Difference between revisions of "White Album 2/Script/2002"
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|「や~そう見える?」<br>「これっぽっちも」 |
|「や~そう見える?」<br>「これっぽっちも」 |
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Revision as of 08:05, 14 May 2014
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Translation
Editing
Translation Notes
Text
Speaker | Text | Comment | |||
---|---|---|---|---|---|
Line # | JP | EN | JP | EN | |
1 | 雪菜 | Setsuna | 「転部…?」 | ||
2 | 雪菜 | Setsuna | 「え? あれ? だって… ど、どうして?」 | ||
3 | 雪菜 | Setsuna | 「…え?」 | ||
4 | 雪菜 | Setsuna | 「そ、そうなんだ。 出版社狙ってるんだ。だから…」 | ||
5 | 雪菜 | Setsuna | 「………全然知らなかった」 | ||
6 | 雪菜 | Setsuna | 「え? あ、ううん、合ってると思うよ、国文。 春希くん、文章書くの得意だし」 | ||
7 | 雪菜 | Setsuna | 「そっか…もうそこまで具体的に考えてるんだ。 やっぱり、かなわないなぁ」 | ||
8 | 雪菜 | Setsuna | 「わたし? ううん、まだまだ。 将来の姿なんて、全然イメージわかないな。 このままなら、たった二年後の話なのにね」 | ||
9 | 雪菜 | Setsuna | 「そっか、そっかぁ………文学部、行っちゃうんだ」 | ||
10 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
11 | 雪菜 | Setsuna | 「…会えるよね?」 | ||
12 | 雪菜 | Setsuna | 「あ、当たり前だよね。 校舎が違うって言っても同じキャンパスなんだから、 会おうと思えば、毎日だって」 | ||
13 | 雪菜 | Setsuna | 「ね、ねぇ… これからも、電話、していいかな?」 | ||
14 | 雪菜 | Setsuna | 「う、うん…忙しかったら出なくてもいいから。 そうだよね、春希くん毎日頑張ってるもんね。 今、アルバイトいくつ入れてるんだっけ?」 | ||
15 | 雪菜 | Setsuna | 「そっか…大変だね。 体、壊さないように気をつけてね?」 | ||
16 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
17 | 雪菜 | Setsuna | 「あ、あのっ」 | ||
18 | 雪菜 | Setsuna | 「大丈夫、だよね?」 | ||
19 | 雪菜 | Setsuna | 「え、あ、その…何がって訳じゃなくて、 ええと、なんとなく」 | ||
20 | 雪菜 | Setsuna | 「な、何言ってるんだろね、わたし。 あは、あはは…っ」 | ||
21 | ……… | .........
| |||
22 | 春希 | Haruki | 「…あ」 | ||
23 | 別に、跳ね起きてなんかいない。 自然に目が覚めた。 | ||||
24 | ただ、眠りについてから、30分も経ってないだけ。 寝汗が、気持ち悪いくらいに噴き出していただけ。 | ||||
25 | 春希 | Haruki | 「ふぅ」 | ||
26 | 明かりをつけると、 眩しさに怯む目をゆっくりと慣らしていく。 | ||||
27 | ゆっくりと頭を振り、脳に現実を染み込ませようと、 見慣れた景色を無理やり頭に詰め込んでいく。 | ||||
28 | …早く“今”に戻らないと。 | ||||
29 | ……… | .........
| |||
30 | 肌に貼りついたTシャツを強引に脱ぎ捨てると、 洗面所に飛び込み、シャワーの蛇口を一気に捻る。 | ||||
31 | 出始めの冷水も、 設定温度になる直前に噴き出す熱湯も、 余すところなく頭から思いっきりかぶる。 | ||||
32 | その都度、肌から受ける強烈な刺激が、 麻酔のように俺の思考を奪い去り、 けれど体だけ目覚めさせてくれることを望んで。 | ||||
33 | ……… | .........
| |||
34 | 春希 | Haruki | 「っ…」 | ||
35 | 俺の記憶の引き出しに、 厳重に鍵をかけてしまい込んである三年前。 | ||||
36 | 雪菜と出逢い。 雪菜の歌と出逢い。 | ||||
37 | そして、化けの皮の剥がれた 本物の小木曽雪菜という女の子に出逢った三年前。 | ||||
38 | 一緒に奏でて、一緒に馬鹿やって、一緒に笑って、 そんな、かけがえのない三人の時を過ごした三年前。 | ||||
39 | ちょっとだけ、紆余曲折はあったけど、 おおむね順調にお互いの気持ちが近づいて、 言葉と気持ちと唇が触れあった三年前。 | ||||
40 | そして… | ||||
41 | 雪菜は、変わった。 | ||||
42 | 三年前の、はにかんだ悪戯っぽい笑顔は、 この三年間で、無理と我慢と諦めを重ねた、 泣きそうな笑顔に塗り潰されていった。 | ||||
43 | なのに… | ||||
44 | 嫌味なくらい、ますます綺麗になっていく。 | ||||
45 | 付属の頃、綺麗で、可憐で、愛らしかった雪菜は、 今は、凄みを感じるくらい綺麗な女になっていた。 | ||||
46 | 三年前よりずっと、 一昨年よりずっと、 去年より、ずっと。 | ||||
47 | あの頃と比べ、あまり表に出なくなったにも関わらず、 あの頃以上に周囲の注目を浴びる存在になっていた。 | ||||
48 | 誰もが雪菜に目を奪われる。 誰の脳にもその可憐な姿が刻み込まれる。 | ||||
49 | なのに雪菜は、そんな男たちの視線を、 まるで受け入れようとしない。 | ||||
50 | 俺のために、俺の目の前でいつでも笑ってた。 本当の心が透けて見えるくらいに、 寂しい笑顔で笑ってた。 | ||||
51 | それでも、笑うことをやめなかった。 そして、ずっと俺の側にいてくれようとした。 | ||||
52 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
53 | 必死で在り続けた。 | ||||
54 | 全てをぶち壊し、 ありえないくらいに激しく雪菜を傷つけた、 こんな俺の側に。 | ||||
55 | …俺から、離れようとしてくれなかった。 | ||||
56 | 春希 | Haruki | 「っ!」 | ||
57 | 駄目だ。 | ||||
58 | どうやっても、心が『今』に戻れない。 | ||||
59 | 雪菜と顔を合わせることのなかったこの一月。 | ||||
60 | 徐々に、徐々に頭の中を切り替えて、 何も考えずに眠れるようになって一週間。 | ||||
61 | なのに結局、たった一度、 その切ない笑顔を見てしまっただけで、 全てを水泡に帰すくらい、俺はまだ引きずってる。 | ||||
62 | …なぁ、雪菜。 | ||||
63 | いつになったら憎んでくれるんだよ? | ||||
64 | どれだけ深く自分を傷つけたら、 俺を許そうとするの、諦めてくれるんだよ? | ||||
65 | ……… | .........
