Difference between revisions of "White Album 2/Script/3001"
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|すっかり習慣になった目覚めの熱いシャワーは、<br>今日も、脳にこびりついた眠気を振り払い、<br>ついでに体に刺激と温かさを取り戻してくれる。 |
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+ | |It's become a habit of mine to take a shower upon waking. Like usual, I try to shake off the drowsiness clinging to my mind and regain warmth in my body while I can. |
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|部屋は寒く、外はまだ暗く、<br>いくら毎日の習慣と言えども、<br>この時期の朝はやっぱり辛い。 |
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|それでも今日は金曜日…<br>あと一日乗り切れば、すぐに心の躍る週末だ。 |
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|…日曜は出勤だけどな。 |
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|「お~い北原、昨日頼んだ世論調査の集計…」 |
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Revision as of 01:37, 10 November 2017
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Translation
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Translation Notes
Text
Speaker | Text | Comment | |||
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Line # | JP | EN | JP | EN | |
1 | 春希 | Haruki | 「ふぅ…」 | "fuu..."
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2 | すっかり習慣になった目覚めの熱いシャワーは、 今日も、脳にこびりついた眠気を振り払い、 ついでに体に刺激と温かさを取り戻してくれる。 | It's become a habit of mine to take a shower upon waking. Like usual, I try to shake off the drowsiness clinging to my mind and regain warmth in my body while I can.
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3 | 部屋は寒く、外はまだ暗く、 いくら毎日の習慣と言えども、 この時期の朝はやっぱり辛い。 | The flat is cold and it's still dark outside. Even with my usual habit, this time in the morning really is painful.
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4 | それでも今日は金曜日… あと一日乗り切れば、すぐに心の躍る週末だ。 | Still, today is Friday... my heart leaps at how if I can make it through one more day, it will be the weekend.
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5 | …日曜は出勤だけどな。 | ...Although I do have to go to work on Sunday.
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6 | ……… | .........
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7 | 浜田 | Hamada | 「お~い北原、昨日頼んだ世論調査の集計…」 | "Hey Kitahara, about the tallying of the public opinion poll...
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8 | 春希 | Haruki | 「まとめたものをサーバにアップしてあります。 各世代別の集計結果にコメントもつけました。 …昨夜メールしておいたはずですが」 | ||
9 | 松岡 | Matsuoka | 「これ、外注から上がってきた原稿。 校正頼む、8時までに!」 | ||
10 | 春希 | Haruki | 「…わかりました。 4時から打ち合わせなんで戻ってきてから超特急で」 | ||
11 | 鈴木 | Suzuki | 「ね~ね~北原君。 次回のタウン情報のコーナーなんだけどさぁ、 実は末次町を取り上げようかと思ってるのよねぇ」 | ||
12 | 春希 | Haruki | 「…ウチの近辺って峰城大以外には結構何もないですよ? まぁそれでも候補は絞り込んでおきますが」 | ||
13 | 木崎 | Kizaki | 「悪い、これ1ページにまとめといて! やり方はいつも通り。 | ||
14 | 木崎 | Kizaki | …うわまずい、約束まであと2時間もない!」 | ||
15 | 春希 | Haruki | 「…寒ブリの美味い季節ですもんね」 | ||
16 | 木崎 | Kizaki | 「やだな~そんなんじゃないって。 あの先生はマメに催促しないと全然書いてくれなくて… というわけで今日は直帰で~す」 | ||
17 | 春希 | Haruki | 「これを1ページって…どんだけ削ればいいんだよ」 | ||
18 | 午後3時45分。 | ||||
19 | 開桜社ビル3F。 開桜グラフ編集部。 | ||||
20 | そして、バイトの頃から変わらない日常… | ||||
21 | 株式会社開桜社 開桜グラフ編集部 北原春希 | ||||
22 | 入社一年目。 編集部最年少の、いわゆる下っ端。 | ||||
23 | 松岡 | Matsuoka | 「あとさ北原、ちょっといい? この企画書なんだけど、 後でレビューしてくんないかな?」 | ||
24 | 春希 | Haruki | 「戻ってきてからなら大丈夫ですけど… それより、俺でいいんですか松岡さん?」 | ||
25 | 松岡 | Matsuoka | 「頼むよ…まともな意見くれるのお前くらいでさ。 浜田さんはダメなところしか言わないし、 鈴木さんは適当なことばっか言うし…」 | ||
26 | 鈴木 | Suzuki | 「だぁってさぁ、松っちゃんの企画書って、 企画書になってないって言うか~」 | ||
27 | 浜田 | Hamada | 「まず資料の書き方からしてなっちゃいないからな。 相手に何を伝えたいのかが全然見えてこない」 | ||
28 | 松岡 | Matsuoka | 「それって誰も育ててくれなかったからですよ~。 俺も北原みたいに麻理さんの下についてたら…」 | ||
29 | 鈴木 | Suzuki | 「今ごろ入院してるに10万円」 | ||
30 | 浜田 | Hamada | 「お前の勤務態度で風岡の部下なんかやっていけるか。 ほんっと仕事抱えててもすぐ帰りやがって…」 | ||
31 | 松岡 | Matsuoka | 「な? みんな酷いだろ? 頼りになるのは北原だけなんだよ。 伝説の仕事魔神の直系に連なる『風岡二世』のお前しか」 | ||
32 | 春希 | Haruki | 「…いや、いくらなんでもあの域は遠すぎますって」 | ||
33 | 鈴木 | Suzuki | 「わたしなら耐えられないけどな~。 後輩に手取り足取り指導してもらうなんて」 | ||
34 | 浜田 | Hamada | 「まぁ言ってやるな。 このプライドのなさも松岡の強みっちゃぁ強みだからな。 それに…」 | ||
35 | 鈴木 | Suzuki | 「それに?」 | ||
36 | 浜田 | Hamada | 「お前もそろそろそんな余裕かましてられなくなるぞ? 俺から見たら鈴木も北原といい勝負だ」 | ||
37 | 鈴木 | Suzuki | 「うえぇぇっ!?」 | ||
38 | 下っ端…なのになぁ。 | ||||
39 | バイト時代についた[R師匠^まりさん]の評判のせい… というかおかげで、俺を一年目の新人扱いする人は、 もはやこの編集部にはいない。 | ||||
40 | 春希 | Haruki | 「あの…俺、そろそろ会議に行かないと。 6時には戻ってきますんで」 | ||
41 | 浜田 | Hamada | 「ええと… アンサンブルの編集長の代理だったっけ?」 | ||
42 | 春希 | Haruki | 「ええ、雑誌広告の契約の件だそうで。 だからどうしても正社員の同席が必要だって…」 | ||
43 | ついでに、全編集部に勇名を轟かせた 彼女の影響力はさらに絶大なもので… | ||||
44 | どこの編集部に顔を出しても、その『風岡二世』 という合言葉で、気軽に仕事を回してくれる。 | ||||
45 | 鈴木 | Suzuki | 「あそこ編集長以外全部編プロだもんねぇ。 この前、専任の部下が欲しいってブツブツ言ってた」 | ||
46 | 浜田 | Hamada | 「………あまりいい顔すんなよ北原。 お前が嫌だったら俺が行って断ってきても」 | ||
47 | 春希 | Haruki | 「問題ないですから! 一年目で異動なんてこっちも御免ですから! それじゃ行ってきます」 | ||
48 | 松岡 | Matsuoka | 「ちゃんと帰ってきてくれよ~! 俺、今日は帰らずに待ってるから…8時までは」 | ||
49 | ……… | .........
