White Album 2/Script/2501
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Editing
Translation Notes
Text
Speaker | Text | Comment | |||
---|---|---|---|---|---|
Line # | JP | EN | JP | EN | |
1 | 春希 | Haruki | 「あ…」 | ||
2 | いつものように編集部の扉を開けたとき、 いつもとは違う静けさに、一瞬嫌な予感がした。 | ||||
3 | 実は誰もいなかったらとか、 いたとしても親しくない人たちだけだったらとか、 今さらになってそんな不安に駆られてしまったから。 | ||||
4 | けれど… | ||||
5 | 麻理 | Mari | 「北原…?」 | ||
6 | 春希 | Haruki | 「麻理さん…」 | ||
7 | どうやら俺は、最後の最後で、 なんとか当たりを引けていたらしい。 | ||||
8 | 麻理 | Mari | 「どうしたんだ一体? こんな日のこんな時間の、 しかもこんな天気の中わざわざ」 | ||
9 | 春希 | Haruki | 「こんな天気だからこそ、 こんな時間でも来れました。 …終電、雪で遅れて、まだ走ってたんですよ」 | ||
10 | 麻理 | Mari | 「『こんな日』に関しての答えがまだのようだけど…」 | ||
11 | 春希 | Haruki | 「他には誰もいないんですか? 麻理さんだけ?」 | ||
12 | 麻理 | Mari | 「………鈴木は有給。 松岡も木崎も定時になったらすっ飛んでいった。 浜田も今日ばかりは家族サービスって8時上がり」 | ||
13 | 春希 | Haruki | 「他の島の人たちも…?」 | ||
14 | 今日に限っては、編集者の島だけでなく、 デザイナーやカメラマンの島も、 ついでにデスクや編集長の席も空っぽだった。 | ||||
15 | とはいえ編集長は色々な雑誌を兼任してるから、 ここにいないのはいつものことだけど。 | ||||
16 | 麻理 | Mari | 「カメラマン関係は大きな忘年会があるみたい。 …こんな日に飲み会入れるなんて 迷惑以外の何物でもないでしょうけどね」 | ||
17 | 春希 | Haruki | 「それで、麻理さんは…」 | ||
18 | 麻理 | Mari | 「…今から嫌味を言うつもりなら、 私もそれ相応の態度を取らせてもらうつもりだけど?」 | ||
19 | 春希 | Haruki | 「…遅くまでお疲れ様です。 残ってくれてて助かりました」 | ||
20 | 麻理 | Mari | 「なら、よし。 …言っておくが誘いがなかった訳じゃないぞ? ただ、仕事より魅力のあるイベントじゃなかっただけだ」 | ||
21 | 春希 | Haruki | 「はは…」 | ||
22 | そんな俺のわざとらしい話のそらし方にも、 麻理さんきちんとノってきてくれた。 俺の[R瑕疵^かし]をそのまま放置しておいてくれた。 | ||||
23 | 本当によかった。 この人がいて。 | ||||
24 | …この人しかいなくて。 | ||||
25 | 麻理 | Mari | 「ところで北原… お前、それどうするつもりだ?」 | ||
26 | と、麻理さんが俺の右手に提げられた、 赤と白で彩られた四角い紙箱に視線を向ける。 | ||||
27 | それはもちろん、今日の日にちなんだ、 今日の日にしか通用しない差し入れで。 | ||||
28 | 春希 | Haruki | 「どうしましょう? 4、5人は残ってると思ったから 買ってきたんですけど…」 | ||
29 | 麻理 | Mari | 「さすがに二人で クリスマスケーキ丸ごと一個は無理だぞ。 週末にこんな賞味期限のヤバいもの持ってくるか普通…」 | ||
30 | 春希 | Haruki | 「その先の24時間営業のスーパーで千円だったんですよ」 | ||
31 | 麻理 | Mari | 「あ~、確かに売ってたなぁ。 昼間はまだ二千円だったのに」 | ||
32 | 春希 | Haruki | 「最近は叩き売るの早いんですね。 まだ明日の25日だって立派にクリスマスなのに。 あ、もう今日になっちゃったか」 | ||
33 | 麻理 | Mari | 「………」 | "........."
| |
34 | 春希 | Haruki | 「イブでないともう価値がないんでしょうかね。 それとも単に賞味期限が切れかけてるだけ…」 | ||
35 | 麻理 | Mari | 「………」 | "........."