| |||
66 | 春希 | Haruki | 「ふあぁ… | ||
67 | 春希 | Haruki | っ!?」 | ||
68 | ??? | ??? | 「よっ、久しぶり。 今日もまた、徹夜明けの魚の目してやがんなぁ」 | ||
69 | 春希 | Haruki | 「げほっ、げほぉっ… た、武也…お前、酷いぞそれ」 | ||
70 | 武也 | Takeya | 「軽く叩いただけじゃねえか。 相変わらず大げさな…」 | ||
71 | 春希 | Haruki | 「『徹夜明けで、死んだ魚のような腐った目をしてる』 って言いたいんだろうけど、妙な省略するな。 それじゃ日本語の表現として通用しないぞ」 | ||
72 | 武也 | Takeya | 「…相変わらず細かいな。意味もなく」 | ||
73 | 俺に対して、声より先に手を出す奴は、 大学に入ってからも、[R武也^こいつ]だけだ。 | ||||
74 | 大抵の奴は、延々続く俺の説教に辟易して、 次からは態度を改めるんだけど、そこは年期の差。 | ||||
75 | ありがたくて、そして少々持て余す、 数少ない付属時代からの友人。 | ||||
76 | 武也 | Takeya | 「帰んのか? 早いじゃん今日は。 ゼミ寄ってかないの?」 | ||
77 | 春希 | Haruki | 「寄らない。 今日はゼミのコンパだから」 | ||
78 | 武也 | Takeya | 「…普通、コンパだから寄るもんだろ?」 | ||
79 | 春希 | Haruki | 「金ない、暇ない、その気ない」 | ||
80 | 武也 | Takeya | 「文学部のゼミだったらハーレム状態だろ? どうやったら行かない選択肢が出てくるんだ?」 | ||
81 | 春希 | Haruki | 「だから俺は…」 | ||
82 | 武也 | Takeya | 「とっくに決めたコがいるってか?」 | ||
83 | 春希 | Haruki | 「………意味わからん」 | ||
84 | 武也 | Takeya | 「………」 | "........."
| |
85 | ありがたくて、そして少々持て余す、 なにもかも知られちまってる親友… | ||||
86 | 二年まで、やっぱり俺と同じ政経で、 俺が転部した時には相当やり合った。 | ||||
87 | 武也 | Takeya | 「ま、いいや。 なら今日は俺と飲もうぜ春希? たまには男同士差し向かいでな」 | ||
88 | 春希 | Haruki | 「無理しなくていいぞ。 酒の席で女の子口説かないと窒息死するくせに」 | ||
89 | 武也 | Takeya | 「俺はどうして今までお前と 友達でいられたんだろうな?」 | ||
90 | 普段の言動の9割が、口説き文句と自己陶酔と おちゃらけなこいつの、年に一度の本気の言葉は、 嫌なくらい何本も心臓に突き刺さり、死ぬかと思った。 | ||||
91 | それでも、結局根負けしたのはこいつの方で。 | ||||
92 | 春希 | Haruki | 「とにかくバイトだ、今日は。 この間もメールでそう言ったろ?」 | ||
93 | …いや、もしかしたら、 ただ、俺のことを見ていられなくなった だけかもしれないけど。 | ||||
94 | 武也 | Takeya | 「たまには男同士の付き合いを優先させろよ。 一日くらいいいだろ?」 | ||
95 | 春希 | Haruki | 「…本当に『男同士の付き合い』ならな」 | ||
96 | 武也 | Takeya | 「う…」 | ||
97 | 一度、まったく同じ手順で『してやった』ことを、 どうやら思い出したらしい。 | ||||
98 | …だからまた、『誰かさん』の泣きそうな笑顔が、 眠気に満ちていた俺の脳を覚ましてしまう。 | ||||
99 | 春希 | Haruki | 「…また今度な。 俺の方から連絡するから」 | ||
100 | 武也のこと、今でもかけがえのない親友だと思ってる。 | ||||
101 | こいつが俺を心配してくれることも、 泣きそうになるくらい、本当はありがたい。 | ||||
102 | 武也 | Takeya | 「春希…なぁ、俺の話を聞けって。 お前、いつまで…」 | ||
103 | それでも、昔みたいに毎日顔を合わせていられない。 | ||||
104 | そんなことをしたら、俺はまた周囲を巻き込んで、 がんじがらめの醜態を演じてしまうことになるから。 | ||||
105 | 春希 | Haruki | 「それよりもさ、武也…」 | ||
106 | 武也 | Takeya | 「ん?」 | ||
107 | 春希 | Haruki | 「お前、そろそろ付属のコはやめとけよ。 大学三年にもなって」 | ||
108 | 武也 | Takeya | 「…心当たりはともかくとして、 今お前がここでそれを言う理由が思い当たらないんだが」 | ||
109 | 春希 | Haruki | 「あれ…」 | ||
110 | 武也 | Takeya | 「え…?」 | ||
111 | 俺が顎で指し示した方を見て、 ようやく武也もことの顛末を理解したようだった。 | ||||
112 | 懐かしの、付属の制服。 その制服に身を包み、人待ち顔の女のコ。 | ||||
113 | いや、人待ち顔だったのはついさっきまで。 武也の顔を見た途端『見つけた』の顔に切り替わったから。 | ||||
114 | 武也 | Takeya | 「あれは…」 | ||
115 | 春希 | Haruki | 「あ~あ、なんか怒ってるぞ? だからそろそろ、せめて三人以下には 絞り込めとあれほど」 | ||
116 | その表情に切り替わったなら、後はお馴染みの光景だ。 | ||||
117 | この後、武也の前で泣くかすがるか怒るか罵るか… そういえば、いきなり頬を張られることもあったっけ。 | ||||
118 | ま、でも、こういう状況は俺も慣れたもの。 あっさりと聞こえないふりしてそっぽを向き、 聞いてるだけで胸焼けがしそうな痴話喧嘩を聞き流す。 | ||||
119 | そして、いつの間にか泣き顔が笑顔に変わった女の子を 武也が見送った後、おもむろに肩を叩き、 『お前もそろそろ…』の説教タイム。 | ||||
120 | 武也 | Takeya | 「いや、ちょっと待て。 その言いつけを守ってると突っぱねるつもりはないけど、 あのコの顔に覚えがないってことだけは言わせてくれ」 | ||
121 | そして今回も[R違^たが]うことなく、 彼女はまっすぐこちらへ歩み寄る。 | ||||
122 | 春希 | Haruki | 「それはもっと最低だろ。 泣かせた女のコの顔くらい一生忘れるな」 | ||
123 | その顔は完全に怒りに満ちていて、 でも、だからこそ少しだけ安心する。 …泣かれるより、よっぽど楽だから。 | ||||
124 | 武也 | Takeya | 「そんなのいちいち覚えられるか。 お前みたいに一人の女の子だけを どん底まで泣かせたことはないんでね、俺は」 | ||
125 | 春希 | Haruki | 「っ… お前、言っていいことと悪いことが!」 | ||
126 | 女子生徒1 | Female Student 1 | 「北原春希さんですね?」 | ||
127 | 武也 | Takeya | 「いや違うって………え?」 | ||
128 | 春希 | Haruki | 「卑怯だぞ武………や?」 | ||
129 | 女子生徒1 | Female Student 1 | 「北原…春希さん、ですよね?」 | ||
130 | 武也 | Takeya | 「春希…?」 | ||
131 | 春希 | Haruki | 「お、れ…?」 | ||
132 | 女子生徒1 | Female Student 1 | 「お話があります。 付き合ってください」 | ||
133 | 春希 | Haruki | 「え?」 | ||
134 | 武也 | Takeya | 「え?」 | ||
135 | 女子生徒1 | Female Student 1 | 「………」 | "........."
