White Album 2/Script/4000
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Speaker | Text | Comment | |||
---|---|---|---|---|---|
Line # | JP | EN | JP | EN | |
1 | 見上げると、今日も見慣れた空。 二十年以上、見上げた空。 | Looking up, the sky is the same as always. I've seen it for over 20 years.
| |||
2 | 築き上げてきた日々が、 ほんの少し崩れてしまったあとの、空。 | As the days built up, it seems to have changed for the worse.
| |||
3 | ……… | .........
| |||
4 | 朋 | Tomo | 「おはようございます! このたび、報道部に配属となりました柳原朋です。 これからよろしくお願いします!」 | "Good morning! I'm Yanagihara Tomo from the news department. It's a pleasure to meet you!"
| |
5 | デスク | Desk | 「あ~、君が噂のミス峰城? 今年の期待の星って評判になってるよ?」 | "Ah, are you the rumored Ms. Mineshiro? The famous one?"
| |
6 | 朋 | Tomo | 「いえ、それは職場では何の関係もありません。 わたしは単なる一年目の新人です。 至らない点多々ありますが、今後ともご指導願います」 | "No, she's not related to my work. I'm just a simple rookie here. I still lack in many ways, so I hope you will guide me."
| |
7 | デスク | 「ああ、うん、別にそんな緊張しなくていいから。 思ったより真面目だなぁ」 | "Ah, you don't need to be so nervous. You're more serious than I thought you would be."
| ||
8 | 朋 | Tomo | 「あ、ありがとうございます。 頑張ります!」 | "Thank you very much. I'll do my best!"
| |
9 | デスク | 「はは、まぁほどほどにな。 それじゃ、部長のところに連れて行くから、 ついておいで」 | "Ha ha, well, don't overdo it. Well then, I'll take you to the manager, so follow me."
| ||
10 | 朋 | Tomo | 「はいっ!」 | "Yes, sir!"
| |
11 | 朋 | Tomo | 「………」 | "........."
| |
12 | 朋 | Tomo | 「外面だけは謙虚に。 チャンスが来たら貪欲に。 それが栄光への第一歩~♪」 | "I'll make sure to look serious. Then, if the chance comes, I can be greedy. That's my first step towards glory~♪"
| |
13 | ……… | .........
| |||
14 | 武也 | Takeya | 「それじゃ、今日はこれで失礼します。 新しいサンプルの方は明日の朝イチには お届けしますので」 | "Well then, I'll be headed home for today. I'll have a new sample out first thing tomorrow."
| |
15 | 店員1 | Employee 1 | 「あ、ちょっと待って! ねぇねぇ飯塚君! この前の話、考えてくれた?」 | "Ah, just a second! Hey, Iizuka-kun! Have you thought about what we discussed earlier?"
| |
16 | 武也 | Takeya | 「え、え~と、この前のっていうと…」 | "Ah, um, which part...?"
| |
17 | 店員2 | Employee 2 | 「とぼけないでよ。 ほら、合コンの話よ」 | "Don't play dumb. You know, about the mixer."
| |
18 | 武也 | Takeya | 「あ、あ~、アレね、アレ…」 | "Ah, ah, about that..."
| |
19 | 店員1 | Employee 1 | 「飯塚君が担当になってからかなり上がってるのよ。 ここの売り場の成績」 | "Iizuka-kun, you've become quite responsible. You've risen up the ranks in this department."
| |
20 | 店員2 | Employee 2 | 「そんなわけでお祝いと、 新しい期を迎えて、 これからも頑張っていきましょうってことで」 | "So we think you should celebrate, go out and meet some people, and keep doing your best."
| |
21 | 武也 | Takeya | 「い、いや~、 そりゃ、売り上げが増えたのは嬉しいですけど、 こっちとしては当然のことをしてるだけですから~」 | "Ah, well, I am happy with how sales have risen, but I'm only doing what's natural."
| |
22 | 店員1 | Employee 1 | 「そんなこと言わずに。 新人も来る予定なんだしさぁ」 | "Don't say that. There will be some new faces there."
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23 | 武也 | Takeya | 「し、新人?」 | "New faces?"
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24 | 店員2 | Employee 2 | 「今年入ったコたち、結構可愛いよ? 短大出や高卒のコもよりどりみどり」 | "The girls in this one are quite cute, you know? You can pick and choose from some underclassmen or high school graduates."
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25 | 武也 | Takeya | 「………ほう」 | ".........huh."
| |
26 | 店員1 | Employee 1 | 「だからさ、そっちも5、6人揃えてさ… 会社絡みじゃなくて友達関係でもいいから」 | "So we've gathered around 5 or 6 people. This event has nothing to do with the company, it's all about making friends or relationships."