| |
36 | 春希 | Haruki | 「…麻理さん?」 | ||
37 | 麻理 | Mari | 「…嫌味か?」 | ||
38 | 春希 | Haruki | 「何がです?」 | ||
39 | 麻理 | Mari | 「24を過ぎたらもう価値がないとか、 賞味期限切れとか…」 | ||
40 | 春希 | Haruki | 「………あ~」 | ||
41 | そういえば、誰かさんも確か25オーバー… | ||||
42 | 麻理 | Mari | 「北原もそういう苔の生えた古い価値観に 囚われているというわけか。 がっかりだよ、私は…」 | ||
43 | 春希 | Haruki | 「最初に賞味期限の話をしたのは麻理さんの方じゃ…」 | ||
44 | 麻理 | Mari | 「自虐を素で同情されたり馬鹿にされたりすると、 普段より余計に傷つくんだぞ? お前、そういう女の気持ちがわかって…」 | ||
45 | 春希 | Haruki | 「麻理さん、本気で気にしてます?」 | ||
46 | 麻理 | Mari | 「…ま、今のはネタだけど。 男にも結婚にも興味ないし」 | ||
47 | 春希 | Haruki | 「両立するんじゃなかったんですか? 恋と仕事」 | ||
48 | 麻理 | Mari | 「あれは若手の話だ。 お前くらいの」 | ||
49 | 春希 | Haruki | 「麻理さん…やっぱり若手じゃないって自覚して…」 | ||
50 | 麻理 | Mari | 「北原…お前いい加減にしろよ? いつの間に、私に対してそこまで遠慮がなくなった?」 | ||
51 | 春希 | Haruki | 「麻理さんだから遠慮なく言えるんです。 焦ってる気配も焦る必要も全くないから」 | ||
52 | 麻理 | Mari | 「…ふん、口先だけはもう立派なマスコミだな」 | ||
53 | 春希 | Haruki | 「ありがとうございます」 | ||
54 | 麻理 | Mari | 「私は貶してるんだ」 | ||
55 | 春希 | Haruki | 「わかってます」 | ||
56 | 麻理 | Mari | 「………ケーキ切っておくから、 缶コーヒー買ってこい。ブラックでな」 | ||
57 | 春希 | Haruki | 「はい…」 | ||
58 | 確かに自覚してる。 | ||||
59 | 麻理さん相手だと、口先だけはよく回るって。 余計なことまで話して不興を買いまくるって。 | ||||
60 | …だから今、この場に麻理さんがいてくれたことを 神に感謝してる。 | ||||
61 | 俺は今、間違いなく無理して明るく振舞ってる。 | ||||
62 | けれど、麻理さんと二人きりだと、 ほんの少しだけ、その無理をする度合いが減ってくれる。 ほんの少しだけ、本当に明るくなれる。 | ||||
63 | 99%の演技の中に、 1%の素の自分を織り交ぜることができるから。 | ||||
64 | 春希 | Haruki | 「お待たせしまし…?」 | ||
65 | 麻理 | Mari | 「~♪」 | ||
66 | 春希 | Haruki | 「なに、してるんですか?」 | ||
67 | 麻理 | Mari | 「ん? いや、ちょっと飾りがシンプルすぎたから。 せっかくのクリスマスケーキなのに」 | ||
68 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
69 | 編集部常備の紙皿の上に、 決して綺麗じゃない切り口で、 しかも大きさも揃っていないカットされたケーキが二つ。 | ||||
70 | 麻理 | Mari | 「普通、サンタのキャンドルくらいはあるよなぁ。 あと、チョコレートのメッセージプレートに、 砂糖菓子の雪に、それから…」 | ||
71 | そのケーキの地味さが物足りないらしく、 麻理さんはいつの間にか自分の趣味全開で ケーキの上に飾り付けを始めていた。 | ||||
72 | 麻理 | Mari | 「鈴木のおやつのクッキーを砕いて雪代わり。 メッセージプレートの代わりに名刺を添えて。 そしてサンタのキャンドルは…ほら!」 | ||
73 | 春希 | Haruki | 「麻理さん…」 | ||
74 | 麻理 | Mari | 「どうだ北原? これでなんとか格好ついただろ?」 | ||
75 | 春希 | Haruki | 「………悪趣味にも程がありますよ。 相変わらず」 | ||
76 | 麻理 | Mari | 「あははははっ、言うと思った。 お前はすぐに私のセンスを笑う」 | ||
77 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