| |
136 | 訂正。 | ||||
137 | 『泣かれるより、よっぽど楽』ってのは、 対象が俺じゃない場合にのみ通用するケースであり。 | ||||
138 | 今みたいに、会ったこともない女のコに、 いきなり敵意むき出しで睨みつけられる場合には、 何の参考にもならないと言うことを、思い知らされた。 | ||||
139 | ……… | .........
| |||
140 | 依緒 | Io | 「で、なに? 結局春希連れて来れなかったの?」 | ||
141 | 武也 | Takeya | 「ええと、生中2つとシーザーサラダと、 サイコロステーキにミックスピザ…」 | ||
142 | 依緒 | Io | 「武也!」 | ||
143 | 武也 | Takeya | 「揚げ豆腐に肉じゃが、ほっけとイカの一夜干し。 とりあえずそんなとこでよろしく。 …仕方なかったんだよ、色々と」 | ||
144 | 依緒 | Io | 「そんな適当な一言で済むとでも思ってるの? 今回のこと、あたしが一体裏でどれだけ苦労したか…」 | ||
145 | 武也 | Takeya | 「前に一度、全く同じ手使っただろ? 完全に警戒されてんだよ、アレで」 | ||
146 | 依緒 | Io | 「もう、春希の奴… 一体いつまでウジウジしてるつもりなのあいつは!」 | ||
147 | 武也 | Takeya | 「しかもそれだけじゃなくて… 最悪のタイミングで、最悪の相手が割り込んできて…」 | ||
148 | 依緒 | Io | 「最悪の相手? 誰それ?」 | ||
149 | 武也 | Takeya | 「小春希」 | ||
150 | 依緒 | Io | 「…何それ?」 | ||
151 | 武也 | Takeya | 「会えば俺の言いたいことが一発で理解できる。 …この世には、似た奴が三人はいるって言うけどさ」 | ||
152 | 依緒 | Io | 「ちょっと武也。 もう少し常識人にもわかるように説明…」 | ||
153 | 武也 | Takeya | 「お~来た来た! こっちこっち~」 | ||
154 | 雪菜 | Setsuna | 「…こんばんは。 やっぱりお邪魔だったかな?」 | ||
155 | ……… | .........
| |||
156 | 春希 | Haruki | 「『早速ですが、次回作の構想などは?』」 | ||
157 | 春希 | Haruki | 「ええと…『ミュージカルを希望しているが、 ケビンの許可が出ない』…?」 | ||
158 | 春希 | Haruki | 「…『ミュージカルなんかいいね。 ケビン(プロデューサーのケビン・クラウニー氏)は 絶対許さんなんて息巻いてるけど(笑)』」 | ||
159 | 麻理 | Mari | 「…あれ? 今日は来れないかもって言ってなかった?」 | ||
160 | 背中から声を掛けられたついでに時計を見ると、 そろそろ20時を過ぎようとしていた。 | ||||
161 | …どうやら2時間ほど、 時間の経過を意識せずに、 目の前の仕事に没頭してたらしい。 | ||||
162 | 春希 | Haruki | 「『来れないかも』ってことは、 『来れるかも』の裏返しってことで…」 | ||
163 | それと言うのも… | ||||
164 | 麻理 | Mari | 「どしたの? 週末なのに。 | ||
165 | 麻理 | Mari | 彼女にデート、キャンセルされた?」 | ||
166 | 春希 | Haruki | 「そうですね。そんな感じです。 まったく、甲斐性なしで…」 | ||
167 | 麻理 | Mari | 「…ほっとした顔で肯定しないの。 一発でもっとタチ悪いことしてきたってわかるわよ?」 | ||
168 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
169 | 麻理 | Mari | 「…そこで一気に不機嫌な顔しないの。 一発で図星だったってわかるわよ?」 | ||
170 | 春希 | Haruki | 「…あまり話しかけないでください。 これ、今日中に終わらせなくちゃならないんで」 | ||
171 | 我ながらみっともない反論をしてるという自覚はある… | ||||
172 | けど、たった20時間のうちに、 二度も心の中をぐるぐるに掻き回された俺としては、 『みっともなくもなるさ』と開き直るしかなかったり。 | ||||
173 | 麻理 | Mari | 「その仕事の指示を出したのは私で、 締め切りは月曜だったような気もするけど?」 | ||
174 | 春希 | Haruki | 「その頃にはとっくに新しい仕事を持ち込んでるのが 麻理さんでしょ?」 | ||
175 | 麻理 | Mari | 「ま、それは確かに。 ついさっき編集会議で新企画が通ってね」 | ||
176 | 春希 | Haruki | 「はは…」 | ||
177 | そろそろ一人で雑誌作れそうだな、この人。 まだ入社して5年経ってないはずなのに。 | ||||
178 | 麻理 | Mari | 「ま、体も心も壊さないって言うなら頑張ってもいい。 けど、だからって文章荒らしたら許さないわよ。 あんたが書いたモノで金取るんだからね?」 | ||
179 | 最後に、気遣いと人使いが絶妙にブレンドされた 言葉をかけると、後は関知せずとばかりに、 麻理さんは自分の机と大量の仕事に向かった。 | ||||
180 | 春希 | Haruki | 「…肝に銘じます」 | ||
181 | こうなると、また数時間はお声が掛からない。 何しろ相手は俺以上にそれどころじゃないから。 | ||||
182 | 春希 | Haruki | 「『最後に、日本のファンへ メッセージをお願いします』」 | ||
183 | だから、この場所はいいんだ。 | ||||
184 | 周りは皆、『わかった大人』ばかり。 安心して、人の中で一人でいられる… | ||||
185 | 春希 | Haruki | 「…っ」 | ||
186 | 何もわかっていないのなら、 きちんと人との距離を取れ。 | ||||
187 | 見ず知らずの人間にまで誠実を求めるな。 | ||||
188 | 自分のモノサシで測った結果が 全て他人に当てはまるとでも思ってるのか? | ||||
189 | 相手だって、『ただ誠実であろうとしただけ』 なのかもしれないじゃないか。 | ||||
190 | ふざけるな。 | ||||
191 | 君は『ふざけてない』って反論するって、 俺はわかってるけど、それでも、ふざけるな… | ||||
192 | なぜ、わかってるのかって? どうして、自分のモノサシで他人を測るのかって? | ||||
193 | そんなこともわからないのか…? だから君は何もわかってないって言うんだ。 | ||||
194 | 春希 | Haruki | 「杉浦、小春…」 | ||
195 | だって君は… | ||||
196 | 麻理 | Mari | 「へぇ、北原の彼女、小春ちゃんって言うんだ。 随分と派手に喧嘩したみたいね?」 | ||
197 | 春希 | Haruki | 「せっかく心の中で誉めたのに 台無しじゃないですか…」 | ||
198 | ……… | .........