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27 | 武也 | Takeya | 「…マジで?」 | "...Seriously?"
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28 | 店員2 | 「うん、マジマジ。 飯塚君、峰城なんでしょ? ちょっとそこいらで調達できないかなぁ?」 | "Yeah, seriously. Iizuka-kun, how about Maneshiro? Will you be able to hang out just a bit?"
| ||
29 | 武也 | Takeya | 「う~ん、そういうことなら………っ!? | "Yeah, if it's like that then... huh!?"
| |
30 | 武也 | Takeya | い、いや、そうじゃなくて、 俺そういうの苦手なんでホント勘弁してください!」 | "Ah, no, it's not like that, please forgive me for being so rude!"
| |
31 | 店員1 | Employee 1 | 「あ、飯塚君!」 | "Ah, Iizuka-kun!"
| |
32 | 武也 | Takeya | 「じゃあまた明日伺いますんで~。 お疲れさまです~!」 | "I will see you again tomorrow. Good work today!"
| |
33 | 店員2 | Employee 2 | 「あ~あ、また逃げられた。 ほんっと、思った以上にガード堅いなぁ」 | "Ah, I must've scared him off. His guard really is up more than you would expect."
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34 | 店員1 | Employee 1 | 「あれ学生時代、絶対遊んでるハズなのにねぇ」 | "He's a student, he really should be playing around a bit more."
| |
35 | ……… | .........
| |||
36 | 依緒 | Io | 「納得いきません!」 | "I don't agree to this!"
| |
37 | 課長 | Section Manager | 「まぁ落ち着いて、水沢さん」 | "Calm down, Mizusawa-san."
| |
38 | 依緒 | Io | 「新人教育から販売店研修を削るなんて! それも入社式が終わってからそんなこと… こっちはもう三か月も前から準備してるんですよ?」 | ||
39 | 課長 | 「いや、今期は全社的に負荷が高くて、 新人を早くよこせという他部署の意見が強くてね。 君らの努力が無駄になったことは済まなく思っているが」 | |||
40 | 依緒 | Io | 「いえ、そっちはただの愚痴ですから重要じゃないんです。 それよりも販売店研修の方です」 | ||
41 | 課長 | 「ああ、アレねぇ、う~ん」 | |||
42 | 依緒 | Io | 「あたし、去年あの研修でものすごく苦労しました。 けれど、だからこそ、 ものすごく得るものが大きかったと思っています」 | ||
43 | 課長 | 「ああ、人によっては現場を体験できる唯一の機会だしね。 その重要性は会社の方もよく理解して…」 | |||
44 | 依緒 | Io | 「だったらなくすのはやっぱりおかしいじゃないですか! 課長の方から上に掛け合ってくださいよ! それが駄目ならあたしが直接持って行きます!」 | ||
45 | 課長 | 「それはグループメンバーの総意なのかな?」 | |||
46 | 依緒 | Io | 「もちろんです。 リーダー含め、全員の意見をまとめて持って来てます」 | ||
47 | 課長 | 「…その代表を2年目の君にやらせるというのは どうなんだろうねぇ」 | |||
48 | 依緒 | Io | 「あたしは別にどんな立場になっても構いませんから」 | ||
49 | 課長 | 「そういえば君は開発に行きたがっていたな」 | |||
50 | 依緒 | Io | 「今となってはどこでもいいですよ? 開発でも、営業でも、現場でも、もちろん人事のままでも。 どこにいても一生懸命やればそのうち道は開けますから」 | ||
51 | 課長 | 「…たった一年で厄介な育ち方しちゃったねぇ」 | |||
52 | 依緒 | Io | 「すいません、今まで猫かぶってました。 こっちのあたしが本来の水沢です」 | ||
53 | ……… | .........