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50 | 3月に大学を卒業した俺は、 予定調和のうちに、めでたく[R開桜社^バイトさき]に就職した。 | ||||
51 | という訳で、 職場の雰囲気はバイト時代となんら変わることはなく、 新鮮味のない社会人生活を満喫してる。 | ||||
52 | けど、たった一つだけ… それほど小さくない変更点もあった。 | ||||
53 | バイト時代に今の俺の礎を築いてくれた“師匠”は、 北米の関連会社に請われて出向してしまい、 今はただ、その伝説だけを社内に残していた。 | ||||
54 | だから今の俺の目の前には、 今までの『膨大だけど管理された仕事』ではなく、 『膨大かつ無秩序な仕事の山』が積まれている。 | ||||
55 | そして、一応『一年目の新人』のはずの俺は、 その山の中から自分でもできそうな仕事を選別し、 優先度をつけ、自分で管理しつつ進めている。 | ||||
56 | …松岡さんの台詞じゃないけど、 浜田さんはそういうの管理してくれないからなぁ。 | ||||
57 | というわけで今日も、自分の中で優先度の高い… | ||||
58 | というか“初仕事”以来、色々と恩もある アンサンブルの編集長の依頼で、 とあるレコード会社の営業部長と、お金の絡んだ生臭い話。 | ||||
59 | しかし、編集長の名代に一年目の俺を使うなんて… 相手に不快な思いをさせなきゃいいけれど… | ||||
60 | 春希 | Haruki | 「遅くなりまして申し訳ありません。 私、開桜社アンサンブル編集部の北原と申し…」 | ||
61 | 雪菜 | Setsuna | 「初めまして。 ナイツレコード広報担当の小木曽と申します。 今後ともよろしくお願いいたします」 | ||
62 | 春希 | Haruki | 「………………………」 | ||
63 | 俺は… | ||||
64 | その、満面の笑顔とともに丁寧に差し出された名刺を、 三分間そのまま放置してしまった。 | ||||
65 | なんという社会人失格… | ||||
66 | ……… | .........
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67 | 春希 | Haruki | 「やべ…あと5分!」 | ||
68 | 3月に大学を卒業した『俺たち』は、 それぞれ別の、新しい社会へと踏み出していた。 | ||||
69 | 武也は化粧品メーカーの営業職として、 都内の販売店を駆け回ってる。 | ||||
70 | 昔取った杵柄で、女性の扱いに長けているため、 販売員のお姉さんたち(年齢問わず)に人気で、 一年目から結構な評価を勝ち取っているらしい。 | ||||
71 | 未だに特定の彼女なし。 …けれど今は、あれだけ沢山いた不特定の彼女もなし。 | ||||
72 | 大学卒業とともに女性関係を全て精算し、 現在は清廉潔白さを誰かさんに猛アピール中。 | ||||
73 | 誰かさん…依緒は第一志望だった スポーツ用品メーカーに就職した。 | ||||
74 | 企画職を希望してたけど、なかなか競争率が高いらしく、 今は人事部で事務仕事に忙殺される毎日だとか。 | ||||
75 | そのさっぱりした性格とそれに見合った容姿で、 職場の男女問わず人気が高いのは相変わらず。 | ||||
76 | けれど恋愛に興味がなさそうなのも相変わらず。 こっちもやっぱり特定の彼氏なし。 | ||||
77 | だからあいつにとってはチャンスはあるとも言えるし、 一体何年この状態を続けるんだよと言えたりもする。 | ||||
78 | そして… | ||||
79 | ナイツレコード新人広報、小木曽雪菜。 | ||||
80 | あの、バレンタインコンサートを経て、 これからも歌に関わっていく道を模索した結果、 雪菜が選んだ中堅どころの音楽メーカー。 | ||||
81 | 四年になってからの進路決定だったことと、募集が少なく 競争率の高い業界だったことで不安もあったけど、 それでも見事に激烈な競争を勝ち抜いた。 | ||||
82 | それもこれも、学歴と面接での評価もさることながら、 多分、わかりやすく目に見える力が 大きく働いたんだと思う。 | ||||
83 | その証拠に、入社とともに広報に配属され、 関係各社との渉外担当という重責をいきなり任された。 | ||||
84 | もちろん、会社が期待してたのは、 本来の意味での交渉能力ばかりではなく… | ||||
85 | 『ナイツさんの広報に凄い可愛いコ入ったんですよ!』 | ||||
86 | 『最初、所属タレントかと思ったくらいでさ』 | ||||
87 | 『何度も誘ってんだけどこれがまたガード固くて…』 | ||||
88 | …俺にこんなことを熱く語った同業者は、 一人や二人じゃなかった。 | ||||
89 | そんなふうに、アーティストにはなれない環境で、 しかも、別段なる気もなく… | ||||
90 | けれど、常に歌に触れていられる職場で、 彼女は生き生きと毎日を過ごしてる…らしい。 | ||||
91 | 春希 | Haruki | 「た、ただいまっ!」 | ||
92 | そして今、その噂の美人広報は… | ||||
93 | 雪菜 | Setsuna | 「ちょっとぉ、遅いよ~! 時間ぎりぎり~!」 | ||
94 | 俺の部屋で、遅めの晩飯を作っていたりした。 | ||||
95 | 春希 | Haruki | 「はぁ、はぁ、はぁ…わ、悪…っ」 | ||
96 | 雪菜 | Setsuna | 「ほうら、ちょうど今、土曜になっちゃった…」 | ||
97 | 春希 | Haruki | 「…悪、い」 | ||
98 | 雪菜の指し示した先には、 0時を指している俺の部屋の目覚まし時計。 | ||||
99 | 時々、俺の部屋から出勤する雪菜が、 自分の朝の弱さを克服するために買ってきた スヌーズ機能つきの優れものだったりする。 | ||||
100 | 雪菜 | Setsuna | 「先週は春希くんが土日出勤だったから、 危うくルール違反だったんだよ?」 | ||
101 | 雪菜 | Setsuna | 『誓う? 必ず一週間に一度は会うって!』 | ||
102 | 雪菜 | Setsuna | 先週会ったのは金曜で、 しかもその日のうちに家に帰したから、 確かに金曜中に会わないと約束が果たされなかった。 | ||
103 | 雪菜 | Setsuna | けど… | ||
104 | 春希 | Haruki | 「つ…ついさっき、会ったじゃん…っ、 [R開桜社^ウチ]の会議室で、さぁ」 | ||