| |||
199 | 三年前の俺、そのものじゃないか。 | ||||
200 | 春希 | Haruki | 「え…矢田さんの?」 | ||
201 | 小春 | Koharu | 「クラスメートです。 …1年のときから、ずっと」 | ||
202 | 春希 | Haruki | 「そ、そう…」 | ||
203 | 素っ気無く、杉浦小春と名乗った少女は、 その次に矢田美穂子という名を口にした。 | ||||
204 | その人名だけで、 俺は彼女が何の目的でやってきたのか理解した。 | ||||
205 | ついでに、少しの後ろめたさも湧き上がる。 | ||||
206 | 武也 | Takeya | 「ちょっと待て。 付属のコに告られたって… 春希、お前自分のこと棚に上げて!」 | ||
207 | 春希 | Haruki | 「だから断ったよ…当たり前だろ?」 | ||
208 | 小春 | Koharu | 「…どうして当たり前なんですか?」 | ||
209 | 春希 | Haruki | 「え? あ、いや…」 | ||
210 | 小春 | Koharu | 「大学三年にもなって、付属の、 ずっと年下のコなんか相手してられないって、 そういうことですか?」 | ||
211 | 春希 | Haruki | 「そ、そういう意味じゃなくて…」 | ||
212 | 武也 | Takeya | 「お前、さっき俺にはそういう意味だって…」 | ||
213 | 春希 | Haruki | 「ちょっと黙ってて武也…」 | ||
214 | 説教は人のためならず… | ||||
215 | 小春 | Koharu | 「彼女、一昨日から学校休んでます」 | ||
216 | 春希 | Haruki | 「そう、か」 | ||
217 | 小春 | Koharu | 「ずっと尊敬していた『北原先生』に ものすごく冷たいこと言われたって… お見舞いに行ったら、ずっと泣いてました」 | ||
218 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
219 | 『それは君の勘違いだ。 忘れなさい』 | ||||
220 | あの言葉は条件反射だった。 今の俺にとっては、当然の反応だった。 | ||||
221 | だからって、それが他人に、 しかも年下の女の子にしていい態度かと言うと… | ||||
222 | 春希 | Haruki | 「悪かった…」 | ||
223 | 自分のしたことを客観視できるくらい時間も経てば、 やっと自分の犯した罪も見えてくる。 | ||||
224 | 春希 | Haruki | 「彼女に謝っておく。 メールしとくよ」 | ||
225 | 小春 | Koharu | 「必ず、ですよ?」 | ||
226 | 春希 | Haruki | 「わかってる。約束は守る」 | ||
227 | きっと、何も悪気はなかった。 本当に、真面目に気持ちを伝えようとしてくれてた。 | ||||
228 | そんな彼女に、あんな冷たい言葉をかけたのは、 許されることじゃないのかもしれない。 | ||||
229 | 春希 | Haruki | 「けど、やっぱり彼女の申し出には応じられない。 悪いけど」 | ||
230 | 武也 | Takeya | 「春希…」 | ||
231 | 小春 | Koharu | 「………」 | "........."
| |
232 | ただそれは、 自分がより重い罪を犯さないための必要悪。 | ||||
233 | だから今の俺には、 より軽い方の罪を犯さずにいることはできない。 | ||||
234 | 春希 | Haruki | 「矢田さん、教え子としては理想のコだったんだ。 俺の授業いつも出てくれてたし、挨拶は欠かさないし、 毎回居残ってまで質問してくれたし…」 | ||
235 | 武也 | Takeya | [F16「それ、完全に脈アリアリじゃん。 ][F16気づけよお前は…」] | ||
236 | 春希 | Haruki | 「だから、ついつい嬉しくて、 必要以上に親しくしてしまったかもしれない。 反省してる」 | ||
237 | 小春 | Koharu | 「………」 | "........."
| |
238 | 春希 | Haruki | 「本当に悪かった」 | ||
239 | 小春 | Koharu | 「…もう、いいです」 | ||
240 | 春希 | Haruki | 「え…」 | ||
241 | ただ一人のおちゃらけ要員だけでは払拭できなかった この場の重苦しい空気は、その一言でようやく和らいだ。 | ||||
242 | さっきまで厳しい表情で俺を睨みつけていた少女が、 ふっと柔らかく抜けた表情を見せた瞬間… | ||||
243 | 小春 | Koharu | 「北原さん、思ったよりも真面目な人だったし。 美穂子のことも重く受け止めてるみたいだったから… 少し、安心しました」 | ||
244 | 建物の中にも関わらず、 優しい風が吹いたような気がした。 | ||||
245 | 春希 | Haruki | 「そ、そう?」 | ||
246 | 武也 | Takeya | 「しっかし小春ちゃん勇気あるよなぁ。 いきなり見ず知らずの大学生を怒鳴りつけるなんて」 | ||
247 | 小春 | Koharu | 「別に、勇気は関係ないです。 間違ったことをしてるつもりはないですから」 | ||
248 | 微妙に受け答えになっていないような気も… | ||||
249 | 武也 | Takeya | 「…なんかいつも身近で聞いてる理屈のような」 | ||
250 | 微妙に意味がわからないような気も… | ||||
251 | 小春 | Koharu | 「あと、初対面でいきなり『小春ちゃん』は…」 | ||
252 | なんて、少し軽いことが考えられるようになったのは、 彼女の柔らかい表情を見ることができたから。 | ||||
253 | さっきまでの凛とした表情も、今の柔らかい表情も、 どう見ても武也にとって絶好球で、 要するにそれは、一般的に見ても… | ||||
254 | 春希 | Haruki | 「それじゃ、もういいかな? 俺、これからバイトがあるから」 | ||
255 | …なんて、俺がそんな感想を抱くことには、 何の意味もないから。 | ||||
256 | 武也 | Takeya | 「そっか、お前はもう行くのか春希。 それじゃこれ伝票…」 | ||
257 | 春希 | Haruki | 「お前も帰るんだよ」 | ||
258 | 武也 | Takeya | 「え? だって俺さっきお前に振られたし、 小春ちゃんとお近づきにならないといけないし」 | ||
259 | 小春 | Koharu | 「後半を承諾した覚えはないですけど…」 | ||
260 | 春希 | Haruki | 「…だってよ。 ほら、行くぞ武也」 | ||
261 | 武也 | Takeya | 「そっか、残念。 それじゃ小春ちゃんまたね。あ、これ俺のメアド。 二度目の対面の時はゆっくり会おう。二人きりで」 | ||
262 | 小春 | Koharu | 「あの、北原さん。 さっきの話…」 | ||