| |||
54 | 浜田 | Hamada | 「何度言ったらわかんだよお前は!」 | ||
55 | 松岡 | Matsuoka | 「そりゃこっちの台詞ですよ浜田さん! 俺、この件に関しては自分が間違ってるなんて これっぽっちも思ってませんから」 | ||
56 | 浜田 | Hamada | 「ぐぬぬ…」 | ||
57 | 木崎 | Kizaki | 「浜田さんそのうなり声は駄目。 負けを認めたも同然」 | ||
58 | 松岡 | Matsuoka | 「そりゃ、全部直接やり取りする方がいいに決まってます。 けど、どうしても限界ってもんはあるんですよ」 | ||
59 | 浜田 | Hamada | 「しかしだな、それじゃあまりにもビジネスライクだろ。 雑誌ってのは人が作ってんだ。 もっとこう、血の通ったコミュニケーションってもんが」 | ||
60 | 松岡 | Matsuoka | 「浜田さんが前から言ってる『必要な無駄』って奴でしょ。 そりゃ、俺だってそういうの嫌いじゃないですよ。 けど今は、優先順位ってもんがあるんですよ」 | ||
61 | 鈴木 | Suzuki | 「うわ、松っちゃんがいっちょまえなこと 言ってるように聞こえる…」 | ||
62 | 松岡 | Matsuoka | 「そりゃ俺だってねぇ、 もう四年目なんですから。 …けど今は、一番下っ端でもいなくちゃならないし」 | ||
63 | 浜田 | Hamada | 「………」 | "........."
| |
64 | 鈴木 | Suzuki | 「あ~」 | ||
65 | 木崎 | Kizaki | 「お、おっと。 俺いつもの出先行ってきま~す。 直帰なんでよろしく~」 | ||
66 | 松岡 | Matsuoka | 「…すんません。 でも、そんなわけで、 今だけは浜田さんの要求レベルに応えるの、無理っす」 | ||
67 | 浜田 | Hamada | 「松岡」 | ||
68 | 松岡 | Matsuoka | 「人手、足りないんだし、 効率的にやってかないと、その…」 | ||
69 | 浜田 | Hamada | 「いいよ、もう。 この件はお前に任せた。 本当に行き詰まったときだけ相談に来い」 | ||
70 | 松岡 | Matsuoka | 「…ありがとうございます」 | ||
71 | 鈴木 | Suzuki | 「………」 | "........."
| |
72 | 松岡 | Matsuoka | 「何すか?」 | ||
73 | 鈴木 | Suzuki | 「別にぃ~?」 | ||
74 | 松岡 | Matsuoka | 「あっそ」 | ||
75 | 鈴木 | Suzuki | 「………」 | "........."
| |
76 | 松岡 | Matsuoka | 「………」 | "........."
| |
77 | 鈴木 | Suzuki | 「頑張ろね? 松っちゃん」 | ||
78 | 松岡 | Matsuoka | 「ったりめ~っす」 | ||
79 | ……… | .........
| |||
80 | 先輩 | 「え~、残業できないの!?」 | |||
81 | 雪菜 | Setsuna | 「すいません、今日だけは」 | ||
82 | 先輩 | 「まいったなぁ…週明けの朝10時にプレゼンなのよね。 なのに資料が…」 | |||
83 | 雪菜 | Setsuna | 「どのくらい進んでるんです?」 | ||
84 | 先輩 | 「そろそろ手を付けようかと決意したところまで」 | |||
85 | 雪菜 | Setsuna | 「あ、あはは…」 | ||
86 | 先輩 | 「まぁ、土日のどっちかに出勤すれば、 なんとかなりそうな量なんだけど、 二人で手分けしたら[R金曜^きょう]中に終わりそうなのよね」 | |||
87 | 雪菜 | Setsuna | 「は、はぁ」 | ||
88 | 先輩 | 「………」 | "........."
| ||
89 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
90 | 先輩 | 「どうしても無理?」 | |||
91 | 雪菜 | Setsuna | 「今日だけはちょっと」 | ||
92 | 先輩 | 「これだけ頼んでも?」 | |||
93 | 雪菜 | Setsuna | 「…ごめんなさい」 | ||
94 | 先輩 | 「……彼氏?」 | |||
95 | 雪菜 | Setsuna | 「………大変申し訳ございませんっ!」 | ||
96 | 先輩 | 「ちっくしょ~! 相変わらずのラブラブカップルめぇ~」 | |||
97 | 雪菜 | Setsuna | 「晩ごはん一緒に食べる約束してて…すいません」 | ||
98 | 先輩 | 「どうせそれだけじゃないんでしょ~。 今夜も明日も彼氏の部屋に泊まるんでしょ~」 | |||
99 | 雪菜 | Setsuna | 「たまにですから。 …たったの二週間に一回くらい」 | ||
100 | 先輩 | 「つまりあれよね~。 先輩にノロケ話聞かせておいて、 ついでに休日出勤も断るという高等戦術」 | |||
101 | 雪菜 | Setsuna | 「えっと、今日まで出来たところを メールしといてください。 月曜の朝、早出して仕上げておきますから」 | ||
102 | 先輩 | 「…まぁ、いいわよ」 | |||
103 | 雪菜 | Setsuna | 「必ず月曜朝10時に間に合わせますから!」 | ||
104 | 先輩 | 「そういうことじゃなくて… もともと私がサボってたのが悪いんだし、 浮かれてる小木曽ちゃんに水を差してもなんだしね」 | |||
105 | 雪菜 | Setsuna | 「…重ね重ねすいません」 | ||
106 | 先輩 | 「だからいいってば。 これで私も休出の覚悟できたし。今日はもう帰る。 駅まで一緒に行こ?」 | |||
107 | 雪菜 | Setsuna | 「あ、はい」 | ||
108 | 先輩 | 「そんなわけだから、彼氏の話聞かせなさいよ。 ウチや客先で、小木曽ちゃん狙いの男どもを からかって遊ぶネタにするからさぁ」 | |||
109 | 雪菜 | Setsuna | 「え~、そんなの聞いてもつまんないですよ? 昔からの長い付き合いだし」 | ||
110 | 先輩 | 「その事実だけで、 この世の終わりみたいな顔する奴ら、 5人は心当たりあるわ~」 | |||
111 | ……… | .........