105 | 雪菜 | Setsuna | 「あれは『ナイツレコードの小木曽』であって、 『春希くんの雪菜』ではありませ~ん」 | ||
106 | 春希 | Haruki | 「………はぁ、はぁ」 | ||
107 | 呆れてため息をつこうにも、 さっきまでの全力疾走が邪魔をする。 | ||||
108 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くん、だんだん一週間ルールに対して いい加減になってきてるよ… 先月だって二度も破りそうになるし」 | ||
109 | 春希 | Haruki | 「い、いや、だからそれは…っ」 | ||
110 | ついでに、雪菜の理不尽な憤慨が邪魔をする。 | ||||
111 | とはいえ雪菜だって、 本当は仕方ないことだと絶対にわかってる。 だって二人とも、もう社会人なんだから。 | ||||
112 | 松岡さんに頼まれた校正を終わらせて、 鈴木さんに頼まれた調べものをチェックして、 木崎さんに頼まれたレイアウトを…日曜に回して。 | ||||
113 | それで10時から、松岡さんの企画書を、 浜田さん、鈴木さんと三人がかりでレビューして、 なぜか俺が修正することに。 | ||||
114 | 松岡さんの『お疲れ~』の挨拶が、 ちょっとだけ不条理に感じた午後11時。 | ||||
115 | 仕方ない…よな? | ||||
116 | 雪菜 | Setsuna | 「やっぱり、付き合いが長くなるにつれて、 わたしのこと飽きてきちゃったのかなぁ? だとしたらわたし、もう立ち直れないかも…」 | ||
117 | 春希 | Haruki | 「そ、そんなわけ…」 | ||
118 | 雪菜 | Setsuna | 「ない、なんて言い切れる? わたしのこと、まだ好きだって…」 | ||
119 | 春希 | Haruki | 「言い切れるに…決まってるだろ?」 | ||
120 | 雪菜 | Setsuna | 「っ…ぁ、 春希、くん…」 | ||
121 | そんな、ちょっとだけ後ろめたいことがあったとしても… | ||||
122 | 雪菜のこと、飽きてないのかとか、 まだ好きなのかって質問に対しては、 『当たり前だ』って言い切れるに決まってる。 | ||||
123 | 春希 | Haruki | 「ん、ふぅ…はぁ、ぁ、ぁ… 雪菜…はぁぁ…ん、すぅぅ…」 | ||
124 | いつの間にか聞こえてくるのは愚痴ばかりで、 包丁の音が途絶えていたのをいいことに、 料理“中断”中の雪菜を、背中から抱きしめる。 | ||||
125 | 雪菜 | Setsuna | 「ん、もう… すぐそうやって…誤魔化そうとするぅ」 | ||
126 | だって、拗ねてる雪菜はこんなにも魅力的で… | ||||
127 | 飽きるとか、軽んじるとか、馴れ合うとか、 そんな勿体ない態度、あり得ない。 | ||||
128 | …いや、最後のはいい意味でアリかもだけど。 | ||||
129 | 春希 | Haruki | 「はぁ、ぁ…ん…ふぅぅ…」 | ||
130 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くん…熱いよ」 | ||
131 | 春希 | Haruki | 「駅からずっと走ってきたから…」 | ||
132 | どこが熱くなってるのかは、 敢えて確認しないことにした。 | ||||
133 | 雪菜 | Setsuna | 「…約束、守るため?」 | ||
134 | 春希 | Haruki | 「それもあるけど… 一秒でも早く、雪菜とこうしたかったから」 | ||
135 | 雪菜 | Setsuna | 「あ…んっ」 | ||
136 | 雪菜の背中に、全身をぴったりくっつける。 | ||||
137 | 髪に顔を埋め、その甘い香りを荒い息とともに吸い込み、 柔らかい背中に、ぎゅっとお腹をくっつけて、 かかとには爪先を、太股の裏には太股を、膝の裏には膝を。 | ||||
138 | 雪菜 | Setsuna | 「はぁぁんっ、あ、ちょっ…春希、く…っ」 | ||
139 | そして、お尻には… | ||||
140 | 春希 | Haruki | 「はぁ、ぁ、ぁぁ… せ、雪菜…雪菜ぁ」 | ||
141 | 飽きるわけ、ない。 それどころか、想いも欲情も深化していくばかり。 | ||||
142 | もう、行き着くところまで行かないと、 治まりようがないくらいに。 | ||||
143 | 雪菜 | Setsuna | 「はぁ、はぁ、あ、あぁ…は… あ、んっ、ん、くぅ…や、ねぇ、ちょっ…ふぅんっ」 | ||
144 | それは、雪菜だってきっと… | ||||
145 | 春希 | Haruki | 「雪菜…もう、俺」 | ||
146 | 雪菜 | Setsuna | 「は、あ、あぁ………っ! ちょっ、やめて春希くん!」 | ||
147 | 春希 | Haruki | 「あ…」 | ||
148 | と、思ったんだけどなぁ。 | ||||
149 | 雪菜 | Setsuna | 「…ゴハン、もうできてるから。 早く食べようよ」 | ||
150 | 春希 | Haruki | 「………駄目?」 | ||
151 | 雪菜 | Setsuna | 「駄目」 | ||
152 | 十分に高まってしまっていた俺とは対照的に、 雪菜の方は冷静に俺を押し留める。 | ||||
153 | 春希 | Haruki | 「でも俺、今は飯より…」 | ||
154 | 雪菜 | Setsuna | 「ううん、今は晩ゴハン」 | ||
155 | 春希 | Haruki | 「雪菜…」 | ||
156 | 最初は、確かに誤魔化しの意味もあった。 | ||||
157 | けれど今は、もう雪菜への色んな感情が溢れ出し、 我慢できないところまで行ってしまっていた。 | ||||
158 | 雪菜の方こそ… 俺がこんなに思いを募らせてるってのに… | ||||
159 | 雪菜 | Setsuna | 「だって、ゴハンは今食べないと冷めちゃうんだよ?」 | ||
160 | 春希 | Haruki | 「それは…」 | ||
161 | 雪菜 | Setsuna | 「けど、わたしはいつ食べても、熱いままなんだよ?」 | ||
162 | 春希 | Haruki | 「確かにそうだけ………ぇ?」 | ||
163 | 雪菜 | Setsuna | 「………ね?」 | ||
164 | なんて、頭の中が残念な思いでぐるぐる回ってたから… | ||||
165 | 俺は危うく、そのオチを聞き流すところだった。 | ||||
166 | ……… | .........