263 | いい加減、武也の攻勢を流すことを 覚えたらしい杉浦小春が、 俺の目をもう一度まっすぐ射抜く。 | ||||
264 | 春希 | Haruki | 「うん、矢田さんには連絡しておく。 それじゃ」 | ||
265 | 小春 | Koharu | 「ちゃんと話してくださいよ?」 | ||
266 | やっぱり、今までの柔らかい表情もさることながら、 今のきりっとした表情も… | ||||
267 | 春希 | Haruki | 「わかってる。 酷い態度を取ってしまった事、謝るよ」 | ||
268 | 小春 | Koharu | 「謝るだけじゃないですよ? ちゃんと話をしてください」 | ||
269 | 春希 | Haruki | 「だから悪かったって…」 | ||
270 | 小春 | Koharu | 「悪かったって言うだけじゃ意味がないです。 告白を断った理由、話してあげてください」 | ||
271 | 春希 | Haruki | 「え…」 | ||
272 | そして、その厳しい表情から発せられる言葉は、 また、元通りの厳しさを取り戻し… | ||||
273 | 小春 | Koharu | 「美穂子は本気だったんだから、 ちゃんと本気で返事をしてあげて欲しいんです」 | ||
274 | 春希 | Haruki | 「…謝るだけじゃ、駄目だって?」 | ||
275 | 小春 | Koharu | 「理由があったんですよね? 美穂子の気持ち、どうしても受け入れられないから、 告白を断ったんですよね?」 | ||
276 | 春希 | Haruki | 「理由…」 | ||
277 | 小春 | Koharu | 「だったら、その理由を話してください。 そして、美穂子を納得させてあげてください」 | ||
278 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
279 | そしてまた、容赦のなさまでも取り戻す。 | ||||
280 | 絶対正義に満ちた、どこかで見たような瞳で。 | ||||
281 | 武也 | Takeya | 「いや、ちょっと、小春ちゃん…」 | ||
282 | 小春 | Koharu | 「でないとあのコは、次の恋に進めないかもしれない。 ずっと引きずったままになっちゃうかもしれない」 | ||
283 | 武也 | Takeya | 「わかった、わかったから。 とにかく、相手のコが納得すればいいんだろ? そこはちゃんとする。俺も責任持つからさ…」 | ||
284 | 多分、俺の顔色が一瞬で変わったんだろう。 | ||||
285 | 今までおちゃらけていた武也が、 かなり真剣に俺を庇おうと、彼女と俺の間に立つ。 | ||||
286 | 小春 | Koharu | 「それだけじゃ駄目です。 嘘をつかずに、本当のこと全部話してください。 本当は彼女がいるなら、そう言ってあげてください」 | ||
287 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
288 | 武也 | Takeya | 「ええと、それは… ぜ、善処するから」 | ||
289 | 小春 | Koharu | 「美穂子、本気だったんです。 だから、断るにしても誠実でいてください。 …お願いします」 | ||
290 | 春希 | Haruki | 「誠実…」 | ||
291 | 杉浦小春が、ぺこりと頭を下げる。 | ||||
292 | 真面目で、融通が利かなくて、 相手に逃げ場を与えなくて、 そして、自分が信じる誠実さにのっとって。 | ||||
293 | 本当に、どこかで見たような、 いつも身近で聞いてる理屈のような、 そんな、俺にとってなじみ深い原則論。 | ||||
294 | だから、だから俺は… | ||||
295 | 春希 | Haruki | 「何で…」 | ||
296 | 武也 | Takeya | 「い、行くぞ春希。 後で、後で連絡するから。 それじゃ、また…」 | ||
297 | 春希 | Haruki | 「何でそんなこと、 “赤の他人”に話さなくちゃならないんだ?」 | ||
298 | 小春 | Koharu | 「な…」 | ||
299 | 考えうる最低の態度を取った。 | ||||
300 | 武也 | Takeya | 「っ!? は、春希…いいから。 俺がなんとかするから、なっ」 | ||
301 | 春希 | Haruki | 「きちんと話したからって、事情を全部知ったからって、 それで絶対に相手は納得するのか? そんな保証あるのか?」 | ||
302 | 三つも年下の女の子に、 心の奥底に隠していたはずの、醜い感情をぶつけた。 | ||||
303 | 小春 | Koharu | 「そ、そんなの、相手がどう出るかじゃなくて、 自分の心の問題じゃないですか!」 | ||
304 | 春希 | Haruki | 「さっきまで彼女のため、彼女のためって言っといて、 旗色が悪くなったらいきなり俺の心の問題か?」 | ||
305 | 小春 | Koharu | 「っ!?」 | ||
306 | 武也 | Takeya | 「だからやめとけって春希… どんな理由があってもお前が退くんだよここは」 | ||
307 | 春希 | Haruki | 「なんで俺が、勝手に好きになられた相手のために、 俺ですら見たくもない自分を晒さなくちゃならない?」 | ||
308 | 一度噴火した暗い感情の溶岩は、 後は真っ黒な灰で辺りを覆い尽くしていき。 | ||||
309 | 小春 | Koharu | 「そ、そんな言い方…ないじゃないですか。 美穂子のこと、そんな風に思ってたんですか?」 | ||
310 | 春希 | Haruki | 「そうだよ、元々そういう人間なんだよ俺。 どうしてわかってくれなかったんだ? どうして嫌ってくれなかったんだよ…」 | ||
311 | 暗雲の隙間から、燃えたぎるマグマが 吹きこぼれそうになり。 | ||||
312 | 小春 | Koharu | 「それでも好きになっちゃったんだから、 しょうがないでしょ!」 | ||
313 | 春希 | Haruki | 「しょうがないで済むか! 俺みたいな奴なんか好きにならないでくれよ!」 | ||
314 | 武也 | Takeya | 「春希…」 | ||
315 | 小春 | Koharu | 「………何、それ?」 | ||
316 | 春希 | Haruki | 「っ、何でもない」 | ||
317 | 次の瞬間、 自分の、あまりにも愚かな言動を後悔する。 | ||||
318 | 小春 | Koharu | 「あ…」 | ||
319 | 春希 | Haruki | 「ごめん、本当に時間ないから」 | ||
320 | だから、逃げるようにその場を駆け出す。 | ||||
321 | 武也 | Takeya | 「春希! おい待てって! …ごめん、真面目に今度埋め合わせするから。 また連絡する、じゃ!」 | ||
322 | …会計で足止めを喰らう間の気まずさは、 何物にも代え難かった。 | ||||
323 | ……… | .........