| |||
112 | 四月。 | ||||
113 | わたしにとっては、 大学を卒業して、二度目の四月。 社会に出て、二年目の春。 | ||||
114 | 新しい自分の居場所で、希望に燃える友。 去年の春に建てた誓いをずっと守り続けてる友。 かつて自分が持っていた輝きを、やっと取り戻した友。 | ||||
115 | そして… | ||||
116 | そんなふうに、 それぞれが、それぞれの道を進んでいた。 | ||||
117 | こ[W15]れ[W15]は、[W15]そ[W15]ん[W15]な[W15]春[W15]か[W15]ら[W15]秋[W15]に[W15]か[W15]け[W15]て[W15]の[W15]物[W15]語。 | ||||
118 | 冬[W15]が[W15]終[W15]わ[W15]っ[W15]て[W15]か[W15]ら、[W15]冬[W15]に[W15]至[W15]る[W15]ま[W15]で[W15]の[W15]… | ||||
119 | 雪[W15]が[W15]解[W15]け、[W15]そ[W15]し[W15]て[W15]雪[W15]が[W15]降[W15]る[W15]ま[W15]で[W15]の、[W15]も[W15]う[W15]ひ[W15]と[W15]つ[W15]の[W15]物[W15]語。 | ||||
120 | 雪菜 | Setsuna | 「ただいまぁ」 | ||
121 | 玄関のドアを開けると、暗闇と無音がわたしを迎える。 | ||||
122 | それでも壁にある灯りのスイッチには触れずに、 暗いままヒールを脱いで部屋に上がる。 | ||||
123 | 壁づたいに進み、部屋の扉を開くと、 やっと入口そばにあるナイトランプのスイッチを入れる。 | ||||
124 | 雪菜 | Setsuna | 「帰り際に先輩に捕まっちゃってさぁ、 一時は今日中に帰れるかどうかの瀬戸際だったよ」 | ||
125 | 薄暗く照らされた部屋の中には、 ほとんど人の気配が感じられない。 | ||||
126 | ただ、ここに彼が生活している証がほんの少し… | ||||
127 | 脱ぎ捨てられた服や下着が、 床の上に数日分散らばってる。 | ||||
128 | …彼のことをよく知っている人ほど、 この部屋の“惨状”に驚くかもしれないな。 | ||||
129 | まぁ、ちょっとものぐさな人なら、 全然珍しくもない光景なんだけど。 | ||||
130 | 雪菜 | Setsuna | 「ごめんね、ちょっとうるさくするよ?」 | ||
131 | 床の上の服を拾い上げると、 洗濯機に入れて洗剤とスイッチを入れる。 | ||||
132 | 雪菜 | Setsuna | 「他に洗うものない? 今着てるの大丈夫?」 | ||
133 | ベッドの上に目をやると、人の大きさに膨らんだ布団。 | ||||
134 | そして、そこからはみ出ている彼の頭が、 ほんの少しだけ、こくんと動いた。 | ||||
135 | 雪菜 | Setsuna | 「今日は眠れた?」 | ||
136 | 今度は反応がない。 | ||||
137 | 雪菜 | Setsuna | 「そう…薬は飲んだ?」 | ||
138 | また少しだけ動く。 | ||||
139 | 雪菜 | Setsuna | 「ごはん、食べられる?」 | ||
140 | と、今度も少しだけ首が動いたけれど、 さっきとは動く方向が違ってた。 | ||||
141 | 雪菜 | Setsuna | 「じゃあ、日持ちするものにしとくね。 作り置きしておくから、 おなかすいたらチンして食べてね」 | ||
142 | キッチンの灯りをつけて、 部屋の中をもう一段階だけ明るくする。 | ||||
143 | そしてエコバッグを広げ、中の食材を取り出し並べる。 | ||||
144 | 雪菜 | Setsuna | 「…あ、また“チンする”って言っちゃった。 なかなか直らないねこの口癖、あはは」 | ||
145 | これが、わたしたちの週末。 | ||||
146 | 今の彼…春希くんにとっては、他の日と何の変わりもない、 単なる一年のうちの365分の1かもしれない日。 | ||||
147 | けれどわたしにとっては、 心浮き立つ至福のときの始まり。 | ||||
148 | ……… | .........