| |||
167 | 雪菜 | Setsuna | 「…ヨーロッパ?」 | ||
168 | 春希 | Haruki | 「うん…」 | ||
169 | 思いっきり感じ合った後、 互いのつけた汚れを落とすため、 一緒に風呂に入って。 | ||||
170 | それでまた… ちょっとだけ、互いを汚してしまって。 | ||||
171 | 春希 | Haruki | 「元々は木崎さんって先輩が立てた企画で、 当然、本人が行くはずだったんだけど、 その週に急に結納が決まったんだとか」 | ||
172 | 雪菜 | Setsuna | 「へぇ…結婚するんだその先輩。 よかったねぇ」 | ||
173 | 風呂から上がって、身体を拭いて、髪を乾かして… そのまま何も着けずに、二人でベッドに潜り込む。 | ||||
174 | だって、服なんか必要ないから。 触れあう身体が、こんなにも温かいから。 | ||||
175 | 春希 | Haruki | 「本人は良かったかもしれないけど、 だからって一年目の新人に 海外出張を押しつけるかなぁ普通…」 | ||
176 | 雪菜 | Setsuna | 「本当、期待の新人なんだね春希くん。 わたしなんか関東から出してもらったことないよ?」 | ||
177 | 春希 | Haruki | 「そりゃ、仕事の内容が違うから…」 | ||
178 | 雪菜 | Setsuna | 「でも、上の人たちは日本中を飛び回ってる。 わたしはまだそこまで信頼されてないってこと」 | ||
179 | 春希 | Haruki | 「だからそれが普通なんだって…」 | ||
180 | 休みの前日は眠るのがもったいなくて、 こうして暗い部屋の中でお喋りしてるうちに、 いつの間にか夜が明けてるなんてこともよくある。 | ||||
181 | で、そこから眠ってしまったら、 雪菜は大抵夕方までベッドの中でモゾモゾしてて、 休日を無駄にしたって嘆くことになる訳で。 | ||||
182 | 雪菜 | Setsuna | 「でも…ヨーロッパか。 ふぅん、ヨーロッパねぇ」 | ||
183 | 春希 | Haruki | 「…なんだよ?」 | ||
184 | 雪菜 | Setsuna | 「…ううん。 なんでもない」 | ||
185 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
186 | ただ今日のお喋りは、 ネタ的にちょっとだけ雪菜のテンションが下がっていた。 | ||||
187 | 雪菜 | Setsuna | 「遠いよね、ヨーロッパ… 学生の頃だったら、行きたくても行けなかったよね」 | ||
188 | 春希 | Haruki | 「そりゃ、まぁ…」 | ||
189 | 雪菜 | Setsuna | 「でも、今なら行ける。 お金も行動力も、あの頃とは段違いだもんね。 だから…どこへでも飛んで行ける…」 | ||
190 | 春希 | Haruki | 「あのさ… 雪菜が何を心配してるのか知らないけどさ」 | ||
191 | 雪菜 | Setsuna | 「別に心配なんかしてないよ…? 飛行機が落ちたらとか、テロが起きたらなんて、 いちいち心配してたらきりがないもんね」 | ||
192 | 春希 | Haruki | 「ヨーロッパにいくつの国があると思ってんだ? どれだけ広いと思ってんだ…?」 | ||
193 | 雪菜 | Setsuna | 「………会話が噛み合ってないよ、春希くん」 | ||
194 | 雪菜は多分、 たった一つの国のことしか思い浮かべていない。 | ||||
195 | EU加盟国。公用語はドイツ語。 その首都は『音楽の都』なんて称されて… | ||||
196 | 春希 | Haruki | 「訪問先はスペインとイタリアとフランスだけ」 | ||
197 | だから俺は、その某国には該当しない、 まるでどっかの卒業旅行みたいなラインナップを 正直に、率直に告げる。 | ||||
198 | 春希 | Haruki | 「それ以外の国には、 一歩も足を踏み入れたりしない。約束する」 | ||
199 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
200 | 春希 | Haruki | 「だから、さ」 | ||
201 | 雪菜 | Setsuna | 「そんなこと、何も気にしてないよ。 ただ、無事に帰ってきてくれたら、それでいい」 | ||
202 | 春希 | Haruki | 「ありがと…」 | ||
203 | 『別に心配なんかしてない』って、 ついさっき言ったばかりの雪菜が、 ちょっと辻褄の合わないお願いをする。 | ||||
204 | だから俺は、雪菜を安心させるため、 彼女の肩を抱いていた腕を下ろして手を繋ぐ。 | ||||
205 | 雪菜の手は、俺の手に捕らえられると、 むずがるように指を動かし、一本ずつ重ね合い、 ぎゅっと握り込む。 | ||||
206 | 雪菜 | Setsuna | 「お土産、期待してるね?」 | ||
207 | 春希 | Haruki | 「もちろん。 リクエストがあったらなんでも言ってくれ」 | ||
208 | 雪菜 | Setsuna | 「ね、家族の分もお願いしていい? お母さん、バッグとか欲しがると思うんだ。 あと孝宏も…ちゃんとお餞別は渡すから」 | ||
209 | 春希 | Haruki | 「…善処します」 | ||
210 | 何も心配することはない。 何も憂うことなんかありはしない。 | ||||
211 | だってもう、五年だ。 | ||||
212 | 俺たちの五年は、何者にも侵されない、 揺るぐはずのない、切れるわけなんかない絆だ。 | ||||
213 | だから… | ||||
214 | 雪菜 | Setsuna | 「それで…出発はいつなの?」 | ||
215 | 春希 | Haruki | 「…12月17日」 | ||
216 | …やばい。 | ||||
217 | 雪菜 | Setsuna | 「…戻ってくるのは?」 | ||
218 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
219 | 実は今回、一番心配してたのは、 行き先じゃなくて、日程の話だった。 | ||||
220 | だって… | ||||
221 | 雪菜 | Setsuna | 「……春希、くん?」 | ||