| |||
324 | …… | ......
| |||
325 | 小春 | Koharu | 「………………………何よそれ!?」 | ||
326 | … | ...
| |||
327 | 武也 | Takeya | 「俺みたいな奴なんか好きにならないでくれ…か」 | ||
328 | 雪菜 | Setsuna | 「え…」 | ||
329 | 武也 | Takeya | 「…何でもない。 ちと酔ったかな?」 | ||
330 | 依緒 | Io | 「どしたの武也? 何か調子出ないね? いつもの合コンよりよっぽど女の子のレベル 高いはずなんだけど」 | ||
331 | 武也 | Takeya | 「いや、それは認めるけど、 こんな生殺しな合コンも他にはなくてな…」 | ||
332 | 依緒 | Io | 「なんと言われようと雪菜は観賞用。 お手を触れないようにお願いします~」 | ||
333 | 武也 | Takeya | 「じゃ、こっちの代用品ならいいのか?」 | ||
334 | 依緒 | Io | 「こちらは戦闘用ですので、場合によっては 最大の防御を発動する場合がございます」 | ||
335 | 武也 | Takeya | 「…やっぱ俺帰っていい?」 | ||
336 | 依緒 | Io | 「駄目。ほら向こうの席の男だけのテーブル。 さっきから雪菜の方ばっか見てる。 あんた帰ったら絶対こっち来るよ?」 | ||
337 | 武也 | Takeya | 「そんなの戦闘用が戦えよ?」 | ||
338 | 依緒 | Io | 「酷いよ武也! あんたなんかもう帰れ!」 | ||
339 | 武也 | Takeya | 「いや、だからな…」 | ||
340 | 雪菜 | Setsuna | 「あはは…相変わらず仲いいね二人とも」 | ||
341 | 武也&依緒 | Takeya & Io | 「や~そう見える?」 「これっぽっちも」 | ||
342 | 武也 | Takeya | 「………」 | "........."
| |
343 | 依緒 | Io | 「あ、すいません。 ジントニックおかわり」 | ||
344 | 武也 | Takeya | 「おい依緒、 お前もうちょっと普通の女の反応とかないのかよ? 誰もが認めるいい男に惚れるとかそういうの」 | ||
345 | 依緒 | Io | 「ちょっとぉ、『おい』って呼ぶのやめてよ」 | ||
346 | 武也 | Takeya | 「だってよ、 お前がまるっきり可愛げがないから…」 | ||
347 | 依緒 | Io | 「『おい依緒』って回文じゃない。 昔よくそれでからかわれたのよね」 | ||
348 | 武也 | Takeya | 「それだけかよ!」 | ||
349 | 雪菜 | Setsuna | 「ふふっ…あはは…あははははっ…」 | ||
350 | 武也 | Takeya | 「なぁ、雪菜ちゃんも何とか言ってやってよ。 この、大学三年にもなってまだ彼氏の一人もできない 哀れなスポーツ馬鹿にさぁ」 | ||
351 | 依緒 | Io | 「大学三年間で三桁を超える彼女に振られるのと どっちが哀れかよく考えてからにしてよね」 | ||
352 | 雪菜 | Setsuna | 「あはは…はは…っ、 ほんとに、ほんとに…ずっと変わらないなぁ」 | ||
353 | 武也 | Takeya | 「………」 | "........."
| |
354 | 雪菜 | Setsuna | 「ご、ごめん…っ、 ほんと、あまりにも楽しくって…」 | ||
355 | 依緒 | Io | 「雪菜…」 | ||
356 | 雪菜 | Setsuna | 「依緒と武也君がいてくれて、本当に良かったなぁって、 神様に感謝したい気分」 | ||
357 | 武也 | Takeya | 「神様じゃなくて直接俺に感謝してくれていいのに」 | ||
358 | 依緒 | Io | 「ただお酒飲んで騒いでるだけでいいなら、 これからだって、いつでも付き合うよ、雪菜?」 | ||
359 | 雪菜 | Setsuna | 「うん、ありがと。 本当に、ありがとう」 | ||
360 | 武也 | Takeya | 「雪菜ちゃん…」 | ||
361 | 雪菜 | Setsuna | 「わたしね…あなたたちと、家族がいるから、 …小木曽雪菜のままでいられてるんだよ」 | ||
362 | 依緒 | Io | 「っ…」 | ||
363 | 雪菜 | Setsuna | 「これからも、よろしくね。 ずっと、仲良くしてね」 | ||
364 | 武也 | Takeya | 「わかった、約束するよ。 俺たち絶対に…」 | ||
365 | 雪菜 | Setsuna | 「ううん、約束はしなくていい」 | ||
366 | 武也 | Takeya | 「え? でも…」 | ||
367 | 雪菜 | Setsuna | 「だって、もし約束したら、 すがってしまうから」 | ||
368 | 『俺は絶対に小木曽から離れていったりしない!』 | ||||
369 | 『俺は誓って絶交なんかしない。 されるまで、離れていくことはないから』 | ||||
370 | 雪菜 | Setsuna | 「ずっと信じて、そして傷ついてしまうから」 | ||
371 | ……… | .........
| |||
372 | 依緒 | Io | 「さて、これからどうしよか? 明日は休みだし…」 | ||
373 | 武也 | Takeya | 「静かなところで飲み直す? ボウリングとかで体動かす? それか、久々に雪菜ちゃんオンステージでも…」 | ||
374 | 雪菜 | Setsuna | 「あ、ごめん、わたしそろそろ帰らないと。 お父さんが心配するし」 | ||
375 | 依緒 | Io | 「…相変わらず門限10時なんだ」 | ||
376 | 武也 | Takeya | 「…変わらないよな、小木曽家も」 | ||
377 | 雪菜 | Setsuna | 「本当にごめんね。 せっかく元気づけてくれたのに、 水を差すようなことばっかり…」 | ||
378 | 依緒 | Io | 「その覚悟がなくちゃ誘わない」 | ||
379 | 雪菜 | Setsuna | 「っ…ありがとね、依緒。 本当に、嬉しかったよ」 | ||
380 | 依緒 | Io | 「だから、また誘うからね。 断ったら許さないからね」 | ||
381 | 雪菜 | Setsuna | 「うん…うんっ」 | ||
382 | 武也 | Takeya | 「…送ってくよ。 三人で帰ろう」 | ||
383 | 雪菜 | Setsuna | 「ううん、いい。 ここから先は、二人の邪魔しないから」 | ||
384 | 依緒 | Io | 「ご冗談を」 | ||
385 | 武也 | Takeya | 「………」 | "........."