| |||
149 | 二月の末。 | ||||
150 | かずさの追加公演が伝説級の大盛況で幕を閉じ、 そのまま、かずさの日本での日々も幕を閉じた。 | ||||
151 | そして、わたしはその日、この人のもとを去った。 | ||||
152 | かずさとの事実を、想いを、愛を、 なに一つ隠さず告白する春希くんのこと、 許せなかった。 | ||||
153 | そして、それから一週間… | ||||
154 | 七日間、わたしは自分の周りの世界から逃げた。 | ||||
155 | 五年前と同じ後悔に泣き。 五年前よりも完全な敗北に叫び。 そして、五年前よりも強い気持ちを思い出し。 | ||||
156 | もう一度、この部屋に帰ってきた。 | ||||
157 | ……… | .........
| |||
158 | 雪菜 | Setsuna | 「今日のシチューはね、 自分で言うのもなんだけど、かなりいい感じだったよ? 二杯もおかわりしちゃった」 | ||
159 | 再びこの部屋に足を踏み入れたとき、 春希くんは、前の日のわたしと同じように、 世界から逃げたままだった。 | ||||
160 | そしてそれは、今でも続いている。 | ||||
161 | 雪菜 | Setsuna | 「…まぁ、おかげでちょっとお腹が重いけど。 あとで胃薬もらうね」 | ||
162 | 幸い、開桜社は春希くんを守ってくれた。 | ||||
163 | 産業医との面談で、 『過分な仕事を任されたことによるプレッシャー』 に原因の一端があると認定し、休職扱いにしてくれた。 | ||||
164 | 雪菜 | Setsuna | 「そういえば、そろそろ三月の新譜入る頃だなぁ。 今月は朋が声掛けてこないから忘れてた」 | ||
165 | 彼は今、週に一度だけ外出し、心療内科に通っている。 | ||||
166 | …それ以外の日々は、ずっとこの部屋で過ごしている。 | ||||
167 | 雪菜 | Setsuna | 「あのコね、念願かなって報道部に配属になったんだって。 今度は裏でどんな手使ったんだろ」 | ||
168 | 今の彼には、起きられない時期と眠れない時期が、 一週間ごとくらいに、交互に訪れる。 | ||||
169 | 雪菜 | Setsuna | 「そういえば、武也くんと依緒がさ、 近いうちにここに顔出したいって 言ってきてるんだけど…」 | ||
170 | 起きられないときは、無理に起こさない。 | ||||
171 | だって、大学の時から全然眠っていなかったんだから。 あの頃足りてなかった睡眠時間を やっと取り戻してると思えば全然問題ない。 | ||||
172 | 雪菜 | Setsuna | 「わたしは…そんな心配いらないって言ってるんだけど。 どうせすぐ元気になるし。 そしたら毎月の定例会で会えるんだし」 | ||
173 | 眠れない周期に入ったときも、何も言わない。 | ||||
174 | 彼が、本当は眠ってしまいたいと願ってることを 知ってるから。 | ||||
175 | 現実の世界に取り残されて苦しんでいることを 知っているから。 | ||||
176 | …何もかも忘れて夢の世界に旅立とうと もがいていることを知っているから。 | ||||
177 | 雪菜 | Setsuna | 「ふあぁ…なんだかわたし、眠くなってきちゃった… やっぱり食べ過ぎたかなぁ」 | ||
178 | そっち側の世界に何があるのか、誰がいるのか… | ||||
179 | わたしには、知る権利も勇気もないから。 | ||||
180 | 春希 | Haruki | 「………雪菜」 | ||
181 | 雪菜 | Setsuna | 「ん~?」 | ||
182 | 春希 | Haruki | 「雪菜も、もう来なくていいよ」 | ||
183 | 雪菜 | Setsuna | 「…ん~」 | ||
184 | それが今日… 初めて春希くんが口にしてくれた言葉だった。 | ||||
185 | 春希 | Haruki | 「もう、いいんだよ…」 | ||
186 | わたしのことを思って、 必死で、振り絞ってくれた言葉だった。 | ||||
