」 | ||
141 | さっき、このご婦人に優先席を譲られた。 | ||||
142 | …どうやら今の俺は、傍目に見ても異常なくらい、 全身を汗で濡らしていたらしかった。 | ||||
143 | 車内アナウンス | Train Announcement | 「間もなく、南末次、南末次。 お出口は左側になります」 | ||
144 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
145 | 電車に乗った瞬間、 俺の体に様々な変調が一気に訪れた。 | ||||
146 | 頭痛と吐き気と寒気… 心臓は早鐘のように打ち鳴らされ、 吊革を掴もうとした手は面白いくらいに震えていた。 | ||||
147 | 最初は、効きすぎてる暖房のせいだと思った。 その温かさに慣れればすぐに治まると思ってた。 | ||||
148 | けれど、俺の体から発せられる熱量は、 どうやらそんな生易しいものじゃないらしく、 みるみるうちに周囲にも伝わるくらいに青ざめていった。 | ||||
149 | 車内アナウンス | Train Announcement | 「南末次、南末次です。 お降りの方はドアにお気をつけください」 | ||
150 | そしてその変調は、 俺の目的地に近づくにつれ、 ますます酷くなっていった。 | ||||
151 | 俺の目的地… [R本当の目的地^すえつぐちょう]の、[R一つ前の駅^みなみすえつぐ]に近づくにつれ。 | ||||
152 | 春希 | Haruki | 「っ…はぁっ、はぁっ…はぁぁ…っ」 | ||
153 | その駅のホームへと足を下ろすとき、 全身が痺れたような嫌な感覚に襲われた。 | ||||
154 | 勝手に降りようとする手足に対して 頭だけが『ここじゃない』と必死に抵抗してた。 | ||||
155 | 駅アナウンス | Station Announcement | 「ドアが閉まります。 ご注意ください」 | ||
156 | けれどもう、何もかも遅い… | ||||
157 | さっき、雪菜に電話したときに、 俺はもう、決心してしまっていたんだから。 | ||||
158 | 五年前と同じことをするって。 雪菜の記念日に、俺たちの一番大事な日に… | ||||
159 | また、雪菜を裏切るんだって。 | ||||
160 | もう、俺の足下の地面は動いていないはずなのに、 今でもまるで宙に浮いているみたいだった。 | ||||
161 | ベンチに腰掛けて少し休みたかった。 | ||||
162 | この寒風に体を晒して、汗と頭痛と吐き気を止めたかった。 寒気は…この際我慢してでも。 | ||||
163 | 春希 | Haruki | 「っ…」 | ||
164 | けれど、そんな時間なんかない。 自分を気遣う暇なんか残ってない。 | ||||
165 | 早く改札を抜けないと。 早く部屋に帰らないと。 早く…かずさを捕まえないと。 | ||||
166 | 電車の中で待ち望んでいた寒い風が、 ホームの階段から強く吹き下ろされていた。 | ||||
167 | けれど、今、この逆風に逆らって ホームを昇っていかなきゃならない俺にとっては、 顔にかかる乾いた冷たさが恨めしかった。 | ||||
168 | 寒気だけが、どんどん強まっていく。 汗も頭痛も、ちっとも治まらないくせに。 | ||||
169 | だから後は… 雪が降らないことだけを祈ってた。 | ||||
170 | あの時の風景と、 ほんの少しでも重ならないことを、祈ってた。 | ||||
171 | ……… | .........
| |||
172 | 春希 | Haruki | 「あ…」 | ||
173 | かずさ | Kazusa | 「………」 | "........."
| |
174 | マンションまでの、いつもなら徒歩5分の道のりに、 タクシーを使うかどうかという迷いは、 すぐに意味のないものになった。 | ||||
175 | 春希 | Haruki | 「部屋で待ってろって、言っただろ…」 | ||
176 | かずさ | Kazusa | 「っ…」 | ||
177 | 俺から逃げ出そうとしたのか、 一刻も早く会おうとしたのか… | ||||
178 | 春希 | Haruki | 「帰ろう。 俺たちの部屋に」 | ||
179 | かずさ | Kazusa | 「行けよ… 雪菜のところ、行けよ…っ」 | ||
180 | 春希 | Haruki | 「かずさ…」 | ||
181 | それとも、どっちの感情をも持て余して、 部屋にいられなくなってしまったのか。 | ||||
182 | かずさ | Kazusa | 「あたし、別に…なんでもないよ」 | ||
183 | 自分の体から、汗が引いていくのがわかる。 | ||||
184 | かずさ | Kazusa | 「ただ、お前と雪菜のこと祝福しただけだ。 話し合うなんて言われても、何もないんだって」 | ||
185 | 春希 | Haruki | 「黙ってて、悪かった…」 | ||
186 | かずさ | Kazusa | 「悪くない… 春希は全然悪くないんだよ…っ」 | ||
187 | 全身を覆っていた熱が徐々に冷めていき、 それに伴って、頭もゆっくり覚めていく。 | ||||
188 | かずさ | Kazusa | 「だって、嘘をつけって言ったのはあたしじゃないか。 隠し事をしたまま、あたしを愛してくれって言ったのは、 誰でもない、あたし自身じゃないか」 | ||
189 | 手足に、少しずつ力が蘇り、 脳が、それらの部品の制御を取り戻していく。 | ||||
190 | かずさ | Kazusa | 「雪菜を愛したままで…って言ったのも… やっぱり、あたしじゃないか…」 | ||
191 | 春希 | Haruki | 「でも、ごめん。 それがお前の本心じゃないってわかってたのに…」 | ||
192 | かずさ | Kazusa | 「本心だよ! お前はあたしの望む通りのお前でいただけだ!」 | ||
193 | 春希 | Haruki | 「かずさ…もう、いいよ」 | ||
194 | 今は、自分の体を気にしてる場合じゃない。 守るべきは、かずさなんだから。 | ||||
195 | かずさ | Kazusa | 「あたしを傷つけず、雪菜を傷つけず、 一番いい道を選び続けてくれただけだ」 | ||
196 | 春希 | Haruki | 「いいんだってば…何も言わなくて」 | ||
197 | かずさの心を守るためには、 自分をねじ伏せるくらい、なんでもない。 | ||||
198 | かずさ | Kazusa | 「あたしがいけないんだ…」 | ||
199 | 春希 | Haruki | 「違うって」 | ||
200 | かずさ | Kazusa | 「知っちゃいけないことまで… お前がせっかく隠してくれてたことまで知ってしまって、 祝いの言葉も上手く言えない、心の狭いあたしが…」 | ||
201 | 春希 | Haruki | 「そんなことないんだって、かずさ」 | ||
202 | かずさ | Kazusa | 「あたし、馬鹿だ… 自分の決めたルールさえ守れない、大馬鹿だ…」 | ||