78 | クッキーのかすも、ケーキに刺さった名刺も吹き飛ばす、 麻理さん流サンタクロース。 | ||||
79 | それは当然、どこの国で買ってきたかもわからない、 麻理さんセンス満載の、悪趣味キーホルダー。 | ||||
80 | 麻理 | Mari | 「いいだろこれ。私の今現在の一番のお気に入り。 アフリカに飛ばされてた友達の土産なんだ。 …私が絶対に気に入るだろうって」 | ||
81 | そのキーホルダーには、藁を布の切れ端で包んだような、 えらく適当で汚らしい人形がついていた。 | ||||
82 | でも、そこがまた麻理さんらしくて、 俺の口も、悪趣味なくらいに歪んでしまう。 | ||||
83 | 麻理 | Mari | 「さすがにケーキの上に載せるのは憚られるんで、 ここに飾って…と。 さ、北原、それじゃ乾杯しようか」 | ||
84 | 春希 | Haruki | 「………っ」 | ||
85 | 麻理 | Mari | 「…北原?」 | ||
86 | 春希 | Haruki | 「っ…は、はい。 メリークリスマス!」 | ||
87 | 麻理 | Mari | 「………メリー、クリスマス。 差し入れありがとう。正直嬉しかったよ」 | ||
88 | 春希 | Haruki | 「~っ!」 | ||
89 | 麻理 | Mari | 「…じゃ、いただきます。 うん、美味しそう」 | ||
90 | もう、どうにも普段通りの自分が作れなくて、 とうとう麻理さんに背中を向けて、 体を震わせてしまう俺。 | ||||
91 | 二人きりで、こんなふうにあからさまに顔を背けてたら、 今自分がどんな状態でいるのかなんて、 気づかれないはずがないのに。 | ||||
92 | 麻理 | Mari | 「…バタークリームくどいな。しかもすんごい甘い。 そりゃ早々と値引きするよ。 こんなもの売り切れる訳ないだろ」 | ||
93 | それでも麻理さんは、俺に構うこともなく、 ケーキをぱくつき、忌憚なき感想を述べてくれる。 | ||||
94 | 春希 | Haruki | 「………最低っすね」 | ||
95 | だから俺も、背中を向けたままケーキを口に運び、 彼女の言った通りの甘さとくどさにむせそうになる。 | ||||
96 | 麻理 | Mari | 「ま、北原の差し入れなんてこんなもんだ。 真面目なのはいいがセンスがないんだよお前は」 | ||
97 | 春希 | Haruki | 「…そういう上司の薫陶を受けてますから」 | ||
98 | 麻理 | Mari | 「そういう口答えだけは本当に巧みなのにな。 まぁいいや。ちょうど小腹もすいてたし」 | ||
99 | 春希 | Haruki | 「そりゃ…どうも」 | ||
100 | クリームの甘さとスポンジのぱさつきが喉につまり、 とうとう我慢できずに目尻から苦悶のしずくが零れる。 | ||||
101 | ………本当に、ここに来て良かった。 この距離感が、最高だ。 | ||||
102 | 介入しないけれど、気遣ってくれる。 叱りも笑いもしてくれる。 いつも通りでいてくれる。 | ||||
103 | 多分、俺の変化に気づいていても、 無関心じゃない不干渉を守ってくれている。 | ||||
104 | 始めのうちは、こうして我慢してくれる。 | ||||
105 | 麻理 | Mari | 「にしても、ほんっとマズいなこれ。 残りは誰でも食べられるように冷蔵庫に入れておこう。 明日来た連中の微妙な顔が楽しみだ」 | ||
106 | 春希 | Haruki | 「すいません…」 | ||
107 | 麻理 | Mari | 「週明けが楽しみだな。 なぁ北原」 | ||
108 | 春希 | Haruki | 「っ…」 | ||
109 | 一人になるのが嫌だったから、 沢山の人たちと触れあいたくて、 この不夜城に逃げてきた… | ||||
110 | そこには結局一人しかいなくて、 沢山の人たちと触れあうことは叶わなかったけど… | ||||
111 | でもそれは、 俺にとっては年末ジャンボの一等にも等しい、 嬉しい偶然だった。 | ||||
112 | だって今、一番側にいて欲しかったひとに、 本当に側にいてもらえるんだから… | ||||
113 | 春希 | Haruki | 「………っ!?」 | ||
114 | 麻理 | Mari | 「どうした北原? やっぱり、お前もギブアップか?」 | ||
115 | 春希 | Haruki | 「あ、い、いえ…」 | ||
116 | なんだ、今の…? どういうことなんだ? | ||||
117 | ただ、今の精神状態のせいで、 誰にでも甘えたくなってるだけなのか…? | ||||
118 | それとも… | ||||
119 | ……… | .........