187 | 春希 | Haruki | 「俺はさ、今の俺と一生付き合っていく。 もう、その覚悟だってできてる」 | ||
188 | だから、嬉しい。 | ||||
189 | 春希 | Haruki | 「けどさ、けど… そんな止まってばかりの人生に、 君を巻き込むわけにはいかない」 | ||
190 | 雪菜 | Setsuna | 「はいはい、その話はまた今度ね」 | ||
191 | 春希 | Haruki | 「逃げないで真面目に聞いてくれ雪菜…」 | ||
192 | 雪菜 | Setsuna | 「ふざけてない。それに逃げてない。 逃げてなんかないよ…」 | ||
193 | 触れている手から、頬から、 彼の震えが伝わってくる。 | ||||
194 | 雪菜 | Setsuna | 「ただ、その話は、春希くんが元気になってから。 本当に落ち着いて話ができるようになってから、ね?」 | ||
195 | 春希 | Haruki | 「それっていつだよ? いつのことなんだよ…」 | ||
196 | 雪菜 | Setsuna | 「いつか、だよ。 けれど必ず、だよ」 | ||
197 | 春希 | Haruki | 「そんなの嘘だ。 俺なんか、もう一生このままだよ…」 | ||
198 | 雪菜 | Setsuna | 「どっちにしても、慌てて結論を出す必要はないよ。 ゆっくりでいい。 だから今は、休もう?」 | ||
199 | 強い力で包み込んであげたい。 強い言葉で励ましてあげたい。 | ||||
200 | 雪菜 | Setsuna | 「だいたい春希くんは、今までが走り過ぎだったんだよ。 少しくらい立ち止まったって、誰も文句言わないよ」 | ||
201 | 春希 | Haruki | 「そんなの、関係ない…」 | ||
202 | でも、今の彼にそれをしてはいけない。 | ||||
203 | 春希 | Haruki | 「俺がこうなったのは、 仕事で無理をしたからじゃない。 人生を生き急いだからじゃない」 | ||
204 | だから、優しく、ゆっくり、静かに抱きしめるだけ。 | ||||
205 | 春希 | Haruki | 「そんなの、雪菜が一番よくわかってるじゃないか…」 | ||
206 | 雪菜 | Setsuna | 「そうやって春希くんを追い込んだのは、 5年前のわたしだよ」 | ||
207 | けれど、わたしの体温を伝えるだけじゃ、 彼の心の寒さは取り払えない。 | ||||
208 | 雪菜 | Setsuna | 「…そんなの、あなたが一番よくわかってるじゃない」 | ||
209 | 春希 | Haruki | 「俺のやったことが許されるはずがないだろ。 よりにもよって雪菜が許していいはずないだろ」 | ||
210 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くん…」 | ||
211 | ただ自分を傷つけるだけの自己否定をやめてくれない。 | ||||
212 | 春希 | Haruki | 「だから、もう来なくていい… 俺を、放っておいてくれ」 | ||
213 | 違うのに。 | ||||
214 | わたしがあなたの側にいる理由は、 そんな尊い気持ちなんかじゃないのに。 | ||||
215 | 春希 | Haruki | 「俺を、見捨ててくれ」 | ||
216 | 同情したからでも、 許したからでもないのに… | ||||
217 | 春希 | Haruki | 「俺を、ひとりにして…」 | ||
218 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くん、わたしはっ」 | ||
219 | 春希 | Haruki | 「………ごめん、嘘だ」 | ||
220 | 雪菜 | Setsuna | 「え…」 | ||
221 | けれど、彼の嘆きをさえぎったのは、 そんなわたしの自己否定の言葉じゃなくて… | ||||
222 | 春希 | Haruki | 「俺、嘘をついてる」 | ||
223 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くん…?」 | ||