222 | 春希 | Haruki | 「12月24日…」 | ||
223 | 雪菜 | Setsuna | 「………何時の飛行機?」 | ||
224 | 春希 | Haruki | 「………に、向こうを発つ予定だから、 成田着は25日の…夜?」 | ||
225 | 雪菜 | Setsuna | 「えええええ~!?」 | ||
226 | 春希 | Haruki | 「痛っ!? 痛いって、雪菜!」 | ||
227 | 握り合っていた手にいきなり爪が食い込み、 怨嗟の叫び声が耳をぶん殴るように響く。 | ||||
228 | まぁ、怒っても当然なんだけど。 | ||||
229 | 雪菜 | Setsuna | 「クリスマスイブは? 一週間ルールは!?」 | ||
230 | 春希 | Haruki | 「ご、ごめん…」 | ||
231 | さっきだって守ったのに散々拗ねられた一週間ルールが、 とうとう風前の灯火に追い込まれてしまったから。 | ||||
232 | しかも、クリスマスイブに会えないという、 恋人同士としては致命的なおまけつきで。 | ||||
233 | 雪菜 | Setsuna | 「ごめんじゃないよぉ! とっくにホテルだって予約したじゃない! 有海インテグラル!」 | ||
234 | 春希 | Haruki | 「その… 今ならまだキャンセル料発生しないし」 | ||
235 | あの、二年前のイブのリベンジの意味を込めて、 去年から毎年、あのトラウマのホテルを押さえてる。 | ||||
236 | つまり今年は、そのトラウマ克服の儀式まで、 ないがしろにしてしまう訳で。 | ||||
237 | 雪菜 | Setsuna | 「なんとかならないの? ギリギリ24日中に帰ってくることは?」 | ||
238 | 春希 | Haruki | 「それが…24日の午前中までパリで仕事で…」 | ||
239 | 経費節減の折もあって、 色んな編集部の仕事もまとめて請け負っていたら、 いつの間にか日程が膨らんでいたというのは内緒だ… | ||||
240 | 雪菜 | Setsuna | 「…どうしても、駄目ってこと?」 | ||
241 | 春希 | Haruki | 「本当にごめん!」 | ||
242 | でも、仕方ないんだ… | ||||
243 | 風岡二世とか風岡チルドレンと呼ばれる俺としては、 あの偉大なる先輩の名誉を汚すことだけは、 絶対にあってはならない。 | ||||
244 | …だってあの人なら、 あと二か国、三箇所くらいはまだ余裕でねじ込むし。 | ||||
245 | 雪菜 | Setsuna | 「………っ」 | ||
246 | 春希 | Haruki | 「雪菜…?」 | ||
247 | と、俺の手を握りしめてた雪菜の手が、すっと離れる。 | ||||
248 | ついでに胸に乗せていた頭も離れ、 さらに絡め合っていた脚も、何もかも… | ||||
249 | 雪菜 | Setsuna | 「もう知らない!」 | ||
250 | 春希 | Haruki | 「あ…」 | ||
251 | 離れたかと思うと、 そのまま俺にぷいっと背中を向けてしまった。 | ||||
252 | …二人を包んでいた布団ごと。 | ||||
253 | 春希 | Haruki | 「雪菜…おい」 | ||
254 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
255 | 春希 | Haruki | 「雪菜ちゃん?」 | ||
256 | 雪菜 | Setsuna | 「………っ」 | ||
257 | 声を掛けても、布団越しに肩を揺すぶっても、 頑なに背中を向けたまま、寝たふりを続ける。 | ||||
258 | 出張が決まったときから、 いつかは来るとわかってた試練だけど… | ||||
259 | こう、実際に来てみると、 やっぱりしんどいと言うか何と言うか… | ||||
260 | 春希 | Haruki | 「お土産、買ってくるから」 | ||
261 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
262 | 春希 | Haruki | 「欲しいものなんでも言っていいから。 ヴィ○ンでも○ッチでもプラ○でもエ○メスでも…」 | ||
263 | だからせめて布団だけでも 一緒に使わせて欲しいと言うか… | ||||
264 | 雪菜 | Setsuna | 「そんなのいらない!」 | ||
265 | 春希 | Haruki | 「雪菜…」 | ||
266 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くん、わたしのこと全然わかってない! そんな高いお土産もらったくらいで許しちゃうほど、 安い女じゃないんだもん!」 | ||
267 | 春希 | Haruki | 「そんなこと…わかってるって」 | ||
268 | 雪菜 | Setsuna | 「っ…」 | ||
269 | 布団の中から聞こえてくる雪菜の声は、 結構本気がかった涙声だった。 | ||||
270 | 春希 | Haruki | 「なぁ、雪菜… こっち向いて」 | ||
271 | だから俺は、なんとか雪菜の心を解きほぐそうと、 布団の中に手を入れ、その肩に優しく触れ… | ||||
272 | 雪菜 | Setsuna | 「いやらしい手つきで触らないで! …そういうことされるとつい嬉しくて、 いつの間にか誤魔化されちゃうんだもん」 | ||
273 | 春希 | Haruki | 「………悪い」 | ||
274 | その嬉しい言葉に、そっと手を引っ込める。 | ||||
275 | スキンシップだけでほだされるなんて… もっと安いじゃないかよ、それ。 | ||||
276 | なんて、本当はわかってる。 雪菜が、俺にだけあまりにも価値不相応だって。 | ||||
277 | 俺が客だと、自分の値段をディスカウントしまくって、 出血大放出してしまう女の子なんだって。 | ||||
278 | 春希 | Haruki | 「ごめん」 | ||
279 | なのに俺は、そんな彼女の 深い愛情と篤い信頼を裏切って… | ||||
280 | なんとか取り戻さないと。 | ||||
281 | 春希 | Haruki | 「毎日、電話するから」 | ||
282 | 雪菜 | Setsuna | 「………」 | "........."