| |||
120 | 春希 | Haruki | 「本当に、手伝いますよ俺」 | ||
121 | 麻理 | Mari | 「いいよ。休みって言ってたからバイト代出せないし。 今日はもう帰ったら…」 | ||
122 | 春希 | Haruki | 「俺が手伝った方が早く終わりますよ?」 | ||
123 | 麻理 | Mari | 「早く終わっても始発が動き出すまでは帰れないから」 | ||
124 | 春希 | Haruki | 「…俺もなんですよ。 だから、始発まで暇なんです」 | ||
125 | 麻理 | Mari | 「………」 | "........."
| |
126 | 春希 | Haruki | 「それとも…俺、邪魔ですか?」 | ||
127 | 麻理 | Mari | 「そんなことはないけど…」 | ||
128 | 春希 | Haruki | 「だったら仕事ください。 でないと麻理さん見てるしかすることないんで」 | ||
129 | 麻理 | Mari | 「………気のせいかな。 なんか私、口説かれてるみたいだ」 | ||
130 | 春希 | Haruki | 「そういうのが気まずいんでしたら、 尚のこと仕事をください」 | ||
131 | 麻理 | Mari | 「………お前、本当に遠慮なくなったな、私に」 | ||
132 | 春希 | Haruki | 「もう半年になりますから」 | ||
133 | 本当は、遠慮がなくなったとかそういう問題じゃない。 ただ、必死だった。 | ||||
134 | 俺は、この空気からずっと離れられないだけだった。 …麻理さんの迷惑を省みることもできずに。 | ||||
135 | 午前三時。 始発が動き出すまで、あと二時間。 | ||||
136 | せめて、その間だけ… 眠気で朦朧としだして、 何も考えられなくなる瞬間がやってくるまで。 | ||||
137 | 泣きたくなるような事実を、 ふたたび、頭の中に呼び戻したくなかったから。 | ||||
138 | ……… | .........
| |||
139 | 春希 | Haruki | 「え…」 | ||
140 | 麻理 | Mari | 「来週の火曜日から」 | ||
141 | 春希 | Haruki | 「アメリカ…?」 | ||
142 | 麻理 | Mari | 「ニューヨークとかロスとか、とにかく色々回って、 帰りがけにグァムで友達と合流してそこからバカンス。 こっちに帰ってくるのは来年の5日くらい」 | ||
143 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
144 | 麻理 | Mari | 「…あ、友達って男じゃないぞ? 北原も会ったよな? ほら、雨宮佐和子。 毎年恒例のまるっきり男っ気のない女の二人旅で…」 | ||
145 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
146 | 麻理 | Mari | 「他に金の使い道がないから、 こうして年一回パァ~っと散財するんだ。 …いっつも佐和子が一緒でいい加減ウザいけど」 | ||
147 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
148 | 麻理さんの、耳に心地良い声が 響いてるのはわかってたけど、 それでもその言葉は頭に入っては来なかった。 | ||||
149 | 彼女が、こうしてクリスマスの週末にもかかわらず、 いつも以上に根を詰めて仕事をしている理由。 | ||||
150 | それが、頼まれた資料まとめをしているうちに、 あっさり気づいてしまったから。 | ||||
151 | …出張用の準備資料だったから。 | ||||
152 | 麻理 | Mari | 「またいつもみたいに各編集部から仕事かき集めてきた。 おかげで年越しは飛行機の中で迎えそう。 …それも時差があるから二回」 | ||
153 | 春希 | Haruki | 「一週間…」 | ||
154 | 麻理 | Mari | 「取材期間としてはちょっと短いけどね。 でもまぁ、出張費の方も締めつけ厳しくてね。なかなか」 | ||
155 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
156 | 麻理 | Mari | 「なに? さっきから黙りこくって。 私がいなくなってそんなに寂しい?」 | ||
157 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
158 | 麻理 | Mari | 「………っ」 | ||
159 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
160 | 麻理 | Mari | 「お、おい、黙り込むな! だからそういう意味深な態度を取るな! 紛らわしい」 | ||
161 | 春希 | Haruki | 「すいません…」 | ||