224 | 春希 | Haruki | 「いいわけないだろ… 雪菜がいなくなったら俺、 もう、どうしたらいいかわかんないよ…っ」 | ||
225 | 雪菜 | Setsuna | 「ぁ…」 | ||
226 | 彼自身の、さらに大きな嘆きだった。 | ||||
227 | 春希 | Haruki | 「本当にそう思ってるなら、 玄関にチェーンかければいいんだよ。 すぐに追い返せばいいんだよ」 | ||
228 | 抱え込んでしまった、わたしへの罪悪感は、 もう誰が何と言おうと、彼の中では払拭されなくて。 | ||||
229 | 春希 | Haruki | 「なのに俺、そうしなかった。 雪菜から鍵を取り上げなかったし、 チェーンだって、ずっとかけずにいた」 | ||
230 | 雪菜 | Setsuna | 「ありがとう。 わたしにもう一度チャンスをくれて」 | ||
231 | だから、わたしが目の前にいるだけで、 彼の心はどんどん乱れていって。 | ||||
232 | 春希 | Haruki | 「洗濯してもらって、料理してもらって、 抱きしめてもらって… 自分が満たされてからやっと、こんなこと言い出してる」 | ||
233 | 雪菜 | Setsuna | 「わたしも満たされた。 おあいこだよ」 | ||
234 | 春希 | Haruki | 「それどころか、 雪菜が来るのがいつもよりちょっと遅かっただけで、 身が引き裂かれるくらいに辛かった…」 | ||
235 | 雪菜 | Setsuna | 「…ごめんね、約束やぶって」 | ||
236 | なのに今の彼は、そんな毒でしかないわたしに 頼らなければならないというジレンマまでも抱えてて。 | ||||
237 | 春希 | Haruki | 「もう、来てくれないんじゃないかって。 見捨てられたんじゃないかって。 不安で、どうにかなってしまいそうだった…」 | ||
238 | 雪菜 | Setsuna | 「春希、くぅん」 | ||
239 | 春希 | Haruki | 「最低だ、最低だよ俺…」 | ||
240 | そしてわたしは… | ||||
241 | 雪菜 | Setsuna | 「ううん、嬉しいよ… わたし嬉しいんだよ」 | ||
242 | そんな彼の側にい続けることをやめられず、 彼を壊していくのをやめられない。 | ||||
243 | 春希 | Haruki | 「雪菜を苦しめることが耐えられない。 なのに雪菜がいない現実に耐えられない」 | ||
244 | 彼の泣き言に暗い喜びを見いだす 自分の醜さを止められない。 | ||||
245 | 春希 | Haruki | 「どっちにも行けない。 何も決められない。 こんな俺はもう、この世にいらない…っ」 | ||
246 | わたしにすがりつく彼こそをいとおしく感じる、 自分のみっともなさを止められない。 | ||||
247 | 春希 | Haruki | 「なにより、雪菜にとっていらない… いや、害にしかならない人間だ」 | ||
248 | 雪菜 | Setsuna | 「そんなことない。 そんなこと、ないって…」 | ||
249 | 春希 | Haruki | 「ごめん、ごめんなさい… う、うう、うぅぅぅぅ…っ、 うあぁぁぁぁ…ぁぁ…」 | ||
250 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くん…大丈夫だよ春希くん」 | ||
251 | 彼を救いたいから、だけじゃない。 自分の欲望も満足させたかったから。 | ||||
252 | 春希 | Haruki | 「せ、雪菜… う、あ、あ…っ、く…ぅ、ぅぅ…」 | ||
253 | 雪菜 | Setsuna | 「わたしは絶対離れたりしないし、 あなたは絶対元気になるから…っ」 | ||
254 | ただ不戦勝で残っただけの、わたしの二年間を、 誰にも否定されたくなかったから。 | ||||
255 | ……… | .........
| |||
256 | …… | ......
| |||
257 | … | ...