203 | 春希 | Haruki | 「いい加減に…しろ」 |
Script Chart
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Introductory Chapter | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1001 | 1008 | 1009 | 1010 | 1011 | 1012 | 1013 |
1002 | 1008_020 | 1009_020 | 1010_020 | 1011_020 | 1012_020 | |
1003 | 1008_030 | 1009_030 | 1010_030 | 1011_030 | 1012_030 | |
1004 | 1008_040 | 1010_040 | 1012_030_2 | |||
1005 | 1008_050 | 1010_050 | ||||
1006 | 1010_060 | |||||
1006_2 | 1010_070 | |||||
1007 |
Closing Chapter | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | ||||||
2001 | 2011 | 2020 | 2027 | 2301 | 2309 | 2316 | 2401 | 2408 | 2501 | 2510 |
2002 | 2012 | 2021 | 2028 | 2302 | 2310 | 2317 | 2402 | 2409 | 2502 | 2511 |
2003 | 2013 | 2022 | 2029 | 2303 | 2311 | 2318 | 2403 | 2410 | 2503 | 2512 |
2004 | 2014 | 2023 | 2030 | 2304 | 2312 | 2319 | 2404 | 2411 | 2504 | 2513 |
2005 | 2015 | 2024 | 2031 | 2305 | 2313 | 2320 | 2405 | 2412 | 2505 | 2514 |
2006 | 2016 | 2025 | 2032 | 2306 | 2314 | 2321 | 2406 | 2413 | 2506 | 2515 |
2007 | 2017 | 2026 | 2033 | 2307 | 2315 | 2322 | 2407 | 2507 | 2516 | |
2008 | 2018 | 2308 | 2508 | 2517 | ||||||
2009 | 2019 | 2509 | ||||||||
2010 | ||||||||||
Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | |||||||
2031_2 | 2312_2 | 2401_2 | 2504_2 | 2511_2 | ||||||
2031_3 | 2313_2 | 2402_2 | 2507_2 | 2513_2 | ||||||
2031_4 | 2313_3 | 2402_3 |
Coda | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Kazusa (True) | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | ||||||
3001 | 3008 | 3014_2 | 3020 | 3101 | 3107 | 3201 | 3207 | 3901 | 3907 |
3002 | 3009 | 3014_3 | 3021 | 3102 | 3108 | 3202 | 3208 | 3902 | 3908 |
3003 | 3010 | 3015 | 3022 | 3103 | 3109 | 3203 | 3209 | 3903 | 3909 |
3004 | 3011 | 3016 | 3023 | 3104 | 3110 | 3204 | 3210 | 3904 | |
3005 | 3012 | 3017 | 3024 | 3105 | 3111 | 3205 | 3211 | 3905 | |
3006 | 3013 | 3018 | 3106 | 3206 | 3906 | ||||
3007 | 3014 | 3019 | |||||||
Common | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | |||||||
3001_2 | 3210_2 | 3901_2 | 3906_2 | ||||||
3015_2 | 3902_2 | 3907_2 | |||||||
3902_3 | 3907_3 | ||||||||
3904_2 |
Mini After Story and Extra Episode | |||
---|---|---|---|
The Path Back to Happiness | The Path Forward to Happiness | Dear Mortal Enemy | |
6001 | 6101 | 4000 | 4005 |
6002 | 6102 | 4001 | 4006 |
6003 | 6103 | 4002 | 4007 |
6004 | 6104 | 4003 | 4008 |
6005 | 4004 | 4009 |
Novels | |||||
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The Snow Melts, And Until The Snow Falls | The Idol Who Forgot How to Sing | Twinkle Snow ~Reverie~ | After the Festival ~Setsuna's Thirty Minutes~ | His God, Her Savior | |
5000 | 5100 | 5200 | 5205 | 5300 | 5400 |
5001 | 5101 | 5201 | 5206 | 5301 | 5401 |
5002 | 5102 | 5202 | 5207 | 5302 | |
5003 | 5103 | 5203 | 5208 | 5303 | |
5004 | 5104 | 5204 | 5209 |
Short Stories | |||
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Princess Setsuna's Distress and Her Minister's Sinister Plan | Koharu Climate After the Passing of the Typhoon | This isn't the Season for White Album | Todokanai Koi, Todoita |
7000 | 7100 | 7200 | 7300 |