| |
386 | 雪菜 | Setsuna | 「それじゃ、さよなら」 | ||
387 | 依緒 | Io | 「うん、また来週~」 | ||
388 | 武也 | Takeya | 「っ…雪菜ちゃん!」 | ||
389 | 雪菜 | Setsuna | 「ん?」 | ||
390 | 武也 | Takeya | 「あのさ…今日、春希と話したよ」 | ||
391 | 依緒 | Io | 「武也…?」 | ||
392 | 武也 | Takeya | 「どうしても抜けられないバイトだったんだって。 本当は行きたいのにってすごく残念がってた。 …雪菜ちゃんのこと、気にしてたよ」 | ||
393 | 雪菜 | Setsuna | 「………ありがと、武也くん」 | ||
394 | 武也 | Takeya | 「いや、感謝されても困るな。 言づて頼まれてたのに、今まで忘れてたくらいなんだし」 | ||
395 | 依緒 | Io | 「………」 | "........."
| |
396 | 雪菜 | Setsuna | 「元気だった? 春希くん」 | ||
397 | 武也 | Takeya | 「ああ、忙しそうに走り回ってた」 | ||
398 | 雪菜 | Setsuna | 「本当? 疲れてなかった? ちゃんと食べてるみたいだった? 毎日きちんと寝てるって言ってた?」 | ||
399 | 武也 | Takeya | 「あはは…雪菜ちゃん、お母さんみたいだな」 | ||
400 | 雪菜 | Setsuna | 「………笑ってた?」 | ||
401 | 武也 | Takeya | 「あ………ああっ!」 | ||
402 | 依緒 | Io | [F16「馬鹿、そこでトチるな」] | ||
403 | 武也 | Takeya | 「あ、あいつ、今は本当に忙しいんだ! 自分のことしか考えられないんだ」 | ||
404 | 雪菜 | Setsuna | 「うん…」 | ||
405 | 武也 | Takeya | 「だからさ、だから… なかなか会えないからって、 春希のこと、嫌わないでいてくれよな?」 | ||
406 | 依緒 | Io | 「武也…」 | ||
407 | 雪菜 | Setsuna | 「嫌うなんて…できるわけないよ」 | ||
408 | 武也 | Takeya | 「う、うん、そうだよな…当たり前だよな。 じゃ、おやすみ!」 | ||
409 | 雪菜 | Setsuna | 「おやすみ」 | ||
410 | ……… | .........
| |||
411 | 雪菜 | Setsuna | 「だからずっと… 春希くんを苦しめてるんだよ、わたし」 | ||
412 | 武也 | Takeya | 「…はぁ」 | ||
413 | 依緒 | Io | 「馬ぁ~鹿」 | ||
414 | 武也 | Takeya | 「なにおう」 | ||
415 | 依緒 | Io | 「誰もが一発でわかる大嘘ついて、 一体何がしたいんだか」 | ||
416 | 武也 | Takeya | 「こんなわざとらしい飲み会企画しておきながら、 結局、目的を達成できない奴に言われたくないな」 | ||
417 | 依緒 | Io | 「あんたが春希引っ張って来れないのが悪いんじゃん」 | ||
418 | 武也 | Takeya | 「お前がお節介過ぎんだよ。 昔の春希といい勝負だ」 | ||
419 | 依緒 | Io | 「だってさぁ…もう三年だよ? どうしてずっと引きずったままなんだよ? いい加減、お互い許し合えばいいのに」 | ||
420 | 武也 | Takeya | 「もう三年だ。 どうしてずっと想い合ったままなんだよ? いい加減、お互い離れればいいのに」 | ||
421 | 依緒 | Io | 「っ!?」 | ||
422 | 武也 | Takeya | 「…そういう解決方法だって正解だ。 ただ、俺たちが目指してないだけで」 | ||
423 | 依緒 | Io | 「…あたしたちって、いい奴だね」 | ||
424 | 武也 | Takeya | 「それを口に出さなけりゃな」 | ||
425 | 依緒 | Io | 「ふん」 | ||
426 | 武也 | Takeya | 「さぁて、これからどうする? 明日は休みだし…」 | ||
427 | 依緒 | Io | 「帰るに決まってる。 じゃ、ね」 | ||
428 | 武也 | Takeya | 「あ、おい、ちょっと…」 | ||
429 | 依緒 | Io | 「もちろん送らなくて結構だから。 それじゃ、また来年」 | ||
430 | 武也 | Takeya | 「………」 | "........."
| |
431 | 武也 | Takeya | 「何で俺までいい奴やってるのか、 少しは察して欲しいもんだけどなぁ」 | ||
432 | ……… | .........
| |||
433 | 春希 | Haruki | 「『板山和久。セリエBリッチ所属。17歳。 藤山北高校を中退後、単身イタリアへ…』」 | ||
434 | 麻理 | Mari | 「ふぅ… 夜食買ってくるけど、北原何か欲しい?」 | ||
435 | 春希 | Haruki | 「あ…これ終わったら上がりますから」 | ||
436 | 麻理 | Mari | 「そうね、早く帰った方がいいわ。お疲れさま。 …すれ違いになるといけないから、今言っとくわね」 | ||
437 | 春希 | Haruki | 「お疲れさまです」 | ||
438 | 春希 | Haruki | 「って、3時…」 | ||
439 | 『早く帰った方がいい』って… そもそも今から夜食って、いつ帰るつもりだあの人? | ||||
440 | ま、終電逃した俺が言うのもなんだけど。 また40分かけて歩いて帰るのか。 | ||||
441 | ありがたい。 今日はきっと、夢も見ないほど疲れ果てられる。 もしかしたら、休日をずっと寝て過ごせるかも。 | ||||
442 | ……… | .........