| |||
258 | 雪菜 | Setsuna | 「ん~」 | ||
259 | 明るくなった空に向かって、大きく伸びをする。 時計はそろそろ十時を指している。 | ||||
260 | 一晩かけて彼は泣き、そしてとうとう疲れ果て… 外が薄明るくなってきた頃に、ようやく眠りにつけた。 | ||||
261 | だからわたしは、その寝顔を数時間見つめてから そっと部屋を出た。 | ||||
262 | どうやら今週は、 わたしがいることが悪い方に出てしまったから。 | ||||
263 | 多分、春希くんは、これでまる一日以上は目を覚まさない。 | ||||
264 | そして再び目覚めたときは、 さっきよりは幾分落ち着いた彼になっているだろう。 | ||||
265 | …目の前に、わたしさえいなければ。 | ||||
266 | 今日の彼にとって、わたしは毒薬だ。 | ||||
267 | 彼の痛みを、ほんの少しの間だけ散らすことしかできない、 それなのに副作用の激しい、役立たずだ。 | ||||
268 | 雪菜 | Setsuna | 「あ、おはようございます。 もう起きてました?」 | ||
269 | 雪菜 | Setsuna | 「いえ、昨日の資料のことなんですけど… 今日、わたしが出社してやっておきますから」 | ||
270 | 雪菜 | Setsuna | 「まぁ、そういうことです。 昨夜、彼と大喧嘩しちゃって…あはは」 |
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Introductory Chapter | ||||||
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1001 | 1008 | 1009 | 1010 | 1011 | 1012 | 1013 |
1002 | 1008_020 | 1009_020 | 1010_020 | 1011_020 | 1012_020 | |
1003 | 1008_030 | 1009_030 | 1010_030 | 1011_030 | 1012_030 | |
1004 | 1008_040 | 1010_040 | 1012_030_2 | |||
1005 | 1008_050 | 1010_050 | ||||
1006 | 1010_060 | |||||
1006_2 | 1010_070 | |||||
1007 |
Closing Chapter | ||||||||||
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Common | Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | ||||||
2001 | 2011 | 2020 | 2027 | 2301 | 2309 | 2316 | 2401 | 2408 | 2501 | 2510 |
2002 | 2012 | 2021 | 2028 | 2302 | 2310 | 2317 | 2402 | 2409 | 2502 | 2511 |
2003 | 2013 | 2022 | 2029 | 2303 | 2311 | 2318 | 2403 | 2410 | 2503 | 2512 |
2004 | 2014 | 2023 | 2030 | 2304 | 2312 | 2319 | 2404 | 2411 | 2504 | 2513 |
2005 | 2015 | 2024 | 2031 | 2305 | 2313 | 2320 | 2405 | 2412 | 2505 | 2514 |
2006 | 2016 | 2025 | 2032 | 2306 | 2314 | 2321 | 2406 | 2413 | 2506 | 2515 |
2007 | 2017 | 2026 | 2033 | 2307 | 2315 | 2322 | 2407 | 2507 | 2516 | |
2008 | 2018 | 2308 | 2508 | 2517 | ||||||
2009 | 2019 | 2509 | ||||||||
2010 | ||||||||||
Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | |||||||
2031_2 | 2312_2 | 2401_2 | 2504_2 | 2511_2 | ||||||
2031_3 | 2313_2 | 2402_2 | 2507_2 | 2513_2 | ||||||
2031_4 | 2313_3 | 2402_3 |
Coda | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Kazusa (True) | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | ||||||
3001 | 3008 | 3014_2 | 3020 | 3101 | 3107 | 3201 | 3207 | 3901 | 3907 |
3002 | 3009 | 3014_3 | 3021 | 3102 | 3108 | 3202 | 3208 | 3902 | 3908 |
3003 | 3010 | 3015 | 3022 | 3103 | 3109 | 3203 | 3209 | 3903 | 3909 |
3004 | 3011 | 3016 | 3023 | 3104 | 3110 | 3204 | 3210 | 3904 | |
3005 | 3012 | 3017 | 3024 | 3105 | 3111 | 3205 | 3211 | 3905 | |
3006 | 3013 | 3018 | 3106 | 3206 | 3906 | ||||
3007 | 3014 | 3019 | |||||||
Common | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | |||||||
3001_2 | 3210_2 | 3901_2 | 3906_2 | ||||||
3015_2 | 3902_2 | 3907_2 | |||||||
3902_3 | 3907_3 | ||||||||
3904_2 |
Mini After Story and Extra Episode | |||
---|---|---|---|
The Path Back to Happiness | The Path Forward to Happiness | Dear Mortal Enemy | |
6001 | 6101 | 4000 | 4005 |
6002 | 6102 | 4001 | 4006 |
6003 | 6103 | 4002 | 4007 |
6004 | 6104 | 4003 | 4008 |
6005 | 4004 | 4009 |
Novels | |||||
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The Snow Melts, And Until The Snow Falls | The Idol Who Forgot How to Sing | Twinkle Snow ~Reverie~ | After the Festival ~Setsuna's Thirty Minutes~ | His God, Her Savior | |
5000 | 5100 | 5200 | 5205 | 5300 | 5400 |
5001 | 5101 | 5201 | 5206 | 5301 | 5401 |
5002 | 5102 | 5202 | 5207 | 5302 | |
5003 | 5103 | 5203 | 5208 | 5303 | |
5004 | 5104 | 5204 | 5209 |
Short Stories | |||
---|---|---|---|
Princess Setsuna's Distress and Her Minister's Sinister Plan | Koharu Climate After the Passing of the Typhoon | This isn't the Season for White Album | Todokanai Koi, Todoita |
7000 | 7100 | 7200 | 7300 |