| |
283 | 春希 | Haruki | 「帰ったら、すぐに会いに行くから。 会社、休み取ってゆっくり過ごそう?」 | ||
284 | 雪菜 | Setsuna | 「………っ」 | ||
285 | 春希 | Haruki | 「そうだ、帰ってきたら旅行に行かないか? 雪菜の行きたいところ、どこにだって付き合うからさ」 | ||
286 | 雪菜 | Setsuna | 「………旅行」 | ||
287 | 春希 | Haruki | 「そう、旅行!」 | ||
288 | 食いついた! 今だ! | ||||
289 | 春希 | Haruki | 「スキーでもいいし、テーマパークで遊び倒しても… あ、温泉で年末年始ゆっくり過ごすのもいいな。 雪菜、のんびりする方が好きだもんな」 | ||
290 | 雪菜 | Setsuna | 「旅行、かぁ」 | ||
291 | 春希 | Haruki | 「明日、計画立てないか? 年末年始のさ」 | ||
292 | 雪菜 | Setsuna | 「ん~…」 | ||
293 | もうここしかない。 今、雪菜は完全に興味を持ってくれてる。 | ||||
294 | 春希 | Haruki | 「一緒に旅行代理店行こう? 安くしてくれる知り合いがいるんだよ。 前の上司の親友でさ、今度の出張でも…」 | ||
295 | 冬のボーナスも出たところだし、 雪菜の笑顔に払う金に糸目を付ける気はないし。 | ||||
296 | 雪菜 | Setsuna | 「…行きたいところ、どこでもいいの?」 | ||
297 | 春希 | Haruki | 「もちろん! 北海道でも九州でも! なんなら足を伸ばして香港とかグァムとか…」 | ||
298 | 雪菜が俺にはとことん安く値付けするように、 俺は雪菜にとことん高い価値を見出してるんだから。 | ||||
299 | 雪菜 | Setsuna | 「………フランス」 | ||
300 | 春希 | Haruki | 「………ぇ」 | ||
301 | 雪菜 | Setsuna | 「12月24日… クリスマスミサ、一緒に行きたい。 …ストラスブールの、大聖堂の」 | ||
302 | 春希 | Haruki | 「………………え?」 | ||
303 | …なんだけど。 | ||||
304 | 雪菜の発した『おねだり』は、 金額面とは別次元のところにあった。 | ||||
305 | 彼女は、やっぱ自分で言う通り、 『安い女じゃない』のかもしれなかった。 | ||||
306 | ……… | .........
| |||
307 | 雪菜の父 | Setsuna's Father | 「フ…フランスだと!?」 | ||
308 | 春希 | Haruki | 「………は、はい。 それでその、是非、雪菜さんと同行したく、 お父さんのお許しを頂きに上がった次第で…」 | ||
309 | 雪菜 | Setsuna | 「なんでそんな変に堅い言い方になっちゃうの? 春希くん、いつもと全然違うよ?」 | ||
310 | なるだろそりゃ… | ||||
311 | 雪菜の父 | Setsuna's Father | 「海外旅行…? しかも結婚前の娘と二人きりで…?」 | ||
312 | 春希 | Haruki | 「す、すいませんっ!」 | ||
313 | というわけで、 結局、土曜日のデートは… | ||||
314 | 旅行代理店の後、 小木曽家というコースを辿ることになった。 | ||||
315 | …胃が痛い。 | ||||
316 | 孝宏 | Takahiro | 「なぁなぁ、せっかくのフランス旅行なのに、 なんでそんな訳わかんない田舎行くんだよ?」 | ||
317 | 雪菜の母 | Setsuna's Mother | 「そうよ、ストなんとかなんて聞いたことないわよ。 フランスならパリでしょ普通? お買い物だって絶対そっちの方が…」 | ||
318 | 雪菜 | Setsuna | 「も~、わかってないんだから二人とも。 世界遺産なんだよ? まるで中世そのままの街並みなんだから!」 | ||
319 | 孝宏 | Takahiro | 「京都だって平安時代そのままの街並みだよ…」 | ||
320 | 雪菜 | Setsuna | 「そうよ、海外の観光客に京都は大人気でしょ? それとおんなじことじゃない」 | ||
321 | 雪菜の母 | Setsuna's Mother | 「でもねぇ… お土産に民芸品とかいらないのよねぇ」 | ||
322 | 孝宏 | Takahiro | 「そうそう。 変なキルトとか買ってこられても 置き場に困るって言うか」 | ||
323 | 雪菜の父 | Setsuna's Father | 「お前たちちょっと静かにしてなさい! 私は北原君と話をしてるんだ!」 | ||
324 | 春希 | Haruki | 「すいません…」 | ||
325 | どうして自分が謝らなければならないのかわからないけど、 とりあえず自主的に謝らなければ気が済まなかった。 | ||||
326 | 雪菜の父 | Setsuna's Father | 「それで…聞かせてもらおうか? どういうつもりでそんな旅行を計画したのかを…」 | ||
327 | 春希 | Haruki | 「仕事の都合で、クリスマスの最中は ヨーロッパにいることになったので… 雪菜さんと本場のクリスマスを過ごしたいと」 | ||
328 | 『計画したのはお宅の娘さんの方なんですけど…』 なんて台詞は男として許されないというか… | ||||
329 | 雪菜 | Setsuna | 「一度行ってみたかったの、本場のクリスマスミサ」 | ||
330 | 雪菜の母 | Setsuna's Mother | 「でも観光地なんでしょ? よく今から予約が取れたわねぇ」 | ||
331 | 雪菜 | Setsuna | 「うん、本来なら数か月前から満室なんだけど、 ちょうどうまい具合にキャンセルが入ってて…」 | ||
332 | …というか、多分あれが佐和子さんの、 今現在持っている権力なんだろう。 | ||||
333 | 最初ついてくれた担当の人の感触では、 問い合わせるのも馬鹿馬鹿しいくらい無理っぽかったけど、 佐和子さんが出先から戻ってきてからは状況が一変した… | ||||
334 | なんか、電話口で色んな国の言葉を話してたかと思うと、 雪菜の飛行機も二人のホテルの予約も何もかも、 ほんの10分もしないうちに全て処理が終わっていた。 | ||||
335 | …しかもあり得ない格安料金で。 | ||||
336 | 雪菜の父 | Setsuna's Father | 「非常識だとは思わなかったのかね? 仕事の出張にガールフレンドを同行させるなんて そんな公私混同…」 | ||
337 | 春希 | Haruki | 「合流するのは向こうでの仕事が終わった後です。 それに昨日上司に話して許可を貰いました。 …一応、会社の方には筋を通したつもりです」 | ||
338 | 今回の出張に関しては、 色々と後ろめたいこともあったせいか、 浜田さんの腰は結構弱かった。 | ||||
339 | 雪菜の父 | Setsuna's Father | 「しかし海外なんて… もしも雪菜に万が一のことがあったら…」 | ||
340 | 春希 | Haruki | 「同行している間は雪菜さんの安全は保証します。 …とりあえず、自分の力の及ぶ範囲では必ず」 | ||
341 | ここで『自分の命を賭けてでも』とか言うと、 多分、女性陣のウケはいいんだろうけど、 お父さんにとっては逆効果だという計算があった。 | ||||