162 | 麻理 | Mari | 「北原…あのさぁ、 さっきまで気を使って聞かないでおいたけど、 今日のお前、どこかおかしいぞ」 | ||
163 | 春希 | Haruki | 「重ね重ねすいません。 …今まで気を使ってくれて」 | ||
164 | 必死で距離感を大事にしていてくれた麻理さんだったけど、 俺のあまりにも暗い態度に、 とうとう堪忍袋の緒が切れてしまった。 | ||||
165 | けれどその限界突破は、 やっぱり俺にとって、 居心地の悪さを抱かせることにはならなかった。 | ||||
166 | 麻理 | Mari | 「ま、クリスマスの夜中に、 いきなりこんなところに来ることからして、 何かありますよって言ってるようなものだったし」 | ||
167 | だって、二人とも画面だけを見ている。 お互いの目を見ていない。 | ||||
168 | 仕事に没頭しながら私語にも没頭するという、 麻理さんだからできるスキルを駆使してくれている。 | ||||
169 | 麻理 | Mari | 「悩みがあるんなら言ってみろ。 …まぁ、言いたくなければそれでもいいけど」 | ||
170 | 春希 | Haruki | 「言いたくないこと…ないです」 | ||
171 | 麻理 | Mari | 「そ…そうなんだ」 | ||
172 | 俺に素直にすがられて、 麻理さんがほんのちょっとだけ慌てる。 | ||||
173 | きっと、俺がそんな簡単に弱みを見せるはずがないって、 タカをくくってたところもあったんだろうな。 | ||||
174 | 麻理 | Mari | 「なに、どうしたの。 クリスマスのせいで、 昔の恋人のことでも思い出してしまったとか?」 | ||
175 | 春希 | Haruki | 「…そんな感じです」 | ||
176 | けれど今の俺は、こんな絶好の機会を逃せない。 麻理さんの優しさに付け込まないとどうしようもない。 | ||||
177 | だって今日を逃したら、麻理さんとはしばらく会えない。 こんな気持ちを抱えたまま年を越すなんて…嫌だ。 | ||||
178 | 麻理 | Mari | 「へ、へぇ…冬馬かずさのこと?」 | ||
179 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
180 | 麻理 | Mari | 「…もしかして、 クリスマスにデートした時の思い出とか?」 | ||
181 | 春希 | Haruki | 「旅行に…行きました。 泊まりがけで」 | ||
182 | 麻理 | Mari | 「………ええっ!?」 | ||
183 | 春希 | Haruki | 「…と言っても二人きりじゃないですよ。 友達と、北関東の方に」 | ||
184 | 麻理 | Mari | 「な、な、な…なんだぁぁ…おどかすな。 …それとも、この後に更に驚愕の展開があるのか?」 | ||
185 | 春希 | Haruki | 「何もなかったですよ。 露天風呂入って、浴衣で酒飲んでどんちゃん騒ぎ…」 | ||
186 | 麻理 | Mari | 「それも何て言うか… クリスマスにあるまじきパーティだな」 | ||
187 | 春希 | Haruki | 「今日みたいに雪が降ってて… 窓から見る雪も、露天風呂から見上げる雪も綺麗で…」 | ||
188 | 麻理 | Mari | 「そ、そうか」 | ||
189 | 春希 | Haruki | 「凄く、楽しかった」 | ||
190 | 麻理 | Mari | 「………」 | "........."
| |
191 | 自分のいやらしさに、少しだけ嫌悪感を抱く。 | ||||
192 | 肝心なところを少しだけぼかして、 あの旅の本当の意味を伝えることなく、 それで自分の今の気持ちをわかってもらおうなんて… | ||||
193 | 春希 | Haruki | 「ねぇ、麻理さん」 | ||
194 | 麻理 | Mari | 「なんだ?」 | ||
195 | 春希 | Haruki | 「俺、冬馬かずさのこと、今でも好きだったんです」 | ||
196 | 麻理 | Mari | 「そ、そうか…」 | ||
197 | それでも、この言葉を言いたかった。 | ||||
198 | 春希 | Haruki | 「まだ、忘れてなかったんです」 | ||
199 | 俺の方は麻理さんを騙してでも、 麻理さんには俺のことをわかってもらいたかった。 | ||||
200 | 春希 | Haruki | 「恋の傷を、恋で癒せてなかったんです」 | ||
201 | 麻理 | Mari | 「…その表現そろそろやめてくれ。 自分で言った台詞だからこそ恥ずかしくて身悶えする」 | ||
202 | 春希 | Haruki | 「すいません…」 | ||
203 | 雪菜には、もう二度と納得してもらえない気持ちを、 誰かに『仕方ない』って思って欲しかった。 | ||||
204 | 誰でもいいはずもない、誰かに… | ||||
205 | 我ながら、最低だ。 誰にとっても、最低最悪の態度だ。 | ||||
206 | 麻理 | Mari | 「………」 | "........."