| |||
443 | 転部は、ずっと前から考えてた。 | ||||
444 | 教養課程の頃から、政経の講義内容に なんとなく深く傾倒できなかったとか。 | ||||
445 | 将来、文章を書く仕事に就きたいと 具体的に考えるようになっていたからとか。 | ||||
446 | 実際に決心したとき、周りの友人たちには、 そうやって、色々と達観したような顔で、 吹いたものだった。 | ||||
447 | …もちろん後付け。 一部の人間には、わかりすぎるほどわかってたと思う。 | ||||
448 | 家を出た。大学の近くのマンションを借りた。 生活費を稼ぐため、大量のアルバイトを入れた。 | ||||
449 | 自分の学部と無関係の講義を受けまくった。 新聞サークルとか、マスコミ就職のための ゼミとかに積極的に参加した。 | ||||
450 | とにかく、プライベートの時間を削ぎ落とした。 …雪菜から、逃げた。 | ||||
451 | 春希 | Haruki | 「『平坂みゆき。 パリ・シェリパンホテル専属パティシエ。23歳。 19歳のとき、製菓会社主催のコンクールで優勝…」 | ||
452 | だって雪菜は、俺のこと、憎まなかった。 | ||||
453 | あれだけ酷い裏切りをされたのに、 何事もなかったかのように、俺に微笑みかけてくれた。 | ||||
454 | 俺が逃げても、その距離を無理やり詰めようとせず、 けれど自分からは遠ざからず、 俺のこと、優しく見つめてくれた。 | ||||
455 | そのたびに俺は、嬉しくて、胸がときめいて、 その綺麗な姿と心に触れたくて、 自分の意志を制御できず、ふらふらと彼女に近づき… | ||||
456 | すぐ近くで、その思い出と想いの深さに触れた瞬間、 自分の残酷さを思い出し、彼女の目の前から逃げ出した。 | ||||
457 | そんな無情なループを何度も繰り返し、 自分だけでなく、雪菜が疲弊していくのを 目の当たりにし… | ||||
458 | 俺は、雪菜の可能性を奪った俺を憎んだ。 俺の憧れの歌姫の声を奪った俺が許せなかった。 | ||||
459 | だから俺はもう、雪菜に呆れられるしかない。 嫌われてしまわなくちゃならない。 憎まれるべき人間だ。 | ||||
460 | 付属時代の、誰のものでもなく、そして皆のものだった、 本当の小木曽雪菜に戻ってもらいたいから。 | ||||
461 | あいつみたいに、飛び立って欲しかった。 俺みたいな人間に、囚われて欲しくなかった。 | ||||
462 | そしてもし、そんな俺の願いが叶えられたなら… | ||||
463 | その時、俺はようやく 立ち直るのにとても長い時間がかかるくらい、 深く落ち込むことができるんだろうって、思う。 | ||||
464 | 春希 | Haruki | 「っ…」 | ||
465 | また、考えてた。 | ||||
466 | 夢に見るのも辛くて、 ありとあらゆる方法を駆使して逃げてる現実と、 無意識のうちに向き合ってしまっていた。 | ||||
467 | 春希 | Haruki | 「早く片づけないと…」 | ||
468 | 編集していた記事も、ほとんど頭に入ってない。 …明日の午前中入稿なのに。 | ||||
469 | 麻理さんが海外出張のときに取材してきた、 『開桜グラフ』の小特集用の記事。 | ||||
470 | 確か、『世界で活躍する日本の若き才能』 みたいなお題で、日本では無名だけど、 海外で花開いた人たちにスポットを当て… | ||||
471 | 春希 | Haruki | 「え…」 | ||
472 | 閉じようとした記事のファイルを、 気まぐれで一番下までスクロールした俺は… | ||||
473 | プロサッカー選手、三ツ星ホテルのパティシエ等、 そうそうたる経歴の若手が並ぶその記事の、 最後の最後に紹介されている名前を見てしまった。 | ||||
474 | 『冬馬かずさ。 トラスティ国際コンクールピアノ部門2位』 | ||||
475 | 春希 | Haruki | 「………かずさ?」 | ||
476 | 『あいつみたいに、飛び立って欲しかった』 |
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Introductory Chapter | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1001 | 1008 | 1009 | 1010 | 1011 | 1012 | 1013 |
1002 | 1008_020 | 1009_020 | 1010_020 | 1011_020 | 1012_020 | |
1003 | 1008_030 | 1009_030 | 1010_030 | 1011_030 | 1012_030 | |
1004 | 1008_040 | 1010_040 | 1012_030_2 | |||
1005 | 1008_050 | 1010_050 | ||||
1006 | 1010_060 | |||||
1006_2 | 1010_070 | |||||
1007 |
Closing Chapter | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | ||||||
2001 | 2011 | 2020 | 2027 | 2301 | 2309 | 2316 | 2401 | 2408 | 2501 | 2510 |
2002 | 2012 | 2021 | 2028 | 2302 | 2310 | 2317 | 2402 | 2409 | 2502 | 2511 |
2003 | 2013 | 2022 | 2029 | 2303 | 2311 | 2318 | 2403 | 2410 | 2503 | 2512 |
2004 | 2014 | 2023 | 2030 | 2304 | 2312 | 2319 | 2404 | 2411 | 2504 | 2513 |
2005 | 2015 | 2024 | 2031 | 2305 | 2313 | 2320 | 2405 | 2412 | 2505 | 2514 |
2006 | 2016 | 2025 | 2032 | 2306 | 2314 | 2321 | 2406 | 2413 | 2506 | 2515 |
2007 | 2017 | 2026 | 2033 | 2307 | 2315 | 2322 | 2407 | 2507 | 2516 | |
2008 | 2018 | 2308 | 2508 | 2517 | ||||||
2009 | 2019 | 2509 | ||||||||
2010 | ||||||||||
Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | |||||||
2031_2 | 2312_2 | 2401_2 | 2504_2 | 2511_2 | ||||||
2031_3 | 2313_2 | 2402_2 | 2507_2 | 2513_2 | ||||||
2031_4 | 2313_3 | 2402_3 |
Coda | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Kazusa (True) | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | ||||||
3001 | 3008 | 3014_2 | 3020 | 3101 | 3107 | 3201 | 3207 | 3901 | 3907 |
3002 | 3009 | 3014_3 | 3021 | 3102 | 3108 | 3202 | 3208 | 3902 | 3908 |
3003 | 3010 | 3015 | 3022 | 3103 | 3109 | 3203 | 3209 | 3903 | 3909 |
3004 | 3011 | 3016 | 3023 | 3104 | 3110 | 3204 | 3210 | 3904 | |
3005 | 3012 | 3017 | 3024 | 3105 | 3111 | 3205 | 3211 | 3905 | |
3006 | 3013 | 3018 | 3106 | 3206 | 3906 | ||||
3007 | 3014 | 3019 | |||||||
Common | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | |||||||
3001_2 | 3210_2 | 3901_2 | 3906_2 | ||||||
3015_2 | 3902_2 | 3907_2 | |||||||
3902_3 | 3907_3 | ||||||||
3904_2 |
Mini After Story and Extra Episode | |||
---|---|---|---|
The Path Back to Happiness | The Path Forward to Happiness | Dear Mortal Enemy | |
6001 | 6101 | 4000 | 4005 |
6002 | 6102 | 4001 | 4006 |
6003 | 6103 | 4002 | 4007 |
6004 | 6104 | 4003 | 4008 |
6005 | 4004 | 4009 |
Novels | |||||
---|---|---|---|---|---|
The Snow Melts, And Until The Snow Falls | The Idol Who Forgot How to Sing | Twinkle Snow ~Reverie~ | After the Festival ~Setsuna's Thirty Minutes~ | His God, Her Savior | |
5000 | 5100 | 5200 | 5205 | 5300 | 5400 |
5001 | 5101 | 5201 | 5206 | 5301 | 5401 |
5002 | 5102 | 5202 | 5207 | 5302 | |
5003 | 5103 | 5203 | 5208 | 5303 | |
5004 | 5104 | 5204 | 5209 |
Short Stories | |||
---|---|---|---|
Princess Setsuna's Distress and Her Minister's Sinister Plan | Koharu Climate After the Passing of the Typhoon | This isn't the Season for White Album | Todokanai Koi, Todoita |
7000 | 7100 | 7200 | 7300 |