342 | …実際には、そのつもりは十分あるんだけど。 | ||||
343 | 孝宏 | Takahiro | 「どうせ新婚旅行で行くんじゃん。 今さらそんな心配するのって、 ただの言いがかりだよなぁ」 | ||
344 | 雪菜 | Setsuna | 「っ、孝宏!」 | ||
345 | 雪菜の父 | Setsuna's Father | 「っ! と、ともかく、 君はまだ、雪菜と将来の約束をした訳でもないだろう? それなのに、二人きりで旅行なんて…」 | ||
346 | 孝宏 | Takahiro | 「それも今さらじゃん。 だって姉ちゃん週末はいっつも外泊してるし」 | ||
347 | 雪菜の父 | Setsuna's Father | 「………っ!」 | ||
348 | 春希 | Haruki | 「あ…」 | ||
349 | いかん… | ||||
350 | このままでは、そろそろ論理的に同意を求められる 冷静さのボーダーを超えてしまう。 | ||||
351 | 孝宏 | Takahiro | 「それでも北原さんと一緒にいるって言ったら、 何のお咎めもないんだからさぁ、なら今回の旅行だって、 北原さんと一緒だったらOKって理屈だよねぇ?」 | ||
352 | 雪菜の父 | Setsuna's Father | 「お前は…黙っていろ」 | ||
353 | 春希 | Haruki | 「た、孝宏君…それくらいに…」 | ||
354 | 感情論で来られたら俺には勝ち目はない。 …というかその時には多分雪菜が出てきて、 小木曽家の中での泥沼の感情闘争に発展してしまう。 | ||||
355 | それは多分、俺もお父さんも、 決して望んではいない結末で… | ||||
356 | 雪菜 | Setsuna | 「春希くんね、スペインとイタリア回ってから、 最後にパリなんだって」 | ||
357 | 雪菜の母 | Setsuna's Mother | 「あら、そうなの? なによ、それ早く言いなさいよ。 パリに行かないものだと思っちゃってたじゃない」 | ||
358 | 孝宏 | Takahiro | 「うお、イタリアにも行くんだ~! 俺、すっげぇ欲しい靴があるんだよ! イタリアのマイナーなメーカーのでさぁ…」 | ||
359 | 雪菜の父 | Setsuna's Father | 「いや、だからお前たち… 北原君は仕事で行くんだから、そんな公私混同は…」 | ||
360 | 春希 | Haruki | 「いいですよ、何でも言ってください。 量が多かったら送りますから」 | ||
361 | 雪菜の父 | Setsuna's Father | 「…私はまだ認めた訳じゃないんだぞ?」 | ||
362 | 春希 | Haruki | 「………すいません」 | ||
363 | しかし… | ||||
364 | 雪菜のその一言で、 もはや勝負は決したと言ってもよかった。 | ||||
365 | ……… | .........
| |||
366 | 雪菜 | Setsuna | 「よかったねぇ! お父さんの許可も無事もらえて」 | ||
367 | 春希 | Haruki | 「あれを無事と言うんだろうか…」 | ||
368 | 結局… 最後までお父さんはかなり厳しい表情だった。 | ||||
369 | けれどお母さん、孝宏君を味方に引き入れた、 『俺を除く』雪菜たちの攻撃は苛烈で、 もはやお父さん一人では守勢に回るしかなく… | ||||
370 | つまり、俺の恐れていた 泥沼の感情闘争であっさり決着がついた。 | ||||
371 | 春希 | Haruki | 「お父さん、気の毒に」 | ||
372 | 雪菜 | Setsuna | 「別に気にすることないよ。 お土産にブランデーの一本でもあれば、 きっと機嫌も取り戻すから」 | ||
373 | 春希 | Haruki | 「そういう問題…なのかなぁ?」 | ||
374 | 確かに俺が夕食までご馳走になって帰るときには、 ブランデーでかなり酩酊してたけど… | ||||
375 | 雪菜 | Setsuna | 「そういう問題だよ… わたしは無事帰ってくる。たくさん思い出作ってくる。 いいこと尽くめなのに怒る理由はないんだもん」 | ||
376 | 春希 | Haruki | 「でもさ、俺… どうしてもお父さんの方に感情移入してしまうと言うか、 理屈は正しいのに言い負けるのは納得いかないと言うか」 | ||
377 | 昔から『正しいこと言う奴が正しい』って、 そんな信念みたいなものを持ってたから。 | ||||
378 | …まぁ、女性関係を除いてだけど。 | ||||
379 | 雪菜 | Setsuna | 「大丈夫、安心して春希くん。 わたし、今からまたお父さんとゆっくり話すから そして、今度は理屈でわかってもらうよ」 | ||
380 | 春希 | Haruki | 「雪菜…?」 | ||
381 | 雪菜 | Setsuna | 「だってわたし… ううん、みんな、お父さんのこと嫌いじゃないし。 むしろ大好きだし」 | ||
382 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
383 | 雪菜 | Setsuna | 「絶対にちゃんとわかってもらうから。 だから安心して、春希くん」 | ||
384 | 春希 | Haruki | 「ん…」 | ||
385 | お父さんが、大好き、か… | ||||
386 | そういうことを臆面もなく言ってしまうのが 小木曽家の、そして雪菜の凄いところで。 | ||||
387 | 俺や…俺以外のちょっとひねくれた奴には 決して真似のできない、かけがえのない美しさだって。 | ||||
388 | わかってるんだけど… 未だにするりとは受け入れられない感覚。 | ||||
389 | 雪菜 | Setsuna | 「ん~…」 | ||
390 | 春希 | Haruki | 「なに?」 | ||
391 | と、雪菜が、俺のそんな戸惑い気味の表情を覗き込む。 | ||||
392 | 雪菜 | Setsuna | 「やっぱり、少し似てるよね。 お父さんと、春希くん」 | ||
393 | 春希 | Haruki | 「え…ど、どこがぁ?」 | ||
394 | 雪菜 | Setsuna | 「真面目で、厳格で、融通が利かなくって…」 | ||
395 | 春希 | Haruki | 「あ…」 | ||
396 | ちょい、ちょいと、俺の鼻先を指でつつきながら… | ||||
397 | 雪菜 | Setsuna | 「けれどとっても優しくて… わたしのこと、一生懸命大事にしてくれる」 | ||
398 | 雪菜が、悪戯っぽい、けれど溢れる愛情を込めた瞳で、 じっと俺を笑顔で見つめてくる。 | ||||
399 | 春希 | Haruki | 「俺は…そんな。 あの人の域になんか、全然…」 | ||
400 | 雪菜 | Setsuna | 「わたしね、春希くんに、ほんの少しだけ お父さんを重ねて見てたのかも」 | ||
401 | 春希 | Haruki | 「………」 | "........."
| |
402 | 雪菜 | Setsuna | 「だから…わたしがあなたを好きになるのは、 必然だったのかもしれないね。 …だってわたし、お母さんの娘なんだもん」 | ||
403 | それは、あまりにも勿体なさ過ぎる最大級の賛辞で、 とても反応なんかできるわけがなかった。 | ||||
404 | ……… | .........