| |
207 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
208 | いつの間にか、キーボードの音はやんでいた。 | ||||
209 | それでも俺たちは、お互いの端末から目を離さず、 だから、二人の視線が触れあうこともなく。 | ||||
210 | 麻理 | Mari | 「あ、あのさぁ、北原…」 | ||
211 | 春希 | Haruki | 「いいんですよ」 | ||
212 | 麻理 | Mari | 「な、何が?」 | ||
213 | 春希 | Haruki | 「何てアドバイスしていいかわからないんでしょう? …まさか俺がこんな話するとは思わなかったから」 | ||
214 | 麻理 | Mari | 「お前、本当に私のこと何だと思って…」 | ||
215 | 春希 | Haruki | 「別に、アドバイスが欲しくて話した訳じゃないんです。 ただ、麻理さんには、 どうしても聞いておいて欲しかっただけなんです」 | ||
216 | 麻理 | Mari | 「…なんでだ? 報告・連絡・相談は、 上司に次の指示を仰ぐためのものだろ?」 | ||
217 | 春希 | Haruki | 「上司に報告した訳じゃないです。 麻理さんに聞いてもらっただけです」 | ||
218 | 麻理 | Mari | 「同じ事だろ。 私は北原の上司なんだから」 | ||
219 | 春希 | Haruki | 「俺…麻理さんのそういうとこ、好きですよ」 | ||
220 | 変に肩肘を張るところ。 上司風を吹かせてるように見せかけて、 実は単なる親分気質なところ。 | ||||
221 | 仕事は完璧なのに、 プライベートには結構抜けがあるところ。 | ||||
222 | 女性としてすごく魅力があるくせに、 そのことを押し隠そうとして、 逆に可愛くなってしまうところ。 | ||||
223 | 麻理 | Mari | 「………何度言ったらわかるんだ。 年下で部下の学生が年上で上司の社会人をからかうな。 もしお前が元気だったらひっぱたいてるところだ」 | ||
224 | 春希 | Haruki | 「………以後、気をつけます」 | ||
225 | ……… | .........
| |||
226 | 春希 | Haruki | 「…ふぅ」 | ||
227 | 外に出ると、半分溶けかけた雪が靴に絡み、 じゅくじゅくと少し耳障りな音を響かせる。 | ||||
228 | 始発が動き出したはずの御宿は、 それでもまだ、闇をたたえたまま冷たい風が吹いていた。 | ||||
229 | 一度振り返り、まだ三階の電気が消えていないのを確認すると、 背中を丸めて、開桜社のビルを後にする。 | ||||
230 | ……… | .........
| |||
231 | ほんの少しだけ、心が楽になったように感じた。 恋の痛みを、恋じゃなく、優しさで癒してもらったから。 | ||||
232 | だから、ほんの少し…一週間くらいなら。 除夜の鐘くらいなら、今の自分のまま聴けるかもしれない。 | ||||
233 | 駅の方から朝一番の警笛が聞こえてきた。 | ||||
234 | 俺は、ようやく少しだけ眠くなってきた体を引きずり、 その音のした方向へゆっくりと歩を進める。 | ||||
235 | 今なら一人になれるから、部屋へと帰ろう。 そして、夢の中に自分を閉じこめよう。 | ||||
236 | ……… | .........
| |||
237 | …… | ......
| |||
238 | … | ...
| |||
239 | 麻理 | Mari | 「うわあああああああっ!?」 | ||
240 | 麻理 | Mari | 「はぁ、はぁ、はぁ…ぁぁぁぁああああ…っ」 | ||
241 | 麻理 | Mari | 「好きって言った! 確かに好きって言った、あいつ…っ」 | ||
242 | 麻理 | Mari | 「待って…ちょっと待ってよこれってどういうこと! なに…あれどういう意味!?」 |
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Introductory Chapter | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1001 | 1008 | 1009 | 1010 | 1011 | 1012 | 1013 |
1002 | 1008_020 | 1009_020 | 1010_020 | 1011_020 | 1012_020 | |
1003 | 1008_030 | 1009_030 | 1010_030 | 1011_030 | 1012_030 | |
1004 | 1008_040 | 1010_040 | 1012_030_2 | |||
1005 | 1008_050 | 1010_050 | ||||
1006 | 1010_060 | |||||
1006_2 | 1010_070 | |||||
1007 |
Closing Chapter | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | ||||||
2001 | 2011 | 2020 | 2027 | 2301 | 2309 | 2316 | 2401 | 2408 | 2501 | 2510 |
2002 | 2012 | 2021 | 2028 | 2302 | 2310 | 2317 | 2402 | 2409 | 2502 | 2511 |
2003 | 2013 | 2022 | 2029 | 2303 | 2311 | 2318 | 2403 | 2410 | 2503 | 2512 |
2004 | 2014 | 2023 | 2030 | 2304 | 2312 | 2319 | 2404 | 2411 | 2504 | 2513 |
2005 | 2015 | 2024 | 2031 | 2305 | 2313 | 2320 | 2405 | 2412 | 2505 | 2514 |
2006 | 2016 | 2025 | 2032 | 2306 | 2314 | 2321 | 2406 | 2413 | 2506 | 2515 |
2007 | 2017 | 2026 | 2033 | 2307 | 2315 | 2322 | 2407 | 2507 | 2516 | |
2008 | 2018 | 2308 | 2508 | 2517 | ||||||
2009 | 2019 | 2509 | ||||||||
2010 | ||||||||||
Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | |||||||
2031_2 | 2312_2 | 2401_2 | 2504_2 | 2511_2 | ||||||
2031_3 | 2313_2 | 2402_2 | 2507_2 | 2513_2 | ||||||
2031_4 | 2313_3 | 2402_3 |
Coda | |||||||||
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Common | Kazusa (True) | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | ||||||
3001 | 3008 | 3014_2 | 3020 | 3101 | 3107 | 3201 | 3207 | 3901 | 3907 |
3002 | 3009 | 3014_3 | 3021 | 3102 | 3108 | 3202 | 3208 | 3902 | 3908 |
3003 | 3010 | 3015 | 3022 | 3103 | 3109 | 3203 | 3209 | 3903 | 3909 |
3004 | 3011 | 3016 | 3023 | 3104 | 3110 | 3204 | 3210 | 3904 | |
3005 | 3012 | 3017 | 3024 | 3105 | 3111 | 3205 | 3211 | 3905 | |
3006 | 3013 | 3018 | 3106 | 3206 | 3906 | ||||
3007 | 3014 | 3019 | |||||||
Common | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | |||||||
3001_2 | 3210_2 | 3901_2 | 3906_2 | ||||||
3015_2 | 3902_2 | 3907_2 | |||||||
3902_3 | 3907_3 | ||||||||
3904_2 |
Mini After Story and Extra Episode | |||
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The Path Back to Happiness | The Path Forward to Happiness | Dear Mortal Enemy | |
6001 | 6101 | 4000 | 4005 |
6002 | 6102 | 4001 | 4006 |
6003 | 6103 | 4002 | 4007 |
6004 | 6104 | 4003 | 4008 |
6005 | 4004 | 4009 |
Novels | |||||
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The Snow Melts, And Until The Snow Falls | The Idol Who Forgot How to Sing | Twinkle Snow ~Reverie~ | After the Festival ~Setsuna's Thirty Minutes~ | His God, Her Savior | |
5000 | 5100 | 5200 | 5205 | 5300 | 5400 |
5001 | 5101 | 5201 | 5206 | 5301 | 5401 |
5002 | 5102 | 5202 | 5207 | 5302 | |
5003 | 5103 | 5203 | 5208 | 5303 | |
5004 | 5104 | 5204 | 5209 |
Short Stories | |||
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Princess Setsuna's Distress and Her Minister's Sinister Plan | Koharu Climate After the Passing of the Typhoon | This isn't the Season for White Album | Todokanai Koi, Todoita |
7000 | 7100 | 7200 | 7300 |