| |||
405 | 『送る』と言って雪菜が家を出てもう10分。 | ||||
406 | とっくに『バイバイ』をして、 二人は逆方向に歩いてなければならない頃。 | ||||
407 | 雪菜 | Setsuna | 「それでもね、春希くんはやっぱり、 お父さんとは色々と違うところも多くって。 だから、春希くんは春希くんなんだなぁって」 | ||
408 | 春希 | Haruki | 「例えば、どんなとこが?」 | ||
409 | 雪菜 | Setsuna | 「んとね…想像したよりも、ずっとえっちだったこと」 | ||
410 | 春希 | Haruki | 「…お父さんだって、 本当はそうかもしれないじゃないか」 | ||
411 | 雪菜 | Setsuna | 「ふふ、そうだね。今度お母さんに聞いてみないと」 | ||
412 | 春希 | Haruki | 「いや、自分で言っておいてなんだけど、 それはやめておいた方が…」 | ||
413 | 雪菜 | Setsuna | 「でもね…そんなえっちな春希くんこそが、 こんなにえっちなわたしには、ちょうどよかった…」 | ||
414 | 春希 | Haruki | 「雪菜…」 | ||
415 | バイバイをしなければならない頃、なのに… | ||||
416 | 雪菜 | Setsuna | 「ん…んむ…ちゅ…」 | ||
417 | 春希 | Haruki | 「ん、んぅ…」 | ||
418 | どうしても名残惜しくて、 少しずつ、少しずつ引き延ばしてしまう。 | ||||
419 | 雪菜 | Setsuna | 「ん、んぅ…ん、む…ぷぁ…ぁ…」 | ||
420 | 春希 | Haruki | 「………せつ、な」 | ||
421 | 雪菜 | Setsuna | 「………ばいばい」 | ||
422 | 春希 | Haruki | 「ん…」 | ||
423 | 雪菜 | Setsuna | 「電話、するね」 | ||
424 | 春希 | Haruki | 「待ってる」 | ||
425 | 雪菜 | Setsuna | 「じゃ…」 | ||
426 | 春希 | Haruki | 「ああ…」 | ||
427 | 雪菜 | Setsuna | 「じゃあ、ね…」 | ||
428 | 春希 | Haruki | 「おやすみ…」 | ||
429 | 雪菜 | Setsuna | 「また、今度ね」 | ||
430 | 春希 | Haruki | 「一週間以内に」 | ||
431 | 雪菜 | Setsuna | 「おやすみ」 | ||
432 | 春希 | Haruki | 「うん…」 | ||
433 | 幸せを、全身に浴びながら… |
Script Chart
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Introductory Chapter | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
1001 | 1008 | 1009 | 1010 | 1011 | 1012 | 1013 |
1002 | 1008_020 | 1009_020 | 1010_020 | 1011_020 | 1012_020 | |
1003 | 1008_030 | 1009_030 | 1010_030 | 1011_030 | 1012_030 | |
1004 | 1008_040 | 1010_040 | 1012_030_2 | |||
1005 | 1008_050 | 1010_050 | ||||
1006 | 1010_060 | |||||
1006_2 | 1010_070 | |||||
1007 |
Closing Chapter | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | ||||||
2001 | 2011 | 2020 | 2027 | 2301 | 2309 | 2316 | 2401 | 2408 | 2501 | 2510 |
2002 | 2012 | 2021 | 2028 | 2302 | 2310 | 2317 | 2402 | 2409 | 2502 | 2511 |
2003 | 2013 | 2022 | 2029 | 2303 | 2311 | 2318 | 2403 | 2410 | 2503 | 2512 |
2004 | 2014 | 2023 | 2030 | 2304 | 2312 | 2319 | 2404 | 2411 | 2504 | 2513 |
2005 | 2015 | 2024 | 2031 | 2305 | 2313 | 2320 | 2405 | 2412 | 2505 | 2514 |
2006 | 2016 | 2025 | 2032 | 2306 | 2314 | 2321 | 2406 | 2413 | 2506 | 2515 |
2007 | 2017 | 2026 | 2033 | 2307 | 2315 | 2322 | 2407 | 2507 | 2516 | |
2008 | 2018 | 2308 | 2508 | 2517 | ||||||
2009 | 2019 | 2509 | ||||||||
2010 | ||||||||||
Setsuna | Koharu | Chiaki | Mari | |||||||
2031_2 | 2312_2 | 2401_2 | 2504_2 | 2511_2 | ||||||
2031_3 | 2313_2 | 2402_2 | 2507_2 | 2513_2 | ||||||
2031_4 | 2313_3 | 2402_3 |
Coda | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Common | Kazusa (True) | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | ||||||
3001 | 3008 | 3014_2 | 3020 | 3101 | 3107 | 3201 | 3207 | 3901 | 3907 |
3002 | 3009 | 3014_3 | 3021 | 3102 | 3108 | 3202 | 3208 | 3902 | 3908 |
3003 | 3010 | 3015 | 3022 | 3103 | 3109 | 3203 | 3209 | 3903 | 3909 |
3004 | 3011 | 3016 | 3023 | 3104 | 3110 | 3204 | 3210 | 3904 | |
3005 | 3012 | 3017 | 3024 | 3105 | 3111 | 3205 | 3211 | 3905 | |
3006 | 3013 | 3018 | 3106 | 3206 | 3906 | ||||
3007 | 3014 | 3019 | |||||||
Common | Setsuna (True) | Kazusa (Normal) | |||||||
3001_2 | 3210_2 | 3901_2 | 3906_2 | ||||||
3015_2 | 3902_2 | 3907_2 | |||||||
3902_3 | 3907_3 | ||||||||
3904_2 |
Mini After Story and Extra Episode | |||
---|---|---|---|
The Path Back to Happiness | The Path Forward to Happiness | Dear Mortal Enemy | |
6001 | 6101 | 4000 | 4005 |
6002 | 6102 | 4001 | 4006 |
6003 | 6103 | 4002 | 4007 |
6004 | 6104 | 4003 | 4008 |
6005 | 4004 | 4009 |
Novels | |||||
---|---|---|---|---|---|
The Snow Melts, And Until The Snow Falls | The Idol Who Forgot How to Sing | Twinkle Snow ~Reverie~ | After the Festival ~Setsuna's Thirty Minutes~ | His God, Her Savior | |
5000 | 5100 | 5200 | 5205 | 5300 | 5400 |
5001 | 5101 | 5201 | 5206 | 5301 | 5401 |
5002 | 5102 | 5202 | 5207 | 5302 | |
5003 | 5103 | 5203 | 5208 | 5303 | |
5004 | 5104 | 5204 | 5209 |
Short Stories | |||
---|---|---|---|
Princess Setsuna's Distress and Her Minister's Sinister Plan | Koharu Climate After the Passing of the Typhoon | This isn't the Season for White Album | Todokanai Koi, Todoita |
7000 | 7100 | 7200 | 7300 |